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肺がんは、気管支や肺胞などの細胞から発生するがんです。2023年に国内で新たに肺がんと診断された人は12万3,989例、2024年に肺がんで死亡した人は7万5,569人でした。

2018年に診断された15歳以上の肺がん患者における5年生存率は39.6%と報告されています。ただし、この数字は非小細胞肺がんと小細胞肺がん、すべてのステージを合わせた全国統計であり、個人の治りやすさや余命を示すものではありません。

肺がんは、早期には症状がほとんど現れないことがあります。咳、痰、血痰、息切れ、胸の痛みなどがきっかけで見つかる場合もありますが、症状の強さと進行度は必ずしも一致しません。肺の奥にできた小さながんでは症状が出ない一方、気管支の近くにできたがんでは、比較的早い段階から咳や血痰が現れることがあります。

肺がんの治療を決めるうえでは、ステージだけでなく、非小細胞肺がんと小細胞肺がんのどちらか、腺がんや扁平上皮がんなどの病理型、がん細胞の遺伝子異常、PD-L1発現、呼吸機能、全身状態を確認します。同じステージでも、これらの結果によって選ばれる治療が異なります。

この記事では、肺がんの種類、原因とリスク、検診、症状、検査、ステージに加え、非小細胞肺がんと小細胞肺がんの治療の違いを解説します。遺伝子・バイオマーカー検査、手術、放射線治療、薬物療法、治療の副作用、ステージ別の生存率についても、検査結果を治療選択へどうつなげるかという視点から整理します。

参考:肺|国立がん研究センター がん統計
参考:2018年全国がん登録5年生存率報告|厚生労働省

  • 肺がんは、非小細胞肺がんと小細胞肺がんで治療方針が大きく異なる
  • 早期には症状がないことがあり、症状の強さだけでは進行度を判断できない
  • 治療はステージ、病理型、遺伝子異常、PD-L1、呼吸機能などから決める

肺がんとは何か

肺がんは、気管支や肺胞などの細胞ががん化し、制御されずに増殖する病気です。がんが大きくなると、気管支を狭くしたり、正常な肺組織を圧迫したりして、咳、血痰、息切れ、肺炎などを引き起こすことがあります。

さらに進行すると、胸膜や胸壁、縦隔など肺の周囲へ広がるほか、リンパ液や血液の流れに乗って、脳、骨、肝臓、副腎などへ転移する場合があります。

肺がんは、顕微鏡で確認したがん細胞の形や性質によって、非小細胞肺がん小細胞肺がんに大きく分けられます。この区別は名称の違いだけではなく、進行の速さ、転移のしやすさ、手術の適応、薬物療法や放射線治療への反応が異なるため、治療方針を決める出発点になります。

参考:肺がんについて|国立がん研究センター がん情報サービス

非小細胞肺がん

非小細胞肺がんは肺がん全体の約80〜85%を占め、主に腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなどに分けられます。

腺がんは肺の奥にある肺野に発生しやすく、非喫煙者にもみられます。小さいうちは咳などの症状が出にくく、検診やほかの病気の検査で偶然見つかる場合があります。EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子など、治療対象となる遺伝子異常が見つかることがあるため、進行例では遺伝子検査が特に重要です。

扁平上皮がんは、肺の入り口に近い太い気管支に発生することがあり、喫煙との関連が強い病理型です。気管支が狭くなることで、咳、血痰、息切れ、同じ場所に繰り返す肺炎などが現れる場合があります。

非小細胞肺がんの治療は、切除可能な早期・局所進行例では手術を中心に考え、必要に応じて手術前後の薬物療法を組み合わせます。切除できないステージ3では化学放射線療法など、ステージ4・再発では遺伝子異常やPD-L1発現などに応じた薬物療法が中心になります。

肺がんステージ4の病状、遺伝子検査、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、生存率については、以下の記事で詳しく解説しています。

小細胞肺がん

小細胞肺がんは非小細胞肺がんより頻度は低いものの、増殖が速く、早い段階からリンパ節やほかの臓器へ広がりやすいという特徴があります。喫煙との関連が強く、診断時にすでに胸部の広い範囲や遠隔臓器へ病変が及んでいる場合もあります。

治療方針を決める際はTNM分類によるステージに加え、病変が一つの放射線照射範囲に収まる限局型と、それを超えて広がっている進展型という分類が広く使われます。

ごく早期でリンパ節転移がない一部の患者さんでは手術を検討しますが、多くの限局型では薬物療法と胸部放射線治療を組み合わせます。進展型では、プラチナ製剤とエトポシドへ免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせる薬物療法が主な選択肢です。

小細胞肺がんは薬物療法や放射線治療によって大きく縮小することがある一方、再発しやすい性質もあります。限局型・進展型の治療、再発時の治療、放射線治療、生存率については、以下の記事で詳しく解説しています。

非小細胞肺がんと小細胞肺がんでは、標準となる治療の組み立てが異なります。診断を受けた際には、「肺がんです」という説明だけでなく、病理型、ステージ、手術の可否、治療選択に必要な遺伝子・バイオマーカー検査について確認することが大切です。

参考:肺癌診療ガイドライン2025年版|日本肺癌学会

肺がんの原因とリスク

肺がんは、一つの原因だけで発症する病気ではありません。年齢を重ねる中で細胞の遺伝子に変化が蓄積し、喫煙、受動喫煙、職業上の有害物質への曝露、慢性の肺疾患などが重なって発症すると考えられています。

肺がんの最も重要な危険因子は喫煙です。喫煙本数が多いほど、また喫煙を続けた期間が長いほど、肺がんの発症リスクは高くなります。国立がん研究センターによると、喫煙者は非喫煙者と比べ、男性で4.4倍、女性で2.8倍、肺がんになりやすいとされています。

ただし、肺がんは喫煙者だけが発症する病気ではありません。たばこを吸ったことがない人にも肺がんは発生し、とくに肺腺がんでは非喫煙者の患者さんもみられます。喫煙歴がないことだけを理由に、長引く咳や血痰などの症状を放置しないことが大切です。

参考:肺がん 予防・検診|国立がん研究センター がん情報サービス

受動喫煙や職業・環境による曝露

周囲のたばこの煙を吸い込む受動喫煙も、肺がんの発症リスクを高めます。国立がん研究センターでは、受動喫煙によって肺がんのリスクが2~3割程度高くなるとしています。

そのほか、アスベスト、シリカ、ディーゼル排気、金属や化学物質などへ仕事を通じて長期間さらされた場合にも、肺がんのリスクが高くなることがあります。屋外・屋内の大気汚染も、肺がんの危険因子の一つです。

過去に建設、解体、造船、断熱材の施工、鉱業、金属加工などに従事していた場合は、喫煙歴だけでなく、どのような粉じんや化学物質を扱っていたかも医師へ伝えます。喫煙とほかの有害物質への曝露が重なると、リスクがさらに高まる可能性があります。

慢性の肺疾患や家族歴

慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺炎、肺結核などの肺疾患がある人では、肺がんの発症リスクが高くなることが報告されています。もともと咳や息切れがあると、肺がんによる変化に気付きにくいこともあるため、症状の悪化や画像の変化を定期的に確認します。

肺がんになった血縁者がいることも、リスクを考える材料の一つです。ただし、家族歴には遺伝的な体質だけでなく、喫煙や受動喫煙など共通する生活環境が影響している場合もあります。家族に肺がん患者がいるからといって、必ず発症するわけではありません。

危険因子がある人すべてが肺がんになるわけではなく、明らかな危険因子がない人にも発症します。肺がんと診断された理由を一つに決めつけたり、喫煙歴だけを理由に本人を責めたりすることは適切ではありません。

禁煙は肺がん予防と治療の両方に関係する

肺がんを予防するうえで最も有効な行動は、たばこを吸わないことと、現在吸っている場合に禁煙することです。禁煙を始めた後もリスクがすぐに非喫煙者と同じになるわけではありませんが、喫煙を続ける場合と比べて徐々に低下します。

すでに肺がんと診断された後でも、禁煙には意味があります。治療中の呼吸器合併症を減らし、手術後の回復や呼吸機能を保つためにも、できるだけ早く禁煙を始めます。自力での禁煙が難しい場合は、禁煙外来などの支援を利用できます。

参考:Lung Cancer Prevention|米国国立がん研究所
参考:Lung Cancer|国際がん研究機関

肺がん検診と症状がある場合の受診

肺がんは早期には自覚症状がないことがあるため、症状のない人が定期的に検診を受けることには意味があります。一方、すでに咳や血痰などの症状がある人は、がん検診ではなく、医療機関で診断を目的とした検査を受ける必要があります。

40歳以上は年1回の肺がん検診が推奨

日本の対策型肺がん検診は、症状のない40歳以上の男女を対象に、年1回行われます。基本的な検査は問診と胸部X線検査です。

50歳以上で、現在または過去の喫煙指数が600以上の人には、胸部X線検査に加えて喀痰細胞診(かくたんさいぼうしん)を行います。喫煙指数は、次のように計算します。

喫煙指数=1日に吸うたばこの本数×喫煙した年数

例:1日20本を30年間吸った場合は、20×30=600となる。

検診結果が「要精密検査」となった場合は、症状がなくても必ず精密検査を受けます。もう一度胸部X線検査を受けて異常がなければよい、というものではありません。必要に応じて胸部CTなどで確認します。

参考:肺がん検診について|国立がん研究センター がん情報サービス

症状がある場合は検診を待たない

血痰、長引く咳、胸の痛み、声のかれ、息切れなどがある場合は、次の検診を待たずに呼吸器内科などを受診してください。がん検診は、原則として症状のない人から肺がんの可能性がある人を見つけるためのものです。

胸部X線検査で異常なしと判定されても、肺がんを完全に否定できるわけではありません。症状が続く場合や、過去の画像と比べて変化が疑われる場合には、診察を受け、胸部CTなどが必要かを相談します。

低線量CT検診は全国一律の検診ではない

低線量CTは、通常の診断用CTより放射線量を抑えて肺を撮影する検査で、重喫煙者の肺がんを早期に発見する方法として検討されています。

2026年度から、重喫煙者を対象とした低線量CT肺がん検診の実証事業が、一部の地域で行われています。ただし、現時点で全国すべての自治体に導入された対策型検診ではありません。対象条件や実施地域は限られているため、住んでいる自治体や医療機関へ確認します。

低線量CTは胸部X線より小さな結節を発見しやすい一方、がんではない影が見つかって追加検査が必要になることや、経過観察が長く続くこともあります。検査を受ける際は、利益だけでなく、偽陽性、過剰診断、放射線被曝などの不利益についても説明を受けます。

参考:低線量CT肺がん検診|日本肺癌学会

肺がんの主な症状と受診の目安

肺がんは、早期には症状がないことも多く、検診やほかの病気の画像検査で偶然見つかる場合があります。一方、がんができた場所によっては、比較的小さい段階から咳や血痰などが現れます。

肺がんの主な症状は、咳、痰、血痰、胸の痛み、動いたときの息苦しさ、動悸、発熱、声のかれなどです。ただし、これらは肺炎、気管支炎、COPDなどでも起こるため、症状だけで肺がんかどうかを判断することはできません。

国立がん研究センターでは、原因が分からない咳や痰が2週間以上続く場合、血痰が出た場合、発熱が5日以上続く場合には、早めに医療機関を受診するよう案内しています。

参考:肺がんについて|国立がん研究センター がん情報サービス

がんができた場所によって症状は異なる

太い気管支の近くにがんができると、気道が刺激されたり狭くなったりするため、咳、痰、血痰、喘鳴などが現れやすくなります。気管支がふさがれると、その先の肺に空気が入りにくくなり、同じ場所に肺炎を繰り返すこともあります。

一方、肺の奥にある肺野にできたがんは、ある程度大きくなるまで症状が出ないことがあります。肺を包む胸膜や胸壁まで広がると胸の痛みが現れ、胸水がたまると息苦しさが強くなる場合があります。

症状が軽いことは、がんが早期であることを意味しません。反対に、咳や胸の痛みがあるからといって、必ず進行肺がんであるとも限りません。症状の程度ではなく、画像検査や病理検査によって病状を確認します。

胸部の周囲へ広がったときに現れる症状

肺がんや胸部リンパ節の病変が周囲の神経、気管、食道、血管などを圧迫すると、次のような症状が現れることがあります。

  • 声のかれ:声帯を動かす神経が影響を受けた場合
  • 飲み込みにくさ:食道が圧迫された場合
  • 強い息苦しさ:気管や太い気管支が狭くなった場合
  • 顔、首、腕の腫れ:上半身から心臓へ戻る血液の流れが妨げられた場合
  • 肩から腕にかけての痛みやしびれ:肺の上部にあるがんが神経へ広がった場合

とくに、顔や首、片側または両側の腕が急に腫れる、首や胸の表面の血管が浮き出る、頭が重い、息苦しいといった症状は、上大静脈症候群の可能性があります。病変によって太い静脈の流れが妨げられていることがあるため、早急な診察が必要です。

転移した場所によって肺以外の症状も現れる

肺がんは、脳、骨、肝臓、副腎などへ転移することがあります。最初に現れる症状が咳や息切れではなく、転移した臓器による症状である場合もあります。

脳転移では、頭痛、吐き気、ふらつき、物が二重に見える、けいれん、片側の手足に力が入らない、言葉が出にくい、性格や行動が変化するなどの症状が現れることがあります。

骨転移では、背中、腰、肩、肋骨などの痛みが続くことがあります。骨が弱くなると、軽い動作や転倒で骨折することもあります。脊椎への転移が脊髄を圧迫すると、足のしびれや脱力、歩行困難、排尿・排便障害が現れる場合があります。

肝転移では、初期には症状がないこともありますが、病変が広がると、食欲低下、強いだるさ、腹部の張り、黄疸などが現れることがあります。

ステージ4肺がんの転移部位、治療、生存率については、以下の記事で詳しく解説しています。

予約日を待たずに相談・受診する症状

次の症状がある場合は、通常の診察予約日まで様子を見ず、治療中の医療機関や救急医療機関へ連絡してください。症状が強い場合や急激に悪化している場合は、救急車の要請を検討します。

  • まとまった量の血を吐く、血痰が止まらない
  • 急に強い息苦しさが現れた、会話が難しいほど呼吸が苦しい
  • 顔、首、腕が急に腫れた
  • 新たにけいれんが起きた、意識がぼんやりする
  • 片側の手足に力が入らない、言葉が出にくい
  • 足の脱力や歩行困難に、排尿・排便の異常を伴う
  • 発熱とともに咳や息苦しさが急に悪化した
  • 薬物療法中に、新しい空せきや息切れが現れた

薬物療法中の空せきや息切れは、感染症、肺がんの進行、肺血栓塞栓症などに加え、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などによる薬剤性肺障害の可能性があります。軽い症状でも、治療を受けている医療機関へ連絡し、薬を継続してよいか確認します。

参考:呼吸困難・咳・痰|国立がん研究センター がん情報サービス
参考:免疫療法 もっと詳しく|国立がん研究センター がん情報サービス

以前からある症状の「変化」も受診の手がかりになる

喫煙歴がある人やCOPDのある人では、以前から咳や痰、息切れが続いていることがあります。その場合は、症状があるかないかだけでなく、次のような変化を確認します。

  • 咳の回数や強さが増えた
  • 痰の色や量が変わった、血が混じった
  • 同じ場所の肺炎を繰り返している
  • これまでできていた歩行や階段昇降で息切れするようになった
  • 声のかれや胸の痛みが続く
  • 食欲や体重が理由なく低下している

症状が続く場合は、自分で肺がんと決めつける必要はありませんが、「喫煙のせい」「年齢のせい」「風邪が長引いているだけ」と判断して放置しないことが大切です。診察では、症状が始まった時期、悪化しているか、血痰や発熱を伴うか、生活のどの動作で息苦しくなるかを具体的に伝えます。

肺がんの検査と診断

肺がんが疑われたときの検査には、異常を見つける検査、肺がんかどうかを確定する検査、がんの広がりを調べる検査、治療を安全に受けられるか確認する検査があります。

それぞれ目的が異なるため、胸部CTで影が見つかっただけでは、肺がんの種類やステージ、適した治療まで確定したことにはなりません。

検査の目的 主な検査 確認すること
病変の検出 胸部X線、胸部CT 肺に結節や腫瘤、胸水などがあるか
確定診断 気管支鏡、生検、胸水細胞診など がんかどうか、非小細胞肺がんか小細胞肺がんか、病理型は何か
病期診断 胸腹部造影CT、FDG-PET/CT、脳MRI、リンパ節生検など リンパ節や脳、骨、肝臓、副腎などへ広がっていないか
治療可能性の評価 呼吸機能、心機能、血液検査、全身状態の評価 手術や薬物療法、放射線治療を安全に受けられるか

胸部X線と胸部CTで病変の位置や性状を調べる

咳や血痰などの症状がある場合や、検診で異常を指摘された場合は、胸部X線検査や胸部CT検査を行います。

胸部X線では、肺に大きな影がないかを広く確認できますが、心臓や骨と重なる場所、小さな病変、すりガラス状の病変などは分かりにくいことがあります。胸部X線で肺がんが疑われる場合や、症状が続く場合には、胸部CTで詳しく確認します。

CTでは、病変の大きさ、形、内部の状態、気管支や血管との位置関係、胸膜への広がり、胸水、リンパ節の腫れなどを確認できます。

ただし、画像だけで肺がんと確定することはできません。感染症、炎症、良性腫瘍などでも肺がんに似た影が現れるためです。小さな結節では、形や大きさ、以前の画像からの変化、喫煙歴などを考慮し、すぐに生検を行わずCTで経過を確認する場合もあります。

CEA、CYFRA、SCC、ProGRP、NSEなどの腫瘍マーカーを測定することもありますが、腫瘍マーカーだけで肺がんの有無を確定したり、正常値だから肺がんではないと判断したりすることはできません。診断後の治療効果や経過を確認する補助として用いることがあります。

組織や細胞を採取して肺がんを確定する

肺がんの確定診断には、病変から採取した組織や細胞を顕微鏡で調べる病理・細胞診断が必要です。

病理検査では、肺がんであるかどうかに加え、非小細胞肺がんと小細胞肺がんのどちらか、腺がんや扁平上皮がんなどのどの病理型に当たるかを確認します。治療方針を決めるためには、遺伝子検査やPD-L1検査に使用できる量の検体を確保することも重要です。

組織や細胞を採取する方法は、病変の位置や大きさ、リンパ節の状態、体への負担などから選びます。

気管支鏡検査

気管支鏡検査では、鼻または口から細い内視鏡を入れ、気管支の内側を観察しながら、がんが疑われる部分の組織や細胞を採取します。

太い気管支の近くにある病変だけでなく、超音波やナビゲーションを併用することで、肺の末梢にある病変から組織を採取できる場合もあります。

検査後には、一時的な発熱や血痰がみられることがあります。まれに出血、肺炎、肺から空気が漏れる気胸などが起こる可能性があるため、検査後に息苦しさや胸痛、出血の増加がある場合は医療機関へ連絡します。

CTガイド下生検

肺の外側に近く、気管支鏡では届きにくい病変では、CTで位置を確認しながら、胸の外側から針を刺して組織を採取する経皮的針生検を行うことがあります。

病変から直接組織を採取できる一方、気胸や肺からの出血が起こる可能性があります。肺気腫が強い場合や、病変が重要な血管に近い場合などは、ほかの検査方法を検討することがあります。

EBUS-TBNAによるリンパ節検査

肺門や縦隔のリンパ節が腫れている場合は、超音波気管支鏡ガイド下針生検であるEBUS-TBNAを行うことがあります。

気管支鏡の先端に付いた超音波でリンパ節の位置を確認し、気管支の壁を通して針を刺して細胞や組織を採取します。肺がんの確定診断だけでなく、リンパ節転移の有無を調べてステージを決める目的でも行われます。

胸水細胞診や胸腔鏡検査

肺の周囲に胸水がたまっている場合は、針を刺して胸水を採取し、がん細胞が含まれていないか調べます。胸水から十分な情報が得られない場合には、胸腔鏡で胸膜や肺、リンパ節などの組織を採取することがあります。

最初の検査で診断がつかない場合でも、直ちに肺がんではないと判断することはできません。病変の場所によっては組織を採取しにくいため、別の方法による再検査や、手術による生検を検討する場合があります。

参考:肺がん 検査|国立がん研究センター がん情報サービス

胸腹部造影CT、PET/CT、脳MRIで広がりを調べる

肺がんと診断された後は、TNM分類に基づいてステージを決めます。病期診断では、肺の病変だけでなく、胸部リンパ節や離れた臓器への転移を調べます。

胸腹部造影CTでは、肺や胸部リンパ節に加え、肝臓、副腎などへの転移を確認します。造影剤アレルギーや腎機能の低下がある場合は、検査方法を調整することがあります。

FDG-PET/CTでは、糖に似た薬剤が集まる場所を画像化し、胸部リンパ節や骨、ほかの臓器への転移が疑われる部分を調べます。ただし、炎症や感染症にも薬剤が集まることがあり、反対に小さな病変や一部の肺がんでは集まりにくいこともあります。

そのため、PET/CTでリンパ節に強い集積があることと、病理検査でリンパ節転移が証明されたことは同じではありません。

リンパ節転移の有無によって手術や根治的放射線治療の方針が変わる場合は、必要に応じてEBUS-TBNAや経食道的超音波内視鏡検査、外科的なリンパ節生検などで確認します。

脳MRIでは、脳転移の有無を調べます。小さな脳転移は症状がないこともあるため、頭痛や麻痺がない場合でも、病期や病理型に応じて検査を行います。PET/CTだけでは脳転移を十分に評価できないため、脳はMRIなどで別に確認します。

骨の痛みがある場合やPET/CTを行えない場合などには、骨シンチグラフィや骨のMRIなどを追加することがあります。

ステージ4と診断された場合でも、転移している臓器、病変の数、症状の有無によって治療の目的や選択肢は異なります。

参考:肺癌の診断|肺癌診療ガイドライン2025年版

治療を安全に受けられるか評価する

肺がんの治療方針は、がんを切除できるかどうかだけでなく、治療後に呼吸や日常生活をどこまで保てるかを含めて決めます。

手術を検討する場合は、呼吸機能検査で肺活量や1秒量などを測定し、必要に応じて肺を切除した後に残る呼吸機能を予測します。COPDや間質性肺疾患がある場合は、手術や放射線治療、薬物療法による肺への影響も考慮します。

心電図などによる循環機能の評価、血液検査による腎機能・肝機能・血球数の確認も行います。シスプラチンなどの薬物療法は腎機能や聴力、全身状態によって使用しにくいことがあり、検査結果に応じて薬の種類や投与方法を検討します。

また、パフォーマンスステータスと呼ばれる指標を用いて、歩行、身の回りの動作、仕事や家事などをどの程度行えるかを評価します。年齢だけで治療の可否を決めるのではなく、呼吸機能、臓器機能、持病、認知機能、栄養状態、本人の希望などを組み合わせて判断します。

検査結果の説明で確認したいこと

肺がんの検査結果は、「肺がんだった」「ステージ3だった」という結論だけでなく、その根拠を確認することが治療選択につながります。

  • 非小細胞肺がんと小細胞肺がんのどちらか
  • 腺がんや扁平上皮がんなど、病理型は何か
  • ステージを決めた病変やリンパ節はどこか
  • リンパ節転移は画像上の疑いか、組織検査で確認されているか
  • 脳MRIやPET/CTなど、追加の病期診断が必要か
  • 遺伝子・PD-L1検査に使える検体が確保されているか
  • 手術後に予測される呼吸機能はどの程度か

非小細胞肺がんでは、病理診断と病期診断に加え、治療薬を選ぶための遺伝子・バイオマーカー検査が必要です。次の章で、検査する遺伝子と治療との関係を詳しく解説します。

参考:非小細胞肺癌の外科治療|肺癌診療ガイドライン2025年版

肺がんのステージ分類|TNM分類第9版

肺がんのステージは、がんの大きさだけではなく、周囲の臓器への広がり、リンパ節転移、離れた臓器への転移を組み合わせて決めます。

日本では2025年1月から、肺癌取扱い規約第9版に基づくTNM分類が使用されています。TNMは、次の3つの要素を表します。

要素 意味 主に確認すること
T 原発腫瘍 腫瘍の大きさ、気管支・胸膜・胸壁・縦隔などへの広がり、同じ肺内の別病変
N 所属リンパ節 肺内、肺門、縦隔、鎖骨上などのリンパ節へ転移しているか
M 遠隔転移 反対側の肺、胸膜、脳、骨、肝臓、副腎などへ広がっているか

