”新しい未来をともに”最先端のがん治療を追求するがん治療専門クリニック ”新しい未来をともに”最先端のがん治療を追求するがん治療専門クリニック

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胆管がんは、肝臓でつくられた胆汁を十二指腸へ運ぶ「胆管」に発生するがんです。胆管は肝臓の中から十二指腸まで続いているため、がんができた場所によって肝内胆管がん、肝門部領域胆管がん、遠位胆管がんに分けられます。同じ「胆管がん」という名前でも、症状の出方、ステージ分類、手術方法が大きく異なります。

特に肝門部領域胆管がんや遠位胆管がんでは、がんによって胆汁の流れが妨げられ、皮膚や白目が黄色くなる黄疸が発見のきっかけになることがあります。一方、肝臓の中に発生する肝内胆管がんは、早い段階では胆汁の流れを妨げないこともあり、症状がないまま見つかる場合があります。

胆管がんの治療を考えるうえでは、ステージだけを見るのでは不十分です。「胆管のどこにがんがあるのか」「血管や周囲の臓器へどこまで広がっているのか」「手術で完全に取り切れる可能性があるのか」を確認する必要があります。胆道がんでは、まず外科切除が可能かを判断することが治療方針の大きな分岐となっています。

また、胆管がんでは黄疸や胆管炎に対する胆道ドレナージ、手術後の補助化学療法、切除不能・再発時の免疫療法や遺伝子・バイオマーカー検査など、病状に応じて複数の治療を組み合わせます。

この記事では、胆管がんの3つの種類から、症状、検査、ステージ、手術、薬物療法、バイオマーカー検査、生存率、再発後の治療まで順番に解説します。

参考:胆道がんについて|国立がん研究センター

  • 胆管がんは「肝内胆管がん」「肝門部領域胆管がん」「遠位胆管がん」でステージや手術方法が異なる
  • 肝外胆管がんでは黄疸がよくみられるが、肝内胆管がんは早期に症状が出ないことも多い
  • がんの場所、血管への広がり、遠隔転移、残せる肝臓の量などから「手術で取り切れるか」を判断する

胆管がんとは何か

胆管は、肝臓でつくられた胆汁を十二指腸へ運ぶための管です。

肝臓の中には細い胆管が木の枝のように張り巡らされており、枝が合流しながら徐々に太くなります。肝臓から出る部分を肝門部といい、その先で胆のうから伸びる胆のう管と合流します。さらに胆管は膵臓の中を通り、最終的に十二指腸へつながります。

胆汁は肝臓でつくられる消化液で、脂肪の消化や吸収を助けます。また胆汁には黄色い色素であるビリルビンが含まれており、胆管がふさがれると、このビリルビンが血液中に増えて黄疸が起こります。

胆管がんは、この胆管を構成する細胞から発生するがんです。ただし胆管は肝臓の中から十二指腸付近まで長く続いているため、どこに発生したかによって同じ胆管がんでも病気の性質や治療が異なります。

参考:胆管がん|日本肝胆膵外科学会

胆管がんはできた場所によって3つに分かれる

胆管がんは、大きく肝内胆管がん、肝門部領域胆管がん、遠位胆管がんの3つに分けて考えます。国立がん研究センターでも、肝内胆管がんと肝外胆管がんを区別し、さらに肝外胆管がんを肝門部領域胆管がんと遠位胆管がんに分けています。

種類 発生する場所 治療を考えるうえでの特徴
肝内胆管がん 肝臓の中を走る胆管 肝臓の一部を切除する肝切除が中心。肝細胞がんとは別の病気として治療を考える
肝門部領域胆管がん 左右の肝管が合流する肝門部周辺 胆管だけでなく肝臓を大きく切除する手術が必要になることがある
遠位胆管がん 膵臓に近い側の胆管 胆管が膵臓の中を通るため、膵頭十二指腸切除が必要になることが多い

この違いは単なる病名の細分化ではありません。

たとえば肝内胆管がんなら「肝臓のどの部分をどれだけ切除するか」が手術の中心になります。一方、肝門部領域胆管がんでは胆管と肝臓、遠位胆管がんでは膵頭部や十二指腸を含めた手術が必要になることがあります。つまり「胆管がんです」と言われた後に、最初に確認したいのが「3つのうちどの胆管がんなのか」です。国立がん研究センターも、胆道がんの病期を発生部位ごとに分けて評価しています。

参考:胆道がんについて|国立がん研究センター

肝内胆管がんと肝細胞がんは同じ肝臓にできても別のがん

肝内胆管がんは肝臓の中に発生するため、医学的には原発性肝がんの一つに分類されます。「胆管細胞がん」と呼ばれることもあります。

しかし、一般に「肝臓がん」と呼ばれることが多い肝細胞がんとは別の病気です。

肝細胞がんは肝臓の中心となる肝細胞から発生しますが、肝内胆管がんは胆汁を運ぶ胆管の細胞から発生します。そのため、同じ肝臓の中にできた腫瘍でも、ステージ分類、手術以外の治療、使用する薬物療法などが異なります。国立がん研究センターも、肝内胆管がんについて肝細胞がんとは治療法が異なるため区別しています。

「肝臓にがんがある」と説明された場合には、肝細胞がんなのか肝内胆管がんなのかを病理診断などで確認することが、その後の治療を理解する出発点になります。

肝細胞がんの治療法やステージ、症状や生存率などについては以下の記事で詳しく解説しています。

胆管がんと胆道がんは同じ意味ではない

「胆管がん」と「胆道がん」は似た言葉ですが、意味する範囲が異なります。

胆道がんは、胆汁が流れる胆道に発生するがんをまとめた総称です。国立がん研究センターでは、胆道を胆管、胆のう、十二指腸乳頭の3つに分け、そこに発生する胆管がん、胆のうがん、十二指腸乳頭部がんを胆道がんとして扱っています。

したがって関係を整理すると、胆管がんは胆道がんの一部です。

本記事では胆道がん全体ではなく、肝内胆管がん、肝門部領域胆管がん、遠位胆管がんの3つを「胆管がん」として詳しく説明します。

参考:胆道がんについて|国立がん研究センター

胆管がんの原因とリスク

胆管がんは、原因を一つに特定できる病気ではありません。実際には、明らかな危険因子が見つからないまま発症する患者さんもいます。

一方で、胆管に長期間炎症や胆汁うっ滞が起こる病気、胆管の先天的な構造異常、一部の化学物質への高濃度曝露などは、胆管がんの発生リスクと関連することが分かっています。胆道癌診療ガイドラインでも、胆道がんの危険因子は独立した臨床課題として扱われています。

参考:胆道癌診療ガイドライン|日本癌治療学会

原発性硬化性胆管炎など胆管の慢性炎症

原発性硬化性胆管炎(PSC)とは、肝臓の内外にある胆管に慢性的な炎症と線維化が起こり、胆管が狭くなったり拡張したりする病気です。

胆管に慢性的な炎症が続くことから、PSCは胆管がんの危険因子として知られています。日本癌治療学会が公開する胆道癌診療ガイドラインでも、PSCは胆管がんの代表的な危険因子として挙げられています。

ただし、PSCと診断されたから必ず胆管がんになるわけではありません。また、胆管がん患者さんの大多数にPSCがあるという意味でもありません。

PSCがある人では、もともとの病気による胆管狭窄と胆管がんによる狭窄を区別することが難しい場合があります。そのため、黄疸の悪化や胆管の形の変化などがみられたときには、画像検査や内視鏡検査などを組み合わせて詳しく評価します。日本胆道学会も、PSCでは胆管がんを合併しやすいことを患者向け情報で説明しています。

参考:原発性硬化性胆管炎(PSC)|日本胆道学会

肝内結石と肝内胆管がん

肝臓の中の胆管に結石ができる肝内結石症も、肝内胆管がんとの関連が知られています。

結石があることで胆汁の流れが滞ったり、胆管炎を繰り返したりすると、胆管の粘膜に慢性的な刺激や炎症が加わります。肝内胆管がんの国内診療ガイドラインでも、肝内結石症は肝内胆管がんのリスク因子の一つとして挙げられています。

ただし、肝内結石が見つかった人すべてが将来胆管がんになるという意味ではありません。結石そのものの治療や胆管炎の有無などを含め、個々の状態に応じた経過観察が必要になります。

膵・胆管合流異常など胆道の先天的な異常

膵・胆管合流異常とは、胆管と膵管が十二指腸の壁の外側で合流する先天的な構造異常です。

通常とは異なる場所で胆管と膵管がつながるため、膵液が胆管側へ逆流しやすくなり、胆道の粘膜へ慢性的な障害を与えると考えられています。胆管が拡張するタイプの膵・胆管合流異常は、胆管がんの危険因子として国内ガイドラインでも挙げられています。

膵・胆管合流異常では胆のうがんとの関連も強いため、胆管だけの問題として考えるのではなく、胆道全体を評価します。

職業性胆管がんと化学物質

胆管がんの中には、特定の化学物質への職業上の曝露との関連が明らかになったものがあります。

国内では、印刷事業所などで使用されていた1,2-ジクロロプロパンやジクロロメタンへの高濃度曝露が、胆管がんの発生リスクを高めると考えられています。国立がん研究センターも、これらの化学物質を胆管がんの発生要因として掲載しています。

これは通常の生活環境で少量接することと同じ意味ではなく、主に職業上の高濃度曝露が問題となったものです。

参考:胆道がん 予防・検診|国立がん研究センター

肝内胆管がんでは慢性肝疾患などとの関連も報告されている

肝内胆管がんは、胆管そのものの病気だけでなく、肝硬変、B型・C型肝炎などの慢性肝疾患との関連も報告されています。

日本肝癌研究会が作成した肝内胆管がん診療ガイドラインでは、肝硬変、B型・C型肝炎、アルコール、糖尿病、肥満、非アルコール性脂肪肝炎なども報告されたリスク因子として挙げられています。

ここでも、リスク因子があることと発症することは同じではありません。胆管がんは、特定の生活習慣や病気がある人だけに起こるがんではなく、明らかな背景疾患がない人にも発生します。

参考:肝内胆管がん診療ガイドライン 論文(英文)|日本肝癌研究会

胆管がんの予防・検診と受診の目安

現在、胆管がんについては、胃がんや大腸がんのように国の指針で定められた対策型がん検診はありません。国立がん研究センターも、胆道がんには現在、国の指針として定められている検診はないとしています。

そのため「○歳から毎年胆管がん検診を受ければ早期発見できる」という一般人口向けの方法は確立していません。

参考:胆道がん 予防・検診|国立がん研究センター

胆管がんを確実に防ぐ方法は確立していない

胆管がんにはPSCや膵・胆管合流異常などのリスク因子がありますが、すべての患者さんに共通する原因が分かっているわけではありません。そのため、特定の食品やサプリメントなどで胆管がんを予防できるという医学的根拠はありません。

国立がん研究センターでは、胆道がんに限った方法ではなく、がん全般の予防として禁煙、飲酒を控える、バランスのよい食事、身体活動、適正体重の維持、感染予防などを案内しています。

これらは健康維持のためには有用ですが、実践すれば胆管がんを確実に防げるという意味ではありません。

リスクとなる病気がある場合の経過観察は「一般のがん検診」とは違う

PSCや膵・胆管合流異常、肝内結石などの病気がある場合には、その基礎疾患自体の診療として定期的な画像検査や血液検査などを受けることがあります。これは症状のない一般の人を対象とする「胆管がん検診」とは意味が異なります。

特にPSCでは胆管そのものが狭くなるため、胆管の変化が基礎疾患によるものなのか、がんが加わったものなのかを慎重に見分ける必要があります。

すでに胆道や肝臓の病気で通院している人は、「胆管がんが心配なので別の検診を探す」というよりも、現在の病気にどのような経過観察が必要かを担当医に確認する方が適切です。

参考:原発性硬化性胆管炎(PSC)|日本胆道学会

黄疸などの症状がある場合は検診ではなく医療機関を受診

皮膚や白目が黄色くなった、尿が急に濃くなった、便が白っぽくなった、原因の分からない体重減少が続く、といった症状がある場合には、検診を待つのではなく医療機関を受診します。

がん検診は基本的に症状のない人を対象とするものです。国立がん研究センターも、胆道がんについて気になる症状がある場合には早めに医療機関を受診するよう案内しています。

特に黄疸に発熱や悪寒、腹痛を伴う場合には、後述する急性胆管炎が起きている可能性があります。胆管炎は重症化することがあるため、通常の定期受診を待たず医療機関へ相談する必要があります。

胆管がんの初期症状・進行した場合の症状

胆管がんの症状は、肝内胆管がんと肝外胆管がんで出方が異なります。

肝門部領域胆管がんや遠位胆管がんは、胆汁が流れる太い胆管を狭くするため、比較的早い段階から黄疸が現れることがあります。一方、肝内胆管がんは肝臓の中に腫瘤をつくるため、早期には自覚症状がないことがあります。

そのため、「黄疸がないから胆管がんではない」「黄疸が出たから末期である」と症状だけから判断することはできません。

肝内胆管がんは早期には症状が出にくい

肝内胆管がんは肝臓の内部にある細い胆管から発生します。

腫瘍が小さいうちは太い胆管の流れを直接妨げないことがあるため、早い段階では黄疸などの特徴的な症状が現れない場合があります。国立がん研究センターも、肝内胆管がんは早期には症状が出ないことが多いと説明しています。

健康診断などの血液検査で肝機能異常を指摘されたり、別の目的で受けた腹部超音波やCTで肝臓の腫瘤が偶然見つかったりすることもあります。

進行すると、右上腹部の痛みや違和感、食欲低下、体重減少、倦怠感などが現れることがあります。

参考:胆道がんについて|国立がん研究センター

肝門部領域・遠位胆管がんでは黄疸が発見のきっかけになることがある

肝門部領域胆管がんと遠位胆管がんでは、がんが胆管の内腔を狭くし、胆汁が十二指腸へ流れにくくなることがあります。この状態を閉塞性黄疸(へいそくせいおうだん)といいます。

国立がん研究センターでは、肝外胆管がんでは黄疸がよくみられる症状として挙げられています。

ただし、黄疸が出るタイミングは腫瘍の位置や胆管の狭窄の程度によって変わります。小さな腫瘍でも胆管の重要な場所を塞げば黄疸が出ることがあるため、黄疸の有無だけでステージを判断することはできません。

黄疸はなぜ起こるのか

胆汁には、赤血球が分解された後にできるビリルビンという黄色い色素が含まれています。

通常、ビリルビンは胆汁とともに胆管を通って十二指腸へ排出されます。しかし胆管ががんで塞がれると胆汁が流れなくなり、ビリルビンが血液中へ増えていきます。その結果、皮膚や白目が黄色く見えるようになります。

黄疸は胆管がんだけで起こる症状ではありません。胆管結石、膵臓の病気、肝臓の病気などでも起こるため、原因を画像検査や血液検査で確認する必要があります。

尿が濃い・便が白っぽい・皮膚がかゆい

閉塞性黄疸では、皮膚や目が黄色くなる前後に、尿や便の色が変わることがあります。血液中に増えたビリルビンが尿へ排出されるため、尿が濃い茶色のようになることがあります。

反対に、胆汁が腸へ流れなくなると便へ届く胆汁色素が減るため、便が灰色や白っぽくなることがあります。また胆汁うっ滞に伴って皮膚の強いかゆみが生じる場合もあります。

単なる尿の濃さは脱水でも起こりますが、白目の黄ばみや白っぽい便などを伴う場合には胆汁の流れが悪くなっている可能性を考えます。

腹痛・食欲低下・体重減少・倦怠感

胆管がんでは、みぞおちや右上腹部の痛み、全身のだるさ、食欲不振、体重減少などが起こることがあります。これらは胆管がんだけに特有の症状ではありません。そのため「体重が減ったから胆管がん」と判断することはできません。

一方、特に食事や運動量を変えていないのに体重が減り続ける、腹部の違和感と肝機能異常が続くなど、これまでになかった変化が重なる場合には原因を調べることが必要です。

黄疸に発熱・悪寒を伴う場合は胆管炎にも注意する

胆管が狭くなって胆汁が流れにくくなると、胆管内で細菌感染が起こり、急性胆管炎を発症することがあります。胆管がんも胆汁うっ滞を起こす原因の一つです。

胆管炎では、発熱、悪寒、黄疸、右上腹部痛などがみられます。重症になると血圧低下や意識障害を起こすこともあり、抗菌薬だけでなく、詰まった胆管から胆汁を流す胆道ドレナージが必要になる場合があります。

