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肝臓がん%e8%82%9d%e8%87%93%e3%81%8c%e3%82%93

肝臓がんは、肝臓そのものから発生する原発性肝がんの総称です。日本ではその90%以上を肝細胞がんが占めており、一般に「肝臓がん」といった場合は肝細胞がんを指すことが多くあります。

肝細胞がんには、ほかのがんとは異なる特徴があります。

治療方法を決めるとき、がんの大きさや個数、血管への広がり、転移の有無だけを見ればよいわけではありません。肝細胞がんはB型・C型肝炎、アルコール関連肝障害、肝硬変、MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)など、もともと傷んだ肝臓に発生することが多いため、「がんをどこまで治療できるか」と同時に「治療後も肝臓がどこまで働けるか」を考える必要があります。

そのため、同じ大きさ・同じ個数の肝細胞がんでも、肝機能が十分保たれている人と肝硬変が進んでいる人では、選択される治療が異なることがあります。

この記事では、一般に「肝臓がん」と呼ばれることの多い肝細胞がんを中心に、原因、検診・定期検査、症状、診断、ステージ、肝予備能、肝切除、ラジオ波焼灼療法(RFA)、TACE、肝移植、薬物療法、生存率、再発まで解説します。

  • 肝細胞がんの治療は、ステージだけでなく肝機能も合わせて決める
  • 肝細胞がんは背景に慢性肝疾患があることが多く、治療後も再発と肝機能低下の両方に注意する
  • 進行・再発しても治療法は一つではなく、その時点の病状と肝機能から次の選択肢を考える

肝臓がんとは何か

肝臓に見つかるがんが、すべて同じ「肝臓がん」という病気なのではありません。

肝臓の細胞から発生したのか、肝臓内の胆管から発生したのか、別の臓器から転移してきたのかによって、診断名も治療方法も異なります。

この記事で主に扱うのは「肝細胞がん」

肝細胞がんは、肝臓の大部分を構成している肝細胞から発生するがんです。

国立がん研究センターでは、日本で発生する肝臓がんの90%以上が肝細胞がんであるとしています。そのため、一般的には「肝臓がん」という言葉が肝細胞がんの意味で使われることも多くあります。

肝細胞がんの特徴は、がんだけが単独で発生するというより、慢性的な肝障害を抱えた肝臓に発生することが多いことです。

B型肝炎やC型肝炎、アルコール関連肝障害、肝硬変などに加え、現在では肥満や糖尿病などの代謝異常と関係するMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患、旧NAFLD)や、MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎、旧NASH)も肝細胞がんの背景として考えます。

こうした背景肝疾患があるため、肝細胞がんでは「がんを取り除けるか」だけでなく、治療によって残った肝臓が十分に働けるかまで評価しなければなりません。

参考:肝臓がん(肝細胞がん)について|国立がん研究センター がん情報サービス

「肝内胆管がん」は肝細胞がんとは別のがん

肝臓の中を通る胆管の細胞から発生するものを肝内胆管がんと呼びます。

肝臓の中にできるため広い意味では原発性肝がんに含まれますが、肝細胞がんとは発生する細胞が異なり、ステージ分類や薬物療法など治療の考え方も異なります。

そのため、本記事でこれ以降に説明するRFA、TACE、肝移植、肝細胞がんの薬物療法、ステージ別生存率などは、特に断りがない限り肝細胞がんを対象とした内容です。

「肝臓に転移したがん」は肝細胞がんではない

大腸がん、胃がん、膵臓がん、肺がん、乳がんなどが肝臓へ転移することがあります。これを転移性肝がん(肝転移)と呼びます。

たとえば大腸がんが肝臓へ転移した場合、肝臓に腫瘍があっても肝細胞がんではありません。「大腸がんの肝転移」として、大腸がんに基づいた治療を考えます。

「肝臓にがんがある」と「肝臓からがんが発生した」は同じ意味ではないため、診断を受けたときには、原発性の肝細胞がんなのか、肝内胆管がんなのか、ほかのがんからの肝転移なのかを確認することが治療を理解する最初の段階になります。

肝細胞がんでは「がんの進行度」と「肝予備能」の両方を見る

肝細胞がんの治療では、腫瘍の状態と肝臓そのものの状態を分けて評価します。

腫瘍については、大きさや個数、門脈・肝静脈などの血管へがんが入り込んでいないか、リンパ節やほかの臓器へ転移していないかを確認します。

肝臓については、アルブミンやビリルビン、血液凝固能、腹水などから、残っている肝機能である肝予備能を評価します。Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類や、ALBI grade(アルブミン・ビリルビン・グレードまたはアルビグレード)などが、そのために使われる指標です。

この2つを分けて考える理由は、がんだけを強く治療して肝機能が大きく低下すると、その後の治療を続けられなくなる可能性があるためです。

たとえば小さな肝細胞がんでも肝硬変が進んでいれば、肝切除が適さない場合があります。反対に、腫瘍がある程度大きくても、肝機能が保たれ、十分な肝臓を残せると判断されれば切除を検討できる場合があります。

肝細胞がんでは「どの治療が最も強いか」ではなく「がんを抑えながら、その後の治療に必要な肝機能をどこまで残せるか」という視点が治療選択に関わります。

進行した肝細胞がんでもステージだけで治療は決まらない

肝細胞がんが血管へ広がっている場合や、肝臓以外へ転移している場合には、薬物療法が治療の中心になることがあります。

一方で、現在の肝細胞がんには複数の免疫療法や分子標的薬があり、薬物療法によって腫瘍が大きく縮小した場合には、肝切除や局所治療が可能にならないか再評価することもあります。

また、同じ進行した肝細胞がんでも、肝機能が低下すると使用できる治療が限られる場合があります。

ステージ4という言葉だけから「もう手術は絶対にできない」「使える治療は一つしかない」と判断することはできません。病変の広がり、血管侵襲、肝外転移、肝機能、これまでの治療などを確認して方針を考えます。

肝臓がんステージ4の病状や治療については、以下の記事で詳しく解説しています。

肝臓がんの原因とリスク

肝細胞がんの多くは、長い期間にわたって炎症や線維化が続いた肝臓を背景に発生します。

代表的なのがB型・C型肝炎ウイルスの持続感染ですが、アルコール関連肝障害、肥満や糖尿病などに関連する脂肪性肝疾患も発症リスクに関係します。「お酒をたくさん飲む人だけがなるがん」「肝炎ウイルスに感染していなければ心配ない」と考えることはできません。

B型肝炎・C型肝炎は肝細胞がんの主要な原因

B型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)が長期間体内に存在すると、肝臓で炎症と肝細胞の再生が繰り返されます。その過程で遺伝子の変化が蓄積し、肝細胞がんが発生しやすくなると考えられています。

ただし、肝炎ウイルスに感染していても自覚症状がないことがあります。「肝臓が痛くない」「体調に問題がない」という理由だけでは、慢性肝炎や肝線維化がないとは判断できません。

現在はB型・C型肝炎に対する抗ウイルス治療が大きく進歩しています。

B型肝炎ではウイルスの増殖を抑える治療、C型肝炎ではウイルス排除を目指す治療が行われます。肝炎ウイルス感染が分かった場合には、肝細胞がんの検査だけでなく、肝炎そのものを適切に治療することも肝臓を守るために必要です。

なお、C型肝炎ウイルスを排除できた場合でも、すでに高度な肝線維化や肝硬変がある人では肝細胞がんのリスクがなくなるわけではありません。治療後も肝臓の状態に応じた定期検査を続けます。

参考:B型肝炎治療ガイドライン 第5版(2026年6月)|日本肝臓学会
参考:C型肝炎治療ガイドライン 第8.4版(2025年4月)|日本肝臓学会

MASLD・MASHなどの脂肪性肝疾患

これまで「NAFLD」「NASH」と呼ばれてきた脂肪性肝疾患は、現在、国際的な病名変更を受け、MASLD(マッスルディー)MASH(マッシュ)という名称が使われています。

MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)は、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの心代謝系リスクと関連する脂肪性肝疾患です。

脂肪肝がある人すべてが肝細胞がんになるわけではありません。しかし、肝臓の炎症や線維化が進み、肝硬変へ至ると肝細胞がんのリスクも高くなります。健康診断で「脂肪肝」と指摘された場合には、体重だけを見るのではなく、糖尿病などの代謝異常や肝線維化が進んでいないかを確認することが重要です。

また現在は飲酒の有無だけで「アルコール性」「非アルコール性」と単純に二分する考え方ではありません。代謝異常と飲酒量の両方を踏まえて、MASLD、MetALD、アルコール関連肝疾患(ALD)などに分類します。

参考:脂肪性肝疾患の診断基準に関して|日本肝臓学会

アルコールによる慢性的な肝障害

長期間にわたるアルコール摂取によって肝臓の炎症や線維化が続くと、アルコール関連肝疾患から肝硬変へ進行し、肝細胞がんのリスクが高くなることがあります。

ただし「何年間飲んだら肝臓がんになる」「この量までなら絶対に安全」と一律に決められるものではありません。実際の影響は、飲酒量だけでなく、性別、体格、代謝異常、肝炎ウイルス感染の有無、すでに生じている肝障害などによっても変わります。

肝機能異常を指摘されている場合には、自分の感覚で飲酒量の多い・少ないを判断するのではなく、現在の肝臓の状態を確認したうえで飲酒について相談します。

肥満や糖尿病も肝細胞がんのリスクと関連する

国立がん研究センターでは、肝細胞がんの危険因子として、肝炎ウイルス感染やアルコール摂取のほか、肥満、脂肪肝、糖尿病、喫煙などを挙げています。特に糖尿病や肥満はMASLDとも関係するため、肝臓だけの問題として切り離すのではなく、血糖、体重、脂質、血圧なども含めて管理します。

危険因子があることと「肝細胞がんがあること」は同じではありません。脂肪肝や糖尿病があるだけで過度に心配する必要はありませんが、慢性肝炎や肝硬変、肝線維化などによって肝細胞がんの発症リスクが高いと判断された場合には、定期的な画像検査につなげることが早期発見に役立ちます。

肝臓がんの検診はある?定期検査・サーベイランス

胃がんや大腸がんなどには、一定の年齢になった人を対象とする国のがん検診があります。

しかし、肝細胞がんには、現在、健康な一般人口を一律に対象とする国の対策型がん検診はありません。

その代わり、肝細胞がんが発生するリスクの高い人をあらかじめ把握し、腹部超音波検査などを定期的に行う「サーベイランス」が重要になります。

慢性肝炎や肝硬変がある人では3~6カ月ごとの検査が推奨

国立がん研究センターでは、B型・C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎や肝硬変がある人、また肝炎ウイルスを伴わない肝硬変がある人には、3~6カ月間隔で腹部超音波検査などの定期検査を受けることを勧めています。

一般に、腹部超音波検査とAFP、PIVKA-IIなどの腫瘍マーカーを組み合わせ、異常が疑われた場合には造影CTやMRIなどで詳しく調べます。

これは「健康な人全員が半年ごとに腹部エコーを受けた方がよい」という意味ではありません。肝細胞がんでは、発症リスクが高い人を特定し、その人に必要な頻度で検査を続けることが重要です。

参考:肝臓がん(肝細胞がん) 予防・検診|国立がん研究センター がん情報サービス

肝炎ウイルス検査を受けたことがなければ一度確認する

B型・C型肝炎ウイルスは、感染していても長期間症状が出ない場合があります。そのため、自分が感染していることを知らないまま慢性肝炎が進行することがあります。

国立がん研究センターは、肝炎ウイルス感染を早期に知るため、これまで検査を受けたことがない人には一度は肝炎ウイルス検査を受けることを勧めています。検査は自治体の肝炎ウイルス検診や医療機関などで受けられる場合があります。

検査で陽性になったからといって、肝細胞がんがあるという意味ではありません。肝炎ウイルス感染の有無を知り、必要であれば抗ウイルス治療や肝細胞がんの定期検査につなげるための検査です。

症状がある場合は「検診」を待たずに受診する

肝細胞がんは早い段階では症状がほとんどないことがあります。

一方で、黄疸、腹部の張りや痛み、著しい倦怠感、むくみなどが現れている場合には、定期検診の時期を待つのではなく医療機関を受診します。

健康診断で肝機能異常や脂肪肝を繰り返し指摘されている場合も「症状がないから大丈夫」と放置せず、自分に慢性肝疾患や肝線維化がないかを確認することが、その後の検査方針を決めるうえで役立ちます。

肝臓がんの初期症状

肝細胞がんは、早い段階では自覚症状がほとんどないことがあります。

肝臓には大きな予備能力があり、一部にがんができてもすぐに肝機能全体が低下するとは限りません。国立がん研究センターも、肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、炎症やがんがあっても初期には自覚症状がほとんどないと説明しています。

肝細胞がんが発覚するのは、B型・C型慢性肝炎や肝硬変の定期検査、健康診断で見つかった肝機能異常の精密検査、腹部超音波検査などをきっかけとして、症状がない段階で見つかることが少なくありません。

初期には「肝臓がん特有の症状」がほとんどない

小さな肝細胞がんでは、痛みや食欲低下などがまったくない場合があります。

症状が出る場合も、だるさ、食欲低下、体重減少、腹部の違和感といった、肝細胞がんだけに特有とはいえないものが中心です。

「右のお腹が痛くないから肝臓は大丈夫」とは判断できません。症状がない時期に定期検査を受ける意味が大きいのは、この病気の特徴によるものです。

前章で説明したB型・C型慢性肝炎や肝硬変などの高リスク者では、症状が現れるのを待つのではなく、決められた間隔で腹部超音波検査などを受けます。

進行すると腹部の張りや痛みが出ることがある

腫瘍が大きくなると、右上腹部の圧迫感、張り、しこり、痛みなどが現れることがあります。

食欲低下や体重減少が目立ってくることもありますが、こうした症状だけから肝細胞がんのステージを判断することはできません。大きな腫瘍でも症状が乏しい人がいるためです。

肺や骨などへ転移した場合には、咳や息切れ、背中や腰の痛みなど、転移した臓器に応じた症状が現れることもあります。

黄疸や腹水は「がんだけ」が原因とは限らない

肝細胞がんの患者さんでは、背景に慢性肝炎や肝硬変があることが少なくありません。

肝機能が低下すると、皮膚や白目が黄色くなる黄疸、お腹に水がたまる腹水、足のむくみ、皮膚のかゆみ、強い倦怠感などが現れることがあります。

さらに肝機能が低下すると、肝臓で処理できない物質が体内に蓄積し、意識がぼんやりする肝性脳症を起こすこともあります。

こうした症状は、腫瘍そのものが大きくなった結果だけではなく、もともとの肝硬変や肝不全が進行して生じる場合があります。

肝細胞がんでは「がんがどこまで進んでいるか」と「肝臓がどこまで機能しているか」は別々に評価する必要があります。

突然の強い腹痛は腫瘍破裂の可能性もある

頻度は高くありませんが、肝細胞がんが破裂して腹腔内に出血することがあります。

急激な強い腹痛、冷や汗、ふらつき、血圧低下などを伴う場合には緊急の治療が必要になることがあります。こうした症状がある場合は定期受診を待たず、速やかに医療機関を受診してください。

肝臓がんの検査と診断

肝細胞がんが疑われた場合には、腹部超音波、造影CT、MRI、血液検査などを組み合わせて診断します。

胃がんや大腸がんとの大きな違いは、肝細胞がんでは必ずしも全員に腫瘍の生検を行うわけではないことです。慢性肝疾患などの背景があり、造影CTやMRIで肝細胞がんに特徴的な画像所見が確認できる場合には、画像から診断できることがあります。

検査ではがんの有無だけでなく、腫瘍の個数や大きさ、血管への広がり、肝外転移、治療に耐えられる肝機能が残っているかまで確認します。

腹部超音波検査|肝臓に腫瘤がないかを調べる

腹部超音波検査は、体の外から超音波を当てて肝臓内部を観察する検査です。

腫瘍の大きさや個数、血管との位置関係、肝臓の形、腹水の有無などを確認できます。放射線被ばくがなく、繰り返し行いやすいため、慢性肝炎や肝硬変がある人の定期検査にも用いられます。

ただし、病変の位置や体格などによっては十分に観察できないことがあります。超音波で腫瘍が疑われた場合や、腫瘍マーカーが上昇した場合には、造影CTやMRIによる詳しい検査へ進みます。

造影CT・MRI|肝細胞がんに特徴的な血流を確認する

肝細胞がんの診断では、造影剤を使ったCTやMRIが重要な役割を持ちます。

肝細胞がんでは、腫瘍が成長するにつれて血流の入り方が正常な肝臓とは変わることがあります。典型的な肝細胞がんでは、造影CTなどで動脈から血液が入る時期に強く造影され、その後の時相で周囲の肝臓より造影効果が低くなる特徴的なパターンがみられます。

MRIでは、肝細胞に取り込まれる造影剤を使ったEOB-MRIなどが用いられることがあります。CTだけでは判断しにくい小さな病変を詳しく評価する際にも役立ちます。

どちらか一つが常に優れているというわけではなく、腎機能、造影剤を使用できるか、病変の位置や大きさなどを考えて検査を選択します。

AFP・PIVKA-IIは診断を補助する腫瘍マーカー

血液検査では、肝細胞がんの腫瘍マーカーとしてAFP、PIVKA-II、AFP-L3分画などを測定します。

数値が高い場合には肝細胞がんを疑う材料になりますが、腫瘍マーカーだけで診断することはできません。

肝細胞がんがあってもAFPやPIVKA-IIが上昇しないことがあります。反対に、肝炎や肝硬変など、がん以外の影響で数値が変化することもあります。

「AFPが正常だから肝臓がんではない」「PIVKA-IIが高いから肝臓がんで確定」という読み方はせず、超音波、CT、MRIなどの画像所見と合わせて判断します。

肝細胞がんでは全員に生検をするわけではない

がんの診断というと、腫瘍の組織を採取して顕微鏡で確認する「生検」が必要だと思う人もいるかもしれません。

肝細胞がんでは、慢性肝疾患などの背景があり、造影CTやMRIで肝細胞がんに特徴的な血流パターンが確認できる場合、画像所見から診断できることがあります。このような場合は、生検を行わずに治療方針を決めることもあります。

生検が検討されるのは、画像だけでは肝細胞がんかどうか判断しにくい場合や、ほかの種類の腫瘍との区別が必要な場合などです。皮膚から針を刺して腫瘍の一部を採取し、病理検査で細胞の特徴を調べます。

生検には出血などのリスクもあるため、すべての患者さんに一律に行う検査ではありません。画像所見や背景にある肝疾患を踏まえ、生検の結果によって診断や治療方針が変わる可能性があるかを考えて実施を判断します。

参考:肝臓がん(肝細胞がん) 検査|国立がん研究センター がん情報サービス

診断と同時に「肝予備能」を調べる

肝細胞がんが確認された後は、腫瘍だけを詳しく調べても治療方法を決められません。

血液検査ではアルブミン、ビリルビン、血液凝固能などを調べ、腹水や肝性脳症の有無も確認します。これらを組み合わせたChild-Pugh(チャイルド・ピュー)分類は、肝予備能を評価する代表的な方法です。アルブミンとビリルビンから計算するALBI grade(アルビグレード)も肝機能評価に使われています。

同じ3cmの肝細胞がんでも、十分な肝機能が残っている人と肝硬変が進んでいる人では、安全に行える治療が変わります。

肝切除を考える場合には「腫瘍を切除できるか」だけでなく、手術後に十分な肝臓を残せるかまで評価します。薬物療法を考える場面でも肝予備能は治療選択に関係します。

肝硬変がある場合は食道・胃静脈瘤を調べることもある

肝硬変が進むと、肝臓へ流れ込む血液の圧力が上昇し、食道や胃に静脈瘤ができることがあります。治療内容によっては静脈瘤からの出血リスクが問題になるため、上部消化管内視鏡検査で静脈瘤の有無や状態を確認することがあります。

特に進行肝細胞がんの薬物療法では、出血リスクが治療薬の選択にも関係します。この点は薬物療法の章で詳しく解説します。

検査によって、腫瘍の個数・大きさ・血管侵襲・転移と、現在の肝予備能が把握できると、次に治療方針を決めるためのステージを評価します。

肝臓がんのステージ分類

肝細胞がんのステージは、がんが肝臓の中でどの程度広がっているか、血管へ入り込んでいるか、リンパ節や肝臓以外の臓器へ転移しているかなどから判定します。

日本では、主に次の2つの病期分類が使われています。

  • 日本肝癌研究会の「原発性肝癌取扱い規約」による分類
  • 国際的に用いられるUICCのTNM分類

国立がん研究センターも両方の分類を患者向けに紹介しており、どちらの分類を使ったかによって、同じ「ステージ4」という表記でも病状の定義が異なることがあると説明しています。

本記事では、日本国内で肝細胞がんを理解する際に使われている日本肝癌研究会の分類をもとに、ステージ1~4の違いを説明します。

参考:肝がんの検査・診断について|国立がん研究センター

日本肝癌研究会分類では「個数・2cm・脈管侵襲」の3項目を見る

日本肝癌研究会の分類では、まず肝臓内にある腫瘍について、次の3項目を確認します。

  • 腫瘍が1個に限られている
  • 腫瘍の大きさが2cm以下である
  • 門脈・肝静脈・胆管などの脈管へがんが広がっていない

いくつ満たしているかによってT1~T4に分かれます。

T分類 3項目のうち満たす数
T1 3項目すべて
T2 2項目
T3 1項目
T4 0項目

肝細胞がんのT分類は、腫瘍径だけでは決まりません。

たとえば、2cm以下の小さながんでも、複数ある場合や脈管侵襲がある場合にはT1にはなりません。反対に、2cmを超えていても単発で脈管侵襲がなければ、3条件のうち2つを満たすためT2になります。

ステージ1~4はT・リンパ節転移・遠隔転移から決まる

T分類に、リンパ節転移と遠隔転移の有無を加えて最終的なステージを決めます。

日本肝癌研究会分類では、次のようにステージ1~4Bへ分類されます。

ステージ 日本肝癌研究会分類での状態
ステージ1 T1で、リンパ節転移・遠隔転移がない
ステージ2 T2で、リンパ節転移・遠隔転移がない
ステージ3 T3で、リンパ節転移・遠隔転移がない
ステージ4A T4でリンパ節転移・遠隔転移がない場合、またはリンパ節転移があるが遠隔転移はない場合
ステージ4B 肝臓以外への遠隔転移がある

この分類を見ると、ステージ4=必ず遠隔転移がある状態「ではない」ことが分かります。

ステージ4Aには、遠隔転移がなくても肝臓内の腫瘍の状態からT4となるケースや、リンパ節転移があるケースが含まれます。

肺、骨、副腎など肝臓から離れた臓器へ転移している場合はステージ4Bです。

ステージ4Aでも遠隔転移がない場合

「ステージ4」と聞くと、がんが肝臓以外へ転移した状態をイメージする人もいるかもしれません。

しかし、日本肝癌研究会分類では、そうとは限りません。

腫瘍が複数あり、2cmを超え、脈管侵襲も認められるなど、T分類の3条件を一つも満たさなければT4になります。リンパ節転移・遠隔転移がなくても、この場合はステージ4Aです。

リンパ節転移が認められ、遠隔転移がない場合もステージ4Aに分類されます。

ステージ4Bは、肝臓以外の臓器への遠隔転移が確認された状態です。

同じ「ステージ4」でも4Aと4Bでは病変の広がり方が違うため、ステージという数字だけで治療内容や今後の見通しを判断することはできません。

UICC分類ではステージの決め方が異なる

肝細胞がんには、国際的に使用されるUICCのTNM分類もあります。

UICC分類でも、原発腫瘍を示すT、所属リンパ節転移を示すN、遠隔転移を示すMからステージを決めますが、T分類の基準は日本肝癌研究会分類と同じではありません。

参考:UICC「TNM Classification of Malignant Tumours」

国立がん研究センターの一般向け肝がん情報でも、日本肝癌研究会分類とUICC分類を別々に掲載しています。

参考:肝臓がん(肝細胞がん)|国立がん研究センター がん情報サービス

診断書や紹介状に「ステージ2」「ステージ4」と書かれている場合には、どの病期分類によるステージなのかを確認すると、病状をより正確に理解できます。

なお、UICCはTNM分類第9版を2025年に公表し、2026年1月からの使用を推奨しています。ただし、国内のがん登録や患者向け資料では現在もUICC第8版に基づく表記が用いられているものがあり、使用する版は診断年や施設、登録の用途によって異なります。