T・N・Mの組み合わせによって、ステージ0からステージ4までに分類します。正確なステージは組み合わせが細かいため、腫瘍の大きさだけを見て判断することはできません。

参考:肺癌の分類・TNM病期分類|肺癌診療ガイドライン2025年版

Tは原発腫瘍の大きさと周囲への広がりを表す

T分類は、肺にある原発腫瘍の状態を表します。

小さながんは、最大充実成分径などに応じてT1a、T1b、T1cに分けられます。腫瘍が大きくなる場合のほか、胸膜、胸壁、心膜、横隔膜、縦隔、気管などへ広がっている場合や、同じ肺葉内・別の肺葉内に別の腫瘍結節がある場合にもT分類が上がることがあります。

画像に写る病変全体の大きさと、ステージ判定に使用される充実成分の大きさが異なる場合もあります。とくに、すりガラス状の部分を含む肺腺がんでは、CT画像のどの部分を測定した数値かを確認する必要があります。

Nはリンパ節転移の場所と広がりを表す

N分類は、肺がんの周囲にある所属リンパ節への転移を表します。

  • N0:所属リンパ節転移がない
  • N1:がんと同じ側の肺内、気管支周囲、肺門リンパ節などへの転移
  • N2:がんと同じ側の縦隔リンパ節、または気管分岐部下リンパ節への転移
  • N3:反対側の縦隔・肺門リンパ節、または鎖骨上窩などのリンパ節への転移

TNM分類第9版では、N2がさらに次の2つに分けられました。

  • N2a:縦隔リンパ節のうち、単一のリンパ節領域への転移
  • N2b:複数の縦隔リンパ節領域への転移

縦隔リンパ節転移が一つの領域だけにある場合と、複数の領域に広がっている場合では、病状や治療の組み立てが異なる可能性があるためです。

CTやPET/CTでリンパ節が腫れている、または薬剤が集まっているだけでは、必ずしも転移が確定したとはいえません。リンパ節転移の有無によって手術や根治的放射線治療の方針が変わる場合には、EBUS-TBNAなどで組織を採取して確認することがあります。

Mは胸部以外を含む遠隔転移を表す

M分類は、肺がんが離れた場所へ転移しているかを表します。

  • M0:遠隔転移がない
  • M1a:反対側の肺の腫瘍、胸膜・心膜の結節、がん細胞を含む胸水・心嚢水など
  • M1b:胸部以外の一つの臓器に、単発の遠隔転移がある
  • M1c1:胸部以外の一つの臓器に、複数の遠隔転移がある
  • M1c2:胸部以外の複数の臓器に遠隔転移がある

たとえば、脳に一つだけ転移がある場合と、脳や骨、肝臓など複数の臓器に転移がある場合は、いずれもステージ4に含まれますが、検討できる治療や見通しは同じではありません。

限られた数の遠隔転移では、全身薬物療法に加え、手術や定位放射線治療などの局所治療を組み合わせる場合もあります。ステージ4は「治療法が一つしかない状態」ではなく、病理型、遺伝子異常、PD-L1、転移部位と病変数、症状、全身状態によって治療を組み立てます。

ステージ4肺がんの分類、転移部位、薬物療法、局所治療については、以下の記事で詳しく解説しています。

ステージ0から4はどのような状態か

TNMの組み合わせは細かく分かれますが、ステージごとの大まかな捉え方は次のとおりです。

ステージ 大まかな状態
ステージ0 がん細胞が上皮内にとどまり、周囲へ浸潤していない上皮内がん
ステージ1 主に肺の中にとどまり、リンパ節転移が認められない段階
ステージ2 腫瘍が大きい、周囲へ広がっている、肺門リンパ節などへ転移している段階。一部のT1・N2a症例を含む
ステージ3 縦隔リンパ節や鎖骨上リンパ節、胸部の重要な臓器などへ広がった局所進行段階
ステージ4 反対側の肺、胸膜・心膜、脳、骨、肝臓、副腎などへ遠隔転移している段階

この表は病状の概要を理解するためのものであり、表だけから手術の可否や治療法を決めることはできません。

たとえばステージ2でも、縦隔リンパ節への転移を伴う場合があります。ステージ3には、手術を組み合わせられる可能性がある病状から、手術が難しく化学放射線療法を中心に考える病状まで含まれます。

臨床病期と病理病期は異なることがある

治療前のCT、PET/CT、脳MRI、生検などから判断するステージを臨床病期といいます。

手術を行った場合は、切除した肺やリンパ節を詳しく調べ、実際の腫瘍の広がりを確認します。この結果から決めるステージが病理病期です。

画像検査では転移がないように見えても、手術後の病理検査で小さなリンパ節転移が見つかることがあります。反対に、画像では転移が疑われても、病理検査ではがん細胞が確認されない場合もあります。

そのため、手術前に説明されたステージと、手術後に確定するステージが変わることがあります。術後に薬物療法が必要かどうかは、病理病期、腫瘍の大きさ、リンパ節転移、遺伝子異常などを踏まえて判断します。

小細胞肺がんでは限局型と進展型も用いる

小細胞肺がんにもTNM分類を用いますが、治療方針を考える際には、限局型と進展型という区分も広く使われます。

  • 限局型:病変が片側の胸部を中心に存在し、許容できる一つの放射線照射範囲に収まる状態
  • 進展型:病変が限局型の範囲を超えて広がっている状態

限局型と進展型は、TNM分類の特定のステージと完全に一対一で対応する分類ではありません。胸部放射線治療を安全に行える範囲かどうかも含めて判断します。

小細胞肺がんの限局型・進展型の治療や再発時の選択肢については、以下の記事で詳しく解説しています。

ステージだけで治療は決まらない

肺がんの治療方針を決めるには、ステージに加えて、次の情報が必要です。

  • 非小細胞肺がんか小細胞肺がんか
  • 腺がん、扁平上皮がんなどの病理型
  • 病変を完全に切除できる可能性
  • 呼吸機能や心機能、全身状態
  • EGFR、ALKなどのドライバー遺伝子異常
  • PD-L1発現
  • 転移の場所、数、症状

次の章では、非小細胞肺がんと小細胞肺がんを分け、ステージごとの標準的な治療方針を解説します。

参考:肺癌取扱い規約第9版発刊のお知らせ|日本肺癌学会
参考:肺がん 検査|国立がん研究センター がん情報サービス

非小細胞肺がんのステージ別治療

非小細胞肺がんの治療は、ステージだけでなく、病変を完全に切除できるか、手術後に十分な呼吸機能を保てるか、リンパ節転移の範囲、遺伝子異常、PD-L1発現、全身状態などから決めます。

同じステージ3でも、手術を含む集学的治療を検討できる場合と、切除不能として化学放射線療法を行う場合があります。とくに縦隔リンパ節転移を伴う症例では、呼吸器外科、呼吸器内科、放射線治療科、病理診断科などによる検討が必要です。

病状 治療の中心 治療前に確認すること
ステージ1 手術。手術が難しい場合は定位放射線治療など 腫瘍の大きさ・位置、呼吸機能、手術後に残る肺機能
ステージ2~切除可能なステージ3 手術と周術期薬物療法 リンパ節転移、病理型、EGFR・ALK、PD-L1、術前治療の適応
切除不能ステージ3 化学放射線療法と、その後の薬物療法 放射線の照射範囲、全身状態、肺疾患、EGFR遺伝子変異
ステージ4・再発 分子標的薬、免疫療法、細胞障害性抗がん薬など 遺伝子異常、PD-L1、病理型、転移部位、全身状態

参考:肺がん 非小細胞肺がん 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

ステージ1は手術による完全切除を目指す

ステージ1の非小細胞肺がんでは、手術に耐えられる呼吸機能と全身状態があれば、がんを完全に取り除く手術が治療の中心です。

標準的な手術では、がんがある肺葉を切除する肺葉切除と、周囲のリンパ節を切除または採取するリンパ節郭清を行います。ただし、小型で肺の末梢にある一部のがんでは、肺葉の一部分を解剖学的に切除する区域切除を選べる場合があります。

区域切除は、単に体への負担が小さい手術というだけではありません。腫瘍の大きさ、すりガラス成分と充実成分の割合、病変の位置、十分な切除断端を確保できるかなどを確認して選択します。

呼吸機能の低下、重い心疾患、間質性肺疾患などによって手術が難しい場合には、定位放射線治療を検討します。定位放射線治療は、小さな肺がんへ多方向から放射線を集中させ、根治を目指す治療です。

医学的には手術が可能であっても、本人が手術を希望しない場合に放射線治療を選ぶことがあります。ただし、手術と放射線治療では病理診断の確実性、リンパ節評価、局所再発の評価方法などが異なるため、それぞれの利益と不利益を確認します。

ステージ2・切除可能なステージ3では手術前後の薬物療法を組み合わせる

ステージ2や一部のステージ3では、画像に写る病変を手術で切除できても、目に見えない微小ながん細胞が体内に残っている可能性があります。そのため、手術だけでなく、再発リスクを下げるための薬物療法を組み合わせます。

治療には、手術後に行う術後補助療法と、手術前から行う術前・周術期療法があります。

プラチナ製剤を含む術後補助化学療法

完全切除されたステージ2~3では、シスプラチンなどのプラチナ製剤を含む術後補助化学療法を検討します。

術後補助化学療法は、画像で確認できるがんを治療するのではなく、再発の原因となる可能性がある微小ながん細胞を減らすことが目的です。手術後の病理病期、リンパ節転移、全身状態、腎機能、聴力などを踏まえて、期待できる再発予防効果と副作用を比較します。

一部の早期肺腺がんでは、病理病期や腫瘍径などの条件に応じて、テガフール・ウラシル配合剤を使用することがあります。

EGFR変異陽性では術後オシメルチニブを検討する

完全切除後の非小細胞肺がんで、EGFR遺伝子のエクソン19欠失またはL858R変異が確認された場合は、病理病期などの条件を満たせば、術後にオシメルチニブを内服する治療を検討します。

オシメルチニブは細胞障害性抗がん薬の代わりとして一律に選ぶ治療ではありません。病期によっては、まずプラチナ製剤を含む術後補助化学療法を行い、その後にオシメルチニブを使用します。

治療期間が長くなるため、発疹、下痢、爪の炎症、間質性肺疾患、心機能への影響などを確認しながら継続します。

ALK陽性では術後アレクチニブを検討する

ALK融合遺伝子陽性の完全切除例では、病理病期などの条件を満たす場合に、術後アレクチニブを検討します。

EGFRやALKの検査はステージ4の薬を選ぶためだけの検査ではありません。現在は、手術後の再発予防治療にも関係するため、切除可能な段階でも治療前または手術後に検査します。

条件を満たす場合は免疫療法を手術前後に行う

ステージ2から一部のステージ3では、プラチナ製剤を含む抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬を手術前に併用する治療や、手術前後に免疫療法を行う周術期治療を検討する場合があります。治療薬によって、術前のみ行うか、術後も継続するかが異なります。

また、完全切除と術後補助化学療法の後に、PD-L1発現などの条件を踏まえて、アテゾリズマブなどによる術後免疫療法を検討する場合もあります。

免疫療法が適しているかは、病期やPD-L1だけでは決まりません。EGFRやALKなどの遺伝子異常、自己免疫疾患、間質性肺疾患、臓器移植歴、手術までの予定なども確認します。

手術前の治療には、病変を縮小させ、体内の微小ながん細胞を早い段階から治療できる可能性があります。一方、治療中に病状が進行する、副作用によって手術が延期されるなどの可能性もあります。

術前治療を提案された場合は、何回治療した後に手術を行う予定か、どのような変化があれば手術方針を見直すのかを確認します。

ステージ3は手術で切除できるかを多職種で判断する

ステージ3には、腫瘍が周囲の臓器へ広がった状態、縦隔リンパ節へ転移した状態、鎖骨上リンパ節へ転移した状態など、さまざまな病状が含まれます。

一部では、術前薬物療法や化学放射線療法と手術を組み合わせることがあります。一方、複数領域の縦隔リンパ節転移や広い範囲への浸潤などがある場合は、手術ですべてを取り切ることが難しくなります。

「ステージ3だから手術できる」「ステージ3だから手術できない」と一律に判断することはできません。

手術の可能性を考える場合は、画像だけでなく、EBUS-TBNAなどによるリンパ節の病理診断、必要となる肺の切除範囲、術後に予測される呼吸機能を確認します。治療方針は、呼吸器外科医だけでなく、呼吸器内科医や放射線治療医を含むチームで検討します。

切除不能ステージ3では同時化学放射線療法を行う

切除不能の局所進行非小細胞肺がんで、全身状態が良く薬物療法を受けられる場合は、プラチナ製剤を含む薬物療法と胸部放射線治療を同じ時期に行う同時化学放射線療法が標準的な選択肢です。

放射線治療と薬物療法を同時に行うことで治療効果が高まる一方、食道炎、肺炎、血球減少、食欲低下などの副作用も強くなる可能性があります。

年齢だけで同時治療の可否を決めるのではなく、全身状態、照射範囲、呼吸機能、腎機能、肺疾患などから判断します。同時治療が難しい場合は、薬物療法と放射線治療を順番に行う方法や、放射線治療単独を検討します。

化学放射線療法後のデュルバルマブ

同時化学放射線療法によって病状が制御され、重い肺障害などがない場合は、免疫チェックポイント阻害薬のデュルバルマブによる地固め療法を検討します。

地固め療法は、化学放射線療法で小さくなった病変だけを治療するのではなく、その後の再発や進行を抑えることが目的です。治療中は、咳、息切れ、発熱など、放射線肺臓炎や免疫関連の肺障害を疑う症状に注意します。

EGFR変異陽性では化学放射線療法後のオシメルチニブを検討する

切除不能ステージ3で、EGFR遺伝子のエクソン19欠失またはL858R変異があり、化学放射線療法後に病状が進行していない場合は、オシメルチニブによる維持療法を検討します。

そのため、EGFR検査はステージ4だけでなく、切除不能ステージ3の治療後の選択にも関係します。化学放射線療法を開始する段階で、遺伝子検査の結果を確認できるよう検体を確保しておくことが望まれます。

参考:ステージ3非小細胞肺がんの治療|肺癌診療ガイドライン2025年版

ステージ4・再発では遺伝子異常を確認して薬物療法を選ぶ

ステージ4・再発非小細胞肺がんでは、薬物療法が治療の中心です。ただし、すべての患者さんに同じ抗がん剤を使用するわけではありません。

EGFR、ALK、ROS1、BRAF V600E、MET exon14スキッピング、RET、KRAS G12C、HER2、NTRKなど、治療対象となるドライバー遺伝子異常が確認された場合は、原則として対応する分子標的薬を検討します。

対象となるドライバー遺伝子異常が確認されない場合は、PD-L1発現、腺がんか扁平上皮がんか、全身状態などに応じて、免疫チェックポイント阻害薬の単独療法、細胞障害性抗がん薬との併用療法などを選びます。

PD-L1が50%以上であっても必ず免疫療法単独になるとは限らず、症状の強さや腫瘍量、病理型などから抗がん剤との併用を選ぶ場合があります。反対にPD-L1が低い場合でも、抗がん剤との併用によって免疫療法を使用できる場合があります。

転移が脳や副腎など限られた場所に少数だけ存在する場合には、全身薬物療法に加え、手術や定位放射線治療などの局所治療を組み合わせることがあります。

ステージ4の遺伝子別治療、脳・骨転移への治療、薬が効かなくなった場合の選択、生存率については、以下の記事で詳しく解説しています。

治療方針の説明で確認したいこと

  • 現在の病変は手術ですべて切除できると考えられているか
  • 手術前または手術後の薬物療法は、何を目的に行うのか
  • EGFR、ALK、PD-L1など、周術期治療に必要な検査が行われているか
  • 治療を先に行うことで、手術が延期・中止になる可能性はあるか
  • ステージ3の場合、手術を含む治療と化学放射線療法のどちらが提案されているか
  • 切除不能ステージ3では、化学放射線療法後にどの薬を使用する予定か
  • ステージ4では、遺伝子検査の結果を待ってから治療を開始できるか

非小細胞肺がんでは、病期だけでなく遺伝子・バイオマーカーの結果が、手術前後、切除不能ステージ3、ステージ4のすべてで治療選択に関係します。次の章では、検査する遺伝子と治療薬との関係を整理します。

参考:肺癌診療ガイドライン2025年版|日本肺癌学会

小細胞肺がんの限局型・進展型治療

小細胞肺がんは、増殖が速く、早い段階からリンパ節やほかの臓器へ広がりやすい一方、薬物療法や放射線治療が効きやすいという特徴があります。

治療方針を決めるときはTNM分類によるステージに加え、胸部放射線治療を行える範囲かどうかを基準に、限局型と進展型へ分けます。

病型 病変の範囲 治療の中心
限局型 主に片側の胸部を中心とし、許容できる一つの放射線照射範囲に収まる状態 薬物療法と胸部放射線治療。ごく早期の一部では手術
進展型 限局型の範囲を超え、反対側の肺、胸水、脳、骨、肝臓などへ広がっている状態 免疫チェックポイント阻害薬を含む薬物療法

限局型と進展型は、TNM分類の特定のステージと完全に一対一で対応するものではありません。胸部の病変がどこまで広がっているか、放射線を安全に照射できる範囲か、胸水や遠隔転移があるかなどから判断します。

参考:小細胞肺癌の治療方針|肺癌診療ガイドライン2025年版

ごく早期の限局型では手術を検討する

小細胞肺がんで手術の対象になる患者さんは多くありません。ただし、TNM分類第9版で臨床ステージ1~2Aに当たり、リンパ節転移がないN0の症例では、手術を含む治療を検討します。

手術を行う場合は、肺葉切除とリンパ節郭清が基本です。小細胞肺がんは画像に写らない微小な転移が残っている可能性があるため、完全切除できても手術だけで治療を終了せず、プラチナ製剤とエトポシドなどによる術後薬物療法を行います。

画像上はN0に見えても縦隔リンパ節転移が隠れている場合があります。手術を検討するときは、PET/CTや脳MRIに加え、必要に応じてEBUS-TBNAなどで縦隔リンパ節を調べます。

呼吸機能や持病などの医学的理由で手術が難しい早期N0例では、定位放射線治療と薬物療法を組み合わせる方法を検討する場合があります。

多くの限局型では同時化学放射線療法を行う

手術の対象にならない限局型小細胞肺がんで、全身状態が保たれている場合は、薬物療法と胸部放射線治療を同じ時期に行う同時化学放射線療法が治療の中心です。

薬物療法には、シスプラチンまたはカルボプラチンなどのプラチナ製剤とエトポシドを組み合わせます。放射線治療は、可能な場合には薬物療法の早い時期から開始します。

放射線の照射方法には、1日2回照射する加速過分割照射と、1日1回照射する通常分割照射があります。治療施設の体制、照射範囲、通院の可否、年齢や全身状態などを踏まえて選択します。

同時治療は、薬物療法と放射線治療を別々の時期に行う方法より高い治療効果を期待できる一方、次のような副作用が重なる可能性があります。

  • 白血球や好中球の減少による感染症
  • 食道炎による飲み込みにくさや胸の痛み
  • 吐き気、食欲低下、体重減少
  • 放射線肺臓炎による咳、発熱、息切れ
  • 腎機能低下や聴力への影響

食事や水分を取れない、発熱がある、新しい空せきや息切れが現れた場合は、治療予定日まで待たずに医療機関へ連絡します。

化学放射線療法後はデュルバルマブを検討する

同時化学放射線療法を終えた後、病状が進行しておらず、全身状態が良好な限局型小細胞肺がんでは、免疫チェックポイント阻害薬のデュルバルマブによる地固め療法を検討します。

地固め療法の目的は、化学放射線療法で確認できる病変が小さくなった後に、再発や進行をできるだけ長く抑えることです。2025年版肺癌診療ガイドラインでは、PS 0~1の患者さんに対する標準的な選択肢とされています。

デュルバルマブは通常4週間ごとに投与し、病状の進行や継続できない副作用がなければ、最大2年間行います。

免疫療法では、肺、腸、肝臓、甲状腺などに免疫による炎症が起こることがあります。とくに化学放射線療法後は、放射線肺臓炎と免疫療法による肺障害の区別が難しい場合があります。新しい咳、発熱、息切れがあるときは、自己判断で治療を続けずに相談します。

参考:限局型小細胞肺癌|肺癌診療ガイドライン2025年版

進展型では薬物療法が治療の中心になる

進展型小細胞肺がんでは、胸部だけに治療を行っても、ほかの場所にあるがん細胞を十分に治療できません。そのため、全身へ作用する薬物療法が中心になります。

全身状態が良好な場合の一次治療では、次のいずれかを使用することが一般的です。

  • カルボプラチン+エトポシド+アテゾリズマブ
  • シスプラチンまたはカルボプラチン+エトポシド+デュルバルマブ

プラチナ製剤とエトポシドを通常4サイクル行い、病状の進行がなければ、アテゾリズマブまたはデュルバルマブの単独投与を維持療法として継続します。

小細胞肺がんの一次治療では、非小細胞肺がんのようにPD-L1の数値が一定以上であることを免疫療法の必須条件にはしません。年齢だけで治療の可否を判断することはありませんが、全身状態、腎機能、骨髄機能、感染症、間質性肺疾患などによっては、免疫療法を使用しない方法や、薬の種類・投与量を調整した方法を選びます。

病気によって全身状態が悪化している場合には、薬物療法で病変が縮小することで生活動作が改善する可能性があります。一方、臓器機能が大きく低下している場合には、治療による感染症や治療関連死の危険が高くなるため、利益と負担を慎重に比較します。

胸部や転移部位への放射線治療を追加する場合がある

進展型でも、薬物療法によって全身の病状がよく抑えられ、胸部に病変が残っている場合は、患者さんの状態に応じて胸部放射線治療を検討することがあります。

脳転移、骨転移、気道の狭窄などによって症状がある場合は、病変の縮小や症状の軽減を目的として放射線治療を行います。脳転移では、転移の数、大きさ、場所、症状、全身の病状に応じて、全脳照射や定位放射線治療などを検討します。

参考:進展型小細胞肺癌|肺癌診療ガイドライン2025年版

予防的全脳照射は利益と負担を比較する

小細胞肺がんは、初回治療で胸部の病変がよく縮小しても、その後に脳転移が起こることがあります。画像で脳転移が確認されていない段階に脳全体へ放射線を照射する治療を、予防的全脳照射といいます。

限局型で初回治療後に完全寛解が得られた場合には、脳転移の危険を下げる目的で予防的全脳照射を検討します。

一方、頭痛、吐き気、脱毛、倦怠感などの早期副作用に加え、時間がたってから記憶力や認知機能へ影響する可能性があります。年齢、もともとの認知機能、治療効果、定期的な脳MRIを受けられるかなどを踏まえ、利益と負担を比較します。

進展型では、日本の診療ガイドライン上、薬物療法後の予防的全脳照射は原則として推奨されていません。脳MRIを定期的に行い、脳転移を早期に発見して治療する方針が選ばれます。

再発時は再発までの期間と全身状態から薬を選ぶ

小細胞肺がんは初回治療によって大きく縮小しても、再発することがあります。再発時の治療は、初回治療がどの程度効いたか、治療終了から再発までの期間、以前の副作用、全身状態などから選びます。

初回治療終了から比較的長い期間がたって再発した場合は、以前に使用したプラチナ製剤を含む治療をもう一度行う場合があります。治療中に進行した場合や、治療終了後早期に再発した場合は、異なる薬を検討します。

再発時に用いられる薬には、アムルビシン、ノギテカン、イリノテカンなどがあります。どの薬を選ぶかは、再発までの期間、血球減少、腎機能、これまでの治療歴などによって異なります。

再発小細胞肺がんに対するタルラタマブ

がん化学療法後に病状が増悪した小細胞肺がんでは、全身状態などの条件を満たす場合にタルラタマブを検討します。

タルラタマブは、小細胞肺がんの細胞に発現するDLL3と、免疫を担うT細胞のCD3の両方に結合し、T細胞をがん細胞へ誘導する二重特異性抗体です。

投与後にはサイトカイン放出症候群が起こることがあります。発熱、低血圧、頻脈、息苦しさ、低酸素状態などが主な症状です。また、意識の変化、言葉が出にくい、手の震え、けいれんなどを伴う神経系の副作用が起こる場合があります。

