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肝臓がんは、かつて日本人のがん死亡原因として非常に大きな割合を占めていた病気です。現在はC型肝炎治療の進歩によって死亡数は減少傾向にありますが、それでも2024年には2万2,000人以上が肝臓がんで亡くなっています。2023年に新たに診断された患者数は約3万2,000人、5年相対生存率は35.8%と報告されています。胃がんや乳がんと比べると、今も予後は厳しい部類に入ります。

出典:国立がん研究センター がん統計「肝臓」

肝臓がんが他のがんと大きく違うのは「がんだけの病気ではない」という点です。胃がんや大腸がんでは、がんそのものの広がりが主な問題になりますが、肝臓がんでは背景に慢性肝炎や肝硬変を抱えている患者が少なくありません。診療の現場では「がんをどう治療するか」と同時に、「残っている肝機能をどこまで守れるか」が常に問題になります。

さらに現在、肝臓がんの背景そのものも変化しています。以前はB型肝炎・C型肝炎が中心でした。実際、日本の肝細胞がんの多くはウイルス性肝炎を背景に発症してきました。しかし近年は、脂肪肝やNASH(非アルコール性脂肪肝炎)を背景とした肝臓がんが増えています。NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)患者は国内で1,000万人以上とも推定されており「お酒を飲まない人の肝臓がん」が珍しくない時代になっています。

出典:日本生活習慣病予防協会 脂肪肝/NAFLD/NASH

肝臓がんの怖いところは、かなり進行するまで症状が乏しいことです。肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれます。多少障害を受けても働き続けるため、初期には自覚症状がほとんど出ないことがあります。健康診断で肝機能異常を放置していた、脂肪肝と言われたまま数年経っていた、肝炎治療を途中でやめていたという患者が、たまたま外来の超音波検査やCT検査で見つかることもあります。一方、症状が出てから見つかる肝臓がんでは、すでに複数病変になっていたり、血管へ浸潤していたり、腹水や黄疸を伴っていたりする場合があります。

肝臓がんは「再発率の高さ」も大きな特徴です。根治切除できても、5年以内に再発する患者は少なくありません。これは単に「取り残した」という話ではなく、慢性肝障害そのものが『新しいがんを作り続ける土台』になっているからです。

つまり、肝臓がんは「一回治療したら終わり」という考え方では対応できません。「切除」「ラジオ波焼灼療法」「TACE(肝動脈化学塞栓療法)」「分子標的薬」「免疫療法」「肝移植」まで含めて、肝機能と病状を見ながら治療を組み合わせていきます。

近年は、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬の進歩によって、以前より長期間病状をコントロールできる患者も増えてきましたが、その一方で、薬物療法が効かない患者や肝機能低下によって治療選択肢が急激に狭くなる患者もいます。

肝臓がんは「何センチのがんなのか」だけで病気を語れません。肝機能はどこまで保たれているのか。肝硬変は進んでいるのか。背景にB型肝炎、C型肝炎、脂肪肝のどれがあるのか。再発リスクはどの程度なのか。今後どこまで治療を継続できるのか。そこまで含めて初めて、現実的な見通しが見えてきます。

この記事では、肝臓がんを単なる病気説明としてではなく、「なぜ再発を繰り返しやすいのか」「なぜ治療選択が難しいのか」「なぜ肝機能がこれほど重要なのか」まで含めて、実際の診療に近い形で整理していきます。

  • お酒を飲まない人の肝臓がんが珍しくない時代
  • 2023年に新たに診断された患者数は約3万2,000人、5年相対生存率は35.8%
  • がん治療だけでなく肝機能をどこまで残せるのかが課題

肝臓がんとは何か

肝臓に発生するがんにはいくつか種類があり、発生する細胞によって性質も治療方針も大きく変わります。

肝細胞がん

日本で最も多いのは「肝細胞がん」です。これは肝臓を構成している肝細胞そのものががん化した状態で、原発性肝がんの約90%前後を占めています。一般的に『肝臓がん』として話題になるものの多くは、この肝細胞がんとなります。

肝細胞がんの特徴は、背景に慢性肝炎や肝硬変を伴っている患者が多いことです。B型肝炎、C型肝炎、アルコール性肝障害、脂肪肝、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)などによって長年肝臓が傷み続け、その過程で発生します。

出典:国立がん研究センター|肝臓がん(肝細胞がん)

肝内胆管がん

同じ肝臓の中にできるがんでも、「肝内胆管がん」は別の病気として扱われます。これは胆汁の通り道である胆管の細胞から発生するがんで、原発性肝がん全体の5〜10%程度を占めています。肝細胞がんより頻度は低いものの、こちらも実際の診療では重要な病気です。

肝内胆管がんは、発生する細胞が違うため、病気の振る舞いも変わります。肝細胞がんは肝硬変を背景に見つかることが多い一方、肝内胆管がんでは、そこまで高度な肝硬変を伴わない患者もいます。また、リンパ節転移や遠隔転移を起こしやすく、発見時には進行しているケースも少なくありません。

画像検査では似て見えることもありますが、実際には「別のがん」として診療されています。使用する抗がん剤も異なり、肝細胞がんで使われる薬が、そのまま胆管がんへ使われるわけではありません。

混合型肝がん

頻度は高くありませんが「混合型肝がん」と呼ばれるタイプもあります。これは、肝細胞がんと胆管がんの両方の性質を持つがんです。肝細胞由来の部分と胆管由来の部分が同じ腫瘍内へ混在しているため、診断や治療方針が難しくなることがあります。

患者側では「肝臓にできたがんなら全部同じ」と感じやすい部分がありますが、実際には『どの細胞から発生したのか』によって、病気の性質はかなり変わります。

転移性肝がん

さらに混同されやすいのが「転移性肝がん」です。肝臓は血流が非常に豊富な臓器なので、他の臓器のがんが転移しやすいという特徴があります。特に多いのは、大腸がんの肝転移です。胃がん、膵臓がん、肺がん、乳がんなどが肝臓へ転移するケースもあります。

ただ、これらは「肝臓から発生したがん」ではありません。たとえば大腸がんが肝臓へ転移した場合、病名は『大腸がん肝転移』となります。治療も肝臓がんとして行うのではなく「大腸がんの一部」として考えます。使用する抗がん剤も違いますし、予後の考え方も変わります。

この違いは、患者側ではかなり混乱しやすい部分です。「肝臓にがんがある」と説明されると、全部『肝臓がん』に聞こえますが、「肝臓にあるがん」と「肝臓から発生したがん」は別物として扱われています。

その他の混同されやすいがん

さらに肝臓の近くには肝臓がんと誤解されやすい病気もあります。

代表的なのが「肝門部胆管がん」です。これは肝臓へ出入りする胆管付近に発生する胆道がんで、場所としては肝臓に非常に近いです。ただ分類上は胆道がんであり、肝細胞がんとは異なります。

「胆のうがん」も同様です。胆のうは肝臓のすぐ下に位置しているため、進行すると肝臓へ直接広がることがあります。ただ、これも『肝臓そのものから発生したがん』ではありません。

同じ肝臓のがんでも種類によって治療法が異なる

日本の診療で圧倒的に中心になっているのが肝細胞がんです。日本の肝臓がん診療、治療ガイドライン、薬物療法の多くは、この肝細胞がんを前提に組み立てられています。

一方、肝内胆管がんや混合型肝がんでは、進行パターンや使われる抗がん剤、手術適応の考え方まで変わります。そのため、同じ「肝臓のがん」でも、それぞれ別の病気として扱われています。