胆管がんの治療中や胆管ステント留置中に、高熱、強い悪寒、黄疸の急な悪化などがみられた場合には、次の予約日まで待たず治療を受けている医療機関へ連絡します。

参考:日本胆道学会「急性胆管炎」

胆管がんの検査と診断

胆管がんの診断は、一つの検査だけで完結するとは限りません。

大きく分けると、以下のような流れで進みます。

血液検査や超音波で異常を見つける
→ CT・MRIで胆管のどこに病変があり、どこまで広がっているかを見る
→ 必要に応じてPET・PET-CTでリンパ節転移や遠隔転移などを追加で評価する
→ EUSやERCPなどで胆管や周囲をさらに詳しく調べる
→ 細胞や組織を採取して病理診断を行う

すべての患者さんがこれらの検査を順番に受けるわけではなく、病変の場所やCT・MRIの所見、手術を検討しているかなどによって必要な検査を組み合わせます。国立がん研究センターでも、胆道がんではまず血液検査と腹部超音波検査を行い、胆管狭窄や拡張などがあればCTやMRI、さらに必要に応じて内視鏡検査、生検、細胞診へ進む流れを示しています。

胆管がんでは、診断と同時に「手術で取り切れる範囲なのか」まで評価する必要があります。そのため、単に「がんがあるか」を探す検査ではなく、胆管の長さ方向への広がり、門脈・肝動脈などの血管との位置関係、リンパ節や遠隔臓器への転移まで調べます。

参考:胆道がん 検査|国立がん研究センター

血液検査|ビリルビン・ALP・γ-GTPなどを確認する

胆管が狭くなって胆汁の流れが悪くなると、血液中のビリルビン、ALP、γ-GTPなどが上昇することがあります。

ビリルビンは黄疸の程度を知る手がかりになり、ALPやγ-GTPは胆道系の異常を評価するために使われます。国立がん研究センターも、胆道がんの初期検査としてこれらを確認するとしています。

手術や薬物療法を安全に行えるか判断するために、肝機能、腎機能、血球数、炎症反応なども確認します。

ただし、胆管がんがあっても初期には大きな異常が出ない場合があります。反対に胆石や胆管炎などでも胆道系酵素が上がるため、血液検査だけでは胆管がんを診断できません。

CA19-9・CEAなどの腫瘍マーカー

胆管がんでは、血液中のCA19-9やCEAを測定することがあります。国立がん研究センターでも胆道がんで用いる代表的な腫瘍マーカーとしてCA19-9とCEAを挙げています。

腫瘍マーカーは、診断を補助したり治療前後の変化や経過をみたりするために利用します。しかし、CA19-9が高い=胆管がん、と確定することはできません。

胆管が詰まって胆汁がたまっている場合や胆管炎がある場合でもCA19-9が高くなることがあります。逆に胆管がんがあっても数値が高くならない患者さんもいます。したがって、CA19-9の数字だけを見るのではなく、黄疸や炎症の有無、CT・MRIなどの画像所見と合わせて判断します。

腹部超音波検査|胆管の拡張や肝臓の腫瘤を確認する

腹部超音波検査は、体の表面から超音波を当てて肝臓や胆道を観察する検査です。放射線被ばくがなく、身体への負担も比較的小さいため、胆道の異常を調べる最初の画像検査としてよく使われます。

肝外胆管が狭くなっている場合には、その上流側の胆管が拡張して見えることがあります。肝内胆管がんでは、肝臓の中の腫瘤が見つかることもあります。

ただし、超音波だけでは腫瘍の正確な広がりや血管との関係を十分評価できないため、異常が疑われた場合には造影CTやMRIなどへ進みます。

造影CT|がんの広がりと切除可能性を調べる

胆管がんでは造影CTが非常に重要な検査です。

CTでは、胆管が狭くなっている場所や腫瘍の大きさだけでなく、門脈や肝動脈などの血管へどこまで接しているか、周囲臓器へ広がっていないか、リンパ節転移や肝臓・肺などへの遠隔転移がないかを調べます。

特に肝門部領域胆管がんでは、どの血管へどこまで広がっているかによって、どの範囲の肝臓を切除できるかが変わります。

国内の胆道癌診療ガイドラインでは、胆管がんの局在や進展度を評価するためCTを重要な検査として位置づけており、胆道ドレナージを行う前にCTで評価することも推奨されています。この理由は、胆管へステントやチューブを入れた後には胆管炎や画像所見の変化が起こり、治療前の腫瘍の広がりを評価しにくくなる場合があるためです。

ただし、胆管炎など緊急性の高い状態では、画像検査より感染や胆汁うっ滞への治療を優先することがあります。

参考:胆道癌診療ガイドライン 第4版

MRI・MRCP|胆管がどこで狭くなっているかを調べる

MRIは磁気を利用して体内を詳しく画像化する検査です。

胆管がんでは、MRIを利用したMRCP(磁気共鳴胆管膵管造影)がよく用いられます。

MRCPでは造影剤を胆管へ直接注入しなくても、胆管や膵管を画像として描き出すことができます。胆管がどこで細くなっているのか、その上流側がどの程度拡張しているのか、腫瘍が胆管に沿ってどこまで広がっている可能性があるのかを評価する際に役立ちます。

CTとMRIはどちらか一方で十分というより、それぞれ異なる情報を補いながら手術可能性を評価することがあります。国内ガイドラインでも、CTとMRI/MRCPによって相補的な情報を得られると説明されています。

PET・PET-CT|リンパ節転移や遠隔転移を追加で調べることがある

PET・PET-CTは、放射性物質を含む薬剤を使って、がん細胞の活動性を画像化する検査です。胆管がんでは、CTやMRIなどで評価したうえで、リンパ節転移や遠隔転移などを追加で確認する目的で行うことがあります。

一方、すべての胆管がん患者さんに必ず行う検査ではありません。病変の場所やCT・MRIの所見、手術可能性などを踏まえて必要性を判断します。

EUS|胆管周囲を近くから調べる

EUS(超音波内視鏡検査)は、先端に超音波装置が付いた内視鏡を胃や十二指腸まで挿入し、体の内側から胆管や周囲組織を観察する検査です。

体表からの超音波より病変へ近づいて観察できるため、胆管壁の変化、周囲組織への広がり、リンパ節などを詳しく評価できます。特に遠位胆管は膵臓や十二指腸に近いため、EUSによる評価が役立つ場合があります。

一方、どの患者さんにも必ずEUSを行うわけではなく、CT・MRIなどの結果や病変の場所に応じて必要性を判断します。

ERCP|胆管を詳しく調べ、細胞や組織を採取する

ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)では、口から十二指腸まで内視鏡を入れ、十二指腸乳頭から細いカテーテルを胆管へ挿入します。胆管内へ造影剤を入れてX線撮影することで、胆管狭窄の形やがんの広がりを詳しく調べます。

MRCPが身体の外から胆管の全体像を見る検査であるのに対し、ERCPは胆管へ直接アクセスできる点が特徴です。そのため、胆汁を採取して細胞診を行ったり、狭窄部分から組織を採って生検したりできます。黄疸が強い場合には、そのまま胆道ドレナージを行うこともあります。

ただしERCPは、膵炎や胆管炎などの合併症を起こす可能性もあるため「胆管がんが心配だからとりあえずERCPを行う」という検査ではありません。まずCTやMRIなどで病変を評価し、その後、必要な患者さんに行います。

IDUS・経口胆道鏡(POCS)が必要になる場合

通常のCT、MRI、ERCPだけでは、胆管壁のどこまでがんが入り込んでいるか、胆管の長さ方向へどこまで広がっているかを判断しにくい場合があります。

そのようなときに使われる検査の一つがIDUS(管腔内超音波検査)です。ERCPの際に非常に細い超音波プローブを胆管内へ入れ、胆管壁の深さや周囲の血管との関係などを観察します。

POCS(経口胆道鏡)では、細い内視鏡を胆管の中へ進め、胆管粘膜そのものを直接観察します。疑わしい場所から狙って生検できることも利点です。胆管がんが胆管の表面に沿って広がっている範囲を確認する際にも使われます。

これらはすべての患者さんに必要な検査ではありません。「手術でどこまで胆管を切ればがんを取り切れるのか」をより正確に判断する必要がある場合などに追加します。

参考:POCS診療ガイドライン PDF|日本胆道学会

胆管の狭窄=胆管がんとは限らない

胆管が細く狭くなっている画像を見ると、「胆管がんではないか」と疑いますが、胆管狭窄があるだけではがんと確定できません。

胆管を狭くする病気には、原発性硬化性胆管炎やIgG4関連硬化性胆管炎などがあります。特にIgG4関連硬化性胆管炎では、胆管壁が厚くなったり狭窄したりして閉塞性黄疸を起こすことがあり、画像だけでは胆管がんとの鑑別が難しい場合があります。

日本癌治療学会の胆道癌診療ガイドラインでも、硬化性胆管炎は胆管がんと鑑別が必要な「腫瘍類似病変」として扱われています。そのため、画像所見だけではなく、血液検査、IgG4値、ERCP、胆管生検、ほかの臓器の所見などを組み合わせて診断します。

この区別が重要なのは、治療がまったく異なるためです。がんであれば手術や薬物療法を考えますが、IgG4関連硬化性胆管炎はステロイド治療が有効な病気です。

参考:IgG4関連自己免疫性胆管炎|日本胆道学会

胆管がんでは治療前に病理診断がつかない場合もある

一般に「がんの診断」と聞くと、組織を採取して顕微鏡でがん細胞を確認してから治療を始めるイメージがあります。

胆管がんでも可能な限り生検や細胞診による病理診断を行います。国立がん研究センターでは、ERCPやPOCS、胆道ドレナージなどの際に胆汁細胞診や胆管生検を行うことがあると説明しています。

しかし胆管は細い管であり、胃や大腸の腫瘍のように大きな組織を簡単に採取できるとは限りません。がんが胆管壁の内部へ入り込むように広がっている場合には、採取できた組織にがん細胞が含まれず、検査結果が陰性になることもあります。

そのため、細胞診や生検でがん細胞が確認できなかったからといって、胆管がんを完全に否定できるとは限りません。

画像所見、胆管狭窄の形、進展の仕方、腫瘍マーカー、複数回の病理検査などを総合して、胆管がんの可能性が高いと判断することがあります。

一方で、前述したIgG4関連硬化性胆管炎など良性疾患との鑑別も必要です。「病理診断がついていないのになぜ手術を検討するのか」と疑問に思った場合には、画像からどの程度胆管がんが疑われているのか、追加でできる検査はあるのか、良性疾患の可能性をどこまで評価したのかを担当医に確認すると、治療判断を理解しやすくなります。

胆管がんのステージ分類|3つの胆管がんで分類が異なる

胆管がんのステージは、がんがどこまで広がっているのかを示すTNM分類をもとに決めます。

ただし、胆管がんでは肝内胆管がん、肝門部領域胆管がん、遠位胆管がんで同じステージ分類を使うわけではありません。同じ「ステージⅡ」でも、発生した場所によって意味する病状が異なります。国立がん研究センターも、この3種類をそれぞれ別の病期表で掲載しています。

そのため、自分のステージを理解するときには、数字だけでなく、「どの種類の胆管がんについて、どの病期分類を使って説明されているのか」を確認することが大切です。

参考:国立がん研究センター|胆道がん 治療

TNM分類とは

TNM分類は、原発巣の広がりを示すT、リンパ節転移を示すN、遠隔転移を示すMを組み合わせて、がんの進行度を表す方法です。

分類 何を見ているか
T 原発巣の大きさや数、胆管壁への深達度、血管や周囲組織への広がりなど。何を基準にするかは胆管がんの発生部位によって異なる
N 周囲の領域リンパ節へ転移しているか、または転移したリンパ節の数
M 肺、骨、腹膜、遠隔リンパ節など、離れた場所への転移があるか

ここで気をつけたいのがT分類です。

遠位胆管がんでは、がんが胆管壁の中へ何mm入り込んでいるかがT分類に関係します。一方、肝門部領域胆管がんでは門脈や肝動脈への広がりが重視されます。肝内胆管がんでは、腫瘍の大きさだけでなく、単発か多発か、血管や主要胆管へ入り込んでいるかなどが評価されます。

つまり「T2だから3種類とも同じ程度の進行度」という読み方はできません。

胆管がんには一つの共通ステージ分類がない

胆管がんを3種類に分けて病期を考えるのは、発生する場所によって周囲の解剖が大きく異なるためです。

肝内胆管がんは肝臓の中で広がるため、腫瘍の数や血管浸潤などが重要になります。肝門部領域には左右の胆管だけでなく、門脈や肝動脈が複雑に集まっています。遠位胆管は膵臓の中を通っているため、胆管壁への浸潤とリンパ節、周囲の主要血管などを別の基準で評価します。

以下では、それぞれのステージがどのような病状を表すのかを、一般向けに整理します。

肝内胆管がんのステージⅠ~Ⅳ

国立がん研究センターの現行患者向け情報では、肝内胆管がんについて、日本肝癌研究会『原発性肝癌取扱い規約 第6版補訂版(2019年)』に基づく病期分類を掲載しています。

この分類では、主に次の3つがT分類を決める要素になります。

「腫瘍が1個である」「大きさが2cm以下である」「門脈・肝動脈などへの血管浸潤や主要胆管への浸潤がない」という条件です。満たす条件が少なくなるほどT分類が上がり、さらにリンパ節転移や遠隔転移を組み合わせてステージを判定します。

ステージ 一般的な病状のイメージ
Ⅰ期 腫瘍が単発・2cm以下で、血管や主要胆管への浸潤がなく、リンパ節転移・遠隔転移もない状態
Ⅱ期 「単発」「2cm以下」「血管・主要胆管浸潤なし」の3条件のうち2つを満たし、リンパ節・遠隔転移がない状態
Ⅲ期 3条件のうち1つだけを満たし、リンパ節・遠隔転移がない状態
ⅣA期 3条件をいずれも満たさない高度な局所進行、または一定範囲までの腫瘍でリンパ節転移があるものの、遠隔転移はない状態
ⅣB期 局所の広がりが大きくリンパ節転移もある状態、またはほかの臓器などへの遠隔転移がある状態

※上表は、国立がん研究センターの現行患者向け情報で採用されている日本肝癌研究会「原発性肝癌取扱い規約 第6版補訂版(2019年)」を一般向けに整理したものです。原発性肝癌取扱い規約は2025年10月に第7版が刊行されています。実際の診療では、どの版・分類で病期が説明されているかを確認してください。

この分類では、リンパ節転移があるだけで直ちに遠隔転移を意味するわけではありません。また、ⅣA期にも遠隔転移がない患者さんが含まれます。

肝門部領域胆管がんのステージⅠ~Ⅳ

肝門部領域胆管がんでは、がんが胆管壁の外へどこまで広がったかに加えて、門脈や肝動脈への浸潤とリンパ節転移がステージを大きく左右します。

国立がん研究センターの現行患者向け情報では、UICC TNM第8版を基準としています。

ステージ 一般的な病状のイメージ
0期 異常な細胞が胆管の表面にとどまる上皮内がんの状態
Ⅰ期 がんが胆管内にとどまり、筋層や線維組織までの広がりで、リンパ節・遠隔転移がない状態
Ⅱ期 胆管壁を越えて周囲の脂肪組織や隣接する肝実質へ広がっているが、リンパ節・遠隔転移がない状態
Ⅲ期 門脈・肝動脈などの主要血管へ広がっている、または1~3個の領域リンパ節へ転移している状態。遠隔転移はない
ⅣA期 4個以上の領域リンパ節へ転移しているが、遠隔転移は確認されない状態
ⅣB期 離れた臓器や遠隔リンパ節などへ転移している状態

※上表は、国立がん研究センター患者向けページが採用しているUICC TNM第8版を一般向けに整理したものです。

Ⅲ期の中でも状態は一様ではありません。ⅢA期では片側の門脈・肝動脈の枝への浸潤、ⅢB期では主門脈や両側の門脈枝、総肝動脈など、より手術に影響する血管への広がりが含まれます。ⅢC期は1~3個の領域リンパ節転移がある状態です。

このため、肝門部領域胆管がんでは「ステージⅢ」という数字だけでは、手術が可能かどうかまで判断できません。どの側の胆管・門脈・肝動脈へ広がっているのか、反対側の肝臓を十分に残せるのかまで確認する必要があります。