とくに治療初期は院内での観察や、治療施設の近くでの待機などが必要になることがあります。通院方法や家族の付き添いを含め、投与後の観察体制を治療前に確認します。

参考:再発小細胞肺癌|肺癌診療ガイドライン2025年版

小細胞肺がんでは遺伝子検査の役割が異なる

非小細胞肺がんでは、多数のドライバー遺伝子異常を調べ、結果に対応する分子標的薬を選びます。

一方、小細胞肺がんでは、現時点でEGFRやALKなどの遺伝子異常を日常診療で幅広く検査し、一次治療の薬を選ぶ方法は確立していません。限局型・進展型、全身状態、初回治療への反応、再発までの期間が、治療選択の主な判断材料になります。

小細胞肺がんの症状、検査、限局型・進展型の治療、再発時の治療、生存率については、以下の記事で詳しく解説しています。

肺がんの遺伝子・バイオマーカー検査

非小細胞肺がんでは、がん細胞の遺伝子異常やPD-L1発現によって、効果を期待できる薬が異なります。そのため、薬物療法を検討する場合は、病理型やステージを調べるだけでなく、治療選択に関係する遺伝子・バイオマーカーを治療開始前に確認することが重要です。

検査結果は、ステージ4・再発肺がんの一次治療だけに使うものではありません。EGFRやALKなどは、手術後の再発予防治療や、切除不能ステージ3の化学放射線療法後の治療選択にも関係します。

ドライバー遺伝子異常とは

ドライバー遺伝子異常とは、がん細胞の増殖を促す原因となっている遺伝子の変化です。対応する分子標的薬がある場合は、その遺伝子異常を狙った治療を検討できます。

肺がんで調べるEGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子などの多くは、がん細胞に後天的に生じた体細胞変異です。喫煙、受動喫煙、アスベストなどの発症リスクとは性質が異なり、検査で遺伝子異常が見つかったからといって、本人が生まれつきその変化を持っている、または家族へ遺伝するという意味ではありません。

また、ドライバー遺伝子異常は、たばこを吸ったことがない人にも見つかります。非喫煙者だから遺伝子検査が不要ということではなく、反対に喫煙歴があるから遺伝子異常がないとも限りません。

非小細胞肺がんで調べる主な遺伝子とPD-L1

2025年版肺癌診療ガイドラインでは、薬物療法を検討する非小細胞肺がんに対して、EGFR、ALK、ROS1、BRAF、MET、RET、KRAS、HER2の遺伝子検査とPD-L1検査を行うことが強く推奨されています。

検査項目 確認する主な異常 治療との関係
EGFR エクソン19欠失、L858R、エクソン20挿入など 異常の種類と病期に応じてEGFR阻害薬を検討。術後治療や切除不能ステージ3の治療にも関係する
ALK ALK融合遺伝子 ALK阻害薬を検討。条件を満たす完全切除例では術後治療にも関係する
ROS1 ROS1融合遺伝子 ROS1阻害薬を検討
BRAF 主にBRAF V600E変異 BRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用を検討
MET METエクソン14スキッピング MET阻害薬を検討
RET RET融合遺伝子 RET阻害薬を検討
KRAS 主にKRAS G12C変異 治療歴などの条件に応じてKRAS G12C阻害薬を検討
HER2 HER2遺伝子変異 治療歴などの条件に応じて抗HER2薬を検討
NTRK NTRK融合遺伝子 がんの発生臓器を問わず、条件を満たす場合にTRK阻害薬を検討
PD-L1 がん細胞などに発現するPD-L1タンパク質の割合 免疫チェックポイント阻害薬を単独または抗がん剤と併用する際の判断材料

PD-L1は遺伝子異常ではなく、がん組織を免疫染色して調べるタンパク質です。一般に、腫瘍細胞のうちPD-L1が発現している割合をTPSとして示します。

治療方針を検討するときは、PD-L1 TPSを50%以上、1~49%、1%未満などに分けます。ただし、PD-L1が高ければ必ず免疫療法が効く、低ければ使用できないという検査ではありません。

ドライバー遺伝子異常の有無、腺がんか扁平上皮がんか、病変の広がり、自己免疫疾患や間質性肺疾患、全身状態なども含めて、免疫療法単独または細胞障害性抗がん薬との併用を検討します。

参考:分子診断|肺癌診療ガイドライン2025年版

遺伝子は一つずつではなく同時に調べる

肺がんの遺伝子検査では、EGFRが陰性だったら次にALK、その次にROS1というように、一つずつ順番に調べる方法もあります。しかし、検査のたびに組織を使用すると、途中で検体が不足する可能性があります。

ALK、ROS1、BRAF V600E、METエクソン14スキッピング、RET、KRAS G12C、HER2などは、それぞれ見つかる頻度が高くありません。一つずつ検査すると、すべての結果がそろうまで時間がかかり、頻度の低い遺伝子異常を調べる前に組織がなくなることもあります。

そのため日本肺癌学会は、検査項目に優先順位をつけず、複数の遺伝子を同時に調べることを強く推奨しています。複数の遺伝子を一度に解析する検査を、マルチプレックス遺伝子検査またはマルチ遺伝子検査と呼びます。

PD-L1検査も、遺伝子検査とは方法が異なりますが、薬物療法を決める段階で遺伝子検査と並行して行います。

治療を急ぐ必要がある場合でも、検査結果を待たずに免疫療法を始めると、後からドライバー遺伝子異常が見つかった際の治療順序や副作用管理へ影響することがあります。

病状が許す場合は、必要な遺伝子・PD-L1の結果がいつそろうかを確認し、結果を踏まえて一次治療を決めます。

参考:肺癌バイオマーカー各種検査の手引き|日本肺癌学会

腺がん以外でも遺伝子異常が見つかることがある

治療対象となるドライバー遺伝子異常は肺腺がんで見つかることが多いものの、扁平上皮がんや肉腫様がんなど、腺がん以外の非小細胞肺がんに見つかる場合もあります。

とくにMETエクソン14スキッピングは、肺扁平上皮がんや肉腫様がんでも確認されることがあります。病理型だけを理由に検査対象を狭めず、薬物療法を検討する非小細胞肺がんでは、必要な分子診断が行われているか確認します。

組織や胸水を使って検査する

遺伝子検査には、気管支鏡検査、CTガイド下生検、手術などで採取したがん組織を使用します。胸水に十分ながん細胞が含まれている場合は、胸水から作製した検体を使用できることもあります。

一つの検体から、病理診断、免疫染色、PD-L1検査、複数の遺伝子検査を行うため、採取できた組織を計画的に使用する必要があります。

検体に含まれるがん細胞が少ない、組織が古い、保存状態が適していないなどの理由で、検査が成立しない場合もあります。「陰性」と「検査不能」は意味が異なります。

検査不能の場合や、必要な遺伝子の一部しか調べられていない場合は、次の対応を検討します。

  • 残っている組織で別の検査を行えるか確認する
  • 胸水など、ほかの検体を利用できないか確認する
  • 安全性を検討したうえで再生検を行う
  • 血液を用いた遺伝子検査を行う

血液中に流れるがん由来のDNAを調べる方法は、リキッドバイオプシーと呼ばれます。組織を採取しにくい場合や、治療後に新たな遺伝子変化を調べる場合などに利用されます。

ただし、血液中へ放出されるがん由来DNAの量が少ないと、実際には遺伝子異常があっても検出されないことがあります。血液検査で異常が見つからなかった場合に、組織検査での確認を検討することがあります。

参考:肺がん 検査|国立がん研究センター がん情報サービス

治療が効かなくなったときに再検査する場合がある

分子標的薬を使用している間に、がん細胞へ新たな遺伝子変化が生じ、薬が効きにくくなることがあります。これを薬剤耐性といいます。

病状が進行したときは、進行した場所、以前の検査結果、使用してきた薬などに応じて、組織の再生検や血液を使った遺伝子検査を検討します。

再検査の目的は、最初の検査が間違っていたかを確認することだけではありません。治療後に新しく生じた耐性の仕組みを調べ、次に使える薬や臨床試験がないか検討するために行います。

MSI・TMBを調べる場合もある

肺がんでは頻度が高くありませんが、MSI-HighやTMB-Highが確認された固形がんに対し、一定の条件で免疫チェックポイント阻害薬を検討できる場合があります。

MSIやTMBは、PD-L1とは異なるバイオマーカーです。検査結果だけで治療が決まるわけではなく、肺がんに対する標準治療、これまでの治療歴、国内の承認条件、全身状態などを確認します。

初回のマルチ遺伝子検査とがん遺伝子パネル検査は目的が異なる

肺がんの薬物療法を選ぶ際に早い段階で行うマルチ遺伝子検査は、現在の標準治療に直結するEGFR、ALK、ROS1などを調べることが主な目的です。

これに対し、がん遺伝子パネル検査では、がん組織または血液を使い、数十から数百の遺伝子を一度に解析します。標準治療では使われていない薬や臨床試験を含め、新たな治療の手掛かりを探すために行います。

保険診療によるがん遺伝子パネル検査は、原則として、標準治療がない、または標準治療の終了が見込まれる固形がんなど、一定の条件を満たす場合が対象です。また、検査を受けても、実際に使用できる薬や参加できる臨床試験が見つからない場合があります。

参考:がん遺伝子パネル検査とは|国立がん研究センター C-CAT

検査結果の説明で確認したいこと

  • どの遺伝子とバイオマーカーを調べたか
  • 検査項目の一部だけでなく、必要な項目がすべて測定できたか
  • 結果は陰性なのか、検体不足などによる検査不能なのか
  • 見つかった遺伝子異常に対応する国内承認薬があるか
  • その薬は一次治療から使うのか、前の治療後に使うのか
  • PD-L1の数値と、免疫療法の選択へどう影響するか
  • 病状が進行した場合に再検査が必要か
  • がん遺伝子パネル検査や臨床試験を検討する時期はいつか

ステージ4肺がんでの遺伝子別治療、分子標的薬が効かなくなった場合の治療、脳転移への効果については、以下の記事で詳しく解説しています。

肺がんのステージ別生存率

肺がんの予後は、診断された時点のステージだけでなく、非小細胞肺がんと小細胞肺がんのどちらかによって大きく異なります。

非小細胞肺がんでは、早期で完全切除できる場合には根治を目指しやすい一方、遠隔転移がある場合は薬物療法を中心に病状の長期的な制御を目指します。小細胞肺がんは薬物療法や放射線治療が効きやすい反面、増殖が速く、早い段階から再発・転移しやすい性質があります。

国立がん研究センターの院内がん登録では、2014~2015年に診断された患者さんについて、次の5年ネット・サバイバルが公表されています。

ステージ 非小細胞肺がん
5年ネット・サバイバル
小細胞肺がん
5年ネット・サバイバル
ステージ1 82.2% 43.2%
ステージ2 52.6% 28.5%
ステージ3 30.4% 17.5%
ステージ4 9.0% 2.2%

ネット・サバイバルとは、肺がん以外の病気や事故などによる死亡の影響を統計的に調整し、肺がんだけが死亡原因になると仮定して算出した生存率です。死因を問わず、実際に生存していた人の割合を示す実測生存率とは異なります。

たとえば、非小細胞肺がんのステージ1における実測生存率は74.6%ですが、ネット・サバイバルは82.2%です。高齢者が多い肺がんでは、心臓病や脳血管疾患など、肺がん以外の死因による影響もあるため、使用する指標によって数値が変わります。

異なる指標で算出された数値を、同じ生存率として比較することはできません。

参考:非小細胞肺がん5年生存率|院内がん登録生存率集計結果閲覧システム
参考:小細胞肺がん5年生存率|院内がん登録生存率集計結果閲覧システム

肺がん全体の39.6%とは対象と計算方法が異なる

記事冒頭で紹介した肺がん全体の5年生存率39.6%は、2018年に診断された全国の肺がん患者さんを対象にした数値です。非小細胞肺がんと小細胞肺がん、すべてのステージが含まれています。

一方、表の数値は、全国のがん診療連携拠点病院などで2014~2015年に診断された患者さんを、非小細胞肺がんと小細胞肺がん、ステージ別に分けた5年ネット・サバイバルです。

対象となる診断年、医療機関、患者集団、計算方法が異なるため、肺がん全体の39.6%と表の数値を直接比較することはできません。

現在のステージ分類とは完全には一致しない

表の患者さんは2014~2015年に診断されており、当時使用されていたTNM分類に基づいてステージが登録されています。

一方、現在は2025年1月からTNM分類第9版が使用されています。第9版では、縦隔リンパ節転移を単一領域と複数領域に分けるなど、ステージの組み合わせが一部変更されました。

そのため、表に掲載したステージ1~4と、現在のTNM分類第9版で診断された患者さんの病状は、完全に同じ集団ではありません。病期別の大まかな傾向を知る資料として使用し、現在のステージを表の数値へそのまま当てはめないことが大切です。

参考:最新がん統計|国立がん研究センター がん統計

公表値には現在の治療が十分反映されていない

2014~2015年の診断後、肺がんの薬物療法は大きく変化しました。

非小細胞肺がんでは、EGFR、ALK、ROS1、BRAF、MET、RET、KRAS、HER2、NTRKなどに対応する分子標的薬が増えています。免疫チェックポイント阻害薬も、ステージ4・再発だけでなく、手術前後や切除不能ステージ3の治療に用いられるようになりました。

小細胞肺がんでも、進展型に対するPD-L1阻害薬、限局型の化学放射線療法後のデュルバルマブ、再発時のタルラタマブなど、表の集計当時には一般診療で使用されていなかった治療が加わっています。

現在使用されている分子標的薬や免疫療法による長期的な治療成績は、この表へ十分に反映されていません。

ただし、新しい薬が増えたからといって、すべての患者さんが表より良好な経過をたどると断定することもできません。遺伝子異常、PD-L1、治療への反応、全身状態などによって、得られる効果は異なります。

参考:肺癌診療ガイドライン2025年版|日本肺癌学会

ステージが同じでも見通しは一人ひとり異なる

生存率は、同じ病理型・ステージの多数の患者さんを集計した統計であり、個人の余命を示す数字ではありません。

非小細胞肺がんのステージ1でも、腫瘍の大きさ、病理型、肺の切除範囲、手術を受けられるかによって経過は異なります。ステージ3には、手術を組み合わせられる可能性がある病状から、切除不能として化学放射線療法を行う病状まで含まれます。

ステージ4では、さらに病状の幅が大きくなります。転移が一つの臓器に限られている場合と、脳、骨、肝臓など複数の臓器へ広がっている場合では、検討できる治療や見通しが異なります。

遺伝子異常に対応する分子標的薬があるか、PD-L1発現、脳転移の有無、呼吸機能、治療前の全身状態、薬物療法への反応なども経過へ影響します。

ステージ4肺がんの分類、完治を目指せる可能性、治療、生存率の受け止め方については、以下の記事で詳しく解説しています。

小細胞肺がんは限局型・進展型も含めて考える

小細胞肺がんの表はTNM分類のステージ別に集計されていますが、実際の治療選択では限局型と進展型という区分も用います。

限局型か進展型かは、TNM分類の特定のステージと完全に一対一で対応するものではありません。胸部の病変を一つの許容できる放射線照射範囲へ収められるかなども含めて判断します。

そのため、小細胞肺がんの見通しを確認するときは、ステージだけでなく、限局型と進展型のどちらか、化学放射線療法を行えるか、初回治療へどの程度反応したか、治療終了から再発までどの程度の期間があったかを確認します。

小細胞肺がんの限局型・進展型治療、再発時の治療、生存率については、以下の記事で詳しく解説しています。

生存率を治療の価値や余命へ置き換えない

生存率が高いステージでも再発の可能性がなくなるわけではなく、生存率が低いステージでも治療を受ける意味がないわけではありません。

進行肺がんでは、病変を完全に消すことが難しい場合でも、薬物療法や放射線治療によって進行を抑え、咳や痛みを軽減し、食事、歩行、仕事などを長く保てる場合があります。

自分の見通しを確認するときは、表の数字だけではなく、次の点について説明を受けます。

    • 肺がんの病理型と現在のステージ
  • 病変を完全に切除または根治的に照射できるか
  • 治療対象となる遺伝子異常やPD-L1発現があるか
  • 転移している臓器と病変の数
  • 現在の治療がどの程度効いているか
  • 呼吸機能や全身状態を保てているか
  • 今後どのような変化があれば治療を変更するか

次の章では、手術後の息切れ、薬物療法や放射線治療の副作用など、治療が日常生活へ与える影響と、医療機関へ連絡すべき症状を解説します。

肺がん治療の副作用と生活への影響

肺がん治療の副作用は、手術、放射線治療、細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬で異なります。同じ治療を受けても、症状の種類や強さ、現れる時期には個人差があります。

副作用を評価するときは、検査値だけでなく、食事や水分を取れるか、歩行や入浴を続けられるか、眠れているか、仕事や家事にどの程度支障があるかを確認します。

症状を早い段階で伝えることで、支持療法、休薬、投与日の延期、薬の変更などによって、安全に治療を続けられる場合があります。

手術後は息切れや胸の痛みが続くことがある

肺の手術後は、肺を切除したことや胸部の傷の影響により、歩行や階段昇降で息切れしやすくなることがあります。咳や深呼吸をしたときに胸が痛む、話をすると咳が出る、疲れやすいといった症状が続く場合もあります。

手術直後に痛みを避けて呼吸が浅くなり、痰を十分に出せない状態が続くと、無気肺や肺炎につながることがあります。鎮痛薬を適切に使用しながら、深呼吸、排痰、歩行などを段階的に行います。

退院後は、無理のない範囲で散歩などの軽い運動から始めます。速く歩く、坂道を上る、重い物を持つといった動作は、平地歩行より息切れしやすいため、休憩を入れながら少しずつ活動量を増やします。

肺葉切除や片肺全摘など、肺を切除した範囲が大きい場合は、手術前と同じ活動量へ戻りにくいことがあります。COPDや間質性肺疾患などがある場合は、もともとの肺機能も術後の生活へ影響します。

仕事へ戻る時期は、傷の大きさだけでなく、次の内容から判断します。

  • 歩行や階段昇降でどの程度息切れするか
  • 胸の痛みによって動作が制限されていないか
  • 仕事で重量物を扱うか、高所作業や長距離運転があるか
  • 通勤中に休憩や酸素療法が必要か
  • 術後薬物療法を行う予定があるか

急に息苦しくなった、高熱や膿のような痰が出る、片脚だけが腫れる、胸の痛みが急に強くなった場合は、肺炎、気胸、血栓症などの可能性があるため、医療機関へ連絡します。

細胞障害性抗がん薬では感染症や食事量の低下に注意する

細胞障害性抗がん薬では、骨髄抑制、吐き気、食欲低下、口内炎、便秘、下痢、脱毛、だるさ、しびれなどが起こることがあります。使用する薬の組み合わせによって、現れやすい副作用は異なります。

白血球・好中球の減少

白血球や好中球が減ると、感染症にかかりやすくなります。血液検査を受けるまで自覚症状がない場合もありますが、発熱、悪寒、咳、痰、排尿時の痛みなどが感染症の手掛かりになります。

38℃以上、または治療施設から指定された体温以上の発熱がある場合は、解熱剤だけで様子を見ず、夜間・休日を含めて指定された連絡先へ相談します。

感染を完全に防ぐことはできませんが、手洗い、口腔ケア、食事前後の衛生管理を行い、好中球が少ない時期には人混みや感染症患者との接触をできる範囲で避けます。

吐き気・食欲低下・体重減少

シスプラチンなどを含む治療では、吐き気や嘔吐が問題になることがあります。現在は予防的に複数の制吐薬を使用しますが、治療当日だけでなく、数日後に吐き気が強くなる場合もあります。

食事を一度に取れないときは、少量を複数回に分け、においが少なく食べやすい物を選びます。食事内容を完璧に整えることより、水分と最低限のエネルギーを確保することを優先する時期もあります。

水分を取れない、尿量が減った、短期間で体重が低下した、処方された吐き気止めを使用しても嘔吐が続く場合は、点滴や薬の調整が必要になることがあります。

薬ごとに異なる臓器への影響

プラチナ製剤のうち、シスプラチンでは腎機能低下、聴力低下、強い吐き気などに注意します。治療前後に点滴を行い、水分を確保して腎臓への負担を減らす場合があります。

カルボプラチンでは、腎臓への負担がシスプラチンより少ない傾向がある一方、血小板などの血球減少が問題になることがあります。

パクリタキセルなどでは、手足のしびれや筋肉痛、関節痛が現れる場合があります。箸を使いにくい、ボタンを留めにくい、足の裏の感覚が鈍い、つまずくといった変化があれば、生活への影響が大きくなる前に伝えます。

薬によっては腎機能、聴力、末梢神経への影響が治療後も残ることがあります。血液検査が許容範囲であっても、日常動作に支障が出ている場合は治療量の調整を相談します。

分子標的薬では薬ごとに異なる副作用が現れる

分子標的薬は、対応する遺伝子異常を持つがん細胞へ作用しますが、標的となる分子は正常な細胞にも存在するため、副作用が起こります。

EGFR阻害薬では、顔や胸、背中などの発疹、皮膚の乾燥、爪の周囲の炎症、下痢、口内炎などがみられます。発疹は見た目だけの問題ではなく、人に会うことが負担になる、指先の痛みで家事や仕事が難しくなるなど、生活へ影響することがあります。

ALK、ROS1、MET、RETなどを標的とする薬では、薬によって、むくみ、肝機能障害、便秘、下痢、視覚の変化、脈拍低下、高血圧などが起こる場合があります。HER2を標的とする薬では、血球減少や吐き気、肺障害などにも注意します。

分子標的薬は内服薬が多いものの、副作用が軽い治療という意味ではありません。治療開始後は血液検査、心電図、心臓超音波検査などを、薬の特徴に応じて行います。

発疹や下痢などが強い場合は、症状を抑える薬を使用するほか、休薬や減量を検討します。飲み忘れた分をまとめて服用したり、自己判断で服用回数を変更したりしないでください。

薬剤性肺障害では新しい空せきや息切れが手掛かりになる

細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬のいずれでも、肺に炎症が起こる薬剤性肺障害や間質性肺炎が生じることがあります。

肺がんそのもの、細菌・ウイルス性肺炎、心不全、肺血栓塞栓症、放射線肺臓炎でも似た症状が現れるため、自分で原因を判断することはできません。

次の症状が新しく現れた場合は、軽い段階でも治療施設へ連絡します。

  • 痰を伴わない空せき
  • 以前は問題なかった歩行や階段での息切れ
  • 安静にしていても息苦しい
  • 原因の分からない発熱
  • 血液中の酸素飽和度が普段より低い

薬剤性肺障害が疑われる場合は、原因と考えられる薬を中止し、胸部CT、血液検査、酸素状態などを確認します。重症度によっては入院し、副腎皮質ステロイドなどによる治療を行います。

「肺がんがあるから咳や息切れは仕方がない」と考え、次の診察まで待たないことが重要です。

参考:呼吸困難・咳・痰|国立がん研究センター がん情報サービス

免疫チェックポイント阻害薬では免疫関連副作用に注意する

免疫チェックポイント阻害薬では、活性化された免疫が正常な臓器を攻撃し、肺、腸、肝臓、皮膚、甲状腺、下垂体、副腎、膵臓、心臓、神経、筋肉などに炎症が起こることがあります。

症状が現れる臓器や時期を予測することは難しく、治療開始直後だけでなく、治療を長く続けた後や、治療終了後に現れる場合もあります。

次のような変化がある場合は、治療との関係がなさそうに見えても医療機関へ伝えます。

  • 新しい咳、息切れ、胸の痛み
  • 下痢、排便回数の増加、腹痛、血便
  • 皮膚や白目が黄色い、尿の色が濃い
  • 強いだるさ、食欲低下、頭痛、めまい
  • 異常な喉の渇き、尿量の増加、急な体重変化
  • 動悸、脈の乱れ、胸部の圧迫感
  • 手足に力が入らない、歩きにくい、物が二重に見える
  • 意識がぼんやりする、言動が普段と異なる

免疫チェックポイント阻害薬の副作用への対応は、細胞障害性抗がん薬とは異なります。

細胞障害性抗がん薬や一部の分子標的薬では減量する場合がありますが、免疫チェックポイント阻害薬では通常、投与量を段階的に減らす方法は取りません。重症度に応じて休薬または中止し、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬などを使用します。

