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乳がんbreast-cancer

乳がんは、日本人女性で最も多く診断されているがんです。2023年には女性102,592人が乳がんと診断され、生涯で乳がんと診断される確率は11.8%、およそ8人に1人と推計されています。

「乳がん」という一つの病名だけで治療内容や再発リスクは判断できません。乳房の中にとどまる非浸潤がんなのか、周囲へ広がる浸潤がんなのか、リンパ節やほかの臓器へ転移しているのかに加え、ER・PgRなどのホルモン受容体、HER2、遺伝子・バイオマーカーの結果によって治療は大きく変わります。

現代医学では、手術で取り除く範囲だけを考えるのではなく「手術前に薬物療法を行うべきか」「再発を防ぐためにどの薬を追加するか」「長期間の治療と仕事や育児をどう両立するか」まで含めて治療計画を立てます。

さらに乳がんの薬物療法はこの数年で大きく変化しています。HER2陽性乳がんだけでなく、これまでHER2陰性とされていたHER2低発現・超低発現乳がんにも治療選択が広がり、HR陽性乳がんではCDK4/6阻害薬や新しい内分泌療法、AKT経路を標的とする薬などが使われるようになっています。

この記事では、乳がんの症状や原因だけでなく、検診と受診の違い、病理・遺伝子検査、ステージと再発リスク、サブタイプごとの治療、治療が仕事・妊娠・外見・日常生活へ与える影響まで、2026年時点の診療に沿って整理します。

参考:最新がん統計|国立がん研究センター がん統計

  • 乳がんの治療はステージ+がんの性質で決める
  • 2026年は遺伝子・バイオマーカーに応じた治療選択がさらに拡大
  • 生存率・再発リスクだけでなく、治療後の生活まで考える

乳がんとは何か

乳がんは、乳房にある乳腺の組織から発生する悪性腫瘍です。乳腺は、母乳をつくる小葉と、母乳を乳頭まで運ぶ乳管から構成され、乳がんの多くは乳管から発生します。一部は小葉などから発生します。

乳がんでは、しこりの大きさだけを見るのではなく、「どこまで広がっているか」と「どのような性質のがんか」の両方を調べることが治療選択につながります。

たとえば同じ2cmの乳がんでも、ホルモン受容体陽性・HER2陰性なのか、HER2陽性なのか、トリプルネガティブ乳がんなのかによって、手術前後に使用する薬や治療期間が変わることがあります。

非浸潤がんと浸潤がんでは転移の考え方が異なる

病理検査では、まずがん細胞が乳管や小葉の中にとどまっている非浸潤がんと、その外へ広がっている浸潤がんを区別します。

分類 状態 治療を考えるうえでの意味
非浸潤がん がん細胞が乳管や小葉の内部にとどまり、周囲の組織へ入り込んでいない 原則として遠隔転移を起こす段階ではなく、乳房内の病変を適切に治療することが中心
浸潤がん がん細胞が乳管や小葉の外へ出て周囲の組織へ広がっている リンパ液や血液を介してリンパ節やほかの臓器へ転移する可能性があり、再発予防を含む全身治療を検討する

国立がん研究センターでは、非浸潤がんを乳管内または小葉内にとどまるがん、浸潤がんを乳管や小葉を越えて周囲へ広がったがんと説明しています。

非浸潤がんは一般にステージ0に分類されます。一方、浸潤がんでは腫瘍の大きさ、リンパ節転移、遠隔転移などからステージを判断し、さらに病理学的な性質を組み合わせて治療を決めます。

参考:乳がんについて|国立がん研究センター がん情報サービス

乳がんはホルモン受容体とHER2によって治療が大きく変わる

浸潤性乳がんでは、病理検査でER(エストロゲン受容体)、PgR(プロゲステロン受容体)、HER2などを調べます。

これらは単に乳がんを分類するための項目ではなく、どの薬が治療候補になるかを判断するための情報です。

主なタイプ 特徴 治療選択の例
HR陽性・HER2陰性 ERやPgRなどのホルモン受容体が陽性で、HER2は陽性ではない 内分泌療法を基本に、再発リスクや治療段階によってCDK4/6阻害薬、化学療法、その他の標的治療などを検討
HER2陽性 HER2タンパク質の過剰発現やHER2遺伝子増幅がある 化学療法とHER2標的治療を、病期や治療前後の反応に応じて組み合わせる
トリプルネガティブ乳がん ER、PgR、HER2のいずれも治療標的として陽性ではない 化学療法を中心に、病期やPD-L1などによって免疫療法、BRCA1/2などによってPARP阻害薬などを検討

HER2陽性乳がんについては、以下の記事で検査方法や抗HER2治療を詳しく解説しています。

トリプルネガティブ乳がんについては、以下の記事で早期・進行期の治療を詳しく解説しています。

参考:乳癌診療ガイドライン2026年版|日本乳癌学会

HER2陰性の中にもHER2低発現・超低発現がある

現在は、HER2を単純に「陽性」と「陰性」だけに分けて考えない場面もあります。

HER2陽性の基準を満たさない乳がんの中には、HER2タンパク質が少量発現しているHER2低発現(HER2-low)や、さらに発現量が少ないHER2超低発現(HER2-ultralow)があります。

日本乳癌学会は2025年9月、ホルモン受容体陽性かつHER2低発現またはHER2超低発現乳がんに対するトラスツズマブ デルクステカンの適応拡大について公式ステートメントを発出しています。

参考:HER2低発現・超低発現に関するステートメント|日本乳癌学会

HER2低発現・超低発現は、HR陽性・HER2陽性・トリプルネガティブと並ぶ新しい「分子サブタイプ」と考えるよりも、進行・再発乳がんなどでADC(抗体薬物複合体)の適応を判断するためのHER2発現分類として理解すると分かりやすいでしょう。

このため、過去に「HER2陰性」と説明されていても、進行・再発時には以前の病理標本や新たに採取した組織を見直し、HER2の発現程度が次の治療選択に関係する場合があります。

乳がんの原因とリスク

乳がんは「この原因があったから発症した」と一つに決められる病気ではありません。女性ホルモンの影響、遺伝的な体質、生活習慣など、複数の要因が発症リスクに関係します。

リスク要因を持つ人が必ず乳がんになるわけではなく、目立ったリスク要因がない人にも乳がんは発生します。そのため、発症後に食生活や出産歴などから原因を探し、自分を責める必要はありません。

女性ホルモンに関連する要因

乳腺は、エストロゲンなどの女性ホルモンの影響を受ける組織です。

初経年齢が早い、閉経年齢が遅い、出産経験がない、初産年齢が高い、授乳経験がないことなどは、乳がんの発症リスクと関連すると考えられています。また、エストロゲンを含む経口避妊薬の使用や、閉経後の長期間のホルモン補充療法もリスクに関係します。

これらの多くは、本人が乳がん予防のために自由に変えられるものではありません。「出産しなかったから」「授乳期間が短かったから」と、個人の選択を発症原因として捉えるべきではありません。

飲酒、閉経後の肥満、運動不足

生活習慣では、飲酒、閉経後の肥満、運動不足などと乳がんとの関連が知られています。

とくに閉経後は、脂肪組織でもエストロゲンがつくられるため、体重増加が乳がんリスクに関係すると考えられています。

乳がんを確実に防げる生活習慣はありませんが、飲酒を控える、適正体重を保つ、無理のない範囲で身体活動を続けることは、乳がんを含む生活習慣病の予防にもつながります。

参考:乳がん 予防・検診|国立がん研究センター がん情報サービス

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)

乳がんの一部には、生まれつき持っている遺伝子の変化が発症に関係するものがあります。代表的なのが、生殖細胞系列BRCA1/2病的バリアントによる遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)です。

BRCA1/2の病的バリアントを持っていると、乳がんや卵巣がんなどを発症するリスクが高くなります。ただし、病的バリアントを持つすべての人が必ず乳がんを発症するわけではありません。

遺伝学的検査を検討するきっかけには、次のようなものがあります。

  • 若い年齢で乳がんを発症した
  • 両側乳がんや複数の原発性乳がんを発症した
  • トリプルネガティブ乳がんと診断された
  • 本人または血縁者に卵巣がん、膵がん、男性乳がんなどがある
  • 血縁者にBRCA1/2病的バリアントが確認されている
  • PARP阻害薬など、治療薬を選ぶために検査結果が必要になる

家族に乳がん患者が多いことは検査を考える材料の一つですが、家族歴が目立たなければHBOCではない、と判断することはできません。

BRCA1/2の検査結果は、自分の治療だけでなく、反対側の乳房や卵巣などの将来のがんリスク、血縁者にも関係する情報です。検査を受ける場合は、必要に応じて遺伝カウンセリングを利用し、結果が分かった後にどのような選択肢があるのかまで確認します。

参考:乳癌患者に対するBRCA遺伝学的検査|遺伝性乳がん卵巣がんを知ろう!

リスクが低そうでも検診は必要

乳がんのリスク要因は「検診を受ける人と受けなくてよい人」を分けるためのものではありません。

家族に乳がん患者がいない、出産・授乳経験がある、運動をしているといった場合でも乳がんになることがあります。

一方、BRCA1/2病的バリアントなどによって乳がんの発症リスクが非常に高いことが分かっている人では、一般的な乳がん検診とは異なる方法や間隔で経過をみる場合があります。

一般的な乳がん検診と、症状がある場合の受診を混同しないことが必要です。

乳がん検診と症状がある場合の受診

乳がんを早期に見つける方法を考えるときは、「症状のない人が受ける検診」と「症状がある人が受ける診療」を分けることが大切です。

日本の対策型乳がん検診では、40歳以上の女性に2年に1回のマンモグラフィが基本です。

状況 取るべき行動
症状がない40歳以上の女性 原則として2年に1回、マンモグラフィによる乳がん検診を受ける
検診で「要精密検査」となった 症状がなくても精密検査を受ける
しこりや乳頭分泌などの症状がある 次回の検診を待たず、乳腺外科などの医療機関を受診する
遺伝的に高リスクと判断されている 一般検診とは別に、専門医から提示された検査方法・間隔に従う

参考:乳がん 予防・検診|国立がん研究センター がん情報サービス

症状がある場合は検診を待たない

乳がん検診は、基本的に症状のない人を対象としています。

以前にはなかったしこり、乳房の皮膚のひきつれ、乳頭の変化、血液が混じるような乳頭分泌などがある場合は「もうすぐ会社の健診があるから」「今年は自治体検診の年だから」と待つのではなく、医療機関を受診します。

40歳未満でも同じです。乳がん検診の対象年齢に達していないことは、症状があるときに受診しなくてよいという意味ではありません。

受診後は、年齢や症状に応じてマンモグラフィ、超音波検査などを行い、必要であれば組織検査へ進みます。

「要精密検査」は乳がん確定という意味ではない

マンモグラフィ検診で要精密検査となっても、その時点で乳がんと診断されたわけではありません。

乳腺の重なり、良性のしこり、石灰化などによって精密検査が必要になることもあります。反対に、症状がなくても精密検査を受けた結果、早期の乳がんが見つかることがあります。

「怖いから結果を確認したくない」と受診を先延ばしにすると、検診を受けた意味が薄れてしまいます。要精密検査の通知を受けた場合は、乳腺を専門とする医療機関で確認します。

高濃度乳房だから全員に超音波検診を追加するわけではない

マンモグラフィでは、脂肪は黒く、乳腺と乳がんは白く写ります。乳腺の割合が多い高濃度乳房(デンスブレスト)では、白い乳腺の中に病変が隠れ、マンモグラフィで見つけにくいことがあります。

診療として超音波検査を行うと、マンモグラフィでは分かりにくい病変の評価に役立つことがあります。

ただし、高濃度乳房であることだけを理由に、症状のないすべての人へマンモグラフィと超音波の両方を定期検診として行うことが、現在の対策型乳がん検診の標準になっているわけではありません。

現在の対策型検診ではマンモグラフィが基本です。症状、マンモグラフィの所見、乳がんリスクなどに応じて、診療では超音波検査を追加します。

日頃から自分の乳房の状態を知っておく

ブレスト・アウェアネスとは、決められた方法で毎月自己検診を行い、しこりを探し続けることではありません。日頃から自分の乳房の状態を知り、着替えや入浴などの際に以前との違いへ気づけるようにする生活習慣です。

国立がん研究センターでは、次の4点を示しています。

  • 自分の乳房の状態を知る
  • 乳房の変化に気を付ける
  • 変化に気付いたら速やかに医師へ相談する
  • 40歳になったら2年に1回乳がん検診を受ける

毎日不安になりながら乳房を触り続ける必要はありません。「普段の自分と何か違う」と感じたときに、その変化を放置せず受診につなげることがブレスト・アウェアネスの目的です。

次の章では、乳房のしこり、皮膚や乳頭の変化など、乳がんでみられる症状と受診の目安を詳しく解説します。

参考:乳がん 検査|国立がん研究センター がん情報サービス

乳がんの初期症状

乳がんで最も気づきやすい症状は乳房のしこりですが、すべての乳がんでしこりを触れるわけではありません。乳房の皮膚や乳頭の変化、乳頭からの分泌物などをきっかけに見つかることもあります。

また、乳がんの早期には自覚症状がないこともあります。そのため、「症状がないから乳がんではない」と判断するのではなく、症状がないときは定期検診、変化に気づいたときは医療機関での診察と使い分けます。

乳房のしこり

乳がんでは、乳房に以前はなかったしこりや硬さを感じることがあります。

しこりがあるからといって乳がんとは限りません。乳腺症や線維腺腫などの良性疾患でもしこりは生じます。国立がん研究センターによると、乳腺症では月経前にしこりや痛みが強くなり、月経後に軽くなることがあり、線維腺腫では触ると動きやすいしこりとして感じることがあります。

ただし、触った感覚だけで良性と悪性を区別することはできません。

  • 以前にはなかったしこりや硬さに気づいた
  • 片側だけに新しい変化がある
  • 同じ場所の硬さが続いている
  • 脇の下にも腫れやしこりを感じる

このような場合は、次回の乳がん検診を待たずに乳腺外科などを受診します。

参考:乳がんについて|国立がん研究センター がん情報サービス

乳房の皮膚のくぼみ・ひきつれ

乳がんが周囲の組織へ影響すると、乳房の皮膚が内側へ引っ張られ、えくぼのようなくぼみやひきつれとして見えることがあります。左右の乳房の形が以前と比べて非対称になる場合もあります。

着替えや入浴の際には、しこりを探すことだけに集中するのではなく、片側だけ皮膚がへこんでいないか、乳房の形が以前と変わっていないか、腕を上げたときに一部だけ皮膚が引きつれていないか、といった見た目の変化にも目を向けます。

体重変化や加齢などでも乳房の形は変わるため、左右差があること自体が乳がんを意味するわけではありません。「以前の自分と比べて新しく生じた変化か」が受診を考える手掛かりになります。

乳頭や乳輪の変化

乳がんでは、乳頭や乳輪のただれ、乳頭の形の変化などがみられることがあります。湿疹のように見える変化は皮膚炎などでも起こりますが、片側の乳頭・乳輪だけに変化が続く場合は乳腺外科で確認します。

また、以前は出ていた乳頭が新しく引き込まれるようになった場合なども、病変によって乳房内部の組織が引っ張られていないか調べることがあります。

乳頭からの分泌物

授乳中ではないのに乳頭から分泌物が出る場合も、乳腺疾患を調べるきっかけになります。乳がんでも乳頭分泌がみられることがあります。

とくに片側の乳房からだけ出る、一つの乳管から繰り返し出る、血液が混じるような色をしている、しこりや乳頭の変化を伴っている、といった場合は原因を確認するために受診します。

乳頭分泌がある場合には、診察や画像検査に加え、必要に応じて分泌物に含まれる細胞を調べることがあります。

脇の下のしこりや腫れ

乳房のリンパ液は、主に脇の下にある腋窩リンパ節へ流れます。乳がんがリンパ節へ広がると、脇の下のリンパ節が腫れて触れる場合があります。

ただし、リンパ節は感染症や炎症などでも腫れるため、脇にしこりがあるだけで乳がんの転移とは判断できません。

乳房の変化とともに脇のしこりがある場合や、原因が分からない腫れが続く場合は、乳房とリンパ節をあわせて超音波検査などで評価します。超音波検査は、乳房のしこりだけでなく、脇の下など周囲のリンパ節を確認するためにも用いられます。

痛みがないから乳がんではないとは限らない

「がんなら痛いはず」と考える人もいますが、乳がんの代表的な症状はしこりや皮膚・乳頭の変化であり、痛みの有無だけで乳がんを判断することはできません。反対に、乳房の痛みには月経に伴う乳腺の変化など、乳がん以外の原因もあります。

痛いか痛くないかではなく、新しいしこりや皮膚・乳頭の変化を伴っていないか、片側の同じ場所に変化が続いていないかを確認します。

乳房以外の症状から見つかることもある

乳がんが進行し、ほかの臓器へ転移している場合は、乳房以外の症状が現れることがあります。

たとえば骨、肺、肝臓などは乳がんが転移することがある臓器です。ただし、腰痛、咳、倦怠感などは日常的にも起こる症状であり、それだけで乳がんの転移と判断することはできません。

すでに乳がんの治療を受けたことがある人で、これまでになかった症状が続く場合は、次の定期診察まで待つべきか担当医へ確認します。

転移・再発乳がんの症状や現在の治療については、以下の記事で詳しく解説しています。

ステージ4乳がんについては、以下の記事も参考にしてください。

症状に気づいたら「次の検診まで待つ」のではなく受診する

乳房に変化があったとき、「痛くないから様子を見る」「40歳未満だから乳がんではない」「去年の検診が正常だったから大丈夫」と自己判断することは避けます。

乳がん検診は症状のない人を対象としたものです。症状がある場合は検診ではなく、乳腺外科などの医療機関を受診し、診察と必要な画像検査を受けます。国立がん研究センターも、気になる症状がある場合には乳腺科・乳腺外科などを受診するよう案内しています。

一方で、しこりや乳頭分泌があっても良性疾患であることはあります。症状だけで悪性・良性を決めるのではなく、マンモグラフィや超音波検査、必要に応じた病理検査で確認することが、次の判断につながります。

参考:乳がん 検査|国立がん研究センター がん情報サービス

乳がんの検査と診断

乳がんが疑われた場合は、マンモグラフィや超音波検査で病変の位置・形を確認し、必要に応じて針生検などで組織を採取して診断を確定します。画像だけで乳がんと断定することはできません。

乳がんでは、がんがあるかどうかを確認するだけでなく、診断後にER・PgR、HER2、組織学的グレードなど「どのような性質の乳がんなのか」を調べます。この結果が、手術前後の薬物療法や進行・再発時の治療選択につながります。

参考:乳がん 検査|国立がん研究センター がん情報サービス

マンモグラフィと超音波検査は得意な病変が異なる

マンモグラフィは乳房専用のX線検査です。乳房を圧迫して撮影し、しこりだけでなく、乳がんに伴ってみられることがある微細な石灰化を確認できます。

一方、超音波検査では、乳房のしこりの形や内部の状態、大きさ、脇の下のリンパ節などを確認します。被ばくがなく、高濃度乳房ではマンモグラフィで分かりにくい病変の評価に役立つ場合があります。

検査 主に確認すること
マンモグラフィ しこり、乳房構造の乱れ、微細な石灰化、病変の広がり
超音波検査 しこりの形・大きさ・内部の性状、周囲のリンパ節

検診ではマンモグラフィが基本ですが、症状がある人の診療では、年齢や乳房の状態、マンモグラフィの所見などをもとに必要な検査を組み合わせます。

乳房MRIは病変の広がりを詳しく調べる

乳房MRIは、磁気と造影剤などを使って乳房内を詳しく調べる検査です。

すでに乳がんと診断された人では、マンモグラフィや超音波検査だけでは分かりにくい病変の広がりや、乳房内にほかの病変がないかを確認するため、手術前などに行うことがあります。

たとえば、乳房温存手術が可能か検討するとき、病変が乳房内のどこまで広がっているか確認するとき、複数の病変が疑われるとき、術前薬物療法の前後で病変を評価するとき等に利用します。

生殖細胞系列BRCA1/2病的バリアントを持つなど、遺伝的に乳がんリスクが高い人では、一般的な乳がん検診とは別に、造影乳房MRIを用いたサーベイランスが検討されます。

乳房MRIも、画像だけでがんを確定する検査ではありません。新しい病変が見つかった場合には、必要に応じて超音波検査などで位置を確認し、組織を採取します。

乳がんの確定診断には病理検査が必要

画像検査で乳がんが疑われた場合は、病変から組織を採取し、顕微鏡で調べる病理検査を行います。乳がんかどうかを確定するだけでなく、がん細胞が乳管や小葉の中にとどまる非浸潤がんなのか、周囲の組織まで広がった浸潤がんなのかも病理検査で判断します。

合わせて、どのような組織型の乳がんなのかを確認し、浸潤がんではER・PgRなどのホルモン受容体やHER2の状態も調べます。これらは単なる診断項目ではなく、内分泌療法やHER2標的治療など、手術前後にどの治療を組み合わせるかを決める材料になります。

そのため、手術前に薬物療法を行う可能性がある場合は、治療を始める前の生検で乳がんの性質を十分に評価しておく必要があります。

病理検査では「がんの性質」と治療標的を確認する

乳がんの病理結果には多くの項目が記載されます。すべての用語を覚える必要はありませんが、「この結果が治療にどう関係するのか」を知っておくと治療方針を理解しやすくなります。

検査・病理所見 主な意味
ER・PgR ホルモン受容体。内分泌療法による効果を期待できるか判断する
HER2 HER2タンパク質の発現や遺伝子増幅を調べ、HER2を標的とする治療の適応を判断する
Ki-67 がん細胞がどの程度増殖しているかを考える材料の一つ
組織学的グレード がん細胞の形や増殖の特徴から悪性度を評価し、再発リスクを考える材料とする

これらの結果と、腫瘍径、リンパ節転移、年齢、閉経状況などを組み合わせて、手術だけでよいのか、手術前後に薬物療法を追加するのかを判断します。

進行・再発時には追加のバイオマーカー検査を行うことがある

ER・PgRやHER2は多くの乳がんで早い段階から確認しますが、すべての遺伝子・バイオマーカー検査を、初回診断時に全員へ行うわけではありません。

とくに進行・再発乳がんでは、サブタイプやこれまでの治療内容に応じて、追加の検査結果が次の薬を選ぶ材料になります。

検査 主に治療へ関係する場面
BRCA1/2 生殖細胞系列病的バリアントがある場合、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の評価やPARP阻害薬などの治療選択に関係する
ESR1 主にHR陽性・HER2陰性の進行・再発乳がんで、内分泌療法後の治療選択を考える材料になる
PIK3CA/AKT1/PTEN HR陽性・HER2陰性の進行・再発乳がんなどで、AKT経路を標的とする治療の適応判断に用いる
PD-L1 主に転移・再発トリプルネガティブ乳がんで、免疫療法の適応を考える材料になる
HER2低発現・超低発現 HER2陽性ではない進行・再発乳がんで、ADCの適応判断に関係する場合がある

検査によっては、以前採取した乳がん組織を使用できる場合と、新たな生検や血液検査を検討する場合があります。

転移・再発した乳がんでは、原発巣と転移巣でER・PgRやHER2などの性質が変化していることもあるため、治療方針が変わる可能性がある場合には転移巣を生検して再評価することがあります。

BRCA1/2検査は通常の腫瘍遺伝子検査とは意味が異なる

生殖細胞系列BRCA1/2検査では、血液などを使い、生まれつき持っている病的バリアントがないかを調べます。

結果は乳がんの薬を選ぶだけでなく、反対側の乳房や卵巣などの将来のがんリスク、家族にも関係する情報となります。国立がん研究センターも、BRCA1/2の遺伝子変化が分かった場合には、治療薬やリスク低減手術などの選択に関係すると説明しています。

そのため、必要に応じて遺伝カウンセリングを利用し、「検査結果が陽性だった場合に自分と家族へ何が変わるのか」を理解したうえで検査を受けます。

CT・PET/CT・骨シンチグラフィは転移の評価に用いる

乳がんと診断された後は、病期や症状などに応じてCT、PET/CT、骨シンチグラフィなどを使い、肺、肝臓、骨などへの遠隔転移を調べることがあります。

これらの検査を、早期乳がんと診断されたすべての人へ一律に行うわけではありません。腫瘍の大きさ、リンパ節転移の可能性、症状などを踏まえて、治療方針を決めるために必要な検査を選びます。

転移が確認された場合はステージ4となりますが、治療は転移の有無だけで決まりません。HR・HER2、遺伝子・バイオマーカー、転移している臓器、症状などによって薬物療法や局所治療を組み合わせます。

検査結果を聞くときに確認したいこと

病理結果には多くの情報が記載されるため、数値をすべて覚える必要はありません。診察では、次の内容を確認すると治療とのつながりを整理しやすくなります。

  • 非浸潤がんと浸潤がんのどちらか
  • ER・PgRは陽性か陰性か
  • HER2はどのように判定されているか
  • 組織学的グレードやKi-67は再発リスクを考えるうえでどう評価されているか
  • 手術前に薬物療法を行う理由があるか
  • BRCA1/2など追加で必要な検査があるか
  • 進行・再発した場合、現在の病理標本で必要なバイオマーカーを確認できるか

検査結果がそろった後は、腫瘍の大きさ、リンパ節転移、遠隔転移からステージを判断します。さらに病理学的な性質や再発リスクを組み合わせることで、手術の方法や手術前後に必要な薬物療法を決めていきます。

参考:乳癌診療ガイドライン2026年版|日本乳癌学会

乳がんのステージ分類

乳がんのステージ(病期)は、がんが現在どこまで広がっているかを表します。単に「しこりが何cmあるか」だけで決まるものではなく、乳房内での広がり、リンパ節転移、骨・肺・肝臓・脳などへの遠隔転移を組み合わせて判断します。

乳がんではステージ0からステージ4まであり、その基本となるのがTNM分類です。Tは原発腫瘍、Nは所属リンパ節、Mは遠隔転移の状態を表します。

分類 何を表すか 主に確認すること
T 原発腫瘍 浸潤がんの大きさ、胸壁や乳房の皮膚への広がり
N 所属リンパ節 腋窩、内胸、鎖骨周囲などのリンパ節へどこまで広がっているか
M 遠隔転移 骨、肺、肝臓、脳など離れた臓器への転移があるか

T分類は腫瘍の大きさだけではなく、胸壁・皮膚への広がりも表す

T分類では、乳房に発生した原発腫瘍の状態を評価します。

非浸潤がんはTisと表されます。浸潤がんでは、最大径が2cm以下ならT1、2cmを超えて5cm以下ならT2、5cmを超える場合はT3に分類されます。T1はさらに大きさによって細かく分類されます。

一方、T4は「非常に大きな乳がん」という意味ではありません。腫瘍が胸壁へ広がっている場合や、乳房の皮膚に潰瘍、むくみ、衛星皮膚結節などを生じている場合は、腫瘍径にかかわらずT4に分類されます。乳房の広い範囲に発赤や浮腫を生じる炎症性乳がんもT4に含まれます。

そのため「しこりが小さいから必ず早期」とは限りません。乳がんの広がり方まで含めてT分類を判断します。

T分類 大まかな状態
Tis 非浸潤がん
T1 浸潤がんの最大径が2cm以下
T2 2cmを超え、5cm以下
T3 5cmを超える
T4 大きさにかかわらず胸壁や皮膚へ広がっている。炎症性乳がんも含む

N分類ではリンパ節転移の場所と広がりを確認する

乳房から流れるリンパ液は、主に脇の下にある腋窩リンパ節へ向かいます。そのため、乳がんでは腋窩リンパ節が代表的な転移先となりますが、胸骨の近くにある内胸リンパ節や、鎖骨の上下にあるリンパ節へ広がる場合もあります。

N分類では「リンパ節転移があるか、ないか」だけではなく、どのリンパ節へ、どの程度広がっているかを評価します。

N0は所属リンパ節転移を認めない状態です。N1では主に同じ側の腋窩リンパ節への比較的限られた転移、N2ではより多くの腋窩リンパ節や内胸リンパ節への広がり、N3では鎖骨下・鎖骨上リンパ節を含むさらに広い所属リンパ節への転移などが該当します。

N分類は、画像や診察で判断する場合と、手術で採取したリンパ節を顕微鏡で調べる場合で、さらに細かな基準が設けられています。

乳がん手術では、センチネルリンパ節生検などによって、最初にがん細胞が流れ着く可能性が高いリンパ節を調べることがあります。画像でリンパ節転移が明らかでなくても、病理検査で微小な転移が見つかる場合があるため、手術後にN分類が確定または変更されることがあります。

M1なら腫瘍の大きさにかかわらずステージ4になる

M分類では、乳房や所属リンパ節から離れた場所へ転移しているかを確認します。

遠隔転移が確認されない場合はM0、骨、肺、肝臓、脳などに遠隔転移が確認された場合はM1です。M1であれば、乳房の腫瘍が小さくても、リンパ節転移がなくてもステージ4に分類されます。

このため、ステージ4は「乳房のしこりが非常に大きくなった状態」という意味ではありません。乳がんが乳房から離れた場所へ広がっているかどうかによって決まります。

TNMの組み合わせによってステージ0~4が決まる

T・N・Mをそれぞれ評価した後、その組み合わせからステージを決めます。

たとえば、乳房内の小さな腫瘍でリンパ節転移がなければ早期のステージになります。一方、腫瘍そのものは小さくてもリンパ節転移が広がっていればステージは上がります。また、遠隔転移が確認されればT・Nにかかわらずステージ4です。

国立がん研究センターが示す解剖学的な病期分類を大まかに整理すると、次のようになります。

ステージ 大まかな状態
ステージ0 がん細胞が乳管などの内部にとどまる非浸潤がん
ステージ1 主に小さな浸潤がんで、リンパ節への広がりがない、または非常に限られている段階
ステージ2 腫瘍がやや大きい、または腋窩リンパ節などへ限られた転移がある段階
ステージ3 胸壁・皮膚へ広がっている、または所属リンパ節への転移が広範囲に及ぶ局所進行乳がん
ステージ4 骨、肺、肝臓、脳などへの遠隔転移がある

ステージ2は2A・2B、ステージ3は3A・3B・3Cなどにさらに分かれます。細かな分類ではTとNの組み合わせを用いるため「腫瘍が3cmだからステージ2」のように腫瘍径だけから判断することはできません。

参考:乳がん 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

治療前のステージと手術後のステージが異なることがある

乳がんでは、ステージを「いつ評価したか」も確認する必要があります。

治療を始める前に、診察、マンモグラフィ、超音波、MRI、CTなどから評価したものを臨床病期といいます。TNMではcT、cNなどと表すことがあります。

手術を行った場合は、切除した乳房の組織やリンパ節を顕微鏡で詳しく調べます。その結果を反映したものが病理病期で、pT、pNなどと表されます。臨床的にはリンパ節転移がないと考えられていても、センチネルリンパ節生検で転移が見つかるなど、手術前後で評価が変わることがあります。臨床TNMは治療前、病理TNMは手術で得られた情報を加えて評価する分類です。

一方、HER2陽性乳がんやトリプルネガティブ乳がんなどでは、手術前に薬物療法を行うことがあります。この場合は、治療前の病変の広がりと、治療後の手術標本にどの程度がんが残っているかを分けて評価します。

手術前の治療によって画像上のしこりが消えたり、手術標本で浸潤がんが確認されなくなったりしても、「もともと乳がんではなかった」という意味ではありません。治療前にどこまで病変が広がっていたかと、治療にどの程度反応したかは、それぞれ別の情報としてその後の治療を考える材料になります。

ステージだけでは治療法は決まらない

ステージは治療方針を決める基本情報ですが、同じステージの患者さんが同じ治療を受けるわけではありません。

乳がんでは、ER・PgR、HER2などの病理結果、閉経状況、年齢や全身状態なども治療選択に関係します。たとえば同じステージ2でも、HR陽性・HER2陰性乳がん、HER2陽性乳がん、トリプルネガティブ乳がんでは、手術前後に行う薬物療法が異なることがあります。

したがって、自分の病状を確認するときは「ステージはいくつか」だけでなく、TNMがそれぞれどう評価されているのか、乳がんがどのような性質なのかまで確認すると、その後の治療方針を理解しやすくなります。

参考:乳癌取扱い規約 第19版・乳癌診療ガイドライン2026年版|日本乳癌学会

乳がん治療の全体像

乳がんの治療には、手術、放射線治療、薬物療法があります。これらは単独で選ぶのではなく、乳房やリンパ節にある病変を治療する局所治療と、体の中に存在する可能性があるがん細胞へ作用する全身治療を、病状に応じて組み合わせます。

手術と放射線治療は主に局所治療にあたり、乳房や周囲のリンパ節にあるがんを取り除いたり、局所での再発を防いだりする役割があります。一方、内分泌療法、細胞障害性抗がん薬、HER2標的治療、免疫療法などの薬物療法は全身に作用し、手術後の再発を減らす目的や、進行・再発した乳がんを抑える目的で使用します。

遠隔転移のない乳がんでは、手術によって病変を取り除くことが治療の大きな柱になります。ただし、現在の乳がん治療は「診断されたらまず手術」と決まっているわけではありません。HER2陽性乳がんやトリプルネガティブ乳がん、腫瘍が大きい場合などでは、手術より先に薬物療法を行い、その反応を確認してから手術することがあります。

参考:乳がん 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

ステージ0|乳房内の病変を治療することが中心

ステージ0の代表的な病変である非浸潤性乳管がん(DCIS)は、がん細胞が乳管の内部にとどまっている状態です。そのため、浸潤がんのように全身の微小転移を想定して抗がん薬を行うのではなく、乳房内にある病変を適切に治療することが中心になります。

病変の大きさや乳房内での広がりを確認し、乳房部分切除術または乳房全切除術を選びます。乳房部分切除術を行った場合は、原則として残った乳房への放射線治療を組み合わせ、乳房内で再発する可能性を下げます。ホルモン受容体陽性で乳房部分切除術を受けた場合には、再発を減らす目的で術後の内分泌療法を検討することがあります。

一方、通常のDCISに対して、浸潤性乳がんと同じような細胞障害性抗がん薬やHER2標的治療を一律に行うわけではありません。ステージ0と浸潤性乳がんでは、薬物療法の考え方を分けて理解する必要があります。

ステージ1~2|手術を軸に、必要な全身治療を組み合わせる

ステージ1~2では、多くの場合、根治を目指して手術を行います。ただし、治療の順番は乳がんの大きさだけで決まるわけではありません。

比較的小さく、そのまま切除できる乳がんでは、手術を先に行い、切除した乳房やリンパ節の病理結果を確認したうえで術後治療を決めることがあります。術後には、ER・PgR、HER2、リンパ節転移、腫瘍径、組織学的グレードなどをもとに、内分泌療法、化学療法、HER2標的治療などを必要に応じて追加します。

一方、手術可能な乳がんであっても、最初に薬物療法を行うことがあります。これを術前薬物療法といいます。

術前薬物療法には、腫瘍を小さくして手術しやすくするだけでなく、実際にその乳がんへ薬がどの程度効いているかを手術前に確認できるという意味があります。とくにHER2陽性乳がんやトリプルネガティブ乳がんでは、手術時にがんが残っているかどうかが、その後の薬物療法を選ぶ材料になることがあります。

「手術できるのに、なぜ先に薬を使うのか」という疑問に対しては、単に乳房を温存しやすくするためだけではなく、治療への反応を確認し、その結果を術後治療へつなげるためという理由もあります。

ステージ3|薬物療法を先行し、手術・放射線治療へつなげることが多い

ステージ3は、所属リンパ節への転移が広範囲に及んでいる、乳房の皮膚や胸壁へ広がっているなどの局所進行乳がんを含みます。

この段階でも遠隔転移がなければ、病状によっては根治を目指した治療を行います。ただし、最初から手術するのではなく、薬物療法を先に行って乳房やリンパ節の病変を縮小させ、その後に手術と放射線治療を組み合わせることが多くなります。

どの薬を術前に使用するかは、HR陽性・HER2陰性、HER2陽性、トリプルネガティブといった乳がんの性質によって異なります。また、薬物療法後に手術標本を調べ、乳房やリンパ節にどの程度がんが残っているかを確認します。その結果によって、手術後に使用する薬を追加・変更する場合があります。

ステージ3だから全員が同じ順番で治療するわけではありません。腫瘍とリンパ節の広がり、サブタイプ、治療への反応などを見ながら、手術・放射線治療・薬物療法を組み合わせます。

ステージ4|薬物療法を中心に病状を長くコントロールする

ステージ4では、骨、肺、肝臓、脳などへの遠隔転移が確認されています。この場合、乳房だけを手術しても体のほかの場所にある乳がんを同時に治療することはできないため、基本となるのは全身へ作用する薬物療法です。

治療薬は、HR、HER2などの病理結果に加え、これまでに受けた治療、転移している臓器、症状、遺伝子・バイオマーカー検査などをもとに選びます。

ステージ4では、すべてのがんを手術で取り除くことだけを目標にするのではなく、薬物療法によってがんの進行を抑えながら、症状を軽減し、できるだけ生活を維持することが治療の大きな目的になります。

