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肺がんlung-cancer

ALK陽性肺がんは、非小細胞肺がんの一種で、がん細胞のALKという遺伝子が他の遺伝子と融合しているタイプの肺がんです。肺腺がんに多くみられ、若年、非喫煙者に多いという特徴があります。初期にはほとんど症状が出ませんが、進行すると咳が続く、血痰、息切れ、胸の痛み、体重減少などが現れます。ALKを狙い撃ちにする分子標的薬(ALK-TKI)がよく効く一方で、いずれ薬が効かなくなる「薬剤耐性」が課題となります。

本ページでは、ALK陽性肺がんの特徴や原因、症状、診断(コンパニオン診断・遺伝子検査)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • 非小細胞肺がんの一種で、若年・非喫煙者に多い
  • ALKを狙い撃ちにする分子標的薬(ALK-TKI)がよく効く
  • いずれ薬が効かなくなる薬剤耐性が、治療上の大きな課題

ALK陽性肺がんとは

肺がんは、がん細胞の見た目や性質によっていくつかのタイプに分けられます。

まず大きく「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」に分かれ、日本人の肺がんの多くは後者です。この非小細胞肺がんのなかにALK陽性肺がんが含まれます。

ALK(未分化リンパ腫キナーゼ)は、細胞の増殖に関わる遺伝子です。ALK単体では悪いことは起こりませんが、他の遺伝子と「融合」すると、増殖のスイッチが入りっぱなしになります。この異常を持つ肺がんが、ALK陽性肺がんです。そして非小細胞肺がんの中でも、肺腺がんに多くみられます。

ALK陽性肺がんは、非小細胞肺がんの約4~5%に認められると報告されています。頻度としては多くありませんが、ALK陽性肺がんは若年者や非喫煙者に多く、主に腺がんで認められることが知られています。45歳以下の若年患者を対象とした研究では、非小細胞肺がん患者の14.2%でALK陽性が認められました。

ALK陽性肺がんの原因

ALK陽性肺がんは、ALK遺伝子の融合がきっかけで発症しますが、その根本の原因はまだ解明されていません。ただ、融合が起きた結果として何が起こるかは分かっています。本来ばらばらに存在しているALK遺伝子が別の遺伝子(多くはEML4)と結合すると、異常なタンパク質が作られ増殖のシグナルを出し続けるため、細胞が止まらず増えていきます。

ここで、もうひとつ重要な遺伝子があります。がん細胞の暴走を食い止める「ブレーキ役」の、がん抑制遺伝子「p53(TP53)」です。p53はDNAに傷がついた細胞を修復させ、修復できないものは自然死(アポトーシス)へと導きます。p53が壊れると、傷ついた細胞が排除されずに生き残ってしまいます。

ALK陽性肺がんでは、このp53変異率が20~25%と報告されています。また、p53変異が併存した患者様は、併存しない患者様よりも予後が悪いと言われています。

つまりアクセル(ALK)が入りっぱなしであるだけでなく、ブレーキ(p53)まで故障してしまう場合があり、それが治療の難しさにつながっているのです。

ALK陽性肺がんの診断

「(無)症状」から「確定診断」まで

肺がんは、初期にはほとんど症状が出ません。ある程度進行してから、咳が続く、血痰、息切れ、胸の痛み、体重減少といった症状が現れます。ただ、これらは風邪でも起こるため、見過ごされがちです。健康診断の胸部X線検査やCT検査で、偶然発見される場合も少なくありません。

異常が疑われた場合、気管支鏡検査やCTガイド下針生検などで組織を採取し、がんかどうかを確定します。脳転移や全身転移の有無を調べるため、脳MRI検査やPET-CT検査も実施されます。

コンパニオン診断という重要なステップ

ALK陽性肺がんの診断で欠かせないのが、遺伝子検査です。採取したがん組織を使い、ALK融合遺伝子があるかどうかを調べます。免疫染色(IHC法)でALKタンパクの発現を見る方法と、FISH法で遺伝子の並びを直接調べる方法があります。この検査は「コンパニオン診断」と呼ばれ、分子標的薬が効くタイプかどうかを見極める役割を担います。また、組織が採れないときは、血液中のがん由来DNAを調べるリキッドバイオプシーを行う場合もあります。

ステージ(病期)の確定

肺がんのステージは、腫瘍の大きさと広がり(T)、リンパ節転移(N)、遠隔転移(M)を組み合わせてⅠ期~Ⅳ期に分類されます。ALK陽性肺がんは、診断時にすでに脳などへ転移した進行した状態で見つかることも多く、病期が予後を大きく左右します。

ALK陽性肺がんの一般的な治療法

早期であれば手術が主な治療法ですが、必要に応じて薬物療法を加えます。一方、診断時にすでに進行・転移している場合や、術後に再発した場合は、薬物療法が治療の中心になります。

ALK陽性肺がんの薬物療法で主役となるのが、分子標的薬の「ALK阻害薬(ALK-TKI)」です。異常なALKのシグナルをピンポイントで遮断する薬で、第一世代のクリゾチニブから、現在の標準治療である第二世代のアレクチニブ、さらに第三世代のロルラチニブまで、複数の世代があります。

ALK-TKIが効きにくくなった場合は、別の世代のALK-TKIへの変更や、抗がん剤(プラチナ製剤ベースの化学療法)が検討されます。

ALK陽性肺がんにおける保険診療の限界

ALK陽性肺がんにはALK-TKIという有効な標的薬があるとはいえ、保険診療にはいくつもの壁があります。

避けられない「耐性」の問題

 

アレクチニブを投与すれば、半数の方が約35ヶ月もの間腫瘍が増大しないとはいえ、裏を返せば、半数の患者様が3年前後で進行してしまうということです。また、ALK-TKIを使う患者様の最大4分の1は、治療開始から1年以内に進行するという報告もあります。

手術後の高い再発率

早期に発見され、手術で取りきれたとしても、ALK陽性肺がんは再発しうる疾患です。切除後の再発率は病期が進むほど高くなり、根治手術後も一定の割合で再発が生じます。

この再発を抑える目的で、近年は術後にアレクチニブを一定期間服用する補助療法が標準となりました。以前の化学療法に比べ、ステージII~IIIAでの2年間で再発しない患者様が約63%から約94%と治療成績が向上しました。しかし逆に言えばそれでもなお再発する患者様はいらっしゃるということです。

また、この補助療法で使うALK-TKIは、進行・再発した際の治療でも中心となる薬です。術後の段階で使うことは、いざ再発したときの切り札を先に投じておくことにもなり、その後の選択肢をどう組み立てるかという課題も残ります。

化学療法に伴う「きつい」副作用

ALK-TKIの中で代表的なアレクチニブの副作用は、肝機能障害(41%)、便秘(39%)、倦怠感(36%)、筋肉痛(31%)、むくみ(29%)、皮疹(23%)などが多くみられます。また、まれに間質性肺炎や、筋肉が破壊される副作用が生じることもあります。

さらに、ALK-TKIが効かなくなったあとに用いる抗がん剤では、吐き気、強い倦怠感、食欲不振、脱毛、骨髄抑制による感染症リスクなどが起こりえます。長期にわたる治療や薬の切り替えのなかで、身体的・精神的な負担から治療の継続が難しくなり、生活の質(QOL)が損なわれるリスクがあります。

ALK陽性肺がんで重要な新しい治療の考え方

ここまで述べたように、ALK陽性肺がんは分子標的薬がよく効く一方で、耐性や手術後の再発に対してどう治療戦略をたてるか、副作用のきつさ、などという固有の課題を抱えています。

がん中央クリニックグループでは、こうした課題に対して、標準治療とは作用の仕方が異なる治療を選択肢としてご提案しています。

分子レベルの異常にアプローチする「核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)」

がんの発生や進行に関わる分子レベルの異常へ直接働きかける「核酸医薬」は、世界的に研究と臨床応用が進んでいます。当グループでは治療選択肢として、「アプタマー」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を取り入れた治療を提供しております。

アプタマー核酸医薬」は、がん細胞に特有の異常なタンパク質にピンポイントで結合し、その働きをブロックすることで、がんの増殖抑制や死滅を狙う治療薬です。一方で「miR-34a mimic核酸医薬」は、がん化によって失われてしまった「体が本来持っているがんを抑制する力」を補い、がんの成長を止め、自然な細胞死(アポトーシス)を促す治療薬です。

ALK陽性肺がんでp53変異が高頻度に併存することは、先に述べたとおりです。miR-34a mimicは、miR-34aと同じ働きをする分子を外部から補充することで、p53というブレーキが壊れた細胞に対しても、その先の経路から直接ブレーキをかけ直すことを狙います。ALKという「アクセル」だけでなく、失われた「ブレーキ」の側から攻めるという発想です。

がん中央クリニックグループでは、がん種ごとに標的となる遺伝子を指定して核酸医薬を設計し、患者様一人ひとりの状態に合わせた治療をご提案しています。複数の核酸医薬を組み合わせて使い分けられる点も、特徴のひとつです。

免疫の「盾」を外す「ハイブリッド免疫療法」

ハイブリッド免疫療法は、がん細胞が免疫の攻撃から逃れるために使う「盾」、すなわち免疫ブロックタンパク質「PD-L1」を標的とする治療です。

ALK陽性肺がんでは、標準の免疫療法が効きにくいですが、PD-L1自体は一定の割合で発現しています。

ALK陽性肺がんでのPD-L1陽性率(TPS≥1%)は50%と報告されています。標準の免疫チェックポイント阻害薬がうまく働きにくいこのタイプにこそ、PD-L1へ別の角度からアプローチする意義があると考えています。

ハイブリッド免疫療法は、このPD-L1を内側と外側の両方から無力化します。まず、がん細胞の表面に出ているPD-L1に結合し、免疫の攻撃を妨げる「盾」を取り払います。さらに、がん細胞の中に入り込んで、これから作られるPD-L1の設計図(mRNA)を分解し、新たな「盾」が生まれるのを防ぎます。攻撃を逃れる術を失ったがん細胞を、患者様ご自身の免疫細胞が敵として認識し、攻撃できるようになるという仕組みです。

関連ページ:HER2をターゲットにした”がんのピンポイント治療薬”|分子標的ワクチン療法

当グループのがん治療をおすすめする患者様

当グループで実施可能な治療法は、ほとんどの患者様にご検討いただけます。以下では、どのような患者様に効果が期待できるのかを解説します。ご自身の状況に照らし合わせてご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

ALK陽性肺がんでは、ALK-TKIへの耐性や免疫療法が効きにくいといった理由から、保険診療の選択肢が行き詰まることがあります。特に、複数のALK-TKIを使い切ってしまい、次の手立てが見つからない患者様は少なくありません。

そうした場合でも、核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)とハイブリッド免疫療法なら、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供できます。これらは目立った副作用が現れにくく体への負担が少ないため、「体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方にも、1つの治療の選択肢となり得ます。

また、まだ体力があるのに選択肢がなくなり、緩和治療を勧められている方にとっても、新たな選択肢として検討いただけます。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

核酸医薬とハイブリッド免疫療法は、ALK-TKIや抗がん剤と併用でき、相乗効果が期待できます。化学療法や分子標的薬がすでに存在するタンパク質やシグナルに作用するのに対し、核酸医薬はそれらが作られる前の遺伝子レベルに作用します。

ハイブリッド免疫療法は、PD-L1という別の標的を叩きます。攻撃するポイントが異なるため、組み合わせることでより高い効果が期待できると考えています。

このように、ALK陽性肺がんの完治を目指すには、複数の治療法を組み合わせることが重要と考えています。標準治療を受けている患者様にとっても、これらの併用は選択肢のひとつとして検討可能です。

関連ページ:がん細胞を“内からも外からも”攻撃する次世代の二刀流療法|ハイブリッド免疫療法

再発を抑制・防止するために手術前後の患者様

早期がんで手術を受けた場合でも、ALK陽性肺がんは再発しうる疾患です。手術後にALK-TKIを用いる補助療法で再発リスクは下がりますが、それでも再発する患者様は残ります。またALK-TKIには副作用があり、体力に不安のある患者様には術後の補助療法が難しいこともあります。

こうした背景から、手術前後に核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)とハイブリッド免疫療法を併用することは、再発リスクを下げ生存率を高めるひとつの選択肢として検討いただけます。

副作用が不安な患者様

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)とハイブリッド免疫療法は、目立った副作用が起こりにくい治療です。ALK-TKIや化学療法で起きやすい肝機能障害、便秘、倦怠感、筋肉痛、嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。核酸医薬の副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などが挙げられます。ハイブリッド免疫療法では、治療部位の反応などが見られることがあります。

解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半で、治療の継続に支障をきたすことはありません。「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」という方にも受けていただける治療です。

ALK陽性肺がんの完治を目指して、保険診療と患者様に合った治療を組み合わせる

ALK陽性肺がんは、分子標的薬がよく効くタイプである一方、耐性や手術後再発という壁が立ちはだかる疾患です。しかし、適切に治療を行えば完治を目指せる疾患でもあります。

発症要因にALKやp53といった遺伝子異常があるため、保険診療と核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、ハイブリッド免疫療法などを組み合わせる集学的治療が有効な選択肢となります。保険診療だけではカバーしきれない場合でも、これらの治療によって腫瘍縮小効果や再発抑制効果が期待できます。

がん中央クリニックグループでは、こうした「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがん治療をご提案いたします。ALK陽性肺がんの患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。

EGFR遺伝子変異陽性肺がんは、非小細胞肺がんの一種で、がん細胞の増殖に関わる「EGFR」という遺伝子に変異が起きているタイプの肺がんです。肺腺がんに多くみられ、非喫煙者、女性、東アジア人に多いという特徴があります。初期にはほとんど症状が出ませんが、進行すると咳が続く、血痰、息切れ、胸の痛み、体重減少などが現れます。EGFRを狙い撃ちにする分子標的薬(EGFR-TKI)がよく効く一方で、いずれ薬が効かなくなる「薬剤耐性」が課題となります。

本ページでは、EGFR遺伝子変異陽性肺がんの特徴や原因、症状、診断(コンパニオン診断・遺伝子検査)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • 非小細胞肺がんの一種で、非喫煙者・女性・東アジア人に多い
  • EGFRを狙い撃ちにする分子標的薬(EGFR-TKI)がよく効く
  • いずれ薬が効かなくなる薬剤耐性が、治療上の大きな課題

EGFR遺伝子変異陽性肺がんとは

肺がんは、がん細胞の見た目や性質によっていくつかのタイプに分けられます。まず大きく「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」に分かれ、日本人の肺がんの多くは後者です。

この非小細胞肺がんのなかに、EGFR遺伝子変異陽性肺がんが含まれます。

EGFR(上皮成長因子受容体)は、細胞の表面にある増殖のシグナルを受け取るタンパク質です。このEGFRを生み出す遺伝子に変異が起きると、がん細胞が限りなく増えていきます。この変異を持つ肺がんが、EGFR遺伝子変異陽性肺がんです。そして非小細胞肺がんの中でも、肺腺がんに多くみられます。

EGFR変異が起きやすい方は、非喫煙者、女性、そして東アジア人です。

世界的な研究では、EGFR変異の頻度は全体で32.3%、女性で43.7%(男性24.0%)、非喫煙者で49.3%(喫煙者21.5%)、腺がんで38.0%(非腺がん11.7%)と報告されています。

EGFR遺伝子変異陽性肺がんの原因

肺がん全般では喫煙が最大の危険因子とされますが、EGFR変異陽性肺がんは、タバコをまったく吸わない人にも高い頻度で発症します。

なぜEGFR遺伝子に変異が起こるのか、その根本的な原因はまだ解明されていません。ただ、変異が起きた結果としてその細胞が増殖することは分かっています。正常なEGFRは、体からの指令を受けたときだけ増殖のシグナルを送ります。しかし変異したEGFRは、指令がなくても勝手にシグナルを出し続けるため、細胞が止まらず増殖していきます。

ここで、もうひとつ重要な遺伝子があります。がん細胞の暴走を食い止める「ブレーキ役」の、がん抑制遺伝子「p53(TP53)」です。p53はDNAに傷がついた細胞を修復させ、修復できないものは自然死(アポトーシス)へと導きます。p53が壊れると、傷ついた細胞が排除されずに生き残ってしまいます。

EGFR変異陽性肺がんでは、このTP53変異が高い割合で見られます。その頻度は、約26~40%の範囲と報告されています。

さらに、EGFR変異に対する治療を行った患者様でTP53変異も見られた患者様は、予後が悪いとの研究結果もあります。

つまりアクセル(EGFR)が壊れているだけでなく、ブレーキ(p53)まで故障してしまう場合があり、それが治療の難しさにつながっているのです。

関連ページ:ゲノムの守護神 p53の代わりとして働く「miRNA mimic 核酸医薬」

EGFR遺伝子変異陽性肺がんの診断

「(無)症状」から「確定診断」まで

肺がんは、初期にはほとんど症状が出ません。ある程度進行してから、咳が続く、血痰、息切れ、胸の痛み、体重減少といった症状が現れます。ただ、これらは風邪や気管支炎でも起こるため、見過ごされがちです。健康診断の胸部X線検査やCT検査で、偶然発見される場合も少なくありません。

異常が疑われた場合、気管支鏡検査やCTガイド下針生検などで組織を採取し、がんかどうかを確定します。脳転移や全身転移の有無を調べるため、脳MRI検査やPET-CT検査も実施されます。

コンパニオン診断という重要なステップ

EGFR変異陽性肺がんの診断で欠かせないのが、遺伝子検査です。採取したがん組織を使い、EGFR遺伝子に変異があるかどうかを調べます。この検査は「コンパニオン診断」と呼ばれ、分子標的薬が効くタイプかどうかを判断します。また、組織が採れないときは、血液中を流れるがん由来のDNAを調べるリキッドバイオプシーを行う場合もあります。

ステージ(病期)の確定

肺がんのステージは、腫瘍の大きさと広がり(T)、リンパ節転移(N)、遠隔転移(M)を組み合わせてⅠ期~Ⅳ期に分類されます。EGFR変異陽性肺がんは、脳や骨などへ転移した進行した状態で見つかることも多く、病期が予後を大きく左右します。

EGFR遺伝子変異陽性肺がんの一般的な治療法

早期であれば手術が主な治療法ですが、必要に応じて薬物療法を加えます。一方、診断時にすでに進行・転移している場合や、術後に再発した場合は、薬物療法が治療の中心になります。

EGFR変異陽性肺がんの薬物療法で主役となるのが、分子標的薬の「EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)」です。暴走するEGFRのシグナルをピンポイントで遮断する薬で、様々な種類の薬物(オシメルチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブなど)が開発されています。

また、EGFR-TKIが効きにくくなった場合や、変異のタイプによっては、抗がん剤(プラチナ製剤などの化学療法)や、状況に応じた免疫療法が検討されます。

EGFR遺伝子変異陽性肺がんにおける保険診療の限界

避けられない「耐性」の問題

EGFR-TKIは高い効果を示す一方で、多くの患者様でいずれ効かなくなります。これが「薬剤耐性」です。

がん細胞が薬から逃れる別の経路を見つけ出し、再び増え始めてしまいます。

例えば、オシメルチニブというEGFR-TKIは高い効果を示しますが、無増悪生存期間の中央値は18.9ヶ月でした。逆に言えば、約1.5年で薬剤耐性がついてしまい病勢が進行するということです。また、耐性が生じるメカニズムは多様で、そのすべてに有効な次の一手が用意されているわけではありません。

手術後の高い再発率

早期に発見され、手術で取りきれたとしても、EGFR変異陽性肺がんは再発しうる疾患です。切除後の再発率はおよそ70%と報告されています。

この再発を抑える目的で、近年は術後にオシメルチニブを一定期間服用する補助療法が行われます。これにより手術後4年後の再発率は30%にまで下がりました。

大きな進歩ではありますが、裏を返せば、補助療法を行ってもなお再発を経験する患者様が10人中3人は残るということでもあります。また、この補助療法で使うオシメルチニブは、進行・再発した際の一次治療でも中心となる薬です。術後補助療法の段階で使うことは、いざ再発したときに切り札の一つを先に投じておくことにもなり、その後の選択肢をどう組み立てるかという課題も残ります。

EGFR-TKIや化学療法に伴う「きつい」副作用

代表的なEGFR-TKIであるオシメルチニブによる治療では、日常生活に支障をきたすほどの重い副作用が、およそ3人に1人にみられたと報告されています。

例えば、下痢、皮疹やにきびのような皮膚症状、爪の周りの炎症(爪囲炎)、口内炎などが多くみられ、まれに間質性肺炎という重い副作用が生じることもあります。

また、EGFR-TKIが用いられた後に用いる抗がん剤では、吐き気、強い倦怠感、食欲不振、脱毛、骨髄抑制による感染症リスクなどが起こりえます。長期にわたる治療や薬の切り替えのなかで、身体的・精神的な負担から治療の継続が難しくなり、生活の質(QOL)が損なわれるリスクがあります。

EGFR遺伝子変異陽性肺がんで重要な新しい治療の考え方

ここまで述べたように、EGFR変異陽性肺がんは分子標的薬がよく効く一方で、耐性の問題や手術後再発率の高さ、副作用のきつさという固有の課題を抱えています。

がん中央クリニックグループでは、こうした課題に対して、標準治療とは作用の仕方が異なる治療を選択肢としてご提案しています。

分子レベルの異常にアプローチする「核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)」

がんの発生や進行に関わる分子レベルの異常へ直接働きかける「核酸医薬」は、世界的に研究と臨床応用が進んでいます。当グループでは治療選択肢として、「アプタマー」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を取り入れた治療を提供しております。

アプタマー核酸医薬」は、がん細胞に特有の異常なタンパク質にピンポイントで結合し、その働きをブロックすることで、がんの増殖抑制や死滅を狙う治療薬です。一方で「miR-34a mimic核酸医薬」は、がん化によって失われてしまった「体が本来持っているがんを抑制する力」を補い、がんの成長を止め、自然な細胞死(アポトーシス)を促す治療薬です。

EGFR変異陽性肺がんでTP53変異が高頻度に併存することは、先に述べたとおりです。miR-34a mimicは、miR-34aと同じ働きが期待できる分子を外部から補充することで、p53というブレーキが壊れた細胞に対しても、その先の経路から直接ブレーキをかけ直すことを狙います。EGFRという「アクセル」だけでなく、失われた「ブレーキ」の側から攻めるという発想です。

がん中央クリニックグループでは、がん種ごとに標的となる遺伝子を指定して核酸医薬を設計し、患者様一人ひとりの状態に合わせた治療をご提案しています。複数の核酸医薬を組み合わせて使い分けられる点も、特徴のひとつです。

HER2を標的にする「分子標的ワクチン療法」

分子標的ワクチン療法は、がんの増殖・浸潤・転移に関わるタンパク質「HER2」を標的にした、当グループで施術可能な治療法です。

EGFR変異陽性肺がんに対して、なぜHER2を狙う治療が意味を持つのか。ここには、EGFRとHER2の深い関係があります。

HER2は、EGFRと同じ受容体チロシンキナーゼファミリーに属する仲間です。EGFRは単独でもシグナルを送りますが、HER2と手を組んでペアになると、より強力に増殖シグナルを伝えることが知られています。さらに、HER2の遺伝子増幅は、EGFR-TKIに対する耐性の主要なメカニズムのひとつとしても報告されています。つまりHER2は、EGFR変異陽性肺がんにおいて、増殖を後押しする共犯者であり、EGFR-TKIへの耐性獲得を手助けする可能性もある存在なのです。

この治療では、HER2タンパク質の機能部位ペプチド2種類をワクチンとして筋肉注射します。狙いは、患者様自身の体内でHER2に対する抗体をつくらせることです。

体内でHER2に対する抗体がつくられると、HER2がEGFRをはじめとする仲間と手を組むことができなくなり、増殖・浸潤・転移を促すシグナルの伝達が抑えられます。さらに、抗体がくっついたがん細胞を免疫細胞が攻撃するという効果も期待されます。

直接EGFRを阻害する薬ではありませんが、EGFRによる細胞増殖経路にも間接的に影響を与えます。そのため、腫瘍縮小への効果が期待できる可能性があります。

関連ページ:HER2をターゲットにした”がんのピンポイント治療薬”|分子標的ワクチン療法

当グループのがん治療をおすすめする患者様

当グループで実施可能な治療法は、ほとんどの患者様にご検討いただけます。以下では、どのような患者様に効果が期待できるのかを解説します。ご自身の状況に照らし合わせてご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

EGFR変異陽性肺がんでは、EGFR-TKIへの耐性やきつい副作用などが原因で、保険診療の選択肢が行き詰まることがあります。特に、複数のEGFR-TKIを使い切ってしまい次の手立てが見つからない患者様は少なくありません。

そうした場合でも、核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法などであれば、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供できます。これらは目立った副作用が現れにくく体への負担が少ないため、「体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方にも、1つの治療の選択肢となり得ます。

また、まだ体力があるのに選択肢がなくなり、緩和を勧められている方にとっても、新たな選択肢として検討いただけます。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

核酸医薬と分子標的ワクチン療法は、EGFR-TKIや抗がん剤と併用でき、相乗効果が期待できます。化学療法や分子標的薬がすでに存在するタンパク質やシグナルに作用するのに対し、核酸医薬はそれらが作られる前の遺伝子レベルに作用します。攻撃するポイントが異なるため、組み合わせることでより高い効果が期待できるのです。

このように、EGFR変異陽性肺がんの完治を目指すには、複数の治療法を組み合わせることが重要と考えています。標準治療を受けている患者様にとっても、これらの併用は選択肢のひとつです。

再発を抑制、防止するため。手術前後のすべての患者様

早期がんで手術を受けた場合でも、EGFR変異陽性肺がんは再発しうる疾患です。手術後にEGFR-TKI(オシメルチニブ)を用いると4年無病生存率は約70%まで改善しますが、裏を返せば、それでも30%の患者様は再発するリスクがあるということです。

またEGFR-TKIには副作用があるため、体力に不安のある高齢の患者様には、術後の補助療法が難しいこともあります。

こうした背景から、手術前後に核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法を併用することは、再発リスクを下げるひとつの選択肢として検討いただけます。

副作用が不安な患者様

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法は、目立った副作用が起こりにくい治療です。EGFR-TKIや化学療法で起きやすい下痢、皮疹、嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。核酸医薬の副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などが挙げられます。分子標的ワクチン療法では、注射部位反応(赤み、腫れ、痛みなど)、疲労感、発熱が見られることがあります。

