スキルス胃がんは、がん細胞が胃の粘膜表面にかたまりをつくらず、胃壁の内部にしみ込むようにして広がっていくタイプの胃がんです。医学的には「びまん性浸潤型胃がん」「4型胃がん」と呼ばれ、胃がん全体の約10〜20%を占めます。
進行が速いうえ、内視鏡検査でも見つけにくいため、発見時にはすでに進行しているケースが目立ちます。初期には自覚症状がほとんどなく、胃もたれ、食欲不振、少し食べただけで満腹になる、体重減少などをきっかけに見つかることがあります。
本ページでは、スキルス胃がんの特徴や原因、症状、診断(内視鏡検査・審査腹腔鏡)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。
- 胃壁の内部にしみ込むように広がるタイプで、胃がん全体の約10〜20%を占める
- 内視鏡でも見つけにくく、発見時にはすでに進行しているケースが多い
- 腹膜播種を起こしやすく、抗HER2薬などの分子標的薬が使いにくい
スキルス胃がんとは

胃がんは、がん細胞の特徴によっていくつかのタイプに分けられます。
なかでも治療が難しいとされているのが「スキルス胃がん」です。
スキルス胃がんは、がん細胞が胃の粘膜表面にかたまり(腫瘍)をつくらず、胃壁の内部にしみ込むようにして広がっていくタイプの胃がんです。医学的には「びまん性浸潤型胃がん」あるいは「4型胃がん(ボールマン4型)」と呼びます。がん細胞が胃壁の中を這うように浸潤していくため、胃全体が硬く厚くなっていきます。
胃がん全体のうち、スキルス胃がんが占める割合はおよそ10〜20%です。組織型でみると、低分化腺がんや印環細胞がんと呼ばれる未分化型が大半を占めます。
他の胃がんと比べたときの特徴は、次のとおりです。
進行が速い
増殖するスピードが速く、短期間のうちに病期が進んでいきます。
発見が遅れやすい
内視鏡検査でも見つけにくく、発見時にはすでに進行しているケースが目立ちます。
腹膜播種を起こしやすい
がん細胞が胃壁を突き破り、お腹の中に散らばる腹膜播種が高頻度で発生します。
若年・女性に比較的多い
以上のように、同じ「胃がん」という名前でも、通常の胃がんとは性質がかなり違う疾患です。
スキルス胃がんの原因
スキルス胃がんがなぜ起こるのか、その正確な原因は医学的にもまだ解明されていません。ただ、メカニズムについては少しずつ分かってきています。
一般的な胃がんでは、ピロリ菌の持続感染が最大の危険因子とされます。しかしスキルス胃がんは、ピロリ菌に感染したことのない若い患者様にも発症します。このことから、発生の経路そのものが異なる可能性が指摘されています。
分子のレベルでは、細胞同士を接着させる働きを持つ「E-カドヘリン(CDH1遺伝子)」の異常が深く関わっていると考えられています。細胞をつなぎとめる糊のような役割を担うタンパクが失われると、がん細胞がバラバラになって胃壁の中に浸み込み、腹腔内へも散らばりやすくなるのです。
一方、がん細胞の暴走を食い止める「ブレーキ役」を担っているのが、がん抑制遺伝子の「p53(TP53)」です。p53はDNAに傷がついたときにそれを修復させ、修復できない細胞は自然死(アポトーシス)へと導きます。この機能が失われると、傷ついた細胞が排除されないまま増え続け、がん化へとつながっていきます。
胃がんにおけるp53変異の頻度は報告によって幅がありますが、スキルス胃がんが含まれるびまん型では25〜40%の範囲で認められるとされています。特に進行期のびまん型胃がんでは約40%にのぼる一方、早期のびまん型では変異が稀です。このことから、p53の異常は病期の進行にともなって蓄積していく可能性が示唆されています。
もうひとつ注目したいのが「HER2」の発現頻度です。HER2は細胞の増殖シグナルを伝える受容体タンパクであり、胃がんにおいては抗HER2薬の重要な標的となります。ところがHER2陽性率は、胃がん全体で22.1%、腸型で31.8%であるのに対し、スキルス胃がんではわずか6.1%にとどまります。
スキルス胃がんはその多くがびまん型に分類されるため、抗HER2薬の適応となる患者さんは限られます。
・Alterations of the TP53 Gene in Gastric and Esophageal Carcinogenesis|Journal of Biomedicine and Biotechnology
・HER2 screening data from ToGA: targeting HER2 in gastric and gastroesophageal junction cancer|Gastric Cancer
