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前立腺がんprostate-cancer

前立腺がんは、日本の男性で特に多いがんです。国立がん研究センターの最新がん統計では、2023年の男性のがん罹患数で前立腺がんが1位となっており、生涯で前立腺がんと診断される確率は11.2%、およそ9人に1人とされています。2024年には前立腺がんで13,670人が死亡しており、患者数が多いだけでなく、進行した場合には生命に関わる病気でもあります。

前立腺がんで「ステージ4」と診断されると、「もう治らないのではないか」「ホルモン療法はいずれ効かなくなるのか」「骨転移があると余命はどのくらいなのか」と不安になる人も少なくありません。しかし、前立腺がんのステージ4には病状の異なる患者さんが含まれるため、病期名だけで治療方法やその後の見通しを一律に判断することはできません。

前立腺がんのステージ4には、骨盤内のリンパ節に転移していても、骨や肺など離れた場所への転移はない状態と、骨、遠隔リンパ節、肺、肝臓などへ遠隔転移している状態があります。前者はN1・M0、後者はM1と分類されます。同じステージ4でも、この違いによって治療の目的や選択肢は変わります。

遠隔転移があるM1の前立腺がんでは、まず男性ホルモンの働きを抑える治療が重要になります。男性ホルモンを十分に抑える治療が効いている段階を「去勢感受性」、男性ホルモンを十分に低下させても病気が進行する段階を「去勢抵抗性」と呼び、治療の選び方も変わります。ここでいう「去勢」は精巣を摘出する手術だけを指す言葉ではなく、薬によってテストステロンを十分に低下させた状態も含めて使われる医学用語です。

現在は、男性ホルモンを抑える治療を土台として、ホルモンの働きをさらに強く抑える薬、ドセタキセルなどの抗がん剤、遺伝子の特徴に応じた分子標的薬、骨転移への治療など複数の選択肢があります。2025年には、前立腺特異的膜抗原(PSMA)を標的とするルテチウム177を用いた治療も国内で承認され、一定の条件を満たす患者さんでは新たな選択肢となっています。

この記事では、前立腺がんステージ4とはどのような状態なのか、症状や検査、骨転移の意味から、ホルモン療法、抗がん剤、放射線治療、遺伝子検査、去勢抵抗性となった後の治療、PSMA標的治療、生存率・余命、完治の可能性まで順番に解説します。治療法の名前だけを並べるのではなく、なぜその治療を行うのか、どの段階で選ぶのか、何を基準に次の治療へ進むのかが分かるように説明します。

参考:国立がん研究センター「最新がん統計」、国立がん研究センター「前立腺がん 治療」、PMDA「プルヴィクト静注 医療用医薬品情報」

前立腺がんステージ4とは

前立腺がんの進行度は、原発巣の広がりを示すTカテゴリー、所属リンパ節への転移を示すNカテゴリー、遠隔転移を示すMカテゴリーを組み合わせたTNM分類によって判断します。

前立腺がんでは、所属リンパ節転移があるN1・M0と、遠隔転移があるM1のどちらもステージ4に含まれることが大きな特徴です。「前立腺がんのステージ4=必ず骨や肝臓などへ遠隔転移している」と考えるのは正確ではありません。ステージ4と説明された場合には、まずN1・M0なのかM1なのかを確認することが、その後の治療を理解する第一歩になります。

所属リンパ節転移のみのN1・M0でもステージ4になる

Nカテゴリーは、前立腺からリンパ液が流れる骨盤内の所属リンパ節に転移があるかを示します。N1は所属リンパ節に転移がある状態ですが、M0であれば骨、肺、肝臓、遠隔リンパ節などへの遠隔転移は確認されていません。前立腺がんの病期分類では、このN1・M0もステージ4に分類されます。そのため同じステージ4でも、骨や臓器への遠隔転移があるM1とは治療の目的や局所治療の位置づけが同じではありません。

遠隔転移のないN1・M0では、内分泌療法を軸としながら、前立腺や骨盤内への放射線治療などを組み合わせるかを病状に応じて検討することがあります。一方、M1では全身に広がったがんを治療する必要があるため、全身薬物療法の重要性がさらに高くなります。

遠隔転移があるM1はM1a・M1b・M1cに分けられる

M1は前立腺から離れた場所への遠隔転移がある状態で、転移先によってM1a、M1b、M1cに分類されます。M1aは所属リンパ節より遠いリンパ節への転移、M1bは骨転移、M1cはリンパ節や骨以外の臓器などへの転移がある状態です。

分類 転移の状態
N1・M0 骨盤内の所属リンパ節に転移があるが、遠隔転移はない
M1a 所属リンパ節より遠いリンパ節に転移がある
M1b 骨転移がある
M1c リンパ節や骨以外の肺・肝臓などへ転移がある

M1a、M1b、M1cは単に転移先の名前を分けているだけではありません。どこへどの程度転移しているかは症状、必要な支持療法、治療後の経過にも関係するため、患者さん自身も「ステージ4」とだけ聞くのではなく、どの分類に当てはまるのかを確認しておく意味があります。

前立腺がんでは骨転移が多い

前立腺がんは、進行するとリンパ節や骨へ転移しやすいことが知られています。特に骨転移はステージ4前立腺がんで重要で、腰椎、胸椎、骨盤、肋骨などに病変がみられ、痛みや骨折、神経圧迫などの原因になることがあります。

ただし、骨転移が見つかったからといって、直ちに寝たきりになる、あるいは短期間で生命に関わるという意味ではありません。骨転移の数や広がり、症状、内臓転移の有無、薬物療法への反応などによって経過には大きな違いがあります。

また、前立腺がんの骨転移は、画像検査で多数の病変が確認されても内分泌療法によって大きく改善することがあります。その一方で、脊椎に転移して神経を圧迫する場合などには早急な治療が必要になるため、転移の有無だけではなく場所と症状を確認することが重要です。

同じステージ4でも治療経過は大きく異なる

前立腺がんステージ4には、所属リンパ節転移だけの患者さん、骨に1~数個の転移がある患者さん、多数の骨転移がある患者さん、肺や肝臓などにも転移している患者さんが含まれます。さらに、診断時から遠隔転移がある場合と、手術や放射線治療後に再発して転移が見つかった場合でも、その後の治療を考える条件は異なります。

治療開始後も病状は固定されたものではありません。男性ホルモンを抑える治療が効いている「去勢感受性」の段階から、十分に男性ホルモンを低下させても病気が進行する「去勢抵抗性」の段階へ移行することがあり、その時点で薬の選び方も変わります。

したがって、前立腺がんステージ4では、病期だけを見るのではなく、遠隔転移の有無、転移部位と量、ホルモン療法への感受性、これまでに使用した治療、全身状態を組み合わせて現在の病状を理解することが大切です。

参考:国立がん研究センター「前立腺がん 治療」

前立腺がんステージ4でみられる症状

前立腺がんは、早い段階では症状がないことが多く、PSA検査をきっかけに見つかることがあります。進行すると、前立腺そのものによる排尿症状に加え、骨転移やリンパ節転移、肺・肝臓などの遠隔転移による症状が現れることがあります。

ただし、症状の強さだけからステージや余命を判断することはできません。多発骨転移があっても診断時には痛みが少ない患者さんがいる一方、限られた骨転移でも神経に近い場所に病変があるため強い症状が出ることがあります。

尿が出にくい・頻尿・血尿などの排尿症状

前立腺は膀胱のすぐ下にあり、尿道を取り囲むように存在しています。がんが大きくなったり周囲へ広がったりすると、尿の通り道が圧迫され、尿が出にくい、尿の勢いが弱い、排尿に時間がかかる、排尿回数が増えるなどの症状が現れることがあります。

進行すると血尿や排尿時の痛みがみられることもあります。ただし、こうした症状は前立腺肥大症など良性の病気でも起こるため、排尿症状があることだけで前立腺がんの進行度を判断することはできません。

がんによって尿道の閉塞が強くなり、急に尿が出なくなる尿閉が起こる場合には、カテーテルなどで尿の通り道を確保する処置が必要になることがあります。がんを抑える治療と同時に、現在困っている排尿症状へ対応することもステージ4の治療の一部です。

骨転移では腰痛・背中の痛みなどが現れることがある

前立腺がんが骨へ転移すると、腰、背中、骨盤、肋骨などに痛みが出ることがあります。痛みは持続する場合もあれば、体を動かしたときに強く感じる場合もあり、転移があっても症状がほとんどないこともあります。

骨転移による痛みには、前立腺がんそのものを抑える全身薬物療法に加えて、鎮痛薬や放射線治療などを組み合わせます。病状によっては骨折を防ぐための治療や、骨の状態を維持するための薬について検討することもあります。

腰痛や背中の痛みは一般的な整形外科疾患でも起こる症状ですが、前立腺がんで骨転移が確認されている患者さんでは、新しく出現した痛みや急に強くなった痛みを放置しないことが重要です。

脊椎転移による麻痺や排尿・排便障害は早急な評価が必要

骨転移が脊椎に起こると、腫瘍や骨折によって脊髄や神経が圧迫されることがあります。強い背中の痛みに加え、足のしびれ、力が入りにくい、歩きにくいといった症状が出る場合があります。

さらに進行すると、足が動かしにくくなるだけでなく、尿や便をうまく出せないなどの排尿・排便障害が起こることがあります。脊髄圧迫による神経障害は治療開始が遅れると回復しにくくなる場合があるため、このような症状が急に現れたときには次回の定期受診まで待たず、医療機関へ連絡して評価を受ける必要があります。

この場合には薬物療法だけではなく、放射線治療や手術などを含めた緊急の対応を検討します。ステージ4前立腺がんでは「がんを長期的に抑える治療」と「現在起きている合併症へすぐ対応する治療」の両方が必要になることがあります。

リンパ節・肺・肝臓への転移でも症状は異なる

リンパ節転移が大きくなると、骨盤内や腹部のリンパや血液の流れに影響し、足のむくみなどがみられることもあります。肺転移は小さいうちは症状がないこともありますが、病変の状態によって咳や息苦しさが現れることがあります。

肝転移がある場合には、病変の広がりによって倦怠感、食欲低下、肝機能の異常などがみられることがあります。ただし、転移している臓器だけで病気の重さを決めることはできず、転移量、増大速度、ほかの病変、治療への反応を合わせて評価します。

前立腺がんは同じステージ4でも経過に幅があるため、「痛みがないから軽い」「症状が増えたから直ちに余命が短い」とは判断できません。症状の変化があれば、PSA、画像検査、血液検査、全身状態などを合わせて現在の病勢を確認することが重要です。

参考:国立がん研究センター「前立腺がんについて」、国立がん研究センター「前立腺がん 治療」

ステージ4と診断された後に確認する検査

前立腺がんステージ4では、単に「転移があるか」を確認するだけでは十分ではありません。どこにどの程度の病変があるのか、がんの悪性度はどうか、薬物療法を安全に行える体の状態か、今後の治療選択につながる遺伝子情報があるかなどを確認し、治療の組み立てに反映します。

前立腺がんではPSAが重要な指標になりますが、PSA値だけで病気の広がりや治療効果をすべて判断することはできません。病理診断、画像検査、血液検査、症状などを組み合わせ、治療開始後も同じ項目を繰り返し評価します。

PSAは重要な指標だが、数値だけで病状を決めない

PSAは前立腺から分泌されるタンパク質で、前立腺がんの診断や治療後の経過観察に広く用いられています。転移性前立腺がんでも、治療開始後にPSAが大きく低下することは治療反応を考える重要な材料になります。

一方、PSAが高いから必ず転移量が多い、低いから病気が軽いと単純に判断できるわけではありません。一部にはPSAをあまり産生しない性質の前立腺がんもあり、治療中もPSAだけでなく画像や症状を確認する必要があります。

内分泌療法中には、男性ホルモンが十分に低下しているかを確認するためテストステロン値を測定することがあります。後に説明する去勢抵抗性前立腺がんでは、十分にテストステロンが低い状態であるにもかかわらず病気が進行しているかどうかが治療判断に関係します。

CT・MRI・骨シンチグラフィなどで転移の範囲を確認する

CTでは、骨盤内や腹部のリンパ節、肺、肝臓などへの転移を確認します。MRIは前立腺周囲への広がりやリンパ節の評価などに使用され、脊椎転移による神経圧迫が疑われる場合には脊髄を詳しく確認するためにも重要です。

前立腺がんでは骨転移が多いため、骨シンチグラフィを用いて全身の骨に病変がないか調べることがあります。骨の痛みがある場所だけを見るのではなく、自覚症状のない骨転移がないかも含めて評価します。

転移性前立腺がんでは、病変の数や分布を把握することが治療選択にも関係します。特に、転移量が少ない患者さんと多数の骨転移や内臓転移がある患者さんでは、全身治療に加えて前立腺への放射線治療などを検討する考え方が異なることがあります。

病理診断ではグリソンスコア・グレードグループも確認する

前立腺がんの診断では、前立腺生検などで採取した組織を顕微鏡で調べ、がんの有無だけでなく悪性度を評価します。前立腺がんではGleason score(グリソンスコア)が広く用いられ、現在はそれを整理したGrade Group(グレードグループ)も病状を理解する指標です。

Gleason scoreは主に6~10で表され、数字が高いほど正常な前立腺組織から形が離れ、増殖・進展しやすい性質を持つと考えられます。Grade Groupは1~5に分類され、Grade Group 5はGleason score 9~10に相当します。

同じステージ4でも、腫瘍の悪性度や増殖速度は同じではありません。転移の場所や量と合わせて病理学的な性質を確認することで、その患者さんの病気がどのように進みやすいかを考える材料になります。

遺伝子検査は将来の治療選択を考えて検討する

進行前立腺がんでは、BRCA1・BRCA2をはじめとするDNA修復に関係する遺伝子の変化が治療選択に関係する場合があります。特に去勢抵抗性となった後には、検査結果によってPARP阻害薬などの分子標的治療につながる患者さんがいます。

遺伝子検査には、腫瘍に生じた変化を調べる検査と、生まれつき持っている生殖細胞系列の遺伝子変化を調べる検査があります。後者で病的バリアント(病気の原因に関わると考えられる遺伝子の変化)が見つかった場合には、患者さん本人の治療だけでなく血縁者のがんリスクにも関係することがあるため、遺伝カウンセリングを含めた説明が必要です。

また、数十~数百の遺伝子をまとめて調べるがん遺伝子パネル検査は、個別の遺伝子検査とは目的や保険診療で行う時期が異なります。どの検査をいつ行うかは病状やこれまでの治療によって変わるため、遺伝子検査については後の章で詳しく整理します。