解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半で、治療の継続に支障をきたすことはありません。「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」という方にも受けていただける治療です。

EGFR遺伝子変異陽性肺がんの完治を目指して、保険診療と患者様に合った治療を組み合わせる

EGFR変異陽性肺がんは、分子標的薬がよく効くタイプである一方、耐性や副作用、手術後再発という壁が立ちはだかる疾患です。しかし、適切に治療を行えば完治を目指せる疾患でもあります。

発症要因にEGFRやp53といった遺伝子異常があるため、保険診療と核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、分子標的ワクチン療法などを組み合わせる集学的治療が有効な選択肢となります。保険診療だけではカバーしきれない場合でも、これらの治療によって腫瘍縮小効果や再発抑制効果が期待できます。

がん中央クリニックグループでは、こうした「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがん治療をご提案いたします。EGFR遺伝子変異陽性肺がんの患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。

肺がんは、気管支や肺胞などの細胞から発生するがんです。2023年に国内で新たに肺がんと診断された人は12万3,989例、2024年に肺がんで死亡した人は7万5,569人でした。

2018年に診断された15歳以上の肺がん患者における5年生存率は39.6%と報告されています。ただし、この数字は非小細胞肺がんと小細胞肺がん、すべてのステージを合わせた全国統計であり、個人の治りやすさや余命を示すものではありません。

肺がんは、早期には症状がほとんど現れないことがあります。咳、痰、血痰、息切れ、胸の痛みなどがきっかけで見つかる場合もありますが、症状の強さと進行度は必ずしも一致しません。肺の奥にできた小さながんでは症状が出ない一方、気管支の近くにできたがんでは、比較的早い段階から咳や血痰が現れることがあります。

肺がんの治療を決めるうえでは、ステージだけでなく、非小細胞肺がんと小細胞肺がんのどちらか、腺がんや扁平上皮がんなどの病理型、がん細胞の遺伝子異常、PD-L1発現、呼吸機能、全身状態を確認します。同じステージでも、これらの結果によって選ばれる治療が異なります。

この記事では、肺がんの種類、原因とリスク、検診、症状、検査、ステージに加え、非小細胞肺がんと小細胞肺がんの治療の違いを解説します。遺伝子・バイオマーカー検査、手術、放射線治療、薬物療法、治療の副作用、ステージ別の生存率についても、検査結果を治療選択へどうつなげるかという視点から整理します。

参考:肺|国立がん研究センター がん統計
参考:2018年全国がん登録5年生存率報告|厚生労働省

  • 肺がんは、非小細胞肺がんと小細胞肺がんで治療方針が大きく異なる
  • 早期には症状がないことがあり、症状の強さだけでは進行度を判断できない
  • 治療はステージ、病理型、遺伝子異常、PD-L1、呼吸機能などから決める

肺がんとは何か

肺がんは、気管支や肺胞などの細胞ががん化し、制御されずに増殖する病気です。がんが大きくなると、気管支を狭くしたり、正常な肺組織を圧迫したりして、咳、血痰、息切れ、肺炎などを引き起こすことがあります。

さらに進行すると、胸膜や胸壁、縦隔など肺の周囲へ広がるほか、リンパ液や血液の流れに乗って、脳、骨、肝臓、副腎などへ転移する場合があります。

肺がんは、顕微鏡で確認したがん細胞の形や性質によって、非小細胞肺がん小細胞肺がんに大きく分けられます。この区別は名称の違いだけではなく、進行の速さ、転移のしやすさ、手術の適応、薬物療法や放射線治療への反応が異なるため、治療方針を決める出発点になります。

参考:肺がんについて|国立がん研究センター がん情報サービス

非小細胞肺がん

非小細胞肺がんは肺がん全体の約80〜85%を占め、主に腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなどに分けられます。

腺がんは肺の奥にある肺野に発生しやすく、非喫煙者にもみられます。小さいうちは咳などの症状が出にくく、検診やほかの病気の検査で偶然見つかる場合があります。EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子など、治療対象となる遺伝子異常が見つかることがあるため、進行例では遺伝子検査が特に重要です。

扁平上皮がんは、肺の入り口に近い太い気管支に発生することがあり、喫煙との関連が強い病理型です。気管支が狭くなることで、咳、血痰、息切れ、同じ場所に繰り返す肺炎などが現れる場合があります。

非小細胞肺がんの治療は、切除可能な早期・局所進行例では手術を中心に考え、必要に応じて手術前後の薬物療法を組み合わせます。切除できないステージ3では化学放射線療法など、ステージ4・再発では遺伝子異常やPD-L1発現などに応じた薬物療法が中心になります。

肺がんステージ4の病状、遺伝子検査、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、生存率については、以下の記事で詳しく解説しています。

小細胞肺がん

小細胞肺がんは非小細胞肺がんより頻度は低いものの、増殖が速く、早い段階からリンパ節やほかの臓器へ広がりやすいという特徴があります。喫煙との関連が強く、診断時にすでに胸部の広い範囲や遠隔臓器へ病変が及んでいる場合もあります。

治療方針を決める際はTNM分類によるステージに加え、病変が一つの放射線照射範囲に収まる限局型と、それを超えて広がっている進展型という分類が広く使われます。

ごく早期でリンパ節転移がない一部の患者さんでは手術を検討しますが、多くの限局型では薬物療法と胸部放射線治療を組み合わせます。進展型では、プラチナ製剤とエトポシドへ免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせる薬物療法が主な選択肢です。

小細胞肺がんは薬物療法や放射線治療によって大きく縮小することがある一方、再発しやすい性質もあります。限局型・進展型の治療、再発時の治療、放射線治療、生存率については、以下の記事で詳しく解説しています。

非小細胞肺がんと小細胞肺がんでは、標準となる治療の組み立てが異なります。診断を受けた際には、「肺がんです」という説明だけでなく、病理型、ステージ、手術の可否、治療選択に必要な遺伝子・バイオマーカー検査について確認することが大切です。

参考:肺癌診療ガイドライン2025年版|日本肺癌学会

肺がんの原因とリスク

肺がんは、一つの原因だけで発症する病気ではありません。年齢を重ねる中で細胞の遺伝子に変化が蓄積し、喫煙、受動喫煙、職業上の有害物質への曝露、慢性の肺疾患などが重なって発症すると考えられています。

肺がんの最も重要な危険因子は喫煙です。喫煙本数が多いほど、また喫煙を続けた期間が長いほど、肺がんの発症リスクは高くなります。国立がん研究センターによると、喫煙者は非喫煙者と比べ、男性で4.4倍、女性で2.8倍、肺がんになりやすいとされています。

ただし、肺がんは喫煙者だけが発症する病気ではありません。たばこを吸ったことがない人にも肺がんは発生し、とくに肺腺がんでは非喫煙者の患者さんもみられます。喫煙歴がないことだけを理由に、長引く咳や血痰などの症状を放置しないことが大切です。

参考:肺がん 予防・検診|国立がん研究センター がん情報サービス

受動喫煙や職業・環境による曝露

周囲のたばこの煙を吸い込む受動喫煙も、肺がんの発症リスクを高めます。国立がん研究センターでは、受動喫煙によって肺がんのリスクが2~3割程度高くなるとしています。

そのほか、アスベスト、シリカ、ディーゼル排気、金属や化学物質などへ仕事を通じて長期間さらされた場合にも、肺がんのリスクが高くなることがあります。屋外・屋内の大気汚染も、肺がんの危険因子の一つです。

過去に建設、解体、造船、断熱材の施工、鉱業、金属加工などに従事していた場合は、喫煙歴だけでなく、どのような粉じんや化学物質を扱っていたかも医師へ伝えます。喫煙とほかの有害物質への曝露が重なると、リスクがさらに高まる可能性があります。

慢性の肺疾患や家族歴

慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺炎、肺結核などの肺疾患がある人では、肺がんの発症リスクが高くなることが報告されています。もともと咳や息切れがあると、肺がんによる変化に気付きにくいこともあるため、症状の悪化や画像の変化を定期的に確認します。

肺がんになった血縁者がいることも、リスクを考える材料の一つです。ただし、家族歴には遺伝的な体質だけでなく、喫煙や受動喫煙など共通する生活環境が影響している場合もあります。家族に肺がん患者がいるからといって、必ず発症するわけではありません。

危険因子がある人すべてが肺がんになるわけではなく、明らかな危険因子がない人にも発症します。肺がんと診断された理由を一つに決めつけたり、喫煙歴だけを理由に本人を責めたりすることは適切ではありません。

禁煙は肺がん予防と治療の両方に関係する

肺がんを予防するうえで最も有効な行動は、たばこを吸わないことと、現在吸っている場合に禁煙することです。禁煙を始めた後もリスクがすぐに非喫煙者と同じになるわけではありませんが、喫煙を続ける場合と比べて徐々に低下します。

すでに肺がんと診断された後でも、禁煙には意味があります。治療中の呼吸器合併症を減らし、手術後の回復や呼吸機能を保つためにも、できるだけ早く禁煙を始めます。自力での禁煙が難しい場合は、禁煙外来などの支援を利用できます。

参考:Lung Cancer Prevention|米国国立がん研究所
参考:Lung Cancer|国際がん研究機関

肺がん検診と症状がある場合の受診

肺がんは早期には自覚症状がないことがあるため、症状のない人が定期的に検診を受けることには意味があります。一方、すでに咳や血痰などの症状がある人は、がん検診ではなく、医療機関で診断を目的とした検査を受ける必要があります。

40歳以上は年1回の肺がん検診が推奨

日本の対策型肺がん検診は、症状のない40歳以上の男女を対象に、年1回行われます。基本的な検査は問診と胸部X線検査です。

50歳以上で、現在または過去の喫煙指数が600以上の人には、胸部X線検査に加えて喀痰細胞診(かくたんさいぼうしん)を行います。喫煙指数は、次のように計算します。

喫煙指数=1日に吸うたばこの本数×喫煙した年数

例:1日20本を30年間吸った場合は、20×30=600となる。

検診結果が「要精密検査」となった場合は、症状がなくても必ず精密検査を受けます。もう一度胸部X線検査を受けて異常がなければよい、というものではありません。必要に応じて胸部CTなどで確認します。

参考:肺がん検診について|国立がん研究センター がん情報サービス

症状がある場合は検診を待たない

血痰、長引く咳、胸の痛み、声のかれ、息切れなどがある場合は、次の検診を待たずに呼吸器内科などを受診してください。がん検診は、原則として症状のない人から肺がんの可能性がある人を見つけるためのものです。

胸部X線検査で異常なしと判定されても、肺がんを完全に否定できるわけではありません。症状が続く場合や、過去の画像と比べて変化が疑われる場合には、診察を受け、胸部CTなどが必要かを相談します。

低線量CT検診は全国一律の検診ではない

低線量CTは、通常の診断用CTより放射線量を抑えて肺を撮影する検査で、重喫煙者の肺がんを早期に発見する方法として検討されています。

2026年度から、重喫煙者を対象とした低線量CT肺がん検診の実証事業が、一部の地域で行われています。ただし、現時点で全国すべての自治体に導入された対策型検診ではありません。対象条件や実施地域は限られているため、住んでいる自治体や医療機関へ確認します。

低線量CTは胸部X線より小さな結節を発見しやすい一方、がんではない影が見つかって追加検査が必要になることや、経過観察が長く続くこともあります。検査を受ける際は、利益だけでなく、偽陽性、過剰診断、放射線被曝などの不利益についても説明を受けます。

参考:低線量CT肺がん検診|日本肺癌学会

肺がんの主な症状と受診の目安

肺がんは、早期には症状がないことも多く、検診やほかの病気の画像検査で偶然見つかる場合があります。一方、がんができた場所によっては、比較的小さい段階から咳や血痰などが現れます。

肺がんの主な症状は、咳、痰、血痰、胸の痛み、動いたときの息苦しさ、動悸、発熱、声のかれなどです。ただし、これらは肺炎、気管支炎、COPDなどでも起こるため、症状だけで肺がんかどうかを判断することはできません。

国立がん研究センターでは、原因が分からない咳や痰が2週間以上続く場合、血痰が出た場合、発熱が5日以上続く場合には、早めに医療機関を受診するよう案内しています。

参考:肺がんについて|国立がん研究センター がん情報サービス

がんができた場所によって症状は異なる

太い気管支の近くにがんができると、気道が刺激されたり狭くなったりするため、咳、痰、血痰、喘鳴などが現れやすくなります。気管支がふさがれると、その先の肺に空気が入りにくくなり、同じ場所に肺炎を繰り返すこともあります。

一方、肺の奥にある肺野にできたがんは、ある程度大きくなるまで症状が出ないことがあります。肺を包む胸膜や胸壁まで広がると胸の痛みが現れ、胸水がたまると息苦しさが強くなる場合があります。

症状が軽いことは、がんが早期であることを意味しません。反対に、咳や胸の痛みがあるからといって、必ず進行肺がんであるとも限りません。症状の程度ではなく、画像検査や病理検査によって病状を確認します。

胸部の周囲へ広がったときに現れる症状

肺がんや胸部リンパ節の病変が周囲の神経、気管、食道、血管などを圧迫すると、次のような症状が現れることがあります。

  • 声のかれ:声帯を動かす神経が影響を受けた場合
  • 飲み込みにくさ:食道が圧迫された場合
  • 強い息苦しさ:気管や太い気管支が狭くなった場合
  • 顔、首、腕の腫れ:上半身から心臓へ戻る血液の流れが妨げられた場合
  • 肩から腕にかけての痛みやしびれ:肺の上部にあるがんが神経へ広がった場合

とくに、顔や首、片側または両側の腕が急に腫れる、首や胸の表面の血管が浮き出る、頭が重い、息苦しいといった症状は、上大静脈症候群の可能性があります。病変によって太い静脈の流れが妨げられていることがあるため、早急な診察が必要です。

転移した場所によって肺以外の症状も現れる

肺がんは、脳、骨、肝臓、副腎などへ転移することがあります。最初に現れる症状が咳や息切れではなく、転移した臓器による症状である場合もあります。

脳転移では、頭痛、吐き気、ふらつき、物が二重に見える、けいれん、片側の手足に力が入らない、言葉が出にくい、性格や行動が変化するなどの症状が現れることがあります。

骨転移では、背中、腰、肩、肋骨などの痛みが続くことがあります。骨が弱くなると、軽い動作や転倒で骨折することもあります。脊椎への転移が脊髄を圧迫すると、足のしびれや脱力、歩行困難、排尿・排便障害が現れる場合があります。

肝転移では、初期には症状がないこともありますが、病変が広がると、食欲低下、強いだるさ、腹部の張り、黄疸などが現れることがあります。

ステージ4肺がんの転移部位、治療、生存率については、以下の記事で詳しく解説しています。

予約日を待たずに相談・受診する症状

次の症状がある場合は、通常の診察予約日まで様子を見ず、治療中の医療機関や救急医療機関へ連絡してください。症状が強い場合や急激に悪化している場合は、救急車の要請を検討します。

  • まとまった量の血を吐く、血痰が止まらない
  • 急に強い息苦しさが現れた、会話が難しいほど呼吸が苦しい
  • 顔、首、腕が急に腫れた
  • 新たにけいれんが起きた、意識がぼんやりする
  • 片側の手足に力が入らない、言葉が出にくい
  • 足の脱力や歩行困難に、排尿・排便の異常を伴う
  • 発熱とともに咳や息苦しさが急に悪化した
  • 薬物療法中に、新しい空せきや息切れが現れた

薬物療法中の空せきや息切れは、感染症、肺がんの進行、肺血栓塞栓症などに加え、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などによる薬剤性肺障害の可能性があります。軽い症状でも、治療を受けている医療機関へ連絡し、薬を継続してよいか確認します。

参考:呼吸困難・咳・痰|国立がん研究センター がん情報サービス
参考:免疫療法 もっと詳しく|国立がん研究センター がん情報サービス

以前からある症状の「変化」も受診の手がかりになる

喫煙歴がある人やCOPDのある人では、以前から咳や痰、息切れが続いていることがあります。その場合は、症状があるかないかだけでなく、次のような変化を確認します。

  • 咳の回数や強さが増えた
  • 痰の色や量が変わった、血が混じった
  • 同じ場所の肺炎を繰り返している
  • これまでできていた歩行や階段昇降で息切れするようになった
  • 声のかれや胸の痛みが続く
  • 食欲や体重が理由なく低下している

症状が続く場合は、自分で肺がんと決めつける必要はありませんが、「喫煙のせい」「年齢のせい」「風邪が長引いているだけ」と判断して放置しないことが大切です。診察では、症状が始まった時期、悪化しているか、血痰や発熱を伴うか、生活のどの動作で息苦しくなるかを具体的に伝えます。

肺がんの検査と診断

肺がんが疑われたときの検査には、異常を見つける検査、肺がんかどうかを確定する検査、がんの広がりを調べる検査、治療を安全に受けられるか確認する検査があります。

それぞれ目的が異なるため、胸部CTで影が見つかっただけでは、肺がんの種類やステージ、適した治療まで確定したことにはなりません。

検査の目的 主な検査 確認すること
病変の検出 胸部X線、胸部CT 肺に結節や腫瘤、胸水などがあるか
確定診断 気管支鏡、生検、胸水細胞診など がんかどうか、非小細胞肺がんか小細胞肺がんか、病理型は何か
病期診断 胸腹部造影CT、FDG-PET/CT、脳MRI、リンパ節生検など リンパ節や脳、骨、肝臓、副腎などへ広がっていないか
治療可能性の評価 呼吸機能、心機能、血液検査、全身状態の評価 手術や薬物療法、放射線治療を安全に受けられるか

胸部X線と胸部CTで病変の位置や性状を調べる

咳や血痰などの症状がある場合や、検診で異常を指摘された場合は、胸部X線検査や胸部CT検査を行います。

胸部X線では、肺に大きな影がないかを広く確認できますが、心臓や骨と重なる場所、小さな病変、すりガラス状の病変などは分かりにくいことがあります。胸部X線で肺がんが疑われる場合や、症状が続く場合には、胸部CTで詳しく確認します。

CTでは、病変の大きさ、形、内部の状態、気管支や血管との位置関係、胸膜への広がり、胸水、リンパ節の腫れなどを確認できます。

ただし、画像だけで肺がんと確定することはできません。感染症、炎症、良性腫瘍などでも肺がんに似た影が現れるためです。小さな結節では、形や大きさ、以前の画像からの変化、喫煙歴などを考慮し、すぐに生検を行わずCTで経過を確認する場合もあります。

CEA、CYFRA、SCC、ProGRP、NSEなどの腫瘍マーカーを測定することもありますが、腫瘍マーカーだけで肺がんの有無を確定したり、正常値だから肺がんではないと判断したりすることはできません。診断後の治療効果や経過を確認する補助として用いることがあります。

組織や細胞を採取して肺がんを確定する

肺がんの確定診断には、病変から採取した組織や細胞を顕微鏡で調べる病理・細胞診断が必要です。

病理検査では、肺がんであるかどうかに加え、非小細胞肺がんと小細胞肺がんのどちらか、腺がんや扁平上皮がんなどのどの病理型に当たるかを確認します。治療方針を決めるためには、遺伝子検査やPD-L1検査に使用できる量の検体を確保することも重要です。

組織や細胞を採取する方法は、病変の位置や大きさ、リンパ節の状態、体への負担などから選びます。

気管支鏡検査

気管支鏡検査では、鼻または口から細い内視鏡を入れ、気管支の内側を観察しながら、がんが疑われる部分の組織や細胞を採取します。

太い気管支の近くにある病変だけでなく、超音波やナビゲーションを併用することで、肺の末梢にある病変から組織を採取できる場合もあります。

検査後には、一時的な発熱や血痰がみられることがあります。まれに出血、肺炎、肺から空気が漏れる気胸などが起こる可能性があるため、検査後に息苦しさや胸痛、出血の増加がある場合は医療機関へ連絡します。

CTガイド下生検

肺の外側に近く、気管支鏡では届きにくい病変では、CTで位置を確認しながら、胸の外側から針を刺して組織を採取する経皮的針生検を行うことがあります。

病変から直接組織を採取できる一方、気胸や肺からの出血が起こる可能性があります。肺気腫が強い場合や、病変が重要な血管に近い場合などは、ほかの検査方法を検討することがあります。

EBUS-TBNAによるリンパ節検査

肺門や縦隔のリンパ節が腫れている場合は、超音波気管支鏡ガイド下針生検であるEBUS-TBNAを行うことがあります。

気管支鏡の先端に付いた超音波でリンパ節の位置を確認し、気管支の壁を通して針を刺して細胞や組織を採取します。肺がんの確定診断だけでなく、リンパ節転移の有無を調べてステージを決める目的でも行われます。

胸水細胞診や胸腔鏡検査

肺の周囲に胸水がたまっている場合は、針を刺して胸水を採取し、がん細胞が含まれていないか調べます。胸水から十分な情報が得られない場合には、胸腔鏡で胸膜や肺、リンパ節などの組織を採取することがあります。

最初の検査で診断がつかない場合でも、直ちに肺がんではないと判断することはできません。病変の場所によっては組織を採取しにくいため、別の方法による再検査や、手術による生検を検討する場合があります。

参考:肺がん 検査|国立がん研究センター がん情報サービス

胸腹部造影CT、PET/CT、脳MRIで広がりを調べる

肺がんと診断された後は、TNM分類に基づいてステージを決めます。病期診断では、肺の病変だけでなく、胸部リンパ節や離れた臓器への転移を調べます。

胸腹部造影CTでは、肺や胸部リンパ節に加え、肝臓、副腎などへの転移を確認します。造影剤アレルギーや腎機能の低下がある場合は、検査方法を調整することがあります。

FDG-PET/CTでは、糖に似た薬剤が集まる場所を画像化し、胸部リンパ節や骨、ほかの臓器への転移が疑われる部分を調べます。ただし、炎症や感染症にも薬剤が集まることがあり、反対に小さな病変や一部の肺がんでは集まりにくいこともあります。

そのため、PET/CTでリンパ節に強い集積があることと、病理検査でリンパ節転移が証明されたことは同じではありません。

リンパ節転移の有無によって手術や根治的放射線治療の方針が変わる場合は、必要に応じてEBUS-TBNAや経食道的超音波内視鏡検査、外科的なリンパ節生検などで確認します。

脳MRIでは、脳転移の有無を調べます。小さな脳転移は症状がないこともあるため、頭痛や麻痺がない場合でも、病期や病理型に応じて検査を行います。PET/CTだけでは脳転移を十分に評価できないため、脳はMRIなどで別に確認します。

骨の痛みがある場合やPET/CTを行えない場合などには、骨シンチグラフィや骨のMRIなどを追加することがあります。

ステージ4と診断された場合でも、転移している臓器、病変の数、症状の有無によって治療の目的や選択肢は異なります。

参考:肺癌の診断|肺癌診療ガイドライン2025年版

治療を安全に受けられるか評価する

肺がんの治療方針は、がんを切除できるかどうかだけでなく、治療後に呼吸や日常生活をどこまで保てるかを含めて決めます。

手術を検討する場合は、呼吸機能検査で肺活量や1秒量などを測定し、必要に応じて肺を切除した後に残る呼吸機能を予測します。COPDや間質性肺疾患がある場合は、手術や放射線治療、薬物療法による肺への影響も考慮します。

心電図などによる循環機能の評価、血液検査による腎機能・肝機能・血球数の確認も行います。シスプラチンなどの薬物療法は腎機能や聴力、全身状態によって使用しにくいことがあり、検査結果に応じて薬の種類や投与方法を検討します。

また、パフォーマンスステータスと呼ばれる指標を用いて、歩行、身の回りの動作、仕事や家事などをどの程度行えるかを評価します。年齢だけで治療の可否を決めるのではなく、呼吸機能、臓器機能、持病、認知機能、栄養状態、本人の希望などを組み合わせて判断します。

検査結果の説明で確認したいこと

肺がんの検査結果は、「肺がんだった」「ステージ3だった」という結論だけでなく、その根拠を確認することが治療選択につながります。

  • 非小細胞肺がんと小細胞肺がんのどちらか
  • 腺がんや扁平上皮がんなど、病理型は何か
  • ステージを決めた病変やリンパ節はどこか
  • リンパ節転移は画像上の疑いか、組織検査で確認されているか
  • 脳MRIやPET/CTなど、追加の病期診断が必要か
  • 遺伝子・PD-L1検査に使える検体が確保されているか
  • 手術後に予測される呼吸機能はどの程度か

非小細胞肺がんでは、病理診断と病期診断に加え、治療薬を選ぶための遺伝子・バイオマーカー検査が必要です。次の章で、検査する遺伝子と治療との関係を詳しく解説します。

参考:非小細胞肺癌の外科治療|肺癌診療ガイドライン2025年版

肺がんのステージ分類|TNM分類第9版

肺がんのステージは、がんの大きさだけではなく、周囲の臓器への広がり、リンパ節転移、離れた臓器への転移を組み合わせて決めます。

日本では2025年1月から、肺癌取扱い規約第9版に基づくTNM分類が使用されています。TNMは、次の3つの要素を表します。

要素 意味 主に確認すること
T 原発腫瘍 腫瘍の大きさ、気管支・胸膜・胸壁・縦隔などへの広がり、同じ肺内の別病変
N 所属リンパ節 肺内、肺門、縦隔、鎖骨上などのリンパ節へ転移しているか
M 遠隔転移 反対側の肺、胸膜、脳、骨、肝臓、副腎などへ広がっているか

T・N・Mの組み合わせによって、ステージ0からステージ4までに分類します。正確なステージは組み合わせが細かいため、腫瘍の大きさだけを見て判断することはできません。

参考:肺癌の分類・TNM病期分類|肺癌診療ガイドライン2025年版

Tは原発腫瘍の大きさと周囲への広がりを表す

T分類は、肺にある原発腫瘍の状態を表します。

小さながんは、最大充実成分径などに応じてT1a、T1b、T1cに分けられます。腫瘍が大きくなる場合のほか、胸膜、胸壁、心膜、横隔膜、縦隔、気管などへ広がっている場合や、同じ肺葉内・別の肺葉内に別の腫瘍結節がある場合にもT分類が上がることがあります。

画像に写る病変全体の大きさと、ステージ判定に使用される充実成分の大きさが異なる場合もあります。とくに、すりガラス状の部分を含む肺腺がんでは、CT画像のどの部分を測定した数値かを確認する必要があります。