遠位胆管がんのステージⅠ~Ⅳ

遠位胆管がんでは、UICC TNM第8版においてがんが胆管壁へどのくらいの深さまで入り込んでいるかがT分類の中心になります。

さらに、リンパ節転移の個数や主要動脈への浸潤、遠隔転移を組み合わせてステージを判定します。

ステージ 一般的な病状のイメージ
0期 がん細胞が胆管の表面にとどまる上皮内がん・高度異形成の状態
Ⅰ期 胆管壁への浸潤が5mm未満で、リンパ節転移・遠隔転移がない状態
Ⅱ期 胆管壁への浸潤がより深くなっている、または1~3個の領域リンパ節へ転移している状態。遠隔転移はない
Ⅲ期 4個以上の領域リンパ節へ転移している、または腹腔動脈・上腸間膜動脈・総肝動脈など重要な血管へ広がっている状態。遠隔転移はない
Ⅳ期 肝臓、肺、腹膜など離れた場所へ遠隔転移している状態

※上表は、国立がん研究センター患者向けページが採用しているUICC TNM第8版を一般向けに整理したものです。

遠位胆管がんでは、Ⅰ期は胆管壁への浸潤が5mm未満、T2は5~12mm、T3は12mmを超える深さが一つの基準です。ただしステージⅡ以降は、深さだけでなくリンパ節転移との組み合わせによって病期が変わります。

胆管がんのステージ4はどのような状態か

「ステージ4」と聞くと、すべての胆管がんで「遠くの臓器へ転移した状態」をイメージするかもしれません。

しかし、胆管がんでは発生部位と病期分類によって、ステージ4の意味が異なります。

たとえば、遠位胆管がんのUICC第8版ではⅣ期は遠隔転移がある状態です。一方、肝門部領域胆管がんでは、4個以上の領域リンパ節転移があるものの遠隔転移がない状態もⅣA期に含まれます。国立がん研究センターが掲載している国内分類では、肝内胆管がんについても遠隔転移のないⅣA期があります。

したがって「ステージ4=必ず肺や骨などへ遠隔転移している」とは限りません。

また、ステージだけで手術の可否が自動的に決まるわけでもありません。胆管がんでは、血管への広がり、切除後に残せる肝臓の量と機能、リンパ節転移、遠隔転移、全身状態などを合わせて切除可能性を判断します。国立がん研究センターも、遠隔転移がなくても技術的に切除が難しい場合があり、その判断が施設によって異なる場合もあると説明しています。

切除できないと判断された場合には薬物療法が治療の中心になりますが、現在は免疫療法や、特定の遺伝子異常に応じた治療も使われるようになっています。後の章で、切除不能・再発胆管がんの治療とバイオマーカー検査について詳しく説明します。

参考:日本肝胆膵外科学会|胆管がん

治療前のcStageと手術後のpStageは異なることがある

治療前には、CTやMRIを中心に、EUSや、必要に応じてPET・PET-CTなどの検査結果を組み合わせて、がんの広がりを評価します。このように治療前の情報から判断する病期を臨床病期(cStage)と呼びます。

手術を行った場合には、切除した胆管、肝臓、膵臓、リンパ節などを病理検査で詳しく調べることができます。この結果から評価される病期が病理病期(pStage)です。

画像では転移がないように見えたリンパ節から、手術後にがん細胞が見つかることもあります。反対に、画像でがんの浸潤が疑われた場所に、病理検査ではがん細胞が確認されないこともあります。

そのため、手術前に説明されたステージと手術後に説明されるステージが変わることがあります。これは必ずしも最初の診断が誤っていたという意味ではなく、手術によってより詳しい情報が得られた結果です。

※国立がん研究センターの現行患者向け情報ではUICC TNM第8版が掲載されています。一方、UICCでは第9版が2025年に刊行され、2026年1月からの使用が推奨されています。本記事では国立がん研究センターの患者向け情報と対応させるため第8版を示していますが、実際の診療では診断書・病理報告書で使用された分類・版を確認してください。

胆管がん治療の全体像

胆管がんでは、ステージを決めた後に「ステージ○なら必ずこの治療」という一対一の対応で治療が決まるわけではありません。

治療方針を決める大きな分岐は「がんを手術で完全に取り切れる可能性があるか」です。

胆道がんではまず手術が可能かを検討し、手術できない場合には薬物療法を中心とした治療を行います。2025年版『胆道癌診療ガイドライン 改訂第4版』でも、診療アルゴリズムは外科切除の可否を大きな分岐として構成されています。

病状 主な治療の考え方
手術で取り切れると判断される 根治切除を目指して手術を行う。根治切除後は、術後の回復や全身状態などを確認し、S-1による術後補助化学療法を検討する
切除できるか慎重な判断が必要 血管への広がり、残せる肝臓の量と機能、胆管の広がりなどを専門施設で詳しく評価する
局所進行で切除できない 薬物療法を中心に行い、遠隔転移がない場合などには放射線治療を検討することがある
遠隔転移・再発 全身に作用する薬物療法が中心。治療歴やバイオマーカーによって使用する薬を選ぶ
黄疸・胆管炎がある 状態に応じて胆道ドレナージや感染治療を行い、胆汁の流れと全身状態を整えてから手術や薬物療法へ進む

手術を行えるかは、腫瘍の大きさだけでは決まりません。国立がん研究センターでは、手術に耐えられる全身状態であること、遠隔転移がないこと、肝切除が必要な場合には手術後に十分な肝機能を保てると予測できることなどを、切除可能性の判断材料として挙げています。

特に肝門部領域胆管がんでは、門脈や肝動脈と胆管が狭い範囲に集まっています。同じ画像所見でも、血管再建を含む手術を行えるか、どのくらい肝臓を残せるかなどによって判断が難しくなることがあります。

2025年版ガイドラインでも「borderline resectable(切除可能境界)胆道がんとはどのような症例か」はFuture Research Question(将来の研究課題)として残されており、膵がんのように全国共通の明確な切除可能境界分類が確立しているわけではありません。

そのため「手術できない」と説明されたときには、遠隔転移があるためなのか、重要な血管や胆管への広がりのためなのか、残せる肝臓の量・機能が不足するためなのかを確認することが、その後の治療を理解する助けになります。

参考:国立がん研究センター|胆道がん 治療
参考:胆道癌診療ガイドライン 第4版

黄疸がある場合の胆道ドレナージ

肝門部領域胆管がんや遠位胆管がんでは、腫瘍によって胆管が狭くなり、胆汁が流れなくなることがあります。

胆汁がたまると黄疸が強くなるだけでなく、胆管炎を起こしたり、肝機能が低下したりすることがあります。また、黄疸が強い状態では予定している手術や薬物療法を安全に行いにくくなることもあります。国立がん研究センターも、胆道閉塞によって手術や薬物療法が妨げられる場合に、胆道ドレナージを行うと説明しています。

胆道ドレナージとは、詰まった胆管から胆汁を流れるようにする処置です。これはがんそのものを取り除く治療ではありません。しかし、次のがん治療へ安全に進むために非常に重要な治療になることがあります。

参考:国立がん研究センター|胆道がん 治療

手術を考える場合は胆道ドレナージ前に造影CTで広がりを確認することがある

黄疸があると「まず胆管へステントを入れればよい」と思うかもしれません。しかし、手術による切除を目指す胆管がんでは、可能であれば胆道ドレナージを行う前に造影CTで腫瘍の広がりを評価することがあります。

2025年版『胆道癌診療ガイドライン 改訂第4版』でも、胆道ドレナージ章の最初に「閉塞性黄疸を有する胆道癌切除企図例に対して、胆道ドレナージ前に造影CTを行うか」が独立した項目として設けられています。

ドレナージ前の画像には、治療による胆管の変化が加わっていません。そのため、腫瘍が胆管のどこまで広がっているか、門脈や肝動脈とどのような位置関係にあるかなどを評価し、どの肝臓を残すかという手術計画を立てるうえで役立ちます。従来の国内ガイドラインでも、CTやMRI/MRCPは可能な限り胆道ドレナージ前に評価する考え方が示されてきました。

ただし、高熱や悪寒を伴う胆管炎など、感染への緊急対応が必要な場合には、画像診断より胆汁を流す処置や感染治療を優先することがあります。

参考:胆道癌診療ガイドライン 第4版

胆道ドレナージとは

胆道ドレナージでは、狭くなった部分を越えてチューブやステントを留置し、たまった胆汁を排出します。

大きく分けると、胆汁を体の外へ出す「外ろう(外瘻:がいろう)」と、胆汁を十二指腸など体内へ流す「内ろう(内瘻:ないろう)」があります。国立がん研究センターでは、内視鏡を使う方法と、体表から肝臓を通して胆管へ到達する経皮的な方法などを説明しています。

胆管がんでは「黄疸があれば全員同じ方法」というわけではありません。がんの場所、手術予定、胆管炎の有無、どの胆管が詰まっているのかによって方法を選びます。

ENBDと胆管ステントは胆汁の流し方が異なる

内視鏡を用いた代表的な方法には、内視鏡的経鼻胆管ドレナージ(ENBD)内視鏡的胆管ステント留置(EBS)があります。

方法 仕組み 特徴
ENBD 胆管に入れたチューブを鼻から体外へ出し、胆汁を外へ排出する 胆汁の量や性状を確認しやすく検査にも利用できる一方、鼻からチューブが出ているため違和感や自己抜去などが問題になる
胆管ステント 狭窄部分にステントを留置し、胆汁を体内から十二指腸へ流す 体外にチューブが出ないため生活上の負担は少ないが、詰まりや感染が起こると交換などが必要になる

2025年版ガイドラインでも、肝門部領域胆管がんの術前ドレナージについてENBD、EBS、インサイドステントを比較するCQ(クリニカル・クエスチョン:臨床的疑問)が独立して設けられており、病変の場所や手術計画に応じて方法を選ぶことが前提となっています。

肝門部領域胆管がんでは「どの胆管を流すか」も重要

肝門部領域胆管がんでは、左右の胆管が分かれる場所に腫瘍があるため、「胆汁を流せればどこでもよい」というわけではありません。

手術で右側の肝臓を切除して左側を残す予定であれば、手術後に残る肝臓から胆汁が流れる状態を整えることが特に重要になります。

国内ガイドラインでも、大きな肝切除を予定する胆道がんでは、残す予定の肝臓側を中心とした胆道ドレナージが重視されています。

このため、肝門部領域胆管がんの胆道ドレナージは、単なる黄疸の処置ではなく、その後に行う肝切除の計画と一体になった治療と考える方が実態に近くなります。

遠位胆管がんでも全員に術前ドレナージを行うわけではない

遠位胆管がんでも、強い黄疸や胆管炎がある場合には胆道ドレナージを行います。

一方で、肝切除を伴わず膵頭十二指腸切除へ速やかに進める患者さんなどでは、必ずしも全員に術前ドレナージが必要になるわけではありません。2025年版ガイドラインでも、遠位胆管がんの術前経乳頭的ドレナージを独立したCQとして検討しています。

黄疸の程度、胆管炎の有無、手術までの期間、術前薬物療法の予定などを考慮して判断します。

内視鏡で胆汁を流せない場合には別の方法を検討する

通常はERCPを利用して十二指腸側から胆管へ到達する方法が用いられますが、胆管の狭窄や消化管の形などによって内視鏡的ドレナージが難しい場合があります。

その際には、体表から肝臓を通して胆管へチューブを入れる経皮経肝胆道ドレナージなどを検討することがあります。EUSを利用した胆道ドレナージもありますが、切除を目指す胆管がんでの位置づけについては、2025年版ガイドラインでも今後の研究課題として扱われています。

発熱・悪寒・黄疸の再燃は胆管炎やステント閉塞の可能性がある

胆道ドレナージを行えば、その後ずっと胆汁が問題なく流れるとは限りません。

ステントやチューブが詰まったり、位置がずれたりすると再び胆汁が流れにくくなり、胆管炎を起こすことがあります。腹痛、発熱、黄疸などは、胆道ドレナージに問題が起きたときにみられる症状です。

胆管ステント留置後に高熱、悪寒、黄疸の悪化、強い腹痛などが現れた場合は、次回の診察日を待たず治療を受けている医療機関へ連絡します。

胆管がんの手術|発生部位で手術方法が大きく変わる

胆管がんで根治を目指す場合には、がんを残さず切除することが手術の目的になります。

ただし、胆管は肝臓の中から膵臓まで続いています。そのため、同じ胆管がんでも、発生した場所によって一緒に切除する臓器が大きく変わります。国立がん研究センターも、肝内胆管がん、肝門部領域胆管がん、遠位胆管がんで異なる術式を示しています。

種類 主な手術 なぜその手術が必要か
肝内胆管がん 部分肝切除・肝葉切除・拡大肝切除など がんが肝臓内の胆管に発生するため、腫瘍を含む肝臓を切除する
肝門部領域胆管がん 肝切除+肝外胆管切除+胆のう摘出+リンパ節郭清など 胆管が肝臓内へ枝分かれする部分にがんがあるため、片側の肝臓と胆管を一体として切除することが多い
遠位胆管がん 膵頭十二指腸切除+リンパ節郭清 遠位胆管が膵頭部の中を通るため、胆管だけを安全に分離して切除することが難しい

参考:国立がん研究センター|胆道がん 治療

肝内胆管がんでは腫瘍を含む肝臓を切除する

肝内胆管がんでは、がんがある場所と広がりに応じて肝臓を切除します。

腫瘍が一部に限られていれば部分切除を行う場合があります。右葉または左葉にまとまっている場合には、右肝切除・左肝切除などを行い、さらに広い範囲に及ぶ場合には拡大肝切除が必要になることがあります。

また、肝門部に近い肝内胆管がんでは、肝臓だけでなく肝外胆管や胆のうを切除し、周囲のリンパ節を郭清する場合もあります。日本肝胆膵外科学会も、肝内胆管がんでは胆管に沿った進展などを考慮して切除範囲を決める必要があると説明しています。

「肝内胆管がんなら肝臓の腫瘍だけを小さく取ればよい」とは限らず、がんを残さない切除範囲と、手術後に十分な肝機能を残すことの両方を考えて術式を決めます。

参考:日本肝胆膵外科学会|胆管がん

肝門部領域胆管がんではなぜ大きな肝切除が必要になるのか

肝門部では、右肝管と左肝管が合流して一本の胆管になります。

がんがこの合流部にできると、胆管の表面に沿って左右どちらかの肝臓側へ広がることがあります。胆管だけを途中で切除しても十分な切除断端を確保できない場合があるため、がんが広がっている側の肝臓と胆管を一体として切除します。

さらに肝門部には門脈と肝動脈も集まっているため、がんとの位置関係によって手術の難しさが大きく変わります。

切除後には、残った肝臓側の胆管と小腸をつないで、胆汁が再び腸へ流れるように再建します。

残す肝臓が小さい場合には門脈塞栓術を行うことがある

肝臓は再生能力のある臓器ですが、あまりに多く切除すると、残った肝臓だけでは身体に必要な働きを維持できず、術後肝不全を起こす危険があります。

そこで大きな肝切除を予定しており、手術後に残る肝臓の量が不足すると予測される場合に「門脈塞栓術(PVE)」を行うことがあります。

門脈塞栓術では、手術で切除する予定の肝臓へ流れる門脈をあらかじめ塞ぎます。すると血流が残す側へ多く流れるようになり、数週間かけて残す予定の肝臓を大きくすることを目指します。国立がん研究センターも、大きな肝切除が必要な場合には手術前に門脈塞栓術を行うことがあると説明しています。2025年版ガイドラインでもPVEと残肝機能評価が独立した項目になっています。

つまり門脈塞栓術は、がんそのものを治療するためではなく、予定した肝切除をより安全に行える状態へ近づけるための術前処置です。

遠位胆管がんではなぜ膵頭十二指腸切除を行うのか

遠位胆管は、十二指腸へ入る直前に膵臓の頭側である膵頭部の中を通っています。そのため、遠位胆管がんだけを胆管からくり抜くように切除すると、十分な切除範囲を確保できないことがあります。

一般的には膵頭十二指腸切除術を行い、遠位胆管と胆のう、膵頭部、十二指腸などを一緒に切除し、周囲のリンパ節も郭清します。切除後は残った膵臓、胆管、胃などを小腸につなぎ直し、食物、胆汁、膵液が再び腸へ流れるように再建します。

「胆管がんなのに、なぜ膵臓や十二指腸まで取るのか」と疑問に感じるかもしれませんが、これは遠位胆管が膵頭部と解剖学的に一体となっているためです。

血管まで広がっていても一律に手術不能とは限らない

肝門部領域胆管がんでは、門脈や肝動脈へがんが接したり入り込んだりすることがあります。血管浸潤は切除を難しくする重要な要素ですが、「血管に広がっている=必ず手術不能」ではありません。

病変の範囲によっては、門脈などをがんと一緒に切除して再建する手術を検討することがあります。2025年版胆道癌診療ガイドラインでも、肝動脈の合併切除・再建や複合的な大きな手術が個別の臨床課題として扱われています。ただし、このような手術は通常の胆管切除よりはるかに難易度が高く、合併症リスクも含めて慎重な判断が必要です。

