”新しい未来をともに”最先端のがん治療を追求するがん治療専門クリニック ”新しい未来をともに”最先端のがん治療を追求するがん治療専門クリニック

肺がんlung-cancer

大細胞神経内分泌癌(Large Cell Neuroendocrine Carcinoma/LCNEC)は、肺癌全体の約3%を占める希少ながんで、非小細胞肺癌に分類される組織型のひとつです。増殖スピードが速く悪性度が高いという小細胞肺癌に似た特徴があり、平均発症年齢は約65歳、喫煙歴のある男性に多い疾患です。初期には自覚症状が乏しく、進行すると長引く咳、血痰、息切れ、胸の痛み、声のかすれ、体重減少、全身の倦怠感などが現れます。

本ページでは、大細胞神経内分泌癌の特徴や原因、症状、診断(画像検査・病理検査・免疫染色)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • 肺癌全体の約3%を占める希少ながんで、悪性度が高く再発しやすい
  • TP53・RB1などの遺伝子異常が高頻度で見られる
  • 手術後も再発リスクが高く、複数の治療を組み合わせることが重要

大細胞神経内分泌癌(LCNEC)とは

大細胞神経内分泌癌は肺癌全体の約3%しかみられない希少腫瘍です。LCNECが発生する臓器は肺が最も多く、約半数を占めています。

LCNECが発生する臓器は肺が最も多く、次いで消化器(膵臓や大腸、小腸などの消化管など)に発生することが多いがんです。

大細胞神経内分泌癌は神経内分泌腫瘍の一種と考えられています。ちなみに、神経内分泌腫瘍は、神経内分泌細胞から発生する腫瘍で、悪性度に応じて、小細胞癌、大細胞神経内分泌癌、非定型カルチノイド、定型カルチノイドに分類されます。この中で、大細胞神経内分泌癌は、小細胞癌に近い性質を持つ悪性度が高く予後不良の神経内分泌腫瘍と考えられています。

肺癌は「非小細胞肺癌」と「小細胞肺癌」の2つに分けられ、大細胞神経内分泌癌は非小細胞肺癌に属します。しかし、増殖スピードが速く悪性度が極めて高いという、小細胞肺癌によく似た特徴があります。

また、平均発症年齢は約65歳で、喫煙歴(タバコ)との強い関連があります。

肺に発生する大細胞神経内分泌癌は、初期段階では自覚症状が乏しいのが一般的です。がんが進行するにつれ、長引く咳、血痰、息切れ、胸の痛み、声のかすれ、体重減少、全身の倦怠感などの症状が現れます。

大細胞神経内分泌癌(LCNEC)の原因

大細胞神経内分泌癌の発生メカニズムは完全には解明されていませんが、喫煙(タバコ)との関連が非常に強いことが分かっています。患者様の多くは高齢男性で、長年の喫煙量(本数×年数)に比例して発症リスクが高まるのが特徴です。

また、遺伝子異常も発症原因に深く関わっていると考えられています。例えば、細胞のがん化を抑える「TP53」や「RB1」といった遺伝子の異常が高頻度で見られます。さらにこの両方とも同時に遺伝子異常が見られる方は、約40%(10人中4人程度)と報告されています。

また、一部の患者様では「STK11」や「KEAP1」の変異も確認されています。

これらの異常が重なることで、がん細胞が過剰に増え続け、極めて進行の速いがんになると考えられています。

大細胞神経内分泌癌(LCNEC)の診断

大細胞神経内分泌癌の診断は、画像検査と詳細な病理組織学的検査を組み合わせて行います。

画像検査では、CT検査で肺の末梢(外側)に比較的大きな塊(腫瘤)として発見されることが多く、PET-CT検査や頭部MRI検査を用いて全身への転移状況を調べます。

また、診断の最大の鍵となるのが病理検査です。大細胞神経内分泌癌は「細胞が大きいこと」と「ホルモンを出す性質を持つこと」の2つの条件を病理医が確認する必要があります。

一般的には、口から気管支鏡という細いカメラを挿入して腫瘍の一部を採取して病理検査を行いますが、小さな組織片では特徴を捉えきれないことが多く、手術で切り取った部分を詳しく解析して初めて病名が確定することも珍しくありません。

最終的には、特殊な染料を使って特定のタンパク質の有無を調べる「免疫染色」を行い、神経内分泌の目印(CD56、クロモグラニンA、シナプトフィジンなど)が陽性所見であれば病理診断上、確定診断できます。

大細胞神経内分泌癌(LCNEC)の一般的な治療法

大細胞神経内分泌癌の治療方針は、がんがどれくらい進行しているか(ステージ)や、患者様の体力・体調に合わせて決められます。

この病気は症例数が少なく、「どの治療が本当に効果的か」を確かめるための大規模な研究データがまだ十分にそろっておらず様々な治験も行われている状況です。

そのため実際の治療では、比較的データが蓄積されている非小細胞肺癌や小細胞肺癌の治療実績を参考にしながら、患者様お一人おひとりに合わせて慎重に治療方針を組み立てていきます。

早期の場合(まだ広がっていない場合)

大細胞神経内分泌癌の治療では、手術が最も重要な役割を果たします。ただしこの病気は、他の非小細胞肺癌に比べて、たとえ早期に見つかっても手術後に再発しやすいという特徴があります。

そのため手術だけで終わらせず、術後に抗がん剤治療(術後補助化学療法)を組み合わせることが勧められています。主に使われるのは「プラチナ製剤(シスプラチンなど)+エトポシド」という抗がん剤の組み合わせです。このような術後補助化学療法を行うことで、生存率が約58%→約88%まで改善したという報告もあります。

進行している場合・再発した場合

手術で取りきれないほど進行している場合や、再発してしまった場合には、抗がん剤を中心とした治療が主体になります。最初に選ばれることが多いのは、小細胞肺癌に準じた治療内容(プラチナ製剤+エトポシドなど)ですが、非小細胞肺癌向けの治療法が取り入れられることもあります。また近年では、一部の患者様において免疫チェックポイント阻害薬による効果も期待され始めています。

放射線治療について

放射線治療は、がんがそれ以上広がらないように抑えたり、症状を和らげたりする目的で行われます。がんが1か所にとどまっていても手術が難しいという場合には、抗がん剤治療と組み合わせる「化学放射線療法」が検討されます。

また大細胞神経内分泌癌は脳に転移しやすいという特徴があるため、転移が見つかった際の治療や痛みの緩和は、生活の質を保つうえでとても大切になります。

大細胞神経内分泌癌(LCNEC)における保険診療の限界

大細胞神経内分泌癌の保険診療では、手術・化学療法・放射線療法などを組み合わせて治療を進めます。

ただしこの病気は悪性度が非常に高く、早期再発しやすいという特徴があるため、標準治療だけでは長期的に病状を安定させるのが難しいケースも少なくありません。

実施できる化学療法の限界

大細胞神経内分泌癌は、最初の抗がん剤治療である程度の効果が見込まれますが、小細胞肺癌と同じように早期に薬が効かなくなり、再び進行するリスクが高いがんです。再発後の二次治療において、有効性が証明されたお薬の選択肢が限られている点は大きな課題となっています。

化学療法に伴う「きつい」副作用

治療に用いられるプラチナ製剤などは、吐き気、嘔吐、食欲不振、全身の倦怠感に加え、骨髄抑制(白血球や血小板の減少)による感染症リスクを伴う場合があります。特に高齢者や合併症を持つ患者様の場合、副作用により治療を続けることが難しくなるとともに、普段の生活を楽しく送れなくなる可能性があるため注意が必要です。

保険診療ではカバーしきれない再発・進行のリスク

大細胞神経内分泌癌は、手術で完全に切除できたと思われる場合であっても、短期間で別の臓器へ転移(遠隔転移)しやすい傾向があります。手術後に術後補助化学療法を行わない場合には10人に4人が、行えたとしても10人に1割程度は再発してしまうと報告されています。

大細胞神経内分泌癌で重要な新しい治療の考え方

大細胞神経内分泌癌では、現時点で最も重要なのは、「遺伝子異常の有無を調べること」と「免疫療法の適応を評価すること」です。

特にTP53変異やRB1変異は比較的高頻度とされ、標的治療の候補となりえます。また、免疫チェックポイント阻害薬が有効となる可能性もあります。これらの治療を組み合わせることで、治療効果を高めることが期待できます。

分子レベルの異常にアプローチする「核酸医薬(アプタマー・siRNA ・miR-34a mimic)」

近年、がんの発症や進行に関わる分子レベルの異常に着目した核酸医薬が注目され、研究・臨床応用が進んでいます。当院では、根本的な原因に直接作用することが期待される「アプタマー」「RNA干渉を利用した核酸医薬(siRNA など)」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を、新たな治療の選択肢として提供しています。

アプタマー核酸医薬は、がんに特有に発現している異常なタンパク質に結合し、その働きを抑えてがん細胞の増殖を抑制したり死滅させたりする治療薬です。一方、miR-34a mimic 核酸医薬は、がん化によって失われた体に本来備わる「がんを抑える力」を取り戻す治療薬で、がんの成長や増殖を止め、自然ながん細胞の死滅を促します。

がん中央クリニックグループでは、こうした分子レベルにアプローチする治療を提供しています。

欧米では、がんの部位ではなく遺伝子やタンパク質の異常に注目して治療法を決定する研究や臨床試験が行われています。日本では一部の遺伝子レベルの治療が保険適用となっているものの、国際的にはやや遅れをとっている状況です。がん中央クリニックグループでは、いち早く遺伝子レベルの異常に焦点をあてた診察・治療を導入しています。

「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」治療をオススメする患者様

アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」は、大細胞神経内分泌癌のほとんどの患者様にお選びいただける治療法です。

以下では、どのような患者様に効果が期待できるのかを解説します。ご自身の状況に照らし合わせてご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

大細胞神経内分泌癌では、病状や体力、副作用などの理由で、保険診療の標準治療だけでは選択肢が限られることがあります。そうした場合でも、がんに関わる分子レベルの異常に着目する核酸医薬は、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供することが可能です。

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)は目立った副作用が現れにくく、「体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方でも、治療の提案が可能です。

さらに、まだ治療ができる体力があるにもかかわらず選択肢がなくなり、緩和を勧められている方にとっても、新たな治療の選択肢として検討いただけます。

がん中央クリニックグループでは、核酸医薬を含め、様々な治療を組み合わせながら患者様の状態や疾患に応じて、患者様一人ひとりに合わせたテーラーメイドによる治療を提案、提供しています。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)は、化学療法などの薬物療法や放射線療法と併用でき、相乗効果が期待できます。

なぜなら、化学療法はすでに増殖したがん細胞や産生されたたんぱく質に作用するのに対し、核酸医薬はがん細胞やたんぱく質が作られる前の段階に作用するからです。両者は攻撃するポイントが異なるため、組み合わせることでより高い効果が期待できます。

大細胞神経内分泌癌は肺癌の中でも悪性度が高いため、完治を目指すには複数の治療法を組み合わせることが重要です。標準治療(手術前後の抗がん剤治療を含む)を受けている患者様にも、核酸医薬の併用は選択肢となります。

再発を抑制、防止するため。手術前後のすべての患者様

大細胞神経内分泌癌は、手術を行っても再発しやすい疾患です。手術のみでは5年以内に約4割の患者様が再発するとされ、再発予防のために術後補助化学療法(抗がん剤治療)が勧められるケースがあります。

しかし、術後補助化学療法を実施しても再発する患者様は一定数おられます。また、抗がん剤には副作用があるため、体力に不安のある高齢の患者様や副作用が心配な患者様には実施が難しいこともあります。

こうした背景から、手術前後の患者様が核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)を併用することは、再発リスクを下げる一つの選択肢となります。

治療継続可能な副作用

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)には目立った副作用が少ないことも特徴です。

特に、化学療法で起きやすい嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応などがあります。解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半であり、治療を継続するのに支障をきたしません。

「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」といった方でも受けていただける治療となっております。

大細胞神経内分泌癌の完治を目指して保険診療と患者様に合った自由診療を組み合わせるのがおすすめ

大細胞神経内分泌癌は、適切に治療を行えば完治を目指せる疾患です。

発症要因の一つに遺伝子異常があるため、保険診療と核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、免疫チェックポイント阻害薬などを組み合わせる集学的治療が有効な選択肢となります。保険診療だけではカバーしきれない場合にも、これらの治療によって腫瘍縮小効果や再発抑制効果が期待できます。

がん中央クリニックグループでは、「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがんの自由診療を提案いたします。大細胞神経内分泌癌の患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。

「ステージ4の肺がんです。」

医師からそう告げられた瞬間、頭の中が真っ白になったという人は少なくありません。「もう治療できないのではないか」「命はどれくらいなのか」「家族には何と伝えればいいのだろう」「仕事は続けられるのか」「本当に他に方法はないのか」診断直後はこのような疑問や不安が一度に押し寄せます。

インターネットで「肺がん ステージ4」と検索すると、「末期がん」「余命」「生存率」といった言葉が数多く並び、不安がさらに大きくなってしまうこともあります。しかし、現在の肺がん診療は、こうした情報だけでは語れないほど大きく変化しています。

肺がんステージ4と診断されると、以前は抗がん剤による延命治療が中心でした。しかし現在では、遺伝子異常に応じた分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場によって、治療の選択肢は大きく広がっています。患者によっては病気を長期間コントロールしながら仕事や日常生活を続けている人もおり、「ステージ4=すぐに治療ができなくなる」という時代ではなくなりました。

同じステージ4という診断であっても、病気の広がり方や遺伝子変異の有無、全身状態などによって治療方針は大きく異なります。肺だけに病変がある人と、脳や骨へ転移している人では治療の考え方が違いますし、EGFR遺伝子変異がある人とない人でも、最初に選択される薬は変わります。「ステージ4」という言葉だけでは、その人の病状や将来を判断することはできません。

この記事では、肺がんステージ4とはどのような状態なのかをはじめ、生存率や余命の考え方、現在受けられる標準治療、最新の薬物療法、完治の可能性、さらには標準治療以外の選択肢まで、現在の医学的知見に基づいて詳しく解説します。

診断直後に知っておきたい基本的な知識だけでなく、治療を選択する際に判断材料となる情報もできる限り分かりやすくまとめています。この記事が、不安の中で情報を探している患者さんやご家族にとって、冷静に状況を整理し、今後の治療について考えるための一助となれば幸いです。

  • 肺がんのステージ4は肺以外の場所へがんが広がっている状態
  • 肺がんステージ4の5年生存率は約8.6%(国立がん研究センター 2015年5年生存率)
  • ステージ4の余命はどの治療を受けられるかによって大きく変わる

肺がんステージ4とは

肺がんのステージ4とは、一般的に「肺以外の場所へがんが広がっている状態」を指します。そのため、「最も進行した段階」「末期がん」という説明を目にすることもあります。しかし実際の診療では、ステージ4という一つの言葉だけで病状を判断することはありません。

現在の肺がんでは、どこへ、どの程度転移しているのか、そしてどのような性質を持つがんなのかによって、治療方法も予後も大きく変わるからです。

肺がんの進行度は、国際的に用いられているTNM分類によって決定されます。Tは肺の原発巣の大きさや周囲への広がり、Nはリンパ節転移、Mは遠隔転移を表しており、この三つを組み合わせて病期(ステージ)が決定されます。

このうちステージ4に分類される最大の理由は「M」、つまり遠隔転移です。肺の外にがん細胞が広がると、たとえ肺の腫瘍自体がそれほど大きくなくてもステージ4になります。

参考:肺癌診療ガイドライン2025年版|日本肺癌学会

肺がんが転移しやすい部位

遠隔転移が起こりやすい部位としては、脳、骨、肝臓、副腎が代表的です。例えば脳へ転移した場合には頭痛や手足の麻痺、けいれんなどが現れることがありますし、骨へ転移すると腰痛や背部痛、骨折の原因になることもあります。ただし、転移が見つかったからといって必ず症状があるとは限りません。現在ではPET-CTやMRIなど画像診断の精度が向上したことで、自覚症状がない段階で転移が見つかる患者も少なくありません。

ⅣA期・ⅣB期

肺がんのステージ4は、さらにⅣA期とⅣB期に分類されます。

ⅣA期は、例えば片側の肺にできた肺がんが反対側の肺へ転移している場合や、胸水・心嚢水の中にがん細胞が確認された場合、あるいは一つの遠隔転移が認められる場合などが該当します。一方、ⅣB期では複数の臓器や複数箇所への遠隔転移が認められ、病気がより広く全身へ及んでいる状態です。

この分類は単なる数字の違いではありません。なぜなら、転移の数や広がりによって治療戦略が変わることがあるためです。

オリゴ転移

近年、特に注目されている考え方が『オリゴ転移(Oligometastasis)』です。これは転移がごく限られた数にとどまっている状態を指します。例えば肺に原発巣があり、脳へ一つだけ転移しているようなケースでは、肺の病変と転移巣の両方へ積極的な局所治療を行うことで、長期生存が期待できる患者もいることが分かってきました。一部では治癒を目指した集学的治療も検討されます。

EGFR遺伝子変異・ALK融合遺伝子

さらに重要なのが、肺がんは病気の広がりだけではなく、がん細胞の性質そのものも治療方針を左右するという点です。

例えばEGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子などが見つかった患者では、従来の抗がん剤ではなく分子標的薬が第一選択となることがあります。またPD-L1というタンパク質の発現状況によっては、免疫チェックポイント阻害薬を中心とした治療が選択される場合もあります。

そのため現在の肺がん診療では「ステージ4でした」という説明だけでは十分ではありません。実際にはその後、遺伝子検査や病理検査、画像検査などを組み合わせながら、「この患者に最も効果が期待できる治療は何か」を慎重に検討していきます。

