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結腸がんcolon-cancer

結腸がんは、大腸のうち盲腸からS状結腸までの「結腸」に発生するがんです。大腸がんは結腸がんと直腸がんを合わせた総称で、2023年に日本で新たに結腸がんと診断された人は102,436人でした。

結腸は右下腹部の盲腸から始まり、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸へと長く続いています。そのため、同じ結腸がんでもどの場所にがんができるかによって、現れやすい症状や手術で切除する範囲が異なります。

たとえば、盲腸や上行結腸など右側にできたがんでは、便がまだ液状に近いため腸が狭くなっても症状が出にくく、貧血や倦怠感をきっかけに発見されることがあります。一方、下行結腸やS状結腸など左側では便が固形になるため、便秘、腹痛、腹部膨満、腸閉塞など通過障害による症状が現れやすくなります。

治療では、早期でリンパ節転移の可能性が低ければ内視鏡治療を行える場合があります。より深く浸潤している場合には、がんがある結腸だけでなく、がんが広がる可能性のあるリンパ節を含めて切除します。さらに、ステージⅡの一部やステージⅢでは、手術後の再発リスクに応じて術後補助化学療法を検討します。

この記事では、結腸がんと大腸がん・直腸がんの違い、右側・左側で異なる症状、検査、ステージ、部位別の手術、腸閉塞が起きた場合の対応、Stage II・IIIの術後補助化学療法、生存率まで解説します。

参考:厚生労働省「令和5年 全国がん登録 罹患数・率 報告」、国立がん研究センター「大腸がん」

結腸がんとは

大腸の分類と名称を解説したイラスト

大腸は、小腸から続く消化管の最後の部分で、長さは約1.5~2mあります。大きく「結腸」と「直腸」に分けられ、このうち結腸には盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸が含まれます。

食べ物の消化によってできた内容物は、小腸から盲腸へ入り、結腸を通過する間に水分が吸収されて徐々に便の形になります。そのため、結腸のどこにがんができるかによって、便の状態や腸管の太さが異なり、症状の現れ方にも違いが生じます。

結腸がんの多くは、結腸の内側を覆う粘膜の腺細胞から発生する「腺がん」です。良性の腺腫性ポリープが少しずつがん化して発生する場合と、正常に見える粘膜から直接がんが発生する場合があります。

右側結腸と左側結腸

結腸は、診療や研究の場面で「右側結腸」と「左側結腸」に分けて考えることがあります。

国立がん研究センターの大腸がんファクトシートでは、盲腸から横行結腸までを右側結腸、下行結腸からS状結腸までを左側結腸と分類しています。

分類 主な部位 特徴
右側結腸 盲腸・上行結腸・横行結腸 便が液状に近く、腫瘍が大きくなっても通過障害が起こりにくいことがある
左側結腸 下行結腸・S状結腸 便が固形になり、腫瘍による狭窄で便通障害や腸閉塞が起こりやすい

右側・左側という区分は症状だけでなく、進行・再発した大腸がんの薬物療法を考える際にも参考になります。ただし、薬物療法の詳細は結腸がん単独ではなく大腸がん全体に共通するため、この記事では後ほど概要にとどめます。

参考:国立がん研究センター「大腸がんファクトシート2024」、国立がん研究センター「大腸がんについて」

結腸がんと大腸がん・直腸がんの違い

「結腸がんと大腸がんは違う病気なのか」と疑問に感じる人もいますが、結腸がんは大腸がんの一種です。

大腸がんという大きな分類の中に、結腸がんと直腸がんがあります。

盲腸からS状結腸までに発生したものが結腸がん、その先の直腸に発生したものが直腸がんです。

比較項目 結腸がん 直腸がん
発生部位 盲腸~S状結腸 結腸より肛門側の直腸
症状の特徴 部位によって貧血、腹痛、便通障害、腸閉塞などの現れ方が異なる 血便、残便感、便が細いなど肛門に近い部位ならではの症状がみられることがある
手術 発生部位と血管・リンパ流に応じて結腸とリンパ節を切除する 骨盤内で直腸を切除し、肛門温存や人工肛門、機能温存も重要になる
放射線・術前治療 根治治療として放射線を使用する場面は限定的 局所進行例では術前化学放射線療法などを検討する場合がある

結腸がんでは、肛門を残せるかどうかよりも、がんがどの結腸にあり、どの血管・リンパ節まで含めて切除すれば根治性を確保できるかが手術上の大きな判断になります。

大腸がん全体の検診・共通する検査や治療については大腸がんの記事、肛門温存や人工肛門、直腸がん特有の術前治療については直腸がんの記事で詳しく解説しています。

参考:国立がん研究センター「大腸がんについて」、国立がん研究センター「大腸がん 治療」

結腸がんはできる場所によって症状が違う

結腸は右下腹部から始まり、おなかの中を大きく回って左下腹部へ続く長い臓器です。同じ結腸がんでも、右側と左側では腸の中を通る便の状態や腸管の太さが異なるため、現れやすい症状にも違いがあります。

右側結腸がんでは貧血などで見つかることがある

盲腸、上行結腸、横行結腸など右側の結腸では、腸の内容物はまだ水分を多く含み、液状に近い状態です。また、腸管の内腔も比較的広いため、腫瘍がある程度大きくなっても便の通り道が完全には塞がれず、通過障害による症状が目立たないことがあります。

そのため、進行していても便秘や腸閉塞が目立たず、腫瘍からの少量の出血が続くことで鉄欠乏性貧血となり、疲れやすさ、息切れ、動悸などをきっかけに見つかる場合があります。さらに進行すると、右下腹部の痛みや腹部のしこりとして気付くこともあります。

右側結腸がんは、進行していても腹部症状が目立たない場合がある点に注意が必要です。

左側結腸がんでは便通障害や腸閉塞が起こりやすい

下行結腸やS状結腸では、水分が吸収されて便が固形に近づいています。そのため腫瘍によって腸管が狭くなると、便が通過しにくくなり、便秘、下痢、排便回数の変化、腹痛、腹部膨満などが現れやすくなります。

狭窄が強くなると、便やガスが通過できなくなり、腸閉塞を起こすことがあります。腸閉塞では強い腹痛、おなかの張り、吐き気・嘔吐、便やガスが出ないなどの症状が現れます。

S状結腸など肛門に比較的近い場所では、血便として気付きやすい場合もあります。

症状だけでがんの場所やステージは判断できない

右側では貧血、左側では便通障害が比較的現れやすいという傾向はありますが、すべての患者がこの通りになるわけではありません。右側結腸がんでも腸閉塞を起こすことがありますし、左側結腸がんでも自覚症状がないまま検診で発見されることがあります。

また、症状の強さとステージも必ずしも一致しません。局所の腫瘍が腸管を強く狭めて腸閉塞を起こしていても、リンパ節や遠隔臓器へ転移していなければステージ4ではありません。反対に、肝臓や肺へ転移していても結腸そのものによる症状が軽い場合があります。

参考:国立がん研究センター中央病院「大腸がんの症状について」、国立がん研究センター「大腸がんファクトシート2024」

結腸がんの初期症状

結腸がんは、早期の段階ではほとんど自覚症状がありません。便潜血検査で陽性になったことをきっかけに大腸内視鏡検査を受け、症状がない段階で発見されることもあります。一方、腫瘍が大きくなったり、出血や狭窄が起きたりすると、血便、便通の変化、腹痛、貧血などが現れます。

血便

結腸がんでは、腫瘍の表面から出血し、便に血液が混ざることがあります。

S状結腸など肛門に近い場所では赤い血として気付く場合がありますが、右側結腸からの出血では便と混ざり、肉眼では分かりにくいこともあります。血便は痔など良性の病気でも起こりますが、自己判断だけで大腸がんを否定することはできません。

便秘・下痢など便通の変化

腫瘍によって腸が狭くなると、便秘、下痢、排便回数の変化などが起こる場合があります。特に左側結腸では便が固形になっているため、狭窄による影響が出やすくなります。

ただし、便秘や下痢は食生活、薬、過敏性腸症候群などでも起こります。以前にはなかった便通の変化が長く続く場合には、原因を確認することが重要です。

腹痛・腹部膨満

便やガスの流れが悪くなると、腹痛やおなかの張りが起こることがあります。腸がほとんど塞がると腸閉塞となり、強い腹痛、嘔吐、排便や排ガスの停止などが起こる場合があります。このような症状がある場合には緊急処置が必要になることもあるため、速やかに医療機関を受診します。

貧血・倦怠感

腫瘍から少量の出血が長期間続くと、鉄欠乏性貧血を起こすことがあります。特に右側結腸がんでは、便に混ざった血液が肉眼で分かりにくく、疲れやすい、息切れがする、顔色が悪いといった貧血症状から発見されることがあります。

体重減少・食欲低下

進行した結腸がんでは、食欲低下や体重減少がみられることがあります。

ただし、これらは結腸がんだけに特有の症状ではありません。体重減少だけで大腸がんかどうかを判断することはできないため、ほかの症状や検査結果と合わせて原因を調べます。

参考:国立がん研究センター「大腸がんについて」、国立がん研究センター中央病院「大腸がんの症状について」

結腸がんの原因とリスク

結腸がんについて、一人ひとりの発症原因を特定することは通常できません。年齢、生活習慣、家族歴、遺伝性疾患、炎症性腸疾患など複数の要因が大腸がんの発症リスクに関係すると考えられています。

年齢・家族歴

大腸がんは年齢とともに発症する人が増えます。また、血縁者に大腸がんになった人がいる場合には、家族歴がない人と比べて発症リスクが高くなることが知られています。

ただし、家族に大腸がんになった人がいるからといって、すべてが遺伝性大腸がんというわけではありません。

飲酒・喫煙・肥満など

大腸がんでは、飲酒、喫煙、肥満などとの関連が知られています。赤肉や加工肉を多く摂取する食生活との関連も研究されていますが、特定の食品だけが結腸がんの直接的な原因になるわけではありません。

禁煙、節度ある飲酒、適度な運動、適正体重、偏りの少ない食事を続けることが、がん予防を含む健康管理の基本になります。

リンチ症候群・家族性大腸腺腫症

遺伝性大腸がんの代表として、リンチ症候群と家族性大腸腺腫症があります。リンチ症候群では大腸がんだけでなく、子宮体がん、胃がん、卵巣がんなど複数のがんの発症リスクが高くなります。家族性大腸腺腫症では大腸に多数の腺腫が発生し、そのまま経過すると大腸がんを発症する危険性が高くなります。

若年で結腸がんを発症した場合や、血縁者に関連するがんが多い場合などには、遺伝性腫瘍について詳しく調べることがあります。

潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患

潰瘍性大腸炎などによって大腸粘膜の炎症が長期間続く場合には、大腸がんの発症リスクが高くなることがあります。病歴や炎症の範囲に応じ、通常の大腸がん検診とは別に定期的な大腸内視鏡検査が必要になる場合があります。

大腸がん全体の原因・予防・検診については、大腸がんの記事でも詳しく解説しています。

参考:国立がん研究センター「大腸がん 予防・検診」

結腸がんの検査と診断

結腸がんが疑われた場合には、大腸内視鏡検査で病変を確認し、組織を採取してがんかどうかを確定します。結腸がんと診断された後は、CTなどを使ってリンパ節や肝臓、肺、腹膜などへの広がりを調べ、ステージと治療方針を決めます。

大腸内視鏡検査と生検

大腸内視鏡検査では、肛門から内視鏡を挿入し、結腸を含む大腸の内側を直接観察します。病変の位置、大きさ、形、表面の状態を確認し、必要に応じて組織を採取して病理検査を行います。

