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尿管がんureteral-cancer

腎盂がんは腎臓の中で尿が集まる「腎盂」に、尿管がんは腎盂から膀胱へ尿を運ぶ「尿管」にできるがんです。発生する場所は異なりますが、どちらも多くは尿路の内側を覆う尿路上皮から発生するため、診断や治療ではまとめて「腎盂・尿管がん」として扱われます。

腎盂は腎臓の一部にあるため、腎盂がんを「腎臓がんの一種」と考える人もいるかもしれません。しかし、一般に腎臓がんと呼ばれる腎細胞がんとは、発生する細胞も治療方法も異なります。むしろ同じ尿路上皮から発生する膀胱がんとの関連が強く、治療後に膀胱内へ再発することも少なくありません。

日本では、1年間に約9,000人が腎盂・尿管がんと診断されています。初期にはほとんど症状がないこともありますが、血尿や水腎症をきっかけに発見されることがあります。治療では、がんの深さを示すステージだけでなく、悪性度、腫瘍の大きさや数、腎機能などを確認し、腎臓を残す治療ができるのか、腎臓と尿管をまとめて摘出する必要があるのかを判断します。

この記事では、腎盂がん・尿管がんの原因や初期症状、検査、ステージから、手術、薬物療法、再発、生存率、余命の考え方まで、2026年時点の情報をもとに解説します。

参考:国立がん研究センター「腎盂・尿管がんについて」、国立がん研究センター「腎盂・尿管がん 患者数(がん統計)」

腎盂がん・尿管がんとは

腎臓では血液をろ過して尿がつくられます。つくられた尿はいったん腎臓の中にある腎盂へ集まり、そこから左右それぞれの尿管を通って膀胱へ送られます。腎盂と尿管を合わせて「上部尿路」と呼ぶため、腎盂がん・尿管がんは「上部尿路がん」あるいは「上部尿路上皮がん」と呼ばれることもあります。

腎盂から尿管、膀胱、尿道の一部までの内側は「尿路上皮」という同じ種類の粘膜で覆われています。腎盂・尿管がんの90%以上は、この尿路上皮から生じる尿路上皮がんです。そのため、腎盂がんと尿管がんは基本的な性質や治療方針が共通しています。

腎臓がんとは発生する場所も治療方法も異なる

腎盂は腎臓の中にありますが、腎盂がんと一般的な腎臓がんは別の病気です。一般に「腎臓がん」と呼ばれるのは、尿をつくる腎実質から発生する腎細胞がんです。

一方、腎盂がんは尿が集まる腎盂の尿路上皮から発生します。この違いによって、手術の方法や使用する薬も大きく異なります。

病名 主な発生部位・細胞 治療の特徴
腎細胞がん 腎実質の細胞 手術、免疫療法、分子標的薬など
腎盂・尿管がん 腎盂・尿管の尿路上皮 腎尿管全摘除術、腎温存手術、尿路上皮がんに対する薬物療法など
膀胱がん 膀胱の尿路上皮 内視鏡手術、膀胱全摘除術、膀胱内注入療法、薬物療法など

腎細胞がんの特徴や症状、治療法などについては、以下の記事で詳しく解説しています。

膀胱がんの種類や原因・リスク、治療法や生存率などについては、以下の記事で解説しています。

膀胱がんとは同じ尿路上皮がんの仲間

腎盂・尿管がんと膀胱がんは、どちらも尿路上皮から発生します。このため、腎盂・尿管がんより前に膀胱がんが見つかっている場合や、両方が同時に見つかる場合があります。また、腎盂・尿管がんを治療した後に膀胱へ新たながんが生じることもあります。

この「尿路全体に多発・再発しやすい」という性質は、腎盂・尿管がんを理解するうえで重要です。原発巣を手術で取り切った後も膀胱鏡などによる長期的な経過観察が必要になる理由の1つでもあります。

参考:国立がん研究センター「腎盂・尿管がんについて」

腎盂がん・尿管がんの原因とリスク

腎盂がん・尿管がんがなぜ発生するのかを個人単位で特定することは通常できません。ただし、発症しやすさと関連するいくつかの危険因子が分かっています。

代表的なのが喫煙です。たばこの煙に含まれる発がん物質は体内に取り込まれた後、尿中へ排泄されるため、尿路上皮が長期間発がん物質にさらされることになります。喫煙は膀胱がんと同様に、腎盂・尿管がんでも重要な危険因子です。

染料や顔料などの製造に関連する職業では、ベンジジンやナフチルアミンなど、一部の芳香族アミンへの長期間の曝露が、尿路上皮がんの発症リスクと関連することが知られています。ただし、こうした危険因子がある人が必ず発症するわけではなく、心当たりがない人でも腎盂・尿管がんになることがあります。

リンチ症候群と腎盂・尿管がん

一部の腎盂・尿管がんには、遺伝性腫瘍である「リンチ症候群」が関係します。リンチ症候群はDNAの修復に関係する遺伝子の生まれつきの変化によって、大腸がんや子宮体がんなど複数のがんを発症しやすくなる遺伝性疾患です。腎盂・尿管がんも関連するがんの1つです。

比較的若い年齢で発症した場合や、本人または血縁者にリンチ症候群と関連するがんが複数みられる場合などには、遺伝学的な評価が検討されることがあります。ただし、家族にがんが多いことだけでリンチ症候群と判断することはできません。必要性がある場合には遺伝カウンセリングを含めて検討します。

腎盂がん・尿管がんを対象にした一般的ながん検診はない

日本では、腎盂がん・尿管がんを対象とした対策型がん検診は定められていません。そのため、血尿などの症状や健康診断での尿潜血、ほかの病気を調べる画像検査などをきっかけに発見されることがあります。

特定の検診で早期発見を目指すというより、血尿などの異常があった場合に放置せず、必要な精密検査へつなげることが重要です。

参考:国立がん研究センター「腎盂・尿管がん 予防・検診」

腎盂がん・尿管がんの初期症状

腎盂がん・尿管がんは、初期の段階では自覚症状がほとんどない場合があります。健康診断や別の病気を調べる画像検査で偶然発見されたり、尿の流れが妨げられて水腎症になったことから見つかったりすることもあります。