手術不能と説明された場合には「どの血管への広がりが理由なのか」「残す側の血流を保てないためなのか」「ほかの臓器への転移が理由なのか」を確認すると、なぜその治療方針になったのかを理解しやすくなります。

肝門部領域胆管がんの肝移植は研究段階

通常の肝切除ではがんを取り切れない一部の肝門部領域胆管がんに対して、肝臓全体を摘出して生体肝移植を行う治療が研究されています。

日本では「切除不能な肝門部領域胆管癌に対する生体肝移植」が先進医療Bとして実施され、多施設共同の前向き臨床研究で安全性や治療成績の評価が続いています。厚生労働省の2026年の先進医療一覧にも掲載されており、臨床研究登録も募集中となっています。

対象になるのは、通常の肝切除では十分な肝臓を残せない、重要な血管への浸潤で残す肝臓への血流を確保できないなど、厳格な条件を満たす患者さんです。

現時点では、切除不能な肝門部領域胆管がんに対する一般的な標準治療として確立した肝移植ではありません。

「手術できないなら肝移植を受ければよい」という治療ではなく、現在は研究の対象となる一部の患者さんで検討される治療です。

参考:日本肝胆膵外科学会|切除不能な肝門部領域胆管癌に対する生体肝移植(先進医療B)
参考:厚生労働省|先進医療の各技術の概要

胆管がん手術では施設・術者の経験も確認する

胆管がんの手術には、大きな肝切除、胆管再建、膵頭十二指腸切除、場合によっては血管の合併切除・再建など、高度な肝胆膵外科技術が必要になる場合があります。

2025年版ガイドラインでも、「胆道がん手術は手術数の多い施設で行うことが推奨されるか」が独立したCQ(臨床的疑問)として扱われています。

特に「切除できるかできないか」の境界にある場合には、ステージ番号だけで判断するのではなく、胆道がん手術の経験が多い施設で切除可能性を評価することにも意味があります。

参考:胆道癌診療ガイドライン 第4版

切除可能胆管がんの術前・術後薬物療法

手術で目に見える胆管がんをすべて切除できても、身体の中に画像では確認できない微小ながん細胞が残っている可能性があります。

そのため胆管がんでは、手術だけで治療を終えるのではなく、手術後に再発を減らすための薬物療法を行うことがあります。

一方、食道がんなどとは異なり、切除可能な胆管がんの患者さん全員に手術前の化学療法を行うことは、現在の標準治療として確立していません。術前治療と術後治療では、現時点での位置づけが異なります。

手術で取り切っても再発することがある

画像検査や手術で確認できるがんを完全に切除しても、ごく少量のがん細胞がすでにリンパ管や血液を通って身体の中に広がっていることがあります。

このような微小ながん細胞はCTやMRIでは確認できません。

胆道がんは根治切除後にも再発することがあり、JCOG1202の2026年公表の副次解析でも、根治切除を受けた患者さんの約30%が術後12カ月以内に再発したと報告されています。

術後補助化学療法は、手術で取り残した大きながんを治療するのではなく、画像には見えない微小ながん細胞を治療し、再発の可能性を下げることを目的としています。

参考:JCOG1202 サブグループ解析|PubMed

術後補助化学療法ではS-1が標準治療

現在、日本では根治切除後の胆道がんに対する術後補助化学療法として、S-1(エスワン)が標準治療となっています。

その根拠となったのが、日本で行われたJCOG1202/ASCOT試験です。

根治手術を受けた胆道がん患者440人を対象に、手術後に経過観察する群とS-1を使用する群を比較したところ、3年生存割合は経過観察群67.6%に対してS-1群77.1%で、S-1によって生存期間が有意に延長しました。この結果を受け、国立がん研究センターはS-1補助療法が日本における胆道がん根治手術後の標準治療として確立したとしています。

S-1は飲み薬ですが「点滴ではないから負担が小さい」という意味ではありません。骨髄抑制、食欲低下、下痢、口内炎などによって治療継続が難しくなる場合もあるため、副作用については後の「治療の副作用と生活」の章で詳しく説明します。

参考:JCOG1202 原著論文|PubMed

S-1をすべての患者さんが同じように受けられるわけではない

JCOG1202の結果から、根治切除後のS-1は標準的な第一選択となっています。

ただし、標準治療であることと、手術を受けたすべての患者さんが同じ条件で安全に治療できることは別です。

胆管がんの手術は、肝切除や膵頭十二指腸切除など身体への負担が大きい手術になることがあります。術後には体重減少や食事量の低下、肝機能・腎機能の変化、感染症などが起こることもあります。

そのため実際にS-1を開始するか、どのように継続するかについては、手術からの回復状態、血液検査、臓器機能、併存疾患、副作用への耐容性などを確認して判断します。

主治医から術後薬物療法を勧められた場合には、「なぜ自分にはS-1が勧められているのか」「いつから始める予定か」「術後の回復が遅れた場合はどうするのか」を確認すると、その目的を理解しやすくなります。

術前化学療法はすべての切除可能胆管がんに行う標準治療ではない

「手術後に抗がん薬を使うのであれば、手術前から使った方がよいのではないか」と考えるかもしれません。

胆管がんでも、手術前に薬物療法を行うことで、画像では見えないがん細胞を早い段階から治療したり、再発を減らしたりできる可能性が研究されています。

しかし、2026年現在、切除可能な胆管がんすべてに術前化学療法を行うことは標準治療として確立していません。

2025年版胆道癌診療ガイドラインでも、切除可能胆道がんに対する術前化学療法は独立したCQ(臨床的疑問)として検討されています。さらにJCOGでは、切除可能胆道がんを対象として、ゲムシタビン+シスプラチン+S-1(GCS)による術前化学療法の有効性を検証する第III相試験JCOG1920が現在も行われています。

したがって「胆管がんでは手術前の抗がん剤をしないのは治療が足りない」ということではありません。

現在の標準治療と、治療成績をさらに改善するために臨床試験で検証されている治療を区別して理解する必要があります。

参考:JCOG1920|切除可能胆道癌に対する術前GCS療法 第III相試験

切除不能・再発胆管がんの薬物療法

遠隔転移がある場合や、重要な血管への広がりなどから手術でがんを取り切ることが難しい場合、手術後に再発した場合には、全身へ作用する薬物療法が治療の中心になります。

薬物療法の目的は、画像で確認できる病変だけでなく、全身に存在する可能性があるがん細胞へ作用し、がんの進行を抑えて生存期間を延ばしたり、がんによる症状を軽減したりすることです。

2025年版『胆道癌診療ガイドライン 改訂第4版』では、切除不能胆道がんについて一次治療と二次治療をそれぞれ独立したCQ(クリニカル・クエスチョン:臨床的疑問)として扱っています。

参考:胆道癌診療ガイドライン 第4版

一次治療では化学療法+免疫療法が重要な選択肢

長く胆道がんの薬物療法の基本となってきたのが、ゲムシタビン+シスプラチン(GC療法)です。

現在はGC療法に免疫チェックポイント阻害薬を加える治療が加わり、主な選択肢として「ゲムシタビン+シスプラチン+デュルバルマブ」または、「ゲムシタビン+シスプラチン+ペムブロリズマブ」などが用いられています。

デュルバルマブ、ペムブロリズマブはいずれも2026年8月現在、日本で胆道がんに対する最適使用推進ガイドラインが公表されています。デュルバルマブの胆道がんガイドラインは2026年6月にも改訂されています。

デュルバルマブを検証したTOPAZ-1試験では、未治療の切除不能局所進行・転移性胆道がんを対象として、GC療法だけの場合と比べてデュルバルマブを加えた群で全生存期間が改善しました。長期追跡でもこの効果は維持され、3年生存割合はデュルバルマブ併用群14.6%、対照群6.9%でした。

参考:TOPAZ-1|デュルバルマブ+GC 長期追跡

ペムブロリズマブについても、1,069人を対象としたKEYNOTE-966試験で、GC療法への追加によって全生存期間が改善したことが示されています。これらの試験は胆道がん全体を対象としており、肝内胆管がん・肝外胆管がんなどが含まれています。

参考:KEYNOTE-966|ペムブロリズマブ+GC

一方、日本ではゲムシタビン+シスプラチン+S-1(GCS療法)も重要な一次治療の選択肢です。

日本で行われたMITSUBA試験では、GCS療法はGC療法と比較して全生存期間を改善し、奏効率も高くなりました。中央値はGCS療法13.5カ月、GC療法12.6カ月で、奏効率はそれぞれ41.5%、15.0%でした。

参考:MITSUBA試験|GCS vs GC

そのため現在の胆管がん治療は、「GC療法だけ」が唯一の標準治療という状況ではありません。

どの一次治療を選ぶかは、がんの広がりだけでなく、腎機能、全身状態、胆管炎などの感染状況、これまでの病気、免疫療法を安全に使用できるかなどを合わせて判断します。

参考:PMDA|最適使用推進ガイドライン

免疫療法やシスプラチンを使いにくい場合は治療を調整

「化学療法+免疫療法が標準的」と言っても、すべての患者さんが同じ組み合わせを受けられるわけではありません。

シスプラチンは腎臓への負担があるため、腎機能が低下している患者さんでは使用しにくい場合があります。また、大量の点滴による水分補給が負担になる状態や、以前の治療による副作用が残っている場合なども、治療内容の調整が必要になります。シスプラチンでは腎障害のほか、聴力低下や末梢神経障害などにも注意します。

免疫チェックポイント阻害薬についても、自己免疫疾患などの既往や現在の病状によっては使用を慎重に判断することがあります。使えるかどうかは疾患名だけで一律に決まるのではなく、病気の活動性や治療内容などから個別に評価します。

シスプラチンを含む治療が適さない場合には、腎機能や全身状態などを踏まえて、ゲムシタビン+S-1(GS療法)など別の治療を検討することがあります。

日本のJCOG1113(FUGA-BT)試験では、GS療法はGC療法に全生存期間で劣らないことが示されました。GS療法ではシスプラチン投与時のような大量の補液を必要としないことも治療上の違いです。

したがって「免疫療法を使えないから治療がない」「シスプラチンを使えないから抗がん治療ができない」とは限りません。臓器機能や体力に合わせて、治療の組み合わせや薬の量を調整していきます。

参考:JCOG1113/FUGA-BT|GS vs GC

黄疸や胆管炎がある場合は薬物療法より先に状態を整えることがある

胆管がんでは、薬物療法そのものだけでなく、胆汁が十分に流れているかが治療継続に関係します。

胆管が閉塞してビリルビンが高い状態や胆管炎を起こしている状態では、抗がん薬を予定どおり使用できない場合があります。2025年版胆道癌診療ガイドラインでも「閉塞性黄疸を伴う切除不能胆道がんで、どこまで減黄してから薬物療法を開始するか」が独立したCQになっています。

そのため、高度の黄疸や胆管炎があれば、前章で説明した胆道ドレナージや感染治療を行い、肝機能や全身状態を整えてから薬物療法を開始することがあります。

治療中にステントが詰まって胆管炎を起こした場合にも、抗がん薬をそのまま続けるのではなく、一時的に治療を休み、感染や胆道閉塞への対応を優先することがあります。

二次治療以降は「前に何を使ったか」とバイオマーカーを確認する

一次治療を続けていても、がんが再び大きくなったり新しい転移が現れたりすることがあります。その場合には二次治療を検討しますが、「二次治療だから全員この薬」と一つに決まるわけではありません。

これまでにどの抗がん薬・免疫療法を使用したか、どの副作用が残っているか、肝機能や腎機能、体力がどの程度保たれているかによって選択肢が変わります。

海外のABC-06試験では、GC療法後に病状が進行した胆道がんに対して、フルオロウラシル、レボホリナート、オキサリプラチンを組み合わせるFOLFOX療法を行うことで、症状への治療だけを行った群と比べて全生存期間が改善しました。

参考:ABC-06試験|FOLFOX療法

一方、日本では治療歴や全身状態に応じて、フルオロピリミジン系薬剤を含む治療などを検討します。2025年版ガイドラインでも二次治療は一次治療とは別にCQ24として評価されています。

さらに現在は、二次治療以降を考える際にもう一つ確認したい情報があります。

それが、がんが持つ遺伝子異常やバイオマーカーです。

胆管がんでは、一部の患者さんでFGFR2融合遺伝子、IDH1遺伝子変異などに対応した薬を使用できるようになっています。そのため、進行・再発胆管がんでは、「次の抗がん薬は何か」だけでなく、「自分のがんで治療につながるバイオマーカーが調べられているか」も治療選択の一部になっています。

胆管がんの遺伝子検査・バイオマーカー

胆管がんでは、同じ病名・同じステージであっても、がん細胞が持っている遺伝子異常などの特徴は患者さんによって異なります。現在は、その違いをバイオマーカーとして調べることで、特定の分子標的薬や免疫療法を使用できる患者さんを見つけられる場合があります。

特に胆管がんでは、FGFR2融合遺伝子やIDH1変異をはじめ、BRAF V600E、HER2遺伝子増幅、MSI-High/dMMR、TMB-High、NTRK融合遺伝子、RET融合遺伝子、ALK融合遺伝子など、治療選択につながる複数のバイオマーカーがあります。2026年8月に肝癌研究会・日本肝胆膵外科学会・日本胆道学会が合同で公表した『胆道癌患者におけるバイオマーカー検査の手引き Ver.1.0』でも、これらと検査方法が整理されています。

ただし、遺伝子異常が見つかったから必ず対応する薬を使用できるわけではありません。これまで受けた治療、病状、承認されている薬の適応条件、使用した検査方法、全身状態などを確認したうえで治療を判断します。

参考:3学会合同|胆道癌患者におけるバイオマーカー検査の手引き(2026年8月 Ver.1.0)

バイオマーカー検査・遺伝子パネル検査・CGPは何が違う?

胆管がんの治療について調べると、「バイオマーカー検査」「遺伝子検査」「がん遺伝子パネル検査」「コンパニオン診断」「CGP」など、似た言葉がいくつも出てきます。

これらは同じ意味ではありません。「何を調べる検査なのか」と「何のために行う検査なのか」が混ざって使われているため、分けて考えると理解しやすくなります。

バイオマーカー検査は、がんの性質や治療効果の予測に役立つ「目印」を調べる検査の総称です。バイオマーカーには遺伝子だけでなく、タンパク質なども含まれます。

その中で遺伝子の異常を調べるものが遺伝子検査です。1つまたは少数の遺伝子だけを調べる検査もあれば、数十~数百の遺伝子を一度に調べるがん遺伝子パネル検査もあります。国立がん研究センターは、がん遺伝子パネル検査を数十から数百個の遺伝子異常を一度に調べる検査と説明しています。

一方、コンパニオン診断は検査を行う「目的」を表す言葉で、特定の薬を使用できる患者さんかどうかを判断するために行います。1つの遺伝子を調べる検査が使われる場合もあれば、承認されているがん遺伝子パネル検査をコンパニオン診断として使用する場合もあります。

CGP(包括的がんゲノムプロファイリング)では、がん遺伝子パネル検査を用いて多数の遺伝子を幅広く調べ、特定の薬だけを前提とせず、その患者さんに治療につながる遺伝子異常や臨床試験の候補がないかを探索します。なお、一部のがん遺伝子パネル検査はCGPとして使われるだけでなく、特定の薬に対するコンパニオン診断としても承認されているため、両者は完全に別々の検査というわけではありません。

たとえばIDH1変異では、イボシデニブの適応を判断するコンパニオン診断として、複数遺伝子を同時に調べるオンコマインDx Target Testも使用できます。ただし、この検査で別の遺伝子異常が見つかっても、その結果だけでは対応する薬の適応判定に利用できず、別の承認検査やCGPで確認が必要になる場合があります。

そのため「遺伝子検査を受けた」ということだけでは、現在の治療に必要なバイオマーカーがすべて評価されているとは限りません。すでに遺伝子検査を受けている場合にも、どの検査で、どのバイオマーカーまで調べたのか、その結果を薬の適応判断に使えるのかを確認することが、その後の治療選択につながります。