ステージ以外の要素も含めて総合的に評価

ステージ4という診断は、確かに病気が進行していることを意味します。しかし、それだけで「治療ができない」「余命が短い」と決めつけることはできません。現在の肺がんは、転移の状況、遺伝子異常、全身状態など、多くの要素を総合的に評価して初めて治療方針が決まる病気になっています。

そのため診断直後は、ステージという一つの情報だけで将来を判断するのではなく、自分の肺がんがどのような特徴を持っているのかを正しく理解することが、その後の治療を考える第一歩になります。

ステージ4でも治療する理由

「ステージ4まで進行しているなら、もう治療をしても意味はないのではないか。」肺がんと診断された患者さんやご家族から、このような声を聞くことは少なくありません。実際「ステージ4=治療できない」「延命しかできない」というイメージを持っている人も多いでしょう。しかし、この考え方は必ずしも当てはまりません。

もちろん、ステージ4は肺の外へがんが広がっている状態であり、早期肺がんのように手術だけで完治を目指せるケースは多くありません。だからといって治療の目的が「何もできない」になるわけではありません。近年は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場によって、病気を長期間コントロールできる患者が増えており、診療の考え方そのものが大きく変わっています。

その変化を理解するためには、まず肺がん治療の目的を知る必要があります。

肺がん治療の目的

早期肺がんでは、治療の第一目標は「がんを完全に取り除くこと」です。一方、ステージ4では病気が全身へ広がっているため、目に見える病変だけを切除しても、体内のどこかに残っているがん細胞まで取り除くことは困難です。そのため現在の治療では「すべてのがんをなくすこと」だけではなく、「病気をできるだけ長くコントロールしながら生活を維持すること」が重要な目標になります。

ここで誤解してはいけないのは「コントロールする」という言葉が「ただ延命するだけ」という意味ではないことです。

例えば、肺がんによる咳や息苦しさ、痛みなどの症状が改善すれば、これまで難しかった外出や仕事、趣味を再開できる患者もいます。分子標的薬がよく効いた患者では、腫瘍が大きく縮小し、普段と変わらない生活を数年間続けられることもあります。治療の目的は寿命を延ばすことだけではなく「その時間をどのように過ごせるか」を守ることにもあるのです。

こうした考え方が広がった最大の理由は、肺がん治療そのものが大きく進歩したことにあります。

肺がん治療の進歩

かつてステージ4肺がんの薬物療法は、細胞障害性抗がん剤が中心でした。抗がん剤によって腫瘍が縮小する患者もいましたが、効果が続く期間には限りがあり、副作用とのバランスも大きな課題でした。

その後、EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子など、肺がんの増殖に深く関わる遺伝子異常が次々と明らかになり、それぞれを標的とする分子標的薬が開発されました。さらに、患者自身の免疫機能を利用してがんを攻撃する免疫チェックポイント阻害薬も登場し、治療成績は以前と比べて大きく改善しています。

同じステージ4でもEGFR遺伝子変異が見つかった患者では、分子標的薬が第一選択となることが一般的です。一方で、遺伝子変異がなくPD-L1の発現が高い患者では、免疫チェックポイント阻害薬が中心になる場合があります。さらに、これらに当てはまらない患者では、抗がん剤と免疫療法を組み合わせた治療が検討されます。このように現在は「どの薬を使うか」ではなく、「その患者の肺がんにはどの治療が最も適しているか」を考える時代になっています。

抗がん剤以外の選択肢が増えている

ステージ4だからといって全身治療だけが行われるわけではありません。

例えば脳へ一つだけ転移している場合には、定位放射線治療によって転移巣を治療しながら、肺の原発巣に対して薬物療法を続けることがあります。骨転移による強い痛みがある場合には、その部位へ放射線を照射して症状を和らげることもあります。さらに、転移がごく限られているオリゴ転移では、肺の病変と転移巣の双方へ局所治療を組み合わせることで、長期生存が期待できる患者も報告されています。

もちろん、すべての患者が同じように治療へ反応するわけではありません。治療効果には個人差がありますし、副作用との兼ね合いから薬剤を変更することもあります。しかし、以前のように「抗がん剤が効かなくなったら終わり」という時代ではなくなりました。新しい薬剤への切り替えや、遺伝子異常に応じた治療、局所治療との組み合わせなど、状況に応じて次の選択肢を検討できる場面が増えています。

一人ひとりの肺がんに合わせた個別化医療が標準

ステージ4と診断された時点で最も重要なのは「治療できるかどうか」を心配することではありません。

まずは自分の肺がんがどのような特徴を持ち、どのような治療が選択できるのかを正確に知ることです。そのために必要なのが、診断直後に行われる詳しい検査です。肺がんでは、病気の広がりを調べるだけでなく、遺伝子異常や免疫の状態まで詳しく調べることで、最初に選ぶべき治療が決まります。

現在の肺がん診療は「ステージ4だから同じ治療を受ける」という時代ではありません。一人ひとりの肺がんの性質を詳しく調べ、その結果に合わせて治療を選択する個別化医療が標準となっています。そして、その出発点となるのが、次に紹介する各種検査です。

各種検査

肺がんステージ4と診断されると、多くの患者は「すぐに抗がん剤が始まるのだろう」と考えます。しかし、実際にはそのような流れになることはほとんどありません。診断がついた後、まず行われるのは「どの薬を使うか」を決めるための詳しい検査です。

これは現在の肺がん治療が「肺がん」という一つの病気を治療する時代から「その人の肺がんの特徴に合わせて治療を選ぶ時代」へ変わったためです。同じステージ4であっても、遺伝子異常の有無や免疫の状態によって、最初に選択される治療が全く異なることがあります。現在では治療を急ぐよりも先に、病気を正確に分析することが非常に重要になっています。

病理検査

最初に行われるのは、肺がんであることを確定する病理検査です。

気管支鏡検査やCTガイド下生検などによって採取した組織を顕微鏡で調べ、がん細胞の種類を確認します。肺がんには大きく非小細胞肺がんと小細胞肺がんがあり、この違いだけでも治療方針は大きく変わります。さらに非小細胞肺がんの中でも、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなど組織型によって使用できる薬剤が異なるため、病理診断はすべての治療の出発点になります。

遺伝子検査

病理診断が終わると、次に重要になるのが遺伝子検査です。

近年の肺がん診療では「どこに転移しているか」と同じくらい、「どのような遺伝子異常を持っているか」が重要視されています。特に非小細胞肺がんでは、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、BRAF V600E変異、MET遺伝子異常、RET融合遺伝子、HER2変異、KRAS G12C変異など、治療薬が存在する遺伝子異常が次々と見つかっています。

もしこれらの遺伝子異常が確認されれば、従来の抗がん剤よりも分子標的薬が第一選択となることが少なくありません。分子標的薬は、がん細胞が増殖する原因となっている分子を狙って作用するため、高い奏効率が期待できる場合があります。そのため現在では、遺伝子検査の結果を待ってから治療を開始することが標準的な流れになっています。

さらに現在では、一つずつ遺伝子を調べるだけではなく『次世代シークエンサー(NGS)』を用いたマルチプレックス遺伝子検査も広く普及しています。一度の検査で複数の遺伝子異常を同時に調べられるため、患者への負担を抑えながら、より多くの治療選択肢を検討できるようになりました。

参考:肺がん 検査|国立がん研究センター がん情報サービス

PD-L1検査

遺伝子検査と並んで重要なのが、PD-L1検査です。

PD-L1は、がん細胞の表面に発現するタンパク質の一つで、免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測するための重要な指標です。PD-L1の発現割合が高い患者では、免疫チェックポイント阻害薬を単独で使用することが検討される場合があります。一方、発現が低い場合でも、抗がん剤との併用によって効果が期待できるケースもあるため、この結果だけで治療法が決まるわけではありません。それでも、現在の肺がん診療では欠かすことのできない検査になっています。

CT・PET-CT・MRI検査

病気の広がりを正確に把握するための画像検査も重要です。

胸部から腹部までのCT検査では、肺の病変だけでなく、リンパ節や肝臓、副腎などへの転移の有無を確認します。さらにPET-CTでは、全身のがん細胞が活発に活動している部位を一度に調べられるため、CTだけでは分かりにくい転移を発見できることがあります。

また、肺がんでは脳転移が比較的多いため、症状がなくても頭部MRIを行うことが一般的です。脳転移はCTでは小さな病変を見逃すこともあるため、より精度の高いMRIが推奨されています。脳転移の有無は、薬物療法だけでなく放射線治療の必要性を判断するうえでも重要な情報になります。

骨転移が疑われる場合には、PET-CTのほか、病状によって骨シンチグラフィやMRIを追加することもあります。骨転移は痛みや骨折の原因になるだけでなく、治療方針にも影響するため、必要に応じて詳しく評価されます。

全身状態を評価

さらに見落とされがちですが、患者自身の全身状態を評価することも、治療選択では非常に重要です。

肺がん診療では『Performance Status(PS)』という指標を用いて、日常生活をどの程度自分で送れているかを評価します。同じステージ4であっても、仕事や家事を問題なく行えている患者と、ほとんどベッド上で生活している患者では、体へかけられる治療の強さが異なります。治療方針は画像や検査結果だけでなく、患者の体力や生活状況も含めて決定されます。

早く治療を始めるよりも大切なこと

ここまで多くの検査を行うと「治療開始が遅れてしまうのではないか」と心配になる人もいるでしょう。しかし、検査を省略して早く治療を始めることよりも、病気の性質を正確に把握し、その患者に最も適した治療を選ぶことの方が重要だと考えられています。

例えば、EGFR遺伝子変異がある患者へ抗がん剤を先に開始してしまうと、本来第一選択となる分子標的薬を最初から使えなくなる場合があります。反対に、PD-L1の発現が高い患者では、免疫チェックポイント阻害薬を中心とした治療が高い効果を示すこともあります。つまり「早く治療を始めること」が最優先ではありません。「最初から最適な治療を選ぶこと」が、その後の治療成績を大きく左右するのです。

こうして病理診断、遺伝子検査、PD-L1検査、画像検査、全身状態の評価までが終わると、初めて治療方針を具体的に検討する段階へ進みます。同じステージ4という診断でも、その結果によって選択される治療は大きく異なります。

肺がんステージ4の治療全体像

肺がんステージ4の治療は、一つの方法だけで完結することはほとんどありません。現在の診療では、薬物療法を中心に据えながら、必要に応じて放射線治療や手術、緩和ケアなどを組み合わせて病気をコントロールしていきます。どの治療を選択するかは、前章で説明した遺伝子検査やPD-L1検査、画像検査などの結果を踏まえて決定されます。

治療法は大きく分けると「全身へ作用する治療」と「特定の病変を治療する局所治療」の二つに分けられます。

全身治療

全身へ作用する治療の中心となるのが薬物療法です。

現在の肺がん診療では、遺伝子異常が確認された患者には分子標的薬、免疫療法の効果が期待できる患者には免疫チェックポイント阻害薬、それ以外の患者には細胞障害性抗がん剤や免疫療法との併用療法など、病気の特徴に合わせて治療が選択されます。近年は新しい薬剤が次々と登場しており、以前と比べて選択肢は大きく広がっています。

局所治療

放射線治療や手術は局所治療に分類されます。

ステージ4というと「全身に病気が広がっているから局所治療は意味がない」と思われることがありますが、実際にはそうではありません。脳転移による神経症状を改善したり、骨転移による痛みを和らげたりするために放射線治療が行われることがありますし、転移が限られている患者では原発巣や転移巣に対して局所治療を組み合わせることで、より長期の病勢コントロールが期待できる場合もあります。

緩和ケア

肺がん治療では緩和ケアも欠かすことができません。緩和ケアというと終末期医療をイメージする人が少なくありませんが、現在では診断された早い段階から取り入れることが推奨されています。痛みや息苦しさ、不安、不眠などを軽減しながら治療を継続できるよう支援することも、肺がん治療の重要な役割の一つです。

それぞれの治療で期待できる効果は異なる

このように現在の肺がんステージ4では、一つの治療法だけで病気に対応することはほとんどありません。薬物療法を軸としながら、放射線治療や局所治療、緩和ケアを適切なタイミングで組み合わせることで、一人ひとりの病状に合わせた治療が行われています。

それぞれの治療には、期待できる効果や適応となる患者、副作用が異なります。ここからは現在の肺がん診療で中心となっている各治療法について、それぞれの特徴や選択される理由を詳しく見ていきましょう。

分子標的薬 ― 肺がん治療を大きく変えた新しい治療

肺がんステージ4と診断された患者の中には「分子標的薬が使えるかもしれません」と説明を受ける人がいます。しかし、初めて耳にする言葉だけに「普通の抗がん剤とは何が違うのか」「自分にも使える薬なのか」と疑問を持つ人は少なくありません。

現在の肺がん診療において、分子標的薬は最も大きな進歩の一つといわれています。その理由は、従来の抗がん剤とは治療の考え方そのものが異なるからです。これまでの抗がん剤は、細胞分裂が活発ながん細胞を攻撃することで腫瘍を小さくする治療でした。しかし、正常な細胞にも影響が及ぶため、脱毛や吐き気、白血球減少などの副作用が起こりやすいという課題がありました。

一方、分子標的薬は、がん細胞だけが持つ特定の遺伝子異常やタンパク質の異常を狙って作用します。いわば、がん細胞が増殖するための「スイッチ」をピンポイントで遮断する治療です。そのため、適応となる患者では高い治療効果が期待できるだけでなく、従来の抗がん剤とは異なる副作用の現れ方をすることも特徴です。

ドライバー遺伝子変異

すべての肺がん患者が分子標的薬を使用できるわけではありません。

この治療が効果を発揮するのは、ドライバー遺伝子変異と呼ばれる特定の遺伝子異常が確認された場合です。診断時に遺伝子検査を行い、どのような遺伝子異常が存在するのかを詳しく調べたうえで、適応となる薬剤を選択することが現代の標準的な診療となっています。

EGFR遺伝子変異

最もよく知られているのがEGFR遺伝子変異です。

日本人の肺腺がんでは比較的頻度が高く、特に喫煙歴の少ない患者や女性に多くみられることが知られています。EGFR遺伝子変異が見つかった場合には、オシメルチニブ(タグリッソ)をはじめとしたEGFR阻害薬が第一選択となることが多く、腫瘍が大きく縮小したり、症状が改善したりする患者も少なくありません。

ALK融合遺伝子

一方で、ALK融合遺伝子が確認された患者では、アレクチニブやロルラチニブなどALK阻害薬が選択されます。ALK陽性肺がんは患者数としては多くありませんが、薬剤がよく効く患者では長期間病状をコントロールできることもあり、肺がん治療を大きく変えた分子標的薬の代表例の一つです。

その他の遺伝子

さらに現在では、ROS1融合遺伝子、BRAF V600E変異、MET遺伝子異常、RET融合遺伝子、HER2変異、KRAS G12C変異など、治療薬が存在する遺伝子異常が次々と見つかっています。以前であれば一括して「肺がん」と治療されていた患者も、遺伝子異常ごとに異なる薬剤を選択する時代になりました。

こうした変化によって「肺がん」という一つの病気は、実際には複数の異なる病気の集まりとして考えられるようになっています。

参考:バイオマーカー検査の流れとマルチプレックス遺伝子検査|日本肺癌学会

分子標的薬の課題

分子標的薬にも課題があります。最も大きな課題が耐性です。治療開始当初は高い効果が得られていても、時間の経過とともにがん細胞が薬剤へ適応し、効きにくくなることがあります。これを耐性獲得と呼びます。

しかし、耐性が生じたからといって、すぐに治療手段がなくなるわけではありません。例えばEGFR遺伝子変異では、耐性が生じた原因を再び遺伝子検査で調べ、新たな遺伝子異常が確認されれば、それに対応した薬剤への変更を検討することがあります。また、薬剤を変更したり、抗がん剤や免疫療法へ切り替えたりしながら病気をコントロールしていくことも珍しくありません。

近年では、治療開始時だけでなく、病気が進行したタイミングでも再度遺伝子検査を行うことが増えています。これは、肺がん細胞が治療によって性質を変化させることがあるためです。現在では血液を用いて遺伝子異常を調べるリキッドバイオプシーも実用化されており、患者への負担を抑えながら耐性の原因を調べられる場面も増えています。

分子標的薬の副作用

副作用についても、従来の抗がん剤とは特徴が異なります。

脱毛や強い吐き気は比較的少ない一方で、皮膚の発疹、爪の異常、下痢、肝機能障害、間質性肺炎など、それぞれの薬剤に特有の副作用があります。特に間質性肺炎は頻度は高くないものの重症化することがあるため、息切れや咳が悪化した場合には早めに医療機関へ相談することが重要です。

分子標的薬は、自宅で内服を続けられる薬剤が多く、治療を受けながら仕事や日常生活を維持している患者も少なくありません。しかし、「飲み薬だから軽い治療」というわけではなく、定期的な画像検査や血液検査を行いながら、効果と副作用の両方を確認していく必要があります。

遺伝子異常がない場合は別の治療が必要

現在の肺がん診療では、分子標的薬によって長期間病気をコントロールできる患者が増えています。その一方で、この治療は遺伝子異常がある患者だけが対象です。遺伝子異常が見つからなかった患者では、別の治療戦略が必要になります。

その代表となるのが、患者自身の免疫の力を利用してがんを攻撃する免疫チェックポイント阻害薬です。次の章では、現在の肺がん治療でもう一つの柱となっている免疫療法について詳しく解説します。

免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)

肺がん治療について調べていると「免疫療法」という言葉を目にする機会が増えています。しかし、免疫療法という名称だけでは、「体の免疫力を高める治療なのだろうか」「サプリメントのようなものなのだろうか」とイメージしにくい人もいるでしょう。

現在、肺がんの標準治療として行われている免疫療法は、免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる薬剤を用いた治療です。これは健康食品や民間療法で使われる「免疫療法」とは全く異なるもので、多くの臨床試験によって有効性が確認され、日本や海外の診療ガイドラインでも標準治療として位置付けられています。