病理検査でがん細胞が確認されることで、結腸がんの確定診断につながります。早期の小さな病変では、検査と同時に内視鏡治療によって病変全体を切除できる場合もあります。

CTでリンパ節・肝臓・肺などへの広がりを調べる

結腸がんと診断された後は、CTを使って腫瘍周囲のリンパ節や肝臓、肺、腹膜などへの転移を調べます。

大腸がんは肝臓や肺へ転移することが比較的多いため、治療前には原発巣だけではなく全身の状態を確認することが重要です。遠隔転移が見つかっても、転移巣の場所や数によっては原発巣と転移巣を両方切除し、根治を目指せる場合があります。

CEA・CA19-9などの腫瘍マーカー

血液検査ではCEAやCA19-9などの腫瘍マーカーを測定することがあります。ただし、結腸がんがあっても正常値のことがあり、良性疾患や喫煙などでも上昇することがあります。そのため、腫瘍マーカーだけで結腸がんの有無を診断することはできません。

診断時の値と、その後の治療中・経過観察中の推移を比較する補助的な指標として利用します。

参考:国立がん研究センター「大腸がん 検査」

結腸がんのステージ

結腸がんのステージは、がんが腸の壁のどこまで入り込んでいるかを示すT分類、領域リンパ節への転移を示すN分類、肝臓や肺などへの遠隔転移を示すM分類を組み合わせて決めます。

ステージ 主な状態
0期 がんが粘膜内にとどまっている
Ⅰ期 がんが粘膜下層または固有筋層まで広がっているが、リンパ節転移・遠隔転移はない
Ⅱ期 がんが固有筋層を越えて広がっているが、領域リンパ節転移・遠隔転移はない
Ⅲ期 領域リンパ節への転移があるが、遠隔転移はない
Ⅳ期 肝臓、肺、腹膜、遠隔リンパ節などへの遠隔転移がある

実際にはⅡ期、Ⅲ期、Ⅳ期はさらに細かく分類されます。

ステージ2と3の違いはリンパ節転移の有無

ステージⅡでは、がんが結腸の壁を越えて外側へ広がっていても、領域リンパ節への転移は確認されていません。

ステージⅡは、ⅡA・ⅡB・ⅡCとさらに分けられ、周囲の臓器まで広がるT4では、同じステージⅡの中でも再発リスクが高くなるため、手術後の治療を考える際に重要になります。

一方、ステージⅢでは領域リンパ節への転移があります。ステージⅢだから必ずステージⅡより原発巣が深く広がっているという意味ではありません。原発巣が比較的浅くても、リンパ節転移があればステージⅢになる場合があります。

ステージ2でも再発リスクが高い場合がある

ステージⅡではリンパ節転移がないため、一般には手術だけで治療が終了することが多くなります。

ただし、T4、腸閉塞や穿孔を伴う場合、病理学的に再発リスクを高める所見がある場合などには、手術後の再発リスクを考えて術後補助化学療法を検討することがあります。

高リスク所見は術後治療を考えるための判断材料ですが、1つの所見だけで治療が自動的に決まるわけではありません。再発リスク、術後補助化学療法によって期待できる利益、副作用、年齢や持病などを合わせて判断します。

ステージ4でも切除できるかどうかで治療が変わる

ステージⅣでは遠隔転移がありますが、すべての患者が同じ状態ではありません。

肝臓や肺に少数の転移があり、原発巣と転移巣をすべて安全に切除できる場合には、手術によって根治を目指せる可能性があります。一方、複数臓器に多数の転移があるなど、すべてを切除することが難しい場合には薬物療法が中心になります。

ステージ4の切除可能性、最新の薬物療法、バイオマーカー、生存率・余命については、大腸がんステージ4の記事で詳しく解説しています。

参考:国立がん研究センター「大腸がん 治療」

結腸がん治療の全体像

結腸がんの治療では、がんの深さ、リンパ節転移、遠隔転移、がんができた部位、年齢や全身状態などを確認し、内視鏡治療、手術、薬物療法などを組み合わせます。

病状 主な治療の考え方
0期~一部のⅠ期 リンパ節転移の可能性が低く、完全切除できると判断されれば内視鏡治療
内視鏡治療では根治が難しいⅠ期・Ⅱ期 リンパ節郭清を伴う結腸切除。Ⅱ期では再発リスクに応じて術後補助化学療法を検討する場合がある
Ⅲ期 手術+術後補助化学療法が基本
Ⅳ期 原発巣と転移巣を切除できるか評価し、切除可能なら手術、切除困難なら薬物療法を中心に治療

直腸がんと異なり、結腸がんでは術前放射線治療が治療の中心になることは通常ありません。

一方、左側結腸がんなどで腸閉塞を起こしている場合には、通常の待機手術とは異なり、まず腸閉塞を解除する処置が必要になることがあります。

参考:国立がん研究センター「大腸がん 治療」

早期結腸がんの内視鏡治療

がんが粘膜内または粘膜下層の浅い部分にとどまり、リンパ節転移の可能性が極めて低いと判断される場合には、腸管を切除せず内視鏡だけで治療できることがあります。

内視鏡治療には、ポリペクトミー、EMR、ESDなどがあります。ただし、内視鏡治療ではリンパ節を一緒に切除することはできません。病変を切除した後の病理検査で、リンパ節転移のリスクが十分低いかを確認することが重要です。

内視鏡で取れた後に追加手術が必要になることがある

「内視鏡で全部取ったと言われたのに、その後に手術を勧められた」という場合があります。これは必ずしも、内視鏡治療に失敗したことを意味しません。

内視鏡治療では病変そのものを切除できますが、周囲のリンパ節を一緒に切除することはできません。そのため、切除した組織を病理検査で詳しく調べ、リンパ節へ転移している可能性がどの程度あるかを評価します。

T1大腸がんでは、リンパ管・血管への侵襲、低分化などの組織学的特徴、高度の簇出などが、リンパ節転移リスクと関連することが知られています。

粘膜下層への深い浸潤も追加手術を考える際の判断材料として用いられてきましたが、近年の研究では、ほかの高リスク所見を伴わず深い粘膜下層浸潤だけが認められる場合には、リンパ節転移リスクは比較的低い可能性が示されています。

「簇出(ぞくしゅつ)」とは、がんが周囲へ広がっていく先端部分で、がん細胞が1個ずつ、またはごく小さな集まりとなって周囲の組織へ入り込んでいる所見です。簇出が多い場合には、リンパ節転移の可能性を考える材料の1つになります。

病理検査でこうした所見が確認された場合には、リンパ節転移の可能性と、年齢・持病・手術による負担などを比較し、結腸と周囲のリンパ節を切除する追加手術を検討します。病理所見の1項目だけを切り離して判断するのではなく、複数の情報を合わせて治療方針を決めることが重要です。

大腸がん全体の内視鏡治療の考え方については、大腸がんの記事でも詳しく解説しています。

参考:国立がん研究センター「大腸がん 治療」、Metter K, et al.「Endoscopic Treatment of T1 Colorectal Cancer」、Zlobec I, et al.「Tumour budding and its clinical implications in gastrointestinal cancers」

結腸がんの手術

内視鏡治療だけでは根治が難しい結腸がんでは、がんがある結腸と、その周囲のリンパ節を切除する手術を行います。

結腸には部位ごとに異なる血管が流れており、リンパ節はそれらの血管に沿って存在します。そのため、結腸がんでは腫瘍だけを部分的に切り取るのではなく、がんが広がる可能性があるリンパ流と血管を考えて、必要な範囲の腸管とリンパ節をまとめて切除します。

国立がん研究センターでは、がんのある場所から口側・肛門側へそれぞれ10cm程度の距離をとって腸管を切除することを基本的な考え方として説明しています。ただし、実際の切除範囲は腫瘍の位置、血管走行、リンパ節郭清範囲などによって決まります。

回盲部切除術

盲腸や回盲部周辺にがんがある場合には、回腸の末端部分と盲腸、上行結腸の一部などを切除する回盲部切除術を行うことがあります。切除後は小腸と残った結腸をつなぎ直します。

腫瘍の位置やリンパ節郭清の必要範囲によっては、より広い右半結腸切除術を選択する場合もあります。

結腸右半切除術

上行結腸など右側結腸にがんがある場合に行われる代表的な手術です。盲腸、上行結腸と横行結腸の一部などを、関連する血管・リンパ節とともに切除し、小腸と残った横行結腸などをつなぎます。

右側結腸は小腸から流れてきた内容物の水分を吸収する部位ですが、一部を切除しても残った腸管が働くため、多くの場合は時間とともに排便状態が安定していきます。

横行結腸切除術

横行結腸にがんがある場合には、がんを含む横行結腸と周囲のリンパ節を切除します。横行結腸は右側・左側それぞれの血管支配が関係する位置にあるため、がんの場所によって切除範囲が変わることがあります。

腫瘍が右寄りであれば右半結腸切除、左寄りであれば左半結腸切除に近い範囲を切除する場合もあり、すべての横行結腸がんで同じ術式になるわけではありません。

結腸左半切除術

下行結腸や横行結腸の左側などにがんがある場合には、左側の結腸と関連するリンパ節を切除する結腸左半切除術を行うことがあります。切除後は残った横行結腸とS状結腸などをつなぎます。

どこまで結腸を切除するかは、腫瘍そのものの位置だけでなく、リンパ節郭清に必要な血管の範囲も考えて決定します。

S状結腸切除術

S状結腸がんでは、がんを含むS状結腸と周囲のリンパ節を切除し、残った下行結腸と直腸側の腸管をつなぎます。

S状結腸は便が固形になり、腸管も比較的狭いため、腫瘍によって狭窄すると便秘、腹痛、腸閉塞などが起きやすい部位です。そのため、S状結腸がんでは腫瘍そのものの切除だけでなく、治療前に腸閉塞を起こしていないかを確認することも重要です。

リンパ節郭清とは

リンパ節郭清は、がんが転移している可能性のあるリンパ節を、周囲の脂肪組織などと一緒に切除することです。

結腸には部位ごとに血管とリンパの流れがあり、手術ではがんの位置や深さ、画像検査でリンパ節転移が疑われるかなどを踏まえて、切除する腸管とリンパ節の範囲を決めます。

手術後には切除したリンパ節を病理検査で詳しく調べます。画像検査では転移がないように見えていても、顕微鏡で初めて小さな転移が確認されることがあります。その結果によって、手術前に予想していたステージと手術後の病理学的ステージが変わる場合があります。

腹腔鏡手術・ロボット支援手術

結腸がんの手術には、開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術などがあります。

腹腔鏡手術では腹部に数カ所の小さな穴を開け、カメラと器具を使って手術します。傷が小さく、術後の回復という面で利点があります。ロボット支援手術も結腸がんに用いられるようになっていますが、「ロボット手術なら必ず根治性が高い」と考えるものではありません。

がんの部位や進行度、過去の手術歴、患者の体格、施設や術者の経験などを踏まえ、安全かつ十分な切除ができる方法を選びます。

参考:国立がん研究センター「大腸がん 治療」

結腸がんで腸閉塞が起きた場合の治療

結腸がんが大きくなり腸管を強く狭めると、便やガスが通らなくなる「閉塞性結腸がん」の状態になることがあります。特に便が固形になっている左側結腸では、右側と比べて通過障害が問題になりやすくなります。

腸閉塞が起きると、腹痛、腹部膨満、吐き気・嘔吐、便やガスが出ないなどの症状が現れます。そのまま放置すると腸管が破れる穿孔や感染などにつながる可能性があるため、通常の結腸がんより緊急性の高い対応が必要になる場合があります。

緊急手術が必要になる場合

腸管が破れている、腹膜炎を起こしている、腸への血流が悪くなっているなどの場合には、緊急手術が必要になることがあります。緊急手術では患者の全身状態や腸管の状態によって、がんを切除して腸をつなぎ直す場合もあれば、安全性を優先して人工肛門を造る場合もあります。

