腎臓がんは、腎臓の細胞ががん化した病気です。一般に成人の「腎臓がん」で中心となるのが、尿をつくる腎実質から発生する腎細胞がんです。
厚生労働省の全国がん登録によると、2023年に「腎盂を除く腎」の悪性腫瘍と診断された人は21,171例、2024年には同部位のがんで4,860人が死亡しています。ただし、これらは発生部位による統計であり、病理組織型として腎細胞がんだけを集計した数字ではありません。腎臓がんの多くを腎細胞がんが占めるため、腎細胞がんの規模を理解する際の参考となるデータです。
腎細胞がんは、初期にはほとんど自覚症状がないことがあります。小さい段階で見つかるものは、健康診断の腹部超音波検査や、ほかの病気を調べるために受けたCTなどで偶然発見されるケースも少なくありません。
腎臓に腫瘍が見つかったからといって、すべての患者さんがすぐ腎臓を1つ摘出するわけではありません。腫瘍が小さければ腎臓の一部だけを切除する腎部分切除術を検討できることがあり、患者さんの年齢や持病、腫瘍の状態によっては、画像検査を続けながら変化を見る監視療法が選択肢になる場合もあります。
反対に、腎静脈や下大静脈へがんが広がっている場合や、肺、骨、肝臓などへ転移している場合には、治療の考え方が大きく変わります。転移性腎細胞がんでは、ステージだけではなく、淡明細胞型(たんめいさいぼうがた)などの組織型、IMDCリスク分類、転移の部位や広がり、症状、これまで使用した薬などを確認しながら薬物療法を選びます。
腎細胞がんの治療を理解するときには、次の5つを順番に整理すると、自分がどの治療分岐にいるのか分かりやすくなります。
① 腎細胞がんなのか、腎盂がんなのか
② 腫瘍の大きさとステージはどうか
③ 腎機能をどこまで残せるかを含め、腎部分切除・腎摘除・監視療法・局所療法のどれが適するか
④ 淡明細胞型か、それ以外の組織型か
⑤ 転移例ではIMDCリスク、転移の部位・量、症状、これまで使用した薬はどうか
この記事では、腎臓がんの中でも成人に多い腎細胞がんを中心に、初期症状、原因、検査、ステージから、腎部分切除、腎摘除、監視療法、術後補助療法、転移性腎細胞がんの薬物療法、生存率まで解説します。
参考:国立がん研究センター「腎臓がん(腎細胞がん)について」、国立がん研究センター「腎臓がん(腎細胞がん) 治療」
腎臓がん(腎細胞がん)とは
腎臓は、背中側の腰より少し高い位置に左右1つずつある臓器です。血液をろ過して余分な水分や老廃物を尿として排出するほか、体内の水分や電解質のバランス、血圧の調節などにも関わっています。
腎臓の中で血液をろ過して尿をつくる部分を腎実質といいます。この腎実質の細胞ががん化したものが腎細胞がんです。
国立がん研究センターでは、腎臓の細胞から発生する悪性腫瘍のうち、腎実質から発生するものを腎細胞がんとしています。一般に成人の腎臓がんについて説明するときは、この腎細胞がんが中心になります。
腎臓は尿をつくり、腎盂へ集めている
腎臓でつくられた尿は、腎臓の中にある腎盂(じんう)という部分へ集まり、尿管を通って膀胱へ運ばれます。つまり、同じ腎臓の中でも、尿をつくる「腎実質」と、尿が集まる「腎盂」では役割も組織も異なります。
この違いは、がんになったときに特に重要です。腎実質から発生する腎細胞がんと、腎盂から発生する腎盂がんでは、がんの性質も治療方法も異なるためです。
腎臓が2つあることと「腎機能を残すこと」は別に考える
人には通常、左右2つの腎臓があります。片方の腎臓を摘出しても、もう一方の腎機能が十分保たれていれば生活できる場合が多いため、腎細胞がんでは腫瘍の大きさや位置によって腎臓を1つ摘出する手術を行うことがあります。
ただしこれは「もう1つ腎臓があるから、腎機能は気にしなくてよい」という意味ではありません。小さな腎細胞がんでは、可能であれば腫瘍のある部分だけを切除して正常な腎組織を残す腎部分切除術が検討されます。
もともとの腎機能、反対側の腎臓の状態、糖尿病や高血圧など将来の腎機能に影響する要因も含めて、どの程度腎臓を残せるかを考えることが重要です。腎細胞がんの手術では「がんを取り切れるか」と「腎機能をどこまで残せるか」の両方が治療選択の重要なポイントになります。
参考:国立がん研究センター「腎臓がん(腎細胞がん)について」、国立がん研究センター「腎臓がん(腎細胞がん) 治療」
腎細胞がんと腎盂がんの違い
「腎臓にがんがある」と聞くと、すべて同じ腎臓がんのように感じるかもしれません。しかし、腎臓のどの部分から発生したかによって、がんの種類も治療方法も異なります。
特に区別したいのが、前章でも触れた腎細胞がんと腎盂がんです。
腎細胞がんは腎実質から発生する
腎細胞がんは、血液をろ過して尿をつくる腎実質の細胞から発生します。治療では、腫瘍が腎臓内にとどまっている場合には手術が中心になります。小さな腫瘍では腎部分切除術、腫瘍が大きい場合や位置などの問題で部分切除が難しい場合には根治的腎摘除術を検討します。
転移した場合には、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬などを使用した全身薬物療法が中心になります。
腎盂がんの多くは膀胱がんと同じ尿路上皮がん
腎盂は、腎臓でつくられた尿が集まる場所です。腎盂から尿管、膀胱、尿道の一部まで続く尿路の内側は尿路上皮(にょうろじょうひ)という粘膜で覆われています。この尿路上皮から発生するがんが尿路上皮がんで、腎盂・尿管がんのほとんどを占めています。
膀胱がんの多くも尿路上皮がんです。そのため腎盂がんは、腎細胞がんよりも膀胱がんや尿管がんに近い性質を持つがんとして治療されます。腎盂がんでは腎臓だけでなく尿管も含めて切除する腎尿管全摘除術などが行われるため、腎細胞がんの根治的腎摘除術とは手術範囲も異なります。
「腎臓にがんがある」だけでは治療方法は決まらない
画像検査で「腎臓に腫瘍がある」と言われた場合には、腎実質の腫瘍なのか、腎盂から発生した腫瘍なのかを区別することが重要です。
腎細胞がんと腎盂がんは、同じ腎臓付近にできるがんでも別の病気として治療します。 この記事では、ここから先は主に腎実質から発生する腎細胞がんについて解説します。
参考:国立がん研究センター「腎臓がん(腎細胞がん)について」、国立がん研究センター「腎盂・尿管がんについて」
腎細胞がんの種類
腎細胞がんと診断されても、すべてのがんが同じ性質を持っているわけではありません。
病理検査では、がん細胞の形や構造などから組織型を調べます。国立がん研究センターでは、腎細胞がんは14種類の組織型に分類され、その中で最も多い淡明細胞型(たんめいさいぼうがた)腎細胞がんが全体の7~8割を占めると説明しています。
| 主な組織型 | 特徴 |
|---|---|
| 淡明細胞型 | 腎細胞がんの7~8割を占める最も多い組織型。現在の薬物療法に関する臨床試験の多くもこの組織型を中心に行われている |
| 乳頭状 | 淡明細胞型とは異なる組織型で、進行例では治療薬の選び方が異なる場合がある |
| 嫌色素性 | 比較的まれな組織型。淡明細胞型と生物学的な性質が異なる |
| その他 | 頻度の低いさまざまな組織型があり、種類によって治療の考え方が異なることがある |
なぜ組織型を確認する必要があるのか
腎臓内にとどまっていて手術で切除できる場合には、どの組織型でもまず手術が治療の中心になることがあります。
組織型の違いが特に重要になるのは、根治切除が難しい場合や転移した場合です。現在の免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬を組み合わせる治療の多くは、主として淡明細胞型腎細胞がんを対象とした臨床試験によって有効性が確認されてきました。
非淡明細胞型でも薬物療法を行いますが、淡明細胞型の治療成績をそのまま当てはめられるとは限りません。乳頭状、嫌色素性(けんしきそせい)などの組織型によって、使用する薬や臨床試験を含めた治療方針を個別に考える場合があります。
進行・転移性腎細胞がんの治療説明を受ける際には「自分の腎細胞がんは何型なのか」を確認することが治療を理解する第一歩になります。
組織型とGrade(病理学的な悪性度)は別の情報
病理検査では、組織型とは別に、がん細胞の形態から悪性度を評価するGrade(グレード)が示されることがあります。WHO/ISUPグレーディングは4段階で、グレードが高いほど一般に悪性度が高いと評価されます。
このグレーディングは主に淡明細胞型と乳頭状腎細胞がんに用いられますが、嫌色素性腎細胞がんには通常、WHO/ISUPグレーディングを適用しません。そのため「腎細胞がんならすべてグレード1~4で評価する」という意味ではありません。
グレードは、後に説明する術後補助療法などで再発リスクを考える材料の1つになります。なお、KEYNOTE-564試験で用いられたグレードはFuhrman分類であり、現在一般に用いられるWHO/ISUPグレーディングとは分類法が異なります。
参考:国立がん研究センター「腎臓がん(腎細胞がん) 治療」、European Association of Urology「EAU Guidelines on Renal Cell Carcinoma|Epidemiology, Aetiology and Pathology」
腎細胞がんの原因・リスク
腎細胞がんになった患者さんのすべてで「これが原因だった」と1つの要因を特定できるわけではありません。発症リスクとの関係が知られているものには、喫煙、肥満、長期間の透析などがあります。高血圧についても腎細胞がんとの関連が報告されています。
喫煙
喫煙は腎細胞がんの危険因子の1つです。たばこに含まれるさまざまな発がん性物質は肺だけに影響するものではなく、体内に取り込まれた後、血液を介して全身へ運ばれます。
腎細胞がんだけを完全に防ぐ特別な方法は確立していませんが、禁煙は腎細胞がんを含む複数のがんや、心血管疾患などを予防するうえでも重要です。
肥満・高血圧との関係
肥満も腎細胞がんの危険因子として知られています。また、高血圧についても腎細胞がん発症との関連が報告されています。ただし、高血圧がある人の多くが腎細胞がんになるという意味ではありません。
肥満や高血圧は腎機能そのものにも影響するため、腎細胞がんの治療後まで含めて体重や血圧を管理することには意味があります。
長期透析と腎細胞がんの関係