免疫の仕組み

この治療を理解するためには、まず私たちの免疫の仕組みを知る必要があります。本来、人の体では免疫細胞が毎日異常な細胞を見つけて排除しています。がん細胞も例外ではなく、発生した直後の小さながん細胞は免疫によって消えていると考えられています。

しかし、がん細胞は生き残るために巧妙な仕組みを身につけています。その一つが、免疫細胞へ「自分は攻撃しなくてよい細胞です」という信号を送り、攻撃を避ける仕組みです。この信号に関わる代表的な分子がPD-1とPD-L1です。

免疫チェックポイント阻害薬は、この信号を遮断することで、免疫細胞が再びがん細胞を認識し、攻撃できる状態をつくり出します。つまり、薬そのものががん細胞を直接攻撃するのではなく、患者自身が本来持っている免疫機能を回復させる治療と考えると理解しやすいでしょう。

肺がんで使用される免疫チェックポイント阻害薬

肺がんで使用される代表的な免疫チェックポイント阻害薬には、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)、ニボルマブ(オプジーボ)、アテゾリズマブ(テセントリク)、デュルバルマブ(イミフィンジ)などがあります。

薬剤ごとに適応は異なりますが、現在では進行・再発非小細胞肺がんの治療に広く使用されており、患者の状態によっては最初から免疫療法を中心とした治療が選択されることもあります。

参考:肺がん治療に使用される薬剤一覧|日本肺癌学会

PD-L1検査の重要性

治療方針を決める際に重要になるのが、前章でも触れたPD-L1検査です。PD-L1は、がん細胞の表面に発現するタンパク質で、その発現割合が高い患者では免疫チェックポイント阻害薬が高い効果を示す可能性があります。そのため診断時には病理検体を用いてPD-L1発現率を測定し、その結果を参考に治療方針を決定します。

ただし、PD-L1の数値だけですべてが決まるわけではありません。

例えばPD-L1が50%以上であれば免疫チェックポイント阻害薬単独療法が選択されることがありますが、患者の全身状態や病気の進行速度によっては抗がん剤との併用療法が適している場合もあります。また、PD-L1の発現率が低くても、免疫療法と抗がん剤を組み合わせることで十分な治療効果が期待できる患者もいます。

「PD-L1が高いから免疫療法」「低いから使えない」という単純な判断ではなく、さまざまな情報を総合して治療法を決定しています。

効果が長期間持続

免疫療法が肺がん診療を大きく変えた理由は、効果が長期間持続する患者がいることです。

従来の抗がん剤では、一度効果があっても時間とともに病気が進行することが少なくありませんでした。一方、免疫チェックポイント阻害薬では、治療開始後に腫瘍が縮小し、その状態が数年間維持される患者も報告されています。すべての患者に同じような効果が現れるわけではありませんが、この「長期生存」という新しい可能性は、肺がん治療に大きな変化をもたらしました。

免疫療法の注意点

免疫療法には特有の注意点もあります。抗がん剤のような脱毛や強い吐き気は比較的少ないものの、免疫が活性化し過ぎることで、自分自身の正常な臓器を攻撃してしまう『免疫関連有害事象(irAE)』が起こることがあります。

例えば、甲状腺機能異常、間質性肺炎、大腸炎、肝機能障害、副腎機能低下、1型糖尿病などが知られています。頻度は決して高くありませんが、重症化すると治療の中止や入院が必要になることもあるため、早期発見と早期対応が非常に重要です。特に肺がん患者では、間質性肺炎に注意が必要です。

息苦しさや空咳、発熱などは肺がんそのものでも起こり得る症状ですが、免疫関連有害事象による肺炎が原因である場合もあります。放置すると重症化することがあるため、「少し様子を見よう」と自己判断せず、気になる症状があれば早めに主治医へ相談することが勧められます。

参考:免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象対策マニュアル|厚生労働省

効果があるか早めに分かる

また免疫療法は「効果があるかないか」が比較的早い段階で分かる治療でもあります。

画像検査で腫瘍が縮小していれば治療を継続しますが、病気が進行している場合には別の薬剤へ切り替えることもあります。さらに、治療開始直後に一時的に腫瘍が大きく見える『偽増悪(Pseudoprogression)』という特殊な現象が起こることもあるため、画像だけではなく症状や全身状態も含めて慎重に治療効果を判断します。

すべての患者が対象になるわけではない

免疫チェックポイント阻害薬は、現在の肺がん治療を支える重要な柱の一つです。しかし、すべての患者が対象になるわけではなく、また万能な治療でもありません。遺伝子異常の有無やPD-L1発現率、病気の進行速度などを総合的に評価し、その患者に最も適した形で使用することが重要になります。

そして、分子標的薬も免疫療法も適応にならない患者、あるいはこれらの治療後に病気が進行した患者では、現在でも細胞障害性抗がん剤が重要な役割を担っています。次の章では、現在の肺がん診療における抗がん剤治療の位置付けと、以前とは大きく変わった副作用対策について詳しく解説します。

抗がん剤治療 ― 現在でも肺がん治療を支える重要な選択肢

分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場によって、肺がん治療は大きく進歩しました。そのため、「今はもう抗がん剤の時代ではない」と考える人もいるかもしれませんが、そのようなことはありません。

現在でも抗がん剤は、進行肺がんに対する標準治療の重要な柱であり、多くの患者が治療を受けています。特に、分子標的薬の対象となる遺伝子異常が見つからない患者や、免疫療法だけでは十分な効果が期待できない患者では、抗がん剤が治療の中心になります。また、分子標的薬や免疫療法の効果が弱まった後に、次の治療として抗がん剤が選択されることも少なくありません。

肺がんで使用される抗がん剤

「抗がん剤」と一言でいっても、現在では一種類の薬を使うことはほとんどありません。

肺がんでは、複数の薬剤を組み合わせて治療効果を高める方法が標準となっています。代表的なのはプラチナ製剤を中心とした治療で、シスプラチンやカルボプラチンに、ペメトレキセド、パクリタキセル、ドセタキセルなどを組み合わせる方法が広く行われています。

参考:肺がん治療に使用される薬剤一覧|日本肺癌学会

肺がんの組織型で異なる

使用する薬剤は、肺がんの組織型によっても異なります。

例えば、非小細胞肺がんの中でも腺がんではペメトレキセドが使用されることが多い一方、扁平上皮がんでは別の薬剤が選択されることがあります。小細胞肺がんではさらに治療法が異なり、エトポシドやイリノテカンなどを組み合わせた治療が標準となっています。「肺がんだからこの抗がん剤」という考え方ではなく、組織型やこれまでの治療歴、全身状態などを踏まえて薬剤を選択することが一般的です。

抗がん剤単独の治療は少ない

近年は、抗がん剤単独で治療を行う場面も以前より少なくなっています。

例えば、免疫チェックポイント阻害薬と抗がん剤を組み合わせることで、それぞれ単独で使用するよりも高い治療効果が期待できる患者がいます。このような併用療法は現在の進行非小細胞肺がんでは標準的な選択肢の一つとなっており、「抗がん剤だけを続ける」という治療から、「他の治療と組み合わせる」という治療へ変化しています。

抗がん剤の副作用と支持療法について

もちろん抗がん剤には副作用があります。多くの人が最初に思い浮かべるのは、脱毛や吐き気でしょう。確かに以前は、副作用が強く、治療そのものが大きな負担になることもありました。しかし現在では、副作用を予防・軽減するための支持療法が大きく進歩しています。

例えば吐き気については、高性能な制吐薬をあらかじめ使用することで、以前より強い症状が出にくくなっています。白血球が減少し感染症のリスクが高くなる場合には、G-CSF製剤を使用して骨髄機能をサポートすることもあります。貧血や食欲低下、便秘、口内炎などについても、それぞれ症状に応じた治療が行われます。

現在は「副作用を我慢しながら治療を続ける」という考え方ではなく、「副作用をコントロールしながら治療を継続する」という考え方が基本になっています。それでも、副作用が全くなくなるわけではありません。

抗がん剤は正常な細胞にも影響するため、倦怠感や味覚の変化、末梢神経障害、爪の変化など、治療を続ける中で日常生活へ影響する症状が現れることがあります。副作用の種類や程度は薬剤によって異なるため、治療開始前にはどのような症状が起こり得るのかを確認し、体調の変化があれば早めに医療スタッフへ伝えることが重要です。

抗がん剤はいつまで続けるのか

また「抗がん剤はいつまで続けるのですか」という質問もよく聞かれます。

これには一律の答えはありません。

画像検査で治療効果を確認しながら、病気がコントロールされ、副作用も許容できる範囲であれば治療を継続します。一方で、病気が進行した場合や副作用が強くなった場合には、別の薬剤へ変更したり、免疫療法や分子標的薬など他の治療へ切り替えたりすることもあります。現在の抗がん剤治療は「決められた回数だけ行う治療」ではなく、その時々の病状や体調に応じて柔軟に調整していく治療です。

患者の病状に応じて最適な組み合わせを選択する

抗がん剤は分子標的薬や免疫療法に取って代わられた存在ではありません。それぞれの治療には役割があり、患者の病状に応じて最適な組み合わせを考えながら治療が進められています。

そして、薬物療法だけでは十分な効果が得られない場面では、放射線治療や手術が重要な役割を果たすことがあります。特に脳転移や骨転移、オリゴ転移では局所治療を組み合わせることで、症状の改善や病状の長期コントロールが期待できる場合があります。次の章では、ステージ4肺がんにおける放射線治療と手術の役割について詳しく解説します。

放射線治療・手術 ― ステージ4での局所治療の重要性

「肺がんがステージ4まで進行しているなら、手術や放射線治療はもう受けられない」そのように考えている人も少なくありません。実際、がんが全身へ広がっている以上、肺だけを治療しても意味がないと思うのは自然なことです。しかし、この考え方も変わりつつあります。

確かにステージ4では、薬物療法が治療の中心になります。分子標的薬や免疫療法、抗がん剤によって全身に存在する可能性があるがん細胞へ働きかけることが基本です。一方で、それだけでは十分ではない場面があります。

転移部位の症状改善

例えば、脳転移によって手足の麻痺や言葉が出にくいといった症状が現れている場合、薬物療法だけでは改善まで時間がかかることがあります。そのようなときには、脳転移に対して放射線治療を行うことで、症状を早く改善できる可能性があります。

骨転移も同様です。肺がんは骨へ転移しやすいがんの一つで、背骨や骨盤、肋骨などへ転移すると、強い痛みや骨折の原因になることがあります。骨転移による痛みは生活の質を大きく低下させますが、放射線治療によって痛みが軽減する患者は少なくありません。また、脊椎への転移で神経が圧迫されている場合には、麻痺などを防ぐために早期の放射線治療が重要になることもあります。

このように放射線治療は「がんを治すためだけの治療」ではありません。症状を改善し、合併症を予防し、その後の薬物療法を継続しやすくすることも大切な役割です。だからこそ診断直後から放射線治療医が治療方針の検討に加わることも珍しくありません。

放射線の照射技術の進歩

近年は放射線を照射する技術も大きく進歩しています。

以前は広い範囲へ放射線を照射することが一般的でしたが、現在では定位放射線治療(Stereotactic Body Radiation Therapy:SBRT)や定位放射線照射(SRS)によって、小さな病変へ高線量の放射線を正確に集中させられるようになりました。

特に脳転移では、病変が限られている場合にガンマナイフやサイバーナイフなどを用いた定位放射線治療が選択されることがあります。正常な脳への影響をできるだけ抑えながら病変を治療できるため、従来よりも治療後の生活への影響を軽減できる可能性があります。

参考:放射線治療 | 公益社団法人 日本放射線技術学会

オリゴ転移

肺がんでは近年「オリゴ転移」という考え方が重要になっています。オリゴ転移とは、遠隔転移があっても病変の数が限られている状態を指します。例えば肺に原発巣があり、脳へ一つだけ転移している場合や、副腎へ単発の転移がある場合などがこれに該当することがあります。

こうした患者では、薬物療法だけではなく、肺の原発巣や転移巣へ放射線治療や手術を追加することで、病気をより長期間コントロールできる可能性があることが報告されています。そのため以前のように「ステージ4だから局所治療は意味がない」と一律に判断されることは少なくなりました。

肺がんステージ4で手術が検討されるケース

では、手術はどのような場合に検討されるのでしょうか。一般的に、肺がんステージ4で最初から手術が選択されることは多くありません。しかし、薬物療法によって腫瘍が十分小さくなり、病変が限られた部位だけに残っている場合には、原発巣や転移巣を切除することが検討されることがあります。

例えば、副腎や脳へ単発転移がある患者では、薬物療法で全身の病状をコントロールしたうえで局所治療を追加し、長期生存につながった例も報告されています。もちろん、すべての患者が対象になるわけではありませんが、局所治療が治療戦略の一部として組み込まれるケースは以前より確実に増えています。

放射線治療や手術は、薬物療法と競合するものではありません。薬物療法で全身の病気を抑え、局所治療で症状の原因となる病変や限られた転移巣へ対応することで、より長い病勢コントロールを目指すことができる場合があります。

治療を続けることだけが目的ではない

忘れてはならないのが、治療を続けることだけが目的ではないという点です。

肺がんステージ4では、症状を軽減し、呼吸を楽にし、痛みを和らげ、これまでどおりの生活をできるだけ長く続けられるようにすることも、治療の大切な目標です。その意味で放射線治療や局所治療は、生存期間を延ばすためだけではなく、生活の質を守るためにも重要な役割を担っています。

こうして肺がんステージ4では、薬物療法と局所治療を組み合わせながら病気と向き合っていきます。その一方で、治療そのものによる負担や、がんによる症状をできるだけ軽くしながら生活を支える医療も欠かすことができません。次の章では「緩和ケアは終末期医療ではない」という現在の考え方も含め、肺がん治療を支える支持療法について詳しく解説します。

緩和ケア・支持療法 ― 「治療を続けるための医療」という考え方

「緩和ケア=終末期医療」というイメージは今でも根強く残っています。しかし、この考え方は大きく変わっています。緩和ケアは治療をあきらめた患者のためだけに行われる医療ではありません。

現在では、肺がんと診断された早い段階から標準治療と並行して行うことが推奨されています。その目的は、がんそのものを治療することではなく、病気や治療によって生じるさまざまな症状を軽減し、できるだけ普段の生活を維持できるよう支えることにあります。

病気による症状と治療の副作用を軽減

肺がんステージ4では、病気そのものによる症状と、治療による副作用の両方へ向き合わなければなりません。腫瘍が気管支を圧迫すると咳や息苦しさが続くことがあります。胸膜へがんが広がれば胸水がたまり、少し歩いただけでも息切れを感じるようになることがあります。骨転移では痛みが強くなり、睡眠や歩行に影響することもあります。

治療による副作用も生活へ少なからず影響します。抗がん剤による倦怠感や食欲低下、免疫療法による内分泌障害、分子標的薬による皮膚障害や下痢などは、命に直接関わらない症状であっても、日常生活の質を大きく低下させることがあります。支持療法は、こうした症状をできるだけ軽減しながら治療を継続できるよう支える医療です。

痛み

例えば、痛みに対しては、原因や程度に応じてアセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、医療用麻薬などを組み合わせながらコントロールします。「医療用麻薬」と聞くと依存を心配する人もいますが、がん性疼痛に対して適切に使用する場合、医療者の管理のもとで安全に使用できる薬剤です。痛みを我慢し続けることは体力や食欲を奪い、その後の治療継続にも影響するため、現在では早めに痛みをコントロールすることが勧められています。

呼吸苦

呼吸苦への対応も、肺がんでは重要な課題です。息苦しさの原因は一つではありません。腫瘍による気道狭窄、胸水、肺炎、間質性肺炎、貧血などさまざまな原因が考えられます。そのため、まずは原因を確認したうえで、胸水を排液したり、放射線治療を行ったり、必要に応じて酸素療法や薬物療法を組み合わせながら症状を軽減していきます。

食欲低下・体重減少

食欲低下や体重減少も、多くの患者が経験する症状です。肺がんでは、がんそのものの影響や治療による副作用によって十分な食事が摂れなくなることがあります。栄養状態が悪化すると筋力や体力が低下し、予定していた治療を継続できなくなることもあります。そのため現在では、医師だけではなく管理栄養士も加わり、一人ひとりの状態に合わせた栄養管理を行う施設が増えています。

精神的な負担

肺がんでは精神的な負担も決して小さくありません。診断された直後の不安だけではなく、画像検査の結果を待つ時間や、画像で病状が変化していないか確認するたびに緊張する人もいます。仕事や家族の将来への心配から眠れなくなったり、気分の落ち込みが続いたりすることも珍しくありません。こうした心の負担に対応することも、緩和ケアの大切な役割です。

専門的緩和ケア

現在では、緩和ケア医、がん看護専門看護師、公認心理師、医療ソーシャルワーカー、薬剤師、管理栄養士、リハビリスタッフなど、多職種が協力しながら患者と家族を支える体制が整えられています。身体だけではなく、仕事や経済的な問題、介護サービスの利用、在宅療養の準備などについて相談できることも少なくありません。

実際、早い段階から緩和ケアを導入した患者では、生活の質が改善するだけでなく、結果として治療を継続しやすくなり、生存期間にも良い影響を与えたという報告があります。そのため国内外の診療ガイドラインでも、進行肺がんでは診断早期から緩和ケアを併用することが推奨されています。

緩和ケアは生活を支えるための土台となる医療

緩和ケアは「治療を終えた人のための医療」ではありません。標準治療を受けながら、できるだけ痛みや苦しさを少なくし、自分らしい生活を維持するための医療です。分子標的薬や免疫療法、抗がん剤、放射線治療と並行して行われるからこそ、本来の力を発揮します。