この記事では、日本で最も患者数が多く、一般的に「肝臓がん」として問題になることが多い肝細胞がんを中心に解説していきます。

肝臓がんの原因とリスク

肝臓がんの背景には、長期間続く肝障害があります。診断時点で初めて肝臓病を知る患者もいますが、実際にはその何年も前から肝臓へ負担がかかり続けているケースが少なくありません。

B型肝炎・C型肝炎

以前の日本では、肝臓がんの大部分にB型肝炎やC型肝炎が関わっていました。特にC型肝炎は患者数が非常に多く、慢性肝炎から肝硬変へ進行し、その途中で肝細胞がんが発生する流れが典型的でした。現在は抗ウイルス治療によって状況が変わってきていますが、それでもウイルス性肝炎は主要な原因です。

肝炎は進行していても症状が目立たないのが厄介なポイントです。強い痛みが出るわけではありません。仕事もできるし食事も取れる。そのまま通院が途切れたり、健診異常を放置したりする患者もいます。そして数年後、腹部エコーやCTで肝臓がんが見つかる。これは外来では珍しくない流れです。

脂肪肝

近年は、脂肪肝を背景にした肝臓がんが急速に増えています。以前は「肝臓がん=大量飲酒」という印象が強くありました。ただ現在は、お酒をあまり飲まない患者でも肝臓がんが見つかります。背景にあるのは、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症などを伴う脂肪肝です。

脂肪肝は珍しい異常ではありません。健康診断で指摘された経験がある人も多いはずです。ただ、その時点では症状がほとんどなく「少し太っているだけ」と受け止められやすい。問題は、その一部で肝臓内部の炎症が長期間続き、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)へ進行することです。さらに線維化が進むと、肝硬変や肝臓がんへつながっていきます。

脂肪肝関連の肝臓がんでは「自分は肝臓病ではない」と思っている患者も少なくありません。肝炎歴がない。大酒家でもない。だから肝臓がんを想定していない。糖尿病治療中の検査で偶然見つかったり、健診エコーで初めて指摘されたりするケースがあります。

参考:脂肪肝/NAFLD/NASH|一般社団法人 日本生活習慣病予防協会

アルコール

アルコールも依然として大きなリスクです。ただ「何年飲んだら危険」「何本以上で危険」と単純には決まりません。同じ飲酒量でも進行しやすい人とそうでない人がいます。そのため、「自分はそこまで飲んでいない」という感覚のまま、肝硬変近くまで進行している患者もいます。

肝臓では、細胞が壊れるたびに修復が起こります。その状態が何年も続くと、再生を繰り返す過程で遺伝子異常が蓄積し、がん細胞が発生しやすくなります。特に肝硬変まで進行すると、肝臓全体が発がんしやすい状態になります。

そのため、一つ治療しても別の場所へ新しいがんができることがあります。肝臓がんで再発率が高いのは、この影響が大きく、単純な『取り残し』だけでは説明できません。

C型肝炎では、DAA治療によってウイルス排除できる患者が増えました。ただ、肝硬変が進んだ状態では、その後も肝臓がんリスクが残ります。ウイルスが消えたあとも、超音波やCTで経過観察が続く患者がいるのはそのためです。

糖尿病

糖尿病との関連も無視できません。糖尿病患者では脂肪肝を合併しやすく、慢性的な炎症やインスリン抵抗性が発がんへ関与していると考えられています。実際、肝臓がん患者では糖尿病を持っているケースが珍しくありません。

ただ、生活習慣だけで発症を説明し切れる病気でもありません。健康意識が高い患者でも肝臓がんになりますし、明らかな危険因子があっても発症しない人もいます。

肝臓がんでは、症状が出てから初めて気づく患者がいます。食欲低下、倦怠感、体重減少が出た時には、すでに進行しているケースもあります。肝機能異常や脂肪肝を指摘されている段階で検査を続けられるかどうかが、その後の病状へ大きく影響します。

肝臓がんの症状と見逃されやすさ

肝臓がんは、かなり進行するまで症状が目立たないことがあります。ここが、この病気を見つけにくくしている最大の理由の一つです。胃がんなら胃痛、大腸がんなら血便のように、比較的イメージしやすい症状があります。ただ、肝臓は多少傷んでも働き続けてしまう臓器です。そのため、小さな肝臓がんでは自覚症状がほとんどないまま経過する患者が少なくありません。

健康診断の腹部エコーや、肝機能異常の精査、肝炎フォロー中のCTやMRIで偶然見つかるケースも多くあり、特にB型肝炎、C型肝炎、肝硬変、脂肪肝などを指摘されている患者では「症状が出たから探す」というより、「症状がないうちに定期的に確認する」という形で経過観察が続けられています。

肝臓がん特有の症状は少ない

自覚症状が出てから見つかる患者もいますが、その症状は「肝臓がん特有」と言い切れないものが多く、食欲低下、体重減少、全身倦怠感、微熱、腹部の張りなど、加齢や疲労でも起こりそうな変化として始まることがあります。患者側でも「なんとなく体調が悪いだけ」「最近疲れやすいだけ」と考えてしまいやすく、受診が遅れやすいケースです。

肝臓がんでは強い痛みが出ないことがあります。もちろん腫瘍が大きくなれば、右上腹部痛や背部痛が出る患者もいますが、小さな段階ではほぼ無症状のまま進行するケースがあります。そのため「痛くないから大丈夫」と判断されやすく、肝臓がんと診断されても「普通に生活できていた」「体調はそこまで悪くなかった」という患者も珍しくありません。

腫瘍マーカーが高くならないケースも

肝臓がんは腫瘍マーカーだけで見つかるわけでもありません。AFPやPIVKA-IIが高くならない患者もいますし、逆に軽度上昇だけで画像検査から見つかるケースもあります。そのため、超音波、CT、MRIを組み合わせながら経過を見ていくことがあります。

まれではありますが、肝臓がん特有の重篤な状態として「腫瘍破裂」があります。腫瘍が破裂すると、突然の激しい腹痛、血圧低下、ショック状態を起こすことがあります。これをきっかけに初めて肝臓がんが見つかる患者もいます。

肝臓がんが進行した時の症状

肝臓がんが進行すると、腹水によるお腹の張り、黄疸、足のむくみ、出血しやすさ、意識のぼんやり感などが出てくることがあります。ただ、この段階では『肝臓がんだけ』が問題になっているとは限りません。背景にある肝硬変や肝不全が進行し、肝臓そのものが限界へ近づいている状態として症状が出ている場合もあります。

さらに進行すると、肝臓から肺、骨、リンパ節などへ転移することがあります。骨転移では腰痛や背部痛、肺転移では咳や息切れとして見つかる患者もいます。ただ実際には『肝臓の症状』より「転移先の症状」が先に問題になるケースもあります。

肝臓がんで難しいのは「この症状があれば肝臓がん」と言い切れる典型像が少ないことです。かなり進行しても症状が乏しい患者がいる一方、軽い食欲低下だけで見つかる患者もいます。そのためこの病気では「症状が出たかどうか」だけで考えると発見が遅れやすいのです。肝炎、脂肪肝、肝硬変などを指摘されている方は、「今症状があるか」よりも「定期的に確認できているか」の方が重要になることがあります。