血尿は注意したい代表的な症状

腫瘍から出血すると、尿に血液が混ざることがあります。目で見て尿が赤色やピンク色になっている状態を肉眼的血尿といい、見た目では分からないものの尿検査で血液が確認される状態を顕微鏡的血尿といいます。

血尿が一度出た後に自然に止まり、その後しばらく正常な尿へ戻る場合もあります。しかし、「血尿が止まったから問題ない」とは判断できません。腎盂・尿管がんや膀胱がんでは、出血したり止まったりを繰り返すことがあります。

もちろん血尿の原因はがんだけではなく、尿路結石、膀胱炎、前立腺疾患などさまざまです。原因を見分けるためにも、肉眼的血尿がみられた場合は泌尿器科での評価が重要です。

水腎症によって見つかることもある

尿管が腫瘍によって狭くなったり塞がったりすると、腎臓から膀胱へ尿が流れにくくなり、腎盂に尿がたまる「水腎症」が起こることがあります。

水腎症が続くと、患側の腎機能が低下することがあります。ただし左右に腎臓があるため、片側の腎機能が低下しても、もう一方が補って症状がほとんど出ない場合もあります。このため、血液検査だけでは片側の異常に気付きにくいケースもあります。

腰・背中・脇腹の痛みが起こる場合もある

腫瘍による尿管の閉塞や血液の塊によって尿の流れが妨げられると、腰、背中、脇腹に痛みを感じることがあります。尿管結石と似た強い痛みが出たり、痛みが強くなったり弱くなったりすることもあります。

症状だけで腎盂・尿管がんと診断することはできませんが、血尿や原因不明の水腎症、持続する腰背部痛などがある場合には、どの段階で精密検査が必要なのかを泌尿器科で確認することが大切です。

参考:国立がん研究センター「腎盂・尿管がんについて」

腎盂がん・尿管がんの検査と診断

腎盂・尿管がんが疑われた場合には、尿検査だけで診断を確定するのではなく、画像検査や内視鏡検査などを組み合わせて、腫瘍の位置、広がり、悪性度、膀胱がんの有無などを確認します。これらの情報は「がんがあるか」を判断するだけでなく、腎臓を残せる可能性があるのか、腎尿管全摘除術が必要なのかを決める材料にもなります。

尿検査・尿細胞診

尿検査では血液が混ざっていないかを確認します。尿細胞診では尿中に排出された細胞を調べ、がん細胞がないかを評価します。

尿細胞診で高悪性度のがん細胞が検出されれば重要な手がかりになりますが、腎盂・尿管がんがあっても尿細胞診が陰性になることがあります。そのため、陰性だったことだけで腎盂・尿管がんを完全に否定することはできません。

腹部超音波検査

超音波検査では、腎盂に腫瘍がないか、水腎症が起きていないかなどを調べます。体への負担が比較的少なく、血尿や尿路異常を調べる初期の検査として利用されます。

一方、小さな尿管腫瘍などは超音波だけでは評価が難しいため、疑いが残る場合にはCTなどへ進みます。

膀胱鏡検査

膀胱鏡は尿道から細い内視鏡を入れ、膀胱の内部を直接観察する検査です。

「腎盂や尿管の病気なのになぜ膀胱を見るのか」と疑問を感じるかもしれませんが、血尿の原因としては膀胱がんの方が頻度が高く、さらに腎盂・尿管がんと膀胱がんが併存することもあります。そのため、膀胱に腫瘍がないかを確認する意味があります。

CTウログラフィー

腎盂・尿管がんの診断では、造影剤を使用したCTウログラフィーが重要な画像検査です。腎盂から尿管までの形状や腫瘍、尿路の閉塞、周囲への浸潤、リンパ節転移などを評価します。

造影剤を使用できるかどうかは腎機能やアレルギーなどによって判断されます。造影CTが難しい場合には、MRIなど別の検査方法を検討することがあります。

尿管鏡検査と生検

必要に応じて、細い内視鏡を尿道、膀胱、尿管へ進めて腎盂や尿管の内部を直接観察する尿管鏡検査を行います。腫瘍の位置や形を確認し、組織を採取して病理検査を行うこともできます。

特に腎温存手術を考える場合には、腫瘍が低悪性度なのか高悪性度なのかを判断することが治療選択に直結します。

ただし、尿管鏡で採取できる組織は小さいため、手術後の病理診断と悪性度や深さが一致しない場合があります。画像、尿細胞診、生検などを総合して判断する必要があります。

転移の有無も確認する

腎盂・尿管がんと診断された後は、周囲への浸潤、リンパ節、肺、肝臓、骨などへの転移がないかを必要に応じて画像検査で調べます。

治療方針は、腫瘍が腎盂・尿管内にとどまっていて手術による根治を目指せる状態なのか、リンパ節や離れた臓器まで広がり全身治療が必要な状態なのかによって大きく変わります。

参考:国立がん研究センター「腎盂・尿管がん 検査」

腎盂がん・尿管がんの悪性度とリスク分類

腎盂・尿管がんでは、ステージだけでなく「低リスクか、高リスクか」という評価が治療選択に大きく関係します。特に、腎臓を残す腎温存手術を選べる可能性があるかどうかを判断するうえで重要です。

尿路上皮がんの異型度は、一般に低異型度と高異型度に分類されます。低異型度の腫瘍は比較的ゆっくり進行する傾向がありますが、高異型度では浸潤や転移のリスクが高くなります。

さらに腫瘍の数、大きさ、尿細胞診、生検、画像上の浸潤、水腎症などを合わせてリスクを評価します。

評価 主な考え方 治療への影響
低リスク 単発で小さく、生検・尿細胞診で高異型度を示さず、画像上明らかな浸潤がないなど 腎温存手術を検討しやすい
高リスク 多発、2cm以上、高異型度、水腎症、画像上の浸潤などのリスク因子がある 腎尿管全摘除術を中心に検討する