ほかの医療機関や救急外来を受診するときも、現在または過去に免疫チェックポイント阻害薬を使用していたことを伝えます。

参考:免疫療法 もっと詳しく|国立がん研究センター がん情報サービス

放射線治療では食道炎と放射線肺臓炎が生活へ影響する

胸部放射線治療では、照射範囲に食道が含まれると、治療開始から数週間後に飲み込みにくさや胸の痛みが現れることがあります。

熱い物、辛い物、硬い物が刺激になる場合は、冷ましたスープ、やわらかい麺、豆腐、ゼリーなど、飲み込みやすい食品を選びます。水分も飲めない、体重が急に減った、痛みで食事を取れない場合は、鎮痛薬、粘膜保護薬、補液、栄養支援などを検討します。

放射線肺臓炎は、照射中よりも治療終了後の数週間から数カ月後に現れる場合があります。空せき、発熱、息切れなどが主な症状です。

薬物療法を併用または継続している場合は、放射線肺臓炎と薬剤性肺障害の区別が難しいことがあります。症状が現れた時期、照射した範囲、CT画像、使用薬などから判断します。

副作用による休薬や減量は治療の失敗ではない

肺がんの薬物療法は、予定された量を一度も変更せずに続けることだけが目標ではありません。

副作用によって呼吸機能や臓器機能が低下すると、その後に必要な治療を受けられなくなる可能性があります。症状や検査結果に応じて、投与を延期する、薬を減量する、原因となる薬だけを中止する、治療法を変更するといった対応を行います。

分子標的薬では、副作用を抑えながら長く治療を続けるために減量する場合があります。免疫チェックポイント阻害薬では、前述のとおり、通常は減量ではなく休薬・中止で対応します。

治療を調整するときは、次の内容を確認します。

  • 今回の調整は、どの副作用や検査異常が理由か
  • 休薬後に同じ薬を再開できる可能性があるか
  • 減量によって期待される効果と副作用はどう変わるか
  • 中止した場合に、次に選べる治療があるか
  • 症状が改善するまで自宅で何を記録すればよいか

仕事や家事は治療日に合わせて調整する

薬物療法の副作用は、投与直後だけでなく、数日後に強くなる場合があります。治療前に「投与後何日目に吐き気や血球減少が起こりやすいか」を確認すると、仕事や家事の予定を組みやすくなります。

点滴治療では、診察や採血を含めて長時間の通院が必要になる場合があります。胸部放射線治療では、平日の通院が数週間続くことがあります。内服の分子標的薬では通院回数が少なくても、毎日の服薬管理と副作用の観察が必要です。

息切れやだるさがあるときは、すべてを治療前と同じように行おうとせず、活動を小分けにします。調理や入浴の前に休む、座ってできる作業へ変える、移動時にエレベーターを使うなど、消費する体力を調整します。

車の運転については、眠気、視覚障害、めまい、手足のしびれ、鎮痛薬の使用などがある場合に制限が必要なことがあります。使用薬ごとの注意事項を医師や薬剤師へ確認します。

呼吸リハビリと栄養管理で治療を続ける力を保つ

肺がんや治療によって息切れがあると、動くことを避け、筋力が低下し、さらに息切れしやすくなる悪循環が起こることがあります。

病状が安定している場合は、医師や理学療法士の指導のもと、歩行、下肢の筋力訓練、呼吸法などを行います。運動量は酸素状態や息切れを確認しながら調整し、急に強い運動を始めないようにします。

食欲低下や飲み込みにくさがある場合は、体重が大きく減る前に栄養士へ相談します。筋肉量の減少は、歩行能力や治療への耐えやすさにも影響します。

治療中は、次の内容を記録しておくと診察時に伝えやすくなります。

  • 体温と酸素飽和度
  • 咳、痰、息切れの変化
  • 食事量、水分量、体重
  • 下痢や排便回数
  • 発疹、むくみ、しびれ
  • 歩行、入浴、仕事などで困ったこと
  • 症状が治療後何日目に始まったか

副作用は、我慢できるかどうかだけで評価するものではありません。生活のどの動作ができなくなったかを具体的に伝えることが、治療の安全性と継続可能性を判断する材料になります。

参考:肺がん 療養|国立がん研究センター がん情報サービス

肺がんの緩和ケア・支持療法

緩和ケアは、抗がん治療を終えた後だけに受ける医療ではありません。肺がんと診断された時点から、手術、放射線治療、薬物療法と並行して利用できます。

支持療法は、肺がんによる症状や、治療に伴う副作用・合併症を予防、軽減するための治療です。緩和ケアでは身体症状だけでなく、不安、仕事、家族関係、治療費、療養場所などの問題も扱います。

とくに進行・再発肺がんでは、息苦しさ、咳、痛み、食欲低下などが治療の継続や日常生活へ直接影響します。症状が強くなってから相談するのではなく、生活に支障が出始めた段階で原因を確認し、早めに対処することが大切です。

参考:緩和ケア|国立がん研究センター がん情報サービス

息苦しさは原因によって対処法が異なる

肺がん患者さんの息苦しさには、さまざまな原因があります。

  • がんによる気管や気管支の狭窄
  • 胸水や心嚢水の貯留
  • 肺炎などの感染症
  • 肺血栓塞栓症
  • 貧血や心不全
  • 放射線肺臓炎や薬剤性肺障害
  • COPDや間質性肺疾患などの持病
  • 筋力や体力の低下
  • 不安や緊張による呼吸の乱れ

原因によって治療が異なるため、息苦しさがあるからといって、すぐに酸素吸入だけを行えばよいとは限りません。診察、酸素飽和度、胸部画像、血液検査などによって原因を確認します。

血液中の酸素が不足している場合は、酸素吸入を行います。ただし、酸素飽和度が保たれていても強い息苦しさを感じることがあります。その場合は、姿勢や呼吸法の調整、薬物療法などを組み合わせます。

息苦しさが強い場合には、症状を和らげる目的でモルヒネなどの医療用麻薬を少量から使用することがあります。医療用麻薬は痛みだけに使用する薬ではありません。医師が症状や全身状態を確認し、眠気、吐き気、便秘などへ対応しながら量を調整します。

胸水がたまった場合は排液や再貯留を防ぐ治療を検討する

肺を包む胸膜の間に水がたまる状態を胸水といいます。胸水が増えると肺が十分に広がらず、息苦しさ、咳、胸の圧迫感などが現れることがあります。

症状がある場合は、針やチューブを胸腔へ入れて胸水を抜く胸腔穿刺・胸腔ドレナージを行います。排液によって息苦しさがどの程度改善するかも、その後の治療を考える材料になります。

胸水を一度抜けば再びたまらないとは限りません。排液後にどの程度の期間で再貯留したか、肺が十分に広がるか、全身状態、今後の薬物療法などを踏まえて方針を決めます。胸水が繰り返したまる場合には、胸膜を癒着させて水がたまる空間を減らす胸膜癒着術や、留置カテーテルなどを検討することがあります。

気道が狭い場合は放射線治療や気管支鏡治療を検討する

肺がんが気管や太い気管支を狭くすると、強い息苦しさ、喘鳴、肺炎、血痰などが起こることがあります。

病変の位置や広がりに応じて、薬物療法や放射線治療で腫瘍を縮小させるほか、気管支鏡を使って病変を取り除く処置、レーザーなどによる焼灼、気道を広げるステント留置を検討する場合があります。

どの方法が適するかは、狭窄している場所、緊急性、肺の先に感染や無気肺があるか、今後の全身治療などから判断します。

息苦しさが急に悪化した、会話が難しい、横になると呼吸できないなどの場合は、通常の予約日を待たずに医療機関へ連絡します。

参考:肺癌の緩和ケア|肺癌診療ガイドライン2025年版

咳や痰は性質を確認して治療する

咳は、腫瘍による気道刺激、感染症、胸水、薬剤性肺障害、放射線肺臓炎、COPDなどによって起こります。

診察では、痰を伴うか、乾いた咳か、血が混じっているか、発熱や息切れを伴うかを確認します。咳が強い場合は、一般的な鎮咳薬に加え、コデインやモルヒネなどを使用する場合があります。痰が粘って出しにくい場合は、去痰薬、水分摂取、加湿、排痰法などを組み合わせます。

痰がたまると気道が狭くなり、肺炎の危険も高くなります。理学療法士や看護師から、痰を出しやすい姿勢や呼吸方法の指導を受けることがあります。

薬物療法中に新しい空せきや息切れが現れた場合は、単なる肺がんの症状と考えず、薬剤性肺障害の可能性を確認します。

喀血や血痰は量と呼吸への影響で緊急度を判断する

少量の血が痰に混じる血痰が繰り返す場合は、出血している場所や原因を調べます。

大量の血を吐く喀血では、出血そのものだけでなく、血液によって気道がふさがり、呼吸できなくなる危険があります。まとまった量の血が出る、出血が止まらない、息苦しさを伴う場合は、救急受診が必要です。

出血している場所に応じて、気管支鏡による止血、出血する血管を塞ぐ気管支動脈塞栓術、放射線治療などを検討します。

出血があるときは、服用している抗凝固薬や抗血小板薬についても医療者へ伝えます。自己判断で薬を中止せず、処方した医師を含めて対応を確認してください。

参考:呼吸困難・咳・痰|国立がん研究センター がん情報サービス

痛みは原因と生活への影響を伝える

肺がんでは、胸膜や胸壁への広がり、骨転移、手術後の神経痛などによって痛みが生じることがあります。

痛み止めは、痛みの強さや原因に応じて、アセトアミノフェン、非ステロイド性抗炎症薬、医療用麻薬、神経障害性疼痛に対する薬などを組み合わせます。

医療用麻薬を使うことは、病状が終末期であることを意味しません。強い痛みを抑え、睡眠、食事、歩行などを保つために、治療中から使用できます。

骨転移の痛みには、放射線治療が有効な場合があります。骨折や脊髄圧迫の危険がある場合は、整形外科的な固定術や骨を支える薬なども検討します。

診察では、「痛い」と伝えるだけでなく、次の点を説明すると治療を調整しやすくなります。

  • どこが、どのように痛むか
  • いつから始まり、何をすると強くなるか
  • 夜眠れるか、歩行や食事へ影響しているか
  • 痛み止めを飲んで、どの程度・何時間楽になるか
  • しびれ、脱力、排尿・排便障害を伴っていないか

食欲低下と体重減少は早めに対処する

肺がんや治療の影響により、食欲低下、味覚の変化、飲み込みにくさ、吐き気、息苦しさなどが重なり、食事量が減ることがあります。食事量が低下すると体重だけでなく筋肉も減り、歩行や呼吸に必要な力が低下します。息切れによって動かなくなり、さらに筋力が落ちる悪循環が起こることもあります。

呼吸が比較的楽な時間帯に食べる、一度の量を減らして回数を増やす、調理のにおいが少ない食品を選ぶなど、症状に合わせて工夫します。

放射線治療による食道炎や腫瘍による圧迫で飲み込みにくい場合は、食形態の調整だけでなく、痛み止め、粘膜保護薬、補液などが必要になることがあります。

短期間で体重が減った、食事や水分をほとんど取れない、むせが増えた場合は、医師、看護師、管理栄養士などへ相談します。

不安や気持ちの落ち込みも緩和ケアの対象になる

肺がんと診断された後は、病状、治療、副作用、家族、仕事、経済面など、さまざまな不安が生じます。息苦しさへの恐怖によって外出や入浴を避け、生活範囲が狭くなることもあります。

不安や抑うつは本人の気持ちの弱さによって生じるものではありません。症状、睡眠不足、薬の影響、先の見通しを理解できないことなどが重なっている場合があります。

担当医や看護師に相談するほか、必要に応じて心理職、精神科・心療内科、医療ソーシャルワーカー、がん相談支援センターなどの支援を利用します。

家族も、介護や治療方針への迷い、仕事との両立などで負担を抱えることがあります。緩和ケアでは、患者さん本人だけでなく家族の相談にも対応します。

自宅で受けられる支援を早めに確認する

肺がんの治療中でも、訪問診療、訪問看護、在宅酸素療法、介護保険サービスなどを利用しながら自宅で生活できる場合があります。

在宅医療は、抗がん治療をやめた人だけが利用するものではありません。通院で薬物療法を受けながら、自宅で症状管理や生活支援を受けることもあります。

病状が急に変化してから準備を始めると、希望する療養環境を整える時間が不足することがあります。次の内容を早めに確認しておくと、本人と家族の負担を減らしやすくなります。

  • 夜間や休日に症状が悪化した場合の連絡先
  • 訪問診療や訪問看護を利用できるか
  • 酸素や医療用麻薬を自宅で管理する方法
  • 家族が行うケアと、医療者へ任せられること
  • 緊急時に入院できる病院があるか
  • 自宅、病院、緩和ケア病棟など、希望する療養場所

参考:在宅緩和ケア|国立がん研究センター がん情報サービス

緩和ケアを相談する目安

緩和ケアは、症状が非常に強くなるまで待つ必要はありません。次のような状況では、担当医や看護師へ相談しましょう。

  • 息苦しさ、咳、痛みなどで眠れない
  • 症状のために食事、入浴、外出が難しい
  • 治療を続けたいが、副作用や体力低下が不安
  • 治療の目的や今後の見通しを整理したい
  • 本人と家族で治療への考え方が異なる
  • 仕事、治療費、介護、子育てなどに困っている
  • 通院が負担になり、在宅医療について知りたい

緩和ケアを受けることは、がんに対する治療を諦めることではありません。症状と生活上の問題を軽減し、必要な治療を受け続けるための支援でもあります。

次の章では、標準治療で効果が不十分になった場合を含め、治療の利益と負担をどのように比較し、セカンドオピニオンや臨床試験を検討するかを解説します。

肺がんの治療を選ぶときに確認すること

肺がんの治療は、ステージだけで決まるものではありません。非小細胞肺がんか小細胞肺がんか、遺伝子・バイオマーカー、病変を切除できるか、呼吸機能、全身状態、持病などによって選択肢が変わります。

治療法を比較するときは、薬や治療の新しさだけでなく、何を目指す治療なのか、どの程度の利益が期待できるのか、生活へどのような負担が生じるのかを確認します。

治療の主な目的には、次のような違いがあります。

  • 手術や化学放射線療法によって根治を目指す
  • 手術後の再発リスクを下げる
  • 病変を縮小させ、手術や局所治療につなげる
  • 進行を抑えて生存期間を延ばす
  • 咳、息苦しさ、痛みなどの症状を軽減する

同じ薬物療法でも、再発予防を目的とする場合と、ステージ4・再発肺がんの進行を抑える場合では、治療効果の評価方法や治療期間が異なります。

治療を受ける場合と受けない場合を比較する

副作用が心配なときは、治療を受ける危険だけでなく、治療を行わない場合や開始を遅らせた場合に起こり得ることも確認します。

たとえば、術後薬物療法では、再発リスクをどの程度下げることが期待されるのか、治療を行わなかった場合と比べてどのような違いがあるのかを尋ねます。

切除不能ステージ3では、化学放射線療法を受けられる時期を逃すと根治を目指す治療が難しくなる可能性があります。一方、ステージ4では、遺伝子検査の結果を待ってから治療を決めた方がよい場合もあります。

治療を急ぐ必要があるか、検査結果やセカンドオピニオンを待つ時間があるかは、病状によって異なります。治療開始の期限を具体的に確認します。

次の薬を選ぶ前に検査結果を見直す

進行・再発非小細胞肺がんで治療効果が不十分になった場合は、未使用の承認薬が残っていないか、これまでに行った遺伝子検査が必要な項目を網羅しているかを確認します。

初回診断時にEGFRとALKだけを調べていた場合は、ROS1、BRAF、MET、RET、KRAS、HER2、NTRKなどが未検査の可能性があります。検体不足で検査できなかった項目がないかも確認します。

分子標的薬を使用した後に病状が進行した場合は、薬剤耐性に関係する新たな遺伝子変化を調べるため、組織の再生検や血液を用いたリキッドバイオプシーを検討することがあります。ただし、再検査を行えば必ず次の薬が見つかるわけではありません。検査の目的、組織採取の危険、結果が治療へ結び付く可能性について説明を受けます。

標準治療は効果を保証する治療ではない

標準治療とは、臨床試験などの結果から、現時点で有効性と安全性のバランスが優れていると判断され、広く推奨されている治療です。

「一般的な治療」「古い治療」という意味ではなく、新しい薬が標準治療へ組み込まれることもあります。一方、標準治療であっても、すべての患者さんに同じ効果が得られるわけではありません。

標準治療で病状を抑えられなくなった場合も、直ちに受けられる医療がなくなるわけではありません。未使用の承認薬、局所治療、再検査、臨床試験、症状を軽減する緩和ケア・支持療法などを検討します。

臨床試験は効果が確立した治療ではない

臨床試験は、新しい薬や治療法の効果と安全性を調べ、将来の標準治療をつくるために行われる研究です。

参加条件には、肺がんの病理型、ステージ、遺伝子異常、これまでに使用した薬、臓器機能、全身状態などが定められています。条件を満たしているように見えても、詳しい検査の結果によって参加できない場合があります。

また、新しい治療を受けられる臨床試験だけではありません。標準治療と新しい治療を比較する試験では、無作為に治療群が割り付けられ、本人や担当医が治療法を選べない場合があります。

臨床試験を検討するときは、次の内容を確認します。

  • 試験の目的と現在の開発段階
  • 標準治療と比べて何を確認する試験か
  • 治療法を本人が選べるか、無作為割り付けがあるか
  • 予想される副作用と、まだ分かっていない危険は何か
  • 検査や通院の回数、入院の必要性
  • 治療費や検査費、交通費などの負担
  • 参加しない場合に選べる標準治療は何か
  • 途中で参加を中止した場合、その後に受けられる治療は何か

臨床試験への参加を断ったり、途中で参加を取りやめたりしたことを理由に、通常必要な医療を受けられなくなることはありません。

参考:肺がん 臨床試験|国立がん研究センター がん情報サービス

自由診療を検討するときは標準治療との関係を確認する

自由診療には、国内で肺がんに対する有効性と安全性が確立していない治療も含まれます。「先端的」「免疫を高める」「副作用が少ない」といった説明だけでは、治療効果を判断できません。

検討するときは、治療名を具体的に確認し、肺がんのどの病理型・ステージを対象とした臨床試験があるのか、標準治療と比較して生存期間や病状の進行を抑える効果が示されているのかを確認します。

また、自由診療を受けることで、標準治療や臨床試験を受ける時期が遅れないか、薬の相互作用や副作用によって後の治療へ影響しないかも確認します。

セカンドオピニオンは転院を決める場ではない

提案された治療に迷う場合や、ほかに選択肢がないか確認したい場合は、セカンドオピニオンを利用できます。

セカンドオピニオンは、現在の担当医から診療情報の提供を受け、別の医師の意見を聞く仕組みです。必ずしも転院を前提とするものではありません。別の医師の意見を聞いた後、現在の医療機関で治療を続けることもできます。

肺がんでは、次のような場面で利用を検討できます。

  • ステージ3で、手術と化学放射線療法のどちらを選ぶか迷っている
  • 肺の切除範囲や術後の呼吸機能について別の意見を聞きたい
  • 遺伝子検査が十分に行われているか確認したい
  • 希少な遺伝子異常が見つかり、治療経験のある施設へ相談したい
  • 治療変更を提案された理由や、残っている選択肢を確認したい
  • 臨床試験や再生検について専門施設の意見を聞きたい

病理標本や画像データが必要になる場合があるため、紹介状だけでなく、CT・MRI・PET/CTの画像、病理診断書、遺伝子・PD-L1検査の結果、これまでの治療歴などを準備します。

参考:セカンドオピニオン|国立がん研究センター がん情報サービス

がん相談支援センターも利用できる

がん診療連携拠点病院などに設置されたがん相談支援センターでは、治療、副作用、セカンドオピニオン、臨床試験、がんゲノム医療、緩和ケア、仕事や治療費などについて相談できます。

その病院へ通院していない人や家族も、無料で相談できる場合があります。相談員が特定の治療法を決定することはありませんが、情報を整理し、どこへ相談すればよいかを考える支援を受けられます。

参考:がん相談支援センターで相談できること|国立がん研究センター がん情報サービス

診察で確認したい質問

  • この治療は、何を目標に行うのか
  • 自分と近い病状では、どの程度の効果が期待されるか
  • 治療を受けない場合や開始を遅らせた場合、何が起こり得るか
  • ほかに標準治療として選べる方法があるか
  • 治療効果は、いつ、どの検査で評価するか
  • どのような変化があれば治療を変更するか
  • 現在の治療を変更する理由は、病状の進行、副作用、臓器機能の低下のうち、どれに当たるか
  • 追加の遺伝子検査や再生検は必要か
  • 臨床試験やセカンドオピニオンを検討する時間があるか
  • 治療によって仕事、家事、通院へどのような影響があるか

治療を選ぶときは、すべての情報を一度に理解する必要はありません。説明を受けた内容をメモし、分からない点を再度質問したり、家族や身近な人に同席してもらったりする方法があります。

治療の医学的な利益と危険に加え、本人が保ちたい生活や避けたい負担を医療者へ伝えることが、納得できる治療選択につながります。

参考:肺癌診療ガイドライン2025年版|日本肺癌学会

まとめ|治療とこれからの生活について

肺がんと診断されると「治るのか」「仕事を続けられるのか」「家族にどこまで頼ればよいのか」など、治療以外の不安も生じます。検査や治療の説明を一度ですべて理解し、自分だけで正解を決める必要はありません。

治療を選ぶときは、効果や副作用だけでなく、仕事、家事、通院、食事、趣味など、今後もできるだけ保ちたい生活を医療者へ伝えてください。「長く生きたい」「苦痛を減らしたい」「働き続けたい」「家で過ごす時間を大切にしたい」といった希望も、治療方針を考えるための大切な情報です。

分からないことがある場合は、現在の病状、治療の目的、生活に予想される影響、困ったときの連絡先を一つずつ確認します。治療中に希望や体調が変わったときは、その都度方針を話し合うことができます。

肺がんと向き合うことは、病気だけを中心に生活を組み立てることではありません。医療者や家族、相談支援サービスの力を借りながら、自分が大切にしたい時間をできるだけ保てる方法を探していきましょう。

大腸がんは、結腸または直腸の粘膜から発生するがんです。2023年に国内で新たに大腸がんと診断された人は15万4,039例で、男女を合わせた部位別の罹患数では最も多いがんとなっています。2024年の死亡数は5万4,416人で、決して珍しい病気ではありません。

大腸がんの5年相対生存率は71.4%(2009~2011年診断例)です。ただし、この数字はすべてのステージを合わせた統計であり、個人の治りやすさや余命を示すものではありません。がんが大腸の壁のどこまで入り込んでいるか、リンパ節やほかの臓器への転移があるかによって、選ばれる治療や見通しは大きく異なります。

大腸がんは、早期には自覚症状がほとんどないことがあります。進行すると、血便、便秘や下痢、便が細くなる、残便感、腹痛、貧血などが現れますが、これらは痔やほかの腸の病気でも起こるため、症状だけで大腸がんかどうかを判断することはできません。また、症状が現れたからといって、必ずしも進行がんとは限りません。

症状がない40歳以上の人は、年1回の便潜血検査を受けることが推奨されています。一方、血便や排便習慣の変化などがある場合は、次の検診を待つのではなく、消化器内科などを受診して原因を調べることが大切です。

この記事では、大腸がんの症状、原因、検査、ステージ分類に加え、内視鏡治療、手術、薬物療法、放射線治療について解説します。結腸がんと直腸がんの治療の違い、治療選択に関わる遺伝子・バイオマーカー検査、ステージ別の生存率も取り上げ、検査結果をどのように治療判断へつなげるかを整理します。

参考:大腸[国立がん研究センター がん統計]

  • 大腸がんは男女計の罹患数が最も多く、早期には症状が乏しい
  • 血便などの症状があれば検診を待たず、医療機関を受診する
  • 治療はステージ、発生部位、遺伝子異常によって変わる

大腸がんとは何か

大腸がんは、大腸の粘膜に発生するがんで、発生した場所によって結腸がんと直腸がんに分けられます。大腸がんの多くは腺がんです。

大腸は、小腸から送られてきた内容物から水分を吸収し、便を形成して排出する臓器です。大腸に腫瘍ができると、粘膜から出血したり、便の通り道が狭くなったりするため、血便、便秘や下痢、便が細くなる、残便感などが現れることがあります。ただし、早期には症状がほとんどない場合もあります。