肺がんステージ4では、病気そのものだけでなく「どのように生活を続けていくか」も治療の重要なテーマになります。緩和ケアや支持療法は、その生活を支えるための土台となる医療と考えると理解しやすいでしょう。

ここまで、現在行われている治療法について見てきました。では実際に肺がんステージ4と診断された場合、どのくらいの治療成績が期待できるのでしょうか。次の章では、多くの患者が最も気になる「生存率」について、統計の見方や近年の治療進歩も踏まえながら詳しく解説します。

肺がんステージ4の生存率

国立がん研究センターが公表している院内がん登録生存率集計では、肺がんの病期(ステージ)ごとの5年ネット・サバイバルと10年ネット・サバイバルが公表されています。

ネット・サバイバルとは、肺がん以外の病気による死亡の影響をできるだけ除き「肺がんそのものが生命に与えた影響」を評価した生存率です。異なる年齢層や集団を比較しやすいことから、現在では国際的にも広く用いられています。

肺がん全体の病期別ネット・サバイバルは、おおよそ次のような結果となっています。

病期 5年ネット・サバイバル 10年ネット・サバイバル
ステージI期 約81.9% 約63.9%
ステージII期 約51.7% 約30.9%
ステージIII期 約29.3% 約14.8%
ステージIV期 約8.6% 約2.5%

参考:院内がん登録生存率集計|国立がん研究センター がん情報サービス

※国立がん研究センター「院内がん登録10年生存率集計報告書」をもとに作成。対象年や集計条件によって数値は変動します。

この数字だけを見ると「ステージ4では5年以上生きられる人はほとんどいない」と感じるかもしれませんが、この表だけで自分の将来を判断することはできません。なぜなら、この数字はあくまでも過去に治療を受けた多くの患者をまとめた統計であり、一人ひとりの病状や治療内容までは反映されていないからです。

さらに、この統計には現在の分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が十分普及する以前の患者も含まれています。近年は治療の進歩によって長期生存する患者が増えており、「現在受けられる治療」と「過去の統計」は分けて考える必要があります。

同じステージ4でも生存率が大きく異なる理由

現在の肺がん診療では「ステージ4」という病期だけで予後を予測することはできません。実際には、がんの性質や患者さん自身の状態によって、生存率は大きく変化します。最も大きな要因の一つがドライバー遺伝子変異です。

ドライバー遺伝子変異

EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子などが見つかった患者では、それぞれに対応した分子標的薬を使用できます。これらの薬剤は従来の抗がん剤では得られなかった高い奏効率を示し、病気を数年間コントロールできる患者も珍しくありません。そのため「どの遺伝子異常を持つ肺がんなのか」が生存率を左右する重要な要素になっています。

転移先の部位

転移の部位も予後へ大きく影響します。例えば脳転移が見つかった場合でも、病変が限られていれば定位放射線治療や分子標的薬によって長期間コントロールできることがあります。骨転移も適切な薬物療法や放射線治療を組み合わせることで、症状を抑えながら生活を維持できる患者が少なくありません。

一方で、肝転移は一般的に予後不良因子の一つと考えられており、複数の臓器へ広範囲に転移している場合は治療が難しくなる傾向があります。ただし、これも個人差が大きく「肝転移があるから必ず短期間で進行する」という意味ではありません。

転移の数

転移の数も重要です。近年ではオリゴ転移という概念が広まり、転移がごく限られている患者では、薬物療法に加えて放射線治療や手術などの局所治療を組み合わせることで、長期に病気をコントロールできる可能性があることが分かってきました。

パフォーマンスステータス

また『Performance Status(PS)』も重要な予後因子です。

日常生活を問題なく送れている患者は積極的な治療を受けやすく、新しい薬剤への切り替えもしやすくなります。一方で、体力が大きく低下している場合には治療の選択肢が限られることもあるため、同じステージ4でも経過に違いが生じます。

その他の要因

さらに年齢や喫煙歴、肺がんの組織型なども予後へ影響します。

特に女性や非喫煙者ではEGFR遺伝子変異が見つかる割合が比較的高く、その結果として分子標的薬による治療効果が期待できるケースもあります。このように、生存率は一つの要素だけで決まるものではなく、さまざまな条件が重なり合って決まります。

肺がんステージ4でも5年以上生きる人はいるのか

結論から言えば、います。もちろん、その割合は決して高くありません。しかし「ステージ4だから5年以上生きられない」というわけではありません。

日本肺癌学会で報告された長期生存例の解析では、5年以上生存した患者にはいくつかの共通した特徴がみられました。

例えば、治療標的となる遺伝子異常があること、転移する臓器や病変の数が限られていること、肝転移を伴わないこと、Performance Statusが良好で積極的な治療を継続できたことなどが、長期生存と関連していました。

もちろん、これらの条件に当てはまれば必ず長く生きられるという意味ではありません。また、条件に当てはまらなくても治療がよく効き、長期間病気をコントロールできる患者もいます。重要なのは「ステージ4」という病期だけでは将来を予測できなくなっているという事実です。

参考:原発性肺癌切除後10年以上長期生存例の予後因子に関する検討

生存率は「未来を予測する数字」ではない

インターネットには「肺がんステージ4の5年生存率は○%」という数字だけが紹介されている記事も少なくありません。しかし、生存率とは同じような病状だった多くの患者をまとめて集計した結果です。

そこには、自分がこれから受ける最新の治療、自分の遺伝子異常、自分の体力、治療への反応といった個別の情報は含まれていません。生存率は将来を断定する数字ではなく「同じ病気を持つ患者全体では、このような傾向がある」という参考資料として受け止めることが大切です。

近年では新しい分子標的薬や免疫療法、抗体薬物複合体(ADC)などが次々と登場し、治療成績は少しずつ改善しています。統計は重要な情報ですが、それだけで希望や選択肢まで決めてしまう必要はありません。

では、多くの患者が生存率と並んで気になる「余命」はどのように考えればよいのでしょうか。次の章では、余命という言葉の意味や、医師がどのような情報をもとに経過を判断しているのかについて詳しく解説します。

肺がんステージ4の余命 ― 最新治療によってどこまで変わったか

肺がんステージ4と診断されると、多くの患者さんやご家族が気になるのが「余命」です。あと何年くらい生きられるのか、インターネットには余命1年と書いてあった、自分も同じ経過になるのか、こうした不安を抱くのは自然なことです。しかし「肺がんステージ4の余命は○年です」と一律に説明することはできません。その理由は、どの治療を受けられるかによって生存期間が大きく変わる時代になったからです。

以前は進行肺がんに対する治療の中心は細胞障害性抗がん剤であり、治療の選択肢も限られていました。しかし現在では、遺伝子異常の有無やPD-L1発現率に応じて分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を使用できる患者が増え、生存期間は大きく改善しています。

その違いを理解するために、代表的な臨床試験で報告された全生存期間(Overall Survival:OS)の中央値を見てみましょう。

治療法 対象患者 全生存期間中央値(OS)
オシメルチニブ
(FLAURA試験)
EGFR遺伝子変異陽性 38.6か月
ペムブロリズマブ
(KEYNOTE-024試験)
PD-L1発現率50%以上 26.3か月
免疫療法+化学療法
(KEYNOTE-189など)
ドライバー遺伝子変異陰性の一部 約22か月前後※

参考:New England Journal of Medicine
参考:Updated Analysis of KEYNOTE-024

※試験デザインや対象患者によって結果は異なります。

この表から分かるように、現在では「肺がんステージ4だから余命は1年前後」という時代ではありません。

もちろん、これらは臨床試験の結果であり、条件を満たした患者を対象としています。そのため、すべての患者さんに当てはまる数字ではありませんが、「治療によって生存期間が大きく変わる」という現在の肺がん診療を理解する上で重要なデータです。

「中央値」は平均余命ではない

ここで注意したいのが「全生存期間中央値」という言葉です。例えば、オシメルチニブの38.6か月という数字は「38.6か月で亡くなる」という意味ではありません。中央値とは、多くの患者さんを生存期間の短い順に並べたとき、ちょうど真ん中に位置する患者さんの生存期間です。

実際には、数か月で病気が進行する患者さんもいれば、5年以上病気をコントロールしながら生活している患者さんもいます。つまり中央値は、一人ひとりの余命ではなく「その治療を受けた患者集団全体の傾向」を示した統計です。

なぜ同じステージ4でこれほど余命に差が生まれるのか

その理由は、肺がんが一つの病気ではなくなったからです。現在では、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、MET遺伝子異常、RET融合遺伝子など、さまざまな遺伝子異常が見つかっています。これらの異常が確認された患者では、それぞれに対応した分子標的薬を使用できます。一方で、遺伝子異常が見つからなくても、PD-L1発現率が高ければ免疫チェックポイント阻害薬が第一選択となる場合があります。

つまり現在は「肺がんステージ4」という診断名よりも、「どのタイプの肺がんなのか」がその後の経過を左右する重要な要素になっています。

同じステージ4でも実際の経過は大きく異なる

例えば、60代でEGFR遺伝子変異が見つかり、全身状態も良好な患者さんでは、分子標的薬によって長期間病気をコントロールできることがあります。治療を受けながら仕事や家庭生活を続けている患者さんも少なくありません。

一方で、病気の進行が速く、複数の臓器へ転移している患者さんでは、病状の変化も早くなることがあります。また、高齢で体力が低下している場合には、積極的な薬物療法が難しくなることもあります。このように「ステージ4」という同じ診断名でも、余命は患者さんごとに大きく異なります。

余命を調べるときに知っておきたいこと

インターネットには「肺がんステージ4の余命は○か月」と断定的に書かれた記事も少なくありません。しかし、その数字の多くは、治療法や遺伝子異常を区別せず多くの患者さんをまとめて集計した統計です。現在では、分子標的薬や免疫療法の登場によって、こうした数字だけでは実際の経過を説明できなくなっています。

そのため「余命○年」という数字を見るときには、そのデータがいつ集計されたものなのか、どのような患者さんを対象としているのかまで確認することが大切です。

余命は「治療の可能性」を考えるための参考情報

余命は多くの患者さんにとって避けて通れないテーマです。しかし、余命という数字だけに目を向けるのではなく「自分にはどの治療が使えるのか」を確認することの方が重要です。

新しい分子標的薬が使える可能性はあるのか。免疫療法の対象になるのか。次の治療へ切り替えられる選択肢は残されているのか。こうした情報によって、その後の経過は大きく変わる可能性があります。余命は未来を決める数字ではなく、治療方針を考える上での一つの参考情報として受け止めることが大切です。

次の章では、「肺がんステージ4でも完治する可能性はあるのか」という、多くの患者さんが最後に抱く疑問について、現在の医学的な考え方と最新の治療成績を踏まえながら詳しく解説します。

肺がんステージ4でも完治する可能性はあるのか

肺がんステージ4と診断されたとき、多くの患者さんやご家族が知りたいのは「治療法があるか」だけではありません。本当に知りたいのは「完治する人はいるのか」「長く生きられる人はどのような人なのか」「治癒に近い状態とは具体的に何を指すのか」という点でしょう。

まず前提として、肺がんステージ4の「完治率」を明確な数字として示すことは困難です。ステージ4は遠隔転移を伴う状態であり、画像上すべての病変が消えたように見えても、微小ながん細胞が体内に残っている可能性を完全には否定できません。そのため、医療現場ではステージ4肺がんに対して「完治」という言葉を慎重に使います。一般的には、完治率を何%と示すよりも、完全奏効、無増悪生存期間、全生存期間、長期生存例といった指標で治療成績を評価します。

「完治が難しい=長期生存ができない」では無い

「完治が難しい」と「長期生存が期待できない」は同じ意味ではありません。実際、IV期非小細胞肺がん66例を対象にした東京歯科大学市川総合病院の報告では、5年以上生存した患者が8例確認されています。

参考:5年以上生存したIV期非小細胞肺癌症例の検討

この研究では、長期生存例にEGFR遺伝子変異陽性、N0またはN1、遠隔転移臓器が1つである症例が多く、75歳未満、N0またはN1、肝転移がないことが長期生存に関連する独立した因子として示されています。これは「この条件なら必ず治る」という意味ではありませんが、ステージ4であっても病気の性質や転移の広がりによって経過が大きく変わることを示す重要なデータです。

分子標的薬の長期生存データ

分子標的薬の登場によって、長期生存の可能性はさらに広がっています。EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がんを対象にしたFLAURA試験では、オシメルチニブを一次治療として使用した群の全生存期間中央値は38.6か月で、従来のEGFR-TKI群の31.8か月を上回りました。これは「完治率」ではありませんが、ステージ4でも3年以上の中央値が報告される時代になったことを示しています。

参考:New England Journal of Medicine

免疫チェックポイント阻害薬の長期生存データ

免疫チェックポイント阻害薬でも、長期生存を示すデータがあります。PD-L1発現率50%以上の転移性非小細胞肺がんを対象にしたKEYNOTE-024試験の5年追跡では、ペムブロリズマブ群の5年全生存率は31.9%、化学療法群は16.3%と報告されています。全員に効く治療ではありませんが、免疫療法がよく効く患者では、ステージ4でも5年を超えて生存する可能性が現実的に示されています。

参考:Updated Analysis of KEYNOTE-024

ALK阻害薬の長期生存データ

また、ALK融合遺伝子陽性肺がんでは、ロルラチニブなどの新しいALK阻害薬によって、無増悪生存期間が大きく延長したデータも報告されています。2024年に報じられた第3相試験では、ロルラチニブ群で5年時点に病勢進行なく生存していた患者が60%、クリゾチニブ群では8%とされました。これは全生存率ではなく「無増悪生存」のデータですが、特定の遺伝子異常を持つ肺がんでは、ステージ4であっても長期間病気を抑えられる患者がいることを示しています。

参考:ローブレナ®、CROWN試験でALK 陽性の進行肺がん患者の多くが疾患の進行なく5年以上の生存を確認

「治癒に近い状態」とは

では「治癒に近い状態」とは何を指すのでしょうか。医学的には明確な単一定義があるわけではありませんが、一般には、画像検査で病変が確認できない状態が長期間続く、治療後に再増悪なく生活できている、または限られた転移に対して薬物療法と局所治療を組み合わせ、長期間無病状態に近い経過をたどるような場合を指して使われることがあります。

特にオリゴ転移では、薬物療法に加えて原発巣や転移巣へ定位放射線治療や手術を行うことで、通常の全身治療だけでは得にくい長期コントロールを目指せるケースがあります。

病変が消えた=完治ではない

ここで注意したいのは「病変が消えた」「長く効いている」「5年以上生存している」という状態と「再発の可能性が完全になくなった」という意味での完治は同じではないという点です。

肺がんステージ4では、どれだけ治療がよく効いても、定期的な画像検査や血液検査を続けながら慎重に経過を見る必要があります。治療をやめられるか、どのタイミングで変更するか、どこまで局所治療を加えるかは、病状や治療反応によって個別に判断されます。

肺がんステージ4でも長生きできる可能性はある

この章で最も伝えたいことは「完治するかどうか」を二択で考えないことです。肺がんステージ4では、完治率を明確に示すことは難しい一方で、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、局所治療の組み合わせによって、5年以上生存する患者や、長期間病気を抑えながら生活する患者が実際に存在します。大切なのは、自分の肺がんに治療標的があるのか、免疫療法が期待できる状態なのか、転移が限られているのか、局所治療を組み合わせる余地があるのかを確認することです。

「完治できますか」という問いに対して、簡単に「できます」とは言えません。しかし「長く生きる可能性はありますか」「治癒に近い状態を目指せる場合はありますか」という問いであれば、条件によっては十分に検討できる時代になっています。

保険診療以外の選択肢 ― 自由診療や先進医療について

肺がんステージ4と診断され、標準治療について調べていくと、多くの患者さんが次に目にするのが「自由診療」や「先進医療」、「最新治療」といった言葉です。

「標準治療以外にも治療法はありますか。」
「海外ではもっと新しい薬が使われているのでしょうか。」
「自由診療なら治る可能性が高くなるのでしょうか。」

こうした疑問を持つことは自然なことです。しかし、インターネット上には科学的根拠が十分ではない情報も少なくありません。治療の選択肢を広げるためにも、まずは「保険診療」「先進医療」「自由診療」「臨床試験」がそれぞれ何を意味するのかを理解しておくことが重要です。

標準治療とは

現在、日本で肺がんステージ4に対して標準治療として行われているのは、これまで紹介してきた分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、抗がん剤、放射線治療などです。これらは国内外の大規模な臨床試験で有効性と安全性が確認され、日本肺癌学会やNCCN、ESMOなどの診療ガイドラインでも推奨されています。

一方、標準治療だけが唯一の選択肢というわけではありません。

例えば、新しい薬剤を評価する『治験(臨床試験)』があります。

治験(臨床試験)とは

治験とは、新しい薬剤や新しい治療方法が本当に有効で安全なのかを確認するために実施される臨床研究です。現在も肺がん領域では、次世代の分子標的薬、新しい免疫療法、抗体薬物複合体(ADC)、二重特異性抗体など、多くの治験が国内外で行われています。

標準治療が終了した患者さんや、現在使用できる薬剤が限られてきた患者さんにとっては、治験への参加が新たな選択肢になる場合があります。

もちろん、治験には参加条件があります。

治験の参加条件

遺伝子異常の種類、これまで受けた治療、全身状態、臓器機能など細かな基準が設定されており、希望すれば誰でも参加できるわけではありません。また、有効性を検証する段階の治療であるため、期待した効果が得られない可能性や未知の副作用が生じる可能性もあります。

それでも、現在標準治療となっている多くの薬剤も、過去には治験を経て実用化されてきました。特に肺がんは新薬開発が活発な分野であり、大学病院やがん診療連携拠点病院では継続的に新しい治験が行われています。