本記事では、肝細胞がんの病期そのものを理解するため、日本肝癌研究会の分類を中心に説明しました。一方、後述するステージ別生存率は、国立がん研究センターの院内がん登録による統計を使用しており、登録時のUICC TNM分類に基づいています。分類方法が異なるため、両者のステージを完全に同じものとして比較することはできません。

ステージと肝機能は別の評価

肝細胞がんでは、ステージが分かれば治療法が自動的に決まるわけではありません。

治療選択には、がんの広がりと同じくらい肝予備能が関係します。

肝細胞がんの多くは慢性肝炎や肝硬変を背景に発生します。腫瘍そのものが早期でも、肝機能が大きく低下していれば肝切除が難しい場合があります。腫瘍が進行していても、肝機能が十分に保たれていれば薬物療法など複数の治療を検討できます。

国立がん研究センターでは、肝障害度やChild-Pugh分類に加え、近年はアルブミンとビリルビンから評価するALBI gradeも肝機能評価に用いられると説明しています。肝細胞がんの治療方針を理解するときには「ステージはいくつか」だけでなく、「肝機能はどの程度残っているか」を確認する必要があります。

肝予備能とは|Child-Pugh分類について

肝細胞がんでは、がんのステージと同時に肝予備能を確認します。

肝予備能とは、現在の肝臓にどの程度の機能が残っているかを示す考え方です。

肝細胞がんは、慢性肝炎や肝硬変などを背景に発生することが多く、がんができる前から肝機能が低下している患者さんもいます。同じ大きさ・個数の肝細胞がんでも、肝予備能が十分に保たれているかどうかによって、安全に行える治療が変わります。

肝予備能を評価する代表的な方法の一つがChild-Pugh(チャイルド・ピュー)分類です。

Child-Pugh分類では5つの項目を点数化

Child-Pugh分類では、血液検査で分かるアルブミン、ビリルビン、プロトロンビン時間に加えて、腹水と肝性脳症の状態を評価します。

評価項目 1点 2点 3点
アルブミン(g/dL) 3.5超 2.8~3.5 2.8未満
ビリルビン(mg/dL) 2.0未満 2.0~3.0 3.0超
腹水 なし 軽度・コントロール可能 中等度・コントロール困難
肝性脳症 なし 1~2度 3~4度
プロトロンビン時間(%) 70超 40~70 40未満

5項目の点数を合計し、5~6点をChild-Pugh A、7~9点をB、10~15点をCと判定します。

Child-Pugh分類 合計点 肝機能の状態
A 5~6点 比較的保たれている
B 7~9点 中等度に低下している
C 10~15点 大きく低下している

A・B・Cは肝細胞がんのステージを表しているわけではありません。

ステージは「がんがどこまで広がっているか」、Child-Pugh分類は「肝臓にどの程度の機能が残っているか」を見る指標です。この2つを分けて理解すると、肝細胞がんの治療方針が分かりやすくなります。

同じステージでもChild-Pugh分類によって治療が変わる

Child-Pugh分類は、肝細胞がんの治療方針を決める際にも使われます。肝予備能が低下するほど、安全に行える治療が限られるためです。実際の治療選択では、Child-Pugh分類だけでなく、腫瘍の個数や大きさ、脈管侵襲、肝外転移なども合わせて判断します。

薬物療法でも肝予備能は重要です。多くの全身薬物療法は肝機能が比較的保たれた患者さんを中心に有効性と安全性が確認されているため、どの薬を使用できるかを考える際にも現在の肝機能を確認します。

Child-Pugh Aでも全員が同じ肝機能ではない

Child-Pugh分類は分かりやすい指標ですが、同じAやBの中にも肝機能の違いがあります。

評価項目には腹水や肝性脳症のように医師の判断を含む項目もあり、点数の境界付近では肝機能の細かな差を十分に表せない場合があります。

肝細胞がんでは、より細かく肝予備能を評価するためにALBI grade(アルビグレード)も使われています。

ALBIスコアは、血液検査のアルブミンとビリルビンから算出する指標です。通常はgrade 1~3に分けられ、現在はgrade 2を2aと2bに分けたmodified ALBI(mALBI)gradeも用いられています。

Child-Pugh分類を置き換えるものというより、治療を選ぶ場面で肝機能をより詳しく把握するための指標の一つと考えるとよいでしょう。

参考:肝予備能評価スコア計算サイト(mALBIグレード追加)のご案内|日本肝臓学会

肝機能は治療の途中でも変化する

肝予備能は、診断された時点で一度評価すれば終わりではありません。肝切除やTACEなどの治療によって肝臓に負担がかかることもあれば、肝硬変そのものが進行して肝機能が低下することもあります。

特にTACEを繰り返す場面では、腫瘍への効果だけでなく、治療後の肝機能がどこまで保たれているかを確認する必要があります。肝予備能が低下すると、それまで候補だった薬物療法や局所治療を行いにくくなる場合があるためです。

次の章では、Child-Pugh分類などで確認した肝予備能と、腫瘍の個数・大きさ・広がりを踏まえて、肝切除、RFA、TACEなどをどのように選ぶのかを解説します。

肝細胞がんの治療

肝細胞がんの治療には、肝切除、ラジオ波焼灼療法(RFA)、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、放射線治療、肝移植、薬物療法などがあります。

治療方法を決める際に見るのはステージだけではありません。腫瘍の個数や大きさ、脈管侵襲、肝臓以外への転移に加えて、Child-Pugh分類などで評価した肝予備能を確認します。

肝細胞がんでは、慢性肝炎や肝硬変によってもともとの肝機能が低下していることがあります。がんを十分に治療できる方法であっても、治療後に肝機能を保てないと判断されれば別の方法を選ぶことがあります。

国立がん研究センターでは、Child-Pugh分類AまたはBで、がんが肝臓内にとどまっている場合には、肝切除、RFA、TACEが中心になるとしています。遠隔転移がある場合には薬物療法、Child-Pugh分類Cでは条件によって肝移植が検討されます。

治療 主に検討される状況
肝切除 肝機能が保たれ、がんを切除した後も十分な肝臓を残せる場合
RFA 一般にChild-Pugh AまたはBで、3cm以下・3個以下の場合
TACE 切除やRFAが難しい多発肝細胞がんなど
放射線治療 手術やRFAなどが難しい局所病変、骨転移の痛みや脳転移への治療にも
薬物療法 切除・RFA・TACEなどの局所治療が適さない進行肝細胞がんなど
肝移植 肝機能が大きく低下していても、腫瘍が一定の基準内にある場合

この表は治療選択の大まかな位置づけです。同じ3cmの腫瘍でも、肝臓のどこにあるか、周囲の血管や胆管との位置関係、肝硬変の程度によって選択は変わります。

参考:肝細胞癌診療ガイドライン 2025年版|日本肝臓学会

肝切除

肝切除は、肝細胞がんとその周囲の肝組織を手術で取り除く治療です。

国立がん研究センターでは、多くの場合、がんが肝臓内にとどまり、腫瘍が3個以下であれば肝切除を検討すると説明しています。腫瘍の大きさそのものに明確な上限はなく、大きな肝細胞がんでも安全に切除できると判断されれば手術の対象になることがあります。

手術前には、腫瘍の位置や数だけでなく、切除後にどの程度の肝臓を残せるかを調べます。

  • 腫瘍が肝臓のどこにあるか
  • 門脈・肝静脈・胆管などへ広がっているか
  • どの範囲の肝臓を切除する必要があるか
  • 切除後の肝臓で十分な機能を保てるか

腫瘍を技術的に切除できても、残る肝臓が少なすぎれば術後肝不全の危険があります。腹水があるなど肝予備能が大きく低下している場合には、肝切除以外の治療が選ばれることがあります。

参考:肝臓がん(肝細胞がん) 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

ラジオ波焼灼療法(RFA)

ラジオ波焼灼療法(RFA)は、腹部の皮膚から腫瘍へ針を刺し、針の先端から発生させた熱によってがん細胞を焼灼する治療です。

国立がん研究センターでは、穿刺局所療法は一般にChild-Pugh分類AまたはBで、腫瘍が3cm以下かつ3個以下の場合に行われるとしています。現在、肝細胞がんの穿刺局所療法として中心となるのがRFAです。開腹手術を行わずに局所的な根治を目指せるため、肝切除より体への負担を抑えられる場合があります。

「3cm以下・3個以下」であれば必ずRFAを選ぶわけではありません。腫瘍が太い血管の近くにあると熱が逃げて十分に焼灼できないことがあり、胆管や消化管に近い場合には周囲組織への熱損傷にも注意が必要です。

肝切除とRFAのどちらも可能な小さな肝細胞がんでは、腫瘍の位置、肝機能、手術による負担、再発した際に残しておきたい治療選択肢などを比べながら決めます。

RFA後には発熱や腹痛がみられることがあり、出血、腸管損傷、肝機能障害などが起こることもあります。

肝動脈化学塞栓療法(TACE)

TACEは、足の付け根や腕などの動脈からカテーテルを入れ、肝動脈を通して腫瘍の近くまで進める治療です。

抗がん薬を腫瘍へ送り込んだ後、腫瘍へ血液を送る動脈を塞ぐことで、薬の作用と血流を減らす作用の両方を利用してがんを治療します。

国立がん研究センターでは、Child-Pugh分類AまたはBで、肝切除やRFAが難しい患者のうち、腫瘍が1~3個で3cmを超えている場合、もしくは腫瘍の大きさにかかわらず4個以上ある場合にTACEが行われるとしています。

肝臓内に複数の腫瘍がある場合でも治療できることがTACEの特徴です。腫瘍が広い範囲に分布している場合には、複数回に分けて治療することがあります。

TACEは効きにくくなった後も繰り返せばよいわけではない

TACEは繰り返して行うことができますが、治療のたびに正常な肝組織にも負担がかかります。

十分な効果が得られない状態でTACEを続けると、腫瘍が進行するだけでなく、薬物療法など次の治療を受けるために必要な肝機能が低下する可能性があります。

国立がん研究センターでは、治療方法の変更を検討する状況として「TACEを2回行っても十分な効果が得られない、または肝臓内に新しい病変が現れた時」「脈管侵襲や遠隔転移が現れた時」「腫瘍マーカーが持続的に上昇している時」のような例を挙げています。

これは「2回行ったら必ずTACEを中止する」という意味ではありません。画像で確認した治療効果、腫瘍の増え方、肝予備能などを見ながら、同じ治療を続ける利益があるかを判断します。TACEでがんを十分に抑えにくいと判断された場合には、肝機能が保たれている段階で薬物療法へ切り替えることも検討します。

肝細胞がんでは、目の前にある腫瘍だけを治療するのではなく、次の治療を受けられる肝機能を残すことまで含めて治療の順序を考える必要があります。

また、肝動脈を利用する治療にはTACE以外に肝動注化学療法もあります。病変の広がりや脈管侵襲などによっては、カテーテルから肝動脈へ抗がん薬を投与する肝動注化学療法が検討される場合があります。

放射線治療|手術やRFAが難しい場合の局所治療

放射線治療は、体の外から放射線を照射し、がん細胞を傷害する局所治療です。

肝細胞がんでは、肝切除やRFAなどが治療の中心になりますが、手術や穿刺局所療法を行うことが難しい局所病変では、放射線治療を検討することがあります。門脈などの脈管内へがんが広がっている場合に用いられることもあります。

治療を選ぶ際には、腫瘍の大きさや位置、個数、周囲の消化管や正常肝との位置関係、肝予備能などを確認します。

小さな病変では体幹部定位放射線治療(SBRT)を検討する

体幹部定位放射線治療(SBRT)は、さまざまな方向から腫瘍へ放射線を集中して照射する方法です。正常な肝臓や周囲の臓器への照射をできるだけ抑えながら、腫瘍へ高い線量を照射します。

日本放射線腫瘍学会では、肝臓へのSBRTについて、5cm以下の原発性肝がんなどに対して根治を目指して行う治療と説明しています。

肝細胞がんが小さくても、腫瘍の位置によってはRFAの針を安全に刺しにくいことがあります。手術が難しい、RFAなどの局所療法を実施しにくい、あるいは十分な効果を得にくいと判断される場合に、放射線治療が選択肢となります。

ただし、腫瘍の大きさだけでSBRTが適しているかを判断するわけではありません。肝機能や照射できる正常肝の量、胃や十二指腸など周囲臓器との距離も含めて放射線腫瘍医が治療可能かを判断します。

参考:放射線治療Q&A 上腹部(膵、肝など)への放射線治療について|日本放射線腫瘍学会

大きな肝細胞がんでは陽子線・重粒子線治療を検討

肝細胞がんでは、陽子線や重粒子線を使った粒子線治療が選択肢になる場合もあります。

粒子線は、X線とは異なる性質を利用して腫瘍へ放射線を集中させ、周囲の正常組織への線量を抑えることを目指す治療です。

2026年8月時点では、長径4cm以上の肝細胞がんで、手術による根治的な治療が困難な場合、陽子線治療・重粒子線治療が保険適用の対象となっています。

すべての肝細胞がんに粒子線治療が適しているわけではありません。腫瘍の大きさや位置、肝機能、これまでに受けた治療などから適応を判断します。粒子線治療を行える医療機関も限られているため、候補になるか知りたい場合には担当医や放射線腫瘍医へ確認します。

参考:粒子線治療(陽子線治療、重粒子線治療)の保険適用となる疾患|日本放射線腫瘍学会

骨転移の痛みや脳転移にも放射線治療を使う

放射線治療の目的は、肝臓にある腫瘍を局所的に治療することだけではありません。

肝細胞がんが骨へ転移して痛みがある場合には、痛みを軽減する目的で放射線治療を行うことがあります。脳転移に対しても放射線治療が検討されます。

この場合は、肝臓内の腫瘍に対して根治を目指して行うSBRTや粒子線治療とは目的が異なります。転移によって生じている症状や、転移部位、全身のがんの状態を踏まえて治療方針を決めます。

肝細胞がんの放射線治療は、腫瘍の大きさだけで一律に選択するものではありません。なぜ肝切除やRFAなどが難しいのか、放射線治療では何を目指すのかを確認したうえで、ほかの局所治療や薬物療法と比較して検討します。

肝細胞がんの肝移植|ミラノ基準と5-5-500基準

肝移植は、病気のある肝臓を取り出し、ドナーから提供された肝臓に置き換える治療です。肝細胞がんでは、がんだけでなく、背景にある肝硬変や重度の肝機能低下も同時に治療できる点が大きな特徴です。

肝切除やRFAでは、がんを治療しても傷んだ肝臓そのものは残ります。肝移植では肝臓全体を置き換えるため、肝機能が大きく低下している患者さんでも根治を目指せる場合があります。

ただし、Child-Pugh Cであれば誰でも肝移植を受けられるわけではありません。がんがどこまで広がっているか、脈管侵襲や肝外転移がないか、全身状態、移植手術に耐えられるかなどを含めて適応を判断します。

参考:肝移植の適応 基準|日本肝臓学会

肝細胞がんでは「がんの広がり」が移植適応に関係する

肝移植後にがんが再発する危険を抑えるには、肝細胞がんが一定の範囲にとどまっていることが必要です。

日本では、肝細胞がんの肝移植を検討する際にミラノ基準5-5-500基準が用いられています。

基準 主な条件
ミラノ基準 脈管侵襲・肝外転移がなく、単発なら5cm以下、複数なら3個以下かつ各3cm以下
5-5-500基準 脈管侵襲・肝外転移がなく、腫瘍径5cm以下、腫瘍数5個以下、AFP 500ng/mL以下

5-5-500基準では、腫瘍の大きさと個数だけでなく、肝細胞がんの腫瘍マーカーであるAFPも評価に含まれます。

ミラノ基準を超えていても、5-5-500基準を満たす場合には肝移植を検討できる可能性があります。

5-5-500基準によって移植を検討できる範囲が広がった

従来、肝細胞がんの肝移植ではミラノ基準が広く使われてきました。

日本では2019年に脳死肝移植の基準へ5-5-500基準が導入され、2020年4月からは生体肝移植についても同様の基準が保険適用となっています。

日本肝臓学会では、ミラノ基準内、またはミラノ基準を外れていても腫瘍径5cm以下・5個以下・AFP 500ng/mL以下であれば、他の条件を含めて肝移植の適応を検討するとしています。

「ミラノ基準を超えたから肝移植はできない」と一律に判断するのではなく、5-5-500基準まで含めて評価することが現在の国内診療では重要です。

参考:肝細胞癌に対する生体肝移植の保険適応の改訂について|日本肝臓学会
参考:肝細胞癌の脳死肝移植に関する適応基準と選択基準の改訂について|日本肝臓学会

日本では生体肝移植と脳死肝移植が行われている

肝移植には、主に生体肝移植脳死肝移植があります。

生体肝移植では、健康なドナーから肝臓の一部を提供してもらい、患者さんへ移植します。日本では近親者などから提供を受ける生体肝移植が行われてきました。

脳死肝移植では、脳死となったドナーから提供された肝臓を移植します。脳死肝移植には登録基準や優先順位があり、希望すればすぐに移植を受けられるわけではありません。

生体肝移植の場合にも、患者さんだけでなくドナーとなる人の安全性を評価する必要があります。移植が必要と考えられる場合には、移植施設で患者さんとドナー候補の双方を詳しく調べます。

肝移植は「肝機能が悪くなってから考える治療」とは限らない

肝移植の適応は、Child-Pugh分類の数字だけで決めるものではありません。

日本肝臓学会では、生体肝移植について、非代償性肝硬変と判断される場合にはChild-Pughスコアが10点に達していなくても適応となる可能性があり、最終的な判断は移植施設で行うとしています。

移植を検討する可能性がある患者さんでは、肝機能がさらに悪化してから相談するのではなく、がんの状態と肝機能の両方を見ながら移植施設への紹介時期を考えます。

肝細胞がんの肝移植では、現在の肝機能だけでなく、腫瘍が移植適応の範囲内にあるうちに評価できるかも重要になります。

切除不能な肝細胞がんの薬物療法

肝切除、RFA、TACEなどで十分な治療が難しい肝細胞がんでは、全身に作用する薬物療法を検討します。

薬物療法を行えるかどうかは、がんの広がりだけでは決まりません。肝細胞がんの薬物療法に関する臨床試験は、主に肝機能が保たれた患者さんを対象に行われているため、Child-Pugh分類などで現在の肝予備能を確認します。全身状態、脈管侵襲、肝外転移、これまでに受けたTACEなどの治療歴も判断材料になります。

2026年現在、一次治療には免疫チェックポイント阻害薬を含む複数の併用療法があります。「進行肝細胞がんならこの薬」と一つに決まるのではなく、副作用や持病、出血リスクなどを比べながら選択します。

一次治療では免疫療法を含む複数の選択肢がある

切除不能な肝細胞がんの一次治療では、代表的な選択肢として次の併用療法があります。

治療 治療の特徴
アテゾリズマブ+ベバシズマブ 免疫チェックポイント阻害薬と、血管新生を抑える薬を組み合わせる
デュルバルマブ+トレメリムマブ 作用する免疫の仕組みが異なる2種類の免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせる
ニボルマブ+イピリムマブ 2種類の免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせる。2025年6月に国内で切除不能肝細胞がんへの適応が承認された

どの治療が適しているかは、単純な新旧だけでは比較できません。

このほか、局所療法が適さない切除不能肝細胞がんでは、デュルバルマブ単剤も国内で承認されています。免疫療法の併用による利益と副作用、患者さんの全身状態などを踏まえ、単剤療法を検討する場合があります。

アテゾリズマブ+ベバシズマブでは出血リスクを確認

アテゾリズマブは、PD-L1という免疫のブレーキに関わる分子を標的とする免疫チェックポイント阻害薬です。ベバシズマブは、腫瘍が新しい血管をつくる働きに関わるVEGFを標的とします。

肝硬変がある患者さんでは、食道や胃に静脈瘤ができていることがあります。ベバシズマブには出血に注意が必要なため、治療前に食道・胃静脈瘤や出血リスクを評価することがあります。

前の検査章で上部消化管内視鏡について触れたのは、このように薬物療法の選択にも関係するためです。

アテゾリズマブ+ベバシズマブは2020年に国内で切除不能肝細胞がんへの適応が承認されています。

参考:中外製薬「テセントリクおよびアバスチン、切除不能な肝細胞がんに対する承認」
参考:PMDA「テセントリク(アテゾリズマブ)」

デュルバルマブ+トレメリムマブは2種類の免疫療法を組み合わせる

デュルバルマブはPD-L1、トレメリムマブはCTLA-4という異なる免疫チェックポイントを標的とします。

肝細胞がんでは、トレメリムマブを初回に投与し、デュルバルマブを継続する治療方法が用いられます。この治療は「STRIDE」と呼ばれることがあります。

ベバシズマブを含まないため、治療選択ではアテゾリズマブ+ベバシズマブとは異なる特徴を持ちます。ただし、免疫チェックポイント阻害薬による肝障害、肺障害、内分泌障害などの免疫関連有害事象には注意が必要です。

自己免疫疾患がある場合など、免疫チェックポイント阻害薬を使用しにくい患者さんもいるため、持病やこれまでの治療歴を確認して選択します。

参考:PMDA「イミフィンジ(デュルバルマブ)」
参考:PMDA「イジュド(トレメリムマブ)」

ニボルマブ+イピリムマブが2025年から一次治療候補に加わった

ニボルマブ+イピリムマブも、異なる免疫チェックポイントを標的とする2剤を組み合わせる治療です。

国内では2025年6月24日、切除不能な肝細胞がんに対する効能・効果が追加承認されました。

承認の根拠となったCheckMate-9DW試験では、全身薬物療法を受けていない切除不能肝細胞がん患者を対象に、ニボルマブ+イピリムマブとレンバチニブまたはソラフェニブが比較されました。ニボルマブ+イピリムマブ群では全生存期間の改善が示されています。

参考:PMDA「オプジーボ(ニボルマブ)」
参考:小野薬品工業「オプジーボとヤーボイの併用療法による『切除不能な肝細胞癌』に対する国内承認」2025年6月24日

3つの併用療法から単純に「最も強い薬」を選ぶわけではない

3つの併用療法には、それぞれ異なる特徴があります。

アテゾリズマブ+ベバシズマブでは、食道・胃静脈瘤を含む出血リスクを確認します。免疫チェックポイント阻害薬同士を組み合わせる治療では、免疫が自分の臓器を攻撃する免疫関連有害事象に注意します。

治療選択では、肝予備能、全身状態、自己免疫疾患などの持病、出血リスク、これまでの治療、副作用が起きた場合に対応できるかといった点を確認します。

これら3つを直接比較して「すべての患者さんにこの治療が最も優れている」と決めるものではありません。

免疫療法を使いにくい場合は分子標的薬を検討する

免疫チェックポイント阻害薬を使用しにくい場合には、レンバチニブやソラフェニブなどの分子標的薬を一次治療として検討することがあります。

これらは内服薬で、がんの増殖や腫瘍へ血液を送る血管の形成などに関係する分子を標的とします。

分子標的薬にも高血圧、手足症候群、食欲低下、倦怠感、下痢などさまざまな副作用があります。免疫療法が使えないから負担の軽い治療になる、という意味ではありません。

現在の肝機能と全身状態を確認しながら、必要に応じて休薬や減量を行います。

二次治療以降は「これまで何を使ったか」で変わる

一次治療で病状が進行した場合や、副作用によって治療を続けられない場合には、次の薬物療法を検討します。

肝細胞がんでは、レゴラフェニブ、カボザンチニブ、ラムシルマブなどがあります。薬剤ごとに前治療歴などの適応条件が異なり、ラムシルマブは血清AFP値400ng/mL以上で、がん化学療法後に増悪した切除不能肝細胞がんが対象です。

どの薬を選べるかは、一次治療で使用した薬、以前の治療への反応、AFPの値、肝予備能、全身状態などによって変わります。

特に現在は一次治療で免疫療法を含む併用療法を使う患者さんが増えているため、「二次治療だからこの薬」と治療の順番だけで決めるのではなく、それまでの治療歴から次の選択肢を考える必要があります。

参考:PMDA「最適使用推進ガイドライン(医薬品)」

薬物療法で大きく縮小した場合は局所治療を再検討することもある

切除不能肝細胞がんに対する薬物療法では、多くの場合、がんの進行を抑えながら肝機能と生活をできるだけ保つことを目指します。

ただし、「薬物療法を始めたら、その後は薬だけを続ける」と決まっているわけではありません。治療によって腫瘍が大きく縮小し、脈管侵襲や肝内病変の状態が変化した場合には、肝切除やRFAなどの局所治療が可能にならないか再評価することがあります。