大腸がんには、腺腫と呼ばれる良性のポリープが段階的にがん化するものと、正常に見える粘膜から直接発生するものがあります。ポリープがすべてがんになるわけではありませんが、内視鏡検査で腺腫を見つけて切除することは、将来の大腸がんを防ぐことにもつながります。

大腸の壁は、内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層・漿膜などで構成されています。がんが粘膜または粘膜下層にとどまるものは早期がん、固有筋層より深く入り込んだものは進行がんと呼ばれます。

この深さは、内視鏡で切除できるか、リンパ節郭清を伴う手術が必要かを判断するうえで重要です。ただし、内視鏡切除後の追加手術は、深さだけでは決まりません。切除した組織の詳しい評価については、内視鏡治療の項目で解説します。

結腸がんと直腸がんでは、同じステージでも治療方法が異なることがあります。とくに直腸がんでは、がんと肛門との距離、周囲の臓器への広がりなどによって、肛門を温存できるか、手術前の治療が必要かを検討します。

参考:大腸がん(結腸がん・直腸がん)|国立がん研究センター がん情報サービス

大腸がんの原因とリスク

大腸がんは、特定の食品や一つの生活習慣だけで発症する病気ではありません。年齢を重ねる中で細胞の遺伝子に変化が蓄積し、生活習慣、持病、家族歴などが重なって発生すると考えられています。

大腸がんとの関連が指摘されている主な要因には、喫煙、飲酒、肥満、運動不足があります。赤肉や加工肉の摂取量との関連も報告されていますが、これらを食べたことが直接の原因になるわけではありません。また、潰瘍性大腸炎やクローン病など、大腸に長期間炎症が続く病気がある人では、大腸がんのリスクが高くなることがあります。

一方、運動習慣を持つことは大腸がんの予防に役立つことがほぼ確実とされ、禁煙、飲酒を控えること、適正体重を保つこと、偏りの少ない食事を続けることも、発症リスクを下げるための基本になります。

ただし、生活習慣を整えていても大腸がんになる人はいます。反対に、危険因子がある人すべてが発症するわけでもありません。「不摂生をしたからがんになった」と自分を責めたり、生活習慣に問題がないから検査は不要だと考えたりしないことが大切です。

参考:大腸がん(結腸がん・直腸がん)予防・検診|国立がん研究センター がん情報サービス

大腸がんの遺伝的要因

大腸がん患者の約30%には、家族内での発症の集積または何らかの遺伝的素因があるとされています。ただし、家族に大腸がんの人がいることと、原因遺伝子が特定される遺伝性大腸がんであることは同じではありません。遺伝性大腸がんは、大腸がん全体の約5%とされています。

代表的な遺伝性大腸がんには、家族性大腸腺腫症(FAP)リンチ症候群があります。

家族性大腸腺腫症では、大腸に多数の腺腫性ポリープが発生します。典型的なFAPでは大腸がんを発症する危険性が非常に高いため、若い時期から定期的な内視鏡検査を受け、ポリープの数や状態に応じて手術の時期を検討します。

リンチ症候群では、FAPのように多数のポリープが目立たないことがありますが、大腸がんを比較的若い年齢で発症したり、複数回発症したりすることがあります。子宮内膜がんなど、大腸以外の関連するがんが家族内にみられることもあります。

次のような場合は、遺伝性大腸がんの可能性について主治医や遺伝診療部門へ相談するきっかけになります。

  • 若い年齢で大腸がんと診断された
  • 大腸がんを複数回発症した、または多数の大腸ポリープがある
  • 近親者に若年発症の大腸がんや、子宮内膜がんなどの関連がんが複数ある

遺伝性が疑われる場合は、年齢、本人と家族の病歴、ポリープの数、腫瘍組織の検査結果などを基に、遺伝学的検査を検討します。家族歴だけで診断することはできず、家族にがん患者がいない場合でも遺伝性大腸がんが見つかることがあります。

遺伝学的検査の結果は、本人の検査計画だけでなく、血縁者の健康管理にも関係します。検査で分かることと分からないこと、家族へ伝える範囲、心理的・社会的な影響について説明を受け、必要に応じて遺伝カウンセリングを利用したうえで判断します。

参考:遺伝性大腸癌診療ガイドライン2024年版|大腸癌研究会

大腸がんの主な症状と見逃されやすさ

大腸がんは、早期には自覚症状がほとんどないことがあります。進行すると、血便、便秘や下痢、便が細くなる、残便感、腹痛、腹部の張りなどが現れます。腫瘍から少量の出血が続くことで、貧血、息切れ、めまい、倦怠感をきっかけに見つかる場合もあります。

これらの症状は痔、過敏性腸症候群、感染性腸炎などでも起こるため、症状だけで大腸がんかどうかを見分けることはできません。とくに血便は痔と考えて受診を先延ばしにしやすい症状ですが、血の色や付き方だけで出血源を正確に判断することは困難です。痔がある人でも、大腸の病変が同時に存在する可能性があるため、自己判断で済ませないことが大切です。

がんができた場所によって症状の出方が異なる

盲腸や上行結腸など右側の大腸では、腸の内容物がまだ液状に近く、腫瘍が大きくなっても便の通過が妨げられにくい傾向があります。そのため、目立った便通異常がないまま出血が続き、鉄欠乏性貧血、疲れやすさ、息切れなどから発見されることがあります。腹部のしこりがきっかけになる場合もあります。

下行結腸やS状結腸など左側の大腸では、便が固形に近づいているため、腫瘍によって腸管が狭くなると、便秘と下痢を繰り返す、便が細くなる、腹部が張るといった変化が現れやすくなります。直腸がんでは、血便、粘液の混じった便、排便後も便が残っているように感じる残便感などがみられることがあります。

ただし、これはあくまで一般的な傾向です。右側の大腸がんでも血便や腹痛が起こることがあり、左側の大腸がんでも症状が乏しい場合があります。症状の種類だけから、がんの場所や進行度を判断することはできません。

症状がある場合は検診ではなく医療機関を受診する

血便、便の形や回数の変化、腹痛などがある人は、便潜血検査による検診を待つのではなく、消化器内科や胃腸科、肛門科などを受診してください。がん検診は、基本的に症状のない人から大腸がんの可能性がある人を見つけるためのものです。症状がある場合は、診断を目的とした検査が必要です。

一度の出血や一時的な便通異常が、必ず大腸がんを意味するわけではありません。しかし、血便を繰り返す、排便習慣の変化が続く、貧血を指摘された、原因不明の体重減少がある場合は、年齢にかかわらず受診を検討します。

また、強い腹痛や腹部の張りに加えて、便やガスが出ない、嘔吐を繰り返すといった症状がある場合は、腫瘍によって腸が塞がる腸閉塞の可能性があります。通常の外来日まで待たず、速やかに医療機関へ相談する必要があります。

症状がない40歳以上の人は、年1回の便潜血検査を受けることが推奨されています。一方、症状がある人は、便潜血検査が陰性であっても大腸がんを完全には否定できません。症状が続く場合は、検診結果だけで安心せず、診察を受けて必要な検査を相談してください。

参考:大腸がん検診について|国立がん研究センター がん情報サービス

大腸がんの検査と診断

大腸がんの検査には、がんの可能性がある人を見つける検査、がんかどうかを確定する検査、がんの広がりを調べる検査があります。すべての検査を一度に行うわけではなく、症状や便潜血検査の結果などに応じて順番を決めます。

血便や排便習慣の変化がある場合には、問診や診察に加えて、大腸内視鏡検査などを検討します。直腸に近い病変が疑われるときは、医師が肛門から指を入れて、直腸内のしこりや出血の有無を確認する直腸指診を行うこともあります。

便潜血検査

便潜血検査は、便に目では確認できない微量の血液が含まれていないかを調べる検査です。症状のない人を対象とした大腸がん検診では、通常、2日分の便を採取する方法が用いられます。

陽性になっても、必ず大腸がんがあるわけではありません。ポリープ、痔、炎症などによる出血でも陽性になることがあります。一方、大腸がんがあっても常に出血するとは限らないため、陰性であれば大腸がんを完全に否定できるわけでもありません。

2日分のうち1日だけでも陽性になった場合は、大腸内視鏡検査などの精密検査を受けます。「もう一度便潜血検査をして陰性なら様子を見る」という方法は、精密検査の代わりにはなりません。血便、腹痛、便が細くなる、便秘や下痢が続くなどの症状がある場合は、便潜血検査の結果だけで判断せず、医療機関を受診してください。

大腸内視鏡検査と病理診断

大腸内視鏡検査では、肛門から内視鏡を挿入し、直腸から盲腸までの大腸の内側を観察します。病変の位置、大きさ、形、表面の血管や構造などを確認し、必要に応じて拡大観察や画像強調観察を行います。

ポリープやがんが疑われる病変が見つかった場合には、病変の一部を採取する生検を行い、顕微鏡で調べる病理診断によって、がんかどうかを確定します。小さなポリープなどでは、検査と同時に病変全体を切除できる場合もあります。

内視鏡で病変が見つかっただけでは、最終的な治療方針は決まりません。病理検査では、がんの組織型や分化度などを確認します。内視鏡で病変全体を切除した場合には、切除断端、がんの深さ、リンパ管・静脈侵襲、簇出などを調べ、追加手術が必要かを判断します。

検査には下剤による前処置が必要で、まれに出血や腸に穴が開く穿孔が起こることがあります。病変による狭窄などで大腸全体を観察できない場合には、CTコロノグラフィなど別の検査を組み合わせることがあります。

参考:大腸がん(結腸がん・直腸がん)検査|国立がん研究センター がん情報サービス

CT・MRIでがんの広がりを調べる

病理診断で大腸がんと確認された後は、主にCT検査を行い、がんが大腸の周囲へどこまで広がっているか、リンパ節、肝臓、肺、腹膜などに転移がないかを調べます。

直腸がんでは、骨盤内のMRI検査によって、直腸の壁の外への広がり、周囲のリンパ節、肛門や隣接する臓器との位置関係などを詳しく確認することがあります。これらの情報は、手術方法や術前治療の必要性を判断するために使われます。

PET検査は、すべての患者さんに必ず行う検査ではありません。CTやMRIだけでは転移や再発の判断が難しい場合などに検討されます。

血液検査や遺伝子検査も治療判断に用いる

血液検査では、貧血、肝機能、腎機能、栄養状態などを確認します。CEAやCA19-9などの腫瘍マーカーも測定することがありますが、数値が正常でも大腸がんを否定することはできず、高値であっても大腸がんとは限りません。

腫瘍マーカーは、診断を確定する検査というより、治療前の基準値を確認し、治療効果や再発の可能性を画像検査などと合わせて評価するために使われます。

進行・再発大腸がんでは、治療薬を選ぶために、RAS、BRAF、MSI/MMR、HER2などを調べることがあります。どの検査をどの段階で行うかは、がんのステージや予定している治療によって異なります。具体的な検査結果と薬物療法との関係は、後の「大腸がんの遺伝子検査」で詳しく解説します。

大腸がんの診断では、内視鏡で病変を確認し、病理検査でがんかどうかを確定したうえで、画像検査によって広がりを評価します。それぞれの検査は目的が異なるため、一つの検査結果だけではなく、複数の結果を組み合わせてステージと治療方針を決めます。

大腸がんのステージ分類

大腸がんのステージは、がんが大腸の壁のどこまで入り込んでいるかを示す「T」、領域リンパ節転移を示す「N」、肝臓や肺などへの遠隔転移を示す「M」の組み合わせで決まります。

ステージ 主な状態 治療の基本的な考え方
ステージ0 がんが粘膜内にとどまる 内視鏡治療で取り切ることを目指す
ステージ1 がんが粘膜下層または固有筋層まで広がり、リンパ節転移はない 病変の深さや病理所見に応じて内視鏡治療または手術を行う
ステージ2 がんが固有筋層を越えて広がっているが、リンパ節転移はない 手術が中心。再発リスクが高い場合は術後補助化学療法を検討する
ステージ3 領域リンパ節への転移がある 手術と術後補助化学療法を組み合わせることが基本となる
ステージ4 肝臓、肺、腹膜、遠隔リンパ節などへの転移がある 転移巣を含めて切除できるかを評価し、手術や薬物療法などを組み合わせる

ステージは治療前の内視鏡検査や画像検査から判断しますが、手術を受けた場合は、切除した腸管やリンパ節の病理検査によって最終的なステージが確定します。そのため、手術前と手術後でステージが変わることもあります。

ステージ別の治療方針

ステージ0と一部のステージ1では、リンパ節転移の可能性が低く、病変を一括して切除できると判断された場合に内視鏡治療を行います。ただし、切除後の病理検査でリンパ節転移の危険が認められれば、追加手術を検討します。

ステージ1のうち内視鏡治療の対象にならない場合と、ステージ2・3では、がんがある腸管と周囲のリンパ節を切除する手術が中心です。ステージ3では、画像に写らない微小転移による再発を抑えるため、体の状態などを確認したうえで術後補助化学療法を行います。ステージ2でも、がんによる腸閉塞や穿孔、深い浸潤など、再発リスクが高い場合には術後補助化学療法を検討します。

ステージ4では、原発巣と肝転移・肺転移などをすべて切除できるかが、治療方針を決める大きな分岐点になります。完全切除が可能と判断されれば、ステージ4でも根治を目指して手術を検討します。切除が難しい場合は、遺伝子・バイオマーカー検査の結果や全身状態に応じた薬物療法が中心です。治療によって転移巣が縮小し、後から手術を検討できる場合もあります。

ステージ4の切除可能性、薬物療法、遺伝子検査、生存率や余命については、以下の記事で詳しく解説しています。

ステージだけで治療が自動的に決まるわけではありません。同じステージでも、結腸がんか直腸がんか、病変の位置、切除可能性、再発リスク、遺伝子変異、年齢や全身状態によって治療内容は変わります。診察時には、自分のステージだけでなく、「根治を目指す治療か」「術後治療が必要か」「治療によって何を防ぐのか」を確認することが大切です。

参考:大腸がん(結腸がん・直腸がん)治療|国立がん研究センター がん情報サービス
参考:大腸癌治療ガイドライン医師用2026年版|大腸癌研究会

大腸がん治療の全体像

大腸がんの主な治療には、内視鏡治療、手術、薬物療法、放射線治療があります。がんの深さや広がり、切除できるかどうか、結腸がんと直腸がんのどちらかによって、これらを単独または組み合わせて行います。

内視鏡治療と手術は、がんを取り除くための治療です。薬物療法は、手術後の再発を防ぐ目的で行う場合と、切除できないがんの縮小や進行抑制を目的に行う場合があります。放射線治療は主に直腸がんの術前治療や、転移・再発による痛みや出血などの症状を和らげるために用いられます。

また、痛み、吐き気、下痢、しびれなどを軽減する緩和ケア・支持療法は、抗がん治療を終えた後だけでなく、治療中から利用できます。

以下では、それぞれの治療について、選ばれる条件、治療の目的、治療後の生活への影響を順番に解説します。

大腸がんの内視鏡治療

内視鏡治療は、肛門から挿入した内視鏡を使い、大腸の内側から病変を切除する方法です。開腹手術や腹腔鏡手術と比べて体への負担が少なく、腸管を切除せずに治療できる可能性があります。

ただし、内視鏡で病変を取り除けても、リンパ節にあるがんまでは治療できません。そのため、リンパ節転移の可能性が極めて低く、病変を一括して完全に切除できると判断された早期大腸がんが主な対象になります。

内視鏡治療の適応は深さと切除のしやすさから判断する

内視鏡治療は、がんが粘膜内にとどまる場合や、粘膜下層への浸潤が軽度と考えられる場合に検討します。一般的には、粘膜下層への浸潤が1,000μm未満で、リンパ節転移を疑う所見がなく、一括切除できる病変が対象です。

治療前には、通常の内視鏡観察に加え、拡大観察や画像強調観察などを用いて、病変の深さ、形、大きさ、位置を評価します。ただし、内視鏡による深さの診断には限界があるため、内視鏡治療だけで治療を終えられるかどうかは、切除した組織の病理検査を受けて最終的に判断します。

内視鏡治療には複数の方法がある

内視鏡治療の方法は、病変の形や大きさ、深さ、一括切除の必要性などに応じて選びます。

治療法 治療の特徴
ポリペクトミー 主に茎のある病変へ金属製の輪をかけて切除する方法
EMR 病変の下へ液体を注入して浮かせ、金属製の輪で切除する方法。水中で病変を切除するUEMRが選ばれることもある
ESD 粘膜下層を専用の器具ではがし、比較的大きな病変を一括切除する方法

大きな病変では、複数に分けて切除すると病理診断が難しくなり、局所再発の危険も高くなることがあります。そのため、正確な病理評価が必要な病変では、時間がかかってもESDによる一括切除を検討する場合があります。

切除後の病理検査で追加手術の必要性を判断する

内視鏡治療後は、切除した組織から、切除断端、がんの深さ、組織型、リンパ管・静脈への侵襲、簇出などを確認します。

がんが深部の切除断端まで達している垂直断端陽性の場合は、がんが残っている可能性があるため、外科手術の追加を検討します。また、次のいずれかが認められた場合も、リンパ節転移の危険を考え、リンパ節郭清を伴う腸切除を検討します。

  • 粘膜下層への浸潤が1,000μm以上ある
  • リンパ管または静脈への侵襲がある
  • 低分化腺がん、印環細胞がん、粘液がんなどの組織型である
  • 浸潤先進部の簇出がBD2またはBD3である

ただし、粘膜下層への浸潤が1,000μm以上という所見だけで、必ずリンパ節転移がある、あるいは全員に追加手術が必要と決まるわけではありません。ほかの病理所見、病変の位置、年齢、持病、手術による負担、本人の希望を踏まえて判断します。

病変を分割して切除した場合や、がんが水平方向の切除断端に達している場合は、切除した場所に病変が残る危険があります。この場合は、追加の内視鏡治療や早めの再検査を検討します。リンパ節郭清を伴う手術が必要かどうかとは、分けて考える必要があります。

出血や穿孔は治療後にも起こることがある

内視鏡治療の主な合併症は、出血と穿孔です。出血は治療直後だけでなく、帰宅後に起こる場合もあります。穿孔によって腸に穴が開くと、強い腹痛、発熱、腹部の張りなどが現れ、内視鏡による処置や手術が必要になることがあります。

治療後に血便が続く、腹痛が強くなる、発熱や吐き気がある場合は、次回の受診日を待たずに治療を受けた医療機関へ連絡してください。食事、飲酒、運動、入浴、仕事への復帰時期は、治療方法や切除した病変の大きさによって異なるため、退院・帰宅前に確認します。

内視鏡治療で一括切除され、切除断端にがんがない場合でも、別の場所に新たな腫瘍ができる可能性があるため、定期的な大腸内視鏡検査が必要です。分割切除や水平断端陽性の場合、または追加手術を行わず経過観察する場合は、内視鏡検査に加えて、CT検査や腫瘍マーカーなどを組み合わせることがあります。

参考:大腸癌治療ガイドライン医師用2026年版|大腸癌研究会
参考:大腸癌治療ガイドライン医師用2024年版 Clinical Questions|大腸癌研究会

大腸がんの手術

内視鏡治療でがんを十分に切除できない場合や、リンパ節転移の可能性がある場合には手術を行います。手術では、がんがある部分だけでなく、周囲の腸管とリンパ節を切除し、がんを体内に残さないことを目指します。周囲の臓器へ直接広がっている場合は、完全切除が可能であれば、その臓器の一部を一緒に切除することもあります。

手術には、開腹手術、腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術があります。腹腔鏡下手術やロボット支援下手術は創が小さく、術後の痛みや回復の面で利点が期待できますが、すべての患者さんに適しているわけではありません。がんの位置と広がり、腸閉塞の有無、体格、過去の腹部手術、医療機関や術者の経験などを踏まえて選びます。

ロボット支援下手術は、直腸がんでは標準的な手術方法の選択肢の一つとなり、結腸がんでも行われています。ただし、ロボットを使うこと自体が治療成績の向上を保証するわけではありません。手術方法の新しさではなく、がんを安全に取り切れるかを優先して判断します。

結腸がんでは発生した場所に応じて腸管を切除する

結腸がんの手術では、がんがある場所に応じて、回盲部切除、結腸右半切除、横行結腸切除、結腸左半切除、S状結腸切除などを行います。がんとともに、転移する可能性のある周囲のリンパ節を切除する処置をリンパ節郭清と呼びます。

切除後は、残った腸管同士をつなぐことが一般的です。ただし、腸閉塞や腸管穿孔がある、全身状態が不安定である、腸管を安全につなげられないといった場合には、一時的または永久的な人工肛門を造ることがあります。切除できない腫瘍によって便が通らない場合は、腸の迂回路を造るバイパス手術を行うこともあります。

手術後は、一時的に便が軟らかくなる、排便回数が増える、便秘と下痢を繰り返すといった変化が起こることがあります。切除した範囲によって影響は異なりますが、食事の取り方や整腸薬などを調整しながら、徐々に生活のリズムを整えていきます。

直腸がんでは根治性と機能の温存を両方考える

直腸は骨盤の奥深くにあり、周囲には肛門括約筋、膀胱、生殖器、排尿や性機能に関係する神経があります。そのため直腸がんでは、がんを取り切ることに加え、肛門、排便、排尿、性機能をどこまで保てるかも治療選択の重要な要素になります。

早期で限られた病変では、肛門側から病変だけを切除する局所切除を検討することがあります。より深く広がったがんでは、がんのある直腸と周囲の直腸間膜を切除し、残った腸管をつなぐ前方切除術などを行います。

肛門に近いがんでも、十分な切除範囲を確保でき、術後の肛門機能を保てると判断されれば、低位前方切除術や括約筋間直腸切除術によって肛門を温存できる場合があります。一方、がんが肛門括約筋へ及んでいる場合などは、直腸と肛門を切除する直腸切断術を行い、永久的な人工肛門を造ります。

肛門を残せることと、手術前と同じように排便できることは同じではありません。直腸を大きく切除すると、便をためる機能が低下し、排便回数の増加、突然の便意、便失禁、短時間に何度も排便する症状などが現れることがあります。これらは低位前方切除後症候群(LARS)と呼ばれ、食事や薬の調整、骨盤底筋の訓練などが必要になる場合があります。

下部直腸がんでは、骨盤側壁のリンパ節へ転移することがあります。腫瘍の下端が腹膜反転部より肛門側にあり、筋層を越えて広がっているcT3以深の場合には、側方リンパ節郭清を検討します。ただし、郭清範囲が広くなると排尿機能や性機能へ影響する可能性があるため、MRIなどの画像所見と局所再発の危険を踏まえて判断します。

局所再発の危険が高い直腸がんでは、手術前に薬物療法や放射線治療を行うことがあります。薬物療法と放射線治療を手術前にまとめて行うTNTや、治療後にがんが確認できなくなった場合に手術を行わず経過を見る非手術管理も研究されていますが、国内ですべての患者さんに共通する標準治療ではありません。適応は専門医による慎重な評価が必要です。

人工肛門には一時的なものと永久的なものがある

人工肛門(ストーマ)は、腸管を腹部へ出して便の出口を造る方法です。直腸の低い位置で腸管をつないだ場合には、つなぎ目へ便が流れるのを一時的に避けるため、保護目的のストーマを造ることがあります。この場合は、つなぎ目が治った後にストーマを閉じられる可能性があります。

肛門を含めて切除した場合や、肛門を残しても排便機能を保つことが難しい場合には、永久的なストーマが必要になります。診察では、ストーマが必要になる可能性、一時的か永久的か、閉鎖できる場合はいつごろかを確認します。

ストーマがあっても、装具の扱いに慣れれば、仕事、外出、入浴、軽い運動、旅行などを続けることが可能です。一方、皮膚トラブル、装具からの漏れ、服装、性生活などに不安を感じることもあります。手術前から皮膚・排泄ケア認定看護師などへ相談し、ストーマの位置や術後の管理方法について説明を受けることが大切です。

手術後の合併症と生活への影響

手術後には、腸管をつないだ部分から内容物が漏れる縫合不全、創部や腹腔内の感染、腸閉塞、出血などが起こることがあります。縫合不全は、肛門に近い位置で腸管をつなぐ直腸がんの手術で起こりやすく、重い場合には再手術や人工肛門の造設が必要です。