参考:研究段階の医療(臨床試験、治験など)基礎知識|国立がん研究センター がん情報サービス

自由診療とは

「自由診療」という言葉は非常に幅広い意味で使われています。自由診療とは、公的医療保険を使用せず、患者さんが治療費を全額自己負担する医療です。しかし「自由診療=最新治療」という意味ではありません。

実際には、自由診療の中には科学的根拠が十分に蓄積されている治療もあれば、有効性が十分に検証されていない治療も含まれています。そのため「保険適用ではないから最先端」「高額だから効果が高い」と考えることは適切ではありません。

例えば近年では、樹状細胞ワクチン療法、活性化リンパ球療法、がんペプチドワクチンなど、免疫細胞を利用した自由診療を提供する医療機関もあります。これらの治療については、研究が進められているものもありますが、現時点では肺がんステージ4に対する標準治療として推奨できる十分なエビデンスは確立されていません。国内外の主要な診療ガイドラインでも、標準治療と同等の位置付けにはなっていないのが現状です。

先進医療とは

また「先進医療」という言葉も誤解されやすい言葉です。先進医療とは、厚生労働省が定めた制度の一つであり、有効性や安全性を評価しながら保険診療との併用を認める医療技術を指します。一般に「最先端医療」と混同されることがありますが、自由診療とは制度上の位置付けが異なります。

現在、肺がんステージ4で検討される治療では、「先進医療」よりも、保険診療として承認された新薬や治験の方が現実的な選択肢となるケースが多くみられます。

参考:先進医療の概要について|厚生労働省

自由診療を検討する価値

では、自由診療を検討する価値はないのでしょうか。そのように一概には言えません。

標準治療が終了した後、新たな治療を希望する患者さんにとっては、自由診療が一つの選択肢になることもあります。ただし、その際には「この治療によってどの程度の効果が期待できるのか」「どのような論文や臨床試験があるのか」「副作用や費用はどの程度なのか」を十分に確認することが重要です。

特に数百万円単位の費用が必要となる治療では「最新だから」「海外で行われているから」という理由だけで判断するのではなく、客観的な医学的根拠を確認したうえで検討することが勧められます。

根拠のある治療の選択肢を増やすことが重要

近年は新しい治療法が次々と登場しています。その一方で、「新しい治療」と「効果が証明された治療」は必ずしも同じではありません。本当に患者さんに利益をもたらす治療かどうかは、大規模な臨床試験によって初めて評価されます。そのため、保険診療以外の選択肢を検討する場合も、標準治療を担当している主治医と十分に相談しながら判断することが大切です。

肺がんステージ4では、「選択肢を増やすこと」と「根拠のある治療を選ぶこと」の両方が重要になります。焦って決断するのではなく、それぞれの治療のメリットと限界を理解したうえで、自分にとって納得できる治療を選択していくことが望まれます。

最新治療の現状 ― 肺がん治療はどこまで進歩するのか

肺がん治療は、この20年で最も大きく進歩したがん治療の一つといわれています。

かつては進行肺がんに対する治療といえば抗がん剤が中心であり、選択できる薬剤も限られていました。しかし現在では、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場によって治療成績は大きく改善し、これまで長期生存が難しいと考えられていた患者でも、数年間にわたって病気をコントロールできるケースが珍しくなくなっています。

そして現在も、新しい治療法の開発は世界中で続いています。新聞やインターネットでは「画期的新薬」「夢の新治療」といった見出しを目にすることがありますが、実際には研究段階のものから、すでに保険診療で使用できるものまで、その位置付けはさまざまです。最新治療を理解するには「すでに実用化されている治療」と「これから実用化が期待されている治療」を分けて考えることが重要です。

すでに標準治療へ組み込まれ始めている新しい薬

近年、肺がん治療で特に注目されているのが『抗体薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate:ADC)』です。

抗体薬物複合体(ADC)とは

ADCは「抗体」と「抗がん剤」を組み合わせた薬剤です。

通常の抗がん剤は全身へ広く作用しますが、ADCはがん細胞の表面にある特定の分子を目印にして薬剤を運ぶため、より効率的にがん細胞を攻撃できる可能性があります。

トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)

近年ではHER2遺伝子変異陽性肺がんに対する『トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)』が承認され、HER2異常を持つ患者の新たな治療選択肢となりました。これまで治療が難しかった患者に対しても効果が期待されており、肺がん領域でもADCは急速に存在感を高めています。

参考:抗悪性腫瘍剤「エンハーツ®」の日本におけるHER2遺伝子変異を有する非小細胞肺がんに係る一部変更承認取得のお知らせ

パトリツマブ デルクステカン(HER3-DXd)

さらに現在は、TROP2やHER3を標的としたADCの開発も進められています。例えばHER3を標的としたパトリツマブ デルクステカン(HER3-DXd)は、EGFR阻害薬が効かなくなった患者を対象とした臨床試験が進められており、新しい治療選択肢として期待されています。

第一三共株式会社によると、EGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺がんに係る承認申請については自主的取り下げがされましたが、ホルモン受容体陽性かつHER2陰性乳がん患者を対象とした第3相臨床試験が開始されており、日本を含むアジア、欧州、北米および南米において、約1000名の患者を登録する予定となっているようです。

参考:パトリツマブ デルクステカン(HER3-DXd/U3-1402)の米国におけるEGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺がんに係る承認申請の自主的取り下げについて
参考:パトリツマブ デルクステカン(HER3-DXd/U3-1402)のホルモン受容体陽性かつHER2陰性乳がん患者を対象とした第3相臨床試験の開始について

「治療標的がない肺がん」を減らす研究も進んでいる

以前は、EGFRやALKなどの遺伝子異常が見つからない肺がんでは、治療の選択肢が限られていました。しかし近年は、KRAS G12C変異、MET exon14 skipping変異、RET融合遺伝子、NTRK融合遺伝子など、新たな治療標的が次々に見つかっています。

つまり「遺伝子異常がない肺がん」が減っているのではなく、「これまで見つけられなかった遺伝子異常を検出できるようになった」と考える方が正確です。そのため現在では、一度の検査で数十種類以上の遺伝子異常を同時に調べる『がん遺伝子パネル検査(NGS)』が広く利用されるようになりました。

今後さらに新しい標的薬が承認されれば、「使える薬がない」と考えられていた患者にも、新しい治療選択肢が生まれる可能性があります。

リキッドバイオプシーは治療を変える可能性がある

肺がん治療では、リキッドバイオプシーも急速に普及し始めています。従来は、遺伝子異常を調べるためには肺や転移巣から組織を採取する必要がありました。しかし、病変の場所によっては生検が難しいこともあり、患者さんへの負担も少なくありませんでした。

リキッドバイオプシーでは、採血によって血液中に流れている腫瘍由来DNA(ctDNA)を解析し、遺伝子異常を調べます。

もちろん、すべての遺伝子異常を血液だけで検出できるわけではありませんが、組織生検が難しい患者や、分子標的薬が効かなくなった原因を調べる場面では、すでに実臨床でも重要な役割を担っています。今後さらに解析技術が進歩すれば、再発をより早く発見したり、薬剤耐性を早期に把握したりできる可能性も期待されています。

参考:リキッドバイオプシー活用でがんの克服目指す|国立がん研究センター

免疫療法も次の世代へ進んでいる

免疫チェックポイント阻害薬は、現在の肺がん治療を支える重要な柱となりました。しかし研究はそれで終わりではありません。現在は、PD-1やPD-L1だけではなく、TIGITやLAG-3など、別の免疫チェックポイント分子を標的とした薬剤の開発が進められています。

また、一種類の免疫療法だけではなく、複数の免疫療法を組み合わせたり、ADCや分子標的薬と組み合わせたりすることで、より高い治療効果を目指す研究も行われています。「免疫療法が効かなかったら終わり」ではなく、その次の治療戦略が次々と開発されていることも、現在の肺がん研究の特徴です。

AIやゲノム医療も治療選択を支えている

最新治療というと新薬に目が向きがちですが、診断技術も急速に進歩しています。AIを活用した画像診断支援では、CT画像から小さな肺結節を検出したり、病変の性質を評価したりする研究が進んでいます。

また、ゲノム医療の発展によって、一人ひとりの遺伝子異常や薬剤耐性を詳しく解析し、その患者に最も適した治療を選択する「個別化医療」も急速に進歩しています。将来的には、AIとゲノム解析を組み合わせることで、現在よりさらに精度の高い治療選択が可能になると期待されています。

「最新治療」という言葉だけで判断しないことが大切

ここまで見ると「最新治療なら標準治療より優れている」と感じる人もいるかもしれません。しかし、そう単純ではありません。現在研究が進められている治療の中には、将来標準治療になる可能性があるものもありますが、途中で十分な効果が確認できず開発が中止される薬剤もあります。

新しい治療という理由だけで選択するのではなく、臨床試験でどの段階まで有効性が確認されているのか、日本で承認されているのか、自分の肺がんに適応があるのか、を確認することが重要です。

肺がん治療は今もなお進歩を続けています。数年前には存在しなかった薬剤が標準治療となり、これまで治療が難しかった患者に新しい選択肢をもたらしています。だからこそ、治療を続ける中で新しい薬剤や治験の情報を定期的に確認し、その時点で利用できる選択肢を主治医と相談しながら考えていくことが、これからの肺がん診療ではますます重要になるでしょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 肺がんステージ4でも仕事を続けることはできますか?

可能です。

実際に、仕事を続けながら外来で治療を受けている患者さんは少なくありません。特に分子標的薬は内服治療が中心であり、体調が安定していれば普段どおりの生活を送れるケースもあります。また、免疫チェックポイント阻害薬も数週間ごとの通院で治療を継続できるため、働きながら治療を受けている患者さんもいます。

一方で、抗がん剤では治療直後に倦怠感や食欲低下が強く出ることがあり、仕事内容によっては勤務時間の調整や休職が必要になる場合もあります。大切なのは「仕事を続けるか辞めるか」を診断直後に決めてしまわないことです。現在は治療法によって生活への影響が大きく異なるため、まずは治療を開始し、副作用や体調の変化を見ながら働き方を調整するという考え方が一般的になっています。

Q2. 肺がんステージ4でも旅行はできますか?

体調が安定していれば旅行そのものは禁止されていません。治療の合間を利用して旅行を楽しんでいる患者さんもいます。ただし、旅行を計画する際には、次回の治療日程や血液検査の予定を確認し、主治医へ相談しておくことが大切です。また免疫療法中や抗がん剤治療中は感染症へ注意が必要になることもあります。

飛行機を利用する場合は、呼吸機能が低下している患者さんや在宅酸素療法を受けている患者さんでは事前の手続きが必要になることもあります。「安全に旅行するには何に注意すればよいか」という視点で考えることが重要です。

Q3. 食事だけで肺がんステージ4は改善しますか?

現在の医学では、特定の食品や食事療法だけで肺がんステージ4が改善することを示した信頼できる科学的根拠はありません。インターネットでは「○○を食べればがんが消える」「糖質制限で治る」といった情報も見られますが、これらを標準治療の代わりに行うことは推奨されません。

一方で、十分な栄養を維持することは非常に重要です。体重減少や筋力低下は治療継続にも影響するため、食べられるものを無理なく摂取し、必要に応じて管理栄養士の支援を受けることが勧められます。

Q4. サプリメントや健康食品は飲んでもよいのでしょうか?

一概に「飲んではいけない」というわけではありません。しかし、一部のサプリメントは抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬の効果へ影響を与える可能性が指摘されています。

また「がんに効く」と宣伝されている健康食品の多くは、十分な臨床試験によって有効性が証明されているわけではありません。新しいサプリメントや健康食品を始める前には、必ず主治医や薬剤師へ相談することが勧められます。

Q5. 禁煙することで治療効果は変わりますか?

はい。肺がんステージ4であっても、禁煙することには大きな意味があります。「もう肺がんになったのだから、今さら禁煙しても意味はない」と思われる方もいますが、そのようなことはありません。

喫煙を続けると、肺や気管支の炎症が続き、肺炎などの合併症が起こりやすくなるほか、手術や放射線治療、薬物療法を予定どおり継続できなくなる可能性があります。診断後に禁煙した患者では、生存期間の延長や治療成績の改善が期待できることも報告されています。

禁煙によって肺がんそのものが治るわけではありませんが、治療を受けやすい体を維持し、治療効果を最大限に引き出すための重要な取り組みと考えられています。禁煙が難しい場合は、一人で抱え込まず主治医や禁煙外来へ相談するとよいでしょう。

Q6. セカンドオピニオンは受けた方がよいのでしょうか?

治療方針に疑問や不安がある場合には、有効な選択肢の一つです。セカンドオピニオンを受けたからといって、必ず転院しなければならないわけではありません。特に肺がんでは、遺伝子パネル検査の適応、治験への参加可能性、新しい薬剤の使用経験など、医療機関によって対応できる内容が異なることがあります。

現在の治療方針を確認する目的でも利用できるため、不安がある場合は遠慮せず相談してみるとよいでしょう。

Q7. 肺がんステージ4は家族へ遺伝しますか?

肺がんの多くは遺伝性ではありません。喫煙や加齢、環境要因など、さまざまな要因が重なって発症すると考えられています。一方で、ごく一部には遺伝性腫瘍症候群との関連が疑われるケースもありますが、肺がん全体から見ると非常にまれです。

治療で調べるEGFR遺伝子変異などは「がん細胞に生じた変化」であり、通常は家族へ遺伝するものではありません。家族内に肺がん患者がいるからといって、必ず同じ病気になるわけではありませんが、喫煙を避けることや定期的な健康診断を受けることは予防の観点から重要です。

Q8. 肺がんステージ4では、どの病院を選べばよいのでしょうか?

最も確実なのは「肺がん診療の経験が豊富で、多職種による診療体制が整っている医療機関」を選ぶことです。がん遺伝子パネル検査、放射線治療、呼吸器外科、呼吸器内科、病理診断、緩和ケアなどが連携している施設では、一人の医師だけではなく、複数の専門家が治療方針を検討するカンファレンスが行われることも少なくありません。

治験へ参加できる可能性や、新しい治療薬へのアクセスという点でも、がん診療連携拠点病院や大学病院が選択肢になることがあります。現在通院している病院だけで判断せず、必要に応じてセカンドオピニオンを活用しながら、自分が納得できる医療機関を選ぶことが大切です。

Q9. 肺がんステージ4でも希望を持ってよいのでしょうか?

「希望を持ってください」という言葉だけでは、不安を抱えている患者さんの助けにはならないかもしれません。一方で「ステージ4だから何もできない」という考え方も、現在の医学とは一致しません。

本記事で紹介してきたように、肺がん治療はこの十数年で大きく進歩しました。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬によって、長期間病気をコントロールしながら生活している患者さんも増えています。さらに、新しい薬剤や新しい治療法の研究も世界中で続けられています。

もちろん、治療効果には個人差があります。しかし「ステージ4」という診断だけで将来を決めつける必要はありません。まずは自分の肺がんの特徴を正しく知り、現在受けられる治療や今後の選択肢について主治医と十分に話し合うことが、納得できる治療への第一歩になります。

肺がんステージ4と向き合うために大切なこと

肺がんステージ4と診断されると、多くの患者さんやご家族は「もう治療法はないのではないか」「余命はどれくらいなのか」と大きな不安を抱えます。しかし、本記事で見てきたように、現在の肺がん治療は大きく進歩しています。

分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、放射線治療、支持療法などを組み合わせることで、病気を長期間コントロールしながら生活を続けている患者さんも少なくありません。ステージ4という診断だけで将来が決まる時代ではなくなり、一人ひとりの遺伝子異常や全身状態、治療への反応に応じて、治療方針を柔軟に組み立てる時代へ変わっています。

一方で、現在受けている標準治療が期待したような効果を示さないこともあります。分子標的薬では耐性が生じることがありますし、免疫チェックポイント阻害薬や抗がん剤も、すべての患者さんに同じ効果が得られるわけではありません。しかし、それは「そこで治療が終わる」という意味ではありません。

現在の肺がん診療では、薬剤耐性が確認された場合には別の薬剤への切り替えを検討し、新たな遺伝子異常が見つかれば、それに対応した分子標的薬が選択できる場合もあります。病状によっては局所治療を追加したり、治験への参加を検討したりすることも選択肢になります。現在の治療だけで将来を判断するのではなく「次にどのような選択肢があるのか」という視点を持つことが大切です。

疑問や不安があれば一人で抱え込まず、主治医へ相談し、必要に応じてセカンドオピニオンを利用することも検討しましょう。現在の治療方針を確認するだけでも、新しい選択肢が見つかったり、今の治療に安心して取り組めたりすることがあります。

肺がんステージ4は決して簡単ながんではありません。しかし、「何もできない病気」でもありません。現在は、患者さん一人ひとりの病状に合わせて治療を組み合わせ、病気をコントロールしながら生活の質を維持することを目指せる時代になっています。そして医学は今も進歩を続けており、新しい薬剤や治療法が次々と実用化されています。

この記事が、肺がんステージ4という診断と向き合う患者さんやご家族にとって、病気を正しく理解し、数ある情報の中から自分に合った治療を考えるための一助となれば幸いです。