肝臓がんの検査と診断

肝臓がんの診断では「がんがあるかどうか」だけを調べるわけではありません。実際の診療では、病変の数や大きさ、血管への広がり、転移の有無に加えて、肝臓そのものがどれくらい機能しているのかまで確認する必要があります。同じ3cmの肝細胞がんでも、肝機能が十分保たれている患者と肝硬変が進行している患者では、選択できる治療が大きく変わるからです。

腹部超音波検査

発見のきっかけとして多いのは腹部超音波検査です。B型肝炎やC型肝炎、肝硬変、脂肪肝などで通院している患者では定期的に超音波検査が行われており、その経過観察中に小さな病変が見つかることがあります。超音波検査は身体への負担が少なく繰り返し行いやすい反面、肥満や脂肪肝の影響を受けやすく、病変の位置によっては観察が難しいこともあります。そのため、異常が疑われた場合にはCTやMRIによる精密検査へ進みます。

CT検査(Dynamic CT)

肝細胞がん診断の中心になるのは造影CTと造影MRIです。特にDynamic CTは現在でも重要な検査で、造影剤を注射した後の血流変化を時間ごとに観察します。

肝細胞がんでは腫瘍内部に異常血管が発達するため、正常肝とは異なる造影パターンを示すことがあります。造影剤投与直後の動脈相で病変が強く染まり、その後の門脈相や平衡相で周囲より暗く見えるようになる所見は典型例として知られています。この特徴的な血流パターンが認められる場合、背景肝疾患の情報と合わせて肝細胞がんを強く疑います。

MRI検査(EOB-MRI)

近年はMRIの重要性も高まっています。なかでもEOB-MRIは肝臓がん診療で広く使われており、小さな病変の発見能力に優れています。

EOBという肝細胞特異性造影剤は、正常な肝細胞には取り込まれますが、がん細胞では取り込みが低下することがあります。そのため、通常のCTでは分かりにくい小さな病変がMRIで初めて見つかることもあります。実際には超音波で異常を指摘され、Dynamic CTを行い、さらにEOB-MRIで詳しく評価するという流れも珍しくありません。

血液検査

血液検査ではAFPとPIVKA-IIという腫瘍マーカーが広く利用されています。AFPは胎児期に多く作られるタンパク質で、肝細胞がんによって上昇することがあります。一方のPIVKA-IIは異常プロトロンビンとも呼ばれ、進行した肝細胞がんや血管侵襲を伴う症例で高値になりやすいことが知られています。

ただし、どちらも万能ではありません。肝細胞がんがあっても正常範囲のまま推移する患者もいますし、逆に肝炎の活動性だけで上昇することもあります。そのため腫瘍マーカーだけで診断することはできず、あくまで画像検査と組み合わせながら評価します。施設によってはAFP-L3分画まで測定し、悪性度や再発リスクの評価へ利用することもあります。

肝予備能評価

ここまでの検査は主に「がんの診断」を目的としていますが、肝臓がんではもう一つ重要な評価があります。それが肝予備能評価です。

胃がんや大腸がんでは、ステージが治療方針を決める中心になります。しかし肝臓がんでは、がんの進行度と同じくらい肝機能が重要です。たとえ早期の肝細胞がんでも、肝臓そのものが治療へ耐えられなければ手術や局所治療を選べないことがあります。そのため診療ではアルブミン値やビリルビン値、血液凝固能、腹水の有無などを用いて肝機能を評価します。

昔から広く使われているのがChild-Pugh分類で、肝機能をA・B・Cの3段階に分類します。一般的にはChild-Pugh Aであれば積極的治療を検討しやすく、Bになると選択肢が減り始め、Cでは肝不全リスクの方が大きな問題になることがあります。

参考:治療計画に影響を与える肝機能分類|肝癌|日本臨床外科学会

最近はALBIスコアも広く使われています。これはアルブミンとビリルビンだけで算出する指標で、主観的評価を含まないため客観性が高いとされています。実際の臨床試験や治療ガイドラインでもALBIグレードが頻繁に用いられており、分子標的薬や免疫療法の適応を考える際にも参考にされています。

参考:肝予備能評価スコア計算サイト(mALBIグレード追加)のご案内|一般社団法人 日本肝臓学会

肝機能の状態で治療法が異なる

肝臓がん診療の特徴は、同じステージでも肝予備能によって治療方針が変わることです。たとえば同じ大きさの腫瘍であっても、肝機能が保たれている患者では手術が選択できる一方、肝機能が低下している患者では焼灼療法や薬物療法が優先される場合があります。

胃がんや肺がんでは「がんの進行度」が治療選択の中心になりますが、肝臓がんでは「がん」と「肝臓」の両方を同時に評価しなければ現実的な治療方針を決めることができません。

さらに進行例では肺や骨、リンパ節への転移評価も行われます。胸部CTや骨シンチグラフィが追加されることもありますし、状況によってはPET-CTが使われることもあります。ただし肝細胞がんではPETで目立たない病変も存在するため、PETだけで全身評価が完結するわけではありません。

患者側からすると検査が増えるほど不安になるものです。しかし肝臓がんで行われる検査の多くは、「どれくらい悪い病気なのか」を調べるためだけではありません。どの治療が可能なのか、その治療に肝臓が耐えられるのか、治療後にどれだけ肝機能を残せるのかまで見据えて行われています。肝臓がん診療では、腫瘍の大きさだけで将来が決まるわけではありません。病変そのものと肝臓全体の状態を合わせて評価して初めて、現実的な治療戦略が見えてきます。

肝臓がんのステージ分類

肝臓がんと診断されると、最初に気になるのが「自分のステージはいくつなのか」という点でしょう。ステージという言葉は広く知られていますが、実際には単純な重症度ランキングではありません。病気がどこまで広がっているのかを整理し、どの治療が現実的なのかを判断するための指標です。

肝臓がんでは、腫瘍の大きさだけでステージが決まるわけではありません。病変の個数、血管への広がり、リンパ節転移の有無、他臓器への転移の有無などを総合して分類されます。

参考:肝臓がん(肝細胞がん)治療|国立がん研究センター がん情報サービス

ステージⅠ期

ステージⅠは、腫瘍が肝臓内に限局し、比較的早期の状態です。一般的には単発で小さい病変が多く、手術やラジオ波焼灼療法など根治を目指す治療が検討されます。ただし「ステージⅠなら必ず手術できる」ということではなく、肝臓がんでは背景に肝硬変を伴う患者も多く、がんが小さくても肝機能の問題で手術を選べない場合もあります。

ステージⅡ期

ステージⅡになると、腫瘍が複数存在する場合や、やや進行した病変が含まれるようになります。ただ、この段階でも肝臓内に病変がとどまっている患者は少なくありません。実際には手術、焼灼療法、TACEなど複数の治療選択肢が検討されることがあります。

ステージⅢ期

ステージⅢで問題になるのが血管侵襲です。肝細胞がんは門脈や肝静脈へ入り込むことがあります。肝臓は血流が豊富な臓器なので、一度血管内へ進展すると病気が広がりやすくなります。画像上では同じ数センチの腫瘍に見えても、血管侵襲の有無によって治療戦略や予後は大きく変わります。

患者が想像する以上に、肝臓がんでは「大きさ」より「血管へ入り込んでいるか」の方が重要になる場面があります。そのため診断時にはCTやMRIで門脈浸潤の有無が詳しく確認されます。

ステージⅣ期

ステージⅣではリンパ節転移や遠隔転移が認められます。肺、骨、副腎などが代表的な転移先です。この段階になると手術や局所治療だけで病気を制御することが難しくなり、薬物療法が治療の中心になることがあります。