退院後に、発熱、強くなる腹痛、腹部の張り、繰り返す嘔吐、便やガスが出ない、創部から膿や腸液が出るといった変化があれば、次回の診察を待たずに医療機関へ連絡します。

長期的には、排便回数の増加や便失禁だけでなく、排尿しにくい、尿が残る、勃起や射精が難しくなる、性交時に痛みがあるといった症状が現れることもあります。とくに直腸がんでは、治療前に予想される機能障害と対処法について説明を受ける必要があります。

手術方法を検討するときは、がんを取り切れる可能性だけでなく、切除する腸管とリンパ節の範囲、肛門温存の可否、人工肛門の可能性、術後に予想される排便・排尿・性機能への影響、仕事へ戻る時期まで確認すると、治療後の生活を具体的に考えやすくなります。

参考:大腸がん(結腸がん・直腸がん)治療|国立がん研究センター がん情報サービス
参考:大腸癌治療ガイドライン医師用2026年版|大腸癌研究会
参考:大腸癌治療ガイドライン医師用2024年版 Clinical Questions|大腸癌研究会

大腸がんの薬物療法

大腸がんの薬物療法には、手術後の再発を防ぐための術後補助化学療法と、切除できない進行・再発大腸がんを抑えるための治療があります。同じ薬を使用する場合でも、治療の目的や続ける期間、効果の確認方法は異なります。

使用する薬は、がん細胞の増殖を抑える細胞障害性抗がん薬、特定の分子を狙う分子標的薬、免疫の働きを利用する免疫チェックポイント阻害薬に分けられます。進行・再発大腸がんでは、がんの遺伝子やタンパク質を調べ、その結果に応じて治療を選ぶことが重要になっています。

手術後の再発を防ぐ術後補助化学療法

術後補助化学療法は、手術で確認できるがんをすべて切除した後に、体内に残っている可能性がある微小ながん細胞を抑え、再発の危険を下げるために行います。

主にステージ3が対象となり、ステージ2でも、がんが大腸の壁を深く越えている、腸閉塞や穿孔を伴っている、十分な数のリンパ節を調べられていないなど、再発リスクが高い場合に検討します。ただし、すべてのステージ2で薬物療法が必要になるわけではありません。

主な治療には、次のものがあります。

治療法 使用する主な薬と特徴
CAPOX 内服薬のカペシタビンと、点滴薬のオキサリプラチンを組み合わせる。通院で治療しやすい一方、手足症候群や末梢神経障害に注意する
FOLFOX 5-FU、レボホリナート、オキサリプラチンを組み合わせる。携帯型のポンプを使い、一定時間かけて5-FUを投与することがある
フッ化ピリミジン単独療法 カペシタビンなどを使用する。オキサリプラチンの併用が難しい場合に検討される

治療期間は、再発リスクと使用する薬を踏まえて、3カ月または6カ月を検討します。一般に、再発リスクが比較的低い場合は、CAPOXを3カ月行うことで、オキサリプラチンによる蓄積性の末梢神経障害を減らせる可能性があります。一方、再発リスクが高い場合やFOLFOXを選ぶ場合は、6カ月の治療を検討することがあります。

ただし、治療期間を短くすればよいとは限りません。再発リスクをどこまで下げられる可能性があるかと、しびれなどの副作用が将来の仕事や日常生活に残る危険を比較して決めます。

高齢であることだけを理由に治療を行えないわけではありませんが、体力、腎機能、持病、認知機能、服薬管理、家族の支援などを確認します。オキサリプラチンを使用せず、内服薬などによる治療を選ぶ場合もあります。

切除不能・再発大腸がんでは複数の薬を組み合わせる

遠隔転移や再発病変をすべて切除することが難しい場合は、薬物療法によってがんを縮小させ、進行を抑えることを目指します。治療によって病変が十分に縮小した場合は、肝転移や肺転移などを手術で切除できるか、あらためて検討することもあります。

治療の土台となる主な組み合わせには、次のものがあります。

  • FOLFOX:5-FU、レボホリナート、オキサリプラチン
  • CAPOX:カペシタビン、オキサリプラチン
  • FOLFIRI:5-FU、レボホリナート、イリノテカン
  • FOLFOXIRI:5-FU、レボホリナート、オキサリプラチン、イリノテカン

これらへ、ベバシズマブなどの血管新生を抑える薬や、セツキシマブ、パニツムマブなどの抗EGFR抗体薬を組み合わせます。

どの治療を選ぶかは、がんをできるだけ小さくして手術を目指すのか、長期間の病勢コントロールを目指すのか、症状を和らげることを優先するのかによって変わります。年齢だけでなく、全身状態、肝臓や腎臓などの機能、転移の場所、これまでの治療、副作用への不安も判断材料になります。

抗EGFR抗体薬は、基本的にRAS遺伝子に変異がない場合が対象です。さらに、原発巣が右側か左側かによって期待できる効果が異なるため、RAS野生型で左側に発生したがんでは、抗EGFR抗体薬を含む治療が検討されやすくなります。

MSI-HighまたはdMMRの大腸がんでは、一次治療から免疫チェックポイント阻害薬を検討します。ペムブロリズマブのほか、ニボルマブとイピリムマブを組み合わせる治療も選択肢です。

BRAF V600E変異がある切除不能大腸がんでは、従来の細胞障害性抗がん薬だけでなく、BRAF阻害薬のエンコラフェニブ、抗EGFR抗体薬のセツキシマブ、mFOLFOX6を組み合わせる一次治療が選択肢に加わっています。

参考:MSI-High/dMMR切除不能大腸がんに対する免疫療法|大腸癌研究会

一次治療の効果が低下した場合は、使用していない薬へ変更します。後方の治療では、トリフルリジン・チピラシルとベバシズマブの併用、レゴラフェニブ、フルキンチニブなどを、これまでに使用した薬と全身状態に応じて検討します。

一次治療、二次治療という言葉は、がんの重症度を表すものではなく、薬を使用する順番を表しています。副作用で治療を変更した場合も、次の治療が前の治療より弱いとは限りません。

ステージ4における転移巣の切除、薬物療法から手術へ切り替える判断、治療の見通しについては、以下の記事で詳しく解説しています。

遺伝子・バイオマーカー検査が薬の選択につながる

進行・再発大腸がんでは、がん組織や血液を使って遺伝子・バイオマーカーを調べます。検査は、がんになりやすい体質を調べる遺伝学的検査とは目的が異なり、主に現在のがんへ使用できる薬を選ぶために行います。

検査・異常 治療選択との主な関係
RAS 変異がある場合は、セツキシマブやパニツムマブなどの抗EGFR抗体薬による効果を期待しにくい
BRAF V600E BRAF阻害薬と抗EGFR抗体薬を含む治療の対象になる
MSI-High/dMMR 免疫チェックポイント阻害薬の効果を期待できる可能性がある。リンチ症候群を疑う手がかりにもなる
HER2陽性 抗HER2療法を検討する材料になる
KRAS G12C 治療歴がある場合、KRAS G12C阻害薬のソトラシブとパニツムマブの併用を検討できる
NTRK融合・RET融合 頻度は低いが、融合遺伝子を標的とする薬の対象になる可能性がある
TMB-High がん種を問わない免疫チェックポイント阻害薬の適応を検討する材料になる

これらを最初から一つずつ調べる場合もあれば、複数の遺伝子を同時に調べるがん遺伝子パネル検査を検討する場合もあります。パネル検査は、標準治療が終了した、または終了する見込みのある人などが主な対象ですが、検査を受けても治療につながる遺伝子異常が見つからないことがあります。

検査結果の説明を受ける際は、何を調べた検査なのか、結果によって現在の治療が変わるのか、将来の治療や臨床試験の候補になるのか、遺伝性の可能性を示す結果ではないかを確認します。

薬の効果と生活への負担を一緒に評価する

薬物療法は、決められた量を休まず続けることだけが目標ではありません。副作用が強い場合には、休薬、減量、薬の変更を行いながら、治療を続けられる状態を保つことも大切です。

治療中は、CTなどによる病変の変化、腫瘍マーカー、症状、体重、血液検査、副作用を組み合わせて効果と負担を評価します。がんが小さくなっていても、強い副作用によって食事や歩行、仕事が難しくなっている場合は、治療内容の調整が必要になることがあります。

診察では、治療の目的、使用する薬を選んだ理由、予定している期間、効果を確認する時期、どのような副作用で連絡すべきか、効果がなくなった場合の次の選択肢を確認します。

治療薬ごとの副作用と仕事・食事・外出への影響については、後の「治療の副作用と生活への影響」で詳しく解説します。

大腸がんの放射線治療

放射線治療は、がんへ放射線を照射し、がん細胞の増殖を抑える局所治療です。大腸がんの中でも、主に直腸がんの骨盤内再発を抑える治療や、進行・再発がんによる症状を和らげる治療として用いられます。

結腸がんでは、腸管が腹部の中で動きやすく、周囲に放射線の影響を受けやすい小腸などがあるため、放射線治療が初回治療の中心になることは多くありません。一方、直腸は骨盤内で位置が比較的固定されているため、病変の範囲を定めて照射しやすく、手術や薬物療法と組み合わせる場合があります。

直腸がんでは局所再発の危険を踏まえて術前治療を検討する

局所進行直腸がんでは、手術前に放射線治療と薬物療法を組み合わせる化学放射線療法を検討することがあります。がんを小さくして切除しやすくすることや、骨盤内での再発を減らすことが主な目的です。

ただし、国内では、切除可能な直腸がんのすべてに術前放射線治療を行うわけではありません。日本では、直腸間膜切除や必要に応じた側方リンパ節郭清を含む手術が治療の基本となっており、術前放射線治療は、がんが周囲へ広がっている、切除断端が近くなる可能性がある、局所再発の危険が高いといった場合に検討されます。

治療を選ぶ際には、骨盤MRIなどから、がんの深さ、リンパ節転移、直腸間膜筋膜との距離、肛門との位置関係を確認します。術前治療によってがんが縮小しても、必ず肛門を温存できるわけではなく、手術を行わずに済むことが保証されるわけでもありません。

薬物療法と放射線治療を手術前にまとめて行うTNTや、治療後にがんが確認できなくなった場合に手術を行わず経過観察する非手術管理も検討されています。ただし、国内では対象となる患者さんの選び方や長期的な安全性に未確立の部分があり、経験のある医療機関で慎重に判断する必要があります。

進行・再発がんでは症状を和らげる目的でも行う

進行・再発大腸がんでは、がんを完全に治すことではなく、症状を軽くして生活を保つ目的で放射線治療を行うことがあります。

対象となる主な症状には、次のようなものがあります。

  • 骨盤内の再発や直腸の腫瘍による痛み、出血、便通障害
  • 骨転移による痛みや骨折の危険
  • 脳転移による頭痛、吐き気、めまい、神経症状
  • 肺や気管支周囲の転移による出血や気道の狭窄

症状緩和を目的とする場合は、根治を目指す照射よりも短い期間で治療することがあります。効果が現れるまでの期間や、どの程度の症状改善が期待できるかは、照射する部位、病変の大きさ、全身状態によって異なります。

放射線治療を提案されたときは、根治、局所再発予防、がんの縮小、症状緩和のどれを目的としているのかを確認することが大切です。

放射線治療の副作用と生活への影響

放射線治療の副作用は、放射線を照射した範囲に現れやすく、治療中から直後に起こる早期の副作用と、数カ月から数年後に現れる晩期の副作用があります。

骨盤へ照射する場合は、治療が進むにつれて、下痢、腹痛、頻回の排便、肛門周囲の痛み、排尿時の痛み、皮膚炎、倦怠感などが現れることがあります。薬物療法を併用する場合は、食欲低下や血球減少などが加わることもあります。

下痢や頻回の排便が強くなると、通勤や外出が難しくなったり、夜間に何度もトイレへ行って睡眠が妨げられたりします。治療は平日に繰り返し通院して行うことが多いため、治療期間、通院回数、1回の所要時間を事前に確認し、仕事や家族の支援を調整しておくことも必要です。

治療終了後しばらくたってから、腸管や膀胱からの出血、潰瘍、腸閉塞、頻回の排便、まれに穿孔や瘻孔などが起こることがあります。血便が増える、強い腹痛が続く、便やガスが出ない、排尿時の痛みや血尿があるといった場合は、治療から時間がたっていても医療機関へ相談してください。

副作用の程度によっては、整腸薬や止瀉薬、皮膚の処置、食事内容の調整、治療の一時中断などを行います。症状を我慢して予定どおり照射を続けることが常に最善とは限らないため、生活への影響も含めて放射線治療科へ伝えることが大切です。

大腸がんの免疫療法は適応と治療根拠を確認する

免疫療法は、免疫の働きを利用してがんを攻撃する治療の総称です。ただし、「免疫療法」と呼ばれる治療が、すべて同じ仕組みや治療効果を持つわけではありません。

大腸がんで有効性が確認され、保険診療で使用されている免疫療法の中心は、免疫チェックポイント阻害薬です。主に、MSI-HighまたはdMMRと確認された切除不能・再発大腸がんが対象となり、ペムブロリズマブや、ニボルマブとイピリムマブの併用療法などを検討します。

ニボルマブとイピリムマブの併用療法は、2025年8月に、MSI-Highの治癒切除不能な進行・再発結腸・直腸がんに対して、一次治療から使用できるようになりました。ただし、併用療法では免疫に関係する副作用が増える可能性があるため、単独療法との使い分けは、全身状態、持病、副作用の危険などを踏まえて判断します。

また、標準治療後など一定の条件を満たすTMB-Highの固形がんでは、ペムブロリズマブを検討できる場合があります。どの治療を使用できるかは、検査結果だけでなく、これまでに受けた治療や国内で承認された適応条件によっても変わります。

一方、大腸がんの多くを占めるMSSまたはpMMRでは、現在の免疫チェックポイント阻害薬による十分な効果は確立していません。免疫療法を希望する場合は、まず自分のMSI/MMRやTMBの検査結果を確認する必要があります。

参考:MSI-High切除不能進行・再発大腸がんに対するニボルマブ+イピリムマブ併用療法|大腸癌研究会

自由診療の免疫療法とは区別して考える

自由診療では、がんワクチン、樹状細胞療法、活性化リンパ球療法などが「免疫療法」として紹介されることがあります。これらは、承認された免疫チェックポイント阻害薬とは、治療の仕組み、対象となる患者さん、効果を裏付ける臨床試験、費用負担が異なります。

自由診療であることだけを理由に治療を否定することはできませんが、大腸がんに対して有効性が確立した標準治療であるかのように受け取らないことが大切です。「免疫を高める」「副作用が少ない」「末期でも受けられる」といった説明だけでは、治療効果を判断できません。

治療を検討する際は、次の内容を確認します。

  • 国内で大腸がんに対して承認されている治療か
  • 自分のMSI/MMRやTMBなどの検査結果が適応条件を満たすか
  • 効果はどの段階の臨床試験で確認されているか
  • 標準治療と比較して、生存期間や進行抑制への利益が示されているか
  • 主な副作用と、重い副作用が起きた場合の対応体制はあるか
  • 費用の総額、治療期間、予定する投与回数はどの程度か
  • 受けることで標準治療の開始や継続へ影響しないか

免疫療法という名称ではなく、どの薬や治療法を、どの検査結果に基づいて、何を目標に行うのかを確認します。標準治療以外の選択肢を探している場合も、治療を開始する前に、薬物療法の残された選択肢、がん遺伝子パネル検査、参加可能な臨床試験について主治医やセカンドオピニオンで相談すると、比較したうえで判断しやすくなります。

参考:免疫チェックポイント阻害薬の最適使用推進ガイドライン|医薬品医療機器総合機構

治療の副作用と生活への影響

大腸がんの薬物療法では、使用する薬によって副作用の種類や現れる時期が異なります。同じ治療を受けても症状の強さには個人差があり、すべての副作用が現れるわけではありません。

副作用は、単に我慢できるかどうかだけでなく、食事を取れるか、眠れるか、仕事や家事を続けられるか、安全に外出できるかという生活面からも評価します。早い段階で症状を伝えることで、支持療法、休薬、減量、薬の変更などによって治療を続けられる場合があります。

オキサリプラチンではしびれと冷たい刺激に注意する

FOLFOXやCAPOXに含まれるオキサリプラチンでは、手足や口の周りのしびれ、感覚の低下などの末梢神経障害が起こることがあります。

投与後には、冷たい飲み物を口にしたときや冷たい物に触れたときに、手指や口の周りがしびれる、喉が締め付けられるように感じるなど、冷たい刺激によって誘発される症状が現れることがあります。投与後しばらくは、冷たい飲食物を避け、冷蔵庫内の物を触るときは手袋を使うなどの対策を取ります。

治療を重ねると、冷たさとは関係なくしびれが続くことがあります。箸を使いにくい、ボタンを留めにくい、文字を書きにくい、物を落とす、つまずきやすいといった変化があれば、日常生活への影響が大きくなる前に伝えてください。

しびれは治療を終了した後も残ることがあるため、強くなってからではなく、症状が現れた段階で治療量や期間を調整できるか相談することが大切です。

イリノテカンでは下痢と好中球減少が問題になる

FOLFIRIやFOLFOXIRIに含まれるイリノテカンでは、下痢と好中球減少が代表的な副作用です。

下痢は投与中や投与直後に起こる場合と、数日たってから起こる場合があります。水分を十分に取れないほど続くと、脱水、腎機能低下、体重減少などにつながり、通勤や外出、睡眠にも影響します。

排便回数、便の状態、腹痛、飲水量を記録し、処方された下痢止めの使用方法をあらかじめ確認しておきます。下痢が続く、血便を伴う、水分を取れない、強い腹痛や発熱がある場合は、自己判断で様子を見ずに医療機関へ連絡します。

好中球が減少すると感染症にかかりやすくなりますが、血液検査を受けるまで自覚症状がないこともあります。38℃以上の発熱、または医療機関から指定された体温以上の発熱、悪寒、強いだるさがある場合は、夜間や休日を含めた連絡方法に従って相談してください。

カペシタビンでは手足症候群や下痢が起こることがある

CAPOXなどで使用するカペシタビンは、内服する細胞障害性抗がん薬です。主な副作用には、下痢、口内炎、食欲低下、血球減少のほか、手足症候群があります。

手足症候群では、手のひらや足の裏に、赤み、腫れ、ヒリヒリする痛み、感覚の変化などが現れます。悪化すると、歩く、靴を履く、包丁を使う、パソコンを操作するといった日常動作が難しくなることがあります。

治療開始時から保湿を行い、熱い風呂、長時間の歩行、強い摩擦などを避けます。痛みや水ぶくれが現れた場合は、次の診察まで我慢せず、服用を続けてよいか医療機関へ確認してください。

内服薬は自宅で治療できる利点がありますが、飲み忘れた分をまとめて服用したり、副作用が強いまま自己判断で続けたりしないことが大切です。服用方法を間違えた場合や、薬を飲めない状態が続いた場合も、医師や薬剤師へ相談します。

抗EGFR抗体薬では皮膚と爪の症状が現れやすい

セツキシマブやパニツムマブなどの抗EGFR抗体薬では、顔や胸、背中などにニキビのような発疹が現れるざ瘡様皮疹、皮膚の乾燥、かゆみ、爪の周囲の炎症などが起こることがあります。

ざ瘡様皮疹は治療開始後の比較的早い時期に現れやすく、皮膚の乾燥や爪囲炎は治療を続ける中で目立つことがあります。見た目だけの問題ではなく、顔の症状によって人に会うことが負担になったり、指先の痛みで家事や仕事が難しくなったりする場合があります。

治療開始時から保湿剤や日焼け止めを使用し、必要に応じて抗菌薬や外用薬で予防・治療します。皮膚症状があるから薬が効いている、または症状がないから効いていないと、自分で判断することはできません。

抗EGFR抗体薬では、血液中のマグネシウムが低下することもあります。強い倦怠感、筋肉のけいれん、しびれ、動悸などがある場合は、血液検査の結果と合わせて確認します。

ベバシズマブでは血圧や出血、血栓などを確認する

ベバシズマブでは、高血圧、蛋白尿、出血、血栓、消化管穿孔、創傷治癒の遅れなどが起こることがあります。高血圧や蛋白尿は自覚症状がない場合もあるため、治療中は血圧測定や尿検査を行います。

突然の強い腹痛、胸の痛みや息苦しさ、片側の手足の腫れ、ろれつが回らない、片側の手足に力が入らないなどの症状がある場合は、消化管穿孔や血栓症などの可能性があるため、速やかな連絡・受診が必要です。

ベバシズマブは傷の治りに影響することがあります。手術、抜歯、内視鏡的な処置などを予定している場合は、薬を使用していることを担当医へ伝え、投与を休む期間を確認します。

免疫チェックポイント阻害薬では治療後の症状にも注意する

免疫チェックポイント阻害薬では、免疫が正常な臓器を攻撃することで、肺、腸、肝臓、皮膚、甲状腺などの内分泌器官、神経や筋肉などに炎症が起こることがあります。副作用が起こる場所や時期を正確に予測することは難しく、治療中だけでなく、治療終了後に現れる場合もあります。

次のような症状がある場合は、軽く見えても治療を受けている医療機関へ相談します。

  • 新しく現れた咳、息苦しさ、胸の痛み
  • 下痢、排便回数の増加、強い腹痛、血便
  • 皮膚や白目が黄色くなる、尿の色が濃くなる
  • 強いだるさ、頭痛、めまい、急な体重変化
  • 動悸、異常な喉の渇き、尿量の増加
  • 手足に力が入らない、歩きにくい、物が二重に見える

免疫に関係する副作用では、早期に治療を中断し、ステロイドなどによる治療を始める必要がある場合があります。ほかの医療機関を受診するときも、免疫チェックポイント阻害薬を使用している、または過去に使用していたことを伝えてください。

副作用による休薬や減量は治療の失敗ではない

薬物療法は、予定された量を一度も変更せずに続けることだけが目標ではありません。重い副作用によって体力や臓器機能が低下すると、その後の治療を受けられなくなる場合があります。

症状や血液検査の結果に応じて、投与を延期する、薬の量を減らす、原因となる薬だけを中止する、別の治療へ変更するといった調整を行います。副作用を抑えながら、必要な治療を安全に続けるための調整と考えることができます。

治療中は、次の内容を記録しておくと診察時に伝えやすくなります。

  • 症状が始まった日と、治療後何日目に強くなったか
  • 体温、排便回数、食事量、体重の変化
  • 仕事、家事、睡眠、歩行などで困ったこと
  • 処方された薬を使用して症状が改善したか

副作用がつらいときは、「まだ我慢できる」と考えるのではなく、生活のどの場面に支障が出ているかを具体的に伝えます。治療を継続する利益と負担を定期的に見直し、現在の病状と生活に合った治療量や治療間隔を相談することが大切です。

参考:免疫療法の副作用|国立がん研究センター がん情報サービス
参考:患者向医薬品ガイド|医薬品医療機器総合機構

大腸がんのステージ別生存率

大腸がんの予後は、診断された時点のステージによって大きく異なります。がんが大腸の壁にとどまっている段階では根治を目指しやすい一方、リンパ節や離れた臓器へ広がるほど、治療後の再発や進行の可能性が高くなるためです。

国立がん研究センターの院内がん登録では、ステージ1〜4の大腸がんについて、5年・10年ネット・サバイバルが公表されています。ステージ0は同じ集計で独立した数値が公表されていないため、以下の表には含めていません。ステージ0はがんが粘膜内にとどまる段階で、内視鏡治療などによって完全に切除できれば、根治を目指せる場合が多いと考えられます。

ステージ 5年ネット・サバイバル
2014~2015年診断例
10年ネット・サバイバル
2012年診断例
ステージ1 92.3% 79.2%
ステージ2 85.5% 70.7%
ステージ3 75.5% 61.6%
ステージ4 18.3% 11.6%

ネット・サバイバルとは、がん以外の病気や事故などによる死亡の影響を統計的に調整し、がんだけが死亡原因になると仮定して算出した生存率です。実際に診断された患者さんのうち、何%がその時点で生存していたかを単純に示す実測生存率とは異なります。

表の5年と10年の数値は、同じ患者さんを5年後と10年後まで追跡して比較したものではありません。5年ネット・サバイバルは2014~2015年診断例、10年ネット・サバイバルは2012年診断例を対象としており、診断年、対象施設、患者集団が異なる別々の統計です。