胆管がんではどのバイオマーカーが治療につながるのか

2026年8月の3学会合同手引きでは、胆道がんに対して保険適用薬があるバイオマーカーと治療薬が次のように整理されています。

バイオマーカー 胆管がんでの特徴 治療との関係
FGFR2融合遺伝子 主に肝内胆管がんでみられる ペミガチニブ、フチバチニブ、タスルグラチニブなどのFGFR阻害薬につながる場合がある
IDH1変異 主に肝内胆管がんでみられる イボシデニブが候補になる場合がある
HER2遺伝子増幅 肝外胆管がんなどでもみられる 条件を満たせばトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が候補になる場合がある
BRAF V600E 一部の胆管がんでみられる ダブラフェニブ+トラメチニブが候補になる場合がある
MSI-High/dMMR 頻度は高くないが、免疫療法の効果予測に関係する ペムブロリズマブが候補になる場合がある
TMB-High がん細胞に生じている遺伝子変異量を示す指標 条件を満たせばペムブロリズマブが候補になる場合がある
NTRK1/2/3融合遺伝子 胆管がんではまれ ラロトレクチニブ、エヌトレクチニブ、レポトレクチニブなどが候補になる場合がある
RET融合遺伝子 胆管がんではまれ セルペルカチニブが候補になる場合がある
ALK融合遺伝子 胆管がんでは非常にまれ 条件を満たせばアレクチニブが候補になる場合がある

FGFR2やIDH1のように胆道がんに対する治療薬として承認されているものだけでなく、BRAF、HER2、MSI-High、TMB-High、NTRK、RET、ALKなど、がんの発生臓器を越えて特定の分子異常を持つ固形がんを対象とした治療も含まれます。そのため、異常が見つかった場合には、その薬の現在の適応条件を個別に確認します。

参考:3学会合同|胆道癌患者におけるバイオマーカー検査の手引き(2026年8月 Ver.1.0)

FGFR2融合遺伝子|肝内胆管がんで特に確認したいバイオマーカー

FGFR2は、細胞の増殖などに関係するFGFRというタンパク質を作る遺伝子です。別の遺伝子と融合するとFGFR2の働きが異常に活性化し、がん細胞の増殖を促すことがあります。

FGFR2融合遺伝子・再構成は、肝門部領域や肝外胆管がんよりも肝内胆管がんに特徴的にみられる分子異常です。3学会合同手引きのC-CATデータでも、組織CGPにおけるFGFR2融合・再構成の検出割合は肝内胆管がんで約4%、肝門部領域・肝外胆管がんでは1%未満でした。ただし、検査法によって検出率が異なるため、この数字を患者個人の確率として考えることはできません。

現在国内ではFGFR2融合遺伝子陽性胆道がんに対して、ペミガチニブ、フチバチニブ、タスルグラチニブという複数のFGFR阻害薬があります。薬剤ごとに承認されたコンパニオン診断が異なるため、どの検査でFGFR2異常が確認されたのかも治療判断に関係します。

これらのFGFR阻害薬は、FGFR2融合遺伝子が見つかれば診断直後から使用する薬というわけではありません。国内では、がん化学療法後に増悪したFGFR2融合遺伝子陽性の治癒切除不能な胆道がんが主な適応であり、一次治療としての有効性・安全性は確立していません。どの治療ラインで使用するかは、それまでの治療歴と各薬剤の承認条件を確認して判断します。

なお、研究やCGP結果では「FGFR2再構成」と記載されることがありますが、再構成と治療薬の適応となる機能的な融合遺伝子が常に同じ意味とは限りません。実際の薬剤適応は、検査結果と承認条件を照合して判断します。

IDH1変異|肝内胆管がんでみられる治療標的

IDH1は細胞内の代謝に関係する酵素を作る遺伝子です。この遺伝子に特定の変異が起こると、通常とは異なる代謝産物がつくられ、がんの発生や増殖に関係すると考えられています。

IDH1変異も、肝門部領域・肝外胆管がんより肝内胆管がんで多くみられる特徴があります。3学会合同手引きに掲載されたC-CATの組織CGPデータでは、肝内胆管がんで15%前後、肝門部領域・肝外胆管がんでは数%以下でした。

2026年現在、国内でのイボシデニブの適応は、がん化学療法後に増悪したIDH1遺伝子変異陽性の治癒切除不能な胆道がんです。IDH1変異が見つかったからといって一次治療からイボシデニブを使用するわけではなく、それまでに受けた治療と病状を踏まえて導入時期を判断します。

手引きでは、IDH1変異について治療が必要になった段階で初めて調べるのではなく、適切な治療ラインでイボシデニブを導入できるよう、早い段階から変異の有無を把握しておくことの意義も示されています。

HER2・BRAF・MSI-Highなども治療選択につながることがある

FGFR2やIDH1以外にも、治療につながるバイオマーカーがあります。

3学会合同手引きでは、HER2についてHER2遺伝子増幅とトラスツズマブ デルクステカンの組み合わせが、保険適用薬のあるバイオマーカーとして整理されています。HER2異常は肝内胆管がんだけに偏るものではなく、発生部位によって頻度が異なることも報告されています。

BRAF V600E変異ではダブラフェニブ+トラメチニブ、MSI-High/dMMRやTMB-Highではペムブロリズマブ、NTRK融合遺伝子、RET融合遺伝子、ALK融合遺伝子でも、それぞれ対応する分子標的薬が治療候補になる場合があります。

これらは頻度が低いものもあります。しかし、頻度が低いことと調べる意味がないことは同じではありません。見つかった場合に治療選択が大きく変わる可能性があるため、進行・再発胆管がんでは複数のバイオマーカーをどのように評価するかが治療計画の一部になっています。3学会合同手引きでも、胆道がんは治療薬に直結するバイオマーカーが多いがん種の一つと位置づけられています。

遺伝子検査は「標準治療がすべて終わってから」とは限らない

バイオマーカーに対応する薬の多くは、一次治療後などに使用を検討します。

しかし、薬を使う段階になってから初めて検査を始めればよいとは限りません。

3学会合同手引きでは、国内の実臨床で進行・転移性胆道がん患者が二次治療へ移行できる割合は約44%とするデータを紹介しています。標準治療が終了してからCGPを申し込むと、患者さんの状態によっては検査結果が次の治療選択に間に合わない可能性があります。

一方、日本の保険診療で「CGP目的」のがん遺伝子パネル検査を行う場合には、原則として「標準治療が終了した、または終了が見込まれる」という実施条件があります。そのため、単純に「診断されたら全員すぐCGPを受ける」という仕組みでもありません。

2025年には、がんゲノム医療中核拠点病院等の診療ワーキンググループから、一次治療開始後の適切な時期に標準治療終了の見込みを臨床的に判断し、CGPを実施する必要があるという考え方が示されています。

そのため、進行・再発胆管がんでは、「今すぐ使う薬を決めるための検査」と「将来の治療候補を探すCGP」を区別しながら、次の治療に結果が間に合う時期を考えて検査を計画することが現実的です。

主治医へは「今の段階で調べておいた方がよいバイオマーカーはありますか」「CGPはいつ検討する予定ですか」と確認すると、今後の治療計画を理解しやすくなります。

検体を採取する段階から将来のバイオマーカー検査を考える

胆管がんでは、バイオマーカー検査を行ううえで「検体を十分に確保できるか」が大きな問題になります。

胆管は細い管状の臓器であり、手術を行わない患者さんでは内視鏡下生検や針生検などで得られる小さな組織に頼らざるを得ないことがあります。そのため、採取できた組織の量が少ない、腫瘍細胞の割合が低いなどの理由で、予定した遺伝子解析ができない場合があります。3学会合同手引きでは、こうした問題を避けるため、検体を採取する段階から将来のバイオマーカー検査を想定する必要性が強調されています。

手術標本など十分な組織が保存されている場合には、過去の検体を使えることがあります。一方、利用できる組織がない、または検査に適さない場合には、病状と組織採取のリスクを考えて追加の生検を検討する場合があります。

このため、「以前に採った組織が検査に使えるか」「現在どのくらい検体が残っているか」「追加で組織を採る必要があるか」も、バイオマーカー検査を考える際の確認事項になります。

組織が十分にない場合はリキッドバイオプシーを検討することがある

がん組織を十分に採取できない場合には、血液中に放出されたctDNA(血中循環腫瘍DNA)を調べるリキッドバイオプシー型のがん遺伝子パネル検査を利用できる場合があります。

組織を新たに採取する必要がなく、身体への負担が比較的小さいことや、組織を用いたCGPより結果が早く得られる場合があることが利点です。3学会合同手引きでは、国内C-CAT登録データ上、胆道がん症例のおよそ4分の1でリキッドバイオプシーが選択されているとしています。

ただし、血液検査だから組織検査より優れているという意味ではありません。

血液中へ腫瘍DNAが十分に放出されていない場合には、実際には遺伝子異常があっても検出できない偽陰性が起こる可能性があります。また、FGFR2やNTRKなどの融合遺伝子は、リキッドバイオプシーでは組織検体より検出感度が低下することがあります。手引きでも、FGFR2について組織検体で検査できる場合は組織を優先する考え方が示されています。

したがって、血液の検査で「遺伝子異常なし」となった場合にも、病状や調べたいバイオマーカーによっては、組織を用いた検査が必要かを検討します。

参考:3学会合同|胆道癌患者におけるバイオマーカー検査の手引き(2026年8月 Ver.1.0)

胆管がんの放射線治療とコンバージョン手術

胆管がんでは、手術と薬物療法が治療の大きな柱です。

放射線治療も使用されることがありますが、切除不能胆管がんのすべての患者さんに一律に行う標準治療として確立しているわけではありません。

2025年版胆道癌診療ガイドラインでは「切除不能胆道がんに放射線治療または化学放射線療法は有用か」という課題がFuture Research Question(将来の研究課題)として残されています。術後放射線療法・術後化学放射線療法についても同様にFRQです。

参考:胆道癌診療ガイドライン 第4版

遠隔転移がない局所進行胆管がんで放射線治療を検討することがある

手術で切除できない理由には、大きく分けて、遠くの臓器へ転移している場合と、遠隔転移はないものの周囲の重要な血管などへ局所的に広がっている場合があります。後者では、病変が一定の範囲に集中しているため、薬物療法に加えて放射線治療や化学放射線療法を検討することがあります。

国立がん研究センターも、手術できない胆道がんで遠隔転移がない場合には、がんの進行を遅らせることや胆道ステントの開存維持などを目的に放射線治療を行う場合があると説明しています。一方、その有効性は十分に確立されておらず、標準治療とはしていません。

したがって、局所進行胆管がんで放射線治療を提案された場合には「根治を目指す治療なのか」「局所の進行を抑えることが目的なのか」「薬物療法とどのように組み合わせるのか」を確認すると、治療の位置づけを理解しやすくなります。

参考:国立がん研究センター|胆道がん 治療

痛みなどの症状を和らげる目的でも放射線治療を行う

放射線治療は、がんを完全に消すことだけを目的にする治療ではありません。たとえば骨へ転移して痛みが生じている場合などには、痛みを軽減して生活しやすくする目的で放射線を照射することがあります。国立がん研究センターも、胆道がんの骨転移で疼痛緩和を目的に放射線治療を行う場合があるとしています。

「緩和目的の放射線治療」と説明されたからといって、ほかのがん治療をすべて終了したという意味ではありません。薬物療法を続けながら、特定の場所の痛みなどを放射線治療で和らげる場合もあります。

薬物療法で縮小した後に手術を再検討する場合がある

最初の診断時には切除不能と判断された胆管がんでも、薬物療法によって腫瘍が縮小したり、一定期間ほかの臓器への新しい転移が現れなかったりすることがあります。

その結果、再度画像を詳しく評価し、手術で完全切除できる可能性が出てきた患者さんに手術を検討する考え方「コンバージョン手術」と呼びます。

ただし、これは「抗がん薬が効けば手術できる」という単純な治療方針ではありません。2025年版胆道癌診療ガイドラインでは、切除不能胆道がんに対するコンバージョン手術はFRQ6、つまり今後さらに検証が必要な臨床課題として位置づけられています。

手術を検討する場合には、腫瘍がどの程度縮小したかだけでなく、遠隔転移の有無、重要な血管との関係、残せる肝臓の量、全身状態、がんを切除断端に残さず取り切るR0切除を目指せるかなどを改めて評価します。

「最初に手術不能だった=その後も永久に手術できない」とは限りませんが、コンバージョン手術はすべての切除不能胆管がんで確立された標準治療でもありません。

薬物療法がよく効いている場合には、「手術の可能性を再評価する場面があるか」を担当医に確認する方法があります。

胆管がん治療の副作用と治療後の生活

胆管がんでは、治療が終わったかどうかだけではなく、食事が取れているか、体重と筋力を保てているか、胆汁が正常に流れているか、予定した薬物療法を続けられる状態かまで確認することが、その後の生活に関係します。

肝内胆管がんで肝切除を受けた患者さんと、遠位胆管がんで膵頭十二指腸切除を受けた患者さんでは、術後に起こりやすい問題も同じではありません。薬物療法でも、S-1、シスプラチン、免疫チェックポイント阻害薬、FGFR阻害薬では注意する副作用が異なります。

参考:国立がん研究センター|胆道がん 療養

肝切除後は肝機能と体力の回復を確認

肝内胆管がんや肝門部領域胆管がんでは、肝臓を大きく切除することがあります。

肝臓には再生する能力がありますが、手術直後から元どおりの機能になるわけではありません。特に大きな肝切除後には、残った肝臓で身体に必要な働きを維持できるかを慎重に確認します。

胆道がん手術の合併症としては肝不全、胆汁漏、腹水、胆管炎などがあり、肝不全では黄疸、腹水、意識状態の変化などが起こることがあります。退院後も食欲や体重、疲れ方が徐々に回復しているかをみていきます。

食べられない状態が続く、黄疸が強くなる、お腹が張る、以前より極端に動けなくなったなどの変化があれば、「大きな手術をしたから仕方がない」と決めつけず医療機関へ相談します。

膵頭十二指腸切除後は食事量・体重・消化の変化を見る

遠位胆管がんでは膵頭十二指腸切除を行うことがあります。

この手術では胆管だけでなく、膵頭部や十二指腸などを切除し、残った膵臓や胆管、消化管をつなぎ直します。そのため、手術前と食べ物や消化液が流れる経路が変わります。

退院後しばらくは一度に十分な量を食べにくく、体重が減ることがあります。

国立がん研究センターは胆道がん治療後の一般的な食生活として、一度に無理に多く食べず、少量ずつ回数を分ける方法などを案内しています。また、食欲不振や下痢などがある場合は個別に医療者や管理栄養士へ相談するよう説明しています。

食事量が少ない状態や下痢、体重減少が長く続く場合には、「手術後だから当然」と考えるのではなく、食事内容や消化の状態を含めて評価します。

胆道ドレナージ・ステント留置中は発熱や黄疸の再燃を見る

胆管ステントを入れている患者さんでは、体の外にチューブが出ていないため、普段は胆汁の流れを直接確認できません。しかし、ステントが詰まれば再び胆汁が流れにくくなり、黄疸や胆管炎を起こす可能性があります。

一方、外ろうではチューブが体外へ出ているため、排液量の変化やチューブの抜け・折れ、挿入部の皮膚トラブルなどにも注意します。国立がん研究センターも、胆道ドレナージ後は内ろう・外ろうそれぞれに生活上の注意点があるとしています。

高熱、強い悪寒、黄疸の再発・悪化、強い腹痛などがあれば、がんそのものの進行だけでなく胆管炎やステント閉塞の可能性もあります。特に薬物療法中は白血球が低下している場合もあるため、次回の診察まで待たず治療中の医療機関へ連絡します。

S-1では食事を続けられるかも治療継続に関係する

術後補助化学療法などで使用するS-1では、食欲低下、下痢、口内炎、皮膚症状、涙目、血球減少などが起こることがあります。術後はもともと食事量や体重が減っている患者さんもいます。その状態に口内炎や下痢、食欲不振が加わると、薬の副作用だけでなく脱水や栄養低下が治療継続を難しくすることがあります。

飲み薬だから副作用が軽いとは限りません。下痢が続く、水分も取りにくい、口内炎で食事ができない、強い倦怠感があるといった場合には、予定日まで我慢するのではなく医療機関へ相談します。副作用の程度によって休薬や減量などを行い、治療を安全に続けることを考えます。

ゲムシタビン・シスプラチンでは血球減少や腎機能などを確認

ゲムシタビンやシスプラチンによる治療では、白血球・好中球・血小板などの減少、貧血、食欲低下、吐き気、倦怠感などが起こることがあります。

シスプラチンでは特に腎機能への影響、聴力低下、手足のしびれなどにも注意します。ゲムシタビンでは頻度は高くありませんが間質性肺炎など重い副作用が起こることがあります。

胆管がんでは、胆管炎による発熱と好中球減少時の感染症による発熱を、患者さん自身で区別することは困難です。そのため、薬物療法中に発熱した場合には「胆管炎だろう」「抗がん剤の副作用だろう」と自己判断せず、治療を受けている医療機関へ連絡することが重要です。