Nはリンパ節転移の場所と広がりを表す

N分類は、肺がんの周囲にある所属リンパ節への転移を表します。

  • N0:所属リンパ節転移がない
  • N1:がんと同じ側の肺内、気管支周囲、肺門リンパ節などへの転移
  • N2:がんと同じ側の縦隔リンパ節、または気管分岐部下リンパ節への転移
  • N3:反対側の縦隔・肺門リンパ節、または鎖骨上窩などのリンパ節への転移

TNM分類第9版では、N2がさらに次の2つに分けられました。

  • N2a:縦隔リンパ節のうち、単一のリンパ節領域への転移
  • N2b:複数の縦隔リンパ節領域への転移

縦隔リンパ節転移が一つの領域だけにある場合と、複数の領域に広がっている場合では、病状や治療の組み立てが異なる可能性があるためです。

CTやPET/CTでリンパ節が腫れている、または薬剤が集まっているだけでは、必ずしも転移が確定したとはいえません。リンパ節転移の有無によって手術や根治的放射線治療の方針が変わる場合には、EBUS-TBNAなどで組織を採取して確認することがあります。

Mは胸部以外を含む遠隔転移を表す

M分類は、肺がんが離れた場所へ転移しているかを表します。

  • M0:遠隔転移がない
  • M1a:反対側の肺の腫瘍、胸膜・心膜の結節、がん細胞を含む胸水・心嚢水など
  • M1b:胸部以外の一つの臓器に、単発の遠隔転移がある
  • M1c1:胸部以外の一つの臓器に、複数の遠隔転移がある
  • M1c2:胸部以外の複数の臓器に遠隔転移がある

たとえば、脳に一つだけ転移がある場合と、脳や骨、肝臓など複数の臓器に転移がある場合は、いずれもステージ4に含まれますが、検討できる治療や見通しは同じではありません。

限られた数の遠隔転移では、全身薬物療法に加え、手術や定位放射線治療などの局所治療を組み合わせる場合もあります。ステージ4は「治療法が一つしかない状態」ではなく、病理型、遺伝子異常、PD-L1、転移部位と病変数、症状、全身状態によって治療を組み立てます。

ステージ4肺がんの分類、転移部位、薬物療法、局所治療については、以下の記事で詳しく解説しています。

ステージ0から4はどのような状態か

TNMの組み合わせは細かく分かれますが、ステージごとの大まかな捉え方は次のとおりです。

ステージ 大まかな状態
ステージ0 がん細胞が上皮内にとどまり、周囲へ浸潤していない上皮内がん
ステージ1 主に肺の中にとどまり、リンパ節転移が認められない段階
ステージ2 腫瘍が大きい、周囲へ広がっている、肺門リンパ節などへ転移している段階。一部のT1・N2a症例を含む
ステージ3 縦隔リンパ節や鎖骨上リンパ節、胸部の重要な臓器などへ広がった局所進行段階
ステージ4 反対側の肺、胸膜・心膜、脳、骨、肝臓、副腎などへ遠隔転移している段階

この表は病状の概要を理解するためのものであり、表だけから手術の可否や治療法を決めることはできません。

たとえばステージ2でも、縦隔リンパ節への転移を伴う場合があります。ステージ3には、手術を組み合わせられる可能性がある病状から、手術が難しく化学放射線療法を中心に考える病状まで含まれます。

臨床病期と病理病期は異なることがある

治療前のCT、PET/CT、脳MRI、生検などから判断するステージを臨床病期といいます。

手術を行った場合は、切除した肺やリンパ節を詳しく調べ、実際の腫瘍の広がりを確認します。この結果から決めるステージが病理病期です。

画像検査では転移がないように見えても、手術後の病理検査で小さなリンパ節転移が見つかることがあります。反対に、画像では転移が疑われても、病理検査ではがん細胞が確認されない場合もあります。

そのため、手術前に説明されたステージと、手術後に確定するステージが変わることがあります。術後に薬物療法が必要かどうかは、病理病期、腫瘍の大きさ、リンパ節転移、遺伝子異常などを踏まえて判断します。

小細胞肺がんでは限局型と進展型も用いる

小細胞肺がんにもTNM分類を用いますが、治療方針を考える際には、限局型と進展型という区分も広く使われます。

  • 限局型:病変が片側の胸部を中心に存在し、許容できる一つの放射線照射範囲に収まる状態
  • 進展型:病変が限局型の範囲を超えて広がっている状態

限局型と進展型は、TNM分類の特定のステージと完全に一対一で対応する分類ではありません。胸部放射線治療を安全に行える範囲かどうかも含めて判断します。

小細胞肺がんの限局型・進展型の治療や再発時の選択肢については、以下の記事で詳しく解説しています。

ステージだけで治療は決まらない

肺がんの治療方針を決めるには、ステージに加えて、次の情報が必要です。

  • 非小細胞肺がんか小細胞肺がんか
  • 腺がん、扁平上皮がんなどの病理型
  • 病変を完全に切除できる可能性
  • 呼吸機能や心機能、全身状態
  • EGFR、ALKなどのドライバー遺伝子異常
  • PD-L1発現
  • 転移の場所、数、症状

次の章では、非小細胞肺がんと小細胞肺がんを分け、ステージごとの標準的な治療方針を解説します。

参考:肺癌取扱い規約第9版発刊のお知らせ|日本肺癌学会
参考:肺がん 検査|国立がん研究センター がん情報サービス

非小細胞肺がんのステージ別治療

非小細胞肺がんの治療は、ステージだけでなく、病変を完全に切除できるか、手術後に十分な呼吸機能を保てるか、リンパ節転移の範囲、遺伝子異常、PD-L1発現、全身状態などから決めます。

同じステージ3でも、手術を含む集学的治療を検討できる場合と、切除不能として化学放射線療法を行う場合があります。とくに縦隔リンパ節転移を伴う症例では、呼吸器外科、呼吸器内科、放射線治療科、病理診断科などによる検討が必要です。

病状 治療の中心 治療前に確認すること
ステージ1 手術。手術が難しい場合は定位放射線治療など 腫瘍の大きさ・位置、呼吸機能、手術後に残る肺機能
ステージ2~切除可能なステージ3 手術と周術期薬物療法 リンパ節転移、病理型、EGFR・ALK、PD-L1、術前治療の適応
切除不能ステージ3 化学放射線療法と、その後の薬物療法 放射線の照射範囲、全身状態、肺疾患、EGFR遺伝子変異
ステージ4・再発 分子標的薬、免疫療法、細胞障害性抗がん薬など 遺伝子異常、PD-L1、病理型、転移部位、全身状態

参考:肺がん 非小細胞肺がん 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

ステージ1は手術による完全切除を目指す

ステージ1の非小細胞肺がんでは、手術に耐えられる呼吸機能と全身状態があれば、がんを完全に取り除く手術が治療の中心です。

標準的な手術では、がんがある肺葉を切除する肺葉切除と、周囲のリンパ節を切除または採取するリンパ節郭清を行います。ただし、小型で肺の末梢にある一部のがんでは、肺葉の一部分を解剖学的に切除する区域切除を選べる場合があります。

区域切除は、単に体への負担が小さい手術というだけではありません。腫瘍の大きさ、すりガラス成分と充実成分の割合、病変の位置、十分な切除断端を確保できるかなどを確認して選択します。

呼吸機能の低下、重い心疾患、間質性肺疾患などによって手術が難しい場合には、定位放射線治療を検討します。定位放射線治療は、小さな肺がんへ多方向から放射線を集中させ、根治を目指す治療です。

医学的には手術が可能であっても、本人が手術を希望しない場合に放射線治療を選ぶことがあります。ただし、手術と放射線治療では病理診断の確実性、リンパ節評価、局所再発の評価方法などが異なるため、それぞれの利益と不利益を確認します。

ステージ2・切除可能なステージ3では手術前後の薬物療法を組み合わせる

ステージ2や一部のステージ3では、画像に写る病変を手術で切除できても、目に見えない微小ながん細胞が体内に残っている可能性があります。そのため、手術だけでなく、再発リスクを下げるための薬物療法を組み合わせます。

治療には、手術後に行う術後補助療法と、手術前から行う術前・周術期療法があります。

プラチナ製剤を含む術後補助化学療法

完全切除されたステージ2~3では、シスプラチンなどのプラチナ製剤を含む術後補助化学療法を検討します。

術後補助化学療法は、画像で確認できるがんを治療するのではなく、再発の原因となる可能性がある微小ながん細胞を減らすことが目的です。手術後の病理病期、リンパ節転移、全身状態、腎機能、聴力などを踏まえて、期待できる再発予防効果と副作用を比較します。

一部の早期肺腺がんでは、病理病期や腫瘍径などの条件に応じて、テガフール・ウラシル配合剤を使用することがあります。

EGFR変異陽性では術後オシメルチニブを検討する

完全切除後の非小細胞肺がんで、EGFR遺伝子のエクソン19欠失またはL858R変異が確認された場合は、病理病期などの条件を満たせば、術後にオシメルチニブを内服する治療を検討します。

オシメルチニブは細胞障害性抗がん薬の代わりとして一律に選ぶ治療ではありません。病期によっては、まずプラチナ製剤を含む術後補助化学療法を行い、その後にオシメルチニブを使用します。

治療期間が長くなるため、発疹、下痢、爪の炎症、間質性肺疾患、心機能への影響などを確認しながら継続します。

ALK陽性では術後アレクチニブを検討する

ALK融合遺伝子陽性の完全切除例では、病理病期などの条件を満たす場合に、術後アレクチニブを検討します。

EGFRやALKの検査はステージ4の薬を選ぶためだけの検査ではありません。現在は、手術後の再発予防治療にも関係するため、切除可能な段階でも治療前または手術後に検査します。

条件を満たす場合は免疫療法を手術前後に行う

ステージ2から一部のステージ3では、プラチナ製剤を含む抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬を手術前に併用する治療や、手術前後に免疫療法を行う周術期治療を検討する場合があります。治療薬によって、術前のみ行うか、術後も継続するかが異なります。

また、完全切除と術後補助化学療法の後に、PD-L1発現などの条件を踏まえて、アテゾリズマブなどによる術後免疫療法を検討する場合もあります。

免疫療法が適しているかは、病期やPD-L1だけでは決まりません。EGFRやALKなどの遺伝子異常、自己免疫疾患、間質性肺疾患、臓器移植歴、手術までの予定なども確認します。

手術前の治療には、病変を縮小させ、体内の微小ながん細胞を早い段階から治療できる可能性があります。一方、治療中に病状が進行する、副作用によって手術が延期されるなどの可能性もあります。

術前治療を提案された場合は、何回治療した後に手術を行う予定か、どのような変化があれば手術方針を見直すのかを確認します。

ステージ3は手術で切除できるかを多職種で判断する

ステージ3には、腫瘍が周囲の臓器へ広がった状態、縦隔リンパ節へ転移した状態、鎖骨上リンパ節へ転移した状態など、さまざまな病状が含まれます。

一部では、術前薬物療法や化学放射線療法と手術を組み合わせることがあります。一方、複数領域の縦隔リンパ節転移や広い範囲への浸潤などがある場合は、手術ですべてを取り切ることが難しくなります。

「ステージ3だから手術できる」「ステージ3だから手術できない」と一律に判断することはできません。

手術の可能性を考える場合は、画像だけでなく、EBUS-TBNAなどによるリンパ節の病理診断、必要となる肺の切除範囲、術後に予測される呼吸機能を確認します。治療方針は、呼吸器外科医だけでなく、呼吸器内科医や放射線治療医を含むチームで検討します。

切除不能ステージ3では同時化学放射線療法を行う

切除不能の局所進行非小細胞肺がんで、全身状態が良く薬物療法を受けられる場合は、プラチナ製剤を含む薬物療法と胸部放射線治療を同じ時期に行う同時化学放射線療法が標準的な選択肢です。

放射線治療と薬物療法を同時に行うことで治療効果が高まる一方、食道炎、肺炎、血球減少、食欲低下などの副作用も強くなる可能性があります。

年齢だけで同時治療の可否を決めるのではなく、全身状態、照射範囲、呼吸機能、腎機能、肺疾患などから判断します。同時治療が難しい場合は、薬物療法と放射線治療を順番に行う方法や、放射線治療単独を検討します。

化学放射線療法後のデュルバルマブ

同時化学放射線療法によって病状が制御され、重い肺障害などがない場合は、免疫チェックポイント阻害薬のデュルバルマブによる地固め療法を検討します。

地固め療法は、化学放射線療法で小さくなった病変だけを治療するのではなく、その後の再発や進行を抑えることが目的です。治療中は、咳、息切れ、発熱など、放射線肺臓炎や免疫関連の肺障害を疑う症状に注意します。

EGFR変異陽性では化学放射線療法後のオシメルチニブを検討する

切除不能ステージ3で、EGFR遺伝子のエクソン19欠失またはL858R変異があり、化学放射線療法後に病状が進行していない場合は、オシメルチニブによる維持療法を検討します。

そのため、EGFR検査はステージ4だけでなく、切除不能ステージ3の治療後の選択にも関係します。化学放射線療法を開始する段階で、遺伝子検査の結果を確認できるよう検体を確保しておくことが望まれます。

参考:ステージ3非小細胞肺がんの治療|肺癌診療ガイドライン2025年版

ステージ4・再発では遺伝子異常を確認して薬物療法を選ぶ

ステージ4・再発非小細胞肺がんでは、薬物療法が治療の中心です。ただし、すべての患者さんに同じ抗がん剤を使用するわけではありません。

EGFR、ALK、ROS1、BRAF V600E、MET exon14スキッピング、RET、KRAS G12C、HER2、NTRKなど、治療対象となるドライバー遺伝子異常が確認された場合は、原則として対応する分子標的薬を検討します。

対象となるドライバー遺伝子異常が確認されない場合は、PD-L1発現、腺がんか扁平上皮がんか、全身状態などに応じて、免疫チェックポイント阻害薬の単独療法、細胞障害性抗がん薬との併用療法などを選びます。

PD-L1が50%以上であっても必ず免疫療法単独になるとは限らず、症状の強さや腫瘍量、病理型などから抗がん剤との併用を選ぶ場合があります。反対にPD-L1が低い場合でも、抗がん剤との併用によって免疫療法を使用できる場合があります。

転移が脳や副腎など限られた場所に少数だけ存在する場合には、全身薬物療法に加え、手術や定位放射線治療などの局所治療を組み合わせることがあります。

ステージ4の遺伝子別治療、脳・骨転移への治療、薬が効かなくなった場合の選択、生存率については、以下の記事で詳しく解説しています。

治療方針の説明で確認したいこと

  • 現在の病変は手術ですべて切除できると考えられているか
  • 手術前または手術後の薬物療法は、何を目的に行うのか
  • EGFR、ALK、PD-L1など、周術期治療に必要な検査が行われているか
  • 治療を先に行うことで、手術が延期・中止になる可能性はあるか
  • ステージ3の場合、手術を含む治療と化学放射線療法のどちらが提案されているか
  • 切除不能ステージ3では、化学放射線療法後にどの薬を使用する予定か
  • ステージ4では、遺伝子検査の結果を待ってから治療を開始できるか

非小細胞肺がんでは、病期だけでなく遺伝子・バイオマーカーの結果が、手術前後、切除不能ステージ3、ステージ4のすべてで治療選択に関係します。次の章では、検査する遺伝子と治療薬との関係を整理します。

参考:肺癌診療ガイドライン2025年版|日本肺癌学会

小細胞肺がんの限局型・進展型治療

小細胞肺がんは、増殖が速く、早い段階からリンパ節やほかの臓器へ広がりやすい一方、薬物療法や放射線治療が効きやすいという特徴があります。

治療方針を決めるときはTNM分類によるステージに加え、胸部放射線治療を行える範囲かどうかを基準に、限局型と進展型へ分けます。

病型 病変の範囲 治療の中心
限局型 主に片側の胸部を中心とし、許容できる一つの放射線照射範囲に収まる状態 薬物療法と胸部放射線治療。ごく早期の一部では手術
進展型 限局型の範囲を超え、反対側の肺、胸水、脳、骨、肝臓などへ広がっている状態 免疫チェックポイント阻害薬を含む薬物療法

限局型と進展型は、TNM分類の特定のステージと完全に一対一で対応するものではありません。胸部の病変がどこまで広がっているか、放射線を安全に照射できる範囲か、胸水や遠隔転移があるかなどから判断します。

参考:小細胞肺癌の治療方針|肺癌診療ガイドライン2025年版

ごく早期の限局型では手術を検討する

小細胞肺がんで手術の対象になる患者さんは多くありません。ただし、TNM分類第9版で臨床ステージ1~2Aに当たり、リンパ節転移がないN0の症例では、手術を含む治療を検討します。

手術を行う場合は、肺葉切除とリンパ節郭清が基本です。小細胞肺がんは画像に写らない微小な転移が残っている可能性があるため、完全切除できても手術だけで治療を終了せず、プラチナ製剤とエトポシドなどによる術後薬物療法を行います。

画像上はN0に見えても縦隔リンパ節転移が隠れている場合があります。手術を検討するときは、PET/CTや脳MRIに加え、必要に応じてEBUS-TBNAなどで縦隔リンパ節を調べます。

呼吸機能や持病などの医学的理由で手術が難しい早期N0例では、定位放射線治療と薬物療法を組み合わせる方法を検討する場合があります。

多くの限局型では同時化学放射線療法を行う

手術の対象にならない限局型小細胞肺がんで、全身状態が保たれている場合は、薬物療法と胸部放射線治療を同じ時期に行う同時化学放射線療法が治療の中心です。

薬物療法には、シスプラチンまたはカルボプラチンなどのプラチナ製剤とエトポシドを組み合わせます。放射線治療は、可能な場合には薬物療法の早い時期から開始します。

放射線の照射方法には、1日2回照射する加速過分割照射と、1日1回照射する通常分割照射があります。治療施設の体制、照射範囲、通院の可否、年齢や全身状態などを踏まえて選択します。

同時治療は、薬物療法と放射線治療を別々の時期に行う方法より高い治療効果を期待できる一方、次のような副作用が重なる可能性があります。

  • 白血球や好中球の減少による感染症
  • 食道炎による飲み込みにくさや胸の痛み
  • 吐き気、食欲低下、体重減少
  • 放射線肺臓炎による咳、発熱、息切れ
  • 腎機能低下や聴力への影響

食事や水分を取れない、発熱がある、新しい空せきや息切れが現れた場合は、治療予定日まで待たずに医療機関へ連絡します。

化学放射線療法後はデュルバルマブを検討する

同時化学放射線療法を終えた後、病状が進行しておらず、全身状態が良好な限局型小細胞肺がんでは、免疫チェックポイント阻害薬のデュルバルマブによる地固め療法を検討します。

地固め療法の目的は、化学放射線療法で確認できる病変が小さくなった後に、再発や進行をできるだけ長く抑えることです。2025年版肺癌診療ガイドラインでは、PS 0~1の患者さんに対する標準的な選択肢とされています。

デュルバルマブは通常4週間ごとに投与し、病状の進行や継続できない副作用がなければ、最大2年間行います。

免疫療法では、肺、腸、肝臓、甲状腺などに免疫による炎症が起こることがあります。とくに化学放射線療法後は、放射線肺臓炎と免疫療法による肺障害の区別が難しい場合があります。新しい咳、発熱、息切れがあるときは、自己判断で治療を続けずに相談します。

参考:限局型小細胞肺癌|肺癌診療ガイドライン2025年版

進展型では薬物療法が治療の中心になる

進展型小細胞肺がんでは、胸部だけに治療を行っても、ほかの場所にあるがん細胞を十分に治療できません。そのため、全身へ作用する薬物療法が中心になります。

全身状態が良好な場合の一次治療では、次のいずれかを使用することが一般的です。

  • カルボプラチン+エトポシド+アテゾリズマブ
  • シスプラチンまたはカルボプラチン+エトポシド+デュルバルマブ

プラチナ製剤とエトポシドを通常4サイクル行い、病状の進行がなければ、アテゾリズマブまたはデュルバルマブの単独投与を維持療法として継続します。

小細胞肺がんの一次治療では、非小細胞肺がんのようにPD-L1の数値が一定以上であることを免疫療法の必須条件にはしません。年齢だけで治療の可否を判断することはありませんが、全身状態、腎機能、骨髄機能、感染症、間質性肺疾患などによっては、免疫療法を使用しない方法や、薬の種類・投与量を調整した方法を選びます。

病気によって全身状態が悪化している場合には、薬物療法で病変が縮小することで生活動作が改善する可能性があります。一方、臓器機能が大きく低下している場合には、治療による感染症や治療関連死の危険が高くなるため、利益と負担を慎重に比較します。

胸部や転移部位への放射線治療を追加する場合がある

進展型でも、薬物療法によって全身の病状がよく抑えられ、胸部に病変が残っている場合は、患者さんの状態に応じて胸部放射線治療を検討することがあります。

脳転移、骨転移、気道の狭窄などによって症状がある場合は、病変の縮小や症状の軽減を目的として放射線治療を行います。脳転移では、転移の数、大きさ、場所、症状、全身の病状に応じて、全脳照射や定位放射線治療などを検討します。

参考:進展型小細胞肺癌|肺癌診療ガイドライン2025年版

予防的全脳照射は利益と負担を比較する

小細胞肺がんは、初回治療で胸部の病変がよく縮小しても、その後に脳転移が起こることがあります。画像で脳転移が確認されていない段階に脳全体へ放射線を照射する治療を、予防的全脳照射といいます。

限局型で初回治療後に完全寛解が得られた場合には、脳転移の危険を下げる目的で予防的全脳照射を検討します。

一方、頭痛、吐き気、脱毛、倦怠感などの早期副作用に加え、時間がたってから記憶力や認知機能へ影響する可能性があります。年齢、もともとの認知機能、治療効果、定期的な脳MRIを受けられるかなどを踏まえ、利益と負担を比較します。

進展型では、日本の診療ガイドライン上、薬物療法後の予防的全脳照射は原則として推奨されていません。脳MRIを定期的に行い、脳転移を早期に発見して治療する方針が選ばれます。

再発時は再発までの期間と全身状態から薬を選ぶ

小細胞肺がんは初回治療によって大きく縮小しても、再発することがあります。再発時の治療は、初回治療がどの程度効いたか、治療終了から再発までの期間、以前の副作用、全身状態などから選びます。

初回治療終了から比較的長い期間がたって再発した場合は、以前に使用したプラチナ製剤を含む治療をもう一度行う場合があります。治療中に進行した場合や、治療終了後早期に再発した場合は、異なる薬を検討します。

再発時に用いられる薬には、アムルビシン、ノギテカン、イリノテカンなどがあります。どの薬を選ぶかは、再発までの期間、血球減少、腎機能、これまでの治療歴などによって異なります。

再発小細胞肺がんに対するタルラタマブ

がん化学療法後に病状が増悪した小細胞肺がんでは、全身状態などの条件を満たす場合にタルラタマブを検討します。

タルラタマブは、小細胞肺がんの細胞に発現するDLL3と、免疫を担うT細胞のCD3の両方に結合し、T細胞をがん細胞へ誘導する二重特異性抗体です。

投与後にはサイトカイン放出症候群が起こることがあります。発熱、低血圧、頻脈、息苦しさ、低酸素状態などが主な症状です。また、意識の変化、言葉が出にくい、手の震え、けいれんなどを伴う神経系の副作用が起こる場合があります。

とくに治療初期は院内での観察や、治療施設の近くでの待機などが必要になることがあります。通院方法や家族の付き添いを含め、投与後の観察体制を治療前に確認します。

参考:再発小細胞肺癌|肺癌診療ガイドライン2025年版

小細胞肺がんでは遺伝子検査の役割が異なる

非小細胞肺がんでは、多数のドライバー遺伝子異常を調べ、結果に対応する分子標的薬を選びます。

一方、小細胞肺がんでは、現時点でEGFRやALKなどの遺伝子異常を日常診療で幅広く検査し、一次治療の薬を選ぶ方法は確立していません。限局型・進展型、全身状態、初回治療への反応、再発までの期間が、治療選択の主な判断材料になります。

小細胞肺がんの症状、検査、限局型・進展型の治療、再発時の治療、生存率については、以下の記事で詳しく解説しています。

肺がんの遺伝子・バイオマーカー検査

非小細胞肺がんでは、がん細胞の遺伝子異常やPD-L1発現によって、効果を期待できる薬が異なります。そのため、薬物療法を検討する場合は、病理型やステージを調べるだけでなく、治療選択に関係する遺伝子・バイオマーカーを治療開始前に確認することが重要です。

検査結果は、ステージ4・再発肺がんの一次治療だけに使うものではありません。EGFRやALKなどは、手術後の再発予防治療や、切除不能ステージ3の化学放射線療法後の治療選択にも関係します。

ドライバー遺伝子異常とは

ドライバー遺伝子異常とは、がん細胞の増殖を促す原因となっている遺伝子の変化です。対応する分子標的薬がある場合は、その遺伝子異常を狙った治療を検討できます。

肺がんで調べるEGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子などの多くは、がん細胞に後天的に生じた体細胞変異です。喫煙、受動喫煙、アスベストなどの発症リスクとは性質が異なり、検査で遺伝子異常が見つかったからといって、本人が生まれつきその変化を持っている、または家族へ遺伝するという意味ではありません。

また、ドライバー遺伝子異常は、たばこを吸ったことがない人にも見つかります。非喫煙者だから遺伝子検査が不要ということではなく、反対に喫煙歴があるから遺伝子異常がないとも限りません。

非小細胞肺がんで調べる主な遺伝子とPD-L1

2025年版肺癌診療ガイドラインでは、薬物療法を検討する非小細胞肺がんに対して、EGFR、ALK、ROS1、BRAF、MET、RET、KRAS、HER2の遺伝子検査とPD-L1検査を行うことが強く推奨されています。

検査項目 確認する主な異常 治療との関係
EGFR エクソン19欠失、L858R、エクソン20挿入など 異常の種類と病期に応じてEGFR阻害薬を検討。術後治療や切除不能ステージ3の治療にも関係する
ALK ALK融合遺伝子 ALK阻害薬を検討。条件を満たす完全切除例では術後治療にも関係する
ROS1 ROS1融合遺伝子 ROS1阻害薬を検討
BRAF 主にBRAF V600E変異 BRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用を検討
MET METエクソン14スキッピング MET阻害薬を検討
RET RET融合遺伝子 RET阻害薬を検討
KRAS 主にKRAS G12C変異 治療歴などの条件に応じてKRAS G12C阻害薬を検討
HER2 HER2遺伝子変異 治療歴などの条件に応じて抗HER2薬を検討
NTRK NTRK融合遺伝子 がんの発生臓器を問わず、条件を満たす場合にTRK阻害薬を検討
PD-L1 がん細胞などに発現するPD-L1タンパク質の割合 免疫チェックポイント阻害薬を単独または抗がん剤と併用する際の判断材料