治療開始時に切除不能だったという事実だけで、その後の選択肢まで固定されるわけではありません。画像検査と肝予備能を繰り返し確認し、その時点で可能な治療を検討します。

肝臓がんステージ4の薬物療法や、遠隔転移がある場合の治療については以下の記事でも詳しく解説しています。

肝細胞がん治療の副作用と生活への影響

肝細胞がんの治療では、肝切除、RFA、TACE、放射線治療、薬物療法など、それぞれ異なる副作用や合併症、治療による体への影響が起こることがあります。

肝細胞がんで特に意識したいのは、治療そのものによる副作用と、肝機能が低下して生じる症状が似ていることがある点です。

食欲低下、倦怠感、腹部の張り、むくみなどは、治療後に一時的に起こることもあれば、肝硬変や肝機能低下が関係していることもあります。「治療を受けた後だから仕方がない」と自己判断せず、症状が続く場合や強くなる場合には医療者へ伝えることが、その後の治療を続けるためにも必要です。

治療法によって起こりやすい副作用は異なる

代表的な治療と、治療後に注意する症状を整理すると次のようになります。

治療 主な副作用・合併症
肝切除 胆汁漏、出血、肝不全など
RFA 発熱、腹痛、出血、肝機能障害、周囲臓器の損傷など
TACE 発熱、吐き気、腹痛、食欲不振、肝機能障害など
放射線治療 倦怠感、食欲低下、吐き気、肝機能への影響など。照射する部位・範囲・線量によって異なる
分子標的薬 高血圧、食欲低下、下痢、手足症候群など。薬剤によって異なる
免疫チェックポイント阻害薬 肝障害、肺障害、腸炎、甲状腺などの内分泌障害を含む免疫関連有害事象

どの副作用が起こりやすいかは、治療法だけでなく、治療前の肝機能や全身状態によっても変わります。

肝切除後は「肝臓がどこまで回復しているか」を確認する

肝切除後には、創部の痛みや体力低下に加えて、出血、胆汁漏、肝不全などの合併症が起こることがあります。

肝臓には再生能力がありますが、肝硬変などで傷んだ肝臓では、正常な肝臓と同じように回復できるとは限りません。手術後に黄疸が強くなる、腹水が増える、意識がぼんやりするといった症状がある場合には、肝機能が低下していないかを確認します。

退院後はすぐに以前と同じ活動量へ戻すのではなく、体力の回復に合わせて少しずつ活動量を増やします。国立がん研究センターでは、手術後約1カ月は無理を避け、散歩などから徐々に運動量を増やすよう案内しています。

RFA・TACEでは治療後の発熱や腹痛がみられることがある

RFAでは、腫瘍を熱で焼灼した影響から発熱や腹痛が起こることがあります。出血、肝機能障害、周囲の腸管などへの熱損傷にも注意します。TACEでは、治療後に発熱、吐き気、腹痛、食欲低下などが出ることがあります。

数日で改善する症状もありますが、肝細胞がんでは「治療後だから発熱や食欲低下は当然」と考え続けないことが重要です。食事や水分を十分に取れない、腹痛が強くなる、黄疸が現れるなどの変化があれば、肝機能低下や合併症が起きていないかを確認する必要があります。

TACEを繰り返している場合には、腫瘍への効果だけでなく、治療前後で肝予備能が低下していないかも確認します。前章で説明したように、肝機能を大きく低下させると、その後に行える薬物療法などが限られる可能性があります。

放射線治療では照射する範囲によって体への影響が異なる

放射線治療は腫瘍へ放射線を集中させる局所治療ですが、腫瘍の周囲にある正常な肝臓や臓器にも一定量の放射線が当たることがあります。

治療による体への影響は、照射する位置や範囲、放射線の量、治療前の肝機能などによって異なります。治療中から終了後しばらくの間には、倦怠感や食欲低下、吐き気などがみられることがあります。

肝細胞がんでは、治療前から慢性肝炎や肝硬変によって肝機能が低下している患者さんもいます。放射線治療を行う際には、腫瘍へ必要な線量を照射しながら、正常な肝臓へ照射される範囲をできるだけ抑えるよう治療計画を立てます。

体幹部定位放射線治療(SBRT)や粒子線治療では、腫瘍へ放射線を集中させ、周囲の正常組織への照射を抑えることを目指します。ただし、こうした治療でも体への影響がなくなるわけではありません。

治療中や治療後に食欲低下や強い倦怠感が続く、黄疸や腹部の張りが現れるなどの変化があれば、「放射線治療後だから」と自己判断せず、治療を受けている医療機関へ相談します。

薬物療法では薬ごとに注意する症状が異なる

切除不能肝細胞がんで使われる薬には、免疫チェックポイント阻害薬、血管新生を抑える薬、分子標的薬などがあります。

アテゾリズマブ+ベバシズマブでは、ベバシズマブによる出血、高血圧、蛋白尿などに注意します。特に肝硬変がある人では食道・胃静脈瘤を伴うことがあるため、出血リスクを評価してから治療を始めることがあります。

デュルバルマブ+トレメリムマブやニボルマブ+イピリムマブなどの免疫チェックポイント阻害薬では、免疫反応が強く働くことで正常な臓器に炎症が起こる免疫関連有害事象に注意します。肝臓、肺、腸、甲状腺など影響を受ける臓器はさまざまです。

肝細胞がんではもともと肝機能異常がある患者さんもいるため、血液検査の変化ががんや肝硬変によるものなのか、免疫療法による肝障害なのかを医療者が判断します。症状の程度によっては免疫療法を休薬・中止し、ステロイドなどによる治療が必要になることがあります。

レンバチニブやソラフェニブなどの分子標的薬では、高血圧、食欲低下、下痢、倦怠感、手足症候群などが治療継続の負担になる場合があります。

副作用が強いときは、予定どおりの量を無理に続けることが目的ではありません。休薬や減量などを行いながら、治療を継続できる状態を整えます。

食欲低下や倦怠感を「副作用」と決めつけない

肝細胞がんの治療中には、食欲がない、疲れやすい、体重が減るといった変化が起こることがあります。こうした症状は薬物療法やTACEの影響でも生じますが、肝機能低下や腹水、がんの進行が原因になっていることもあります。

症状だけから原因を区別することは難しいため、いつから症状が始まったか、治療後に強くなったか、食事量や体重がどの程度変化したかを診察時に伝えると、原因を考える手がかりになります。

黄疸が強くなった、腹水や足のむくみが増えた、意識がぼんやりするといった変化は、肝機能低下のサインである可能性があります。次の定期受診まで様子を見るのではなく、治療を受けている医療機関へ相談します。

食事・飲酒・運動は肝臓の状態に合わせて考える

肝細胞がんだからといって、すべての患者さんに同じ食事制限が必要になるわけではありません。国立がん研究センターでは、基本的には栄養バランスを意識した食事を勧めています。慢性肝疾患がある場合には飲酒を避け、腹水やむくみがある場合には塩分を控えるなど、肝臓の状態に応じた調整が必要になります。

食欲が落ちている人が自己判断で厳しい食事制限をすると、必要なエネルギーや栄養を十分に取れなくなることもあります。何をどこまで制限するかは、肝機能や腹水の状態を踏まえて医師や管理栄養士などに確認します。

運動についても、手術直後と薬物療法を続けながら生活している時期では適切な強度が違います。体力と肝機能が安定していれば、散歩などから日常の活動量を戻していきます。

緩和ケア・支持療法はがん治療と並行して行う

緩和ケアや支持療法は、治療法がなくなった後だけに行うものではありません。

肝細胞がんでは、がんそのものによる痛みだけでなく、腹水、むくみ、食欲低下、倦怠感、かゆみなど、肝機能低下に伴う症状も生活へ影響します。こうした症状への治療や栄養管理、心理・社会面の支援は、肝切除、TACE、薬物療法などと並行して行います。

治療中に早めに相談したい症状

治療中に症状が出たとき、「これくらいなら次の診察まで待ってよいのか」と迷うことがあります。

特に、次のような変化がある場合には早めに医療機関へ連絡してください。

  • 吐血や黒い便など、消化管出血を疑う症状
  • 息苦しさや新しく続く咳
  • 強い腹痛や急激な腹部の張り
  • 黄疸が強くなる
  • 腹水や足のむくみが急に増える
  • 意識がぼんやりする、会話がかみ合わない
  • 食事や水分をほとんど取れない状態が続く

実際にどの症状で連絡すべきかは、受けている治療によって異なります。薬物療法を始める際には、よく起こる副作用だけでなく、「どの症状が出たら次の受診を待たずに連絡するのか」まで確認しておくと判断しやすくなります。

肝細胞がんの治療では、腫瘍を抑えることと同時に、肝機能と体力を保って次の治療につなげることも治療計画の一部です。

次の章では、肝細胞がんのステージ別生存率について、5年・10年ネット・サバイバルの違いと、その数字を個人の余命として受け取らないための見方を解説します。

肝細胞がんのステージ別生存率

肝細胞がんの予後を調べると「5年生存率」「10年生存率」という数字を目にすることがあります。

国立がん研究センターの院内がん登録では、原発性肝がんのうち、本記事で主に扱っている肝細胞がんについてステージ別のネット・サバイバルが公表されています。

ステージ 5年ネット・サバイバル
2014~2015年診断例
10年ネット・サバイバル
2012年診断例
ステージ1 63.0% 36.3%
ステージ2 45.2% 21.6%
ステージ3 16.0% 7.1%
ステージ4 4.4% 1.9%

ここで示している5年値と10年値は、同じ患者さんを5年から10年まで追跡した数字ではありません。

5年ネット・サバイバルは2014~2015年に診断された患者、10年ネット・サバイバルは2012年に診断された患者を対象とした別々の集計です。

「ステージ1では5年時点の63.0%が、そのまま10年後に36.3%まで低下した」という読み方はできません。

参考:院内がん登録生存率最新集計値|国立がん研究センター がん情報サービス

ネット・サバイバルは個人の余命を示す数字ではない

ネット・サバイバルとは、がん以外の病気や事故などによる死亡の影響を統計学的に調整し、がんだけが死因となる状況を仮定して推計した生存率です。肝細胞がんでは、この考え方が特に重要です。

患者さんの中には、肝硬変、慢性肝炎、糖尿病など、がん以外にも健康状態へ影響する病気を持つ人がいます。すべての死亡をそのまま数える実測生存率では、肝細胞がんそのものによる影響と、ほかの病気による影響が混ざります。

国立がん研究センターでは、2014~2015年の5年生存率と2010年以降の10年生存率から、国際的にも使われているネット・サバイバルを採用しています。

たとえば「ステージ1の5年ネット・サバイバルが63.0%だから、自分が5年後に生きている確率が63.0%」という意味ではありません。年齢、肝予備能、肝硬変の程度、腫瘍の個数や位置、受けた治療、治療後の肝機能などが異なる多くの患者さんをまとめた集団の統計です。

この生存率はUICC TNM分類によるステージの集計

前のステージ章では、日本国内で使われている日本肝癌研究会の分類を中心に説明しました。

ここで掲載しているステージ別生存率は、国立がん研究センターの院内がん登録におけるUICC TNM分類の総合ステージを用いた統計です。

日本肝癌研究会分類とUICC TNM分類では、T分類やステージの決め方が同じではありません。

前章の「日本肝癌研究会分類のステージ1~4」と、この表の「UICC TNM分類のステージ1~4」を完全に同じ病状として置き換えて比較することはできません。

肝細胞がんでは複数の病期分類が使われるため、生存率を見る際にもどの分類に基づく数字なのかを確認する必要があります。

参考:院内がん登録生存率集計|国立がん研究センター がん情報サービス

肝細胞がんではステージだけで予後を判断しにくい

肝細胞がんの見通しに関係するのは、がんのステージだけではありません。同じステージでも、Child-Pugh分類やALBI gradeでみた肝予備能が異なれば、選択できる治療やその後の経過も変わります。

肝切除やRFAでがんを局所的に治療できても、背景に慢性肝障害が残っていれば、新たな肝細胞がんが発生することがあります。逆に、進行した肝細胞がんでも、肝機能が保たれていれば複数の薬物療法を検討できます。

ステージと肝予備能の両方を見るという考え方は、治療選択だけでなく予後を理解する際にも必要です。

過去の生存率には現在の薬物療法が十分に反映されていない

5年ネット・サバイバルの対象は2014~2015年、10年値は2012年に診断された患者さんです。

現在の切除不能肝細胞がんでは、アテゾリズマブ+ベバシズマブ、デュルバルマブ+トレメリムマブ、ニボルマブ+イピリムマブなど、当時は使われていなかった治療が選択できるようになっています。

過去の患者集団から算出された生存率には、2026年現在の治療環境がすべて反映されているわけではありません。

特にステージ4の4.4%という5年ネット・サバイバルを、現在ステージ4と診断された患者さんの将来をそのまま示す数字として受け取ることはできません。

肝臓がんステージ4の病状や治療、生存率の考え方については、以下の記事でも詳しく解説しています。

肝細胞がんの再発と経過観察

肝細胞がんは、肝切除やRFAなどで治療した後も再発に注意が必要ながんです。国立がん研究センターでは、肝切除後に初めて再発した場合、その90%以上が肝臓内での再発と説明しています。

肝臓内に再びがんが見つかる理由は一つではありません。最初の肝細胞がんからがん細胞が肝臓内の別の場所へ広がる場合もあれば、慢性肝炎や肝硬変などが残っている肝臓から、新しい肝細胞がんが発生する場合もあります。

参考:肝臓がん(肝細胞がん) 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

肝臓内の再発には「肝内転移」と新しい発がんがある

最初にできた肝細胞がんからがん細胞が肝臓内へ広がり、別の場所で増えるものを「肝内転移」と考えます。

肝細胞がんでは、治療によって最初の腫瘍を取り除いても、背景にある慢性肝炎や肝硬変などの肝疾患が残ることがあります。その肝臓の別の肝細胞から新たながんが発生することもあり、これを「多中心性発癌」と呼びます。

肝切除後に別の場所へ肝細胞がんが見つかったからといって、すべてが最初のがんから広がったものとは限りません。この特徴があるため、肝細胞がんでは「治療した場所だけ」を見て経過観察するのではなく、残った肝臓全体を長期的に確認します。

治療後は3~6カ月ごとを目安に定期検査を行う

国立がん研究センターでは、肝細胞がん治療後は再発や新たな肝細胞がんに注意し、3~6カ月ごとに定期検査を行うとしています。

検査では、肝機能やAFP、PIVKA-IIなどを確認する血液検査に加え、病状に応じて腹部超音波、造影CT、MRIなどの画像検査を組み合わせます。腫瘍マーカーだけで再発の有無を判断することはできません。治療前から腫瘍マーカーが上昇しない患者さんもいるため、画像検査と合わせて経過を確認します。

経過観察で見るのは再発だけではありません。肝切除やTACEなどの治療後に肝機能がどの程度保たれているか、慢性肝疾患が進行していないかも、その後の治療選択に関係します。

参考:肝臓がん(肝細胞がん) 療養|国立がん研究センター がん情報サービス

再発した場合も、現在の肝機能とがんの状態から治療を選び直す

肝細胞がんが再発した場合には「一度手術をしたから次は薬物療法」というように治療順序が固定されているわけではありません。再発した腫瘍の個数や大きさ、脈管侵襲、肝外転移に加え、現在の肝予備能を評価します。

肝臓内に限局し、肝機能が保たれている場合には、再切除やRFAなどの局所治療を検討できることがあります。病変が多発していればTACE、脈管侵襲や肝外転移などがあれば薬物療法を含めて治療方針を考えます。

国立がん研究センターも、肝切除や局所療法後に再発した場合は、残っている肝臓の量と肝機能を確認し、初回治療と同じように切除、RFA、塞栓療法、薬物療法などを検討すると説明しています。

治療時点のステージだけではなく、再発した時点でどの治療を安全に行えるかを改めて評価することになります。

B型・C型肝炎がある場合は肝炎の治療も続ける

B型・C型肝炎を背景に肝細胞がんが発生した場合、がんの治療だけで通院が終わるわけではありません。ウイルス性肝炎そのものを適切に治療することは、残った肝臓の炎症を抑え、肝機能を保つことにつながります。

国立がん研究センターでは、ウイルス性肝炎が原因となった肝細胞がんでは、手術やRFAなどの治療後に抗ウイルス療法を行うことで、再発を抑えられる可能性があるとしています。C型肝炎でウイルスを排除できた場合でも、すでに肝線維化や肝硬変が進んでいる患者さんでは肝細胞がんのリスクがなくなるわけではありません。定期検査を続ける必要があります。

参考:C型肝炎治療ガイドライン 第8.4版|日本肝臓学会

再発の有無だけでなく「次の治療を受けられる肝臓か」を見ていく

肝細胞がんの経過観察では、画像上に新しい腫瘍がないかを確認することに意識が向きやすくなります。

長期的には、肝機能をどの程度保てているかも重要です。再発しても、肝予備能が十分に残っていれば再切除やRFA、TACE、薬物療法など複数の治療を検討できます。肝機能が大きく低下すると、腫瘍に対して有効な治療があっても実施が難しくなる場合があります。

肝細胞がんの治療後は、再発を早く見つけることと、次の治療につなげられる肝機能を保つことの両方を考えて経過をみていきます。

肝細胞がんの治療が効きにくくなったら

肝細胞がんでは、治療を続けているうちに十分な効果が得られなくなったり、副作用や肝機能の低下によって同じ治療を続けにくくなったりすることがあります。

このような場合でも、「現在の治療が効かなくなった=もう治療法がない」とは限りません。

肝細胞がんには肝切除、RFA、TACE、薬物療法など複数の治療があり、病状の変化によって治療の位置づけも変わります。次の治療を考える際には、がんがどのように変化したのかと、現在の肝機能がどこまで保たれているのかを改めて確認します。

まず現在の治療を続ける意味があるかを見直す

治療変更を考える場面では、画像検査で腫瘍が大きくなったかどうかだけを見るわけではありません。

新しい病変が増えている、脈管侵襲や肝外転移が現れた、腫瘍マーカーが上昇しているといった変化に加え、治療によって肝予備能が低下していないかも確認します。

特にTACEでは、十分な効果が得られない状態で繰り返すと、次の薬物療法に必要な肝機能を失う可能性があります。

治療を続けるか切り替えるかを考えるときは、以下の点を整理します。

  • 現在の治療で腫瘍を抑えられているか
  • 新しい病変や脈管侵襲、肝外転移が生じていないか
  • Child-Pugh分類やALBI gradeなどでみた肝予備能が保たれているか
  • 副作用による生活への負担が大きくなっていないか

次の薬物療法だけでなく、局所治療を再検討できることもある

薬物療法を受けている患者さんで病状が変化したとき、「次はどの薬を使うのか」に意識が向きやすくなります。

実際には、治療によって腫瘍が大きく縮小し、以前は難しかった肝切除やRFAなどを検討できる状態になることもあります。逆に、TACEで十分な効果を得にくくなった場合には、肝機能が保たれているうちに全身薬物療法へ移ることがあります。

肝細胞がんでは治療法を一方向に進めるだけではなく、その時点の腫瘍の状態と肝予備能から、局所治療と全身治療を改めて検討することがあります。

標準治療は新しい治療が登場するたびに更新される

標準治療とは、現在得られている科学的根拠をもとに、多くの患者さんに推奨される治療です。「標準」という言葉から、昔から行われている治療をイメージするかもしれませんが、新しい治療でも臨床試験で効果と安全性が確認されれば標準治療に加わります。

肝細胞がんでも、近年は免疫チェックポイント阻害薬を含む治療が次々と導入され、治療の選択肢が変化しています。

現在の治療で十分な効果が得られなくなったときには、まず現在の標準治療の中に、まだ受けていない治療があるかを確認します。

条件が合えば臨床試験を検討できる

標準治療を受けた後や、病状によって適した標準治療が限られる場合には、臨床試験への参加を検討できることがあります。

臨床試験は、効果が確立した「特別な治療」を受ける制度ではありません。新しい薬や治療法について、効果と安全性を確認し、将来の標準治療になり得るかを調べる研究です。

参加できるかどうかは、肝細胞がんの状態、これまでに受けた治療、肝機能、全身状態など、それぞれの試験で定められた条件によって決まります。

臨床試験を提案された場合には、現在受けられる標準治療と何が違うのか、期待される効果についてどこまで分かっているのか、副作用や通院の負担はどの程度かを確認してから判断します。

参考:研究段階の医療(臨床試験、治験など)について|国立がん研究センター がん情報サービス

治療方針に迷ったときはセカンドオピニオンも利用できる

「提示された治療以外に選択肢はないのか」「TACEを続けるべきか薬物療法へ移るべきか」「別の治療施設でも意見を聞きたい」と感じる場合には、セカンドオピニオンを利用できます。

セカンドオピニオンは、現在の病院から転院するための制度ではありません。診断や治療方針について別の医師から意見を聞き、治療を選ぶための情報を増やす方法です。

相談するときには、これまでの画像検査、病理・診断情報、受けた治療、現在の肝機能などの資料が必要になります。

肝細胞がんでは治療の選択肢だけでなく、治療を行える肝予備能が残っているかが判断に影響します。セカンドオピニオンを希望する場合には、治療開始や変更をどの程度待てる状況なのかも担当医に確認しておくとよいでしょう。

治療が効きにくくなったときに考えるのは、「次に使える薬があるか」だけではありません。現在の治療を続ける利益、残っている肝機能、局所治療を再検討できる可能性、次の標準治療を整理したうえで、その時点で適した方針を考えます。

参考:セカンドオピニオン|国立がん研究センター がん情報サービス

納得できる治療を選択するために、診察で確認したいこと

肝細胞がんの治療について説明を受けると、Child-Pugh分類、RFA、TACE、免疫チェックポイント阻害薬など、多くの専門用語が一度に出てきます。

すべての治療法や薬剤名を覚える必要はありません。まず確認したいのは「自分は現在どのような状態で、なぜこの治療が提案されているのか」です。

診察では、次のような情報を整理すると治療方針を理解しやすくなります。

  • 正式な診断名は肝細胞がんなのか
  • ステージはいくつで、どの病期分類を使っているのか
  • 腫瘍の個数・大きさ、脈管侵襲、肝外転移はどうなっているのか
  • Child-Pugh分類やALBI gradeでみた肝予備能はどの程度なのか
  • 今回の治療では何を目指しているのか

「ステージ3です」「手術は難しいです」といった結論だけではなく、その判断につながった病状まで確認すると治療の選択肢を比較しやすくなります。

提案された治療の「目的」は何か

同じ肝細胞がんでも、治療によって目指すものは異なります。肝切除やRFAでがんを根治できる可能性を目指す場合もあれば、TACEで肝臓内の腫瘍を抑える場合、薬物療法で進行を抑える場合もあります。

治療を決める前には、この治療で何を目指しているのか、なぜ自分にはこの治療が勧められているのか、ほかに選択肢はあるのか、期待できる効果と主な副作用・合併症は何か、治療によって肝予備能へどの程度影響する可能性があるのか、などを確認しておくとよいでしょう。

治療を始めるときに「次に切り替える条件」も確認

肝細胞がんでは、一つの治療をいつまでも続けるとは限りません。TACEで十分な効果が得られなくなれば薬物療法への変更を検討することがあります。薬物療法でも、がんの進行や副作用によって別の治療へ変更する場合があります。

治療開始時には「どのような状態になったら、この治療を続けず次の治療を考えるのか」まで確認しておくと、病状が変化したときに治療方針を理解しやすくなります。

画像検査で何を見るのか、腫瘍マーカーをどう評価するのか、Child-Pugh分類やALBI gradeが変化した場合に治療へどのような影響があるのかも確認しておきましょう。

治療によって生活がどう変わるのか

治療方針を考える際には、効果や副作用だけでなく、生活への影響も確認します。

手術であれば入院期間や退院後の回復、TACEであれば治療後の発熱や食欲低下、薬物療法であれば通院頻度や副作用への対応など、治療によって負担の種類が異なります。

仕事や家事、介護などを続けながら治療を受ける場合には、診察の段階で生活上の事情を医療者に伝えておくことも治療計画を考える材料になります。

副作用が起きた場合にどこへ連絡するのか、夜間や休日はどのように対応するのかまで確認しておくと、治療開始後に迷いにくくなります。

分からないことが残ったまま治療を決める必要はない

説明を一度聞いただけで、治療内容をすべて理解するのは簡単ではありません。

分からなかった言葉や気になる点をメモして、次の診察で確認しても構いません。治療開始をどの程度急ぐ必要があるのか、考える時間を取れる病状なのかも担当医に確認できます。別の医師の意見を聞きたい場合には、セカンドオピニオンを利用する方法もあります。