PSMA-PETはPSMA標的治療の適応判定にも使われる

PSMAは前立腺がん細胞の表面に多く発現することがあるタンパク質です。PSMAに結合する放射性医薬品を使ったPET検査では、PSMAを発現する病変を画像として確認することができます。

2025年には、PSMA陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺がんを対象としたルテチウム177-PSMA標的治療が国内で承認され、その適応を判断するための診断用放射性医薬品も承認されました。この場合、PSMA-PETは単に転移を探すだけではなく、PSMAを標的とする治療を行える患者さんかどうかを判断する検査という役割を持ちます。

ただし、ステージ4と診断された患者さん全員が最初からこの治療を受けるわけではありません。PSMA標的治療は去勢抵抗性となった後の治療歴など一定の条件を満たす患者さんで検討するため、初回診断時の一般的な画像検査と治療適応を調べるPSMA-PETを混同しないことが大切です。

参考:国立がん研究センター「前立腺がん 検査」、国立がん研究センター「前立腺がん 治療」、PMDA「治療用放射性医薬品の適応判定を目的として承認された診断用放射性医薬品の情報」

前立腺がんステージ4の治療全体像

前立腺がんステージ4の治療を理解するときは、「ステージ4にはどの薬を使うか」という一つの問いだけでは不十分です。まず遠隔転移がないN1・M0なのか、遠隔転移のあるM1なのかを確認し、M1であれば現在も男性ホルモンを抑える治療に反応している去勢感受性なのか、十分に男性ホルモンを低下させても進行する去勢抵抗性なのかを整理します。

特にM1の前立腺がんでは、治療開始時の転移性去勢感受性前立腺がんと、その後に移行することがある転移性去勢抵抗性前立腺がんでは治療選択が大きく異なります。この時間軸を理解すると、なぜ同じ患者さんでも数年の間に薬が変更・追加されるのかを理解しやすくなります。

現在の状態 治療の主な考え方
N1・M0 遠隔転移はないため、内分泌療法を軸に前立腺・骨盤への放射線治療などを病状に応じて検討する
転移性去勢感受性前立腺がん ADTを治療の土台とし、ARSIやドセタキセル、患者さんによっては3剤併用などで治療を強化する
転移量が限られている一部の患者 全身薬物療法に加え、前立腺への放射線治療など局所治療の追加を検討する場合がある
転移性去勢抵抗性前立腺がん これまで使用した薬、転移部位、症状、遺伝子情報などをもとにARSI、抗がん剤、分子標的薬などを選ぶ
骨転移による痛み・骨折リスクがある 全身治療と並行して鎮痛薬、放射線治療、骨関連イベントへの対策などを行う
治療につながる遺伝子変化がある BRCAなどの遺伝子情報とこれまでの治療歴を確認し、オラパリブなどバイオマーカーに基づく治療や、現在の国内適応に応じたPARP阻害薬併用療法を検討する
前立腺特異的膜抗原陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性 これまでの治療歴など条件を満たす場合に、前立腺特異的膜抗原を標的とするルテチウム177による治療を検討する

転移性前立腺がんではADTが治療の土台になる

前立腺がんの多くは、テストステロンなどのアンドロゲンを利用して増殖します。そのため、遠隔転移がある前立腺がんでは、精巣からのテストステロン産生を大きく低下させるアンドロゲン遮断療法(ADT)が治療の土台になります。

ADTにはLH-RHアゴニストやLH-RHアンタゴニストなどを用いる方法があります。転移性去勢感受性前立腺がんでは、ADT単独と比較して、アンドロゲン受容体シグナル阻害薬やドセタキセルを組み合わせることで生存期間の改善が確認された臨床試験があり、治療を安全に受けられる患者さんでは早い段階から併用療法を検討します。

ただし、転移の量や症状、持病、全身状態によって適切な治療は異なります。治療薬を追加する利益と、副作用や生活への負担を担当医と一緒に確認することが重要です。

これは、以前のように「まずホルモン療法単独を行い、効かなくなってから次の薬を追加する」という考え方だけではなくなったことを意味します。診断時の転移量、年齢、全身状態、心血管疾患などの持病、副作用、本人が重視する生活などを踏まえ、最初からどこまで治療を強化するかを考えます。

去勢感受性から去勢抵抗性へ移行すると治療選択が変わる

ADTによってテストステロンを十分に低下させると、多くの前立腺がんではPSAが低下し、転移病変も縮小・安定します。このように男性ホルモンを抑える治療が効いている段階を「去勢感受性」と呼びます。

しかし、治療を続けているうちに、テストステロンが十分低い状態でもPSAが上昇したり、画像上の病変が増えたり、新しい症状が現れたりすることがあります。この状態が去勢抵抗性前立腺がんであり、去勢抵抗性になったことは「すべての治療が効かなくなった」という意味ではありません。

去勢抵抗性となった後にも、ARSI、ドセタキセルやカバジタキセルなどの抗がん剤、遺伝子変異に応じたPARP阻害薬、骨転移を対象とするラジウム223、条件を満たす患者さんへのPSMA標的治療など複数の治療があります。何を次に使うかは、それまでの治療歴によって大きく変わるため、前立腺がんステージ4では「今の薬」だけでなく、その後の治療順序まで意識して治療計画を立てることが重要です。

骨転移や排尿障害への治療も全身薬物療法と並行して行う

ステージ4前立腺がんでは、がんを抑える治療と症状を和らげる治療を分けて考える必要はありません。骨転移による痛みがあれば鎮痛薬や放射線治療を行い、骨折や脊髄圧迫の危険があればその予防や緊急治療を検討します。

排尿困難や尿閉がある場合にも、内分泌療法が効くまで我慢するのではなく、カテーテルなどによって尿の通り道を確保することがあります。症状を適切に治療することで睡眠、活動量、食事などを保ち、結果として長期間のがん治療を続けやすくなる場合があります。

また、ADTそのものによって骨密度が低下し、骨粗鬆症や骨折リスクが高まることがあります。前立腺がんでは「がんの骨転移」と「ホルモン療法による骨量低下」の両方を考える必要があり、この点は後の骨転移と副作用の章で詳しく説明します。

緩和ケア・支持療法は抗がん治療と同時に受けられる

緩和ケアは、治療ができなくなった後だけに行う医療ではありません。骨の痛み、排尿症状、疲労、不眠、不安、ホルモン療法によるほてりや性機能低下などに対応し、日常生活を維持するために診断時から薬物療法と並行して受けることができます。

前立腺がんはステージ4でも長期間治療を続ける患者さんがいるため、治療による生活への影響を管理することが特に重要です。がんを小さくすることだけでなく、骨や筋肉、代謝、心血管系、性生活などへの影響も確認しながら、病気を抑えることと生活を維持することの両方を目標として治療を続けます。

ここまでが前立腺がんステージ4の治療全体の骨格です。次の章では、転移があってもホルモン療法が効いている「転移性去勢感受性前立腺がん」の一次治療について、ADTにどの薬を追加するのか、現在なぜ治療強化が行われるのかを具体的に説明します。

参考:前立腺がん 治療|国立がん研究センター がん情報サービス、Darolutamide Extends Survival for Some People with Metastatic Prostate Cancer|NCI、プルヴィクト静注 医療用医薬品情報|PMDA

転移性去勢感受性前立腺がんの一次治療

ここから説明する一次薬物療法は、主に骨、遠隔リンパ節、肺、肝臓などへの遠隔転移を有するM1の前立腺がんを対象とします。前立腺がんでは遠隔転移のないN1・M0もステージ4に含まれますが、N1・M0では治療目標や前立腺・骨盤への局所治療の位置づけが異なるため、M1と同じ治療経路で一律に考えることはできません。

M1の前立腺がんでも、診断時には男性ホルモンを抑える治療によく反応する患者さんが多く、この状態を転移性去勢感受性前立腺がんと呼びます。治療の土台になるのはアンドロゲン遮断療法(ADT)ですが、現在はADTにARSIと呼ばれる内分泌療法薬やドセタキセルを早期から組み合わせる治療が重要になっています。一方、重い持病や全身状態などにより併用が難しい場合には、ADTを中心とした治療を検討することもあります。

どの患者さんにも同じ組み合わせが適しているわけではありません。転移の量、診断時から転移していたのか再発後に転移したのか、年齢、全身状態、心血管疾患などの持病、肝機能、併用薬、副作用への耐えやすさなどを確認し、最初からどの程度治療を強化するかを決めます。

ADTで男性ホルモンを低下させることが治療の土台になる

前立腺がんの多くは、テストステロンなどのアンドロゲンから増殖を促す刺激を受けています。そのため、精巣から分泌されるテストステロンを大きく低下させるADTによって、前立腺の原発巣だけでなく骨やリンパ節などの転移巣も同時に治療します。

薬物によるADTでは、LH-RHアゴニストやLH-RHアンタゴニストなどを使用します。LH-RHアゴニストでは治療開始直後に一時的にテストステロンが上昇するフレアアップが起こることがあり、骨転移や尿路閉塞などの病状によっては治療開始方法を慎重に考える必要があります。

精巣を摘出する外科的去勢によってテストステロンを低下させる方法も治療効果の原理は同じですが、現在は薬による治療が広く行われています。ADTを開始するとPSAが大きく低下したり、骨転移による痛みが改善したりする患者さんもいますが、ADT単独で転移性前立腺がんを完全に治すことは一般に困難です。

現在はADT単独よりARSIを早期から加える治療が重要になっている

以前は、転移性前立腺がんにまずADTを行い、効かなくなった段階で別の内分泌療法や抗がん剤へ進む方法が一般的でした。しかし現在は、去勢感受性の段階からアンドロゲン受容体シグナルをより強く抑える新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬(ARSI)などを追加することで、治療を強化する考え方が定着しています。

国内で転移性前立腺がんに使用されるARSIには、エンザルタミドやアパルタミドなどがあります。アビラテロンは、内分泌療法未治療でハイリスクの予後因子を持つ前立腺がんなどに使用され、プレドニゾロンを併用します。ダロルタミドは、国内では遠隔転移を有する前立腺がんに対しドセタキセルとの併用で使用する適応となっています。

これらはすべて「男性ホルモンに関係する薬」ですが、作用の仕方や副作用は同じではありません。したがって、単純にどのARSIが最も強いかを比較するのではなく、患者さんの病状や持病、その後の治療まで考えて選ぶ必要があります。

ARSIの選択では副作用や持病、併用薬も確認する

アビラテロンは、体内でアンドロゲンをつくる酵素を阻害する薬です。高血圧、低カリウム血症、浮腫、肝機能障害などに注意が必要で、プレドニゾロンを併用するため、糖尿病などがある患者さんでは血糖への影響も確認します。

エンザルタミドやアパルタミドは、アンドロゲン受容体からのシグナルを抑える薬です。倦怠感、転倒、骨折、高血圧などに注意し、アパルタミドでは皮疹が問題になることもあります。また、アパルタミドでは、頻度は不明ですが間質性肺疾患、重い皮膚障害、白血球・好中球減少などの重大な副作用も報告されています。新たな咳や息切れ、発熱、皮膚の異常などが現れた場合は、速やかに治療中の医療機関へ連絡することが大切です。薬物相互作用にも注意が必要なため、ほかの医療機関で処方された薬を含め、服用中の薬を医師や薬剤師へ伝えてください。

薬剤ごとの特徴だけではなく、仕事や日常生活も治療選択に関係します。強い疲労やふらつきが仕事へ影響しやすい患者さん、心血管疾患や糖尿病がある患者さん、多くの薬を服用している患者さんなどでは、効果だけでなく副作用と生活への影響を比較しながら治療を選びます。

ADTだけで開始する患者さんもいる

治療強化が重要になったからといって、すべての患者さんにARSIや抗がん剤を追加できるわけではありません。全身状態が大きく低下している場合、重い併存疾患がある場合、薬物相互作用や副作用のリスクが高い場合などには、ADTを中心に治療することがあります。

高齢であることだけを理由に治療強化を断念するわけではなく、逆に若いことだけを理由に強い治療を選ぶわけでもありません。年齢そのものより、日常生活をどの程度維持できているか、臓器機能や持病、副作用に耐えられる状態かを確認して治療強度を決めます。

参考:国立がん研究センター「前立腺がん 治療」、PMDA「イクスタンジ錠 医療用医薬品情報」、PMDA「アーリーダ錠 医療用医薬品情報」、PMDA「ザイティガ錠 医療用医薬品情報」

ドセタキセルと3剤併用療法は誰に使うのか

転移性去勢感受性前立腺がんでは、ADTとARSIによる内分泌療法だけでなく、細胞障害性抗がん薬のドセタキセルを早い段階から組み合わせることがあります。さらに現在は、ADT、ドセタキセル、ARSIの3種類を組み合わせる治療も選択肢となっています。

抗がん剤を早期から使うと聞くと「それだけ病状が悪いということなのか」と感じるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。まだホルモン療法が効く段階から異なる作用の治療を組み合わせ、長期的に病気を抑えることを目的として行います。

ドセタキセルは去勢抵抗性になる前から使う場合がある

ドセタキセルは、細胞分裂に必要な微小管へ作用してがん細胞の増殖を抑える抗がん剤です。以前は主に去勢抵抗性前立腺がんで使用されていましたが、現在は転移性去勢感受性前立腺がんでもADTと組み合わせて使用することがあります。

特に、診断時から多数の転移がある患者さんなどでは、早期にドセタキセルを加える治療が検討されます。一方、化学療法による負担もあるため、転移があるすべての患者さんへ機械的に使用するわけではありません。

臨床試験では「転移量が多いか少ないか」を一定の基準で分けることがあります。代表的なCHAARTED基準では、内臓転移がある場合、または骨転移が4個以上あり、そのうち少なくとも1個が脊椎・骨盤以外にある場合をhigh-volume(ハイボリューム:高腫瘍量)としています。ただし、この分類だけで実際の治療を自動的に決めるわけではなく、診断時期、症状、全身状態なども含めて判断します。

ドセタキセルでは骨髄抑制や感染症などに注意する

ドセタキセルでは、好中球などの血球が減少し、感染症にかかりやすくなる骨髄抑制が重要な副作用です。発熱性好中球減少症を起こすこともあるため、治療後に高熱が出た場合には次回受診まで待たず、医療機関へ連絡する必要があります。

そのほか、倦怠感、食欲低下、脱毛、末梢神経障害、爪の変化、浮腫などがみられることがあります。副作用が強ければ投与量や治療間隔を調整することもあり、「決められた量を最後まで減らさず続けること」自体が治療目的ではありません。

仕事を続けている患者さんでは、投与後どの時期に体調が悪くなりやすいか、感染症に注意する期間はいつかなどを把握しておくと生活予定を立てやすくなります。高齢者でも使用できる場合はありますが、治療前に骨髄機能、肝機能、全身状態などを評価します。

ADT+ドセタキセル+ダロルタミドの3剤併用という選択肢がある

現在、日本では遠隔転移を有する前立腺がんに対して、ADTを継続しながらドセタキセルとダロルタミドを組み合わせる3剤併用療法が選択肢となっています。ダロルタミドの国内添付文書でも、遠隔転移を有する前立腺がんではドセタキセルとの併用で使用することが定められています。

この治療の根拠となったARASENS試験では、新たにADTを開始した転移性ホルモン感受性前立腺がん患者さんを対象として、ADT+ドセタキセルにダロルタミドを追加する治療が比較されました。3種類の治療を最初から組み合わせることで治療効果を高める考え方ですが、その分、患者さんが化学療法を安全に受けられる状態であることが前提になります。

「3剤使う方が2剤より新しいからよい」という選び方ではありません。ドセタキセルを行える全身状態か、転移量がどの程度か、診断時から転移があったのか、持病や本人の希望などを考えたうえで選択します。

治療強化では今後使える薬まで考える

転移性前立腺がんでは治療が数年にわたることもあり、最初の治療だけを見て判断すると、その後の選択肢を理解しにくくなります。去勢感受性の段階でARSIやドセタキセルを使用すると、去勢抵抗性となった後には「すでにどの薬を使ったか」が次の治療を決める重要な情報になります。

したがって、一次治療を選ぶ際には「この治療は現在のがんを抑えるためにどの程度期待できるか」に加えて、「効かなくなった場合に何を使うのか」「今ここで使用することで後の治療はどう変わるのか」まで担当医へ確認すると、長期的な治療計画を理解しやすくなります。

参考:PMDA「ニュベクオ錠 医療用医薬品情報」、PMDA「ニュベクオ錠 審査報告書」

ステージ4でも前立腺への放射線治療を行うことはある?