免疫チェックポイント阻害薬では普段と違う症状を早めに伝える

デュルバルマブやペムブロリズマブは、がん細胞を直接攻撃する従来の抗がん薬とは異なり、免疫ががんを攻撃する働きを利用する薬です。そのため副作用も、単なる吐き気や血球減少だけではありません。免疫反応が正常な臓器へ及ぶことで、肺、腸、肝臓、甲状腺などさまざまな臓器に炎症が起こることがあります。

新しい咳や息切れ、長く続く下痢、原因の分からない強い倦怠感など、これまでと違う症状が現れた場合には医療機関へ伝えます。

胆管がんではもともと肝機能やビリルビンが変動する患者さんもいるため、「胆管が詰まった変化なのか」「薬による肝障害なのか」「がんの進行なのか」を血液検査や画像検査から判断する必要があります。

FGFR阻害薬では血清リンと眼の症状にも注意

FGFR2融合陽性胆管がんで使用するFGFR阻害薬には、一般的な抗がん薬とは異なる特徴的な副作用があります。

代表的なのが高リン血症です。FGFR阻害によって体内のリンの調節が変化するため、治療中は血液検査で血清リン濃度を確認します。程度によって食事の調整や高リン血症治療薬、FGFR阻害薬の休薬・減量が必要になることがあります。

また、網膜剥離を含む眼の異常も注意すべき副作用で、定期的な眼科検査が必要になる薬があります。ペミガチニブの国内添付文書でも、視力低下、視野の欠け、光が見えるといった症状があれば眼科的評価を行うよう注意されています。見え方が急に変わった場合には次の診察まで様子を見ず、治療施設へ連絡します。

分子標的薬は「遺伝子に合った薬だから副作用が少ない」という意味ではありません。どこを標的とする薬なのかによって、従来の抗がん薬とは違う副作用が現れます。

なお、HER2陽性固形がんでトラスツズマブ デルクステカンを使用する場合には、間質性肺疾患が特に重要な副作用です。国内添付文書でも死亡例があることを含めた警告があり、新しい咳、息切れ、発熱などの早期把握が求められています。

IDH1阻害薬のイボシデニブではQT間隔延長などにも注意し、治療中に心電図や電解質などを確認する場合があります。

参考:PMDA|最適使用推進ガイドライン

緩和ケア・支持療法はがん治療と並行して行う

胆管がんでは、黄疸によるかゆみ、痛み、食欲低下、倦怠感、胆管炎を繰り返す不安、治療による副作用など、病気そのものと治療の両方が日常生活に影響します。

こうした問題を軽減する緩和ケア・支持療法は、抗がん治療をやめた後だけに行うものではありません。

国立がん研究センターも、緩和ケアはがんと診断されたときから始めることができ、がん治療と並行して受けられると説明しています。支持療法は、がんによる症状だけでなく、治療に伴う副作用や合併症、後遺症を軽減するための治療・ケアを含みます。

たとえば、かゆみで眠れない、食欲が戻らず体重が減り続ける、痛みのために動けない、治療への不安で生活に支障が出ているといった問題も相談の対象です。

胆管がん治療では、画像上の腫瘍を小さくすることだけでなく、予定した治療を受けられる体力を保ち、日常生活の負担を減らすことも治療の一部として考えます。

胆管がんのステージ別生存率

胆管がんの予後について調べると、「5年生存率」や「ステージ4の生存率」といった数字を目にすることがあります。

ただし胆管がんでは、これまで説明してきたように、肝内胆管がん、肝門部領域胆管がん、遠位胆管がんで病期分類そのものが異なります。そのため、「胆管がん全体」の一つの生存率を、自分の病状へそのまま当てはめることはできません。

さらに、生存率を見る際には、どの年代に診断された患者さんのデータなのか、どの病期分類が使われているのか、実測生存率なのかネット・サバイバルなのかまで確認する必要があります。

肝内胆管がんのステージ別5年生存率

国立がん研究センターの院内がん登録では、2014~2015年に診断された肝内胆管がんについて、ステージ別の5年ネット・サバイバルが公表されています。本記事では、他の死因の影響を統計的に調整した「ネット・サバイバル」を主に予後の目安として説明します。実測生存率も参考として併記します。

ステージ 5年実測生存率 5年ネット・サバイバル
Ⅰ期 52.7% 58.2%
Ⅱ期 31.8% 34.9%
Ⅲ期 27.4% 29.8%
Ⅳ期 5.5% 6.0%

※国立がん研究センター「院内がん登録2014~2015年5年生存率」に基づく肝内胆管がんの数値です。全体の5年ネット・サバイバルは21.1%でした。生存状況把握割合は98.8%です。

ネット・サバイバルとは、がん以外の病気や事故などによる死亡の影響を統計学的に取り除き、そのがんだけが死亡へ影響すると仮定した場合の生存状況を推定する指標です。国立がん研究センターでは、2014~2015年の5年生存率からネット・サバイバルを採用しています。

参考:国立がん研究センター|肝内胆管がん 2014~2015年診断例・5年生存率

肝外胆管がんは肝門部領域と遠位を分けた最新の公的生存率が示されていない

肝門部領域胆管がんと遠位胆管がんについても生存率を知りたいところですが、2026年8月現在、国立がん研究センターの最新の院内がん登録生存率閲覧システムでは、肝門部領域胆管がん・遠位胆管がんを個別に分けたステージ別5年生存率は公開されていません。

国立がん研究センターの現在の胆道がん患者向けページから案内されている最新の病期別生存率は「肝内胆管がん」と「胆のうがん」であり、肝外胆管がんへの最新の個別リンクは掲載されていません。

過去には院内がん登録の肝外胆管がんデータが掲載されていたことが、国立がん研究センターの更新履歴から確認できます。しかし、古い集計値を現在の肝門部領域・遠位胆管がんの病期表へそのまま組み合わせると、診断年代やTNM分類が異なる可能性があります。

そのため本記事では、信頼できる同一条件の最新データが確認できない肝門部領域胆管がん・遠位胆管がんについて、無理にステージ別生存率を推定して掲載しません。

これはデータが存在しないから予後を判断できないという意味ではなく、主治医は病変の部位、切除可能性、リンパ節転移、病理結果、全身状態など、より個別の情報から治療後の見通しを判断します。

この生存率表と前章のステージ分類は同じではない

ここで示した院内がん登録2014~2015年診断例の生存率は、UICC TNM分類第7版による総合ステージを用いた集計です。

一方、本記事で解説した「肝内胆管がんのステージⅠ~Ⅳ」では、国立がん研究センターの現行患者向け情報に合わせて、日本肝癌研究会『原発性肝癌取扱い規約 第6版補訂版(2019年)』に基づく病期を説明しています。

両者は病期分類が異なるため、同じ「Ⅰ期」「Ⅱ期」という表記でも完全に同じ病状を意味するわけではありません。

また、この院内がん登録では、術後病理学的ステージが得られている場合には原則としてその病期を、得られていない場合には治療前ステージを使って総合ステージを集計しています。そのため、現在診断された患者さんのcStageと生存率表を一対一に対応させて考えることはできません。

生存率は個人の余命を示す数字ではない

たとえば肝内胆管がんⅣ期の5年ネット・サバイバルが6.0%だからといって「自分が5年後に生きている確率が6%」とそのまま解釈することはできません。

生存率は、同じ時期に同じがんと診断された多数の患者さんを集計した統計です。国立がん研究センターも、生存率は平均的・確率的に推測されるデータであり、すべての患者さんにそのまま当てはまる値ではないと説明しています。

同じステージでも、肝内・肝門部領域・遠位のどこに発生したのか、手術で完全切除できるのか、リンパ節転移がどの程度あるのか、年齢や全身状態、薬物療法への反応などによって病状は異なります。

特に胆管がんでは、「ステージ番号」だけでは手術可能性まで表せないことにも注意が必要です。

2014~2015年の生存率には現在の治療が十分反映されていない

上記の肝内胆管がん生存率は、2014~2015年に診断された患者さんのデータです。

その後、根治切除後にはJCOG1202/ASCOT試験によってS-1術後補助療法が標準治療となり、切除不能胆道がんでは免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせた治療が導入されました。

さらに2026年8月の3学会合同手引きでは、FGFR2融合、IDH1変異、BRAF V600E、HER2遺伝子増幅、MSI-High/dMMR、TMB-High、NTRK融合、RET融合、ALK融合など、治療選択につながる複数のバイオマーカーが整理されています。

したがって、過去の生存率を、2026年現在に治療を始める患者さんの将来へそのまま当てはめることはできません。

生存率を見るときには数字の大小だけでなく、「いつ診断された患者さんの統計なのか」「現在、自分にはどの治療選択肢があるのか」を合わせて考えることが必要です。

参考:国立がん研究センター|院内がん登録生存率について

胆管がんの再発・経過観察

胆管がんの治療後は、手術した場所だけを見るのではなく、肝臓、リンパ節、肺、腹膜などに再発していないかを定期的に確認します。

国立がん研究センターでは、胆道がんは周囲のリンパ節、肝臓、肺などへ転移することがあり、治療後には局所再発や腹膜播種として見つかる場合もあると説明しています。

一方、経過観察の方法や検査間隔をすべての胆管がん患者さんに一律に当てはめることはできません。2025年版『胆道癌診療ガイドライン 改訂第4版』でも「胆道癌に対する術後経過観察はどのように行うか」そのものがFRQ(将来の研究課題)として設定されています。

参考:国立がん研究センター|胆道がん 療養

経過観察では血液検査と画像検査などを組み合わせる

治療後の診察では、黄疸、腹痛、食欲、体重などの変化を確認し、血液検査ではビリルビンや肝胆道系の数値などを調べます。

CA19-9やCEAなどの腫瘍マーカーを経過観察に利用する場合もあり、必要に応じて腹部超音波やCTなどの画像検査を行います。国立がん研究センターも、胆道がん治療後の経過観察として問診、血液検査、腫瘍マーカー、必要に応じた超音波・CTを挙げています。

検査間隔は、肝内胆管がんなのか肝外胆管がんなのか、ステージ、手術後の病理結果、術後補助化学療法の有無などによって変わります。そのため、他の患者さんと検査間隔が違っていても、それだけで経過観察が不十分という意味ではありません。

CA19-9だけで再発を判断しない

胆管がんではCA19-9を経過観察に使用することがありますが、CA19-9が上昇しただけで再発と確定することはできません。

胆管が狭くなって胆汁が流れにくい場合や胆管炎などでも数値が上がることがあり、反対に再発があってもCA19-9が大きく上がらない患者さんもいます。国立がん研究センターも、胆道がんの腫瘍マーカーは単独でがんの有無を確定できる検査ではないと説明しています。

そのため、再発の可能性は以下を合わせて判断します。

腫瘍マーカーの変化
+症状
+肝胆道系の血液検査
+CTなどの画像検査

「CA19-9が上がった=再発した」と数字だけを見て結論づけず、黄疸や胆管炎などほかの原因がないかも確認します。

胆管炎やステント閉塞と再発を区別することも必要

特に胆管ステントを留置している患者さんでは、黄疸や発熱が再び現れたときに、がんの進行だけでなくステント閉塞や胆管炎も考える必要があります。

国立がん研究センターでは、胆道ドレナージを行った患者さんには内ろう・外ろうそれぞれに生活上の注意点があり、経過観察でも黄疸や腹痛などの症状を確認するとしています。

したがって「黄疸が戻ったから再発した」「発熱したから抗がん薬が効かなくなった」と自己判断することはできません。反対に、ステントが入っているから発熱は仕方がないと考えて様子を見ることも避けます。胆管炎は急速に悪化する場合があるため、高熱や悪寒、黄疸の急な悪化などがあれば治療施設へ連絡します。

再発した場合は最初のステージではなく「現在の病状」を評価

手術前にⅠ期やⅡ期だった患者さんでも、治療後に再発すれば、治療方針は最初のステージ番号だけでは決まりません。

再発した場所が一か所なのか複数なのか、肝臓、リンパ節、肺、腹膜などのどこにあるのか、以前どの治療を受けたのか、現在の全身状態はどうかを改めて評価します。胆道がんの再発では、多くの場合、全身薬物療法が中心になります。

したがって、手術後に再発した患者さんが「自分は以前ステージⅡだったからステージⅡの治療を受ける」と考えるのではなく、再発時点の病変の広がりと治療歴から新しく治療計画を立てると理解した方が実際の診療に近くなります。

再発時にはバイオマーカー検査の結果も次の治療に関係する

再発した胆管がんでは、以前の治療歴に加えて、FGFR2融合やIDH1変異など治療につながるバイオマーカーが分かっているかも確認します。

2026年8月の3学会合同手引きでは、胆道がんは治療薬に直結するバイオマーカーが多いがん種の一つとされ、FGFR2、IDH1、HER2、BRAF、MSI-High/dMMR、TMB-High、NTRK、RETなどが体系的に整理されています。すでに十分な検査が行われていれば、その結果を次の治療選択に利用できる場合があります。一方、過去の検査で必要な遺伝子まで調べていない場合や、検体が不足していた場合には追加検査を検討することがあります。

また、同手引きでは、胆道がんでは組織検体を十分に得られない場合があり、組織での検査が困難な場合には血液を利用するリキッドバイオプシーが選択肢となる一方、偽陰性や融合遺伝子の検出感度低下などの限界も示されています。

そのため再発した際には「以前どのバイオマーカーを調べたのか」「今ある検体で追加検査ができるのか」も主治医へ確認しておくと、その後の治療選択を理解しやすくなります。

参考:2026年バイオマーカー検査の手引き

新しい症状があれば次の定期検査まで待たない

定期的にCTや血液検査を受けていても、検査と検査の間に病状が変化することがあります。

黄疸が新しく現れた、腹痛が続く、発熱や悪寒がある、食欲が急に落ちた、原因の分からない体重減少が続くなどの変化がある場合には、次の予約日まで待たず医療機関へ相談します。

こうした症状は再発だけでなく、胆管炎、胆道閉塞、治療の副作用などでも起こります。経過観察は「予定された検査を受けること」だけではなく、定期検査の間に生じた変化を医療者へ伝えることも含めて考えるとよいでしょう。国立がん研究センターも、経過観察では黄疸、腹痛、食欲などの変化を確認し、気になる症状は担当医へ伝えるよう案内しています。

胆管がんの治療を選ぶときに確認したいこと

胆管がんでは、同じ「胆管がん」という診断でも、肝臓の中に発生する肝内胆管がんと、肝門部領域胆管がん、遠位胆管がんでは、ステージの決め方も手術方法も異なります。

さらに、胆管がんの治療では、ステージ番号だけでなく「手術で完全に取り切れるか」が大きな分岐になります。2025年版『胆道癌診療ガイドライン 改訂第4版』の診療アルゴリズムも、最初に外科切除の可否を置き、切除可能・切除不能で治療を分けています。

治療方針の説明を受ける際には、次のような点を確認すると、自分に提案されている治療の意味を整理しやすくなります。

確認したいこと 治療選択に関係する理由
肝内・肝門部領域・遠位のどこにあるか ステージの決め方と手術方法が大きく異なるため
どの分類・何版でcStageが評価されているか 胆管がんでは病型ごとに病期分類が異なり、使用する分類の版によっても表記が変わる場合があるため
手術で完全切除できる可能性があるか 根治を目指す手術が可能かどうかが治療方針の大きな分岐になるため
「手術できない」と判断された理由は何か 遠隔転移、血管への広がり、残肝不足など、理由によって意味やその後の治療が異なるため
肝切除後にどのくらい肝臓を残せるか 特に肝門部領域胆管がんでは、がんを取り切るだけでなく手術後の肝機能を保てるかが安全性に関係するため
黄疸・胆管炎への処置が必要か 胆道ドレナージや感染治療を手術・薬物療法より先に行う場合があるため
手術後にS-1が勧められるか 根治切除後の再発リスクを減らす術後補助化学療法を検討するため
バイオマーカー検査をいつ行うか FGFR2、IDH1などの結果が進行・再発時の治療選択につながる場合があり、検体や検査時間も考えて計画する必要があるため
現在の肝機能・腎機能・体力でどの治療が可能か 大きな手術やシスプラチンを含む薬物療法などを安全に行えるかに関係するため
薬物療法後に手術を再評価する可能性があるか 一部の切除不能例では治療効果を見ながらコンバージョン手術を検討する場合があるため

根治手術が可能な患者さんでも、「どの臓器をどの程度切除するのか」によって治療後の生活は変わります。肝門部領域胆管がんでは大きな肝切除、遠位胆管がんでは膵頭十二指腸切除が必要になる場合があり、手術の目的だけでなく、その後の肝機能、食事、体重、回復期間まで聞いておくと治療を具体的にイメージしやすくなります。国立がん研究センターも、胆管がんの部位ごとに異なる手術方法を示しています。