治療の説明を整理したい場合や、生活・仕事・医療費などを含めて相談したい場合には、全国のがん診療連携拠点病院などに設置されている「がん相談支援センター」も利用できます。

参考:がん相談支援センターとは|国立がん研究センター がん情報サービス

診断名やステージだけで治療の可能性を決めつけない

肝細胞がんでは、同じステージでも腫瘍の状態や肝予備能によって提案される治療が異なります。

治療後に病状が変化すれば、以前は難しかった治療を再検討できることもあれば、肝機能の変化によって治療方針を変更することもあります。

この記事で紹介したステージや生存率、治療法は、自分の治療を決めるための答えそのものではありません。

診察では「今の病状はどうなっているのか」「今回の治療を選ぶ理由は何か」「効果が得られなかった場合には次に何を考えるのか」まで確認し、自分の病状に沿って治療方針を考えていくことが必要です。

27肝臓がんがステージ4と診断されると、「もう治療はできないのではないか」「余命はどのくらいなのか」「完治する可能性はないのか」と不安になる方は少なくありません。

本記事で主軸とするUICC TNM分類では、肝細胞がんのステージ4は、領域リンパ節へ転移しているか、肺や骨など離れた臓器へ転移している状態です。領域リンパ節転移があり、遠隔転移がない場合はステージ4A、遠隔転移がある場合はステージ4Bに分類されます。

ステージ4は早期の肝臓がんより治療が難しくなりますが、ステージ4と診断されたことだけを理由に、すべての治療ができなくなるわけではありません。肝機能と全身状態が保たれていれば、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬などの全身薬物療法を検討できます。肝臓内の病変や転移による症状に対して、カテーテル治療や放射線治療などを組み合わせる場合もあります。

肝細胞がんでは、がんの広がりだけでなく、肝臓の機能がどの程度残っているかが治療選択を大きく左右します。リンパ節転移や遠隔転移が限られていても、肝硬変や肝不全によって肝予備能が低下していれば、治療の負担で肝機能がさらに悪化する可能性があります。そのため、ステージ番号だけで治療の可否や今後の見通しを判断することはできません。

この記事では、肝臓がんステージ4Aと4Bの違い、治療を受けられる条件、完治を目指せる可能性、生存率や余命の数字の受け止め方、薬物療法や局所治療の選び方を順番に解説します。

  • 肝細胞がんステージ4でも、肝機能や全身状態に応じて治療を検討できる
  • 根治を目指せる可能性は、病変の範囲や肝予備能、治療反応で変わる
  • ステージ4の5年生存率(ネット・サバイバル)は4.4% ※2014~2015年診断例

肝臓がんステージ4とは

肝細胞がんのステージは、原発腫瘍の状態、領域リンパ節転移、遠隔転移を組み合わせて決めます。本記事では、国立がん研究センターの院内がん登録との対応を考慮し、UICC TNM分類に基づいてステージ4A・4Bを説明します。UICC第9版は2026年1月からの使用が推奨されていますが、2026年7月時点の国内院内がん登録実務資料は第8版準拠です。生存率についても過去の版による登録症例が含まれるため、該当箇所で分類時期の違いを補足します。

UICC分類では、肝臓内で腫瘍が高度に進行していても、領域リンパ節転移と遠隔転移がなければステージ3Bです。肝臓内の腫瘍数が多い、腫瘍が大きい、主要な血管へがんが広がっているという理由だけで、必ずしもステージ4になるわけではありません。

本記事で扱うのは「肝細胞がん」

肝臓から発生する原発性肝がんには、主に肝細胞から発生する肝細胞がんと、肝臓内の胆管から発生する肝内胆管がんがあります。

さらに、大腸がん、胃がん、膵がん、乳がんなどが肝臓へ転移したものは、転移性肝がんと呼ばれます。転移性肝がんは、肝臓から発生した肝細胞がんではなく、もともと発生した臓器のがんとして治療します。たとえば、大腸がんの肝転移であれば、大腸がんの病期分類と治療基準に沿って方針を決めます。

同じように「肝臓にがんがある」「肝臓がんのステージ4」と説明されても、病名によってステージの決め方や治療法は異なります。病理診断書や診療情報提供書で、肝細胞がん、肝内胆管がん、転移性肝がんのどれに該当するのかを最初に確認します。

参考:肝臓がん(肝細胞がん)|国立がん研究センター がん情報サービス

肝細胞がんのステージを決めるT・N・Mとは

UICC TNM分類では、原発腫瘍の状態を「T」、領域リンパ節への転移を「N」、遠隔転移を「M」で表し、三つを組み合わせて最終的なステージを決めます。

「T」はTumour(チューモア/トゥモール)の頭文字で、肝臓内にある腫瘍の個数や大きさ、血管への広がり、隣接する臓器への浸潤などを示します。「N」はNode(ノード)の頭文字で、肝臓の周囲にある領域リンパ節への転移の有無を表します。「M」はMetastasis(メタスタシス)の頭文字で、肺や骨など肝臓から離れた部位への転移の有無を表します。

T1~T4は原発腫瘍の進み具合を表す分類であり、ステージ1~4と同じ意味ではありません。たとえば「T4」と判定されても、それだけでステージ4になるわけではなく、NとMを組み合わせて最終的なステージを判断します。

T分類 UICC分類における原発腫瘍の状態
T1a 腫瘍が一つで、最大径が2cm以下
T1b 腫瘍が一つで、最大径が2cmを超え、血管への侵襲がない
T2 2cmを超える単発腫瘍で血管侵襲がある、または複数の腫瘍があるものの、いずれも5cm以下
T3 複数の腫瘍があり、そのうち少なくとも一つが5cmを超える
T4 門脈・肝静脈の主要な枝へ進展している、胆のう以外の隣接臓器へ直接浸潤している、または肝臓表面の腹膜を破っている

T4は肝臓内で高度に進行した状態ですが、領域リンパ節転移と遠隔転移がなければ、UICC分類ではステージ3Bです。ステージ4Aとなるのは、T分類にかかわらず領域リンパ節転移がある場合です。

遠隔転移が確認されると、T分類やリンパ節転移の有無にかかわらずステージ4Bとなります。

UICCステージ分類 T・N・Mの組み合わせ 病状の概要
ステージ3B T4・N0・M0 肝臓内では高度に進行しているが、領域リンパ節転移と遠隔転移はない
ステージ4A すべてのT・N1・M0 領域リンパ節転移があるが、遠隔転移はない
ステージ4B すべてのT・すべてのN・M1 肺や骨などへの遠隔転移がある

診察でステージの説明を受ける際には、「4Aです」「4Bです」という病期名だけでなく、T・N・Mがそれぞれどのように判定されているかを確認すると、肝臓内の進行、リンパ節転移、遠隔転移を分けて理解できます。

参考:UICC TNM分類|国立がん研究センター がん情報サービス
参考:NCI「Primary Liver Cancer Treatment」

日本肝癌研究会の分類ではステージ4Aの範囲が異なる

日本国内では、UICC分類とは別に、日本肝癌研究会が定めた病期分類も使用されています。日本肝癌研究会分類では、腫瘍が一つだけであること、最大径が2cm以下であること、脈管侵襲がないことの3項目によってT分類を判定します。

この3項目を一つも満たさないT4であれば、リンパ節転移と遠隔転移がなくてもステージ4Aになります。そのため、同じT4・N0・M0の患者さんでも、日本肝癌研究会分類ではステージ4A、UICC分類ではステージ3Bと判定される場合があります。

分類によってステージ番号が異なっても、病気そのものが変わるわけではありません。本記事ではUICC分類を基準にステージ4A・4Bを説明し、日本肝癌研究会分類との違いが判断に関係する箇所で補足します。診断時には、どちらの分類によるステージなのかを確認することが必要です。

ステージ4と末期は同じ意味ではない

ステージ4は、がんがどこまで広がっているかを表す病期です。一般に「末期」や「終末期」という言葉は、がんや肝不全が進行して治療による病状改善を期待しにくくなり、生命予後が短くなっている時期を指して使われます。両者は同じ意味ではありません。

肝機能と全身状態が保たれていれば、ステージ4でも全身薬物療法を受けられる場合があります。治療によってがんが縮小したり、進行しない状態を長く保てたりする患者さんもいます。

その一方で、肝細胞がんでは、がんの広がりだけでなく肝硬変や肝不全も経過に影響します。画像上のがんがそれほど大きくなくても、腹水、黄疸、肝性脳症などがあり、肝予備能が大きく低下していれば、積極的な薬物療法を安全に受けにくいことがあります。

「ステージ4だから末期である」「ステージ4だから治療できない」と判断するのではなく、リンパ節転移や遠隔転移の状態と、肝機能・全身状態を分けて評価する必要があります。

ステージだけで治療方針を決められない理由

肝細胞がんでは、がんがどこまで広がっているかに加えて、正常な肝臓がどの程度働けるかが治療の安全性を左右します。

肝細胞がんになった患者さんの中には、慢性肝炎、肝硬変、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患など、がんが発生する前から肝臓の病気を抱えている方がいます。がんを治療するときには正常な肝組織にも一定の負担がかかるため、肝機能が低下しているほど、治療後に肝不全を起こす危険性が高くなります。

治療方針を決めるときには、領域リンパ節転移や遠隔転移だけでなく、肝臓内の腫瘍量、脈管侵襲、Child-Pugh分類などで評価する肝予備能、日常生活を送れる全身状態を総合して評価します。

同じステージ4Aでも、肝臓内の病変が限られ、肝機能が保たれている患者さんと、主要な門脈へ進展し、腹水や黄疸がある患者さんでは、選べる治療や見通しが異なります。ステージ4Bでも、遠隔転移が一つだけの場合と複数の臓器へ広がっている場合、薬物療法を安全に継続できる場合と肝機能が大きく低下している場合では、同じように判断できません。

ステージは治療を考える重要な情報ですが、ステージだけで治療の可否や余命が決まるわけではありません。自分の状態を理解するには、T・N・Mの内容とともに、肝予備能や全身状態についても説明を受けることが必要です。

参考:肝臓がん(肝細胞がん)|国立がん研究センター がん情報サービス

肝臓がんのステージ4Aと4Bの違い

UICC分類では、ステージ4Aは領域リンパ節転移があるものの遠隔転移はない状態、ステージ4Bは肺や骨などへの遠隔転移がある状態です。両者の違いは、がんが肝臓周囲のリンパ節までにとどまっているか、肝臓から離れた臓器まで広がっているかにあります。

ただし、ステージ4Aと4Bは、肝臓内の腫瘍の大きさや数を直接表す分類ではありません。4Aでも肝臓内の病変が比較的限られている場合と、肝臓全体に多数の腫瘍がある場合があります。4Bでも、遠隔転移が一つだけの場合と、複数の臓器に転移している場合では、病状や治療の難しさが異なります。

ステージ4Aではリンパ節転移を含めて治療を考える

ステージ4Aでは、肝臓周囲の領域リンパ節にがんが広がっているため、肝臓内の腫瘍だけを手術やカテーテル治療で治療しても、病気全体を十分に抑えられない可能性があります。そのため、肝機能と全身状態が保たれていれば、全身薬物療法を中心に治療を検討します。

遠隔転移は確認されていないため、肝臓内の病変やリンパ節転移が限られ、薬物療法によって十分に縮小した場合には、放射線治療や手術などの局所治療を追加できる可能性があります。ただし、どの患者さんに局所治療を加えると長期生存や根治につながるかについて、すべての状況に共通する基準が確立しているわけではありません。

ステージ4Bでは全身薬物療法が治療の中心になる

ステージ4Bでは、肺、骨、副腎など肝臓から離れた部位へがんが広がっています。画像で確認できる転移が一つだけでも、ほかの場所に小さながん細胞が存在する可能性があるため、特定の病変だけを局所的に治療するのではなく、全身に作用する薬物療法が治療の中心になります。

ただし、遠隔転移があるからといって、局所治療を行わないわけではありません。骨転移による痛みや骨折の危険、脳転移による神経症状などがある場合には、症状を和らげて生活を守るために放射線治療や手術を加えることがあります。薬物療法で全身の病変を抑えながら、一部の病変だけが増大した場合に、その部位へ局所治療を追加することもあります。

4Aか4Bかだけでは治療の見通しは決まらない

一般には遠隔転移のある4Bの方が病気の広がりは大きいと考えられますが、4Aなら必ず経過がよいとは限りません。4Aでも、肝臓内の腫瘍量が多い、主要な門脈へがんが広がっている、肝機能が低下しているといった場合には、治療が難しくなることがあります。

反対に、4Bでも遠隔転移が限られ、肝臓内の病変が安定し、肝機能と全身状態が保たれていれば、薬物療法によって長期間病気を抑えられる場合があります。実際の治療方針や見通しを考える際には、4A・4Bという病期名に加えて、肝臓内の腫瘍量、脈管侵襲、転移部位、肝予備能、日常生活を送れる体力を確認する必要があります。

診察では、リンパ節転移と遠隔転移がそれぞれどこにあるのか、肝臓内の病変が肝機能へどの程度影響しているのか、現在の治療で何を目指すのかを確認すると、病状と治療方針を整理しやすくなります。

肝臓がんステージ4で現れる症状

肝細胞がんは、進行するまで目立った症状が現れないことがあります。肝臓は、正常に働く部分が残っていれば機能を補いやすいため、ステージ4であっても、検査を受けるまで大きな異変を感じなかった患者さんもいます。

一方、肝細胞がんでは、肝臓内の腫瘍による症状だけでなく、もともとの肝硬変や肝機能低下による症状、遠隔転移した部位に応じた症状が現れることがあります。症状の強さだけからステージ4Aと4Bを区別したり、がんの広がりを判断したりすることはできません。病期はCTやMRIなどの画像検査を基に判定します。

肝臓内のがんによる痛みや圧迫感

肝臓内の腫瘍が大きくなると、右上腹部やみぞおちの圧迫感、張り、鈍い痛みなどが現れることがあります。肝臓の内部には痛みを感じる神経が多くありませんが、腫瘍によって肝臓を覆う膜が引き伸ばされたり、周囲の組織が圧迫されたりすると痛みを感じます。

肝臓が腫大すると、腹部にしこりを触れる、少量の食事で満腹になる、食欲が低下するといった変化が起こることもあります。

ただし、腹痛や食欲低下だけで、がんが進行したとは判断できません。腹水、胆管の閉塞、感染症、便秘、治療の副作用などでも似た症状が起こります。新しい症状が現れた場合や、これまでの痛みが急に強くなった場合には、画像検査や血液検査で原因を確認します。

参考:肝臓がん(肝細胞がん)について|国立がん研究センター がん情報サービス

黄疸・腹水・むくみは肝機能低下のサイン

肝細胞がんの患者さんには、慢性肝炎や肝硬変を伴っている方が少なくありません。肝臓の働きが低下すると、皮膚や白目が黄色くなる黄疸、おなかに水がたまる腹水、足のむくみ、皮膚のかゆみ、強い倦怠感などが現れることがあります。

腹水が増えると、おなかが張って食事を取りにくくなったり、横になると息苦しくなったりします。むくみが強くなると、靴が履きにくい、短期間で体重が増える、歩くと足が重いといった生活上の変化も生じます。

黄疸や腹水は、必ずしも腫瘍が急に大きくなったことだけを意味しません。肝硬変の悪化、門脈へのがんの進展、胆管の閉塞、感染症、脱水、薬の影響などが関係している場合があります。

肝臓がんでは、画像上の腫瘍が大きく変化していなくても、肝機能が低下することがあります。腹囲や体重が短期間で増えた、尿量が減った、皮膚や白目が黄色くなった、食事が取れなくなった場合には、次の定期受診を待たずに治療施設へ相談します。

意識や性格の変化は肝性脳症の可能性

肝機能が大きく低下すると、本来は肝臓で処理される物質が体内にたまり、脳の働きへ影響することがあります。これを肝性脳症と呼びます。

初期には、昼夜が逆転する、計算や会話に時間がかかる、注意力が落ちる、普段と性格が違って見えるなど、はっきりしない変化として現れることがあります。進行すると、手が羽ばたくように震える、場所や日時が分からなくなる、呼びかけへの反応が鈍くなる、意識を失うといった状態になる場合があります。

肝性脳症は、便秘、感染症、脱水、消化管出血、薬の影響などをきっかけに悪化することがあります。本人が変化に気付きにくいため、家族が「受け答えが遅い」「いつもと様子が違う」と感じたときには、早めに医療機関へ連絡します。

参考:肝硬変診療ガイドライン|日本消化器病学会

ステージ4Bでは転移した部位に応じた症状が現れる

ステージ4Bでは、肺、骨、副腎、脳などへの遠隔転移が確認されます。ただし、遠隔転移があっても、病変が小さい段階では自覚症状がないことがあります。

肺転移では、病変の数や大きさによって、長引く咳、息切れ、胸の痛み、血の混じった痰などが現れる場合があります。呼吸器の症状は感染症や心臓病でも起こるため、症状だけから肺転移と判断することはできません。

骨転移では、同じ場所に続く痛み、体を動かしたときに強くなる痛み、夜間も治まらない痛みなどがみられます。骨が弱くなると、転倒などの大きな衝撃がなくても骨折することがあります。

背骨への転移によって脊髄や神経が圧迫されると、手足のしびれ、筋力低下、歩きにくさ、排尿・排便の異常が起こる可能性があります。神経障害が進むと回復しにくくなるため、足に力が入らない、歩けない、尿が出にくいといった変化があれば、速やかな評価が必要です。

脳転移では、頭痛、吐き気、けいれん、言葉が出にくい、片側の手足を動かしにくい、意識がぼんやりするといった症状が現れる場合があります。

これらの症状がないからといって、遠隔転移がないとは限りません。遠隔転移の有無や広がりは、胸部CTや症状に応じたMRIなどの画像検査で確認します。

すぐに医療機関へ連絡したい症状

肝臓がんの患者さんに現れる症状の中には、肝不全、消化管出血、感染症、脊髄圧迫など、早急な対応が必要な状態を示すものがあります。

吐血、黒い便、急な意識の変化、呼びかけへの反応低下、突然の強い息苦しさ、けいれん、手足の麻痺、立てない・歩けないほどの背中や腰の痛みがある場合には、速やかに医療機関へ連絡します。

発熱、強い腹痛、急に増えた腹水、尿量の減少、食事や水分をほとんど取れない状態も、感染症や肝機能悪化が関係している可能性があります。

症状が出たときに判断に迷わないよう、夜間や休日を含めてどのような変化があれば連絡するのか、治療を始める前に医療機関の連絡先とあわせて確認しておくことが大切です。

治療方針を決めるために行う検査

肝臓がんステージ4の検査には、肝細胞がんの診断を確かめるだけでなく、リンパ節転移や遠隔転移を調べて病期を判定し、どの治療を安全に受けられるかを判断する役割があります。

本記事で基準とするUICC第8版では、領域リンパ節転移の有無がステージ4A、遠隔転移の有無がステージ4Bの判定に関わります。ただし、病期が分かるだけでは治療方針を決められません。肝臓が治療に耐えられる機能を残しているか、日常生活を送れる体力があるかについても、あわせて評価します。

造影CT・MRIでがんの広がりを調べる

肝細胞がんが疑われる場合には、造影剤を使用したCT検査やMRI検査を行います。これらの検査では、肝臓内の腫瘍の個数・大きさ・分布、門脈や肝静脈への脈管侵襲、周囲の臓器への広がりなどを確認します。

肝細胞がんの多くは、正常な肝組織よりも動脈から多くの血液が流れ込むという特徴があります。造影剤を注入した直後と、時間が経過した後の画像を比較することで、肝細胞がんに特徴的な血流の変化を調べます。

ステージ4が疑われる場合には、肝臓だけでなく胸部なども含めて撮影し、領域リンパ節や肺などへの転移がないかを確認します。領域リンパ節転移があり遠隔転移がなければUICCステージ4A、肺や骨などへの遠隔転移があればステージ4Bです。骨の痛みや神経症状がある場合には、症状に応じて骨や脳の画像検査が追加されることがあります。

造影CTやMRIは、ステージを決めるためだけの検査ではありません。肝臓内の腫瘍量、脈管侵襲の範囲、症状の原因となっている病変を確認することで、全身薬物療法にカテーテル治療や放射線治療を組み合わせられるかを検討します。

AFP・PIVKA-IIは診断と経過観察の補助に使う

肝細胞がんでは、血液検査でAFP、AFP-L3分画、PIVKA-IIなどの腫瘍マーカーを測定します。

腫瘍マーカーは、診断の補助や治療後の経過観察に使われます。肝細胞がんがあっても数値が上がらない場合があり、慢性肝炎や肝硬変など、がん以外の理由で高くなる場合もあります。腫瘍マーカーの値だけで肝細胞がんの有無やステージを判断することはできません。

治療後に数値が低下すれば、治療が効いている可能性を示す材料になりますが、数値が変わらなくても画像上は腫瘍が縮小している場合があります。反対に、画像の変化に先立って腫瘍マーカーが上昇することもあります。一回の測定値だけを見るのではなく、過去からの推移と画像検査、肝機能、症状を組み合わせて判断します。

血液検査で肝予備能を評価

肝予備能とは、肝臓が本来の働きをどの程度保っているかを示す考え方です。肝細胞がんでは、同じステージ4でも肝予備能によって受けられる治療や副作用の危険が異なります。

肝予備能の評価には、Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類や肝障害度などが用いられます。Child-Pugh分類では、血液中のアルブミン、総ビリルビン、プロトロンビン時間に加え、腹水と肝性脳症の状態を点数化し、合計点によってA・B・Cに分類します。

Child-Pugh Aは肝機能が比較的保たれている状態、Bは中等度に低下している状態、Cは高度に低下している状態です。ただし、同じ分類内でも肝機能には幅があります。Child-Pugh Aでも、腹水の既往や血小板減少などがあり、治療に注意を要する場合があります。

薬物療法やカテーテル治療を受けた後に肝機能が低下し、Child-Pugh分類が変わることもあります。肝細胞がんの治療では、目の前の腫瘍を抑えるだけでなく、次の治療を受けられる肝機能をできるだけ残すという視点も欠かせません。

参考:肝臓がん(肝細胞がん) 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

腎機能・血球数・感染症も治療前に確認

血液検査では、肝機能だけでなく、腎機能、白血球・赤血球・血小板の数、血液凝固、電解質、炎症反応なども確認します。血小板が少ない場合や血液が固まりにくい場合には、カテーテル治療や生検など、出血を伴う可能性のある処置を行いにくくなることがあります。腎機能が低下していれば、造影剤の使用や薬物療法の選択、投与量にも影響します。

免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬を始める前には、治療前の検査値を記録し、治療後の変化と比較できるようにします。B型・C型肝炎ウイルスの感染状態も確認し、必要に応じて肝炎の治療や再活性化への対策を行います。

内視鏡検査で食道・胃静脈瘤を調べる

肝硬変が進むと、肝臓へ流れ込む門脈の圧力が高くなり、食道や胃に静脈瘤ができることがあります。静脈瘤が破れると大量出血につながる可能性があるため、薬物療法を始める前に上部消化管内視鏡検査を行い、食道・胃静脈瘤の有無や出血の危険性を調べる場合があります。とくに出血リスクへ影響する薬を使用するときは、治療前の確認が治療選択に関わります。

出血の危険が高い静脈瘤が見つかった場合には、内視鏡治療などを先に行ったり、出血への影響が異なる薬物療法を検討したりします。薬の効果だけでなく、現在抱えている合併症を踏まえて安全性を判断します。

パフォーマンスステータスで全身状態を確認

パフォーマンスステータスは、患者さんが日常生活をどの程度自分で送れているかを0から4で表す指標です。

0は発症前と同じように活動できる状態、1は激しい活動には制限があるものの、歩行や軽い仕事を行える状態です。2では身の回りのことはできても仕事は難しくなり、3では日中の半分以上をベッドや椅子で過ごします。4は身の回りのことができず、ほぼ寝たきりの状態です。

肝細胞がんの主要な薬物療法の臨床試験は、肝機能が比較的保たれ、パフォーマンスステータスが良好な患者さんを中心に行われています。全身状態が大きく低下している場合には、臨床試験と同じ効果を期待しにくく、副作用によって生活機能がさらに低下する可能性もあります。

年齢だけで治療の可否を決めるのではなく、食事を取れるか、自分で歩けるか、身の回りのことを行えるか、日中をどのように過ごしているかを含めて判断します。

参考:パフォーマンスステータス|国立がん研究センター がん情報サービス

組織検査を行わずに診断する場合がある

肝細胞がんは、慢性肝炎や肝硬変などのある患者さんに特徴的な画像所見が確認された場合、病変の組織を採取する生検を行わずに診断することがあります。一方、画像だけでは良性・悪性の区別が難しい場合や、肝内胆管がん、転移性肝がんなど、肝細胞がん以外の病気が疑われる場合には、生検を検討します。診断によって使用する薬や治療方針が変わるためです。

肝生検には、出血や、がん細胞が針の通り道へ広がる危険などがあります。そのため、すべての患者さんへ一律に行うものではありません。組織を調べることで治療方針が変わるか、安全に採取できるかを考えて判断します。

肝臓がんステージ4でも治療はできる?