ただし、手術や放射線治療を行わないという意味ではありません。骨転移による痛みや骨折の危険、脳転移による神経症状などがある場合は、その部位への放射線治療や手術などを組み合わせることがあります。

ステージ4乳がんについては、以下の記事で治療の考え方や予後を詳しく解説しています。

同じステージでも治療の順番が異なる理由

乳がんでは、ステージが同じでも治療の順番が異なることがあります。

たとえば、同じステージ2でも、HR陽性・HER2陰性乳がんでは手術を先に行い、その病理結果をもとに術後の薬物療法を決めることがあります。一方、HER2陽性乳がんやトリプルネガティブ乳がんでは、病変の大きさやリンパ節転移などによって、薬物療法を先に行うことがあります。

ここで治療方針を分けているのは、単純な「進行している・していない」という違いではありません。その乳がんにどの薬が効く可能性が高いのか、術前治療への反応を術後治療の判断に利用できるのか、乳房をどの程度切除する必要があるのかなどを合わせて考えています。

治療説明を受ける際には「手術をするか」だけでなく、なぜ手術が先なのか、あるいはなぜ薬物療法を先に行うのかを確認すると、治療全体の流れを理解しやすくなります。

参考:乳癌診療ガイドライン2026年版|日本乳癌学会

乳がんの手術

遠隔転移のない乳がんでは、手術によって乳房内のがんを取り除くことが治療の中心になります。主な術式は、がんを含む乳房の一部を切除する乳房部分切除術(乳房温存手術)と、乳房全体を切除する乳房全切除術です。

どちらを選ぶかは、単に「しこりが何cmあるか」だけでは決まりません。病変が乳房内のどこまで広がっているか、複数の病変が離れた場所にないか、切除後に十分な乳房を残せるか、術後に放射線治療を受けられるか、遺伝的な乳がんリスク、本人が乳房の温存と再建をどのように考えているかなどを踏まえて判断します。

乳房部分切除術は「しこりだけを取る手術」ではない

乳房部分切除術では、がんだけをくり抜くのではなく、周囲の乳腺組織を含めて切除します。手術後には切除した組織の端である「切除断端」を病理検査で確認し、がん細胞が切除面まで及んでいないかを調べます。

十分に切除できていれば、原則として残った乳房へ放射線治療を行います。乳房部分切除術と術後放射線治療を組み合わせることで、乳房内で再発する可能性を下げます。適切な患者さんに乳房部分切除術と術後放射線治療を組み合わせた場合、乳房全切除術と比べて生存率に明らかな差はないことが示されています。

そのため「乳房を全部取った方が必ず治りやすい」とは限りません。反対に、乳房を残すことだけを優先すればよいわけでもありません。がんを十分に切除でき、その後に必要な放射線治療まで行えることが、乳房温存療法を成立させる前提になります。

乳房を温存できるかは、腫瘍径だけでは決まらない

乳房部分切除術を検討するときは、腫瘍そのものの大きさだけでなく、乳房全体との大きさのバランスや病変の広がりを確認します。

腫瘍径そのものはそれほど大きくなくても、乳管内に病変や石灰化が広く分布している場合や、乳房内の離れた場所に複数の病変がある場合は、部分切除では十分な切除が難しくなることがあります。反対に、診断時には部分切除が難しい大きさでも、術前薬物療法によって病変が縮小し、温存手術を検討できるようになる場合があります。

したがって「2cmだから温存できる」「3cmを超えたから全切除」といった一つの数値だけで術式を決めることはできません。MRIやマンモグラフィ、超音波検査などで乳房内の病変範囲を確認し、実際にどこまで切除する必要があるかを考えます。

乳房全切除術が適している場合

乳房全切除術では、乳腺を広い範囲で切除します。乳がんが乳房内に広く分布している場合や、離れた場所に複数の病変がある場合など、部分切除ではがんを十分に取り除くことが難しいと考えられるときに選択されます。

また、医学的には乳房温存手術が可能でも、本人が再手術の可能性や術後放射線治療、乳房の形の変化などを考えたうえで全切除を希望する場合があります。逆に、全切除が検討される病状でも、術前薬物療法への反応などによって術式を再検討できることがあります。

ここで比較したいのは「小さい手術と大きい手術のどちらがよいか」ではありません。がんを取り切れる可能性、その後に必要な放射線治療、整容性、再建の希望などを含めて、自分にとってどの方法が適しているかを考えます。

センチネルリンパ節生検で腋窩リンパ節への転移を調べる

乳がんの手術では、乳房だけでなく脇の下にある腋窩リンパ節をどこまで手術するかも決めます。

乳房から流れ出たがん細胞が最初に到達すると考えられるリンパ節をセンチネルリンパ節といいます。診察や画像検査で明らかな腋窩リンパ節転移がない場合などには、手術中にこのリンパ節を採取してがん細胞がないか調べるセンチネルリンパ節生検が行われます。

センチネルリンパ節に転移がなければ、腋窩リンパ節を広く切除する必要性を減らすことができます。これは単に手術を小さくするためではなく、腋窩リンパ節郭清に伴う腕のむくみや感覚障害、肩の動かしにくさなどの負担をできるだけ避けながら、必要な治療を行うためです。

リンパ節転移が見つかっても、必ず腋窩郭清を行うわけではない

以前は、センチネルリンパ節に転移が見つかれば、その先の腋窩リンパ節を広く切除する腋窩リンパ節郭清へ進むことが一般的でした。しかし現在は、センチネルリンパ節への転移の程度、乳房の術式、術後に行う放射線治療や薬物療法などによっては、追加の腋窩郭清を省略できる場合があります。日本乳癌学会も、センチネルリンパ節生検と腋窩リンパ節郭清を別の手術として患者向けに説明しています。

したがって「リンパ節転移あり=脇のリンパ節をすべて取る」と考える必要はありません。

一方、診断時から腋窩リンパ節への転移が明らかな場合や、転移の広がりによっては腋窩リンパ節郭清が必要になります。術前薬物療法を行った患者では、治療前のリンパ節の状態と治療後の反応も踏まえて、どのようなリンパ節手術を行うか判断します。

参考:乳癌診療ガイドライン2026年版|日本乳癌学会

切除断端にがんが残っている場合は追加手術を検討

乳房部分切除術では、切除した組織の断端を病理検査で確認します。

断端にがん細胞が認められた場合は、乳房内に病変が残っている可能性を考え、追加切除を検討します。残っていると考えられる範囲によっては部分的な追加切除で乳房を温存できることがありますが、病変が広い場合には乳房全切除術へ変更することもあります。

術前の画像で病変範囲を詳しく調べるのは、最初の手術で適切な範囲を切除し、できるだけ再手術を避けるためでもあります。

乳房再建は全切除を決めた後で考えるものとは限らない

乳房全切除術を行う場合には、乳房再建を希望するかどうかも手術計画に関係します。

乳房再建には、自分の腹部や背中などの組織を用いる方法と、人工物を用いる方法があります。また、乳がん手術と同時に行う一次再建と、乳がん治療後に時期を改めて行う二次再建があります。

どの方法が適しているかは、乳房の切除範囲だけでなく、術後放射線治療の必要性、体格、持病、希望する乳房の形、手術回数や回復に使える時間などによって変わります。そのため再建を希望する可能性がある場合は、乳房全切除術を終えてから初めて相談するのではなく、乳がん手術の術式を決める段階から乳腺外科と形成外科に相談すると治療全体を考えやすくなります。

BRCA1/2病的バリアントがある場合は手術の選択にも関係する

生殖細胞系列BRCA1/2病的バリアントが確認されている場合は、今回発生した乳がんだけでなく、将来同じ乳房や反対側の乳房に新たな乳がんが発生するリスクも含めて手術方法を検討することがあります。国立がん研究センターも、手術前にBRCA遺伝子の病的な変化が分かっている場合には手術の選択肢が変わることがあると説明しています。

ただし、BRCA1/2病的バリアントが見つかったからといって、一つの術式が自動的に決まるわけではありません。年齢、今回の乳がんの広がり、今後の発症リスク、再建の希望などを踏まえて選択します。

参考:乳がん 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

手術方法を決めるときは「何を残したいか」も相談する

乳がん手術では、医学的に可能な術式が一つとは限りません。

乳房をできるだけ残したい人もいれば、再手術や乳房内再発への不安を減らしたい人、放射線治療の通院負担を考えたい人、再建を含めて外見を整えたい人もいます。仕事への復帰時期や育児・介護など、治療後の生活も選択に関係します。

診察では「温存できますか」だけではなく、なぜその術式が勧められているのか、温存した場合と全切除した場合でその後の治療がどう変わるのか、リンパ節をどこまで手術する予定なのか、再建を希望する場合はいつ相談するのかまで確認すると、手術後の生活を含めて判断しやすくなります。

参考:乳癌治療に関連する説明動画|日本乳癌学会

乳がんの放射線治療

乳がんの放射線治療は、高エネルギーの放射線を乳房や胸壁、周囲のリンパ節などへ照射し、その場所に残っている可能性がある微小ながん細胞を減らすために行います。

手術で目に見える病変を取り除いても、顕微鏡でなければ分からないほど小さながん細胞が周囲に残っている可能性があります。そのため放射線治療は、手術で取り切れなかった大きな病変を補う治療というより、手術した乳房や胸壁、周囲のリンパ節で再発する可能性を下げるための局所治療として位置づけられます。

必要性は、乳房部分切除術を受けたのか乳房全切除術を受けたの

か、リンパ節転移がどの程度あったのか、腫瘍がどこまで広がっていたのかなどによって変わります。

参考:乳がん 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

乳房部分切除術後は原則として放射線治療を行う

乳房部分切除術では、がんを含む乳房の一部を切除しますが、乳腺そのものは残ります。その残った乳房内で再発する可能性を下げるため、乳房部分切除術後は原則として温存した乳房へ放射線治療を行います。

日本乳癌学会の放射線療法ガイドラインでも、ステージ1~2の浸潤性乳がんだけでなく、非浸潤性乳管がん(DCIS)に対して乳房温存手術を行った場合も、全乳房照射が標準治療とされています。術前薬物療法によって病理学的完全奏効が得られた場合でも、乳房温存手術後の全乳房照射は標準治療です。

これは「手術でがんが取れなかったから放射線を追加する」という意味ではありません。乳房温存療法は、適切な部分切除と術後放射線治療を組み合わせて成立する治療です。

年齢や病理所見などから乳房内再発の可能性が非常に低い一部の患者では、放射線治療を省略できるか検討される場合がありますが、誰でも省略できるわけではありません。通院の負担だけを理由に自己判断で外すのではなく、照射を行わなかった場合に乳房内再発の可能性がどの程度変わるのかを確認して判断します。

放射線治療は「5~6週間通う治療」とは限らない

乳房への放射線治療は、1回にすべての線量を照射するのではなく、複数回に分けて行います。この1回ごとの照射を「分割」といいます。

従来は、1回の線量を小さくして25回前後に分け、4~5週間ほどかけて照射する方法が広く用いられてきました。一方、現在は1回あたりの線量をやや増やして、全体の治療期間を約3週間に短縮する寡分割照射(かぶんかつしょうしゃ)が標準的な選択肢になっています。

日本乳癌学会の放射線療法ガイドラインでは、乳房温存術後の全乳房照射について、寡分割照射を従来の分割照射と同等の治療として推奨しています。日本人患者を対象としたJCOG0906試験でも、寡分割照射の安全性が確認されています。

そのため「放射線治療を受ける=平日に1カ月以上毎日通院する」と決まっているわけではありません。実際の回数や期間は、照射する範囲、リンパ節への照射の有無、施設で採用している方法などによって決まります。

仕事や育児、介護などで連日の通院が難しい場合は、治療を諦める前に、予定している照射回数と期間を確認しておくとよいでしょう。

参考:The Japanese breast cancer society clinical practice guidelines for radiation treatment of breast cancer, 2022 edition|日本乳癌学会

乳房全切除術を受けても放射線治療が必要になることがある

乳房をすべて切除すれば、すべての人が放射線治療を受けなくてよいわけではありません。

乳房全切除術後でも、リンパ節転移が多い場合や、腫瘍が胸壁・皮膚まで広がっていた場合などでは、胸壁や周囲のリンパ節に再発する可能性を下げるため、乳房切除後放射線療法(PMRT)を行います。

日本乳癌学会の放射線療法ガイドラインでは、腋窩リンパ節転移が4個以上ある場合にはPMRTが標準治療とされています。また、1~3個のリンパ節転移がある場合にも、ほかの再発リスクを踏まえてPMRTを検討します。リンパ節転移がなくても、T3~4の大きな腫瘍や切除断端にがんが及んでいる場合などには照射を検討することがあります。

つまり、全切除術と部分切除術の違いだけで放射線治療の有無を決めるのではありません。手術前の病変の広がりと、手術後に分かった病理結果が判断に関係します。

参考:乳癌診療ガイドライン2026年版|日本乳癌学会

乳房だけでなくリンパ節まで照射する場合がある

乳がんの放射線治療では、乳房または胸壁だけではなく、鎖骨の上や胸骨の内側などのリンパ節領域を照射することがあります。これを領域リンパ節照射といいます。

どこまで照射するかは、リンパ節転移の個数や場所、腫瘍の位置、手術でどこまでリンパ節を切除したかなどから判断します。

たとえば腋窩リンパ節転移が多い場合は、乳房または胸壁に加えて鎖骨上リンパ節などを照射することで、その領域で再発する可能性を下げます。一方、リンパ節転移がない早期乳がんで、全員に広範囲のリンパ節照射を行うわけではありません。

照射範囲を広げれば治療できる範囲も増えますが、肺や心臓など周囲の正常組織へ放射線が当たる範囲も変わります。そのため、再発を減らせる利益と正常組織への影響を比較して照射範囲を決めます。

手術した場所へ追加照射する「ブースト照射」を行うことがある

乳房部分切除術後では、乳房全体への照射に加え、もともと腫瘍があった部分へ放射線を追加するブースト照射を行う場合があります。

乳房内で再発する場合、もともとがんがあった周辺に生じることがあるため、年齢や病理所見などから局所再発のリスクが高いと考えられる場合には、その部分へ線量を追加します。

一方、追加照射を行うと治療回数が増えたり、乳房の硬さや形への影響が強くなったりする可能性もあります。すべての人が同じ回数の照射を受けるのではなく、再発リスクと治療後の乳房への影響を踏まえて決めます。

薬物療法と放射線治療の順番も治療計画の一部

手術後に化学療法と放射線治療の両方が必要な場合は、一般に化学療法を先に行い、その後に放射線治療へ進みます。日本乳癌学会の放射線療法ガイドラインでも、術後化学療法が必要な場合には化学療法を終了してから放射線治療を行うことが示されています。

一方、内分泌療法は放射線治療と同じ時期に行うことが可能とされています。HER2標的治療についても放射線治療と並行して行うことがありますが、とくに左乳房への照射では心臓への線量を抑えることも考慮されます。

このため、手術後に複数の治療を勧められた場合は、それぞれを別々に考えるのではなく「どの治療から始まり、放射線治療はいつ行い、薬物療法はいつまで続くのか」という全体の予定を確認すると、仕事や家庭生活の調整もしやすくなります。

放射線治療による皮膚症状や乳房の変化

乳房への放射線治療では、照射期間中から終了後にかけて、皮膚が赤くなる、ひりひりする、かゆくなるなど、日焼けに似た皮膚症状がみられることがあります。治療後には、乳房が腫れたり、時間がたって少し硬くなったり、形が変化したりする場合もあります。

照射する範囲によっては、まれに肺炎や心臓への影響などが問題になることもあります。とくに左乳房では心臓が乳房の近くにあるため、現在は治療計画を立てる段階で心臓や肺に当たる放射線量をできるだけ抑えるよう調整します。

副作用については、皮膚症状の名前を覚えるだけではなく、治療中に仕事を続けられるのか、衣服が皮膚に当たって痛くならないか、治療終了後にどのくらいで症状が落ち着くのかなど、日常生活への影響まで確認しておくことが役立ちます。

転移した乳がんでも症状を軽減するために放射線治療を使う

放射線治療は、手術後の再発予防だけに使う治療ではありません。

乳がんが骨へ転移して痛みがある場合には、転移部位への放射線治療によって痛みを和らげることができます。脳転移では、転移の数、大きさ、場所などによって定位放射線治療や全脳照射などを検討します。

この場合の目的は、乳房周囲の再発予防とは異なります。痛みや神経症状を軽減し、骨折や神経障害などによって生活が大きく損なわれるのを防ぐことが治療の目的になります。

転移・再発乳がんの治療については、以下の記事で詳しく解説しています。

放射線治療の有無や照射範囲は、「部分切除か全切除か」だけでは決まりません。診察では、どこへ照射する予定なのか、照射によってどの再発を減らそうとしているのか、何回・何週間の治療になるのかを確認すると、自分に放射線治療が勧められている理由を理解しやすくなります。

乳がんの薬物療法

乳がんの薬物療法は「乳がんにはこの抗がん薬を使う」という一つの治療ではありません。ER・PgRなどのホルモン受容体とHER2の結果を基本に、早期乳がんなのか、手術前後の治療なのか、手術不能・再発乳がんなのかによって使用する薬が変わります。

進行・再発した場合には、これまでに受けた治療に加えてESR1、PIK3CA/AKT1/PTEN、BRCA1/2、PD-L1、HER2の発現程度などが次の治療選択に関係することもあります。

薬物療法を理解するときは薬剤名だけを見るのではなく「自分の乳がんは何を標的にできるのか」「今の治療は再発予防なのか、進行した乳がんを抑える治療なのか」「次の薬を決めるために追加検査が必要か」という順序で考えると整理しやすくなります。

HR陽性・HER2陰性乳がん|内分泌療法を軸に治療を組み立てる

ERやPgRが陽性のHR陽性乳がんでは、女性ホルモンであるエストロゲンの働きを抑える内分泌療法が治療の中心になります。

早期乳がんでは、手術後にタモキシフェンアロマターゼ阻害薬などを用いて、体内に残っている可能性がある乳がん細胞の増殖を長期間抑えます。閉経前か閉経後かによって選択する薬が異なり、閉経前では卵巣機能抑制を組み合わせる場合もあります。

ただし、HR陽性だから「ホルモン療法だけ」と決まるわけではありません。腫瘍径、リンパ節転移、病理学的な性質などから再発リスクが高いと考えられる場合には化学療法を追加することがあり、HR陽性・HER2陰性で再発高リスクの早期乳がんでは、内分泌療法にCDK4/6阻害薬のアベマシクリブを追加する術後治療も国内で承認されています。

一方、手術不能・再発のHR陽性・HER2陰性乳がんでは、すぐに細胞障害性抗がん薬へ進むのではなく、内分泌療法とCDK4/6阻害薬などを組み合わせて病勢を抑える治療が行われます。治療が効かなくなったときには「内分泌療法がもうすべて効かない」と考えるのではなく、乳がん細胞に新たな治療標的が生じていないかを調べることが次の選択につながります。

ESR1変異は内分泌療法を選び直す材料になる

ESR1は、エストロゲン受容体に関係する遺伝子です。HR陽性乳がんでは内分泌療法を続ける過程でESR1遺伝子変異が確認されることがあり、その結果が次の内分泌療法の選択に関係するようになっています。

2025年には、内分泌療法後に増悪したESR1遺伝子変異陽性のHR陽性・HER2陰性の手術不能・再発乳がんに対して、経口SERDであるイムルネストラントが国内承認されました。

さらに2026年6月には、内分泌療法中にESR1遺伝子変異が確認され、まだ疾患進行が認められていないHR陽性・HER2陰性の手術不能・再発乳がんに対して、カミゼストラントが国内承認されています。承認された用法ではCDK4/6阻害薬と併用します。

これは、画像上で明らかにがんが大きくなってから治療を変更するだけではなく、治療中の遺伝子変化を調べ、その結果によって内分泌療法を見直すという考え方が実際の治療に入ってきたことを意味します。

PIK3CA・AKT1・PTEN変異があればAKT阻害薬が候補になる

HR陽性・HER2陰性の進行・再発乳がんでは、PI3K/AKT経路に関係する遺伝子を調べることがあります。

国内では、内分泌療法後に増悪したPIK3CA、AKT1またはPTEN遺伝子変異を有するHR陽性・HER2陰性の手術不能・再発乳がんに対して、AKT阻害薬のカピバセルチブがフルベストラントとの併用で承認されています。

この治療は、HR陽性乳がんの全員に行うものではありません。内分泌療法後の病状と遺伝子検査の結果を組み合わせ、「現在の乳がんにAKT経路を標的とする理由があるか」を確認して選びます。

BRCA1/2病的バリアントはPARP阻害薬の選択にも関係する

生殖細胞系列BRCA1/2病的バリアントは、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の評価だけでなく、乳がん治療にも関係します。

BRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性乳がんでは、治療段階に応じてPARP阻害薬が候補になります。国内ではオラパリブに、化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性・HER2陰性の手術不能または再発乳がんだけでなく、BRCA遺伝子変異陽性・HER2陰性で再発高リスクの乳がんに対する術後薬物療法の適応があります。またタラゾパリブにも、化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性・HER2陰性の手術不能・再発乳がんの適応があります。

このためBRCA1/2検査は、「遺伝する乳がんかを知る検査」という意味だけで捉えず、治療薬の選択に必要になる場面があることも理解しておく必要があります。

HER2陽性乳がん|HER2標的治療を手術前後で使い分ける

HER2陽性乳がんでは、HER2を標的とする薬を化学療法などと組み合わせることが治療の柱になります。

早期乳がんでも、腫瘍の大きさやリンパ節転移などによっては手術を先に行うのではなく、トラスツズマブやペルツズマブなどのHER2標的治療と化学療法を手術前に行います。術前治療には、腫瘍を縮小させるだけでなく、HER2標的治療へどの程度反応する乳がんなのかを手術標本で確認する意味があります。

この「手術後に何が残っていたか」が、その後の治療に直接つながります。術前にトラスツズマブとタキサン系薬剤による治療を受けても乳房やリンパ節に浸潤がんが残り、病理学的完全奏効が得られなかったHER2陽性乳がんでは、術後治療としてADCであるトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)を使用できます。

手術不能・再発HER2陽性乳がんでは、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)などを含む複数のHER2標的治療が使われます。さらに2026年には、化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能・再発乳がんに対して、HER2チロシンキナーゼ阻害薬のツカチニブが国内承認されました。承認された治療ではトラスツズマブとカペシタビンを併用します。

HER2陽性乳がんの治療順序については、以下の記事でも詳しく解説しています。

トリプルネガティブ乳がん|早期と転移・再発で免疫療法の条件が異なる

トリプルネガティブ乳がん(TNBC)は、ER・PgRが陰性で、HER2陽性でもない乳がんです。HR陽性乳がんのような内分泌療法や、HER2陽性乳がんに対するHER2標的治療を基本としないため、化学療法が治療の重要な土台になります。

ただし、現在のTNBC治療を「化学療法だけ」と説明することもできません。

再発リスクが高い早期TNBCでは、手術前に化学療法と免疫チェックポイント阻害薬のペムブロリズマブを併用し、手術後もペムブロリズマブを継続する治療があります。ここでは「PD-L1陽性であること」は適応条件になっていません。一方、手術不能または再発TNBCに対してペムブロリズマブと化学療法を使用する場合には、PD-L1の発現が治療選択に関係します。

「TNBCではPD-L1陽性なら免疫療法、陰性なら使わない」と一括して覚えると、早期乳がんの治療を誤解します。早期高リスクTNBCの周術期治療と、転移・再発TNBCの治療では、PD-L1の意味が異なります。

また、BRCA1/2病的バリアントが確認されればPARP阻害薬が治療候補になることがあり、治療歴のある手術不能・再発TNBCではADCのサシツズマブ ゴビテカンなども選択肢になります。サシツズマブ ゴビテカンは国内で、化学療法歴のあるHR陰性・HER2陰性の手術不能または再発乳がんに承認されています。

トリプルネガティブ乳がんについては、以下の記事でも詳しく解説しています。

ADCは乳がん治療で重要な薬剤群になっている

近年の乳がん薬物療法で治療選択を大きく広げているのが、抗体薬物複合体(ADC:Antibody-Drug Conjugate)です。

ADCは、がん細胞の表面にある特定のタンパク質を認識する抗体と、細胞を傷害する薬剤を組み合わせた治療薬です。抗体によって標的となる細胞へ近づき、抗がん作用を持つ薬剤を届ける仕組みを利用します。

HER2陽性乳がんではT-DM1やトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が使われていますが、ADCはすでに「HER2陽性乳がんだけの治療」ではありません。

日本乳癌学会は2025年9月、HR陽性かつHER2低発現またはHER2超低発現乳がんに対するT-DXdの適応拡大について公式ステートメントを公表しています。これにより、HER2陽性の基準を満たさない乳がんでも、HER2がどの程度発現しているかを確認する意味が大きくなっています。

また、TROP-2を標的とするADCも治療に入っています。ダトポタマブ デルクステカンは、アントラサイクリン系またはタキサン系薬剤による治療歴があるHR陽性・HER2陰性の手術不能・再発乳がんに国内承認されています。

サシツズマブ ゴビテカンについても、当初のHR陰性・HER2陰性乳がんに加え、2026年3月には化学療法歴のあるHR陽性・HER2陰性の手術不能・再発乳がんへ国内適応が拡大されています。

このため、進行・再発乳がんでは「最初にHR陽性、HER2陰性と言われた」という情報だけで将来の治療候補が決まるわけではありません。治療歴や病理結果を確認し、HER2低発現・超低発現、遺伝子変異なども含めて次の薬を検討します。

新しい薬が増えても、細胞障害性抗がん薬の役割はなくなっていない

分子標的薬、免疫療法、ADCなどが増えていますが、アンスラサイクリン系、タキサン系、プラチナ製剤などの細胞障害性抗がん薬は現在も乳がん治療の重要な部分を占めます。

HER2陽性乳がんではHER2標的薬と化学療法を組み合わせ、TNBCでは周術期治療の土台として化学療法を使用します。HR陽性・HER2陰性乳がんでも、早期乳がんで再発リスクが高く化学療法による上乗せ効果が期待できる場合や、進行・再発例で内分泌療法だけでは病勢を抑えにくい場合などには化学療法を検討します。乳がんの薬物療法を新しい薬と従来の抗がん薬に分けて考えるのではなく、病状に応じてそれぞれの役割を組み合わせます。

進行・再発したときは「次の薬」だけでなく「次に何を調べるか」を確認する

乳がんの薬物療法は、最初に決めたサブタイプだけを頼りに同じ系統の薬を順番に使う治療ではなくなっています。

HR陽性・HER2陰性乳がんで内分泌療法が効かなくなった場合にはESR1やPIK3CA/AKT1/PTEN、BRCA1/2などが治療選択に関係する可能性があります。HER2陽性ではこれまでに使用したHER2標的薬と治療への反応が次の薬を決める材料になります。TNBCでは治療段階によってPD-L1やBRCA1/2などの情報が必要になる場合があります。HER2陽性ではない乳がんでも、HER2低発現・超低発現がADCの適応判断に関係します。

そのため治療を変更する場面では、単に「次はどの抗がん薬ですか」と聞くだけでなく、現在の病理結果や過去の検体で、次の治療に必要なバイオマーカーを確認できているかを相談することが、治療の選択肢を整理する助けになります。

乳がんのステージ別生存率

乳がんの予後を調べると、「5年生存率」「10年生存率」という数字を目にすることがあります。ただし、生存率は個人の余命を示す数字ではありません。同じステージでも、乳がんの性質、年齢、全身状態、治療への反応などは一人ひとり異なるため、統計上の数字をそのまま自分に当てはめることはできません。

国立がん研究センターの院内がん登録では、ステージ別の5年・10年ネット・サバイバルが公表されています。

ステージ 5年ネット・サバイバル
2014~2015年診断例
10年ネット・サバイバル
2012年診断例
ステージ1 98.9% 93.7%
ステージ2 94.6% 85.4%
ステージ3 80.6% 63.8%
ステージ4 39.8% 17.0%

5年ネット・サバイバルは2014~2015年に診断された女性乳がん患者、10年ネット・サバイバルは2012年に診断された女性乳がん患者を対象とした別々の集計です。そのため、たとえば「ステージ2では5年時点の94.6%から10年時点で85.4%へ低下した」というように、同じ患者集団を5年から10年まで追跡した数字として比較することはできません。

一方で、10年生存率をあわせて見ることには意味があります。乳がんでは、診断から5年を超えても長期的な治療や経過観察が必要になる場合があり、国立がん研究センターも、乳がんでは病期によって5年以降も長期的なフォローアップが必要になることを10年生存率集計から指摘しています。

参考:院内がん登録生存率集計|国立がん研究センター がん情報サービス

ネット・サバイバルとは

ネット・サバイバルは、がん以外の死亡による影響を統計学的に調整し「乳がんだけが死因となる状況」を仮定して推計した指標です。

「ステージ3の10年ネット・サバイバルが63.8%だから、自分が10年後に生きている確率も63.8%」という意味ではありません。多くの患者をまとめて乳がんによる生存への影響を評価した集団の統計として読みます。

5年と10年では診断された年代が異なる

生存率を見るときは、何年後の数字かだけでなく、患者がいつ診断されたのかも確認する必要があります。

今回掲載している5年値は2014~2015年診断例、10年値は2012年診断例です。現在の乳がん治療では、その後にCDK4/6阻害薬、免疫療法、ADC、新しいHER2標的治療や内分泌療法などが導入され、治療選択肢が増えています。

したがって、これらの数字は現在治療を受ける患者の将来をそのまま予測するものではありません。とくにステージ4や再発乳がんでは、統計の対象となった時期以降に薬物療法が大きく変化しています。

10年生存率を見る意味は「5年たてば再発しない」とは限らないことにある

乳がんでは、早期に治療を受けた後も再発の可能性が長期間続くタイプがあります。とくにホルモン受容体陽性乳がんでは、診断から年月が経過した後に再発する晩期再発がみられることがあります。

そのため、乳がんでは「5年間再発しなかったから、その後は再発しない」と一律には考えません。内分泌療法を何年間続けるのか、治療終了後にどのように経過をみるのかも、乳がんの性質や再発リスクを踏まえて決めます。

この点でも、乳がんの記事では5年生存率だけでなく10年生存率まで示しておく方が、長期的な経過を理解しやすくなります。

生存率だけでは自分の再発リスクは分からない

ステージ別の5年・10年生存率を見ても、「自分自身がどのくらい再発しやすいのか」までは分かりません。

根治を目指して治療した乳がんでは、ステージだけではなく、腫瘍径、リンパ節転移、HR・HER2、組織学的グレード、術前薬物療法後の残存病変などを組み合わせて再発リスクを考えます。HR陽性・HER2陰性の一部では、多遺伝子アッセイが治療選択の判断材料になることもあります。

乳がんの再発リスクは何から判断するのか

ステージ別生存率は、多くの患者さんをまとめて追跡した集団の統計です。一方、手術などによって根治を目指した治療を受けた後に、「自分の乳がんがどの程度再発しやすいのか」を考えるときには、ステージだけではなく、手術や病理検査から分かった複数の情報を組み合わせます。

乳がんでは、腫瘍が大きいほど、またリンパ節への転移が多いほど再発リスクを高く考える傾向があります。しかし、同じ大きさ、同じリンパ節転移の患者さんでも、その後の経過が同じになるわけではありません。組織学的グレード、ER・PgR、HER2、Ki-67など、がんそのものの性質も再発リスクや術後治療の選択に関係します。国立がん研究センターでも、病理学的グレードが高いほど転移・再発の可能性が高くなり、Ki-67は増殖能をみる指標の一つであると説明しています。

そのため「ステージ2だから再発率は何%」と一つの数字で考えるのではなく、病変の広がりと乳がんの性質を合わせて評価することが基本になります。

参考:乳がん 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

手術後の病理結果は、術後治療を決める材料になる

手術を先に行った乳がんでは、切除した乳房とリンパ節を詳しく調べることで、画像検査だけでは分からなかった情報が得られます。

実際の浸潤がんの大きさ、リンパ節転移の有無や広がり、組織学的グレード、ER・PgR、HER2などを確認し、手術だけで治療を終えられるのか、再発を減らすために薬物療法を追加する必要があるのかを判断します。乳がんの薬物療法は、ステージだけではなく再発リスクに応じて術前・術後に行われます。

ここでいう再発リスクは、将来を正確に予言するためのものではありません。「治療を追加した場合に得られる利益が、その負担に見合うか」を考えるための情報です。

術前薬物療法を受けた場合は「どの程度がんが残ったか」も見る

HER2陽性乳がんやトリプルネガティブ乳がんなどでは、手術前に薬物療法を行うことがあります。この場合には、治療前のステージや病理所見だけでなく、薬物療法を行った後の手術標本もその後の治療を考える材料になります。

画像上でしこりが小さくなったかだけを見るのではなく、切除した乳房やリンパ節に浸潤がんが残っているかを病理検査で確認します。術前薬物療法には、腫瘍を小さくするだけでなく、実際にその薬がどの程度効いたかを確認し、その反応を術後薬物療法の選択に利用する目的があります。

そのため、術前治療を受けた患者さんでは「手術前に何cmだったか」だけでなく、治療後の手術標本にどの程度の病変が残っていたかも確認する必要があります。

前の薬物療法章で解説したように、HER2陽性乳がんでは術前治療後の残存病変によって術後HER2標的治療を変えることがあり、トリプルネガティブ乳がんでも術前治療とその後の病理結果を踏まえて術後治療を考えます。再発リスクの評価が、そのまま次の治療選択につながる場面の一つです。

HR陽性・HER2陰性では多遺伝子アッセイを使うことがある

HR陽性・HER2陰性の早期乳がんでは、腫瘍径やリンパ節転移、グレードなどを見ても「内分泌療法に加えて化学療法を行う利益がどの程度あるのか」を判断しにくい場合があります。

そのようなときに検討されるのが、乳がん組織にある複数の遺伝子の発現を調べる多遺伝子アッセイです。

国内では、HR陽性・HER2陰性の早期浸潤性乳がんで、リンパ節転移陰性、微小転移、またはリンパ節転移が1~3個の場合を対象として、腫瘍組織の21遺伝子のRNA発現から遠隔再発リスクを評価し、化学療法を行うかどうかの判断に利用する乳癌悪性度判定検査が保険診療に位置づけられています。

この検査は、乳がん患者全員に行うものではありません。また、「高リスクと出たから必ず再発する」「低リスクだから絶対に再発しない」と判定する検査でもありません。

病理所見だけでは化学療法を追加する利益が判断しにくい患者さんで、化学療法を行うことで得られる可能性のある利益と、副作用や生活への負担を比較するための材料として使います。

乳がんのタイプによって再発しやすい時期も異なる

再発リスクは、診断から時間がたてば全員同じように低くなるわけではありません。

ER陽性乳がんでは、内分泌療法を5年間受けた患者でも、その後長期間にわたって遠隔再発がみられることが大規模解析で示されています。腫瘍径やリンパ節転移は、こうした長期的な再発リスクとも関係します。

このため、HR陽性乳がんでは「5年再発しなかったから、その後はもう考えなくてよい」とは限りません。内分泌療法を何年間続けるかについても、再発リスクと長期治療による負担を踏まえて判断します。

一方、トリプルネガティブ乳がんでは、過去の患者集団を調べた研究で、再発リスクが診断後の比較的早い時期に高く、その後低下していく特徴が報告されています。

ただし、こうした傾向は集団としてみた再発パターンです。「HR陽性なら遅く再発する」「TNBCなら数年以内に再発する」と個人の経過を決めつけることはできません。また、現在はそれぞれのサブタイプで術前・術後治療が進歩しているため、古い患者集団の再発率を現在の患者さんへそのまま当てはめることもできません。

再発リスクを調べる目的は、必要な治療を選ぶこと

再発リスクについて説明を受けると、「私は何%の確率で再発しますか」という数字に意識が向きやすくなります。しかし、臨床で再発リスクを評価する主な目的は、将来を一つの確率で言い当てることではありません。

再発リスクが低ければ、効果の上乗せが小さい治療を避けられる可能性があります。反対に再発リスクが高ければ、化学療法、内分泌療法、HER2標的治療などを適切に組み合わせ、治療後に残っている可能性がある微小ながん細胞を抑えることを考えます。

そのため自分の再発リスクを確認するときは、単に「高いですか、低いですか」と聞くだけではなく、どの病理所見からそのように判断しているのか、その評価によって術後治療がどう変わるのかまで確認すると理解しやすくなります。

再発した場合には、初回治療時のサブタイプやステージだけで治療を決めるのではなく、再発した場所、現在のHR・HER2などの性質、これまでに使用した薬、追加のバイオマーカー検査などを踏まえて次の治療を選びます。転移・再発乳がんの治療については、以下の記事で詳しく解説しています。