前立腺がんが骨などへ遠隔転移している場合、「すでに全身へ広がっているなら前立腺そのものを治療する意味はないのでは」と考えるかもしれません。確かにM1前立腺がんの治療では全身薬物療法が中心ですが、転移量が限られている一部の患者さんでは、ADTなどの全身治療に加えて前立腺原発巣へ放射線治療を行うことがあります。

ただし、ステージ4なら全員に前立腺へ放射線を当てればよいわけではありません。転移量が多い患者さんと少ない患者さんでは、原発巣への放射線治療から期待できる利益が同じではないためです。

転移量が少ない患者では前立腺への放射線治療を検討することがある

転移性去勢感受性前立腺がんを対象としたSTAMPEDE試験では、診断時の転移量が少ない患者さんの一部で、全身治療に前立腺への放射線治療を追加することで全生存期間が改善しました。一方、転移量が多い患者さんを含めた試験全体では、全生存期間の改善は確認されませんでした。

したがって、遠隔転移のあるすべての患者さんに前立腺原発巣への放射線治療が必要という意味ではありません。転移量だけでなく、全身治療の内容や排尿症状、治療による負担を考えて判断します。

ここでいう「転移量が少ない」は、単に転移が1個なら対象、2個なら対象外という意味ではありません。臨床試験ごとの定義や転移部位、内臓転移の有無などを確認し、患者さんごとに判断します。

前立腺への放射線治療を行う場合でも、ADTやARSIなどの全身薬物療法をやめるわけではありません。全身のがんを薬物療法で治療しながら、原発巣にも治療を加えるという位置づけです。

前立腺への放射線治療は排尿症状のコントロールにも関係する

前立腺原発巣が大きくなると、尿道や膀胱周囲へ影響して排尿困難や血尿などの症状が出ることがあります。病状によっては、放射線治療を局所症状の改善・予防という観点から検討することもあります。

一方、放射線治療には頻尿、排尿時の違和感、直腸症状、倦怠感などの副作用が起こることがあります。遠隔転移を持つ患者さんでは、全身治療の予定や現在の症状、治療に通う負担まで考えて追加する意味があるかを判断します。

少数転移への定位放射線治療は全身治療の代わりではない

近年は、転移が少数に限られている「オリゴ転移」の患者さんに対し、個々の転移病変へ定位放射線治療などの局所治療を行う研究が進んでいます。ただし、画像で見える転移をすべて治療すれば全身薬物療法が不要になるという治療が確立しているわけではありません。

前立腺がんは画像で確認できる病変以外にも微小ながん細胞が存在する可能性があります。そのため、遠隔転移がある場合には全身治療を基本とし、そのうえで特定の病変へ局所治療を加える利益が期待できるかを検討します。

参考:STAMPEDE試験(原発巣への放射線治療、CC BY 4.0)|UCL Discovery、前立腺がん 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

骨転移がある場合の治療

前立腺がんでは骨転移が多く、ステージ4の患者さんにとって骨の状態を管理することは治療の大きな柱になります。ただし、骨転移があるからといっても、治療の基本はADTやARSIなどによって全身の前立腺がんを抑えることです。

そのうえで、痛み、骨折、脊髄圧迫など現在起きている問題や、将来起こり得る骨関連合併症を防ぐための治療を組み合わせます。

骨転移そのものも全身薬物療法によって治療する

去勢感受性前立腺がんであれば、ADTやARSIなどが骨転移にも作用します。治療がよく効けばPSAが低下し、骨の痛みが軽減する患者さんもいます。

したがって、骨転移が見つかったからといって、すべての骨病変を一つずつ手術や放射線で治療するわけではありません。全身薬物療法を行いながら、特に症状や骨折・神経障害の危険が高い場所へ局所治療を追加します。

痛みのある骨転移には放射線治療が有効な場合がある

骨転移によって腰や背中、骨盤などに強い痛みがある場合には、鎮痛薬だけでなく外部放射線治療を行うことがあります。放射線治療は転移病変へ局所的に照射し、痛みを軽減する目的で広く使われています。

骨が大きく破壊され、骨折する危険が高い場合には整形外科的な固定術などを検討することもあります。特に大腿骨など体重を支える骨では、実際に骨折してからでは生活への影響が大きくなるため、画像所見と痛みの程度を合わせて評価します。

脊椎転移で足の麻痺、しびれ、排尿・排便障害が出た場合には脊髄圧迫の可能性があります。この場合は通常の定期受診を待つのではなく、放射線治療や手術などを含めて速やかに対応する必要があります。

骨修飾薬は「骨転移があるから全員同じように使う」薬ではない

前立腺がんではデノスマブやゾレドロン酸などの骨修飾薬を使用することがありますが、使用目的を分けて考える必要があります。骨転移による骨折などの骨関連事象を防ぐ目的と、ADTによる骨密度低下・骨粗鬆症を予防する目的では、対象となる患者さんや投与方法が同じではありません。

特に骨転移のある去勢抵抗性前立腺がんでは、骨関連事象を減らす目的で骨修飾薬を検討します。一方、去勢感受性の段階で骨転移があるという理由だけから、すべての患者さんへ同じ目的で投与するわけではありません。

デノスマブやビスホスホネート製剤では、顎骨壊死などに注意が必要です。治療前に歯科診察や口腔内の状態を確認し、抜歯などが必要な場合には治療時期について医科と歯科で相談することがあります。

ラジウム223は骨転移のある去勢抵抗性前立腺がんで使う治療

ラジウム223は、カルシウムに似た性質を持つ放射性医薬品で、骨転移部位へ集積してアルファ線を放出する治療です。国内での効能は骨転移のある去勢抵抗性前立腺がんであり、去勢感受性の段階の骨転移へ通常使用する治療ではありません。

また、国内添付文書では内臓転移がある前立腺がんでの有効性・安全性は確立していないとされています。そのため「骨転移があれば使える放射線の薬」と単純に考えることはできず、現在が去勢抵抗性なのか、内臓転移がないか、これまでどの治療を受けてきたかなどを確認して使用を判断します。

ラジウム223では骨髄抑制などに注意が必要です。また、化学療法未治療で、症状がない、または症状が軽い骨転移を有する去勢抵抗性前立腺がんでは、ラジウム223とアビラテロン+プレドニゾロンの併用は推奨されていません。この患者集団を対象とした臨床試験で、ラジウム223を加えた群では死亡率と骨折の発現率が高い傾向が認められたためです。ラジウム223を使用する場合には、現在受けている薬物療法との組み合わせも確認する必要があります。

参考:国立がん研究センター「前立腺がん 治療」、PMDA「ゾーフィゴ静注 医療用医薬品情報」

ホルモン療法の副作用と生活への影響

前立腺がんステージ4では、ADTを数カ月ではなく長期間継続する患者さんも少なくありません。そのため、ホルモン療法によってがんを抑えられているかだけでなく、治療を続けることで体や生活にどのような影響が起きるかを確認することも重要です。

副作用は治療開始直後だけに起こるものではありません。ほてりなど比較的早い時期から現れる症状もあれば、筋肉量低下、骨密度低下、代謝への影響など長期間治療を続ける中で問題になりやすい変化もあります。

ほてり・発汗・性機能の変化が起こることがある

テストステロンが低下すると、突然体が熱くなるホットフラッシュ、ほてり、発汗などが現れることがあります。夜間に繰り返す場合には睡眠に影響し、日中の疲労につながる患者さんもいます。

また、性欲低下や勃起障害などの性機能障害が起こりやすくなります。こうした変化は生命に直接関わる副作用ではありませんが、本人やパートナーの生活の質へ大きく影響することがあるため、相談しにくいからといって我慢する必要はありません。

治療薬によっては乳房が大きくなる女性化乳房や乳頭の痛みなどがみられる場合もあります。症状が生活上の負担になっている場合には、治療内容を確認しながら対処方法を相談します。

筋肉量が減り、脂肪が増えやすくなる

ADTによってテストステロンが低下すると、筋肉量が減少し、体脂肪が増えやすくなることがあります。体重だけを見ると大きく変わっていなくても、筋肉が減って脂肪が増えている場合があります。

筋力が落ちると、階段を上る、長く歩く、荷物を持つといった日常動作が以前よりつらくなることがあります。高齢者では転倒やフレイルにもつながるため、治療を開始してから活動量を極端に落とさないことが重要です。

病状や骨転移の場所によって安全にできる運動は異なりますが、可能であれば有酸素運動や筋力トレーニングを生活に取り入れます。骨転移がある患者さんでは、無理な負荷によって骨折しないよう主治医やリハビリテーションスタッフと相談して運動内容を調整します。

骨密度低下・骨粗鬆症・骨折にも注意する

ADTを長期間行うと骨密度が低下し、骨粗鬆症や骨折のリスクが高くなります。ここで注意したいのは、前立腺がんの骨転移とADTによる骨粗鬆症は別の問題だということです。

骨転移がなくてもADTによって骨量が低下することがあるため、治療期間、年齢、過去の骨折、骨密度などを確認し、必要に応じて骨粗鬆症への対策を行います。カルシウムやビタミンD、運動、薬物療法などを患者さんの状態に応じて検討します。

一方、骨転移がある患者さんでは、がんによる骨の障害と治療による骨量低下の両方を考える必要があります。骨折リスクの評価では「骨転移があるか」だけでなく、どの骨にどのような病変があるのかを確認します。

糖尿病・脂質異常症・心血管疾患なども長期的に確認する

男性ホルモンを長期間低下させる治療は、体重増加、血糖や脂質代謝の変化などと関連します。もともと糖尿病、高血圧、脂質異常症、心血管疾患などがある患者さんでは、前立腺がん治療と並行してこれらの病気を管理することが重要です。

アビラテロンでは高血圧、低カリウム血症、浮腫などに注意が必要であるなど、ADTへ追加する薬によっても確認項目が変わります。前立腺がんの薬だけを見るのではなく、内科で処方されている薬や血圧、血糖、体重なども含めて治療を管理します。

長期間治療する場合には、「PSAが下がっているから副作用は我慢する」という考え方ではなく、がんを抑えながら生活機能を保てるよう対策を行うことが重要です。

体調がよくても自己判断でホルモン療法を中止しない

ADTやARSIによってPSAが低下し、画像上の転移が小さくなっても、それだけで体内から前立腺がんが完全になくなったとは判断できません。治療によってがんが抑えられているからこそ良好な状態が続いている可能性があります。

副作用が強い場合には、薬の変更、休薬、支持療法などを検討できる場合がありますが、自己判断で薬を減らしたり中止したりすると病気が再び進行する可能性があります。生活上つらい副作用がある場合には、治療そのものを諦める前に担当医へ具体的に伝え、改善できる方法がないかを相談します。

参考:国立がん研究センター「前立腺がん 治療」

去勢抵抗性前立腺がんとは

ADTやARSIなどの治療を開始すると、多くの転移性前立腺がんではPSAが低下し、転移病変も縮小または安定します。しかし、治療を長く続ける中で、十分にテストステロンが低下した状態でも前立腺がんが再び進行することがあります。この状態を去勢抵抗性前立腺がんと呼びます。

「ホルモン療法が効かなくなった」と説明されることもありますが、男性ホルモンとの関係が完全になくなったという意味ではありません。また、去勢抵抗性になったからといって治療選択肢がなくなるわけでもなく、現在は複数の薬剤や放射性医薬品、遺伝子情報を利用した治療があります。

テストステロンが十分低い状態でも病気が進むと去勢抵抗性を考える

去勢抵抗性かどうかを判断するときには、ADTによってテストステロンが去勢レベルまで十分低下していることを前提として、PSAの上昇や画像上の病変の増大、新しい転移の出現などを確認します。

PSAが1回上昇しただけで直ちに去勢抵抗性と決めるわけではありません。測定値の推移、画像検査、症状、テストステロン値などを合わせて病状を評価し、本当に現在の治療で病気が進行しているのかを確認します。

また、PSAの上昇と画像上の進行が常に同じ時期に起こるとは限りません。PSAの変化が小さくても画像上で病変が進行する場合もあるため、治療中は血液検査だけに頼らないことが重要です。

去勢抵抗性になってもADTは基本的に継続する

「ADTを行っているのに進行したのであれば、ADTをやめても同じではないか」と考えるかもしれません。しかし、去勢抵抗性になった前立腺がんでもアンドロゲン受容体経路が病気の進行に関係していることがあります。

そのため、一般にはテストステロンを低い状態に保つADTを継続したうえで、別の治療を追加・変更します。去勢抵抗性となった後の薬も、「ADTの代わりに使う」というより、去勢状態を維持しながら次の治療を組み合わせるという考え方が基本です。