国立がん研究センターでは、長期間にわたって腎透析を受けていることも腎細胞がんの危険因子としています。ここでいうのは「健康診断で少し腎機能が低かった」という状態と同じ意味ではありません。
長期透析を受けている患者さんでは腎臓に後天性嚢胞性腎疾患などの変化が生じることがあり、腎細胞がんが発生するリスクについて注意する必要があります。
遺伝性の腎細胞がんもある
腎細胞がんの一部には、遺伝性の腫瘍症候群が関係しています。代表的なのがフォン・ヒッペル・リンドウ病(VHL病)です。VHL病では、腎細胞がんだけでなく、体の複数の臓器に腫瘍が発生することがあります。
遺伝性腎細胞がんはVHL病だけではありません。若い年齢で発症した、左右両方の腎臓に腫瘍がある、腎臓内に複数の腫瘍がある、血縁者にも腎細胞がんなどがみられるといった場合には、遺伝性の可能性を考えて専門的な評価を行うことがあります。
遺伝子に関係する病気が疑われる場合でも、家族へ自己判断で検査を勧めるのではなく、必要に応じて遺伝カウンセリングを受けながら検討します。
一般の人を対象とした腎細胞がん検診は定められていない
日本では、胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がんのように、国の指針として腎細胞がんを対象としたがん検診は定められていません。
健康診断や人間ドックの腹部超音波検査などで偶然腎腫瘍が見つかることはありますが、これは国の指針に基づく腎細胞がん検診とは異なります。健診を毎年受けていることだけで、腎細胞がんがないと保証されるわけではありません。血尿や腰・脇腹の痛みなど気になる症状があれば、健診を待たず医療機関へ相談しましょう。
参考:国立がん研究センター「腎臓がん(腎細胞がん) 予防・検診」、日本泌尿器科学会「腎癌診療ガイドライン2026年版 補遺」
腎臓がんの初期症状
腎細胞がんは、初期の段階ではほとんど自覚症状がないことがあります。
国立がん研究センターでは、小さいうちに発見される腎細胞がんの多くは、健康診断やほかの病気を調べるために受けた検査などで偶然見つかると説明しています。そのため「症状がないから腎臓がんではない」と判断することはできません。
初期は無症状のことが多く、血尿が出る場合もある
腎細胞がんは腎臓の奥に発生するため、腫瘍が小さい段階では尿の流れや周囲の臓器へほとんど影響せず、症状が現れないことがあります。腹部超音波検査で腎臓にしこりを指摘されたり、別の病気やけがでCTを受けた際に偶然腎腫瘍が見つかったりするケースがあります。
「偶然見つかった」ということは病気が軽いことを保証するわけではありませんが、症状が出る前の比較的小さな段階で発見されるきっかけになることがあります。
腎細胞がんが大きくなると、尿に血が混じる血尿がみられることがあります。血尿には目で見て赤いと分かる肉眼的血尿だけでなく、見た目は通常の尿でも尿検査で血液が確認される場合があります。
血尿は腎細胞がんだけで起こる症状ではありません。膀胱がん、腎盂・尿管がん、尿路結石、尿路感染症などさまざまな原因があります。原因の分からない血尿がみられた場合には、どこから出血しているのかを泌尿器科で調べる必要があります。
腰・背中・脇腹の痛みや腹部のしこり
腎細胞がんが大きくなると、背中や腰、脇腹の痛みが現れたり、腹部にしこりを触れたりすることがあります。
血尿、側腹部の痛み、腹部腫瘤は腎細胞がんで古くから知られている症状ですが、初期からこの3つがそろって現れるわけではありません。これらの症状が出ていない段階でも腎細胞がんは存在し得るため、症状の有無だけから進行度を判断することはできません。
進行すると全身症状や転移先の症状が出ることがある
腎細胞がんが進行すると、食欲低下、発熱、倦怠感、体重減少など、がんのある場所とは直接結びつきにくい全身症状がみられることがあります。腎細胞がんでは、がんに伴う全身の反応によって血液検査値などが変化することもあります。
こうした症状はいずれも腎細胞がんだけに起こるものではありませんが、原因の分からない症状が続く場合には医療機関で原因を調べる必要があります。
腎臓そのものにはほとんど症状がなく、転移した場所の症状をきっかけに腎細胞がんが見つかることもあります。たとえば肺へ転移すると咳や血痰、胸の痛みなど、骨へ転移すると骨の痛みや骨折、脳へ転移すると頭痛や運動麻痺などがみられる場合があります。
国立がん研究センターでも、肺、骨、肝臓、脳などに転移したがんが先に発見され、詳しい検査から腎細胞がんが見つかることがあると説明しています。
血尿や原因の分からない腰・脇腹の症状は泌尿器科へ
腎臓、腎盂、尿管、膀胱など尿路の病気を専門的に診療するのは泌尿器科です。肉眼的血尿が出た、尿潜血を繰り返し指摘された、原因の分からない腰・脇腹の痛みが続く、画像検査で腎臓の腫瘍を指摘されたといった場合には、泌尿器科で詳しく調べます。
症状だけから腎細胞がんかどうかを判断することはできないため、「血尿がある=腎臓がん」と考える必要もありません。必要な検査を受けて原因を確かめることが大切です。
参考:国立がん研究センター「腎臓がん(腎細胞がん)について」
腎臓がんの検査と診断
腎細胞がんは、腹部超音波検査やCTで偶然見つかることがあります。
腎臓に腫瘍が確認された場合には、造影CTを中心に、腫瘍の大きさや位置、周囲への広がり、リンパ節・遠隔臓器への転移などを確認します。CTを行うことが難しい場合や、CTだけでは判断しにくい場合にはMRIを使用することがあります。
超音波・造影CT・MRIで腫瘍と広がりを確認する
腹部超音波検査では、体の外から超音波を当てて腎臓の形や腫瘍の有無などを確認します。放射線被ばくがなく、健康診断や人間ドックなどでも行われるため、症状のない腎腫瘍が偶然見つかるきっかけになることがあります。
ただし、超音波だけで腎細胞がんかどうかや、病気の広がりまで確定するわけではありません。腎腫瘍が疑われた場合にはCTなどでさらに詳しく調べます。
造影CTが診断の中心
腎細胞がんが疑われたときに重要なのが造影CTです。
造影剤を静脈から投与し、時間を変えて撮影することで、腎腫瘍にどのように血液が流れているのかを確認します。腎細胞がんの中には血流が豊富なものがあり、造影のされ方は腫瘍の性質を判断する重要な情報になります。
CTでは腫瘍の大きさだけでなく、腎臓の外へ広がっていないか、腎静脈や下大静脈へ進展していないか、リンパ節転移がないかなども確認します。
肺は腎細胞がんが転移することのある臓器なので、胸部CTを行って肺転移の有無を調べることもあります。腎機能や造影剤へのアレルギーなどによってCTで使用する造影剤を使いにくい場合や、CTや超音波だけでは判断が難しい場合にはMRIを検討します。MRIは、腫瘍と周囲の組織との関係や血管内への進展などを詳しく評価する際にも役立ちます。
どの画像検査を使うかは一律ではなく、腎機能、腫瘍の位置、疑われる病気などによって決まります。
血液検査で腎機能などを確認する|特定の腫瘍マーカーは無い
腎細胞がんの診断では、血液検査も行います。特に重要なのが、クレアチニンなどから腎機能を確認することです。腎部分切除にするのか腎摘除にするのか、造影剤を使用できるか、今後の治療を安全に行えるかを考えるうえでも腎機能は重要です。
また、貧血、炎症反応、肝機能、カルシウムなどの血液検査値も、全身状態や進行した腎細胞がんの評価に使われることがあります。
胃がんや膵臓がんなどでは、病状によって特定の腫瘍マーカーを測定することがあります。一方、国立がん研究センターでは、腎細胞がんには現在、診断や治療効果判定に使用できる特定の腫瘍マーカーはないと説明しています。そのため「血液の腫瘍マーカーが正常だったから腎細胞がんではない」と判断することはできません。
腎細胞がんでは、画像検査を中心に診断し、必要に応じて病理検査を組み合わせます。
転移を調べる検査は病状に応じて追加する
腎細胞がんでは、すべての患者さんが最初から骨シンチグラフィや脳MRIなど、考えられるすべての検査を受けるわけではありません。骨の痛みや血液検査の異常などから骨転移が疑われる場合には骨を調べる検査を追加し、頭痛や神経症状などから脳転移が疑われる場合には脳の画像検査を行うなど、病状に応じて検査を選びます。
PET検査も、腎細胞がんの初回診断で全員に行う検査ではなく、ほかの画像検査だけでは再発や転移を判断しにくい場合などに補助的に使用されることがあります。
腎腫瘍は必ず生検するとは限らない
多くのがんでは「まず組織を採取して、病理検査でがんと確定してから治療する」という流れをイメージするかもしれません。
腎腫瘍では、必ずしもすべての患者さんに手術前の生検を行うわけではありません。造影CTなどの画像所見から腎細胞がんが強く疑われ、手術による切除が適切と判断される場合には、腎腫瘍の針生検を行わずに手術へ進み、切除した組織を病理検査して最終診断することがあります。
一方、小さな腎腫瘍では良性腫瘍が含まれることもあり、監視療法や手術以外の局所療法を検討する患者さんでは、生検によって腫瘍の性質を確認する意味が大きくなる場合があります。
画像診断から手術へ進むことがある理由
腎細胞がんでは、造影CTなどの画像から腫瘍の性質をある程度推定できます。画像所見から腎細胞がんの可能性が高く、腫瘍の大きさや位置などから手術が必要と考えられる場合には、手術前の針生検によって治療方針が変わらないことがあります。その場合には、先に手術で腫瘍を切除し、摘出した組織全体を病理検査して、腎細胞がんかどうか、どの組織型か、悪性度や広がりはどうかを確定します。
「生検をしていない=がんかどうか分からないまま適当に手術している」という意味ではありません。画像所見と治療方針を踏まえて、生検を行うことで得られる情報が治療選択にどの程度影響するかを考えて判断します。
小径腎腫瘍には良性腫瘍も含まれる
腎臓に小さな腫瘍が見つかった場合、そのすべてが腎細胞がんとは限りません。良性の腎腫瘍もあるため、特に小さな腫瘍では「すぐ切除するのか」「生検をして性質を確かめるのか」「定期的に画像を撮影して変化を見るのか」という判断が必要になります。
2026年版の日本泌尿器科学会ガイドラインでは、小径腎腫瘍に対する針生検について、良性・悪性の鑑別や治療方法の決定などを目的として行うことが検討されています。
生検を検討する意味が大きい場合