乳がん治療後の経過観察と再発・転移

乳がんの初期治療が終わった後も、体調や乳房の状態、治療による長期的な影響を確認するために定期的な経過観察を続けます。

経過観察の目的は、毎回できるだけ多くの検査を行って再発を探すことではありません。診察で新しい症状がないかを確認し、残っている乳房や反対側の乳房に新たな病変がないかをみながら、必要な検査を選びます。

国立がん研究センターでは、初期治療後3年間は3~6カ月ごと、4~5年目は6~12カ月ごと、5年目以降は年1回程度の問診・診察が勧められています。乳房部分切除後では、手術した乳房と反対側の乳房について年1回程度のマンモグラフィが推奨されています。

一方、症状がなく経過が順調な患者さんに対して、再発を早く見つけるためだけにCT、PET、腫瘍マーカーなどを頻回に行うことが、その後の生存期間を延ばすとは確認されていません。必要な検査は、もともとの病状や治療内容、新しく生じた症状などに応じて追加します。

参考:乳がん 療養|国立がん研究センター がん情報サービス

治療後の症状をすべて「再発かもしれない」と考える必要はない

乳がん治療後には、手術した側の胸や腕の違和感、内分泌療法による関節痛、治療後の疲労など、再発以外の原因による症状も起こります。そのため、体調が変わるたびに再発と結び付ける必要はありません。

ただし、これまでになかった症状が続く場合や、徐々に強くなる場合には、次回の定期診察まで我慢せず担当医へ相談します。

骨転移では持続する骨の痛み、肺転移では咳や息切れ、脳転移では頭痛や神経症状などが現れることがありますが、これらは乳がん以外の病気でも起こる症状です。症状だけで再発と判断せず、必要に応じて画像検査などで原因を確認します。

「何日続いたら再発を疑う」と自分で線を引くよりも、普段とは違う症状が続いている、生活に支障が出るほど強くなっている、といった変化を担当医へ伝える方が実際的です。

局所・領域再発と遠隔再発では治療の考え方が異なる

乳がんの再発は、大きく局所・領域再発遠隔再発に分けて考えます。

局所・領域再発は、手術した乳房、胸壁、周囲の皮膚、所属リンパ節などに再び乳がんが現れる状態です。一方、遠隔再発は、骨、肺、肝臓、脳など、乳房から離れた臓器に乳がんが転移して見つかる状態です。

この区別が必要なのは、治療の目的が異なるためです。

局所・領域再発だけで遠隔転移が認められず、病変を切除できる場合には、再び治癒を目指して手術を行うことがあります。乳房温存手術を受けた乳房内に再発した場合は、通常、乳房全切除術を検討します。以前に放射線治療を行っていない場所であれば、手術後の放射線治療を組み合わせる場合もあります。

一方、骨や肺などへの遠隔再発では、体の一部だけを手術しても全身に存在する可能性のある乳がんを治療できないため、薬物療法が治療の中心になります。痛みのある骨転移や脳転移などに対しては、症状を改善したり合併症を防いだりするために放射線治療や手術を組み合わせることがあります。

再発したときは、最初の乳がんの情報だけで治療を決めない

再発時の治療を考えるときには、最初に乳がんと診断されたときのER・PgR、HER2などの結果や、それまでに使用した薬を確認します。

ただし、初回診断時の情報だけでその後のすべての治療を決めるわけではありません。

再発部位から安全に組織を採取でき、それによって治療方針が変わる可能性がある場合には、再発した病変の病理検査を検討します。進行・再発乳がんでは、HER2の再検査が治療選択に関係する場面もあり、日本乳癌学会でもHER2低発現乳がんに対するHER2再検査について情報を示しています。

さらにHR陽性・HER2陰性乳がんではESR1やPIK3CA/AKT1/PTEN、トリプルネガティブ乳がんではPD-L1、乳がんのタイプによってはBRCA1/2など、追加のバイオマーカー検査が次の治療選択に関係する場合があります。

前の薬物療法章で解説したように、2026年現在は治療標的となる情報が増えているため、「10年前にHR陽性・HER2陰性と言われたから、その情報だけで治療する」とは限りません。

遠隔再発では「一つの薬で治し切る」以外の治療目標も考える

遠隔再発乳がんでは、多くの場合、薬物療法を変更しながら長期的に病状をコントロールすることを考えます。治療の効果が得られ、副作用が許容できる間は同じ治療を続け、病状が進行した場合や副作用の負担が大きくなった場合には、次の治療へ変更します。

このときの治療目標は「画像上のがんを小さくすること」だけではありません。進行をできるだけ長く抑えること、痛みや息苦しさなどの症状を軽くすること、臓器の働きを守ること、治療を受けながら仕事や家での生活を続けられる状態を保つことも治療の一部です。

治療を変更するか迷う場面では、画像の変化だけでなく、現在困っている症状、これまでの副作用、通院の負担、次の治療で期待できることを一緒に整理します。

腫瘍マーカーだけで再発の有無を判断しない

乳がんではCEAやCA15-3などの腫瘍マーカーを測定することがあります。再発・転移した後には、治療効果をみるための参考情報として使われる場合があります。ただし、腫瘍マーカーが正常だから再発がないと断定できるわけではなく、反対に数値が上昇しただけで再発と確定することもできません。

症状、診察、画像検査、必要に応じた病理検査などと合わせて判断するため「腫瘍マーカーが少し上がった=再発した」と一つの数値だけで結論を出さないことが大切です。

再発後も、治療以外の生活を含めて方針を考える

再発と説明された直後は、「次の薬は何か」「あとどのくらい生きられるのか」ということだけに意識が向きやすくなります。しかし、長期間治療を続ける可能性がある乳がんでは、仕事、育児、介護、通院時間、食事、睡眠、外見の変化なども治療方針に影響します。

治療効果が期待できる薬でも、副作用によって日常生活をほとんど維持できなければ、支持療法を追加したり、休薬やスケジュールを調整したりする必要が出てくることがあります。

次の章では、乳がん治療で起こりやすい副作用を、単なる症状の一覧ではなく、仕事、家事、食事、睡眠、妊娠・妊孕性、外見など日常生活への影響と合わせて解説します。

乳がん治療の副作用と生活への影響

乳がん治療の副作用は、使用する薬や手術・放射線治療の内容によって異なります。同じ薬を使っても症状の出方には差があり「副作用があるか、ないか」だけでは治療の負担を十分に表せません。実際の生活では、食事が取れるか、眠れるか、通勤できるか、指先を使う仕事を続けられるか、子どもの世話ができるかといったことが治療継続に大きく関係します。

乳がんでは数カ月で終わる治療だけでなく、内分泌療法のように長期間続ける治療もあります。副作用を我慢し続けるのではなく、治療効果を保ちながら日常生活への影響を減らせる方法を医療者と調整していくことが必要です。

化学療法では「治療日のつらさ」だけでなく数日後の変化も考える

細胞障害性抗がん薬では、吐き気、食欲低下、倦怠感、脱毛、骨髄抑制などが起こることがあります。症状は点滴を受けた当日だけに現れるとは限らず、数日後に疲労や食欲低下が強くなることもあります。

白血球、とくに好中球が減少すると感染症を起こしやすくなります。治療中に発熱した場合は、市販の解熱薬だけで様子を見るのではなく、あらかじめ治療施設から示された体温や症状の基準に従って連絡します。

乳がんでよく使用されるタキサン系薬剤では、手足のしびれや感覚低下などの末梢神経障害が問題になることがあります。ボタンを留めにくい、箸を使いにくい、文字を書きにくい、歩くと足裏の感覚がおかしいといった変化は、日常生活や仕事に直接影響します。

アンスラサイクリン系薬剤では心機能への影響にも配慮します。治療前後に心臓の検査を行うことがあり、息切れやむくみなど、それまでなかった症状が現れた場合には確認が必要です。乳がんでは薬剤ごとに特徴の異なる副作用があるため、国立がん研究センターも薬の種類や患者の状態に応じて治療を選択するとしています。

内分泌療法は長く続けるからこそ生活への影響を調整する

HR陽性乳がんでは、内分泌療法を長期間続けることがあります。抗がん薬のような強い吐き気や脱毛が起こりにくいため「負担の軽い治療」と思われることがありますが、毎日の生活に影響する症状が長く続くことがあります。

タモキシフェンでは、ほてりや発汗などの更年期に似た症状が現れることがあります。また、血栓症などにも注意が必要です。

アロマターゼ阻害薬では、関節痛やこわばりによって朝起きたときや歩き始めに動きにくさを感じることがあります。骨密度が低下する可能性もあるため、治療期間や年齢、骨折リスクなどに応じて骨の状態を確認します。

「命に関わる副作用ではないから」と症状を我慢し続けると、服薬を続けること自体が難しくなる場合があります。痛みやほてり、睡眠への影響が強い場合には、症状への治療や薬剤の変更を含めて相談します。

CDK4/6阻害薬は薬によって副作用の特徴が異なる

HR陽性・HER2陰性乳がんで使用されるCDK4/6阻害薬では、好中球減少、下痢、肝機能障害などが問題になることがありますが、どの副作用が起こりやすいかは薬剤によって異なります。

そのため「CDK4/6阻害薬の副作用」と一括して考えるより、自分が使っている薬では血液検査で何を確認するのか、下痢が起きた場合はどの段階で連絡するのかを知っておく方が実際の治療には役立ちます。

内服薬の場合、自宅で治療が続くため、点滴の日だけ医療者が状態を確認する治療とは異なります。食事が取れない、下痢が続く、強い疲労で仕事や家事が難しくなるといった変化も診察時に伝えます。

HER2標的治療では心機能と薬剤ごとの副作用を確認する

トラスツズマブなどのHER2標的治療では、心機能への影響を確認しながら治療を続けることがあります。自覚症状がない段階で変化を捉えるため、治療前や治療中に心エコーなどを行うことがあります。

一方、同じHER2標的治療でも、ADCでは別の副作用にも注意が必要です。

トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、エンハーツ)では、間質性肺疾患が重大な副作用として知られています。PMDAも患者向けの間質性肺疾患に関する安全性情報を用意し、現在も適正使用のための注意喚起を行っています。

治療中に新しく乾いた咳が出る、息切れがする、呼吸しづらい、発熱するといった症状があれば、「風邪だろう」と次回の診察まで待たず、治療を受けている医療機関へ連絡します。間質性肺疾患は早い段階で評価し、必要に応じて治療を中断することが重要な副作用です。

参考:各医薬品添付文書・患者向医薬品ガイド|医薬品医療機器総合機構(PMDA)

カピバセルチブでは下痢・高血糖・皮膚症状にも注意する

HR陽性・HER2陰性の進行・再発乳がんで使用されるカピバセルチブでは、下痢、高血糖、皮疹などが問題になることがあります。PMDAも患者向け情報として、高血糖、重度の下痢、多形紅斑などについて特に注意すべき副作用として案内しています。

高血糖は、必ずしも自分ではすぐに分かるとは限りません。そのため血液検査を行いながら治療し、強い喉の渇き、多尿、著しい倦怠感など普段と異なる症状がある場合には相談します。

下痢についても「薬を飲んでいるから仕方がない」と我慢するのではなく、回数が増えたり水分が取れなくなったりした場合には早めの対応が必要です。

PARP阻害薬では貧血などが生活に影響することがある

BRCA1/2病的バリアントなどをもとに使用するPARP阻害薬では、貧血をはじめとする血球減少や、吐き気、疲労などが問題になることがあります。貧血が進むと、階段で息切れする、立ち仕事がつらい、これまでと同じ時間働けないといった形で生活に現れることがあります。

血液検査の数値だけを見るのではなく「今までできていたことがどの程度できなくなったか」を医療者へ伝えると、治療の負担を評価しやすくなります。

免疫療法では通常の抗がん薬とは異なる副作用が起こる

トリプルネガティブ乳がんなどで使用する免疫チェックポイント阻害薬では、免疫機能が過剰に働くことで、自分の臓器に炎症が起こる免疫関連有害事象があります。

肺、腸、肝臓、甲状腺などの内分泌臓器をはじめ、さまざまな臓器に症状が現れる可能性があります。発症する時期も一定ではないため「点滴直後に何もなかったから大丈夫」とは限りません。

新しい息切れや咳、長引く下痢、強い倦怠感など、普段とは違う症状が現れた場合には、免疫療法を受けていることを医療者へ伝えます。乳がんでもTNBCに免疫チェックポイント阻害薬が用いられる場合があります。

治療による閉経症状や性生活への影響も相談してよい

乳がん治療では、卵巣機能の低下や内分泌療法によって、ほてり、発汗、気分の変化、腟の乾燥などが現れることがあります。

腟の乾燥や粘膜の萎縮によって性交時に痛みが出ることもあります。国立がん研究センターも、化学療法や内分泌療法によって女性ホルモンの働きが抑えられ、腟の乾燥や性交痛が生じることがあると説明しています。

こうした症状は治療効果とは直接関係しないため、診察で話題にしにくいかもしれません。しかし、長期間の内分泌療法では性生活やパートナーとの関係もQOLの一部です。相談できる対処法があるため、困っている場合は乳腺科や婦人科などへ伝えます。

参考:乳がん 療養|国立がん研究センター がん情報サービス

将来妊娠を希望する場合は治療を始める前に相談する

化学療法などは卵巣機能に影響し、妊娠するための力である妊孕性が低下したり失われたりする場合があります。影響の程度は、年齢や使用する薬、治療内容などによって異なります。

将来、子どもをもちたいという希望がある場合には、できるだけ治療開始前に担当医へ伝えます。必要に応じて生殖医療の専門医と相談し、未受精卵子や胚などの凍結保存を検討することがあります。国立がん研究センターも、妊孕性温存を考える場合は主治医へ相談し、生殖医療専門医と連携して検討するよう案内しています。

乳がん治療後に妊娠・出産を希望する場合も、薬によって妊娠を避ける必要がある期間が異なります。治療を自己判断で中止せず、再発リスクや治療期間を含めて担当医と相談します。日本乳癌学会も2026年6月に「乳がん治療後に妊娠・出産をお考えのかたへ」という患者向け説明動画を追加しています。

参考:乳癌治療に関連する説明動画|一般社団法人 日本乳癌学会

脱毛や乳房の変化は「見た目だけの問題」ではない

化学療法による脱毛、手術による乳房の形の変化、放射線治療後の皮膚や乳房の変化は、外見だけの問題として片付けられません。仕事で人と会うことへの抵抗、子どもから病気について聞かれる不安、更衣室や温泉を避けるようになることなど、社会生活にも影響します。

ウィッグ、帽子、乳房補整具、再建などを利用するかどうかに正解はありません。「できるだけ以前と同じ見た目にしたい」という希望も、「特に補整は必要ない」という希望も、治療後の生活を考えるための情報です。

休薬や減量は「治療に失敗した」という意味ではない

薬物療法では、副作用の程度によって治療を一時的に休む、投与量を調整する、投与間隔を変更する、別の薬へ変更するといった対応を行うことがあります。なお、副作用への対応は薬によって異なり、免疫チェックポイント阻害薬では通常、投与量を段階的に減らすのではなく、重症度に応じて休薬・中止し、必要に応じて副腎皮質ステロイドなどで治療します。

治療計画どおりの量を一度も変更せず続けること自体が目的ではありません。副作用によって食事や水分が取れない、歩けない、眠れない状態になれば、そのまま治療を続けることが適切とは限りません。

とくに長期治療では、治療効果だけでなく、その治療を続けながらどのような生活ができているかも定期的に確認します。2026年版乳癌診療ガイドラインにもQOLの章が新設されており、治療では科学的根拠だけでなく患者の希望や益と害のバランスを踏まえることが示されています。

治療中に新しい症状が出たときは、「この程度なら我慢するべきか」と一人で判断するのではなく、次回の診察まで待ってよい症状なのか、当日連絡すべき症状なのかを治療開始時に確認しておくと安心です。

参考:乳癌診療ガイドライン2026年版|日本乳癌学会

乳がんの緩和ケア・支持療法|治療と生活を続けるための支え

緩和ケアという言葉から「治療ができなくなったときに受けるもの」「終末期のための医療」と考える人もいるかもしれません。しかし、緩和ケアはがんが進行してから始めるものではありません。

乳がんと診断されたときから、痛みや吐き気などの身体的なつらさ、不安や落ち込み、仕事や家庭への影響などに対応し、がん治療を続けながら生活の質を保つために利用できます。国立がん研究センターも、緩和ケアを診断時からがん治療と並行して受けることができるものとしています。

支持療法は、がんそのものによる症状だけでなく、手術・放射線治療・薬物療法による副作用や後遺症を予防したり軽減したりするための治療やケアです。そのため、早期乳がんで再発予防の治療を受けている人にも、転移・再発乳がんの治療を続けている人にも関係します。

参考:緩和ケア|国立がん研究センター がん情報サービス

痛みは「がんが進んだから仕方がない」と我慢しない

乳がんでは、手術後の傷や肩周囲の痛み、薬物療法による関節痛など、治療そのものによって痛みが生じることがあります。転移・再発乳がんでは、骨転移などが原因で痛みが続く場合もあります。

痛みの原因によって対処法は異なります。鎮痛薬を調整するだけでなく、骨転移による強い痛みに対しては放射線治療を行うことがあり、骨折の危険が高い場合には整形外科的な治療を検討することもあります。乳がんの骨転移では、痛みや骨折のリスクを減らす目的で薬物療法を追加する場合もあります。

強い痛みに対して医療用麻薬を使用することもありますが「医療用麻薬を使う=終末期」という意味ではありません。痛みを十分に抑えることで、眠る、食べる、歩く、仕事や家事を行うといった日常生活を保ちやすくすることが治療の目的です。

「痛みはあるが何とか我慢できる」という段階でも、睡眠や動作に影響し始めているのであれば相談する意味があります。

腕のむくみや動かしにくさには早めに対応する

乳がんの手術後には、肩や腕を動かしにくくなったり、手術した側の腕にリンパ浮腫が起こったりすることがあります。

とくに腋窩リンパ節郭清を受けた場合や、リンパ節領域へ放射線治療を行った場合にはリンパ浮腫が起こる可能性があります。リンパ浮腫は手術直後だけではなく、何年もたってから現れることもあります。

腕が重く感じる、左右で太さが違う、指輪や袖がきつくなったと感じる場合には、むくみが強くなってから相談するのではなく、早い段階で担当医や看護師へ伝えます。

すでにリンパ浮腫がある場合には、状態に応じて弾性着衣による圧迫、運動、スキンケアなどを組み合わせます。自己流の強いマッサージを始めるのではなく、専門的な評価を受けたうえで方法を確認します。国立がん研究センターも、リンパ浮腫への圧迫や運動について医療者へ相談するよう案内しています。

参考:リンパ浮腫Q&A|国立がん研究センター がん情報サービス

息苦しさや強い倦怠感は原因を確認してから対処する

転移・再発乳がんでは、肺や胸膜への病変などによって息苦しさが現れることがあります。一方、治療中の息切れは、貧血、感染症、心機能への影響、薬剤性の間質性肺疾患などでも起こります。「がんが進んだから息苦しい」と決めつけず、まず原因を確認します。

前章で説明したように、T-DXdなど間質性肺疾患に注意が必要な薬を使用している場合、新しい咳や息切れは早めの評価が必要です。HER2標的治療やアンスラサイクリン系薬剤を使用している場合には心機能の評価が必要になることもあります。

強い倦怠感についても、がんそのものだけでなく、貧血、感染症、内分泌機能の変化、睡眠不足、痛み、気分の落ち込みなど複数の原因が重なることがあります。症状だけを我慢するより、原因を分けて考えることで対処できる場合があります。

食欲低下や体重減少は「食べる努力」だけで解決しない

化学療法による吐き気、口内炎、味覚の変化、便秘や下痢などがあると、治療中の食事量が減ることがあります。進行乳がんでは、がんそのものや治療の影響によって食欲が低下し、体重や筋力が落ちることもあります。

このようなときに「栄養を取らなければ」と無理に食事量だけを増やそうとしても、かえって食事が負担になることがあります。

まず、吐き気や痛み、便秘、口腔内の問題など食べにくくなっている原因がないか確認します。必要に応じて制吐薬などを調整し、管理栄養士と相談しながら、一度に食べる量を減らす、食べやすい時間帯を利用するなど、その時点で取りやすい方法を考えます。

体重だけでなく、歩ける距離が短くなった、階段がつらくなった、家事を続けられなくなったといった筋力や活動量の変化も治療を続けるうえで参考になります。

不安や落ち込みも治療の対象になる

乳がんと診断されたときには、「治るのか」「再発するのではないか」「家族にどう話せばよいのか」など、多くの不安が生じます。

治療が終わった後にも、診察や検査の前になると再発への不安が強くなることがあります。転移・再発を告げられた場合には、これからの生活や家族のことを考えて眠れなくなったり、何も考えられなくなったりすることもあります。こうした反応をすべて自分だけで処理する必要はありません。

緩和ケアでは身体症状だけでなく、心理的・社会的なつらさも対象になります。担当医や看護師だけでなく、心理職、ソーシャルワーカー、緩和ケアチームなどと相談することができます。国立がん研究センターも、緩和ケアは体の痛みだけでなく、診断時から生じる不安や落ち込みなどの心のつらさを含めて支援するものとしています。

仕事やお金の問題も医療と切り離さなくてよい

乳がんでは、外来で長期間治療を続けながら働く人もいます。しかし、化学療法の日程、術後の回復期間、放射線治療への通院、長期に続く内分泌療法の副作用などによって、これまでと同じ働き方が難しくなることがあります。

病気になった直後に「もう仕事は続けられない」と退職を決める必要はありません。まず治療期間や通院頻度、体調が変化しやすい時期を確認し、短時間勤務、休職、業務内容の調整などを利用できないか検討します。

医療費や生活費が不安な場合も、担当医だけで解決しようとする必要はありません。社会福祉士などを通じて、利用できる制度や職場との調整について相談できます。がん相談支援センターでは、治療や副作用だけでなく、仕事、お金、家族との関係などについても無料で相談できます。自分が通院している病院以外の相談支援センターを利用することも可能です。

参考:「がん相談支援センター」とは|国立がん研究センター がん情報サービス

転移による症状には、薬物療法以外の治療も組み合わせる

転移・再発乳がんでは全身に作用する薬物療法が治療の中心ですが、症状の原因となっている転移部位へ局所治療を追加することで、生活を保ちやすくなることがあります。

たとえば骨転移による痛みには鎮痛薬や放射線治療を行い、骨折の危険が高ければ整形外科的な治療を検討します。脳転移では、病変の数や場所などに応じて放射線治療や手術を行うことがあります。

ここで局所治療を行う目的は、必ずしもすべての転移をなくすことだけではありません。痛みを抑える、歩ける状態を保つ、神経症状を防ぐなど、日常生活への影響を小さくすることも治療目的になります。

緩和ケアを相談する時期に「早すぎる」はない

痛みが非常に強くなってから、治療を中止してからでなければ緩和ケアを利用できないわけではありません。

痛みで眠りにくい、治療の副作用で食事が取れない、再発への不安が頭から離れない、家族へどう説明すればよいか分からない、仕事や医療費について困っているといった段階でも相談できます。緩和ケアは、がん治療と並行して受けることができます。

通院が難しくなった場合には、地域の医療機関や訪問診療などと連携して、自宅で症状の治療やケアを続けられる場合があります。全国のがん診療連携拠点病院では、外来・入院のいずれでも緩和ケアを利用でき、必要に応じて地域と連携する体制があります。

治療を続けるかどうかだけではなく、治療を受けながらどのような状態で生活したいのかを医療者へ伝えることも、乳がん治療を考えるための情報になります。

参考:乳がん 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

乳がん治療が効きにくくなったときに確認したいこと

乳がんでは、最初に選んだ治療をずっと続けられるとは限りません。進行・再発乳がんでは、薬が効いている間は治療を続け、病状が進行した場合や副作用の負担が大きくなった場合には、次の治療へ切り替えていきます。

このとき「標準治療が効かなかったから、もう標準治療ではできることがない」とは限りません。乳がんでは、サブタイプやこれまでに使用した薬によって複数の治療選択肢があり、さらに再検査によって次の治療につながる標的が見つかる場合があります。

そのため治療を変更する場面では、新しい薬を探すことだけに意識を向けるのではなく、現在までに何を調べ、どの治療を使い、次の選択に必要な情報がそろっているかを整理することが先になります。

「標準治療」は古い治療という意味ではない

標準治療とは、科学的根拠に基づいて有効性と安全性が検討され、現時点で多くの患者さんに勧められる治療です。国立がん研究センターも、標準治療を「現在利用できる最良の治療であることが示され、多くの患者に行うことが推奨される治療」と説明しています。

「標準」という言葉から、平均的な治療、昔から変わっていない治療という印象を持つかもしれません。しかし、乳がんでは新しい薬の効果と安全性が臨床試験で確認されると、その薬を含む治療が新しい標準治療になることがあります。

実際、乳がんではCDK4/6阻害薬、ADC、免疫チェックポイント阻害薬、新しい内分泌療法などが治療体系に加わってきました。そのため、「標準治療か最新治療か」という二択で考えるのではなく、現在の自分の病状に対して、医学的根拠のある治療として何が推奨されているかを確認します。

治療を変更するときは、次の薬に必要な検査が済んでいるか確認する

前の薬物療法の章で説明したように、2026年現在の乳がん治療では、最初に調べたER・PgR・HER2だけで、その後の治療がすべて決まるわけではありません。

HR陽性・HER2陰性の進行・再発乳がんでは、治療経過によってESR1やPIK3CA/AKT1/PTENなどの結果が次の薬を選ぶ材料になります。生殖細胞系列BRCA1/2病的バリアントがあればPARP阻害薬の適応に関係する場合があります。以前は「HER2陰性」と判断されていた乳がんでも、HER2低発現・超低発現の評価がADCの選択に関係するようになっています。

治療変更の説明を受けるときは「次はどの薬を使いますか」だけではなく、過去の病理標本で必要な検査ができているのか、新しい組織を採取する意味があるのか、血液を使った検査で確認できる情報があるのかまで聞いておくと、治療候補を整理しやすくなります。

再発した病変をもう一度調べることが治療につながる場合がある

再発した乳がんでは、最初に診断されたときの病理結果と、再発した病変の性質が完全に同じとは限りません。

安全に組織を採取でき、結果によって治療方針が変わる可能性がある場合には、再発部位を生検してER・PgR・HER2などを再評価することがあります。

これは「最初の診断が間違っていた」という意味ではありません。治療を受ける過程で、がん細胞の中で治療に反応しやすい細胞と反応しにくい細胞の割合が変わるなど、再発時には治療標的となる情報が変化している可能性があるためです。

とくに現在は、HER2の発現程度や遺伝子変異によって使用できる薬が変わるため、以前の検査結果だけで次の治療候補を狭めないことが重要になっています。

転移・再発乳がんにおける治療順序については、以下の記事で詳しく解説しています。

臨床試験は「最後の手段」ではない

標準治療以外の選択肢として、臨床試験治験への参加を提案されることがあります。

臨床試験は、効果や安全性がまだ十分に確立していない新しい治療を評価し、将来の標準治療をつくるために行われる研究です。現在行われている標準治療も、過去の臨床試験の積み重ねによって確立されてきました。

臨床試験を「すべての標準治療がなくなった後に受ける特別な治療」と考える必要はありません。病状や治療歴によっては、治療の途中で臨床試験への参加を提案される場合があります。

一方、新しい治療だから標準治療より優れていると決まっているわけでもありません。臨床試験は、その新しい治療が本当に有効なのか、安全に使用できるのかを確認するために行われます。標準治療と新しい治療を比較する試験では、どちらの治療を受けるかを自分で選べない場合もあります。

参加を検討するときは、何を明らかにするための試験なのか、自分が受ける可能性のある治療は何か、これまでにどの程度の効果と副作用が分かっているのか、通院や検査の回数、費用負担などを説明文書で確認します。

「新しい治療」「先進医療」「自由診療」の意味

インターネットで乳がん治療を調べていると、「最新治療」「先進医療」「自由診療」「免疫療法」などさまざまな表現が見つかります。

しかし、これらをまとめて「標準治療より進んだ治療」と捉えることはできません。国立がん研究センターも、新しい治療が標準治療より優れているかどうかは臨床試験の結果が出るまで分からないと説明しています。

先進医療は、公的な制度のもとで安全性や有効性などを評価する医療であり、一般に「先進的に見える治療」を指す言葉ではありません。また、自由診療は公的医療保険を使わずに受ける診療の仕組みを指すため、自由診療で提供されていること自体が治療効果の高さを示すわけでもありません。

保険診療以外の治療を検討するときは「新しいかどうか」ではなく、どの患者を対象に、どの研究で、何と比較して、どの程度の効果と副作用が確認されているのかを見る必要があります。とくに「標準治療では治らない」「抗がん薬は必要ない」「この治療なら副作用なくがんを消せる」など、標準治療を一律に否定しながら特定の治療だけを勧める説明には慎重な確認が必要です。

セカンドオピニオンは「病院を変えること」ではない

治療方針を提示されたものの、ほかの選択肢がないか確認したい場合には、セカンドオピニオンを利用できます。

セカンドオピニオンは、現在の主治医から別の病院へ転院することではありません。現在の診断や検査結果、提示されている治療方針について、別の医師から意見を聞き、その後の治療を考えるための制度です。国立がん研究センターも、がん診療連携拠点病院ではセカンドオピニオンを受けるための支援体制が整備されていると説明しています。

乳がんでは、乳房温存と全切除のどちらを選ぶか、術前薬物療法を行うか、再発後にどの順序で薬を使うかなど、複数の選択肢について判断する場面があります。

「主治医を信用していないから受けるもの」と考える必要はありません。治療を開始する前に別の専門医の意見を聞くことで、現在提案されている治療の理由に納得できる場合もあります。ただし、治療開始を急ぐ必要がある病状では、セカンドオピニオンによってどの程度まで治療を待てるのかも主治医へ確認します。

治療について迷ったときに確認したいこと

乳がんの治療選択肢が増えるほど「もっと新しい薬があるのではないか」「今の治療を選んで後悔しないか」と迷う場面も増えます。そのようなときは、治療の名前だけを比較するよりも、現在の治療で何を目指しているのかを確認します。

手術前なら、腫瘍を縮小させることなのか、術後治療の判断に反応を見ることなのか。手術後なら、再発する可能性をどの程度下げるための治療なのか。転移・再発乳がんなら、病状をどの程度コントロールできる可能性があり、その代わりにどのような副作用や通院負担があるのかを整理します。

そのうえで、自分にとって仕事を続けること、育児や家族との時間を保つこと、脱毛などの外見変化をできるだけ抑えること、治療効果をできるだけ優先することなど、何を大きく損ないたくないのかを医療者へ伝えます。

治療の選択は「医学的に最も強い治療」を探す作業ではありません。医学的な利益と負担を理解したうえで、自分が何を期待し、どこまでの負担なら受け入れられるのかを含めて決めていきます。

治療内容やセカンドオピニオン、臨床試験についてどこへ相談すればよいか分からない場合には、がん相談支援センターを利用できます。がん相談支援センターでは、治療、セカンドオピニオン、臨床試験・先進医療、生活上の問題などについて相談できます。

まとめ|治療だけでなく、これからの生活も一緒に考える

乳がんと診断されると「治るのか」「乳房を残せるのか」「再発しないだろうか」といった病気への不安だけでなく、仕事を続けられるのか、家族にどこまで頼るのか、外見が変わることをどう受け止めるのかなど、生活についても多くの迷いが生じます。

すべてを一度に決める必要はありません。治療を選ぶときには、効果や副作用だけでなく「できるだけ仕事を続けたい」「子どもとの時間を保ちたい」「将来妊娠したい」「乳房を残したい」「通院の負担を抑えたい」といった希望も医療者へ伝えてください。

治療が始まった後に、体調や考え方が変わることもあります。副作用が想像以上につらかったとき、仕事との両立が難しくなったとき、再発への不安が強くなったときには、その時点で治療や支援の方法を相談できます。

乳がんと向き合う時間のすべてを、病気のためだけに使う必要はありません。医療者や家族、相談支援サービスなどの力を借りながら、自分がこれからも続けたい生活や大切にしたい時間をできるだけ保てる方法を考えていきましょう。

乳がんの中でも、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)は、ホルモン受容体やHER2を標的とする治療が使いにくく、治療の選択肢が限られやすいタイプです。標準治療を続けても再発や進行が心配な方、次の一手を探している方も少なくありません。

がん中央クリニックグループでは、こうしたトリプルネガティブ乳がんに対して、細胞の増殖に関わるNucleolin(ヌクレオリン)という分子に着目したアプタマー核酸医薬による治療に取り組んでいます。

本ページでは、トリプルネガティブ乳がんの特徴と、Nucleolinを標的とするアプタマー治療がどのような考え方に基づくのかを、できるだけわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理するための一助となれば幸いです。

  • トリプルネガティブ乳がんは、ホルモン受容体・HER2を標的とする治療が使いにくく、選択肢が限られやすいタイプです。
  • Nucleolin(ヌクレオリン)は増殖の速いがんや血管新生の盛んながんで多くみられ、がん細胞の表面にも現れることが報告されています。
  • 当グループでは、Nucleolinに加え、MUC1やHeparanaseを標的とするアプタマーとの組み合わせにも取り組んでいます。

トリプルネガティブ乳がんとは

乳がんには、ホルモン受容体(ER・PR)やHER2を標的とする治療があります。トリプルネガティブ乳がんは、ER陰性・PR陰性・HER2陰性という特徴を持ち、これらを標的とする分子標的薬やホルモン療法が使いにくいタイプです。

そのため治療は抗がん剤(化学療法)が中心になりやすく、再発しやすい、増殖の速い症例が多いといった課題が知られています。

関連記事:トリプルネガティブ乳がん(TNBC)について解説。初期症状や新しい治療法は?完治は可能なのか

Nucleolin(ヌクレオリン)とは

Nucleolinは、細胞の増殖やタンパク質の合成に関わる分子です。増殖の速いがん、浸潤性の高いがん、血管新生の盛んながんで多くみられることがあります。

本来は細胞の内側ではたらく分子ですが、一部のがんではがん細胞の表面にもNucleolinが現れることが報告されており、この点ががんを狙う手がかりのひとつとして研究されています。

Nucleolinを標的とする「アプタマー」とは

アプタマーとは、特定の分子だけを狙って結合するように設計された人工の核酸です。抗体医薬と似たはたらきを持ちますが、より小さく、設計の自由度が高いことが特徴です。

Nucleolinを標的とするアプタマーとしては、AS1411という物質が長く研究されてきました。当グループで用いるアプタマーは、AS1411の研究をふまえつつ、修飾塩基(人工的に安定性を高めた核酸)を用いることで、血中での残存時間を延ばす工夫を重ねたものです。

実際の治験で「著効例」が存在した

Nucleolinを標的とするアプタマーAS1411については、これまでにヒトを対象とした臨床試験が行われています。腎細胞がん(腎臓のがん)を対象とした第II相試験では、多くの患者様で効果は限定的でしたが、35名中1名で腫瘍の大きさ(標的病変の径の合計)が約84%縮小し、その後およそ24か月間、進行を認めなかった症例が報告されています。

これは単一の症例であり腎細胞がんですので、まだすべての患者様に同じ結果が得られるものではありませんが、条件が合えば強い抗腫瘍効果につながる可能性がある点は、Nucleolinという標的を考えるうえで注目される結果だと考えています。

また、AS1411ががん細胞に取り込まれた後にはたらく仕組みについても研究が進められており、がん細胞に特有の取り込み経路を過剰に刺激し、細胞死につながる仕組みが報告されています。一度腫瘍が小さくなっても、その後再び増大することは少なくありません。

そうしたなかで、アプタマー治療によって、長期間病勢が安定した可能性が示唆された点は非常に興味深い結果であり、「効く条件が揃えば、強い抗腫瘍効果を示す可能性を持つ治療」であると考えています。

参考:
A phase II trial of AS1411 (a novel nucleolin-targeted DNA aptamer) in metastatic renal cell carcinoma|Investigational New Drugs
Mechanistic studies of anticancer aptamer AS1411 reveal a novel role for nucleolin in regulating Rac1 activation|Molecular Oncology

なぜトリプルネガティブ乳がんに着目するのか

当グループがトリプルネガティブ乳がんでNucleolinに着目するのは、次のような特徴があるためです。

増殖の速さ

TNBCは増殖の速さを示すKi-67が高い症例が多く、増殖に関わるNucleolinとの関連が期待されます。

血管新生の盛んさ

Nucleolinは腫瘍の血管にも関わるとされ、血流の豊富な腫瘍との関連が研究されています。

浸潤性の高さ

Nucleolinは、がん細胞の移動や浸潤にも関わる可能性が報告されています。

MUC1・Heparanaseを標的とするアプタマーとの組み合わせ

当グループでは、Nucleolin単独だけでなく、MUC1やHeparanaseを標的とするアプタマーとの組み合わせにも取り組んでいます。それぞれ、がんに対して異なる役割を持つと考えられています。