なお、こうしたリスク分類は複数の所見を組み合わせて判断するもので、各因子の予測精度が完全に確立しているわけではありません。また、高リスクなら必ず腎臓を摘出するとも限りません。片方しか腎臓がない場合や、もともとの腎機能が低い場合などには、がんを制御することと腎機能を残すことの両方を考え、腎温存治療を検討する場合があります。

参考:国立がん研究センター「腎盂・尿管がん 治療」

腎盂がん・尿管がんのステージ

腎盂・尿管がんのステージは、原発腫瘍がどこまで深く入り込んでいるかを示すT分類、領域リンパ節への転移を示すN分類、遠隔転移を示すM分類を組み合わせて決めます。

特に重要なのは、腫瘍の見た目の大きさだけではなく、尿路上皮の下へどの程度深く浸潤しているかです。

ステージ 主な状態
0a期 乳頭状のがんが粘膜内にとどまり、浸潤していない
0is期 上皮内がん
Ⅰ期 上皮の下の結合組織まで浸潤している
Ⅱ期 筋層まで浸潤している
Ⅲ期 筋層を越え、腎盂周囲・尿管周囲の脂肪組織や腎実質まで及んでいる
Ⅳ期 隣接臓器への高度な浸潤、領域リンパ節転移、または遠隔転移がある

Ⅳ期は「遠隔転移がある状態」だけを意味するわけではありません。領域リンパ節へ転移している場合や、隣接臓器まで高度に浸潤している場合にもⅣ期に分類されます。そのため、同じステージ4でも病気の広がりや治療方針、予後は大きく異なります。

また、画像検査で判断する治療前のステージと、手術で摘出した組織を詳しく調べた後の病理学的ステージが一致しないこともあります。術後の病理結果によって、追加の薬物療法が必要かどうかを再評価する場合があります。

参考:国立がん研究センター「腎盂・尿管がん 治療」

腎盂がん・尿管がんの治療方針

腎盂がん・尿管がんの治療では、単純にステージだけを見て手術や薬を決めるわけではありません。がんの深さや悪性度、腫瘍の数・大きさ、リンパ節や遠隔転移、左右の腎機能、年齢、全身状態などを総合して判断します。

大きく分けると、転移のない腎盂・尿管がんでは手術による根治を目指し、切除不能または遠隔転移のあるがんでは全身薬物療法が治療の中心となります。

病状 主な治療の考え方
低リスク・限局性 内視鏡治療や尿管部分切除など、腎臓を残す治療を検討
高リスク・切除可能 腎尿管全摘除術を中心に検討
術後再発リスクが高い 病理結果や腎機能などに応じて術後薬物療法を検討
切除不能・遠隔転移あり 抗体薬物複合体、免疫チェックポイント阻害薬、化学療法などによる全身治療

治療法が複数考えられる場合には、「どの治療が最も強力か」だけではなく、治療によって失われる腎機能、将来使用できる薬、再発した場合の次の治療まで含めて考える必要があります。

参考:国立がん研究センター「腎盂・尿管がん 治療」

腎盂がん・尿管がんの手術

転移がなく手術で根治を目指せる腎盂・尿管がんでは、手術が治療の中心となります。標準的な手術は腎尿管全摘除術ですが、すべての患者に同じ手術が必要なわけではありません。

標準的な手術は腎尿管全摘除術

高リスクの腎盂・尿管がんでは、がんがある側の腎臓と尿管を一続きに摘出する「腎尿管全摘除術」が基本となります。さらに、尿管が膀胱につながる部分の膀胱壁も一緒に切除します。

尿管がんであっても、腫瘍がある部分の尿管だけを取ればよいとは限りません。尿路上皮がんには尿路内に多発する性質があり、残した腎盂や尿管にがんが生じる可能性があるためです。

なぜ膀胱の一部まで切除するのか

尿管の最下部は膀胱壁の中へ入り込んで開口しています。この部分を残すと、残存した尿路上皮から再発する可能性があります。そのため腎尿管全摘除術では、腎臓と尿管だけでなく、尿管口を含む膀胱壁の一部も切除するのが基本です。

膀胱全体を摘出する手術ではないため、通常は治療後も自分の膀胱から排尿できます。

腎臓を残す「腎温存手術」が選択できる場合

低リスクと判断できる腫瘍では、腎臓と尿管をすべて摘出するのではなく、腎機能を残す治療を検討できます。

尿管鏡を用いて腫瘍を切除・蒸散する内視鏡治療や、腫瘍が存在する部分だけ尿管を切除して正常な尿管を再建する尿管部分切除術などがあります。

腎温存の大きな利点は、腎機能を維持しやすいことです。一方で、残した腎盂・尿管に局所再発する可能性があるため、治療後には尿管鏡や画像検査を含めた慎重な経過観察が必要になります。

高リスクであっても、片方しか腎臓がない人や慢性腎臓病が進んでいる人では、腎尿管全摘除術によって腎機能が大きく低下する可能性があります。このような場合には、がんの再発リスクとのバランスを考えながら腎温存治療を検討することがあります。

リンパ節郭清を行う場合

高リスクの腎盂・尿管がんなどでは、腎尿管全摘除術とともに周囲のリンパ節を切除するリンパ節郭清を行うことがあります。

リンパ節を病理検査することで転移の有無をより正確に評価でき、術後治療を決める材料になります。ただし、どの範囲まで郭清するかは腫瘍の位置や病状などによって異なります。

腹腔鏡手術・ロボット支援手術

腎尿管全摘除術には、開腹手術のほか腹腔鏡手術やロボット支援手術が用いられることがあります。

傷の大きさや術後の回復には違いがありますが、「ロボット手術だからがんが治りやすい」と単純に判断するものではありません。腫瘍の進行度や位置、手術方法、施設や術者の経験などを踏まえて術式を選択します。