かつては、進行した肝臓がんに対して使える治療が限られていました。そのため、ステージⅣと聞いて強い絶望感を抱く患者も少なくありませんでした。しかし現在は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場によって治療選択肢が増え、病状を長期間コントロールできる症例もみられるようになっています。

もちろん、すべての患者が同じ経過をたどるわけではありません。腫瘍の性質や肝機能、治療への反応性によって予後は変わります。ただ、ステージⅣという診断だけで将来が決まるわけではなくなっていることは、現在の肝臓がん診療を理解する上で欠かせない視点です。

肝予備能

さらに肝臓がんには、他のがんとは少し異なる特徴があります。胃がんや大腸がんでは、一般的にステージが上がるほど治療選択肢は減っていきます。一方、肝臓がんでは病気の広がりだけではなく、肝予備能そのものが治療方針へ大きく影響します。

実際には、ステージⅠの肝細胞がんでも高度の肝硬変を伴っていれば手術が難しいことがあります。反対に、ステージⅢであっても肝機能が十分保たれていれば積極的治療を継続できる患者もいます。同じステージⅡという診断でも、Child-Pugh AとChild-Pugh Bでは選択できる治療が変わることがあります。

肝臓がんのステージ分類は、病気の重症度を並べるためだけのものではありません。腫瘍の広がりを整理しながら、残された肝機能と合わせて最適な治療を考えるための指標として使われています。

治療の全体像

肝臓がんの治療では、「がんを取り除けば終わり」という考え方だけでは十分ではありません。

胃がんや大腸がんでは、病変を切除できれば根治を目指せるケースがあります。しかし肝細胞がんでは、がんそのものに加えて、背景にある肝障害も同時に考えなければなりません。B型肝炎やC型肝炎、肝硬変、脂肪肝などによって傷んだ肝臓に発生することが多いため、治療によって残された肝機能がさらに低下する可能性があるからです。

実際の診療では「この腫瘍を切除できるか」だけでなく「切除したあとも肝臓が十分に働けるか」が検討されます。画像上は手術できそうに見えても、肝予備能の問題から別の治療が選択される患者もいます。

そのため肝臓がん治療では、腫瘍の大きさや個数だけで方針が決まりません。病変が肝臓内にとどまっているのか、血管へ広がっているのか、他の臓器へ転移しているのかという病気の広がりに加え、Child-Pugh分類やALBIグレードで評価される肝機能も同じくらい重要になります。

根治を目指すか、症状をコントロールするか

現在の肝細胞がん治療は大きく分けると、根治を目指す治療と、病状をコントロールする治療に分けられます。比較的早期の段階では、肝切除、ラジオ波焼灼療法、肝移植などによって病変そのものを取り除くことが目標になります。一方、病変数が多い場合や血管侵襲を伴う場合、あるいは肝外転移が認められる場合には、薬物療法を中心に病勢を抑える治療が検討されます。

ただし、この境界は必ずしも明確ではありません。たとえば同じ3cmの肝細胞がんでも、単発で肝機能が良好な患者と、多発病変を伴う肝硬変患者では治療方針が大きく異なります。反対に、進行例であっても薬物療法がよく効き、その後に局所治療や手術が検討されるケースもあります。

新しい治療の選択肢

近年は治療選択肢そのものも大きく変化しています。

以前の肝細胞がん診療では、切除できない症例に対する治療は限られていました。しかし現在は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が登場し、進行肝細胞がんに対する治療成績は改善しつつあります。実際には複数の薬剤を病状に応じて使い分けたり、局所治療と薬物療法を組み合わせたりすることもあります。

また、肝臓がんでは再発を前提に治療戦略が組み立てられることがあります。肝切除や焼灼療法で病変を取り除いても、新たな肝細胞がんが発生する患者は少なくありません。そのため一度治療が終わったあとも、超音波検査やCT、MRIを使いながら経過観察が続きます。

こうした特徴から、肝臓がん治療は「どの治療が一番優れているか」を選ぶ病気ではありません。同じ診断名であっても、病気の広がり、肝機能、年齢、合併症、再発リスクによって最適な選択肢は変わります。

現在の肝細胞がん診療で求められているのは、がんだけを見ることでも、肝臓だけを見ることでもありません。病気そのものと肝機能の両方を評価しながら、その患者にとって現実的に継続できる治療を組み立てていくことです。次章からは、実際に行われる治療法について詳しく見ていきます。

各治療法の詳細

肝細胞がんの治療は、腫瘍の数、大きさ、血管侵襲、肝外転移の有無に加えて、Child-Pugh分類やALBIグレードで見た肝予備能が治療選択に強く関わります。国立がん研究センターも、肝がんでは「がん」と「慢性肝疾患」という2つの病気を抱えているため、ステージだけでなく肝予備能、肝外転移、脈管侵襲、腫瘍数、腫瘍径を考慮して治療を選ぶと説明しています。

参考:国立がん研究センター|肝がんの治療について

肝切除

肝切除は、がんを含む肝臓の一部を手術で取り除く治療です。単発の肝細胞がんで、肝機能が保たれている患者では、根治を目指す治療として検討されます。肝臓は再生能力のある臓器ですが、どれだけ切っても元通りになるわけではありません。背景に肝硬変がある患者では、残る肝臓の働きが不十分になり、術後肝不全へ進む危険があります。そのため肝切除では、腫瘍を取り切れるかだけでなく、切除後にどれだけ安全に肝機能を残せるかが大きな判断材料になります。

たとえば画像上は切除できそうな場所にあっても、肝硬変が進んでいれば手術が選ばれないことがあります。反対に、ある程度大きな腫瘍でも、肝機能が良好で残肝量を確保できるなら切除が検討される場合があります。肝切除の判断では、腫瘍の位置、門脈や肝静脈との距離、残せる肝臓の量、アルブミンやビリルビンなどの肝機能、腹水の有無まで細かく見られます。

手術の負担と術後合併症

手術の負担も軽くありません。肝臓は血流が豊富な臓器なので、出血リスクがあります。術後には肝機能低下、胆汁漏、感染、腹水増加などが問題になることもあります。仕事や生活へ戻るまでには時間がかかり、背景に肝硬変がある患者では、手術後も肝臓病としての管理が続きます。切除できたから完全に終わりではなく、残った肝臓から新しい肝細胞がんが発生する可能性も残ります。

それでも、条件が合う患者にとって肝切除は強力な治療選択肢です。病変を直接取り除き、病理検査でがんの分化度や血管侵襲の有無を確認できる点も大きい。術後の再発リスクをどう見るか、その後どの間隔で画像検査を続けるかまで含めて、肝切除は「手術日だけの治療」ではなく、その後の長期管理へつながる治療です。

ラジオ波焼灼療法

ラジオ波焼灼療法は、皮膚から針を刺し、腫瘍に熱を加えて焼灼する治療です。比較的小さな肝細胞がんで、病変数が限られている場合に検討されます。手術より身体への負担が少なく、肝機能をできるだけ残しながら局所治療を行える点が特徴です。国立がん研究センターも、Child-Pugh分類AまたはBでがんが肝臓内にとどまる場合、肝切除、ラジオ波焼灼療法、TACEが中心になると説明しています。