腎腫瘍生検は、画像検査だけでは良性か悪性か判断しにくい場合や、生検結果によって治療方針が変わる可能性がある場合に検討します。たとえば、小さな腎腫瘍について手術ではなく監視療法を検討している場合や、凍結療法など腫瘍を体内に残したまま局所的に治療する方法を考えている場合には、事前に組織型を確認する意義が大きくなることがあります。
また、ほかの臓器のがんを治療したことがある患者さんで、腎臓の腫瘍が新しく発生した腎細胞がんなのか、別のがんからの転移なのかを区別する必要がある場合などにも、生検を検討することがあります。
生検をすれば100%診断できるわけではない
腎腫瘍生検では、画像を確認しながら体の外から細い針を腫瘍へ刺して組織を採取します。採取した部分から腫瘍の組織型などを調べることができますが、腫瘍が小さい、採取できた組織量が少ないなどの理由で、十分な診断ができない場合もあります。
生検には出血などの合併症の可能性もあります。そのため「腎腫瘍が見つかったら念のため全員生検する」のではなく、生検結果によって今後の治療が変わる可能性があるかを考えて行うことが重要です。監視療法については、後の「小径腎腫瘍では「すぐ手術しない」監視療法もある」の章で詳しく解説します。
参考:国立がん研究センター「腎臓がん(腎細胞がん) 検査」、日本泌尿器科学会「腎癌診療ガイドライン2026年版 補遺」
腎臓がんのステージ分類
腎細胞がんのステージは、原発巣の大きさや周囲への広がりを示すTカテゴリー、領域リンパ節への転移を示すNカテゴリー、遠隔転移を示すMカテゴリーを組み合わせて決めます。
腎細胞がんではⅠ期~Ⅳ期に分けられますが、Tカテゴリーは腫瘍の大きさだけで決まるわけではありません。特に腎細胞がんでは、腫瘍が腎静脈や下大静脈へ伸びているかどうかがTカテゴリーや手術方法に大きく関わります。
| Tカテゴリー | 主な状態 |
|---|---|
| T1a | 直径4cm以下で腎臓内にとどまっている |
| T1b | 4cmを超え7cm以下で腎臓内にとどまっている |
| T2a | 7cmを超え10cm以下で腎臓内にとどまっている |
| T2b | 10cmを超えるが腎臓内にとどまっている |
| T3a | 腎静脈やその枝へ広がる、腎盂・腎杯へ及ぶ、または腎周囲脂肪や腎洞脂肪へ広がっているが、ゲロタ筋膜を越えていない |
| T3b | 横隔膜より下の下大静脈内へ進展している |
| T3c | 横隔膜より上の下大静脈内へ進展している、または下大静脈壁へ浸潤している |
| T4 | ゲロタ筋膜を越えて周囲へ広がっている。同じ側の副腎へ連続して広がる場合も含む |
ゲロタ筋膜とは、腎臓とその周囲の脂肪組織などを包んでいる膜です。
ステージⅠ|T1でリンパ節・遠隔転移がない
ステージⅠは、腫瘍が7cm以下で腎臓内にとどまり、領域リンパ節転移や遠隔転移がない状態です。特に4cm以下のT1aでは、腫瘍の位置などの条件が合えば、正常な腎組織をできるだけ残す腎部分切除術が検討されます。
一方、小さな腎腫瘍では、年齢や持病、腫瘍の状態などによって監視療法や凍結療法などが選択肢になる場合もあります。
ステージⅡ|7cmを超えていても腎臓内にとどまっている
ステージⅡは、腫瘍が7cmを超えているものの、腎臓内にとどまり、リンパ節転移や遠隔転移がない状態です。腫瘍が大きくなるほど、正常な腎組織を残しながら安全に切除することが難しくなるため、根治的腎摘除術を選択するケースが増えます。
ただし、腎部分切除が可能かどうかは大きさだけで決まるわけではありません。腫瘍が腎臓の表面側にあるのか、腎門部や主要な血管、尿路に近いのかなどによって手術の難しさは変わります。
ステージⅢ|静脈への進展や領域リンパ節転移を含む
ステージⅢには、T3で遠隔転移がない場合のほか、T1~T3で領域リンパ節へ転移している場合などが含まれます。
腎細胞がんでは、腫瘍が腎静脈から下大静脈の中へ連続して伸びることがあり、これを静脈内腫瘍塞栓(じょうみゃくないしゅようそくせん)と呼びます。「塞栓」という言葉から遠隔転移を想像するかもしれませんが、原発巣から静脈内へ連続して腫瘍が伸びている状態であり、それだけで遠隔転移を意味するものではありません。
下大静脈まで腫瘍が伸びていても、遠隔転移がなく切除可能と判断されれば、根治を目指した手術が検討されることがあります。ただし、腫瘍塞栓がどの高さまで伸びているかによって手術の規模は大きく異なります。T3bやT3cでは、腎臓の摘出とともに静脈内の腫瘍を取り除く高度な手術が必要になる場合があります。
ステージⅣ|遠隔転移がなくても該当する場合がある
肺、骨、肝臓、脳などへ遠隔転移があるM1は、TやNカテゴリーに関係なくステージⅣです。ただし、ステージⅣだからといって必ず遠隔転移があるとは限りません。遠隔転移がなくても、原発巣がゲロタ筋膜を越えて周囲へ広がったT4ではステージⅣに分類されます。
根治切除が難しい場合や遠隔転移がある場合には薬物療法が治療の中心になりますが、病状によっては腎摘除術や転移巣への手術、放射線治療などを組み合わせることもあります。
| ステージ | 大まかな状態 |
|---|---|
| Ⅰ期 | T1、リンパ節・遠隔転移なし |
| Ⅱ期 | T2、リンパ節・遠隔転移なし |
| Ⅲ期 | T3で遠隔転移がない場合、またはT1~T3で領域リンパ節転移がある場合 |
| Ⅳ期 | T4、または遠隔転移がある場合 |
腎細胞がん治療の全体像
腎細胞がんの治療は、ステージだけで機械的に決めるわけではありません。限局した腎細胞がんでは手術が治療の中心になりますが、腫瘍の大きさや位置、反対側の腎臓の状態、もともとの腎機能などによって、腎臓の一部だけを切除するのか、片側の腎臓を摘出するのかを判断します。
小さな腎腫瘍では、患者さんによって監視療法や凍結療法なども候補になります。転移や根治切除不能の状態では、淡明細胞型かそれ以外の組織型か、IMDCリスク分類、転移の部位や量、症状などを確認しながら全身薬物療法を選択します。
| 病状 | 治療の主な考え方 |
|---|---|
| 小径腎腫瘍・主にcT1a | 腎部分切除を中心に検討し、年齢・持病・腫瘍の状態などによって監視療法や局所療法も候補になる |
| cT1b~T2の限局がん | 腫瘍の位置・大きさ・腎機能などから腎部分切除または根治的腎摘除を検討する |
| T3~T4などの局所進行 | 手術可能性、静脈内腫瘍塞栓、周囲への広がりなどを評価して治療を組み立てる |
| 手術後の再発リスクが高い場合 | 病理結果などから条件を満たす場合には術後補助薬物療法を検討する |
| 根治切除不能・転移性 | 組織型、IMDCリスク、転移部位・症状などを踏まえて全身薬物療法を選ぶ |
| 選択された転移例 | 原発巣の腎摘除や転移巣の手術・放射線治療などを組み合わせる場合がある |
同じ4cmの腎腫瘍でも、腎臓の外側に突出していて部分切除しやすい腫瘍と、腎臓の中心部にあり太い血管や尿路に近い腫瘍では手術の難しさが異なります。また、反対側の腎機能が低下している、腎臓が1つしかない、糖尿病や高血圧などがあり将来の腎機能低下が懸念されるといった場合には、正常な腎組織をできるだけ残すことがより重要になります。
腎細胞がんでは、がんを十分に制御できる治療を選ぶことに加え、治療後の腎機能をどこまで維持できるかも考えながら治療方針を決めます。
参考:国立がん研究センター「腎臓がん(腎細胞がん) 治療」、日本泌尿器科学会「腎癌診療ガイドライン2026年版 補遺」
小径腎腫瘍では「すぐ手術しない」監視療法もある
腎臓に小さな腫瘍が見つかると、「がんならできるだけ早く手術した方がよいのでは」と考えるかもしれません。しかし、小径腎腫瘍では、患者さんの年齢や持病、腫瘍の大きさや画像上の特徴などによって、すぐに手術せず定期的な検査を続けるActive Surveillance(積極的監視療法)を選択する場合があります。
2026年版の日本泌尿器科学会「腎癌診療ガイドライン」でも、小径腎腫瘍と診断された患者さんに対する治療選択肢の1つとして、積極的監視療法が位置づけられています。
積極的監視療法は「放置」ではなく、必要なら治療へ切り替える
積極的監視療法では、治療を行わずそのままにしておくのではなく、CT、MRI、超音波検査などを定期的に行い、腫瘍の大きさや増大の速さ、画像上の性質に変化がないかを確認します。その後、腫瘍が大きくなる、増大の仕方が変わるなど治療を優先した方がよいと判断されれば、腎部分切除や凍結療法などへ切り替えることがあります。
つまり、監視療法は「治療しないことを決める方法」ではなく、定期的に病状を確認しながら、必要になった段階で治療へ移ることも含めた治療戦略です。
なぜ小さな腎腫瘍をすぐ手術しないことがあるのか
小径腎腫瘍には腎細胞がんだけでなく良性腫瘍も含まれます。また、悪性であっても長期間ゆっくり増大する腫瘍があります。一方、手術には出血、尿漏れ、麻酔に伴う合併症、腎機能低下などの負担があります。特に高齢者や心臓、肺などに持病がある患者さんでは、腎腫瘍が将来健康へ与える影響と、手術そのものによる負担を比較して治療を考える必要があります。
このため、小径腎腫瘍では「がんの可能性があるからすぐ切除する」と一律に考えるのではなく、腫瘍の性質と患者さんの健康状態を合わせて判断します。監視療法は、高齢者や重い持病がある患者さんで特に検討されやすい方法ですが、一定の年齢以上の患者さんだけに限られるわけではありません。
腫瘍径、腫瘍の位置、画像上の特徴、生検を行った場合の病理結果、腎機能、患者さん自身の希望などを踏まえて判断します。反対に、高齢であっても腫瘍の増大が速いなど、積極的な治療を行う利益が大きいと判断されれば、手術や局所療法を勧められる場合があります。
積極的監視療法と待機療法は目的が異なる
監視療法と似た言葉にWatchful Waiting(待機療法)がありますが、考え方は同じではありません。
Active Surveillance(積極的監視療法)では定期的な画像検査を行い、腫瘍の変化によっては将来、根治を目指した手術や局所療法へ切り替えることを想定しています。一方、Watchful Waiting(待機療法)は、重い持病やほかの病気によって余命への影響が大きいなど、腎腫瘍そのものに根治治療を行う利益が小さいと考えられる場合に、症状が問題になったときの対応を中心として経過を見る考え方です。