また、手術不能と説明された場合には「ステージが進んでいるから」とだけ理解して終わらせない方がよいでしょう。

遠隔転移があるのか、門脈・肝動脈への広がりが問題なのか、十分な肝臓を残せないのかでは、手術できない理由が異なります。2025年版ガイドラインでは、borderline resectable胆道がんの定義、コンバージョン手術、肝門部領域胆管がんへの肝移植なども今後の研究課題として個別に扱われています。

そのため、特に大きな肝切除や血管合併切除が必要と言われた場合、あるいは切除できるかどうかの判断が難しい場合には、肝胆膵外科を専門とする施設でセカンドオピニオンを受けることも選択肢になります。

一方、薬物療法では、薬の名前だけを確認するのではなく、なぜこの一次治療が選ばれたのか、病状が進行した場合に次の候補があるのか、バイオマーカー検査はどこまで終わっているのかまで確認することが、現在の胆管がん治療では以前より重要になっています。3学会合同手引きも、バイオマーカー検査の実施時期、検体の取り扱い、結果を治療へどう反映するかを一連の治療戦略として考える必要性を示しています。

参考:日本肝胆膵外科学会「胆道癌診療ガイドライン 改訂第4版」国立がん研究センター「胆道がん 治療」肝癌研究会・日本肝胆膵外科学会・日本胆道学会「胆道癌患者におけるバイオマーカー検査の手引き」

胆管がんは「どこにあるか」と「手術で取り切れるか」から治療を考える

胆管がんは一つの病気のように呼ばれますが、肝内胆管がん、肝門部領域胆管がん、遠位胆管がんでは、症状の出方からステージ分類、手術方法まで大きく異なります。国立がん研究センターも、胆管がんをこれらの部位に分けて診断・治療を説明しています。

肝内胆管がんでは肝臓の中に腫瘍ができるため、肝切除が治療の中心になります。肝門部領域胆管がんでは、胆管だけでなく肝臓や場合によっては血管まで含めた大きな手術が必要になることがあります。遠位胆管がんでは、胆管が膵頭部を通っているため膵頭十二指腸切除が行われることがあります。

そのため、診断後に最初に確認したいのは「胆管がんのステージはいくつか」だけではありません。

「肝内・肝門部領域・遠位のどこにあるのか」「どこまで広がっているのか」「手術で完全に取り切れる可能性があるのか」を知ることで、自分に提案された治療の理由が見えてきます。2025年版胆道癌診療ガイドラインも、外科切除の可否を診療アルゴリズムの大きな分岐として位置づけています。

また、黄疸がある患者さんでは、がんそのものへの治療だけでなく、胆汁を流す胆道ドレナージが治療計画の一部になることがあります。手術で取り切れた場合には術後補助化学療法を検討し、切除できない場合や再発した場合には薬物療法が中心になります。

さらに現在は、進行・再発胆管がんで「どの抗がん薬を使うか」だけではなく、がんがどのような分子異常を持っているかも治療選択に関係します。

2026年8月に公開された3学会合同手引きでは、FGFR2融合、IDH1変異、BRAF V600E、HER2遺伝子増幅、MSI-High/dMMR、TMB-High、NTRK融合、RET融合、ALK融合など、治療につながり得るバイオマーカーと検査方法が整理されています。

胆管がんでは、一つの数字や一つの治療名だけで病状を理解することは難しい病気です。自分の胆管がんが「どこにあり、なぜその治療が勧められ、次にどのような選択肢が残っているのか」まで確認することで、治療方針をより具体的に理解できます。

治療について迷ったときには、手術の可否、胆道ドレナージ、薬物療法、バイオマーカー検査をそれぞれ別々の問題として考えるのではなく、これらが自分の治療計画の中でどのようにつながっているのかを主治医と一緒に整理してみてください。

ALK陽性肺がんは、非小細胞肺がんの一種で、がん細胞のALKという遺伝子が他の遺伝子と融合しているタイプの肺がんです。肺腺がんに多くみられ、若年、非喫煙者に多いという特徴があります。初期にはほとんど症状が出ませんが、進行すると咳が続く、血痰、息切れ、胸の痛み、体重減少などが現れます。ALKを狙い撃ちにする分子標的薬(ALK-TKI)がよく効く一方で、いずれ薬が効かなくなる「薬剤耐性」が課題となります。

本ページでは、ALK陽性肺がんの特徴や原因、症状、診断(コンパニオン診断・遺伝子検査)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • 非小細胞肺がんの一種で、若年・非喫煙者に多い
  • ALKを狙い撃ちにする分子標的薬(ALK-TKI)がよく効く
  • いずれ薬が効かなくなる薬剤耐性が、治療上の大きな課題

ALK陽性肺がんとは

肺がんは、がん細胞の見た目や性質によっていくつかのタイプに分けられます。

まず大きく「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」に分かれ、日本人の肺がんの多くは後者です。この非小細胞肺がんのなかにALK陽性肺がんが含まれます。

ALK(未分化リンパ腫キナーゼ)は、細胞の増殖に関わる遺伝子です。ALK単体では悪いことは起こりませんが、他の遺伝子と「融合」すると、増殖のスイッチが入りっぱなしになります。この異常を持つ肺がんが、ALK陽性肺がんです。そして非小細胞肺がんの中でも、肺腺がんに多くみられます。

ALK陽性肺がんは、非小細胞肺がんの約4~5%に認められると報告されています。頻度としては多くありませんが、ALK陽性肺がんは若年者や非喫煙者に多く、主に腺がんで認められることが知られています。45歳以下の若年患者を対象とした研究では、非小細胞肺がん患者の14.2%でALK陽性が認められました。

ALK陽性肺がんの原因

ALK陽性肺がんは、ALK遺伝子の融合がきっかけで発症しますが、その根本の原因はまだ解明されていません。ただ、融合が起きた結果として何が起こるかは分かっています。本来ばらばらに存在しているALK遺伝子が別の遺伝子(多くはEML4)と結合すると、異常なタンパク質が作られ増殖のシグナルを出し続けるため、細胞が止まらず増えていきます。

ここで、もうひとつ重要な遺伝子があります。がん細胞の暴走を食い止める「ブレーキ役」の、がん抑制遺伝子「p53(TP53)」です。p53はDNAに傷がついた細胞を修復させ、修復できないものは自然死(アポトーシス)へと導きます。p53が壊れると、傷ついた細胞が排除されずに生き残ってしまいます。

ALK陽性肺がんでは、このp53変異率が20~25%と報告されています。また、p53変異が併存した患者様は、併存しない患者様よりも予後が悪いと言われています。

つまりアクセル(ALK)が入りっぱなしであるだけでなく、ブレーキ(p53)まで故障してしまう場合があり、それが治療の難しさにつながっているのです。

ALK陽性肺がんの診断

「(無)症状」から「確定診断」まで

肺がんは、初期にはほとんど症状が出ません。ある程度進行してから、咳が続く、血痰、息切れ、胸の痛み、体重減少といった症状が現れます。ただ、これらは風邪でも起こるため、見過ごされがちです。健康診断の胸部X線検査やCT検査で、偶然発見される場合も少なくありません。

異常が疑われた場合、気管支鏡検査やCTガイド下針生検などで組織を採取し、がんかどうかを確定します。脳転移や全身転移の有無を調べるため、脳MRI検査やPET-CT検査も実施されます。

コンパニオン診断という重要なステップ

ALK陽性肺がんの診断で欠かせないのが、遺伝子検査です。採取したがん組織を使い、ALK融合遺伝子があるかどうかを調べます。免疫染色(IHC法)でALKタンパクの発現を見る方法と、FISH法で遺伝子の並びを直接調べる方法があります。この検査は「コンパニオン診断」と呼ばれ、分子標的薬が効くタイプかどうかを見極める役割を担います。また、組織が採れないときは、血液中のがん由来DNAを調べるリキッドバイオプシーを行う場合もあります。

ステージ(病期)の確定

肺がんのステージは、腫瘍の大きさと広がり(T)、リンパ節転移(N)、遠隔転移(M)を組み合わせてⅠ期~Ⅳ期に分類されます。ALK陽性肺がんは、診断時にすでに脳などへ転移した進行した状態で見つかることも多く、病期が予後を大きく左右します。

ALK陽性肺がんの一般的な治療法

早期であれば手術が主な治療法ですが、必要に応じて薬物療法を加えます。一方、診断時にすでに進行・転移している場合や、術後に再発した場合は、薬物療法が治療の中心になります。

ALK陽性肺がんの薬物療法で主役となるのが、分子標的薬の「ALK阻害薬(ALK-TKI)」です。異常なALKのシグナルをピンポイントで遮断する薬で、第一世代のクリゾチニブから、現在の標準治療である第二世代のアレクチニブ、さらに第三世代のロルラチニブまで、複数の世代があります。

ALK-TKIが効きにくくなった場合は、別の世代のALK-TKIへの変更や、抗がん剤(プラチナ製剤ベースの化学療法)が検討されます。

ALK陽性肺がんにおける保険診療の限界

ALK陽性肺がんにはALK-TKIという有効な標的薬があるとはいえ、保険診療にはいくつもの壁があります。

避けられない「耐性」の問題

アレクチニブを投与すれば、半数の方が約35ヶ月もの間腫瘍が増大しないとはいえ、裏を返せば、半数の患者様が3年前後で進行してしまうということです。また、ALK-TKIを使う患者様の最大4分の1は、治療開始から1年以内に進行するという報告もあります。

手術後の高い再発率

早期に発見され、手術で取りきれたとしても、ALK陽性肺がんは再発しうる疾患です。切除後の再発率は病期が進むほど高くなり、根治手術後も一定の割合で再発が生じます。

この再発を抑える目的で、近年は術後にアレクチニブを一定期間服用する補助療法が標準となりました。以前の化学療法に比べ、ステージII~IIIAでの2年間で再発しない患者様が約63%から約94%と治療成績が向上しました。しかし逆に言えばそれでもなお再発する患者様はいらっしゃるということです。

また、この補助療法で使うALK-TKIは、進行・再発した際の治療でも中心となる薬です。術後の段階で使うことは、いざ再発したときの切り札を先に投じておくことにもなり、その後の選択肢をどう組み立てるかという課題も残ります。

化学療法に伴う「きつい」副作用

ALK-TKIの中で代表的なアレクチニブの副作用は、肝機能障害(41%)、便秘(39%)、倦怠感(36%)、筋肉痛(31%)、むくみ(29%)、皮疹(23%)などが多くみられます。また、まれに間質性肺炎や、筋肉が破壊される副作用が生じることもあります。

さらに、ALK-TKIが効かなくなったあとに用いる抗がん剤では、吐き気、強い倦怠感、食欲不振、脱毛、骨髄抑制による感染症リスクなどが起こりえます。長期にわたる治療や薬の切り替えのなかで、身体的・精神的な負担から治療の継続が難しくなり、生活の質(QOL)が損なわれるリスクがあります。

ALK陽性肺がんで重要な新しい治療の考え方

ここまで述べたように、ALK陽性肺がんは分子標的薬がよく効く一方で、耐性や手術後の再発に対してどう治療戦略をたてるか、副作用のきつさ、などという固有の課題を抱えています。

がん中央クリニックグループでは、こうした課題に対して、標準治療とは作用の仕方が異なる治療を選択肢としてご提案しています。

分子レベルの異常にアプローチする「核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)」

がんの発生や進行に関わる分子レベルの異常へ直接働きかける「核酸医薬」は、世界的に研究と臨床応用が進んでいます。当グループでは治療選択肢として、「アプタマー」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を取り入れた治療を提供しております。

アプタマー核酸医薬」は、がん細胞に特有の異常なタンパク質にピンポイントで結合し、その働きをブロックすることで、がんの増殖抑制や死滅を狙う治療薬です。一方で「miR-34a mimic核酸医薬」は、がん化によって失われてしまった「体が本来持っているがんを抑制する力」を補い、がんの成長を止め、自然な細胞死(アポトーシス)を促す治療薬です。

ALK陽性肺がんでp53変異が高頻度に併存することは、先に述べたとおりです。miR-34a mimicは、miR-34aと同じ働きをする分子を外部から補充することで、p53というブレーキが壊れた細胞に対しても、その先の経路から直接ブレーキをかけ直すことを狙います。ALKという「アクセル」だけでなく、失われた「ブレーキ」の側から攻めるという発想です。

がん中央クリニックグループでは、がん種ごとに標的となる遺伝子を指定して核酸医薬を設計し、患者様一人ひとりの状態に合わせた治療をご提案しています。複数の核酸医薬を組み合わせて使い分けられる点も、特徴のひとつです。

免疫の「盾」を外す「ハイブリッド免疫療法」

ハイブリッド免疫療法は、がん細胞が免疫の攻撃から逃れるために使う「盾」、すなわち免疫ブロックタンパク質「PD-L1」を標的とする治療です。

ALK陽性肺がんでは、標準の免疫療法が効きにくいですが、PD-L1自体は一定の割合で発現しています。

ALK陽性肺がんでのPD-L1陽性率(TPS≥1%)は50%と報告されています。標準の免疫チェックポイント阻害薬がうまく働きにくいこのタイプにこそ、PD-L1へ別の角度からアプローチする意義があると考えています。

ハイブリッド免疫療法は、このPD-L1を内側と外側の両方から無力化します。まず、がん細胞の表面に出ているPD-L1に結合し、免疫の攻撃を妨げる「盾」を取り払います。さらに、がん細胞の中に入り込んで、これから作られるPD-L1の設計図(mRNA)を分解し、新たな「盾」が生まれるのを防ぎます。攻撃を逃れる術を失ったがん細胞を、患者様ご自身の免疫細胞が敵として認識し、攻撃できるようになるという仕組みです。

関連ページ:HER2をターゲットにした”がんのピンポイント治療薬”|分子標的ワクチン療法

当グループのがん治療をおすすめする患者様

当グループで実施可能な治療法は、ほとんどの患者様にご検討いただけます。以下では、どのような患者様に効果が期待できるのかを解説します。ご自身の状況に照らし合わせてご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

ALK陽性肺がんでは、ALK-TKIへの耐性や免疫療法が効きにくいといった理由から、保険診療の選択肢が行き詰まることがあります。特に、複数のALK-TKIを使い切ってしまい、次の手立てが見つからない患者様は少なくありません。

そうした場合でも、核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)とハイブリッド免疫療法なら、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供できます。これらは目立った副作用が現れにくく体への負担が少ないため、「体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方にも、1つの治療の選択肢となり得ます。

また、まだ体力があるのに選択肢がなくなり、緩和治療を勧められている方にとっても、新たな選択肢として検討いただけます。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

核酸医薬とハイブリッド免疫療法は、ALK-TKIや抗がん剤と併用でき、相乗効果が期待できます。化学療法や分子標的薬がすでに存在するタンパク質やシグナルに作用するのに対し、核酸医薬はそれらが作られる前の遺伝子レベルに作用します。

ハイブリッド免疫療法は、PD-L1という別の標的を叩きます。攻撃するポイントが異なるため、組み合わせることでより高い効果が期待できると考えています。

このように、ALK陽性肺がんの完治を目指すには、複数の治療法を組み合わせることが重要と考えています。標準治療を受けている患者様にとっても、これらの併用は選択肢のひとつとして検討可能です。

関連ページ:がん細胞を“内からも外からも”攻撃する次世代の二刀流療法|ハイブリッド免疫療法

再発を抑制・防止するために手術前後の患者様

早期がんで手術を受けた場合でも、ALK陽性肺がんは再発しうる疾患です。手術後にALK-TKIを用いる補助療法で再発リスクは下がりますが、それでも再発する患者様は残ります。またALK-TKIには副作用があり、体力に不安のある患者様には術後の補助療法が難しいこともあります。

こうした背景から、手術前後に核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)とハイブリッド免疫療法を併用することは、再発リスクを下げ生存率を高めるひとつの選択肢として検討いただけます。

副作用が不安な患者様

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)とハイブリッド免疫療法は、目立った副作用が起こりにくい治療です。ALK-TKIや化学療法で起きやすい肝機能障害、便秘、倦怠感、筋肉痛、嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。核酸医薬の副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などが挙げられます。ハイブリッド免疫療法では、治療部位の反応などが見られることがあります。

解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半で、治療の継続に支障をきたすことはありません。「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」という方にも受けていただける治療です。

ALK陽性肺がんの完治を目指して、保険診療と患者様に合った治療を組み合わせる

ALK陽性肺がんは、分子標的薬がよく効くタイプである一方、耐性や手術後再発という壁が立ちはだかる疾患です。しかし、適切に治療を行えば完治を目指せる疾患でもあります。