PD-L1は遺伝子異常ではなく、がん組織を免疫染色して調べるタンパク質です。一般に、腫瘍細胞のうちPD-L1が発現している割合をTPSとして示します。

治療方針を検討するときは、PD-L1 TPSを50%以上、1~49%、1%未満などに分けます。ただし、PD-L1が高ければ必ず免疫療法が効く、低ければ使用できないという検査ではありません。

ドライバー遺伝子異常の有無、腺がんか扁平上皮がんか、病変の広がり、自己免疫疾患や間質性肺疾患、全身状態なども含めて、免疫療法単独または細胞障害性抗がん薬との併用を検討します。

参考:分子診断|肺癌診療ガイドライン2025年版

遺伝子は一つずつではなく同時に調べる

肺がんの遺伝子検査では、EGFRが陰性だったら次にALK、その次にROS1というように、一つずつ順番に調べる方法もあります。しかし、検査のたびに組織を使用すると、途中で検体が不足する可能性があります。

ALK、ROS1、BRAF V600E、METエクソン14スキッピング、RET、KRAS G12C、HER2などは、それぞれ見つかる頻度が高くありません。一つずつ検査すると、すべての結果がそろうまで時間がかかり、頻度の低い遺伝子異常を調べる前に組織がなくなることもあります。

そのため日本肺癌学会は、検査項目に優先順位をつけず、複数の遺伝子を同時に調べることを強く推奨しています。複数の遺伝子を一度に解析する検査を、マルチプレックス遺伝子検査またはマルチ遺伝子検査と呼びます。

PD-L1検査も、遺伝子検査とは方法が異なりますが、薬物療法を決める段階で遺伝子検査と並行して行います。

治療を急ぐ必要がある場合でも、検査結果を待たずに免疫療法を始めると、後からドライバー遺伝子異常が見つかった際の治療順序や副作用管理へ影響することがあります。

病状が許す場合は、必要な遺伝子・PD-L1の結果がいつそろうかを確認し、結果を踏まえて一次治療を決めます。

参考:肺癌バイオマーカー各種検査の手引き|日本肺癌学会

腺がん以外でも遺伝子異常が見つかることがある

治療対象となるドライバー遺伝子異常は肺腺がんで見つかることが多いものの、扁平上皮がんや肉腫様がんなど、腺がん以外の非小細胞肺がんに見つかる場合もあります。

とくにMETエクソン14スキッピングは、肺扁平上皮がんや肉腫様がんでも確認されることがあります。病理型だけを理由に検査対象を狭めず、薬物療法を検討する非小細胞肺がんでは、必要な分子診断が行われているか確認します。

組織や胸水を使って検査する

遺伝子検査には、気管支鏡検査、CTガイド下生検、手術などで採取したがん組織を使用します。胸水に十分ながん細胞が含まれている場合は、胸水から作製した検体を使用できることもあります。

一つの検体から、病理診断、免疫染色、PD-L1検査、複数の遺伝子検査を行うため、採取できた組織を計画的に使用する必要があります。

検体に含まれるがん細胞が少ない、組織が古い、保存状態が適していないなどの理由で、検査が成立しない場合もあります。「陰性」と「検査不能」は意味が異なります。

検査不能の場合や、必要な遺伝子の一部しか調べられていない場合は、次の対応を検討します。

  • 残っている組織で別の検査を行えるか確認する
  • 胸水など、ほかの検体を利用できないか確認する
  • 安全性を検討したうえで再生検を行う
  • 血液を用いた遺伝子検査を行う

血液中に流れるがん由来のDNAを調べる方法は、リキッドバイオプシーと呼ばれます。組織を採取しにくい場合や、治療後に新たな遺伝子変化を調べる場合などに利用されます。

ただし、血液中へ放出されるがん由来DNAの量が少ないと、実際には遺伝子異常があっても検出されないことがあります。血液検査で異常が見つからなかった場合に、組織検査での確認を検討することがあります。

参考:肺がん 検査|国立がん研究センター がん情報サービス

治療が効かなくなったときに再検査する場合がある

分子標的薬を使用している間に、がん細胞へ新たな遺伝子変化が生じ、薬が効きにくくなることがあります。これを薬剤耐性といいます。

病状が進行したときは、進行した場所、以前の検査結果、使用してきた薬などに応じて、組織の再生検や血液を使った遺伝子検査を検討します。

再検査の目的は、最初の検査が間違っていたかを確認することだけではありません。治療後に新しく生じた耐性の仕組みを調べ、次に使える薬や臨床試験がないか検討するために行います。

MSI・TMBを調べる場合もある

肺がんでは頻度が高くありませんが、MSI-HighやTMB-Highが確認された固形がんに対し、一定の条件で免疫チェックポイント阻害薬を検討できる場合があります。

MSIやTMBは、PD-L1とは異なるバイオマーカーです。検査結果だけで治療が決まるわけではなく、肺がんに対する標準治療、これまでの治療歴、国内の承認条件、全身状態などを確認します。

初回のマルチ遺伝子検査とがん遺伝子パネル検査は目的が異なる

肺がんの薬物療法を選ぶ際に早い段階で行うマルチ遺伝子検査は、現在の標準治療に直結するEGFR、ALK、ROS1などを調べることが主な目的です。

これに対し、がん遺伝子パネル検査では、がん組織または血液を使い、数十から数百の遺伝子を一度に解析します。標準治療では使われていない薬や臨床試験を含め、新たな治療の手掛かりを探すために行います。

保険診療によるがん遺伝子パネル検査は、原則として、標準治療がない、または標準治療の終了が見込まれる固形がんなど、一定の条件を満たす場合が対象です。また、検査を受けても、実際に使用できる薬や参加できる臨床試験が見つからない場合があります。

参考:がん遺伝子パネル検査とは|国立がん研究センター C-CAT

検査結果の説明で確認したいこと

  • どの遺伝子とバイオマーカーを調べたか
  • 検査項目の一部だけでなく、必要な項目がすべて測定できたか
  • 結果は陰性なのか、検体不足などによる検査不能なのか
  • 見つかった遺伝子異常に対応する国内承認薬があるか
  • その薬は一次治療から使うのか、前の治療後に使うのか
  • PD-L1の数値と、免疫療法の選択へどう影響するか
  • 病状が進行した場合に再検査が必要か
  • がん遺伝子パネル検査や臨床試験を検討する時期はいつか

ステージ4肺がんでの遺伝子別治療、分子標的薬が効かなくなった場合の治療、脳転移への効果については、以下の記事で詳しく解説しています。

肺がんのステージ別生存率

肺がんの予後は、診断された時点のステージだけでなく、非小細胞肺がんと小細胞肺がんのどちらかによって大きく異なります。

非小細胞肺がんでは、早期で完全切除できる場合には根治を目指しやすい一方、遠隔転移がある場合は薬物療法を中心に病状の長期的な制御を目指します。小細胞肺がんは薬物療法や放射線治療が効きやすい反面、増殖が速く、早い段階から再発・転移しやすい性質があります。

国立がん研究センターの院内がん登録では、2014~2015年に診断された患者さんについて、次の5年ネット・サバイバルが公表されています。

ステージ 非小細胞肺がん
5年ネット・サバイバル
小細胞肺がん
5年ネット・サバイバル
ステージ1 82.2% 43.2%
ステージ2 52.6% 28.5%
ステージ3 30.4% 17.5%
ステージ4 9.0% 2.2%

ネット・サバイバルとは、肺がん以外の病気や事故などによる死亡の影響を統計的に調整し、肺がんだけが死亡原因になると仮定して算出した生存率です。死因を問わず、実際に生存していた人の割合を示す実測生存率とは異なります。

たとえば、非小細胞肺がんのステージ1における実測生存率は74.6%ですが、ネット・サバイバルは82.2%です。高齢者が多い肺がんでは、心臓病や脳血管疾患など、肺がん以外の死因による影響もあるため、使用する指標によって数値が変わります。

異なる指標で算出された数値を、同じ生存率として比較することはできません。

参考:非小細胞肺がん5年生存率|院内がん登録生存率集計結果閲覧システム
参考:小細胞肺がん5年生存率|院内がん登録生存率集計結果閲覧システム

肺がん全体の39.6%とは対象と計算方法が異なる

記事冒頭で紹介した肺がん全体の5年生存率39.6%は、2018年に診断された全国の肺がん患者さんを対象にした数値です。非小細胞肺がんと小細胞肺がん、すべてのステージが含まれています。

一方、表の数値は、全国のがん診療連携拠点病院などで2014~2015年に診断された患者さんを、非小細胞肺がんと小細胞肺がん、ステージ別に分けた5年ネット・サバイバルです。

対象となる診断年、医療機関、患者集団、計算方法が異なるため、肺がん全体の39.6%と表の数値を直接比較することはできません。

現在のステージ分類とは完全には一致しない

表の患者さんは2014~2015年に診断されており、当時使用されていたTNM分類に基づいてステージが登録されています。

一方、現在は2025年1月からTNM分類第9版が使用されています。第9版では、縦隔リンパ節転移を単一領域と複数領域に分けるなど、ステージの組み合わせが一部変更されました。

そのため、表に掲載したステージ1~4と、現在のTNM分類第9版で診断された患者さんの病状は、完全に同じ集団ではありません。病期別の大まかな傾向を知る資料として使用し、現在のステージを表の数値へそのまま当てはめないことが大切です。

参考:最新がん統計|国立がん研究センター がん統計

公表値には現在の治療が十分反映されていない

2014~2015年の診断後、肺がんの薬物療法は大きく変化しました。

非小細胞肺がんでは、EGFR、ALK、ROS1、BRAF、MET、RET、KRAS、HER2、NTRKなどに対応する分子標的薬が増えています。免疫チェックポイント阻害薬も、ステージ4・再発だけでなく、手術前後や切除不能ステージ3の治療に用いられるようになりました。

小細胞肺がんでも、進展型に対するPD-L1阻害薬、限局型の化学放射線療法後のデュルバルマブ、再発時のタルラタマブなど、表の集計当時には一般診療で使用されていなかった治療が加わっています。

現在使用されている分子標的薬や免疫療法による長期的な治療成績は、この表へ十分に反映されていません。

ただし、新しい薬が増えたからといって、すべての患者さんが表より良好な経過をたどると断定することもできません。遺伝子異常、PD-L1、治療への反応、全身状態などによって、得られる効果は異なります。

参考:肺癌診療ガイドライン2025年版|日本肺癌学会

ステージが同じでも見通しは一人ひとり異なる

生存率は、同じ病理型・ステージの多数の患者さんを集計した統計であり、個人の余命を示す数字ではありません。

非小細胞肺がんのステージ1でも、腫瘍の大きさ、病理型、肺の切除範囲、手術を受けられるかによって経過は異なります。ステージ3には、手術を組み合わせられる可能性がある病状から、切除不能として化学放射線療法を行う病状まで含まれます。

ステージ4では、さらに病状の幅が大きくなります。転移が一つの臓器に限られている場合と、脳、骨、肝臓など複数の臓器へ広がっている場合では、検討できる治療や見通しが異なります。

遺伝子異常に対応する分子標的薬があるか、PD-L1発現、脳転移の有無、呼吸機能、治療前の全身状態、薬物療法への反応なども経過へ影響します。

ステージ4肺がんの分類、完治を目指せる可能性、治療、生存率の受け止め方については、以下の記事で詳しく解説しています。

小細胞肺がんは限局型・進展型も含めて考える

小細胞肺がんの表はTNM分類のステージ別に集計されていますが、実際の治療選択では限局型と進展型という区分も用います。

限局型か進展型かは、TNM分類の特定のステージと完全に一対一で対応するものではありません。胸部の病変を一つの許容できる放射線照射範囲へ収められるかなども含めて判断します。

そのため、小細胞肺がんの見通しを確認するときは、ステージだけでなく、限局型と進展型のどちらか、化学放射線療法を行えるか、初回治療へどの程度反応したか、治療終了から再発までどの程度の期間があったかを確認します。

小細胞肺がんの限局型・進展型治療、再発時の治療、生存率については、以下の記事で詳しく解説しています。

生存率を治療の価値や余命へ置き換えない

生存率が高いステージでも再発の可能性がなくなるわけではなく、生存率が低いステージでも治療を受ける意味がないわけではありません。

進行肺がんでは、病変を完全に消すことが難しい場合でも、薬物療法や放射線治療によって進行を抑え、咳や痛みを軽減し、食事、歩行、仕事などを長く保てる場合があります。

自分の見通しを確認するときは、表の数字だけではなく、次の点について説明を受けます。

    • 肺がんの病理型と現在のステージ
  • 病変を完全に切除または根治的に照射できるか
  • 治療対象となる遺伝子異常やPD-L1発現があるか
  • 転移している臓器と病変の数
  • 現在の治療がどの程度効いているか
  • 呼吸機能や全身状態を保てているか
  • 今後どのような変化があれば治療を変更するか

次の章では、手術後の息切れ、薬物療法や放射線治療の副作用など、治療が日常生活へ与える影響と、医療機関へ連絡すべき症状を解説します。

肺がん治療の副作用と生活への影響

肺がん治療の副作用は、手術、放射線治療、細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬で異なります。同じ治療を受けても、症状の種類や強さ、現れる時期には個人差があります。

副作用を評価するときは、検査値だけでなく、食事や水分を取れるか、歩行や入浴を続けられるか、眠れているか、仕事や家事にどの程度支障があるかを確認します。

症状を早い段階で伝えることで、支持療法、休薬、投与日の延期、薬の変更などによって、安全に治療を続けられる場合があります。

手術後は息切れや胸の痛みが続くことがある

肺の手術後は、肺を切除したことや胸部の傷の影響により、歩行や階段昇降で息切れしやすくなることがあります。咳や深呼吸をしたときに胸が痛む、話をすると咳が出る、疲れやすいといった症状が続く場合もあります。

手術直後に痛みを避けて呼吸が浅くなり、痰を十分に出せない状態が続くと、無気肺や肺炎につながることがあります。鎮痛薬を適切に使用しながら、深呼吸、排痰、歩行などを段階的に行います。

退院後は、無理のない範囲で散歩などの軽い運動から始めます。速く歩く、坂道を上る、重い物を持つといった動作は、平地歩行より息切れしやすいため、休憩を入れながら少しずつ活動量を増やします。

肺葉切除や片肺全摘など、肺を切除した範囲が大きい場合は、手術前と同じ活動量へ戻りにくいことがあります。COPDや間質性肺疾患などがある場合は、もともとの肺機能も術後の生活へ影響します。

仕事へ戻る時期は、傷の大きさだけでなく、次の内容から判断します。

  • 歩行や階段昇降でどの程度息切れするか
  • 胸の痛みによって動作が制限されていないか
  • 仕事で重量物を扱うか、高所作業や長距離運転があるか
  • 通勤中に休憩や酸素療法が必要か
  • 術後薬物療法を行う予定があるか

急に息苦しくなった、高熱や膿のような痰が出る、片脚だけが腫れる、胸の痛みが急に強くなった場合は、肺炎、気胸、血栓症などの可能性があるため、医療機関へ連絡します。

細胞障害性抗がん薬では感染症や食事量の低下に注意する

細胞障害性抗がん薬では、骨髄抑制、吐き気、食欲低下、口内炎、便秘、下痢、脱毛、だるさ、しびれなどが起こることがあります。使用する薬の組み合わせによって、現れやすい副作用は異なります。

白血球・好中球の減少

白血球や好中球が減ると、感染症にかかりやすくなります。血液検査を受けるまで自覚症状がない場合もありますが、発熱、悪寒、咳、痰、排尿時の痛みなどが感染症の手掛かりになります。

38℃以上、または治療施設から指定された体温以上の発熱がある場合は、解熱剤だけで様子を見ず、夜間・休日を含めて指定された連絡先へ相談します。

感染を完全に防ぐことはできませんが、手洗い、口腔ケア、食事前後の衛生管理を行い、好中球が少ない時期には人混みや感染症患者との接触をできる範囲で避けます。

吐き気・食欲低下・体重減少

シスプラチンなどを含む治療では、吐き気や嘔吐が問題になることがあります。現在は予防的に複数の制吐薬を使用しますが、治療当日だけでなく、数日後に吐き気が強くなる場合もあります。

食事を一度に取れないときは、少量を複数回に分け、においが少なく食べやすい物を選びます。食事内容を完璧に整えることより、水分と最低限のエネルギーを確保することを優先する時期もあります。

水分を取れない、尿量が減った、短期間で体重が低下した、処方された吐き気止めを使用しても嘔吐が続く場合は、点滴や薬の調整が必要になることがあります。

薬ごとに異なる臓器への影響

プラチナ製剤のうち、シスプラチンでは腎機能低下、聴力低下、強い吐き気などに注意します。治療前後に点滴を行い、水分を確保して腎臓への負担を減らす場合があります。

カルボプラチンでは、腎臓への負担がシスプラチンより少ない傾向がある一方、血小板などの血球減少が問題になることがあります。

パクリタキセルなどでは、手足のしびれや筋肉痛、関節痛が現れる場合があります。箸を使いにくい、ボタンを留めにくい、足の裏の感覚が鈍い、つまずくといった変化があれば、生活への影響が大きくなる前に伝えます。

薬によっては腎機能、聴力、末梢神経への影響が治療後も残ることがあります。血液検査が許容範囲であっても、日常動作に支障が出ている場合は治療量の調整を相談します。

分子標的薬では薬ごとに異なる副作用が現れる

分子標的薬は、対応する遺伝子異常を持つがん細胞へ作用しますが、標的となる分子は正常な細胞にも存在するため、副作用が起こります。

EGFR阻害薬では、顔や胸、背中などの発疹、皮膚の乾燥、爪の周囲の炎症、下痢、口内炎などがみられます。発疹は見た目だけの問題ではなく、人に会うことが負担になる、指先の痛みで家事や仕事が難しくなるなど、生活へ影響することがあります。

ALK、ROS1、MET、RETなどを標的とする薬では、薬によって、むくみ、肝機能障害、便秘、下痢、視覚の変化、脈拍低下、高血圧などが起こる場合があります。HER2を標的とする薬では、血球減少や吐き気、肺障害などにも注意します。

分子標的薬は内服薬が多いものの、副作用が軽い治療という意味ではありません。治療開始後は血液検査、心電図、心臓超音波検査などを、薬の特徴に応じて行います。

発疹や下痢などが強い場合は、症状を抑える薬を使用するほか、休薬や減量を検討します。飲み忘れた分をまとめて服用したり、自己判断で服用回数を変更したりしないでください。

薬剤性肺障害では新しい空せきや息切れが手掛かりになる

細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬のいずれでも、肺に炎症が起こる薬剤性肺障害や間質性肺炎が生じることがあります。

肺がんそのもの、細菌・ウイルス性肺炎、心不全、肺血栓塞栓症、放射線肺臓炎でも似た症状が現れるため、自分で原因を判断することはできません。

次の症状が新しく現れた場合は、軽い段階でも治療施設へ連絡します。

  • 痰を伴わない空せき
  • 以前は問題なかった歩行や階段での息切れ
  • 安静にしていても息苦しい
  • 原因の分からない発熱
  • 血液中の酸素飽和度が普段より低い

薬剤性肺障害が疑われる場合は、原因と考えられる薬を中止し、胸部CT、血液検査、酸素状態などを確認します。重症度によっては入院し、副腎皮質ステロイドなどによる治療を行います。

「肺がんがあるから咳や息切れは仕方がない」と考え、次の診察まで待たないことが重要です。

参考:呼吸困難・咳・痰|国立がん研究センター がん情報サービス

免疫チェックポイント阻害薬では免疫関連副作用に注意する

免疫チェックポイント阻害薬では、活性化された免疫が正常な臓器を攻撃し、肺、腸、肝臓、皮膚、甲状腺、下垂体、副腎、膵臓、心臓、神経、筋肉などに炎症が起こることがあります。

症状が現れる臓器や時期を予測することは難しく、治療開始直後だけでなく、治療を長く続けた後や、治療終了後に現れる場合もあります。

次のような変化がある場合は、治療との関係がなさそうに見えても医療機関へ伝えます。

  • 新しい咳、息切れ、胸の痛み
  • 下痢、排便回数の増加、腹痛、血便
  • 皮膚や白目が黄色い、尿の色が濃い
  • 強いだるさ、食欲低下、頭痛、めまい
  • 異常な喉の渇き、尿量の増加、急な体重変化
  • 動悸、脈の乱れ、胸部の圧迫感
  • 手足に力が入らない、歩きにくい、物が二重に見える
  • 意識がぼんやりする、言動が普段と異なる

免疫チェックポイント阻害薬の副作用への対応は、細胞障害性抗がん薬とは異なります。

細胞障害性抗がん薬や一部の分子標的薬では減量する場合がありますが、免疫チェックポイント阻害薬では通常、投与量を段階的に減らす方法は取りません。重症度に応じて休薬または中止し、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬などを使用します。

ほかの医療機関や救急外来を受診するときも、現在または過去に免疫チェックポイント阻害薬を使用していたことを伝えます。

参考:免疫療法 もっと詳しく|国立がん研究センター がん情報サービス

放射線治療では食道炎と放射線肺臓炎が生活へ影響する

胸部放射線治療では、照射範囲に食道が含まれると、治療開始から数週間後に飲み込みにくさや胸の痛みが現れることがあります。

熱い物、辛い物、硬い物が刺激になる場合は、冷ましたスープ、やわらかい麺、豆腐、ゼリーなど、飲み込みやすい食品を選びます。水分も飲めない、体重が急に減った、痛みで食事を取れない場合は、鎮痛薬、粘膜保護薬、補液、栄養支援などを検討します。

放射線肺臓炎は、照射中よりも治療終了後の数週間から数カ月後に現れる場合があります。空せき、発熱、息切れなどが主な症状です。

薬物療法を併用または継続している場合は、放射線肺臓炎と薬剤性肺障害の区別が難しいことがあります。症状が現れた時期、照射した範囲、CT画像、使用薬などから判断します。

副作用による休薬や減量は治療の失敗ではない

肺がんの薬物療法は、予定された量を一度も変更せずに続けることだけが目標ではありません。

副作用によって呼吸機能や臓器機能が低下すると、その後に必要な治療を受けられなくなる可能性があります。症状や検査結果に応じて、投与を延期する、薬を減量する、原因となる薬だけを中止する、治療法を変更するといった対応を行います。

分子標的薬では、副作用を抑えながら長く治療を続けるために減量する場合があります。免疫チェックポイント阻害薬では、前述のとおり、通常は減量ではなく休薬・中止で対応します。

治療を調整するときは、次の内容を確認します。

  • 今回の調整は、どの副作用や検査異常が理由か
  • 休薬後に同じ薬を再開できる可能性があるか
  • 減量によって期待される効果と副作用はどう変わるか
  • 中止した場合に、次に選べる治療があるか
  • 症状が改善するまで自宅で何を記録すればよいか

仕事や家事は治療日に合わせて調整する

薬物療法の副作用は、投与直後だけでなく、数日後に強くなる場合があります。治療前に「投与後何日目に吐き気や血球減少が起こりやすいか」を確認すると、仕事や家事の予定を組みやすくなります。

点滴治療では、診察や採血を含めて長時間の通院が必要になる場合があります。胸部放射線治療では、平日の通院が数週間続くことがあります。内服の分子標的薬では通院回数が少なくても、毎日の服薬管理と副作用の観察が必要です。

息切れやだるさがあるときは、すべてを治療前と同じように行おうとせず、活動を小分けにします。調理や入浴の前に休む、座ってできる作業へ変える、移動時にエレベーターを使うなど、消費する体力を調整します。

車の運転については、眠気、視覚障害、めまい、手足のしびれ、鎮痛薬の使用などがある場合に制限が必要なことがあります。使用薬ごとの注意事項を医師や薬剤師へ確認します。

呼吸リハビリと栄養管理で治療を続ける力を保つ

肺がんや治療によって息切れがあると、動くことを避け、筋力が低下し、さらに息切れしやすくなる悪循環が起こることがあります。

病状が安定している場合は、医師や理学療法士の指導のもと、歩行、下肢の筋力訓練、呼吸法などを行います。運動量は酸素状態や息切れを確認しながら調整し、急に強い運動を始めないようにします。

食欲低下や飲み込みにくさがある場合は、体重が大きく減る前に栄養士へ相談します。筋肉量の減少は、歩行能力や治療への耐えやすさにも影響します。

治療中は、次の内容を記録しておくと診察時に伝えやすくなります。

  • 体温と酸素飽和度
  • 咳、痰、息切れの変化
  • 食事量、水分量、体重
  • 下痢や排便回数
  • 発疹、むくみ、しびれ
  • 歩行、入浴、仕事などで困ったこと
  • 症状が治療後何日目に始まったか

副作用は、我慢できるかどうかだけで評価するものではありません。生活のどの動作ができなくなったかを具体的に伝えることが、治療の安全性と継続可能性を判断する材料になります。

参考:肺がん 療養|国立がん研究センター がん情報サービス

肺がんの緩和ケア・支持療法

緩和ケアは、抗がん治療を終えた後だけに受ける医療ではありません。肺がんと診断された時点から、手術、放射線治療、薬物療法と並行して利用できます。

支持療法は、肺がんによる症状や、治療に伴う副作用・合併症を予防、軽減するための治療です。緩和ケアでは身体症状だけでなく、不安、仕事、家族関係、治療費、療養場所などの問題も扱います。

とくに進行・再発肺がんでは、息苦しさ、咳、痛み、食欲低下などが治療の継続や日常生活へ直接影響します。症状が強くなってから相談するのではなく、生活に支障が出始めた段階で原因を確認し、早めに対処することが大切です。

参考:緩和ケア|国立がん研究センター がん情報サービス

息苦しさは原因によって対処法が異なる

肺がん患者さんの息苦しさには、さまざまな原因があります。

  • がんによる気管や気管支の狭窄
  • 胸水や心嚢水の貯留
  • 肺炎などの感染症
  • 肺血栓塞栓症
  • 貧血や心不全
  • 放射線肺臓炎や薬剤性肺障害
  • COPDや間質性肺疾患などの持病
  • 筋力や体力の低下
  • 不安や緊張による呼吸の乱れ

原因によって治療が異なるため、息苦しさがあるからといって、すぐに酸素吸入だけを行えばよいとは限りません。診察、酸素飽和度、胸部画像、血液検査などによって原因を確認します。