腎臓が1つになった後の生活

片側の腎臓を摘出しても、反対側の腎臓が十分に機能していれば、多くの場合は日常生活を続けることができます。

ただし、もともとの腎機能、高血圧、糖尿病などによっては、術後に慢性腎臓病が進むことがあります。また、腎機能が低下すると、再発した場合に使用できる薬物療法にも影響する可能性があります。

そのため手術前には、がんを取り切れるかどうかだけではなく「手術後にどの程度の腎機能が残ると予測されるのか」を確認することも重要です。

参考:国立がん研究センター「腎盂・尿管がん 治療」、国立がん研究センター「腎盂・尿管がん 療養」

手術前・手術後の薬物療法

腎盂・尿管がんでは、手術だけで治療を終える場合もあれば、再発リスクを下げる目的で手術の前後に全身薬物療法を組み合わせる場合もあります。

ここで重要なのが腎尿管全摘除術と腎機能の関係です。腎臓を1つ摘出すると腎機能が低下し、腎機能への負担が大きいシスプラチンを手術後に使いにくくなる場合があります。

術前化学療法を検討する理由

手術前に化学療法を行う利点の1つは、両方の腎臓が残っている段階でシスプラチンを使用できる可能性が高いことです。また、画像では確認できない微小ながん細胞を早い段階から全身治療できる可能性もあります。

一方、術前化学療法は、手術前にがんを小さくしたり、手術後の再発リスクを下げたりすることを目的として検討されます。ただし、薬物療法による副作用や手術の時期への影響なども考慮する必要があります。腫瘍の進行度や悪性度、腎機能、全身状態、手術の見通しなどを総合し、術前化学療法によって期待できる利益と負担を比較して判断します。

画像上浸潤性が強く疑われる場合などに検討されることがありますが、すべての患者が手術前に抗がん剤を受けるわけではありません。

再発リスクが高い場合の術後化学療法

手術後の病理検査によって、がんが筋層まで達するpT2以上であることや、リンパ節転移があることなどが分かった場合には、再発リスクを下げる目的でプラチナ製剤を含む術後化学療法を検討します。

術後補助化学療法は、手術でがんを取り除いた後に残っている可能性のある微小ながん細胞に対処し、再発のリスクを下げることを目的として行います。再発リスクが高い場合には、ゲムシタビンとシスプラチンなど、プラチナ製剤を含む化学療法が治療選択肢となります。ただし、実際に治療を行うかどうかや使用する薬は、術後の病理結果、術前治療の有無、腎機能、全身状態などを踏まえて個別に判断します。

ただし、腎尿管全摘除術後には腎機能が低下し、シスプラチンを使用できない場合があります。術前の時点から術後の腎機能を予測し、薬物療法をどの時期に行うのが適切かを考える必要があります。

術後のニボルマブ

再発リスクの高い尿路上皮がんでは、免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブによる術後補助療法も国内で承認されています。

ただし、この治療については腎盂・尿管がんでは注意して解釈する必要があります。承認の根拠となったCheckMate 274試験全体では無病生存期間の改善が認められましたが、腎盂がん・尿管がんだけを取り出したサブグループでは効果が明確ではありませんでした。

PMDAの添付文書でも、尿路上皮がんの原発部位によって有効性が異なる可能性を踏まえ、腎盂・尿管がんでは術前治療歴なども考慮して慎重に患者を選択するよう注意されています。

そのため、「再発リスクが高いから自動的にニボルマブを使用する」という治療ではありません。病理結果、術前化学療法の有無、シスプラチンを使用できるかなどを確認したうえで選択します。

参考:国立がん研究センター「腎盂・尿管がん 治療」、PMDA「オプジーボ 医療用医薬品情報」

切除不能・転移性の腎盂がん・尿管がんに対する薬物療法

がんが周囲へ大きく広がって手術で取り切れない場合や、肺、肝臓、骨などへの遠隔転移がある場合には、全身へ作用する薬物療法が治療の中心になります。

腎盂・尿管がんは膀胱がんと同じ尿路上皮がんであるため、進行例では「腎盂がん専用」「尿管がん専用」の薬を使うのではなく、進行尿路上皮がんに対する治療を行います。

2024年以降、国内でも一次治療の選択肢が大きく変化しています。

エンホルツマブ ベドチン+ペムブロリズマブ

エンホルツマブ ベドチンは、尿路上皮がん細胞に多く発現するNectin-4を標的として抗がん成分を届ける抗体薬物複合体です。ペムブロリズマブは、免疫ががんを攻撃する力を回復させる免疫チェックポイント阻害薬です。

日本では2024年9月に、根治切除不能な尿路上皮がんに対する一次治療として、エンホルツマブ ベドチン+ペムブロリズマブ併用療法が承認されました。

承認の根拠となった国際共同第III相EV-302試験では、未治療の局所進行・転移性尿路上皮がんに対し、従来のプラチナ製剤+ゲムシタビンと比較して全生存期間と無増悪生存期間が改善しました。

2.5年追跡時の更新解析では、全生存期間中央値はエンホルツマブ ベドチン+ペムブロリズマブ群33.8カ月、化学療法群15.9カ月でした。ただし、この試験は腎盂・尿管がんだけを対象とした試験ではなく、膀胱原発を含む尿路上皮がん全体の結果です。

ニボルマブ+ゲムシタビン+シスプラチン

2024年12月には、根治切除不能な尿路上皮がんに対して、ニボルマブとゲムシタビン+シスプラチンを併用し、その後ニボルマブを継続する治療も国内承認されました。

この治療ではシスプラチンを使用するため、腎機能などからシスプラチンを使用できることが前提となります。

プラチナ製剤を中心とした化学療法とアベルマブ維持療法

ゲムシタビン+シスプラチンなどのプラチナ製剤を含む化学療法も、患者の病状や既往治療などによって現在も選択肢となります。

一次化学療法によってがんが縮小、または進行せずに保たれている場合には、免疫チェックポイント阻害薬アベルマブへ切り替えて治療を継続する「維持療法」を行うことがあります。