  • Nucleolin:がんの増殖や血管新生に関わる
  • MUC1:がん細胞の生存に関わるシグナルに関わる
  • Heparanase:浸潤・転移や、腫瘍の周囲の環境づくりに関わる

複数の標的に同時に働きかけることで、がんの逃げ道を減らしながら、多方向から抑えることを目指す考え方です。抗がん剤や放射線治療との併用による相乗的な効果も、理論的には期待されています。

今後の課題

一方で、検討すべき課題も残されています。どのような患者様で効果が得られやすいのか、がん細胞表面のNucleolinの量とどう関係するのか、他の治療との最適な組み合わせはどうか、単独でどこまでの腫瘍縮小が得られるのか。こうした点は、今後さらに検討していく必要があります。

しかし、「効く患者様では劇的に効く可能性」が示唆されている点は非常に重要だと考えています。

まとめ:トリプルネガティブ乳がんの治療選択肢を検討するには

トリプルネガティブ乳がんは、いまも治療の選択肢が限られやすい難治性のがんです。そのなかで、NucleolinやMUC1、Heparanaseを標的とするアプタマー治療は、標準治療とは異なる角度からがんに働きかける選択肢のひとつと考えています。

どの患者様に、どの組み合わせが適しているかは、病状やこれまでの治療経過によって異なります。がん中央クリニックグループでは、標準治療の状況もふまえたうえで、患者様お一人おひとりの病状に合わせた治療方針を検討し、ご提案しています。トリプルネガティブ乳がんの治療でお悩みの方は、一度ご相談ください。

本ページで紹介するアプタマー核酸医薬による治療は、公的医療保険が適用されない自由診療であり、国内で医薬品としての承認を受けていない未承認の治療を含みます。治療内容・費用・想定される副作用やリスクについては、診察時に十分にご説明します。効果には個人差があり、すべての方に同様の結果を保証するものではありません。

乳がんは、日本で年間10万人を超える人が新たに診断されているがんです。国立がん研究センターの統計によると、2023年には乳がんと診断された人が10万3,424人、そのうち女性は10万2,592人でした。また、2024年には1万6,005人が乳がんによって亡くなっています。女性にとって罹患する機会が多く、決して珍しい病気ではありません。

乳がんステージ4と診断されると「もう治療できないのではないか」「どのくらい生きられるのか」「完治する可能性はあるのか」と、不安を感じる人は少なくありません。ステージ4は、乳房やその周囲のリンパ節だけでなく、骨、肺、肝臓、脳など離れた場所へがんが広がった状態です。一般に根治は難しく、薬物療法によって病気の進行を抑えながら、症状を和らげ、できるだけ長く日常生活を保つことが治療の中心になります。

乳がん全体の5年相対生存率は92.3%ですが、この数字には早期に発見された患者さんが多く含まれています。遠隔転移のあるステージ4に限ると、2014~2015年に診断された患者さんの5年生存率は39.8%でした。ただし、39.8%という数字をそのまま個人の余命と考えることはできません。

乳がんステージ4には、骨だけに転移している人、肝臓や肺など複数の臓器へ転移している人、初めて乳がんと診断された時点で転移が見つかった人、過去の治療後に再発した人が含まれます。さらに、ホルモン受容体陽性・HER2陰性、HER2陽性、トリプルネガティブといったサブタイプによって、使用できる薬や治療成績も大きく異なります。

近年は、内分泌療法や抗HER2薬に加え、分子標的薬、抗体薬物複合体、免疫チェックポイント阻害薬などの選択肢が増えています。一般には薬物療法によって病気の進行を抑え、症状を和らげながら生活を維持することが治療の中心ですが、サブタイプや転移部位に合った治療によって、長期間病気をコントロールできる患者さんもいます。

この記事では、乳がんステージ4とはどのような状態なのかを整理したうえで、サブタイプ別の薬物療法、骨・肺・肝臓・脳への転移に対する治療、生存率や余命の受け止め方、完治の可能性について解説します。統計の数字だけで将来を決めつけず、自分の病状に合った治療を考えるための参考にしてください。

参考:がん種別統計情報 乳房|国立がん研究センター がん情報サービス

  • 乳がんステージ4では、サブタイプに合った薬物療法が治療の中心
  • 骨、肺、肝臓、脳など、転移した部位によって症状と治療が異なる
  • 乳がんステージ4の5年生存率は39.8%(国立がん研究センター 2014~2015年診断例)

乳がんステージ4とは

乳がんステージ4とは、がん細胞が乳房や周囲のリンパ節を越え、骨、肺、肝臓、脳など離れた臓器へ転移している状態です。医学的には「遠隔転移がある乳がん」とされ、乳房内の腫瘍の大きさや腋窩リンパ節転移の数にかかわらず、遠隔転移が確認されればステージ4に分類されます。

転移先にできた腫瘍は、転移した臓器そのもののがんではありません。たとえば、乳がんが骨へ転移した場合も「骨がん」ではなく、乳がん細胞による骨転移として扱います。そのため、治療を選ぶ際には、転移した臓器だけでなく、乳がんのホルモン受容体やHER2などの性質を確認する必要があります。

初めて診断された時点で転移がある場合と、治療後に再発する場合

乳がんステージ4には、最初に乳がんと診断された時点ですでに遠隔転移が見つかっている場合と、早期または局所進行乳がんの治療後に遠隔転移が見つかる場合があります。

前者は「初発ステージ4乳がん」、後者は「遠隔再発乳がん」や「転移再発乳がん」と呼ばれます。どちらも遠隔転移を伴う乳がんですが、これまで受けた治療や病気の経過が異なるため、治療の組み立ても同じではありません。

初発ステージ4では、これまで乳がんに対する薬物療法を受けていないことが多く、現在のサブタイプや転移の広がりを確認して、最初の治療を選びます。一方、再発乳がんでは、過去に使用した抗がん剤、内分泌療法、抗HER2薬、手術や放射線治療の内容が、次の治療選択に影響します。

再発までの期間も重要です。治療終了から長い期間がたって再発した場合と、治療中または治療終了後の早い段階で再発した場合とでは、同じ薬を再び使用できる可能性や、薬への抵抗性の考え方が異なります。

なお、早期乳がんとして治療を受けた後に遠隔転移が見つかっても、最初に診断された病期そのものを書き換えるというより、診療上は「再発・転移乳がん」として現在の病状を評価します。再発時には、転移部位、過去の治療歴、現在のサブタイプを改めて確認し、新たな治療方針を決めます。

乳がんが転移しやすい主な部位

乳がんの遠隔転移は、骨、肺、肝臓、脳などにみられます。転移した場所によって現れやすい症状や緊急性が異なるため、「転移があるか」だけでなく、どこに、どの程度広がっているのかを確認することが大切です。

骨転移

骨転移は乳がんで比較的よくみられる転移の一つです。背中、腰、骨盤、肋骨、腕や脚などに持続する痛みが現れることがあります。骨が弱くなると、転倒していなくても骨折する病的骨折を起こすことがあります。

脊椎への転移によって神経が圧迫されると、足のしびれや脱力、歩行困難、排尿・排便障害が現れる場合があります。こうした症状は脊髄圧迫の可能性があるため、次の診察日を待たずに医療機関へ連絡する必要があります。

骨転移があっても、すぐに生命へ影響するとは限りません。薬物療法、骨を保護する薬、放射線治療などによって、痛みや骨折リスクを抑えながら長期間生活できる患者さんもいます。

肺・胸膜転移

肺転移では、病変が小さいうちは症状がないこともあります。病気が広がると、咳、息切れ、胸の痛みなどが現れる場合があります。

肺を覆う胸膜へ転移して胸水がたまると、肺が十分に広がりにくくなり、息苦しさが強くなることがあります。症状がある場合には、薬物療法だけでなく、胸水を抜く処置や、胸水が再びたまりにくくする治療を検討します。

肝転移

肝臓は機能に余裕のある臓器であるため、転移があっても初期には自覚症状がみられないことがあります。病変が増えると、右上腹部の違和感、食欲低下、強い倦怠感、黄疸、腹水などが現れる場合があります。

肝機能が急速に低下している場合には、臓器の機能を守るため、腫瘍を早く縮小させる治療が必要になることがあります。治療の選択では、サブタイプだけでなく、肝機能や全身状態も重視されます。

脳転移

脳転移では、頭痛、吐き気、けいれん、手足の麻痺やしびれ、言葉が出にくい、物が二重に見える、性格や意識状態の変化などが現れることがあります。

症状の出方は病変の場所によって異なります。新しい神経症状が現れた場合には、脳MRIなどで確認し、必要に応じて手術、定位放射線治療、全脳照射、薬物療法を組み合わせます。

皮膚や遠隔リンパ節への転移

乳房や胸壁の皮膚に、硬いしこり、赤み、潰瘍、出血、浸出液などが現れることがあります。鎖骨周囲や首、胸の内部、腹部など、乳房から離れたリンパ節へ転移する場合もあります。

皮膚病変は痛みや出血だけでなく、臭いや衣服の汚れによって外出や人との交流へ影響することがあります。薬物療法に加え、放射線治療や創傷ケアによって症状の軽減を目指します。

治療の順序

同じステージ4でも、病気の進み方には大きな幅があります。骨に限られた転移がゆっくり進行している患者さんと、肝臓や肺の機能が短期間で悪化している患者さんでは、治療の緊急性が異なります。

治療方針を決める際には、転移している臓器と病変の数、痛みや息苦しさなどの症状、肝臓、肺、骨髄などの機能、ホルモン受容体やHER2などのサブタイプ、過去に受けた治療とその効果、現在の日常生活と体力、本人が治療で優先したいことを総合して確認します。

とくに、肝臓や肺など生命維持に関わる臓器の機能が急速に悪化している場合には、一般的な治療の順序よりも、腫瘍を早く縮小させることを優先する場合があります。反対に、病気の進行が比較的緩やかで症状も少なければ、副作用を抑えながら長く続けられる治療を選択しやすくなります。

原発巣と転移巣のサブタイプ

乳がんでは、最初に乳房から採取したがん細胞と、後から見つかった転移巣とで、ホルモン受容体やHER2の検査結果が異なることがあります。

たとえば、以前はホルモン受容体陽性だった乳がんが、再発時には陰性となる場合や、HER2の評価が変わる場合があります。過去の病理結果だけで治療を決めると、現在の病気に合わない薬を選んでしまう可能性があるためです。

安全に採取できる転移巣があれば、再び組織を採取して現在のサブタイプを確認することがあります。再生検が難しい場合には、以前の病理結果、画像検査、病気の経過、血液を使った遺伝子検査などを組み合わせて判断します。転移性乳がんでは診断時の評価と治療方針を患者さんと共有して決めることが重視されています。

乳がんステージ4は、遠隔転移があるという共通点はあっても、転移部位、サブタイプ、過去の治療、病気の進行速度によって状態が大きく異なります。そのため、ステージ4という名称だけで治療内容や余命を判断することはできません。

乳がんステージ4でも治療を行う理由

乳がんステージ4は、一般に手術だけで病気をすべて取り除くことが難しい状態です。それでも治療を行うのは、がんの進行を抑えることで、生存期間を延ばし、痛みや息苦しさなどの症状を軽減しながら、日常生活をできるだけ長く保てる可能性があるためです。

治療の中心となるのは、乳房だけでなく全身のがん細胞へ作用する薬物療法です。ホルモン受容体やHER2などの性質に応じて、内分泌療法、分子標的薬、抗HER2薬、抗がん剤、抗体薬物複合体、免疫チェックポイント阻害薬などを選びます。治療の効果が弱くなった場合には、病状やそれまでの治療歴を確認し、作用の異なる薬へ切り替えることがあります。

治療の中心は病気の進行をできるだけ長く抑えること

ステージ4では、画像で確認できる病変が複数の臓器に存在していることがあります。乳房や一つの転移巣だけを手術で取り除いても、ほかの場所に残っているがん細胞へは十分に対応できません。そのため、まずは全身に作用する薬物療法によって、病変全体を抑えることが基本になります。

治療によって腫瘍が小さくなる場合もあれば、大きさはあまり変わらなくても、一定期間進行せずに保たれる場合もあります。ステージ4の治療では、腫瘍を完全に消すことだけが効果ではありません。病気が広がる速度を遅らせ、臓器の機能を守りながら、次の治療へつなげることにも大きな意味があります。

乳がんでは、最初に使用した薬が効かなくなっても、別の仕組みを持つ薬へ変更できることがあります。とくにホルモン受容体陽性乳がんやHER2陽性乳がんでは、複数の治療を順番に使いながら、長期に病気をコントロールできる患者さんもいます。ただし、どの薬がどの程度効くかには個人差があり、サブタイプ、転移部位、過去の治療、全身状態によって治療の見通しは異なります。

症状を和らげ臓器の機能を守る

治療の目的は、生存期間を延ばすことだけではありません。骨転移による痛みや骨折、肺・胸膜転移による息苦しさ、肝転移による倦怠感や黄疸、脳転移による頭痛や麻痺などを抑えることも重要です。

たとえば、骨転移に対する放射線治療は、病変を完全に取り除くためではなく、痛みを軽くし、骨折や脊髄圧迫の危険を減らす目的で行われることがあります。胸水がたまって呼吸が苦しい場合には、胸水を抜く処置によって症状の改善を目指します。脳転移では、病変の数や大きさに応じて、手術や定位放射線治療、全脳照射などを組み合わせます。

このような治療は、がん全体を治すものではなくても、食事、睡眠、移動、仕事などの日常生活を保つうえで重要です。症状が強くなってから対応するより、軽い段階で医療者へ伝えた方が、重症化を防ぎやすい場合があります。

目標は日常生活を保ちながら治療を続けること

乳がんステージ4の治療は、数か月ではなく、年単位で続くことがあります。そのため、腫瘍を抑える効果だけでなく、副作用や通院頻度が生活へ与える影響も考えなければなりません。

効果が高い治療でも、強い倦怠感、下痢、白血球減少、しびれなどによって日常生活が大きく制限される場合があります。反対に、腫瘍を急速に縮小させる必要がない状況では、副作用が比較的少なく、長く続けやすい治療が選ばれることもあります。

治療方針を決める際には、次のような希望も医師へ伝えることが大切です。

  • 仕事や育児をできるだけ続けたい
  • 通院回数を減らしたい
  • 脱毛やしびれの影響を抑えたい
  • 痛みや息苦しさを優先して改善したい
  • 腫瘍を早く小さくする治療を希望したい

医学的に使用できる治療が複数ある場合には、治療効果だけでなく、患者さんが何を大切にしたいかも選択に影響します。転移性乳がんの診療では、医療者が一方的に治療を決めるのではなく、効果、副作用、通院方法、生活上の希望について話し合いながら方針を決めることが重視されています。

参考:患者さんのための乳がん診療ガイドライン|一般社団法人日本乳癌学会

手術や放射線治療を追加する場合

乳がんステージ4では薬物療法が中心ですが、手術や放射線治療を行わないわけではありません。乳房の腫瘍による出血、痛み、潰瘍、感染などがある場合には、症状を抑えるために手術や放射線治療を検討することがあります。

転移が一つまたは少数に限られている場合には、転移巣へ手術や定位放射線治療を行うこともあります。このような状態はオリゴ転移と呼ばれることがありますが、局所治療によってすべての患者さんが完治できるとは確立されていません。サブタイプ、病変の数や位置、ほかの部位への広がり、薬物療法への反応などを確認し、選択された患者さんで検討されます。

診断時から乳房の腫瘍と遠隔転移がある患者さんに対して、乳房の手術を先に行えば生存期間が延びるとは限りません。原発巣による強い症状がなければ、全身の病気へ作用する薬物療法を優先することが一般的です。乳房の手術を行うかどうかは、症状、薬物療法の効果、転移の状態を踏まえて個別に判断します。

緩和ケアや支持療法も治療の一部

緩和ケアは、抗がん治療を終了した後だけに受ける医療ではありません。乳がんと診断された時点から、薬物療法や放射線治療と並行して受けることができます。国立がん研究センターも、乳がんでは診断時から心身のつらさを和らげる緩和ケアや支持療法を利用できると説明しています。

参考:乳がん 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

痛みや吐き気、しびれ、食欲低下などへの対応だけでなく、不安、不眠、仕事、治療費、家族との関係も相談の対象です。副作用を我慢して体力を失うと、予定していた治療を続けられなくなることがあります。早い段階から症状を伝え、薬の量や治療間隔を調整することは、治療を長く続けるためにも重要です。

乳がんステージ4の治療では、がんを小さくすること、生存期間を延ばすこと、症状を和らげること、日常生活を守ることを同時に考えます。どれを優先するかは、病状によっても患者さんの希望によっても変わります。一度決めた目標が固定されるわけではなく、治療効果や体調の変化に応じて見直していきます。

乳がんステージ4の治療方針を決める検査

乳がんステージ4の検査では、単に「転移があるか」を確認するだけではありません。治療方針を決めるためには、主に次の3点を明らかにする必要があります。

1つ目は、がんがどの臓器へ、どの程度広がっているか。2つ目は、現在のがん細胞がホルモン受容体やHER2など、どのような性質を持っているか。3つ目は、肝臓や腎臓、骨髄などが治療に耐えられる状態かという点です。

乳がんでは、同じステージ4でもサブタイプや遺伝子の特徴によって使用できる薬が大きく変わります。そのため、画像検査だけでなく病理検査やバイオマーカー検査の結果が治療選択の中心になります。

参考:乳がん 検査|国立がん研究センター がん情報サービス

画像検査の目的

乳がんの遠隔転移を調べる際には、造影CT検査が基本的な画像検査の一つになります。胸部や腹部などを撮影し、肺、胸膜、肝臓、リンパ節、骨などに病変がないかを確認します。

骨の痛みがある場合や骨転移が疑われる場合には、骨シンチグラフィー、CT、MRI、PET-CTなどを使用します。脊椎転移による脊髄圧迫が疑われるときにはMRIが重要です。足に力が入りにくい、急に歩きにくくなった、排尿や排便が難しくなったといった症状がある場合は、画像検査を急ぐ必要があります。

脳転移が疑われる場合には、造影MRIを行います。新しく現れた頭痛、けいれん、手足の麻痺、言葉の出にくさ、視覚の異常などが検査のきっかけになります。脳転移の症状がない患者さん全員へ、同じ頻度で脳MRIを行うわけではありません。サブタイプ、病状、症状などを踏まえて必要性を判断します。

PET-CTは全身の病変を確認するのに役立つことがありますが、すべての患者さんに必ず必要な検査ではありません。CTやMRIだけでは病変の性質を判断しにくい場合や、局所治療を検討するために全身の病変を詳しく確認したい場合など、検査の目的に応じて選択されます。

血液検査で分かること

血液検査では、白血球、赤血球、血小板などの血球数に加え、肝機能、腎機能、カルシウム値などを確認します。これらの数値は、病気が臓器へ与えている影響を調べるだけでなく、どの薬をどの程度の量で使用できるかを判断する材料になります。

たとえば、肝転移によって肝機能が低下している場合には、薬の種類や投与量を調整しなければならないことがあります。骨髄への転移や過去の治療の影響で血球数が低下していれば、治療を開始する前に原因を確認し、必要に応じて治療内容を変更します。

乳がんではCEAやCA15-3などの腫瘍マーカーを測定することがあります。治療中に数値が低下すれば効果を考える参考になり、上昇が続けば病状の変化を疑う材料になります。ただし、腫瘍マーカーだけで治療効果や病気の進行を判断することはできません。がんが進行していても数値が上がらない患者さんがいる一方、がん以外の理由で上昇することもあるため、画像検査、症状、診察結果と併せて判断する必要があります。

転移巣の再生検でがんの性質を確認

過去に乳がんの手術を受け、その後に骨や肝臓、肺などの病変が見つかった場合には、可能であれば転移巣の一部を採取して病理検査を行います。これを再生検といいます。

再生検には、見つかった病変が本当に乳がんの転移なのかを確かめる意味があります。乳がんの治療後に別の臓器へ腫瘍が見つかっても、必ずしもすべてが乳がんの転移とは限らないためです。

もう一つの重要な目的は、現在のホルモン受容体とHER2の状態を調べ直すことです。乳がんは治療や時間の経過によって性質が変化することがあり、原発巣と転移巣で検査結果が一致しない場合があり、過去の病理結果だけをもとに治療すると、現在のがんに合わない薬を選んでしまう可能性があります。そのため、安全に組織を採取できる病変があれば、転移巣の再生検が検討されます。

ただし、脳や肺の奥深くなど、組織を採取する危険性が高い病変に無理な生検を行うわけではありません。骨転移では、組織の処理方法によって検査結果へ影響が出ることもあります。生検によって得られる情報と、出血や痛みなどの負担を比較して判断します。

参考:National Cancer Institute「Metastatic Breast Cancer」

ホルモン受容体とHER2が治療の分かれ道

乳がんでは、採取した組織を使って、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PgR)、HER2などを調べます。この結果によって、治療は大きく分かれます。

検査項目 検査で分かること 主な治療上の意味
ER・PgR 女性ホルモンの影響を受けて増殖するか 陽性なら内分泌療法が治療の中心になる
HER2 がん細胞がHER2をどの程度持つか 陽性なら抗HER2療法を検討する
Ki-67 細胞が増殖している程度 増殖の速さを考える参考にする
HER2の低発現 HER2陽性ではないものの、
少量のHER2が確認されるか
条件により一部の抗体薬物複合体の対象になる
PD-L1 免疫療法が効く可能性を判断する目印 主にトリプルネガティブ乳がんで治療選択に使う

ERまたはPgRのどちらかが陽性であれば、ホルモン受容体陽性乳がんとして内分泌療法を検討します。HER2陽性であれば、HER2を標的とする薬が治療の中心になります。ER、PgR、HER2がいずれも陰性の場合は、トリプルネガティブ乳がんに分類されます。

Ki-67は、がん細胞がどの程度活発に増殖しているかを示す参考値です。ただし、測定方法や評価のばらつきがあり、すべての患者さんに共通する明確な境界値があるわけではありません。Ki-67だけで抗がん剤の必要性や病気の進行速度を決めるのではなく、サブタイプ、転移部位、症状などと併せて判断します。

参考:ESMO「Clinical Practice Guidelines: Breast Cancer」

HER2検査

HER2検査では、まず免疫染色と呼ばれる方法で、がん細胞の表面にHER2タンパクがどの程度あるかを調べます。結果は主に0、1+、2+、3+で示され、2+で判断がつかない場合には、HER2遺伝子の増加を確認する追加検査を行います。

従来は、抗HER2療法を使える「HER2陽性」と、それ以外の「HER2陰性」に大きく分けていました。しかし現在は、HER2陽性には該当しなくても、少量のHER2が確認されるHER2-lowやHER2-ultralowという評価が、一部の抗体薬物複合体を使用できるかどうかの判断に関係します。

ただし、HER2-lowは、ホルモン受容体陽性やトリプルネガティブと同じ意味での独立した病気の分類とは限りません。HER2の発現量を治療選択へ結び付けるための考え方であり、検査時期や採取した組織によって評価が変わることもあります。過去の病理報告書に「HER2陰性」とだけ書かれている場合には、IHCの具体的な点数を確認することがあります。

遺伝子やバイオマーカー検査

ステージ4乳がんでは、ホルモン受容体とHER2以外の検査結果が、二次治療以降の薬剤選択に関わることがあります。ただし、すべての検査を診断時に一度に行うわけではありません。サブタイプ、これまで受けた治療、病気が進行した時期に合わせて追加します。

検査する主な項目 主に関係する乳がん 治療上の意味
BRCA1・BRCA2 HER2陰性乳がんなど PARP阻害薬の候補になるかを判断する
PIK3CA・AKT1・PTEN HR陽性・HER2陰性 PI3K/AKT経路を標的とする治療の候補を判断する
ESR1 HR陽性・HER2陰性 内分泌療法への耐性と、次の内分泌治療を考える
PD-L1 トリプルネガティブ 免疫チェックポイント阻害薬の対象を判断する
NTRK融合遺伝子など サブタイプを問わず一部の患者 がん種を越えた分子標的薬の候補になる場合がある

BRCA1・BRCA2の検査には、がん細胞だけに起きた変化を調べる検査と、生まれつき持っている変化を血液などから調べる遺伝学的検査があります。生まれつきの病的な変化が見つかった場合には、本人の治療選択だけでなく、血縁者の乳がんや卵巣がんなどのリスクにも関係する可能性があります。そのため、検査前後に遺伝カウンセリングを提案されることがあります。

ESR1やPIK3CAなどの検査は、同じホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がんの中から、特定の治療が適する患者さんを見つける目的で行います。検査結果が陽性でも、すぐにその薬を使用するとは限りません。過去の治療内容、病気の進行状況、日本での承認条件などを確認して治療の順番を決めます。

参考:National Cancer Institute「BRCA Gene Changes: Cancer Risk and Genetic Testing」

血液を使った遺伝子検査(リキッドバイオプシー)

遺伝子変化を調べる方法には、転移巣から採取した組織を使う方法のほか、血液中へ流れ出したがん由来のDNAを調べる方法があります。後者はリキッドバイオプシーctDNA検査と呼ばれます。

採血だけで行えるため、転移巣の組織を採取しにくい場合や、治療中に新しく生じた遺伝子変化を調べたい場合に役立つことがあります。ESR1やPIK3CAなど、治療標的となる変化を探す目的で使用される場合があります。

一方、血液中へ十分ながん由来DNAが出ていない患者さんでは、実際には遺伝子変化があっても検出できないことがあります。血液検査で「変異なし」と判定されても、がん細胞に変異が存在しないと断定はできません。治療選択に重要な検査が陰性だった場合には、保存されている組織や新たに採取した組織で調べ直すことがあります。

がん遺伝子パネル検査の役割

がん遺伝子パネル検査は、多数の遺伝子を一度に調べ、治療につながる変化がないかを探す検査です。ER、PgR、HER2など、乳がんの治療開始前に行う基本的な検査とは役割が異なります。

標準治療の選択肢が少なくなった場合や、希少な遺伝子変化に対応する薬や治験を探す場合に検討されます。ただし、検査を受けても、治療へ直接つながる遺伝子変化が必ず見つかるわけではありません。候補となる薬が見つかっても、日本では未承認であったり、治験の参加条件に合わなかったりすることがあります。

そのため、検査を受ける前に、結果が出るまでの期間、自己負担、治療へつながる可能性、遺伝性腫瘍に関する情報が見つかる可能性について説明を受けます。

治療前に心臓や全身状態も確認

検査はがんの性質を調べるためだけに行うものではありません。治療による負担に体が耐えられるかを確認することも必要です。

抗HER2薬など、心臓の機能へ影響する可能性のある薬を使用する場合には、心臓超音波検査などで心機能を確認します。抗がん剤では血球数、肝機能、腎機能を確認し、骨を保護する薬を使用する場合には腎機能や歯の状態も確認します。

また、閉経前か閉経後かによって、ホルモン受容体陽性乳がんで使用する内分泌療法の組み合わせが変わります。閉経前の患者さんでは、卵巣からの女性ホルモン分泌を抑える治療が必要になることがあります。

治療方針を決める際には、検査結果だけでなく、年齢、持病、過去の副作用、現在の日常生活、本人の希望も含めて判断します。検査で使用可能と分かった薬が、必ずしもその患者さんにとって最初に選ぶべき治療とは限らないためです。

検査結果は定期的な見直しを行う

ステージ4乳がんの検査は、治療を始める前に一度行って終わりではありません。治療中は画像検査、血液検査、症状の変化を定期的に確認し、薬が効いているか、副作用が許容できる範囲かを評価します。

病変が大きくなった場合には、全身で進行しているのか、一部の病変だけが進行しているのかを確認します。一部だけが進行していれば、その病変へ放射線治療などを行い、現在の薬物療法を継続できることもあります。全身で進行していれば、バイオマーカーの再評価や次の薬への変更を検討します。

治療方針の説明を受ける際には、次の点を確認すると、検査結果と治療の関係を理解しやすくなります。

  • 現在のER、PgR、HER2の結果はどうなっているか
  • 過去の原発巣と転移巣で結果が変わっていないか
  • HER2のIHCスコアはいくつか
  • 今後必要になる遺伝子検査はあるか
  • 検査結果によって、どの薬が候補になるのか
  • 画像検査で最も注意すべき転移はどこか
  • 治療効果を何で、どの時期に判定するのか

検査結果を一つずつ理解する目的は、専門用語を覚えることではありません。自分の乳がんがどの治療に反応する可能性があり、現在の病状では何を優先すべきかを判断するためにあります。

乳がんステージ4の治療全体像

乳がんステージ4では薬物療法が治療の中心になります。手術や放射線治療も行われますが、主な役割は特定の病変による症状を軽くすることや、少数の転移を局所的に抑えることです。国立がん研究センターも、骨や肝臓、肺、脳などへの遠隔転移では薬物療法を原則とし、症状や臓器への影響に応じて転移部位への治療を追加すると説明しています。

治療は、ホルモン受容体やHER2などのサブタイプ、転移した臓器、病気の進行速度、過去に使用した薬、現在の体力をもとに組み立てます。最初からすべての薬を同時に使用するのではなく、一つの治療で効果が得られ、副作用も許容できる間は継続し、効果が弱くなった場合や負担が大きくなった場合に次の治療へ変更するのが基本です。

参考:乳がん 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

サブタイプ別の治療組み立て

乳がんステージ4の薬物療法は、大きく分けると次のように組み立てます。

乳がんの主なタイプ 治療の中心 治療選択で確認する主な点
ホルモン受容体陽性・HER2陰性 内分泌療法+分子標的薬 閉経前後、過去の内分泌療法、ESR1・PIK3CAなど
HER2陽性 抗HER2薬+抗がん剤など 過去に使った抗HER2薬、脳転移、心機能
トリプルネガティブ 抗がん剤、免疫療法、ADCなど PD-L1、BRCA1/2、過去の抗がん剤
HER2-low/ultralow 条件によりADC ホルモン受容体、HER2の発現量、治療歴

ホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がん

ホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がんでは、肝臓や肺などの機能が急速に悪化していなければ、内分泌療法と分子標的薬を組み合わせる治療が中心です。ホルモンの働きを抑えることで、がん細胞の増殖を長く抑えられる可能性があり、抗がん剤よりも生活への影響を抑えながら継続できる患者さんもいます。

HER2陽性乳がん

HER2陽性乳がんでは、HER2を狙う薬を抗がん剤などと組み合わせます。複数の抗HER2薬や抗体薬物複合体があり、過去に使った治療や脳転移の有無を確認しながら、順番に使用します。HER2を標的とする薬の登場によって、HER2陽性転移性乳がんの治療は大きく変化してきました。

トリプルネガティブ乳がん

トリプルネガティブ乳がんでは、内分泌療法や通常の抗HER2療法は使用できません。抗がん剤が基本となりますが、PD-L1の条件を満たす場合には免疫チェックポイント阻害薬との併用が検討されます。BRCA1/2の病的な変化があればPARP阻害薬、一定の治療後には抗体薬物複合体が候補になることもあります。

HER2-low/HER2-ultralow

HER2-lowやHER2-ultralowは、従来のHER2陽性には該当しないものの、がん細胞にわずかなHER2発現が確認される状態です。独立したサブタイプとして一律に治療を決めるのではなく、ホルモン受容体の状態やそれまでの治療歴と合わせて、一部の抗体薬物複合体を使えるかどうかを判断します。

参考:National Cancer Institute「Treatment of Breast Cancer by Stage」

病気の進行が速い場合

薬物療法を選ぶ際には、サブタイプだけでなく、治療をどれほど急ぐ必要があるかも重要です。

骨だけに限られた転移がゆっくり進み、自覚症状が少ない場合には、副作用を抑えながら長く継続できる治療を選びやすくなります。一方、肝転移によって黄疸や肝機能低下が進んでいる場合や、肺・胸膜転移によって呼吸状態が短期間で悪化している場合には、腫瘍を早く小さくできる可能性のある治療を優先します。

このように転移によって重要な臓器の機能が急速に損なわれる危険がある状態は「内臓クリーゼ」と呼ばれることがあります。単に肝臓や肺へ転移があるだけではなく、臓器機能が実際に悪化し、早急な対応が必要な状態を指します。

ホルモン受容体陽性乳がんであっても、内分泌療法の効果を待つ余裕がない場合には、抗がん剤など、より速い縮小効果を期待する治療を選ぶことがあります。治療の強さはステージだけで決めるのではなく、病気の進行速度と臓器の状態から判断します。転移性乳がんの抗がん剤治療では、病気の進行速度、持病、患者さんの希望などが治療選択に影響し、急速な進行や臓器機能への危険がある場合には併用療法が検討されることがあります。

閉経による治療方針の変化

ホルモン受容体陽性乳がんでは、閉経前か閉経後かによって治療の組み立てが異なります。

閉経後は、主に副腎や脂肪組織などで作られる女性ホルモンを抑える治療を選びます。閉経前は卵巣から多くの女性ホルモンが分泌されているため、内分泌療法や分子標的薬の効果を得るには、注射薬などで卵巣機能を抑える治療を組み合わせる必要があります。

閉経前の患者さんでも、卵巣機能を抑えたうえで、閉経後の患者さんと共通する内分泌療法や分子標的薬を使用できる場合があります。月経が止まっていても、抗がん剤や年齢の影響による一時的な変化の可能性があるため、年齢や血液検査などをもとに閉経状態を確認します。

薬の変更について

ステージ4乳がんでは、現在の治療が効いているかを、症状、血液検査、画像検査などから定期的に確認します。腫瘍が縮小していなくても、大きくならず、症状や臓器機能が安定していれば、治療効果が得られていると判断することがあります。

治療を変更する主な理由は、病変が明らかに増えた場合、新しい転移が現れた場合、症状や臓器機能が悪化した場合、または副作用によって治療を続ける利益より負担が大きくなった場合です。

腫瘍マーカーが上昇しただけで、直ちに薬を変更するとは限りません。測定値には変動があり、がん以外の影響を受けることもあるためです。画像検査や症状が安定している場合には、数値の推移を見ながら次の検査まで治療を続けることもあります。

反対に、画像上の変化が小さくても、痛みや息苦しさが強くなり、生活が大きく制限されている場合には、治療内容を見直す必要があります。検査結果だけでなく、患者さんが実際に感じている症状や生活への影響も治療効果を判断する材料です。

一部の病変だけが進行した場合

薬物療法によって大部分の病変が抑えられていても、一つまたは少数の病変だけが大きくなる場合があります。これを「オリゴプログレッション」と呼ぶことがあります。

たとえば、全身の病変は安定しているものの、骨や脳の一部だけが進行した場合には、その病変へ放射線治療や手術を行い、現在の薬物療法を継続できることがあります。効果が続いている薬をすぐにすべて変更せず、進行した場所だけを局所的に治療する考え方です。

ただし、複数の臓器で病変が増えている場合には、現在の薬が全身的に効きにくくなっている可能性があり、別の薬物療法へ切り替える判断が中心になります。

手術の目的

診断時から遠隔転移がある初発ステージ4乳がんでは、乳房の腫瘍を手術しても、すでに全身へ広がったがん細胞をすべて取り除くことはできません。そのため、乳房に強い症状がなければ、まず薬物療法を行うことが一般的です。

乳房の腫瘍によって出血、痛み、感染、潰瘍、強い臭いなどが生じている場合には、生活の負担を軽減する目的で手術や放射線治療を検討します。また、薬物療法によって全身の病変が長期間安定し、転移がごく限られている患者さんでは、乳房や転移巣への局所治療について個別に検討されることもあります。

一方、症状のない初発ステージ4乳がんに対し、乳房の手術を早期に加えても、薬物療法だけの場合と比べて全生存期間が延びなかった臨床試験があります。乳房の病変自体は抑えやすくなりましたが、手術をすべての患者さんへ行う根拠にはなっていません。

参考:To Operate or Not in De Novo Stage IV Breast Cancer: Is That Still a Question? | ACS

放射線治療の目的

放射線治療は、骨転移の痛み、骨折や脊髄圧迫の危険、脳転移、乳房や胸壁からの出血などを抑える目的で行われます。

全身へ作用する薬物療法とは異なり、放射線治療は照射した範囲の病変を局所的に抑える治療です。全身の病気を一度に治療することはできませんが、痛みや神経症状を改善し、歩行や睡眠などの日常生活を保つために重要な役割があります。骨、肝臓、肺、脳などへの遠隔転移では薬物療法が原則ですが、症状や全身状態への影響がある場合には、転移した臓器への治療が併用されます。

緩和ケア・支持療法は薬物療法と同時に行う

薬物療法を続けるためには、吐き気、下痢、白血球減少、しびれ、関節痛などの副作用を適切に管理する必要があります。副作用が強い場合には、予防薬や治療薬を追加するほか、投与量を減らす、治療間隔を延ばす、原因となる薬だけを休むといった調整を行います。

薬の量を減らすことは、治療を諦めることではありません。限界まで副作用を我慢して体力を失うよりも、生活を維持できる量へ調整し、治療を継続する方が適している場合があります。