日本語ではどちらも「経過観察」「様子を見る」と説明されることがあります。担当医から経過を見る方針を提案された場合には、今後も定期的に腫瘍を評価して必要なら治療へ切り替える方針なのか、それとも将来的な根治治療を前提としない方針なのかを確認しておくと、治療の目的を理解しやすくなります。
監視療法を始めても、その後ずっと手術を受けないと決まるわけではありません。定期検査で腫瘍が大きくなる、増大の仕方が変わる、画像所見から治療を優先した方がよいと判断される、患者さん自身が治療を希望するといった場合には、改めて治療を検討します。監視療法を選ぶ際には、どのくらいの間隔で画像検査を行うのか、どのような変化があれば治療へ切り替えるのかを、あらかじめ担当医と確認しておくことが重要です。
参考:国立がん研究センター「腎臓がん(腎細胞がん) 治療」、日本泌尿器科学会「腎癌診療ガイドライン2026年版 補遺」、European Association of Urology「EAU Guidelines on Renal Cell Carcinoma」
腎部分切除術
腎部分切除術は、腫瘍のある腎臓をすべて摘出するのではなく、腫瘍とその周囲の必要な部分だけを切除し、残りの腎臓を温存する手術です。特にT1の腎細胞がんでは重要な治療選択肢となり、4cm以下のT1aでは、技術的に可能であれば腎部分切除術が検討されます。
なぜ腎臓を一部残すのか
腎細胞がんの手術では、がんを適切に切除することが第一の目的です。そのうえで正常な腎組織をできるだけ残すことができれば、治療後の腎機能を保ちやすくなります。片方の腎臓を摘出しても、反対側の腎臓が十分に機能していれば生活できる患者さんは多くいます。ただし、年齢を重ねる中で高血圧や糖尿病などによって腎機能が低下する可能性もあります。
特にもともとの腎機能が低い場合、反対側の腎臓にも病気がある場合、腎臓が1つしかない場合などでは、正常な腎組織を残すことの意味が大きくなります。
同じ4cmでも部分切除の難しさは違う
腎部分切除が可能かどうかは腫瘍径だけでは決まりません。たとえば、腎臓の外側へ突出している腫瘍は比較的切除しやすいことがあります。一方、腎臓の中央部に深く入り込んでいる、腎動脈や腎静脈に近い、尿が集まる腎盂や腎杯に接しているといった場合には、部分切除の難易度が高くなります。
T1aだから必ず部分切除できるわけでも、T1bだから必ず腎臓をすべて摘出するわけでもありません。腫瘍の大きさや位置、複雑さ、正常な腎組織をどの程度残せるかなどを画像で評価して術式を決めます。
ロボット支援手術・腹腔鏡手術・開腹手術がある
腎部分切除術には、ロボット支援手術、腹腔鏡手術、開腹手術があります。現在は小さな腎腫瘍を中心にロボット支援腎部分切除術が行われることもあります。
ただし、ロボット支援手術であれば必ず部分切除できるわけではなく、開腹手術より常に優れているという意味でもありません。腫瘍の大きさや位置、過去の手術歴、施設や術者の経験などを踏まえて方法を選択します。
手術では一時的に腎臓への血流を止めることがある
腎臓には多くの血液が流れているため、腎部分切除の際には腎動脈などを一時的に遮断して、出血を抑えながら腫瘍を切除することがあります。腫瘍を取り除いた後には血管や尿路を処置し、切除した部分を縫合します。腎臓への血流を長時間遮断すると腎機能へ影響する可能性があるため、腫瘍の状態に応じて手術方法を調整します。
出血・尿漏れなどの合併症がある
腎部分切除術では、術後に切除した部分から出血することがあります。また、腎臓の中には尿を集める腎杯や腎盂があるため、切除部が尿路とつながった場合には尿漏れが起こることがあります。感染、血栓、腎機能低下などの合併症が起こる可能性もあります。
腎臓をすべて摘出しないから簡単な手術というわけではなく、正常な腎組織を残しながら腫瘍を確実に切除するため、技術的に複雑になる場合があります。
参考:国立がん研究センター「腎臓がん(腎細胞がん) 治療」、日本泌尿器科学会「腎癌診療ガイドライン2026年版 補遺」
根治的腎摘除術
根治的腎摘除術は、腫瘍のある側の腎臓を摘出する手術です。腫瘍が大きい場合や、腎臓の中心部にあって部分切除が難しい場合、周囲へ進展している場合など、腎部分切除では安全かつ十分な切除が難しいと判断されたときに検討します。
腫瘍の大きさだけで腎摘除を決めるわけではない
根治的腎摘除術を選択するかどうかは、腫瘍径だけでは決まりません。腫瘍の位置、腎臓内での広がり、周囲の血管との関係、反対側の腎機能、患者さんの全身状態などを合わせて判断します。
比較的大きな腫瘍でも部分切除を検討できる患者さんがいる一方、小さくても腎臓の中心部にあり、主要血管などと複雑に接しているため腎摘除の方が適切と判断される場合があります。
副腎やリンパ節を全員切除するわけではない
腎臓の上には副腎という別の臓器があります。以前は根治的腎摘除の際に同じ側の副腎も切除することがありましたが、現在は、副腎への浸潤や転移が疑われなければ、すべての患者さんで副腎を一緒に切除するわけではありません。CTやMRIでの所見、腫瘍の位置、手術中の状態などから副腎切除が必要かを判断します。根治的腎摘除術を行う患者さん全員に、広範囲のリンパ節郭清を行うわけではありません。
画像検査や手術中の所見で転移が疑われるリンパ節がある場合などには切除を検討しますが、リンパ節転移が疑われない患者さんに対して一律に広範囲の郭清を行うものではありません。
腎静脈・下大静脈へ進展している場合は腫瘍塞栓も切除する
T3の腎細胞がんでは、腫瘍が腎静脈や下大静脈の中へ連続して伸びることがあります。この場合には、腎臓の摘出とともに静脈内の腫瘍を取り除く静脈内腫瘍塞栓摘除術を行うことがあります。
特に腫瘍塞栓が下大静脈の上方まで伸びている場合には通常の腎摘除よりも大がかりな手術になります。腫瘍塞栓の高さや血管壁への浸潤などによっては、複数の診療科が協力して手術を行うこともあります。遠隔転移がなく、腫瘍を切除できると判断されれば、静脈内腫瘍塞栓があることだけを理由に根治手術ができないと決まるわけではありません。
腎臓が1つになった後も腎機能を確認する
片方の腎臓を摘出しても、残った腎臓が十分に機能していれば、多くの場合は透析を必要とせず生活できます。ただし、手術前より腎機能の予備力は少なくなるため、退院後も血液検査などで腎機能を確認します。高血圧や糖尿病がある場合には、残った腎臓への負担を抑えるためにも適切な管理が重要です。
腎臓が1つになったからといって、水分を大量に飲む、たんぱく質を厳しく制限するといった対応を自己判断で始める必要はありません。実際の腎機能や持病に応じて、食事や生活上の注意を担当医に確認します。
参考:国立がん研究センター「腎臓がん(腎細胞がん) 治療」、日本泌尿器科学会「腎癌診療ガイドライン2026年版 補遺」、European Association of Urology「EAU Guidelines on Renal Cell Carcinoma」
小径腎腫瘍の凍結療法など手術以外の局所治療
腎細胞がんを根治する局所治療として中心となるのは手術ですが、小径腎腫瘍では、患者さんの年齢や持病、腫瘍の状態などによって手術以外の局所療法を検討することがあります。
2026年版の日本泌尿器科学会「腎癌診療ガイドライン」でも、小径腎腫瘍に対する治療選択肢の1つとして、手術以外の局所療法が取り上げられています。日本で行われる方法の1つが凍結療法です。
凍結療法とは|どのような場合に検討するのか
凍結療法では、CTなどの画像で腫瘍の位置を確認しながら、体の外から腎腫瘍へ専用の針を刺します。針の先端付近を非常に低い温度にして腫瘍を凍結し、がん細胞を死滅させることを目的とします。
大きな切開をせずに治療できるため、手術による負担が大きい患者さんなどで検討されることがあります。凍結療法は、小さな腎腫瘍で、高齢である、重い持病があるなど手術による負担をできるだけ避けたい患者さんで検討されることがあります。
ただし、体への負担が少ないから手術より優れた治療という意味ではありません。腫瘍の大きさや位置によっては凍結療法が難しいことがあり、長期的ながん制御については腎部分切除術の方が多くの治療実績があります。手術を安全に受けられる患者さんでは、腎部分切除術と凍結療法のそれぞれの利点や限界を比較して治療を選択します。
局所療法の前後では生検と画像検査が重要
腎部分切除や腎摘除では、手術で取り出した腫瘍を病理検査できます。一方、凍結療法では腫瘍そのものを丸ごと摘出しません。そのため、治療する腫瘍がどのような性質を持っているのかを確認する目的で、治療前に腎腫瘍生検を行う意味が大きくなります。凍結療法を行った後にも、CTやMRIなどで治療した部分を定期的に確認します。
腫瘍を外科的に取り出す治療ではないため、治療部分に腫瘍が残っていないか、その後再び増大していないかを画像で評価する必要があります。残存や再発が疑われた場合には、再度の局所療法や手術などを検討します。
ラジオ波焼灼術や定位放射線治療が検討される場合もある
小径腎腫瘍に対する手術以外の局所療法には、腫瘍に熱を加えるラジオ波焼灼術などがあります。また、海外のガイドラインでは、手術を受けることが難しい患者さんに対する定位放射線治療が選択肢になる場合もあります。ただし、これらの治療が腎部分切除術や凍結療法と同じ位置づけで広く行われているわけではありません。
手術をしない治療があるという理由だけで方法を選ぶのではなく、自分の腫瘍でその治療が適しているのか、どの程度の治療成績が確認されているのか、治療後にどのような経過観察が必要なのかまで確認して選ぶことが大切です。
参考:国立がん研究センター「腎臓がん(腎細胞がん) 治療」、日本泌尿器科学会「腎癌診療ガイドライン2026年版 補遺」、European Association of Urology「EAU Guidelines on Renal Cell Carcinoma」
手術後の再発予防
腎細胞がんを手術で完全に切除できた場合でも、すべての患者さんで再発の可能性がなくなるわけではありません。画像検査で確認できるがんを取り切っていても、検査では捉えられない微小ながん細胞が体内に残っている可能性があるためです。