参考:
肺癌診療ガイドライン2025年版|日本肺癌学会
肺がん 検査|国立がん研究センター がん情報サービス
バイオマーカー検査の流れとマルチプレックス遺伝子検査|日本肺癌学会
肺がん治療に使用される薬剤一覧|日本肺癌学会
免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象対策マニュアル|厚生労働省
放射線治療 | 公益社団法人 日本放射線技術学会
院内がん登録生存率集計|国立がん研究センター がん情報サービス
原発性肺癌切除後10年以上長期生存例の予後因子に関する検討
New England Journal of Medicine
Updated Analysis of KEYNOTE-024
5年以上生存したIV期非小細胞肺癌症例の検討
ローブレナ®、CROWN試験でALK 陽性の進行肺がん患者の多くが疾患の進行なく5年以上の生存を確認
研究段階の医療(臨床試験、治験など)基礎知識|国立がん研究センター がん情報サービス
先進医療の概要について|厚生労働省
抗悪性腫瘍剤「エンハーツ®」の日本におけるHER2遺伝子変異を有する非小細胞肺がんに係る一部変更承認取得のお知らせ
パトリツマブ デルクステカン(HER3-DXd/U3-1402)の米国におけるEGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺がんに係る承認申請の自主的取り下げについて
パトリツマブ デルクステカン(HER3-DXd/U3-1402)のホルモン受容体陽性かつHER2陰性乳がん患者を対象とした第3相臨床試験の開始について
リキッドバイオプシー活用でがんの克服目指す|国立がん研究センター
肺がん|国立がん研究センター がん情報サービス
肺癌診療ガイドライン|特定非営利活動法人 日本肺癌学会
たばことがん|国立がん研究センター がん情報サービス

小細胞肺癌(small cell lung cancer/SCLC)は、肺がんの中でも増殖スピードが特に速く、肺癌全体の約10〜15%を占めるタイプです。

喫煙との関連が非常に強く、60歳以上の喫煙者に多い疾患です。早期にはほとんど症状が出ませんが、進行すると長引く咳、血痰、胸の痛み、息切れ、声のかすれ、体重減少などをきっかけに見つかることがあります。

抗がん剤や放射線が効きやすい一方で再発しやすいという特徴があり、治療方針の選択が重要になります。

本ページでは、小細胞肺癌の特徴や原因、症状、診断(画像検査・病理検査)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • 増殖スピードが非常に速く、診断時には他臓器へ転移していることが多い
  • 抗がん剤や放射線が効きやすいが、再発しやすいのが治療上の課題
  • 喫煙との関連が極めて強く、患者さんの約95%が喫煙歴を持つ

小細胞肺癌とは

小細胞肺癌(small cell lung cancer/SCLC)は、肺にできるがんの一種で、肺癌全体の約10〜15%を占めるタイプの肺がんです。増殖スピードが非常に速く、発見時にはすでに他の臓器へ転移していることも多いです。好発年齢は60歳以上であり喫煙者に多い傾向があります。

一方で、抗がん剤などの薬物が効きやすいという特徴もあります。 ただし、治療によって一時的には腫瘍が縮小するものの、再度増殖する力が強いです。そのため、がん細胞が残存していると短期間で再燃する恐れがあるため、慎重な経過観察が必要です。

小細胞肺癌は、初期の段階ではほとんど症状がありません。がんが進行すると、 長引く咳 、血痰(血の混じった痰) 、胸水による呼吸困難 、胸の痛み 、声のかすれ 、体重減少、全身倦怠感などの症状が出現します。

小細胞肺癌の原因

小細胞肺癌の発生メカニズムは完全には解明されていませんが、 喫煙(タバコ)との関連が非常に強いことが、多くの研究で示されています。

実際、小細胞肺癌の患者さんの約95%以上が現在または過去に喫煙歴を有すると報告されており、肺癌の中でも特に喫煙との関連が強いタイプです。また、喫煙量(本数や年数)が多いほど発症リスクが高くなることも明らかになっています。

遺伝子レベルでは、細胞の増殖を抑える働きをもつTP53遺伝子RB1遺伝子、MYC遺伝子、PTEN遺伝子の異常が確認されています。これらの遺伝子が正常に機能しなくなることで、細胞の増殖制御が失われ、がんが急速に進行すると考えられています。

小細胞肺癌の診断

小細胞肺癌は、画像検査と病理検査を主に用いて診断します。

画像検査では、まず胸部レントゲン検査やCT検査で腫瘍の大きさや広がりを把握します。小細胞肺癌は発見時にすでに転移を来していることが多く、初診時点での遠隔転移の頻度は約60%以上に上ります。

こうした背景から、PET-CT検査や頭部MRI検査を用いた全身評価が欠かせません。転移の有無を初期段階できちんと確認しておくことが、その後の治療方針に直結します。

病理検査では、気管支鏡などを介して組織を採取し、顕微鏡で観察します。小細胞肺癌は腫瘍細胞が小さく形態的な特徴がはっきりしている組織型です。さらに免疫染色を組み合わせることで、他の肺がんや類似した疾患との鑑別精度を高めることができます。

遺伝子検査については、肺腺がんで行われるEGFRやMETといった遺伝子変異の検索は、現時点では小細胞肺癌の標準診療には含まれていません。ただし、PD-L1発現などの解析が研究目的で行われるケースはあります。

小細胞肺癌の一般的な治療法

小細胞肺癌の治療方針は、がんの病期(ステージ)と患者さんの全身状態を踏まえ、医師と患者さんが相談しながら決めていきます。

判断の出発点になるのが、がんが「胸の中に留まっているか(限局型)」「体の広い範囲に及んでいるか(進展型)」という分類です。

限局型であれば放射線で局所を集中的に狙えますが、進展型では全身に薬を届ける薬物療法が主体になります。この違いによって治療の組み立て方が大きく変わります。

小細胞肺癌は抗がん剤や放射線がよく効くという特徴がある一方、その効果が長続きしにくく再発しやすいことが、治療上の大きな課題です。

限局型の場合

胸の中にとどまっている限局型には、抗がん剤と放射線を同時に行う「化学放射線療法」が標準的な治療です。

具体的には、シスプラチンやカルボプラチンといったプラチナ製剤にエトポシドを組み合わせたレジメンが広く使われており、限局型に対する奏効率は70〜90%と高い水準にあります。

リンパ節転移のないⅠ期などの早期に発見された場合は原発を切除する手術が推奨されますが、小細胞肺癌は進行が速く診断時にはすでに広がっていることが多いため、手術の適応になる症例はごく一部にとどまります。

手術を実施したとしても、そこで治療は完結しません。目に見えない微小な転移が体内に残っている可能性が高いため、どの患者さんにも術後に抗がん剤治療(プラチナ製剤+エトポシド)を行うことが推奨されています。

しかし、小細胞肺癌の本質的な問題として、手術や抗がん剤治療をした治療後2年以内に約90%の患者が再発するという現実があります。再発した場合はほぼ全例で血液を介した全身への転移であり、局所にとどまらないのが特徴です。そのため手術後も定期的な検査による経過観察が非常に重要です。

進展型・再発の場合

肺の外に広がっている進展型や再発後は、薬物療法が治療の中心になります。

プラチナ製剤+エトポシドに加え、近年は免疫チェックポイント阻害薬(免疫療法)を併用するのが標準的な治療となっています。

進展型に対する初回化学療法の奏効率は60〜65%と決して低くはありませんが、20年以上にわたって大きな予後改善が得られていないのが現状です。多くの症例で治療への反応は一時的にとどまり、再発後は薬が効きにくくなるという課題が残っています。

放射線治療の役割

放射線治療は小細胞肺癌の治療全体を通じて重要な役割を果たしています。限局型では化学療法と組み合わせて根治を目指します。

脳転移を来しやすいという特性から、予防目的での全脳照射が選択されることもあります。さらに骨転移による痛みなどの症状を和らげ、生活の質(QOL)を保つための緩和的照射としても広く活用されています。

小細胞肺癌における保険診療の限界

小細胞肺癌に対する保険診療では、化学療法、免疫療法、放射線療法などが行われます。

小細胞肺癌は、抗がん剤や放射線が効きやすい一方で再発しやすいことが特徴です。そのため、 標準的な治療だけでは、安定した状態を維持することが難しい場合もあります。

実施できる化学療法の限界

小細胞肺癌では、初回治療として行われるプラチナ製剤+エトポシドなどの化学療法に対し、腫瘍が縮小する割合は約60〜70%と比較的高いことが報告されています。しかしその一方で、多くの症例で数か月程度で再発し、再発後は抗がん剤が効きにくくなる(耐性)ことが大きな問題です。

化学療法に伴う「きつい」副作用

小細胞肺癌の薬物療法では、副作用がみられることがあります。プラチナ製剤を含む抗がん剤では、食欲不振、吐き気・嘔吐、倦怠感などといった症状のほか、白血球減少による感染リスクの上昇などが現れやすいため注意が必要です。また、病院への頻回な通院負担もあります。

また、免疫療法では、間質性肺炎や大腸炎、甲状腺機能異常などの副作用が出ることがあります。そのため、特に高齢の方や持病がある場合は、副作用の影響を考慮し、治療効果と生活の質のバランスを見ながら進めることが非常に重要です。

保険診療ではカバーしきれない再発・進行のリスク

小細胞肺癌は、初期治療に良好に反応した場合でも再発しやすいがんです。

限局型小細胞肺癌に対して、手術や抗がん剤治療をしても治療後2年以内に約90%の患者が再発すると報告されています。そのため治療後も定期的な画像検査(CT検査やMRI検査など)による評価と経過観察を慎重に行うことが重要です。

小細胞肺癌で重要な治療の考え方

小細胞肺癌では、治療方針を決定するのに重要なことの1つが、「遺伝子異常の有無を調べること」と「免疫療法の適応を評価すること」です。特にTP53遺伝子RB1遺伝子、MYC遺伝子、PTEN遺伝子の異常は小細胞肺癌で比較的高頻度とされ、標的治療の候補となりえます。

また、小細胞肺癌ではPD-L1高発現例が見られることが報告されており、免疫チェックポイント阻害薬が有効となる可能性があります。ただし、すべての症例で有効とは限らず、遺伝子異常、全身状態、腫瘍量などを総合して判断する必要があります。

がん中央クリニックでは、このPD-L1に対して外側からの無力化と内側からのmRNA分解を同時に行う「ハイブリッド免疫療法」も提供しています。

がんの性質に合わせてアプローチする「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」

近年、発症や進行に関わる分子レベルの異常に着目した核酸医薬が注目され、研究・臨床応用が進んでいます。

その中でも特に当院では、根本的な原因に直接作用することが期待される「アプタマー」「RNA干渉を利用した核酸医薬(siRNA など)」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を、新たな治療の選択肢として提供しています。

アプタマー核酸医薬は、がんに特有に発現している異常なタンパク質に結合することで、その働きを抑えてがん細胞の増殖を抑制したり死滅させたりする次世代の治療薬です。

miR-34a mimic 核酸医薬は、がんになって失われた体に本来備わる「がんを抑える力」を取り戻す新しい治療薬であり、がんの成長や増殖を止め、自然ながん細胞の死滅を促します。

以上のような遺伝子レベルでの治療薬をがん中央クリニックグループのクリニックでは実施できます。

欧米では、がんの部位ではなくどのような遺伝子やタンパク質異常があるか、ということに注目して治療法を決定する研究や臨床試験が行われています。日本では一部の遺伝子レベルの治療が保険でも行われていますが、国際的には遺伝子レベルの治療において遅れを取っています。

がん中央クリニックグループのクリニックではいち早く遺伝子レベルの異常に焦点をあてた診察・治療を導入しています。

「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」治療を推奨する患者様

アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」は小細胞肺癌のほとんどの患者様におすすめできる治療法です。

どのような患者様に効果が期待できるのかを以下に具体的に解説します。ぜひご自身のパターンに合わせてご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

小細胞肺癌では、病状や体力、副作用などの理由で、保険診療の標準治療だけでは選択肢が限られることがあります。そうした場合でも、がんに関わる分子レベルの異常に着目する核酸医薬は、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供することが可能です。

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)は目立った副作用が現れにくく、「体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方でも、治療の提案が可能です。

さらに、まだ治療ができる体力があるにもかかわらず選択肢がなくなり、緩和を勧められている方にとっても、新たな治療の選択肢として検討いただけます。

がん中央クリニックグループでは、核酸医薬を含め、様々な治療を組み合わせながら患者様の状態や疾患に応じて、患者様一人ひとりに合わせたテーラーメイドの核酸医薬による治療を提案、提供しています。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)は、小細胞肺癌への化学療法などの薬物療法や放射線療法と併用でき、治療効果として相乗効果が期待できます。

なぜなら、化学療法は産生された小細胞肺癌の細胞やたんぱく質に作用しますが、核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)は、がん細胞やたんぱく質が産生される前段階に作用するため、小細胞肺癌の細胞に対して作用するポイントが異なるからです。

そのため、核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)は、抗がん剤治療などの薬物治療や放射線療法といった標準治療を行っている患者様におすすめできる治療法です。小細胞肺癌の症例では、手術前や手術後も抗がん剤治療を行う場合がありますが、そのような患者様にもおすすめできます。

がんは放置していると大きくなっていくため、小細胞肺癌では様々な治療法を組み合わせてがんを小さくすることが重要です。標準治療に加えて「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」を併用することで、異なる治療手段から小細胞肺癌の縮小が期待できます。

小細胞肺癌は肺がんの中でも再発頻度が高いと言われています。そのため、完治を目指すためには様々な治療法を組み合わせて治療を行い生存率を高めることが重要です。

再発を抑制、防止するため。手術前後のすべての患者様

小細胞肺癌が発見され手術を行った場合も術後の再発率が高いと報告されています。

保険診療ではこの高確率での再発予防目的に、術後補助化学療法という抗がん剤治療が勧められるケースがあります。しかし、抗がん剤治療には副作用もあるため、体力があまり無い高齢の患者様や副作用が心配な患者様には実施できません。

したがって、小細胞肺癌手術前後のあらゆる患者様は「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」を併用し、再発する可能性を少しでも低くすることが重要と言えます。

治療継続可能な副作用

「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」には目立った副作用が起こりにくいです。特に、化学療法で起きやすい嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などがあります。解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半であり、治療を継続するのに支障をきたしません。

「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」といった方でも受けていただける治療となっております。

小細胞肺癌の完治を目指して保険診療と患者様に合った自由診療を組み合わせるのがおすすめ

小細胞肺癌は予後不良のがんと言われますが、完治(治癒)を目指せる疾患であり、適切に治療を行うことが重要です。

小細胞肺癌の発症要因の1つとして遺伝子異常があるため、保険診療と核酸医薬を組み合わせることがおすすめです。保険診療ではカバーできない場合には、当グループの核酸医薬による治療を行うことで腫瘍縮小効果や再発抑制効果などが期待できます。

がん中央クリニックグループのクリニックではこのような「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがんの自由診療を提案いたします。小細胞肺癌の患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。

肺がんは、日本人において死亡数の多いがんの一つです。国立がん研究センターの統計では、肺がんは男女合計のがん死亡数で上位に位置しており、現在でも多くの人の命に関わる病気となっています。

一方で、肺がんは「発見が難しいがん」としても知られています。咳が続いていたり、以前より痰が増えていたり、少し動いただけで息切れしやすくなったりすることがあります。また、「なんとなく疲れやすい」と感じていても、年齢や体力低下のせいだと思い込み、そのまま様子を見てしまう人も少なくありません。こうした変化があっても、多くの人は、風邪が長引いているだけだろう、あるいは喫煙の影響かもしれないと考えます。また、年齢による体力低下だと思い込み、病院受診を後回しにしてしまうケースもあります。

実際、肺がんは初期には症状が乏しいことがあります。特に肺の奥に発生するタイプでは、かなり進行するまで自覚症状が見られないケースもあります。そのため、症状をきっかけに進行した状態で見つかることも少なくありません。ただし、現在の肺がん診療は以前とは大きく変化しています。

かつては「肺がん=抗がん剤治療」というイメージが強くありましたが、現在の肺がん診療では、肺がんの種類だけでなく、遺伝子変異の有無や転移の状態、さらに呼吸機能や全身状態まで含めて総合的に評価した上で治療方針が決まります。そのため、同じ「肺がん」という診断名でも、患者によって選択される治療は大きく異なります。

分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場によって、進行肺がんでも一部では長期に病状コントロールできる症例も報告されています。しかし、ここで誤解しやすいのは「新しい薬がある=誰でも同じように効果が出る」という考え方です。肺がんでは、同じ「肺がん」という診断名でも、病気の性質が大きく異なります。その違いによって使える薬も、期待できる効果も、副作用も変わります。

この記事では、肺がんという病気の基本知識だけではなく、なぜ見逃されやすいのか、進行によって症状がどう変化するのか、なぜ患者ごとに治療法が変わるのかまで含めて解説します。さらに、実際の診療で患者がどのような点を確認しながら治療を考えていく必要があるのかという「判断支援」の視点からも詳しく整理していきます。

出典:国立がん研究センター 最新がん統計

  • 肺がんは日本人において死亡数の多いがん
  • 肺がんは初期段階では無症状なケースも少なくない
  • 同じ「肺がん」という診断名でも、病気の性質が大きく異なる

肺がんとは何か

肺がんは、肺の細胞が遺伝子異常を起こし、異常に増殖することで発生するがんです。肺は、呼吸によって酸素を体内に取り込み、二酸化炭素を排出する役割を担っています。しかし肺がんが進行すると、正常な肺組織が破壊され、呼吸機能そのものに影響を及ぼすようになります。ただし、「肺がん」という言葉だけでは、実際の病態を十分に理解することはできません。肺がんは大きく、非小細胞肺がんと小細胞肺がんに分かれます。

非小細胞肺がんは肺がん全体の約80〜85%を占め、その中には腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなどがあります。特に腺がんは肺の末梢に発生しやすく、かなり進行するまで症状が出ないことがあります。一方、小細胞肺がんは増殖速度が速く、比較的早い段階でリンパ節や脳、骨、肝臓などへ転移しやすい特徴があります。

つまり肺がんには「肺にできたがん」という共通点はあっても、進行速度や転移のしやすさが大きく異なるだけでなく、治療への反応性や予後にも大きな差があります。

また「症状が軽いから軽症だろう」という考え方は危険です。なぜなら、肺には痛みを感じる神経が少ないため、かなり病気が進行するまで自覚症状が出ないこともあり、特に肺の奥にできた腺がんではかなり大きくなるまで咳すら出ない場合があります。そのため肺がんでは「症状が出ていないから安心」と考えるより、「症状が出にくい病気でもある」と理解しておくことが、早期発見につながります。