緩和ケアや支持療法は終末期だけの医療ではなく、がんと診断された時点から薬物療法などと並行して受けられます。体の症状だけでなく、不安、仕事、家族、経済的な問題も相談の対象です。

乳がんステージ4の治療は、「最も新しい薬」や「最も強い薬」を一度選べば終わるものではありません。サブタイプ、臓器の状態、過去の治療、副作用、生活上の希望を確認し、その時点で利益が期待できる治療を選び直していきます。

ホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がんの治療

ホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がんは、がん細胞がエストロゲンなどの女性ホルモンを利用して増殖するタイプです。ステージ4であっても、肝臓や肺の機能が急速に悪化している状態でなければ、最初から抗がん剤を使うのではなく、内分泌療法とCDK4/6阻害薬を組み合わせる治療が中心になります。

内分泌療法は、抗がん剤のように細胞を直接攻撃するのではなく、女性ホルモンの作用を抑えることで乳がんの増殖を遅らせる治療です。効果が得られれば、外来で治療を続けながら仕事や家事を維持できる患者さんもいます。ただし、副作用がない治療ではなく、ほてり、関節痛、倦怠感などが生活へ影響することもあります。

内分泌療法で使用する薬

内分泌療法は、女性ホルモンの作られ方や、がん細胞がホルモンを受け取る仕組みに作用します。

内分泌療法の種類 主な働き 主に注意すること
アロマターゼ阻害薬 閉経後に体内で作られるエストロゲンを減らす 関節痛、骨密度低下、ほてり
選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD) がん細胞のエストロゲン受容体を減らす 注射部位の痛み、吐き気、倦怠感など
選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM) エストロゲンが受容体へ結合するのを妨げる 血栓症、ほてりなど
卵巣機能抑制療法 閉経前の卵巣からのホルモン分泌を抑える 更年期症状、骨密度低下

どの薬を選ぶかは、閉経前か閉経後か、過去に受けた内分泌療法、治療終了から再発までの期間によって変わります。閉経前や閉経期の患者さんでは、卵巣機能を抑える注射などを組み合わせたうえで、内分泌療法を行うことがあります。

CDK4/6阻害薬との組み合わせ

CDK4/6阻害薬は、がん細胞が分裂するときに使う仕組みを抑える分子標的薬です。内分泌療法だけで治療する場合と比べ、病気が進行するまでの期間や生存期間を延ばす効果が示されており、ホルモン受容体陽性・HER2陰性の転移性乳がんにおける基本的な治療の一つとなっています。国内では、パルボシクリブやアベマシクリブなどが内分泌療法と組み合わせて使用されます。

CDK4/6阻害薬はいずれも内服薬ですが、副作用の現れ方は同じではありません。白血球、とくに好中球が減少しやすい薬もあれば、下痢が起こりやすい薬もあります。肝機能異常、倦怠感、食欲低下などがみられることもあるため、定期的な血液検査が必要です。

発熱や悪寒がある場合には、好中球減少による感染症の可能性があります。下痢が続く場合も、脱水によって体力を失う前に連絡することが大切です。薬の量を減らしたり、一時的に休薬したりしても、治療の失敗を意味するわけではありません。副作用を抑え、効果のある治療を長く続けるための調整です。

閉経前の治療について

閉経前の患者さんは卵巣からエストロゲンが分泌されているため、アロマターゼ阻害薬などを単独で使用しても十分な効果が得られません。卵巣機能を抑える注射や、卵巣を手術で摘出する方法を組み合わせることで、閉経後の患者さんと共通する内分泌療法を受けられる場合があります。

卵巣機能を抑えると、ほてり、発汗、気分の変化、膣の乾燥、骨密度低下など、急な更年期症状が現れることがあります。若い患者さんでは、治療が仕事、性生活、将来の妊娠への希望に与える影響も大きいため、症状だけでなく生活上の悩みも医療者へ相談することが重要です。

病状が急速に悪化している場合

ホルモン受容体陽性であっても、すべての患者さんに内分泌療法を優先するわけではありません。肝転移によって黄疸や肝機能低下が進んでいる場合や、肺・胸膜転移によって呼吸状態が急速に悪化している場合には、内分泌療法の効果を待つ時間がないことがあります。

このように、転移によって重要な臓器の機能が差し迫って損なわれる状態では、腫瘍を早く縮小させる目的で、抗がん剤や抗体薬物複合体などを検討します。単に肝臓や肺へ転移しているという理由だけで抗がん剤が必要になるのではなく、臓器機能がどの程度悪化しているかが判断の基準になります。

内分泌療法が効かなくなる理由

内分泌療法によって病気を抑えられていても、時間の経過とともに、がん細胞が薬の影響を受けにくくなることがあります。これを内分泌療法への耐性と呼びます。

耐性が生じる仕組みの一つが、ESR1という遺伝子の変化です。ESR1はエストロゲン受容体に関係する遺伝子で、変異が生じると、女性ホルモンが少ない環境でもがん細胞が増殖しやすくなることがあります。このほか、PIK3CA、AKT1、PTENなどの変化が、治療選択へ関係する場合があります。

検査結果 治療上の主な意味
ESR1変異 別の仕組みで受容体へ作用する内分泌療法を検討する
PIK3CA変異 PI3K経路を標的とする薬が候補になる場合がある
AKT1変異・PTEN異常 AKT経路を標的とする薬が候補になる場合がある
BRCA1/2病的バリアント PARP阻害薬が候補になる場合がある
HER2-low/ultralow 治療歴などの条件によりADCが候補になる

検査結果が陽性でも、直ちに対応する薬を使用するとは限りません。これまで受けた治療、症状、転移部位、日本で承認されている使用条件を確認して、治療の順番を決めます。

ESR1変異に対する新しい治療法

従来は、画像検査で病気の進行を確認してから次の内分泌療法へ変更するのが一般的でした。しかし、血液中のがん由来DNAを定期的に調べることで、画像上は病気が進行していない段階からESR1変異を検出できる場合があります。

2026年には国内でも、アロマターゼ阻害薬とCDK4/6阻害薬による一次治療を一定期間受け、ctDNA検査でESR1変異が確認された患者さんに対し、画像上の進行前にアロマターゼ阻害薬から経口SERDのカミゼストラントへ切り替え、CDK4/6阻害薬を継続する治療が承認されています。対象条件は細かく定められており、すべてのホルモン受容体陽性乳がんに行う検査や治療ではありません。

この治療は、腫瘍が大きくなってから薬を変更するだけでなく、耐性の兆候を血液検査で見つけ、早い段階で治療を調整する考え方を示しています。ただし、ctDNA検査が陰性でもESR1変異が絶対にないとは断定できず、検査の時期や病変量によって結果が変わることがあります。

参考:PMDA「カミゼストラント(エトカマ錠)適正使用ガイド」

病気が進行した場合

最初の内分泌療法とCDK4/6阻害薬で病気が進行した場合でも、臓器機能が安定していれば、別の内分泌療法と分子標的薬を組み合わせる治療が候補になります。

ESR1、PIK3CA、AKT1、PTENなどの結果や、過去に使用した薬を確認し、作用の異なる内分泌療法へ切り替えます。遺伝子変化に対応する薬がない場合でも、mTORという経路を抑える薬を内分泌療法へ組み合わせる方法などがあります。NCIも、ホルモン受容体陽性乳がんに対し、CDK4/6阻害薬、PI3K経路を標的とする薬、mTOR阻害薬などを内分泌療法と組み合わせる治療を示しています。

内分泌療法を変更しても短期間で進行を繰り返す場合、肝臓や肺などの機能に影響が出ている場合、内分泌療法の効果を期待しにくいと判断された場合には、抗がん剤や抗体薬物複合体へ切り替えます。

生活への影響も確認

内分泌療法は、抗がん剤より負担が軽い治療として説明されることがありますが、関節痛、ほてり、倦怠感、不眠、気分の落ち込み、膣の乾燥などが毎日続けば、仕事や外出、性生活へ影響します。CDK4/6阻害薬による下痢や血球減少も、生活の予定を立てにくくする原因になります。

症状が軽く見えても、長期間我慢すれば治療継続が難しくなることがあります。服薬時間の調整、鎮痛薬や下痢止めの使用、運動、休薬や減量などによって負担を減らせる場合があるため、診察では検査数値だけでなく、日常生活で困っていることも具体的に伝えます。

ホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がんでは、内分泌療法を一つ使って終わるのではなく、CDK4/6阻害薬や遺伝子変化に対応する薬を組み合わせながら、複数の治療を順番に使用します。抗がん剤へ切り替える時期も一律ではなく、内分泌療法への反応、転移した臓器、病気の進行速度、生活への負担を合わせて判断します。

HER2陽性乳がんの治療

HER2陽性乳がんは、がん細胞の表面にHER2というタンパク質が多く発現し、その働きを利用して増殖するタイプです。以前は進行が比較的速い乳がんと考えられていましたが、HER2を狙う薬が複数登場したことで、治療を順番に使用しながら長期間病気を抑えられる患者さんも増えています。

ステージ4では、抗HER2薬を治療の中心とし、抗がん剤や内分泌療法を組み合わせます。どの薬から始めるかは、過去に受けた抗HER2療法、治療終了から再発までの期間、脳転移の有無、心臓や肺の状態などによって変わります。

抗HER2薬の種類

HER2陽性乳がんに使われる薬は、同じHER2を標的としていても、作用の仕組みが異なります。

治療の種類 主な働き 主に注意すること
抗HER2抗体薬 がん細胞表面のHER2へ結合し、増殖の信号を抑える 心機能低下、点滴・注射時の反応
抗体薬物複合体(ADC) HER2を目印として、抗がん剤成分をがん細胞へ届ける 間質性肺疾患、吐き気、骨髄抑制など
HER2チロシンキナーゼ阻害薬 がん細胞内部のHER2の信号を抑える 下痢、肝機能障害、薬の飲み合わせなど
抗がん剤との併用 抗HER2薬と異なる仕組みでがん細胞を攻撃する 脱毛、白血球減少、しびれ、手足症候群など

治療名を覚えることよりも、現在使用している薬がどの種類で、どの副作用へ注意すべきかを把握することが大切です。

参考:ESMO Living Guideline「HER2-positive Metastatic Breast Cancer」

HER2陽性乳がんの一次治療

これまで進行・再発乳がんに対する抗HER2療法を受けていない患者さんでは、一般にトラスツズマブとペルツズマブという2種類の抗HER2抗体薬へ、タキサン系抗がん剤を組み合わせる治療が検討されます。HER2の異なる部分へ作用する2剤を併用し、抗がん剤とともに腫瘍を抑える治療です。

ただし、術前・術後治療で同じ薬を使用していた患者さんや、治療終了後の早い時期に再発した患者さんでは、別の治療から始めることがあります。一次治療は「ステージ4で最初に使う薬」という意味であり、過去の乳がん治療を含めて初めて使う薬とは限りません。

抗がん剤は、腫瘍の縮小と副作用の状態を見ながら、一定期間後に中止する場合があります。その後も効果が続いていれば、抗HER2薬を維持療法として継続します。抗がん剤を外すことは治療の終了ではなく、しびれや白血球減少などの負担を抑えながら、HER2を標的とする治療を続けるための調整です。

トラスツズマブとペルツズマブには、それぞれを点滴する方法のほか、両剤を一つにまとめた皮下注射製剤もあります。皮下注射製剤は抗体の働きが異なる治療ではなく、投与方法を簡略化したものです。通院時の投与時間や患者さんの希望、施設の体制を踏まえて選択します。

ホルモン受容体が陽性の場合

HER2陽性乳がんの中にも、ホルモン受容体陽性の患者さんがいます。この場合は、抗HER2療法に加え、内分泌療法を利用できる可能性があります。

腫瘍を早く縮小させる必要がある時期には、抗HER2薬と抗がん剤を組み合わせる治療が中心です。抗がん剤を終了した後の維持療法として、抗HER2薬と内分泌療法を続けることがあります。

病気の進行が緩やかで抗がん剤による負担を避けたい患者さんでは、抗HER2薬と内分泌療法を組み合わせる方法が検討される場合もあります。ただし、肝臓や肺の機能が急速に悪化している場合には、縮小効果を優先するため、抗がん剤を含む治療が必要です。

HER2陽性乳がんの二次治療

一次治療後に病気が進行した場合には、トラスツズマブ デルクステカンという抗体薬物複合体が重要な治療候補になります。HER2へ結合する抗体に抗がん剤成分をつなぎ、がん細胞へ薬を届ける仕組みを持っています。

2026年7月時点の国内電子添文では、化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能または再発乳がんが対象とされ、トラスツズマブとタキサン系抗がん剤の治療歴がない患者に対する有効性と安全性は確立していないと記載されています。そのため、国内では過去の治療歴を確認したうえで使用します。

この薬では、吐き気、倦怠感、食欲低下、脱毛、白血球や赤血球の減少などがみられます。なかでも特に注意が必要なのが間質性肺疾患です。初期には、乾いた咳、息切れ、発熱、酸素飽和度の低下などが現れます。症状が軽くても、次の診察日まで様子を見るのではなく、速やかに治療施設へ連絡する必要があります。

国内電子添文では、治療開始前に胸部CTと問診を行い、治療中も症状や画像を確認することが求められています。間質性肺疾患は重症化すると命に関わるため、早い段階で薬を中止し、必要な治療を開始することが重要です。

参考:PMDA「エンハーツ(一般名:トラスツズマブ デルクステカン)点滴静注用100mg 電子添文」

トラスツズマブ デルクステカン後の治療候補

トラスツズマブ デルクステカンの効果が弱くなった場合にも、過去の治療歴や脳転移の有無に応じて、別の抗HER2療法を検討します。

2026年には日本でも、ツカチニブ、トラスツズマブ、カペシタビンを組み合わせる治療が使用できるようになりました。ツカチニブはHER2の細胞内の働きを抑える内服薬で、国内では「化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能または再発乳がん」が適応です。単独では使用せず、トラスツズマブとカペシタビンを併用します。

ツカチニブを含む治療は、脳転移のある患者さんでも候補になります。脳転移を手術や放射線治療で局所的に抑える必要があるかを確認しながら、脳以外の病変を含めた全身治療を組み立てます。

副作用としては、下痢、肝機能障害、カペシタビンによる手足症候群などへ注意が必要です。ツカチニブにはほかの薬の血中濃度へ影響する作用もあるため、処方薬だけでなく、市販薬や健康食品を含めて医師や薬剤師へ伝えます。国内では2026年4月に販売が開始された新しい選択肢であり、使用する順序はそれまでの治療と病状から個別に判断します。

参考:PMDA「ツカイザ錠(一般名:ツカチニブ エタノール付加物)50mg/150mg 適正使用ガイド」

このほか、トラスツズマブ エムタンシンと呼ばれる別の抗体薬物複合体や、抗HER2薬とほかの抗がん剤を組み合わせる方法などがあります。トラスツズマブ デルクステカンを使用できない場合や、副作用、過去の治療歴によっては、より早い段階で候補になることもあります。ESMOのガイドラインでも、トラスツズマブ デルクステカンを使用できない場合には、トラスツズマブ エムタンシンを二次治療の選択肢としています。

参考:ESMO Living Guideline「HER2-positive Metastatic Breast Cancer」

脳転移がある場合

HER2陽性乳がんでは、治療経過中に脳転移が問題となることがあります。脳転移が見つかったからといって、全身の薬物療法をすべて中止するとは限りません。

頭痛、麻痺、けいれんなどの症状がある場合や、大きな病変によって脳が圧迫されている場合には、手術や定位放射線治療などの局所治療を優先します。脳以外の病変が現在の薬で抑えられていれば、脳転移だけを局所治療し、同じ全身治療を続けることもあります。ESMOも、局所治療が必要な活動性脳転移では手術や放射線治療を検討し、脳以外で進行していなければ現在の全身治療を続ける考え方を示しています。

脳転移が複数ある場合や、局所治療後にも病変が進行する場合には、脳内の病変にも効果を期待できる抗HER2療法を選びます。トラスツズマブ デルクステカンやツカチニブを含む治療などが候補になりますが、病変の大きさ、症状、過去の放射線治療、脳以外の病状を含めて判断します。

脳転移の詳しい治療については、後の「脳転移・肝転移・肺転移への治療」の章で解説します。

抗HER2療法では心機能を確認

トラスツズマブやペルツズマブなどの抗HER2薬は、心臓が血液を送り出す機能を低下させることがあります。そのため、治療前と治療中に心臓超音波検査などを行い、左室駆出率と呼ばれる心機能の指標を確認します。

心機能が低下しても自覚症状がない場合があります。動いたときの息切れ、むくみ、急な体重増加、横になると息苦しいといった症状があれば、心不全の可能性もあるため医療者へ伝えます。

心機能が低下した場合には、抗HER2薬を一時的に休み、循環器内科と連携して治療を行うことがあります。数値が回復すれば再開できる場合もあり、心機能の変化だけで抗HER2療法を永久に中止するとは限りません。

副作用の調整について

HER2陽性乳がんでは、抗HER2療法を長期間続けることがあります。そのため、腫瘍の縮小効果だけでなく、毎日の生活へ与える負担も考える必要があります。

点滴日の吐き気や倦怠感、下痢、しびれ、脱毛、皮膚症状などが仕事や家事へ影響することがあります。薬によっては、抗がん剤だけを終了して抗HER2薬を継続したり、投与量を減らしたり、治療間隔を調整したりできます。

副作用を医師へ伝えることは、治療を中止するためではありません。症状が軽いうちに対応することで、効果のある治療を継続しやすくなります。診察では、検査結果だけでなく、食事、睡眠、仕事、外出がどの程度できているかも伝えることが大切です。

一次治療の選択肢は今後変わる可能性がある

HER2陽性乳がんの治療は変化が速く、一次治療や二次治療の位置付けが今後変わる可能性があります。

トラスツズマブ デルクステカンとペルツズマブを組み合わせ、HER2陽性の進行・転移性乳がんへ一次治療から使用する方法も開発されています。日本では2025年10月に適応追加の申請が行われましたが、2026年7月時点の国内電子添文には、一次治療としての適応は記載されていません。したがって、海外の承認情報や臨床試験の結果だけを見て、日本でもすでに保険診療として受けられると判断しないことが重要です。

参考:第一三共「トラスツズマブ デルクステカン+ペルツズマブの国内一部変更承認申請」

HER2陽性乳がんでは、最初の抗HER2療法が効かなくなっても、抗体薬物複合体や内服のHER2阻害薬など、異なる仕組みを持つ治療へ進める可能性があります。過去に使った薬、脳転移、心臓や肺の状態、副作用を確認しながら、抗HER2療法を途切れさせずに次の治療を組み立てていくことが基本です。

HER2-low/HER2-ultralow乳がんの治療

乳がんは長く、HER2を多く発現する「HER2陽性」と、それ以外の「HER2陰性」に分けて治療されてきました。しかし現在は、HER2陽性には該当しなくても、がん細胞の表面に少量のHER2が確認される患者さんに対し、HER2を目印とする抗体薬物複合体を使用できる場合があります。

この治療選択に使われる分類が「HER2-low(HER2低発現)」と「HER2-ultralow(HER2超低発現)」です。HER2陽性乳がんとは使用する薬の順序や治療の考え方が異なり、ホルモン受容体の状態や過去の治療歴を含めて適応を判断します。

HER2の検査結果

HER2は、乳がん組織を免疫染色するIHC検査で、がん細胞の表面にタンパク質がどの程度発現しているかを調べます。結果は主に0、1+、2+、3+で示され、2+の場合にはISH検査を追加してHER2遺伝子の増幅を確認します。

HER2検査の結果 一般的な分類  治療上の主な意味
IHC 3+  HER2陽性 HER2陽性乳がんとして抗HER2療法を行う
IHC 2+かつISH陽性 HER2陽性 HER2陽性乳がんとして抗HER2療法を行う
IHC 1+、またはIHC 2+かつISH陰性 HER2-low 条件を満たせば抗HER2抗体薬物複合体が候補になる
IHC 0のうち、ごく弱い不完全な膜染色がある HER2-ultralow ホルモン受容体陽性などの条件を満たせば治療候補になる
IHC 0で膜染色が確認されない HER2発現なし HER2-low/ultralowを対象とする治療の対象にはならない

参考:HER2病理診断ガイドライン|一般社団法人日本乳癌学会

HER2-lowは、IHC 1+またはIHC 2+かつISH陰性と定義されます。HER2-ultralowはIHC 0に分類される中でも、腫瘍細胞の一部にごく弱い膜染色が確認される状態です。日本の電子添文では、HER2-ultralowについて「腫瘍細胞の10%以下に、かすかな、またはかろうじて認識できる不完全な膜染色がある状態」とされています。

HER2-lowはHER2陽性乳がんと同じ病気ではない

HER2-lowやHER2-ultralowという言葉から、「HER2陽性乳がんの軽いタイプ」と考える人もいるかもしれません。しかし、これらは従来のHER2陽性乳がんとは異なります。

HER2陽性乳がんでは、HER2ががん細胞の増殖を強く促すため、トラスツズマブやペルツズマブなど、HER2の働きを抑える治療が中心になります。一方、HER2-lowやHER2-ultralowでは、HER2そのものが病気を大きく動かしているとは限りません。

この分類は、HER2をがん細胞へ薬を届けるための「目印」として利用できるかを判断する意味が強いものです。そのため、HER2-lowやHER2-ultralowを独立した乳がんのサブタイプとして治療するのではなく、ホルモン受容体陽性かトリプルネガティブかという従来の分類を保ったまま、追加の治療候補を検討します。ESMOもHER2-lowを、従来のサブタイプ分類とは別に、抗体薬物複合体の効果を予測するための治療上の指標として位置付けています。

参考:ESMO「Definition, Diagnosis and Management of HER2-low Breast Cancer」

HER2を目印に抗がん剤成分を届ける

HER2-low/ultralow乳がんで使われる代表的な薬が、トラスツズマブ デルクステカンです。この薬は、HER2へ結合する抗体と、強い抗がん剤成分を一つにつないだ抗体薬物複合体です。

抗体部分がHER2を持つがん細胞へ結合すると、薬が細胞内へ取り込まれ、内部で抗がん剤成分が放出されます。HER2の発現量がHER2陽性乳がんほど多くなくても、わずかなHER2を目印として薬を届けられることが、この治療の特徴です。

通常の抗HER2抗体薬とは役割が異なり、HER2の信号を抑えることだけが目的ではありません。抗がん剤成分を腫瘍へ運ぶ仕組みを持つため、吐き気、骨髄抑制、脱毛など、抗がん剤に近い副作用もみられます。

参考:PMDA「エンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)適正使用ガイド」

エンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)の適応拡大

日本では2025年8月、ホルモン受容体陽性かつHER2-lowまたはHER2-ultralowの手術不能・再発乳がんに対し、トラスツズマブ デルクステカンの適応が拡大されました。

承認の根拠となった試験は、転移・再発乳がんに対する内分泌療法を受けた後、抗がん剤への移行が適切と判断された患者さんを対象としています。対象となったのは、主に次のような患者さんです。

  • 内分泌療法を複数受けた後に病気が進行した
  • 内分泌療法とCDK4/6阻害薬を開始して早い段階で進行した
  • 進行・再発乳がんに対する細胞障害性抗がん剤をまだ受けていない
  • ホルモン受容体陽性で、HER2-lowまたはHER2-ultralowが確認されている

これまでは、内分泌療法の効果が乏しくなった後、カペシタビンやタキサン系薬などの抗がん剤へ進むのが一般的でした。現在は条件を満たす患者さんでは、通常の抗がん剤を始める前に、トラスツズマブ デルクステカンを選べる可能性があります。

ただし、内分泌療法が効かなくなったすべての患者さんへ、直ちにこの薬を使用するわけではありません。ESR1、PIK3CA、AKT1、PTENなどに応じた内分泌療法や分子標的薬がまだ候補になる場合もあります。病気の進行速度、転移部位、副作用、これまでの治療を比較して順番を決めます。

臨床試験の結果

適応拡大の根拠となったDESTINY-Breast06試験では、内分泌療法歴があり、進行・再発乳がんに対する抗がん剤治療歴のない、ホルモン受容体陽性のHER2-low/ultralow乳がんが対象となりました。

HER2-lowの患者さんでは、病気が進行せずに過ごせた期間の中央値は、トラスツズマブ デルクステカン群で13.2か月、医師が選択した抗がん剤群で8.1か月でした。HER2-ultralowの患者さんでは、それぞれ13.2か月と8.3か月でした。

ただし、これらの中央値は個人の効果が続く期間を予測する数字ではありません。また、HER2-ultralowはHER2-lowより対象人数が少なく、結果の不確実性が比較的大きい点にも注意が必要です。HER2-ultralowであれば誰にでも同じ効果が得られるという意味ではなく、ホルモン受容体、治療歴、臓器機能などを含めた適応判断が必要です。

抗がん剤治療後のHER2-low乳がんでも候補になる

HER2-low乳がんでは、すでに進行・再発乳がんに対する抗がん剤を受けた患者さんにも、トラスツズマブ デルクステカンが使用されます。この適応には、ホルモン受容体陽性乳がんだけでなく、ホルモン受容体陰性のトリプルネガティブ乳がんの一部も含まれます。

DESTINY-Breast04試験では、1~2種類の抗がん剤治療を受けたHER2-lowの転移性乳がんに対し、トラスツズマブ デルクステカンが従来の抗がん剤より病気が進行するまでの期間と全生存期間を延長しました。ホルモン受容体陽性集団の無増悪生存期間中央値は10.1か月に対し5.4か月、ホルモン受容体陰性例を含む全体では9.9か月に対し5.1か月でした。

一方、HER2-ultralowについては、2026年7月時点の国内適応はホルモン受容体陽性乳がんを対象としています。トリプルネガティブ乳がんでIHC 0のHER2-ultralowが確認されても、それだけを理由に同じ適応で使用できるわけではありません。

検査結果を確認し直す意味

過去の病理報告書に「HER2陰性」とだけ記載されていても、実際にはIHC 1+やIHC 2+かつISH陰性で、HER2-lowに該当している可能性があります。また、IHC 0であっても、ごく弱い膜染色があればHER2-ultralowと評価される場合があります。

そのため、治療候補を検討するときには、単に陽性・陰性だけではなく、次の点を確認します。

  • HER2のIHCスコアはいくつだったか
  • IHC 2+の場合、ISH検査は陽性か陰性か
  • IHC 0の場合、膜染色が全くなかったのか
  • 原発巣と転移巣のどちらを検査したのか
  • 検査を行った時期はいつか

HER2の発現量は、原発巣と転移巣、治療前と治療後で変わることがあります。また、IHC 0と1+の境界は非常にわずかであり、標本の状態や判定によって結果が異なる可能性があります。治療選択へ影響する場合には、保存されている標本の再評価や、可能であれば転移巣の再生検が検討されます。

日本の適正使用ガイドでも、HER2-low/ultralowは、十分な経験を持つ病理医または検査施設で、承認された検査方法によって確認することが求められています。

トラスツズマブ デルクステカンの副作用

間質性肺疾患

トラスツズマブ デルクステカンで最も注意すべき副作用の一つが、間質性肺疾患です。肺の組織に炎症が起こり、重症化すると呼吸不全や死亡につながる可能性があります。

初期に現れやすい症状は、新しく始まった乾いた咳、階段や歩行時の息切れ、発熱、息苦しさ、酸素飽和度の低下などがあり、風邪や体力低下に似た症状であっても自己判断で次の診察まで待たず、治療施設へ連絡する必要があります。

症状のない軽度の肺障害であっても、原則として薬を中断します。症状を伴う場合には投与を中止し、必要に応じてステロイド治療を行います。早く見つけるほど重症化を防ぎやすいため、患者さん本人だけでなく家族も初期症状を知っておくことが大切です。

その他の副作用

トラスツズマブ デルクステカンでは、吐き気、嘔吐、倦怠感、食欲低下、脱毛、白血球や好中球の減少、貧血などがみられます。DESTINY-Breast06試験では、吐き気、疲労、脱毛、好中球減少などが比較的多く報告されました。

通常は3週間に1回の点滴で、初回は90分かけて投与します。問題がなければ、2回目以降は30分まで短縮できる場合があります。吐き気は点滴当日だけでなく、数日続くことがあります。予防的な吐き気止めを使い、食事を少量ずつ分けるなどの対応を行います。倦怠感が強い日を把握しておくと、仕事や外出の予定を調整しやすくなります。

白血球減少時の発熱や悪寒、貧血による息切れや動悸がある場合には、早めの連絡が必要です。副作用が強いときには、休薬や減量によって治療を続けられる場合があります。

HER2-low/ultralow分類の意義

HER2-lowやHER2-ultralowが見つかったからといって、乳がんそのものが軽い、あるいは重いと判断できるわけではありません。また、HER2陽性乳がんへ変化したという意味でもありません。

この分類の意義は、これまでHER2陰性として扱われていた患者さんの中から、HER2を目印とする抗体薬物複合体の効果が期待できる人を見つけられるようになったことです。

ホルモン受容体陽性乳がんでは、内分泌療法や分子標的薬をどこまで使用したか、抗がん剤へ進む時期かどうかを確認します。トリプルネガティブ乳がんでは、PD-L1、BRCA1/2、過去の抗がん剤なども含めて治療の順番を考えます。

病理報告書に「HER2陰性」と書かれている場合でも、IHCの具体的な点数を確認することで、新たな治療候補が見つかることがあります。治療変更を考える段階では、過去の検査結果をもう一度確認し、必要に応じて病理標本の再評価について主治医へ相談することが大切です。

トリプルネガティブ乳がんの治療

トリプルネガティブ乳がんは、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2のいずれも治療標的にならない乳がんです。ホルモン受容体陽性乳がんに使う内分泌療法や、HER2陽性乳がんに使う一般的な抗HER2療法は効果を期待できないため、抗がん剤を基本として治療を組み立てます。

ただし、トリプルネガティブ乳がんだから全員が同じ薬を受けるわけではありません。PD-L1の発現、生まれつき持っているBRCA1/2遺伝子の病的な変化、HER2のわずかな発現、過去に使用した抗がん剤などを確認することで、免疫チェックポイント阻害薬、PARP阻害薬、抗体薬物複合体を使用できる場合があります。治療を始める前に必要な検査を済ませておくことが、選択肢を狭めないために欠かせません。

参考:ESMO Living Guideline「Triple-negative Breast Cancer」

PD-L1検査

手術不能または再発したトリプルネガティブ乳がんでは、PD-L1検査が最初の治療を選ぶうえで大きな意味を持ちます。日本では、PD-L1の発現を示すCPSが10以上で、転移・再発乳がんに対する全身薬物療法をまだ受けていない患者さんに対し、免疫チェックポイント阻害薬のペムブロリズマブと抗がん剤の併用が検討されます。

併用する抗がん剤には、パクリタキセル、nab-パクリタキセル、ゲムシタビンとカルボプラチンなどがあり、過去の治療歴や副作用、病状に応じて選びます。

承認の根拠となったKEYNOTE-355試験では、CPSが10以上の患者さんにおいて、病気が進行せずに過ごせた期間の中央値は、ペムブロリズマブと抗がん剤を併用した群で9.7か月、抗がん剤だけの群で5.6か月でした。この数字は個人に効果が続く期間を示すものではありませんが、PD-L1の条件を満たす患者さんでは、抗がん剤へ免疫療法を加える意義が示されています。

参考:KEYNOTE-355試験 トリプルネガティブ乳癌 | MSD Connect

PD-L1検査では、がん細胞だけでなく周囲の免疫細胞に現れているPD-L1も含めてCPSを計算します。CPSが10未満であれば、転移性トリプルネガティブ乳がんに対するペムブロリズマブと抗がん剤の併用対象にはなりません。また、過去の早期乳がん治療でペムブロリズマブを使用していた場合は、治療終了から再発までの期間なども考慮する必要があります。

免疫療法の注意点

ペムブロリズマブは、免疫細胞にかかっているブレーキを解除し、がん細胞を攻撃しやすくする薬です。そのため、白血球減少や脱毛といった併用抗がん剤の副作用に加え、活性化した免疫が正常な臓器を攻撃する「免疫関連副作用」が起こることがあります。

たとえば、甲状腺や副腎の機能が低下すると、強い倦怠感や食欲低下、寒がり、めまいなどが現れます。肺に炎症が起きれば、咳や息切れ、発熱がみられ、腸に炎症が起きると下痢や腹痛が続くことがあります。肝機能障害や、急激に血糖値が上がる1型糖尿病が起こる可能性もあります。

症状が治療直後に現れるとは限らず、数週間から数か月たってから、あるいはペムブロリズマブを中止した後に出ることもあります。風邪や疲労に見える変化でも、免疫療法を受けていることを伝えたうえで治療施設へ相談する必要があります。副作用が疑われる場合には、投与を休み、免疫反応を抑えるステロイドなどを使用します。早く対処できれば回復する場合がありますが、我慢して重症化すると治療の継続だけでなく臓器機能にも影響します。

参考:PMDA「キイトルーダ(一般名:ペムブロリズマブ)電子添文」

PD-L1陰性の場合

PD-L1の条件を満たさない場合や、免疫療法を使用しにくい持病がある場合には、抗がん剤が治療の中心です。乳がんの治療では、病状を早く抑える必要がある場合を除き、複数の抗がん剤を一度に使用するよりも、一剤ずつ使用して効果と副作用のバランスを取ることが多くなります。

選択される薬には、タキサン系薬、カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、ビノレルビンなどがあります。プラチナ製剤を使用することもあり、病気が急速に進んでいる場合には、ゲムシタビンとカルボプラチンなど複数の薬を組み合わせて、腫瘍の縮小を優先することがあります。

どの薬を選ぶかは、以前の術前・術後治療で何を使用したか、その治療から再発までどれくらいの期間が空いているかによって変わります。過去のパクリタキセルで強いしびれが残っていれば、再び末梢神経障害を起こしやすい薬を避けることがあります。内服薬を希望していても、食事が取れない、下痢が続いている、肝機能が大きく低下しているといった状態では、別の治療が適する場合があります。

抗がん剤を選ぶ際には、腫瘍がどれほど縮む可能性があるかだけでなく、脱毛、しびれ、下痢、口内炎、血球減少などが仕事や食事、外出へどの程度影響するかも確認します。治療効果が同程度と考えられる薬が複数ある場合には、通院回数や投与方法を含め、生活に合わせて選択できます。

BRCA1/BRCA2遺伝子の病的な変化

トリプルネガティブ乳がんの患者さんでは、生まれつき持っているBRCA1またはBRCA2遺伝子の病的な変化が見つかることがあります。BRCA1/BRCA2は、傷ついたDNAを修復する働きに関係する遺伝子です。この働きが低下しているがん細胞に対しては、別のDNA修復経路を妨げるPARP阻害薬が効果を示す場合があります。

日本では、がん化学療法歴があり、生殖細胞系列のBRCA遺伝子変異が確認されたHER2陰性の手術不能・再発乳がんに対し、オラパリブやタラゾパリブが治療候補になります。ホルモン受容体の有無を問わないため、条件を満たすトリプルネガティブ乳がんにも使用できます。

オラパリブ・タラゾパリブの副作用

どちらも内服薬ですが、負担が軽い治療とは限りません。とくに貧血、好中球減少、血小板減少などの骨髄抑制が起こりやすく、強い倦怠感や息切れが貧血のサインになることがあります。定期的に血液検査を行い、必要に応じて休薬や減量を行います。

BRCA1/2の遺伝学的検査は、使用できる薬を調べるだけの検査ではありません。生まれつきの病的な変化が確認された場合、本人の卵巣がんなどのリスクや、子ども、きょうだい、親など血縁者の健康管理にも関係する可能性があります。検査を受ける前後には、結果をどこまで知りたいか、家族へどのように伝えるかも含めて、遺伝カウンセリングを受けることがあります。

参考:PMDA「リムパーザ(一般名:オラパリブ)電子添文」
参考:PMDA「ターゼナ(一般名:タラゾパリブ)電子添文」

抗体薬物複合体

サシツズマブ ゴビテカンは、TROP-2というがん細胞の表面にあるタンパク質を目印として、抗がん剤成分を届ける抗体薬物複合体です。日本では、化学療法歴のあるホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能・再発乳がんに使用できます。

この薬は21日間を一つのサイクルとして、1日目と8日目に点滴します。毎週通院する週と休薬する週が生じるため、仕事や家族の予定を調整する際には、投与日だけでなく副作用が出やすい時期も確認しておく必要があります。

サシツズマブ ゴビテカンの副作用

特に注意する副作用は、好中球減少と下痢です。好中球が大きく減った状態で発熱すると、重い感染症につながる可能性があります。38度前後の発熱や悪寒、強いだるさがあれば、解熱薬だけで様子を見ずに治療施設へ連絡します。下痢が続けば、水分や電解質が失われ、脱水や腎機能低下を起こすことがあります。

回数が増えた段階で下痢止めの使用方法を確認し、水分を取れない、尿が少ない、立ちくらみがするといった変化があれば早めの受診が必要です。脱毛や吐き気、倦怠感も比較的みられ、生活への負担に応じて休薬や減量を行います。