特に、腫瘍が腎臓の外へ広がっていた場合や、リンパ節転移があった場合などでは、手術後の再発リスクが高くなります。こうした再発リスクの高い患者さんでは、手術後にペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)による術後補助療法を検討することがあります。
誰にでも術後の薬物療法を行うわけではない
日本でペムブロリズマブは「腎細胞癌における術後補助療法」として承認されています。ただし、腎細胞がんを手術した患者さん全員に投与する治療ではありません。
承認の根拠となった国際第Ⅲ相KEYNOTE-564試験では、腎摘除術または腎部分切除術を受けた再発リスクの高い淡明細胞型腎細胞がんの患者さんが対象になりました。
KEYNOTE-564で対象となった再発高リスク例
具体的には、pT2でグレード4または肉腫様変化がある場合、pT3~pT4、リンパ節転移がある場合などが含まれています。
また、M1 NED(遠隔転移があったが手術で取りきった状態)として、腎摘除時または腎摘除から1年以内に、孤立した軟部組織転移を原発巣とともに完全切除できた患者さんも対象となりました。KEYNOTE-564では既存の骨転移や脳転移はこのM1 NED集団の対象外でした。
| KEYNOTE-564で対象となった主な状態 | 内容 |
|---|---|
| pT2 | Grade 4または肉腫様変化があり、N0・M0 |
| pT3 | Gradeを問わず、N0・M0 |
| pT4 | Gradeを問わず、N0・M0 |
| リンパ節転移あり | TカテゴリーやGradeを問わずN1、M0 |
| M1 NED | 腎摘除時または腎摘除から1年以内に、孤立した軟部組織転移を原発巣とともに完全切除し、NEDとなった状態 |
実際に術後補助療法を行うかどうかは、手術後の病理結果、組織型、再発リスク、全身状態、副作用の可能性などを踏まえて判断します。
ペムブロリズマブを使う目的と投与期間
術後補助療法の目的は、画像で見えているがんを小さくすることではありません。手術後に体内へ残っている可能性のある微小ながん細胞を抑え、将来の再発リスクを下げることが目的です。
KEYNOTE-564試験では、ペムブロリズマブによる術後補助療法によって、プラセボと比較して無病生存期間の改善が確認されました。その後の長期追跡では全生存期間についても改善が示され、2024年に報告された解析では、ペムブロリズマブ群で死亡リスクがプラセボ群より38%低下しました。
ただし、この数字を「ペムブロリズマブを使えば死亡する可能性が38%なくなる」という意味で捉えることはできません。臨床試験の2群を一定期間比較した相対的なリスクの差を示したものです。
KEYNOTE-564と現在の国内投与方法
KEYNOTE-564試験では、ペムブロリズマブ200mgを3週間ごとに最大17サイクル、約1年間投与しました。現在の国内用法では、200mgを3週間間隔または400mgを6週間間隔で投与し、腎細胞がんの術後補助療法における投与期間は最大12カ月です。
ペムブロリズマブは免疫チェックポイント阻害薬で、がん細胞を直接攻撃する抗がん剤とは作用の仕組みが異なります。がんによって抑え込まれている免疫反応を再び働きやすくすることで、がん細胞への免疫反応を高めます。一方で、免疫が正常な臓器まで攻撃する免疫関連有害事象が起こることがあります。甲状腺機能異常、肺炎、大腸炎、肝障害、腎障害、副腎機能低下、1型糖尿病など、影響する臓器はさまざまです。
手術後には画像上がんがない状態で治療を受けるため、再発予防によって得られる利益と、治療を行うことによる副作用の可能性を比較して決める必要があります。
手術後の再発リスクが低い患者さんでは、薬物療法を追加せず、定期的なCTなどで経過を確認することが基本となります。再発リスクが比較的高い場合でも、ペムブロリズマブを必ず使用しなければならないわけではありません。持病や自己免疫疾患、臓器機能、患者さんが副作用をどのように考えるかなどによって、経過観察を選択することもあります。
術後補助療法について説明を受けた場合には、自分がどの病理所見によって再発高リスクと判断されているのか、治療によって期待できる利益と副作用にはどのようなものがあるのかを確認すると、治療を選ぶ理由を理解しやすくなります。
ベルズチファン+ペムブロリズマブは国内申請中
2026年8月21日、HIF-2α阻害薬ベルズチファンとペムブロリズマブの併用療法について、腎摘除術後の腎細胞がんに対する術後補助療法として国内で承認申請が行われました。根拠となったLITESPARK-022試験では、再発リスクが中~高度または高度の淡明細胞型腎細胞がん、あるいはM1 NEDの患者さんが対象となっています。
ただし、2026年9月時点では国内で承認申請中であり、腎細胞がんの術後補助療法として承認されている治療として扱うことはできません。現時点では、ペムブロリズマブ単剤による術後補助療法と区別して考える必要があります。
参考:MSD「キイトルーダ 腎細胞癌に対する術後補助療法としての承認を取得」、MSD「KEYNOTE-564試験 長期追跡結果」、MSD Connect「KEYNOTE-564試験」、米国国立がん研究所「KEYNOTE-564試験」、MSD Connect「キイトルーダの用法及び用量」、MSD「ベルズチファンとペムブロリズマブ併用療法の国内承認申請」
転移性腎細胞がんの治療
腎細胞がんが肺、骨、肝臓、脳などへ転移している場合や、原発巣を完全に切除することが難しい場合には、全身に作用する薬物療法が治療の中心になります。
ただし「ステージ4なら全員同じ薬を使う」というものではありません。腎細胞がんでは、組織型、IMDCリスク分類、転移の場所や量、症状の有無、腫瘍が増える速さ、全身状態、臓器機能などを合わせて治療を選びます。以前に術後ペムブロリズマブを受けたかどうかなど、これまでの治療歴も重要です。
まず淡明細胞型か、それ以外かを確認する
現在の転移性腎細胞がんに対する主要な薬物療法は、最も多い淡明細胞型腎細胞がんを中心に開発されてきました。免疫チェックポイント阻害薬どうしの併用療法や、免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬を組み合わせる治療の多くも、主に淡明細胞型を対象とした大規模臨床試験によって有効性が確認されています。
乳頭状、嫌色素性などの非淡明細胞型でも薬物療法は行いますが、淡明細胞型と全く同じ根拠で治療薬を選べるわけではありません。非淡明細胞型については後の章で分けて説明します。
転移の数や症状も治療選択に関係する
同じ転移性腎細胞がんでも、肺に小さな転移が1つだけある患者さんと、複数の臓器へ短期間で広がって症状が出ている患者さんでは治療の考え方が異なります。転移が限られていて進行が非常に緩やかな場合には、すぐ全身薬物療法を開始せず経過を見ることが適切なケースもあります。
反対に、腫瘍による症状が強い場合や短期間で増大している場合には、腫瘍を早く縮小させることを重視して治療を選ぶことがあります。転移巣が少数で局所治療によってすべて制御できると考えられる場合には、薬物療法だけでなく手術や放射線治療を検討することもあります。
一次治療は、その後の二次治療にも影響する
転移性腎細胞がんでは、最初に行う薬物療法を一次治療と呼びます。一次治療後にがんが進行した場合には二次治療、その後さらに進行すれば三次治療以降を検討します。
現在は一次治療から複数の薬を併用することが多いため、次の治療を選ぶときには「まだ使っていない薬は何か」だけでなく、以前の治療でどの種類の薬を使ったのか、どの程度効果が続いたのか、どのような副作用が出たのかを考える必要があります。転移性腎細胞がんでは最初の治療だけを見るのではなく、その後の治療まで含めた長期的な治療計画を考えることが重要です。
参考:国立がん研究センター「腎臓がん(腎細胞がん) 治療」、日本泌尿器科学会「腎癌診療ガイドライン2026年版 補遺」
IMDCリスク分類
転移性腎細胞がんでは、ステージとは別にIMDCリスク分類が使われます。IMDCはInternational Metastatic Renal Cell Carcinoma Database Consortiumの略で、転移性腎細胞がんの予後を予測するためにつくられた分類です。
6つの項目を確認し、該当する項目の数によってFavorable、Intermediate、Poorの3群に分けます。日本語では低リスク、中リスク、高リスクなどと表現されることもあります。
| IMDCの6項目 | 該当する条件 |
|---|---|
| 診断から全身薬物療法開始までの期間 | 1年未満 |
| 全身状態(KPS) | 80%未満 |
| ヘモグロビン | 基準値より低い |
| 補正カルシウム | 基準値より高い |
| 好中球数 | 基準値より高い |
| 血小板数 | 基準値より高い |
6項目のうち該当するものが0個ならFavorable(低リスク)、1~2個ならIntermediate(中リスク)、3個以上ならPoor(高リスク)に分類します。
IMDCはステージとは別の分類
ステージⅣは、がんがどこまで広がっているかをTNM分類によって表したものです。一方、IMDCは、血液検査や全身状態、診断から治療開始までの期間などを使って、転移性腎細胞がんの経過を予測するための分類です。そのため、同じステージⅣでもIMDCが低リスクの患者さんもいれば、中リスクや高リスクの患者さんもいます。
IMDCは薬物療法を選ぶときにも使われる
IMDCはもともと、分子標的薬による治療を受けた患者さんの予後を予測するためにつくられた分類です。その後、免疫チェックポイント阻害薬が治療の中心になった現在でも、一次治療を選ぶ際の重要な判断材料として使われています。
特にニボルマブ+イピリムマブ療法の根拠となったCheckMate 214試験では、主要な有効性評価がIMDCの中リスク/高リスク群を中心に行われました。このため、同併用療法を考える際にはIMDCリスク分類が重要になります。
ただし、IMDCだけを見て治療薬が自動的に決まるわけではありません。腫瘍量、転移部位、症状、年齢、持病、臓器機能、副作用の許容度、患者さんの希望なども合わせて治療を選びます。
参考:国立がん研究センター「腎臓がん(腎細胞がん) 治療」、日本泌尿器科学会「腎癌診療ガイドライン2026年版 補遺」