血液中の酸素が不足している場合は、酸素吸入を行います。ただし、酸素飽和度が保たれていても強い息苦しさを感じることがあります。その場合は、姿勢や呼吸法の調整、薬物療法などを組み合わせます。

息苦しさが強い場合には、症状を和らげる目的でモルヒネなどの医療用麻薬を少量から使用することがあります。医療用麻薬は痛みだけに使用する薬ではありません。医師が症状や全身状態を確認し、眠気、吐き気、便秘などへ対応しながら量を調整します。

胸水がたまった場合は排液や再貯留を防ぐ治療を検討する

肺を包む胸膜の間に水がたまる状態を胸水といいます。胸水が増えると肺が十分に広がらず、息苦しさ、咳、胸の圧迫感などが現れることがあります。

症状がある場合は、針やチューブを胸腔へ入れて胸水を抜く胸腔穿刺・胸腔ドレナージを行います。排液によって息苦しさがどの程度改善するかも、その後の治療を考える材料になります。

胸水を一度抜けば再びたまらないとは限りません。排液後にどの程度の期間で再貯留したか、肺が十分に広がるか、全身状態、今後の薬物療法などを踏まえて方針を決めます。胸水が繰り返したまる場合には、胸膜を癒着させて水がたまる空間を減らす胸膜癒着術や、留置カテーテルなどを検討することがあります。

気道が狭い場合は放射線治療や気管支鏡治療を検討する

肺がんが気管や太い気管支を狭くすると、強い息苦しさ、喘鳴、肺炎、血痰などが起こることがあります。

病変の位置や広がりに応じて、薬物療法や放射線治療で腫瘍を縮小させるほか、気管支鏡を使って病変を取り除く処置、レーザーなどによる焼灼、気道を広げるステント留置を検討する場合があります。

どの方法が適するかは、狭窄している場所、緊急性、肺の先に感染や無気肺があるか、今後の全身治療などから判断します。

息苦しさが急に悪化した、会話が難しい、横になると呼吸できないなどの場合は、通常の予約日を待たずに医療機関へ連絡します。

参考:肺癌の緩和ケア|肺癌診療ガイドライン2025年版

咳や痰は性質を確認して治療する

咳は、腫瘍による気道刺激、感染症、胸水、薬剤性肺障害、放射線肺臓炎、COPDなどによって起こります。

診察では、痰を伴うか、乾いた咳か、血が混じっているか、発熱や息切れを伴うかを確認します。咳が強い場合は、一般的な鎮咳薬に加え、コデインやモルヒネなどを使用する場合があります。痰が粘って出しにくい場合は、去痰薬、水分摂取、加湿、排痰法などを組み合わせます。

痰がたまると気道が狭くなり、肺炎の危険も高くなります。理学療法士や看護師から、痰を出しやすい姿勢や呼吸方法の指導を受けることがあります。

薬物療法中に新しい空せきや息切れが現れた場合は、単なる肺がんの症状と考えず、薬剤性肺障害の可能性を確認します。

喀血や血痰は量と呼吸への影響で緊急度を判断する

少量の血が痰に混じる血痰が繰り返す場合は、出血している場所や原因を調べます。

大量の血を吐く喀血では、出血そのものだけでなく、血液によって気道がふさがり、呼吸できなくなる危険があります。まとまった量の血が出る、出血が止まらない、息苦しさを伴う場合は、救急受診が必要です。

出血している場所に応じて、気管支鏡による止血、出血する血管を塞ぐ気管支動脈塞栓術、放射線治療などを検討します。

出血があるときは、服用している抗凝固薬や抗血小板薬についても医療者へ伝えます。自己判断で薬を中止せず、処方した医師を含めて対応を確認してください。

参考:呼吸困難・咳・痰|国立がん研究センター がん情報サービス

痛みは原因と生活への影響を伝える

肺がんでは、胸膜や胸壁への広がり、骨転移、手術後の神経痛などによって痛みが生じることがあります。

痛み止めは、痛みの強さや原因に応じて、アセトアミノフェン、非ステロイド性抗炎症薬、医療用麻薬、神経障害性疼痛に対する薬などを組み合わせます。

医療用麻薬を使うことは、病状が終末期であることを意味しません。強い痛みを抑え、睡眠、食事、歩行などを保つために、治療中から使用できます。

骨転移の痛みには、放射線治療が有効な場合があります。骨折や脊髄圧迫の危険がある場合は、整形外科的な固定術や骨を支える薬なども検討します。

診察では、「痛い」と伝えるだけでなく、次の点を説明すると治療を調整しやすくなります。

  • どこが、どのように痛むか
  • いつから始まり、何をすると強くなるか
  • 夜眠れるか、歩行や食事へ影響しているか
  • 痛み止めを飲んで、どの程度・何時間楽になるか
  • しびれ、脱力、排尿・排便障害を伴っていないか

食欲低下と体重減少は早めに対処する

肺がんや治療の影響により、食欲低下、味覚の変化、飲み込みにくさ、吐き気、息苦しさなどが重なり、食事量が減ることがあります。食事量が低下すると体重だけでなく筋肉も減り、歩行や呼吸に必要な力が低下します。息切れによって動かなくなり、さらに筋力が落ちる悪循環が起こることもあります。

呼吸が比較的楽な時間帯に食べる、一度の量を減らして回数を増やす、調理のにおいが少ない食品を選ぶなど、症状に合わせて工夫します。

放射線治療による食道炎や腫瘍による圧迫で飲み込みにくい場合は、食形態の調整だけでなく、痛み止め、粘膜保護薬、補液などが必要になることがあります。

短期間で体重が減った、食事や水分をほとんど取れない、むせが増えた場合は、医師、看護師、管理栄養士などへ相談します。

不安や気持ちの落ち込みも緩和ケアの対象になる

肺がんと診断された後は、病状、治療、副作用、家族、仕事、経済面など、さまざまな不安が生じます。息苦しさへの恐怖によって外出や入浴を避け、生活範囲が狭くなることもあります。

不安や抑うつは本人の気持ちの弱さによって生じるものではありません。症状、睡眠不足、薬の影響、先の見通しを理解できないことなどが重なっている場合があります。

担当医や看護師に相談するほか、必要に応じて心理職、精神科・心療内科、医療ソーシャルワーカー、がん相談支援センターなどの支援を利用します。

家族も、介護や治療方針への迷い、仕事との両立などで負担を抱えることがあります。緩和ケアでは、患者さん本人だけでなく家族の相談にも対応します。

自宅で受けられる支援を早めに確認する

肺がんの治療中でも、訪問診療、訪問看護、在宅酸素療法、介護保険サービスなどを利用しながら自宅で生活できる場合があります。

在宅医療は、抗がん治療をやめた人だけが利用するものではありません。通院で薬物療法を受けながら、自宅で症状管理や生活支援を受けることもあります。

病状が急に変化してから準備を始めると、希望する療養環境を整える時間が不足することがあります。次の内容を早めに確認しておくと、本人と家族の負担を減らしやすくなります。

  • 夜間や休日に症状が悪化した場合の連絡先
  • 訪問診療や訪問看護を利用できるか
  • 酸素や医療用麻薬を自宅で管理する方法
  • 家族が行うケアと、医療者へ任せられること
  • 緊急時に入院できる病院があるか
  • 自宅、病院、緩和ケア病棟など、希望する療養場所

参考:在宅緩和ケア|国立がん研究センター がん情報サービス

緩和ケアを相談する目安

緩和ケアは、症状が非常に強くなるまで待つ必要はありません。次のような状況では、担当医や看護師へ相談しましょう。

  • 息苦しさ、咳、痛みなどで眠れない
  • 症状のために食事、入浴、外出が難しい
  • 治療を続けたいが、副作用や体力低下が不安
  • 治療の目的や今後の見通しを整理したい
  • 本人と家族で治療への考え方が異なる
  • 仕事、治療費、介護、子育てなどに困っている
  • 通院が負担になり、在宅医療について知りたい

緩和ケアを受けることは、がんに対する治療を諦めることではありません。症状と生活上の問題を軽減し、必要な治療を受け続けるための支援でもあります。

次の章では、標準治療で効果が不十分になった場合を含め、治療の利益と負担をどのように比較し、セカンドオピニオンや臨床試験を検討するかを解説します。

肺がんの治療を選ぶときに確認すること

肺がんの治療は、ステージだけで決まるものではありません。非小細胞肺がんか小細胞肺がんか、遺伝子・バイオマーカー、病変を切除できるか、呼吸機能、全身状態、持病などによって選択肢が変わります。

治療法を比較するときは、薬や治療の新しさだけでなく、何を目指す治療なのか、どの程度の利益が期待できるのか、生活へどのような負担が生じるのかを確認します。

治療の主な目的には、次のような違いがあります。

  • 手術や化学放射線療法によって根治を目指す
  • 手術後の再発リスクを下げる
  • 病変を縮小させ、手術や局所治療につなげる
  • 進行を抑えて生存期間を延ばす
  • 咳、息苦しさ、痛みなどの症状を軽減する

同じ薬物療法でも、再発予防を目的とする場合と、ステージ4・再発肺がんの進行を抑える場合では、治療効果の評価方法や治療期間が異なります。

治療を受ける場合と受けない場合を比較する

副作用が心配なときは、治療を受ける危険だけでなく、治療を行わない場合や開始を遅らせた場合に起こり得ることも確認します。

たとえば、術後薬物療法では、再発リスクをどの程度下げることが期待されるのか、治療を行わなかった場合と比べてどのような違いがあるのかを尋ねます。

切除不能ステージ3では、化学放射線療法を受けられる時期を逃すと根治を目指す治療が難しくなる可能性があります。一方、ステージ4では、遺伝子検査の結果を待ってから治療を決めた方がよい場合もあります。

治療を急ぐ必要があるか、検査結果やセカンドオピニオンを待つ時間があるかは、病状によって異なります。治療開始の期限を具体的に確認します。

次の薬を選ぶ前に検査結果を見直す

進行・再発非小細胞肺がんで治療効果が不十分になった場合は、未使用の承認薬が残っていないか、これまでに行った遺伝子検査が必要な項目を網羅しているかを確認します。

初回診断時にEGFRとALKだけを調べていた場合は、ROS1、BRAF、MET、RET、KRAS、HER2、NTRKなどが未検査の可能性があります。検体不足で検査できなかった項目がないかも確認します。

分子標的薬を使用した後に病状が進行した場合は、薬剤耐性に関係する新たな遺伝子変化を調べるため、組織の再生検や血液を用いたリキッドバイオプシーを検討することがあります。ただし、再検査を行えば必ず次の薬が見つかるわけではありません。検査の目的、組織採取の危険、結果が治療へ結び付く可能性について説明を受けます。

標準治療は効果を保証する治療ではない

標準治療とは、臨床試験などの結果から、現時点で有効性と安全性のバランスが優れていると判断され、広く推奨されている治療です。

「一般的な治療」「古い治療」という意味ではなく、新しい薬が標準治療へ組み込まれることもあります。一方、標準治療であっても、すべての患者さんに同じ効果が得られるわけではありません。

標準治療で病状を抑えられなくなった場合も、直ちに受けられる医療がなくなるわけではありません。未使用の承認薬、局所治療、再検査、臨床試験、症状を軽減する緩和ケア・支持療法などを検討します。

臨床試験は効果が確立した治療ではない

臨床試験は、新しい薬や治療法の効果と安全性を調べ、将来の標準治療をつくるために行われる研究です。

参加条件には、肺がんの病理型、ステージ、遺伝子異常、これまでに使用した薬、臓器機能、全身状態などが定められています。条件を満たしているように見えても、詳しい検査の結果によって参加できない場合があります。

また、新しい治療を受けられる臨床試験だけではありません。標準治療と新しい治療を比較する試験では、無作為に治療群が割り付けられ、本人や担当医が治療法を選べない場合があります。

臨床試験を検討するときは、次の内容を確認します。

  • 試験の目的と現在の開発段階
  • 標準治療と比べて何を確認する試験か
  • 治療法を本人が選べるか、無作為割り付けがあるか
  • 予想される副作用と、まだ分かっていない危険は何か
  • 検査や通院の回数、入院の必要性
  • 治療費や検査費、交通費などの負担
  • 参加しない場合に選べる標準治療は何か
  • 途中で参加を中止した場合、その後に受けられる治療は何か

臨床試験への参加を断ったり、途中で参加を取りやめたりしたことを理由に、通常必要な医療を受けられなくなることはありません。

参考:肺がん 臨床試験|国立がん研究センター がん情報サービス

自由診療を検討するときは標準治療との関係を確認する

自由診療には、国内で肺がんに対する有効性と安全性が確立していない治療も含まれます。「先端的」「免疫を高める」「副作用が少ない」といった説明だけでは、治療効果を判断できません。

検討するときは、治療名を具体的に確認し、肺がんのどの病理型・ステージを対象とした臨床試験があるのか、標準治療と比較して生存期間や病状の進行を抑える効果が示されているのかを確認します。

また、自由診療を受けることで、標準治療や臨床試験を受ける時期が遅れないか、薬の相互作用や副作用によって後の治療へ影響しないかも確認します。

セカンドオピニオンは転院を決める場ではない

提案された治療に迷う場合や、ほかに選択肢がないか確認したい場合は、セカンドオピニオンを利用できます。

セカンドオピニオンは、現在の担当医から診療情報の提供を受け、別の医師の意見を聞く仕組みです。必ずしも転院を前提とするものではありません。別の医師の意見を聞いた後、現在の医療機関で治療を続けることもできます。

肺がんでは、次のような場面で利用を検討できます。

  • ステージ3で、手術と化学放射線療法のどちらを選ぶか迷っている
  • 肺の切除範囲や術後の呼吸機能について別の意見を聞きたい
  • 遺伝子検査が十分に行われているか確認したい
  • 希少な遺伝子異常が見つかり、治療経験のある施設へ相談したい
  • 治療変更を提案された理由や、残っている選択肢を確認したい
  • 臨床試験や再生検について専門施設の意見を聞きたい

病理標本や画像データが必要になる場合があるため、紹介状だけでなく、CT・MRI・PET/CTの画像、病理診断書、遺伝子・PD-L1検査の結果、これまでの治療歴などを準備します。

参考:セカンドオピニオン|国立がん研究センター がん情報サービス

がん相談支援センターも利用できる

がん診療連携拠点病院などに設置されたがん相談支援センターでは、治療、副作用、セカンドオピニオン、臨床試験、がんゲノム医療、緩和ケア、仕事や治療費などについて相談できます。

その病院へ通院していない人や家族も、無料で相談できる場合があります。相談員が特定の治療法を決定することはありませんが、情報を整理し、どこへ相談すればよいかを考える支援を受けられます。

参考:がん相談支援センターで相談できること|国立がん研究センター がん情報サービス

診察で確認したい質問

  • この治療は、何を目標に行うのか
  • 自分と近い病状では、どの程度の効果が期待されるか
  • 治療を受けない場合や開始を遅らせた場合、何が起こり得るか
  • ほかに標準治療として選べる方法があるか
  • 治療効果は、いつ、どの検査で評価するか
  • どのような変化があれば治療を変更するか
  • 現在の治療を変更する理由は、病状の進行、副作用、臓器機能の低下のうち、どれに当たるか
  • 追加の遺伝子検査や再生検は必要か
  • 臨床試験やセカンドオピニオンを検討する時間があるか
  • 治療によって仕事、家事、通院へどのような影響があるか

治療を選ぶときは、すべての情報を一度に理解する必要はありません。説明を受けた内容をメモし、分からない点を再度質問したり、家族や身近な人に同席してもらったりする方法があります。

治療の医学的な利益と危険に加え、本人が保ちたい生活や避けたい負担を医療者へ伝えることが、納得できる治療選択につながります。

参考:肺癌診療ガイドライン2025年版|日本肺癌学会

まとめ|治療とこれからの生活について

肺がんと診断されると「治るのか」「仕事を続けられるのか」「家族にどこまで頼ればよいのか」など、治療以外の不安も生じます。検査や治療の説明を一度ですべて理解し、自分だけで正解を決める必要はありません。

治療を選ぶときは、効果や副作用だけでなく、仕事、家事、通院、食事、趣味など、今後もできるだけ保ちたい生活を医療者へ伝えてください。「長く生きたい」「苦痛を減らしたい」「働き続けたい」「家で過ごす時間を大切にしたい」といった希望も、治療方針を考えるための大切な情報です。

分からないことがある場合は、現在の病状、治療の目的、生活に予想される影響、困ったときの連絡先を一つずつ確認します。治療中に希望や体調が変わったときは、その都度方針を話し合うことができます。

肺がんと向き合うことは、病気だけを中心に生活を組み立てることではありません。医療者や家族、相談支援サービスの力を借りながら、自分が大切にしたい時間をできるだけ保てる方法を探していきましょう。

大細胞神経内分泌癌(Large Cell Neuroendocrine Carcinoma/LCNEC)は、肺癌全体の約3%を占める希少ながんで、非小細胞肺癌に分類される組織型のひとつです。増殖スピードが速く悪性度が高いという小細胞肺癌に似た特徴があり、平均発症年齢は約65歳、喫煙歴のある男性に多い疾患です。初期には自覚症状が乏しく、進行すると長引く咳、血痰、息切れ、胸の痛み、声のかすれ、体重減少、全身の倦怠感などが現れます。

本ページでは、大細胞神経内分泌癌の特徴や原因、症状、診断(画像検査・病理検査・免疫染色)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • 肺癌全体の約3%を占める希少ながんで、悪性度が高く再発しやすい
  • TP53・RB1などの遺伝子異常が高頻度で見られる
  • 手術後も再発リスクが高く、複数の治療を組み合わせることが重要

大細胞神経内分泌癌(LCNEC)とは

大細胞神経内分泌癌は肺癌全体の約3%しかみられない希少腫瘍です。LCNECが発生する臓器は肺が最も多く、約半数を占めています。

LCNECが発生する臓器は肺が最も多く、次いで消化器(膵臓や大腸、小腸などの消化管など)に発生することが多いがんです。

大細胞神経内分泌癌は神経内分泌腫瘍の一種と考えられています。ちなみに、神経内分泌腫瘍は、神経内分泌細胞から発生する腫瘍で、悪性度に応じて、小細胞癌、大細胞神経内分泌癌、非定型カルチノイド、定型カルチノイドに分類されます。この中で、大細胞神経内分泌癌は、小細胞癌に近い性質を持つ悪性度が高く予後不良の神経内分泌腫瘍と考えられています。

肺癌は「非小細胞肺癌」と「小細胞肺癌」の2つに分けられ、大細胞神経内分泌癌は非小細胞肺癌に属します。しかし、増殖スピードが速く悪性度が極めて高いという、小細胞肺癌によく似た特徴があります。

また、平均発症年齢は約65歳で、喫煙歴(タバコ)との強い関連があります。

肺に発生する大細胞神経内分泌癌は、初期段階では自覚症状が乏しいのが一般的です。がんが進行するにつれ、長引く咳、血痰、息切れ、胸の痛み、声のかすれ、体重減少、全身の倦怠感などの症状が現れます。

大細胞神経内分泌癌(LCNEC)の原因

大細胞神経内分泌癌の発生メカニズムは完全には解明されていませんが、喫煙(タバコ)との関連が非常に強いことが分かっています。患者様の多くは高齢男性で、長年の喫煙量(本数×年数)に比例して発症リスクが高まるのが特徴です。

また、遺伝子異常も発症原因に深く関わっていると考えられています。例えば、細胞のがん化を抑える「TP53」や「RB1」といった遺伝子の異常が高頻度で見られます。さらにこの両方とも同時に遺伝子異常が見られる方は、約40%(10人中4人程度)と報告されています。

また、一部の患者様では「STK11」や「KEAP1」の変異も確認されています。

これらの異常が重なることで、がん細胞が過剰に増え続け、極めて進行の速いがんになると考えられています。

大細胞神経内分泌癌(LCNEC)の診断

大細胞神経内分泌癌の診断は、画像検査と詳細な病理組織学的検査を組み合わせて行います。

画像検査では、CT検査で肺の末梢(外側)に比較的大きな塊(腫瘤)として発見されることが多く、PET-CT検査や頭部MRI検査を用いて全身への転移状況を調べます。

また、診断の最大の鍵となるのが病理検査です。大細胞神経内分泌癌は「細胞が大きいこと」と「ホルモンを出す性質を持つこと」の2つの条件を病理医が確認する必要があります。

一般的には、口から気管支鏡という細いカメラを挿入して腫瘍の一部を採取して病理検査を行いますが、小さな組織片では特徴を捉えきれないことが多く、手術で切り取った部分を詳しく解析して初めて病名が確定することも珍しくありません。

最終的には、特殊な染料を使って特定のタンパク質の有無を調べる「免疫染色」を行い、神経内分泌の目印(CD56、クロモグラニンA、シナプトフィジンなど)が陽性所見であれば病理診断上、確定診断できます。

大細胞神経内分泌癌(LCNEC)の一般的な治療法

大細胞神経内分泌癌の治療方針は、がんがどれくらい進行しているか(ステージ)や、患者様の体力・体調に合わせて決められます。

この病気は症例数が少なく、「どの治療が本当に効果的か」を確かめるための大規模な研究データがまだ十分にそろっておらず様々な治験も行われている状況です。

そのため実際の治療では、比較的データが蓄積されている非小細胞肺癌や小細胞肺癌の治療実績を参考にしながら、患者様お一人おひとりに合わせて慎重に治療方針を組み立てていきます。

早期の場合(まだ広がっていない場合)

大細胞神経内分泌癌の治療では、手術が最も重要な役割を果たします。ただしこの病気は、他の非小細胞肺癌に比べて、たとえ早期に見つかっても手術後に再発しやすいという特徴があります。

そのため手術だけで終わらせず、術後に抗がん剤治療(術後補助化学療法)を組み合わせることが勧められています。主に使われるのは「プラチナ製剤(シスプラチンなど)+エトポシド」という抗がん剤の組み合わせです。このような術後補助化学療法を行うことで、生存率が約58%→約88%まで改善したという報告もあります。

進行している場合・再発した場合

手術で取りきれないほど進行している場合や、再発してしまった場合には、抗がん剤を中心とした治療が主体になります。最初に選ばれることが多いのは、小細胞肺癌に準じた治療内容(プラチナ製剤+エトポシドなど)ですが、非小細胞肺癌向けの治療法が取り入れられることもあります。また近年では、一部の患者様において免疫チェックポイント阻害薬による効果も期待され始めています。

放射線治療について

放射線治療は、がんがそれ以上広がらないように抑えたり、症状を和らげたりする目的で行われます。がんが1か所にとどまっていても手術が難しいという場合には、抗がん剤治療と組み合わせる「化学放射線療法」が検討されます。

また大細胞神経内分泌癌は脳に転移しやすいという特徴があるため、転移が見つかった際の治療や痛みの緩和は、生活の質を保つうえでとても大切になります。

大細胞神経内分泌癌(LCNEC)における保険診療の限界

大細胞神経内分泌癌の保険診療では、手術・化学療法・放射線療法などを組み合わせて治療を進めます。

ただしこの病気は悪性度が非常に高く、早期再発しやすいという特徴があるため、標準治療だけでは長期的に病状を安定させるのが難しいケースも少なくありません。

実施できる化学療法の限界

大細胞神経内分泌癌は、最初の抗がん剤治療である程度の効果が見込まれますが、小細胞肺癌と同じように早期に薬が効かなくなり、再び進行するリスクが高いがんです。再発後の二次治療において、有効性が証明されたお薬の選択肢が限られている点は大きな課題となっています。

化学療法に伴う「きつい」副作用

治療に用いられるプラチナ製剤などは、吐き気、嘔吐、食欲不振、全身の倦怠感に加え、骨髄抑制(白血球や血小板の減少)による感染症リスクを伴う場合があります。特に高齢者や合併症を持つ患者様の場合、副作用により治療を続けることが難しくなるとともに、普段の生活を楽しく送れなくなる可能性があるため注意が必要です。

保険診療ではカバーしきれない再発・進行のリスク

大細胞神経内分泌癌は、手術で完全に切除できたと思われる場合であっても、短期間で別の臓器へ転移(遠隔転移)しやすい傾向があります。手術後に術後補助化学療法を行わない場合には10人に4人が、行えたとしても10人に1割程度は再発してしまうと報告されています。

大細胞神経内分泌癌で重要な新しい治療の考え方

大細胞神経内分泌癌では、現時点で最も重要なのは、「遺伝子異常の有無を調べること」と「免疫療法の適応を評価すること」です。

特にTP53変異やRB1変異は比較的高頻度とされ、標的治療の候補となりえます。また、免疫チェックポイント阻害薬が有効となる可能性もあります。これらの治療を組み合わせることで、治療効果を高めることが期待できます。

分子レベルの異常にアプローチする「核酸医薬(アプタマー・siRNA ・miR-34a mimic)」

近年、がんの発症や進行に関わる分子レベルの異常に着目した核酸医薬が注目され、研究・臨床応用が進んでいます。当院では、根本的な原因に直接作用することが期待される「アプタマー」「RNA干渉を利用した核酸医薬(siRNA など)」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を、新たな治療の選択肢として提供しています。

アプタマー核酸医薬は、がんに特有に発現している異常なタンパク質に結合し、その働きを抑えてがん細胞の増殖を抑制したり死滅させたりする治療薬です。一方、miR-34a mimic 核酸医薬は、がん化によって失われた体に本来備わる「がんを抑える力」を取り戻す治療薬で、がんの成長や増殖を止め、自然ながん細胞の死滅を促します。

がん中央クリニックグループでは、こうした分子レベルにアプローチする治療を提供しています。

欧米では、がんの部位ではなく遺伝子やタンパク質の異常に注目して治療法を決定する研究や臨床試験が行われています。日本では一部の遺伝子レベルの治療が保険適用となっているものの、国際的にはやや遅れをとっている状況です。がん中央クリニックグループでは、いち早く遺伝子レベルの異常に焦点をあてた診察・治療を導入しています。

「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」治療をオススメする患者様

アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」は、大細胞神経内分泌癌のほとんどの患者様にお選びいただける治療法です。

以下では、どのような患者様に効果が期待できるのかを解説します。ご自身の状況に照らし合わせてご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

大細胞神経内分泌癌では、病状や体力、副作用などの理由で、保険診療の標準治療だけでは選択肢が限られることがあります。そうした場合でも、がんに関わる分子レベルの異常に着目する核酸医薬は、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供することが可能です。

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)は目立った副作用が現れにくく、「体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方でも、治療の提案が可能です。