去勢抵抗性になった時点で、これまで使った薬を整理する

現在は去勢感受性の段階からARSIやドセタキセルを使用するため、去勢抵抗性となった患者さんの治療歴は人によって大きく異なります。ADTだけで治療してきた患者さんと、すでにアパルタミドやエンザルタミド、ドセタキセルなどを使用した患者さんでは、次の治療候補も同じではありません。

去勢抵抗性になった段階では、これまで使用したARSI、ドセタキセルの使用歴と効果、副作用、骨転移や内臓転移の有無、BRCAなどの遺伝子情報、PSMAの発現などを整理します。この情報をもとに、抗がん剤、分子標的薬、ラジウム223、PSMA標的治療などをどの順番で使用するかを検討します。

特に、作用が似たARSIから別のARSIへ変更しても十分な効果が得られにくい場合があるため、「次も同じ種類の飲み薬を使えばよい」と単純には決められません。治療歴と病気の性質を踏まえて、作用の異なる薬へ切り替えることも重要になります。

去勢抵抗性=末期、治療終了ではない

去勢抵抗性という言葉から、「もうホルモン療法が効かないので治療は終わり」と受け取る患者さんもいます。しかし、現在の転移性去勢抵抗性前立腺がんには、ARSI、ドセタキセル、カバジタキセル、PARP阻害薬、ラジウム223、ルテチウム177-PSMA標的治療など複数の選択肢があります。

どの治療を選べるかは、これまでの治療、転移部位、全身状態、遺伝子検査、PSMA検査などによって変わります。したがって、去勢抵抗性への移行は「治療がなくなる時点」ではなく、治療の選び方を組み直す時点と考える方が実際の診療に近い理解です。

参考:国立がん研究センター「前立腺がん 治療」

転移性去勢抵抗性前立腺がんの治療

転移性前立腺がんにADTなどを続けていても、十分にテストステロンが低下した状態でPSAが上昇したり、画像上の病変が増大したりすることがあります。このような転移性去勢抵抗性前立腺がんでは、これまでに使用した薬、転移している場所、症状、遺伝子検査の結果などを確認し、次の治療を選びます。

現在は去勢感受性の段階からARSIやドセタキセルを使用する患者さんが増えているため、「去勢抵抗性になったら最初にこの薬を使う」という一つの順番ですべての患者さんを説明することはできません。ADTだけで治療してきた患者さんと、すでにARSIやドセタキセルまで使用した患者さんでは、その後に残っている治療選択肢が異なるためです。

ARSIはこれまでの使用歴を確認して選ぶ

去勢抵抗性前立腺がんでは、アビラテロンやエンザルタミドなどのARSIが治療選択肢になります。ただし、去勢感受性の段階ですでにARSIを使用している場合には、その薬に対して病気が進行したという情報を踏まえて次の治療を考える必要があります。

同じARSIの中でも薬ごとに作用の仕方は完全に同じではありませんが、アンドロゲン受容体経路を標的とするという共通点があります。そのため、あるARSIで明らかに病気が進行した後に、別のARSIへ変更すれば必ず同じ程度の効果が得られるとは限りません。

治療歴によっては、作用機序の異なる抗がん剤やPARP阻害薬、放射性医薬品などへ切り替える方が適している場合があります。薬の名前だけでなく、「これまで何にどの程度反応し、どの治療で進行したのか」を整理することが、去勢抵抗性になった後の治療選択では重要です。

ドセタキセルをまだ使用していない場合は抗がん剤を検討する

ドセタキセルは、転移性去勢抵抗性前立腺がんでも重要な抗がん剤です。去勢感受性の段階でまだドセタキセルを使用していない患者さんでは、全身状態やそれまでの治療歴を踏まえて使用を検討します。

抗がん剤を使用するかどうかは、PSA値だけで決めるわけではありません。骨や内臓への転移の広がり、症状の進行速度、骨髄機能、肝機能、感染症リスク、日常生活をどの程度保てているかなどを確認します。

ドセタキセルでは好中球減少や発熱性好中球減少症、倦怠感、脱毛、末梢神経障害などに注意が必要です。副作用のリスクと病気を抑える利益を比較しながら、投与量や治療間隔を調整して継続します。

ドセタキセル後にはカバジタキセルが選択肢になる

カバジタキセルは、ドセタキセルと同じタキサン系に分類される抗がん剤ですが、ドセタキセルによる治療後に進行した去勢抵抗性前立腺がんでも効果が期待できる薬です。国内添付文書では前立腺がんを効能とし、外科的または内科的去勢を行って進行・再発した患者さんが対象で、化学療法を受けていない前立腺がんでの有効性・安全性は確立していないとされています。

特に、ドセタキセルとARSIの両方をすでに使用して病気が進行した患者さんでは、別のARSIへ変更するのか、カバジタキセルなど作用の異なる治療へ進むのかが重要な判断になります。病気の進行速度が速い場合や内臓転移がある場合には、細胞障害性抗がん剤を選択する意味が大きくなることもあります。

カバジタキセルでは強い好中球減少や発熱性好中球減少症などの骨髄抑制に特に注意します。感染症につながる可能性があるため、治療前の血液検査だけでなく、投与後に発熱した場合の連絡方法についても確認しておく必要があります。

治療歴・転移部位・遺伝子情報によって別の治療も加わる

転移性去勢抵抗性前立腺がんでは、ARSIや抗がん剤以外にも複数の治療があります。BRCA1・BRCA2などの遺伝子変異がある場合にはオラパリブなどのPARP阻害薬が治療選択に関係し、骨転移の状態によってはラジウム223を検討することがあります。

さらに、PSMAを発現する病変が確認され、これまでの治療歴など国内の適応条件を満たす場合には、ルテチウム177を使ったPSMA標的治療も選択肢になります。2026年時点ではPARP阻害薬の国内適応も変化しているため、「遺伝子変異がある患者さんだけがPARP阻害薬の対象」と一括りにすることも正確ではありません。

このように去勢抵抗性となった後の治療は、単純な一本道ではありません。これまで使った治療、治療への反応、副作用、骨・内臓転移、遺伝子情報、PSMAの発現、全身状態を組み合わせて、その時点で利益が期待できる治療を選びます。

参考:国立がん研究センター「前立腺がん 治療」、PMDA「ジェブタナ点滴静注60mg 医療用医薬品情報」

BRCAなどの遺伝子検査で治療が変わることがある

前立腺がんでは、病期、転移量、ホルモン療法への反応だけでなく、BRCA1・BRCA2などの遺伝子情報が治療選択に関係する患者さんがいます。特に転移性去勢抵抗性前立腺がんでは、遺伝子検査の結果によってオラパリブなどの治療につながる場合があります。

一方、2026年現在のPARP阻害薬には、BRCA遺伝子変異が適応条件となるオラパリブと、効能・効果そのものにはBRCAなどDNA修復に関係する遺伝子変異の有無が条件として付いていないタラゾパリブ+エンザルタミドがあります。そのため「PARP阻害薬は遺伝子変異が見つかった患者さんだけが対象になる」と一括りに考えることはできません。遺伝子情報だけでなく、それまでに受けた治療も確認して治療を選びます。

遺伝子検査には、がん細胞に生じた変化を調べる検査と、生まれつき持っている遺伝子変化を調べる検査があります。さらに、多数の遺伝子を一度に調べるがん遺伝子パネル検査もあり、それぞれ調べる目的や治療との関係、保険診療で実施する時期が異なります。

BRCA1・BRCA2の変異はPARP阻害薬の治療選択に関係する

BRCA1とBRCA2は、傷ついたDNAを修復する仕組みに関係する遺伝子です。これらの遺伝子に病的な変化があるがん細胞ではDNA修復機能が低下しており、その弱点を利用する治療としてPARP阻害薬が使用されます。

国内では、BRCA遺伝子変異陽性で遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺がんに対してオラパリブが承認されています。使用には承認された検査でBRCA遺伝子変異が確認されていることが必要です。オラパリブ単剤とアビラテロン+プレドニゾロンとの併用では対象となる治療歴などの条件が異なるため、BRCA遺伝子変異があることだけで使用方法が決まるわけではありません。

オラパリブでは貧血、好中球減少、血小板減少などの骨髄抑制に注意が必要です。PARP阻害薬は遺伝子変異が見つかれば副作用なく使用できる薬ではないため、治療前と治療中に血液検査などを行いながら継続できるか判断します。

BRCA変異には腫瘍だけの変化と生まれつきの変化がある

前立腺がんでBRCA遺伝子変異が見つかった場合、その変異ががん細胞だけに生じた体細胞変異なのか、生まれつき体の細胞に存在する生殖細胞系列の病的バリアント(病気の原因に関わると考えられる遺伝子の変化)なのかを考える必要があります。

生殖細胞系列のBRCA1・BRCA2病的バリアントは、患者さん本人の前立腺がん治療だけでなく、乳がん、卵巣がん、膵臓がんなどを含む遺伝性腫瘍のリスクや血縁者にも関係する可能性があります。そのため、生殖細胞系列の変化が疑われたり確認されたりした場合には、遺伝カウンセリングを含めて情報の意味を整理することがあります。

一方、治療薬の適応判定では腫瘍組織や血液を用いた検査など複数の方法があります。検査ごとに「何を調べているのか」「治療薬を選ぶ検査なのか」「遺伝性の可能性まで分かる検査なのか」を確認しておくことが大切です。

2026年にはタラゾパリブ+エンザルタミドの国内適応が拡大した

PARP阻害薬については、2026年に国内の治療環境が変わっています。タラゾパリブは2024年に国内で使用できるようになったPARP阻害薬ですが、2026年3月の効能変更によって、現在は遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺がんに対し、エンザルタミドと併用して使用する適応となっています。

現行の国内添付文書では、前立腺がんに対する効能・効果そのものにBRCAやHRR遺伝子変異陽性という条件は付いていません。この点は、BRCA遺伝子変異陽性が適応条件となっているオラパリブとは異なります。

したがって、2026年時点では「PARP阻害薬はBRCA変異が見つかった患者さんしか使えない」とするのは不正確です。一方、患者さんの遺伝子背景によって期待できる治療効果が異なる可能性や、これまで使用したARSIなども治療選択に関係するため、単に新しい薬という理由で選ぶものでもありません。

タラゾパリブでは貧血、好中球減少、血小板減少などの骨髄抑制が重要な副作用で、腎機能によって開始用量の調整が必要になる場合があります。治療開始前と治療中の血液検査を行い、副作用によって休薬や減量を行いながら治療します。

MSI-Highなど別のバイオマーカーが治療につながることもある

前立腺がんでも、ごく一部の患者さんではMSI-High(高頻度マイクロサテライト不安定性)などの特徴が確認され、国内の適応条件を満たす場合に免疫チェックポイント阻害薬が治療候補になることがあります。これは前立腺がん患者さん全体に免疫療法が有効という意味ではなく、特定のバイオマーカーを持つ患者さんに限って検討する治療です。

治療標的となる遺伝子変化やバイオマーカーを幅広く探す目的で、がん遺伝子パネル検査を検討することもあります。ただし、保険診療で行うがん遺伝子パネル検査には実施時期などの条件があり、進行前立腺がんと診断された時点で全員が同じ検査を受けるわけではありません。

前立腺がんでは治療期間が長くなることも多いため、遺伝子検査を「すべての標準治療がなくなってから初めて考える検査」と決めつけず、将来どの治療につながる可能性があるかを担当医と確認しておく意味があります。

参考:国立がん研究センター「前立腺がん 治療」、PMDA「リムパーザ錠 医療用医薬品情報」、PMDA「ターゼナカプセル 医療用医薬品情報」

177Lu-PSMA標的治療とは

2025年、PSMA陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺がんに対して、ルテチウム177を用いる放射性リガンド療法「ルテチウム177-PSMA標的治療」が国内で承認されました。使用される薬剤はルテチウムビピボチドテトラキセタン(商品名:プルヴィクト)です。

この治療は、体の外から転移巣へ放射線を照射する通常の外部放射線治療とは仕組みが異なります。PSMAという前立腺がん細胞の表面に多く発現するタンパク質を目印として薬をがん細胞へ届け、体内から放射線を照射してがん細胞を攻撃します。

治療前にPSMA-PETでPSMA陽性かを確認する

プルヴィクトは、転移性去勢抵抗性前立腺がんであれば誰でも使用できる薬ではありません。治療前に専用のPSMA-PET検査を行い、治療標的となるPSMAを十分に発現している病変があることを確認する必要があります。

PSMA-PETでは、PSMAへ結合するガリウム68標識薬を投与し、がん病変にどの程度集積するかをPET画像で確認します。2025年にはプルヴィクトとともに、治療対象を選ぶための診断用放射性医薬品も国内で承認されています。

PSMA-PETで前立腺がんらしい病変が見えることと、プルヴィクトの適応になることは同じ意味ではありません。この治療では、専用検査によってPSMA陽性であることに加え、病期やこれまでの治療歴なども確認して対象患者を選びます。

2026年時点では化学療法を受けていない患者さんも対象になる場合がある

プルヴィクトの対象について、「抗がん剤をすべて使い切った後だけに行う治療」と理解するのも現在では正確ではありません。国内の患者向け適正使用資料では、PSMA陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺がんのうち、1種類のARSIを使用し、化学療法をまだ受けていない患者さん、またはARSIと化学療法の両方をすでに受けた患者さんが対象として示されています。

去勢抵抗性になる前の転移性去勢感受性前立腺がんの段階でARSIや化学療法を使用していた患者さんも、その治療歴を含めて適応を判断します。そのため、「去勢抵抗性になってから何を使ったか」だけでなく、診断時から現在までの治療歴全体を確認することが必要です。

この適応の広がりによって、ドセタキセルなどの化学療法をまだ行っていない患者さんでもプルヴィクトが候補になる場合があります。ただし、国内添付文書では、タキサン系抗がん剤の適応となる患者さんについて、その抗がん剤による治療の実施も慎重に検討して適応を判断することが求められています。

全身状態、病気の進行速度、ほかに使用できる薬、骨髄機能や腎機能なども踏まえ、どの治療を優先するかを個別に検討します。化学療法未治療であることだけを理由に、プルヴィクトを優先するという意味ではありません。

6週間ごとに投与し、体の中から放射線を届ける

プルヴィクトは静脈から投与し、PSMAへ結合した薬剤から放出される放射線によってがん細胞を攻撃します。国内の患者向け資料では、通常6週間ごとに計6回投与し、全体の治療期間は約8カ月と説明されています。

投与後には体内に放射性物質が残るため、通常の抗がん剤とは異なる放射線管理が必要です。投与当日や退院後には、家族や周囲の人への放射線被ばくを減らすための生活上の注意があり、医療機関から具体的な説明を受けます。