そのため、たとえばステージ4の数値が5年の18.3%から10年の11.6%へ低下したと単純に計算することはできません。それぞれ、異なる患者集団における5年後と10年後の傾向を示す数字として受け止める必要があります。

記事冒頭で紹介した71.4%は、2009~2011年診断例を対象に、すべてのステージを合わせて算出した5年相対生存率です。表の数値とは対象となる診断年、患者集団、計算方法が異なるため、直接比較することはできません。

参考:院内がん登録生存率最新集計値|国立がん研究センター がん情報サービス

ステージが同じでも見通しは一人ひとり異なる

生存率は、同じステージと診断された多くの患者さんの経過を集計した統計であり、個人の余命を示す数字ではありません。同じステージ2でも、がんが大腸の壁を越えた程度、腸閉塞や穿孔の有無、脈管侵襲などによって再発リスクは異なります。ステージ3でも、転移したリンパ節の数や場所、がんの深さによって見通しは同じではありません。

ステージ4では、さらに病状の幅が大きくなります。肝臓や肺への転移が限られ、原発巣と転移巣をすべて切除できる場合と、複数の臓器へ広がり切除が難しい場合では、期待できる治療効果が異なります。遺伝子・バイオマーカー、薬物療法への反応、年齢、全身状態、持病も見通しに影響します。

表の対象は2014~2015年に診断された患者さんです。その後に使用できるようになった薬物療法の治療成績は、この統計に十分反映されていません。一方で、新しい薬が増えたからといって、すべての患者さんの経過が表の数値より良くなると断定することもできません。

ステージ4の切除可能性、薬物療法、完治の可能性、生存率の受け止め方については、以下の記事で詳しく解説しています。

ステージが上がるほど再発の可能性も高くなる

大腸がんは、手術によって確認できるがんを取り切れても、画像に写らない微小ながん細胞が残り、後から再発することがあります。

国立がん研究センターでは、大腸がんの手術後の再発率について、ステージ1で約5%、ステージ2で約15%、ステージ3で約30%としています。ステージは再発リスクを考える重要な目安ですが、同じステージの中でも、病理検査の結果や術後補助化学療法の有無によって再発の可能性は異なります。

再発する場合、その85%以上は手術後3年以内、95%以上は5年以内に見つかるとされています。そのため、治療後は一般に5年間を目安として、血液検査、腫瘍マーカー、CT検査、大腸内視鏡検査などによる経過観察を受けます。

大腸がんが再発しやすい場所は、肝臓、肺、手術した場所の周辺、腹膜、リンパ節などです。経過観察中に、血便、便通の変化、長引く咳、息苦しさ、腹痛、背中や骨の痛み、原因不明の体重減少などが現れた場合は、定期検査の日まで待たずに医療機関へ相談します。

生存率だけで治療の価値を判断しない

生存率が高いステージでも再発の可能性がなくなるわけではなく、生存率が低いステージでも治療を受ける意味がないわけではありません。

ステージ4では、病変を完全に消すことが難しい場合でも、薬物療法によって進行を抑え、食事、排便、仕事や家事などの日常生活を長く保てることがあります。転移巣が縮小し、手術を検討できる状態へ変わる患者さんもいます。

自分の見通しを確認するときは、生存率の数字だけでなく、がんをすべて切除できるか、再発リスクはどの程度か、どの遺伝子・バイオマーカーがあるか、治療がどの程度効いているか、体力や臓器機能を保てているかについて説明を受けることが大切です。

参考:院内がん登録生存率集計結果閲覧システム

標準治療で効果が得られないときの考え方

標準治療とは、単に広く行われている治療ではなく、臨床試験などの科学的根拠から、現時点で有効性と安全性のバランスが優れていると判断された治療です。ただし、標準治療であっても、すべての患者さんに同じ効果が得られるわけではありません。

進行・再発大腸がんでは、薬物療法を続ける中でがんが再び大きくなる、副作用が強くなる、体力や臓器機能が低下して治療を続けにくくなることがあります。このような場合は、単に「治療が効かなかった」と考えるのではなく、治療を変更する理由を明確にすることが、その後の選択につながります。

効果が不十分になった場合は、これまでに使用していない承認薬が残っていないか、遺伝子・バイオマーカー検査の結果から選べる治療がないかを確認します。必要な検査がまだ行われていない場合や、以前の検査後に新たな治療選択肢が加わった場合には、検査結果をあらためて見直すこともあります。

標準治療として推奨される薬を一通り使用した場合は、がん遺伝子パネル検査や臨床試験が選択肢になることがあります。ただし、検査を受けても治療へ結び付く遺伝子異常が見つからない場合があり、臨床試験も参加条件を満たせば必ず治療を受けられるわけではありません。

治療方針に迷う場合は、別の医療機関でセカンドオピニオンを受ける方法もあります。セカンドオピニオンは転院を前提とするものではなく、現在の診断や治療方針について別の医師の意見を聞き、選択肢を整理するために利用できます。

抗がん治療の選択肢が少なくなった場合でも、受けられる医療がなくなるわけではありません。痛み、吐き気、便通障害、食欲低下、不眠、不安などを軽減する緩和ケア・支持療法や、必要に応じた放射線治療、手術、ステント治療などによって、症状と生活への影響を抑えられる場合があります。

診察では、次の内容を確認すると、現在の状態と次の選択肢を整理しやすくなります。

  • 現在の治療を変更・終了する理由は、がんの進行、副作用、体力低下のどれか
  • 使用していない承認薬や、検査結果に対応する治療が残っているか
  • 手術や放射線治療など、薬物療法以外の治療を検討できる病変があるか
  • がん遺伝子パネル検査や臨床試験の対象になる可能性があるか
  • セカンドオピニオンを受けることで確認したい内容は何か
  • 症状と生活を保つために、今から利用できる緩和ケア・支持療法は何か

新しい治療や自由診療を検討する場合は、「新しい」「先端的」という表現だけで判断せず、標準治療と比べた効果と安全性がどこまで確認されているかを確認します。臨床試験で検証中の治療は、標準治療より優れていることが確定した治療ではありません。

参考:標準治療と診療ガイドライン|国立がん研究センター がん情報サービス

大腸がんの治療を選ぶときに確認すること

大腸がんの治療は、ステージや遺伝子・バイオマーカーの結果だけで決まるものではありません。治療によって何を目指すのか、期待できる利益はどの程度か、治療後の生活にどのような負担が生じるかを確認し、本人が重視することも含めて方針を決めます。

たとえば、手術にはがんを取り切って根治を目指す目的がありますが、合併症や排便機能への影響が生じる可能性があります。術後補助化学療法は再発の危険を下げるために行いますが、再発を完全に防ぐ治療ではなく、しびれなどが治療後も残る場合があります。

切除不能・再発大腸がんの薬物療法では、病変を小さくして手術を目指すこと、進行を遅らせること、症状を軽減することなど、病状によって治療の目的が異なります。同じ薬物療法でも、何を成果とするかによって、効果の評価方法や治療を続ける条件が変わります。

治療を受ける場合と受けない場合を比較する

治療を選ぶときは、副作用の危険だけでなく、治療を受けなかった場合や開始を遅らせた場合に起こり得ることも確認します。

たとえば、手術を受けなければ腸閉塞や出血が起こる可能性があるのか、術後補助化学療法を行わなければ再発リスクがどの程度変わるのか、薬物療法を休むことでがんが進行する可能性はどの程度あるのかを、現在の病状に即して説明してもらいます。

病状によっては、治療を急いで開始するよりも、追加検査の結果を待つ、体力や栄養状態を整える、複数の治療法を比較するといった時間を取れる場合があります。治療をいつまでに始める必要があるかも確認します。

主治医に次の内容を尋ねると、治療の利益と負担を整理しやすくなります。

  • この治療は、根治、再発予防、病気の進行抑制、症状緩和のどれを目指すのか
  • 自分と近い病状では、治療によってどの程度の利益が期待できるか
  • 起こりやすい副作用と、長期間残る可能性がある後遺症は何か
  • 治療を受けない場合や開始を遅らせた場合、どのような危険があるか
  • ほかに選べる治療や、治療を行わず経過を見る選択肢があるか
  • どのような検査結果や症状があれば、治療を変更・終了するのか

術後補助化学療法については「再発率が下がる」という説明だけでなく、自分の再発リスクが治療によって何%程度変わると見込まれるかを確認します。数字を示せない場合には、その治療を強く勧める理由となっている病理所見を尋ねます。

進行・再発大腸がんでは、腫瘍の縮小率や生存期間だけでなく、食事、排便、歩行、仕事、家事などをどこまで保てるかも治療を評価する材料です。画像上で病変が残っていても、進行を抑えながら日常生活を維持できていれば、治療による利益が得られていると考えられる場合があります。

家族と本人で重視することが異なる場合もあります。本人が仕事や育児の継続を優先したい、人工肛門を避けたい、通院回数を減らしたいと考えている場合は、その希望を早い段階で医療者へ伝えます。ただし、希望する治療が医学的に安全でない場合や、期待する効果が得られにくい場合もあるため、選べる範囲と理由について説明を受けます。

治療方針に迷う場合は、セカンドオピニオンを利用できます。セカンドオピニオンは転院を前提とするものではなく、診断や提案された治療について別の医師の意見を聞き、現在の方針を理解するためにも利用できます。

納得できる治療を選択するために

大腸がんは、早期には症状が乏しく、血便や便通異常が現れても痔や体調の変化と区別しにくい病気です。症状がない40歳以上の人は年1回の便潜血検査を受け、血便や排便習慣の変化などがある場合は、検診を待たずに医療機関を受診します。

大腸がんと診断された後は、ステージだけでなく、結腸がんと直腸がんのどちらか、病変を切除できるか、病理検査でどのような再発リスクが認められたか、治療選択に関係する遺伝子・バイオマーカーがあるかを確認します。

治療法には、内視鏡治療、手術、薬物療法、放射線治療があります。症状や治療の副作用を軽減する緩和ケア・支持療法は、病気が進行した後だけでなく、診断時や治療中から利用できます。治療を受けた後も、再発や新たな大腸病変、治療による合併症を確認するため、定期的な診察と検査が必要です。内視鏡治療後は主に大腸内視鏡検査、手術後は血液検査、CT検査、大腸内視鏡検査などを、ステージや治療内容に応じた間隔で受けます。

治療を選ぶときに確認したいのは、治療名の新しさや知名度ではありません。現在の病状で何を目指す治療なのか、その効果をどのように評価するのか、生活へどのような影響があるのか、効果が不十分だった場合に次の選択肢があるかを理解することが、納得できる判断につながります。

説明を受けても判断が難しい場合は、質問をメモして再度説明を求めたり、家族に同席してもらったり、がん相談支援センターやセカンドオピニオンを利用したりする方法があります。すぐに結論を出すことだけを優先せず、治療を開始する期限を確認したうえで、自分に必要な情報を整理しましょう。

乳がんの中でも、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)は、ホルモン受容体やHER2を標的とする治療が使いにくく、治療の選択肢が限られやすいタイプです。標準治療を続けても再発や進行が心配な方、次の一手を探している方も少なくありません。

がん中央クリニックグループでは、こうしたトリプルネガティブ乳がんに対して、細胞の増殖に関わるNucleolin(ヌクレオリン)という分子に着目したアプタマー核酸医薬による治療に取り組んでいます。

本ページでは、トリプルネガティブ乳がんの特徴と、Nucleolinを標的とするアプタマー治療がどのような考え方に基づくのかを、できるだけわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理するための一助となれば幸いです。

  • トリプルネガティブ乳がんは、ホルモン受容体・HER2を標的とする治療が使いにくく、選択肢が限られやすいタイプです。
  • Nucleolin(ヌクレオリン)は増殖の速いがんや血管新生の盛んながんで多くみられ、がん細胞の表面にも現れることが報告されています。
  • 当グループでは、Nucleolinに加え、MUC1やHeparanaseを標的とするアプタマーとの組み合わせにも取り組んでいます。

トリプルネガティブ乳がんとは

乳がんには、ホルモン受容体(ER・PR)やHER2を標的とする治療があります。トリプルネガティブ乳がんは、ER陰性・PR陰性・HER2陰性という特徴を持ち、これらを標的とする分子標的薬やホルモン療法が使いにくいタイプです。

そのため治療は抗がん剤(化学療法)が中心になりやすく、再発しやすい、増殖の速い症例が多いといった課題が知られています。

関連記事:トリプルネガティブ乳がん(TNBC)について解説。初期症状や新しい治療法は?完治は可能なのか

Nucleolin(ヌクレオリン)とは

Nucleolinは、細胞の増殖やタンパク質の合成に関わる分子です。増殖の速いがん、浸潤性の高いがん、血管新生の盛んながんで多くみられることがあります。

本来は細胞の内側ではたらく分子ですが、一部のがんではがん細胞の表面にもNucleolinが現れることが報告されており、この点ががんを狙う手がかりのひとつとして研究されています。

Nucleolinを標的とする「アプタマー」とは

アプタマーとは、特定の分子だけを狙って結合するように設計された人工の核酸です。抗体医薬と似たはたらきを持ちますが、より小さく、設計の自由度が高いことが特徴です。

Nucleolinを標的とするアプタマーとしては、AS1411という物質が長く研究されてきました。当グループで用いるアプタマーは、AS1411の研究をふまえつつ、修飾塩基(人工的に安定性を高めた核酸)を用いることで、血中での残存時間を延ばす工夫を重ねたものです。

実際の治験で「著効例」が存在した

Nucleolinを標的とするアプタマーAS1411については、これまでにヒトを対象とした臨床試験が行われています。腎細胞がん(腎臓のがん)を対象とした第II相試験では、多くの患者様で効果は限定的でしたが、35名中1名で腫瘍の大きさ(標的病変の径の合計)が約84%縮小し、その後およそ24か月間、進行を認めなかった症例が報告されています。

これは単一の症例であり腎細胞がんですので、まだすべての患者様に同じ結果が得られるものではありませんが、条件が合えば強い抗腫瘍効果につながる可能性がある点は、Nucleolinという標的を考えるうえで注目される結果だと考えています。

また、AS1411ががん細胞に取り込まれた後にはたらく仕組みについても研究が進められており、がん細胞に特有の取り込み経路を過剰に刺激し、細胞死につながる仕組みが報告されています。一度腫瘍が小さくなっても、その後再び増大することは少なくありません。

そうしたなかで、アプタマー治療によって、長期間病勢が安定した可能性が示唆された点は非常に興味深い結果であり、「効く条件が揃えば、強い抗腫瘍効果を示す可能性を持つ治療」であると考えています。

参考:
A phase II trial of AS1411 (a novel nucleolin-targeted DNA aptamer) in metastatic renal cell carcinoma|Investigational New Drugs
Mechanistic studies of anticancer aptamer AS1411 reveal a novel role for nucleolin in regulating Rac1 activation|Molecular Oncology

なぜトリプルネガティブ乳がんに着目するのか

当グループがトリプルネガティブ乳がんでNucleolinに着目するのは、次のような特徴があるためです。

増殖の速さ

TNBCは増殖の速さを示すKi-67が高い症例が多く、増殖に関わるNucleolinとの関連が期待されます。

血管新生の盛んさ

Nucleolinは腫瘍の血管にも関わるとされ、血流の豊富な腫瘍との関連が研究されています。

浸潤性の高さ

Nucleolinは、がん細胞の移動や浸潤にも関わる可能性が報告されています。

MUC1・Heparanaseを標的とするアプタマーとの組み合わせ

当グループでは、Nucleolin単独だけでなく、MUC1やHeparanaseを標的とするアプタマーとの組み合わせにも取り組んでいます。それぞれ、がんに対して異なる役割を持つと考えられています。

  • Nucleolin:がんの増殖や血管新生に関わる
  • MUC1:がん細胞の生存に関わるシグナルに関わる
  • Heparanase:浸潤・転移や、腫瘍の周囲の環境づくりに関わる

複数の標的に同時に働きかけることで、がんの逃げ道を減らしながら、多方向から抑えることを目指す考え方です。抗がん剤や放射線治療との併用による相乗的な効果も、理論的には期待されています。

今後の課題

一方で、検討すべき課題も残されています。どのような患者様で効果が得られやすいのか、がん細胞表面のNucleolinの量とどう関係するのか、他の治療との最適な組み合わせはどうか、単独でどこまでの腫瘍縮小が得られるのか。こうした点は、今後さらに検討していく必要があります。

しかし、「効く患者様では劇的に効く可能性」が示唆されている点は非常に重要だと考えています。

まとめ:トリプルネガティブ乳がんの治療選択肢を検討するには

トリプルネガティブ乳がんは、いまも治療の選択肢が限られやすい難治性のがんです。そのなかで、NucleolinやMUC1、Heparanaseを標的とするアプタマー治療は、標準治療とは異なる角度からがんに働きかける選択肢のひとつと考えています。

どの患者様に、どの組み合わせが適しているかは、病状やこれまでの治療経過によって異なります。がん中央クリニックグループでは、標準治療の状況もふまえたうえで、患者様お一人おひとりの病状に合わせた治療方針を検討し、ご提案しています。トリプルネガティブ乳がんの治療でお悩みの方は、一度ご相談ください。

本ページで紹介するアプタマー核酸医薬による治療は、公的医療保険が適用されない自由診療であり、国内で医薬品としての承認を受けていない未承認の治療を含みます。治療内容・費用・想定される副作用やリスクについては、診察時に十分にご説明します。効果には個人差があり、すべての方に同様の結果を保証するものではありません。

スキルス胃がんは、がん細胞が胃の粘膜表面にかたまりをつくらず、胃壁の内部にしみ込むようにして広がっていくタイプの胃がんです。医学的には「びまん性浸潤型胃がん」「4型胃がん」と呼ばれ、胃がん全体の約10〜20%を占めます。

進行が速いうえ、内視鏡検査でも見つけにくいため、発見時にはすでに進行しているケースが目立ちます。初期には自覚症状がほとんどなく、胃もたれ、食欲不振、少し食べただけで満腹になる、体重減少などをきっかけに見つかることがあります。

本ページでは、スキルス胃がんの特徴や原因、症状、診断(内視鏡検査・審査腹腔鏡)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • 胃壁の内部にしみ込むように広がるタイプで、胃がん全体の約10〜20%を占める
  • 内視鏡でも見つけにくく、発見時にはすでに進行しているケースが多い
  • 腹膜播種を起こしやすく、抗HER2薬などの分子標的薬が使いにくい

スキルス胃がんとは

胃がんは、がん細胞の特徴によっていくつかのタイプに分けられます。

なかでも治療が難しいとされているのが「スキルス胃がん」です。

スキルス胃がんは、がん細胞が胃の粘膜表面にかたまり(腫瘍)をつくらず、胃壁の内部にしみ込むようにして広がっていくタイプの胃がんです。医学的には「びまん性浸潤型胃がん」あるいは「4型胃がん(ボールマン4型)」と呼びます。がん細胞が胃壁の中を這うように浸潤していくため、胃全体が硬く厚くなっていきます。

胃がん全体のうち、スキルス胃がんが占める割合はおよそ10〜20%です。組織型でみると、低分化腺がんや印環細胞がんと呼ばれる未分化型が大半を占めます。

他の胃がんと比べたときの特徴は、次のとおりです。

進行が速い 
増殖するスピードが速く、短期間のうちに病期が進んでいきます。

発見が遅れやすい
内視鏡検査でも見つけにくく、発見時にはすでに進行しているケースが目立ちます。

腹膜播種を起こしやすい
がん細胞が胃壁を突き破り、お腹の中に散らばる腹膜播種が高頻度で発生します。

若年・女性に比較的多い

以上のように、同じ「胃がん」という名前でも、通常の胃がんとは性質がかなり違う疾患です。

スキルス胃がんの原因

スキルス胃がんがなぜ起こるのか、その正確な原因は医学的にもまだ解明されていません。ただ、メカニズムについては少しずつ分かってきています。

一般的な胃がんでは、ピロリ菌の持続感染が最大の危険因子とされます。しかしスキルス胃がんは、ピロリ菌に感染したことのない若い患者様にも発症します。このことから、発生の経路そのものが異なる可能性が指摘されています。

分子のレベルでは、細胞同士を接着させる働きを持つ「E-カドヘリン(CDH1遺伝子)」の異常が深く関わっていると考えられています。細胞をつなぎとめる糊のような役割を担うタンパクが失われると、がん細胞がバラバラになって胃壁の中に浸み込み、腹腔内へも散らばりやすくなるのです。

一方、がん細胞の暴走を食い止める「ブレーキ役」を担っているのが、がん抑制遺伝子の「p53(TP53)」です。p53はDNAに傷がついたときにそれを修復させ、修復できない細胞は自然死(アポトーシス)へと導きます。この機能が失われると、傷ついた細胞が排除されないまま増え続け、がん化へとつながっていきます。

胃がんにおけるp53変異の頻度は報告によって幅がありますが、スキルス胃がんが含まれるびまん型では25〜40%の範囲で認められるとされています。特に進行期のびまん型胃がんでは約40%にのぼる一方、早期のびまん型では変異が稀です。このことから、p53の異常は病期の進行にともなって蓄積していく可能性が示唆されています。

もうひとつ注目したいのが「HER2」の発現頻度です。HER2は細胞の増殖シグナルを伝える受容体タンパクであり、胃がんにおいては抗HER2薬の重要な標的となります。ところがHER2陽性率は、胃がん全体で22.1%、腸型で31.8%であるのに対し、スキルス胃がんではわずか6.1%にとどまります。

スキルス胃がんはその多くがびまん型に分類されるため、抗HER2薬の適応となる患者さんは限られます。

スキルス胃がんの診断

「(無)症状」から「確定診断」まで

スキルス胃がんは、初期の段階では自覚症状がほとんどありません。がんは胃の表面に隆起や潰瘍をつくらないため、通常の胃がんなら手がかりになるはずの黒色便や貧血といったサインが出にくく、これが早期発見を難しくしています。

進行してくると、胃もたれ、食欲不振、少し食べただけで満腹になる、体重減少、腹水などによる腹部の張りといった症状が現れます。ただ、こうした症状は胃炎など良性の疾患でも起こるため、自己判断で受診が遅れてしまうケースが少なくありません。症状がなくても定期的に検診を受けること、気になる症状が続くようなら早めに受診することが大切です。

スキルス胃がんに特有の検査上の難しさ

受診すると、まず内視鏡検査(胃カメラ)や胃X線検査が行われます。

ここでスキルス胃がんならではの問題が出てきます。がん細胞が粘膜の表面ではなく深い層を広がっていくため、内視鏡で表面を観察しても明らかな腫瘍が見えないことがあるのです。通常の生検ではがん細胞を採取できず、偽陰性となる場合もあります。

そのため、胃X線検査、超音波内視鏡(胃壁の層構造を断層で評価)、EUS-FNA(深部の組織を採取)、CT検査などを組み合わせながら診断を進めていきます。

さらに重要な検査として、審査腹腔鏡があります。全身麻酔をかけてお腹に小さな穴を開け、カメラを入れて、CTでは捉えきれない小さな腹膜播種を直接確認します。あわせて腹腔内を洗浄した液を採取し、がん細胞の有無を調べる腹腔洗浄細胞診も行います。腹膜播種があるかどうかで治療方針が大きく変わるため、スキルス胃がんでは特に重要な検査です。

ステージ(病期)の確定

胃がんのステージは、胃壁のどの深さまでがんが達しているか(T)、リンパ節転移の有無と個数(N)、腹膜播種を含む遠隔転移の有無(M)を組み合わせて、Ⅰ期〜Ⅳ期に分類されます。スキルス胃がんは診断された時点ですでにステージⅢ〜Ⅳであることが多く、この点が予後を大きく左右します。

スキルス胃がんの一般的な治療法

スキルス胃がんの治療は「手術」と「薬物療法」を軸に組み立てていきます。放射線療法が根治目的で用いられる機会は限られており、症状の緩和を目的として選択されるのが一般的です。治療方針を決めるうえで最大の分岐点となるのは、腹膜播種があるかどうかです。

腹膜播種や遠隔転移がなく、切除可能と判断された場合は手術が中心となります。スキルス胃がんは胃全体に広がっていることが多いため、胃をすべて切除する全摘術を行うケースが多いです。手術後は再発予防のために補助化学療法を行う場合があり、病理学的ステージに応じてさまざまな抗がん剤を使用します。