参考:PMDA「トロデルビ(一般名:サシツズマブ ゴビテカン)電子添文」

HER2-lowの治療候補

トリプルネガティブ乳がんの中にも、HER2検査がIHC 1+、またはIHC 2+かつISH陰性となるHER2-lowの患者さんがいます。化学療法歴などの条件を満たせば、トラスツズマブ デルクステカンが治療候補になる場合があります。

この治療はHER2陽性乳がんだけのものではなく、少量のHER2を抗がん剤成分の届け先として利用します。ただし、HER2-lowであれば必ずサシツズマブ ゴビテカンより先に使用するという決まりではありません。過去の治療、腫瘍の進行速度、脳転移、肺の状態、予想される副作用などを比較して順番を決めます。

トラスツズマブ デルクステカンでは間質性肺疾患が治療判断に大きく関わります。新しい咳や息切れ、発熱が現れた場合には、風邪だと自己判断せず治療施設へ連絡します。もともと肺に病気がある患者さんや、過去に薬剤性肺障害を起こした患者さんでは、使用の可否をより慎重に検討します。

一方、HER2-ultralowについては、2026年7月時点の国内適応は主にホルモン受容体陽性乳がんを対象としており、トリプルネガティブ乳がんでごく弱いHER2発現があるだけでは、同じ条件で使用できるとは限りません。病理報告書の「HER2陰性」という記載だけで判断せず、IHCスコアと現在の国内適応を確認する必要があります。

参考:PMDA「エンハーツ(一般名:トラスツズマブ デルクステカン)電子添文」

治療の順番は一つに固定されていない

トリプルネガティブ乳がんでは、ホルモン受容体陽性乳がんのように、内分泌療法を何段階も順番に使用することはできません。一方で、PD-L1陽性であれば免疫療法、生殖細胞系列BRCA1/2病的バリアントがあればPARP阻害薬、HER2-lowであれば特定の抗体薬物複合体というように、検査結果によって治療の道筋が分かれます。

最初の治療が効かなくなったときには、病気が全身で進行しているのか、一部の転移だけが進行しているのかを確認します。脳や骨の一部だけが進行している場合には、放射線治療などを追加し、全身では効果が続いている薬を維持できることもあります。複数の臓器で進行していれば、未使用の抗がん剤、PARP阻害薬、抗体薬物複合体などへ切り替えます。

治療効果を追求するだけでなく、その治療を受けることで食事や睡眠、仕事、外出をどの程度保てるかも判断材料です。副作用が強い治療を短期間だけ続けるより、減量しながら長く続ける方が適する場合もあります。検査で使用可能と分かった薬をすべて使うのではなく、現在の病状に対して利益が見込める順番を考えることが、ステージ4の治療では求められます。

乳がんステージ4の抗がん剤治療

乳がんステージ4では、サブタイプや病状に応じて抗がん剤を使用します。トリプルネガティブ乳がんでは治療の中心となり、HER2陽性乳がんでは抗HER2薬と組み合わせます。ホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がんでも、内分泌療法や分子標的薬の効果が乏しくなった場合や、肝臓・肺などの機能を守るために腫瘍を早く縮小させる必要がある場合には、抗がん剤が候補になります。

抗がん剤を始めることは、治療の選択肢がほとんど残っていないという意味ではありません。ステージ4乳がんでは、効果と副作用を確認しながら、作用の異なる薬を順番に使用します。現在の薬が効きにくくなった場合にも、未使用の抗がん剤、抗体薬物複合体、分子標的薬などへ進めることがあります。

なお、トラスツズマブ デルクステカンやサシツズマブ ゴビテカンなどの抗体薬物複合体も、がん細胞へ抗がん剤成分を届ける治療です。ただし、使用条件や特有の副作用が異なるため、本章の一覧には含めず、各サブタイプの章で解説しています。

乳がんステージ4で使われる主な抗がん剤

薬剤・薬剤群 主に検討される場面 投与上の主な特徴 注意したい副作用と生活への影響
 タキサン系薬(パクリタキセル、ドセタキセル、nab-パクリタキセル) トリプルネガティブ乳がん、抗HER2薬との併用、腫瘍の縮小を早く得たい場合など 点滴で使用し、毎週または数週間ごとなど治療法によって間隔が異なる 手足のしびれ、白血球減少、脱毛など。しびれが進むと、箸を使う、ボタンを留める、歩くといった動作へ影響する。ドセタキセルでは浮腫にも注意する
カペシタビン 通院点滴の負担を抑えたい場合、複数の治療後、ほかの薬との併用など 自宅で服用する内服薬。服用期間と休薬期間を繰り返す 手足症候群、下痢、口内炎、骨髄抑制など。手足の痛みや皮膚の亀裂により、家事や歩行が難しくなることがある
エリブリン タキサン系薬やアントラサイクリン系薬などの治療後を含む進行・再発乳がん 一定の間隔で点滴し、休薬期間を設ける 好中球減少、倦怠感、脱毛、食欲低下、しびれなど。発熱時には感染症を疑って早めに連絡する
ビノレルビン・ゲムシタビン 過去の治療歴や残っている副作用に応じて選択 単剤で使う場合と、ほかの薬と組み合わせる場合がある 白血球減少、貧血、倦怠感、吐き気など。投与日や休薬期間は治療法によって異なる
アントラサイクリン系薬(ドキソルビシン、エピルビシンなど) 過去に使用していない場合や、再使用による利益が期待できる場合 点滴で使用し、生涯に投与できる総量を考慮する 骨髄抑制、吐き気、脱毛、心機能低下など。過去の投与量と心臓の状態を確認する必要がある
プラチナ製剤(カルボプラチンなど) トリプルネガティブ乳がん、免疫療法との併用、腫瘍の縮小を優先する場合など ほかの抗がん剤と組み合わせることがある 血球減少、吐き気、腎機能への影響など。併用薬によって副作用の出方や強さが変わる

表は代表的な特徴をまとめたものであり、実際の投与方法や副作用は、薬の組み合わせ、投与量、患者さんの臓器機能によって変わります。タキサン系薬では末梢神経障害、カペシタビンでは日常生活を制限する手足症候群、ドセタキセルでは骨髄抑制や浮腫、エリブリンでは血球減少などが治療継続の判断に関わります。

病状が安定している場合

乳がんステージ4の抗がん剤治療では、病気の進行が比較的緩やかで、臓器機能も保たれている場合、一種類の薬を使用する単剤治療が選ばれることが多くあります。

複数の抗がん剤を組み合わせると、腫瘍が縮小する割合や縮小までの速さが高まる場合があります。一方で、副作用も強くなりやすく、単剤を順番に使用する場合より生存期間が明確に延びるとは限りません。そのため、併用療法は、病気が短期間で進行している場合や、肝臓・肺などの機能が差し迫って悪化し、腫瘍を早く小さくする必要がある場合を中心に検討します。

たとえば、肝臓に転移があるという理由だけで、必ず複数の抗がん剤を使用するわけではありません。黄疸や肝機能低下が急速に進んでいるのか、画像上は転移があっても臓器機能が安定しているのかによって、必要な治療の強さは異なります。

抗がん剤の選び方

抗がん剤を選ぶ際には、乳がんのサブタイプだけでなく、術前・術後治療を含めて過去にどの薬を使ったかを確認します。同じ薬でも、治療終了から長い期間が空いていれば再使用できる場合がありますが、治療中や終了直後に再発した場合には、別の作用を持つ薬が優先されることがあります。

以前の治療によるしびれが残っていれば、タキサン系薬を追加すると手の細かな作業や歩行がさらに難しくなる可能性があります。アントラサイクリン系薬を過去に使用していれば、それまでの総投与量と心機能を確認します。腎機能が低下している場合や、骨髄の回復が遅い場合にも、使用できる薬や投与量が限られることがあります。治療法は、病気の進行速度、持病、過去の副作用、本人の希望を含めて選択します。

内服薬であるカペシタビンは、通院点滴の時間を減らせる利点がありますが、副作用が軽いとは限りません。自宅で服用するため、決められた服用期間を管理し、症状が強くなったときには自分で休薬の必要性を判断せず、治療施設へ連絡することが大切です。カペシタビンの電子添文では、手足症候群が日常生活を制限する程度に応じて評価され、症状に合わせた休薬や減量が定められています。

参考:PMDA「カペシタビン錠 電子添文」

副作用への対処について

抗がん剤の副作用は、点滴や服薬をした当日にすべて現れるわけではありません。吐き気やだるさが数日後に強くなることもあれば、白血球は治療後しばらくしてから減少します。しびれや倦怠感は、治療を重ねるうちに少しずつ蓄積する場合があります。

仕事や家事を続ける場合には、治療日だけでなく、何日目に体調が悪くなり、いつ頃回復するのかを記録すると予定を立てやすくなります。診察では医師に「しびれがあります」と伝えるだけでなく、箸を落とすようになった、ボタンを留めにくい、足の裏の感覚が弱く階段が怖いなど、困っている動作を具体的に説明すると、減量や薬剤変更の必要性を判断しやすくなります。

脱毛、爪の変化、皮膚の乾燥なども、命に直接関わる副作用ではないからと我慢する必要はありません。外出や仕事、人との交流へ影響している場合には、ウィッグ、帽子、爪や皮膚のケアなど、治療前から対策を相談できます。

特に注意すべき兆候

好中球が減少している時期の発熱は、重い感染症の兆候である可能性があります。治療施設から示された体温の基準を超えた場合や、悪寒を伴う場合には、市販の解熱薬だけで様子を見ずに連絡します。

下痢や嘔吐が続き、水分を取れない、尿が極端に少ない、立ち上がるとふらつくといった状態では、脱水や腎機能低下が進んでいる可能性があります。口内炎によって食事が取れない場合や、手足症候群によって歩行が難しくなった場合も、服薬を続けながら次の外来を待つのではなく、休薬が必要かを確認します。

新しい息切れ、むくみ、短期間での体重増加がある場合には、貧血だけでなく、心機能低下や体液貯留が関係していることもあります。特にアントラサイクリン系薬やドセタキセルなどを使用している場合は、症状を早めに伝える必要があります。

減量や休薬は治療の失敗ではない

抗がん剤は、最初に決めた量を変えずに続けることだけが正しい治療ではありません。副作用が強ければ、投与量を減らす、一時的に休む、投与間隔を延ばす、別の薬へ変更するといった調整を行います。

減量によって腫瘍への効果がなくなるとは一概にいえません。副作用を我慢して食事や睡眠が保てなくなり、体力や臓器機能が低下すれば、現在の治療だけでなく、その後の治療も受けにくくなります。治療効果と日常生活の両方を確認し、継続できる量へ調整することが、長期にわたるステージ4乳がんの治療では重要です。

画像検査で腫瘍が完全に消えていなくても、大きくならず、症状や臓器機能が安定していれば、現在の治療を続ける意味があります。反対に、腫瘍が縮小していても、副作用によってほとんど食事が取れない、外出できない、転倒するほど足の感覚が低下している場合には、治療の利益と負担を見直さなければなりません。

乳がんステージ4の抗がん剤治療では、薬の強さだけでなく、何を目的として使うのか、どの副作用なら受け入れられるのか、生活をどの程度維持できるのかを考えます。候補となる薬を比較しながら、その時点の病状と本人の希望に合う治療を選び、必要に応じて量や投与方法を調整していきます。

乳がんの骨転移に対する治療

骨は、乳がんが遠隔転移しやすい部位の一つです。乳がんが骨へ転移した場合も、骨から発生した「骨がん」へ変わったわけではなく、乳がん細胞が骨の中で増殖している状態です。そのため、治療の基本は乳がんのサブタイプに応じた内分泌療法、抗HER2療法、抗がん剤などの全身薬物療法になります。そのうえで、痛みや骨折、神経の圧迫を防ぐために、骨修飾薬、放射線治療、手術などを組み合わせます。

骨転移が見つかっても、直ちに歩けなくなったり、すぐに命へ関わったりするとは限りません。一方で、病変の位置や骨の壊れ方によっては、骨折や脊髄圧迫などを突然起こすことがあります。痛みが軽い段階でも画像を確認し、どの骨にどの程度の負担がかかっているのかを評価することが大切です。

骨転移による痛み

骨転移による痛みは、背中、腰、骨盤、肋骨、腕、脚などに現れます。初期には体を動かしたときだけ痛む場合がありますが、進行すると安静時や夜間にも痛みが続き、睡眠や歩行へ影響することがあります。これまでなかった場所に痛みが続く場合や、鎮痛薬を使っても強くなる場合には、次回の定期診察まで我慢せずに伝える必要があります。

痛みの強さと画像上の病変の大きさが必ず一致するわけではありません。小さな病変でも体重のかかる大腿骨や脊椎にあれば生活への影響が大きくなり、広い骨転移があっても痛みが少ないこともあります。治療を考える際には、画像だけでなく、歩行、寝返り、着替え、階段の上り下りなど、具体的にどの動作が難しくなっているかを確認します。

骨折する前に手術が必要になることも

骨転移によって骨の強度が低下すると、転倒していなくても骨折する病的骨折を起こすことがあります。特に大腿骨など体重を支える骨では、骨折後に手術を行うよりも、骨折する危険が高い段階で金属製の器具などを使って補強した方が、歩行能力を保ちやすい場合があります。

痛みがあるからといって、運動をすべて中止する必要があるとは限りません。ただし、骨折リスクが高い場所へ自己判断で強い負荷をかけるのは危険です。整形外科やリハビリテーション科が画像を確認し、体重をかけてよい範囲や、杖・歩行器の必要性、安全に行える運動を判断します。

薬物療法でがんを抑えることと、骨を物理的に補強することは役割が異なります。抗がん治療が効く可能性があっても、骨折の危険が差し迫っていれば、手術や放射線治療を先に行うことがあります。

足の脱力や排尿障害は脊髄圧迫の可能性

脊椎の転移が大きくなったり、転移によって背骨がつぶれたりすると、脊髄や神経が圧迫されることがあります。脊髄圧迫では、背中や腰の痛みに続いて、脚のしびれ、力の入りにくさ、歩行の不安定さ、感覚の低下などが現れ、進行すると排尿や排便を自分で調節できなくなる場合があります。

こうした神経症状は、数日待って次の外来で相談するものではありません。圧迫が長く続くほど、治療後も麻痺や排尿障害が残る可能性があるため、突然歩きにくくなった、両脚に力が入らない、股の周囲の感覚がおかしい、尿が出にくいといった変化があれば、速やかに治療施設へ連絡します。

検査では緊急にMRIなどを行い、ステロイド薬、手術、放射線治療を組み合わせます。どの治療を優先するかは、圧迫の原因、背骨の安定性、神経症状の進み方、全身の病状によって異なります。

骨修飾薬の併用について

骨転移がある患者さんでは、がん細胞によって骨が壊される働きを抑える骨修飾薬が使われます。代表的な薬には、皮下注射で投与するデノスマブと、点滴で投与するゾレドロン酸があります。これらの薬は、乳がんそのものを全身から消す薬ではなく、病的骨折、脊髄圧迫、骨病変への放射線治療や手術が必要になる事態を減らす目的で、乳がんへの薬物療法と併用します。

骨修飾薬の副作用

デノスマブでは、血液中のカルシウムが低下することがあります。PMDAの電子添文では、投与前と投与後にカルシウムなどを確認し、原則としてカルシウムとビタミンDを補充しながら使用することが求められています。手足や口の周囲のしびれ、筋肉のけいれん、強い倦怠感などが現れた場合には、低カルシウム血症の可能性もあるため、医療者へ連絡します。特に腎機能が大きく低下している患者さんでは、慎重な管理が必要です。

ゾレドロン酸では、投与前後の腎機能の確認が欠かせません。腎機能が低下している場合には投与量を調整し、治療中に悪化した場合には休薬などを検討します。点滴後に発熱、筋肉痛、関節痛など、インフルエンザに似た症状が一時的に現れることもあります。

参考:PMDA「ランマーク(一般名:デノスマブ)電子添文」
参考:PMDA「ゾレドロン酸点滴静注 電子添文」

骨修飾薬を始める前には歯科受診を行う

デノスマブやゾレドロン酸では、まれではあるものの、あごの骨が壊死したり感染を起こしたりする薬剤関連顎骨壊死・顎骨骨髄炎が問題になることがあります。特に、むし歯や歯周病がある状態で抜歯などの処置を受けると、発症リスクが高まります。PMDAでは、治療開始前に必要な歯科治療を済ませ、治療中も定期的な歯科受診と口腔ケアを続けることを勧めています。

骨修飾薬を使っている間に歯科治療が必要になった場合も、自己判断で薬を中止したり、乳がんの担当医へ伝えずに抜歯を受けたりしてはいけません。歯科医師には骨転移の治療薬を使用していることを伝え、乳腺科と歯科で処置の時期や方法を相談します。

歯やあごの痛み、歯茎の腫れ、歯のぐらつき、抜歯した場所が治りにくい、歯茎から膿や骨のような硬いものが出るといった変化は、顎骨壊死・骨髄炎の兆候となることがあります。放置せず、早い段階で歯科医師と治療担当医へ相談します。

参考:PMDA「薬剤関連顎骨壊死・顎骨骨髄炎」

放射線治療が有効な場合

痛みのある骨転移には、放射線治療が有効な場合があります。放射線を病変へ当てることで腫瘍を局所的に抑え、痛みを軽減します。照射回数は一律ではなく、1回で終える方法と、数回から複数回に分ける方法があります。病変の位置、骨折リスク、過去の照射歴、全身状態、通院の負担などから決めます。NCIは、骨転移による痛みに対し、1回照射でも複数回照射と同程度の鎮痛効果が得られる場合があると紹介しています。

放射線治療を受けても、痛みがその日のうちに消えるとは限りません。効果が現れるまでに時間がかかることがあるため、鎮痛薬を併用します。照射直後に一時的に痛みが強くなる場合もあり、事前に対応方法を確認しておく必要があります。

定位放射線治療のように病変へ高い線量を集中させる方法が検討されることもありますが、すべての骨転移へ適するわけではありません。脊髄との距離、骨の安定性、病変数、これまでの放射線治療などを評価して選びます。

参考:National Cancer Institute「Radiation for Controlling Pain from Bone Metastases」

高カルシウム血症に注意

骨が広い範囲で壊されると、骨の中のカルシウムが血液中へ流れ出し、高カルシウム血症を起こすことがあります。初期には口が渇く、尿の量が増える、便秘になる、食欲が落ちる、吐き気がするといった変化がみられます。進行すると、強い眠気、意識の混乱、脱水、腎機能低下などを起こし、緊急の治療が必要になります。

体調不良や抗がん剤の副作用と区別しにくい症状ですが、水分を取れないほどの吐き気、急に反応が鈍くなった、会話がかみ合わないといった変化がある場合は、早急に受診します。治療では点滴による補液を行い、病状に応じて骨吸収を抑える薬などを使用します。

痛みを我慢せず、生活を保てる治療を組み合わせる

骨転移の治療では、画像上の病変を小さくすることだけでなく、痛みを抑え、歩行や睡眠を保ち、骨折や麻痺を防ぐことが重要です。鎮痛薬を使用することは、病気が最終段階に入ったという意味ではありません。痛みを抑えることで体を動かしやすくなり、筋力や食欲を保ちやすくなる場合があります。

痛み止めを使っても夜に眠れない、動くたびに鋭い痛みがある、急に歩きにくくなったといった変化は、薬の量を増やすだけでなく、骨折や神経圧迫が起きていないかを確認するきっかけになります。乳腺科だけでなく、放射線治療科、整形外科、歯科、緩和ケア、リハビリテーション科が連携することで、抗がん治療と日常生活の両方を支えます。

骨転移がある患者さん全員に、同じ行動制限が必要なわけではありません。安全な範囲で体を動かすことは、筋力や移動能力を保つうえで役立ちます。どこまで体重をかけてよいか、避けるべき動作があるかを画像に基づいて確認し、過度に安静にすることも、危険な負荷をかけることも避けます。

脳転移・肝転移・肺・胸膜転移への治療

乳がんステージ4では、転移した臓器によって現れやすい症状や治療の緊急性が異なります。ただし、脳や肝臓、肺に転移が見つかったからといって、その臓器への手術や放射線治療だけで治療を完結させるわけではありません。基本となるのは、乳がんのサブタイプに合った全身薬物療法です。そのうえで、症状を早く改善する必要がある場合や、限られた病変だけが進行している場合に、手術、放射線治療、胸水を抜く処置などを組み合わせます。

脳転移の治療

乳がんが脳へ転移すると、頭痛、吐き気、けいれん、手足の脱力やしびれ、歩きにくさ、言葉の出にくさ、視界の変化などが現れることがあります。本人より先に家族が、反応が鈍くなった、性格が変わった、会話がかみ合わないといった変化に気付く場合もあります。脳転移の症状は病変ができた場所によって異なり、小さな病変では自覚症状がないこともあります。診断には、脳の細かな病変や周囲のむくみを確認しやすい造影MRIが主に用いられます。

突然けいれんを起こした、片側の手足に力が入らない、言葉を話せない、意識が朦朧とするといった変化は、次回の診察まで待つ症状ではありません。脳転移だけでなく、脳出血や脳梗塞など別の病気の可能性もあるため、速やかな医療機関への連絡や救急受診が必要です。

局所治療

症状のある脳転移では、全身薬物療法だけに頼らず、手術や放射線治療などの局所治療を行うことが推奨されています。大きな病変が脳を圧迫している場合や、組織を採取して診断を確かめる必要がある場合には、手術が検討されます。病変が小さく、数や位置が治療に適していれば、病変へ放射線を集中させる定位放射線治療が候補になります。複数の病変が広い範囲にある場合には、脳全体へ放射線を当てる全脳照射を検討することもあります。

定位放射線治療は、周囲の正常な脳への照射を抑えやすい一方、治療していない場所に新しい転移が現れる可能性があるため、治療後も定期的な脳MRIが必要です。全脳照射では広い範囲を治療できますが、治療後の記憶力や集中力への影響も考慮しなければなりません。病変の数だけで機械的に治療法を決めるのではなく、大きさ、位置、症状、全身の病状、今後予定している薬物療法を踏まえて判断します。

支持療法

脳転移の周囲にむくみが生じている場合には、ステロイド薬によって頭痛や神経症状を和らげることがあります。けいれんを起こした患者さんには、再発を防ぐための抗けいれん薬を使用します。これらは脳転移そのものを消す治療ではなく、局所治療や薬物療法へ安全につなげるための支持療法です。

薬物療法

HER2陽性乳がんなどでは、脳内の病変にも効果が期待される薬物療法が増えています。ただし、頭痛や麻痺などの症状がある場合には、薬の効果を待つより局所治療を優先することがあります。脳以外の病変が現在の薬で抑えられ、脳の一部だけが進行した場合には、脳転移を手術や放射線治療で抑えたうえで、同じ全身薬物療法を継続する選択肢もあります。

参考:ASCO・SNO・ASTRO「Treatment for Brain Metastases Guideline」

肝転移の治療

肝臓は機能に余裕のある臓器であるため、転移があっても初期には症状が現れないことがあります。病変が広がると、食欲低下、強い倦怠感、右上腹部の違和感、腹部の張り、黄疸などがみられる場合があります。乳がんの肝転移によって黄疸や腹部の腫れが起こる可能性は、NCIの患者向け情報でも示されています。

治療方針を決める際には、CTなどで病変の数と広がりを確認するだけでなく、ビリルビン、AST、ALT、アルブミンなどの血液検査から、肝臓がどの程度機能を保っているかを評価します。画像上は肝転移が多くても肝機能が安定している患者さんがいる一方、短期間で肝機能が悪化し、早急な治療が必要になる場合もあります。

参考:National Cancer Institute「Metastatic Breast Cancer」

全身薬物療法

肝転移に対しても、サブタイプに合った全身薬物療法が治療の中心です。ホルモン受容体陽性乳がんで肝転移があっても、臓器機能が保たれ、病気の進行が緩やかであれば、内分泌療法と分子標的薬を選べる場合があります。一方、黄疸が進む、食事が急に取れなくなる、肝機能が短期間で低下するといった状態では、腫瘍をより早く縮小できる可能性のある抗がん剤や抗体薬物複合体を優先することがあります。

局所治療

肝臓の病変が一つまたは少数に限られている場合には、手術、焼灼療法、定位放射線治療などの局所治療を専門施設で検討することもあります。ただし、乳がんの肝転移では、画像に見える病変だけを治療しても、体内の別の場所に微小ながん細胞が存在する可能性があります。局所治療を行えば誰でも完治できるわけではなく、全身薬物療法に代わる一般的な治療でもありません。病変が限られているか、ほかの転移が長く安定しているか、局所治療によってどのような利益を期待できるかを、多職種で慎重に判断します。

肺転移/胸膜転移の治療

肺転移は、小さいうちは症状がなく、定期的な画像検査で見つかることがあります。病変が広がると、咳、息切れ、胸の痛みなどが現れます。肺を覆う胸膜へがんが広がり、肺の周囲に胸水がたまると、肺が十分に広がらなくなり、呼吸が苦しくなることがあります。

ただし、治療中に息苦しくなったからといって、必ずしも肺転移が進行したとは限りません。胸水のほか、肺炎、肺血栓塞栓症、貧血、心不全、放射線や薬による肺炎など、複数の原因が考えられます。特に、トラスツズマブ デルクステカンや免疫チェックポイント阻害薬など、肺障害を起こす可能性のある治療を受けている場合には、がんの進行と副作用を区別する必要があります。

急に息苦しくなった、安静にしていても呼吸がつらい、胸の痛みや発熱を伴う、意識が遠のくように感じるといった場合には、次回の外来まで待たずに医療機関へ連絡します。息苦しさの原因によって治療法が大きく異なるため、CT、胸部X線、血液検査、酸素飽和度などを確認します。

肺や胸膜の転移に対しても、乳がんのサブタイプに応じた薬物療法が基本です。薬が効いて病変が小さくなれば、咳や息苦しさ、胸水が改善する可能性があります。一部の病変が気管支を圧迫している場合や、限られた肺転移だけが進行している場合には、放射線治療や手術などを個別に検討することもあります。

胸水が多い場合

胸水によって肺が圧迫されている場合には、細い針や管を胸へ入れて水を抜く胸腔穿刺を行います。胸水を抜くことで肺が広がりやすくなり、短期間で息苦しさが改善することがあります。採取した胸水を調べ、乳がん細胞が含まれているか、感染など別の原因がないかを確認する意味もあります。

胸水を一度抜いても、短期間で再びたまることがあります。繰り返し胸腔穿刺が必要になる場合には、胸の中へ細い管を留置して自宅などで定期的に排液する方法や、肺と胸壁の間を癒着させ、胸水がたまる空間を減らす胸膜癒着術を検討します。どの方法が適しているかは、肺が排液後に十分広がるか、胸水がたまる速さ、通院の負担、全身状態などによって変わります。

胸水を抜く治療は、乳がんそのものを全身から減らす治療ではありません。しかし、呼吸を楽にし、食事や睡眠、歩行を改善することで、次の薬物療法を受けやすくする役割があります。症状を和らげる処置と抗がん治療を対立するものとして考えず、必要に応じて同時に行います。

一部の病変だけが進行した場合

全身薬物療法によって大部分の病変が抑えられているにもかかわらず、脳、肝臓、肺などの一部だけが大きくなることがあります。このような場合には、進行した病変へ手術や放射線治療を行い、全身では効果が続いている薬を維持できる可能性があります。

反対に、複数の臓器で病変が増え、症状や臓器機能も悪化している場合には、局所治療だけでは全身の進行を抑えられません。サブタイプや遺伝子検査の結果を改めて確認し、作用の異なる薬物療法へ切り替えることが中心になります。

脳、肝臓、肺への転移は、転移があるという事実だけで治療法や見通しが決まるものではありません。症状の有無、臓器機能、病変の数と位置、脳以外・肝臓以外の病変が抑えられているかを確認し、全身薬物療法と局所治療の役割を分けて考える必要があります。

緩和ケア・支持療法

乳がんステージ4の治療では、がんを抑える薬物療法と同時に、痛みや息苦しさ、吐き気、倦怠感、不安などを和らげる緩和ケア・支持療法を行います。緩和ケアは、抗がん治療をやめた後にだけ受ける医療ではありません。国立がん研究センターは、がんと診断された時点から、治療と並行して受けられるものと説明しています。

参考:緩和ケア|国立がん研究センター がん情報サービス

支持療法は、抗がん剤による吐き気や白血球減少、下痢、しびれなどを予防・軽減し、治療を安全に続けるための医療です。緩和ケアはさらに広く、がんそのものによる症状、気持ちのつらさ、仕事や家族の問題、療養場所への不安なども支援の対象とします。両者は明確に切り分けられるものではなく、患者さんができるだけ普段に近い生活を続けられるよう支えるという点で重なっています。

ASCOのガイドラインも、進行がんの患者さんに対し、通常のがん治療と専門的な緩和ケアを並行して提供することを推奨しています。とくに、痛みや息苦しさなどの症状が十分に抑えられていない場合、治療方針への迷いが強い場合、家族を含めた心理的・社会的な負担が大きい場合には、早い段階から緩和ケアチームへ相談する意義があります。

参考:ASCO「Palliative Care for Patients With Cancer: Guideline Update」

痛みのケア

乳がんステージ4では、骨転移、乳房や胸壁の病変、神経の圧迫などによって痛みが生じることがあります。手術や抗がん剤による神経障害、関節痛など、治療が原因となる痛みもあります。痛みが続くと睡眠や食欲が低下し、歩くことや通院も難しくなるため、痛みを取る治療は生活を楽にするだけでなく、抗がん治療を続ける体力を保つことにもつながります。

痛みの治療では、アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬、医療用麻薬であるオピオイド鎮痛薬などを、痛みの強さや原因に応じて使用します。一定時間ごとに使う薬で普段の痛みを抑え、急に強くなる痛みに対しては頓服薬を併用することがあります。骨転移による局所的な痛みには、鎮痛薬だけでなく放射線治療が有効な場合もあります。

医療用麻薬を使うと依存症になるのではないか、薬を早く使うと後で効かなくなるのではないかと心配する患者さんもいます。しかし、がんによる痛みに対して医師の指示に沿って適切に使用する場合、依存への不安から必要な鎮痛を避ける必要はありません。むしろ、痛みを限界まで我慢すると、体力を消耗し、睡眠や食事、治療への意欲にも影響します。

鎮痛薬を使用しても夜に眠れない、予定より早く痛みが戻る、頓服薬を使う回数が増えた場合には、薬の量や種類を見直します。痛みを数字だけで伝えるのが難しいときは、「寝返りができない」「階段を上れない」「痛くて食事に集中できない」など、生活で困っている動作を伝えると治療調整につながります。

参考:痛み|国立がん研究センター がん情報サービス

息苦しさ

乳がんステージ4で息苦しさが生じる原因は、肺・胸膜転移や胸水だけではありません。肺炎、貧血、心不全、血栓、薬剤による肺障害、不安などが関係することもあります。原因によって必要な治療が異なるため、酸素飽和度、血液検査、胸部画像などを確認します。

胸水が多い場合には水を抜く処置、貧血が強い場合にはその原因への治療、肺炎には抗菌薬、心不全には循環器系の治療を行います。薬剤性肺障害が疑われる場合には、原因薬を休止し、必要に応じてステロイド薬を使用します。病気そのものを短期間で改善することが難しい場合でも、姿勢の調整、室内の風、酸素療法、薬物療法などによって呼吸のつらさを軽減できることがあります。

新しく始まった息切れが急速に悪化している、安静にしていても苦しい、胸痛や発熱を伴う、会話を続けられないといった場合には、次回の外来まで待たずに治療施設へ連絡します。呼吸困難は、がんの進行だけでなく、感染症や血栓など緊急性の高い状態でも起こるためです。

倦怠感

倦怠感は、眠っても回復しないだるさ、集中力の低下、何もする気が起きない感覚などとして現れます。がんそのものだけでなく、貧血、痛み、不眠、感染症、脱水、栄養状態の悪化、電解質異常、気分の落ち込みなど、複数の原因が重なっていることがあります。

原因が見つかれば、貧血や感染症の治療、鎮痛薬の調整、不眠や不安への対応などによって改善できる可能性があります。抗がん剤の投与後に一定の周期で強くなる場合には、治療量や投与間隔の調整も検討します。

倦怠感があるときに、すべての活動を中止して長時間寝て過ごすと、筋力が低下し、さらに動きにくくなることがあります。骨折や転倒の危険がなく、体調が許す範囲では、短時間の歩行やストレッチなどが倦怠感の軽減に役立つ場合があります。活動できる時間帯に必要な用事をまとめ、つらい時間帯には休むなど、体力を配分する考え方も有効です。

参考:倦怠感(だるさ)|国立がん研究センター がん情報サービス

食欲低下

食欲低下は、抗がん剤による吐き気や味覚変化、口内炎、便秘、痛み、気分の落ち込みなどによって起こります。肝転移や腹水、高カルシウム血症、感染症が原因となることもあるため、食べられない状態が続くときには、単に栄養指導を受けるだけでなく原因を調べます。

食欲が少ないときは、決められた時間に通常量を食べることへこだわらず、体調のよい時間に少量ずつ取る方法があります。においで吐き気が強くなる場合には冷たい食品を選ぶ、口内炎があれば刺激の少ない柔らかい食品にするなど、症状に合わせて工夫します。管理栄養士へ相談すると、現在の症状や治療内容に合った食事方法を検討できます。

一方、がん悪液質が進むと、食事量を増やすだけでは体重や筋肉量を十分に回復できないことがあります。本人が食べられないことを責めたり、家族が無理に食べさせようとしたりすると、食事の時間そのものが負担になる場合があります。何をどの程度食べられるかだけでなく、吐き気や痛み、便秘を減らし、食べられる時間をつくることが大切です。

参考:食欲がない・食欲不振|国立がん研究センター がん情報サービス

吐き気や便秘

抗がん剤による吐き気は、症状が出てから対処するだけでなく、治療前から吐き気止めを使用して予防します。薬の種類や過去の吐き気の程度によっては、点滴後の数日間も予防薬を続けます。水分も取れない状態が続く場合には、脱水や腎機能低下につながるため、次回の診察を待たずに連絡します。

便秘は、オピオイド鎮痛薬、吐き気止め、活動量の低下、食事や水分量の減少などによって起こります。がん治療中の便秘は生活習慣だけで改善しにくく、慢性化することもあるため、予防的に下剤を使用する場合があります。腹部の張りや吐き気を伴う便秘では、腸閉塞などが隠れている可能性もあり、自己判断で下剤だけを増やさないことが大切です。

参考:便秘|国立がん研究センター がん情報サービス

不安や気分の落ち込み

ステージ4と告げられた後には、死への恐怖、治療が効かなくなる不安、家族や仕事への心配などが繰り返し現れることがあります。検査結果を待つ時期や治療を変更する時期に、不眠や動悸、食欲低下が強くなる人もいます。

不安や落ち込みは、本人の気持ちの弱さによって生じるものではありません。担当医や看護師、心理士、精神科・心療内科などへ相談し、カウンセリングや薬物療法を受けることができます。眠れない状態が続く、何をしても楽しめない、自分を責め続けるといった状態は、早めに相談する理由になります。

緩和ケアでは患者さん本人だけでなく、家族も支援の対象です。介護を担う家族が疲れ切っている場合や、本人へどのように病状を伝えればよいか迷っている場合にも、緩和ケアチームやがん相談支援センターへ相談できます。

仕事や経済的な問題

治療が長期化すると、通院日の確保、休職、収入の減少、医療費などが負担になります。体調が比較的安定していても、治療スケジュールが仕事と合わず、退職を考える患者さんもいます。

治療を始める前や変更する際には、点滴に必要な時間だけでなく、何日目に副作用が出やすいか、通院頻度を変更できるかを確認します。医療ソーシャルワーカーやがん相談支援センターでは、高額療養費制度、傷病手当金、障害年金、介護保険、就労支援などについて相談できます。制度を利用することは治療を諦めることではなく、治療と生活を両立するための支援です。

リハビリテーションはがんと診断された直後から受けられる

がんのリハビリテーションは、手術後だけに行うものではありません。骨転移がある場合の安全な歩き方、筋力低下の予防、むくみへの対応、しびれによる転倒予防、呼吸を楽にする姿勢など、ステージ4でも多くの役割があります。

骨折の危険がある場所に強い負荷をかけることは避けなければなりませんが、必要以上に安静にすると筋力が低下し、入浴やトイレ、外出などが難しくなります。画像を確認したうえで、理学療法士や作業療法士と安全な活動範囲を決めます。

参考:がんとリハビリテーション医療|国立がん研究センター がん情報サービス

療養場所は選びなおせる

緩和ケアは、抗がん治療を受けている外来、入院中の一般病棟、緩和ケア外来、緩和ケア病棟、自宅などで受けられます。自宅療養では、訪問診療や訪問看護を利用し、痛みや呼吸症状の管理、薬の調整などを受けることができます。