結腸がんで人工肛門になる可能性はありますが、直腸がんのように肛門そのものを切除することが理由とは限りません。腸閉塞や穿孔などの緊急状態で、安全に便を排出できる経路を確保する目的で造る場合があります。

大腸ステントで閉塞を解除してから手術する場合

腸管が狭くなっていても穿孔などの緊急状態がなく、適切と判断される場合には、内視鏡を使って金属製の大腸ステントを狭窄部へ留置し、便やガスが通るようにする方法があります。

根治手術の前にステントで閉塞を解除し、全身状態や腸管の状態を整えてから予定手術を行う方法を「BTS(ブリッジ・トゥ・サージェリー)」と呼びます。

左側の閉塞性結腸がんを対象とした研究では、ステントを用いて閉塞を解除してから予定手術を行う方法が、緊急手術に代わる選択肢の1つとして検討されています。日本の多施設研究でも、ステントを用いた群では緊急手術群と比較して術後合併症が少なく、腫瘍学的な治療成績には明確な差が認められなかったと報告されています。

一方、ステント留置には腸管穿孔、ステントの移動、再閉塞などの合併症が起こる可能性があります。また、閉塞している場所や程度によって技術的な難しさも異なるため、すべての閉塞性結腸がんに行う治療ではありません。

緊急手術を行うか、ステントで閉塞を解除してから予定手術を行うかは、穿孔の有無、閉塞部位、患者の全身状態、根治切除できる可能性、施設や術者の経験などを踏まえて判断します。

人工肛門を造ってから根治手術を行う場合

ステント留置が難しい場合や安全性に問題がある場合には、まず人工肛門を造って便を別の経路へ流し、腸閉塞を解除することがあります。

全身状態や腸管の状態が改善した後、改めてがんを切除する手術を行う場合があります。

バイパス手術を行う場合

がんを安全に切除できない場合や、全身状態などから大きな切除手術が難しい場合には、閉塞している部分を迂回するように腸管をつなぐバイパス手術を行うことがあります。

目的はがんそのものを完全に取り除くことではなく、便が通る経路を確保して腸閉塞症状を改善することです。

参考:国立がん研究センター「大腸がん 治療」、Comparison of survival and perioperative outcome of the colonic stent and the transanal decompression tube placement and emergency surgery for left-sided obstructive colorectal cancer: The CODOMO study、Colonic Stenting as a Bridge to Surgery Versus Emergency Resection in Obstructive Colon Cancer: A Systematic Review of Surgical Outcomes

ステージ2結腸がんの術後補助化学療法

ステージⅡ結腸がんでは、領域リンパ節への転移はありません。そのため、手術でがんを完全に切除できた場合に、すべての患者へ術後補助化学療法を行うわけではありません。

米国国立がん研究所(NCI)のPDQでも、Stage II結腸がんに対する術後補助化学療法の利益はStage IIIほど明確ではなく、再発リスクなどを踏まえて治療を検討する必要があるとされています。

再発高リスクと判断する主な所見

再発リスクを考える際には、手術後の病理検査や、診断・手術時の状況を確認します。

T4、腸閉塞や穿孔、十分な数のリンパ節を検索できていない場合、低分化などの病理学的特徴は、再発リスクを考える際の重要な判断材料になります。脈管侵襲や神経周囲浸潤など、そのほかの病理所見も合わせて評価します。

ただし、こうした所見が1つあるだけで、すべての患者に術後補助化学療法を行うわけではありません。再発リスクの程度、薬物療法によって期待できる利益、年齢や持病、副作用、本人の希望などを踏まえて治療を決めます。

MSI・MMRも治療判断に関係する

ステージⅡ結腸がんでは、MSI・MMRの結果も術後治療を考えるための重要な情報になります。

NCIがまとめている研究では、MSI-HighのStage II大腸がんはMSSと比べて予後が良好な傾向があり、MSIを持つ腫瘍ではフッ化ピリミジン系薬剤による術後補助化学療法の明確な利益が確認されなかったデータがあります。

そのため、Stage IIでは「高リスク因子があるか」だけではなく、MSI・MMRの結果、再発リスク、患者の状態などを合わせて術後治療を考えることが重要です。

抗がん剤を行う場合の期間

再発高リスクのStage II結腸がんでオキサリプラチンを含む術後補助化学療法を選択する場合には、CAPOXやFOLFOXなどの治療法と治療期間を検討します。

高リスクStage IIを対象に3カ月と6カ月の治療を比較した研究では、治療法によって結果が異なり、CAPOXでは3カ月治療が選択肢となる一方、FOLFOXでは6カ月治療の方が再発を抑える効果が高い可能性が示されています。

一方、オキサリプラチンは投与期間が長くなるほど末梢神経障害が問題になりやすくなります。そのため、再発を防ぐ効果と、しびれなどが日常生活へ与える影響の両方を比較して治療内容と期間を決めます。

参考:National Cancer Institute「Colon Cancer Treatment (PDQ®)」、National Cancer Institute「Genetics of Colorectal Cancer (PDQ®)」、Rebuzzi SE, et al.「Adjuvant Chemotherapy for Stage II Colon Cancer」

ステージ3結腸がんの術後補助化学療法

ステージⅢでは領域リンパ節への転移が確認されています。手術によって目に見えるがんとリンパ節をすべて切除できても、画像検査や病理検査では確認できない微小ながん細胞が体内に残っている可能性があります。

そのため、根治手術後には、体の状態や臓器機能などに問題がなければ、再発リスクを下げる目的で術後補助化学療法を行うことが一般的です。

CAPOXとFOLFOX

ステージⅢ結腸がんで代表的な術後補助化学療法がCAPOXとFOLFOXです。

CAPOXは内服薬のカペシタビンと点滴薬のオキサリプラチンを組み合わせる治療です。FOLFOXは5-FU、レボホリナート、オキサリプラチンを点滴で組み合わせます。

どちらもオキサリプラチンを使用するため、手足のしびれなどの末梢神経障害が重要な副作用になります。一方、カペシタビンでは手足症候群や下痢などが問題になることがあり、FOLFOXでは持続点滴のため携帯型ポンプなどを使用する場合があります。

治療法は、再発リスク、腎機能などの臓器機能、年齢、副作用、通院方法、本人の希望などを踏まえて選択します。

3カ月と6カ月の治療期間がある理由

オキサリプラチンを含む術後補助化学療法では、治療期間が長くなるほど末梢神経障害が問題になりやすくなります。そのため、再発を防ぐ効果を大きく損なわずに治療期間を短縮できるかを検討したのがIDEA collaborationです。

NCIのPDQでは、IDEAに参加したステージⅢ結腸がん12,834人の解析について、患者全体では3カ月治療が6カ月治療に劣らないことは統計学的に証明されなかったと整理しています。一方、使用する治療法やT・N分類による再発リスクによって結果には違いがみられました。

再発低リスクではCAPOX 3カ月が選択肢になる

ステージⅢ結腸がんでは、T分類とN分類を組み合わせて再発リスクを考えます。

一般にT1~T3かつN1は再発低リスク、T4またはN2は再発高リスクとして、術後補助化学療法の期間を考える際の目安に用いられます。

IDEAの解析では、T1~T3かつN1の再発低リスク群では、3カ月治療が6カ月治療に対して非劣性でした。また、使用する治療法別では、CAPOXは3カ月治療が6カ月治療に対して非劣性だった一方、FOLFOXでは6カ月治療の方が良好な無病生存期間を示しました。

一方、T4またはN2の再発高リスク群では、3カ月より6カ月治療の方が良好な結果でした。そのため、単に「ステージⅢだから6カ月」「低リスクだから必ず3カ月」と決めるのではなく、CAPOXかFOLFOXかという治療法と、T・N分類による再発リスクの両方を確認して治療期間を決めます。

末梢神経障害と治療継続の判断

オキサリプラチンでは、手足のしびれ、感覚の低下、冷たいものに触れたときの痛みや刺激感などの末梢神経障害が起こることがあります。

NCIがまとめているIDEAの結果では、Grade 2以上の神経毒性は6カ月治療と比べて3カ月治療で大幅に少なくなっていました。

そのため、治療期間は「長ければ長いほど良い」と考えるものではありません。再発を防ぐ効果と、しびれが仕事、着替え、食事、歩行などへ与える影響を比較し、必要に応じて減量、休薬、オキサリプラチンの中止などを検討します。

MSI・MMRも治療判断の参考になる

ステージⅢでもMSI・MMRは、がんの性質や遺伝性腫瘍の可能性などを考えるための重要な情報です。

MSI-High・dMMRではフッ化ピリミジン系薬剤だけを使用した術後治療の効果について、過去の研究で十分な利益が確認されなかったデータがあります。一方、ステージⅢ結腸がんではオキサリプラチンを含む術後補助化学療法が標準的に用いられています。

そのため、MSI-HighまたはdMMRという結果だけを理由に、Stage IIIの術後補助化学療法を一律に省略するものではありません。T・N分類による再発リスク、患者の全身状態、臓器機能、副作用リスクなども含めて治療方針を検討します。

参考:National Cancer Institute「Colon Cancer Treatment (PDQ®)」、National Cancer Institute「Genetics of Colorectal Cancer (PDQ®)」

進行・再発結腸がんの治療

結腸がんが肝臓や肺などへ転移している場合や、手術後に再発した場合には、まず病変をすべて切除できる可能性があるかを評価します。

肝転移・肺転移でも切除を目指せる場合がある

ステージⅣでも、原発巣と肝転移・肺転移などをすべて安全に切除できる場合には、手術によって根治を目指せる可能性があります。

最初は切除が難しくても、薬物療法で腫瘍が縮小し、その後に手術可能となる場合もあります。そのため「遠隔転移がある=手術はできない」と一律に決まるわけではありません。

切除できない場合は薬物療法が中心

すべての転移を切除することが難しい場合には、抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などを使った薬物療法が治療の中心になります。

進行・再発大腸がんでは、KRAS、BRAF、HER2、MSI・MMRなどのバイオマーカーによって治療選択肢が異なります。さらに、進行・再発大腸がんでは原発巣が右側か左側かも、一部の薬物療法を選ぶ際の判断材料になります。

ただし、ここから先は結腸がん固有というより転移性大腸がん全体の治療になります。具体的な薬剤の使い分け、バイオマーカー検査、治療成績、余命については、大腸がんステージ4の記事で詳しく解説しています。

参考:国立がん研究センター「大腸がん 治療」、国立がん研究センター「大腸がん 検査」

結腸がん手術の副作用・手術後の生活

結腸がんの手術では大腸の一部を切除しますが、多くの場合、残った腸管が働くことで徐々に排便状態は安定していきます。

ただし、手術直後から以前とまったく同じ状態になるわけではなく、排便回数や便の硬さが変化したり、手術に伴う合併症が起きたりする可能性があります。

排便回数・便の性状の変化

手術後しばらくは、便が軟らかくなったり、排便回数が増えたり、反対に便秘になったりすることがあります。特に右側結腸を広く切除した場合には、手術直後に便が軟らかくなる人もいます。多くの場合、残った腸管が徐々に適応して排便状態は安定しますが、回復までの期間には個人差があります。

縫合不全

結腸を切除した後には、残った腸管同士をつなぎ合わせます。このつなぎ目から腸内容が漏れる合併症を縫合不全と呼びます。発熱、腹痛などが起こり、感染が強い場合にはドレナージや再手術、人工肛門の造設などが必要になることがあります。