さらに、まだ治療ができる体力があるにもかかわらず選択肢がなくなり、緩和を勧められている方にとっても、新たな治療の選択肢として検討いただけます。

がん中央クリニックグループでは、核酸医薬を含め、様々な治療を組み合わせながら患者様の状態や疾患に応じて、患者様一人ひとりに合わせたテーラーメイドによる治療を提案、提供しています。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)は、化学療法などの薬物療法や放射線療法と併用でき、相乗効果が期待できます。

なぜなら、化学療法はすでに増殖したがん細胞や産生されたたんぱく質に作用するのに対し、核酸医薬はがん細胞やたんぱく質が作られる前の段階に作用するからです。両者は攻撃するポイントが異なるため、組み合わせることでより高い効果が期待できます。

大細胞神経内分泌癌は肺癌の中でも悪性度が高いため、完治を目指すには複数の治療法を組み合わせることが重要です。標準治療(手術前後の抗がん剤治療を含む)を受けている患者様にも、核酸医薬の併用は選択肢となります。

再発を抑制、防止するため。手術前後のすべての患者様

大細胞神経内分泌癌は、手術を行っても再発しやすい疾患です。手術のみでは5年以内に約4割の患者様が再発するとされ、再発予防のために術後補助化学療法(抗がん剤治療)が勧められるケースがあります。

しかし、術後補助化学療法を実施しても再発する患者様は一定数おられます。また、抗がん剤には副作用があるため、体力に不安のある高齢の患者様や副作用が心配な患者様には実施が難しいこともあります。

こうした背景から、手術前後の患者様が核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)を併用することは、再発リスクを下げる一つの選択肢となります。

治療継続可能な副作用

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)には目立った副作用が少ないことも特徴です。

特に、化学療法で起きやすい嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応などがあります。解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半であり、治療を継続するのに支障をきたしません。

「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」といった方でも受けていただける治療となっております。

大細胞神経内分泌癌の完治を目指して保険診療と患者様に合った自由診療を組み合わせるのがおすすめ

大細胞神経内分泌癌は、適切に治療を行えば完治を目指せる疾患です。

発症要因の一つに遺伝子異常があるため、保険診療と核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、免疫チェックポイント阻害薬などを組み合わせる集学的治療が有効な選択肢となります。保険診療だけではカバーしきれない場合にも、これらの治療によって腫瘍縮小効果や再発抑制効果が期待できます。

がん中央クリニックグループでは、「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがんの自由診療を提案いたします。大細胞神経内分泌癌の患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。

「ステージ4の肺がんです。」

医師からそう告げられた瞬間、頭の中が真っ白になったという人は少なくありません。「もう治療できないのではないか」「命はどれくらいなのか」「家族には何と伝えればいいのだろう」「仕事は続けられるのか」「本当に他に方法はないのか」診断直後はこのような疑問や不安が一度に押し寄せます。

インターネットで「肺がん ステージ4」と検索すると、「末期がん」「余命」「生存率」といった言葉が数多く並び、不安がさらに大きくなってしまうこともあります。しかし、現在の肺がん診療は、こうした情報だけでは語れないほど大きく変化しています。

肺がんステージ4と診断されると、以前は抗がん剤による延命治療が中心でした。しかし現在では、遺伝子異常に応じた分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場によって、治療の選択肢は大きく広がっています。患者によっては病気を長期間コントロールしながら仕事や日常生活を続けている人もおり、「ステージ4=すぐに治療ができなくなる」という時代ではなくなりました。

同じステージ4という診断であっても、病気の広がり方や遺伝子変異の有無、全身状態などによって治療方針は大きく異なります。肺だけに病変がある人と、脳や骨へ転移している人では治療の考え方が違いますし、EGFR遺伝子変異がある人とない人でも、最初に選択される薬は変わります。「ステージ4」という言葉だけでは、その人の病状や将来を判断することはできません。

この記事では、肺がんステージ4とはどのような状態なのかをはじめ、生存率や余命の考え方、現在受けられる標準治療、最新の薬物療法、完治の可能性、さらには標準治療以外の選択肢まで、現在の医学的知見に基づいて詳しく解説します。

診断直後に知っておきたい基本的な知識だけでなく、治療を選択する際に判断材料となる情報もできる限り分かりやすくまとめています。この記事が、不安の中で情報を探している患者さんやご家族にとって、冷静に状況を整理し、今後の治療について考えるための一助となれば幸いです。

  • 肺がんのステージ4は肺以外の場所へがんが広がっている状態
  • 肺がんステージ4の5年生存率は約8.6%(国立がん研究センター 2015年5年生存率)
  • ステージ4の余命はどの治療を受けられるかによって大きく変わる

肺がんステージ4とは

肺がんのステージ4とは、一般的に「肺以外の場所へがんが広がっている状態」を指します。そのため、「最も進行した段階」「末期がん」という説明を目にすることもあります。しかし実際の診療では、ステージ4という一つの言葉だけで病状を判断することはありません。

現在の肺がんでは、どこへ、どの程度転移しているのか、そしてどのような性質を持つがんなのかによって、治療方法も予後も大きく変わるからです。

肺がんの進行度は、国際的に用いられているTNM分類によって決定されます。Tは肺の原発巣の大きさや周囲への広がり、Nはリンパ節転移、Mは遠隔転移を表しており、この三つを組み合わせて病期(ステージ)が決定されます。

このうちステージ4に分類される最大の理由は「M」、つまり遠隔転移です。肺の外にがん細胞が広がると、たとえ肺の腫瘍自体がそれほど大きくなくてもステージ4になります。

参考:肺癌診療ガイドライン2025年版|日本肺癌学会

肺がんが転移しやすい部位

遠隔転移が起こりやすい部位としては、脳、骨、肝臓、副腎が代表的です。例えば脳へ転移した場合には頭痛や手足の麻痺、けいれんなどが現れることがありますし、骨へ転移すると腰痛や背部痛、骨折の原因になることもあります。ただし、転移が見つかったからといって必ず症状があるとは限りません。現在ではPET-CTやMRIなど画像診断の精度が向上したことで、自覚症状がない段階で転移が見つかる患者も少なくありません。

ⅣA期・ⅣB期

肺がんのステージ4は、さらにⅣA期とⅣB期に分類されます。

ⅣA期は、例えば片側の肺にできた肺がんが反対側の肺へ転移している場合や、胸水・心嚢水の中にがん細胞が確認された場合、あるいは一つの遠隔転移が認められる場合などが該当します。一方、ⅣB期では複数の臓器や複数箇所への遠隔転移が認められ、病気がより広く全身へ及んでいる状態です。

この分類は単なる数字の違いではありません。なぜなら、転移の数や広がりによって治療戦略が変わることがあるためです。

オリゴ転移

近年、特に注目されている考え方が『オリゴ転移(Oligometastasis)』です。これは転移がごく限られた数にとどまっている状態を指します。例えば肺に原発巣があり、脳へ一つだけ転移しているようなケースでは、肺の病変と転移巣の両方へ積極的な局所治療を行うことで、長期生存が期待できる患者もいることが分かってきました。一部では治癒を目指した集学的治療も検討されます。

EGFR遺伝子変異・ALK融合遺伝子

さらに重要なのが、肺がんは病気の広がりだけではなく、がん細胞の性質そのものも治療方針を左右するという点です。

例えばEGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子などが見つかった患者では、従来の抗がん剤ではなく分子標的薬が第一選択となることがあります。またPD-L1というタンパク質の発現状況によっては、免疫チェックポイント阻害薬を中心とした治療が選択される場合もあります。

そのため現在の肺がん診療では「ステージ4でした」という説明だけでは十分ではありません。実際にはその後、遺伝子検査や病理検査、画像検査などを組み合わせながら、「この患者に最も効果が期待できる治療は何か」を慎重に検討していきます。

ステージ以外の要素も含めて総合的に評価

ステージ4という診断は、確かに病気が進行していることを意味します。しかし、それだけで「治療ができない」「余命が短い」と決めつけることはできません。現在の肺がんは、転移の状況、遺伝子異常、全身状態など、多くの要素を総合的に評価して初めて治療方針が決まる病気になっています。

そのため診断直後は、ステージという一つの情報だけで将来を判断するのではなく、自分の肺がんがどのような特徴を持っているのかを正しく理解することが、その後の治療を考える第一歩になります。

ステージ4でも治療する理由

「ステージ4まで進行しているなら、もう治療をしても意味はないのではないか。」肺がんと診断された患者さんやご家族から、このような声を聞くことは少なくありません。実際「ステージ4=治療できない」「延命しかできない」というイメージを持っている人も多いでしょう。しかし、この考え方は必ずしも当てはまりません。

もちろん、ステージ4は肺の外へがんが広がっている状態であり、早期肺がんのように手術だけで完治を目指せるケースは多くありません。だからといって治療の目的が「何もできない」になるわけではありません。近年は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場によって、病気を長期間コントロールできる患者が増えており、診療の考え方そのものが大きく変わっています。

その変化を理解するためには、まず肺がん治療の目的を知る必要があります。

肺がん治療の目的

早期肺がんでは、治療の第一目標は「がんを完全に取り除くこと」です。一方、ステージ4では病気が全身へ広がっているため、目に見える病変だけを切除しても、体内のどこかに残っているがん細胞まで取り除くことは困難です。そのため現在の治療では「すべてのがんをなくすこと」だけではなく、「病気をできるだけ長くコントロールしながら生活を維持すること」が重要な目標になります。

ここで誤解してはいけないのは「コントロールする」という言葉が「ただ延命するだけ」という意味ではないことです。

例えば、肺がんによる咳や息苦しさ、痛みなどの症状が改善すれば、これまで難しかった外出や仕事、趣味を再開できる患者もいます。分子標的薬がよく効いた患者では、腫瘍が大きく縮小し、普段と変わらない生活を数年間続けられることもあります。治療の目的は寿命を延ばすことだけではなく「その時間をどのように過ごせるか」を守ることにもあるのです。

こうした考え方が広がった最大の理由は、肺がん治療そのものが大きく進歩したことにあります。

肺がん治療の進歩

かつてステージ4肺がんの薬物療法は、細胞障害性抗がん剤が中心でした。抗がん剤によって腫瘍が縮小する患者もいましたが、効果が続く期間には限りがあり、副作用とのバランスも大きな課題でした。

その後、EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子など、肺がんの増殖に深く関わる遺伝子異常が次々と明らかになり、それぞれを標的とする分子標的薬が開発されました。さらに、患者自身の免疫機能を利用してがんを攻撃する免疫チェックポイント阻害薬も登場し、治療成績は以前と比べて大きく改善しています。

同じステージ4でもEGFR遺伝子変異が見つかった患者では、分子標的薬が第一選択となることが一般的です。一方で、遺伝子変異がなくPD-L1の発現が高い患者では、免疫チェックポイント阻害薬が中心になる場合があります。さらに、これらに当てはまらない患者では、抗がん剤と免疫療法を組み合わせた治療が検討されます。このように現在は「どの薬を使うか」ではなく、「その患者の肺がんにはどの治療が最も適しているか」を考える時代になっています。

抗がん剤以外の選択肢が増えている

ステージ4だからといって全身治療だけが行われるわけではありません。

例えば脳へ一つだけ転移している場合には、定位放射線治療によって転移巣を治療しながら、肺の原発巣に対して薬物療法を続けることがあります。骨転移による強い痛みがある場合には、その部位へ放射線を照射して症状を和らげることもあります。さらに、転移がごく限られているオリゴ転移では、肺の病変と転移巣の双方へ局所治療を組み合わせることで、長期生存が期待できる患者も報告されています。

もちろん、すべての患者が同じように治療へ反応するわけではありません。治療効果には個人差がありますし、副作用との兼ね合いから薬剤を変更することもあります。しかし、以前のように「抗がん剤が効かなくなったら終わり」という時代ではなくなりました。新しい薬剤への切り替えや、遺伝子異常に応じた治療、局所治療との組み合わせなど、状況に応じて次の選択肢を検討できる場面が増えています。

一人ひとりの肺がんに合わせた個別化医療が標準

ステージ4と診断された時点で最も重要なのは「治療できるかどうか」を心配することではありません。

まずは自分の肺がんがどのような特徴を持ち、どのような治療が選択できるのかを正確に知ることです。そのために必要なのが、診断直後に行われる詳しい検査です。肺がんでは、病気の広がりを調べるだけでなく、遺伝子異常や免疫の状態まで詳しく調べることで、最初に選ぶべき治療が決まります。

現在の肺がん診療は「ステージ4だから同じ治療を受ける」という時代ではありません。一人ひとりの肺がんの性質を詳しく調べ、その結果に合わせて治療を選択する個別化医療が標準となっています。そして、その出発点となるのが、次に紹介する各種検査です。

各種検査

肺がんステージ4と診断されると、多くの患者は「すぐに抗がん剤が始まるのだろう」と考えます。しかし、実際にはそのような流れになることはほとんどありません。診断がついた後、まず行われるのは「どの薬を使うか」を決めるための詳しい検査です。

これは現在の肺がん治療が「肺がん」という一つの病気を治療する時代から「その人の肺がんの特徴に合わせて治療を選ぶ時代」へ変わったためです。同じステージ4であっても、遺伝子異常の有無や免疫の状態によって、最初に選択される治療が全く異なることがあります。現在では治療を急ぐよりも先に、病気を正確に分析することが非常に重要になっています。

病理検査

最初に行われるのは、肺がんであることを確定する病理検査です。

気管支鏡検査やCTガイド下生検などによって採取した組織を顕微鏡で調べ、がん細胞の種類を確認します。肺がんには大きく非小細胞肺がんと小細胞肺がんがあり、この違いだけでも治療方針は大きく変わります。さらに非小細胞肺がんの中でも、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなど組織型によって使用できる薬剤が異なるため、病理診断はすべての治療の出発点になります。

遺伝子検査

病理診断が終わると、次に重要になるのが遺伝子検査です。

近年の肺がん診療では「どこに転移しているか」と同じくらい、「どのような遺伝子異常を持っているか」が重要視されています。特に非小細胞肺がんでは、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、BRAF V600E変異、MET遺伝子異常、RET融合遺伝子、HER2変異、KRAS G12C変異など、治療薬が存在する遺伝子異常が次々と見つかっています。

もしこれらの遺伝子異常が確認されれば、従来の抗がん剤よりも分子標的薬が第一選択となることが少なくありません。分子標的薬は、がん細胞が増殖する原因となっている分子を狙って作用するため、高い奏効率が期待できる場合があります。そのため現在では、遺伝子検査の結果を待ってから治療を開始することが標準的な流れになっています。

さらに現在では、一つずつ遺伝子を調べるだけではなく『次世代シークエンサー(NGS)』を用いたマルチプレックス遺伝子検査も広く普及しています。一度の検査で複数の遺伝子異常を同時に調べられるため、患者への負担を抑えながら、より多くの治療選択肢を検討できるようになりました。

参考:肺がん 検査|国立がん研究センター がん情報サービス

PD-L1検査

遺伝子検査と並んで重要なのが、PD-L1検査です。

PD-L1は、がん細胞の表面に発現するタンパク質の一つで、免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測するための重要な指標です。PD-L1の発現割合が高い患者では、免疫チェックポイント阻害薬を単独で使用することが検討される場合があります。一方、発現が低い場合でも、抗がん剤との併用によって効果が期待できるケースもあるため、この結果だけで治療法が決まるわけではありません。それでも、現在の肺がん診療では欠かすことのできない検査になっています。

CT・PET-CT・MRI検査

病気の広がりを正確に把握するための画像検査も重要です。

胸部から腹部までのCT検査では、肺の病変だけでなく、リンパ節や肝臓、副腎などへの転移の有無を確認します。さらにPET-CTでは、全身のがん細胞が活発に活動している部位を一度に調べられるため、CTだけでは分かりにくい転移を発見できることがあります。

また、肺がんでは脳転移が比較的多いため、症状がなくても頭部MRIを行うことが一般的です。脳転移はCTでは小さな病変を見逃すこともあるため、より精度の高いMRIが推奨されています。脳転移の有無は、薬物療法だけでなく放射線治療の必要性を判断するうえでも重要な情報になります。

骨転移が疑われる場合には、PET-CTのほか、病状によって骨シンチグラフィやMRIを追加することもあります。骨転移は痛みや骨折の原因になるだけでなく、治療方針にも影響するため、必要に応じて詳しく評価されます。

全身状態を評価

さらに見落とされがちですが、患者自身の全身状態を評価することも、治療選択では非常に重要です。

肺がん診療では『Performance Status(PS)』という指標を用いて、日常生活をどの程度自分で送れているかを評価します。同じステージ4であっても、仕事や家事を問題なく行えている患者と、ほとんどベッド上で生活している患者では、体へかけられる治療の強さが異なります。治療方針は画像や検査結果だけでなく、患者の体力や生活状況も含めて決定されます。

早く治療を始めるよりも大切なこと

ここまで多くの検査を行うと「治療開始が遅れてしまうのではないか」と心配になる人もいるでしょう。しかし、検査を省略して早く治療を始めることよりも、病気の性質を正確に把握し、その患者に最も適した治療を選ぶことの方が重要だと考えられています。

例えば、EGFR遺伝子変異がある患者へ抗がん剤を先に開始してしまうと、本来第一選択となる分子標的薬を最初から使えなくなる場合があります。反対に、PD-L1の発現が高い患者では、免疫チェックポイント阻害薬を中心とした治療が高い効果を示すこともあります。つまり「早く治療を始めること」が最優先ではありません。「最初から最適な治療を選ぶこと」が、その後の治療成績を大きく左右するのです。

こうして病理診断、遺伝子検査、PD-L1検査、画像検査、全身状態の評価までが終わると、初めて治療方針を具体的に検討する段階へ進みます。同じステージ4という診断でも、その結果によって選択される治療は大きく異なります。

肺がんステージ4の治療全体像

肺がんステージ4の治療は、一つの方法だけで完結することはほとんどありません。現在の診療では、薬物療法を中心に据えながら、必要に応じて放射線治療や手術、緩和ケアなどを組み合わせて病気をコントロールしていきます。どの治療を選択するかは、前章で説明した遺伝子検査やPD-L1検査、画像検査などの結果を踏まえて決定されます。

治療法は大きく分けると「全身へ作用する治療」と「特定の病変を治療する局所治療」の二つに分けられます。

全身治療

全身へ作用する治療の中心となるのが薬物療法です。

現在の肺がん診療では、遺伝子異常が確認された患者には分子標的薬、免疫療法の効果が期待できる患者には免疫チェックポイント阻害薬、それ以外の患者には細胞障害性抗がん剤や免疫療法との併用療法など、病気の特徴に合わせて治療が選択されます。近年は新しい薬剤が次々と登場しており、以前と比べて選択肢は大きく広がっています。

局所治療

放射線治療や手術は局所治療に分類されます。

ステージ4というと「全身に病気が広がっているから局所治療は意味がない」と思われることがありますが、実際にはそうではありません。脳転移による神経症状を改善したり、骨転移による痛みを和らげたりするために放射線治療が行われることがありますし、転移が限られている患者では原発巣や転移巣に対して局所治療を組み合わせることで、より長期の病勢コントロールが期待できる場合もあります。

緩和ケア

肺がん治療では緩和ケアも欠かすことができません。緩和ケアというと終末期医療をイメージする人が少なくありませんが、現在では診断された早い段階から取り入れることが推奨されています。痛みや息苦しさ、不安、不眠などを軽減しながら治療を継続できるよう支援することも、肺がん治療の重要な役割の一つです。

それぞれの治療で期待できる効果は異なる

このように現在の肺がんステージ4では、一つの治療法だけで病気に対応することはほとんどありません。薬物療法を軸としながら、放射線治療や局所治療、緩和ケアを適切なタイミングで組み合わせることで、一人ひとりの病状に合わせた治療が行われています。

それぞれの治療には、期待できる効果や適応となる患者、副作用が異なります。ここからは現在の肺がん診療で中心となっている各治療法について、それぞれの特徴や選択される理由を詳しく見ていきましょう。

分子標的薬 ― 肺がん治療を大きく変えた新しい治療

肺がんステージ4と診断された患者の中には「分子標的薬が使えるかもしれません」と説明を受ける人がいます。しかし、初めて耳にする言葉だけに「普通の抗がん剤とは何が違うのか」「自分にも使える薬なのか」と疑問を持つ人は少なくありません。

現在の肺がん診療において、分子標的薬は最も大きな進歩の一つといわれています。その理由は、従来の抗がん剤とは治療の考え方そのものが異なるからです。これまでの抗がん剤は、細胞分裂が活発ながん細胞を攻撃することで腫瘍を小さくする治療でした。しかし、正常な細胞にも影響が及ぶため、脱毛や吐き気、白血球減少などの副作用が起こりやすいという課題がありました。

一方、分子標的薬は、がん細胞だけが持つ特定の遺伝子異常やタンパク質の異常を狙って作用します。いわば、がん細胞が増殖するための「スイッチ」をピンポイントで遮断する治療です。そのため、適応となる患者では高い治療効果が期待できるだけでなく、従来の抗がん剤とは異なる副作用の現れ方をすることも特徴です。

ドライバー遺伝子変異

すべての肺がん患者が分子標的薬を使用できるわけではありません。

この治療が効果を発揮するのは、ドライバー遺伝子変異と呼ばれる特定の遺伝子異常が確認された場合です。診断時に遺伝子検査を行い、どのような遺伝子異常が存在するのかを詳しく調べたうえで、適応となる薬剤を選択することが現代の標準的な診療となっています。

EGFR遺伝子変異

最もよく知られているのがEGFR遺伝子変異です。

日本人の肺腺がんでは比較的頻度が高く、特に喫煙歴の少ない患者や女性に多くみられることが知られています。EGFR遺伝子変異が見つかった場合には、オシメルチニブ(タグリッソ)をはじめとしたEGFR阻害薬が第一選択となることが多く、腫瘍が大きく縮小したり、症状が改善したりする患者も少なくありません。

ALK融合遺伝子

一方で、ALK融合遺伝子が確認された患者では、アレクチニブやロルラチニブなどALK阻害薬が選択されます。ALK陽性肺がんは患者数としては多くありませんが、薬剤がよく効く患者では長期間病状をコントロールできることもあり、肺がん治療を大きく変えた分子標的薬の代表例の一つです。

その他の遺伝子

さらに現在では、ROS1融合遺伝子、BRAF V600E変異、MET遺伝子異常、RET融合遺伝子、HER2変異、KRAS G12C変異など、治療薬が存在する遺伝子異常が次々と見つかっています。以前であれば一括して「肺がん」と治療されていた患者も、遺伝子異常ごとに異なる薬剤を選択する時代になりました。

こうした変化によって「肺がん」という一つの病気は、実際には複数の異なる病気の集まりとして考えられるようになっています。

参考:バイオマーカー検査の流れとマルチプレックス遺伝子検査|日本肺癌学会

分子標的薬の課題

分子標的薬にも課題があります。最も大きな課題が耐性です。治療開始当初は高い効果が得られていても、時間の経過とともにがん細胞が薬剤へ適応し、効きにくくなることがあります。これを耐性獲得と呼びます。

しかし、耐性が生じたからといって、すぐに治療手段がなくなるわけではありません。例えばEGFR遺伝子変異では、耐性が生じた原因を再び遺伝子検査で調べ、新たな遺伝子異常が確認されれば、それに対応した薬剤への変更を検討することがあります。また、薬剤を変更したり、抗がん剤や免疫療法へ切り替えたりしながら病気をコントロールしていくことも珍しくありません。

近年では、治療開始時だけでなく、病気が進行したタイミングでも再度遺伝子検査を行うことが増えています。これは、肺がん細胞が治療によって性質を変化させることがあるためです。現在では血液を用いて遺伝子異常を調べるリキッドバイオプシーも実用化されており、患者への負担を抑えながら耐性の原因を調べられる場面も増えています。

分子標的薬の副作用

副作用についても、従来の抗がん剤とは特徴が異なります。

脱毛や強い吐き気は比較的少ない一方で、皮膚の発疹、爪の異常、下痢、肝機能障害、間質性肺炎など、それぞれの薬剤に特有の副作用があります。特に間質性肺炎は頻度は高くないものの重症化することがあるため、息切れや咳が悪化した場合には早めに医療機関へ相談することが重要です。

分子標的薬は、自宅で内服を続けられる薬剤が多く、治療を受けながら仕事や日常生活を維持している患者も少なくありません。しかし、「飲み薬だから軽い治療」というわけではなく、定期的な画像検査や血液検査を行いながら、効果と副作用の両方を確認していく必要があります。

遺伝子異常がない場合は別の治療が必要

現在の肺がん診療では、分子標的薬によって長期間病気をコントロールできる患者が増えています。その一方で、この治療は遺伝子異常がある患者だけが対象です。遺伝子異常が見つからなかった患者では、別の治療戦略が必要になります。

その代表となるのが、患者自身の免疫の力を利用してがんを攻撃する免疫チェックポイント阻害薬です。次の章では、現在の肺がん治療でもう一つの柱となっている免疫療法について詳しく解説します。

免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)

肺がん治療について調べていると「免疫療法」という言葉を目にする機会が増えています。しかし、免疫療法という名称だけでは、「体の免疫力を高める治療なのだろうか」「サプリメントのようなものなのだろうか」とイメージしにくい人もいるでしょう。

現在、肺がんの標準治療として行われている免疫療法は、免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる薬剤を用いた治療です。これは健康食品や民間療法で使われる「免疫療法」とは全く異なるもので、多くの臨床試験によって有効性が確認され、日本や海外の診療ガイドラインでも標準治療として位置付けられています。

免疫の仕組み

この治療を理解するためには、まず私たちの免疫の仕組みを知る必要があります。本来、人の体では免疫細胞が毎日異常な細胞を見つけて排除しています。がん細胞も例外ではなく、発生した直後の小さながん細胞は免疫によって消えていると考えられています。

しかし、がん細胞は生き残るために巧妙な仕組みを身につけています。その一つが、免疫細胞へ「自分は攻撃しなくてよい細胞です」という信号を送り、攻撃を避ける仕組みです。この信号に関わる代表的な分子がPD-1とPD-L1です。

免疫チェックポイント阻害薬は、この信号を遮断することで、免疫細胞が再びがん細胞を認識し、攻撃できる状態をつくり出します。つまり、薬そのものががん細胞を直接攻撃するのではなく、患者自身が本来持っている免疫機能を回復させる治療と考えると理解しやすいでしょう。