参考:国立がん研究センター|肝がんの治療について

ラジオ波焼灼療法が向いているのは、がんが小さく、針を安全に刺せる位置にある場合です。腫瘍が横隔膜や胆管、大きな血管の近くにあると、十分に焼けないことや周囲臓器への影響が問題になります。熱は腫瘍だけでなく周囲にも広がるため、治療範囲をどこまで確保できるかが成績に関わります。

繰り返し治療が可能

患者にとっては「切らずに治療できる」という点が大きな安心材料になることがあります。ただ、焼灼療法も万能ではありません。焼き残しがあれば局所再発につながりますし、腫瘍が大きくなるほど十分な安全域を取ることが難しくなります。治療後にはCTやMRIで焼灼範囲を確認し、必要に応じて追加治療が検討されます。

肝細胞がんでは、同じ患者が何度も治療を受けることがあります。最初の病変を焼灼できても、別の場所へ新しい病変が出ることがあるからです。ラジオ波焼灼療法は、再発時にも条件が合えば繰り返し使える治療です。その意味では、肝臓を大きく切除せずに治療を重ねられる選択肢として重要です。

TACE(肝動脈化学塞栓療法)

TACEは、肝細胞がんへ栄養を送る肝動脈にカテーテルを入れ、抗がん剤や塞栓物質を使って腫瘍の血流を遮断する治療です。肝細胞がんは動脈から豊富な血流を受ける性質があるため、その血流を狙って治療します。手術や焼灼療法で取り切るのが難しい多発病変に対して行われることが多く、肝臓内に病変がとどまっている中間期の肝細胞がんで重要な役割を持ちます。

TACEの考え方は、腫瘍を直接切り取る治療とは違います。がんへ流れ込む血管を選んで薬剤を届け、同時に血流を詰めることで腫瘍を壊死させることを目指します。肝臓には門脈からも血流が入るため、正常肝への影響をある程度抑えながら、腫瘍を狙いやすいという特徴があります。

TACEの副作用

TACEも肝機能への負担があります。治療後には発熱、腹痛、吐き気、肝機能悪化などが起こることがあります。特に肝硬変が進んでいる患者では、TACEを繰り返すことで肝予備能が低下し、その後の薬物療法や別の治療へ進みにくくなる場合があります。TACEは「何度でもできる治療」ではなく、効果と肝機能低下のバランスを見ながら続ける治療です。

実際の診療では、TACEで病変がよく制御できる患者もいれば、短期間で再発や新規病変を繰り返す患者もいます。何度もTACEを続けても腫瘍制御が難しい場合、薬物療法へ切り替える判断が必要になります。この切り替えが遅れると、肝機能だけが落ちてしまい、全身治療へ進む体力を失うことがあります。肝細胞がん治療では、局所治療を粘ることが常に正解とは限りません。

薬物療法

進行肝細胞がんや肝外転移、血管侵襲を伴う症例では、薬物療法が治療の中心になります。以前は使える薬が限られていましたが、現在は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が登場し、治療選択肢は大きく広がっています。日本肝臓学会の肝細胞癌診療ガイドラインでも、肝細胞がんに対する薬物療法が進歩し、日本で複数の薬物療法が保険収載されていることを踏まえて薬物療法アルゴリズムが作成されています。

参考:肝細胞癌診療ガイドライン|一般社団法人 日本肝臓学会

アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法

現在の一次薬物療法では、免疫療法を含む併用療法が重要な位置を占めています。アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法は、適応がある場合の一次治療として推奨されてきた治療です。アテゾリズマブは免疫チェックポイント阻害薬で、がんに対する免疫反応を回復させる方向に働きます。ベバシズマブは血管新生を抑える薬で、腫瘍へ栄養を送る血管形成を抑えることを狙います。

参考:肝細胞癌薬物療法アルゴリズムの解説|一般社団法人 日本肝臓学会

アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法のリスクと副作用

一方で、この治療は誰にでも使えるわけではありません。ベバシズマブは出血リスクと関係するため、食道胃静脈瘤の評価が必要になることがあります。肝硬変患者では静脈瘤を持っていることがあり、出血リスクを無視して治療を始めることはできません。

免疫チェックポイント阻害薬では、肺炎、腸炎、肝炎、内分泌障害など、免疫関連副作用が起こることもあります。肝細胞がん患者ではもともと肝機能が低下しているため、薬剤性肝障害と肝疾患そのものの悪化を見分けることが難しい場面もあります。

分子標的薬

分子標的薬としては、ソラフェニブ、レンバチニブ、レゴラフェニブ、カボザンチニブ、ラムシルマブなどが使われることがあります。ソラフェニブは長く進行肝細胞がん治療の中心だった薬で、レンバチニブも一次治療で使われてきました。

これらの薬はがん細胞や血管新生に関わるシグナルを抑える治療ですが、副作用として高血圧、手足症候群、下痢、食欲低下、倦怠感、肝機能悪化などが問題になることがあります。治療を続けるには、腫瘍が小さくなるかだけでなく、血圧管理、皮膚症状、栄養状態、肝機能の変化を細かく見ていく必要があります。

肝機能の低下で投与できない場合も

肝細胞がんの薬物療法で難しいのは、がんが進行している患者ほど肝機能も弱っていることが多い点です。薬が理論上使える病状でも、Child-Pugh分類やALBI gradeが悪化していれば安全に投与できないことがあります。肝細胞がんは薬の代謝や副作用が肝臓に強く関わるため、肝予備能の低下が治療選択肢を直接狭めます。

薬物療法は「治す治療」というより、病状を抑えながら生活を維持する治療になることが多い領域です。長期間コントロールできる患者もいますが、薬剤耐性が出たり、副作用で継続が難しくなったりすることもあります。肝細胞がんの薬物療法では、どの薬を使うかだけでなく、どのタイミングで切り替えるか、肝機能をどこまで保てているかが治療全体の流れを左右します。

肝移植

肝移植は、肝細胞がんそのものと、背景にある肝硬変を同時に治療できる可能性を持つ治療です。傷んだ肝臓を丸ごと置き換えるため、理論上は「がん」と「発がんしやすい肝臓」の両方に対処できます。ただし、誰にでも行える治療ではありません。

肝移植の適応条件

肝移植の適応では、腫瘍の大きさや個数が厳しく評価されます。代表的な基準としてミラノ基準が知られており、単発なら5cm以下、複数なら3個以内かつ各3cm以下などの条件が使われます。日本では脳死肝移植の提供数が限られているため、生体肝移植が検討される場面もあります。肝移植は医学的な適応だけでなく、ドナーの安全性、家族関係、倫理面、長期管理まで関わる治療です。

移植後も終わりではありません。免疫抑制薬を長期に使用する必要があり、感染症、腎機能障害、再発リスクなどを見ながら生活することになります。肝移植は強力な治療である一方、患者本人だけで完結しない治療でもあります。条件を満たす患者では非常に重要な選択肢になりますが、現実には適応、施設、ドナー、全身状態によって選べるかどうかが大きく変わります。

がんと肝臓の状態によって治療方針も変わる

肝細胞がんの治療は、切除、焼灼、TACE、薬物療法、肝移植のどれかを機械的に選ぶものではありません。病気の広がり、肝機能、再発リスク、生活への影響を見ながら、その時点で最も現実的な治療を組み合わせていく流れになります。肝臓がんで治療方針が何度も変わることがあるのは、治療が迷走しているからではなく、がんの状態と肝臓の状態が時間とともに変化していく病気だからです。