アベルマブは化学療法が効かなくなってから使うのではなく、プラチナ製剤を含む一次化学療法で病気が進行していない段階から治療効果を維持する目的で使用する点が特徴です。

プラチナ製剤を使用できない場合

高齢であることだけで治療方法が決まるわけではありませんが、腎機能、聴力、末梢神経障害、心機能、全身状態などによってシスプラチンが適さない場合があります。

シスプラチンが難しい場合にはカルボプラチンを用いた治療を検討することがあります。また、プラチナ製剤そのものを選択できない根治切除不能尿路上皮がんに対しては、一定の条件でペムブロリズマブ単独療法も国内承認されています。

現在はエンホルツマブ ベドチン+ペムブロリズマブを含め選択肢が増えているため、単に「シスプラチンを使えるか」だけでなく、糖尿病、皮膚疾患、末梢神経障害、自己免疫疾患なども確認して治療を選びます。

治療が効かなくなった場合

進行尿路上皮がんでは、一次治療後も病状とそれまでに使用した薬によって次の治療を検討できます。

2024年12月には、FGFR3遺伝子変異または融合遺伝子を有する、がん化学療法後に増悪した根治切除不能な尿路上皮がんに対して、FGFR阻害薬エルダフィチニブが国内承認され、2025年7月に発売されました。そのため進行例では、病状によってFGFR3などの遺伝子異常を調べることが、その後の治療選択につながる場合があります。

一方、最初の治療としてエンホルツマブ ベドチンとペムブロリズマブを使用する患者が増えたことで、その後の治療順序も以前とは変わっています。二次治療以降は、これまでに使用した薬、治療効果、副作用、腎機能、遺伝子異常などを踏まえて個別に決めます。

なお、エルダフィチニブ(バルバーサ)の国内添付文書では、PD-1/PD-L1阻害薬による治療が可能な場合には、これらの治療を優先するよう注意されています。そのため、エルダフィチニブを使用するかどうかは、これまでの免疫療法歴や使用できるほかの治療法などを踏まえて判断します。

放射線治療が選択される場合

腎盂・尿管がんでは、放射線治療だけで根治を目指すことは一般的ではありません。一方、骨転移による痛みや局所進行による症状を和らげる目的などで放射線治療を行うことがあります。

進行がんの治療では、がんを縮小・抑制する全身治療と、痛みや出血などの症状を軽減する治療を組み合わせながら、生活の質を維持することも重要です。

参考:PMDA「最適使用推進ガイドライン」、MSD「根治切除不能な尿路上皮癌に対する承認情報」、小野薬品工業「根治切除不能な尿路上皮癌に対するニボルマブ承認情報」、EV-302試験 2.5年追跡解析、Johnson & Johnson「エルダフィチニブ国内発売情報」

腎盂がん・尿管がんは再発しやすい?治療後の経過観察

腎盂・尿管がんでは、手術で原発巣を取り切ることができても、その後の経過観察が非常に重要です。特に注意が必要なのが膀胱内再発です。

尿路上皮がんは尿路のさまざまな場所に多発しやすく、腎盂・尿管がんの治療後に膀胱へがんが発生することがあります。

手術後2年以内に2~5割で膀胱内再発

国立がん研究センターが2026年に公表したJCOG1403試験の解説では、腎尿管全摘除術後2年以内に膀胱内再発が起こる割合は約20~50%とされています。

そのため、腎臓と尿管を摘出したからといって、その後の検査が不要になるわけではありません。膀胱鏡、尿細胞診、CTなどを病状や再発リスクに合わせて行います。腎温存治療を行った場合には、膀胱だけでなく残した腎盂や尿管の再発にも注意が必要です。尿管鏡検査やCTウログラフィーなどを組み合わせて長期的に確認します。

2026年に報告された膀胱内再発予防

2026年には、日本のJCOG1403第III相試験から、腎尿管全摘除術後の膀胱内再発を予防する新しい重要な結果が報告されました。この試験では、臨床病期0期~Ⅲ期の上部尿路がんに対する腎尿管全摘除術後に、経過観察を行う群と、手術後24時間以内に抗がん薬ピラルビシンを1回膀胱内へ注入する群を比較しました。

その結果、3年無再発生存割合は経過観察群47.0%に対し、ピラルビシン膀注群60.0%で、ピラルビシン投与によって再発リスクが低下しました。ハザード比は0.67でした。一方、3年全生存割合は88.4%と89.3%で大きな差は確認されていません。

この結果から、術直後の単回ピラルビシン膀胱内注入は、腎尿管全摘除術後の膀胱内再発予防に有効であることが示されました。

ただし、これは2026年に公表された新しいエビデンスです。今後の国内ガイドライン改訂や保険診療上の位置づけ、各施設での導入状況については、実際に治療を受ける時点で確認する必要があります。

参考:国立がん研究センター「腎盂・尿管がん 療養」、国立がん研究センター「上部尿路がん術後の膀胱内再発予防にピラルビシン膀注療法が有効であることを証明」

治療の副作用と手術後の生活

腎盂がん・尿管がんでは、手術による体への負担だけでなく、腎機能の変化や薬物療法の副作用も治療継続に影響します。副作用は薬の種類によって異なり、同じ治療でも現れ方には個人差があります。

副作用を「我慢するもの」と考えるのではなく、早い段階で医療者へ伝え、休薬や減量、支持療法などによって治療を安全に続けられるか判断することが大切です。

腎尿管全摘除術後の生活

手術後しばらくは傷の痛み、食欲低下、体力低下などがみられることがあります。回復の速度は年齢、手術方法、手術前の体力などによって異なります。

反対側の腎臓が正常に働いていれば、腎臓が1つになった後も通常の日常生活を送れる人が多くいます。食事についても「腎臓を1つ取ったから必ず厳しい腎臓食が必要」というわけではありません。