肺がんの原因とリスク

肺がん最大のリスク因子として知られているのが喫煙です。国立がん研究センターは、肺がん死亡の多くに喫煙が関与していると説明しています。タバコの煙には多数の発がん物質が含まれており、それらが長期間にわたって肺細胞のDNAを傷つけることで、発がんリスクが高まると考えられています。

ただし近年は「喫煙者だけの病気」という理解では不十分です。実際には、非喫煙者でも肺がんを発症するケースが見られます。女性の肺腺がんでは、喫煙歴がない患者も少なくありません。ここで関係してくるのが「ドライバー遺伝子変異」です。

ドライバー遺伝子変異

肺がんではEGFRやALKなどの遺伝子異常が関与していることがあり、EGFR変異は日本人の肺腺がんで比較的高頻度に見られることが知られています。肺がんは「タバコだけで起こる病気」ではなく、「遺伝子異常によって発症するタイプもある病気」として理解しておく必要があります。

受動喫煙・アスベスト・加齢等その他のリスク

さらに受動喫煙やPM2.5、大気汚染、アスベスト、慢性肺疾患などもリスク因子として知られています。また、加齢も重要です。肺がんは細胞DNAの損傷が長年蓄積することで発症しやすくなるため、高齢になるほどリスクが高まります。

たとえば、咳が長期間続いていたり、肺炎を繰り返していたりする場合には注意が必要です。また、血痰が出る、以前より息切れしやすくなる、健康診断で異常を指摘されているにもかかわらず再検査を受けていない、といった状況も、精密検査を考えるきっかけになります。

肺がんの主な症状と見逃されやすさ

肺がんが見つかりにくい最大の理由は「肺がん特有」と言える症状が少ないことです。「いつもの咳だと思っていた」、「風邪が長引いているだけだと思っていた」という形で受診が遅れるケースは少なくありません。喫煙歴がある人では、慢性的な咳に慣れてしまっているため、変化そのものに気づきにくいことがあります。

さらに肺がんでは、症状の強さと進行度が一致しないことがあります。肺の末梢にできる腺がんでは、かなり大きくなるまで症状が出ない場合があります。一方、気管支近くにできる腫瘍では、比較的小さい段階でも咳や血痰が出ることがあります。肺がんは「どこにできるか」によって症状の出方が変わるのです。

進行状況と症状の変化

肺がんは病気が進行すると症状も変化していきます。最初は軽い咳程度だったものが、腫瘍の増大によって血痰や息切れ、胸痛へつながることがあります。さらに転移が起こると、骨痛や麻痺、けいれん、強い倦怠感など、肺以外の症状が前面に出る場合もあります。

そのため、咳が長期間続いていたり、肺炎を繰り返していたり、血痰が見られる場合には注意が必要です。また、以前より息切れしやすくなったと感じる場合も、単なる加齢や風邪だけで説明できないことがあります。こうした変化が続く場合には、「もう少し様子を見る」という判断よりも、胸部CTを含めた精密検査を早めに検討する方が現実的です。

肺がんの検査と診断

肺がんの診断では、まず画像検査が重要になります。健康診断では胸部X線検査が行われますが、小さな病変や肺の奥にある病変は見つけにくいことがあります。肺の末梢にできる腺がんでは、症状が乏しいまま進行することがあり、X線だけでははっきり見えない場合もあります。そのため、肺がんが疑われる場合には胸部CT検査が行われます。

胸部CT検査

CTでは、腫瘍の位置や大きさだけでなく、リンパ節転移や胸水、転移の可能性まで詳しく確認できます。ただし、画像だけでは「肺がんかどうか」は確定できません。実際に確定診断を行うには、組織を採取して病理診断を行う必要があります。そのため、気管支鏡検査やCTガイド下生検、胸水検査などが行われます。

遺伝子検査

さらに現在の肺がん診療で非常に重要となるのが、遺伝子検査です。これは単なる研究目的ではなく、肺がんでは遺伝子異常によって使える薬が大きく変わるからです。たとえばEGFR変異陽性ならEGFR阻害薬、ALK融合遺伝子陽性ならALK阻害薬が検討されます。

実際の診療では、単に「肺がん」と診断するだけでは十分ではありません。どのタイプの肺がんなのかを分類し、遺伝子変異の有無やPD-L1発現の状態まで確認した上で、初めて治療方針が決定されます。

出典:国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん」

肺がんのステージ分類と進行度の考え方

肺がんのステージは、腫瘍そのものの大きさだけで決まるわけではありません。周囲組織へどこまで広がっているか、リンパ節転移があるか、さらに遠隔転移が存在するかまで含めて総合的に評価されます。

単純に「腫瘍が大きいほど危険」というわけではなく、比較的小さな病変でも、すでにリンパ節や脳、骨へ転移していることがあります。小細胞肺がんは増殖速度が速く、診断時点で遠隔転移が見つかるケースも少なくありません。そのため肺がんでは、「大きさ」だけではなく「どこまで広がっているか」が治療方針を大きく左右します。

ステージ別の治療方針

ステージ1は、がんが肺内に比較的限局している状態です。この段階では手術や放射線治療によって根治を目指せる可能性があります。

ステージ2〜3になると、リンパ節転移や周囲組織への浸潤が問題になります。この段階では、手術単独では再発リスクを十分に抑えられないことがあり、術後薬物療法や放射線治療を組み合わせるケースが増えてきます。

ステージ4では、脳、骨、肝臓、副腎などへの遠隔転移が認められます。誤解しやすいのは「ステージ4=何もできない」というイメージです。近年では、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬によって、進行肺がんでも長期間病状をコントロールできるケースがあります。EGFR変異陽性肺がんなどでは、薬物療法によって腫瘍が大きく縮小し、仕事や日常生活を継続できる患者もいます。

そのため肺がんではステージ分類だけで将来を決めつけることはできません。どのタイプの肺がんなのか、遺伝子異常が存在するのか、治療が効きやすいタイプなのかによって経過は変わります。また、患者自身の呼吸機能がどの程度保たれているかによっても、選択できる治療は変わってきます。

進行度と治療目的の変化

ステージ分類は単に病気の重症度を示すだけではありません。どの治療が選択肢になるのか、根治を目指せる段階なのか、それとも再発予防治療が必要になるのかを判断する基準になります。また、進行度によっては「完全切除」を目標にするのではなく、「病状をコントロールしながら生活を維持する」方向へ治療目的が変わることもあります。

そのため、肺がんの診断時には「何期か」だけを見るのではなく、なぜそのステージなのか、どこまで広がっているのか、治療目標が何になるのかまで確認することが、今後の治療を理解するうえで重要になります。

肺がん治療の全体像

肺がん治療では、がんの種類やステージだけではなく、遺伝子異常の有無、患者の呼吸機能、年齢、全身状態まで含めて総合的に評価した上で治療方針が決まります。そのため、同じ肺がんでも、患者ごとに選択される治療内容は大きく異なります。

たとえば早期肺がんでは、手術や放射線治療によって根治を目指せる場合があります。しかしリンパ節転移や遠隔転移がある場合には、薬物療法が治療の中心になることがあります。

さらに現在の肺がん治療では「どの薬を使うか」が以前よりはるかに複雑になっています。以前は細胞障害性抗がん剤が中心でしたが、現在の肺がん診療では、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬、従来型の化学療法、さらに放射線治療まで含めて組み合わせながら治療戦略を考えていきます。ここで大きく関係するのが「遺伝子検査」です。

遺伝子検査の重要性

EGFR変異やALK融合遺伝子などが見つかった場合、対応する分子標的薬が使える可能性があります。これらの薬は、従来の抗がん剤とは異なり、がん細胞の特定の異常を狙って作用します。そのため、患者によっては高い効果が期待できることがあります。

一方で、遺伝子異常がない場合や、免疫療法が適している場合には、免疫チェックポイント阻害薬が検討されます。これは、がん細胞によって抑えられていた免疫反応を回復させ、体自身の免疫でがんを攻撃しやすくする治療です。

ただし「新しい治療だから副作用は少ないだろう」と単純に捉えてはいけません。実際には、分子標的薬にも免疫療法にも、それぞれ特有の副作用があります。さらに、どれだけ効果が期待できる治療であっても、患者の呼吸機能や体力、合併症の有無、年齢などによっては強い治療が難しい場合があります。

肺がん治療では「最も強い治療」を選ぶのではなく「病状を抑えながら、どこまで生活を維持できるか」まで考えることが重要です。

手術治療

手術は、肺がんが肺内に限局しており、切除によって根治を目指せる場合に検討されます。主にステージ1〜一部のステージ3で適応とされています。肺がんの手術では「がんを取れるか」だけではなく、「術後に呼吸機能を維持できるか」が非常に重要になります。肺は呼吸を担う臓器であるため、肺の一部を切除すると、術後に息切れしやすくなることがあります。

特に、高齢者や喫煙歴が長い人、慢性閉塞性肺疾患(COPD)がある人では、もともとの肺機能が低下している場合があります。そのため手術前には肺活量や呼吸機能、さらに心機能まで詳しく評価した上で、安全に手術を行えるかどうかを確認します。

また、肺がん手術にはいくつか種類があります。小さな病変では部分切除で済む場合もありますが、再発リスクを考慮して肺葉切除が行われることもあります。さらにリンパ節転移の可能性がある場合には、周囲リンパ節も一緒に切除します。

しかし、手術後の検査によって画像上は取り切れたように見えても、目に見えない微小転移が残っていることがあります。そのため、再発リスクが高い場合には手術後に薬物療法が追加されるケースがあります。肺がんの手術は「切除して終わり」ではなく、「再発リスクをどう下げるか」まで含めて考える必要があります。

放射線治療

肺がんでは、放射線治療が重要な役割を担う場面があります。放射線治療というと「手術ができない場合の代替治療」というイメージを持つ人もいますが、実際にはそれだけではありません。肺がんにおける放射線治療は、単に腫瘍へ放射線を当てるだけではありません。病変の根治を目指す目的で使われる場合もあれば、再発リスクを下げたり、痛みや神経症状などを和らげたりする目的で行われることもあります。

たとえば早期肺がんでも、高齢や呼吸機能低下などによって手術が難しい場合があります。そのようなケースでは、定位放射線治療(SBRT)が検討されることがあります。これは、限られた病変に対して高精度で放射線を集中させる治療です。従来の放射線治療より正常組織への影響を抑えやすく、身体への負担を軽減しながら治療を行える可能性があります。

一方、局所進行肺がんで放射線治療を行う場合には、単純に腫瘍を小さくするだけではありません。病変の広がりを抑えながら再発リスクを下げ、さらに呼吸苦や痛みなどの症状悪化を防ぐ目的も含まれています。

さらに、放射線治療は転移症状の緩和にも使われます。肺がんでは骨転移による痛みや、脳転移による神経症状が問題になることがあります。そうした場合、放射線治療によって症状を軽減できることがあります。

放射線治療の副作用

「放射線治療は局所治療だから身体への負担が少ない」というイメージを持つ方も多いですが、実際には放射線を当てる部位によって副作用は変わります。肺周囲へ照射した場合には、放射線肺炎が問題になることがあります。これは照射後しばらくしてから咳や発熱、息切れなどが出現する状態です。

また、食道周囲へ放射線が当たると、飲み込み時の痛みが出ることがあります。特に肺がん患者では、もともとの肺機能が低下している場合があります。そのため、軽度の炎症でも呼吸状態へ影響することがあります。

放射線治療では「がんへどこまで効果を出せるか」だけでなく、「正常肺への影響をどこまで抑えられるか」も重要になります。

薬物療法(抗がん剤・分子標的薬・免疫療法)

肺がん治療において、薬物療法は非常に重要な位置を占めています。進行肺がんでは、薬物療法が治療の中心になるケースも少なくありません。ただし、現在の肺がん治療では「抗がん剤」という言葉だけで一括りにすると実態が見えにくくなります。

現在の肺がん薬物療法は、大きく分けると、従来型の細胞障害性抗がん剤、特定の遺伝子異常を狙う分子標的薬、そして免疫機能を活性化する免疫チェックポイント阻害薬に分類されます。

細胞障害性抗がん剤は、増殖の速い細胞を攻撃することで腫瘍を抑えます。ただし、正常細胞にも影響するため、副作用が問題になりやすい治療でもあります。一方、分子標的薬は、がん細胞に存在する特定の遺伝子異常を狙って作用します。

EGFR変異陽性肺がんではEGFR阻害薬、ALK融合遺伝子陽性肺がんではALK阻害薬などが使われます。これらは、条件が合えば高い治療効果が期待できることがあります。実際、腫瘍縮小によって呼吸状態が改善し、仕事や日常生活を継続できる患者もいます。

薬物療法の副作用

分子標的薬では、皮膚障害や下痢、肝機能障害などが問題になることがあります。また、肺がん患者において注意が必要な副作用として、薬剤性肺障害が重症化するケースもあるため、咳や息切れの変化を軽視できません。

また、免疫チェックポイント阻害薬は、免疫機能を回復させることで、体自身ががん細胞を攻撃しやすくする治療です。現在ではPD-L1発現などを参考に適応が検討されます。ただし免疫チェックポイント阻害薬では、免疫が過剰に活性化することで、肺炎や大腸炎、甲状腺障害、肝炎などが起こることがあります。これは通常の副作用というより、免疫反応が正常組織まで攻撃してしまう状態に近いものです。

患者が肺がんの薬物療法を受ける際には「どの薬が効くか」だけでなく、どの副作用が起こりうるか、呼吸状態へどう影響するか、生活を維持できるか、まで含めて確認しておく必要があります。

副作用と生活への影響

肺がん治療では「がんを抑えられるか」だけではなく、「生活をどこまで維持できるか」が非常に重要になります。実際に、副作用によって日常生活が大きく変わることがあります。

たとえば細胞障害性抗がん剤では、吐き気や食欲低下、倦怠感が問題になります。食事量が落ちると体重が減少し、筋力低下につながります。肺がん患者では、呼吸そのものに体力を使うため、筋力低下が進むと息切れも悪化しやすくなります。

また、強い倦怠感が続くと、仕事へ行くことが難しくなったり、家事の負担が大きくなったりすることがあります。外出そのものを避けるようになる患者もおり、結果として生活範囲が大きく狭くなってしまうことがあります。さらに呼吸機能が低下すると少し歩いただけでも息切れするようになったり、階段の上り下りが強い負担になったりすることがあります。会話を続けるだけでも疲労感が強くなる患者もいます。

注意しておきたいのが「どこまで我慢するべきか」という判断です。実際には多くの患者が「治療だから仕方ない」、「我慢しないといけない」と考えてしまいます。しかし現在は支持療法も進歩しており、吐き気止めによる症状緩和だけでなく、疼痛コントロールや栄養管理、呼吸リハビリなどを組み合わせながら生活への影響を軽減する取り組みが行われています。

副作用が強い場合には、薬剤量を調整したり、治療間隔を変更したりすることも可能です。現在の生活への影響が大きい場合には、別の薬剤へ切り替える選択肢が検討されることもあります。肺がん治療では「限界まで耐える」のではなく、「治療を続けながら生活を維持する」という視点が重要です。

ステージ別の予後

肺がんの予後は、どのタイプの肺がんなのか、遺伝子異常が存在するのか、病気がどこまで広がっているのかによって方針が変わります。また、患者自身の呼吸機能や全身状態によっても、選択できる治療や予後の見通しは大きく異なります。

国立がん研究センターの院内がん登録生存率集計によると、肺がん全体の5年相対生存率はおよそ34〜35%前後と報告されています。ただし、この数字だけを見ると、実際の病状との差を見誤る可能性があります。なぜなら、肺がんではステージによって生存率が大きく異なるからです。

出典:国立がん研究センター がん情報サービス「院内がん登録生存率集計」

非小細胞肺がんの統計データ

たとえば非小細胞肺がんでは、国立がん研究センターの院内がん登録データにおいて、5年生存率はおおよそ以下のような傾向が示されています。ステージ1では約80〜90%前後、ステージ2では約50〜60%前後、ステージ3では約20〜35%前後、ステージ4では10%未満〜十数%程度まで低下します。この差が生まれる理由は、単純に「がんが大きくなるから」だけではありません。

ステージⅠ期

ステージ1では、病変が肺内に比較的限局しているため、手術や定位放射線治療によって根治を目指せる可能性があります。特に小型病変を完全切除できた場合には、長期間再発なく経過する患者も少なくありません。

ステージⅡ期

ステージ2〜3になると、リンパ節転移や周囲組織への浸潤が問題になります。この段階では、画像上は取り切れたように見えても、目に見えない微小転移が残っている可能性があります。そのため、再発予防を目的として術後薬物療法や放射線治療が追加されることがあります。

ステージⅢ期

ステージ3では、「切除できるかどうか」が大きな分岐点になります。局所進行肺がんでは、手術だけでなく化学放射線療法や免疫療法を組み合わせるケースもあり、治療そのものが長期戦になることがあります。

ステージⅣ期

ステージ4では、脳、骨、肝臓、副腎などへの遠隔転移が認められます。従来は「ステージ4=短期間で急速に悪化する」というイメージが非常に強くありましたが、近年は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の進歩によって状況が変わりつつあります。

たとえばEGFR変異陽性肺がんでは、EGFR阻害薬によって長期間病状をコントロールできるケースがあります。ALK融合遺伝子陽性肺がんでも、ALK阻害薬によって長期生存が期待できる患者がいます。近年では、進行肺がんであっても数年以上にわたり外来通院を続けながら、仕事や日常生活を維持している患者も珍しくありません。