淡明細胞型の一次薬物療法
根治切除不能または転移性の淡明細胞型腎細胞がんでは、現在、免疫チェックポイント阻害薬を含む併用療法が一次治療の中心となっています。2026年版の日本泌尿器科学会「腎癌診療ガイドライン」でも、進行淡明細胞型腎細胞がんの一次治療として、免疫チェックポイント阻害薬を含むレジメンを使用することが強く推奨されています。
国内で使用されている主な併用療法には、免疫チェックポイント阻害薬2剤を組み合わせる治療と、免疫チェックポイント阻害薬に分子標的薬を組み合わせる治療があります。
免疫チェックポイント阻害薬2剤を組み合わせる治療
ニボルマブ+イピリムマブ
ニボルマブ(商品名:オプジーボ)とイピリムマブ(商品名:ヤーボイ)は、どちらも免疫チェックポイント阻害薬ですが、作用する場所が異なります。ニボルマブはPD-1、イピリムマブはCTLA-4という免疫を抑える仕組みを阻害し、異なる方向からがんに対する免疫反応を高めます。
この併用療法は、CheckMate 214試験によって進行腎細胞がんに対する有効性が示され、特にIMDC中リスク/高リスク群の患者さんで重要な一次治療となっています。最初の一定期間は2剤を併用し、その後はニボルマブ単剤を継続する方法が基本です。
分子標的薬を同時に使わない点は後述するICI+TKI療法との大きな違いですが、免疫関連有害事象が起こることがあり、複数の臓器に強い炎症が生じた場合にはステロイドなどによる治療が必要になります。
免疫チェックポイント阻害薬+TKI(チロシンキナーゼ阻害薬)
ペムブロリズマブ+アキシチニブ
ペムブロリズマブはPD-1を標的とする免疫チェックポイント阻害薬、アキシチニブ(商品名:インライタ)はVEGFRを標的とするチロシンキナーゼ阻害薬です。がんに対する免疫反応を高める治療と、がんが血管をつくって増殖する仕組みを抑える治療を組み合わせます。
国内でも根治切除不能または転移性の腎細胞がんに対する治療として承認されています。免疫関連有害事象に加えて、アキシチニブによる高血圧、下痢、手足の症状、肝機能異常などにも注意します。
アベルマブ+アキシチニブ
アベルマブ(商品名:バベンチオ)はPD-L1を標的とする免疫チェックポイント阻害薬です。アキシチニブと組み合わせて使用します。この治療は、未治療の進行腎細胞がんを対象としたJAVELIN Renal 101試験をもとに開発され、日本では根治切除不能または転移性腎細胞がんに対する治療として承認されています。
JAVELIN Renal 101試験では、スニチニブ(商品名:スーテント)と比較して無増悪生存期間(PFS)や奏効率(ORR)で有効性が示され、長期追跡でも効果の持続が確認されました。一方、全生存期間(OS)中央値はアベルマブ+アキシチニブ群で数値上長かったものの、統計学的に有意な優越性には達していません。
2026年版日本泌尿器科学会「腎癌診療ガイドライン」の資料では、このOSに関するエビデンスの違いから、アベルマブ+アキシチニブを他のICI併用療法と同様に扱うかについては議論が必要とされています。なお、進行淡明細胞型腎細胞がんの一次治療としてICIを含む治療計画を使用すること自体は、同ガイドラインで強く推奨されています。
ニボルマブ+カボザンチニブ
ニボルマブと、チロシンキナーゼ阻害薬であるカボザンチニブ(商品名:カボメティクス)を組み合わせる治療です。CheckMate 9ER試験で未治療の進行または転移性腎細胞がんに対する有効性が示され、国内でも併用療法として承認されています。
カボザンチニブでは高血圧、下痢、手足症候群、口内炎、肝機能異常などがみられることがあり、ニボルマブによる免疫関連有害事象と合わせて管理します。
ペムブロリズマブ+レンバチニブ
ペムブロリズマブと、複数のチロシンキナーゼを阻害するレンバチニブ(商品名:レンビマ)を組み合わせます。国際第Ⅲ相CLEAR試験でスニチニブと比較して無増悪生存期間などの改善が示され、国内でも根治切除不能または転移性腎細胞がんに対する併用療法として承認されています。
レンバチニブでは高血圧、下痢、食欲低下、蛋白尿、手足症候群などが起こることがあります。治療効果を維持しながら副作用を抑えるため、症状によって休薬や減量を行うこともあります。
どの併用療法を選ぶか
現在の主要な併用療法は、それぞれ別の臨床試験で従来治療と比較されています。ニボルマブ+イピリムマブとペムブロリズマブ+レンバチニブを直接比較したような試験があるわけではないため、異なる試験の奏効率や無増悪生存期間だけを並べて「この治療が最も優れている」と判断することはできません。
治療を選ぶ際には、IMDCリスクだけでなく、腫瘍を早く縮小させる必要があるか、長期間の効果を期待するか、高血圧や心血管疾患などの持病があるか、免疫関連有害事象のリスクはどうか、内服薬を継続できるかなどを考えます。免疫チェックポイント阻害薬+TKIでは点滴治療と毎日の内服を組み合わせるのに対し、ニボルマブ+イピリムマブは治療開始時に免疫チェックポイント阻害薬2剤を使用するなど、通院や服薬の方法も異なります。
治療成績の数字だけではなく、自分の病状と生活の中で治療を継続できるかという視点も重要です。
分子標的薬単独を検討する場合もある
免疫チェックポイント阻害薬を含む併用療法が現在の中心ですが、すべての患者さんが免疫療法を受けられるわけではありません。免疫チェックポイント阻害薬によって悪化する可能性のある自己免疫疾患がある、臓器移植後である、全身状態や持病などから併用療法の負担が大きいといった場合には、分子標的薬単独を検討することがあります。
どの患者さんで単剤治療を選ぶかは病状によって異なるため、「併用療法を受けない=治療効果が期待できない」という意味ではありません。
参考:日本泌尿器科学会「腎癌診療ガイドライン2026年版 補遺」、国立がん研究センター「腎臓がん(腎細胞がん) 治療」、小野薬品工業「オプジーボとカボメティクス併用療法 国内承認」、MSD・エーザイ「レンビマとキイトルーダ併用療法 国内承認」
一次治療後に進行した場合の薬物療法
一次治療によって腎細胞がんが縮小したり、長期間大きくならない状態を保てたりしても、その後再び進行することがあります。この場合には二次治療以降を検討しますが、現在の腎細胞がん治療では、一次治療でどの薬を使ったかによって次の選択肢が変わります。
以前は分子標的薬単独から別の分子標的薬へ切り替える流れが中心でしたが、現在は一次治療で免疫チェックポイント阻害薬+TKI、あるいは免疫チェックポイント阻害薬2剤を使用する患者さんが増えています。
一次治療後は治療歴を踏まえて次の薬を選ぶ
たとえば一次治療で免疫チェックポイント阻害薬とVEGFR-TKIを併用した場合、進行後には別のチロシンキナーゼ阻害薬などを検討します。カボザンチニブ、アキシチニブなどの分子標的薬や、患者さんによってはレンバチニブとエベロリムスの併用などが候補になります。どの順番が最適かは、最初の治療内容、治療効果が続いた期間、副作用、腎機能や肝機能、転移部位などによって異なります。
特に術後補助療法としてペムブロリズマブを使用した後に再発した患者さんでは、再発した時期も重要です。ペムブロリズマブ投与中や終了から短期間で再発した場合と、治療終了後長期間たってから再発した場合では、次の免疫療法をどのように考えるかが異なります。
ベルズチファンという新しい選択肢
2025年6月24日、日本でベルズチファン(商品名:ウェリレグ)が、「がん化学療法後に増悪した根治切除不能又は転移性の腎細胞癌」に対して承認されました。同年8月18日から販売されています。
ベルズチファンは、低酸素誘導因子2α(HIF-2α)を阻害する内服薬です。淡明細胞型腎細胞がんではVHL遺伝子に関わる経路の異常によってHIF-2αが過剰に働き、腫瘍の血管形成や増殖に関係する遺伝子が活性化することがあります。ベルズチファンはこのHIF-2αの働きを抑えることで抗腫瘍効果を示し、従来の免疫チェックポイント阻害薬やVEGFR-TKIとは異なる仕組みで作用します。
国内適応とLITESPARK-005の対象
日本で承認されている効能・効果は「がん化学療法後に増悪した根治切除不能又は転移性の腎細胞癌」です。一方、承認の根拠となった国際第Ⅲ相LITESPARK-005試験では、PD-1またはPD-L1阻害薬とVEGFR-TKIの両方による治療歴がある根治切除不能または転移性の淡明細胞型腎細胞がんの患者さんが対象となりました。
つまり、添付文書上の効能・効果の文章だけを見るのではなく、どのような患者さんを対象とした試験で有効性と安全性が確認された薬なのかを踏まえて使用を判断する必要があります。LITESPARK-005試験では、ベルズチファンはエベロリムスと比較して無増悪生存期間を有意に改善しました。
貧血・低酸素症に注意する
ベルズチファンで特に注意したい副作用が貧血と低酸素症です。LITESPARK-005試験では貧血が多くみられたほか、血液中の酸素が不足する低酸素症も報告されています。息切れ、強いだるさ、動悸、めまいなどの症状が出た場合には、治療中のがんによる症状と自己判断せず、血液検査や酸素飽和度などを確認する必要があります。副作用の程度によっては休薬や減量、酸素投与などが必要になる場合があります。
ベルズチファン+レンバチニブは2026年9月時点では国内申請中
2026年3月27日、がん化学療法後に増悪した根治切除不能または転移性腎細胞がんに対して、レンバチニブとベルズチファンを組み合わせる治療の国内追加申請が行われました。この併用療法は、すでに日本で承認されているベルズチファン単剤とは別の治療です。
2026年9月時点ではベルズチファン+レンバチニブは国内で申請段階であり、承認済みの標準治療ではありません。 腎細胞がんでは新しい薬や組み合わせの開発が続いているため、二次治療以降を検討するときには、以前の治療歴とともに、その時点で国内承認されている治療を確認することが重要です。
参考:MSD「ウェリレグ 国内製造販売承認を取得」、MSD「ウェリレグ 新発売のお知らせ」、MSD・エーザイ「レンビマとウェリレグ併用療法 国内追加申請」、日本泌尿器科学会「腎癌診療ガイドライン2026年版 補遺」
非淡明細胞型腎細胞がんの治療