腹膜播種や遠隔転移が確認された場合は、薬物療法が中心になります。抗がん剤のほか、HER2の状態やPD-L1発現、MSI検査などの結果をふまえて最適な薬物を選択します。

治療成績と生存率

韓国での進行胃がんの解析によると、スキルス胃がんの5年生存率は27.6%、それ以外の通常の胃がんは61.2%でした。ステージⅢbでは15.2%対38.5%、ステージⅣでは10.2%対20.1%と、いずれの病期においても通常の胃がんより予後が不良でした。

また、日本での検討でも、5年生存率は10.2%、ステージⅡ/Ⅲで根治手術を受けた患者様では24.3%と報告されています。

このようにスキルス胃がんは、通常の胃がんと比べて予後が悪いタイプのがんだと言えます。

スキルス胃がんにおける保険診療の限界

化学療法に伴う「きつい」副作用

抗がん剤では、吐き気、強い倦怠感、食欲不振、脱毛、手足のしびれ、骨髄抑制による感染症リスクなどが起こりえます。さらにスキルス胃がんの場合、胃全摘術を受けた患者様が少なくありません。胃を失えば食事量が減り、ダンピング症候群や貧血、体重減少が生じやすくなります。もともと栄養状態が低下しているところへ副作用が重なることで、治療の継続そのものが困難になるリスクがあるのです。

保険診療ではカバーしきれない再発・進行のリスク

根治切除と術後補助化学療法を行っても、腹膜再発を中心とした再発が高い頻度で生じます。スキルス胃がんでは、胃の根治切除後であっても5年生存率が18.1%にとどまるという報告もあります。

腹膜播種などに対して実施できる化学療法の限界

スキルス胃がんで手術を試みた患者様のうち、腹膜播種がある割合は48.2%にのぼると報告されています。また、それらの腹膜播種をすべて切除した場合の5年生存率は12%、切除不能例では0%でした。

腹膜播種が問題になるのは、抗がん剤が届きにくいからです。腹膜には血管が乏しく、点滴で投与した薬剤が播種巣まで十分な濃度で到達しにくいと考えられています。腹膜播種が増えれば腹水も溜まりやすくなり、腹部膨満、食欲低下、呼吸苦などが現れて、生活の質(QOL)が大きく損なわれてしまいます。

また、腹膜播種がなくてもスキルス胃がんに対して実施できる化学療法の種類は多くはなく、通常の場合は3~4種類程度使用すると、保険診療ではもう手立てがないと言われてしまいます。

関連記事:腹膜播種について解説。完治の可能性は?進行を止めるための治療はあるのか。

分子標的薬の選択肢の少なさ

びまん型胃がんにおけるHER2陽性率は6.1にとどまるため、スキルス胃がんの患者様の多くは抗HER2薬の対象外となってしまいます。免疫チェックポイント阻害薬についても、びまん性の胃がんや腹膜播種例では効果がやや限定的であると指摘されています。

スキルス胃がんで重要な新しい治療の考え方

ここまで述べてきたとおり、スキルス胃がんは標準治療を行っても腹膜播種や再発のリスクが問題となるがんです。加えて、HER2陽性率が低いために分子標的薬の選択肢が限られるという特有の課題も抱えています。当グループでは、こうした課題に対して、標準治療とは作用の仕方が異なる治療を選択肢としてご提案しています。

分子レベルの異常にアプローチする「核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)」

近年、がんの発生や進行に関わる分子レベルの異常に直接アプローチする「核酸医薬」が世界的に注目を集め、研究・臨床応用が進んでいます。

当グループでは、がんの根本的な原因に直接作用することが期待される治療選択肢として、「アプタマー」「siRNAなどのRNA干渉技術」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を取り入れた治療を提供しております。

アプタマー核酸医薬」は、がん細胞に特有の異常なタンパク質にピンポイントで結合し、その働きをブロックすることで、がんの増殖抑制や死滅を狙う治療薬です。一方で「miR-34a mimic核酸医薬」は、がん化によって失われてしまった「体が本来持っているがんを抑制する力」を補い、がんの成長を止め、自然な細胞死(アポトーシス)を促す治療薬です。

スキルス胃がんを含む胃がんでTP53変異が高頻度に認められることは、先に述べたとおりです。miR-34a mimicは、miR-34aと同じ働きをする分子を外部から補充することで、p53というブレーキが壊れてしまった細胞に対しても、その先の経路から直接ブレーキをかけ直すことを狙う治療です。

がん中央クリニックグループでは、がん種ごとに標的となる遺伝子を指定して核酸医薬を設計し、患者様一人ひとりの状態に合わせた治療をご提案しています。複数の核酸医薬を組み合わせて使い分けられる点も、特徴のひとつです。

HER2を標的にする「分子標的ワクチン療法」

分子標的ワクチン療法は、がんの増殖・浸潤・転移に関わるタンパク質「HER2」を標的とした、当グループで施術可能な自由診療の治療法です。

スキルス胃がんにおいて、この治療は特に検討する価値があります。というのも、保険診療の抗HER2薬はHER2の発現が高い患者様にしか使えず、びまん型胃がんでHER2陽性となるのは6.1%程度にすぎないからです。しかし、HER2陽性と判定されないがん細胞にもHER2は一定量発現しているため、治療効果が見られることがあります。

この治療の目的は、筋肉注射によって患者様ご自身の体内でHER2に対する抗体をつくらせることです。

体内でHER2に対する抗体がつくられると、細胞周期や細胞分裂を促進するシグナルを送ることができなくなります。さらに、抗体がくっついたがん細胞を免疫細胞が攻撃するという効果も期待されます。

ただし、標準治療ですでに抗HER2薬を使用している場合には、効果が見込みづらい点に注意が必要です。

当グループの自由診療・治療をおすすめする患者様

当グループで実施可能な治療法は、ほとんどの患者様にご検討いただけます。以下では、どのような患者様に効果が期待できるのかを解説します。ご自身の状況に照らし合わせてご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

スキルス胃がんでは、病状や体力、副作用などの理由から、保険診療の標準治療だけでは選択肢が限られてしまうことがあります。特に腹膜播種を伴う進行例、HER2陰性で分子標的薬が使えない患者様、二次・三次治療まで進んで次の手立てが見つからない患者様は少なくありません。

そうした場合でも、核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法なら、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供することが可能です。

これらの治療法は目立った副作用が起こりにくく体への負担が少ないため、「胃全摘後で体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方にも、1つの治療の選択肢となり得ます。

さらに、まだ治療ができる体力があるにもかかわらず選択肢がなくなり、緩和を勧められている方にとっても、新たな治療の選択肢として検討いただけます。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

核酸医薬と分子標的ワクチン療法は、化学療法などの薬物療法と併用でき、相乗効果が期待できます。

なぜなら、化学療法がすでに増殖したがん細胞や産生されたたんぱく質に作用するのに対し、核酸医薬はがん細胞やたんぱく質がつくられる前の段階、すなわち遺伝子レベルに作用するからです。そして分子標的ワクチン療法は、患者様ご自身の免疫の力を使ってHER2を発現するがん細胞を攻撃する方法だからです。

このように当グループが提供する治療法は、標準治療とは攻撃するポイントが異なります。だからこそ、標準治療と組み合わせることでより高い効果が期待できるのです。

スキルス胃がんの完治を目指すには、複数の治療法を組み合わせることが重要と考えています。標準治療を受けている患者様にとっても、核酸医薬と分子標的ワクチン療法の併用は選択肢のひとつです。

再発を抑制、防止するため。手術前後のすべての患者様

スキルス胃がんは、根治手術を行っても腹膜再発を中心とした再発が生じやすい疾患です。また抗がん剤には副作用があるため、胃全摘後で栄養状態に不安のある患者様や、体力に不安のある高齢の患者様では、術後補助化学療法を完遂すること自体が難しい場合もあります。

こうした背景から、手術前後の患者様が核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法を併用することは、再発リスクを下げるひとつの選択肢として検討いただけます。

副作用が不安な患者様

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法は、目立った副作用が起こりにくい治療です。特に、化学療法で起きやすい嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。核酸医薬の副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などが挙げられます。

分子標的ワクチン療法では、注射部位反応(赤み、腫れ、痛みなど)、疲労感、発熱が見られることがあります。解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半であり、治療を継続するうえで支障をきたすことはありません。

「胃を全摘して食事が思うようにとれない」「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」

当グループの治療は、そのような方にも受けていただける治療となっております。

スキルス胃がんの完治を目指して、保険診療と患者様に合った自由診療を組み合わせる

スキルス胃がんは、胃がんのなかでも進行が速く、腹膜播種を起こしやすい難治性のがんです。しかし、適切に治療を行えば完治を目指せる疾患でもあります。

発症要因のひとつにp53をはじめとする遺伝子異常があることから、保険診療と核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、分子標的ワクチン療法などを組み合わせる集学的治療が有効な選択肢となります。保険診療だけではカバーしきれない場合でも、これらの治療によって腫瘍縮小効果や再発抑制効果が期待できます。

がん中央クリニックグループでは、こうした「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがん治療をご提案いたします。スキルス胃がんの患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。

HER2陽性乳がんは、乳がん全体の約15〜20%を占めるサブタイプで、がん細胞の表面に「HER2」というタンパク質が過剰につくられているタイプの乳がんです。増殖スピードが速く転移のリスクも高い傾向がありますが、HER2を狙い撃ちにする分子標的薬(抗HER2薬)がよく効くという大きな特徴があります。初期には自覚症状がほとんどなく、乳房のしこり、乳頭の陥没や分泌物、皮膚の変化などをきっかけに見つかることがあります。

本ページでは、HER2陽性乳がんの特徴や原因、症状、診断(マンモグラフィ・生検・HER2検査)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • 乳がん全体の約15〜20%を占め、HER2というタンパク質が過剰につくられているタイプ
  • 増殖が速い一方、HER2を狙い撃ちにする分子標的薬(抗HER2薬)がよく効く
  • 抗HER2薬の登場で治療成績は大きく向上し、早期では5年生存率90%以上

HER2陽性乳がんとは

乳がんは、がん細胞の性質によっていくつかの「サブタイプ(種類)」に分類されます。その中のひとつが「HER2(ハーツー)陽性乳がん」です。

HER2とは、細胞の表面に存在する「ヒト上皮成長因子受容体2型」というタンパク質であり、細胞の成長や修復を助ける働きをしています。

しかし、何らかの理由でHER2をつくる遺伝子が増幅すると、細胞表面にHER2タンパクが大量につくられる「HER2過剰発現」が起こります。この状態になったがん細胞は、増殖のアクセルが踏みっぱなしの状態になり、通常よりも速いスピードで分裂・増殖を繰り返すようになります。

HER2陽性乳がんは、乳がん全体の約15〜20%を占めるサブタイプです。他のサブタイプと比べて増殖スピードが速く、転移のリスクも高い傾向があるとされています。

ただし、HER2陽性乳がんには大きな特徴があります。それは、「HER2タンパクを狙い撃ちにする薬(抗HER2薬)が非常によく効く」という点です。

また、HER2陽性乳がんはさらに「ホルモン受容体(エストロゲンやプロゲステロンというホルモンの受け口)」が陽性かどうかによっても性質が異なります。このようにサブタイプの特徴を正しく把握することが、それぞれの患者様に合った治療を選ぶうえでとても重要です。

HER2陽性乳がんの原因

HER2陽性乳がんの正確な原因は、医学的にもまだ完全には解明されていません。ただ、そのメカニズムについては、少しずつ明らかになってきています。

私たちの細胞には、もともと「HER2」という名前のタンパク質が少量存在しています。このHER2は、細胞が正常に増殖するときのアクセルのような役割を担っています。

ところが何らかの理由でHER2遺伝子が増えすぎると、HER2タンパクが細胞の表面に大量に作られ、アクセルが踏みっぱなしの状態になります。その結果、増殖のブレーキが利かなくなり、がん細胞が生まれると考えられています。

この遺伝子の変化は、生まれつきの体質(遺伝)によるものではなく、多くの場合は生きている間に細胞の中で自然に起こる「後天的な変化」です。特定の生活習慣や行動が直接の原因になるとは言い切れません。

HER2陽性乳がんの診断

「(無)症状」から「確定診断」まで

HER2陽性乳がんは、初期段階では自覚症状がほとんどありません。進行すると、乳房のしこり、乳頭の陥没や分泌物、皮膚がオレンジの皮のようにボコボコする変化などが現れます。良性のしこりも多いため、症状がなくても乳がん検診を受け、気になる変化を感じたらすぐに医療機関を受診することが重要です。

受診すると、医師による「視触診」のほか、X線撮影を行う「マンモグラフィ」や「超音波(エコー)検査」を実施します。これらの画像検査で異常が疑われた場合は、注射針などを用いて細胞や組織を採取する「生検」を行い、がんの有無を確定診断します。

「HER2陽性」と判定されるまでの病理検査の流れ

乳がん診断後、採取した組織を顕微鏡で調べる病理検査によって、HER2陽性かどうかを判定します。

最初に行われる「免疫染色(IHC法)」では、タンパクの染まり具合をスコア0〜3+の4段階で評価します。3+は陽性、0と1+は陰性、2+は「判定保留(グレーゾーン)」です。

判定保留(2+)の場合は、次のステップとして「FISH法」を実施します。これは蛍光色素を用いてHER2遺伝子の数を直接数える検査で、遺伝子の増幅が確認されれば「陽性」と確定し、保険治療による抗HER2薬の治療対象となります。

ステージ(病期)の確定

がんの広がりを客観的に示す「ステージ(病期)」の判定も、診断の重要なステップです。乳がんのステージは、腫瘍の大きさ(T)、リンパ節への転移の有無(N)、他の臓器への遠隔転移の有無(M)の3要素を組み合わせて0期〜Ⅳ期に分類され、これにより具体的な治療方針が検討されます。

このように、HER2陽性乳がんの診断は「画像検査から生検、HER2スコア判定、そしてステージ確定」という一連のプロセスを経て行われます。

HER2陽性乳がんの一般的な治療法

HER2陽性乳がんの治療は、「手術」「放射線療法」「薬物療法」の3つを組み合わせるのが基本です。どの治療をどの順序で行うかは、がんのステージ、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、患者様の希望などをもとに医師と相談して決定します。

現在は、手術の前に抗がん剤と抗HER2薬を組み合わせる「術前化学療法」から始めるアプローチが標準的です。事前に腫瘍を縮小させることで、切除範囲を小さくし、乳房を温存できる可能性を高める目的があります。

手術と放射線療法

手術には、がんとその周辺のみを取り除く「乳房温存手術」と、乳房全体を取り除く「乳房全切除術」があります。温存手術を選択した場合は、残った乳房での再発を防ぐために、術後の放射線療法をセットで行うのが標準です。放射線療法は、手術部位や周辺のリンパ節に残ったがん細胞を根絶し、局所再発のリスクを下げる役割を担います。

薬物療法の主役「抗HER2薬」

治療の中心となるのが、がんの弱点を狙い撃ちにする分子標的薬「抗HER2薬」です。手術前後の薬物療法では、がん細胞の増殖を抑える「トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)」を使用することが多いです。

リンパ節転移など再発リスクが高い場合は、異なる仕組みでがんをブロックする「ペルツズマブ」を追加し、複数の角度からがん細胞を攻撃します。また、術前療法の後に手術でがん細胞が残っていた場合は、強力なミサイル型の抗体薬物複合体「トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)」を用いて再発リスクを低下させます。

治療成績と生存率

かつては予後不良とされていたHER2陽性乳がんですが、抗HER2薬の登場により治療成績は劇的に向上しました。現在、早期HER2陽性乳がんの5年生存率は90%以上とされています。ただし効果や副作用には個人差があるため、担当医と綿密に相談しながら治療を進めることが重要です。

HER2陽性乳がんにおける保険診療の限界

HER2陽性乳がんの保険診療では、手術・化学療法・放射線療法などを組み合わせて治療を進めます。抗HER2薬の登場によって治療成績は大きく改善しましたが、それでも再発や脳転移のリスクは残るため、標準治療だけでは長期的に病状を安定させるのが難しいケースもあります。

実施できる化学療法の限界

抗HER2薬は高い効果が期待できる一方で、保険診療には2つの限界があります。1つ目は、がん細胞が薬への抵抗性を獲得し、別の経路で再び増殖する「薬剤耐性」です。耐性が生じるメカニズムは未解明な部分も多く、時間が経つと効果が低下するケースがあります。2つ目は「脳転移」です。脳には異物を遮断する「血液脳関門」というバリアがあり抗HER2薬が届きにくいため、進行性患者様の25〜50%の方に脳転移が生じることが大きな課題となっています。

化学療法に伴う「きつい」副作用

薬物療法では、心身に重い負担を強いる副作用とも向き合わなければなりません。抗がん剤による吐き気、強い倦怠感、脱毛、感染症リスクなどに加え、抗HER2薬特有の心機能低下や下痢なども起こりえます。長期間の治療や強力な薬の組み合わせにより、激しい身体的・精神的苦痛から治療の継続が難しくなったり、生活の質(QOL)が著しく低下したりするリスクがあります。

保険診療ではカバーしきれない再発・進行のリスク

保険診療では確立された標準治療が提供されますが、再発リスクをゼロにはできません。手術後にトラスツズマブを含めた術後補助化学療法を行っても再発のリスクが約15〜30%程度残ります。さらに、標準治療後に増悪・再発した際、保険診療内で選べる有効な手立ては限られてしまうのが実情です。

HER2陽性乳がんで重要な新しい治療の考え方

これまで記載した通り、HER2陽性乳がんは抗がん剤治療や手術などの標準治療を実施しても、脳転移や再発のリスクが問題となるがんです。

このようなリスクを低くしつつ、がんに対する治療効果をより高める治療法が最近注目されてきています。

分子レベルの異常にアプローチする「核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)」

近年、がんの発生や進行に関わる分子レベルの異常に直接アプローチする「核酸医薬」が世界的に注目を集め、研究・臨床応用が進んでいます。

当グループでは、がんの根本的な原因に直接作用することが期待される治療選択肢として、「アプタマー」「siRNAなどのRNA干渉技術」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を取り入れた治療を提供しております。

アプタマー核酸医薬」は、がん細胞に特有の異常なタンパク質にピンポイントで結合し、その働きをブロックすることで、がんの増殖抑制や死滅を狙う治療薬です。一方で「miR-34a mimic核酸医薬」は、がん化によって失われてしまった「体が本来持っているがんを抑制する力」を補い、がんの成長を止め、自然な細胞死(アポトーシス)を促す画期的な治療薬です。

がん中央クリニックグループでは、このように分子レベルの異常にアプローチする治療を用い、患者様一人ひとりに合わせた新たな治療の可能性を追求しています。

がん細胞を狙い撃ちする「がん光免疫療法」

がん光免疫療法は、光に反応する薬(光感受性物質)を体に入れ、そこにレーザー光を当ててがん細胞を破壊する治療法です。医学的には光線力学的療法(PDT)の一種で、日本でも1990年代から一部のがんに保険適用されてきました。

乳がんは体表近くにできる腫瘍であるため、光線が届きやすく治療効果が見込めるがんの1つです。

仕組みは大きく二つあります。一つは「狙い撃ち」です。光感受性物質はがん細胞に集まる性質があり、そこへ特定の波長のレーザーを当てると、薬が反応して活性酸素を発生させ、がん細胞を内側から傷つけます。

使うレーザーは手をかざしても熱くない弱い光で、重要なのは熱ではなく薬を反応させる「波長」です。薬が集まっていない正常細胞は、光が当たっても反応しません。

もう一つは「全身への波及」です。壊れたがん細胞から放出される目印(抗原)を免疫細胞が取り込むことで、残ったがんや全身に散った転移巣への攻撃力が高まると期待されます。つまり局所治療と全身治療の両面を狙える点が特徴です。

また手術・抗がん剤・放射線といった標準治療と併用でき、体への負担が比較的少なく週1回の通院で受けられるため、取り残した微小転移や薬剤耐性がんへの相乗効果を狙う選択肢として位置づけられています。

HER2を標的にする「分子標的ワクチン療法」

分子標的ワクチン療法は、がんの増殖・浸潤・転移に関わるタンパク質「HER2」を標的にした自由診療の治療です。

保険診療では、HER2の発現が比較的少ない場合には抗HER2薬が使えないことが多いです。しかし、一部のがん細胞には発現しているため、HER2をブロックすることで少しでもがん細胞の増殖を抑えられる可能性があります。ただし、標準治療ですでに抗HER2薬を使用している場合には効果が見込みづらいことに注意が必要です。

この治療では、HER2の一部をワクチンとして筋肉注射します。狙いは、患者様ご自身の体内でHER2に対する抗体を作らせることです。抗体ができると、HER2が他の受容体と結合できなくなり、増殖・浸潤・転移を促す信号が止まると想定されています。さらに、抗体がくっついたがん細胞を免疫細胞が攻撃する効果も期待されています。

HER2の発現が少ないと説明された方は、こちらもご覧ください。

当グループの自由診療・治療をおすすめする患者様

当グループで実施可能な治療法はほとんどの患者様にお選びいただけます。以下では、どのような患者様に効果が期待できるのかを解説します。ご自身の状況に照らし合わせてご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

HER2陽性乳がんでは、病状や体力、副作用などの理由で、保険診療の標準治療だけでは選択肢が限られることがあります。そうした場合でも、がんに関わる分子レベルの異常に着目する核酸医薬、がん光免疫療法、分子標的ワクチン療法は、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供することが可能です。

これらの治療法は目立った副作用が現れにくく、「体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方でも、治療の提案が可能です。

さらに、まだ治療ができる体力があるにもかかわらず選択肢がなくなり、緩和を勧められている方にとっても、新たな治療の選択肢として検討いただけます。

がん中央クリニックグループでは、核酸医薬、がん光免疫療法、分子標的ワクチン療法を含め、様々な治療を組み合わせながら患者様の状態や疾患に応じて、患者様一人ひとりに合わせたテーラーメイドの治療を提案、提供しています。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

核酸医薬、がん光免疫療法、分子標的ワクチン療法は、化学療法などの薬物療法や放射線療法と併用でき、相乗効果が期待できます。

なぜなら、化学療法はすでに増殖したがん細胞や産生されたたんぱく質に作用するのに対し、核酸医薬はがん細胞やたんぱく質が作られる前の段階に作用するからです。

そして、がん光免疫療法は薬物でがん細胞に目印をつけて破壊する方法だからです。

このように当グループが提供する治療法は、標準治療が攻撃するポイントが異なるため、標準治療と組み合わせることでより高い効果が期待できます。

このように、HER2陽性乳がんの完治を目指すには複数の治療法を組み合わせることが重要です。標準治療(手術前後の抗がん剤治療を含む)を受けている患者様にも、核酸医薬、がん光免疫療法、分子標的ワクチン療法の併用は選択肢となります。

再発を抑制・防止するため―手術前後の患者様

HER2陽性乳がんは、手術を行っても再発しやすい疾患です。手術に加えて術後補助化学療法を行っても約15〜30%程度の患者様が再発するとされています。また、抗がん剤には副作用があるため、体力に不安のある高齢の患者様や副作用が心配な患者様には実施が難しいこともあります。

こうした背景から、手術前後の患者様が核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、がん光免疫療法、分子標的ワクチン療法を併用することは、再発リスクを下げる一つの選択肢として検討いただけます。

治療を継続しやすい副作用

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、がん光免疫療法、分子標的ワクチン療法には目立った副作用が起こりにくいです。特に、化学療法で起きやすい嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。核酸医薬の副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などがあります。

その他、がん光免疫療法には、照射部位の赤み、熱感、日光による影響など、分子標的ワクチン療法には、注射部位反応(赤み、腫れ、痛みなど)、疲労感、発熱が見られることがあります。

解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半であり、治療を継続するのに支障をきたしません。

「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」といった方でも受けていただける治療となっております。

HER2陽性乳がんの完治を目指して、保険診療と患者様に合った自由診療を組み合わせる

HER2陽性乳がんは、適切に治療を行えば完治を目指せる疾患です。

発症要因の一つに遺伝子異常があるため、保険診療と核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、がん光免疫療法分子標的ワクチン療法などを組み合わせる集学的治療が有効な選択肢となります。保険診療だけではカバーしきれない場合にも、これらの治療によって腫瘍縮小効果や再発抑制効果が期待できます。

がん中央クリニックグループでは、このような「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがん治療をご提案いたします。HER2陽性乳がんの患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。