もちろん、すべての患者が同じ経過をたどるわけではありません。肺がんでは、薬剤耐性が出現することがありますし、副作用によって十分な治療を継続できない場合もあります。また、同じステージ4でも、転移部位や転移数によって病状は大きく変わります。

転移部位による症状の違い

たとえば脳転移がある場合には、けいれんや麻痺など神経症状が問題になることがありますし、骨転移では痛みによって生活機能そのものが低下することがあります。さらに、肺がん患者ではCOPDや間質性肺炎などを合併しているケースも少なくありません。その場合、がんそのものだけではなく、呼吸機能低下が予後へ大きく影響することがあります。

データはあくまでも参考情報と考える

読者が数字を見る際に意識しておきたいのは、「平均値だけで自分の将来を決めつけない」という点です。どのタイプの肺がんなのか、遺伝子異常があるのか、どの治療が使えるのか、薬剤に反応しやすいのか、全身状態がどの程度保たれているのか、によって経過は大きく変わります。生存率統計は「未来を断定する数字」ではなく、「病状を理解するための参考情報」として受け止めることが大切です。

標準治療の限界と課題

現在の肺がん治療は大きく進歩しています。近年は、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬に加え、高精度放射線治療も進歩しており、「肺がん治療は以前より改善している」という情報を目にする機会も増えています。しかし一方で、すべての患者が同じように治療効果を得られるわけではありません。

たとえば分子標的薬は、対応する遺伝子異常がなければ効果を期待しにくい治療です。また、最初はよく効いていても、時間とともに薬剤耐性が出現することがあります。免疫療法でも、すべての患者に高い効果が出るわけではありません。

さらに肺がんでは、がんそのものだけではなく、呼吸機能低下や低栄養、体力低下、感染症なども治療継続を難しくする要因になります。特に高齢患者では「理論上は強い治療が可能でも、身体が耐えられない」という問題が現実的に起こります。さらに肺がん患者では、COPDや間質性肺炎、心疾患などを合併していることも少なくありません。そのため、治療そのものが既存の呼吸障害や全身状態へ影響するリスクがあります。

つまり肺がん治療では「がんだけを見る」のではなく、「患者全体を見る」必要があります。もっとも患者側が苦しくなりやすいのは、「もっと強い治療をすれば改善するのでは」という思いです。しかし実際には、治療強度を上げることで生活の質が大きく低下してしまうことがあります。また、副作用によって入院回数が増えたり、呼吸状態そのものが悪化したりするケースもあります。肺がん治療は「最大限の結果」だけを追うのではなく、「何を優先したいのか」を整理することも重要になります。

肺がんの治療選択の考え方

実際の治療選択では、年齢や呼吸機能だけでなく、遺伝子異常の有無、仕事状況、家族環境、そして患者自身が生活の中で何を優先したいのかまで含めて考えておきましょう。

患者によって、何を優先したいかは大きく異なります。できる限り根治を目指したいと考える人もいれば、仕事を続けることを重視する人もいます。また、副作用をできるだけ抑えたい人や、通院回数そのものを減らしたいと考える人もいます。そのため、肺がん治療では「医学的に可能な治療」と「本人が続けられる治療」を分けて考える必要があります。

治療選択を考える際には、期待できる効果だけを見るのでは十分ではありません。副作用がどの程度起こりうるのか、生活への影響がどれほどあるのか、さらに通院負担や治療期間まで含めて総合的に考えます。進行肺がんでは「病気を完全になくす」ことだけではなく、「病状を抑えながら生活を維持する」ことが現実的な目標になる場合もありえます。

セカンドオピニオンの重要性

近年はセカンドオピニオンを利用する患者も増えています。これは「主治医を信用していない」という意味ではありません。セカンドオピニオンは、治療選択肢を整理したり、別の専門家の視点を確認したりするために利用されます。その結果として、患者自身が納得した上で治療を受けやすくなるという側面が重要なのです。

肺がんは、治療の進歩が非常に速い分野であり、そのため、新しい薬剤が使用可能かどうかや、治験対象になる可能性があるかどうかも随時確認しておくと選択肢が広がります。遺伝子異常に対応した治療が存在するかによって、治療方針が大きく変わることさえもあります。

肺がんでは「どの治療を受けるか」だけではなく、「自分は何を優先したいのか」を整理することが、治療方針を考えるうえでの重要な指針となるのです。

まとめと今後の行動

肺がんは、初期症状が乏しいため発見が遅れやすく、進行してから見つかることも少なくありません。また現在は、治療法そのものが非常に複雑化しており、患者ごとに治療戦略が大きく変わる病気になっています。一方で現在は、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬、高精度放射線治療などの進歩によって、以前よりも治療選択肢が広がってきました。

実際の肺がん診療では、どのタイプの肺がんなのか、遺伝子異常が存在するのか、病気がどこまで広がっているのかによって治療方針が変わります。また、患者自身の呼吸機能がどの程度残っているかによっても、選択できる治療や予後の見通しは変わってきます。

そして、肺がんでは「どれだけ長く生きるか」だけでなく、「どのように生活を維持するか」も重要なファクターとなります。症状を我慢し続けたり、健康診断で異常を指摘されても再検査を受けなかったり、一人だけで判断してしまったりすると、結果として治療開始が遅れることもあります。早い段階で呼吸器内科や専門医へ相談することが、結果的に治療選択肢を広げることへとつながります。

最後に、すでに診断を受けている場合でも、現在の治療が本当に自分に合っているのかを整理しておきましょう。他に選択肢がないのか、生活とのバランスをどう考えるべきかを含めて治療方針を折に触れて見直す習慣が身に着くと、新たな道が見つかるきっかけとなるでしょう。

肺扁平上皮癌(はいへんぺいじょうひがん / lung squamous cell carcinoma)は、非小細胞肺がんに分類される代表的な組織型のひとつで、肺腺がんに次いで頻度が高く、非小細胞肺がん全体の約25〜30%を占めるとされています。喫煙との関連が特に強く、喫煙歴のある男性に多い疾患です。

肺の中心部(気管支付近)に発生しやすいため、初期から咳や血痰がみられることがあるほか、進行すると胸痛、息切れ、体重減少などが出現します。本ページでは、肺扁平上皮癌の特徴や原因、症状、診断(画像検査・病理検査・免疫染色)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。

治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • 非小細胞肺がんの中で2番目に多い組織型で、喫煙との関連が強い
  • 気管支鏡検査や画像検査で腫瘤を確認し、病理検査、免疫染色で確定
  • PD-L1阻害薬などが有効なケースが多く、治療選択の鍵となる

肺扁平上皮癌とは

出典:肺がんの種類と分類|4つのタイプとその特徴|オンコロ

肺扁平上皮癌は、肺にできる悪性腫瘍(肺がん)のうち、非小細胞肺がんに分類される代表的な組織型の一つです。肺原発悪性腫瘍全体の約30%程度を占め、一般的な肺腺がんと並んで比較的頻度の高い肺がんです。特に喫煙歴のある女性に多い疾患です。

肺扁平上皮癌は、肺の気管支の中心部(肺門部)に発生することが多く、比較的ゆっくり進行する傾向がありますが、進行すると周囲組織への浸潤や転移を来すことがあります。腺がんに比べると遠隔転移はやや遅いとされる一方、局所での増大や気道閉塞による症状が問題となることがあります。

初期には無症状のことが多いですが、病変が大きくなるにつれて、咳、血痰、胸痛、呼吸困難、発熱、体重減少、全身倦怠感などが出現します。特に気道に近い場所にできるため、血痰や咳が比較的早い段階からみられることがあります。がん検診などで早期に切除できる段階で見つかれば根治を目指せる一方、進行例では治療が難しくなることがあります。

肺扁平上皮癌の原因

肺扁平上皮癌は、他の肺がんと同様に、主に喫煙(タバコ)が強く関与しているとされています。長期間の喫煙により、肺の通り道の細胞が繰り返し刺激され弱っていくことで、がん化が進むと考えられています。

また、このがんでは、細胞の増殖や分化に関わる遺伝子の異常が関係しています。例えば、TP53遺伝子やPI3K経路の異常などが報告されています。また頻度は低いですが、KRAS遺伝子異常、EGFR遺伝子異常が見られる場合もあります。

そのため、日本の専門学会(日本肺癌学会)が発行する診療ガイドラインでも、肺扁平上皮がんでは遺伝子異常の頻度や種類を踏まえた検査・治療選択が推奨されています。

肺扁平上皮がんの診断

肺扁平上皮癌は、病院にて画像検査、病理検査、免疫染色などを組み合わせて診断します。

まず胸部X線(レントゲン検査)や胸部CTで肺腫瘤の有無や大きさ、周囲組織への浸潤を確認します。必要に応じてPET-CTや頭部MRIなどを行い、リンパ節転移や遠隔転移の有無を評価して病期(ステージ)を決定します。

肺扁平上皮癌を確定するためには、がんの組織を採取して詳しく調べる「病理検査」が重要です。具体的には、気管支鏡検査で組織を採取することが多く、中心部に発生しやすい特徴から比較的検体が得られやすい場合もあります。

さらに、「免疫染色」により、扁平上皮由来であることを確認し、他の肺がんや転移性腫瘍との鑑別を行います。

また、進行例ではPD-L1発現の評価などを行い、免疫療法の適応を検討します。

肺扁平上皮癌の一般的な治療法

肺扁平上皮癌の治療は、がんの進み具合(ステージ)や体の状態、遺伝子の変化・特徴などをもとに医師と相談して決めます。

基本的には一般的な肺がん(非小細胞肺がん)と同じような治療が行われますが、治療の中心は手術、化学療法、免疫療法、放射線療法となります。

早期の場合(まだ広がっていない場合)

がんを取りきれる状態であれば、手術が最も重要な治療です。肺の一部を切除し、周囲のリンパ節もあわせて取り除きます。

特に肺扁平上皮がんは肺の中心部(気管支付近)に発生することが多いため、腫瘍の位置や広がりによっては、肺の一部または片側すべてを切除する手術が必要になることもあります。 

進行している場合・再発した場合

手術が難しい場合は、従来の抗がん剤(プラチナ製剤+タキサン系など)や分子標的薬による治療が基本となりますが、腫瘍が縮小する割合は約20〜30%程度にとどまり、予後(治療を始めてから亡くなるまでの期間)は約6〜9か月前後と報告されています。

そのため、発見されてからできるだけ早く治療を開始することが重要です。なお、肺扁平上皮がんでは、免疫療法が有効なケースが多いとされています。

放射線治療について

放射線治療は、がんの広がりを抑えたり、症状を和らげたりする目的で放射線を照射する治療です。

肺扁平上皮がんは気管支周囲の中心部に発生することが多いため、放射線による周囲臓器(気管、食道、大血管)への影響も考慮しなければなりません。なお、化学放射線療法といって、化学療法と放射線治療を同時に実施する場合もあります。

肺扁平上皮がんにおける保険診療の限界

肺扁平上皮がんに対する保険診療では、手術、化学療法、免疫療法、放射線療法などが行われます。

しかし、進行例や再発例においては、これらの標準治療のみでは十分な効果が得られにくい場合があるのが現状です。

実施できる化学療法の限界

肺扁平上皮がんでは、プラチナ製剤を中心とした標準的な抗がん剤治療が確立されていますが、進行すると、腫瘍が十分に縮小しにくかったり、長い目でみると病勢が抑えられない場合も多くみられます。

化学療法に伴う「きつい」副作用

肺扁平上皮がんに対する薬物療法では、プラチナ製剤やエトポシドといった従来の薬物や、免疫療法(PD-1/PD-L1阻害薬)が使用されます。使用するレジメン(薬物の組み合わせ)によって、食欲不振、吐き気、倦怠感、骨髄抑制、しびれ、皮疹などの副作用が起こりえます。

さらに、免疫療法では免疫関連有害事象に注意が必要です。治療効果と副作用のバランスを慎重に見ながら進める必要があります。一般的な肺癌治療と同様、患者さんの体力や併存症によっては、十分な治療強度を保てない上に、日常生活が苦しくなる場合があるため、治療効果だけでなく、生活の質とのバランスを十分に考慮しながら治療を進めていくことが重要です。

当グループでは、このPD-L1に対して外側からの無力化と内側からのmRNA分解を同時に行う「ハイブリッド免疫療法」も提供しています。

保険診療ではカバーしきれない再発・進行のリスク

肺扁平上皮がんは完全切除した場合でも、術後5年以内の再発率が約30〜60%程度と報告されています。

肺扁平上皮がんは肺の中心部に発生することが多いため、肺内での再発や気道周囲への進展が問題となることも少なくありません。そのため、定期的な画像検査(CTなど)などが必要です。

肺扁平上皮がんで重要な新しい治療の考え方

肺扁平上皮がんでは、現時点で重要なのは、「遺伝子異常の有無を調べること」と「免疫療法の適応を評価すること」です。

特にTP53遺伝子やPI3K経路の異常は比較的高頻度とされ、標的治療の候補となりえます。

また、肺扁平上皮がんではPD-L1高発現例が比較的多いことが報告されており、免疫チェックポイント阻害薬が有効となる可能性があります。ただし、すべての症例で有効とは限らず、遺伝子異常、全身状態、腫瘍量などを総合して判断する必要があります。

肺肉腫様癌で重要な新しい治療の考え方

近年、肺扁平上皮がんでは、発症や進行に関わる分子レベルの異常に着目した核酸医薬が注目され、研究・臨床応用が進んでいます。

その中でも特に当院では、根本的な原因に直接作用することが期待される「アプタマー」「RNA干渉を利用した核酸医薬(siRNA など)」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を、新たな治療の選択肢として提供しています。

アプタマー核酸医薬は、がんに特有に発現している異常なタンパク質に結合することで、その働きを抑えてがん細胞の増殖を抑制したり死滅させたりする次世代の治療薬です。

miR-34a mimic 核酸医薬は、がんになって失われた体に本来備わる「がんを抑える力」を取り戻す新しい治療薬であり、がんの成長や増殖を止め、自然ながん細胞の死滅を促します。

以上のような遺伝子レベルでの最新の治療薬をがん中央クリニックグループのクリニックでは実施できます。

欧米では、がんの部位ではなくどのような遺伝子やタンパク質異常があるか、ということに注目して治療法を決定する研究や臨床試験が行われています。日本では一部の遺伝子レベルの治療が保険でも行われていますが、国際的には遺伝子レベルの治療において遅れを取っています。

がん中央クリニックグループのクリニックではいち早く遺伝子レベルの異常に焦点をあてた診察・治療を導入しています。

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)による治療を推奨する患者様

「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」は肺扁平上皮がんのほとんどの患者様におすすめできる治療法です。

どのような患者様に効果が期待できるのかを以下に具体的に解説します。ぜひご自身のパターンに合わせてをご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

肺扁平上皮がんでは、病状や体力、副作用などの理由で、保険診療の標準治療だけでは選択肢が限られることがあります。そうした場合でも、がんに関わる分子レベルの異常に着目する核酸医薬は、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供することが可能です。

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)は目立った副作用が現れにくく、「体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方でも、治療の提案が可能です。

さらに、まだ治療ができる体力があるにもかかわらず選択肢がなくなり、緩和を勧められている方にとっても、新たな治療の選択肢として検討いただけます。

がん中央クリニックグループでは、核酸医薬を含め、様々な治療を組み合わせながら患者様の状態や疾患に応じて、患者様一人ひとりに合わせたテーラーメイドの核酸医薬による治療を提案、提供しています。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」は、肺扁平上皮がんへの化学療法などの薬物療法や放射線療法と併用でき、治療効果として相乗効果が期待できます。

なぜなら、化学療法は産生された肺扁平上皮がんの細胞やたんぱく質に作用しますが、核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)は、がん細胞やたんぱく質が産生される前段階に作用するため、肺扁平上皮がんの細胞に対して作用するポイントが異なるからです。

そのため、核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)は、抗がん剤治療などの薬物治療や放射線療法といった標準治療を行っている患者様におすすめできる治療法です。肺扁平上皮がんの症例では、手術前や手術後も抗がん剤治療を行う場合がありますが、そのような患者様にもおすすめできます。

がんは放置していると大きくなっていくため、肺扁平上皮がんでは様々な治療法を組み合わせてがんを小さくすることが重要です。標準治療に加えて核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)を併用することで、異なる治療手段から肺扁平上皮がんの縮小を目指すことができます。

肺扁平上皮がん完治を目指すためには様々な治療法を組み合わせて治療を行うことが重要です。

再発を抑制、防止するため。手術前後のすべての患者様

肺扁平上皮がんが発見され手術を行った場合、5年以内に約30~60%の患者様が再発すると報告されています。

保険診療ではこの高確率での再発予防目的に、術前化学療法や術後補助化学療法という抗がん剤治療が勧められるケースがあります。しかし、肺扁平上皮がんには抗がん剤の効果が比較的乏しい上に、抗がん剤治療には副作用もあるため、体力があまり無い高齢の患者様や副作用が心配な患者様には実施できません。

したがって、肺扁平上皮がん手術前後のあらゆる患者様は核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)を併用し、再発する可能性を少しでも低くすることが重要と言えます。

治療継続可能な副作用

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)には目立った副作用が起こりにくいです。特に、化学療法で起きやすい嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などがあります。解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半であり、治療を継続するのに支障をきたしません。

「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」といった方でも受けていただける治療となっております。

肺扁平上皮がんの完治を目指して保険診療と患者様に合った自由診療を組み合わせるのがおすすめ

肺扁平上皮がんは完治(治癒)を目指せる疾患であり、適切に治療を行うことが重要です。

肺扁平上皮がんの発症要因の1つとして遺伝子異常があるため、保険診療と核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)を組み合わせることがおすすめです。

保険診療ではカバーできない場合には、核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)を行うことで腫瘍縮小効果や再発抑制効果などが期待できます。

がん中央クリニックグループのクリニックではこのような「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがんの自由診療を提案いたします。肺扁平上皮がんの患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。