腸閉塞・癒着

手術後には、おなかの中で腸管や周囲の組織がくっつく「癒着」が起こり、後になって腸閉塞の原因になることがあります。強い腹痛、おなかの張り、嘔吐、便やガスが出ないなどの症状がある場合には医療機関へ相談する必要があります。

食事は段階的に通常へ戻していく

手術直後は腸の動きを確認しながら食事を再開し、徐々に通常の食事へ戻していきます。退院後も基本的には特定の食品を一生禁止する必要はありません。ただし、術後早期には一度に大量に食べたり、消化しにくいものを多く摂取したりすると腹部症状が出ることがあるため、体調をみながら調整します。

国立がん研究センターでは、手術後1カ月程度は消化しにくい食品を大量に摂ることによる腸閉塞にも注意するよう説明しています。

仕事・外出への復帰

仕事へ戻れる時期は、手術方法、仕事内容、年齢、体力、術後合併症の有無などによって異なります。デスクワークと重量物を扱う仕事では必要な回復期間も違います。「退院できること」と「以前と同じ仕事量へ戻れること」は別なので、退院後の体力や排便状態をみながら段階的に活動量を増やします。

参考:国立がん研究センター「大腸がん 療養」、国立がん研究センター「大腸がん Q&A」

結腸がんの再発と治療後の経過観察

結腸がんを手術で完全に切除できても、その後に再発する可能性があります。再発リスクはステージ、リンパ節転移、がんの深さ、病理学的特徴などによって異なります。

肝臓・肺などへの再発に注意する

大腸がんは、肝臓や肺へ転移・再発することが比較的多いがんです。このため手術後は、血液検査や腫瘍マーカーだけでなく、CTなどを使って再発がないか確認します。また、大腸内視鏡によって、大腸の別の場所に新しいがんやポリープができていないかを確認することも重要です。

治療後は定期的な検査を続ける

大腸がんでは、治療後3年程度までに再発することが比較的多いため、この時期は特に定期的な検査が重要です。ステージなどに応じて、診察、血液検査、CEA、CT、大腸内視鏡などを組み合わせ、一般に5年間程度を目安として経過観察を続けます。

再発しても手術できる場合がある

再発が確認されても、肝臓や肺などの病変が限られており、すべて安全に切除できる場合には、再び手術によって根治を目指せる可能性があります。一方、切除できない場合には薬物療法を中心に治療します。そのため「再発した=治療できない」「再発した=余命が決まった」と考える必要はありません。

再発した場所、数、切除可能性、バイオマーカー、薬物療法への反応などから、その時点での治療方針を改めて判断します。

参考:国立がん研究センター「大腸がん 療養」

結腸がんのステージ別生存率

結腸がんの予後は、診断された段階でがんがどこまで広がっているかによって大きく異なります。

国立がん研究センターの院内がん登録2014~2015年診断例では、結腸がんの5年ネット・サバイバルは次のようになっています。

ステージ 対象数 5年ネット・サバイバル
Ⅰ期 19,958例 92.1%
Ⅱ期 19,431例 85.7%
Ⅲ期 17,094例 76.2%
Ⅳ期 8,437例 15.8%

全ステージを合わせた結腸がんの5年ネット・サバイバルは70.7%です。

ネット・サバイバルとは、がん以外の死因による影響をできるだけ取り除き、「結腸がんだけが死因になる状況」を仮定して計算した生存率です。

Ⅰ~Ⅲ期では根治を目指せる患者が多い

Ⅰ期ではリンパ節転移がなく、がんが比較的浅い範囲にとどまっているため、内視鏡治療や手術によって根治を目指しやすく、5年ネット・サバイバルは92.1%です。

Ⅱ期ではがんが結腸壁の外へ広がっていますが、領域リンパ節への転移はなく、85.7%です。

Ⅲ期では領域リンパ節への転移があるため再発リスクが高くなりますが、遠隔転移はありません。手術に術後補助化学療法を組み合わせることで根治を目指す治療が行われ、5年ネット・サバイバルは76.2%です。

ステージ4で生存率が大きく低下する理由

ステージⅣでは肝臓、肺、腹膜などへ遠隔転移があるため、原発巣だけを切除しても体内のがんをすべて取り除けない場合が多くなります。そのためⅠ~Ⅲ期と比べ、5年ネット・サバイバルは15.8%まで低下します。

ただし、15.8%という数字を、2026年現在ステージ4と診断された個人の将来へそのまま当てはめることはできません。

この統計は2014~2015年診断例のデータであり、その後、大腸がんでは分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、バイオマーカーに応じた治療などが大きく進歩しています。

さらに、同じステージⅣでも、切除可能な肝転移が少数だけある患者と、多数の臓器へ転移している患者では予後が大きく異なります。生存率は集団の統計であり、個人の余命そのものを示す数字ではありません。

ステージ4の現在の治療成績や余命については、大腸がんステージ4の記事で詳しく解説しています。

参考:国立がん研究センター「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム 結腸がん」

結腸がんの治療で判断が分かれる場面

結腸がんにはステージごとの標準的な治療がありますが、実際の治療はステージだけで自動的に決まるわけではありません。病理検査の結果、再発リスク、年齢、持病、術後の生活、副作用などによって、同じステージでも治療方針が異なることがあります。

内視鏡治療後に追加手術をするか

早期結腸がんでは、内視鏡で病変を取り切れた後に、追加手術をするかどうかが重要な分岐点になることがあります。

追加手術の目的は、内視鏡で見えるがんをもう一度取ることではなく、リンパ節に微小ながん細胞が広がっている可能性に対応することです。病理所見から予測されるリンパ節転移リスクと、手術そのものによる負担を比較して判断します。

ステージ2で術後化学療法をするか

ステージⅡでは原則として手術が中心ですが、T4、腸閉塞、穿孔など再発高リスクを示す可能性のある所見がある場合には術後補助化学療法を検討します。ただし、高リスク因子の有無だけではなく、MSI・MMR、年齢、全身状態、副作用などを含めて判断します。

「抗がん剤をしない=治療が不十分」「抗がん剤をする=必ず再発を防げる」という単純な関係ではありません。

ステージ3で3カ月と6カ月をどう選ぶか

Stage IIIでは術後補助化学療法が基本ですが、治療期間について複数の選択肢があります。再発低リスクでCAPOXを選択する場合には3カ月治療が有力な選択肢になります。一方、再発リスクが高い場合やFOLFOXを用いる場合には、6カ月を含めてより長い治療を検討します。

治療期間を決める際には、再発抑制効果だけでなく、オキサリプラチンによる末梢神経障害が仕事や日常生活へ与える影響も考える必要があります。

腸閉塞時にステント・手術をどう選ぶか

閉塞性結腸がんでは、そのまま緊急手術をする方法、大腸ステントで閉塞を解除してから予定手術をする方法、人工肛門を先につくる方法などがあります。

どの方法が適しているかは、穿孔の有無、閉塞部位、患者の全身状態、根治切除できる可能性、施設の経験などによって異なります。「ステントなら必ず人工肛門を避けられる」「緊急手術なら必ず人工肛門になる」というものではありません。

高齢・持病がある場合

結腸がんの治療を年齢だけで決めることはできません。

高齢でも全身状態が良ければ標準的な手術や術後治療を受けられる場合があります。一方、心臓・肺・腎臓などの持病、日常生活の自立度、認知機能などによっては、治療の負担を考慮して内容を調整することがあります。

治療によって得られる再発抑制効果と、副作用や生活機能低下の可能性を比較して判断することが重要です。

参考:National Cancer Institute「Colon Cancer Treatment (PDQ®)」、National Cancer Institute「Genetics of Colorectal Cancer (PDQ®)」、Rebuzzi SE, et al.「Adjuvant Chemotherapy for Stage II Colon Cancer」、Colonic Stenting as a Bridge to Surgery Versus Emergency Resection in Obstructive Colon Cancer: A Systematic Review of Surgical Outcomes

結腸がんの治療を選ぶときに確認したいこと

結腸がんの治療では、単に「ステージはいくつか」だけでなく、がんができた場所、切除範囲、病理結果、再発リスクまで理解しておくと治療方針を判断しやすくなります。

確認したいこと 確認する意味
結腸のどこにがんがあるか 右半結腸切除、S状結腸切除など手術方法や症状の現れ方に関係する
がんはどこまで深く広がっているか 内視鏡治療でよいか、リンパ節郭清を伴う手術が必要かを判断する
リンパ節転移があるか ステージⅡとⅢを分け、術後補助化学療法の必要性に大きく関係する
腸閉塞や穿孔があるか 緊急手術、ステント、人工肛門など治療手順が変わる場合がある
ステージ2なら再発高リスク所見があるか 術後補助化学療法を行うかを考える判断材料になる
MSI・MMRの結果 特にステージⅡ・Ⅲの術後治療や遺伝性腫瘍の評価に関係する
ステージ3ならどの薬を何カ月使うか 再発リスクと末梢神経障害などの副作用を比較してCAPOX・FOLFOXや治療期間を考える
遠隔転移がある場合にすべて切除できるか ステージ4でも根治手術を目指せるか、薬物療法を中心にするかを決める
治療後の生活へどのような影響があるか 排便、食事、仕事、副作用などを含めて治療を比較できる

まとめ

結腸がんは大腸がんの一種で、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸に発生するがんです。

結腸は長い臓器であるため、どこにがんができるかによって症状の現れ方が異なります。右側結腸では便が液状に近く、がんが進行しても通過障害が起こりにくいため、貧血や倦怠感などから見つかる場合があります。一方、左側結腸では便が固形になり、便秘、腹痛、腹部膨満、腸閉塞などの症状が現れやすくなります。

早期でリンパ節転移リスクが低ければ内視鏡治療を行える場合がありますが、より深く浸潤している場合には、がんがある結腸と周囲のリンパ節を切除します。回盲部切除、右半結腸切除、横行結腸切除、左半結腸切除、S状結腸切除など、がんの部位によって手術方法が変わるのが結腸がんの特徴です。

また、結腸がんでは腸閉塞が治療に大きく影響する場合があります。閉塞があるときには緊急手術だけでなく、大腸ステントや人工肛門によって先に閉塞を解除し、その後に根治手術を行う方法もあります。

結腸がんの治療を考える際には、ステージだけでなく、どの場所にがんがあるのか、どこまで切除するのか、リンパ節転移があるのか、術後治療が必要なのかを確認することが重要です。

大腸がん全体の検診や共通する治療については大腸がんの記事、直腸がん特有の肛門温存・人工肛門・術前治療については直腸がんの記事、遠隔転移がある場合の薬物療法・バイオマーカー・余命については大腸がんステージ4の記事で詳しく解説しています。

直腸がんは、大腸のうち肛門に近い「直腸」に発生するがんです。大腸がんは結腸がんと直腸がんを合わせた総称であるため、直腸がんも大腸がんの一種です。しかし、直腸は狭い骨盤の中にあり、肛門や膀胱、生殖器、排尿・性機能に関係する神経などと近接しているため、結腸がんとは手術方法や治療後の生活への影響が異なります。

特に治療では、がんを十分に取り切れるかだけでなく、肛門を残せるか、人工肛門が必要になるか、排便・排尿・性機能をどの程度保てるかまで考える必要があります。進行度やがんの位置によっては、手術だけでなく手術前の放射線治療や薬物療法を検討する場合もあります。

直腸がんは早期ではほとんど症状がないことがありますが、進行すると血便、便が細くなる、便秘や下痢を繰り返す、便が残っている感じがするといった症状が現れることがあります。症状だけで直腸がんの有無やステージを判断することはできないため、異常が続く場合には大腸内視鏡検査などによる確認が重要です。

この記事では、直腸がんと大腸がん・結腸がんの違い、初期症状、原因、検査、ステージから、内視鏡治療、手術、肛門温存、人工肛門、術前治療、薬物療法、治療後の後遺症、生存率まで、2026年時点の情報をもとに解説します。