緩和ケア病棟へ相談したからといって、直ちに抗がん治療を中止し、入院しなければならないわけではありません。将来体調が変化した場合に備えて、利用できる施設や条件を早めに確認しておくこともできます。また、一度決めた療養場所を変えてはいけないわけでもありません。自宅で過ごしていても症状の管理が難しくなれば入院し、症状が落ち着けば再び退院できる場合があります。

緩和ケア・支持療法の目的

ステージ4乳がんでは、治療の効果と体への負担が時間とともに変化します。そのため、治療を続けられるかどうかだけでなく、患者さんが何を大切にしているかを繰り返し確認します。

できるだけ長く仕事を続けたい、強い眠気が出る治療は避けたい、自宅で家族と過ごす時間を優先したいなど、希望は人によって異なります。体調や家庭の状況が変われば、以前と考えが変わることもあります。こうした希望を家族や医療者と共有しておくことは、治療を諦めるためではなく、本人の価値観に合った治療を選ぶための準備です。

緩和ケア・支持療法の目的は、苦痛を完全になくすことだけではありません。症状を少しでも軽くし、食事、睡眠、移動、仕事、家族との時間を保ちながら、必要な抗がん治療を続けられる状態をつくることにあります。痛みや不安を我慢するほど治療に前向きであるということではありません。現在困っていることを早めに伝え、薬物療法、リハビリテーション、心理・社会的支援を組み合わせることが、ステージ4乳がんと長く付き合うための治療の一部です。

乳がんのステージ別生存率

乳がんの生存率は、診断された時点のステージによって大きく異なります。一般にステージが早いほど、手術や放射線治療によって局所のがんを取り除ける可能性が高くなります。一方、ステージ4では乳房から離れた臓器にもがん細胞が広がっているため、薬物療法によって全身の病気を長く抑えることが治療の中心です。

ただし、生存率は多くの患者さんをまとめて計算した統計であり、一人ひとりの余命や治療効果を示すものではありません。数字を見る際には、対象となった患者さんの診断年、生存率の計算方法、診断時のステージを基準にしているのかを確認する必要があります。

乳がんのステージ別5年・10年純生存率(ネット・サバイバル)

国立がん研究センターの院内がん登録では、女性乳がんについて、UICC TNM分類によるステージ別の5年純生存率と10年純生存率が公表されています。

診断時のステージ 5年純生存率 10年純生存率
ステージ1 98.9% 93.7%
ステージ2 94.6% 85.4%
ステージ3 80.6% 63.8%
ステージ4 39.8% 17.0%

※5年純生存率は2014~2015年診断例、10年純生存率は2012年診断例を対象とした別々の集計です。同じ患者集団の5年後と10年後を比較した数値ではありません。

ここで使われている純生存率(ネット・サバイバル)とは、乳がん以外の死因による影響を統計的に除き「乳がんだけが死因になると仮定した場合の生存率」を推計したものです。国立がん研究センターの院内がん登録では、2014~2015年の5年生存率集計から、従来の相対生存率に代わって純生存率(ネット・サバイバル)が採用されています。

参考:院内がん登録生存率集計|国立がん研究センター

同じ患者集団の追跡結果ではない

表を見ると、ステージ4の生存率が5年時点の39.8%から10年時点の17.0%へ低下しているように見えます。しかし、この二つは同じ患者集団を10年間追跡した結果ではありません。

5年純生存率は2014~2015年診断例、10年純生存率は2012年診断例を対象としています。診断年だけでなく、対象となった施設や患者構成も異なるため「5年後に生存していた39.8%の患者さんのうち、10年後には17.0%になった」と解釈することはできません。

ステージが進むにつれて生存率が低くなる背景には、治療の目的の違いがあります。乳房や近くのリンパ節に病変が限られている段階では、手術や放射線治療によって根治を目指せる可能性があります。一方、遠隔転移のあるステージ4では、画像に見えないがん細胞も含めて全身を治療する必要があり、病気を長期間抑えることが治療の中心になります。

ステージ4の39.8%は「5年しか生きられない」という意味ではない

5年純生存率39.8%とは、ステージ4と診断された患者さん一人ひとりに「5年間生きられる確率が39.8%ある」と伝える数字ではありません。年齢や患者背景の異なる大人数のデータをまとめ、統計的に算出した集団の指標です。

また、5年は生存率を集計するための区切りにすぎません。5年が過ぎた直後に病状が急に悪化するわけではなく、薬物療法を変更しながら10年以上生活する患者さんも含まれています。反対に、診断後の早い段階で臓器機能が悪化する患者さんもいるため、中央値や生存率だけでは個人の経過を予測できません。

NCIも、生存率は大きな患者集団から算出されたものであり、個々の患者さんに何が起こるかを正確に予測することはできないと説明しています。乳がんの見通しは、ステージだけでなく、サブタイプ、年齢、全身状態、転移部位、過去の治療、治療への反応などによって変わります。

現在の患者さんへそのまま当てはめることはできない

ステージ4の10年純生存率17.0%は、2012年に診断された患者さんのデータです。国立がん研究センターも、2012年は院内がん登録を開始して間もない時期で登録精度に課題があり、現在とはがん治療の状況も変化しているため、数値の解釈には注意が必要だとしています。

参考:院内がん登録 2012年10年生存率集計|国立がん研究センター

2012年以降、ホルモン受容体陽性乳がんではCDK4/6阻害薬などの分子標的薬が広く使われるようになりました。HER2陽性乳がんでは複数の抗HER2薬や抗体薬物複合体が登場し、トリプルネガティブ乳がんでも免疫チェックポイント阻害薬、PARP阻害薬、抗体薬物複合体などを使用できる患者さんがいます。

これらの治療を受ける現在の患者さんの長期経過は、2012年診断例を基にした10年生存率には十分反映されていません。ただし、治療が進歩しているからといって、現在のステージ4の10年生存率を推測して別の数字へ置き換えることもできません。17.0%は過去の公的な実績として示し、現在の個人の見通しとは区別して受け止める必要があります。

統計は診断時のステージが基準

院内がん登録のステージ別生存率は、乳がんと診断された時点のステージを基準にしています。

最初はステージ1~3と診断され、手術や術後治療を受けた後に遠隔再発した患者さんは、原則として最初に診断されたステージで登録されます。ステージ4の39.8%や17.0%は、最初から骨や肺、肝臓などへの遠隔転移が見つかった「初発ステージ4」の患者さんが主な対象であり、遠隔再発したすべての患者さんの経過を表しているわけではありません。

初発ステージ4と遠隔再発では、それまでに使用した薬や治療への耐性、再発までの期間などが異なります。遠隔再発後の生存期間を扱う研究では、再発した日から期間を計算することもあるため、診断日から計算したステージ4の生存率とは出発点が異なります。

ステージ4の中でも見通しには大きな差がある

ステージ4乳がんの見通しを考えるうえでは、ホルモン受容体やHER2によるサブタイプが大きく関係します。ホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がんでは、内分泌療法と分子標的薬によって長期間病気を抑えられることがあります。HER2陽性乳がんでは、複数の抗HER2療法を順番に使用できるようになっています。

トリプルネガティブ乳がんは進行が速い場合がありますが、PD-L1、BRCA1/2、HER2-lowなどの検査結果によって、免疫療法、PARP阻害薬、抗体薬物複合体を使用できることがあります。

転移部位も見通しに影響します。骨だけに転移がある場合と、肝臓や肺の機能が急速に低下している場合では、治療の緊急性が異なります。ただし、肝転移や肺転移があるだけで、直ちに短い余命を意味するわけではありません。臓器機能が保たれ、薬物療法がよく効いていれば、長期間安定する可能性があります。

診断時には経過を正確に予測できなくても、治療後に腫瘍がどの程度縮小したか、症状や臓器機能が安定しているかを確認することで、その時点から先の見通しを評価し直せます。

生存率ではなく、現在の病状と次の選択肢を確認

主治医へ見通しを尋ねる際には「5年生存率が39.8%なら、自分はどちらに入るのか」と質問しても、明確な答えを出すのは困難です。統計上の生存側と死亡側を、診断時に分けることはできないためです。

今後の生活や治療を考えるためには、現在の治療が効いているか、肝臓や肺などの機能は保たれているか、病気の進行は速いか、次に使える薬があるかを確認する方が具体的です。症状が安定し、次の治療選択肢も残っている場合と、臓器機能が急速に悪化している場合では、同じステージ4でも医師から説明される見通しは異なります。

乳がんステージ4の5年純生存率39.8%、10年純生存率17.0%は、病気全体の傾向を理解するための公的なデータです。しかし、これらは過去の異なる患者集団から算出された数字であり、個人の余命を示すものではありません。サブタイプ、転移部位、臓器機能、治療への反応を確認しながら、その時点での見通しを医療者と共有することが必要です。

乳がんステージ4の余命

乳がんステージ4と診断されたとき、多くの患者さんが知りたいのは「実際には何か月、何年くらい生きられる可能性があるのか」という具体的な数字です。

前章で示した5年純生存率や10年純生存率は、ステージ4乳がん全体の傾向を知るうえで役立ちます。一方、臨床試験では、特定のサブタイプや治療歴を持つ患者さんを対象として、治療開始後の全生存期間中央値が報告されています。

これらの数値は、現在の治療を受けた患者さんがどの程度の期間生存したかを知るための参考になります。ただし、対象患者や治療を始めた段階が試験ごとに異なるため、そのまま個人の余命として受け取ることはできません。

代表的な臨床試験で報告された全生存期間中央値

乳がんステージ4の治療成績を示した代表的な第Ⅲ相試験では、次のような全生存期間中央値が報告されています。

乳がんのタイプ・主な対象 臨床試験・治療段階 試験で行われた治療 全生存期間中央値
ホルモン受容体陽性・HER2陰性。進行乳がんに対する全身治療を受けていない閉経後患者 MONALEESA-2・一次治療 リボシクリブ+レトロゾール 63.9か月
HER2陽性。転移性乳がんに対する抗HER2療法や抗がん剤を受けていない患者 CLEOPATRA・一次治療 ペルツズマブ+トラスツズマブ+ドセタキセル 57.1か月
トリプルネガティブ、PD-L1 CPS 10以上。進行・再発乳がんに対する全身治療を受けていない患者 KEYNOTE-355・一次治療 ペムブロリズマブ+抗がん剤 23.0か月
HER2-low。転移性乳がんに対して1~2種類の抗がん剤治療歴がある患者 DESTINY-Breast04・二次治療以降 トラスツズマブ デルクステカン  23.4か月

参考:Hortobagyi GN, et al.「Overall Survival with Ribociclib plus Letrozole in Advanced Breast Cancer」
参考:Swain SM, et al.「Pertuzumab, Trastuzumab, and Docetaxel for HER2-Positive Metastatic Breast Cancer: End-of-Study Results from CLEOPATRA」
参考:Cortés J, et al.「Pembrolizumab plus Chemotherapy in Advanced Triple-Negative Breast Cancer」
参考:Modi S, et al.「Trastuzumab Deruxtecan in Previously Treated HER2-Low Advanced Breast Cancer」

これらは治療を受けた患者さんの実際の経過を表す数値ですが、乳がんステージ4のタイプ別平均余命を示した表ではありません。

全生存期間中央値の意味

全生存期間中央値とは、対象患者の半数が生存していた期間です。NCIは、診断日または治療開始日から、対象集団の半数が生存している期間と定義しています。

たとえば、全生存期間中央値が23か月だった場合、すべての患者さんが23か月前後で亡くなったわけではありません。約半数は23か月より短い期間で亡くなり、残りの半数はそれより長く生存しています。中には、中央値を大きく超えて数年間治療を継続した患者さんも含まれます。

中央値は「治療を受けた人の典型的な経過を一つの数字で表すための統計」です。患者さん一人ひとりに与えられた期限ではありません。

表の数字をサブタイプ別の余命として比較することはできない

表だけを見ると、ホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がんは63.9か月、HER2陽性乳がんは57.1か月、トリプルネガティブ乳がんは23.0か月と読み取れます。しかし、これらの数字を並べて、サブタイプごとの余命を直接比較することはできません。

MONALEESA-2、CLEOPATRA、KEYNOTE-355は、主に進行・転移性乳がんに対する一次治療の試験です。一方、DESTINY-Breast04は、転移性乳がんに対してすでに1~2種類の抗がん剤を受けた患者さんを対象としています。

DESTINY-Breast04に参加した患者さんは、試験開始前にも転移性乳がんとして治療を受けています。そのため、23.4か月は「ステージ4と診断されてからの全期間」ではなく、試験治療を開始してからの生存期間です。

また、試験ごとに閉経状態、PD-L1、HER2の発現、過去の治療、脳転移の状態、全身状態、肝臓や腎臓などの機能に関する参加条件が設けられています。臨床試験へ参加できる患者さんは、一定の体力と臓器機能を保っている場合が多いため、表の数値がステージ4乳がん患者全体をそのまま表しているわけでもありません。

数値は試験の追跡期間によって変わる

全生存期間中央値は、試験開始時から固定された数字ではありません。追跡期間が延び、死亡した患者さんの数が増えると、中央値が更新されることがあります。

DESTINY-Breast04では、主要解析時の全生存期間中央値は23.4か月でしたが、その後の長期追跡では22.9か月と報告されています。これは治療効果が後から悪化したという意味ではなく、追跡期間が延びてデータが成熟したことで、中央値の推定値が変化したものです。

臨床試験の数字を参考にする場合には、どの解析時点の数値なのかを確認する必要があります。本章の表では、治療効果が最初に明確に示された主要解析または最終解析の代表値を掲載しています。

診断された日からの余命ではない

臨床試験の全生存期間は、多くの場合、患者さんが試験へ登録され、治療群へ割り付けられた時点から計算されます。最初に乳がんと診断された日や、遠隔転移が見つかった日から数えた期間とは限りません。

初発時からステージ4だった患者さんと、早期乳がんの治療から数年後に遠隔再発した患者さんでは、試験治療を開始するまでの経過が異なります。さらに、二次治療や三次治療の試験では、すでに転移性乳がんとして一定期間治療を受けた患者さんが対象です。

したがって、表の23か月や64か月を「ステージ4になってから生きられる期間」と解釈することはできません。全生存期間中央値は、その試験の対象条件と計測開始時点を合わせて読む必要があります。

治療への反応によって見通しは更新される

診断直後には、その乳がんが薬へどの程度反応するか分からないため、医師が説明できる見通しにも幅があります。治療後に腫瘍が縮小し、症状や臓器機能が安定していれば、診断時よりも長い経過を期待できる可能性があります。画像上で腫瘍が消えていなくても、大きくならずに安定していれば、治療によって病気を抑えられている状態です。

最初の治療が効かなかった場合でも、直ちに余命が短いと決まるわけではありません。ホルモン受容体、HER2、PD-L1、BRCA1/2などを確認し、作用の異なる薬へ変更することで、再び病気を抑えられることがあります。

一方、複数の薬を使用しても短期間で進行し、臓器機能の低下によって次の治療を安全に受けにくくなった場合には、医師からより厳しい見通しが説明されることがあります。余命の予測は診断時に一度決められるものではなく、治療への反応と体の状態に応じて繰り返し見直されます。

余命は数字ではなく幅を確認する

今後の仕事、家族との時間、財産や療養場所について考えるために、見通しを知りたい患者さんもいます。その場合は「あと何年ですか」と一つの数字だけを求めるより、現在の病状が数か月単位で変化する可能性が高いのか、年単位で安定する可能性があるのかを尋ねる方が、現実的な説明を受けやすくなります。

現在の治療が効いた場合と効かなかった場合の違い、次に使用できる薬が何種類あるか、今後特に注意すべき臓器や症状について確認することも、生活を考える助けになります。

すべての患者さんが詳細な予測を知りたいとは限りません。数字を知ることで準備しやすくなる人がいる一方、強い不安につながる人もいます。どの程度まで知りたいのか、家族にも同じ内容を伝えてよいのかを、あらかじめ医療者へ伝えることができます。

見通しが厳しくても受けられる医療はある

有効性を期待できる抗がん治療が少なくなった場合でも、痛み、息苦しさ、吐き気、不眠、不安などを軽減する治療は続けられます。胸水を抜く処置、骨転移への放射線治療、鎮痛薬の調整、訪問診療や訪問看護などによって、生活の負担を軽くできる場合があります。

新しい抗がん剤を使わないことと、治療を何もしないことは同じではありません。抗がん治療の負担が利益を上回る段階では、症状を抑え、食事や睡眠、家族との時間を保つことが医療の中心になります。

表の数字は、現在の治療によってどのような経過が報告されているかを知る参考にはなりますが、個人の期限ではありません。現在の病気の進行速度、治療への反応、臓器機能、次に使える治療を確認しながら、自分自身の見通しを主治医と共有することが大切です。

乳がんステージ4が完治する可能性

乳がんステージ4では、骨、肺、肝臓、脳など、乳房から離れた臓器にもがんが広がっています。そのため、一般には手術によってすべてのがんを取り除き、治療を終了することを目指す病期ではありません。乳がんのサブタイプに合った薬物療法を続け、病気の進行を抑えながら、症状や臓器機能、日常生活を保つことが治療の中心です。

ただし、「ステージ4では絶対に病変が消えない」という意味ではありません。治療によって画像上の病変がすべて見えなくなり、その状態が長期間続く患者さんもいます。ここでは、画像上の完全奏効と医学的な完治を区別して考える必要があります。

完全奏効と完治は同じ意味ではない

乳がん治療では、検査で確認できる病変がすべて消えた状態を「完全奏効」または「完全寛解」と呼びます。NCIは完全奏効を、治療によってがんの徴候がすべて消失した状態と定義していますが、同時に、それが必ずしも治癒を意味するわけではないと説明しています。

用語 主な意味
完全奏効・完全寛解 画像検査などで確認できる病変が消えた状態
部分奏効 病変が一定以上縮小した状態
安定 病変が明らかに縮小してはいないものの、大きくもなっていない状態
NED 検査で病気の存在を確認できない状態
完治・治癒 治療後にがんが再び現れる可能性が十分低く、病気が治ったと判断される状態

完全奏効やNEDは、現在の検査でがんを確認できないことを表しています。一方、完治は、将来も再発しないと判断できる状態を意味します。ステージ4乳がんでは、画像上の病変が消えても、一般には完全奏効や長期寛解と表現し、すぐに完治とは判断しません。

参考:ESMO「Clinical Practice Guideline:Metastatic Breast Cancer」

画像で病変が消えても再発する可能性があるのはなぜか

CTやMRI、PETなどの画像検査には、確認できる病変の大きさに限界があります。治療によって大きな病変が消えても、画像では捉えられない少数のがん細胞が体内に残っている可能性があります。

薬物療法によって多くのがん細胞が死滅しても、一部の細胞が活動を弱めた状態で残り、時間がたってから再び増殖することがあります。治療に反応しやすい細胞が減る一方で、薬の影響を受けにくい細胞が残る場合もあります。

血液検査や腫瘍マーカーが正常になった場合も同様です。腫瘍マーカーは病気の動きを判断する補助にはなりますが、正常値だからといって、がん細胞が体内に一つも存在しないことを証明する検査ではありません。そのため、画像で病変が見えなくなっても、定期的な診察や検査を続け、必要に応じて薬物療法を継続します。

長期間病気が見えない状態を保つケース

転移性乳がんで完全奏効が得られ、その状態が何年も続く患者さんは実際に報告されています。とくに、薬物療法への反応が良好なHER2陽性乳がんでは、トラスツズマブを含む治療によって数年間の長期寛解を得た患者群が報告されています。

参考:PubMed「Long-term Tumor Remission Under Trastuzumab Treatment for HER2-positive Metastatic Breast Cancer」

過去の完全奏効例を集めた研究でも、転移性乳がんに対する治療後、長期間再発を認めなかった患者さんが一部含まれていました。

参考:PubMed「Characterisation of Complete Responders to Combination Chemotherapy for Metastatic Breast Cancer」

ただし、このような患者さんは転移性乳がん全体の中では限られており、どの患者さんが長期寛解を得られるかを治療前に正確に予測することはできません。また、長期間病変が現れなかった症例報告があることと、一般的な治療で完治を期待できることは分けて考える必要があります。

長期的に病気を抑えやすい条件としては、薬物療法への反応が深く長く続いていること、転移している臓器や病変数が少ないこと、臓器機能と全身状態が保たれていることなどが考えられます。しかし、これらの条件がそろっていても、治癒を保証するものではありません。

局所治療を検討するケース

転移が一つまたは少数の臓器や病変に限られている状態は、オリゴ転移と呼ばれます。病変がごく限られている患者さんでは、全身薬物療法に加えて、転移巣への手術や定位放射線治療などを行い、長期的な病気の制御を目指すことがあります。

乳がんのオリゴ転移に対する局所治療では、長期生存や長期間の病勢制御を得た報告があります。とくに、ホルモン受容体陽性で、最初の乳がん治療から転移までの期間が長く、病変数が少ない患者さんでは、良好な経過を示した研究があります。

参考:PubMed「Navigating Breast Cancer Oligometastasis and Oligoprogression」
参考:PubMed「Long-term Disease Control and Survival After SABR for Oligometastatic Breast Cancer」

一方、これまでの研究には後ろ向き研究や小規模試験が多く、局所治療を受けたから長く生存したのか、もともと進行が緩やかな患者さんが選ばれていたため長く生存したのかを区別しにくいという問題があります。近年のレビューでも、乳がんのオリゴ転移に対する手術や定位放射線治療について、良好な報告がある一方、すべての患者さんへの有効性を支持しない試験もあり、結論は確立していないとされています。

現在も、乳がんのオリゴ転移に対して、サブタイプ別の薬物療法へ転移巣治療を加えることが予後を改善するかを検証する臨床試験が行われています。

参考:PubMed「Randomized Controlled Trial of Metastasis-directed Therapy for Oligometastatic Breast Cancer」

したがって、転移が少なければ手術や放射線治療で必ず完治できるわけではありません。局所治療を行う場合には、転移の数や場所だけでなく、サブタイプ、薬物療法への反応、ほかに見えない病変が存在する可能性、治療による負担を含めて判断します。

画像上の病変が消えても治療は続く

ステージ4乳がんでは、画像上の病変が消えた場合でも、現在の薬物療法が病気を抑えている可能性があるため、すぐに治療を終了するとは限りません。

たとえば、HER2陽性乳がんでは、抗がん剤を一定期間で終了しても、トラスツズマブなどの抗HER2療法を維持療法として続けることがあります。ホルモン受容体陽性乳がんでも、病変が見えなくなった後に内分泌療法や分子標的薬を続ける場合があります。

治療を中止できるかどうかについて、すべての患者さんへ当てはめられる明確な基準はありません。完全奏効後に薬を中止しても長期間再発しない患者さんがいる一方、中止後に病気が再び現れる可能性もあります。HER2陽性転移性乳がんの完全寛解後に、抗HER2療法をどれくらい継続すべきかについても、医学的に確立した答えはありません。

治療を続ける利益だけでなく、心機能低下、間質性肺疾患、血球減少、下痢、倦怠感などの副作用や、通院による生活負担も考慮します。病変が見えない状態が長期間続いている場合には、治療の継続、減量、休薬について個別に話し合うことがありますが、自己判断で薬を中止することは避けなければなりません。

がんを完全に消すことだけが治療の成功ではない

ステージ4乳がんでは、完全奏効だけが治療成功の基準ではありません。画像上で病変が残っていても、大きさが変わらず、症状や臓器機能が安定していれば、治療によって病気を抑えられている状態です。

がんを完全に消すことだけを目標にすると、より強い治療を続けることで副作用が増え、食事や睡眠、仕事、外出が難しくなることがあります。長期間病気を抑える治療では、腫瘍の縮小だけでなく、治療を続けられる体力と生活を保つことも重要です。

現在の薬で病変が小さくならなくても、進行せず安定している場合には、すぐに別の薬へ変更する必要はありません。反対に、画像上では縮小していても、副作用によって生活が大きく制限されている場合には、投与量や治療内容を見直します。

「完治できますか」と尋ねるときに確認したいこと

主治医へ完治の可能性を尋ねる際には、単に「治りますか」と質問するだけでなく、現在の治療で何を目指しているのかを確認すると、より具体的な説明を受けやすくなります。

画像上の病変がすべて消える可能性があるのか、病気を長期間安定させることを目指しているのか、病変が限られていて局所治療を追加する意味があるのかを確認します。完全奏効が得られた場合には、薬をどの程度続けるのか、どのような検査で再発を確認するのかも治療計画に関わります。

乳がんステージ4では、一般に治癒を前提とするのではなく、薬物療法を続けながら病気を長期間抑えることを目指します。一方で、治療によって画像上の病変が消え、長期寛解を保つ患者さんがいることも事実です。

ただし、完全奏効や長期寛解は、将来も再発しないことを保証するものではありません。「完治できるか、できないか」の二択だけで考えるのではなく、現在の治療で病変がどこまで抑えられているか、その状態をどの程度維持できているか、生活を保ちながら治療を続けられるかを確認することが大切です。

標準治療で効果が乏しくなった場合

乳がんステージ4では、一つの治療を続けているうちに、薬の効果が弱くなることがあります。しかし、現在の薬で病気が進行したことと、乳がんに対する治療がすべて終了したことは同じではありません。

ホルモン受容体、HER2、PD-L1、遺伝子変化、これまでに使用した薬を見直すと、作用の異なる標準治療が残っている場合があります。進行した病変の再検査や、がん遺伝子パネル検査によって、新たな治療候補や臨床試験が見つかることもあります。まず病気がどこで、どの程度進行しているのかを確認し、受けられる治療を整理することが基本です。

全身の治療を変更する必要があるか確認

腫瘍マーカーが上昇しただけでは、直ちに現在の薬を中止するとは限りません。腫瘍マーカーは病気の動きを確認する補助的な指標であり、数値の変動だけで治療効果を判断できないためです。

治療変更を考える際には、CTやMRIなどの画像検査、痛みや息苦しさなどの症状、肝臓や肺を含む臓器機能を確認します。複数の臓器で病変が増えていれば、現在の薬が全身的に効きにくくなっている可能性があり、別の薬物療法へ切り替える判断が中心になります。

一方、大部分の病変は抑えられているものの、骨や脳などの一部だけが進行している場合には、進行した病変へ放射線治療や手術を行い、全身では効果が続いている薬を維持できることがあります。すべての進行が、直ちに薬の全面変更を意味するわけではありません。治療の変更は、病変の増え方と臓器への影響を見て判断します。

ホルモン受容体やHER2を調べ直す

乳がんは、治療を受ける中で性質が変化することがあります。また、最初に採取した乳房の腫瘍と、後に進行した転移巣で、ホルモン受容体やHER2の結果が一致しない場合もあります。

安全に組織を採取できる病変があれば、再生検を行い、現在のエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2などを確認することがあります。HER2陽性への変化やHER2-lowへの該当が確認されれば、以前は候補にならなかった抗HER2薬や抗体薬物複合体を検討できる可能性があります。ホルモン受容体の状態も、その後の内分泌療法を選ぶ材料になります。乳がんのバイオマーカー検査は、治療方針を決めるために行われます。

ただし、再生検には出血や痛みなどの負担があり、脳や骨など、組織を安全に採取しにくい場所もあります。検査結果が変わっても治療方針に影響しないと考えられる場合には、無理に生検を行わないこともあります。

組織の採取が難しい場合には、血液中のがん由来DNAを調べるリキッドバイオプシーが選択肢になることがあります。血液検査であれば体への負担を抑えられますが、がん由来DNAが十分に血液へ流れていない場合には、実際に存在する遺伝子変化を検出できないことがあります。陰性という結果だけで、対象となる変化が絶対にないとは判断できません。

未使用の標準治療が残っていないかを整理

「標準治療が効かなくなった」という表現は、一つの薬が効かなくなった場合と、ガイドラインで推奨される複数の治療をすでに受けた場合の両方に使われることがあります。次の治療を考える際には、これまで使った薬を時系列で整理し、まだ使用していない標準治療がないかを確認します。

ホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がんでは、ESR1、PIK3CA、AKT1、PTENなどの結果に応じ、作用の異なる内分泌療法や分子標的薬を選べる場合があります。内分泌療法の効果を期待しにくくなった後も、抗がん剤やHER2-low/ultralowを対象とする抗体薬物複合体が候補になります。

HER2陽性乳がんでは、一つの抗HER2薬で進行しても、異なる仕組みを持つ抗体薬物複合体やHER2阻害薬などへ進める可能性があります。トリプルネガティブ乳がんでも、PD-L1、BRCA1/2、HER2-low、過去の抗がん剤治療によって、免疫療法、PARP阻害薬、抗体薬物複合体などの候補が変わります。転移性乳がんでは、サブタイプや過去の治療に応じて、複数の薬物療法を順番に使用します。

同じ系統の薬を使用したことがあっても、別の作用機序を持つ薬まで無効とは限りません。一方、理論上は使用可能でも、間質性肺疾患、心機能低下、強いしびれ、骨髄抑制などが残っていれば、安全性の面から選びにくい治療もあります。病気に効果が期待できるかだけでなく、現在の体がその治療を受けられる状態かを確認します。

がん遺伝子パネル検査で治療候補を探す

乳がんで推奨される標準治療が少なくなった場合には、がん遺伝子パネル検査を検討することがあります。この検査では、がん組織や血液を使って多数の遺伝子を同時に調べ、遺伝子変化に対応する薬や臨床試験がないかを探します。

日本の保険診療では、標準治療がない固形がんや、標準治療が終了した、または終了が見込まれる局所進行・転移性の固形がんで、新たな薬物療法を希望する患者さんなどが主な対象です。検査結果は、がんゲノム医療に関わる複数の専門家によるエキスパートパネルで検討され、使用可能な薬や臨床試験の情報が担当医へ返されます。

がん遺伝子パネル検査を受けても、必ず新しい治療が見つかるわけではありません。治療に関係する遺伝子変化が見つからない場合や、変化が見つかっても国内で使用できる薬がない場合があります。対応する臨床試験があっても、実施施設、過去の治療、全身状態などの参加条件を満たせないことがあります。

また、検査によって、乳がんの治療選択とは別に、生まれつきがんを発症しやすい遺伝子の変化が疑われることがあります。その結果は血縁者にも関係する可能性があるため、結果をどこまで知りたいかを事前に確認し、必要に応じて遺伝カウンセリングを受けます。

検査結果が出るまでには一定の時間がかかります。体調や臓器機能が急速に悪化してから検査を始めると、結果が出た時点で新しい治療や臨床試験を受けにくくなっていることもあります。標準治療の選択肢が少なくなってきた段階で、検査を行う時期について主治医へ相談しておくことが大切です。

参考:がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査|国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター

臨床試験や治験も治療選択肢の一つ

臨床試験では、まだ標準治療として確立していない新しい薬や、既存薬の新たな組み合わせについて、効果と安全性を調べます。治験は、臨床試験のうち、薬や医療機器の承認を得ることを目的として行われる試験です。現在の標準治療も、過去の臨床試験によって効果と安全性が確認され、確立されてきました。

臨床試験は、効果が保証された特別な治療ではありません。期待した効果が得られない可能性や、これまで知られていない副作用が起こる可能性があります。参加には、乳がんのサブタイプ、使用した薬、遺伝子検査の結果、臓器機能、全身状態など、試験ごとに定められた条件があります。希望しても必ず参加できるわけではなく、実施している医療機関への通院が必要になる場合もあります。

臨床試験への参加を考える場合には、試験の目的、期待される利益、分かっている副作用、追加で必要になる検査や通院、費用、参加しなかった場合の標準治療を確認します。参加への同意後でも、本人の意思で中止できます。

標準治療が終了してから初めて探すのではなく、次の治療を検討する段階で、該当する試験がないか担当医へ尋ねる方法もあります。国内で実施されている乳がんの臨床試験は、国立がん研究センターのがん情報サービスから検索できます。

参考:がんの臨床試験を探す|国立がん研究センター がん情報サービス

臨床試験と自由診療は区別して考える

標準治療で効果が乏しくなると「最先端治療」「個別化治療」「副作用の少ない治療」などを掲げる自由診療に関心を持つことがあります。しかし、新しいという言葉が、標準治療より効果が高いことを意味するわけではありません。

臨床試験は、倫理審査や法律に基づき、治療の効果と安全性を科学的に評価する仕組みです。一方、自由診療の中には、乳がんに対する有効性が十分に証明されていない治療も含まれます。自由診療では治療費だけでなく、診察、検査、入院、副作用への対応も全額自己負担になる場合があります。

自由診療を検討するときには、どの臨床試験でどの程度の効果が示されたのか、乳がん患者を対象とした比較試験があるのか、治療によって寿命や生活の質が改善した根拠があるのかを確認します。「標準治療ではないから効果がない」と一律に決めつけるのではなく、研究段階の医療として適切に評価されているかを見分けることが必要です。

セカンドオピニオンで治療方針を確認

治療選択肢が少なくなったと説明された場合や、がん遺伝子パネル検査・臨床試験を検討したい場合には、乳がん薬物療法やがんゲノム医療を専門とする医師からセカンドオピニオンを受ける方法があります。

セカンドオピニオンは、現在の主治医を変更するための制度ではなく、診断や治療方針について別の医師の意見を聞き、自分が納得して治療を選ぶための仕組みです。別の標準治療や臨床試験が見つかることもありますが、現在の治療が妥当だと確認されることもあります。

相談時には、病理報告書、画像検査、これまで使用した薬とその効果、副作用、遺伝子検査の結果などが必要です。特に、薬の名称だけでなく、いつからいつまで使用し、なぜ中止したのかが分かる治療経過は、次の選択肢を判断する重要な資料になります。

参考:セカンドオピニオン|国立がん研究センター がん情報サービス

抗がん治療を続けるかは利益と負担を比べて判断

新しい薬が存在しても、その治療を受けることが常に最善とは限りません。腫瘍を縮小できる可能性が低い一方で、強い倦怠感、感染症、下痢、しびれなどによって、食事や睡眠、家族との時間が大きく損なわれる場合があります。治療を続けるかどうかは、薬が残っているかだけでなく、期待できる効果、その効果が現れるまでの時間、副作用、現在の臓器機能、本人が大切にしたい生活を含めて判断します。

抗がん治療による利益が乏しくなった場合でも、痛みや息苦しさを抑える薬、骨や脳転移への放射線治療、胸水を抜く処置、緩和ケア、訪問診療などは続けられます。抗がん剤を使わない選択は、医療を何も受けないという意味ではありません。

標準治療で効果が乏しくなったときには、すぐに「治療法がない」と結論づけるのではなく、病理とバイオマーカー、未使用の標準治療、がん遺伝子パネル検査、臨床試験を順番に確認します。そのうえで、治療によって得られる利益と生活への負担を比較し、現在の自分に合う選択を考えることが大切です。

乳がんステージ4の治療選択肢は増えている

乳がんステージ4の治療では、サブタイプや過去の治療歴に応じて、複数の薬を順番に使用します。近年は新しい薬が承認されただけでなく、従来は治療対象にならなかった患者さんにも選択肢が広がっています。

たとえば、以前はHER2陰性とまとめられていた乳がんの中でも、HER2-lowやHER2-ultralowに該当すれば、抗体薬物複合体を検討できる場合があります。ホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がんでは、ESR1、PIK3CA、AKT1、PTENなどの遺伝子変化を調べ、内分泌療法が効きにくくなった仕組みに応じて薬を選べるようになっています。HER2陽性乳がんでは、脳転移への効果も検討された薬が国内で使用できるようになりました。

また、がん細胞の表面にあるHER2やTROP-2を目印として抗がん剤成分を届ける抗体薬物複合体も増えています。通常の抗がん剤とは異なる効果を期待できる一方、間質性肺疾患、骨髄抑制、下痢、口内炎など、薬ごとに注意すべき副作用があります。新しい薬だから副作用が少ないとは限りません。

新薬が承認されても、すぐに治療を変更するとは限らない

現在の治療で病気を抑えられ、副作用も許容できている場合には、新薬が登場したという理由だけで治療を変更する必要はありません。効果のある薬を早く中止すると、その治療によって病気を抑えられる期間を十分に生かせない可能性があります。ステージ4乳がんでは、現在の治療効果を保ちながら、次に使える薬を残しておくことも治療計画の一部です。

画像検査で病変の増大が確認された場合や、症状や臓器機能が悪化した場合、副作用によって現在の治療を続けにくくなった場合には、次の選択肢を検討します。その際は、新薬の名称だけでなく、現在のホルモン受容体やHER2の状態、遺伝子変化、これまでに使用した薬を改めて確認します。

初回診断時の病理検査から長い期間が経過している場合や、病理報告書に「HER2陰性」としか記載されていない場合には、保存されている組織の再評価や、転移巣の再生検によって新しい治療対象に該当すると分かることもあります。

遺伝子検査や臨床試験も治療候補を探す方法

標準治療の選択肢が少なくなった場合には、がん遺伝子パネル検査によって、遺伝子変化に対応する薬や臨床試験を探すことがあります。ただし、遺伝子変化が見つかっても、対応する薬が国内で承認されているとは限りません。臨床試験があっても、過去の治療、臓器機能、全身状態などの参加条件を満たせない場合があります。

血液中のがん由来DNAを調べるctDNA検査も、治療選択に利用され始めています。一部のホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がんでは、画像上の進行が起こる前にESR1遺伝子変異を確認し、内分泌療法を変更できる場合があります。ただし、ctDNA検査が画像検査や組織検査に置き換わるわけではなく、現在のところ利用できる対象や治療条件は限られています。

「最新の治療」と「自分に適した治療」は同じではない

臨床試験で高い効果が報告された薬でも、対象となった患者さんのサブタイプや治療歴が自分と異なれば、同じ効果を期待できるとは限りません。海外で承認された薬が、日本でも同じ条件で保険診療として使用できるとは限らない点にも注意が必要です。

最新治療を検討するときには、国内で承認されているか、自分のサブタイプや治療歴が適応条件に合っているか、現在の治療よりどのような利益を期待できるかを確認します。副作用、点滴や服薬の負担、通院回数、次に残る治療まで含めて判断することが必要です。

転移・再発乳がんで新たに使用できるようになった薬、治療選択に必要な検査、抗体薬物複合体、ctDNA、臨床試験・治験については、以下の記事で詳しく解説しています。

新しい治療が見つからない場合や、現在の治療を続けるべきか判断しにくい場合には、これまでの病理検査、使用した薬、治療効果、副作用を整理したうえで、主治医や乳がんを専門とする医師へ相談します。

乳がんステージ4でよくある質問

乳がんステージ4では、治療法だけでなく、治療がいつまで続くのか、入院が必要なのか、仕事や食事をどうすればよいのかといった疑問も生じます。実際の対応は、使用する薬、転移している臓器、症状、全身状態によって異なります。ここでは、患者さんや家族から寄せられることの多い疑問について解説します。

乳がんステージ4の治療はいつまで続きますか?