肝臓がんがステージ4でも、肝機能と全身状態が保たれていれば、治療を受けられる可能性があります。

UICC分類のステージ4Aでは領域リンパ節転移、4Bでは遠隔転移があるため、一般には全身へ作用する薬物療法を軸に治療を検討します。ただし、同じステージでも、肝臓内の腫瘍量、脈管侵襲、転移の範囲、肝予備能によって選べる治療は異なります。

「ステージ4に使用できる薬がある」ことと「現在の患者さんがその治療を安全に受けられる」ことは同じではありません。治療を始められるか、どの程度の強さで行うかは、がんの広がりだけでなく、肝臓の機能と日常生活を送れる体力を踏まえて判断します。

ステージ4Aでは全身薬物療法を軸に治療を検討

ステージ4Aでは、肝臓周囲の領域リンパ節へがんが広がっています。肝臓内の腫瘍だけを手術やカテーテル治療で治療しても、リンパ節にある病変を含めて病気全体を十分に制御できない可能性があるため、全身薬物療法を軸に治療を検討します。

ただし、ステージ4Aでも病状は一様ではありません。肝臓内の腫瘍が限られている場合もあれば、腫瘍が多発し、門脈や肝静脈への脈管侵襲を伴っている場合もあります。肝臓内の病変が肝機能や症状へ強く影響している場合には、薬物療法に加えて放射線治療やカテーテル治療などを検討することがあります。

薬物療法によって肝臓内の腫瘍とリンパ節転移が大きく縮小し、一定期間進行しない状態を保てた場合には、手術や放射線治療などの局所治療を追加できるか再検討することもあります。ただし、このような治療が長期生存や根治につながる患者さんの条件は、まだ十分に統一されていません。

ステージ4Bでは全身薬物療法が治療の中心

肺や骨などへの遠隔転移があるステージ4Bでは、血液を通じて全身に作用する薬物療法が治療の中心です。画像で確認できる転移が一つだけでも、ほかの場所に小さながん細胞が存在する可能性があるため、特定の病変だけを局所的に治療して、病気全体を制御することは難しくなります。

現在の肝細胞がんでは、免疫チェックポイント阻害薬を含む治療や分子標的薬が、切除不能な進行肝細胞がんに対する全身薬物療法として使用されています。主に肝機能と全身状態が保たれている患者さんが対象となります。

遠隔転移があっても、局所治療を行わないとは限りません。骨転移による痛みや骨折の危険、脳転移による神経症状などがある場合には、症状を和らげて生活を守るために放射線治療や手術を加えることがあります。

薬物療法によって全身の病変が安定している一方、一つの転移や肝臓内の一部の腫瘍だけが増大している場合には、その病変へ局所治療を追加できるか検討することがあります。ただし、局所治療を加える目的が、根治を目指すものなのか、症状や臓器障害を防ぐものなのかを分けて考える必要があります。

参考:肝細胞がんの全身薬物療法|国立がん研究センター がん情報サービス

Child-Pugh Aでは標準的な薬物療法を検討しやすい

Child-Pugh Aは、肝機能が比較的保たれている状態です。日常生活を送れる全身状態も保たれていれば、ステージ4でも標準的な全身薬物療法を検討しやすくなります。

ただし、Child-Pugh Aであれば、すべての薬を同じように使用できるわけではありません。食道・胃静脈瘤からの出血リスク、高血圧、腎機能や心機能、自己免疫疾患、臓器移植歴などによって、選びにくい治療があります。

同じChild-Pugh Aでも、合計点が5点のA5と6点のA6では肝予備能に差があります。アルブミン値、血小板数、腹水の既往なども確認し、治療を続けられる肝機能がどの程度残っているかを判断します。

Child-Pugh Bでは利益と肝機能悪化の危険を慎重に比べる

Child-Pugh Bは、肝機能が中等度に低下している状態です。患者さんの状態によっては薬物療法や局所治療を検討できる場合がありますが、主要な薬物療法の臨床試験は、主にChild-Pugh Aの患者さんを対象に行われています。そのためChild-Pugh Bでは、臨床試験と同じ効果や安全性を期待できるとは限りません。治療によって腫瘍を抑えられても、肝機能の悪化によって治療を続けられなくなる可能性があります。

Child-Pugh Bの中でも、7点に近い患者さんと9点に近い患者さんでは状態が異なります。腹水を薬で調整できているか、黄疸や肝性脳症がないか、食事を取れているか、日常生活をどの程度送れているかを確認します。治療を行う場合には、薬剤や投与量、投与間隔、休薬基準を個別に決め、血液検査や症状を通常より短い間隔で確認することがあります。

Child-Pugh Cでは積極的な抗がん治療が難しくなる

Child-Pugh Cは、肝機能が高度に低下している状態です。腹水、黄疸、肝性脳症などを伴っていることもあり、薬物療法やカテーテル治療の負担によって肝不全が進む危険が高くなります。

ステージ4では領域リンパ節転移または遠隔転移があるため、通常は肝移植の適応にはなりません。Child-Pugh Cでは、がんを積極的に攻撃する治療よりも、腹水、黄疸、肝性脳症、痛み、食欲低下などへの対応を優先する場合があります。

これは治療を何も行わないという意味ではありません。腹水を減らす治療、肝性脳症や感染症への対応、痛みや息苦しさを和らげる薬、栄養管理、リハビリテーション、在宅医療など、症状と生活を支える医療は続けられます。

参考:肝臓がん(肝細胞がん)治療|国立がん研究センター がん情報サービス

合併症を整えてから抗がん治療を始める場合がある

診断時に腹水、感染症、消化管出血、脱水、肝性脳症などがある場合には、すぐに薬物療法を始めるよりも、まず体の状態を整えることがあります。

たとえば、食道・胃静脈瘤から出血する危険が高ければ、内視鏡治療などを先に行う場合があります。感染症や脱水を治療し、腹水を調整して食事を取れる状態まで回復させることで、薬物療法を安全に受けられる可能性が高まることもあります。

抗がん治療の開始が数日から数週間遅れると、不安を感じるかもしれません。しかし、重い合併症を抱えたまま治療を始めると、治療を早期に中止しなければならなくなる可能性があります。先に体調を整えることが、その後の治療機会を守ることにつながる場合があります。

抗がん治療が難しくても受けられる医療はある

肝機能や全身状態によって積極的な抗がん治療を行いにくい場合でも、受けられる医療がなくなるわけではありません。

痛み、腹水、むくみ、黄疸、かゆみ、息苦しさ、食欲低下、不眠、不安などを和らげる緩和ケアや支持療法は、病期や抗がん治療の有無にかかわらず受けられます。緩和ケアは終末期だけに行うものではなく、診断時から薬物療法などと並行して利用できます。

治療を検討するときには、「使用できる薬があるか」だけでなく、その治療で病気をどの程度抑えられる可能性があるか、肝機能や日常生活を保てるか、治療による負担が利益を上回らないかを確認します。

参考:緩和ケア|国立がん研究センター がん情報サービス

肝臓がんステージ4は完治できる?

肝臓がんがステージ4まで進行すると、一般に、手術や局所治療だけで体内にあるすべてのがんを取り除くことは難しくなります。多くの場合は、がんの進行を抑えながら肝機能と日常生活をできるだけ長く保つことが治療の主な目標になります。局所にとどまる肝細胞がんでは手術や焼灼療法などによる根治を目指せますが、リンパ節転移や遠隔転移を伴う場合は、全身の病変を考慮した治療が必要です。

ただし「ステージ4では完治する可能性がまったくない」と一律に断定することもできません。薬物療法によって病変が大きく縮小し、限られた病変を手術や放射線治療などで治療できる状態へ変化する場合があります。しかし、このような経過はすべての患者さんに期待できるものではなく、ステージ4の標準的な治療結果として保証されるものでもありません。

ステージ4Aではすべての病変を治療できるかを検討

UICCステージ4Aでは領域リンパ節転移があるため、肝臓内の腫瘍だけを切除しても、リンパ節に病変が残れば根治にはつながりません。根治を目指す可能性を検討するには、肝臓内の病変とリンパ節転移の両方を治療できるかを考える必要があります。

薬物療法によって肝臓内の腫瘍とリンパ節転移が十分に縮小し、新しい病変が現れず、すべての活動性病変を局所的に治療できると判断された場合には、手術や放射線治療などを追加できるか再検討することがあります。

一方、リンパ節転移が限られていても、肝臓内に多数の腫瘍がある、主要な門脈や肝静脈へがんが進展している、切除後に十分な肝臓を残せないといった場合には、根治を目指す治療は難しくなります。ステージ4Aという病期名だけではなく、肝臓内とリンパ節にある病変をすべて治療できるか、治療後も肝機能を保てるかが判断の分かれ目になります。

ステージ4Bでは局所治療だけによる根治は難しい

ステージ4Bでは、肺や骨など肝臓から離れた部位へがんが広がっています。画像で確認できる転移が一つだけでも、画像には映らない小さながん細胞がほかの場所に存在する可能性があるため、転移した病変だけを切除すれば完治できるとは限りません。転移性肝細胞がんは、一般に手術だけですべて取り除くことが難しく、全身薬物療法を含む治療が必要になります。

薬物療法によって肝臓内と肝臓外の病変を長期間抑えられる患者さんもいます。遠隔転移が限られ、薬物療法によって病変が消失または十分に制御され、残った病変をすべて局所治療できると判断された場合には、手術や放射線治療などを追加できるか検討することがあります。

ただし、遠隔転移が縮小したことだけで根治を期待できるわけではありません。治療後に再び病変が現れる可能性もあるため、局所治療を加える目的が、根治を目指すものなのか、病気をより長く抑えるものなのか、症状を和らげるものなのかを確認する必要があります。

薬物療法後に根治を目指すコンバージョン治療

最初は切除できないと判断されたがんが、薬物療法などによって縮小し、手術や焼灼療法などによる根治を目指せる状態へ変化することを、一般にコンバージョン治療と呼びます。

肝細胞がんでも、免疫チェックポイント阻害薬を含む薬物療法がよく効き、局所治療を再検討できる状態になる患者さんがいます。しかし、画像上で腫瘍が小さくなったという理由だけで、コンバージョン治療を行えるわけではありません。

肝臓内と肝臓外にあるすべての活動性病変を治療できること、治療していない場所に新しい病変が現れていないこと、切除後に十分な肝臓を残せること、肝機能と全身状態が手術などに耐えられることが必要です。一定期間にわたって病気が制御されているかも判断材料になります。

コンバージョン治療を行う患者さんの選び方や、薬物療法から局所治療へ切り替える時期については、すべての医療機関に共通する基準が確立しているわけではありません。肝臓内科、肝胆膵外科、放射線科などが画像と肝機能を確認し、治療によって得られる利益と負担を検討します。

完全奏効と完治は同じ意味ではない

治療後の画像検査で、確認できる腫瘍がすべて消えた状態を「完全奏効」と呼びます。

完全奏効は治療がよく効いたことを示す結果ですが、体内にがん細胞が一つも残っていないことを証明するものではありません。CTやMRIでは確認できない小さな病変が残り、時間がたってから再び大きくなる可能性があるためです。

画像上で病変が消失した後も、薬物療法を継続したり、定期的にCTやMRI、腫瘍マーカーを確認したりする場合があります。「画像から消えた」「完全奏効になった」「治療を終了できる」「完治した」は、それぞれ同じ意味ではありません。

治療効果の説明を受けた際には、現在は画像で病変が確認できない状態なのか、薬物療法を続ける必要があるのか、治療終了を検討できるのか、どのような方法で再発を確認するのかを尋ねると、現在の状態を理解しやすくなります。

長期間病気を抑えることも治療の成果になる

ステージ4では、病変を完全に消すことだけが治療の成果ではありません。画像上でがんが残っていても、大きくならない状態が続き、肝機能、食事、歩行、仕事や家事などの日常生活を保てていれば、治療によって病気を制御できていると考えられます。

腫瘍をさらに小さくするために強い治療を続けても、副作用や肝機能低下によって生活が損なわれたり、次の治療を受けられなくなったりする場合があります。一方、腫瘍が残っていても、現在の治療で進行を抑えられ、負担を調整できていれば、同じ治療を続ける意味があります。

根治を目指せる可能性があるのか、長期的な病勢の安定を目指すのか、症状を和らげることを優先するのかは、病変の広がり、治療への反応、肝予備能、全身状態によって変わります。治療の目的を主治医と共有し、効果だけでなく肝機能と生活への影響も含めて判断することが大切です。

肝臓がんステージ4の治療方針

肝臓がんステージ4の治療方針は、4A・4Bという病期名だけでは決まりません。肝臓内の腫瘍、リンパ節転移、遠隔転移のうち、どの病変が病気の進行や症状に強く影響しているかを確認し、肝予備能と全身状態を踏まえて治療を組み立てます。

肝細胞がんでは、腫瘍を小さくすることだけを優先すると、治療によって肝機能が低下し、その後の薬物療法を受けられなくなることがあります。そのため、現在の病変を抑える効果だけでなく、治療後に肝機能を保てるか、効果が不十分だった場合に次の治療へ進めるかまで考えて方針を決めます。

参考:肝臓がん(肝細胞がん) 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

ステージ4Aでは肝臓内とリンパ節の病変をまとめて考える

ステージ4Aでも肝臓内の状態は患者さんごとに異なります。肝臓内の腫瘍が限られている場合もあれば、多数の腫瘍や脈管侵襲を伴い、肝機能へ強く影響している場合もあります。

肝臓内の一部の病変が大きくなり、血管や胆管を圧迫している場合には、薬物療法に加えて放射線治療やカテーテル治療を検討することがあります。リンパ節転移が限られ、薬物療法によって病変が十分に縮小した場合には、局所治療を追加できるか再評価することもあります。

一方、肝臓全体に腫瘍が広がっている状態で広範囲のカテーテル治療を行うと、正常な肝組織にも負担がかかります。局所治療を行えるかだけではなく、その治療によって薬物療法を続けるための肝機能を失わないかを確認する必要があります。

ステージ4Bでは全身薬物療法を中心に病気全体を抑える

ステージ4Bでは肝臓以外にも病変があるため、原則として全身薬物療法が治療の中心です。肝臓内の腫瘍だけをTACEや放射線治療で小さくしても、肺や骨などにある病変には十分な効果を期待できないためです。

ただし、全身薬物療法だけですべての問題に対応できるわけではありません。骨転移による強い痛みや骨折の危険、背骨の転移による脊髄圧迫、脳転移による神経症状などがある場合には、放射線治療や手術を加えることがあります。

この場合の局所治療は、必ずしも体内のがんをすべてなくすことを目的とするものではありません。痛みや麻痺を防ぐ、歩行を保つ、出血や臓器障害を避けるなど、生活への影響を抑える目的でも行われます。

薬物療法によって大部分の病変を抑えられているものの、一部の転移や肝臓内の病変だけが増大している場合には、その部位へ局所治療を追加することがあります。局所治療を加えることで現在の薬物療法を継続できる可能性があるか、別の薬物療法へ変更した方がよいかを比較して判断します。

脈管侵襲がある場合は部位と広がりを確認

門脈や肝静脈などの血管内へがんが入り込んでいる状態を「脈管侵襲」と呼びます。脈管侵襲があると、肝臓内でがんが広がりやすくなるだけでなく、正常な肝臓へ流れる血液が減り、肝機能が低下する可能性があります。

治療への影響は、脈管侵襲があるかどうかだけでは判断できません。肝臓の末梢にある細い血管へ限られているのか、門脈本幹や主要な枝まで及んでいるのかによって、病状の緊急性や選べる治療が異なります。

門脈本幹などが腫瘍によって狭くなると、腹水や食道・胃静脈瘤が悪化し、肝機能低下が進む場合があります。このような状態では、全身薬物療法を基本としながら、病変の位置や肝予備能に応じて放射線治療や肝動注化学療法などを検討することがあります。

局所治療によって血流を保てる可能性がある一方、治療する肝臓の範囲が広いと、正常な肝組織を傷つける危険もあります。脈管侵襲を治療できるかだけではなく、治療後も肝臓が機能を保てるかを確認します。

肝予備能によって治療の内容と強さが変わる

肝臓がんでは、画像上の病変が同じでも、肝予備能によって受けられる治療が異なります。

肝機能が比較的保たれたChild-Pugh Aでは、標準的な全身薬物療法を検討しやすくなります。必要に応じて局所治療を組み合わせる場合もありますが、治療後の肝機能低下を見越して治療範囲や順番を決めます。

Child-Pugh Bでは、がんを抑える利益と、治療によって肝機能が悪化する危険を慎重に比較します。同じBでも状態には幅があるため、腹水や黄疸、肝性脳症、食事量、日常生活の状態などを確認し、薬の選択や投与量を個別に調整します。

Child-Pugh Cでは、積極的な抗がん治療の負担が利益を上回ることが多くなります。腹水、黄疸、肝性脳症、痛みなどを和らげ、食事や睡眠、在宅生活を支える治療を優先する場合があります。

治療の順番は肝機能と次の選択肢を考えて決める

ステージ4の治療では、一つの治療を限界まで続けてから、次の治療を考えるとは限りません。治療を始める段階から、現在の治療が効かなかった場合や、副作用で続けられなかった場合に、どの治療へ移れるかを考えておきます。

たとえば、TACEによって肝臓内の腫瘍を一時的に小さくできても、肝機能が大きく低下すれば、その後の全身薬物療法を受けられなくなる可能性があります。反対に、肝予備能が保たれている段階で薬物療法へ移ることで、より長く病気を抑えられる場合があります。

薬物療法を先に行い、肝臓内と肝臓外の病変が縮小した後に、残った病変へ放射線治療やカテーテル治療、手術などを追加することもあります。最初に選んだ治療方針を固定するのではなく、画像検査、腫瘍マーカー、肝機能、症状を確認しながら組み替えていきます。

治療を提案された際には「なぜこの治療を最初に行うのか」「この治療でどの病変を抑えようとしているのか」「効果が不十分な場合には何を選べるのか」「治療によって肝機能が低下する危険はどの程度か」を確認すると、治療全体の見通しを理解しやすくなります。

全身薬物療法

全身薬物療法は、血液を通じて肝臓内の腫瘍、リンパ節転移、遠隔転移へ薬を届ける治療です。ステージ4A・4Bでは、手術やカテーテル治療などの局所治療だけで病気全体を制御することが難しいため、肝機能と全身状態が保たれていれば全身薬物療法を治療の軸として検討します。

現在の肝細胞がんでは、免疫の働きを利用する免疫チェックポイント阻害薬、その作用を組み合わせた併用療法、がんの増殖や血管新生に関わる分子を抑える分子標的薬などが使われています。

ただし、どの治療が適しているかは、ステージ4Aか4Bかだけでは決まりません。静脈瘤や出血の危険、自己免疫疾患、心臓・腎臓の状態、脈管侵襲、腫瘍を早く縮小させる必要性、通院方法などを踏まえて選びます。

参考:肝細胞癌診療ガイドライン2025年版|日本肝臓学会

初回の薬物療法は効果だけでなく安全に続けられるかで選ぶ

これまで全身薬物療法を受けていない切除不能肝細胞がんでは、免疫チェックポイント阻害薬を含む併用療法が主要な候補になります。一方、免疫療法を使用しにくい患者さんでは、分子標的薬などを検討します。

主な治療には、次のようなものがあります。

主な治療 治療選択で特に確認すること
アテゾリズマブ+ベバシズマブ 食道・胃静脈瘤、出血、高血圧、蛋白尿
デュルバルマブ+トレメリムマブ 自己免疫疾患、免疫関連副作用へ対応できるか
ニボルマブ+イピリムマブ 免疫関連副作用のリスク、肝機能・全身状態
デュルバルマブ単独 併用療法の負担を避けたい事情があるか
レンバチニブ・ソラフェニブなど 免疫療法を選びにくい理由、高血圧や手足症候群など

これらの治療に単純な優劣があるわけではありません。治療効果だけでなく、出血リスク、自己免疫疾患、心臓や腎臓の状態、通院間隔、予想される副作用を基に選びます。

治療を選ぶ際には、臨床試験で報告された腫瘍縮小率や生存期間だけを単純に比較することはできません。試験ごとに対象患者の肝機能、全身状態、脈管侵襲や肝外転移の割合、比較した治療が異なるためです。

腫瘍によって血管や胆管が圧迫され、短期間で肝機能が悪化する危険がある場合には、腫瘍を縮小させる可能性を重視することがあります。病状が比較的安定している場合には、重い副作用の危険、通院間隔、仕事や家庭生活への影響も含め、長く続けやすい治療かを考えます。

アテゾリズマブとベバシズマブの併用

アテゾリズマブは免疫チェックポイント阻害薬で、免疫細胞ががんを攻撃する働きを促します。ベバシズマブは、腫瘍が新しい血管を作る働きを抑える薬です。異なる作用を組み合わせ、肝臓内と肝臓外の病変を全身的に治療します。

治療選択で特に問題になるのが出血の危険です。肝硬変によって食道や胃に静脈瘤がある患者さんでは、ベバシズマブの作用によって出血の危険が高まる可能性があります。そのため、治療前に上部消化管内視鏡検査を行い、出血しやすい静脈瘤があれば先に治療することがあります。

治療中は、高血圧、蛋白尿、出血、血栓症、傷の治りにくさなどにも注意します。血圧が十分に管理されていない場合、最近大きな手術を受けた場合、現在も出血が続いている場合には、別の治療を選ぶことがあります。

アテゾリズマブによる免疫関連副作用も起こり得るため、肝機能の悪化、息苦しさ、下痢、強い倦怠感などが現れたときには、肝細胞がんの進行や肝硬変だけでなく、薬による臓器障害も含めて評価します。

参考:テセントリク(一般名:アテゾリズマブ)適正使用ガイド|PMDA
参考:アバスチン(一般名:ベバシズマブ)適正使用ガイド|PMDA

デュルバルマブとトレメリムマブの併用

デュルバルマブとトレメリムマブは、異なる免疫チェックポイントを標的とし、免疫によるがんへの攻撃を促す治療です。ベバシズマブを含まないため、出血の危険などから抗VEGF薬を使用しにくい患者さんで候補になることがあります。

一方、免疫の働きが強くなることで、正常な臓器に炎症が起こる免疫関連副作用に注意が必要です。肝炎、間質性肺疾患、腸炎、皮膚障害のほか、甲状腺、下垂体、副腎などの内分泌器官に障害が起こることがあります。

肝細胞がんの患者さんでは、治療前から肝機能の数値が高いこともあるため、治療中に数値が悪化した際には原因を分けて考える必要があります。腫瘍の進行、肝硬変の悪化、感染症、薬による免疫関連肝障害のどれが影響しているかを調べ、休薬や治療を判断します。

参考:イミフィンジ(一般名:デュルバルマブ)医薬品情報|PMDA

ニボルマブとイピリムマブの併用

ニボルマブとイピリムマブも、異なる免疫チェックポイントを標的とする治療です。国内の切除不能肝細胞がんに対する用法では、最初の一定期間は二つの薬を併用し、その後はニボルマブを継続します。

二剤で免疫を活性化するため、肝炎、間質性肺疾患、腸炎、内分泌障害、皮膚障害など、複数の臓器に免疫関連副作用が現れる可能性があります。重い副作用は、投与直後だけでなく、治療を開始してからしばらく経過した後や、投与を終了した後に起こることもあります。

自己免疫疾患がある患者さんや、過去に重い免疫関連副作用を経験した患者さんでは、治療による利益と悪化の危険を慎重に比較します。咳、息苦しさ、下痢、発熱、強いだるさ、意識の変化などがあれば、次の受診日を待たずに治療施設へ連絡します。