放射性医薬品を使用する治療ですが、外から全身へ放射線を当てるわけではありません。PSMAを発現する前立腺がん細胞へ薬を届けることで、病変へ放射線を集中させることを目的とした治療です。

骨髄抑制や腎機能障害などの副作用に注意する

プルヴィクトでは、貧血、血小板減少、白血球・好中球減少などの骨髄抑制が起こることがあります。前立腺がんでは骨転移が多く、すでに骨髄機能が低下している患者さんもいるため、治療前と治療中に血液検査を行い、安全に次の投与を行えるか確認します。

腎機能障害にも注意が必要です。薬剤の一部は腎臓を介して排泄されるため、もともと腎機能が低下している場合には治療前から状態を確認し、治療中も経過をみます。

そのほか、口の渇き、吐き気、食欲低下、倦怠感などがみられることがあります。副作用によっては投与を延期したり減量したりするため、決められた6回を何があっても予定どおり行うことが目的ではありません。

「最新治療だから今までの治療より優れている」と単純には考えない

177Lu-PSMA標的治療は、これまでとは異なる仕組みで前立腺がんを治療できる重要な選択肢です。ただし、すべての前立腺がんに有効な治療ではなく、PSMA陽性かどうか、これまでのARSIや抗がん剤の使用歴、病気の進行速度、骨髄機能、腎機能などによって適応が決まります。

転移性去勢抵抗性前立腺がんには、ドセタキセルやカバジタキセル、PARP阻害薬、ラジウム223などほかの治療もあります。したがって、プルヴィクトを「最後に残された治療」と決めつけることも、「新しいから最初に選ぶべき治療」と考えることも適切ではありません。

現在の治療がどこまで効いているのか、次に使える治療が何種類あるのか、その中でPSMA標的治療をどの段階に置くのかを担当医と確認することが重要です。このように治療選択肢が増えていることも、前立腺がんステージ4の生存率や余命を過去の統計だけで判断できない理由の一つです。

参考:PMDA「プルヴィクト静注 医療用医薬品情報」、国立がん研究センター「前立腺がん 治療」

前立腺がんステージ4の生存率

前立腺がんステージ4と診断された患者さんや家族にとって、「5年後にどのくらいの人が生存しているのか」は気になる情報の1つです。前立腺がんのステージ4には、遠隔転移のないN1・M0から、骨や肺、肝臓などへ遠隔転移したM1まで幅広い病状が含まれ、内分泌療法が長期間有効な患者さんもいます。

そのため「前立腺がんステージ4の生存率」という集団の数字を、骨転移や内臓転移がある患者さん個人の予後へそのまま当てはめることはできません。生存率を見る際には、自分がN1・M0なのかM1なのか、M1であれば転移部位や転移量がどの程度なのかも合わせて考える必要があります。

ステージ4の5年ネット・サバイバルは60.1%

国立がん研究センターの院内がん登録では、2014~2015年に前立腺がんと診断された患者さんの病期別生存率が公開されています。ステージ4の5年実測生存率は51.1%、他の病気による死亡の影響をできるだけ除いて算出した5年ネット・サバイバルは60.1%でした。

診断後の期間ごとのネット・サバイバルを見ると、1年93.2%、2年83.9%、3年74.9%、4年66.7%、5年60.1%となっています。

診断からの期間 ステージ4のネット・サバイバル
1年 93.2%
2年 83.9%
3年 74.9%
4年 66.7%
5年 60.1%

この結果から、前立腺がんではステージ4であっても、診断から5年以上生存する患者さんが少なくないことが分かります。一方、5年ネット・サバイバル60.1%を「自分が5年後に生存している確率は60.1%」と考えることも適切ではありません。

ステージ4の中にN1・M0とM1が含まれていることに注意する

前立腺がんの生存率を解釈するときに特に注意したいのが、ステージ4という分類の幅です。前立腺がんでは、骨や臓器への遠隔転移がなく、骨盤内の所属リンパ節にだけ転移しているN1・M0もステージ4に分類されます。

一方、M1には遠隔リンパ節転移、骨転移、肺や肝臓などへの転移が含まれます。同じM1であっても、少数の骨転移だけがある患者さんと、多数の骨転移や肝転移を伴う患者さんでは、その後の経過は同じではありません。

したがって、院内がん登録の「ステージ4」という集団には病状の異なる患者さんが含まれており、5年ネット・サバイバル60.1%を「骨転移のある前立腺がんの5年生存率」と読み替えることはできません。生存率を見るときには、自分がN1・M0なのかM1なのか、M1であればどこにどの程度転移しているのかを確認する必要があります。

2014~2015年診断例は現在の治療環境を十分に反映していない

もう1つ注意したいのが、生存率の対象となった時期です。この統計は2014~2015年に診断された患者さんのデータであり、その後の前立腺がん治療の変化を十分には反映していません。

現在は、転移性去勢感受性の段階からARSIを追加する治療や、患者さんによってはADT、ARSI、ドセタキセルによる3剤併用を行うようになっています。去勢抵抗性となった後にも、カバジタキセル、PARP阻害薬、ラジウム223に加え、2025年には国内でルテチウム177-PSMA標的治療が承認されるなど、治療選択肢は増えています。

そのため、この60.1%は前立腺がんステージ4の長期的な傾向を理解するためには重要ですが、2026年に新たに治療を開始する患者さんの治療成績をそのまま示した数字ではありません。現在の治療を受ける患者さんの見通しを考えるには、病状と治療内容を踏まえた臨床試験のデータも合わせて考える必要があります。

他ステージの生存率や治療法については、以下の記事で詳しく紹介しています。

参考:国立がん研究センター「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム 前立腺がん」、国立がん研究センター「前立腺がん 治療」

前立腺がんステージ4の余命はどのくらい?

前立腺がんステージ4と診断されたとき、「実際にはあと何年くらい生きられるのか」と考える患者さんや家族は少なくありません。しかし、前立腺がんステージ4の平均余命を一律に「○年」と示すことはできません。

前立腺がんでは、N1・M0と遠隔転移のあるM1で病状が異なるだけでなく、M1になってからも、男性ホルモンを抑える治療が効いている去勢感受性の時期と、去勢抵抗性へ移行した後では治療成績が大きく異なります。さらに、転移量や転移先、治療への反応、使える後治療によっても生存期間には大きな幅があります。

転移性去勢感受性では数年以上の経過をたどる患者さんも多い

現在の転移性去勢感受性前立腺がんでは、ADTだけではなくARSIなどを早期から追加することで長期的な治療成績が改善しています。代表的なTITAN試験では、転移性去勢感受性前立腺がんに対して、ADTにアパルタミドを追加する治療が評価されました。

米国国立がん研究所(NCI)の独自解説では、試験開始から約2年後に生存していた患者の割合はアパルタミド併用群で約82%、比較群で約74%と紹介されています。これは対象となった患者集団と追跡時点での結果であり、現在ステージ4と診断されたすべての患者さんの余命や生存率を示すものではありません。

このように、転移性去勢感受性前立腺がんでは薬物療法によって生存期間の延長が期待できます。ただし、同じ病期でも転移量や病気の性質、薬への反応は異なるため、臨床試験の数字を個人の見通しへそのまま当てはめないことが大切です。

3剤併用でも4年時点で生存している患者さんが多く報告されている

ADT+ドセタキセルにダロルタミドを追加したARASENS試験でも、転移性ホルモン感受性前立腺がんにおける生存期間の改善が示されています。NCIの独自解説では、試験開始から4年後に生存していた患者さんは、ダロルタミドを加えた3剤併用群で約63%、ADT+ドセタキセル群で約50%と報告されています。

臨床試験・対象 主な全生存期間データ
TITAN試験
転移性去勢感受性
約2年後の生存割合:アパルタミド+ADT群で約82%、比較群で約74%
ARASENS試験
転移性ホルモン感受性
4年後の生存割合:約63%(ダロルタミド+ADT+ドセタキセル群)、約50%(比較群)

これらの数字は、「前立腺がんステージ4なら4~5年生きられる」という意味ではありません。臨床試験には治療を受けられる一定の全身状態を持つ患者さんが参加しており、治療内容や患者背景も異なります。

一方で、遠隔転移のある前立腺がんでも、現在の治療では数年以上にわたり病気をコントロールできる患者さんが実際に存在することを理解する参考にはなります。

去勢抵抗性になった後の生存期間も治療段階によって大きく異なる

転移性去勢抵抗性前立腺がんへ移行した後も、「平均余命は○カ月」と一つの数字で示すことはできません。去勢抵抗性になった直後で使用できる薬が多く残っている患者さんと、複数の治療をすでに行った患者さんでは、臨床試験の対象も治療成績も異なるためです。

たとえば、ドセタキセル治療後に進行した去勢抵抗性前立腺がんの患者さんを対象とした臨床試験では、カバジタキセル群の全生存期間中央値が15.1カ月、比較対象のミトキサントロン群が12.7カ月でした。NCIの独自解説で確認できる結果ですが、この数字は特定の治療歴を持つ患者集団に対する治療開始後の中央値です。「去勢抵抗性前立腺がんになった時点からの余命」を表すものではありません。

同様に、PSMA陽性で既治療の転移性去勢抵抗性前立腺がんを対象としたVISION試験では、ルテチウム177-PSMA標的治療を加えた群の全生存期間中央値は15.3カ月、比較群は11.3カ月でした。この試験も特定の治療歴とPSMA陽性という条件を満たした患者さんのデータであり、ステージ4前立腺がん全体の余命を示した数字ではありません。

余命は転移量・転移先・治療への反応によって大きく変わる

同じ遠隔転移のある前立腺がんでも、少数の骨転移だけがある患者さんと、多数の骨転移や肝転移を伴う患者さんでは経過が異なります。一般に病気の広がりだけでなく、全身状態、がんの悪性度、治療開始後のPSA低下、去勢抵抗性へ移行するまでの期間なども見通しに関係します。

特に治療開始後の反応は重要な情報です。診断時には同じように見える患者さんでも、治療によってPSAが非常に低い値まで下がり、その状態が長期間続く場合と、短期間で再上昇する場合では、その後の経過が異なる可能性があります。

また、BRCAなど治療につながる遺伝子変化があるか、去勢抵抗性になった後に抗がん剤、PARP阻害薬、ラジウム223、PSMA標的治療などを使用できるかによっても、その後の治療期間は変わります。現在の前立腺がんでは治療選択肢が複数あるため、診断時の病期だけからその後の生存期間を予測することには限界があります。

治療が効いている患者さんでは診断時の「余命」を固定して考えない

たとえば診断から3年が経過し、治療によってPSAが低く保たれ、画像でも病気が安定している患者さんに対して、診断時の統計から「あと○年」と単純に差し引いて考えることはできません。すでに3年間治療へ反応しながら生存しているという新しい情報が加わっているためです。

余命について知りたい場合には、「平均すると何年ですか」と聞くだけではなく、現在の転移量や治療反応を踏まえて「今の状態ではどの程度の期間を想定して治療を考えているのか」「病状が順調な場合と進行が速い場合ではどの程度幅があるのか」と担当医へ尋ねる方法があります。統計的な中央値と、現在の患者さん自身の病状を分けて説明してもらうことで、仕事や家族との時間、今後の生活について考えやすくなります。

参考:More Treatment Options Emerging for Some Men with Metastatic Prostate Cancer(TITAN試験)|NCI、Darolutamide Extends Survival for Some People with Metastatic Prostate Cancer(ARASENS試験)|NCI、Prostate Cancer Treatment(PDQ)(カバジタキセル)|NCI、PSMA Radiopharmaceutical Effective against Prostate Cancer(VISION試験)|NCI

前立腺がんステージ4は完治できるのか

「ステージ4でも完治する可能性はありますか」という問いに対する答えは、前立腺がんではN1・M0とM1を分けて考える必要があります。前立腺がんのステージ4には遠隔転移のない患者さんも含まれるため、「ステージ4はすべて完治できない」と説明することは正確ではありません。

一方、骨、遠隔リンパ節、肺、肝臓などへの遠隔転移があるM1前立腺がんでは、現在の標準治療で体内のがん細胞を完全に取り除き、将来的にも再発しない状態を得ることは一般に難しいと考えられています。ただし、完治が難しいことと、短期間しか生きられないことは同じ意味ではありません。

N1・M0では長期的な病勢制御や根治を目指す治療を検討する

所属リンパ節に転移があっても、骨や臓器などへの遠隔転移がないN1・M0では、内分泌療法だけでなく前立腺や骨盤への放射線治療を組み合わせるなど、長期的な病勢制御を目指した治療を行います。患者さんの年齢や病状によって治療内容は異なりますが、M1の遠隔転移性前立腺がんと同じように「根治を目指せない状態」と一律に扱うものではありません。

このため、ステージ4と告げられた時点で「もう治すための治療はできない」と判断するのではなく、まず遠隔転移があるのかを確認することが重要です。N1・M0なのかM1なのかによって治療目標そのものが異なる場合があります。

M1では一般に根治は難しいが、長期間病気を抑えられることがある

遠隔転移があるM1前立腺がんでは、ADT、ARSI、抗がん剤などによって前立腺原発巣と転移巣を全身的に治療します。治療によってPSAが測定できないほど低くなったり、画像上の病変が大きく縮小したりする患者さんもいますが、これは必ずしも体内から前立腺がん細胞が完全になくなったことを意味しません。

治療を中止すると再び病気が増殖する可能性があるため、治療がよく効いている患者さんでもADTなどを長期間継続することが一般的です。一方、現在の薬物療法によって数年以上病気を抑え、日常生活を維持している患者さんも少なくありません。

前の章で示したように、転移性去勢感受性前立腺がんの臨床試験では4年以上生存している患者さんが多く、ステージ4の公的統計でも5年ネット・サバイバルは60.1%です。「完治が難しい」と「長期生存できない」は別の話として理解する必要があります。

少数転移への局所治療を行っても「完治した」とは限らない

転移量が少ない患者さんでは、薬物療法に加えて前立腺原発巣への放射線治療を行うことがあります。また、少数の転移病変へ定位放射線治療などを行う研究も進んでいます。

しかし、画像で確認できる転移をすべて治療できたからといって、検査では見えない微小ながん細胞まで完全になくなったことを証明できるわけではありません。そのため、遠隔転移のある患者さんに局所治療を追加することと、「転移をすべて消せば完治できる」という考え方は分ける必要があります。

治療の目的は患者さんによって異なり、病気の進行を長期間抑えること、症状を防ぐこと、生活を維持すること、次の治療までの期間を延ばすことなども重要な目標です。治療を提案された際には、その治療が根治を目指しているのか、長期的な病勢制御を目指しているのかを確認すると、治療の意味を理解しやすくなります。