参考:国立がん研究センター「大腸がん(結腸がん・直腸がん)」

直腸がんとは

大腸の構造と直腸の位置を示すイラスト

大腸は小腸に続く消化管の最後の部分で、長さは約1.5~2mあります。大腸は大きく「結腸」と「直腸」に分けられ、結腸は盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸から構成され、その先に直腸、肛門が続きます。

直腸はさらに直腸S状部、上部直腸、下部直腸に分けられます。同じ直腸がんでも、がんが上部にあるのか、肛門に近い下部にあるのかによって、手術方法や肛門温存の可能性、側方リンパ節郭清の必要性などが変わります。

直腸がんの多くは、直腸の内側を覆う粘膜の腺細胞から発生する「腺がん」です。良性の腺腫が徐々にがん化する場合と、正常に見える粘膜から直接がんが発生する場合があります。

直腸は便をためて排便につなげる役割がある

直腸には、結腸から送られてきた便を一時的にため、便がたまることで便意を感じて排便につなげる役割があります。この機能は、直腸がんの手術後の生活を考えるうえで重要です。

直腸を大きく切除すると、便をためる能力が小さくなるため、肛門を温存できた場合でも排便回数が増えたり、急な便意が起きたり、短時間に何度もトイレへ行ったりすることがあります。

そのため直腸がんでは、「肛門を残せるか」だけでなく、「残した後にどの程度の排便機能を期待できるか」まで考えて治療を選択することが重要です。

参考:国立がん研究センター「大腸がんについて」、国立がん研究センター「大腸がん 療養」

直腸がんと大腸がん・結腸がんの違い

「直腸がんと大腸がんは別の病気なのか」と疑問に感じる人もいますが、直腸がんは大腸がんの一種です。大腸がんという大きな分類の中に「直腸がん」と「結腸がん」があります。

したがって、直腸がんと大腸がんは対立する病名ではありません。「大腸がんのうち、直腸に発生したものが直腸がん」と考えると分かりやすいでしょう。

一方、結腸がんと直腸がんでは、発生する場所の違いによって治療上の重要な違いがあります。

比較項目 直腸がん 結腸がん
発生部位 大腸の肛門側にある直腸 盲腸~S状結腸
周囲の構造 狭い骨盤内にあり、肛門・膀胱・前立腺・子宮・自律神経などに近い 腹腔内に位置する部分が多い
主な手術 前方切除術、直腸切断術、括約筋間直腸切除術など 右半結腸切除、横行結腸切除、左半結腸切除、S状結腸切除など
肛門温存 がんの位置によって重要な治療課題になる 通常は肛門そのものを切除する問題は生じない
人工肛門 一時的または永久的な人工肛門が必要になる場合がある 腸閉塞など状況によって必要になることはあるが、直腸がんほど中心的な問題ではない
術前治療・放射線 局所進行例では術前治療が検討されることがある 放射線治療の役割は限定的

直腸がんでは「局所で再発させないこと」が特に重要

直腸は狭い骨盤の中にあるため、周囲の臓器や神経との距離が近く、十分な切除範囲を確保することが結腸より難しい場合があります。また、下部直腸には骨盤の側方へ向かうリンパ流があるため、側方リンパ節への転移も重要な問題になります。

このため日本の直腸がん手術では、直腸周囲の脂肪組織を適切な層で切除する手術や、一定の下部直腸がんで側方リンパ節郭清を行うことが、局所再発を抑えるための重要な治療戦略になっています。

大腸がん全体の位置づけや、結腸がん・直腸がんの関係、検診などについては大腸がんの記事で詳しく解説しています。

参考:国立がん研究センター「大腸がんについて」、国立がん研究センター「大腸がん 治療」

直腸がんの初期症状

直腸がんは、早期の段階では自覚症状がほとんどないことがあります。便潜血検査で異常を指摘されたことをきっかけに大腸内視鏡検査を受け、症状がない段階で発見される人もいます。

一方、直腸は肛門に近く便が通過・貯留する場所であるため、がんが大きくなると血便や排便の変化が現れやすくなります。

血便・便に血が付く

直腸がんでよくみられる症状の1つが血便です。便そのものに血液が混ざる場合だけでなく、便の表面に赤い血液が付いたり、トイレットペーパーに血が付いたりすることがあります。

肛門に近い場所から出血するため比較的赤い血液として見えることがありますが、血液の色だけで出血源を判断することはできません。

「痔だと思っていたら直腸がんだった」という場合もあるため、血便を痔と自己判断して長期間放置しないことが重要です。特に、これまでなかった血便が繰り返す場合や、便通の変化、貧血などを伴う場合には大腸内視鏡検査を検討します。

便が細くなる・便秘や下痢を繰り返す

直腸の内腔が腫瘍によって狭くなると、便が通りにくくなり、以前より便が細く感じられることがあります。また、便秘と下痢を繰り返したり、排便回数が増えたりすることもあります。

ただし便の太さや便秘だけで直腸がんを判断することはできません。食生活、過敏性腸症候群、薬剤など多くの原因で便通は変化するため、以前とは明らかに違う状態が続くかどうかが受診を考える目安になります。

残便感・便が出切らない感じ

直腸は便をためる場所でもあるため、腫瘍によって刺激されると、実際には便がほとんど残っていなくても「まだ便が残っている」「排便してもすっきりしない」と感じる場合があります。

また、何度もトイレへ行きたくなるものの少量しか便が出ない、便意が頻繁に起こるといった症状がみられることもあります。

貧血・だるさ・体重減少

腫瘍から少量の出血が長期間続くと、鉄欠乏性貧血を起こすことがあります。息切れ、動悸、疲れやすさなどから血液検査を受け、貧血の原因を調べる過程で大腸がんが発見される場合があります。

進行すると食欲低下や体重減少がみられることもありますが、これらは直腸がんだけに特有の症状ではありません。

「直腸がんの症状チェック」だけでは診断できない

血便、便が細い、便秘、残便感などは直腸がんで起こり得る症状ですが、これらがあるからといって必ず直腸がんというわけではありません。また、すべての項目に当てはまらなければ直腸がんではない、という意味でもありません。

直腸がんは無症状でも発見されるため、症状チェックは診断の代わりにはなりません。症状がある場合には検診を待たず、医療機関で原因を確認することが重要です。

腸閉塞が起きたらステージ4なのか

がんによって直腸が大きく狭くなると、便やガスが通過できなくなる「腸閉塞」が起こることがあります。腹部の張り、強い腹痛、吐き気・嘔吐、便やガスが出なくなるなどが主な症状です。

腸閉塞は進行した直腸がんで起こりやすい症状の1つですが、腸閉塞があることだけでステージ4と決まるわけではありません。

ステージは、腫瘍が腸壁のどこまで入り込んでいるか、リンパ節転移があるか、肝臓・肺などへの遠隔転移があるかによって決まります。局所の腫瘍が大きく腸閉塞を起こしていても、遠隔転移がなければステージ4ではない場合があります。

便やガスが出ない状態に強い腹痛や嘔吐を伴う場合には緊急の処置が必要になることがあるため、速やかに医療機関を受診する必要があります。

参考:国立がん研究センター「大腸がん」、国立がん研究センター「大腸がん検診について」

直腸がんの原因とリスク

直腸がんの発症原因を一人ひとりについて特定することは通常できません。直腸がんを含む大腸がんでは、生活習慣、年齢、家族歴、遺伝性疾患、炎症性腸疾患など複数の要因が発症リスクと関係します。

年齢・家族歴

大腸がんは40歳代以降から増加し、年齢とともに発症する人が多くなります。また、血縁者に大腸がんになった人がいる場合には、発症リスクが高くなることが知られています。

ただし、家族に大腸がんがいることだけで遺伝性大腸がんと判断されるわけではありません。多くの大腸がんは遺伝性腫瘍ではありませんが、発症年齢や家族歴によっては遺伝性疾患を疑って詳しい評価を行います。

喫煙・飲酒・肥満などとの関連

国立がん研究センターでは、大腸がんの発生リスクを高める要因として喫煙、飲酒、肥満などを挙げています。また、赤肉や加工肉の摂取との関係についても研究されています。

一方で、特定の食品だけが直腸がんの直接的な原因になるわけではありません。がん予防では禁煙、節度ある飲酒、適度な運動、適正体重、バランスのよい食事といった生活習慣全体を整えることが重要です。

大腸ポリープから発生する場合

大腸がんの一部は、良性腫瘍である腺腫が徐々に大きくなり、遺伝子異常が蓄積してがん化する過程を経て発生します。

一方、明らかな腺腫を経ずに正常に見える粘膜から直接発生するがんもあります。そのため、「過去にポリープがなかったから直腸がんにはならない」とは限りません。

リンチ症候群・家族性大腸腺腫症

遺伝性大腸がんの代表として、リンチ症候群と家族性大腸腺腫症があります。

家族性大腸腺腫症では大腸に多数の腺腫が発生し、放置すると大腸がんを発症する可能性が非常に高くなります。リンチ症候群では大腸がんのほか、子宮体がん、胃がん、卵巣がんなど複数のがんの発症リスクが高くなります。

若年で大腸がんを発症した場合や、近い血縁者に関連するがんが多い場合などには、遺伝学的検査や遺伝カウンセリングを検討することがあります。

潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患

潰瘍性大腸炎などによって大腸粘膜の炎症が長期間続くと、大腸がんの発症リスクが高くなることがあります。この場合、一般的な腺腫から発生する大腸がんとは発がん過程が異なることがあり、病歴に応じた定期的な内視鏡検査が必要です。

参考:国立がん研究センター「大腸がん 予防・検診」

直腸がんの検査と診断

血便や便通異常、便潜血検査の陽性などから直腸がんが疑われた場合には、まず直腸や大腸に腫瘍があるかを確認し、組織を採取してがんかどうかを確定します。その後、CTやMRIなどを使って、がんの広がりと転移の有無を調べます。

直腸がんでは、単に「がんがあるか」だけではなく、肛門からの距離、直腸壁のどこまで入り込んでいるか、周囲の臓器やリンパ節との位置関係が手術方法や術前治療の判断に直結します。

直腸指診

直腸指診は、医師が肛門から指を挿入し、直腸内にしこりや異常がないかを確認する検査です。肛門に比較的近い腫瘍であれば、位置、硬さ、周囲との動きなどを直接確認できることがあります。

ただし、指が届かない位置にある腫瘍もあるため、直腸指診だけで直腸がんを否定することはできません。

大腸内視鏡検査と生検

大腸内視鏡検査では、肛門から内視鏡を挿入し、大腸の内側を直接観察します。腫瘍の位置、大きさ、形状などを確認するとともに、疑わしい部分から組織を採取して病理検査を行います。

病理検査によってがん細胞が確認されることで、直腸がんの確定診断につながります。

直腸にがんが見つかった場合でも、結腸側に別のがんやポリープが存在する可能性があるため、可能であれば大腸全体を確認します。

CTでリンパ節・肝臓・肺への転移を調べる

CTでは、直腸周囲や遠くのリンパ節、肝臓、肺などへの転移がないかを調べます。大腸がんは肝臓や肺へ転移することが比較的多いため、治療前の全身評価が重要です。

遠隔転移がある場合でも、転移の数や場所によっては原発巣と転移巣の両方を切除し、根治を目指せる場合があります。そのため、単純に「転移がある=手術できない」とは限りません。