スキルス胃がんの診断
「(無)症状」から「確定診断」まで
スキルス胃がんは、初期の段階では自覚症状がほとんどありません。がんは胃の表面に隆起や潰瘍をつくらないため、通常の胃がんなら手がかりになるはずの黒色便や貧血といったサインが出にくく、これが早期発見を難しくしています。
進行してくると、胃もたれ、食欲不振、少し食べただけで満腹になる、体重減少、腹水などによる腹部の張りといった症状が現れます。ただ、こうした症状は胃炎など良性の疾患でも起こるため、自己判断で受診が遅れてしまうケースが少なくありません。症状がなくても定期的に検診を受けること、気になる症状が続くようなら早めに受診することが大切です。
スキルス胃がんに特有の検査上の難しさ
受診すると、まず内視鏡検査(胃カメラ)や胃X線検査が行われます。
ここでスキルス胃がんならではの問題が出てきます。がん細胞が粘膜の表面ではなく深い層を広がっていくため、内視鏡で表面を観察しても明らかな腫瘍が見えないことがあるのです。通常の生検ではがん細胞を採取できず、偽陰性となる場合もあります。
そのため、胃X線検査、超音波内視鏡(胃壁の層構造を断層で評価)、EUS-FNA(深部の組織を採取)、CT検査などを組み合わせながら診断を進めていきます。
さらに重要な検査として、審査腹腔鏡があります。全身麻酔をかけてお腹に小さな穴を開け、カメラを入れて、CTでは捉えきれない小さな腹膜播種を直接確認します。あわせて腹腔内を洗浄した液を採取し、がん細胞の有無を調べる腹腔洗浄細胞診も行います。腹膜播種があるかどうかで治療方針が大きく変わるため、スキルス胃がんでは特に重要な検査です。
ステージ(病期)の確定
胃がんのステージは、胃壁のどの深さまでがんが達しているか(T)、リンパ節転移の有無と個数(N)、腹膜播種を含む遠隔転移の有無(M)を組み合わせて、Ⅰ期〜Ⅳ期に分類されます。スキルス胃がんは診断された時点ですでにステージⅢ〜Ⅳであることが多く、この点が予後を大きく左右します。
スキルス胃がんの一般的な治療法
スキルス胃がんの治療は「手術」と「薬物療法」を軸に組み立てていきます。放射線療法が根治目的で用いられる機会は限られており、症状の緩和を目的として選択されるのが一般的です。治療方針を決めるうえで最大の分岐点となるのは、腹膜播種があるかどうかです。
腹膜播種や遠隔転移がなく、切除可能と判断された場合は手術が中心となります。スキルス胃がんは胃全体に広がっていることが多いため、胃をすべて切除する全摘術を行うケースが多いです。手術後は再発予防のために補助化学療法を行う場合があり、病理学的ステージに応じてさまざまな抗がん剤を使用します。
腹膜播種や遠隔転移が確認された場合は、薬物療法が中心になります。抗がん剤のほか、HER2の状態やPD-L1発現、MSI検査などの結果をふまえて最適な薬物を選択します。
治療成績と生存率
韓国での進行胃がんの解析によると、スキルス胃がんの5年生存率は27.6%、それ以外の通常の胃がんは61.2%でした。ステージⅢbでは15.2%対38.5%、ステージⅣでは10.2%対20.1%と、いずれの病期においても通常の胃がんより予後が不良でした。
また、日本での検討でも、5年生存率は10.2%、ステージⅡ/Ⅲで根治手術を受けた患者様では24.3%と報告されています。
このようにスキルス胃がんは、通常の胃がんと比べて予後が悪いタイプのがんだと言えます。
スキルス胃がんにおける保険診療の限界
化学療法に伴う「きつい」副作用
抗がん剤では、吐き気、強い倦怠感、食欲不振、脱毛、手足のしびれ、骨髄抑制による感染症リスクなどが起こりえます。さらにスキルス胃がんの場合、胃全摘術を受けた患者様が少なくありません。胃を失えば食事量が減り、ダンピング症候群や貧血、体重減少が生じやすくなります。もともと栄養状態が低下しているところへ副作用が重なることで、治療の継続そのものが困難になるリスクがあるのです。
保険診療ではカバーしきれない再発・進行のリスク
根治切除と術後補助化学療法を行っても、腹膜再発を中心とした再発が高い頻度で生じます。スキルス胃がんでは、胃の根治切除後であっても5年生存率が18.1%にとどまるという報告もあります。
腹膜播種などに対して実施できる化学療法の限界
スキルス胃がんで手術を試みた患者様のうち、腹膜播種がある割合は48.2%にのぼると報告されています。また、それらの腹膜播種をすべて切除した場合の5年生存率は12%、切除不能例では0%でした。