副作用と生活への影響

肝細胞がんの治療では、がんを小さくすることだけでなく「どれだけ長く治療を続けられるか」も同じくらい重要になります。肝細胞がんの患者は、がんだけでなく慢性肝炎や肝硬変、脂肪肝といった背景疾患を抱えていることが多く、治療による負担がそのまま肝機能低下につながる場合があるからです。

胃がんや大腸がんでは、治療後にある程度回復し、日常生活へ戻っていく流れがイメージしやすいかもしれません。一方、肝細胞がんでは治療後も肝臓病としての管理が続きます。病変を取り除いても定期検査が終わるわけではなく、肝機能の確認や再発監視が長期間続くことになります。そのため患者にとっては「治療そのもの」よりも、「治療後の生活をどう維持するか」が大きな課題になることがあります。

肝切除の主な後遺症

肝切除を受けた患者では、術後しばらく強い倦怠感が続くことがあります。肝臓は再生能力を持つ臓器ですが、切除直後から元通りに働くわけではありません。特に背景に肝硬変がある患者では回復に時間がかかることがあります。仕事へ復帰できても以前と同じ体力に戻ったと感じられない患者もいますし、長時間労働や夜勤が負担になることもあります。

また、肝切除後には腹水が増えることがあります。腹部の張りや体重増加として現れ、利尿薬による調整が必要になる場合もあります。アルブミン低下によるむくみが目立つ患者もいます。こうした変化は命に直結する副作用ではないものの、日常生活では意外に大きな負担になります。

ラジオ波焼灼療法の副作用・合併症

ラジオ波焼灼ラジオ波焼灼療法療法は比較的身体への負担が少ない治療とされていますが、発熱や痛みが出ることがあります。数日で改善する患者が多いものの、病変の位置によっては横隔膜刺激による肩の痛みや違和感が続くこともあります。治療自体は短期間で終わっても、その後の画像検査で追加治療が必要になるケースもあり、「思ったより通院が続く」と感じる患者も少なくありません。

TACEの治療後症候群

TACEでは治療後症候群と呼ばれる反応がよくみられます。発熱、腹痛、食欲低下、吐き気などが代表的で、数日から1週間程度続くことがあります。腫瘍への血流を遮断する治療である以上、ある程度の炎症反応は避けられません。ただ、背景肝機能が低下している患者では、その影響が長引くことがあります。

肝細胞がんの患者で特に問題になりやすいのが栄養状態です。肝臓は栄養代謝の中心を担っているため、肝硬変が進行すると筋肉量が減少しやすくなります。近年はサルコペニアとの関連も重視されており、体重が保たれていても筋肉量が減っている患者は珍しくありません。治療中の食欲低下が続くと体力低下が加速し、その後の治療継続が難しくなることがあります。

分子標的薬の副作用

薬物療法では副作用の種類が大きく変わります。分子標的薬では高血圧、手足症候群、下痢、食欲低下、体重減少、倦怠感などが問題になることがあります。特に手足症候群は、手のひらや足の裏が赤くなったり痛んだりする症状で、歩行や家事に影響することがあります。仕事で長時間歩く人や立ち仕事の人では生活への影響が大きくなりやすい副作用です。

免疫チェックポイント阻害薬の副作用

免疫チェックポイント阻害薬では、一般的な抗がん剤とは異なる副作用が起こります。肺炎、腸炎、甲状腺機能異常、糖尿病、肝炎など、自分自身の免疫が正常組織を攻撃してしまう免疫関連有害事象が知られています。頻度は高くありませんが、発見が遅れると重症化することがあります。そのため治療中は「副作用が出たら我慢する」のではなく、小さな変化でも医療者へ伝えることが重要になります。

肝細胞がんでは、薬の副作用と肝機能低下の症状が区別しにくいこともあります。食欲低下や倦怠感、体重減少は薬剤によって起こることもあれば、肝機能悪化によって起こることもあります。患者本人でも原因を判断することは難しく、血液検査や画像検査を組み合わせながら経過を追う必要があります。

メンタルケアと生活面のリスク

生活面で見落とされやすいのが、再発への不安です。

肝細胞がんでは、一度治療が成功しても定期的なCTやMRIが続きます。診察日が近づくと落ち着かなくなる患者もいますし、採血結果や腫瘍マーカーの数値に強い不安を感じる患者もいます。肝細胞がんは再発率が比較的高い病気であるため、この不安が完全になくなることは少なくありません。

アルコールとの付き合い方も大きな問題になります。背景にアルコール性肝障害がある患者では禁酒が勧められることがありますが、長年の生活習慣を変えることは簡単ではありません。仕事上の付き合いや家族との食事など、医学的な説明だけでは解決できない問題もあります。

また、肝細胞がんでは就労への影響も少なくありません。定期的な通院、画像検査、入院治療を繰り返す患者もいます。体力低下によって仕事内容を調整せざるを得ない場合もありますし、自営業では収入そのものに影響することもあります。高齢患者では介護との両立が課題になることもあります。

治療を続けるために

肝細胞がん治療が難しいのは、がんだけを相手にしているわけではないからです。背景には慢性肝疾患があり、再発リスクがあり、肝機能低下の問題があります。そのため実際の診療では、「どの治療が最も強力か」よりも、「どの治療なら生活を維持しながら続けられるか」が重視される場面も少なくありません。

現在の肝細胞がん診療では、副作用が出ても無理に治療を続ける考え方は主流ではありません。薬剤の減量、休薬、治療変更、栄養介入、リハビリテーションなどを組み合わせながら、患者ごとの生活に合わせた調整が行われています。治療成績の向上だけでなく、治療を受けながらどのような生活を送れるかも、肝細胞がん診療の重要なテーマになっています。

肝臓がんのステージ別生存率と予後

肝細胞がんの予後を考えるとき、最初に目に入りやすいのは全体の5年相対生存率です。国立がん研究センターのがん統計では、肝臓がん全体の5年相対生存率は35.8%、2023年の罹患数は32,673例、2024年の死亡数は22,465人とされています。

数字だけを見ると厳しいがんに見えますが、この35.8%という全体平均だけで個人の見通しを判断することはできません。肝細胞がんでは、ステージ、腫瘍の数、血管侵襲、肝外転移に加えて、肝予備能が予後へ強く関わるからです。

出典:がん統計|国立がん研究センター

肝細胞がんの5年生存率

院内がん登録などをもとに整理されたステージ別データでは、肝細胞がんの5年生存率はステージⅠで56.3%、ステージⅡで41.5%、ステージⅢで14.8%、ステージⅣで4.2%とされています。

肝細胞がんの10年生存率

10年生存率になるとさらに差が広がり、ステージⅠでは30.8%、ステージⅡで18.5%、ステージⅢで5.9%、ステージⅣでは1.6%まで低下します。出典として利用されている院内がん登録生存率集計は、全国のがん診療病院から集められた予後情報に基づく集計であり、過去に診断・治療された患者集団の生存率を示すものです。

出典:院内がん登録生存率集計結果閲覧システム|がん情報サービス

ステージⅠの予後

ステージⅠの肝細胞がんでは、腫瘍が比較的限局しており、肝切除やラジオ波焼灼療法などで根治を目指せる患者がいます。5年生存率が56.3%まで保たれるのは、早期発見によって局所治療が成立しやすいことが関係しています。ただ、ステージⅠでも半数近くが5年後までに亡くなられているのは見過ごせません。