MRIで直腸周囲への広がりを詳しく確認する

MRIは直腸がんの局所進展を評価するうえで重要な検査です。直腸壁の外側へどこまで広がっているか、周囲の組織や臓器との距離、リンパ節の状態などを詳しく調べます。

特に局所進行直腸がんでは、手術だけで十分な切除範囲を確保できるのか、術前治療を行った方がよいのかを判断する材料になります。

CEA・CA19-9などの腫瘍マーカー

大腸がんではCEAやCA19-9などの腫瘍マーカーを血液検査で測定することがあります。

ただし、直腸がんがあっても数値が正常な場合があり、良性疾患などで高くなる場合もあります。腫瘍マーカーだけで直腸がんを診断することはできません。

診断時の値と治療後の推移を比較することで、治療効果や再発を確認する補助的な指標として利用します。

参考:国立がん研究センター「大腸がん 検査」

直腸がんのステージ

直腸がんのステージは、原発巣が腸壁のどこまで深く入り込んでいるかを示すT分類、領域リンパ節への転移を示すN分類、肝臓・肺などへの遠隔転移を示すM分類を組み合わせて決めます。

大きく分けると、ステージⅡまでは領域リンパ節転移がなく、ステージⅢでは領域リンパ節転移があり、ステージⅣでは遠隔転移がある状態です。

ステージ 主な状態
0期 がんが粘膜内にとどまっている
Ⅰ期 がんが粘膜下層または固有筋層まで広がっているが、リンパ節転移・遠隔転移はない
Ⅱ期 がんが固有筋層を越えて広がっているが、領域リンパ節転移・遠隔転移はない
Ⅲ期 領域リンパ節への転移があるが、遠隔転移はない
Ⅳ期 肝臓、肺、腹膜、遠隔リンパ節などへの遠隔転移がある

実際にはⅡ期・Ⅲ期・Ⅳ期はさらに細かく分類されます。治療を決めるときにはステージだけでなく、がんの位置や切除可能性、リンパ節の状態、年齢、全身状態なども合わせて判断します。

ステージ2・3でも症状だけでは区別できない

「ステージ2なら症状が軽い」「ステージ3なら強い症状が出る」とは限りません。

ステージⅡはリンパ節転移がない状態、ステージⅢは領域リンパ節転移がある状態という違いがありますが、リンパ節転移そのものが自覚症状を起こすとは限りません。

そのため、ステージⅡでも腫瘍が腸を狭くしていれば血便や腸閉塞など強い症状が出ることがあります。一方、ステージⅢでも症状がほとんどないまま発見されることがあります。

症状の強さとステージは必ずしも一致しません。正確なステージはCTやMRI、手術後の病理検査などを組み合わせて判断します。

参考:国立がん研究センター「大腸がん 治療」

直腸がんの治療方針

直腸がんの治療では、ステージ、がんの深さ、リンパ節転移、遠隔転移、肛門からの距離、周囲臓器への広がりなどを確認し、根治を目指せるかどうかを判断します。

早期でリンパ節転移の可能性が低い場合には内視鏡治療や局所切除が可能ですが、より深く浸潤している場合には直腸と周囲のリンパ節を切除する手術が必要になります。局所進行例では術前治療を検討する場合があり、遠隔転移がある場合には薬物療法や転移巣への局所治療を含めた治療計画を立てます。

病状 主な治療の考え方
早期がん 条件を満たせば内視鏡治療や局所切除を検討
切除可能Ⅰ~Ⅲ期 手術を中心に、病理結果などから術後薬物療法を検討
局所再発リスクが高い直腸がん 手術に加え、症例に応じて術前治療を検討
遠隔転移あり 薬物療法を中心に、原発巣・転移巣が切除可能であれば手術も検討

直腸がんでは、治療前の段階で「肛門を残せる可能性」「一時的または永久的な人工肛門の可能性」「排便機能への影響」まで確認しておくことが重要です。

参考:国立がん研究センター「大腸がん 治療」

早期直腸がんの内視鏡治療・局所切除

直腸がんが粘膜内または粘膜下層の浅い部分にとどまり、リンパ節転移の可能性が極めて低いと判断できる場合には、腸管を大きく切除せずに治療できる可能性があります。

治療方法には大腸内視鏡を用いた内視鏡治療と、肛門から病変へ到達して切除する局所切除があります。

内視鏡治療

内視鏡治療では、病変の大きさや形に応じてEMR(内視鏡的粘膜切除術)やESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)などを行います。

内視鏡治療のメリットは、おなかを切らずに治療でき、大腸や肛門の機能をほぼそのまま残せることです。一方、内視鏡で見える腫瘍を取り除くだけでは、リンパ節に潜んでいる可能性のあるがん細胞までは治療できません。

そのため、治療後に切除した組織を詳しく調べます。

病理結果によって追加手術が必要になる場合

内視鏡でがんを完全に切除できたように見えても、病理検査によってリンパ節転移のリスクが高いと判断された場合には、追加で直腸切除とリンパ節郭清を検討します。

判断材料には、がんが粘膜下層へどの程度深く入り込んでいるか、脈管侵襲があるか、組織学的な悪性度、切除断端などがあります。

つまり「内視鏡で取れた=必ず治療終了」ではありません。病理結果を確認して初めて、追加治療が必要かどうかを判断できます。

経肛門的局所切除

肛門に近い早期直腸がんでは、肛門から器具を挿入して病変とその周囲を切除する方法を選択できる場合があります。

局所切除は直腸全体を切除しないため体への負担や排便機能への影響を抑えられますが、リンパ節郭清はできません。そのためリンパ節転移リスクが低い病変であることが重要です。

切除後の病理結果によって高リスク所見が見つかった場合には、根治を目的として追加手術を検討します。

参考:国立がん研究センター「大腸がん 治療」、Metter K, et al.「Endoscopic Treatment of T1 Colorectal Cancer」

直腸がんの手術

内視鏡治療や局所切除ではリンパ節転移のリスクを十分に抑えられない直腸がんでは、がんがある直腸と周囲のリンパ節を切除する手術を行います。

直腸は狭い骨盤の奥深くにあり、その周囲には膀胱、生殖器、排尿・性機能を調節する自律神経があります。そのため、結腸がんと比べて解剖学的に難しい手術になることがあります。

直腸がん手術の基本となるTME・TSME

直腸がんの手術では、直腸だけを切除するのではなく、その周囲にある脂肪組織やリンパ節を含む「直腸間膜」を適切な層で切除することが重要です。

直腸間膜を肛門側まで広く切除する方法をTME(全直腸間膜切除術)、腫瘍の位置に応じて必要な範囲の直腸間膜を切除する考え方をTSME(腫瘍特異的直腸間膜切除術)と呼びます。

NCIの直腸がんPDQでも、中部・下部直腸がんではTMEを含む適切な直腸間膜切除が直腸切除の基本となり、上部直腸がんでは腫瘍より肛門側へ必要な直腸間膜を確保して切除する考え方が示されています。

直腸間膜にはリンパ節や血管が含まれているため、がんがある部分だけを小さく切除するのではなく、がんが広がる可能性のある組織を適切な範囲でまとめて取り除くことで、骨盤内での局所再発を抑えることを目指します。

前方切除術・低位前方切除術

がんを十分な範囲で切除したうえで肛門括約筋を残せる場合には、直腸を切除した後に結腸と残った直腸や肛門側の腸管をつなぎ直します。

腹膜反転部より上で腸管をつなぐ方法を高位前方切除術、腹膜反転部より下でつなぐ方法を低位前方切除術と呼びます。

特に低位前方切除術では吻合部が肛門に近くなり、縫合不全のリスクが高くなるため、便が吻合部を通らないよう一時的な人工肛門を造る場合があります。

括約筋間直腸切除術

肛門に近い下部直腸がんでも、がんを安全に取り切れると判断でき、一定の肛門機能を残せると予測される場合には、括約筋間直腸切除術によって肛門を温存できる場合があります。

この手術では内肛門括約筋の一部または全部を切除し、外肛門括約筋などを残して排便機能を維持します。

ただし、肛門を残せることと、治療後に正常な排便機能が保たれることは同じではありません。便失禁や頻回便などによって生活への影響が大きくなる場合もあるため、治療前に予測される排便機能まで確認することが重要です。

直腸切断術

がんが肛門や括約筋に非常に近く、十分な切除範囲を確保するためには肛門も含めて切除する必要がある場合には、直腸切断術を行います。

直腸と肛門を切除した後は、便を排出するため腹部に永久的な人工肛門を造ります。

人工肛門になることを理由に手術へ強い抵抗を感じる人もいますが、無理に肛門を残してがんを取り切れなくなることや、肛門機能が著しく低下して重い便失禁が続くことを避けるという意味もあります。

側方リンパ節郭清

下部直腸がんでは、直腸周囲のリンパ節だけでなく、骨盤の側方にあるリンパ節へ転移することがあります。そのため日本では、局所進行した下部直腸がんに対して、直腸間膜の切除に加えて側方リンパ節郭清を行う治療が発展してきました。

日本で行われたJCOG0212試験では、側方リンパ節が明らかに腫大していないステージ II・IIIの下部直腸がんにおいても、直腸間膜切除のみの群と比べ、側方リンパ節郭清を追加した群で局所再発が少ない結果が示されています。

一方、欧米では術前の放射線治療や化学放射線療法を組み合わせる治療体系が発達しており、側方リンパ節への対応は日本と同じではありません。現在は、MRIなどで側方リンパ節の状態を評価し、術前治療の有無や腫瘍の位置・進行度などを踏まえて治療方法を検討します。

側方リンパ節の周囲には排尿・性機能に関係する自律神経や重要な血管があるため、局所再発を抑えることと、術後の機能をできるだけ保つことの両方を考えて手術を計画します。

腹腔鏡手術・ロボット支援手術

直腸がんでは、開腹手術のほか腹腔鏡手術やロボット支援手術が行われています。

腹腔鏡手術は傷が小さく、術後の痛みや回復という面で利点があります。一方、狭い骨盤内での操作には高度な技術が必要です。

ロボット支援手術では関節を持つ器具を使って骨盤内を操作でき、直腸がん手術で利用される機会が増えています。国立がん研究センターでは、排尿・性機能への影響が少なくなるという報告がある一方、長期的な治療成績については引き続き評価が必要としています。

どの方法が適しているかは、がんの位置・進行度、体格、過去の手術、施設や術者の経験などを踏まえて判断します。

参考:国立がん研究センター「大腸がん 治療」、National Cancer Institute「Rectal Cancer Treatment (PDQ®)」、「The feasibility of laparoscopic TSME preserving the left colic artery and superior rectal artery for upper rectal cancer」、Uemura M, et al.「Surgical Procedure of Lateral Lymph Node Dissection for Advanced Lower Rectal Cancer」

直腸がんでは人工肛門になる?肛門を残せる条件

直腸がんと診断されたとき、多くの人が気になるのが「人工肛門になるのか」という問題です。

直腸がんになったからといって、すべての人が永久人工肛門になるわけではありません。肛門を残せるかどうかは、がんと肛門括約筋との距離、がんの深さ、周囲への広がり、十分な切除範囲を確保できるか、治療後に肛門機能を維持できるかなどから判断します。

肛門を残せるかは「距離」だけでは決まらない

以前は肛門に近い直腸がんでは肛門ごと切除することが多くありましたが、手術技術の進歩によって、かなり肛門に近い病変でも肛門温存が可能になる場合があります。

一方で、がんが括約筋へ入り込んでいる場合や、安全な切除断端を確保できない場合には肛門温存が適切ではありません。

また、解剖学的には肛門を残せても、治療後に高度な便失禁が予想される場合には、生活の質を考慮して永久人工肛門を選択することがあります。

一時的な人工肛門と永久人工肛門は別のもの

低位前方切除術などで肛門を残した場合でも、一時的な人工肛門を造ることがあります。

肛門に近いところで腸をつなぐと縫合不全が起こった際の影響が大きいため、便を一時的に別の出口から排出し、吻合部を休ませることが目的です。吻合部が十分に治癒したことを確認できれば、その後に人工肛門を閉鎖できる場合があります。