一方、腎機能が低下している場合や高血圧、糖尿病などがある場合には、塩分や血圧の管理などが重要になります。脱水や腎臓へ負担をかける薬にも注意が必要になる場合があるため、自己判断で過度な食事制限をするのではなく、術後の腎機能に合わせて調整します。

プラチナ製剤を含む化学療法の副作用

ゲムシタビン+シスプラチンなどでは、白血球・好中球・血小板の減少、貧血、吐き気、食欲低下、だるさなどが起こることがあります。

特にシスプラチンでは腎機能障害、聴力障害、末梢神経障害などにも注意します。腎盂・尿管がんでは手術によってすでに腎機能が低下している患者もいるため、治療前後の腎機能確認が重要です。

骨髄抑制が強い時期には感染症のリスクが高くなるため、発熱がある場合には早めの連絡が必要です。仕事や外出についても、血球数や体調をみながら調整します。

エンホルツマブ ベドチンの副作用

エンホルツマブ ベドチンでは、皮膚障害、末梢神経障害、高血糖などが重要な副作用です。発疹が急速に広がる、水疱ができる、粘膜に異常が出るなどの場合には、重い皮膚障害の可能性があるため速やかな対応が必要です。

末梢神経障害では、手足のしびれ、感覚の変化、細かい作業のしにくさ、歩きにくさなどが現れることがあります。症状が強くなると回復に時間がかかることもあるため、軽いうちから医師へ伝えることが重要です。

免疫チェックポイント阻害薬の副作用

ペムブロリズマブ、ニボルマブ、アベルマブなどの免疫チェックポイント阻害薬では、免疫反応が正常な臓器へ及ぶことで副作用が起こることがあります。

肺炎、大腸炎・下痢、肝機能障害、甲状腺や下垂体などの内分泌障害、腎障害、皮膚障害など、影響する臓器はさまざまです。投与直後だけでなく、治療開始から時間が経ってから現れる場合や、治療終了後に症状が出る場合もあります。

息切れ、長引く咳、強い下痢、極端なだるさ、発熱など、普段と違う症状が続く場合には自己判断せず治療施設へ連絡します。

仕事・食事・外出・睡眠への影響

治療中も仕事や外出を続けられる人はいますが、治療スケジュールや副作用の出る時期に合わせて生活を調整する必要があります。

化学療法では投与後数日間に吐き気やだるさが強くなったり、その後に血球数が低下したりすることがあります。エンホルツマブ ベドチンでは皮膚症状や末梢神経障害、免疫療法ではいつ出るか予測しにくい副作用にも注意が必要です。

食欲が低下する場合には、「がんに良い食品」を探して特定の食品へ偏るより、治療を続けるために必要なエネルギーやたんぱく質を確保することを優先します。睡眠が妨げられるほど痛みや不安が続く場合にも、症状そのものへの治療や支持療法を相談できます。

参考:国立がん研究センター「腎盂・尿管がん 療養」、PMDA「パドセブ 一般の方向け医薬品情報」、PMDA「オプジーボ 医療用医薬品情報」

腎盂がん・尿管がんのステージ別生存率

腎盂がん・尿管がんと診断されたとき、「治る可能性はどのくらいあるのか」「あとどのくらい生きられるのか」と考える人は少なくありません。

腎盂がん・尿管がんの予後は、診断された時点でがんがどこまで広がっているかによって大きく変わります。腎盂や尿管の周囲にとどまっていて手術による根治を目指せる段階と、リンパ節や離れた臓器まで広がっている段階では、治療の目的や選択できる治療法が異なるためです。

国立がん研究センターが公表している院内がん登録2014~2015年診断例では、腎盂・尿管がんのステージ別5年ネット・サバイバルは次のようになっています。

ステージ 5年ネット・サバイバル 主な病状
Ⅰ期 77.7% がんが上皮の下の結合組織までにとどまり、リンパ節・遠隔転移がない
Ⅱ期 66.2% がんが筋層まで広がっているが、リンパ節・遠隔転移はない
Ⅲ期 51.8% 筋層を越え、腎盂・尿管周囲の組織や腎実質まで広がっているが、リンパ節・遠隔転移はない
Ⅳ期 12.1% 隣接臓器への高度な浸潤、領域リンパ節転移、または遠隔転移がある

この数値は「そのステージの人が5年間しか生きられない」という意味ではありません。ネット・サバイバルとは、がん以外の死因による影響をできるだけ除いて、そのがんによる生命への影響をみるための統計指標です。

たとえばⅠ期の77.7%は、「Ⅰ期と診断された個人が77.7%の確率で5年以上生きる」と正確に予測できる数字ではありません。過去に同じステージで診断された多数の患者を集計した結果であり、年齢、腎機能、がんの悪性度、治療内容などは患者ごとに異なります。

また、この統計は2014~2015年に診断された患者の5年間の経過を集計したものです。その後、免疫チェックポイント阻害薬や抗体薬物複合体など進行尿路上皮がんの治療は大きく変化しています。そのため、特に進行した腎盂・尿管がんでは、過去の5年生存率が現在の治療成績をそのまま表しているとは限りません。

ステージ4になると生存率が大きく低下する理由

Ⅰ期からⅢ期では、5年ネット・サバイバルが77.7%、66.2%、51.8%と段階的に低下しています。一方、Ⅳ期では12.1%となり、Ⅲ期から大きく数字が下がっています。

この差が生じる大きな理由は、Ⅲ期までは基本的に領域リンパ節転移や遠隔転移がなく、手術でがんを取り切って根治を目指せる患者が多いのに対し、Ⅳ期にはリンパ節転移や遠隔転移を伴う患者が含まれるためです。

腎盂・尿管がんのステージ分類では、T1~T3であっても領域リンパ節への転移が確認されればⅣ期となります。また、原発巣の大きさや深さにかかわらず、肺、肝臓、骨などへの遠隔転移があればⅣ期です。隣接する臓器まで広く浸潤するT4もⅣ期に分類されます。