参考:オプジーボ(一般名:ニボルマブ)医薬品情報|PMDA
参考:ヤーボイ(一般名:イピリムマブ)医薬品情報|PMDA

デュルバルマブ単独が候補になる場合

患者さんの年齢、合併症、全身状態、副作用リスクなどから併用療法を選びにくい場合には、デュルバルマブ単独療法が候補になることがあります。単剤であっても免疫関連副作用は起こり得るため、単純に「負担の軽い治療」と考えることはできません。

また、併用療法と同じ効果を期待できるとは限りません。治療によって期待できる利益と、副作用によって肝機能や生活が損なわれる危険を比べて選びます。

「年齢が高いから単剤にする」と単純に決めるのではなく、自分で歩けるか、食事を取れているか、持病が安定しているか、異変が起きた際に早く受診できるかなども判断材料になります。

免疫療法を使用しにくい場合には分子標的薬を検討

活動性の自己免疫疾患がある場合や、臓器移植後で拒絶反応が懸念される場合などには、免疫チェックポイント阻害薬を使用しにくいことがあります。その際には、レンバチニブやソラフェニブなどの分子標的薬を検討します。

分子標的薬は、がん細胞の増殖や腫瘍へ血液を送る血管の形成に関係する複数の酵素を抑える内服薬です。点滴治療ではないため自宅で服用できますが、治療の負担が小さいとは限りません。

高血圧、手足の皮膚症状、下痢、食欲低下、倦怠感、蛋白尿などによって、仕事、歩行、食事、睡眠に影響が出ることがあります。副作用が強くなってから中止するのではなく、早い段階で休薬や減量を行い、治療を続けられる状態へ調整することが大切です。

自宅では血圧、体重、食事量、排便回数、手足の痛みなどを記録すると、診察時に薬の量を調整しやすくなります。

最初の治療後は中止した理由と肝機能を基に次の薬を選ぶ

最初の薬物療法でがんが進行した場合や、副作用によって治療を継続できなくなった場合には、別の全身薬物療法を検討します。

次の治療の候補には、ソラフェニブ、レンバチニブ、レゴラフェニブ、カボザンチニブ、ラムシルマブなどがあります。ラムシルマブは、血清AFP値などの条件を満たす患者さんが対象となります。

薬が承認されていることと、現在の患者さんが安全に使用できることは同じではありません。前の治療でがんが進行したのか、治療は効いていたものの副作用で中止したのかによって、次の選択は異なります。

免疫療法による副作用が続いている状態で、別の免疫療法を始めることは難しい場合があります。高血圧、下痢、食欲低下などが回復していなければ、分子標的薬をすぐに開始できないこともあります。

画像上では次の治療が必要でも、肝機能が大きく低下していれば、その治療による利益を得にくくなります。次の薬を選べるかどうかを左右するのは、薬の種類だけでなく、前の治療後も肝予備能と全身状態を保てているかです。

画像上の変化だけで治療を変更しない場合がある

薬物療法の効果は、CTやMRIによる画像検査、腫瘍マーカー、肝機能、症状などを組み合わせて判断します。

画像上で一部の病変がわずかに大きくなっても、ほかの病変が縮小し、肝機能や全身状態が保たれている場合には、すぐに治療を変更しないことがあります。反対に、腫瘍の大きさがほとんど変わっていなくても、黄疸や腹水が悪化し、安全に治療を続けられない場合には中止や変更が必要です。

一つの病変だけが増大している場合には、その部位への放射線治療などを加え、現在の薬物療法を続けられるか検討することもあります。病変全体が薬に反応しなくなっている場合には、別の薬物療法へ切り替える方が適切なことがあります。

治療を変更する際には、がんが進行したためなのか、副作用や肝機能低下によって継続できないためなのかを確認します。この違いによって、その後に選べる薬や治療の目的が変わります。

薬物療法を提案されたときに確認したいこと

薬物療法には複数の選択肢がありますが、すべての患者さんに共通する一つの最良の治療があるわけではありません。

診察では、なぜその治療が第一候補なのか、自分の場合にはどの病変への効果を期待しているのかを確認します。候補にならなかった治療についても、出血リスク、自己免疫疾患、肝機能など、選ばなかった理由を聞いておくと判断しやすくなります。

さらに、どの副作用が起きたら連絡するのか、どの程度の肝機能低下で休薬や中止を考えるのか、効果が得られなかった場合に次の治療が残っているのかも確認します。

薬の名前だけでなく、治療によって何を目指すのか、どのような状態まで続けるのか、生活への負担をどう調整するのかまで共有することが、納得できる治療選択につながります。

TACE・肝動注化学療法などのカテーテル治療

カテーテル治療は、足の付け根や手首などの動脈から細い管を入れ、肝細胞がんへ血液を送る肝動脈まで進めて行う治療です。代表的な方法として、肝動脈化学塞栓療法(TACE)や肝動注化学療法があります。

どちらも肝臓内の病変へ集中的に作用させる治療ですが、ステージ4A・4Bの病気全体を、カテーテル治療だけで制御できるわけではありません。UICC分類の4Aでは領域リンパ節転移、4Bでは遠隔転移があるため、肝機能と全身状態が保たれていれば全身薬物療法が治療の軸になります。

そのうえで、肝臓内の病変が肝機能や症状へ強く影響している場合や、全身薬物療法でほかの病変を抑えられている一方、肝臓内の一部だけが増大している場合に、カテーテル治療を追加できるか検討します。

TACEは腫瘍への血流を減らして治療する

肝細胞がんの多くは、正常な肝組織よりも肝動脈から多くの血液を受け取っています。TACEでは、カテーテルを腫瘍の近くまで進め、細胞障害性抗がん薬と造影剤を注入した後、血管を塞ぐ物質を投与します。

腫瘍へ抗がん薬を集中的に届けるとともに、栄養や酸素を運ぶ血流を減らして、がん細胞を傷害する治療です。抗がん薬を使用せず、塞栓物質によって血流を減らす方法は肝動脈塞栓療法(TAE)と呼ばれます。

TACEは一般に、肝機能がある程度保たれ、手術やラジオ波焼灼療法の対象にならない複数の肝細胞がんに用いられます。国立がん研究センターでは、Child-Pugh分類AまたはBで、3cmを超える1~3個の腫瘍、または大きさにかかわらず4個以上の腫瘍があり、手術や穿刺局所療法が難しい場合などを主な対象として説明しています。

ただし、これは主に、がんが肝臓内にとどまっている患者さんに対する治療選択の考え方です。腫瘍が多いという理由だけでUICCステージ4になるわけではなく、このTACEの適応基準を、そのままステージ4Aの定義として扱うことはできません。

参考:肝臓がん(肝細胞がん) 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

ステージ4AでTACEを行う目的

UICC分類のステージ4Aでは領域リンパ節転移があるため、肝臓内の腫瘍だけをTACEで治療しても、リンパ節にある病変には十分な効果を期待できません。そのため、全身薬物療法を軸に病気全体を治療することが基本になります。

一方、肝臓内の一部の腫瘍が急速に増大し、正常な肝組織や血管、胆管を圧迫している場合には、肝臓内の腫瘍量を減らす目的でTACEを追加することがあります。薬物療法によってリンパ節転移を含む病変全体が安定しているものの、肝臓内の一部だけが増大している場合も検討の対象になり得ます。

この場合、TACEの目的は、必ずしも体内のがんをすべてなくすことではありません。肝機能の悪化を防ぐ、症状の原因となる病変を小さくする、現在の薬物療法をより長く続けられる状態をつくるなど、どの利益を目指すのかを明確にします。

肝臓内の病変が広範囲に及んでいる場合には、すべてを塞栓しようとすると正常な肝組織への負担も大きくなります。治療できる病変があるかだけではなく、TACE後も肝予備能を保ち、全身薬物療法を継続できるかを考える必要があります。

ステージ4Bでは肝外転移の状態も踏まえて判断

ステージ4Bでは肺や骨などへの遠隔転移があるため、全身薬物療法が治療の中心です。肝臓内の病変だけをTACEで小さくしても、肝臓外の病変へは直接作用しません。

それでも、遠隔転移が薬物療法によって安定している一方、肝臓内の一部の腫瘍だけが増大している場合には、TACEを追加できるか検討することがあります。肝臓内の病変が痛み、胆管閉塞、肝機能低下などの原因となっている場合も、局所的な制御に意味がある可能性があります。

ただし、肝外転移のある患者さんへTACEを追加することは、すべての患者さんに共通する一律の標準治療ではありません。TACEを行うことで全身薬物療法を続けやすくなるのか、それとも薬物療法そのものを変更した方が病気全体を抑えられるのかを比較して判断します。

肝機能低下や広範囲の病変がある場合は慎重に判断

TACEでは腫瘍へ向かう動脈を塞ぐため、治療した範囲にある正常な肝組織にも一定の負担がかかります。治療範囲が広いほど、肝機能が悪化する危険も高くなります。

肝臓の両側に細かな腫瘍が多数広がっている場合や、正常に働く肝組織が少なくなっている場合には、広範囲の塞栓によって肝不全が進む可能性があります。黄疸や治療で調整しにくい腹水がある場合、肝予備能が大きく低下している場合にも、TACEの負担が利益を上回ることがあります。

門脈の主要な部分へがんが進展している場合には、正常な肝臓へ流れる血液がすでに減っていることがあります。その状態で肝動脈も広く塞ぐと、肝組織への血流がさらに低下する可能性があるため、脈管侵襲の位置と範囲を確認し、放射線治療、肝動注化学療法、全身薬物療法などと比較します。

「カテーテルを入れられるか」だけで適応を判断するのではなく、どの範囲を塞栓するのか、治療後に肝機能がどこまで低下する可能性があるのか、次の治療へ進める状態を保てるのかを確認します。

効果が不十分なTACEを繰り返さないことも大切

TACEは、一度の治療で肝臓内のすべての病変を制御できるとは限らず、複数回行われることがあります。しかし、回数を重ねるたびに正常な肝組織にも負担がかかります。

国立がん研究センターは、TACEを2回行っても効果が不十分である、または肝臓内に新しいがんが現れた場合、脈管侵襲や遠隔転移が生じた場合、腫瘍マーカーが持続的に上昇する場合などには、治療法の変更を勧められることがあると説明しています。これは機械的な回数制限ではありませんが、同じ治療を続ける利益があるかを見直す目安になります。

TACE後の画像検査では、腫瘍の大きさだけでなく、造影剤によって濃く映る活動性のある部分が残っているかを確認します。治療した病変が十分に壊死しているか、新しい病変が増えているか、治療前の肝機能まで回復しているかを踏まえ、再びTACEを行うか、薬物療法を開始・変更するかを判断します。

腫瘍を一時的に小さくできても、その代わりに肝機能を大きく損なえば、その後に受けられる治療が限られます。TACEを繰り返すこと自体を目標にせず、病気全体を長く抑えるうえでどの時点で治療を切り替えるべきかを考えます。

参考:肝臓がん(肝細胞がん) 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

肝動注化学療法が検討される場合

肝動注化学療法は、肝動脈へカテーテルを留置するなどして、肝臓内のがんへ細胞障害性抗がん薬を集中的に投与する治療です。TACEとは異なり、腫瘍へ向かう血管を塞がずに薬を注入する方法があります。

肝臓内の病変が病状を強く左右している進行肝細胞がんや、門脈への高度な脈管侵襲を伴う場合などに、国内の一部の医療機関で行われています。ただし、使用する薬剤、投与方法、カテーテルやリザーバーの管理方法には複数の方式があり、全身薬物療法との優先順位や併用方法が、すべての施設で統一されているわけではありません。

UICC分類のステージ4Aでは領域リンパ節転移、4Bでは遠隔転移があるため、肝動注化学療法だけでは肝臓外の病変を十分に治療できない可能性があります。肝動注を提案された場合には、全身薬物療法ではなく肝動注を選ぶ理由、肝外病変をどの治療で管理するのか、期待している効果が腫瘍縮小・肝機能維持・症状改善のどれなのかを確認します。

治療のために入院が必要か、通院の頻度はどの程度か、留置したカテーテルやリザーバーをどのように管理するかも、生活への負担を判断する材料になります。

TACE・肝動注化学療法の副作用と生活への影響

TACE後には、塞栓した腫瘍や周囲の組織で炎症が起こり、発熱、右上腹部痛、吐き気、食欲低下、倦怠感などが現れることがあります。これらは塞栓後症候群と呼ばれることがあります。国立がん研究センターも、TACE後の副作用として、発熱、吐き気、腹痛、食欲不振、肝機能障害などを挙げています。

治療範囲が広いほど症状が強くなりやすく、肝機能の数値が一時的に悪化することもあります。治療後の数日間は食事量が減ったり、仕事や家事を続けにくくなったりするため、退院後の生活や復職時期を事前に確認しておきます。

肝動注化学療法では、使用する薬剤によって、吐き気、食欲低下、倦怠感、血球減少、肝機能障害などが起こることがあります。カテーテルの詰まりや位置のずれ、感染など、投与経路に関係する問題にも注意が必要です。

多くの症状は鎮痛薬、吐き気止め、解熱薬、点滴などで対応しますが、高熱が続く、腹痛が急に強くなる、黄疸や腹水が増える、尿量が減る、意識がぼんやりするといった場合には、感染症や肝不全などを除外する必要があります。

退院後にどの程度の発熱まで自宅で様子を見られるのか、食事・入浴・運動・仕事をいつから再開できるのか、どの症状があれば夜間や休日でも連絡するのかを、治療前に確認しておくことが大切です。

手術・局所療法・放射線治療が検討される場合

ステージ4の肝細胞がんでは、肝臓内の腫瘍だけでなく、領域リンパ節転移または遠隔転移も含めて治療する必要があります。そのため、手術、ラジオ波焼灼療法、放射線治療など、一つの場所を対象とする局所治療だけで病気全体を制御することは一般に困難です。

しかし、局所治療がまったく行われないわけではありません。薬物療法によって病変が大きく縮小し、残ったすべての病変を治療できる可能性が生じた場合には、根治を目指して手術などを検討することがあります。痛み、出血、骨折、神経障害、血管や胆管の閉塞を防ぐために、症状の原因となる病変へ放射線治療などを行う場合もあります。

同じ局所治療でも、根治を目指すのか、病気を長く抑えるのか、症状や臓器障害を防ぐのかによって位置付けが異なります。治療を受ける際には、どの病変を対象にし、何を目的としているのかを確認する必要があります。

ステージ4では最初から手術を行うことは難しい場合が多い

肝切除は、肝臓内の腫瘍とその周囲の肝組織を取り除く治療です。一般には、がんが肝臓内にとどまり、切除後も十分な量と機能を持つ肝臓を残せる場合に検討されます。

国立がん研究センターは、肝切除は多くの場合、肝臓内の腫瘍が3個以下で、肝機能が保たれている患者さんに行われると説明しています。腫瘍が大きい場合や脈管侵襲がある場合でも切除できることはありますが、腹水がある場合には術後肝不全の危険が高く、通常は別の治療が検討されます。

ただし、これらは主に肝臓内に病変がとどまっている場合の考え方です。UICC分類のステージ4Aでは領域リンパ節転移、4Bでは遠隔転移があるため、肝臓内の腫瘍だけを切除しても、体内にほかの病変が残る可能性があります。

技術的に肝切除が可能であっても、それだけで手術が適切とは限りません。肝臓内と肝臓外にある活動性病変をすべて治療できるか、手術後に新しい病変が短期間で現れる可能性が高くないか、薬物療法を続ける方が病気全体を制御しやすくないかを比較します。

薬物療法後に手術を再検討する場合

最初は切除不能と判断された肝細胞がんでも、薬物療法によって肝臓内の腫瘍、リンパ節転移、遠隔転移が大きく縮小し、手術を含む局所治療を検討できる状態へ変化することがあります。

ただし、画像上で腫瘍が小さくなったことだけでは、手術の適応にはなりません。肝臓内と肝臓外にあるすべての活動性病変を切除または別の局所治療で制御できること、新しい病変が現れていないこと、切除後に十分な肝臓を残せること、肝予備能と全身状態が手術に耐えられることが必要です。

薬物療法を始めてすぐに腫瘍が縮小した場合でも、一定期間にわたって病気を制御できるかを確認してから手術を判断することがあります。短期間で新しい転移が現れる場合には、目に見える病変だけを切除しても再び進行する可能性が高いためです。

薬物療法後に局所治療を加えることは、肝細胞癌診療ガイドライン2025年版でも検討課題として扱われていますが、どの患者さんに行えば長期的な利益が得られるかは、すべての状況で確立しているわけではありません。

そのため、手術を再検討するときには、肝臓内科、肝胆膵外科、放射線科などが画像、肝機能、薬物療法への反応を確認し、手術の利益と再発・肝不全の危険を総合して判断します。

参考:肝細胞癌診療ガイドライン2025年版|日本肝臓学会

ラジオ波焼灼療法は小さく限られた病変が対象

ラジオ波焼灼療法(RFA)は、皮膚から肝臓内の腫瘍へ針を刺し、熱によってがん細胞を死滅させる治療です。

標準的には、肝機能が比較的保たれ、肝臓内にある腫瘍が3cm以下かつ3個以下の場合などが主な対象です。腫瘍の数が多い場合や、肝臓内に広く分布している場合には、すべての病変へ安全に針を刺して治療することが難しくなります。そのため、ステージ4の患者さんへ最初からRFAだけを行い、病気全体の根治を目指すことは一般的ではありません。

一方、薬物療法によって多くの病変が消失または安定し、肝臓内に小さな活動性病変だけが残った場合には、その病変へRFAを追加できるか検討することがあります。ほかの病変が薬物療法で抑えられているものの、肝臓内の一部だけが増大している場合にも、現在の薬物療法を継続するための局所治療として検討されることがあります。

腫瘍が大きな血管や胆管、腸管、横隔膜などに近い場合には、周囲の臓器を傷つける危険や、腫瘍全体へ十分な熱を加えられない可能性があります。大きさと個数だけでなく、位置や周囲の臓器との関係も適応を左右します。

肝臓内の病変や脈管侵襲へ放射線治療を行う場合

肝細胞がんに対する放射線治療は、すべての患者さんへ一律に行う標準治療ではありません。ただし、手術や穿刺局所療法が難しい病変、門脈や肝静脈などの脈管内へ進展した病変に対して、X線による放射線治療が行われることがあります。

門脈内の腫瘍が大きくなると、正常な肝臓へ流れる血液が減り、腹水や肝機能低下が進む可能性があります。放射線治療によって脈管内の腫瘍を小さくし、血流の悪化を抑えることが治療目的になる場合があります。

領域リンパ節転移が限られているステージ4Aや、全身薬物療法でほかの病変を抑えられている患者さんでは、増大しているリンパ節や肝臓内の病変へ放射線を照射できるか検討することもあります。

ただし、放射線を当てる正常な肝組織の範囲が広いと、治療後に肝機能が悪化する可能性があります。病変へ十分な線量を照射できるかだけでなく、正常な肝臓をどの程度温存できるか、もともとの肝予備能で治療に耐えられるかを確認します。

薬物療法と放射線治療を同時期に行う場合には、副作用が重なる可能性もあります。薬を継続するのか、一時的に休薬するのか、放射線治療後にいつ再開するのかについても事前に確認します。

骨転移への放射線治療は痛みや骨折を防ぐために行う

骨転移への放射線治療は、体内の肝細胞がんをすべてなくすためではなく、痛みを和らげ、骨折や神経障害を防ぐことを主な目的として行います。肝細胞がんの骨転移による痛みに対する放射線治療は、国立がん研究センターでも勧められる治療として説明されています。

骨転移による痛みは、同じ場所に持続する、夜間にも治まらない、立つ・歩くなど体重をかけたときに強くなるといった特徴を示すことがあります。鎮痛薬だけで我慢するのではなく、骨がどの程度弱くなっているかを画像検査で確認します。

背骨への転移によって脊髄が圧迫されると、足のしびれ、筋力低下、歩行困難、排尿・排便障害などが現れることがあります。神経障害が進んでからでは回復しにくい場合があるため、症状があれば緊急性を判断し、放射線治療や手術などを早く行う必要があります。

放射線治療後も、骨折の危険が高い部位では、安静の程度、装具の使用、整形外科的な固定手術などを検討することがあります。痛みが軽くなっただけで、骨の強度がすぐに元へ戻るとは限らないためです。

脳転移では神経症状を守るために局所治療を検討

脳転移では、病変の数、大きさ、位置、脳以外の病変の状態、全身状態などを踏まえて放射線治療や手術を検討します。肝細胞がんの脳転移に対する放射線治療も、一般に勧められる治療として位置付けられています。

頭痛、吐き気、けいれん、言葉の出にくさ、片側の手足の動かしにくさなどがある場合には、脳転移そのものだけでなく、病変の周囲に生じたむくみが症状へ影響していることがあります。必要に応じて脳のむくみを抑える治療を先に行い、その後に局所治療を検討します。

脳転移への治療は、神経症状を改善し、会話、歩行、食事などの日常生活をできるだけ保つことが主な目的です。神経症状が現れた場合には、予定された診察日まで待たずに治療施設へ連絡します。

陽子線・重粒子線治療は病気全体を見て適応を判断

陽子線治療や重粒子線治療は、病変の深さに合わせて放射線量を集中させやすく、正常な肝臓や周囲の臓器へ当たる線量を抑えながら治療できる可能性があります。

国立がん研究センターは、大きく手術が難しい肝細胞がんで陽子線・重粒子線治療を受けられる場合がある一方、実施できる施設は限られていると説明しています。肝細胞癌診療ガイドライン2025年版でも、体幹部定位放射線治療と粒子線治療の適応が検討項目に含まれています。

ただし、正常組織へ放射線が当たる範囲を減らせることと、ステージ4の病気全体を治療できることは別の問題です。肝臓外に制御されていない転移が複数ある場合には、肝臓内の一つの病変へ粒子線治療を行っても、病気全体の進行を抑えられない可能性があります。

粒子線治療を検討するときには、通常のX線治療ではなく粒子線を選ぶ理由、治療する病変以外をどのように管理するのか、全身薬物療法を中断する必要があるのか、治療後も肝機能を保てるかを確認します。

局所治療を提案されたときは目的を確認する

ステージ4で行う局所治療には、根治を目指す治療、病気の進行を遅らせる治療、症状や臓器障害を防ぐ治療が含まれます。同じ手術や放射線治療でも、患者さんによって目的は異なります。

治療前には、どの病変を治療するのか、その病変を治療することで何が改善すると考えられているのか、治療しない病変は薬物療法でどのように管理するのかを確認します。局所治療によって薬物療法を長く続けられる可能性があるのか、反対に治療の負担で肝機能が低下する危険があるのかも判断材料です。

「局所治療を受けられる」という説明を、そのまま「完治を目指せる」と受け取らず、治療の目的と期待できる効果、再び進行する可能性まで含めて理解することが大切です。

治療の副作用と生活への影響

肝臓がんステージ4の治療中に体調が変化した場合、その原因が薬の副作用とは限りません。がんの進行、肝硬変や肝不全の悪化、感染症、脱水などでも、倦怠感、食欲低下、下痢、むくみ、肝機能検査値の悪化といった似た変化が起こります。

症状だけから原因を決めつけると、副作用への対応が遅れたり、反対に効果のある治療を必要以上に中止したりする可能性があります。症状が現れた時期、治療との時間的な関係、血液検査や画像検査の結果を組み合わせ、治療の継続、休薬、減量、支持療法の追加などを判断します。

副作用が現れる時期は治療によって異なる

副作用は、治療を受けた直後だけに現れるものではありません。

点滴中や投与直後には、発熱、悪寒、発疹、息苦しさ、血圧の変化などが起こることがあります。点滴中に違和感があれば、終了するまで我慢せず、その場で医療者へ伝える必要があります。

分子標的薬では、治療開始後の比較的早い時期から、血圧上昇、下痢、食欲低下、倦怠感、手足の皮膚症状などが現れることがあります。軽い症状でも服用を続けるうちに悪化し、歩行や食事、仕事に影響する場合があるため、次の診察まで様子を見るのではなく、早い段階で相談します。

免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連副作用は、治療開始から数週間から数カ月後に現れることがあり、治療を終了した後に発症する場合もあります。点滴を終えて時間がたっているからといって、治療との関係を否定することはできません。別の医療機関を受診するときにも、免疫チェックポイント阻害薬を使用している、または過去に使用していたことを伝えます。