PSAが低くなっても自己判断で「治った」と判断しない

前立腺がんではPSAが治療効果を見る重要な指標であり、ADTやARSIがよく効くと非常に低い値まで下がることがあります。PSAが測定限界近くまで低下することは良好な治療反応を示す重要な情報ですが、それだけで前立腺がんが完全に消失したとは判断できません。

治療中にはPSAだけでなく、画像検査、症状、テストステロン値などを組み合わせて病状を評価します。PSAが低い状態が続いている場合にも、処方されている薬を自己判断で中止せず、どの程度治療を続ける予定なのかを担当医へ確認することが重要です。

参考:国立がん研究センター「前立腺がん 治療」

前立腺がんステージ4の治療を選ぶときに確認したいこと

前立腺がんステージ4では、診断時に使用する薬だけを理解しても、その後の治療全体を把握することはできません。遠隔転移の有無、転移量、現在が去勢感受性なのか去勢抵抗性なのか、これまでに使用した治療、遺伝子検査などを順番に整理することで、自分にその治療が勧められている理由を理解しやすくなります。

以下の表は、国立がん研究センターの患者向け解説と、PMDAが公開している国内承認情報などを参照して、この記事の編集上の判断として作成した確認項目です。公的機関が同じ形式のチェックリストを推奨しているという意味ではなく、担当医との相談で確認したい論点を整理したものです。

確認したいこと 確認する意味
遠隔転移はあるか N1・M0とM1では治療目的や局所治療の位置づけが異なる
どこにどの程度転移しているか 骨、遠隔リンパ節、肺、肝臓などの転移部位や量は治療選択や見通しに関係する
現在は去勢感受性か去勢抵抗性か 同じ転移性前立腺がんでも治療の選択肢が大きく異なる
治療をどこまで強化するか 内分泌療法薬やドセタキセルを組み合わせるかを転移量や全身状態から判断する
前立腺への放射線治療を行う意味があるか 転移量が限られている一部の患者では全身治療への追加を検討することがある
骨転移への対策は十分か 痛み、骨折、脊髄圧迫への治療と、ホルモン療法による骨量低下の両方を確認する
これまでにどの薬を使用したか 去勢抵抗性になった後の薬の順番は過去の治療歴によって変わる
BRCAなどの遺伝子検査を行ったか 遺伝子情報によってPARP阻害薬などが治療選択に関係する場合がある
がん遺伝子パネル検査を行う時期か 個別の遺伝子検査とは目的や保険診療での実施条件が異なる
ルテチウム177標的治療の候補になるか 去勢抵抗性となった後、専用検査と治療歴などの条件を満たせば検討できる場合がある
ホルモン療法の副作用対策は十分か 骨、筋肉、血糖、脂質、心血管系などへの長期的な影響を確認する
現在の治療目的は何か 根治、長期的な病勢制御、症状軽減、次の治療への移行など治療の目的を確認する

前立腺がんステージ4では治療選択肢が多いため、「もっと新しい薬はないか」と探すだけでは治療全体を理解しにくい場合があります。セカンドオピニオンを受ける際にも、現在の治療選択が適切か、治療強化の程度は妥当か、遺伝子検査が必要か、今後去勢抵抗性となった場合にどの治療が残っているかなど、具体的な疑問を整理して相談すると比較しやすくなります。

特に長期間治療を続ける前立腺がんでは、がんを抑える効果だけでなく、骨や筋肉、代謝、仕事、日常生活への負担を含めて治療を考える必要があります。現在の治療が何を目的としており、次にどのような選択肢があるのかを理解することが、治療を続けるうえで重要です。

参考:国立がん研究センター「前立腺がん 治療」

まとめ|ステージ4でも現在の病状によって治療や余命は大きく変わる

前立腺がんステージ4には、骨盤内の所属リンパ節転移だけがあるN1・M0と、骨、遠隔リンパ節、肺、肝臓などへ遠隔転移したM1の両方が含まれます。そのため「ステージ4」と診断されたことだけでは治療方法も余命も決まりません。

遠隔転移がある場合にはADTが治療の土台となり、去勢感受性の段階からARSIやドセタキセルなどを組み合わせて治療を強化します。患者さんによっては3剤併用や前立腺への放射線治療を検討し、骨転移による痛みや骨折、脊髄圧迫などに対しても全身治療と並行して対応します。

治療を続けて去勢抵抗性へ移行しても、それだけで治療が終了するわけではありません。これまでの治療歴に応じてARSI、ドセタキセル、カバジタキセル、PARP阻害薬、ラジウム223などを検討でき、2025年からは条件を満たす患者さんにルテチウム177-PSMA標的治療も国内で使用できるようになっています。

前立腺がんでは遺伝子情報も治療選択に関係します。BRCA1・BRCA2などの変化によってPARP阻害薬が治療候補になる場合があり、2026年にはタラゾパリブ+エンザルタミドの国内適応も変化しているため、過去の治療情報だけで現在の選択肢を判断しないことが重要です。

一方、遠隔転移のある前立腺がんでは一般に完治は難しく、治療がよく効いてPSAが非常に低くなっても、自己判断で治療を中止することはできません。ただし、完治が難しいことは短期間しか生きられないことを意味するものではなく、現在の治療では、遠隔転移があっても数年以上にわたり病気を抑えながら生活する患者さんもいます。

前立腺がんステージ4では、治療経過の中で去勢感受性から去勢抵抗性へ病状が変化し、それまでに受けた治療に応じて次の選択肢を考えていくことが特徴です。治療を考える際には、遠隔転移の有無と転移量、現在が去勢感受性か去勢抵抗性か、これまで使用した薬、遺伝子情報、現在の治療への反応、今後利用できる治療を一つずつ確認し、その時点に合った治療を選んでいくことが重要です。

前立腺がんは、男性の膀胱の下にある前立腺に発生するがんです。日本では2023年に102,094例が新たに診断され、男性の部位別がん罹患数では1位となっています。2023年のデータに基づく生涯罹患リスクは11.2%で、男性のおよそ9人に1人が一生のうちに前立腺がんと診断される計算です。

一方で、前立腺がんはすべてが同じ速さで進行する病気ではありません。長期間ほとんど変化せず、すぐには治療を必要としないがんがある一方、前立腺の外へ広がったり、リンパ節や骨などへ転移したりするがんもあります。そのため、前立腺がんと診断された後は「がんがあるかどうか」だけではなく、どこまで広がっているのか、どの程度悪性度が高いのか、今すぐ治療が必要なのかを確認することが重要です。

診断ではPSA(前立腺特異抗原)検査、MRI、前立腺生検などを組み合わせ、病期(ステージ)とリスク分類を評価します。治療には監視療法、手術、放射線治療、ホルモン療法を含む薬物療法などがあり、年齢や健康状態だけでなく、排尿機能や性機能など治療後の生活も考えて選択します。

この記事では、前立腺がんの初期症状、原因・リスク、PSA検査、診断、ステージ、治療法、副作用、再発、ステージ別生存率まで、2026年時点の情報をもとに解説します。

参考:国立がん研究センター「がん統計 前立腺」、国立がん研究センター「最新がん統計」

前立腺がんとは

前立腺は男性だけにある臓器で、膀胱のすぐ下に位置し、尿道を取り囲むような形をしています。前立腺液を分泌して精液の一部をつくる役割があり、前立腺液には腫瘍マーカーとして利用されるPSAというタンパク質も含まれています。

前立腺がんは、この前立腺の細胞が異常に増殖することで発生します。多くは腺がんで、比較的ゆっくり進行するものが多い一方、悪性度が高く早い段階から前立腺の外へ広がるがんもあります。

初期には症状が出にくい

前立腺がんは、早期では自覚症状がほとんどないことが特徴です。前立腺がんが発生しやすい部位は尿道から離れた前立腺の外側であるため、がんが小さい段階では尿道を圧迫しにくいことが理由の1つです。

一方、前立腺肥大症は尿道に近い部分が大きくなりやすいため、頻尿や尿の出にくさなどが目立ちます。前立腺肥大症と前立腺がんは別の病気であり、肥大症がそのままがんへ変化するわけではありませんが、両方が同時に存在することはあります。

進行速度は患者ごとに大きく異なる

前立腺がんでは、診断されても長期間ほとんど進行しない低リスクがんがあります。このような場合には、すぐに手術や放射線治療を行わず、定期検査を続けながら必要になった時点で治療へ切り替える監視療法が標準的な選択肢になります。

一方、悪性度の高いがんでは前立腺の外へ浸潤し、リンパ節や骨などへ転移する可能性があります。そのため治療の必要性を判断するときには、腫瘍の大きさだけではなく、ステージ、PSA値、グリーソンスコア、グレードグループなどを組み合わせて評価します。

参考:国立がん研究センター「前立腺がんについて」

前立腺がんの原因とリスク

前立腺がんが発生する原因を、一人ひとりの患者について特定することは通常できません。一方、発症リスクとの関連が比較的明確に確認されている要因として、高年齢と前立腺がんの家族歴があります。

前立腺がんは年齢とともに増加し、特に高齢男性で多く診断されます。また、父親や兄弟など血縁者に前立腺がんになった人がいる場合には、家族歴がない人より発症リスクが高くなることが知られています。

遺伝的要因が関係する場合がある

一部の前立腺がんでは、BRCA2をはじめとする遺伝子の病的変化が関係することがあります。家族内に前立腺がん、乳がん、卵巣がん、膵がんなどを発症した人が複数いる場合や、比較的若い年齢で前立腺がんを発症した場合などには、遺伝的背景を考慮することがあります。

遺伝子検査は発症原因を調べるだけではなく、進行した前立腺がんで使用する薬を選ぶために行われる場合もあります。家族への影響を伴う生殖細胞系列の検査では、必要に応じて遺伝カウンセリングも含めて検討します。

食事・肥満・喫煙などとの関係は研究段階のものも多い

肥満、食事内容、カルシウム摂取、喫煙などと前立腺がんとの関係について多くの研究がありますが、国立がん研究センターは、高年齢や家族歴のように明らかな発生要因とは位置づけていません。

したがって、「食生活が欧米化したから前立腺がんになった」「特定の食品を避ければ前立腺がんを予防できる」と単純に考えることは適切ではありません。禁煙、節度ある飲酒、バランスのよい食事、運動、適正体重の維持はがん全般や生活習慣病の予防には重要ですが、前立腺がんだけを確実に防ぐ方法は確立されていません。

前立腺がんの検診について

PSA検査は前立腺がんを見つけるうえで重要な検査ですが、日本では前立腺がんは国が指針として定める対策型がん検診の対象にはなっていません。自治体、職場、人間ドックなどでPSA検査を受ける場合には、早い段階のがんを発見できる可能性がある一方、生命に影響しないがんまで発見する過剰診断などの課題があることも理解しておく必要があります。

PSA検査を受けるかどうか迷う場合には、年齢や家族歴なども踏まえて医師と相談する方法があります。すでに排尿症状や骨の痛みなどがある人が受ける検査は「検診」とは異なり、症状の原因を調べるための診療として行われます。

参考:国立がん研究センター「前立腺がん 予防・検診」

前立腺がんの初期症状・進行したときの症状

早期の前立腺がんは、多くの場合ほとんど症状がありません。そのため、健康診断や人間ドックなどでPSA値の異常を指摘されたことから精密検査へ進み、がんが見つかることがあります。

症状がないことは「がんがない」ことを意味しませんが、反対に排尿症状があるからといって前立腺がんとは限りません。高齢男性では前立腺肥大症など良性疾患による排尿症状も非常に多いため、症状だけで診断することはできません。

進行すると排尿症状が現れることがある

前立腺内でがんが大きくなったり尿道付近まで広がったりすると、尿が出にくい、尿の勢いが弱い、排尿回数が増える、残尿感があるなどの症状が現れることがあります。血尿や血精液症が生じる場合もありますが、いずれも前立腺がんだけに特有の症状ではありません。

これまでなかった排尿症状が続く場合や血尿がみられる場合には、自己判断せず泌尿器科で原因を確認することが重要です。症状の程度とがんの進行度は必ずしも一致しないため、症状が軽くても必要に応じて検査を行います。

骨転移によって痛みが出る場合がある

前立腺がんは進行するとリンパ節や骨へ転移しやすい特徴があります。骨転移では腰、背中、骨盤などの痛みが続いたり、骨が弱くなって骨折しやすくなったりすることがあります。

背骨への転移によって脊髄が圧迫されると、足のしびれや筋力低下、排尿・排便障害などが現れることがあります。このような神経症状が急に出た場合には緊急の治療が必要になることがあるため、速やかな受診が必要です。

ステージ4の病状や骨転移などについては、前立腺がんステージ4の記事で詳しく解説しています。

参考:国立がん研究センター「前立腺がんについて」

PSA検査とは

PSAは「前立腺特異抗原」と呼ばれるタンパク質で、主に前立腺でつくられています。前立腺がんによって前立腺組織が壊れると血液中へPSAが漏れ出すため、血液検査によって前立腺がんの可能性を調べる腫瘍マーカーとして使用されます。

ただし、PSAが高いことと前立腺がんであることは同じ意味ではありません。前立腺肥大症、前立腺炎などでも上昇することがあり、反対に基準値内であっても前立腺がんが見つかる場合があります。

PSA値の目安

一般的には4.0ng/mL以下が基準値として用いられますが、年齢による違いを考慮した基準もあります。国立がん研究センターでは、50~64歳では3.0ng/mL以下、65~69歳では3.5ng/mL以下、70歳以上では4.0ng/mL以下を推奨値として紹介しています。

PSA値が10ng/mLを超えても前立腺がんが見つからないことがある一方、4.0ng/mL以下でもがんが見つかることがあります。100ng/mLを超えるような著しい高値では前立腺がんが強く疑われ、転移を伴っている可能性も考えて詳しい検査を行います。

1回の数値だけでなく変化の仕方も確認する

PSAは1回の値だけではなく、以前の検査と比べてどのように変化しているかも判断材料になります。また、前立腺の体積に対するPSA値を示すPSA densityなどをMRI所見と組み合わせ、生検が必要かどうかを判断することがあります。

一方、数値の変化だけで前立腺がんを確定することはできません。PSAが高い場合には、直腸診やMRIなどを行い、必要に応じて前立腺生検へ進みます。

参考:国立がん研究センター「前立腺がん 検査」、国立がん研究センター「前立腺がん 予防・検診」

前立腺がんの検査と診断

PSA値や症状などから前立腺がんが疑われた場合には、直腸診、MRI、前立腺生検などを組み合わせて診断します。前立腺がんと確定した後は、病理学的な悪性度と、前立腺外やリンパ節・骨などへの広がりを調べることが治療選択につながります。