一方、直腸切断術で肛門自体を切除した場合には永久人工肛門となります。

この2つは目的も期間も異なるため、手術前には「人工肛門になる可能性がある」とだけ聞くのではなく、一時的なのか永久的なのかを確認することが重要です。

人工肛門になった後の生活

人工肛門では、腹部へ出した腸の出口に専用の装具を取り付けて便を受けます。装具やケア方法は大きく進歩しており、状態が安定すれば仕事、外出、入浴、旅行などを行える人も多くいます。

手術前から皮膚・排泄ケア認定看護師などと相談し、人工肛門を造る位置や装具の使い方について準備しておくことで、退院後の生活へ移行しやすくなります。

人工肛門を避けることだけを治療目標にするのではなく、がんを安全に取り切れること、治療後にどのような排便機能が残るのか、自分の生活ではどちらを受け入れやすいかまで含めて検討することが大切です。

参考:国立がん研究センター「大腸がん 治療」

局所進行直腸がんの術前治療

局所進行直腸がんでは、最初から手術を行うだけでなく、手術前に放射線治療や薬物療法を行う場合があります。目的は、骨盤内での局所再発を抑えること、腫瘍を縮小して安全な切除につなげること、画像では確認できない微小な転移へ早い段階から全身治療を行うことなどです。

直腸がんの術前治療は、腫瘍の位置、MRIで確認した周囲への広がりやリンパ節の状態、予定する手術、側方リンパ節への対応などによって選択します。また、日本と欧米では側方リンパ節郭清や術前放射線治療の位置づけが異なるため、海外の治療体系をそのまますべての日本人患者へ当てはめるものではありません。

術前化学放射線療法とは

術前化学放射線療法は、放射線治療と抗がん剤を組み合わせ、手術前に直腸がんを治療する方法です。

骨盤内の腫瘍やリンパ節へ放射線を照射しながら、フッ化ピリミジン系薬剤などを併用します。腫瘍を縮小させ、局所再発のリスクを下げることなどが目的です。

NCIの直腸がんPDQでも、ステージ II・IIIを含む局所進行直腸がんでは、術前化学放射線療法や短期放射線療法などが治療選択肢として示されています。

TNTとは

TNT(トータル・ネオアジュバント療法)は、放射線治療だけでなく、従来は手術後に行うことも多かった全身薬物療法まで手術前に行う治療戦略です。

手術前に全身治療を行うことで、微小転移への治療を早期に開始できることや、手術後よりも予定した薬物療法を完遂しやすくなることが期待されます。また、治療への反応が非常に良好な患者では、直腸を切除しない臓器温存治療へつながる可能性があります。

海外ではRAPIDO、PRODIGE 23、OPRAなどの臨床試験を背景としてTNTの位置づけが広がっています。一方、日本では手術や側方リンパ節郭清を含む治療体系が欧米と異なり、TNTをどの患者に組み合わせるのが適切かについて国内での検証も続いています。

国立がん研究センター東病院では、2026年4月時点で、下部直腸がんに対するTNTとWatch and Waitの有効性・安全性を検証するJCOG2010を追跡・解析中の臨床研究として掲載しています。

Watch and Waitは「がんが治ったから何もしない」という治療ではない

術前治療後に、直腸指診、内視鏡、MRIなどで明らかながんが確認できなくなる「臨床的完全奏効(cCR)」が得られる患者がいます。

このような患者の一部で、すぐに直腸切除を行わず、非常に厳密な経過観察を続ける方法がNOM(非手術管理)、いわゆるWatch and Wait(積極的経過観察)です。

NCIの直腸がんPDQでは、術前治療後に臨床的完全奏効が得られた患者について、直ちに手術を行う代わりに、厳密なサーベイランスのもとでWatch and Waitを検討することが治療選択肢として示されています。

ただし、臨床的完全奏効は、切除した組織を顕微鏡で確認して「がん細胞が完全にない」と証明した状態ではありません。経過観察中に直腸内で腫瘍が再び確認されることがあるため、直腸指診、内視鏡、MRIなどを繰り返し行い、再増大を早期に発見できる体制が不可欠です。

また、日本ではTNTとWatch and Waitを組み合わせた治療について臨床試験による検証が続いています。そのため、「術前治療でがんが見えなくなった=誰でも手術を省略できる」という意味ではありません。治療経験と厳密な経過観察体制を持つ専門施設で、治療効果、再増大時に救済手術を行える可能性、本人の希望などを踏まえて判断する必要があります。

参考:National Cancer Institute「Rectal Cancer Treatment (PDQ®)」、国立がん研究センター東病院「研究について」、Hashimoto T, et al.「Total neoadjuvant therapy followed by a watch-and-wait strategy for patients with rectal cancer (TOWARd): protocol for single-arm phase II/III confirmatory trial (JCOG2010)」

手術後の薬物療法と進行・再発直腸がんの治療

直腸がんを手術した後は、病理検査によって実際のがんの深さ、リンパ節転移、脈管侵襲などを確認し、再発リスクに応じて術後補助化学療法を検討します。

一方、手術で取り切ることが難しい進行がんや再発がんでは、薬物療法が治療の中心になります。

術後補助化学療法を行う場合

手術を先に行ったステージⅢ直腸がんなどでは、手術後の再発リスクを下げる目的で術後補助化学療法を検討します。フッ化ピリミジン系薬剤や、オキサリプラチンを組み合わせた治療などが候補になります。

ただし直腸がんでは、手術前に化学放射線療法やTNTなどを行ったかどうかによって手術後に必要となる薬物療法の考え方が変わります。術前にどの薬をどの程度使用したか、手術後の病理結果、再発リスク、年齢、臓器機能、副作用などを踏まえて、その後の治療を判断します。

同じステージⅢであっても、すべての患者が同じ薬を同じ期間使用するわけではありません。

切除不能・再発では薬物療法が中心になる

肝臓や肺などへ多数の転移があり、すべてを安全に切除できない場合には薬物療法が中心になります。

大腸がんの薬物療法では、フッ化ピリミジン、オキサリプラチン、イリノテカンなどの抗がん剤と、血管新生を抑える薬やEGFRを標的とする薬、免疫チェックポイント阻害薬などを、がんの特徴に合わせて組み合わせます。

近年は、どの遺伝子異常を持っているかによって治療選択が大きく異なるようになっています。

RAS・BRAF・MSIなどのバイオマーカー

2026年現在、切除不能・再発大腸がんでは、MSI・MMR、RAS、BRAF、HER2、KRAS G12Cなどのバイオマーカーと、それまでに受けた治療によって薬物療法の選択肢が変わります。免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬など、特定の分子学的特徴を持つがんを対象とした治療も増えています。

進行・再発直腸がんでは「どの抗がん剤を使うか」だけでなく「自分のがんにはどの分子学的特徴があるか」が治療選択に直結する時代になっています。

肝転移・肺転移があっても手術を目指せる場合がある

ステージⅣであっても、原発巣と肝転移・肺転移などをすべて安全に切除できる場合には、手術によって根治を目指せる可能性があります。最初は切除が難しいと判断された転移でも、薬物療法によって腫瘍が縮小した結果、手術可能になる場合があります。

このためステージⅣでは「転移があるから手術をしない」と一律に決めるのではなく、原発巣と転移巣それぞれの位置・数・大きさ、薬物療法への反応などから治療方針を検討します。

ステージ4大腸がんの治療やバイオマーカー、薬物療法については、大腸がんステージ4の記事で詳しく解説しています。

参考:国立がん研究センター「大腸がん 治療」、国立がん研究センター「大腸がん 検査」、National Cancer Institute「Rectal Cancer Treatment (PDQ®)」

直腸がん治療の副作用・後遺症

直腸がんの治療では、がんを取り除くことと同時に、治療後の排便・排尿・性機能をどの程度維持できるかが重要です。

特に直腸切除後には、結腸がん手術では目立ちにくい排便障害が生じることがあります。治療を選ぶ段階から、起こり得る後遺症と対処法について確認しておくことが大切です。

低位前方切除後の排便障害

直腸を切除して肛門を残した場合、便をためる直腸の容量が小さくなるため、排便習慣が大きく変化する場合があります。

排便回数が増える、短時間に何度も便が出る、急に強い便意が起こる、便やガスを我慢しにくい、便失禁が起きるなどの症状をまとめて低位前方切除症候群と呼ぶことがあります。

手術後しばらくして改善する人も多い一方、症状が長期間続く人もいます。食事の調整、整腸薬や止瀉薬などの薬物療法、排便方法の工夫、骨盤底筋トレーニングなどを組み合わせて対応します。

縫合不全

直腸切除後に腸管をつなぎ合わせた部分から腸内容が漏れる合併症を縫合不全と呼びます。直腸がんでは吻合部が肛門に近くなるほど縫合不全の影響が大きくなります。発熱や腹痛が起こり、重症の場合には腹膜炎を生じることがあります。

感染が強い場合には、再手術や人工肛門の造設が必要になることもあります。このリスクを減らすため、低い位置で吻合する場合にはあらかじめ一時的人工肛門を造ることがあります。

排尿障害

直腸の周囲には膀胱や尿道の機能を調節する自律神経があります。手術によって神経が影響を受けると、尿意を感じにくい、尿が出にくい、排尿しても残っている感じがするといった症状が起こる場合があります。時間とともに改善する場合もありますが、必要に応じて薬物療法や一時的な自己導尿などを行います。

がんが神経へ広がっていない場合には、根治性を損なわない範囲で自律神経を温存する手術を行います。

性機能障害

骨盤内の自律神経は性機能にも関係しています。男性では勃起障害や射精障害、女性では腟の潤滑や性交に関する問題などが起こる場合があります。

性機能については患者側から相談しにくいこともありますが、治療後の生活に重要な問題です。妊娠・出産の希望がある場合も含め、治療前から医師へ相談しておくことが重要です。

放射線治療の副作用

骨盤へ放射線を照射すると、治療中に下痢、排便回数増加、腹痛、肛門周囲の皮膚炎、排尿時の違和感などが起こる場合があります。治療終了後に徐々に改善する症状が多い一方、時間が経ってから腸管や膀胱の障害などが生じる可能性もあります。

術前治療の目的と期待できる効果だけでなく、手術後の排便機能を含めて治療による長期的な影響を確認することが大切です。

参考:国立がん研究センター「大腸がん 療養」、国立がん研究センター「大腸がん 治療」

直腸がんは再発しやすい?治療後の経過観察

直腸がんを手術で取り切ることができても、その後に再発する可能性があります。再発には、骨盤内など手術した場所の近くに再びがんが現れる「局所再発」と、肝臓・肺など離れた臓器に現れる「遠隔再発」があります。

再発リスクはステージ、リンパ節転移、病理学的な悪性度などによって異なります。

局所再発

直腸がんでは骨盤内での局所再発が重要です。局所再発すると、骨盤内の神経や臓器へ影響し、痛み、排尿・排便障害などを起こす場合があります。

一方、局所再発でも病変の位置や広がりによっては再手術による切除を検討できる場合があります。切除が難しい場合には、放射線治療、薬物療法などを組み合わせます。

肝転移・肺転移

大腸がんは肝臓や肺へ転移することが比較的多いがんです。再発時に肝臓や肺に病変が見つかっても、数や位置によっては切除を行い、長期的な制御や根治を目指せる可能性があります。