TACE後には、治療直後から数日程度に発熱、腹痛、吐き気、食欲低下、倦怠感などが現れることがあります。多くは治療した腫瘍や周囲の組織に炎症が起こることで生じますが、症状が長引く場合や一度軽くなってから悪化した場合には、感染症、胆管障害、肝膿瘍、肝不全なども考えて評価します。

参考:最適使用推進ガイドライン|PMDA
参考:肝臓がん(肝細胞がん) 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

副作用と肝機能悪化を症状だけで見分けることは難しい

強い倦怠感、食欲低下、吐き気、むくみ、腹部の張りなどは、薬の副作用でも肝機能の悪化でも起こります。肝機能検査値が悪化した場合も、薬による肝障害、がんの進行、胆管の閉塞、感染症、肝硬変の悪化など、複数の原因が考えられます。

免疫チェックポイント阻害薬の治療中にASTやALTが上昇した場合には、免疫関連肝障害の可能性があります。一方、ビリルビンの上昇、アルブミンの低下、腹水や肝性脳症の出現は、肝予備能が低下していることを示す場合があります。原因によって必要な治療が異なるため、血液検査、画像検査、症状の経過を基に判断します。

治療前にはなかった黄疸、腹水、むくみが現れた場合や、尿量が減った場合、会話の反応が遅くなった場合には、単なる薬のだるさとして様子を見ないことが大切です。

治療後の検査値が一時的に悪化しても、その後に回復する場合はあります。しかし、次の治療へ進む際には、症状が軽くなったかだけでなく、ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間、腎機能などが十分に回復しているかを確認します。

仕事は治療後の体調の周期を見て調整

治療中も仕事や家事を続けられる患者さんはいますが、治療を受けた日だけでなく、その後の数日間に体調が低下することがあります。

点滴後に倦怠感が強くなる場合や、TACE後に発熱や食欲低下が続く場合には、通院日だけ休むのでは足りないことがあります。実際に症状が出やすい曜日や期間を確認し、勤務日、会議、外出予定などを調整します。

分子標的薬による手足の痛みがあると、立ち仕事、長時間の歩行、パソコン操作、細かい手作業が難しくなることがあります。下痢が続く場合には、通勤や長時間の会議が負担になります。体調が低下してから退職や長期休職を決めるのではなく、時短勤務、在宅勤務、仕事内容の変更、休暇制度などを検討する方法があります。

副作用の現れ方が分からない治療開始前に、これまでと同じ働き方を維持できるとも、仕事を続けられないとも断定できません。最初の数回の治療で体調の周期を確認し、必要に応じて医療ソーシャルワーカー、がん相談支援センター、勤務先の産業医などへ相談します。

食事量と体重の低下を放置しない

治療中は、吐き気、下痢、口内炎、味覚の変化、腹水による腹部の張りなどによって、食事量が減ることがあります。

数日間ほとんど食べられない状態が続くと、体重だけでなく筋肉量も減少します。筋力が落ちると、歩行や身の回りの動作が難しくなり、薬の副作用にも耐えにくくなる可能性があります。

腹水やむくみがある患者さんでは塩分の調整が必要になる場合がありますが、食欲が低下している状態で一律に厳しい食事制限を行うと、必要なエネルギーやたんぱく質まで不足することがあります。現在は腹水の管理を優先するのか、体重と筋肉を保つことを優先するのかを、主治医や管理栄養士へ確認します。

体重については、減少だけでなく短期間の増加にも注意が必要です。食事量が少ないのに体重や腹囲が増えている場合には、腹水やむくみが関係している可能性があります。毎日または決められた頻度で、同じ時間帯と条件で測ると変化を把握しやすくなります。

下痢や嘔吐が続いて水分を取れない場合には、脱水によって腎機能や肝機能が悪化する可能性があります。便の回数、嘔吐の回数、水分摂取量、尿量を伝え、点滴、症状を抑える薬、休薬などが必要か判断してもらいます。

外出は副作用が起こりやすい時期を避けて計画する

治療中も体調が安定していれば、買い物、散歩、旅行などの外出が一律に禁止されるわけではありません。ただし、下痢、強い倦怠感、手足の痛み、腹水、息切れなどがあると、長時間の移動が負担になります。

外出を計画するときは、点滴やTACEの後に体調が低下しやすい時期を避け、途中で休める場所やトイレを確認します。内服薬の時間、緊急時に連絡する医療機関、旅行先で受診が必要になった場合の対応も考えておきます。

骨転移があり骨折の危険を指摘されている場合には、痛みが軽くても長時間の歩行や重い荷物を持つことを控える必要があることがあります。体力を保つための適度な活動は大切ですが、運動量は骨の状態、肝機能、貧血、腹水などに合わせて決めます。

眠れない・昼夜が逆転する場合は原因を確認する

治療中の不眠は、痛み、かゆみ、腹部の張り、下痢などの身体症状だけでなく、治療への不安や生活リズムの変化によって起こることがあります。

免疫チェックポイント阻害薬による甲状腺、副腎、下垂体などの機能障害でも、強い倦怠感、動悸、頭痛、気分の変化、睡眠の異常が現れる場合があります。単なる疲れや不安と決めつけず、ほかの症状や血液検査とあわせて確認します。

一方、昼間に眠り続けて夜に起きている、会話の反応が遅い、普段と性格が違うといった変化は、肝性脳症の初期症状である可能性があります。本人が気付きにくいため、家族から見た変化も医療者へ伝えます。

睡眠不足が続くと、食欲、体力、気分、服薬管理にも影響します。我慢して市販の睡眠薬や健康食品を追加するのではなく、原因を確認したうえで治療を受けます。

自宅では症状の時期と変化を記録する

診察時には「体調が悪かった」という説明だけでなく、どの症状が、いつから、どの程度続いたかを伝えると、治療との関係を判断しやすくなります。

治療日を基準に、体温、血圧、体重、食事量、便の回数、尿量、痛み、息苦しさ、皮膚症状などを記録します。すべてを細かく記録する必要はありませんが、自分が受けている治療で特に注意する項目を医療者へ確認しておくとよいでしょう。

高血圧や蛋白尿に注意が必要な治療では、自宅で測った血圧や尿の変化が判断材料になります。分子標的薬を服用している場合には、手足の赤みや痛み、下痢の回数、食事量を記録します。腹水がある場合には、体重と腹囲、尿量の変化が役立ちます。

症状が起こったときに写真を撮る方法もあります。発疹、手足の皮膚症状、むくみなどは、受診時には軽くなっている場合があるためです。

休薬や減量は治療の失敗ではない

副作用が現れた場合には、治療法に応じて、一時的な休薬、投与量の減量、投与間隔の調整、副作用を抑える薬の追加などを行います。免疫関連副作用では、治療を休止して副腎皮質ステロイドなどによる治療が必要になる場合もあります。

決められた量を無理に続けることが、必ずしも最も良い治療とは限りません。重い副作用によって肝機能や全身状態を損なうと、現在の治療を続けられないだけでなく、次の治療を受ける機会も失う可能性があります。

反対に、症状が怖いからと自己判断で薬の量を減らしたり、中止したりすると、十分な効果を得られないことがあります。症状が現れた時期と程度を伝え、どの程度で休薬するのか、いつ再開するのかを医療者と相談します。

副作用を完全にゼロにすることだけを目指すのではなく、肝機能と生活を保ちながら、治療による利益を得られる状態へ調整することが重要です。

予定された受診日を待たずに連絡したい症状

副作用の中には、対応が遅れると重症化し、治療の継続だけでなく生命に影響するものがあります。

新しく現れた息苦しさや空せき、胸の痛み、強いまたは持続する下痢、血便、激しい腹痛、繰り返す嘔吐、急に強くなった倦怠感、意識や性格の変化がある場合には、早めに治療施設へ連絡します。

吐血、黒い便、血の混じった痰、止まりにくい出血、突然の強い頭痛、けいれん、片側の手足の動かしにくさなどは、緊急性の高い症状です。

黄疸や腹水が急に悪化した、尿量が減った、水分を取れない、発熱や悪寒が続く場合も、肝機能悪化、脱水、感染症などが関係している可能性があります。

どの症状で夜間や休日にも連絡するのか、発熱は何度を基準にするのか、連絡がつかない場合にどの医療機関を受診するのかは、治療開始時に確認しておきます。副作用の種類や重症度は治療によって異なるため、一般的な情報だけで判断せず、自分が受けている治療に合わせた連絡基準を把握することが大切です。

治療効果はどのように判断する?

肝臓がんステージ4の治療効果は、腫瘍の直径が小さくなったかだけでは判断できません。造影CTやMRIで病変の大きさと広がりを確認し、腫瘍内の血流、腫瘍マーカー、肝機能、症状、日常生活の状態を組み合わせて評価します。

画像上では腫瘍が縮小していても、肝機能が大きく低下して治療を続けられなければ、十分な利益が得られているとはいえません。反対に、腫瘍が完全には消えていなくても、進行が抑えられ、肝機能と日常生活を保てていれば、現在の治療を継続する意味があります。

評価の目的は、治療が効いているかを確認するだけではありません。現在の治療を続けるのか、一部の病変へ局所治療を加えるのか、別の薬物療法へ変更するのかを決めるために行います。

CT・MRIで病変全体の変化を確認

薬物療法やカテーテル治療を始めた後は、造影CTやMRIを定期的に行います。検査の時期は治療法、病気の進行速度、肝機能、症状などによって異なります。

画像検査では、肝臓内の腫瘍が縮小または増大しているかだけでなく、新しい病変が現れていないかを確認します。門脈や肝静脈への脈管侵襲、領域リンパ節、肺や骨などの転移についても、治療前の画像と比較します。

肝細胞がんのステージ4Aでは、肝臓内の病変と領域リンパ節転移の両方を評価します。肝臓内の腫瘍が縮小していても、リンパ節転移が増大していれば、病気全体が十分に抑えられているとは判断できません。ステージ4Bでも、特定の転移だけを見るのではなく、肝臓内と肝臓外にある病変をまとめて評価します。肺転移が縮小していても、肝臓内に新しい病変が現れた場合には、治療方針の見直しが必要になることがあります。

腹水の増加、胆管の閉塞、正常な肝組織の減少なども確認します。腫瘍径の変化が小さくても、血管や胆管の圧迫が進み、肝機能へ影響している場合には早めの対応が必要です。体調が急に悪化した場合には、予定された検査日を待たずに画像検査を行うことがあります。黄疸、腹水、強い痛み、息苦しさ、神経症状などが現れた場合には、検査予定にかかわらず治療施設へ相談します。

肝細胞がんでは腫瘍内の血流も評価

一般的ながんの画像評価では、腫瘍の直径の変化を基に判定するRECIST(レシスト)が用いられます。

一方、肝細胞がんでは、腫瘍の大きさだけでなく、造影剤によって濃く映る活動性のある部分を評価するmRECIST(モディファイド レシスト)が使われることがあります。肝細胞がんは血流が豊富な腫瘍であり、治療によって腫瘍細胞が傷害されると、腫瘍全体の大きさがすぐに変わらなくても、造影される部分が減る場合があるためです。

TACE後には、治療した腫瘍が残って見えても、内部の造影効果が消失していれば、腫瘍の多くが壊死している可能性があります。分子標的薬などでも、腫瘍径より先に内部の血流が低下することがあります。反対に、腫瘍全体の大きさがあまり変わっていなくても、造影される部分が増えている場合には、活動性のあるがん細胞が増えている可能性があります。

RECISTとmRECISTのどちらを重視するかは、治療法や評価の目的によって異なります。検査結果を聞く際には、「腫瘍の直径はどう変化したか」だけでなく、「造影される活動性のある部分は減っているか」を確認すると、治療効果を理解しやすくなります。

参考:肝細胞癌診療ガイドライン|日本肝臓学会

完全奏効・部分奏効・安定・進行の意味

画像検査による治療効果は、一般に「完全奏効(CR)」「部分奏効(PR)」「安定(SD)」「進行(PD)」の四つに分けて評価されます。

これらは、治療が効いたかどうかを共通の基準で表すための判定です。ただし、判定に使う基準によって、腫瘍全体の大きさを見るのか、造影される活動性のある部分を見るのかが異なります。

RECIST 1.1では、主に測定対象とした腫瘍の直径の変化を評価します。一方、肝細胞がんで用いられるmRECISTでは、動脈相で造影される、生きた腫瘍と考えられる部分を測定します。そのため、同じ画像でもRECISTとmRECISTで判定が異なる場合があります。

完全奏効(CR)

完全奏効は、画像上で治療対象となる病変が確認できなくなった状態です。

RECIST 1.1では、測定対象としたすべての病変が消失した場合に完全奏効と判定します。mRECISTでは、肝細胞がんの大きさそのものが残っていても、すべての対象病変で動脈相の造影効果が消失していれば、完全奏効と判定されることがあります。

ただし、完全奏効は、画像で活動性のある病変を確認できないという判定です。治療を終了できるかどうかは、リンパ節や遠隔転移を含むほかの病変、肝機能、再発の危険なども踏まえて決めます。

部分奏効(PR)

部分奏効は、病変が一定以上縮小したものの、完全には消失していない状態です。

RECIST 1.1では、測定対象とした腫瘍の直径の合計が、治療前と比べて30%以上減少した場合が基本的な判定基準です。mRECISTでは、動脈相で造影される活動性のある腫瘍部分の直径の合計が、治療前より30%以上減少した場合に部分奏効と判定します。

部分奏効は治療による縮小効果が確認された状態ですが、病変は残っています。効果が続いているか、新しい病変が現れていないかを定期的に確認しながら治療を継続します。

安定(SD)

安定は、完全奏効や部分奏効と判定できるほど縮小していない一方、進行と判定されるほど増大していない状態です。

「安定」は「治療が効いていない」という意味ではありません。ステージ4では、腫瘍を大きく縮小できなくても、増大や新しい転移の出現を抑え、肝機能と日常生活を保てていれば、治療による利益が得られている可能性があります。

とくに、治療前には短期間で病変が増大していた患者さんで、その進行が止まっている場合には、安定を維持すること自体に意味があります。副作用を調整でき、肝機能も保たれていれば、同じ治療を続けることがあります。

進行(PD)

進行は、病変が基準以上に増大した場合や、新しい病変が現れた場合に判定されます。

RECIST 1.1では、治療開始後に記録された最も小さい腫瘍径の合計と比べて20%以上増大し、さらに絶対値で5mm以上増えている場合などが基準です。新しい病変が確認された場合も、原則として進行と判定されます。mRECISTでは、造影される活動性のある腫瘍部分が、治療開始後の最小値と比べて20%以上増加した場合などに進行と判定します。

肝臓内の腫瘍が縮小していても、新しいリンパ節転移や遠隔転移が現れれば、病気全体として進行と判断されることがあります。反対に、一つの病変だけが増大し、ほかの病変が抑えられている場合には、増大した病変へ局所治療を加えて、現在の薬物療法を継続できるか検討することがあります。

奏効率と病勢コントロール率の違い

臨床試験では、「奏効率」や「病勢コントロール率」という言葉が使われます。

奏効率は、完全奏効と部分奏効になった患者さんの割合です。腫瘍が明確に縮小した患者さんがどの程度いたかを示します。病勢コントロール率は、完全奏効、部分奏効、安定を合わせた割合です。腫瘍が縮小した患者さんだけでなく、進行を抑えられた患者さんも含まれます。

奏効率が高い治療が、すべての患者さんにとって最も良い治療とは限りません。生存期間、副作用、肝機能への影響、効果が続いた期間などもあわせて比較する必要があります。

画像上の判定だけで治療方針を決めるわけではない

完全奏効や部分奏効であっても、強い副作用や肝機能低下があれば、休薬や治療変更が必要になることがあります。反対に、安定であっても、肝機能と生活を保ちながら病気の進行を抑えられていれば、同じ治療を続ける意味があります。

進行と判定された場合も、すべての病変が増大しているのか、一部の病変だけが増大しているのかによって、その後の対応は異なります。別の全身薬物療法へ変更する場合もあれば、増大した病変へ局所治療を追加する場合もあります。

画像検査の説明を受ける際には、完全奏効・部分奏効・安定・進行のどれに該当するかだけでなく、RECISTとmRECISTのどちらで評価したのか、肝臓内と肝臓外の病変がそれぞれどう変化したのかを確認することが大切です。

参考:RECIST 1.1、Lencioni R, Llovet JM. Modified RECIST Assessment for Hepatocellular Carcinoma.

AFP・PIVKA-IIは一回の数値ではなく推移を見る

肝細胞がんでは、AFP、AFP-L3分画、PIVKA-IIなどの腫瘍マーカーを治療後の経過観察に用います。

治療前に高かった腫瘍マーカーが継続して低下していれば、治療が効いている可能性を示す材料になります。数値が繰り返し上昇している場合には、肝臓内の腫瘍の増大や、新しいリンパ節転移・遠隔転移がないかを画像で確認します。

腫瘍マーカーが正常のまま進行する肝細胞がんもあります。慢性肝炎、肝硬変、ビタミンKの状態など、がん以外の影響によって数値が変化する場合もあります。また、薬物療法を始めた直後などに、一時的な変動が起こることもあります。一回の上昇だけで治療が効いていないと判断せず、過去からの推移、画像検査、肝機能、症状を組み合わせます。

腫瘍マーカーが低下していても、画像上で新しい病変が現れていれば、病気全体が抑えられているとはいえません。反対に、数値が十分に低下していなくても、画像上の病変が縮小または安定している場合には、現在の治療を続けることがあります。

参考:腫瘍マーカー検査とは|国立がん研究センター がん情報サービス

肝機能を保てているかも治療効果に含めて考える

肝細胞がんでは、腫瘍を抑える効果と、正常な肝臓へ与える負担を同時に評価する必要があります。

血液検査では、ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間などを確認します。腹水、黄疸、むくみ、肝性脳症が新たに現れていないかも、肝予備能の変化を判断する材料です。

画像上は腫瘍が縮小していても、腹水が増え、食事が取れず、Child-Pugh分類が悪化している場合には、同じ治療をそのまま続けることが難しくなります。治療の一時休止、投与量の調整、治療法の変更などを検討します。反対に、腫瘍が完全には消えていなくても、進行が抑えられ、肝機能も安定していれば、治療による利益が得られていると判断して継続することがあります。

肝機能の悪化が必ずしも治療の副作用とは限りません。腫瘍による門脈や胆管の圧迫、感染症、脱水、肝硬変の進行などが関係している場合もあります。原因によって必要な対応が異なるため、血液検査と画像検査から判断します。

症状と日常生活の変化も評価

検査上の変化だけでなく、治療前と比べて患者さんがどのように生活できているかも確認します。

治療前にあった腹痛や息苦しさが軽くなった、食事量が増えた、夜に眠れるようになった、歩ける距離が伸びたといった変化は、治療によって病状が改善している可能性を示します。画像上では腫瘍が縮小していても、強い倦怠感、下痢、食欲低下、手足の痛みなどによって一日の多くを横になって過ごすようになった場合には、治療による利益と負担を見直します。

診察では、食事量、体重、歩行、仕事や家事、睡眠、外出への影響を具体的に伝えます。「つらい」「だるい」だけでなく、何ができなくなったのかを伝えると、休薬、減量、支持療法の追加などを判断しやすくなります。

症状が改善しない原因が、がんの進行なのか、副作用なのか、肝機能低下なのかを分けて考えることも必要です。検査結果が安定していても生活への負担が大きい場合には、薬の量や治療間隔を調整することがあります。

検査結果の説明で確認したいこと

治療効果の説明を受ける際には、腫瘍が小さくなったかだけでなく、肝臓内、リンパ節、遠隔転移のそれぞれがどう変化したかを確認します。

造影される活動性のある腫瘍部分が減っているか、新しい病変が現れていないか、肝機能は治療前と比べて保たれているかも重要です。

さらに、現在の治療を続ける利益は何か、増大している病変へ局所治療を加える余地があるか、どのような変化があれば次の治療へ移るのかを聞いておくと、その後の見通しを持ちやすくなります。

検査結果を「効いた」「効かなかった」の二つだけで捉えず、病気全体の制御、肝機能、症状、生活への影響を含めて理解することが、次の治療を判断するうえで大切です。

肝臓がんステージ4の生存率

肝臓がんステージ4の生存率を調べるときは、肝臓に発生するがん全体ではなく、肝細胞がんを対象とした病期別統計を確認する必要があります。

生存率には、診断から5年後の状況を示す5年生存率だけでなく、10年後の状況を示す10年生存率もあります。肝細胞がんは、がんそのものに加えて、背景にある肝硬変や慢性肝炎、治療後の再発なども長期的な経過へ影響するため、5年と10年の両方を見ることには意味があります。

ただし、現在公表されている5年と10年の数値は、同じ患者さんを5年後と10年後まで追跡して比較したものではありません。診断年、対象施設、患者集団が異なる別々の統計です。この違いを理解したうえで見る必要があります。

肝細胞がんのステージ別生存率(ネット・サバイバル)

国立がん研究センターの「院内がん登録生存率集計」では、全国のがん診療連携拠点病院などから集めたデータを基に、肝細胞がんの病期別ネット・サバイバルが公表されています。

現在公表されている2014~2015年診断例の5年ネット・サバイバルと、2012年診断例の10年ネット・サバイバルは、次のとおりです。

病期 5年ネット・サバイバル
2014~2015年診断例
10年ネット・サバイバル
2012年診断例
ステージ1 63.0% 36.3%
ステージ2 45.2% 21.6%
ステージ3 16.0% 7.1%
ステージ4 4.4% 1.9%

5年の数値と10年の数値は、診断年も対象患者も異なる別々の集計です。4.4%だった同じ患者集団が、その後10年目に1.9%まで低下したことを示す表ではありません。

5年ネット・サバイバルは2014~2015年に診断された患者さんを診断から5年間、10年ネット・サバイバルは2012年に診断された別の患者さんを診断から10年間観察して算出しています。

したがって、表の横方向に数字を比較して「5年から10年の間に何%低下した」と計算することはできません。それぞれ、異なる年代の患者集団における5年後と10年後の傾向を示す数字として受け止めます。

参考:院内がん登録生存率最新集計値|国立がん研究センター がん情報サービス

ネット・サバイバルとは何を表す数字?