背景に肝硬変がある患者では、がんを治療できても肝機能低下が長期予後に影響します。さらに肝細胞がんでは、最初の病変を治療できても、別の場所に新しいがんが発生することがあります。早期で見つかった患者ほど、その後の定期検査が長く続く理由はここにあります。

ステージⅡの予後

ステージⅡでは、腫瘍が複数ある場合や、より大きな病変が含まれます。5年生存率はステージⅠから下がり、41.5%とされています。この段階でも根治的治療を検討できる患者はいますが、治療選択は一気に複雑になります。単発で肝機能が良好なら切除が検討される一方、多発していればTACEや焼灼療法を組み合わせることがあります。

肝細胞がんでは、同じステージⅡでも「切除できるⅡ」と「局所治療を重ねながら管理するⅡ」があり、数字の中にかなり幅があります。

ステージⅢの予後

ステージⅢになると、腫瘍数が多い、血管侵襲がある、肝内で広がりが強いといった状態が含まれます。5年生存率は14.8%まで下がります。特に門脈侵襲がある場合、病気の進行速度や治療選択に大きく影響します。

肝細胞がんは血流の多い臓器に発生するため、血管へ入り込むと肝内で広がりやすくなり、手術や焼灼療法だけで制御することが難しくなります。この段階ではTACE、薬物療法、場合によっては放射線治療などを組み合わせて病勢を抑える考え方になります。

ステージⅣの予後

ステージⅣでは、リンパ節転移や肺・骨などへの遠隔転移が認められます。5年生存率は4.2%とされ、統計上はかなり厳しい数字です。ただ、ステージⅣという言葉だけで治療可能性を判断する時代ではなくなっています。以前は進行肝細胞がんに使える薬剤が限られていましたが、現在はアテゾリズマブ+ベバシズマブ、デュルバルマブ+トレメリムマブ、レンバチニブ、ソラフェニブなど複数の薬物療法が使われるようになっています。

もちろん、すべての患者で長期コントロールできるわけではありません。薬剤への反応性、肝機能、副作用、全身状態によって経過は大きく変わります。日本肝臓学会の肝細胞癌診療ガイドラインでも、薬物療法アルゴリズムは肝予備能や病状を踏まえて組み立てられています。

参考:肝細胞癌診療ガイドライン|一般社団法人 日本肝臓学会

生存率の他に注意したい項目

肝予備能

肝細胞がんの生存率を見るときに、他のがん以上に注意したいのが肝予備能です。胃がんならステージⅢ、大腸がんならステージⅣといった病期が予後の中心になりますが、肝細胞がんでは同じステージでもChild-Pugh分類やALBIグレードによって見通しが変わります。

ステージⅠでもChild-Pugh Cに近い高度肝硬変があれば、積極治療が難しくなることがあります。反対に、進行例でも肝機能が保たれていれば薬物療法を継続できる患者がいます。肝細胞がんの予後は、「がんがどこまで進んだか」と「肝臓がどこまで耐えられるか」の両方で決まっていきます。

再発率

再発率の高さも、肝細胞がんの予後を考えるうえで避けられません。切除や焼灼療法で初回治療がうまくいっても、肝臓全体が発がんしやすい状態にある患者では、新しい病変が出てくることがあります。これは単純な取り残しだけではなく、慢性肝炎や肝硬変を背景にした多中心性発がんが関係します。早期に治療できた患者でも、治療後の超音波、CT、MRI、腫瘍マーカーによる監視が続くのはこのためです。

生存率はあくまで過去の結果

生存率は、患者にとって重い数字です。ステージⅢやⅣの数値を見ると、不安が強くなるのは自然です。ただ、生存率は過去に診断された集団の結果であり、個人の未来をそのまま断定するものではありません。生存率には重い併存疾患を持つ人も含まれ、治療の進歩によって現在の状況とは異なる可能性があります。

腫瘍が単発か多発か、血管侵襲があるか、肝外転移があるか、Child-Pugh分類やALBIグレードはどの程度か、食事や筋力を維持できているか、薬物療法を続けられる肝機能が残っているか。こうした条件によって、同じステージでも実際の経過は変わります。生存率は不安を増やすための数字ではなく、自分の病状を主治医と具体的に確認するための材料として扱う方が、治療選択に役立ちます。

標準治療の限界

肝細胞がんの治療は、この20年で大きく進歩しています。かつては切除できない肝細胞がんに対する選択肢が限られていましたが、現在はラジオ波焼灼療法やTACEに加え、分子標的薬や免疫療法も利用できるようになりました。その結果、以前なら治療困難と考えられていた病状でも長期間コントロールできる患者が増えています。

ただ、それでも肝細胞がんが難しい病気であることは変わっていません。その理由は、患者が抱えている問題が「がん」だけではないからです。

胃がんや大腸がんでは、治療の中心は基本的に「がんをどうするか」です。一方、肝細胞がんでは「がん」と「肝臓そのもの」の両方を相手にしなければなりません。患者の多くはB型肝炎、C型肝炎、アルコール性肝障害、NASH、肝硬変などを背景に発症しています。そのため診断時点で、すでに肝臓が十分な余力を失っていることも少なくありません。

肝細胞がん特有のジレンマ

ここで起きるのが、肝細胞がん特有のジレンマです。画像だけを見れば切除できそうな病変がある。焼灼療法もできそうに見える。TACEも技術的には可能かもしれない。しかし、治療によって残された肝機能が大きく低下する危険がある場合には、その治療を選べなくなります。

患者からすると非常に理解しにくい状況です。病変は確かに存在しているのに、その病変へ十分な治療ができない。医師も治療したいと考えているのに、肝臓がそれに耐えられない。

「がんは治療したい」

「でも肝臓が耐えられない」

という状況が珍しくありません。これは他のがんでは比較的少ない、肝細胞がん特有の難しさです。

さらに肝細胞がんでは、死亡原因が必ずしも「がんの進行」だけではありません。

肝不全のリスク

病気が進行すると、多くの患者は「がんが大きくなって亡くなる」と考えます。しかし肝細胞がんでは、肝不全そのものが生命予後を左右することがあります。黄疸が進み、腹水が増え、肝性脳症によって意識障害が出現し、肝臓が本来の働きを維持できなくなる。こうした経過によって亡くなる患者もいます。

つまり肝細胞がんでは、「がん死」と「肝不全死」という二つのリスクが同時に存在しているのです。

そのため治療では、単純に腫瘍だけを小さくすればよいわけではありません。がんへ強く介入すれば、その分だけ肝臓へ負担がかかることがあります。逆に肝臓を守ることを優先すれば、十分ながん治療ができなくなる場合があります。実際の診療では、この綱引きのようなバランス調整が続きます。

高い再発率

もう一つ、肝細胞がんの治療を難しくしているのが再発率の高さです。

現在の標準治療は非常に進歩していますが、再発を完全に防げるわけではありません。切除や焼灼療法によって病変を完全に治療できたように見えても、背景に肝炎や肝硬変が残っていれば、肝臓全体は依然として発がんしやすい状態にあります。そのため初回病変を取り除いたあとに、まったく別の場所から新しい肝細胞がんが発生することがあります。

これは取り残しとは限りません。むしろ肝細胞がんでは「最初のがんを治療したあとに、新しいがんが発生する」という現象が繰り返されることがあります。だからこそ、手術が成功したから終わり、焼灼療法が終わったから卒業、という形になりにくい。治療後も超音波、CT、MRI、腫瘍マーカーによる監視が続くのは、そのためです。