腎細胞がんの7~8割を占める淡明細胞型以外の組織型は、まとめて非淡明細胞型腎細胞がんと呼ばれることがあります。代表的なものには、乳頭状腎細胞がんや嫌色素性腎細胞がんなどがあります。
腎臓内にとどまり手術で切除できる場合には、非淡明細胞型でも手術が治療の中心です。一方、根治切除不能または転移性になった場合には、淡明細胞型と同じ治療成績をそのまま当てはめることはできません。
淡明細胞型を対象とした臨床試験が多い
現在の転移性腎細胞がんでは、免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の併用など複数の一次治療があります。しかし、これらの治療を確立した大規模な臨床試験の多くは、主として淡明細胞型腎細胞がんを対象に行われてきました。
非淡明細胞型は腎細胞がん全体に占める割合が少ないうえ、乳頭状、嫌色素性など性質の異なる複数の病気が含まれます。そのため、非淡明細胞型全体を1つの病気として「この薬が最もよい」と決めることが難しく、組織型ごとの情報を確認しながら治療を選びます。
乳頭状腎細胞がんでは組織型を踏まえて薬を選ぶ
乳頭状腎細胞がんは、非淡明細胞型の中では比較的多い組織型です。進行・転移性では分子標的薬などを使用し、病状によって免疫チェックポイント阻害薬を含む治療や臨床試験を検討することもあります。
海外では乳頭状腎細胞がんを対象としてカボザンチニブなどの治療成績も検討されており、淡明細胞型とは別のエビデンスをもとに治療を考える必要があります。
嫌色素性腎細胞がんなどはさらにデータが限られる
嫌色素性腎細胞がんをはじめとするまれな組織型では、大規模な比較試験のデータがさらに少なくなります。非淡明細胞型と診断された場合には「腎細胞がんだから淡明細胞型と同じ治療」と考えるのではなく、具体的な組織型を確認することが大切です。
標準的な治療だけでなく、その組織型を対象とする臨床試験への参加が選択肢になる場合もあります。
参考:国立がん研究センター「腎臓がん(腎細胞がん) 治療」、日本泌尿器科学会「腎癌診療ガイドライン2026年版 補遺」
転移があっても手術や放射線治療を行うことがある
腎細胞がんで遠隔転移が見つかると、「もう手術はできない」と考えるかもしれません。しかし、転移がある患者さんの一部では、腎臓の原発巣を摘出したり、転移巣を手術や放射線治療で治療したりすることがあります。
一方で、転移があるからといって原発巣の腎臓を必ず摘出するわけでもありません。現在は薬物療法の選択肢が増えているため、先に全身薬物療法を行った方がよい患者さんもいます。
転移性でも原発巣の腎摘除を検討する場合がある
転移性腎細胞がんで原発巣の腎臓を摘出することを細胞減量腎摘除術と呼びます。以前は転移性腎細胞がんでも原発巣を先に摘出することが広く行われていましたが、薬物療法が進歩した現在は、すべての患者さんに一律に行う治療ではありません。
原発巣による出血や痛みなどの症状、全身状態、IMDCリスク、転移の量や部位、がんの進行速度、薬物療法への反応などを考えて手術の時期や必要性を判断します。転移量が多く病気の進行が速い患者さんでは、腎摘除を先に行うことで薬物療法の開始が遅れることが不利益になる場合もあります。
転移巣が少ない場合には局所治療を検討することがある
転移が肺などの限られた場所に少数だけ存在し、手術や放射線治療によってすべての転移巣を治療できると考えられる場合には、転移巣への局所療法を検討することがあります。
2026年版の日本泌尿器科学会「腎癌診療ガイドライン」でも、局所療法によって転移巣全体を制御できる場合には、転移巣に対する局所療法が治療選択肢として弱く推奨されています。
ただし、どの患者さんでも転移巣を切除すれば長期生存できると証明されているわけではありません。転移の数、発生した時期、部位、原発巣の状態、薬物療法の効果などを踏まえて患者さんを選択します。
骨転移や脳転移では放射線治療を行うことがある
腎細胞がんでは、骨や脳へ転移することがあります。骨転移によって痛みがある場合には、放射線治療によって痛みを和らげたり、腫瘍の進行を抑えたりすることがあります。
骨が弱くなって骨折の危険が高い場合や、脊椎への転移で脊髄が圧迫される危険がある場合には、整形外科的な治療を含めて検討します。脳転移では、転移巣の数や大きさ、位置などに応じて定位放射線治療や手術などを検討することがあります。
腎細胞がんの原発巣そのものに放射線治療を行うことは手術ほど一般的ではありませんが、転移巣の制御や症状の緩和では重要な役割があります。
参考:国立がん研究センター「腎臓がん(腎細胞がん) 治療」、日本泌尿器科学会「腎癌診療ガイドライン2026年版 補遺」
VHL病など遺伝性腎細胞がん
腎細胞がんの多くは遺伝性ではありませんが、一部には生まれつき持っている遺伝子の変化が発症に関係する遺伝性腎がん症候群があります。代表的なものがフォン・ヒッペル・リンドウ病(VHL病)です。ただし、遺伝性腎細胞がんにはVHL病以外の病気もあります。
VHL病では複数の臓器に腫瘍ができることがある
VHL病はVHL遺伝子の変化によって発症する遺伝性の病気です。腎細胞がんのほか、中枢神経系の血管芽腫、網膜血管腫、褐色細胞腫・パラガングリオーマ、膵神経内分泌腫瘍など、複数の臓器に腫瘍が発生することがあります。
腎臓では左右両方に腫瘍ができたり、1つの腎臓に複数の腫瘍が発生したりすることがあります。そのため、腫瘍を治療するたびに腎臓を大きく切除すると、生涯を通じた腎機能に影響する可能性があります。
遺伝性を疑う特徴と遺伝カウンセリング
腎細胞がんになったからといって、全員が遺伝学的検査を受けるわけではありません。比較的若い年齢で発症した、左右両方の腎臓に腫瘍がある、同じ腎臓に複数の腫瘍がある、血縁者にも腎細胞がんや関連する腫瘍がみられるなどの場合には、遺伝性腎がん症候群の可能性について詳しく調べることがあります。
遺伝性腎がん症候群にはVHL病以外にも複数の種類があり、原因となる遺伝子や発生しやすい腫瘍が異なります。遺伝学的検査の結果は、患者さん本人だけでなく血縁者にも関係する可能性があります。そのため、検査を受けるかどうかを考える際には、検査で何が分かるのか、結果が自分や家族の健康管理にどう影響するのかを理解しておくことが大切です。国立がん研究センターでも、遺伝性疾患が気になる場合には遺伝医学の専門家がいる施設で遺伝カウンセリングを受けることを勧めています。
VHL病関連腫瘍ではベルズチファンを検討できる場合がある
2025年6月、日本でベルズチファン(商品名:ウェリレグ)がVHL病関連腫瘍に対して承認されました。VHL病では腫瘍が多発し、生涯に何度も手術が必要になることがあります。ベルズチファンはHIF-2αを阻害する内服薬で、VHL病に対する国内初の全身薬物療法です。
ただし、VHL病と診断された患者さん全員がすぐベルズチファンを使用するわけではありません。腫瘍の種類、大きさ、症状、手術が必要な時期などを考えて治療を選びます。
参考:国立がん研究センター「腎臓がん(腎細胞がん) 予防・検診」、MSD「ウェリレグ 国内製造販売承認を取得」
腎細胞がん治療の副作用と治療後の生活
腎細胞がんの治療では、手術、免疫チェックポイント阻害薬、チロシンキナーゼ阻害薬、ベルズチファンなど、治療方法によって注意する副作用が大きく異なります。副作用が起こった場合でも、すぐに治療を完全に中止するとは限りません。休薬、薬の減量、副作用に対する治療などを行いながら継続できる場合があります。
腎摘除後は残った腎臓の機能を確認する
片方の腎臓を摘出した後でも、残った腎臓が十分に働いていれば、多くの患者さんは透析を受けずに生活できます。一方、もともと腎機能が低下している患者さんや、高血圧、糖尿病などがある患者さんでは、手術後の腎機能を継続して確認することが重要です。
血液検査でクレアチニンやeGFRなどを確認し、血圧や糖尿病を適切に管理します。市販薬やサプリメントの中にも腎機能へ影響するものがあるため、腎機能が低下している場合には自己判断で使用せず医師や薬剤師に相談します。
分子標的薬では高血圧・下痢・手足症候群などに注意する
アキシチニブ、カボザンチニブ、レンバチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬では、高血圧、下痢、食欲低下、口内炎、疲労、蛋白尿などが起こることがあります。手のひらや足の裏に赤み、腫れ、痛みなどが出る手足症候群が問題になる場合もあります。
高血圧は自覚症状がないまま進むこともあるため、治療中には家庭で血圧を測るよう勧められることがあります。副作用を我慢して薬を飲み続けるより、早い段階で相談して休薬や減量を行った方が長く治療を続けられる場合があります。
免疫チェックポイント阻害薬では症状が出る臓器が多岐にわたる
ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アベルマブ、イピリムマブなどの免疫チェックポイント阻害薬では、免疫が正常な臓器まで攻撃する免疫関連有害事象が起こることがあります。肺炎、大腸炎、肝障害、甲状腺機能異常、副腎機能低下、下垂体機能低下、腎障害、皮膚障害、1型糖尿病など、症状が出る臓器はさまざまです。
治療中の発熱、息苦しさ、強い下痢、急な倦怠感などを「がんだから仕方がない」と考えず、普段と異なる症状があれば医療機関へ伝えることが重要です。治療終了後しばらくしてから免疫関連有害事象が現れる場合もあります。
ベルズチファンでは貧血・低酸素症を確認する
ベルズチファンでは、貧血と低酸素症が特に重要な副作用です。治療中には血液検査でヘモグロビン値を確認し、必要に応じて酸素飽和度も測定します。息切れ、動悸、めまい、強い疲労感などがある場合には、がんの進行による症状なのか副作用なのかを含めて評価します。
仕事や日常生活は治療方法に合わせて調整する
腎部分切除や腎摘除の後は、体力が戻るまで無理な運動や重い物を持つ作業を控える必要があります。仕事へ戻る時期は、手術方法、仕事内容、術後経過などによって異なります。
薬物療法では治療を数カ月から数年続けることもあるため「副作用をゼロにする」ことだけではなく、仕事、食事、睡眠、外出などの日常生活と治療を両立できる程度に副作用を管理することも大切です。
特定の食品を食べれば腎細胞がんが治るという根拠はなく、厳しい食事制限を自己判断で始める必要もありません。ただし、腎機能、高血圧、糖尿病などによって食事上の注意が必要な場合には、病状に合わせて医師や管理栄養士と相談します。