現在は「PSAが高ければすぐ生検」という単純な流れではなく、MRIによって疑わしい病変の有無を確認し、生検の必要性や採取する場所を検討することも一般的になっています。

MRI検査

MRIでは、前立腺の内部にがんを疑う病変がないか、前立腺の外へ広がっていないかなどを確認します。複数の撮像方法を組み合わせたマルチパラメトリックMRIが用いられ、生検前の評価や生検する場所を決めるために活用されます。

MRIで疑わしい病変があった場合でも、画像だけで前立腺がんを確定することはできません。確定診断には原則として組織を採取して顕微鏡で調べる病理診断が必要です。

前立腺生検

前立腺生検では細い針で前立腺の組織を複数採取し、がん細胞の有無を調べます。針を直腸側から刺す経直腸生検と、肛門と陰嚢の間の皮膚から刺す経会陰生検があり、施設や患者の状態に合わせて方法を選びます。

MRIで見つかった病変を狙って組織を採取するMRI標的生検も行われています。ただし、生検でがんが見つからなくてもPSA高値が続く場合などには、その後の経過によって再検査が必要になることがあります。

グリーソンスコアとグレードグループ

前立腺がんでは、がん細胞の形や配列から悪性度を評価するグリーソンスコアが重要です。最も多い組織パターンと次に多いパターンを組み合わせて6~10で表し、数字が大きいほど一般に悪性度が高くなります。

現在はグリーソンスコアに対応したグレードグループも広く用いられています。たとえばグリーソンスコア3+4=7と4+3=7は同じ合計7でも後者の方が悪性度が高いため、別のグレードグループとして評価されます。

グレードグループ グリーソンスコア 悪性度の目安
1 6以下 低い
2 3+4=7 中間
3 4+3=7 中間~高い
4 8 高い
5 9~10 非常に高い

転移を調べる画像検査

前立腺がんと診断された後は、リスクに応じてCT、MRI、骨シンチグラフィなどを行い、リンパ節や骨、その他の臓器への転移を調べます。すべての早期患者に同じ検査を行うのではなく、悪性度や病期などから必要性を判断します。

PSMA PETは前立腺がん細胞に多く発現する前立腺特異的膜抗原を利用して病変を画像化する検査です。海外では病期診断や再発部位の検索にも利用されていますが、日本で2025年に承認されたガリウム68ゴゼトチドを用いる診断は、PSMA標的治療であるプルヴィクトの適応判定を目的とした位置づけであり、すべての前立腺がん患者に一般的な病期診断として行う検査ではありません。

参考:国立がん研究センター「前立腺がん 検査」、PMDA「治療用放射性医薬品の適応判定を目的として承認された診断用放射性医薬品」

前立腺がんのステージとリスク分類

前立腺がんでは、がんがどこまで広がっているかを示す「ステージ」と、転移のないがんが今後進行・再発する可能性を評価する「リスク分類」の両方が重要です。ステージが同じでも悪性度や腫瘍マーカー値が異なれば、適した治療が変わることがあります。

ステージを考える際にはTNM分類に加えて、PSA値とグレードグループも重要です。Tは前立腺とその周囲への広がり、Nは骨盤内の所属リンパ節転移、Mは遠隔転移の有無を表します。次の表は、これらを組み合わせた予後ステージ分類の大まかな目安です。

ステージ 主な状態
Ⅰ期 前立腺内に限局し、前立腺特異抗原値10ng/mL未満、グレードグループ1などの条件を満たす。所属リンパ節転移・遠隔転移はない
Ⅱ期 前立腺内に限局しているが、前立腺特異抗原値やグレードグループなどがⅠ期より高い。所属リンパ節転移・遠隔転移はない
Ⅲ期 前立腺外へ広がる場合のほか、前立腺内にとどまっていても前立腺特異抗原値20ng/mL以上、またはグレードグループ5の場合など。所属リンパ節転移・遠隔転移はない
Ⅳ期 所属リンパ節への転移(N1)、または骨・遠隔リンパ節・ほかの臓器への遠隔転移(M1)がある

前立腺がんでは「ステージ4=必ず遠隔転移」とは限りません。所属リンパ節への転移があるN1・M0もⅣ期に含まれるため、同じステージ4でも病状や治療方針は異なります。

なお、この表はTNM分類にPSA値・グレードグループを加えた予後ステージ分類を、理解しやすいよう簡略化したものです。実際にはⅠ~Ⅳ期がさらに細かい病期に分かれ、判定には複数の条件の組み合わせが用いられます。正確な病期は担当医に確認し、治療方針は次に説明するリスク分類や健康状態なども踏まえて検討します。

ステージ4の分類、骨転移、治療、生存率や余命について詳しく知りたい場合は、前立腺がんステージ4の記事もあわせてご覧ください。

転移がない前立腺がんではリスク分類も重要

転移がない場合には、腫瘍の広がり、グリーソンスコア、PSA値、生検結果などから低リスク、中間リスク、高リスクなどへ分類します。たとえば同じⅡ期でも、悪性度やPSA値によって監視療法が適する場合と、手術や放射線治療を積極的に考える場合があります。

リスク分類 主な評価の目安
超低リスク T1c、グリーソンスコア6、前立腺特異抗原値10未満に加え、生検陽性本数や密度など一定の条件を満たす
低リスク T1~T2a、グリーソンスコア6、前立腺特異抗原値10未満
中間リスク T2b~T2c、グリーソンスコア7、前立腺特異抗原値10~20など
高リスク T3a、グリーソンスコア8~10、前立腺特異抗原値20超など
超高リスク・局所進行性 T3b~T4や、非常に悪性度が高い病理所見などを伴う

リスク分類は治療を機械的に決めるためのものではありません。年齢、期待余命、持病、排尿機能、治療によって守りたい生活なども含めて最終的な方針を決めます。

参考:前立腺がん 治療|国立がん研究センター がん情報サービス、Prostate Cancer Treatment(PDQ)|米国国立がん研究所(NCI)

前立腺がん治療の全体像

前立腺がんでは、すぐ治療した方がよい患者もいれば、積極的治療を急がない方が生活の質を保ちやすい患者もいます。そのため「がんと診断されたから手術」という一方向の考え方ではなく、病状に応じて治療の目的を整理することが重要です。

主な治療方針は次のように考えます。

病状 主に検討される治療
超低~低リスク 監視療法、手術、放射線治療など。病状によって局所療法を検討する場合がある
中間リスク 手術、放射線治療。放射線ではリスクに応じてホルモン療法を組み合わせる
高~超高リスク・局所進行 手術または放射線治療を中心に、ホルモン療法などを組み合わせた集学的治療
リンパ節転移・遠隔転移あり ホルモン療法を土台とした全身薬物療法が中心。病状に応じて放射線治療などを組み合わせる

同じリスク分類でも、70歳で大きな持病がない人と、85歳で心臓病など複数の持病がある人では治療による利益と負担が異なります。前立腺がんでは「がんだけを見る」のではなく、治療しなかった場合の進行リスクと治療による生活への影響を比較して考えることが重要です。

参考:国立がん研究センター「前立腺がん 治療」

監視療法とフォーカルセラピー

悪性度が低く進行する可能性が低い前立腺がんでは、すぐに根治治療を行わない方法があります。その代表が監視療法で、一定の患者では標準的な治療選択肢です。

一方、監視療法と前立腺全体を対象とする根治治療の中間として、がんがある部分を中心に治療するフォーカルセラピーも研究・実施されています。それぞれ目的と確立度が異なるため、同じ「前立腺を残す方法」と考えずに分けて理解する必要があります。

監視療法

監視療法は、治療を諦めることではありません。すぐに治療しなくても生命への影響が小さいと考えられる前立腺がんについて、PSA検査、直腸診、MRI、生検などを定期的に行い、進行の兆候が現れた段階で根治治療へ切り替える方法です。

手術による尿失禁や性機能障害、放射線治療による排尿・排便への影響を、必要になるまで避けられることが大きな利点です。一方、定期的な検査を続ける必要があり、「がんを治療せずに持っている」ことへの心理的な負担を感じる人もいます。

フォーカルセラピー

フォーカルセラピーは、画像や生検で位置を特定した前立腺内の病変を選択的に治療し、正常な前立腺組織をできるだけ残す考え方です。低~中間リスクの限局性前立腺がんの一部で検討されますが、手術や放射線治療と同じだけの長期的根治性が確立している治療ばかりではありません。

高密度焦点式超音波を利用する局所治療についても国内で臨床研究が続いています。治療を希望する場合には、「自分が適応になるか」だけでなく、保険診療・先進医療・臨床研究のどの位置づけなのか、長期成績がどこまで分かっているのかを確認することが大切です。

参考:国立がん研究センター「前立腺がん 治療」、厚生労働省 臨床研究情報ポータルサイト「前立腺癌に対する高密度焦点式超音波療法の臨床研究」

前立腺がんの手術

手術では、前立腺と精嚢を摘出し、膀胱と尿道をつなぎ直す前立腺全摘除術を行います。限局性前立腺がんを中心に根治を目的として行われますが、局所進行性の一部でも治療全体の計画の中で手術が選択される場合があります。

現在はロボット支援下前立腺全摘除術が広く行われています。ただし、ロボットを使用すること自体が治療成績を決めるわけではなく、がんの状態、術式、神経温存が可能か、術者・施設の経験なども重要です。

尿失禁

前立腺は尿道を取り囲んでいるため、摘出後には尿を保持する機能が一時的に低下し、尿漏れが起こることがあります。多くの場合は手術後の時間経過や骨盤底筋訓練によって改善しますが、回復の程度や期間には個人差があります。

尿失禁が長く続き生活への影響が大きい場合には、薬物療法や人工尿道括約筋など追加の治療を検討することがあります。手術前には「尿漏れが起こるか」だけではなく、どの程度続く可能性があるのか、改善しない場合にどのような治療があるのかまで確認するとよいでしょう。

性機能への影響

前立腺の周囲には勃起に重要な神経が走っているため、前立腺全摘除術後には勃起機能が低下することがあります。がんの位置や広がりから安全に神経を残せる場合には神経温存手術を検討しますが、がんを十分に取り切ることが優先される場合には温存できないこともあります。

また、前立腺と精嚢を摘出するため、手術後は精液が出なくなります。将来子どもを持つことを希望する場合には、治療開始前に妊孕性温存について相談する必要があります。

参考:国立がん研究センター「前立腺がん 治療」、国立がん研究センター「前立腺がん 療養」

前立腺がんの放射線治療

放射線治療は、手術と並んで限局性・局所進行性前立腺がんの根治を目指せる治療です。体の外から放射線を当てる外照射療法と、前立腺内へ放射線源を配置する組織内照射療法があり、リスク分類や前立腺の状態などによって方法を選びます。

中間リスク以上では、再発リスクに応じてホルモン療法を一定期間併用することがあります。放射線だけを行うのか、ホルモン療法を組み合わせるのか、組み合わせる場合にどの程度の期間行うのかが治療計画の重要なポイントになります。

外照射療法

現在の外照射では、周囲の膀胱や直腸への線量を抑えながら前立腺へ放射線を集中させるIMRTが広く利用されています。1回あたりの線量を増やして治療期間を短縮する寡分割照射や、選択された患者ではさらに少ない回数で行う定位放射線治療を検討する場合もあります。

放射線治療では手術のように前立腺を摘出しませんが、治療中から治療後に頻尿、排尿時痛、直腸出血などが生じることがあります。症状が数年後に現れる晩期障害もあるため、治療終了後も経過観察を続けます。

小線源療法

小線源療法では、放射線を出す小さな線源を前立腺内へ留置する方法などによって内部から照射します。主に限局性前立腺がんが対象となり、リスクによっては外照射やホルモン療法と組み合わせる場合があります。

前立腺の大きさや排尿状態、これまでに受けた手術などによって適応が異なります。治療方法を比較するときには根治性だけでなく、治療期間、通院回数、排尿や性機能への影響を含めて検討することが重要です。

手術と放射線治療は単純に優劣を決められない

限局性前立腺がんでは、手術と放射線治療のどちらも根治を目指せる治療です。がんのリスク、年齢、期待余命、排尿機能、性機能、通院条件などによって適した選択肢は変わります。

手術では摘出した前立腺を詳しく病理診断できることや、その後のPSA評価が比較的分かりやすいという特徴があります。放射線治療では手術を避けられる一方、治療期間や晩期の排尿・消化管症状など別の負担があるため、治療前に自分が何を優先したいのかを整理することが大切です。

参考:国立がん研究センター「前立腺がん 治療」

前立腺がんの薬物療法

前立腺がんの薬物療法は、ホルモン療法だけを独立して考えるよりも、男性ホルモンを抑える治療を土台として、病状に応じて別の薬を組み合わせると理解すると分かりやすくなります。

特に転移性前立腺がんでは治療選択肢が大きく増えており、診断時にホルモン療法が効く「去勢感受性」の状態なのか、十分に男性ホルモンを抑えているにもかかわらず病気が進行する「去勢抵抗性」の状態なのかによって治療が異なります。ここでいう「去勢」は精巣を摘出する手術だけを指すものではなく、薬によってテストステロンを十分に低下させた状態も含む医学用語です。

アンドロゲン除去療法

前立腺がんの多くは男性ホルモンであるアンドロゲンを利用して増殖します。このため、精巣からのテストステロン産生を低下させる薬などを使うアンドロゲン除去療法が、進行前立腺がんの治療の土台になります。

以前はアンドロゲン除去療法だけを長期間続けることも多くありましたが、現在の転移性前立腺がんでは、病状に応じてアンドロゲン受容体シグナル阻害薬や抗がん剤を早期から組み合わせ、治療を強化することが重要になっています。

アンドロゲン受容体シグナル阻害薬

アビラテロン、エンザルタミド、アパルタミド、ダロルタミドなどは、男性ホルモンの産生や受容体を介した働きを強く抑える薬です。転移性去勢感受性前立腺がんや去勢抵抗性前立腺がんなど、薬によって使用できる病状が異なります。

どの薬を選ぶかは、転移量、これまでの治療、心血管系の持病、転倒リスク、併用薬なども考慮します。同じ「ホルモンの作用を抑える薬」であっても副作用や使用条件は同じではありません。

抗がん剤

ドセタキセルは、転移性去勢抵抗性前立腺がんだけでなく、初めて転移性前立腺がんと診断された去勢感受性の段階でも、病状によって使用されます。また、去勢抵抗性となった後にはカバジタキセルなどが治療候補になる場合があります。