遠隔転移がある場合、画像で確認できる病変だけを手術で切除しても、全身に存在する可能性のあるがん細胞をすべて取り除くことは困難です。そのため、薬物療法によってがんを縮小・抑制しながら長期間コントロールすることが治療の中心になります。

ただし、「ステージ4=すべて同じ状態」ではありません。領域リンパ節転移のみの場合と、複数の臓器に遠隔転移がある場合では病状が大きく異なります。転移している臓器の種類や数、腫瘍量、腎機能、全身状態、薬物療法への反応によっても予後は変わります。

また、12.1%という5年ネット・サバイバルは、新しい薬物療法が現在ほど利用されていなかった時期に診断された患者を含む統計です。現在ステージ4と診断された人について、この数字だけから治療効果や将来の経過を判断することは適切ではありません。

参考:国立がん研究センター「院内がん登録生存率最新集計値」、国立がん研究センター「腎盂・尿管がん 患者数(がん統計)」、国立がん研究センター「腎盂・尿管がん 治療」

腎盂がん・尿管がんの余命

腎盂がん・尿管がんと診断された人や家族にとって、「あとどのくらい生きられるのか」は非常に気になる問題です。特にステージ4や再発と説明された場合、「余命は何カ月なのか」と明確な数字を知りたいと考える人も少なくありません。

しかし、腎盂がん・尿管がんには、ステージごとに一律に決められた「余命」はありません。医学研究で示されるのは、多数の患者を集めたときの「全生存期間中央値」などであり、個人の残された時間を示す数字ではないためです。

それでも、過去の研究や現在の臨床試験から、進行・転移性腎盂・尿管がんの経過を考える参考となる数値はいくつか分かっています。

研究・解析 対象 全生存期間中央値
転移性上部尿路上皮がんの解析 プラチナ製剤を中心とした化学療法を受けた転移性腎盂・尿管がん 17.0カ月
JAVELIN Bladder 100 一次化学療法で進行しなかった局所進行・転移性尿路上皮がんに対するアベルマブ維持療法 21.4カ月(維持療法開始時から)
EV-302/KEYNOTE-A39 2.5年追跡解析 未治療の局所進行・転移性尿路上皮がんに対するエンホルツマブ ベドチン+ペムブロリズマブ 33.8カ月

これらはそれぞれ対象患者や生存期間を数え始める時点が異なるため、17.0カ月、21.4カ月、33.8カ月という数字をそのまま比較することはできません。一方、EV-302試験では同じ試験内で、エンホルツマブ ベドチン+ペムブロリズマブ群の全生存期間中央値33.8カ月に対し、化学療法群は15.9カ月であり、新しい一次治療による生存期間の延長が示されています。

これらの数字を見ると、以前の化学療法を中心とした時代に比べ、新しい治療によって進行尿路上皮がんの生存期間が延びていることが分かります。

ただし、「33.8カ月=現在のステージ4腎盂がんの余命」と考えることはできません。

EV-302試験は腎盂・尿管がんだけを対象としたものではなく、膀胱がんなども含む局所進行・転移性尿路上皮がん全体の試験です。また、臨床試験には一定の条件を満たした患者が参加しているため、実際の診療を受けるすべての患者に同じ数字が当てはまるわけではありません。

「生存期間中央値」は余命を表す数字ではない

全生存期間中央値33.8カ月という数字は、「治療を受けた患者が平均33.8カ月生きた」という意味でも、「33.8カ月後に亡くなる」という意味でもありません。

中央値とは、研究に参加した患者を生存期間の長さで並べたとき、ちょうど半数の患者が生存している境目となる時点です。その時点より前に亡くなる人もいれば、それより何年も長く生存する人もいます。

また、JAVELIN Bladder 100の21.4カ月は、プラチナ製剤を含む一次化学療法を4~6サイクル受け、その時点でがんが進行していなかった患者がアベルマブ維持療法を開始してから測定した数字です。診断時や一次治療開始時から数えた生存期間ではありません。

研究ごとに「どの時点から生存期間を数えているのか」「どのような患者が対象なのか」が異なるため、数字だけを横並びにして余命を比較することはできません。

同じステージ4でも余命が大きく異なる理由

同じステージ4であっても、その後の経過には大きな個人差があります。たとえば、領域リンパ節への転移だけが確認されている人と、肺や肝臓、骨など複数の臓器へ転移している人では病気の広がりが異なります。転移している臓器の数や腫瘍量も予後に関係します。

さらに、腎盂・尿管がんでは腎機能も重要です。腎尿管全摘除術を受けている場合などには腎機能が低下し、使用できる薬や投与量に影響することがあります。

一方で、現在はエンホルツマブ ベドチン+ペムブロリズマブ、プラチナ製剤を含む化学療法、アベルマブ維持療法、FGFR3遺伝子異常がある場合のエルダフィチニブなど、病状やこれまでの治療に応じて複数の選択肢を検討できるようになっています。

そのため余命を考えるうえでは、ステージだけではなく、少なくとも次のような情報を組み合わせて判断する必要があります。

病気の広がり:リンパ節転移だけなのか、遠隔転移があるのか、転移している臓器や数はどうか

現在の治療効果:画像検査で腫瘍が縮小しているのか、安定しているのか、進行しているのか

腎機能と全身状態:使用できる薬に制限がないか、治療を継続できる体力があるか

これまでに使用した治療:次に使用できる薬物療法が残っているか

がんの特徴:FGFR3など、治療選択につながる遺伝子異常がないか

治療開始時に説明された余命も変わる可能性がある

主治医から予後について「半年程度」「1年程度」などの説明を受けることがあります。しかし、こうした数字もその時点の病状や過去の統計から推測した見通しであり、未来を正確に予測したものではありません。

治療がよく効いて病変が長期間小さく保たれれば、当初予測された期間を大きく超えて生活できる場合があります。一方で、治療が効かない、重要な臓器の機能が低下する、感染症などの合併症が起こると、予測より早く状態が変化することもあります。

