近年、がん治療や腫瘍の画像診断の分野では、ICG、IR783、IR780といった近赤外線の色素(近赤外線色素)が注目されています。
先日、当グループに「IR780よりIR783のほうが数字が大きいので、より新しく強い治療だと思ってIR783を選びました」とおっしゃる患者様がいらっしゃいました。
しかし、これらの数字は”強さ”を表すものではなく、それぞれ異なる特徴と目的を持った色素です。
本ページでは、ICG・IR783・IR780の違いと、それぞれの特徴について、できるだけわかりやすくご説明します。あわせて、当グループが取り組んでいるHEMIN含有IR780を用いた治療についてもご紹介します。
- ICG・IR783・IR780は、数字の大小が”強さ”を表すものではなく、それぞれ目的の異なる色素です。
- 大きな違いは「活性酸素を産生する力」と「がん細胞のどこに集まるか」にあります。
- 当グループではIR780にHEMIN(ヘミン)を含有させ、低酸素環境にも対応する治療アプローチに取り組んでいます。
ICG・IR783・IR780とは

ICG(インドシアニングリーン)
ICGは、古くから医療で使われてきた近赤外線色素です。肝機能検査や血流の評価、手術中の蛍光ナビゲーションなどに広く使われており、安全性や臨床での使用実績が豊富であることが大きな特徴です。一方で、体内では比較的早く分解・排泄され、主に肝臓に集まりやすい傾向があります。がん細胞への選択性やミトコンドリアへの集まりやすさは、限定的とされています。
IR783
IR783は、ICGよりも腫瘍に集まりやすいとされる近赤外線色素で、主に腫瘍の画像化(イメージング)の分野で研究されています。一部のがん細胞で多くみられる有機アニオントランスポーター(OATP)を介して取り込まれることが報告されており、正常な組織よりもがんに集まりやすいことが期待されています。比較的扱いやすい色素ですが、光を当てたときの活性酸素の産生や発熱の働きは、IR780ほど強くないと考えられています。
IR780
IR780は、IR783と同じ系統の近赤外線色素ですが、より脂に溶けやすく(疎水性が高く)、細胞膜やミトコンドリアに集まりやすいことが特徴です。そのため光を当てたときに強い活性酸素の産生や発熱を起こしやすく、光線力学療法(PDT)や光温熱療法(PTT)、さらに超音波を組み合わせる音響力学療法(SDT)との相性が期待されています。特にミトコンドリアを標的とすることで、がん細胞への障害をより強く引き起こし、死滅につなげられる可能性が研究されています。
3つの色素の大きな違い
似ているように見える3つの色素ですが、大きな違いとして「活性酸素を産生する力」と「がん細胞のどこに集まるか」があります。
ICGは、IR780やIR783と比べて活性酸素を産生する力が低いとする報告があり、条件によっては大きな差がみられたという研究もあります。IR780とIR783はいずれもICGより高い活性酸素の産生が期待されますが、集まる場所の違いによって効果に差が出る可能性があると考えられています。
特にIR780は、細胞のエネルギーを作るミトコンドリアに集まりやすいことが報告されており、その結果として、より強い細胞への障害につながる可能性が期待されています。
このように、ICG・IR783・IR780は「数字が大きいほど優れている」という関係ではなく、それぞれ目的や特徴が異なります。ICGは安全性と実績、IR783は腫瘍への集まりやすさと画像化の性能、IR780は治療効果とミトコンドリアを標的とする性質に、それぞれ特徴があると考えられています。
HEMIN含有IR780による新しいアプローチ
当グループでは、IR780にHEMIN(ヘミン)を含有させることで、より強いROS(活性酸素)の産生や、酸素の少ない環境(低酸素環境)への対応を目指した、多機能な治療アプローチに取り組んでいます。
HEMINには、酸素の少ない腫瘍の環境をやわらげ、活性酸素の産生を後押しする働きが報告されています。これにより、光線力学療法(PDT)の効果を高めることや、がん細胞の死滅につながる複数の仕組みを組み合わせることが期待されています。
また当グループでは、超音波を用いる音響力学療法(SDT)にもこの考え方を応用しています。超音波は光よりも体の深い部分まで届きやすいため、光が届きにくい体の深い部分のがんに対する選択肢としても、取り組みが進められています。
まとめ:数字ではなく、集まる場所と目的で選ぶ
ICG・IR783・IR780は「数字が大きいほど優れている」という関係ではなく、それぞれ異なる特徴を持つ近赤外線色素です。ICGは安全性と実績、IR783は腫瘍への集まりやすさと画像化の性能、IR780は治療効果とミトコンドリアを標的とする性質に特徴があると考えられています。
さらに近年は、HEMINを含有させたIR780によって、光線力学療法(PDT)だけでなく音響力学療法(SDT)への応用も期待されており、これまでの光による治療では難しかった深部の腫瘍への取り組みも進められています。
ただし、すべてのがんに行えるわけではありません。脳腫瘍のように薬剤が届きにくいがん種や、骨転移の部分のように薬剤が届きにくい部位では、効果が限定的になる可能性があります。腫瘍の種類・部位・深さによって適した方法は異なるため、標準治療との組み合わせや局所治療の限界もふまえて、慎重に検討していく必要があります。
がん中央クリニックグループでは、こうした治療が患者様の病状に合うかどうかを、標準治療の状況もふまえて検討し、適した選択肢をご提案します。ご関心のある方は一度ご相談ください。
本ページで紹介するHEMIN含有IR780を用いた治療は、公的医療保険が適用されない自由診療であり、国内で医薬品としての承認を受けていない未承認の治療を含みます。治療内容・費用・想定される副作用やリスクについては、診察時に十分にご説明します。効果には個人差があり、すべての方に同様の結果を保証するものではありません。