抗がん剤では白血球・好中球減少、感染症、脱毛、末梢神経障害、倦怠感などが問題になることがあります。治療効果だけでなく、年齢、全身状態、既往症、これまでの副作用を確認して使用できるかを判断します。

遺伝子検査とPARP阻害薬

去勢抵抗性前立腺がんでは、BRCA1・BRCA2などDNA修復に関係する遺伝子異常を調べることが、治療選択につながる場合があります。PARP阻害薬の適応条件は薬剤や併用療法ごとに異なるため、「BRCA変異があればPARP阻害薬」「変異がなければ使えない」と一律には説明できません。

特にタラゾパリブは2026年3月に国内の効能・効果が変更され、エンザルタミドとの併用による遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺がんについて、現行の効能・効果には、BRCAなどDNA修復に関係する遺伝子変異があること自体は条件として付されていません。一方、遺伝子異常はほかの治療選択や遺伝性腫瘍の評価にも関係するため、検査の意義がなくなったわけではありません。

PSMA標的放射性リガンド療法

2025年には、ルテチウム177を用いた放射性リガンド療法であるプルヴィクトが国内承認されました。対象はPSMA陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺がんで、治療前に承認された診断用医薬品を用いてPSMA陽性病変があることを確認します。

この治療は「新しいからすべての進行前立腺がんに使用する」ものではありません。これまでに受けたアンドロゲン受容体シグナル阻害薬や、タキサン系抗がん剤を行うべきかなどを含めて適応を判断します。

転移性去勢感受性前立腺がん、去勢抵抗性前立腺がん、PARP阻害薬、プルヴィクトを含む治療順序については、前立腺がんステージ4の記事で詳しく解説しています。

参考:国立がん研究センター「前立腺がん 治療」、PMDA「ターゼナ 医療用医薬品情報」、PMDA「プルヴィクト 医療用医薬品情報」

前立腺がん治療の副作用と生活への影響

前立腺がんは長期にわたって経過をみる患者が多いため、治療効果だけではなく、治療後の生活の質を考えることが重要です。治療方法によって排尿、排便、性機能、骨や筋肉、体重、仕事などへの影響が異なります。

副作用は「治療だから仕方がない」と我慢するものではありません。早く相談することで症状を軽減できたり、治療方法や投与量を調整できたりする場合があります。

手術による影響

手術では尿失禁と性機能障害が代表的な合併症です。尿失禁は時間とともに改善する人が多い一方、回復までの期間や程度には個人差があり、日常生活や仕事に影響する場合があります。

勃起機能についても、年齢、手術前の機能、神経温存の可否などによって回復の可能性が変わります。治療前に排尿と性機能の両方について具体的な見通しを確認しておくことが重要です。

放射線治療による影響

放射線治療では、治療中から頻尿、排尿時の違和感、下痢、直腸の違和感などが起こることがあります。治療終了後しばらくして改善する症状もありますが、数カ月から数年後に血尿や直腸出血などの晩期障害が起こる場合もあります。

性機能低下も時間の経過とともに現れることがあります。手術とは副作用が出る時期や特徴が異なるため、「どちらの治療なら副作用がないか」ではなく、どのような影響を自分が受け入れやすいかを比較します。

ホルモン療法による影響

男性ホルモンを低下させる治療では、ほてり、発汗、性欲低下、勃起機能低下、筋力低下、体脂肪増加、骨密度低下などが起こることがあります。長期治療では糖代謝や脂質代謝、心血管リスクなどにも注意が必要です。

運動、食事、骨の健康管理などを治療と並行して行うことが重要になります。骨粗しょう症リスクが高い場合には骨密度検査や薬物療法を検討することもあります。

仕事や日常生活への影響

前立腺がんでは治療を受けながら仕事を続けられる人も多くいますが、手術後の尿漏れ、放射線治療の通院、ホルモン療法による疲労や筋力低下などが仕事に影響する場合があります。治療を決める際には、病気だけではなく通院頻度や仕事内容、介護・家庭生活なども医療者へ伝えておくと治療計画を考えやすくなります。

治療後の生活について困りごとがある場合には、泌尿器科医だけでなく、看護師、リハビリテーション、がん相談支援センターなども利用できます。長期間治療を続けることがある病気だからこそ、生活をできるだけ維持しながら治療を続けられる方法を考えることが重要です。

参考:国立がん研究センター「前立腺がん 治療」、国立がん研究センター「前立腺がん 療養」

前立腺がんのステージ別生存率

前立腺がんは、がん全体の中でも比較的生存率の高いがんです。全国がん登録による2018年診断例の前立腺がん全体の5年相対生存率は95.7%となっています。

ただし、前立腺がんの予後はステージによって大きく異なります。特にリンパ節転移や遠隔転移を含むステージⅣでは、Ⅰ~Ⅲ期と比べて生存率が低下します。

国立がん研究センターの院内がん登録2014~2015年診断例による5年ネット・サバイバルは次のとおりです。

ステージ 対象数 5年ネット・サバイバル
Ⅰ期 29,438例 100.0%
Ⅱ期 22,329例 100.0%
Ⅲ期 11,587例 98.5%
Ⅳ期 10,319例 60.1%

ここで用いているネット・サバイバルとは、がん以外の死因の影響を統計的に除き、「そのがんだけが死因となる状況」を仮定して算出する指標です。前述した2018年診断例の5年相対生存率95.7%とは、診断年、患者集団、計算方法が異なるため、直接比較する数字ではありません。

また、この表は2014~2015年当時の病期区分に基づく集計です。前述したPSA値やグレードグループを含む予後ステージ分類とは、各病期に含まれる患者さんの条件が完全に一致するわけではありません。そのため、現在の病期分類で診断された患者さんの見通しに、この表の数値をそのまま当てはめることはできません。

Ⅰ~Ⅲ期の生存率が高い理由

Ⅰ期・Ⅱ期は前立腺内にとどまるがんが中心で、病状に応じて監視療法、手術、放射線治療などを検討します。Ⅲ期には前立腺外へ広がるがんのほか、前立腺内にとどまっていてもPSA値やグレードグループによってⅢ期に分類されるがんが含まれます。遠隔転移がない患者さんでは、手術、放射線治療、ホルモン療法などを病状に応じて組み合わせ、根治や長期的な病勢コントロールを目指します。

また、前立腺がんには比較的ゆっくり進行するタイプが多いことも、生存率が高くなる背景の1つです。ただし同じステージでもグリーソンスコアやリスク分類によって再発リスクは異なるため、「5年生存率が高い=治療や経過観察が不要」という意味ではありません。

ステージⅣで生存率が低下する理由

ステージⅣには、遠隔転移はないものの所属リンパ節へ転移しているN1・M0と、骨や遠隔リンパ節、肺、肝臓などへ遠隔転移しているM1の両方が含まれます。

特にM1では、画像で確認できる病変だけでなく全身に存在する可能性のあるがん細胞を考えて治療する必要があるため、薬物療法が治療の中心になります。一方、N1・M0では前立腺や骨盤への局所治療も含めて治療方針を検討します。このようにステージⅣには病状の異なる患者さんが含まれるため、Ⅰ~Ⅲ期より生存率が低い一方、ステージⅣの数字だけから個人の見通しを判断することはできません。

ただし、ステージⅣの60.1%を、現在ステージ4と診断された個人の「5年後に生きている確率」とそのまま考えることはできません。この統計は2014~2015年診断例であり、その後アンドロゲン受容体シグナル阻害薬の早期使用、治療強化、PARP阻害薬、PSMA標的放射性リガンド療法など治療選択肢が変化しています。

さらにステージⅣには所属リンパ節転移のみの患者と、多数の遠隔転移を持つ患者の両方が含まれます。ステージ4の生存率や余命、転移部位、現在の治療成績については、前立腺がんステージ4の記事で詳しく解説しています。

参考:国立がん研究センター「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム 前立腺がん」、国立がん研究センター「がん統計 前立腺」

前立腺がんの再発とPSA再発

前立腺がんでは、手術や放射線治療によって画像上がんが確認できなくなった後も、PSA検査を続けます。画像に病変が見えるより先にPSAが上昇することがあり、この状態を生化学的再発、またはPSA再発と呼びます。

再発したからといって、すぐに遠隔転移があるとは限りません。前立腺周囲だけにがんが残っている可能性もあれば、画像にはまだ映らない微小な転移が存在する可能性もあるため、以前受けた治療やPSAの上昇速度などから次の治療を考えます。

手術後のPSA再発

前立腺をすべて摘出するとPSAは非常に低い値になるため、術後に再び上昇した場合には再発を疑います。国立がん研究センターでは、2~4週間空けて測定したPSA値が2回連続して0.2ng/mLを超えた場合を再発の疑いとして示しています。

前立腺周囲に再発している可能性がある場合には、救済放射線治療を検討します。救済放射線治療はPSAがあまり高くならない段階で開始する方が効果を期待しやすいため、術後の定期検査が重要です。

放射線治療後のPSA再発

放射線治療では前立腺そのものが残っているため、手術後のようにPSAがゼロ近くになるとは限りません。一般には、治療後に最も低くなったPSA値から2.0ng/mL以上上昇した場合に再発を疑います。

PSAが上昇してもすぐに全身治療が必要とは限らず、上昇速度、画像所見、最初の悪性度、治療後どのくらいの期間で再発したかなどを確認します。局所治療が可能な場合もあれば、ホルモン療法など全身治療が必要になる場合もあります。

再発によって遠隔転移が確認された場合や、ホルモン療法中に去勢抵抗性となった場合の治療は、前立腺がんステージ4の記事で詳しく解説しています。

参考:国立がん研究センター「前立腺がん 治療」、国立がん研究センター「前立腺がん 療養」

前立腺がんの治療選択で個別に考えること

前立腺がんには標準的な治療方針がありますが、同じステージ・リスク分類でもすべての患者が同じ治療を選ぶわけではありません。前立腺がんは治療後も長く生活する患者が多いため、がんを抑える効果と治療による長期的な生活への影響の両方を考える必要があります。

たとえば低リスク前立腺がんでは、早く手術を受けることで安心できる人がいる一方、治療しなくても生命に影響しない可能性の高いがんに対して尿失禁や性機能障害のリスクを負うことを避け、監視療法を選ぶ人もいます。

高リスク・局所進行性前立腺がんでは、手術だけ、放射線だけという単純な選択ではなく、リンパ節郭清や術後治療、放射線とホルモン療法の組み合わせなどを含めて考えます。転移性前立腺がんでは、アンドロゲン除去療法だけでなく、早い段階から治療を強化できるかどうかが重要になります。

年齢だけで治療を決めない

前立腺がんは高齢者に多い病気ですが、「80歳だから治療しない」「若いから必ず手術」という決め方は適切ではありません。平均余命、持病、日常生活の自立度、がんの悪性度などを組み合わせ、治療によって得られる利益がどの程度あるのかを考えます。

同じ年齢でも健康状態は大きく異なります。年齢そのものよりも、治療によってどれだけ生命予後の改善を期待できるか、治療による負担に耐えられるかを個別に評価することが重要です。

治療後の生活で何を優先するか

手術では尿失禁や性機能障害、放射線治療では排尿・排便症状や晩期障害、ホルモン療法では性機能、筋力、骨、代謝などへの影響があります。根治率だけを比べても、患者自身にとって最も納得できる治療が決まるとは限りません。

治療を選ぶ際には「できるだけがんを取り除くことを最優先したい」「仕事を続けやすい治療を選びたい」「排尿機能や性機能をできるだけ保ちたい」など、自分が何を重視しているかを医療者へ伝えることが大切です。

参考:国立がん研究センター「前立腺がん 治療」

前立腺がんの治療を選ぶときに確認したいこと

前立腺がんは選択肢が多く、「医師から複数の方法を提示されたものの、どれを選べばよいか分からない」と感じる人も少なくありません。治療方法の名称だけを比較するのではなく、自分の病状でなぜその治療が候補になっているのかを確認すると判断しやすくなります。

確認したいこと 確認する意味
現在のステージはどこまでか 前立腺内にとどまるのか、周囲へ浸潤しているのか、リンパ節・遠隔転移があるのかで治療目的が変わる
どのリスク分類に当てはまるか 同じステージでも悪性度や腫瘍マーカー値によって監視療法・根治治療などの必要性が異なる
今すぐ治療する必要があるか 低リスクでは治療による不利益を避ける監視療法が選べる場合がある
手術と放射線治療の両方を選べるか 根治性だけでなく、尿失禁、排尿・排便、性機能、通院期間などを比較できる
追加の薬物療法が必要か 高リスクや転移性では、一つの治療だけでなく複数の治療を組み合わせることで予後改善を目指す場合がある
治療後にどのような生活への影響があるか 排尿機能、性機能、仕事、骨・筋力など長期間の生活まで考えて治療を選べる
再発した場合にどの治療が残るか 現在の治療だけでなく、救済治療やその後の薬物療法まで含めて治療計画を考えられる

説明を受けても治療方法を決めきれない場合には、セカンドオピニオンを利用する方法もあります。特に手術と放射線治療の両方が選べる場合や、治療を急ぐか監視療法を選ぶか迷う場合には、それぞれの治療を専門とする医師から説明を受けることで判断材料が増えることがあります。

まとめ

前立腺がんは日本の男性で最も多く診断されるがんですが、その進行速度や生命への影響は患者ごとに大きく異なります。初期にはほとんど症状がなく、PSA検査をきっかけに発見されることが多いため、PSAの意味と限界を理解し、異常を指摘された場合にはMRIや生検など必要な検査へ進むことが重要です。

診断後はステージだけでなく、グリーソンスコア、グレードグループ、PSA値などからリスクを評価します。低リスクでは監視療法が適する場合がある一方、中間~高リスクでは手術や放射線治療、局所進行例ではホルモン療法を組み合わせた治療などを検討します。

転移性前立腺がんでは治療選択肢が大きく増えており、アンドロゲン除去療法を土台にアンドロゲン受容体シグナル阻害薬や抗がん剤を組み合わせる治療に加え、病状によってPARP阻害薬やPSMA標的放射性リガンド療法なども選択肢になっています。ステージ4の治療は複雑化しているため、詳しい内容は前立腺がんステージ4の記事で確認してください。

前立腺がんでは治療後も長期間生活する患者が多いため、治療効果だけでなく、尿失禁、排尿機能、性機能、骨や筋力、仕事など生活への影響も重要な判断材料になります。自分の病状ではどの治療が選べるのか、それぞれを選んだ場合に何が変わるのかを主治医と確認し、自分が大切にしたいことも含めて納得できる治療方針を考えることが大切です。