腹膜播種が問題になるのは、抗がん剤が届きにくいからです。腹膜には血管が乏しく、点滴で投与した薬剤が播種巣まで十分な濃度で到達しにくいと考えられています。腹膜播種が増えれば腹水も溜まりやすくなり、腹部膨満、食欲低下、呼吸苦などが現れて、生活の質(QOL)が大きく損なわれてしまいます。
また、腹膜播種がなくてもスキルス胃がんに対して実施できる化学療法の種類は多くはなく、通常の場合は3~4種類程度使用すると、保険診療ではもう手立てがないと言われてしまいます。
関連記事:腹膜播種について解説。完治の可能性は?進行を止めるための治療はあるのか。
分子標的薬の選択肢の少なさ
びまん型胃がんにおけるHER2陽性率は6.1%にとどまるため、スキルス胃がんの患者様の多くは抗HER2薬の対象外となってしまいます。免疫チェックポイント阻害薬についても、びまん性の胃がんや腹膜播種例では効果がやや限定的であると指摘されています。
スキルス胃がんで重要な新しい治療の考え方
ここまで述べてきたとおり、スキルス胃がんは標準治療を行っても腹膜播種や再発のリスクが問題となるがんです。加えて、HER2陽性率が低いために分子標的薬の選択肢が限られるという特有の課題も抱えています。当グループでは、こうした課題に対して、標準治療とは作用の仕方が異なる治療を選択肢としてご提案しています。
分子レベルの異常にアプローチする「核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)」
近年、がんの発生や進行に関わる分子レベルの異常に直接アプローチする「核酸医薬」が世界的に注目を集め、研究・臨床応用が進んでいます。
当グループでは、がんの根本的な原因に直接作用することが期待される治療選択肢として、「アプタマー」「siRNAなどのRNA干渉技術」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を取り入れた治療を提供しております。
「アプタマー核酸医薬」は、がん細胞に特有の異常なタンパク質にピンポイントで結合し、その働きをブロックすることで、がんの増殖抑制や死滅を狙う治療薬です。一方で「miR-34a mimic核酸医薬」は、がん化によって失われてしまった「体が本来持っているがんを抑制する力」を補い、がんの成長を止め、自然な細胞死(アポトーシス)を促す治療薬です。
スキルス胃がんを含む胃がんでTP53変異が高頻度に認められることは、先に述べたとおりです。miR-34a mimicは、miR-34aと同じ働きをする分子を外部から補充することで、p53というブレーキが壊れてしまった細胞に対しても、その先の経路から直接ブレーキをかけ直すことを狙う治療です。
がん中央クリニックグループでは、がん種ごとに標的となる遺伝子を指定して核酸医薬を設計し、患者様一人ひとりの状態に合わせた治療をご提案しています。複数の核酸医薬を組み合わせて使い分けられる点も、特徴のひとつです。
HER2を標的にする「分子標的ワクチン療法」
分子標的ワクチン療法は、がんの増殖・浸潤・転移に関わるタンパク質「HER2」を標的とした、当グループで施術可能な自由診療の治療法です。
スキルス胃がんにおいて、この治療は特に検討する価値があります。というのも、保険診療の抗HER2薬はHER2の発現が高い患者様にしか使えず、びまん型胃がんでHER2陽性となるのは6.1%程度にすぎないからです。しかし、HER2陽性と判定されないがん細胞にもHER2は一定量発現しているため、治療効果が見られることがあります。
この治療の目的は、筋肉注射によって患者様ご自身の体内でHER2に対する抗体をつくらせることです。
体内でHER2に対する抗体がつくられると、細胞周期や細胞分裂を促進するシグナルを送ることができなくなります。さらに、抗体がくっついたがん細胞を免疫細胞が攻撃するという効果も期待されます。
ただし、標準治療ですでに抗HER2薬を使用している場合には、効果が見込みづらい点に注意が必要です。
当グループの自由診療・治療をおすすめする患者様
当グループで実施可能な治療法は、ほとんどの患者様にご検討いただけます。以下では、どのような患者様に効果が期待できるのかを解説します。ご自身の状況に照らし合わせてご検討ください。
治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ
スキルス胃がんでは、病状や体力、副作用などの理由から、保険診療の標準治療だけでは選択肢が限られてしまうことがあります。特に腹膜播種を伴う進行例、HER2陰性で分子標的薬が使えない患者様、二次・三次治療まで進んで次の手立てが見つからない患者様は少なくありません。