「がんを消す」から「がんと共存する」へ

病気が進行すると、治療目標そのものが変化することもあります。初期の肝細胞がんでは、切除や焼灼療法によって根治を目指します。しかし再発を繰り返し、病変が増え、門脈侵襲が現れ、肝外転移が出現すると、「完全に消す」ことが現実的ではなくなる場面があります。

この段階になると治療の目的は変わります。病変をゼロにすることではなく、病気の進行速度を抑えること。さらに進行すると、症状を抑えながら生活を維持することへ重点が移っていきます。患者や家族にとって、この変化を受け入れることは簡単ではありません。最初は治癒を目指していたはずなのに、いつの間にか「付き合いながら管理する病気」へ変わっていくからです。

ただ、これは治療を諦めることとは違います。進行肝細胞がんでも薬物療法によって病状を長期間コントロールしながら生活している患者がいます。仕事を続けている患者もいますし、外来通院だけで何年も治療を継続している患者もいます。現在の肝細胞がん診療では、「治るか治らないか」という二択だけでは病状を説明できなくなっています。

標準治療でどこまでできるのか

標準治療の限界を理解することは、標準治療を否定することではありません。

標準治療がどこまでできるのか、どこから先はまだ解決できないのかを知ることで、初めて現実的な治療選択ができるようになります。肝細胞がんは、現在の医療でも完全に克服された病気ではありません。それでも確実に治療成績は改善しており、多くの患者が以前より長く病気と向き合えるようになっています。

肝細胞がん診療で求められるのは、過度な楽観でも過度な悲観でもありません。病気の現実を理解しながら、その時点で最も利益が大きい治療を積み重ねていくことが、現在の標準治療の考え方です。

再発と転移

手術やラジオ波焼灼療法によって病変を完全に治療できたとしても、それで肝細胞がんとの関わりが終わるとは限りません。肝細胞がんは再発率の高いがんとして知られており、切除後の累積再発率は5年で60〜80%程度に達すると報告されています。多くの患者が治療後も長期間にわたって超音波、CT、MRI、AFP、PIVKA-IIなどによる経過観察を続けるのは、この再発率の高さがあるためです。

再発の種類

肝細胞がんの再発には、いくつかの異なる性質があります。ひとつは、初回治療の時点では画像に映らなかった微小病変が、時間をかけて大きくなってくるケースです。もうひとつは、慢性肝炎や肝硬変を背景にした肝臓から、新しい肝細胞がんが別の場所に発生するケースです。後者は厳密には「再発」というより新規発がんに近く、背景肝そのものが発がんしやすい状態にある肝細胞がんならではの特徴です。

この違いを理解しておくと、「治療したのにまた見つかった」という出来事の受け止め方も少し変わります。再発と聞くと、最初の治療で取り残しがあったのではないかと考えやすいですが、肝細胞がんでは必ずしもそうではありません。最初の病変を適切に治療できていても、残された肝臓に慢性肝障害が続いていれば、別の場所から新しいがんが発生することがあります。胃がんや大腸がんの再発とは違い、「一つのがんが戻ってくる」だけでなく、「傷んだ肝臓から次のがんが生まれる」という側面を持っています。

肝臓内で再発した場合、病変が小さく数も限られていれば、再び切除やラジオ波焼灼療法が検討されることがあります。病変が複数になっている場合には、TACEによって肝臓内の病変を制御することもあります。肝細胞がんでは、一度の治療で終わるというより、切除、焼灼、TACE、薬物療法を病状に応じて組み合わせながら長く付き合っていく患者も少なくありません。

門脈侵襲

転移についても、肝細胞がんでは血管との関係が重要になります。肝細胞がんは血流の豊富な肝臓に発生するため、進行すると門脈や肝静脈へ入り込むことがあります。門脈侵襲があると、肝臓内で病気が広がりやすくなり、治療方針や予後に大きく影響します。画像検査で門脈内に腫瘍栓が見つかると、切除や局所治療だけでは制御が難しくなり、薬物療法を含めた治療戦略へ移っていくことがあります。

肝外転移

肝外転移では、肺、骨、リンパ節、副腎などが問題になります。肺転移は定期CTで偶然見つかることもあり、初期には咳や息切れがほとんど出ない患者もいます。骨転移では腰痛や背部痛、股関節痛として現れることがあり、加齢や整形外科疾患と区別しにくい場合があります。痛みが続く、夜間に痛みが強い、これまでと違う部位の痛みが長引くといった変化がある場合には、単なる疲労や年齢のせいと決めつけずに確認が必要になります。

「再発したら終わり」では無い

再発や転移は、患者にとって非常に重い言葉です。採血結果を見るたびにAFPやPIVKA-IIの変化が気になり、CTやMRIの前になると眠れなくなる人もいます。肝細胞がんでは再発率が高いため、その不安が完全になくなることは多くありません。それでも現在の診療は「再発したら終わり」という考え方では動いていません。

再発した病変が小さければ再度の局所治療を行い、肝内病変が増えればTACEや薬物療法へ移り、肝外転移があれば全身治療を検討するというように、その時点の病状と肝機能に合わせて次の治療を組み立てていきます。

肝細胞がんでは、再発しない保証はありません。初回治療がうまくいっても、背景肝に発がんの土台が残っている限り、新しい病変が出てくる可能性があります。ただ、再発や転移が見つかることは、治療の終わりを意味するわけではありません。小さな変化を早く捉え、肝機能を保ちながら次の治療へつなげることが、肝細胞がんと長く向き合ううえで大きな意味を持ちます。

納得できる治療を選択するために

肝臓がんという診断を受けると、多くの人がまず「治るのか」「あとどれくらい生きられるのか」という疑問を抱きます。それは自然な反応です。しかし、ここまで見てきたように、肝臓がんは単純に一つの数字や一つの治療法だけで語れる病気ではありません。

同じ肝細胞がんでも、腫瘍の大きさや個数は人によって異なります。血管侵襲や転移の有無も違います。さらに肝臓がんでは、がんそのものだけでなく、背景にある肝炎や肝硬変、脂肪肝といった肝疾患の状態が治療選択に大きく影響します。ある患者では手術が第一選択になる一方で、別の患者では焼灼療法やTACE、薬物療法が中心になることもあります。同じステージであっても、肝予備能が違えば選べる治療は変わります。

そのため、「肝臓がんならこの治療が正解」という単純な答えは存在しません。

インターネットで情報を調べると、手術が最も良いという意見もあれば、最新の先進医療に期待を寄せる情報も見つかります。再発率の高さを強調する記事もありますし、生存率だけを切り取って説明しているページもあります。しかし、それらの情報だけで自分の状況を判断することは難しいのが現実です。

肝臓がんの治療では、「がんをどこまで制御できるか」と「肝機能をどこまで維持できるか」を同時に考えなければなりません。病変を小さくすることだけを優先すればよいわけではなく、その治療によって残された肝臓が耐えられるかどうかも重要になります。逆に肝機能を守ることだけを優先すれば、十分ながん治療ができなくなる場合もあります。診療の現場では、このバランスを取りながら治療方針が決められています。

肝臓がんは決して簡単な病気ではありません。しかし同時に、以前と比べて治療の選択肢は確実に増えています。診断名やステージという言葉だけで将来を決めつけるのではなく、自分の病状を正しく理解し、その時点で考えられる最善の治療を積み重ねていくことが、これからの治療と向き合ううえで大きな支えになるはずです。