ステージ4の薬物療法には「必ず○回で終了する」という共通の治療期間はありません。現在の薬で病気を抑えられ、副作用による負担が許容できる間は、同じ治療を継続することがあります。

画像検査で病変が増えた場合、症状や臓器機能が悪化した場合、副作用によって治療を続けにくくなった場合には、減量、休薬、薬の変更を検討します。抗がん剤を一定期間で終了した後も、内分泌療法や抗HER2薬などを維持療法として続ける場合があります。

転移性乳がんでは、病気を長期間抑えることが治療目標の一つです。一つの薬が効かなくなっても、サブタイプや治療歴に応じて別の薬へ変更できることがあります。治療期間は最初に一度決めるのではなく、効果と負担を確認しながら見直されます。

参考:乳がんの治療|国立がん研究センター がん情報サービス

治療には入院が必要ですか?

乳がんステージ4の薬物療法は、外来で行われることが多くなっています。内服薬は自宅で服用し、点滴や注射も決められた日に通院して受ける方法が一般的です。

ただし、すべての治療を外来で受けられるわけではありません。強い痛みや呼吸困難がある場合、感染症や重い副作用が疑われる場合、肝機能などの臓器機能が急速に悪化している場合には、入院して検査や治療を行うことがあります。

骨折や脊髄圧迫、症状のある脳転移、胸水による強い息苦しさなどに対して、手術、放射線治療、胸水を抜く処置が必要なときも、入院を検討します。入院の有無はステージ4という病期だけで決まるものではありません。治療方法、症状、安全に通院できるか、自宅で副作用へ対応できるかを踏まえて判断します。

参考:薬物療法|国立がん研究センター がん情報サービス

仕事を続けながら治療できますか?

治療と仕事を両立している患者さんはいます。通院日や副作用が現れやすい時期を考慮し、勤務時間、仕事内容、在宅勤務、休暇の取り方を調整することで、仕事を継続できる場合があります。

一方、点滴後の倦怠感、下痢、吐き気、しびれ、集中力の低下などによって、これまでと同じ働き方が難しくなることもあります。体調が安定している日とつらい日の差があるため、治療開始前から復帰時期や勤務量を固定しすぎず、実際の経過を見て調整する方が現実的です。

国立がん研究センターは、がんと診断された直後に仕事を辞めることを急がず、治療内容や体調の見通しを確認したうえで働き方を考えるよう案内しています。がん診療連携拠点病院などのがん相談支援センターでは、就労形態にかかわらず、治療と仕事の両立について相談できます。

参考:がんと仕事:働き方を考える|国立がん研究センター がん情報サービス

食べてはいけないものはありますか?

乳がんステージ4だからという理由だけで、すべての患者さんに共通して禁止される食べ物はありません。医師から特別な指示がなければ、エネルギーやタンパク質などが不足しないよう、無理のない範囲でバランスよく食べることが基本です。

吐き気や味覚の変化、口内炎があるときには、栄養バランスだけを優先して無理に食べる必要はありません。食べられるものを少量ずつ取り、症状に応じて温度、硬さ、味付けを変えます。体重の減少が続く場合には、主治医や管理栄養士へ相談します。

食事内容だけで乳がんを治したり、進行を止めたりする方法は確立していません。極端な糖質制限や特定の食品だけを取る食事療法は、体力や栄養状態を低下させ、薬物療法を続けにくくする可能性があります。

参考:がんと食事|国立がん研究センター がん情報サービス

サプリメントや健康食品を使ってもよいですか?

サプリメントや健康食品の中には、治療薬の効果や副作用に影響するものがあります。食品として販売されていても、薬との相互作用がないとは限りません。

「免疫力を上げる」「がんを小さくする」などと宣伝されていても、サプリメントや健康食品が標準治療の代わりになることは証明されていません。特定の成分を大量に取ることで、肝機能障害や出血などが起きたり、薬の血中濃度が変化したりする可能性もあります。

利用したいものがある場合は、商品名だけでなく、成分や摂取量が分かる容器や資料を医師、看護師、薬剤師へ見せて確認します。すでに使用している場合も、医療者に伝えずに続けたり、急に中止したりせず、治療との影響を確認してください。

参考:がんと民間療法|国立がん研究センター がん情報サービス

運動してもよいですか?

体調が安定していれば、歩行や軽い体操など、無理のない範囲で体を動かすことは、筋力や日常生活動作を保つ助けになります。がんのリハビリテーションは、診断後の早い時期から、治療中や緩和ケアを受ける時期まで検討できます。

ただし、骨転移がある場合には、病変の場所や骨折の危険性によって避けるべき動作があります。脳転移によるふらつき、強い貧血、息切れ、感染症などがある場合も、自己判断で運動量を増やすべきではありません。

運動を始める前に、歩いてよい距離、持ってよい重さ、避けるべき姿勢について、主治医やリハビリテーションの担当者へ確認します。運動中に痛み、息苦しさ、めまい、動悸が現れた場合は中止し、医療機関へ相談してください。

参考:がんとリハビリテーション医療|国立がん研究センター がん情報サービス

どのような症状が出たら早めに病院へ連絡すべきですか?

乳がんステージ4の治療中は、予定された診察日を待たずに相談した方がよい症状があります。

急に強くなった息苦しさ、新しく現れた咳や発熱、意識や話し方の変化、けいれん、片側の手足の動かしにくさ、急激に悪化する痛みなどは、転移による症状や治療の副作用が関係している可能性があります。黄疸や腹部の張り、骨の強い痛みや骨折も、転移部位の状態を確認する必要があります。

嘔吐や下痢が続いて水分を取れない、強い倦怠感で起き上がれない、薬を服用できないといった変化も、脱水や感染症、臓器機能の低下につながる場合があります。

連絡すべき体温や症状の基準は治療薬によって異なります。治療開始時に、夜間や休日の連絡先、どのような症状ならすぐに連絡するのかを確認しておくことが大切です。

乳がんステージ4では、治療を生活へ合わせるだけでなく、生活を守るために治療内容を調整する視点も必要です。副作用や仕事、食事の悩みを我慢し続けるのではなく、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカーなどへ相談することで、治療を続けやすくなる場合があります。

参考:National Cancer Institute「Metastatic Breast Cancer」

納得できる治療を選ぶために

乳がんステージ4では、同じサブタイプであっても、転移している臓器、病気の進行速度、これまでに受けた治療、臓器機能、副作用によって適した治療は異なります。新しい薬や効果の高い薬を選ぶことだけが、納得できる治療につながるわけではありません。

まず確認したいのは、現在の治療で何を目指しているかです。病変を早く縮小させる必要があるのか、進行を長く抑えることを優先するのか、症状を軽くして生活を保つことが中心なのかによって、選ぶ治療は変わります。

治療効果は、画像上の縮小だけでは判断できません。病変が残っていても大きくならず、痛みや息苦しさ、臓器機能が安定していれば、治療によって病気を抑えられていると考えられます。反対に、病変が縮小していても、副作用で食事や仕事、睡眠が大きく損なわれている場合には、減量や休薬、治療変更を検討することがあります。

新薬を検討するときは、自分のホルモン受容体やHER2、遺伝子検査、過去の治療歴が適応条件に合っているかを確認します。現在の治療が効いている場合には、すぐに新薬へ変更せず、次の選択肢として残しておく考え方もあります。

治療方針には患者さん自身の希望も関わります。できるだけ長く仕事を続けたい、通院回数を減らしたい、多少の副作用があっても腫瘍の縮小を優先したいなど、大切にしたいことを医療者へ伝えることで、治療を選びやすくなります。

治療方針に迷う場合には、セカンドオピニオンを利用する方法もあります。現在の治療が妥当だと確認できることも、納得して治療を続けるための大切な判断材料です。

乳がんステージ4の治療では「最も新しい治療」ではなく、現在の病状に合っているか、期待できる効果と負担のバランスを受け入れられるかを考えることが重要です。病状や希望は治療中に変化するため、その都度主治医と治療目標を確認しながら、自分にとって納得できる選択を重ねていきましょう。

HER2陽性乳がんは、乳がん全体の約15〜20%を占めるサブタイプで、がん細胞の表面に「HER2」というタンパク質が過剰につくられているタイプの乳がんです。増殖スピードが速く転移のリスクも高い傾向がありますが、HER2を狙い撃ちにする分子標的薬(抗HER2薬)がよく効くという大きな特徴があります。初期には自覚症状がほとんどなく、乳房のしこり、乳頭の陥没や分泌物、皮膚の変化などをきっかけに見つかることがあります。

本ページでは、HER2陽性乳がんの特徴や原因、症状、診断(マンモグラフィ・生検・HER2検査)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • 乳がん全体の約15〜20%を占め、HER2というタンパク質が過剰につくられているタイプ
  • 増殖が速い一方、HER2を狙い撃ちにする分子標的薬(抗HER2薬)がよく効く
  • 抗HER2薬の登場で治療成績は大きく向上し、早期では5年生存率90%以上

HER2陽性乳がんとは

乳がんは、がん細胞の性質によっていくつかの「サブタイプ(種類)」に分類されます。その中のひとつが「HER2(ハーツー)陽性乳がん」です。

HER2とは、細胞の表面に存在する「ヒト上皮成長因子受容体2型」というタンパク質であり、細胞の成長や修復を助ける働きをしています。

しかし、何らかの理由でHER2をつくる遺伝子が増幅すると、細胞表面にHER2タンパクが大量につくられる「HER2過剰発現」が起こります。この状態になったがん細胞は、増殖のアクセルが踏みっぱなしの状態になり、通常よりも速いスピードで分裂・増殖を繰り返すようになります。

HER2陽性乳がんは、乳がん全体の約15〜20%を占めるサブタイプです。他のサブタイプと比べて増殖スピードが速く、転移のリスクも高い傾向があるとされています。

ただし、HER2陽性乳がんには大きな特徴があります。それは、「HER2タンパクを狙い撃ちにする薬(抗HER2薬)が非常によく効く」という点です。

また、HER2陽性乳がんはさらに「ホルモン受容体(エストロゲンやプロゲステロンというホルモンの受け口)」が陽性かどうかによっても性質が異なります。このようにサブタイプの特徴を正しく把握することが、それぞれの患者様に合った治療を選ぶうえでとても重要です。

HER2陽性乳がんの原因

HER2陽性乳がんの正確な原因は、医学的にもまだ完全には解明されていません。ただ、そのメカニズムについては、少しずつ明らかになってきています。

私たちの細胞には、もともと「HER2」という名前のタンパク質が少量存在しています。このHER2は、細胞が正常に増殖するときのアクセルのような役割を担っています。

ところが何らかの理由でHER2遺伝子が増えすぎると、HER2タンパクが細胞の表面に大量に作られ、アクセルが踏みっぱなしの状態になります。その結果、増殖のブレーキが利かなくなり、がん細胞が生まれると考えられています。

この遺伝子の変化は、生まれつきの体質(遺伝)によるものではなく、多くの場合は生きている間に細胞の中で自然に起こる「後天的な変化」です。特定の生活習慣や行動が直接の原因になるとは言い切れません。

HER2陽性乳がんの診断

「(無)症状」から「確定診断」まで

HER2陽性乳がんは、初期段階では自覚症状がほとんどありません。進行すると、乳房のしこり、乳頭の陥没や分泌物、皮膚がオレンジの皮のようにボコボコする変化などが現れます。良性のしこりも多いため、症状がなくても乳がん検診を受け、気になる変化を感じたらすぐに医療機関を受診することが重要です。

受診すると、医師による「視触診」のほか、X線撮影を行う「マンモグラフィ」や「超音波(エコー)検査」を実施します。これらの画像検査で異常が疑われた場合は、注射針などを用いて細胞や組織を採取する「生検」を行い、がんの有無を確定診断します。

「HER2陽性」と判定されるまでの病理検査の流れ

乳がん診断後、採取した組織を顕微鏡で調べる病理検査によって、HER2陽性かどうかを判定します。

最初に行われる「免疫染色(IHC法)」では、タンパクの染まり具合をスコア0〜3+の4段階で評価します。3+は陽性、0と1+は陰性、2+は「判定保留(グレーゾーン)」です。

判定保留(2+)の場合は、次のステップとして「FISH法」を実施します。これは蛍光色素を用いてHER2遺伝子の数を直接数える検査で、遺伝子の増幅が確認されれば「陽性」と確定し、保険治療による抗HER2薬の治療対象となります。

ステージ(病期)の確定

がんの広がりを客観的に示す「ステージ(病期)」の判定も、診断の重要なステップです。乳がんのステージは、腫瘍の大きさ(T)、リンパ節への転移の有無(N)、他の臓器への遠隔転移の有無(M)の3要素を組み合わせて0期〜Ⅳ期に分類され、これにより具体的な治療方針が検討されます。

このように、HER2陽性乳がんの診断は「画像検査から生検、HER2スコア判定、そしてステージ確定」という一連のプロセスを経て行われます。

HER2陽性乳がんの一般的な治療法

HER2陽性乳がんの治療は、「手術」「放射線療法」「薬物療法」の3つを組み合わせるのが基本です。どの治療をどの順序で行うかは、がんのステージ、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、患者様の希望などをもとに医師と相談して決定します。

現在は、手術の前に抗がん剤と抗HER2薬を組み合わせる「術前化学療法」から始めるアプローチが標準的です。事前に腫瘍を縮小させることで、切除範囲を小さくし、乳房を温存できる可能性を高める目的があります。

手術と放射線療法

手術には、がんとその周辺のみを取り除く「乳房温存手術」と、乳房全体を取り除く「乳房全切除術」があります。温存手術を選択した場合は、残った乳房での再発を防ぐために、術後の放射線療法をセットで行うのが標準です。放射線療法は、手術部位や周辺のリンパ節に残ったがん細胞を根絶し、局所再発のリスクを下げる役割を担います。

薬物療法の主役「抗HER2薬」

治療の中心となるのが、がんの弱点を狙い撃ちにする分子標的薬「抗HER2薬」です。手術前後の薬物療法では、がん細胞の増殖を抑える「トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)」を使用することが多いです。

リンパ節転移など再発リスクが高い場合は、異なる仕組みでがんをブロックする「ペルツズマブ」を追加し、複数の角度からがん細胞を攻撃します。また、術前療法の後に手術でがん細胞が残っていた場合は、強力なミサイル型の抗体薬物複合体「トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)」を用いて再発リスクを低下させます。

治療成績と生存率

かつては予後不良とされていたHER2陽性乳がんですが、抗HER2薬の登場により治療成績は劇的に向上しました。現在、早期HER2陽性乳がんの5年生存率は90%以上とされています。ただし効果や副作用には個人差があるため、担当医と綿密に相談しながら治療を進めることが重要です。

HER2陽性乳がんにおける保険診療の限界

HER2陽性乳がんの保険診療では、手術・化学療法・放射線療法などを組み合わせて治療を進めます。抗HER2薬の登場によって治療成績は大きく改善しましたが、それでも再発や脳転移のリスクは残るため、標準治療だけでは長期的に病状を安定させるのが難しいケースもあります。

実施できる化学療法の限界

抗HER2薬は高い効果が期待できる一方で、保険診療には2つの限界があります。1つ目は、がん細胞が薬への抵抗性を獲得し、別の経路で再び増殖する「薬剤耐性」です。耐性が生じるメカニズムは未解明な部分も多く、時間が経つと効果が低下するケースがあります。2つ目は「脳転移」です。脳には異物を遮断する「血液脳関門」というバリアがあり抗HER2薬が届きにくいため、進行性患者様の25〜50%の方に脳転移が生じることが大きな課題となっています。

化学療法に伴う「きつい」副作用

薬物療法では、心身に重い負担を強いる副作用とも向き合わなければなりません。抗がん剤による吐き気、強い倦怠感、脱毛、感染症リスクなどに加え、抗HER2薬特有の心機能低下や下痢なども起こりえます。長期間の治療や強力な薬の組み合わせにより、激しい身体的・精神的苦痛から治療の継続が難しくなったり、生活の質(QOL)が著しく低下したりするリスクがあります。

保険診療ではカバーしきれない再発・進行のリスク

保険診療では確立された標準治療が提供されますが、再発リスクをゼロにはできません。手術後にトラスツズマブを含めた術後補助化学療法を行っても再発のリスクが約15〜30%程度残ります。さらに、標準治療後に増悪・再発した際、保険診療内で選べる有効な手立ては限られてしまうのが実情です。

HER2陽性乳がんで重要な新しい治療の考え方

これまで記載した通り、HER2陽性乳がんは抗がん剤治療や手術などの標準治療を実施しても、脳転移や再発のリスクが問題となるがんです。

このようなリスクを低くしつつ、がんに対する治療効果をより高める治療法が最近注目されてきています。

分子レベルの異常にアプローチする「核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)」

近年、がんの発生や進行に関わる分子レベルの異常に直接アプローチする「核酸医薬」が世界的に注目を集め、研究・臨床応用が進んでいます。

当グループでは、がんの根本的な原因に直接作用することが期待される治療選択肢として、「アプタマー」「siRNAなどのRNA干渉技術」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を取り入れた治療を提供しております。

アプタマー核酸医薬」は、がん細胞に特有の異常なタンパク質にピンポイントで結合し、その働きをブロックすることで、がんの増殖抑制や死滅を狙う治療薬です。一方で「miR-34a mimic核酸医薬」は、がん化によって失われてしまった「体が本来持っているがんを抑制する力」を補い、がんの成長を止め、自然な細胞死(アポトーシス)を促す画期的な治療薬です。

がん中央クリニックグループでは、このように分子レベルの異常にアプローチする治療を用い、患者様一人ひとりに合わせた新たな治療の可能性を追求しています。

がん細胞を狙い撃ちする「がん光免疫療法」

がん光免疫療法は、光に反応する薬(光感受性物質)を体に入れ、そこにレーザー光を当ててがん細胞を破壊する治療法です。医学的には光線力学的療法(PDT)の一種で、日本でも1990年代から一部のがんに保険適用されてきました。

乳がんは体表近くにできる腫瘍であるため、光線が届きやすく治療効果が見込めるがんの1つです。

仕組みは大きく二つあります。一つは「狙い撃ち」です。光感受性物質はがん細胞に集まる性質があり、そこへ特定の波長のレーザーを当てると、薬が反応して活性酸素を発生させ、がん細胞を内側から傷つけます。

使うレーザーは手をかざしても熱くない弱い光で、重要なのは熱ではなく薬を反応させる「波長」です。薬が集まっていない正常細胞は、光が当たっても反応しません。

もう一つは「全身への波及」です。壊れたがん細胞から放出される目印(抗原)を免疫細胞が取り込むことで、残ったがんや全身に散った転移巣への攻撃力が高まると期待されます。つまり局所治療と全身治療の両面を狙える点が特徴です。

また手術・抗がん剤・放射線といった標準治療と併用でき、体への負担が比較的少なく週1回の通院で受けられるため、取り残した微小転移や薬剤耐性がんへの相乗効果を狙う選択肢として位置づけられています。

HER2を標的にする「分子標的ワクチン療法」

分子標的ワクチン療法は、がんの増殖・浸潤・転移に関わるタンパク質「HER2」を標的にした自由診療の治療です。

保険診療では、HER2の発現が比較的少ない場合には抗HER2薬が使えないことが多いです。しかし、一部のがん細胞には発現しているため、HER2をブロックすることで少しでもがん細胞の増殖を抑えられる可能性があります。ただし、標準治療ですでに抗HER2薬を使用している場合には効果が見込みづらいことに注意が必要です。

この治療では、HER2の一部をワクチンとして筋肉注射します。狙いは、患者様ご自身の体内でHER2に対する抗体を作らせることです。抗体ができると、HER2が他の受容体と結合できなくなり、増殖・浸潤・転移を促す信号が止まると想定されています。さらに、抗体がくっついたがん細胞を免疫細胞が攻撃する効果も期待されています。

HER2の発現が少ないと説明された方は、こちらもご覧ください。

当グループの自由診療・治療をおすすめする患者様

当グループで実施可能な治療法はほとんどの患者様にお選びいただけます。以下では、どのような患者様に効果が期待できるのかを解説します。ご自身の状況に照らし合わせてご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

HER2陽性乳がんでは、病状や体力、副作用などの理由で、保険診療の標準治療だけでは選択肢が限られることがあります。そうした場合でも、がんに関わる分子レベルの異常に着目する核酸医薬、がん光免疫療法、分子標的ワクチン療法は、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供することが可能です。

これらの治療法は目立った副作用が現れにくく、「体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方でも、治療の提案が可能です。

さらに、まだ治療ができる体力があるにもかかわらず選択肢がなくなり、緩和を勧められている方にとっても、新たな治療の選択肢として検討いただけます。

がん中央クリニックグループでは、核酸医薬、がん光免疫療法、分子標的ワクチン療法を含め、様々な治療を組み合わせながら患者様の状態や疾患に応じて、患者様一人ひとりに合わせたテーラーメイドの治療を提案、提供しています。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

核酸医薬、がん光免疫療法、分子標的ワクチン療法は、化学療法などの薬物療法や放射線療法と併用でき、相乗効果が期待できます。

なぜなら、化学療法はすでに増殖したがん細胞や産生されたたんぱく質に作用するのに対し、核酸医薬はがん細胞やたんぱく質が作られる前の段階に作用するからです。

そして、がん光免疫療法は薬物でがん細胞に目印をつけて破壊する方法だからです。

このように当グループが提供する治療法は、標準治療が攻撃するポイントが異なるため、標準治療と組み合わせることでより高い効果が期待できます。

このように、HER2陽性乳がんの完治を目指すには複数の治療法を組み合わせることが重要です。標準治療(手術前後の抗がん剤治療を含む)を受けている患者様にも、核酸医薬、がん光免疫療法、分子標的ワクチン療法の併用は選択肢となります。

再発を抑制・防止するため―手術前後の患者様

HER2陽性乳がんは、手術を行っても再発しやすい疾患です。手術に加えて術後補助化学療法を行っても約15〜30%程度の患者様が再発するとされています。また、抗がん剤には副作用があるため、体力に不安のある高齢の患者様や副作用が心配な患者様には実施が難しいこともあります。

こうした背景から、手術前後の患者様が核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、がん光免疫療法、分子標的ワクチン療法を併用することは、再発リスクを下げる一つの選択肢として検討いただけます。

治療を継続しやすい副作用

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、がん光免疫療法、分子標的ワクチン療法には目立った副作用が起こりにくいです。特に、化学療法で起きやすい嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。核酸医薬の副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などがあります。

その他、がん光免疫療法には、照射部位の赤み、熱感、日光による影響など、分子標的ワクチン療法には、注射部位反応(赤み、腫れ、痛みなど)、疲労感、発熱が見られることがあります。

解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半であり、治療を継続するのに支障をきたしません。

「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」といった方でも受けていただける治療となっております。

HER2陽性乳がんの完治を目指して、保険診療と患者様に合った自由診療を組み合わせる

HER2陽性乳がんは、適切に治療を行えば完治を目指せる疾患です。

発症要因の一つに遺伝子異常があるため、保険診療と核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、がん光免疫療法分子標的ワクチン療法などを組み合わせる集学的治療が有効な選択肢となります。保険診療だけではカバーしきれない場合にも、これらの治療によって腫瘍縮小効果や再発抑制効果が期待できます。

がん中央クリニックグループでは、このような「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがん治療をご提案いたします。HER2陽性乳がんの患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。

トリプルネガティブ乳がん(Triple Negative Breast Cancer/TNBC)は、乳がん全体の約10〜15%を占めるサブタイプで、エストロゲン受容体・プロゲステロン受容体・HER2のすべてが陰性の乳がんです。この3つが治療の標的にならないため、ホルモン療法やHER2標的薬が効きにくく、抗がん剤(化学療法)が治療の中心となります。

比較的増殖が速く、若い年代でも発症がみられる一方、抗がん剤の効きは比較的良いという特徴もあります。乳房のしこりや形の変化、皮膚のくぼみ、乳頭からの分泌物などをきっかけに見つかることがあります。

本ページでは、トリプルネガティブ乳がんの特徴や原因、症状、診断(マンモグラフィ・エコー・針生検)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • 乳がん全体の約10〜15%を占め、増殖が速く進行しやすいタイプ
  • エストロゲン受容体・プロゲステロン受容体・HER2のすべてが陰性で、ホルモン療法やHER2標的薬が効きにくい
  • 抗がん剤は比較的よく効くが、再発率が高いため治療選択が重要

トリプルネガティブ乳がん(TNBC)とは

トリプルネガティブ乳がん(Triple Negative Breast Cancer/TNBC)は、乳がんの一種で、女性に多くみられるがんです。乳がん全体の約10〜15%を占めます。

乳がんにはホルモン受容体と呼ばれる「エストロゲン受容体」「プロゲステロン受容体」や、「HER2」という治療の目印になるタンパク質を認める場合があります。

しかし、トリプルネガティブ乳がんはこの3つの標的すべてがほとんど発現していない乳がんです。乳がんには以上のように様々な種類があり、これらをサブタイプと呼びます。

トリプルネガティブ乳がんは、比較的増えるスピードが速く、進行しやすい特徴があるため、予後不良のサブタイプとも言われます。そのため、発見された時にしこりが大きくなっていたり、リンパ節に広がっていたりすることもあります。

初期症状としては、局所の増大による乳房のしこりや形の変化、皮膚のくぼみが見られます。また乳管などに浸潤すると乳頭からの分泌物などが見られ、進行すると体重減少や強いだるさといった全身症状が現れることもある病気です。

トリプルネガティブ乳がん(TNBC)の原因

トリプルネガティブ乳がんは、数多くの要因により発症していると言われています。

例えば、遺伝的な要因と関連が深いBRCA1・BRCA2遺伝子の異常や、若い年齢での発症、家族に乳がんの人がいることなどが乳がん発症のリスクとして知られています。

また、細胞の増殖をコントロールする遺伝子(TP53、PIK3CA、BRAFなど)に異常が起こることで、細胞が増え続け、乳がんを発症すると考えられています。特にTP53は、DNAに損傷が起きた際に細胞の修復を促したり、修復できない異常な細胞をアポトーシス(自然死)に導いたりする、がん抑制遺伝子です。

生存率を高めるためにはこのような遺伝子異常を考慮しながら治療を行うことが重要です。特に若年性乳がんの場合は医師に相談することが大切です。

トリプルネガティブ乳がん(TNBC)の診断

トリプルネガティブ乳がんは、いくつかの検査を組み合わせて医師が診断します。まず、マンモグラフィや乳腺エコー検査(超音波検査)でしこりの有無を調べます。必要に応じてMRI検査を行うこともあります。

その後、しこりの一部を採取する「針生検」を行い、顕微鏡でがんかどうかを確認します。さらに、ホルモン受容体やHER2抗体の検査を実施し、トリプルネガティブ乳がんだと診断します。また、CT検査やPET-CT検査などで、リンパ節や他の臓器にがんが転移していないかどうかも確認します。

トリプルネガティブ乳がん(TNBC)の一般的な治療法

トリプルネガティブ乳がんの治療は、がんの大きさや広がり、体の状態によって決まります。主な治療は、手術、抗がん剤(化学療法)、放射線治療、免疫療法などの集学的治療です。

 早期の場合(まだ広がっていない場合)

がんが乳房の中にとどまっている場合は、手術でしこりを取り除く治療を行います。再発を防ぐ目的で手術の前後に抗がん剤治療を行うことも多いです。

トリプルネガティブ乳がんは、抗がん剤が比較的よく効くと言われており、治療によってしこりが小さくなりやすいと報告されています。

進行している場合・再発した場合

乳房以外の臓器に広がっている場合は、抗がん剤や免疫療法が中心になります。

ただし、保険診療ではホルモン療法HER2を標的とした分子標的薬などの治療が選択されることは少ないため、他の乳がんとは異なる抗がん剤などを用いた化学療法を行います。

放射線治療について

放射線治療は、手術後の再発を防いだり、症状をやわらげるために行われることが多い治療法です。

トリプルネガティブ乳がん(TNBC)における保険診療の限界

現在の保険診療では、手術、抗がん剤、免疫療法、放射線治療が行われますが、トリプルネガティブ乳がんは再発のリスクが比較的高いタイプとされています。

実施できる化学療法の限界

トリプルネガティブ乳がんは抗がん剤が効きやすい一方で、再発した場合には治療が難しくなることがあります。

治療には、アントラサイクリン系やタキサン系、プラチナ製剤(カルボプラチンなど)といった抗がん剤が用いられます

ただし、このような抗がん剤を使用する際には、効果と副作用のバランスを考えながら、無理のない範囲で続けていけるように探していくことが大切です。

化学療法に伴う副作用

化学療法では、吐き気、だるさ、脱毛、感染しやすくなる(白血球の低下)などの副作用が見られます。

副作用が強く出てしまうと、日常生活が普段通りに送れずに辛い日々を過ごすことになります。

特に高齢者や様々な合併症を持つ患者様はこの副作用が現れやすく注意が必要です。

保険診療ではカバーしきれない再発・進行のリスク

トリプルネガティブ乳がんは、手術後3〜5年以内に再発することが比較的多く、全体の約半数の患者様で再発がみられると報告されています。

この再発を抑えるために、手術前後で抗がん剤治療を行う場合があります。

ただ、この術前に抗がん剤治療を実施した場合、抗がん剤の効果が非常に高い患者様でも再発率は10%までしか下がりません。このような患者様は、抗がん剤によって病理学的完全奏効 (pCR)が得られた、つまりは完全に腫瘍が消え去った患者様です。

一方で、抗がん剤の効果が乏しい場合には、50%以上もの患者様が再発してしまいます。

このように手術を行い、抗がん剤治療を組み合わせても早い時期に再発する傾向があるため、治療後も定期的な検査と体調の変化に注意することが重要です。

トリプルネガティブ乳がんの治療の考え方

トリプルネガティブ乳がんでは、現時点で最も重要なのは、「遺伝子異常の有無を調べること」と「免疫療法の適応を評価すること」です。特にTP53、PIK3CA、BRAF遺伝子変異はトリプルネガティブ乳がんで比較的高頻度とされ、標的治療の候補となりえます。

また、トリプルネガティブ乳がんではPD-L1高発現例が40~50%程度もあることが報告されており、免疫チェックポイント阻害薬が有効となる可能性があります。ただし、すべての症例で有効とは限らず、遺伝子異常、全身状態、腫瘍量などを総合して判断する必要があります。

がん中央クリニックでは、PD-L1に対して外側からの無力化と内側からのmRNA分解を同時に行う「ハイブリッド免疫療法」も提供しています。

がんの性質に合わせてアプローチする「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」

近年、発症や進行に関わる分子レベルの異常に着目した核酸医薬が注目され、研究・臨床応用が進んでいます。

その中でも特に当院では、根本的な原因に直接作用することが期待される「アプタマー」「RNA干渉を利用した核酸医薬(siRNA など)」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を、新たな治療の選択肢として提供しています。

アプタマー核酸医薬は、がんに特有に発現している異常なタンパク質に結合することで、その働きを抑えてがん細胞の増殖を抑制したり死滅させたりする次世代の治療薬です。

miR-34a mimic 核酸医薬は、がんになって失われた体に本来備わる「がんを抑える力」を取り戻す新しい治療薬であり、がんの成長や増殖を止め、自然ながん細胞の死滅を促します。

以上のような遺伝子レベルでの最新の治療薬をがん中央クリニックグループのクリニックでは実施できます。

欧米では、がんの部位ではなくどのような遺伝子やタンパク質異常があるか、ということに注目して治療法を決定する研究や臨床試験が行われています。日本では一部の遺伝子レベルの治療が保険でも行われていますが、国際的には遺伝子レベルの治療において遅れを取っています。

がん中央クリニックグループのクリニックではいち早く遺伝子レベルの異常に焦点をあてた診察・治療を導入しています。

「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」治療を推奨する患者様

アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」はトリプルネガティブ乳がんのほとんどの患者様に推奨できる治療法です。

どのような患者様に効果が期待できるのかを以下に具体的に解説します。ぜひご自身のパターンに合わせてご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

トリプルネガティブ乳がんでは、病状や体力、副作用などの理由で、保険診療の標準治療だけでは選択肢が限られることがあります。そうした場合でも、がんに関わる分子レベルの異常に着目する核酸医薬は、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供することが可能です。

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)は目立った副作用が現れにくく、「体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方でも、治療の提案が可能です。

さらに、まだ治療ができる体力があるにもかかわらず選択肢がなくなり、緩和を勧められている方にとっても、新たな治療の選択肢として検討いただけます。

がん中央クリニックグループでは、核酸医薬を含め、様々な治療を組み合わせながら患者様の状態や疾患に応じて、患者様一人ひとりに合わせたテーラーメイドの核酸医薬による治療を提案、提供しています。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」は、トリプルネガティブ乳がんへの化学療法などの薬物療法や放射線療法と併用でき、治療効果として相乗効果が期待できます。

なぜなら、化学療法は産生されたトリプルネガティブ乳がんの細胞やたんぱく質に作用しますが、「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」は、がん細胞やたんぱく質が産生される前段階に作用するため、トリプルネガティブ乳がんの細胞に対して作用するポイントが異なるからです。

そのため、「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」は、抗がん剤治療などの薬物治療や放射線療法といった標準治療を行っている患者様におすすめできる治療法です。トリプルネガティブ乳がんの症例では、手術前や手術後も抗がん剤治療を行う場合がありますが、そのような患者様にもおすすめできます。

がんは放置していると大きくなっていくため、トリプルネガティブ乳がんでは様々な治療法を組み合わせてがんを小さくすることが重要です。標準治療に加えて「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」を併用することで、異なる治療手段からトリプルネガティブ乳がんの縮小を目指せます。

トリプルネガティブ乳がんは乳がんの中でも悪性度が極めて高いと言われています。そのため、完治を目指すためには様々な治療法を組み合わせて治療を行うことが重要です。

再発を抑制、防止するため。手術前後のすべての患者様

トリプルネガティブ乳がんが発見され手術を行った場合、手術後3〜5年以内に再発することが比較的多く、全体の約半数の患者様で再発がみられると報告されています。

保険診療ではこの高確率での再発予防目的に、術前化学療法や術後補助化学療法という抗がん剤治療が勧められるケースがあります。しかし、抗がん剤治療には副作用もあるため、体力があまり無い高齢の患者様や副作用が心配な患者様には実施できません。

したがって、トリプルネガティブ乳がん手術前後のあらゆる患者様は「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」を併用し、再発する可能性を少しでも低くすることが重要と言えます。

治療継続可能な副作用

「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」には目立った副作用が起こりにくいです。特に、化学療法で起きやすい嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などがあります。解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半であり、治療を継続するのに支障をきたしません。

「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」といった方でも受けていただける治療となっております。

トリプルネガティブ乳がんの完治を目指して保険診療と患者様に合った自由診療を組み合わせるのがおすすめ

トリプルネガティブ乳がんは完治(治癒)を目指せる疾患であり、適切に治療を行うことが重要です。

トリプルネガティブ乳がんの発症要因の1つとして遺伝子異常があるため、保険診療と「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」を組み合わせることがおすすめです。保険診療ではカバーできない場合には、「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」を行うことで腫瘍縮小効果や再発抑制効果などが期待できます。

がん中央クリニックグループのクリニックではこのような「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがんの自由診療を提案いたします。トリプルネガティブ乳がんの患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。