肺がんで使用される免疫チェックポイント阻害薬

肺がんで使用される代表的な免疫チェックポイント阻害薬には、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)、ニボルマブ(オプジーボ)、アテゾリズマブ(テセントリク)、デュルバルマブ(イミフィンジ)などがあります。

薬剤ごとに適応は異なりますが、現在では進行・再発非小細胞肺がんの治療に広く使用されており、患者の状態によっては最初から免疫療法を中心とした治療が選択されることもあります。

参考:肺がん治療に使用される薬剤一覧|日本肺癌学会

PD-L1検査の重要性

治療方針を決める際に重要になるのが、前章でも触れたPD-L1検査です。PD-L1は、がん細胞の表面に発現するタンパク質で、その発現割合が高い患者では免疫チェックポイント阻害薬が高い効果を示す可能性があります。そのため診断時には病理検体を用いてPD-L1発現率を測定し、その結果を参考に治療方針を決定します。

ただし、PD-L1の数値だけですべてが決まるわけではありません。

例えばPD-L1が50%以上であれば免疫チェックポイント阻害薬単独療法が選択されることがありますが、患者の全身状態や病気の進行速度によっては抗がん剤との併用療法が適している場合もあります。また、PD-L1の発現率が低くても、免疫療法と抗がん剤を組み合わせることで十分な治療効果が期待できる患者もいます。

「PD-L1が高いから免疫療法」「低いから使えない」という単純な判断ではなく、さまざまな情報を総合して治療法を決定しています。

効果が長期間持続

免疫療法が肺がん診療を大きく変えた理由は、効果が長期間持続する患者がいることです。

従来の抗がん剤では、一度効果があっても時間とともに病気が進行することが少なくありませんでした。一方、免疫チェックポイント阻害薬では、治療開始後に腫瘍が縮小し、その状態が数年間維持される患者も報告されています。すべての患者に同じような効果が現れるわけではありませんが、この「長期生存」という新しい可能性は、肺がん治療に大きな変化をもたらしました。

免疫療法の注意点

免疫療法には特有の注意点もあります。抗がん剤のような脱毛や強い吐き気は比較的少ないものの、免疫が活性化し過ぎることで、自分自身の正常な臓器を攻撃してしまう『免疫関連有害事象(irAE)』が起こることがあります。

例えば、甲状腺機能異常、間質性肺炎、大腸炎、肝機能障害、副腎機能低下、1型糖尿病などが知られています。頻度は決して高くありませんが、重症化すると治療の中止や入院が必要になることもあるため、早期発見と早期対応が非常に重要です。特に肺がん患者では、間質性肺炎に注意が必要です。

息苦しさや空咳、発熱などは肺がんそのものでも起こり得る症状ですが、免疫関連有害事象による肺炎が原因である場合もあります。放置すると重症化することがあるため、「少し様子を見よう」と自己判断せず、気になる症状があれば早めに主治医へ相談することが勧められます。

参考:免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象対策マニュアル|厚生労働省

効果があるか早めに分かる

また免疫療法は「効果があるかないか」が比較的早い段階で分かる治療でもあります。

画像検査で腫瘍が縮小していれば治療を継続しますが、病気が進行している場合には別の薬剤へ切り替えることもあります。さらに、治療開始直後に一時的に腫瘍が大きく見える『偽増悪(Pseudoprogression)』という特殊な現象が起こることもあるため、画像だけではなく症状や全身状態も含めて慎重に治療効果を判断します。

すべての患者が対象になるわけではない

免疫チェックポイント阻害薬は、現在の肺がん治療を支える重要な柱の一つです。しかし、すべての患者が対象になるわけではなく、また万能な治療でもありません。遺伝子異常の有無やPD-L1発現率、病気の進行速度などを総合的に評価し、その患者に最も適した形で使用することが重要になります。

そして、分子標的薬も免疫療法も適応にならない患者、あるいはこれらの治療後に病気が進行した患者では、現在でも細胞障害性抗がん剤が重要な役割を担っています。次の章では、現在の肺がん診療における抗がん剤治療の位置付けと、以前とは大きく変わった副作用対策について詳しく解説します。

抗がん剤治療 ― 現在でも肺がん治療を支える重要な選択肢

分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場によって、肺がん治療は大きく進歩しました。そのため、「今はもう抗がん剤の時代ではない」と考える人もいるかもしれませんが、そのようなことはありません。

現在でも抗がん剤は、進行肺がんに対する標準治療の重要な柱であり、多くの患者が治療を受けています。特に、分子標的薬の対象となる遺伝子異常が見つからない患者や、免疫療法だけでは十分な効果が期待できない患者では、抗がん剤が治療の中心になります。また、分子標的薬や免疫療法の効果が弱まった後に、次の治療として抗がん剤が選択されることも少なくありません。

肺がんで使用される抗がん剤

「抗がん剤」と一言でいっても、現在では一種類の薬を使うことはほとんどありません。

肺がんでは、複数の薬剤を組み合わせて治療効果を高める方法が標準となっています。代表的なのはプラチナ製剤を中心とした治療で、シスプラチンやカルボプラチンに、ペメトレキセド、パクリタキセル、ドセタキセルなどを組み合わせる方法が広く行われています。

参考:肺がん治療に使用される薬剤一覧|日本肺癌学会

肺がんの組織型で異なる

使用する薬剤は、肺がんの組織型によっても異なります。

例えば、非小細胞肺がんの中でも腺がんではペメトレキセドが使用されることが多い一方、扁平上皮がんでは別の薬剤が選択されることがあります。小細胞肺がんではさらに治療法が異なり、エトポシドやイリノテカンなどを組み合わせた治療が標準となっています。「肺がんだからこの抗がん剤」という考え方ではなく、組織型やこれまでの治療歴、全身状態などを踏まえて薬剤を選択することが一般的です。

抗がん剤単独の治療は少ない

近年は、抗がん剤単独で治療を行う場面も以前より少なくなっています。

例えば、免疫チェックポイント阻害薬と抗がん剤を組み合わせることで、それぞれ単独で使用するよりも高い治療効果が期待できる患者がいます。このような併用療法は現在の進行非小細胞肺がんでは標準的な選択肢の一つとなっており、「抗がん剤だけを続ける」という治療から、「他の治療と組み合わせる」という治療へ変化しています。

抗がん剤の副作用と支持療法について

もちろん抗がん剤には副作用があります。多くの人が最初に思い浮かべるのは、脱毛や吐き気でしょう。確かに以前は、副作用が強く、治療そのものが大きな負担になることもありました。しかし現在では、副作用を予防・軽減するための支持療法が大きく進歩しています。

例えば吐き気については、高性能な制吐薬をあらかじめ使用することで、以前より強い症状が出にくくなっています。白血球が減少し感染症のリスクが高くなる場合には、G-CSF製剤を使用して骨髄機能をサポートすることもあります。貧血や食欲低下、便秘、口内炎などについても、それぞれ症状に応じた治療が行われます。

現在は「副作用を我慢しながら治療を続ける」という考え方ではなく、「副作用をコントロールしながら治療を継続する」という考え方が基本になっています。それでも、副作用が全くなくなるわけではありません。

抗がん剤は正常な細胞にも影響するため、倦怠感や味覚の変化、末梢神経障害、爪の変化など、治療を続ける中で日常生活へ影響する症状が現れることがあります。副作用の種類や程度は薬剤によって異なるため、治療開始前にはどのような症状が起こり得るのかを確認し、体調の変化があれば早めに医療スタッフへ伝えることが重要です。

抗がん剤はいつまで続けるのか

また「抗がん剤はいつまで続けるのですか」という質問もよく聞かれます。

これには一律の答えはありません。

画像検査で治療効果を確認しながら、病気がコントロールされ、副作用も許容できる範囲であれば治療を継続します。一方で、病気が進行した場合や副作用が強くなった場合には、別の薬剤へ変更したり、免疫療法や分子標的薬など他の治療へ切り替えたりすることもあります。現在の抗がん剤治療は「決められた回数だけ行う治療」ではなく、その時々の病状や体調に応じて柔軟に調整していく治療です。

患者の病状に応じて最適な組み合わせを選択する

抗がん剤は分子標的薬や免疫療法に取って代わられた存在ではありません。それぞれの治療には役割があり、患者の病状に応じて最適な組み合わせを考えながら治療が進められています。

そして、薬物療法だけでは十分な効果が得られない場面では、放射線治療や手術が重要な役割を果たすことがあります。特に脳転移や骨転移、オリゴ転移では局所治療を組み合わせることで、症状の改善や病状の長期コントロールが期待できる場合があります。次の章では、ステージ4肺がんにおける放射線治療と手術の役割について詳しく解説します。

放射線治療・手術 ― ステージ4での局所治療の重要性

「肺がんがステージ4まで進行しているなら、手術や放射線治療はもう受けられない」そのように考えている人も少なくありません。実際、がんが全身へ広がっている以上、肺だけを治療しても意味がないと思うのは自然なことです。しかし、この考え方も変わりつつあります。

確かにステージ4では、薬物療法が治療の中心になります。分子標的薬や免疫療法、抗がん剤によって全身に存在する可能性があるがん細胞へ働きかけることが基本です。一方で、それだけでは十分ではない場面があります。

転移部位の症状改善

例えば、脳転移によって手足の麻痺や言葉が出にくいといった症状が現れている場合、薬物療法だけでは改善まで時間がかかることがあります。そのようなときには、脳転移に対して放射線治療を行うことで、症状を早く改善できる可能性があります。

骨転移も同様です。肺がんは骨へ転移しやすいがんの一つで、背骨や骨盤、肋骨などへ転移すると、強い痛みや骨折の原因になることがあります。骨転移による痛みは生活の質を大きく低下させますが、放射線治療によって痛みが軽減する患者は少なくありません。また、脊椎への転移で神経が圧迫されている場合には、麻痺などを防ぐために早期の放射線治療が重要になることもあります。

このように放射線治療は「がんを治すためだけの治療」ではありません。症状を改善し、合併症を予防し、その後の薬物療法を継続しやすくすることも大切な役割です。だからこそ診断直後から放射線治療医が治療方針の検討に加わることも珍しくありません。

放射線の照射技術の進歩

近年は放射線を照射する技術も大きく進歩しています。

以前は広い範囲へ放射線を照射することが一般的でしたが、現在では定位放射線治療(Stereotactic Body Radiation Therapy:SBRT)や定位放射線照射(SRS)によって、小さな病変へ高線量の放射線を正確に集中させられるようになりました。

特に脳転移では、病変が限られている場合にガンマナイフやサイバーナイフなどを用いた定位放射線治療が選択されることがあります。正常な脳への影響をできるだけ抑えながら病変を治療できるため、従来よりも治療後の生活への影響を軽減できる可能性があります。

参考:放射線治療 | 公益社団法人 日本放射線技術学会

オリゴ転移

肺がんでは近年「オリゴ転移」という考え方が重要になっています。オリゴ転移とは、遠隔転移があっても病変の数が限られている状態を指します。例えば肺に原発巣があり、脳へ一つだけ転移している場合や、副腎へ単発の転移がある場合などがこれに該当することがあります。

こうした患者では、薬物療法だけではなく、肺の原発巣や転移巣へ放射線治療や手術を追加することで、病気をより長期間コントロールできる可能性があることが報告されています。そのため以前のように「ステージ4だから局所治療は意味がない」と一律に判断されることは少なくなりました。

肺がんステージ4で手術が検討されるケース

では、手術はどのような場合に検討されるのでしょうか。一般的に、肺がんステージ4で最初から手術が選択されることは多くありません。しかし、薬物療法によって腫瘍が十分小さくなり、病変が限られた部位だけに残っている場合には、原発巣や転移巣を切除することが検討されることがあります。

例えば、副腎や脳へ単発転移がある患者では、薬物療法で全身の病状をコントロールしたうえで局所治療を追加し、長期生存につながった例も報告されています。もちろん、すべての患者が対象になるわけではありませんが、局所治療が治療戦略の一部として組み込まれるケースは以前より確実に増えています。

放射線治療や手術は、薬物療法と競合するものではありません。薬物療法で全身の病気を抑え、局所治療で症状の原因となる病変や限られた転移巣へ対応することで、より長い病勢コントロールを目指すことができる場合があります。

治療を続けることだけが目的ではない

忘れてはならないのが、治療を続けることだけが目的ではないという点です。

肺がんステージ4では、症状を軽減し、呼吸を楽にし、痛みを和らげ、これまでどおりの生活をできるだけ長く続けられるようにすることも、治療の大切な目標です。その意味で放射線治療や局所治療は、生存期間を延ばすためだけではなく、生活の質を守るためにも重要な役割を担っています。

こうして肺がんステージ4では、薬物療法と局所治療を組み合わせながら病気と向き合っていきます。その一方で、治療そのものによる負担や、がんによる症状をできるだけ軽くしながら生活を支える医療も欠かすことができません。次の章では「緩和ケアは終末期医療ではない」という現在の考え方も含め、肺がん治療を支える支持療法について詳しく解説します。

緩和ケア・支持療法 ― 「治療を続けるための医療」という考え方

「緩和ケア=終末期医療」というイメージは今でも根強く残っています。しかし、この考え方は大きく変わっています。緩和ケアは治療をあきらめた患者のためだけに行われる医療ではありません。

現在では、肺がんと診断された早い段階から標準治療と並行して行うことが推奨されています。その目的は、がんそのものを治療することではなく、病気や治療によって生じるさまざまな症状を軽減し、できるだけ普段の生活を維持できるよう支えることにあります。

病気による症状と治療の副作用を軽減

肺がんステージ4では、病気そのものによる症状と、治療による副作用の両方へ向き合わなければなりません。腫瘍が気管支を圧迫すると咳や息苦しさが続くことがあります。胸膜へがんが広がれば胸水がたまり、少し歩いただけでも息切れを感じるようになることがあります。骨転移では痛みが強くなり、睡眠や歩行に影響することもあります。

治療による副作用も生活へ少なからず影響します。抗がん剤による倦怠感や食欲低下、免疫療法による内分泌障害、分子標的薬による皮膚障害や下痢などは、命に直接関わらない症状であっても、日常生活の質を大きく低下させることがあります。支持療法は、こうした症状をできるだけ軽減しながら治療を継続できるよう支える医療です。

痛み

例えば、痛みに対しては、原因や程度に応じてアセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、医療用麻薬などを組み合わせながらコントロールします。「医療用麻薬」と聞くと依存を心配する人もいますが、がん性疼痛に対して適切に使用する場合、医療者の管理のもとで安全に使用できる薬剤です。痛みを我慢し続けることは体力や食欲を奪い、その後の治療継続にも影響するため、現在では早めに痛みをコントロールすることが勧められています。

呼吸苦

呼吸苦への対応も、肺がんでは重要な課題です。息苦しさの原因は一つではありません。腫瘍による気道狭窄、胸水、肺炎、間質性肺炎、貧血などさまざまな原因が考えられます。そのため、まずは原因を確認したうえで、胸水を排液したり、放射線治療を行ったり、必要に応じて酸素療法や薬物療法を組み合わせながら症状を軽減していきます。

食欲低下・体重減少

食欲低下や体重減少も、多くの患者が経験する症状です。肺がんでは、がんそのものの影響や治療による副作用によって十分な食事が摂れなくなることがあります。栄養状態が悪化すると筋力や体力が低下し、予定していた治療を継続できなくなることもあります。そのため現在では、医師だけではなく管理栄養士も加わり、一人ひとりの状態に合わせた栄養管理を行う施設が増えています。

精神的な負担

肺がんでは精神的な負担も決して小さくありません。診断された直後の不安だけではなく、画像検査の結果を待つ時間や、画像で病状が変化していないか確認するたびに緊張する人もいます。仕事や家族の将来への心配から眠れなくなったり、気分の落ち込みが続いたりすることも珍しくありません。こうした心の負担に対応することも、緩和ケアの大切な役割です。

専門的緩和ケア

現在では、緩和ケア医、がん看護専門看護師、公認心理師、医療ソーシャルワーカー、薬剤師、管理栄養士、リハビリスタッフなど、多職種が協力しながら患者と家族を支える体制が整えられています。身体だけではなく、仕事や経済的な問題、介護サービスの利用、在宅療養の準備などについて相談できることも少なくありません。

実際、早い段階から緩和ケアを導入した患者では、生活の質が改善するだけでなく、結果として治療を継続しやすくなり、生存期間にも良い影響を与えたという報告があります。そのため国内外の診療ガイドラインでも、進行肺がんでは診断早期から緩和ケアを併用することが推奨されています。

緩和ケアは生活を支えるための土台となる医療

緩和ケアは「治療を終えた人のための医療」ではありません。標準治療を受けながら、できるだけ痛みや苦しさを少なくし、自分らしい生活を維持するための医療です。分子標的薬や免疫療法、抗がん剤、放射線治療と並行して行われるからこそ、本来の力を発揮します。

肺がんステージ4では、病気そのものだけでなく「どのように生活を続けていくか」も治療の重要なテーマになります。緩和ケアや支持療法は、その生活を支えるための土台となる医療と考えると理解しやすいでしょう。

ここまで、現在行われている治療法について見てきました。では実際に肺がんステージ4と診断された場合、どのくらいの治療成績が期待できるのでしょうか。次の章では、多くの患者が最も気になる「生存率」について、統計の見方や近年の治療進歩も踏まえながら詳しく解説します。

肺がんステージ4の生存率

国立がん研究センターが公表している院内がん登録生存率集計では、肺がんの病期(ステージ)ごとの5年ネット・サバイバルと10年ネット・サバイバルが公表されています。

ネット・サバイバルとは、肺がん以外の病気による死亡の影響をできるだけ除き「肺がんそのものが生命に与えた影響」を評価した生存率です。異なる年齢層や集団を比較しやすいことから、現在では国際的にも広く用いられています。

肺がん全体の病期別ネット・サバイバルは、おおよそ次のような結果となっています。

病期 5年ネット・サバイバル 10年ネット・サバイバル
ステージI期 約81.9% 約63.9%
ステージII期 約51.7% 約30.9%
ステージIII期 約29.3% 約14.8%
ステージIV期 約8.6% 約2.5%

参考:院内がん登録生存率集計|国立がん研究センター がん情報サービス

※国立がん研究センター「院内がん登録10年生存率集計報告書」をもとに作成。対象年や集計条件によって数値は変動します。

この数字だけを見ると「ステージ4では5年以上生きられる人はほとんどいない」と感じるかもしれませんが、この表だけで自分の将来を判断することはできません。なぜなら、この数字はあくまでも過去に治療を受けた多くの患者をまとめた統計であり、一人ひとりの病状や治療内容までは反映されていないからです。

さらに、この統計には現在の分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が十分普及する以前の患者も含まれています。近年は治療の進歩によって長期生存する患者が増えており、「現在受けられる治療」と「過去の統計」は分けて考える必要があります。

同じステージ4でも生存率が大きく異なる理由

現在の肺がん診療では「ステージ4」という病期だけで予後を予測することはできません。実際には、がんの性質や患者さん自身の状態によって、生存率は大きく変化します。最も大きな要因の一つがドライバー遺伝子変異です。

ドライバー遺伝子変異

EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子などが見つかった患者では、それぞれに対応した分子標的薬を使用できます。これらの薬剤は従来の抗がん剤では得られなかった高い奏効率を示し、病気を数年間コントロールできる患者も珍しくありません。そのため「どの遺伝子異常を持つ肺がんなのか」が生存率を左右する重要な要素になっています。

転移先の部位

転移の部位も予後へ大きく影響します。例えば脳転移が見つかった場合でも、病変が限られていれば定位放射線治療や分子標的薬によって長期間コントロールできることがあります。骨転移も適切な薬物療法や放射線治療を組み合わせることで、症状を抑えながら生活を維持できる患者が少なくありません。

一方で、肝転移は一般的に予後不良因子の一つと考えられており、複数の臓器へ広範囲に転移している場合は治療が難しくなる傾向があります。ただし、これも個人差が大きく「肝転移があるから必ず短期間で進行する」という意味ではありません。

転移の数

転移の数も重要です。近年ではオリゴ転移という概念が広まり、転移がごく限られている患者では、薬物療法に加えて放射線治療や手術などの局所治療を組み合わせることで、長期に病気をコントロールできる可能性があることが分かってきました。

パフォーマンスステータス

また『Performance Status(PS)』も重要な予後因子です。

日常生活を問題なく送れている患者は積極的な治療を受けやすく、新しい薬剤への切り替えもしやすくなります。一方で、体力が大きく低下している場合には治療の選択肢が限られることもあるため、同じステージ4でも経過に違いが生じます。

その他の要因

さらに年齢や喫煙歴、肺がんの組織型なども予後へ影響します。

特に女性や非喫煙者ではEGFR遺伝子変異が見つかる割合が比較的高く、その結果として分子標的薬による治療効果が期待できるケースもあります。このように、生存率は一つの要素だけで決まるものではなく、さまざまな条件が重なり合って決まります。

肺がんステージ4でも5年以上生きる人はいるのか

結論から言えば、います。もちろん、その割合は決して高くありません。しかし「ステージ4だから5年以上生きられない」というわけではありません。

日本肺癌学会で報告された長期生存例の解析では、5年以上生存した患者にはいくつかの共通した特徴がみられました。

例えば、治療標的となる遺伝子異常があること、転移する臓器や病変の数が限られていること、肝転移を伴わないこと、Performance Statusが良好で積極的な治療を継続できたことなどが、長期生存と関連していました。

もちろん、これらの条件に当てはまれば必ず長く生きられるという意味ではありません。また、条件に当てはまらなくても治療がよく効き、長期間病気をコントロールできる患者もいます。重要なのは「ステージ4」という病期だけでは将来を予測できなくなっているという事実です。

参考:原発性肺癌切除後10年以上長期生存例の予後因子に関する検討

生存率は「未来を予測する数字」ではない

インターネットには「肺がんステージ4の5年生存率は○%」という数字だけが紹介されている記事も少なくありません。しかし、生存率とは同じような病状だった多くの患者をまとめて集計した結果です。

そこには、自分がこれから受ける最新の治療、自分の遺伝子異常、自分の体力、治療への反応といった個別の情報は含まれていません。生存率は将来を断定する数字ではなく「同じ病気を持つ患者全体では、このような傾向がある」という参考資料として受け止めることが大切です。

近年では新しい分子標的薬や免疫療法、抗体薬物複合体(ADC)などが次々と登場し、治療成績は少しずつ改善しています。統計は重要な情報ですが、それだけで希望や選択肢まで決めてしまう必要はありません。

では、多くの患者が生存率と並んで気になる「余命」はどのように考えればよいのでしょうか。次の章では、余命という言葉の意味や、医師がどのような情報をもとに経過を判断しているのかについて詳しく解説します。

肺がんステージ4の余命 ― 最新治療によってどこまで変わったか

肺がんステージ4と診断されると、多くの患者さんやご家族が気になるのが「余命」です。あと何年くらい生きられるのか、インターネットには余命1年と書いてあった、自分も同じ経過になるのか、こうした不安を抱くのは自然なことです。しかし「肺がんステージ4の余命は○年です」と一律に説明することはできません。その理由は、どの治療を受けられるかによって生存期間が大きく変わる時代になったからです。

以前は進行肺がんに対する治療の中心は細胞障害性抗がん剤であり、治療の選択肢も限られていました。しかし現在では、遺伝子異常の有無やPD-L1発現率に応じて分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を使用できる患者が増え、生存期間は大きく改善しています。

その違いを理解するために、代表的な臨床試験で報告された全生存期間(Overall Survival:OS)の中央値を見てみましょう。

治療法 対象患者 全生存期間中央値(OS)
オシメルチニブ
(FLAURA試験)
EGFR遺伝子変異陽性 38.6か月
ペムブロリズマブ
(KEYNOTE-024試験)
PD-L1発現率50%以上 26.3か月
免疫療法+化学療法
(KEYNOTE-189など)
ドライバー遺伝子変異陰性の一部 約22か月前後※

参考:New England Journal of Medicine
参考:Updated Analysis of KEYNOTE-024

※試験デザインや対象患者によって結果は異なります。

この表から分かるように、現在では「肺がんステージ4だから余命は1年前後」という時代ではありません。

もちろん、これらは臨床試験の結果であり、条件を満たした患者を対象としています。そのため、すべての患者さんに当てはまる数字ではありませんが、「治療によって生存期間が大きく変わる」という現在の肺がん診療を理解する上で重要なデータです。

「中央値」は平均余命ではない

ここで注意したいのが「全生存期間中央値」という言葉です。例えば、オシメルチニブの38.6か月という数字は「38.6か月で亡くなる」という意味ではありません。中央値とは、多くの患者さんを生存期間の短い順に並べたとき、ちょうど真ん中に位置する患者さんの生存期間です。

実際には、数か月で病気が進行する患者さんもいれば、5年以上病気をコントロールしながら生活している患者さんもいます。つまり中央値は、一人ひとりの余命ではなく「その治療を受けた患者集団全体の傾向」を示した統計です。

なぜ同じステージ4でこれほど余命に差が生まれるのか

その理由は、肺がんが一つの病気ではなくなったからです。現在では、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、MET遺伝子異常、RET融合遺伝子など、さまざまな遺伝子異常が見つかっています。これらの異常が確認された患者では、それぞれに対応した分子標的薬を使用できます。一方で、遺伝子異常が見つからなくても、PD-L1発現率が高ければ免疫チェックポイント阻害薬が第一選択となる場合があります。

つまり現在は「肺がんステージ4」という診断名よりも、「どのタイプの肺がんなのか」がその後の経過を左右する重要な要素になっています。

同じステージ4でも実際の経過は大きく異なる

例えば、60代でEGFR遺伝子変異が見つかり、全身状態も良好な患者さんでは、分子標的薬によって長期間病気をコントロールできることがあります。治療を受けながら仕事や家庭生活を続けている患者さんも少なくありません。

一方で、病気の進行が速く、複数の臓器へ転移している患者さんでは、病状の変化も早くなることがあります。また、高齢で体力が低下している場合には、積極的な薬物療法が難しくなることもあります。このように「ステージ4」という同じ診断名でも、余命は患者さんごとに大きく異なります。

余命を調べるときに知っておきたいこと

インターネットには「肺がんステージ4の余命は○か月」と断定的に書かれた記事も少なくありません。しかし、その数字の多くは、治療法や遺伝子異常を区別せず多くの患者さんをまとめて集計した統計です。現在では、分子標的薬や免疫療法の登場によって、こうした数字だけでは実際の経過を説明できなくなっています。