緩和ケア・支持療法はがん治療と並行して受けられる
緩和ケアは、抗がん治療ができなくなった段階だけに行う医療ではありません。腎細胞がんと診断された時点から、痛み、息苦しさ、だるさ、不眠、不安などのつらさに対する支援を受けることができます。転移性腎細胞がんでも薬物療法と緩和ケアを並行して受けることができます。副作用やがんによる症状を適切に抑えることは、生活の質を保つだけでなく、治療を継続するうえでも重要です。
参考:国立がん研究センター「腎臓がん(腎細胞がん) 治療」、MSD「ウェリレグ 国内製造販売承認を取得」
腎細胞がんの再発と経過観察
腎細胞がんを手術で切除した後も、再発がないかを確認するために定期的な経過観察を行います。検査の頻度や内容は全員同じではなく、手術時のステージ、病理結果、再発リスク、治療方法、腎機能などによって異なります。
CTなどで再発・転移を確認する
治療後は、CT、MRI、超音波検査などを病状に応じて行います。血液検査では腎機能や全身状態なども確認します。手術後の再発リスクが高い患者さんでは、再発リスクが低い患者さんよりも画像検査を詳しく行うことがあります。
検査間隔は「腎細胞がんなら○カ月に1回」と一律ではないため、自分の場合はいつまで、どの程度の間隔で検査を続ける予定なのかを担当医に確認しておくとよいでしょう。
肺・骨・リンパ節などに再発することがある
腎細胞がんでは肺、骨、リンパ節、肝臓、脳などへ転移することがあります。
再発した場合も、すぐに全身薬物療法だけを行うとは限りません。再発が1カ所や少数に限られている場合には、手術や放射線治療などの局所療法を検討できることがあります。反対に複数の臓器へ再発している場合には、組織型やIMDCリスク、以前の治療歴などを踏まえて全身薬物療法を選びます。
長期間たってから再発する場合もある
腎細胞がんには、手術から長い期間が経過した後に再発することがあります。国立がん研究センターでは、治療後10年以上経過してから再発することもあると説明しています。
定期通院が終了した後も健康管理を続け、原因の分からない症状が続く場合には、過去に腎細胞がんの治療を受けたことを医療機関へ伝えることが大切です。
定期検査まで症状を我慢する必要はない
経過観察中に血尿、長く続く咳、骨の痛み、原因の分からない体重減少、頭痛や神経症状などが現れた場合には、次回の定期検査まで待つ必要はありません。これらの症状があっても再発とは限りませんが、必要に応じて予定より早く検査を行います。
腎臓がんのステージ別生存率・予後
腎細胞がんの予後は、診断時のステージによって大きく異なります。ただし、生存率を見る際には、どの病気を集計した数字なのかを確認する必要があります。
国立がん研究センターの全国がん登録で使われている「腎・尿路(膀胱除く)」という統計区分には、腎細胞がんだけでなく腎盂・尿管などのがんも含まれるため、この数字をそのまま「腎細胞がんの生存率」とすることはできません。
腎がんの病期別5年ネット・サバイバル
国立がん研究センターの院内がん登録では、「腎がん(腎癌)」について2014~2015年診断例の5年生存率が公開されています。
| 病期 | 5年ネット・サバイバル |
|---|---|
| Ⅰ期 | 94.9% |
| Ⅱ期 | 87.9% |
| Ⅲ期 | 76.5% |
| Ⅳ期 | 18.7% |
ネット・サバイバルは、がん以外の死因による影響をできるだけ取り除き「がんだけが死亡に影響すると仮定した場合」の生存率を推計する方法です。
Ⅰ期では5年ネット・サバイバルが90%を超える一方、Ⅳ期では大きく低下しています。これは、腎臓内に限局している段階では手術によって根治を目指しやすいのに対し、遠隔転移がある場合には全身のがんを長期間制御する必要があるためです。
全国がん登録の最新統計は「腎・尿路(膀胱除く)」
国立がん研究センターでは、2026年7月に全国がん登録による生存率データを2018年診断例へ更新しています。ただし、そこで掲載される統計区分は「腎・尿路(膀胱除く)」です。
腎細胞がんだけを対象とする数字ではないため、本記事では腎細胞がんのステージ別生存率とはしていません。同じ理由から、「腎・尿路(膀胱除く)」全体の生存率と、腎細胞がんの患者さん個人の予後を直接結びつけないことが重要です。
現在の転移性腎細胞がん治療は生存率集計後も進歩している
上の病期別データは2014~2015年に診断された患者さんの治療成績です。その後、ニボルマブ+イピリムマブ、ペムブロリズマブ+アキシチニブ、ニボルマブ+カボザンチニブ、ペムブロリズマブ+レンバチニブなどの免疫療法を含む併用療法が導入され、2025年にはベルズチファンも国内承認されました。特にⅣ期については、過去の生存率だけを見て現在治療を受ける患者さんの経過を決めつけることはできません。
生存率は個人の余命を示す数字ではない
同じステージでも、年齢、全身状態、組織型、転移の部位や量、IMDCリスク、薬物療法への反応などによって経過は異なります。たとえばステージⅣでも、少数の転移だけを局所治療できる患者さんと、短期間に複数臓器へ進行する患者さんでは状況が違います。
5年生存率が18.7%だから「5年後に自分が生きている確率が18.7%」とそのまま読み替えるものではありません。集団の治療成績を理解するための統計として受け止め、個人の見通しについては現在の病状や治療への反応を踏まえて担当医と確認する必要があります。
参考:国立がん研究センター「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム 腎がん」、国立がん研究センター「腎・尿路(膀胱除く)」、国立がん研究センター「がん種別統計情報」
腎細胞がんの治療を選ぶときに確認したいこと
腎細胞がんでは、腫瘍の大きさだけでなく、腫瘍の位置、腎機能、組織型、再発リスク、転移の状態、これまでに使用した薬などによって治療が分かれます。治療方針の説明を受ける際には、次のような点を整理すると、自分にその治療が勧められている理由を理解しやすくなります。
| 確認したいこと | 確認する意味 |
|---|---|
| 腎細胞がんか腎盂がんか | 発生する組織が異なり、手術や薬物療法の考え方も異なる |
| 腫瘍の大きさと位置 | 部分切除の可否や手術の難易度、監視療法・局所療法の適応に関係する |
| 臨床ステージ | 手術で根治を目指せるか、全身薬物療法が必要かを考える基本になる |
| 腎静脈・下大静脈への進展 | Tカテゴリーや手術の規模に大きく影響する |
| 反対側を含めた腎機能 | 腎部分切除によって腎機能を温存する必要性を考える材料になる |
| 腎腫瘍生検が必要か | 監視療法や局所療法を含め、生検結果によって治療方針が変わるかを確認する |
| 監視療法が選べるか | 小径腎腫瘍では、患者の状態によってすぐ治療しない選択肢もある |
| 病理組織型 | 淡明細胞型と非淡明細胞型では、特に進行例の薬物療法の根拠が異なる |
| 術後の再発リスク | 術後ペムブロリズマブを検討するか、経過観察とするかに関係する |
| 転移の数・部位・症状 | 全身薬物療法だけでなく、転移巣への手術や放射線治療を検討できるかに関係する |
| IMDCリスク分類 | 転移性腎細胞がんの予後や一次薬物療法を考える重要な指標になる |
| これまでに使用した薬 | 二次治療以降ではPD-1/PD-L1阻害薬、VEGFR-TKIなどの治療歴が次の薬の選択に関係する |
| 遺伝性を疑う特徴があるか | 若年発症、両側、多発、家族歴などがある場合には遺伝カウンセリングを検討することがある |
この表は診療ガイドラインなどをもとに、患者さんが治療方針を理解するために整理したものです。公式ガイドラインに同じ形式のチェックリストが掲載されているわけではありません。
すべてを一度に確認する必要はありませんが、「なぜ腎臓を全部取るのか」「なぜ手術をせず経過を見るのか」「なぜこの薬の組み合わせを使うのか」と疑問に感じたときには、その判断に関係する項目を担当医に確認すると治療方針を理解しやすくなります。
参考:日本泌尿器科学会「腎癌診療ガイドライン2026年版 補遺」、国立がん研究センター「腎臓がん(腎細胞がん) 治療」
まとめ
腎臓がんの中心となる腎細胞がんは、初期には症状がほとんどなく、健康診断やほかの病気で受けた画像検査から偶然見つかることがあります。血尿、脇腹の痛みなどが現れる場合もありますが、症状の有無だけで病気の進行度を判断することはできません。
小さな腎腫瘍が見つかった場合には、腎臓を1つ摘出する手術だけが選択肢ではありません。腫瘍の大きさや位置、腎機能などによって腎部分切除術を検討し、高齢や持病などの条件によっては監視療法や凍結療法を選ぶ場合もあります。腎細胞がんでは、がんを適切に治療するとともに、将来の腎機能をどこまで残せるかを考えることが重要です。
手術後も再発リスクが高い患者さんではペムブロリズマブによる術後補助療法を検討します。転移性腎細胞がんでは、淡明細胞型か非淡明細胞型か、IMDCリスク、転移の部位や量、症状などを確認し、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬を組み合わせた治療を選びます。一次治療後に進行した場合には、それまでに使用した薬も次の治療を決める重要な情報になります。
治療薬は現在も増えており、2025年には新しい作用機序を持つベルズチファンが国内承認されました。一方、臨床試験で良好な結果が出ていても国内ではまだ申請段階の治療もあります。新しい治療について知った場合には、自分の病状に適しているかだけでなく、現在日本で承認されている治療なのかも確認する必要があります。
腎細胞がんでは、同じステージでも治療方法や病気の経過は一人ひとり異なります。治療を選ぶ際には、ステージだけを見るのではなく、腫瘍の位置、腎機能、組織型、再発リスク、IMDCリスク、転移の状態、これまでの治療歴まで含めて、自分にその治療が勧められている理由を確認することが大切です。



胃がんは、がん細胞の性質によっていくつかのタイプに分類されます。その中のひとつが、HER2陽性胃がんで、がん細胞の表面に「HER2タンパク」と呼ばれる特定の受容体が過剰に現れているタイプです。