ネット・サバイバルは、がん以外の病気や事故などによる死亡の影響を統計的に調整し、肝細胞がんだけが死亡原因になると仮定した場合の生存率を推計した指標です。

実際に診断された患者さんのうち何%が生存していたかを示す「実測生存率」とは異なります。高齢の患者さんが多いがんでは、心臓病、脳血管疾患、ほかの病気などによる死亡も起こるため、がんそのものによる影響を比較する目的でネット・サバイバルが用いられます。

たとえば、ステージ4の10年ネット・サバイバルが1.9%であることは、2012年にステージ4と登録された患者さんのうち、実際に1.9%だけが10年後に生存していたという単純な意味ではありません。ほかの死因の影響を調整して算出された統計上の推計値です。

生存率を見るときには、実測生存率、相対生存率、ネット・サバイバルのどの指標が使われているかを確認する必要があります。異なる方法で計算された数字をそのまま比較することはできません。

現在のステージ4とは完全には一致しない

本記事では、現在の国立がん研究センターの一般向け情報に合わせ、UICC第8版を主な病期分類として説明しています。

一方、表の5年ネット・サバイバルは2014~2015年診断例、10年ネット・サバイバルは2012年診断例を対象としています。院内がん登録でUICC第8版が使用されるようになったのは2018年診断例からです。

そのため、表に掲載したステージ4は、現在のUICC第8版でステージ4Aまたは4Bと診断された患者さんだけを集めた数字ではありません。以前の病期分類に基づいて登録された患者さんの統計です。

病期分類の版が異なるからといって、生存率の数字に意味がないわけではありません。進行した肝細胞がん全体の長期的な傾向を知るための参考にはなります。ただし、現在のUICC第8版でステージ4Aまたは4Bと診断された患者さんへ、4.4%や1.9%をそのまま個人の見通しとして当てはめることはできません。

参考:院内がん登録症例集計|国立がん研究センター がん情報サービス

ステージ4A・4Bの生存率について

国立がん研究センターの院内がん登録生存率集計では、肝細胞がんの病期別生存率はステージ1~4まで公表されています。しかし、現在のUICC第8版に基づいて、ステージ4Aと4Bを分けた全国規模の5年・10年ネット・サバイバルは公表されていません。

したがって「UICC分類のステージ4Aの5年生存率は何%」「ステージ4Bの10年生存率は何%」という全国共通の数字を示すことはできません。病院や研究論文から4A・4B別の治療成績が報告されることはありますが、使用された病期分類、対象患者、肝機能、治療内容、診断された年代などが異なります。

日本肝癌研究会の第21回全国原発性肝癌追跡調査には、第16回から第21回までに新規登録された2000~2011年の症例を統合して算出した累積生存率が掲載されていますが、手術を受けられるほど病変の範囲、肝機能、全身状態などの条件が良かった患者さんだけを対象とした、強く選択された集団の数字となっているので注意が必要です。

公表値には現在の薬物療法が十分に反映されていない

5年ネット・サバイバルの対象となった患者さんは2014~2015年、10年ネット・サバイバルの対象となった患者さんは2012年に診断されています。その後、進行肝細胞がんでは、免疫チェックポイント阻害薬を含む併用療法など、当時は一般診療で使用されていなかった治療が導入されました。

現在使用されている薬物療法による長期的な治療成績は、この表へ十分には反映されていません。現在の治療によって、表の集計当時より長く病気を抑えられる患者さんがいる可能性があります。一方、新しい治療が増えたからといって、すべての患者さんが公表値より良好な経過をたどるとは限りません。主要な薬物療法は、肝機能と全身状態が比較的保たれている患者さんを中心に検討されます。

肝予備能が大きく低下している場合には、承認された薬があっても安全に使用できないことがあります。治療の進歩が見通しへどの程度影響するかは、現在の肝機能、病変の広がり、全身状態、治療への反応によって異なります。

生存率は個人の余命を示す数字ではない

ステージ4の5年ネット・サバイバルが4.4%、10年ネット・サバイバルが1.9%であることは、現在ステージ4と診断された患者さん一人ひとりの生存可能性が、それぞれ正確に4.4%、1.9%であることを意味しません。

これらの統計には、肝機能が保たれていた患者さんと大きく低下していた患者さん、薬物療法を受けられた患者さんと受けられなかった患者さん、病変が限られていた患者さんと複数の臓器へ広がっていた患者さんが含まれています。また、診断時点から計算した統計であるため、すでに治療を受け、一定期間病気を抑えられている患者さんの、その時点から先の見通しとは異なります。

個人の見通しを考える際には、肝予備能、肝臓内の腫瘍量、脈管侵襲、リンパ節転移や遠隔転移の範囲、全身状態、栄養状態、治療への反応などを確認します。治療後も肝機能と全身状態を保ち、次の治療へ進めるかどうかも、その後の見通しを左右します。

生存率は、肝細胞がんの病期による全体的な傾向を理解するための統計です。自分の余命を決める数字としてではなく、現在の病状と治療によって見通しがどのように変わる可能性があるかを、主治医へ確認するための参考情報として受け止める必要があります。

肝臓がんステージ4の余命はどのくらい?

肝臓がんステージ4と診断されても、余命を病期だけから一律に示すことはできません。

同じステージ4でも、肝予備能、肝臓内の腫瘍量、脈管侵襲、リンパ節転移や遠隔転移の範囲、全身状態、治療への反応によって経過は異なります。肝細胞がんでは、がんの進行だけでなく、肝硬変や肝不全が生命へ影響することもあります。

前章で示した5年・10年ネット・サバイバルは、多数の患者さんを集計した長期的な統計です。一方、薬物療法の臨床試験では「全生存期間中央値」という指標が治療成績を示すために使われます。どちらも個人の余命を直接示す数字ではないため、意味を分けて理解する必要があります。

全生存期間中央値は余命の期限を示す数字ではない

全生存期間は、治療の開始や臨床試験への登録など、あらかじめ定められた時点から患者さんが生存していた期間を表します。

全生存期間中央値とは、対象となった患者さんの半数が生存していた時点です。たとえば、全生存期間中央値が16カ月だった場合、すべての患者さんが16カ月前後で亡くなったという意味ではありません。16カ月より前に亡くなった患者さんがいる一方、16カ月を超えて生存した患者さんもいます。治療が長く効き、数年以上生存する患者さんが含まれることもあります。

臨床試験の全生存期間は、通常、がんと診断された日ではなく、試験へ登録・無作為化された日などから計算されます。そのため、臨床試験で報告された中央値を「診断からの余命」として使用することはできません。

参考:Median overall survival|米国国立がん研究所(NCI)

一次治療の臨床試験では1年以上の中央値が報告されている

進行した切除不能肝細胞がんに対する一次薬物療法の臨床試験では、全生存期間中央値が1年を超える治療成績が報告されています。

HIMALAYA試験では、これまで全身薬物療法を受けていない切除不能肝細胞がん患者を対象に、デュルバルマブとトレメリムマブの併用療法とソラフェニブが比較されました。全生存期間中央値は、デュルバルマブとトレメリムマブの併用群で16.4カ月、ソラフェニブ群で13.8カ月でした。

参考:最適使用推進ガイドライン(肝細胞癌)|PMDA

CheckMate 9DW試験では、全身薬物療法を受けたことのない切除不能肝細胞がん患者を対象に、ニボルマブとイピリムマブの併用療法と、レンバチニブまたはソラフェニブが比較されました。全生存期間中央値は、ニボルマブとイピリムマブの併用群で23.7カ月、レンバチニブまたはソラフェニブ群で20.6カ月でした。

参考:Yau T, et al. Nivolumab plus ipilimumab versus lenvatinib or sorafenib as first-line treatment for unresectable hepatocellular carcinoma(CheckMate 9DW)

これらの結果は、切除不能肝細胞がんでも、薬物療法によって長期間生存する患者さんがいることを示しています。ただし、二つの試験は、患者背景、比較した治療、登録条件、観察期間が異なります。16.4カ月と23.7カ月を単純に比較して、数字が長い方の治療がすべての患者さんに優れていると判断することはできません。

臨床試験の数字はステージ4だけの成績ではない

HIMALAYA試験とCheckMate 9DW試験は、いずれも切除不能肝細胞がんを対象とした試験ですが、UICC分類のステージ4の患者さんだけを集めた試験ではありません。

切除不能となる理由には、リンパ節転移や遠隔転移だけでなく、肝臓内の腫瘍の数や位置、脈管侵襲、肝機能なども含まれます。そのため、試験で報告された全生存期間中央値を、そのまま「ステージ4の平均余命」と表現することはできません。また、主要な臨床試験では、肝機能が比較的保たれ、日常生活を自立して送れる患者さんが中心となっています。

CheckMate 9DW試験では、Child-Pugh(チャイルド・ピュー)スコア5または6で、ECOG(イーコグ)パフォーマンスステータス0または1の患者さんが主な対象でした。強い黄疸、調整しにくい腹水、繰り返す肝性脳症などがある患者さんへ、同じ中央値を当てはめることはできません。

臨床試験の数字を見る際には、自分の病期だけでなく、肝機能、全身状態、過去の治療歴が試験参加者とどの程度近いかを確認する必要があります。

肝臓内の病変が肝機能へ与える影響も確認する

ステージ4A・4Bの違いだけでは、病気の進行速度や見通しを十分に説明できません。

肝臓内の腫瘍量が多い場合や、主要な門脈・肝静脈へがんが進展している場合には、正常な肝臓へ流れる血液が減り、肝機能低下が進みやすくなることがあります。胆管が腫瘍によって塞がれれば黄疸が強くなり、食事や薬物療法の継続へ影響する場合もあります。これらはUICC分類におけるステージ4Aの定義ではありませんが、ステージとは別に見通しを左右する重要な要因です。

肝臓外の病変が比較的安定していても、肝臓内の腫瘍によって肝不全が進めば、抗がん治療を続けにくくなります。反対に、肝機能が保たれ、リンパ節転移や遠隔転移を薬物療法で長く抑えられていれば、ステージ4でも治療を継続できる場合があります。

見通しを考える際には、4A・4Bという病期名だけでなく、肝臓内と肝臓外の病変がそれぞれどの程度進行し、治療によってどこまで制御されているかを確認します。

全身状態と栄養状態も治療を続けられるかに関わる

食事を取れるか、自分で歩けるか、身の回りのことを行えるかといった全身状態も、治療の効果と安全性に関係します。食欲低下や筋肉量の減少が続くと、感染症、転倒、寝たきりなどの危険が高まり、薬の副作用にも耐えにくくなることがあります。

ただし、全身状態が低下している原因が、すべてがんそのものとは限りません。痛み、腹水、下痢、吐き気、感染症、脱水などが原因であれば、それらを治療することで食事や活動量が改善し、抗がん治療を再開できる場合があります。

年齢だけで余命や治療の可否を判断することはできません。同じ年齢でも、肝機能、持病、栄養状態、日常生活の自立度には差があります。

治療を始めた後の反応によって見通しは変わる

診断時の検査だけで、その後の経過を正確に予測することは困難です。実際の見通しは、治療を始めた後の反応によって変化します。腫瘍が縮小する、造影される活動性部分が減る、AFPやPIVKA-IIが低下する、肝機能が安定するといった変化が続けば、診断時に想定されたよりも長く病気を抑えられる可能性があります。

画像上で大きな縮小がなくても、病勢安定が長く続き、肝機能と生活を保てていれば、治療による利益が得られていると考えられます。反対に、最初の治療中に複数の新しい転移が現れる、脈管侵襲が急速に広がる、肝機能や全身状態が低下するといった場合には、治療方針と見通しを見直します。

余命についての説明は、診断時に一度示されたら変わらないものではありません。治療効果、肝機能、症状の変化に応じて更新される見通しです。

次の治療へ進める状態を保てるかも見通しに影響する

進行肝細胞がんでは複数の薬物療法を選べますが、すべての患者さんがすべての薬を順番に使用できるわけではありません。

最初の治療後も肝機能と全身状態を保てていれば、別の薬物療法へ進める可能性があります。がんが進行する前に肝機能が大きく低下すれば、未使用の薬が残っていても安全に投与できないことがあります。そのため、現在の治療で最大限の腫瘍縮小を目指すことだけが、長く治療を続けるための方法とは限りません。

副作用が強い場合に早めに休薬や減量を行う、効果が乏しいTACEを繰り返さない、局所治療の範囲を必要な部分へ絞るなど、肝予備能を守ることも長期的な治療計画に含まれます。

現在の治療が効かなくなった場合に、次にどの治療を検討できるのか、その治療を受けるためにどの程度の肝機能を保つ必要があるのかを確認しておくことが大切です。

医師から余命を伝えられたときに確認したいこと

医師から「余命は数カ月程度」などと説明された場合には、その期間を確定した期限として受け取るのではなく、何を根拠に示された見通しなのかを確認します。

がんの進行が主な理由なのか、肝不全が強く影響しているのかによって、今後行える治療や症状への対応が異なります。その見通しが、抗がん治療を受ける場合を想定したものか、治療が難しい場合を想定したものかも確認します。

医師へは、次のような点を尋ねると、現在の状態を理解しやすくなります。

  • がんの進行と肝機能低下のどちらが強く影響しているか
  • 示された期間にはどの程度の幅があるか
  • 治療が順調な場合と悪化した場合で見通しはどう変わるか
  • 感染症、脱水、腹水など改善できる問題が残っていないか
  • 現在受けられる抗がん治療や局所治療があるか
  • 今後起こる可能性のある症状と、連絡すべき変化は何か
  • 通院が難しくなった場合に利用できる在宅医療や緩和ケアはあるか

余命を尋ねることは、治療を諦めることではありません。治療の希望、仕事、家族との予定、療養場所、受けたい医療を考えるために必要な情報です。

統計上の生存率や臨床試験の中央値だけから、自分で余命を決めつけることはできません。現在の画像、肝機能、全身状態、治療への反応を把握している主治医と、病状の変化に応じて見通しを確認することが大切です。

肝機能が低下した場合の治療と緩和ケア

肝臓がんステージ4では、がんの進行、もともとの肝硬変、治療の影響などによって肝機能が低下することがあります。肝機能が低下すると、黄疸、腹水、むくみ、肝性脳症などが現れ、これまでの抗がん治療を続けにくくなる場合があります。

しかし、肝機能の悪化が直ちに治療の限界を意味するわけではありません。胆管閉塞、感染症、脱水、消化管出血、薬による肝障害など、治療によって改善できる原因が隠れていることがあります。血液検査や画像検査を行い、原因を確認してから治療方針を判断します。

腹水・黄疸などには原因に応じて対応する

腹水やむくみには、塩分摂取を調整しながら利尿薬を使用します。薬で十分に改善しない場合には、腹水穿刺や腹水濾過濃縮再静注法(CART)を検討することがあります。

利尿薬を強くしすぎると、脱水や腎機能低下を起こす可能性があります。体重、尿量、血圧、腎機能などを確認しながら調整します。腹水に加えて発熱や腹痛がある場合には、感染症の可能性があるため早めの受診が必要です。

黄疸は、肝臓全体の機能低下だけでなく、腫瘍によって胆管が塞がれることでも起こります。胆管閉塞が原因であれば、内視鏡などで胆汁の通り道を確保することで、黄疸が改善する場合があります。一方、肝臓全体の機能低下が原因の場合には、胆管の処置だけでは改善しません。

肝性脳症や静脈瘤出血には早い対応が必要

肝性脳症では、意識がもうろうとする前に、昼夜逆転、反応の遅れ、書字や計算の間違い、性格の変化などが現れることがあります。

治療では、腸内で有害物質が作られたり吸収されたりするのを抑える薬を使用します。便秘、脱水、感染症、消化管出血などが悪化のきっかけになっている場合には、その原因にも対応します。

また、肝硬変や門脈侵襲によって食道・胃静脈瘤ができ、破裂すると大量出血を起こす可能性があります。吐血や黒い便がある場合には、夜間や休日でも緊急受診が必要です。

参考:肝硬変診療ガイドライン|日本消化器病学会

肝機能が低下したときは抗がん治療の利益と負担を見直す

感染症、脱水、胆管閉塞、薬の副作用などが原因であれば、いったん抗がん治療を休み、原因を治療してから再開できる場合があります。一方、がんの進行や肝硬変によって肝機能の回復が難しい場合には、抗がん治療による利益よりも、肝不全や副作用の危険が大きくなることがあります。

治療を続けるかどうかは、検査値だけでは決まりません。肝機能低下の原因を改善できるか、治療によってがんを抑えられる可能性があるか、食事や歩行などの日常生活を保てているかを踏まえて判断します。

抗がん治療を休む、または終了することになっても、医療そのものが終わるわけではありません。腹水、痛み、吐き気、かゆみ、不眠などを和らげる治療は続けられます。

緩和ケアは抗がん治療と並行して受けられる

緩和ケアは、抗がん治療ができなくなった後だけに始めるものではありません。薬物療法やカテーテル治療を受けている時期から利用できます。

痛みや息苦しさ、腹部の張り、吐き気、食欲低下、不眠などの身体症状だけでなく、病気や家族、仕事、経済面への不安も相談できます。症状を早く整えることで、食事や睡眠を保ち、抗がん治療を続けやすくなる場合もあります。

通院が難しくなった場合には、訪問診療や訪問看護を利用し、自宅で症状の管理や薬の調整を受ける方法があります。自宅療養を選んでも、必要に応じて病院での処置や入院治療を受けることは可能です。治療の継続が難しい場合も、どの症状を改善できるか、緩和ケアや在宅医療をいつから利用できるかを主治医と相談することが大切です。

参考:緩和ケア|国立がん研究センター がん情報サービス

肝臓がんステージ4の最新治療と臨床試験

肝細胞がんの薬物療法は、この数年で免疫チェックポイント阻害薬を含む併用療法が増え、治療の選択肢が広がっています。

国内で承認されている主な治療は「全身薬物療法」の章で説明したため、ここでは同じ薬を繰り返し紹介せず、現在研究されている治療と臨床試験を判断する際の注意点を解説します。

「最新治療」という言葉には、国内ですでに承認されている治療、臨床試験で効果を調べている治療、研究結果は発表されたものの承認されていない治療が混在しています。新しいという理由だけで、現在受けられる標準治療とは限りません。

参考:肝細胞癌診療ガイドライン2025年版|日本肝臓学会

全身薬物療法と局所治療を組み合わせる研究

肝細胞がんでは、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬などの全身薬物療法と、TACEや放射線治療などの局所治療を組み合わせる研究が行われています。

薬物療法で病気全体を抑えながら、肝臓内で進行しやすい病変を局所的に治療することが主な目的です。ただし、どの患者さんに、どの順番で組み合わせれば長期的な利益が得られるかは、病状によって異なります。

LEAP-012試験では、レンバチニブとペムブロリズマブをTACEへ追加する治療が検討されました。無増悪生存期間中央値は併用群で14.6カ月、TACEのみの対照群で10.0カ月となり、病気の進行を遅らせる効果が示されましたが、その後の解析では、全生存期間について統計学的に有意な改善は確認されませんでした。重い副作用も併用群で多くみられており、進行を遅らせる効果だけでなく、生存期間、肝機能への負担、副作用を含めて評価する必要があります。

また、LEAP-012試験の対象は、遠隔転移がなく、TACEを行える肝細胞がんで、肝機能がChild-Pugh A、全身状態が比較的良好な患者さんです。UICC分類のステージ4を対象とした試験ではなく、ステージ4A・4Bの標準治療としてそのまま当てはめることはできません。

参考:LEAP-012試験|PubMed

薬を使う順番には未確立の部分が残っている

一次治療に使える併用療法は増えましたが、最初の治療が効かなくなった後に、どの薬を選ぶと最も効果的かは、十分に確立していない部分があります。

これまで二次治療の根拠となってきた臨床試験には、ソラフェニブを使用した後の患者さんを対象としたものが多くあります。一方、現在広く使われる免疫療法を含む併用療法後の治療順序については、実際の診療データや新しい臨床試験の結果を蓄積している段階です。

次の治療を選ぶときには、承認されている薬の一覧だけでなく、前の治療を効果不十分で変更するのか、副作用で中止したのか、肝機能と全身状態がどこまで保たれているかを確認します。新しい薬が発表されても、現在の治療で病気を抑えられている場合には、すぐに変更せず、将来の選択肢として残すこともあります。

臨床試験の探し方

臨床試験には、標準治療を受けた後の患者さんを対象とするものだけでなく、一次治療同士を比較する試験や、標準治療へ新しい薬を追加する試験、局所治療との組み合わせを調べる試験などがあります。

参加条件は、ステージだけでなく、肝機能、パフォーマンスステータス、脈管侵襲や肝外転移の状態、過去に使用した薬、感染症、自己免疫疾患などが細かく定められています。

国立がん研究センターの「がんの臨床試験を探す」では、がんの種類や薬の名前、地域などから国内の臨床試験を検索できます。ただし、掲載後に募集状況が変わっている可能性があるため、検索結果だけで参加できるとは判断せず、試験情報を主治医へ示して確認します。

参考:がんの臨床試験を探す|国立がん研究センター がん情報サービス

厚生労働省の臨床研究等提出・公開システム(jRCT)でも国内の臨床研究を検索できます。研究名や対象疾患だけでなく、現在の募集状況、実施施設、主な参加条件を確認します。

参考:臨床研究等提出・公開システム(jRCT)|厚生労働省

研究段階の治療と承認済み治療を区別する

学会や報道で良好な結果が発表されても、直ちに一般診療で受けられるとは限りません。

臨床試験で効果が示された後も、承認申請、PMDAによる審査、厚生労働大臣の承認などを経る必要があります。海外で承認された治療でも、日本では未承認または適応外となっている場合があります。

治療情報を見るときには、国内で承認されているのか、承認申請中なのか、臨床試験の段階なのかを分けて確認します。

自由診療で「最新の免疫療法」と説明される治療も、国内で承認された免疫チェックポイント阻害薬や、適切に管理された臨床試験と同じとは限りません。比較試験で効果が確認されているか、重い副作用へ対応できる体制があるか、標準治療を受ける機会を失わないかを確認する必要があります。

肝臓がんステージ4でよくある質問

治療はいつまで続きますか?

全身薬物療法は、あらかじめ終了回数が決まっているとは限りません。がんを抑えられ、副作用や肝機能への影響が許容できる間は継続することがあります。

画像上で病気が進行した場合、肝機能が悪化した場合、副作用を調整しても続けられない場合には、休薬、減量、別の治療への変更を検討します。治療開始時に、どのような結果なら継続し、どの変化があれば変更するのかを確認しておくことが大切です。

治療には入院が必要ですか?

点滴や内服による薬物療法は、外来で行われることが多くなっています。一方、TACE、肝動注化学療法、手術などでは入院が必要です。

薬物療法でも、初回投与時、肝機能が不安定な場合、重い副作用や出血、感染症、肝性脳症などがある場合には入院を提案されることがあります。

仕事を続けながら治療できますか?

肝機能と全身状態が保たれ、副作用を調整できれば、仕事を続けながら治療を受けられる場合があります。

ただし、点滴後の倦怠感、下痢、手足の痛み、TACE後の発熱などによって、治療後の数日間に仕事が難しくなることがあります。治療前に退職を決めるのではなく、体調が変化する周期を確認し、時短勤務、在宅勤務、仕事内容の変更、休暇制度などを検討します。

参考:がんと仕事|国立がん研究センター がん情報サービス

食事や飲酒で注意することはありますか?

ステージ4だからという理由だけで、すべての患者さんに共通して禁止される食品があるわけではありません。腹水やむくみがある場合には塩分の調整が必要になることがありますが、食欲や体重が低下している状態で厳しい食事制限を行うと、栄養や筋肉が不足する可能性があります。

現在の肝機能、腹水、腎機能、糖尿病などに合わせ、主治医や管理栄養士へ確認します。

肝細胞がんや肝硬変がある状態では、アルコールが残された肝機能へ負担をかける可能性があります。とくにアルコール性肝障害が背景にある場合には禁酒が基本です。「少量なら安全」と自己判断せず、主治医の指示に従います。

参考:がんと食事|国立がん研究センター がん情報サービス

サプリメントや健康食品を使ってもよいですか?

健康食品やサプリメントが、肝臓がんを縮小させたり、標準治療の代わりになったりすることは証明されていません。

成分によっては肝障害を起こしたり、治療薬の効果や副作用へ影響したりする可能性があります。使用を希望する場合は、商品名だけでなく、成分と一日の摂取量が分かる容器や資料を医師・薬剤師へ見せて確認します。

参考:がんと民間療法|国立がん研究センター がん情報サービス

腹水が増えたらどうすればよいですか?

腹囲や体重が短期間で増えた、食事が取れないほどおなかが張る、横になると息苦しいといった場合には、腹水が増えている可能性があります。

利尿薬を自己判断で増減すると、脱水や腎機能低下を起こす危険があります。体重、尿量、むくみの変化を医療者へ伝え、薬の調整や腹水穿刺が必要か判断してもらいます。

発熱、腹痛、意識の変化を伴う場合には、腹水の感染や肝機能の急激な悪化も考えられるため、早めの受診が必要です。

どのような症状ならすぐ病院へ連絡すべきですか?

吐血や黒い便、急な意識の変化、けいれん、片側の手足の麻痺、強い息苦しさは、緊急性の高い症状です。

発熱を伴う腹痛、急速に増える腹水、黄疸の悪化、尿量の減少、強い下痢や嘔吐で水分を取れない場合も、予定された診察日まで待たずに相談します。

免疫チェックポイント阻害薬の治療中または治療後に、空せき、息切れ、持続する下痢、強い倦怠感などが現れた場合は、軽く見えても免疫関連副作用の可能性があります。

具体的な体温や症状の連絡基準は治療によって異なるため、治療開始時に夜間・休日の連絡先とあわせて確認しておきます。

納得できる治療を選ぶための考え方

肝臓がんステージ4の治療は、病期だけでなく、肝機能、全身状態、これまでの治療、本人が大切にしたい生活によって変わります。「最も新しい治療」や「最も強い治療」を探すだけでなく、現在の治療が何を目指しているのかを確認することが出発点です。

主治医には、この治療で期待できる効果、治療を続ける条件、変更を考えるタイミング、次に残されている選択肢を尋ねてみましょう。腫瘍を縮小させることだけでなく、進行を抑えながら肝機能や日常生活を保つことも、治療の大切な目的になります。

説明を聞いても判断に迷う場合や、ほかの治療法がないか確認したい場合には、セカンドオピニオンを利用する方法があります。別の治療を見つけるためだけでなく、現在の方針に納得して治療を続けるためにも役立ちます。

まずは次の診察で「今の治療の目的は何か」「どの結果になれば治療を続けるのか」「効かなくなった場合に次の選択肢はあるか」の三つを確認してみてください。病状や希望は治療中にも変わるため、その都度話し合いながら、自分が納得できる選択を重ねていくことが大切です。