そのため、再発が確認された時点で「治療できない」と決まるわけではありません。手術、薬物療法、放射線治療などの選択肢を改めて評価します。

手術後は定期的な検査を続ける

国立がん研究センターでは、大腸がん手術後はステージなどに応じて血液検査、CT、大腸内視鏡などによる定期的な経過観察を行い、5年間程度を目安に検査を続けるとしています。治療後3年程度は再発に注意が必要な時期であるため、比較的短い間隔で検査を行います。

再発の早期発見だけでなく、新たな大腸がんやポリープができていないかを確認する意味でも大腸内視鏡検査は重要です。

参考:国立がん研究センター「大腸がん 療養」

直腸がんのステージ別生存率

直腸がんの予後は、診断された段階でがんがどこまで広がっているかによって大きく異なります。国立がん研究センターが公表している院内がん登録2014~2015年診断例では、直腸がんの5年ネット・サバイバルは次のようになっています。

ステージ 対象数 5年ネット・サバイバル
Ⅰ期 10,270例 92.7%
Ⅱ期 8,458例 85.0%
Ⅲ期 11,025例 74.4%
Ⅳ期 5,193例 23.1%

ネット・サバイバルは、ほかの病気などによる死亡の影響を統計的に除き「直腸がんだけが死因となる状況」を仮定して算出した生存率です。

たとえばⅠ期の92.7%は、現在Ⅰ期と診断された特定の患者が「92.7%の確率で5年以上生きる」という個人予測ではありません。過去に同じステージで診断された多数の患者を集計した数字です。

ステージが進むほど生存率が低くなる理由

Ⅰ期ではがんが比較的浅い範囲にとどまり、リンパ節転移・遠隔転移がありません。そのため内視鏡治療や手術によって根治を目指しやすく、5年ネット・サバイバルは92.7%です。

Ⅱ期ではがんが直腸壁の外へ広がるため再発リスクは上がりますが、リンパ節転移はなく、85.0%となっています。

Ⅲ期では領域リンパ節転移があるため再発リスクが高くなりますが、遠隔転移はありません。手術に加え、病状に応じて術前治療や術後補助化学療法などを組み合わせ、再発リスクを下げることを目指します。

ステージ4で生存率が大きく低下する理由

ステージⅣでは肝臓、肺、腹膜、遠隔リンパ節などへがんが転移しています。原発巣だけを切除しても、離れた場所に存在するがん細胞をすべて取り除くことができないため、Ⅰ~Ⅲ期と比べて根治が難しくなります。その結果、5年ネット・サバイバルは23.1%まで低下します。

ただし、23.1%という数字を、現在ステージ4と診断された人の将来へそのまま当てはめることはできません。

この統計は2014~2015年に診断された患者のデータです。その後、大腸がんではRAS、BRAF、MSI・MMR、HER2、KRAS G12Cなどのバイオマーカーに応じた治療が増え、薬物療法は大きく変化しています。

さらに、肝転移や肺転移があっても完全切除できる患者と、複数臓器に多数の転移がある患者では予後が大きく異なります。同じステージ4でも病状は一様ではありません。

参考:国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録生存率集計」

直腸がんの余命

直腸がんと診断された人にとって「あとどのくらい生きられるのか」は非常に気になる問題です。特にステージ4や再発と説明された場合には、「余命は何カ月なのか」と具体的な数字を知りたいと考える人も少なくありません。しかし、直腸がんにはステージごとに一律に決まった「余命」はありません。

ステージⅣであっても、肝臓や肺の転移を完全に切除できる人と、複数臓器に多数の転移がある人では治療の目的も見通しも異なります。また、がんの遺伝子異常、薬物療法への反応、全身状態などによっても経過は大きく変わります。

過去の統計ではステージ4の5年ネット・サバイバルは23.1%

日本の院内がん登録2014~2015年診断例では、ステージⅣ直腸がんの5年ネット・サバイバルは23.1%でした。一方、この数字は「ステージ4の余命が5年」という意味でも、「約4人に1人しか5年生きられない」と個人にそのまま当てはめられる数字でもありません。

治療方法はこの統計の診断時期から大きく変化しているため、現在の患者の見通しを考える場合には現在使用できる治療も踏まえる必要があります。

現在の進行大腸がんでは3年以上の生存期間中央値が示された患者群もある

現在の切除不能・転移性大腸がんでは、がんの分子学的特徴によって治療成績も異なります。

日本を中心に実施されたPARADIGM試験では、RAS遺伝子野生型で原発巣が左側にある切除不能転移性大腸がん患者について、パニツムマブ+mFOLFOX6による一次治療の全生存期間中央値は37.9カ月でした。比較されたベバシズマブ+mFOLFOX6では34.3カ月でした。

ただし、この試験は直腸がんだけを対象としたものではなく、RAS遺伝子野生型の切除不能進行・再発大腸がんを対象とした試験です。そのため「ステージ4直腸がんの余命は37.9カ月」と読み替えることはできません。

全生存期間中央値とは、研究に参加した患者の半数が生存している境目となる時点です。平均余命でも、個人が亡くなる時期を予測する数字でもありません。

遺伝子の特徴によって治療効果は大きく異なる

2026年現在では、MSI-Highまたはミスマッチ修復機能欠損、BRAF V600E、HER2、KRAS G12Cなど、がんの特徴に応じた治療が増えています。特にMSI-Highまたはミスマッチ修復機能欠損を持つ転移性大腸がんでは、免疫チェックポイント阻害薬によって長期間病勢を抑えられる患者がいます。

このため、進行直腸がんの見通しを考える際にはステージだけでなく、どの臓器にどの程度転移しているか、すべて切除できる可能性があるか、がんのバイオマーカーは何か、現在の治療が効いているかを確認する必要があります。

余命について主治医へ尋ねる場合には「一般的なステージ4の数字」だけでなく「現在の自分の病状と治療効果を踏まえると、どの程度の見通しと考えているのか」を確認する方が実際の状況を理解しやすくなります。

参考:国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録生存率集計」、国立がん研究センター「世界初RAS遺伝子野生型大腸がんに対する標準治療を確認」

直腸がんの治療で判断が分かれる場面

直腸がんでは標準的な治療方針があっても、患者ごとに複数の治療選択肢が考えられる場合があります。特に肛門温存、術前治療、人工肛門などは、がんを治すことと治療後の生活の両方に大きく関係します。

肛門を残すことと根治性をどう考えるか

「できるだけ人工肛門を避けたい」という希望は自然なものです。現在は手術技術の進歩によって、以前であれば永久人工肛門が必要だったような肛門に近い直腸がんでも、肛門を温存できる場合があります。

しかし、肛門温存を最優先するあまり十分な切除範囲を確保できなければ、局所再発のリスクにつながります。また、肛門を残せても高度な排便障害が残れば、必ずしも人工肛門より生活しやすいとは限りません。

治療前には「肛門を残せるか」だけでなく、肛門を残した場合にどの程度の排便機能が期待できるのかまで確認することが重要です。

術前治療を行うか

局所進行直腸がんでは、手術だけを行うのか、術前に化学放射線療法や全身薬物療法を組み合わせるのかという判断があります。

欧米と日本では標準的な手術・リンパ節治療の考え方に違いがあり、国内でも施設や症例によって治療戦略が異なる場合があります。そのため術前治療を提案された場合には「何を目的として行うのか」「行わない場合と比べて何が変わるのか」「その後はどの手術を予定しているのか」を確認すると理解しやすくなります。

高齢・持病がある場合

直腸がんの治療方法を年齢だけで決めることはできません。高齢でも全身状態が良好であれば根治手術を行える場合があります。一方、心臓・肺・腎臓などの持病や日常生活の自立度によっては、大きな手術による負担を避けた方がよい場合もあります。

根治性だけでなく、治療後にどの程度生活機能を維持できるかを含めて判断します。

ステージ4でも手術を検討する場合

ステージ4でも、肝転移や肺転移を含めてすべての病変を取り切れる場合には、手術によって根治を目指せることがあります。また、最初は切除不能でも薬物療法で腫瘍が縮小し、その後に切除可能となる場合があります。

一方、すべての転移を切除できない場合には、原発巣を切除することが必ずしも生存期間の延長につながるとは限りません。出血、腸閉塞など原発巣による症状があるかも含めて治療方針を考えます。

参考:国立がん研究センター「大腸がん 治療」

直腸がんの治療を選ぶときに確認したいこと

直腸がんでは、同じステージであってもがんの位置や肛門との距離、周囲への広がりによって治療方法が変わります。治療の説明を受ける際には、手術の名称だけではなく、なぜその治療が自分に必要なのかを確認することが大切です。

確認したいこと 確認する意味
直腸のどの位置にがんがあるか 肛門からの距離によって術式や肛門温存の可能性が変わる
がんはどこまで深く広がっているか 内視鏡治療、局所切除、直腸切除、術前治療などの判断につながる
肛門を温存できるか 永久人工肛門の可能性だけでなく、温存後の排便機能まで考える必要がある
一時的人工肛門が必要か 肛門温存手術でも吻合部を守るため一時的人工肛門を造る場合がある
側方リンパ節郭清が必要か 下部直腸がんの局所再発リスクや手術範囲に関係する
術前治療を行う理由は何か 局所再発予防、腫瘍縮小、遠隔転移対策など目的によって治療内容が異なる
排便・排尿・性機能にどのような影響が予想されるか 治療後の仕事、外出、食事、性生活など日常生活に直接関係する
進行・再発した場合にバイオマーカー検査が必要か RAS、BRAF、MSI・MMR、HER2、KRAS G12Cなどによって薬物療法の選択肢が変わる

手術方法や術前治療について複数の選択肢があり判断に迷う場合には、直腸がんを多く治療している医療機関でセカンドオピニオンを受ける方法もあります。

特に「肛門温存が可能か」「永久人工肛門を避けられるか」という問題では、単に別の医師なら肛門を残せるかを確認するだけでなく、根治性や治療後の排便機能を含めて比較することが重要です。

まとめ

直腸がんは大腸がんの一種ですが、結腸がんと単に発生部位が違うだけの病気ではありません。直腸は狭い骨盤内にあり、肛門、膀胱、生殖器、自律神経などと近いため、手術方法や人工肛門、排便・排尿・性機能への影響を含めた治療判断が必要になります。

早期では自覚症状がほとんどない場合がありますが、進行すると血便、便が細くなる、便秘や下痢、残便感などが現れることがあります。こうした症状は痔や良性疾患でも起こるため症状だけで判断することはできませんが、異常が続く場合には大腸内視鏡検査などで原因を確認することが重要です。

早期でリンパ節転移リスクが低ければ内視鏡治療や局所切除を行える場合があります。一方、より深く浸潤している場合には、TME・TSMEを基本とした直腸切除やリンパ節郭清を行い、下部直腸がんでは側方リンパ節郭清を検討する場合があります。

肛門に近い直腸がんでも肛門温存が可能なケースは増えていますが、「肛門を残すこと」と「がんを安全に取り切ること」「良好な排便機能を保つこと」は別々に考える必要があります。永久人工肛門、一時的人工肛門、肛門温存それぞれの意味を理解して治療を選ぶことが大切です。

局所進行直腸がんでは、症例によって術前化学放射線療法やTNTなどが検討されます。また、進行・再発した場合には、2026年現在、RAS、BRAF、MSI・MMR、HER2、KRAS G12Cなどのバイオマーカーに応じて薬物療法を選択する重要性がさらに高まっています。

治療方法が複数提示された場合には、現在のステージだけでなく、がんの位置、肛門温存の可能性、人工肛門の必要性、術後の排便・排尿・性機能、再発した場合の治療まで確認し、自分が治療後にどのような生活を送りたいのかも含めて主治医と相談しましょう。

大腸がんの全体の治療法や検査・ステージ別生存率・薬物療法の詳細については、大腸がんの記事で解説していますので、そちらも参考にしてみて下さい。