そのため「余命○年」という数字を見るときには、そのデータがいつ集計されたものなのか、どのような患者さんを対象としているのかまで確認することが大切です。

余命は「治療の可能性」を考えるための参考情報

余命は多くの患者さんにとって避けて通れないテーマです。しかし、余命という数字だけに目を向けるのではなく「自分にはどの治療が使えるのか」を確認することの方が重要です。

新しい分子標的薬が使える可能性はあるのか。免疫療法の対象になるのか。次の治療へ切り替えられる選択肢は残されているのか。こうした情報によって、その後の経過は大きく変わる可能性があります。余命は未来を決める数字ではなく、治療方針を考える上での一つの参考情報として受け止めることが大切です。

次の章では、「肺がんステージ4でも完治する可能性はあるのか」という、多くの患者さんが最後に抱く疑問について、現在の医学的な考え方と最新の治療成績を踏まえながら詳しく解説します。

肺がんステージ4でも完治する可能性はあるのか

肺がんステージ4と診断されたとき、多くの患者さんやご家族が知りたいのは「治療法があるか」だけではありません。本当に知りたいのは「完治する人はいるのか」「長く生きられる人はどのような人なのか」「治癒に近い状態とは具体的に何を指すのか」という点でしょう。

まず前提として、肺がんステージ4の「完治率」を明確な数字として示すことは困難です。ステージ4は遠隔転移を伴う状態であり、画像上すべての病変が消えたように見えても、微小ながん細胞が体内に残っている可能性を完全には否定できません。そのため、医療現場ではステージ4肺がんに対して「完治」という言葉を慎重に使います。一般的には、完治率を何%と示すよりも、完全奏効、無増悪生存期間、全生存期間、長期生存例といった指標で治療成績を評価します。

「完治が難しい=長期生存ができない」では無い

「完治が難しい」と「長期生存が期待できない」は同じ意味ではありません。実際、IV期非小細胞肺がん66例を対象にした東京歯科大学市川総合病院の報告では、5年以上生存した患者が8例確認されています。

参考:5年以上生存したIV期非小細胞肺癌症例の検討

この研究では、長期生存例にEGFR遺伝子変異陽性、N0またはN1、遠隔転移臓器が1つである症例が多く、75歳未満、N0またはN1、肝転移がないことが長期生存に関連する独立した因子として示されています。これは「この条件なら必ず治る」という意味ではありませんが、ステージ4であっても病気の性質や転移の広がりによって経過が大きく変わることを示す重要なデータです。

分子標的薬の長期生存データ

分子標的薬の登場によって、長期生存の可能性はさらに広がっています。EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がんを対象にしたFLAURA試験では、オシメルチニブを一次治療として使用した群の全生存期間中央値は38.6か月で、従来のEGFR-TKI群の31.8か月を上回りました。これは「完治率」ではありませんが、ステージ4でも3年以上の中央値が報告される時代になったことを示しています。

参考:New England Journal of Medicine

免疫チェックポイント阻害薬の長期生存データ

免疫チェックポイント阻害薬でも、長期生存を示すデータがあります。PD-L1発現率50%以上の転移性非小細胞肺がんを対象にしたKEYNOTE-024試験の5年追跡では、ペムブロリズマブ群の5年全生存率は31.9%、化学療法群は16.3%と報告されています。全員に効く治療ではありませんが、免疫療法がよく効く患者では、ステージ4でも5年を超えて生存する可能性が現実的に示されています。

参考:Updated Analysis of KEYNOTE-024

ALK阻害薬の長期生存データ

また、ALK融合遺伝子陽性肺がんでは、ロルラチニブなどの新しいALK阻害薬によって、無増悪生存期間が大きく延長したデータも報告されています。2024年に報じられた第3相試験では、ロルラチニブ群で5年時点に病勢進行なく生存していた患者が60%、クリゾチニブ群では8%とされました。これは全生存率ではなく「無増悪生存」のデータですが、特定の遺伝子異常を持つ肺がんでは、ステージ4であっても長期間病気を抑えられる患者がいることを示しています。

参考:ローブレナ®、CROWN試験でALK 陽性の進行肺がん患者の多くが疾患の進行なく5年以上の生存を確認

「治癒に近い状態」とは

では「治癒に近い状態」とは何を指すのでしょうか。医学的には明確な単一定義があるわけではありませんが、一般には、画像検査で病変が確認できない状態が長期間続く、治療後に再増悪なく生活できている、または限られた転移に対して薬物療法と局所治療を組み合わせ、長期間無病状態に近い経過をたどるような場合を指して使われることがあります。

特にオリゴ転移では、薬物療法に加えて原発巣や転移巣へ定位放射線治療や手術を行うことで、通常の全身治療だけでは得にくい長期コントロールを目指せるケースがあります。

病変が消えた=完治ではない

ここで注意したいのは「病変が消えた」「長く効いている」「5年以上生存している」という状態と「再発の可能性が完全になくなった」という意味での完治は同じではないという点です。

肺がんステージ4では、どれだけ治療がよく効いても、定期的な画像検査や血液検査を続けながら慎重に経過を見る必要があります。治療をやめられるか、どのタイミングで変更するか、どこまで局所治療を加えるかは、病状や治療反応によって個別に判断されます。

肺がんステージ4でも長生きできる可能性はある

この章で最も伝えたいことは「完治するかどうか」を二択で考えないことです。肺がんステージ4では、完治率を明確に示すことは難しい一方で、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、局所治療の組み合わせによって、5年以上生存する患者や、長期間病気を抑えながら生活する患者が実際に存在します。大切なのは、自分の肺がんに治療標的があるのか、免疫療法が期待できる状態なのか、転移が限られているのか、局所治療を組み合わせる余地があるのかを確認することです。

「完治できますか」という問いに対して、簡単に「できます」とは言えません。しかし「長く生きる可能性はありますか」「治癒に近い状態を目指せる場合はありますか」という問いであれば、条件によっては十分に検討できる時代になっています。

保険診療以外の選択肢 ― 自由診療や先進医療について

肺がんステージ4と診断され、標準治療について調べていくと、多くの患者さんが次に目にするのが「自由診療」や「先進医療」、「最新治療」といった言葉です。

「標準治療以外にも治療法はありますか。」
「海外ではもっと新しい薬が使われているのでしょうか。」
「自由診療なら治る可能性が高くなるのでしょうか。」

こうした疑問を持つことは自然なことです。しかし、インターネット上には科学的根拠が十分ではない情報も少なくありません。治療の選択肢を広げるためにも、まずは「保険診療」「先進医療」「自由診療」「臨床試験」がそれぞれ何を意味するのかを理解しておくことが重要です。

標準治療とは

現在、日本で肺がんステージ4に対して標準治療として行われているのは、これまで紹介してきた分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、抗がん剤、放射線治療などです。これらは国内外の大規模な臨床試験で有効性と安全性が確認され、日本肺癌学会やNCCN、ESMOなどの診療ガイドラインでも推奨されています。

一方、標準治療だけが唯一の選択肢というわけではありません。

例えば、新しい薬剤を評価する『治験(臨床試験)』があります。

治験(臨床試験)とは

治験とは、新しい薬剤や新しい治療方法が本当に有効で安全なのかを確認するために実施される臨床研究です。現在も肺がん領域では、次世代の分子標的薬、新しい免疫療法、抗体薬物複合体(ADC)、二重特異性抗体など、多くの治験が国内外で行われています。

標準治療が終了した患者さんや、現在使用できる薬剤が限られてきた患者さんにとっては、治験への参加が新たな選択肢になる場合があります。

もちろん、治験には参加条件があります。

治験の参加条件

遺伝子異常の種類、これまで受けた治療、全身状態、臓器機能など細かな基準が設定されており、希望すれば誰でも参加できるわけではありません。また、有効性を検証する段階の治療であるため、期待した効果が得られない可能性や未知の副作用が生じる可能性もあります。

それでも、現在標準治療となっている多くの薬剤も、過去には治験を経て実用化されてきました。特に肺がんは新薬開発が活発な分野であり、大学病院やがん診療連携拠点病院では継続的に新しい治験が行われています。

参考:研究段階の医療(臨床試験、治験など)基礎知識|国立がん研究センター がん情報サービス

自由診療とは

「自由診療」という言葉は非常に幅広い意味で使われています。自由診療とは、公的医療保険を使用せず、患者さんが治療費を全額自己負担する医療です。しかし「自由診療=最新治療」という意味ではありません。

実際には、自由診療の中には科学的根拠が十分に蓄積されている治療もあれば、有効性が十分に検証されていない治療も含まれています。そのため「保険適用ではないから最先端」「高額だから効果が高い」と考えることは適切ではありません。

例えば近年では、樹状細胞ワクチン療法、活性化リンパ球療法、がんペプチドワクチンなど、免疫細胞を利用した自由診療を提供する医療機関もあります。これらの治療については、研究が進められているものもありますが、現時点では肺がんステージ4に対する標準治療として推奨できる十分なエビデンスは確立されていません。国内外の主要な診療ガイドラインでも、標準治療と同等の位置付けにはなっていないのが現状です。

先進医療とは

また「先進医療」という言葉も誤解されやすい言葉です。先進医療とは、厚生労働省が定めた制度の一つであり、有効性や安全性を評価しながら保険診療との併用を認める医療技術を指します。一般に「最先端医療」と混同されることがありますが、自由診療とは制度上の位置付けが異なります。

現在、肺がんステージ4で検討される治療では、「先進医療」よりも、保険診療として承認された新薬や治験の方が現実的な選択肢となるケースが多くみられます。

参考:先進医療の概要について|厚生労働省

自由診療を検討する価値

では、自由診療を検討する価値はないのでしょうか。そのように一概には言えません。

標準治療が終了した後、新たな治療を希望する患者さんにとっては、自由診療が一つの選択肢になることもあります。ただし、その際には「この治療によってどの程度の効果が期待できるのか」「どのような論文や臨床試験があるのか」「副作用や費用はどの程度なのか」を十分に確認することが重要です。

特に数百万円単位の費用が必要となる治療では「最新だから」「海外で行われているから」という理由だけで判断するのではなく、客観的な医学的根拠を確認したうえで検討することが勧められます。

根拠のある治療の選択肢を増やすことが重要

近年は新しい治療法が次々と登場しています。その一方で、「新しい治療」と「効果が証明された治療」は必ずしも同じではありません。本当に患者さんに利益をもたらす治療かどうかは、大規模な臨床試験によって初めて評価されます。そのため、保険診療以外の選択肢を検討する場合も、標準治療を担当している主治医と十分に相談しながら判断することが大切です。

肺がんステージ4では、「選択肢を増やすこと」と「根拠のある治療を選ぶこと」の両方が重要になります。焦って決断するのではなく、それぞれの治療のメリットと限界を理解したうえで、自分にとって納得できる治療を選択していくことが望まれます。

最新治療の現状 ― 肺がん治療はどこまで進歩するのか

肺がん治療は、この20年で最も大きく進歩したがん治療の一つといわれています。

かつては進行肺がんに対する治療といえば抗がん剤が中心であり、選択できる薬剤も限られていました。しかし現在では、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場によって治療成績は大きく改善し、これまで長期生存が難しいと考えられていた患者でも、数年間にわたって病気をコントロールできるケースが珍しくなくなっています。

そして現在も、新しい治療法の開発は世界中で続いています。新聞やインターネットでは「画期的新薬」「夢の新治療」といった見出しを目にすることがありますが、実際には研究段階のものから、すでに保険診療で使用できるものまで、その位置付けはさまざまです。最新治療を理解するには「すでに実用化されている治療」と「これから実用化が期待されている治療」を分けて考えることが重要です。

すでに標準治療へ組み込まれ始めている新しい薬

近年、肺がん治療で特に注目されているのが『抗体薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate:ADC)』です。

抗体薬物複合体(ADC)とは

ADCは「抗体」と「抗がん剤」を組み合わせた薬剤です。

通常の抗がん剤は全身へ広く作用しますが、ADCはがん細胞の表面にある特定の分子を目印にして薬剤を運ぶため、より効率的にがん細胞を攻撃できる可能性があります。

トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)

近年ではHER2遺伝子変異陽性肺がんに対する『トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)』が承認され、HER2異常を持つ患者の新たな治療選択肢となりました。これまで治療が難しかった患者に対しても効果が期待されており、肺がん領域でもADCは急速に存在感を高めています。

参考:抗悪性腫瘍剤「エンハーツ®」の日本におけるHER2遺伝子変異を有する非小細胞肺がんに係る一部変更承認取得のお知らせ

パトリツマブ デルクステカン(HER3-DXd)

さらに現在は、TROP2やHER3を標的としたADCの開発も進められています。例えばHER3を標的としたパトリツマブ デルクステカン(HER3-DXd)は、EGFR阻害薬が効かなくなった患者を対象とした臨床試験が進められており、新しい治療選択肢として期待されています。

第一三共株式会社によると、EGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺がんに係る承認申請については自主的取り下げがされましたが、ホルモン受容体陽性かつHER2陰性乳がん患者を対象とした第3相臨床試験が開始されており、日本を含むアジア、欧州、北米および南米において、約1000名の患者を登録する予定となっているようです。

参考:パトリツマブ デルクステカン(HER3-DXd/U3-1402)の米国におけるEGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺がんに係る承認申請の自主的取り下げについて
参考:パトリツマブ デルクステカン(HER3-DXd/U3-1402)のホルモン受容体陽性かつHER2陰性乳がん患者を対象とした第3相臨床試験の開始について

「治療標的がない肺がん」を減らす研究も進んでいる

以前は、EGFRやALKなどの遺伝子異常が見つからない肺がんでは、治療の選択肢が限られていました。しかし近年は、KRAS G12C変異、MET exon14 skipping変異、RET融合遺伝子、NTRK融合遺伝子など、新たな治療標的が次々に見つかっています。

つまり「遺伝子異常がない肺がん」が減っているのではなく、「これまで見つけられなかった遺伝子異常を検出できるようになった」と考える方が正確です。そのため現在では、一度の検査で数十種類以上の遺伝子異常を同時に調べる『がん遺伝子パネル検査(NGS)』が広く利用されるようになりました。

今後さらに新しい標的薬が承認されれば、「使える薬がない」と考えられていた患者にも、新しい治療選択肢が生まれる可能性があります。

リキッドバイオプシーは治療を変える可能性がある

肺がん治療では、リキッドバイオプシーも急速に普及し始めています。従来は、遺伝子異常を調べるためには肺や転移巣から組織を採取する必要がありました。しかし、病変の場所によっては生検が難しいこともあり、患者さんへの負担も少なくありませんでした。

リキッドバイオプシーでは、採血によって血液中に流れている腫瘍由来DNA(ctDNA)を解析し、遺伝子異常を調べます。

もちろん、すべての遺伝子異常を血液だけで検出できるわけではありませんが、組織生検が難しい患者や、分子標的薬が効かなくなった原因を調べる場面では、すでに実臨床でも重要な役割を担っています。今後さらに解析技術が進歩すれば、再発をより早く発見したり、薬剤耐性を早期に把握したりできる可能性も期待されています。

参考:リキッドバイオプシー活用でがんの克服目指す|国立がん研究センター

免疫療法も次の世代へ進んでいる

免疫チェックポイント阻害薬は、現在の肺がん治療を支える重要な柱となりました。しかし研究はそれで終わりではありません。現在は、PD-1やPD-L1だけではなく、TIGITやLAG-3など、別の免疫チェックポイント分子を標的とした薬剤の開発が進められています。

また、一種類の免疫療法だけではなく、複数の免疫療法を組み合わせたり、ADCや分子標的薬と組み合わせたりすることで、より高い治療効果を目指す研究も行われています。「免疫療法が効かなかったら終わり」ではなく、その次の治療戦略が次々と開発されていることも、現在の肺がん研究の特徴です。

AIやゲノム医療も治療選択を支えている

最新治療というと新薬に目が向きがちですが、診断技術も急速に進歩しています。AIを活用した画像診断支援では、CT画像から小さな肺結節を検出したり、病変の性質を評価したりする研究が進んでいます。

また、ゲノム医療の発展によって、一人ひとりの遺伝子異常や薬剤耐性を詳しく解析し、その患者に最も適した治療を選択する「個別化医療」も急速に進歩しています。将来的には、AIとゲノム解析を組み合わせることで、現在よりさらに精度の高い治療選択が可能になると期待されています。

「最新治療」という言葉だけで判断しないことが大切

ここまで見ると「最新治療なら標準治療より優れている」と感じる人もいるかもしれません。しかし、そう単純ではありません。現在研究が進められている治療の中には、将来標準治療になる可能性があるものもありますが、途中で十分な効果が確認できず開発が中止される薬剤もあります。

新しい治療という理由だけで選択するのではなく、臨床試験でどの段階まで有効性が確認されているのか、日本で承認されているのか、自分の肺がんに適応があるのか、を確認することが重要です。

肺がん治療は今もなお進歩を続けています。数年前には存在しなかった薬剤が標準治療となり、これまで治療が難しかった患者に新しい選択肢をもたらしています。だからこそ、治療を続ける中で新しい薬剤や治験の情報を定期的に確認し、その時点で利用できる選択肢を主治医と相談しながら考えていくことが、これからの肺がん診療ではますます重要になるでしょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 肺がんステージ4でも仕事を続けることはできますか?

可能です。

実際に、仕事を続けながら外来で治療を受けている患者さんは少なくありません。特に分子標的薬は内服治療が中心であり、体調が安定していれば普段どおりの生活を送れるケースもあります。また、免疫チェックポイント阻害薬も数週間ごとの通院で治療を継続できるため、働きながら治療を受けている患者さんもいます。

一方で、抗がん剤では治療直後に倦怠感や食欲低下が強く出ることがあり、仕事内容によっては勤務時間の調整や休職が必要になる場合もあります。大切なのは「仕事を続けるか辞めるか」を診断直後に決めてしまわないことです。現在は治療法によって生活への影響が大きく異なるため、まずは治療を開始し、副作用や体調の変化を見ながら働き方を調整するという考え方が一般的になっています。

Q2. 肺がんステージ4でも旅行はできますか?

体調が安定していれば旅行そのものは禁止されていません。治療の合間を利用して旅行を楽しんでいる患者さんもいます。ただし、旅行を計画する際には、次回の治療日程や血液検査の予定を確認し、主治医へ相談しておくことが大切です。また免疫療法中や抗がん剤治療中は感染症へ注意が必要になることもあります。

飛行機を利用する場合は、呼吸機能が低下している患者さんや在宅酸素療法を受けている患者さんでは事前の手続きが必要になることもあります。「安全に旅行するには何に注意すればよいか」という視点で考えることが重要です。

Q3. 食事だけで肺がんステージ4は改善しますか?

現在の医学では、特定の食品や食事療法だけで肺がんステージ4が改善することを示した信頼できる科学的根拠はありません。インターネットでは「○○を食べればがんが消える」「糖質制限で治る」といった情報も見られますが、これらを標準治療の代わりに行うことは推奨されません。

一方で、十分な栄養を維持することは非常に重要です。体重減少や筋力低下は治療継続にも影響するため、食べられるものを無理なく摂取し、必要に応じて管理栄養士の支援を受けることが勧められます。

Q4. サプリメントや健康食品は飲んでもよいのでしょうか?

一概に「飲んではいけない」というわけではありません。しかし、一部のサプリメントは抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬の効果へ影響を与える可能性が指摘されています。

また「がんに効く」と宣伝されている健康食品の多くは、十分な臨床試験によって有効性が証明されているわけではありません。新しいサプリメントや健康食品を始める前には、必ず主治医や薬剤師へ相談することが勧められます。

Q5. 禁煙することで治療効果は変わりますか?

はい。肺がんステージ4であっても、禁煙することには大きな意味があります。「もう肺がんになったのだから、今さら禁煙しても意味はない」と思われる方もいますが、そのようなことはありません。

喫煙を続けると、肺や気管支の炎症が続き、肺炎などの合併症が起こりやすくなるほか、手術や放射線治療、薬物療法を予定どおり継続できなくなる可能性があります。診断後に禁煙した患者では、生存期間の延長や治療成績の改善が期待できることも報告されています。

禁煙によって肺がんそのものが治るわけではありませんが、治療を受けやすい体を維持し、治療効果を最大限に引き出すための重要な取り組みと考えられています。禁煙が難しい場合は、一人で抱え込まず主治医や禁煙外来へ相談するとよいでしょう。

Q6. セカンドオピニオンは受けた方がよいのでしょうか?

治療方針に疑問や不安がある場合には、有効な選択肢の一つです。セカンドオピニオンを受けたからといって、必ず転院しなければならないわけではありません。特に肺がんでは、遺伝子パネル検査の適応、治験への参加可能性、新しい薬剤の使用経験など、医療機関によって対応できる内容が異なることがあります。

現在の治療方針を確認する目的でも利用できるため、不安がある場合は遠慮せず相談してみるとよいでしょう。

Q7. 肺がんステージ4は家族へ遺伝しますか?

肺がんの多くは遺伝性ではありません。喫煙や加齢、環境要因など、さまざまな要因が重なって発症すると考えられています。一方で、ごく一部には遺伝性腫瘍症候群との関連が疑われるケースもありますが、肺がん全体から見ると非常にまれです。

治療で調べるEGFR遺伝子変異などは「がん細胞に生じた変化」であり、通常は家族へ遺伝するものではありません。家族内に肺がん患者がいるからといって、必ず同じ病気になるわけではありませんが、喫煙を避けることや定期的な健康診断を受けることは予防の観点から重要です。

Q8. 肺がんステージ4では、どの病院を選べばよいのでしょうか?

最も確実なのは「肺がん診療の経験が豊富で、多職種による診療体制が整っている医療機関」を選ぶことです。がん遺伝子パネル検査、放射線治療、呼吸器外科、呼吸器内科、病理診断、緩和ケアなどが連携している施設では、一人の医師だけではなく、複数の専門家が治療方針を検討するカンファレンスが行われることも少なくありません。

治験へ参加できる可能性や、新しい治療薬へのアクセスという点でも、がん診療連携拠点病院や大学病院が選択肢になることがあります。現在通院している病院だけで判断せず、必要に応じてセカンドオピニオンを活用しながら、自分が納得できる医療機関を選ぶことが大切です。

Q9. 肺がんステージ4でも希望を持ってよいのでしょうか?

「希望を持ってください」という言葉だけでは、不安を抱えている患者さんの助けにはならないかもしれません。一方で「ステージ4だから何もできない」という考え方も、現在の医学とは一致しません。

本記事で紹介してきたように、肺がん治療はこの十数年で大きく進歩しました。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬によって、長期間病気をコントロールしながら生活している患者さんも増えています。さらに、新しい薬剤や新しい治療法の研究も世界中で続けられています。

もちろん、治療効果には個人差があります。しかし「ステージ4」という診断だけで将来を決めつける必要はありません。まずは自分の肺がんの特徴を正しく知り、現在受けられる治療や今後の選択肢について主治医と十分に話し合うことが、納得できる治療への第一歩になります。

肺がんステージ4と向き合うために大切なこと

肺がんステージ4と診断されると、多くの患者さんやご家族は「もう治療法はないのではないか」「余命はどれくらいなのか」と大きな不安を抱えます。しかし、本記事で見てきたように、現在の肺がん治療は大きく進歩しています。

分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、放射線治療、支持療法などを組み合わせることで、病気を長期間コントロールしながら生活を続けている患者さんも少なくありません。ステージ4という診断だけで将来が決まる時代ではなくなり、一人ひとりの遺伝子異常や全身状態、治療への反応に応じて、治療方針を柔軟に組み立てる時代へ変わっています。

一方で、現在受けている標準治療が期待したような効果を示さないこともあります。分子標的薬では耐性が生じることがありますし、免疫チェックポイント阻害薬や抗がん剤も、すべての患者さんに同じ効果が得られるわけではありません。しかし、それは「そこで治療が終わる」という意味ではありません。

現在の肺がん診療では、薬剤耐性が確認された場合には別の薬剤への切り替えを検討し、新たな遺伝子異常が見つかれば、それに対応した分子標的薬が選択できる場合もあります。病状によっては局所治療を追加したり、治験への参加を検討したりすることも選択肢になります。現在の治療だけで将来を判断するのではなく「次にどのような選択肢があるのか」という視点を持つことが大切です。

疑問や不安があれば一人で抱え込まず、主治医へ相談し、必要に応じてセカンドオピニオンを利用することも検討しましょう。現在の治療方針を確認するだけでも、新しい選択肢が見つかったり、今の治療に安心して取り組めたりすることがあります。

肺がんステージ4は決して簡単ながんではありません。しかし、「何もできない病気」でもありません。現在は、患者さん一人ひとりの病状に合わせて治療を組み合わせ、病気をコントロールしながら生活の質を維持することを目指せる時代になっています。そして医学は今も進歩を続けており、新しい薬剤や治療法が次々と実用化されています。

この記事が、肺がんステージ4という診断と向き合う患者さんやご家族にとって、病気を正しく理解し、数ある情報の中から自分に合った治療を考えるための一助となれば幸いです。

参考:
肺癌診療ガイドライン2025年版|日本肺癌学会
肺がん 検査|国立がん研究センター がん情報サービス
バイオマーカー検査の流れとマルチプレックス遺伝子検査|日本肺癌学会
肺がん治療に使用される薬剤一覧|日本肺癌学会
免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象対策マニュアル|厚生労働省
放射線治療 | 公益社団法人 日本放射線技術学会
院内がん登録生存率集計|国立がん研究センター がん情報サービス
原発性肺癌切除後10年以上長期生存例の予後因子に関する検討
New England Journal of Medicine
Updated Analysis of KEYNOTE-024
5年以上生存したIV期非小細胞肺癌症例の検討
ローブレナ®、CROWN試験でALK 陽性の進行肺がん患者の多くが疾患の進行なく5年以上の生存を確認
研究段階の医療(臨床試験、治験など)基礎知識|国立がん研究センター がん情報サービス
先進医療の概要について|厚生労働省
抗悪性腫瘍剤「エンハーツ®」の日本におけるHER2遺伝子変異を有する非小細胞肺がんに係る一部変更承認取得のお知らせ
パトリツマブ デルクステカン(HER3-DXd/U3-1402)の米国におけるEGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺がんに係る承認申請の自主的取り下げについて
パトリツマブ デルクステカン(HER3-DXd/U3-1402)のホルモン受容体陽性かつHER2陰性乳がん患者を対象とした第3相臨床試験の開始について
リキッドバイオプシー活用でがんの克服目指す|国立がん研究センター
肺がん|国立がん研究センター がん情報サービス
肺癌診療ガイドライン|特定非営利活動法人 日本肺癌学会
たばことがん|国立がん研究センター がん情報サービス