卵巣がんは抗がん剤がよく効く一方で、再発や薬剤耐性が課題になります。抗がん剤の効果を高め、耐性化を抑えるという考えから、当院が卵巣がんで重視している核酸医薬の標的と組み合わせをご紹介します。
目次
はじめに
卵巣がんは婦人科がんの中でも、抗がん剤が比較的よく効くがんとして知られています。
標準治療では、手術後や手術が不可の患者様にカルボプラチン+パクリタキセル(TC療法)が行われ、多くの患者様で腫瘍の縮小が期待できます。
しかしその一方で、腹膜播種を起こすことも多く、再発率も高く、再発を繰り返すうちに白金製剤やパクリタキセルに対する耐性を獲得してしまうことが大きな課題です。
TC療法が効かなくなった場合、代わりとなる治療はTC療法に比べて有効度が下がり、徐々に使える薬が無くなっていきます。
そのため核酸医薬には「抗がん剤に代わる治療」としての役割も期待できますが、当院ではTC療法を長く続けられるよう、抗がん剤の効果を高めたり、耐性化を遅らせたりする治療としても期待しています。
当院では核酸医薬を、アプタマー、RNA干渉薬、miRNA mimicの大きく3種類用意しています。
- アプタマー4種類
MUC1-Y、Nucleolin、Heparanase、PD-L1 - RNA干渉薬9種類
CDK4、PSMD10(ガンキリン)、KRAS、MDM2、CDC6、IL6、mTOR、PIK3CA、THBS2 - miRNA mimic8種類
let-7g、miR-185、miR-29b2、miR-148a、miR-320a、miR-145、miR-30a、miR-34a
ターゲットとする遺伝子は、上記の全21種類を用意しており、どのがんにも対応できるようにしています。
その中から卵巣がんに合うと考えられる組み合わせを、現在使用している抗がん剤やこれまで使用してきた抗がん剤、どの抗がん剤に耐性を持っているかなどを踏まえて選び、使用する薬を決定します。
第1位 MUC1アプタマー
当院が卵巣がんで最も期待しているのが、MUC1-Yアプタマーです。
MUC1-Yアプタマーは、MUC1-Yというタンパク質を阻害する核酸医薬です。
MUC1は卵巣がんで高発現していることが多く、次のような多くの悪性形質に関与しています。
- がん細胞の増殖
- 腹膜への接着
- 浸潤・転移
- 免疫逃避
- 薬剤耐性
特に注目しているのは、薬剤耐性との関係です。
MUC1はPI3K/AKT経路やNF-κB経路などを活性化し、がん細胞が抗がん剤による細胞死を回避しやすくなることが報告されています。
- Chemoresistance Is Associated with MUC1 and Lewis y Antigen Expression in Ovarian Epithelial Cancers|International Journal of Molecular Sciences, 2013
- Anti-MUC1 monoclonal antibody (C595) and docetaxel markedly reduce tumor burden and ascites, and prolong survival in an in vivo ovarian cancer model|PLoS One, 2011
MUC1の阻害には、がん細胞の増殖・転移・浸潤を抑える効果も期待されますが、卵巣がんはTC療法がよく効くがんだからこそ、その効果をさらに引き出す標的としてMUC1は非常に魅力的だと考えています。
第2位 Heparanaseアプタマー
第2位はHeparanaseアプタマーです。
卵巣がんの最大の特徴は、腹膜播種を非常に起こしやすいことです。
Heparanaseは細胞外マトリックス(ECM)を分解する酵素で、次のような過程に深く関わっています。
- 腹膜播種
- 浸潤
- 転移
- 血管新生
腹膜播種を抑えることができれば、卵巣がんにおいて効果的な治療になると考えられます。
そのためHeparanaseは、卵巣がんにおいて極めて重要な標的の一つです。
また、すでに腹膜播種の状態にある患者様においても、アプタマーは抗体医薬などに比べて分子が小さいため、薬が届きにくいとされる腹膜にも比較的届きやすいと考えられます。腹膜にあるがんに対する治療としても、有効な方法になると期待しています。
第3位 let-7g mimic
第3位はlet-7g mimicです。
let-7ファミリーは、代表的な腫瘍抑制miRNAです。
特徴は、1つの遺伝子だけではなく、次のような複数のがん関連遺伝子を同時に制御できる点です。
- KRAS
- HMGA2
- MYC
卵巣がんではlet-7の発現低下が報告されており、補充することで次の項目を抑制できる可能性が研究されています。
- 細胞増殖
- 浸潤
- 幹細胞性
- 抗がん剤耐性
幅広い経路に作用できることから、抗がん剤との併用にも期待しています。
第4位 PIK3CA siRNA
第4位はPIK3CA siRNAです。
PI3K-AKT-mTOR経路は、卵巣がんで異常に活性化していることが多い経路です。
この経路は、次の項目に深く関与しています。
- 細胞増殖
- 生存
- 薬剤耐性
PIK3CAを抑制することで、抗がん剤によって障害を受けたがん細胞が生き残る能力を低下させられる可能性があります。
MUC1とも関連する経路であるため、将来的に組み合わせることで相乗効果も期待されます。
卵巣がんでターゲットとなりうる遺伝子
卵巣がんの増殖や転移、薬剤耐性などに関わる遺伝子の中から、核酸医薬で標的にできるものを、当院が重視する順に整理しました。
| 順位 | 標的 | 種類 |
|---|---|---|
| 1 | MUC1 | アプタマー |
| 2 | Heparanase | アプタマー |
| 3 | let-7g | miRNA mimic |
| 4 | PIK3CA | siRNA |
| 5 | PSMD10 | siRNA |
| 6 | miR-145 | miRNA mimic |
| 7 | Nucleolin | アプタマー |
| 8 | mTOR | siRNA |
| 9 | miR-34a | miRNA mimic |
| 10 | PD-L1 | アプタマー |
まとめ
卵巣がんでは、カルボプラチンとパクリタキセルによるTC療法が高い奏効率を示しますが、再発と薬剤耐性が依然として大きな課題です。
そのため核酸医薬には、それ自体によるがんの縮小効果に加えて、抗がん剤を置き換えるのではなく、抗がん剤の効果を高め、耐性化を抑える役割も期待されています。
特に当院では、次の4つが卵巣がんにおける核酸医薬戦略の中心になる可能性があると考えています。
- MUC1による薬剤耐性の抑制
- Heparanaseによる腹膜播種の抑制
- let-7gによる広範な腫瘍抑制
- PIK3CAによる増殖シグナルの遮断
当院で卵巣がんの治療を行う際は、MUC1-Yアプタマー、Heparanaseアプタマー、let-7g mimic、PIK3CA siRNAを同時に点滴で投与する方法が良いと考えています。これらの組み合わせは単独でも効果が期待できますが、抗がん剤との併用においても高い効果が期待できる組み合わせです。
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