そうした場合でも、核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法なら、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供することが可能です。
これらの治療法は目立った副作用が起こりにくく体への負担が少ないため、「胃全摘後で体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方にも、1つの治療の選択肢となり得ます。
さらに、まだ治療ができる体力があるにもかかわらず選択肢がなくなり、緩和を勧められている方にとっても、新たな治療の選択肢として検討いただけます。
保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待
核酸医薬と分子標的ワクチン療法は、化学療法などの薬物療法と併用でき、相乗効果が期待できます。
なぜなら、化学療法がすでに増殖したがん細胞や産生されたたんぱく質に作用するのに対し、核酸医薬はがん細胞やたんぱく質がつくられる前の段階、すなわち遺伝子レベルに作用するからです。そして分子標的ワクチン療法は、患者様ご自身の免疫の力を使ってHER2を発現するがん細胞を攻撃する方法だからです。
このように当グループが提供する治療法は、標準治療とは攻撃するポイントが異なります。だからこそ、標準治療と組み合わせることでより高い効果が期待できるのです。
スキルス胃がんの完治を目指すには、複数の治療法を組み合わせることが重要と考えています。標準治療を受けている患者様にとっても、核酸医薬と分子標的ワクチン療法の併用は選択肢のひとつです。
再発を抑制、防止するため。手術前後のすべての患者様
スキルス胃がんは、根治手術を行っても腹膜再発を中心とした再発が生じやすい疾患です。また抗がん剤には副作用があるため、胃全摘後で栄養状態に不安のある患者様や、体力に不安のある高齢の患者様では、術後補助化学療法を完遂すること自体が難しい場合もあります。
こうした背景から、手術前後の患者様が核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法を併用することは、再発リスクを下げるひとつの選択肢として検討いただけます。
副作用が不安な患者様
核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法は、目立った副作用が起こりにくい治療です。特に、化学療法で起きやすい嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。核酸医薬の副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などが挙げられます。
分子標的ワクチン療法では、注射部位反応(赤み、腫れ、痛みなど)、疲労感、発熱が見られることがあります。解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半であり、治療を継続するうえで支障をきたすことはありません。
「胃を全摘して食事が思うようにとれない」「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」
当グループの治療は、そのような方にも受けていただける治療となっております。
スキルス胃がんの完治を目指して、保険診療と患者様に合った自由診療を組み合わせる
スキルス胃がんは、胃がんのなかでも進行が速く、腹膜播種を起こしやすい難治性のがんです。しかし、適切に治療を行えば完治を目指せる疾患でもあります。
発症要因のひとつにp53をはじめとする遺伝子異常があることから、保険診療と核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、分子標的ワクチン療法などを組み合わせる集学的治療が有効な選択肢となります。保険診療だけではカバーしきれない場合でも、これらの治療によって腫瘍縮小効果や再発抑制効果が期待できます。
がん中央クリニックグループでは、こうした「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがん治療をご提案いたします。スキルス胃がんの患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。