そのため予後を知りたい場合には、「一般的なステージ4の統計」を尋ねるだけではなく、「現在の自分の病状と治療への反応を踏まえると、どの程度の見通しと考えているのか」を主治医に確認する方が実際の状況を理解しやすくなります。

また、余命の説明は一度聞いて終わりではありません。画像検査の結果や治療変更のタイミングなどで病状は変化するため、必要に応じてその時点の見通しを確認していくことが大切です。

過去の統計から明確な数字を知ることは、病気を理解するうえで役立ちます。一方で、新しい治療によって進行尿路上皮がんの治療成績は変化しており、過去の生存期間中央値や5年生存率だけから、現在治療を受けている個人の余命を決めることはできません。

参考:転移性上部尿路上皮がんと転移性膀胱がんの化学療法成績を比較した解析、FDA「アベルマブ維持療法の承認情報(JAVELIN Bladder 100試験)」、EV-302/KEYNOTE-A39試験 2.5年追跡解析

標準治療だけでは判断できない場合

腎盂がん・尿管がんには標準的な治療方針がありますが、実際には患者ごとに判断が難しくなる場面があります。

代表的なのが、腎尿管全摘除術を行えばがんを十分に取り除ける可能性が高い一方で、手術後の腎機能が大きく低下すると予測される場合です。特に片方しか腎臓がない人や慢性腎臓病がある人では、がんを取り切ることと腎機能を残すことのどちらを優先するかを慎重に検討する必要があります。

低リスク腫瘍であれば腎温存治療を選びやすくなりますが、腎温存治療では残した尿路に再発する可能性があり、その後も内視鏡検査などを繰り返す必要があります。反対に腎尿管全摘除術では局所制御を優先できる一方、腎機能低下によってその後使用できる薬物療法が制限される可能性があります。

高齢者でも年齢だけを理由に治療を決めるのではなく、日常生活の自立度、心肺機能、腎機能、持病などから治療負担に耐えられるかを確認します。

また、進行・再発例では2024年以降に治療選択肢が増えたため、過去に何を使ったかによって次に選べる治療が変わります。FGFR3遺伝子異常のように遺伝子検査によって治療候補が増える場合もあります。

そのため標準治療を知ることは重要ですが「なぜ自分にはその治療が選ばれているのか」を理解することが治療選択では重要です。

腎盂がん・尿管がんの治療を選ぶときに確認したいこと

腎盂がん・尿管がんの治療では、病名とステージだけでは治療方針を決めきれません。主治医から治療の説明を受ける際には、次のような点を整理すると、なぜその治療が提案されているのかを理解しやすくなります。

確認したいこと 確認する意味
腎細胞がんではなく尿路上皮がんなのか 同じ腎臓周辺のがんでも、腎細胞がんと腎盂がんでは手術・薬物療法が異なる
現在のステージはどこまでか 局所治療で根治を目指せるのか、全身治療が必要なのかを判断する基礎になる
低リスクか高リスクか 腎温存治療を選べる可能性や腎尿管全摘除術の必要性に関係する
腎臓を残せる可能性はあるか 腎機能を残す利益と局所再発リスクを比較する必要がある
手術後の腎機能はどの程度と予測されるか 術後の生活だけでなく、その後使用できる薬物療法にも影響する
手術前後の薬物療法が必要か 再発リスク、病理結果、腎機能、術前治療歴によって必要性が変わる
膀胱にもがんがないか 同じ尿路上皮から発生するため、膀胱がんを併発・再発する可能性がある
再発した場合に次の治療があるか 現在の治療だけでなく、薬物療法の順序や遺伝子検査まで含めて長期的に考えられる

治療法が複数提示され、それぞれにメリットとデメリットがある場合には、主治医から説明を受けたうえでセカンドオピニオンを利用する方法もあります。特に腎温存か腎尿管全摘除術か、周術期薬物療法を行うか、進行がんの治療をどの順番で行うかなどは、その後の生活や治療選択にも関わるため、納得できるまで確認することが大切です。

まとめ

腎盂がんと尿管がんは発生する場所は異なりますが、どちらも多くは尿路上皮から発生するため、まとめて「腎盂・尿管がん」として治療します。同じ腎臓周辺にできる腎細胞がんとは性質も治療方法も異なり、むしろ同じ尿路上皮から発生する膀胱がんと密接な関係があります。

初期には自覚症状がない場合もありますが、代表的な症状の1つが血尿です。血尿が一度だけで止まっても腎盂・尿管がんを否定できないため、原因を確認することが重要です。

治療では、ステージだけでなく、腫瘍の大きさ・数・悪性度・浸潤の有無などから低リスクか高リスクかを判断します。低リスクであれば腎臓を残す治療を検討できる一方、高リスクでは腎臓と尿管をまとめて摘出する腎尿管全摘除術が治療の中心です。

一方、切除不能・転移性の腎盂・尿管がんでは薬物療法が中心となります。2024年以降はエンホルツマブ ベドチン+ペムブロリズマブやニボルマブを含む新しい一次治療が国内で承認され、FGFR3遺伝子異常を持つ一部の患者にはエルダフィチニブという治療選択肢も加わっています。

手術後には膀胱内再発が起こりやすいため、原発巣を取り切った後も長期的な経過観察が必要です。2026年には、腎尿管全摘除術直後のピラルビシン膀胱内注入によって再発リスクを下げられることを示した日本の第III相試験結果も報告されました。

治療を考えるときには、「がんを取り切れるか」だけでなく、「どの程度の腎機能を残せるか」「再発した場合にどの治療が使えるか」まで含めて考えることが重要です。現在提案されている治療の目的や、ほかに選択肢があるのか分からない場合には、主治医へ確認したうえで、必要に応じてセカンドオピニオンなども活用しながら治療方針を検討しましょう。

腎細胞がんの特徴や治療法、症状・リスク・ステージ別生存率などは、以下の記事で解説しています。

膀胱がんの治療法や、腎盂がん・尿管がんとの違いが気になる方は、以下の記事も参考にしてみて下さい。