発症要因にALKやp53といった遺伝子異常があるため、保険診療と核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、ハイブリッド免疫療法などを組み合わせる集学的治療が有効な選択肢となります。保険診療だけではカバーしきれない場合でも、これらの治療によって腫瘍縮小効果や再発抑制効果が期待できます。

がん中央クリニックグループでは、こうした「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがん治療をご提案いたします。ALK陽性肺がんの患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。

EGFR遺伝子変異陽性肺がんは、非小細胞肺がんの一種で、がん細胞の増殖に関わる「EGFR」という遺伝子に変異が起きているタイプの肺がんです。肺腺がんに多くみられ、非喫煙者、女性、東アジア人に多いという特徴があります。初期にはほとんど症状が出ませんが、進行すると咳が続く、血痰、息切れ、胸の痛み、体重減少などが現れます。EGFRを狙い撃ちにする分子標的薬(EGFR-TKI)がよく効く一方で、いずれ薬が効かなくなる「薬剤耐性」が課題となります。

本ページでは、EGFR遺伝子変異陽性肺がんの特徴や原因、症状、診断(コンパニオン診断・遺伝子検査)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • 非小細胞肺がんの一種で、非喫煙者・女性・東アジア人に多い
  • EGFRを狙い撃ちにする分子標的薬(EGFR-TKI)がよく効く
  • いずれ薬が効かなくなる薬剤耐性が、治療上の大きな課題

EGFR遺伝子変異陽性肺がんとは

肺がんは、がん細胞の見た目や性質によっていくつかのタイプに分けられます。まず大きく「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」に分かれ、日本人の肺がんの多くは後者です。

この非小細胞肺がんのなかに、EGFR遺伝子変異陽性肺がんが含まれます。

EGFR(上皮成長因子受容体)は、細胞の表面にある増殖のシグナルを受け取るタンパク質です。このEGFRを生み出す遺伝子に変異が起きると、がん細胞が限りなく増えていきます。この変異を持つ肺がんが、EGFR遺伝子変異陽性肺がんです。そして非小細胞肺がんの中でも、肺腺がんに多くみられます。

EGFR変異が起きやすい方は、非喫煙者、女性、そして東アジア人です。

世界的な研究では、EGFR変異の頻度は全体で32.3%、女性で43.7%(男性24.0%)、非喫煙者で49.3%(喫煙者21.5%)、腺がんで38.0%(非腺がん11.7%)と報告されています。

EGFR遺伝子変異陽性肺がんの原因

肺がん全般では喫煙が最大の危険因子とされますが、EGFR変異陽性肺がんは、タバコをまったく吸わない人にも高い頻度で発症します。

なぜEGFR遺伝子に変異が起こるのか、その根本的な原因はまだ解明されていません。ただ、変異が起きた結果としてその細胞が増殖することは分かっています。正常なEGFRは、体からの指令を受けたときだけ増殖のシグナルを送ります。しかし変異したEGFRは、指令がなくても勝手にシグナルを出し続けるため、細胞が止まらず増殖していきます。

ここで、もうひとつ重要な遺伝子があります。がん細胞の暴走を食い止める「ブレーキ役」の、がん抑制遺伝子「p53(TP53)」です。p53はDNAに傷がついた細胞を修復させ、修復できないものは自然死(アポトーシス)へと導きます。p53が壊れると、傷ついた細胞が排除されずに生き残ってしまいます。

EGFR変異陽性肺がんでは、このTP53変異が高い割合で見られます。その頻度は、約26~40%の範囲と報告されています。

さらに、EGFR変異に対する治療を行った患者様でTP53変異も見られた患者様は、予後が悪いとの研究結果もあります。

つまりアクセル(EGFR)が壊れているだけでなく、ブレーキ(p53)まで故障してしまう場合があり、それが治療の難しさにつながっているのです。

関連ページ:ゲノムの守護神 p53の代わりとして働く「miRNA mimic 核酸医薬」

EGFR遺伝子変異陽性肺がんの診断

「(無)症状」から「確定診断」まで

肺がんは、初期にはほとんど症状が出ません。ある程度進行してから、咳が続く、血痰、息切れ、胸の痛み、体重減少といった症状が現れます。ただ、これらは風邪や気管支炎でも起こるため、見過ごされがちです。健康診断の胸部X線検査やCT検査で、偶然発見される場合も少なくありません。

異常が疑われた場合、気管支鏡検査やCTガイド下針生検などで組織を採取し、がんかどうかを確定します。脳転移や全身転移の有無を調べるため、脳MRI検査やPET-CT検査も実施されます。

コンパニオン診断という重要なステップ

EGFR変異陽性肺がんの診断で欠かせないのが、遺伝子検査です。採取したがん組織を使い、EGFR遺伝子に変異があるかどうかを調べます。この検査は「コンパニオン診断」と呼ばれ、分子標的薬が効くタイプかどうかを判断します。また、組織が採れないときは、血液中を流れるがん由来のDNAを調べるリキッドバイオプシーを行う場合もあります。

ステージ(病期)の確定

肺がんのステージは、腫瘍の大きさと広がり(T)、リンパ節転移(N)、遠隔転移(M)を組み合わせてⅠ期~Ⅳ期に分類されます。EGFR変異陽性肺がんは、脳や骨などへ転移した進行した状態で見つかることも多く、病期が予後を大きく左右します。

EGFR遺伝子変異陽性肺がんの一般的な治療法

早期であれば手術が主な治療法ですが、必要に応じて薬物療法を加えます。一方、診断時にすでに進行・転移している場合や、術後に再発した場合は、薬物療法が治療の中心になります。

EGFR変異陽性肺がんの薬物療法で主役となるのが、分子標的薬の「EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)」です。暴走するEGFRのシグナルをピンポイントで遮断する薬で、様々な種類の薬物(オシメルチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブなど)が開発されています。

また、EGFR-TKIが効きにくくなった場合や、変異のタイプによっては、抗がん剤(プラチナ製剤などの化学療法)や、状況に応じた免疫療法が検討されます。

EGFR遺伝子変異陽性肺がんにおける保険診療の限界

避けられない「耐性」の問題

EGFR-TKIは高い効果を示す一方で、多くの患者様でいずれ効かなくなります。これが「薬剤耐性」です。

がん細胞が薬から逃れる別の経路を見つけ出し、再び増え始めてしまいます。

例えば、オシメルチニブというEGFR-TKIは高い効果を示しますが、無増悪生存期間の中央値は18.9ヶ月でした。逆に言えば、約1.5年で薬剤耐性がついてしまい病勢が進行するということです。また、耐性が生じるメカニズムは多様で、そのすべてに有効な次の一手が用意されているわけではありません。

手術後の高い再発率

早期に発見され、手術で取りきれたとしても、EGFR変異陽性肺がんは再発しうる疾患です。切除後の再発率はおよそ70%と報告されています。

この再発を抑える目的で、近年は術後にオシメルチニブを一定期間服用する補助療法が行われます。これにより手術後4年後の再発率は30%にまで下がりました。

大きな進歩ではありますが、裏を返せば、補助療法を行ってもなお再発を経験する患者様が10人中3人は残るということでもあります。また、この補助療法で使うオシメルチニブは、進行・再発した際の一次治療でも中心となる薬です。術後補助療法の段階で使うことは、いざ再発したときに切り札の一つを先に投じておくことにもなり、その後の選択肢をどう組み立てるかという課題も残ります。

EGFR-TKIや化学療法に伴う「きつい」副作用

代表的なEGFR-TKIであるオシメルチニブによる治療では、日常生活に支障をきたすほどの重い副作用が、およそ3人に1人にみられたと報告されています。

例えば、下痢、皮疹やにきびのような皮膚症状、爪の周りの炎症(爪囲炎)、口内炎などが多くみられ、まれに間質性肺炎という重い副作用が生じることもあります。

また、EGFR-TKIが用いられた後に用いる抗がん剤では、吐き気、強い倦怠感、食欲不振、脱毛、骨髄抑制による感染症リスクなどが起こりえます。長期にわたる治療や薬の切り替えのなかで、身体的・精神的な負担から治療の継続が難しくなり、生活の質(QOL)が損なわれるリスクがあります。

EGFR遺伝子変異陽性肺がんで重要な新しい治療の考え方

ここまで述べたように、EGFR変異陽性肺がんは分子標的薬がよく効く一方で、耐性の問題や手術後再発率の高さ、副作用のきつさという固有の課題を抱えています。

がん中央クリニックグループでは、こうした課題に対して、標準治療とは作用の仕方が異なる治療を選択肢としてご提案しています。

分子レベルの異常にアプローチする「核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)」

がんの発生や進行に関わる分子レベルの異常へ直接働きかける「核酸医薬」は、世界的に研究と臨床応用が進んでいます。当グループでは治療選択肢として、「アプタマー」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を取り入れた治療を提供しております。

アプタマー核酸医薬」は、がん細胞に特有の異常なタンパク質にピンポイントで結合し、その働きをブロックすることで、がんの増殖抑制や死滅を狙う治療薬です。一方で「miR-34a mimic核酸医薬」は、がん化によって失われてしまった「体が本来持っているがんを抑制する力」を補い、がんの成長を止め、自然な細胞死(アポトーシス)を促す治療薬です。

EGFR変異陽性肺がんでTP53変異が高頻度に併存することは、先に述べたとおりです。miR-34a mimicは、miR-34aと同じ働きが期待できる分子を外部から補充することで、p53というブレーキが壊れた細胞に対しても、その先の経路から直接ブレーキをかけ直すことを狙います。EGFRという「アクセル」だけでなく、失われた「ブレーキ」の側から攻めるという発想です。

がん中央クリニックグループでは、がん種ごとに標的となる遺伝子を指定して核酸医薬を設計し、患者様一人ひとりの状態に合わせた治療をご提案しています。複数の核酸医薬を組み合わせて使い分けられる点も、特徴のひとつです。

HER2を標的にする「分子標的ワクチン療法」

分子標的ワクチン療法は、がんの増殖・浸潤・転移に関わるタンパク質「HER2」を標的にした、当グループで施術可能な治療法です。

EGFR変異陽性肺がんに対して、なぜHER2を狙う治療が意味を持つのか。ここには、EGFRとHER2の深い関係があります。

HER2は、EGFRと同じ受容体チロシンキナーゼファミリーに属する仲間です。EGFRは単独でもシグナルを送りますが、HER2と手を組んでペアになると、より強力に増殖シグナルを伝えることが知られています。さらに、HER2の遺伝子増幅は、EGFR-TKIに対する耐性の主要なメカニズムのひとつとしても報告されています。つまりHER2は、EGFR変異陽性肺がんにおいて、増殖を後押しする共犯者であり、EGFR-TKIへの耐性獲得を手助けする可能性もある存在なのです。

この治療では、HER2タンパク質の機能部位ペプチド2種類をワクチンとして筋肉注射します。狙いは、患者様自身の体内でHER2に対する抗体をつくらせることです。

体内でHER2に対する抗体がつくられると、HER2がEGFRをはじめとする仲間と手を組むことができなくなり、増殖・浸潤・転移を促すシグナルの伝達が抑えられます。さらに、抗体がくっついたがん細胞を免疫細胞が攻撃するという効果も期待されます。

直接EGFRを阻害する薬ではありませんが、EGFRによる細胞増殖経路にも間接的に影響を与えます。そのため、腫瘍縮小への効果が期待できる可能性があります。

関連ページ:HER2をターゲットにした”がんのピンポイント治療薬”|分子標的ワクチン療法

当グループのがん治療をおすすめする患者様

当グループで実施可能な治療法は、ほとんどの患者様にご検討いただけます。以下では、どのような患者様に効果が期待できるのかを解説します。ご自身の状況に照らし合わせてご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

EGFR変異陽性肺がんでは、EGFR-TKIへの耐性やきつい副作用などが原因で、保険診療の選択肢が行き詰まることがあります。特に、複数のEGFR-TKIを使い切ってしまい次の手立てが見つからない患者様は少なくありません。

そうした場合でも、核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法などであれば、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供できます。これらは目立った副作用が現れにくく体への負担が少ないため、「体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方にも、1つの治療の選択肢となり得ます。

また、まだ体力があるのに選択肢がなくなり、緩和を勧められている方にとっても、新たな選択肢として検討いただけます。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

核酸医薬と分子標的ワクチン療法は、EGFR-TKIや抗がん剤と併用でき、相乗効果が期待できます。化学療法や分子標的薬がすでに存在するタンパク質やシグナルに作用するのに対し、核酸医薬はそれらが作られる前の遺伝子レベルに作用します。攻撃するポイントが異なるため、組み合わせることでより高い効果が期待できるのです。

このように、EGFR変異陽性肺がんの完治を目指すには、複数の治療法を組み合わせることが重要と考えています。標準治療を受けている患者様にとっても、これらの併用は選択肢のひとつです。

再発を抑制、防止するため。手術前後のすべての患者様

早期がんで手術を受けた場合でも、EGFR変異陽性肺がんは再発しうる疾患です。手術後にEGFR-TKI(オシメルチニブ)を用いると4年無病生存率は約70%まで改善しますが、裏を返せば、それでも30%の患者様は再発するリスクがあるということです。

またEGFR-TKIには副作用があるため、体力に不安のある高齢の患者様には、術後の補助療法が難しいこともあります。

こうした背景から、手術前後に核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法を併用することは、再発リスクを下げるひとつの選択肢として検討いただけます。

副作用が不安な患者様

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法は、目立った副作用が起こりにくい治療です。EGFR-TKIや化学療法で起きやすい下痢、皮疹、嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。核酸医薬の副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などが挙げられます。分子標的ワクチン療法では、注射部位反応(赤み、腫れ、痛みなど)、疲労感、発熱が見られることがあります。

解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半で、治療の継続に支障をきたすことはありません。「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」という方にも受けていただける治療です。

EGFR遺伝子変異陽性肺がんの完治を目指して、保険診療と患者様に合った治療を組み合わせる

EGFR変異陽性肺がんは、分子標的薬がよく効くタイプである一方、耐性や副作用、手術後再発という壁が立ちはだかる疾患です。しかし、適切に治療を行えば完治を目指せる疾患でもあります。

発症要因にEGFRやp53といった遺伝子異常があるため、保険診療と核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、分子標的ワクチン療法などを組み合わせる集学的治療が有効な選択肢となります。保険診療だけではカバーしきれない場合でも、これらの治療によって腫瘍縮小効果や再発抑制効果が期待できます。

がん中央クリニックグループでは、こうした「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがん治療をご提案いたします。EGFR遺伝子変異陽性肺がんの患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。

食道がんは、のどと胃をつなぐ食道の粘膜から発生するがんです。2023年に国内で新たに食道がんと診断された人は2万5,889例、2024年の死亡数は1万638人で、男性に多い傾向があります。

食道がんは早期には自覚症状がないことがあります。進行すると、食べ物を飲み込んだときのつかえ、体重減少、胸や背中の痛み、咳、声のかすれなどが現れることがありますが、症状の有無や強さだけで食道がんのステージを判断することはできません。

治療は、がんが食道壁のどこまで入り込んでいるか、リンパ節やほかの臓器へ広がっているかだけでなく、食道のどこにできたのかによっても変わります。ごく浅いがんでは内視鏡治療で根治を目指せる場合があり、局所進行がんでは術前薬物療法と手術、あるいは化学放射線療法などを検討します。遠隔転移や再発がある場合には、薬物療法が治療の中心になります。

食道がんでは、治療によって「食べる」「飲み込む」「声を出す」といった日常生活にも影響が及ぶことがあります。この記事では、症状や原因だけでなく、検査結果から治療をどう選ぶのか、治療後の食事や栄養、ステージ別の生存率、再発後の経過まで順番に解説します。

参考:食道|国立がん研究センター がん情報サービス

  • 食道がんは早期には無症状のことがあり、飲食時のつかえや違和感があれば検診を待たず受診する
  • 治療の選択はステージだけでなく、がんの深さ・場所・リンパ節転移などから選ぶ
  • 治療後は再発だけでなく、食事量・体重・嚥下機能や頭頸部がんなどの重複がんも長期に確認する

食道がんとは何か

食道は、のどの奥にある咽頭から胃までをつなぐ管状の臓器です。成人では長さがおよそ25cmあり、飲み込んだ食べ物を食道の筋肉の動きによって胃へ運びます。食べ物を消化する臓器ではなく、主な役割は食べ物を胃へ届けることです。

食道の壁は内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、外膜などで構成されています。食道がんは最も内側にある粘膜から発生し、進行すると粘膜下層、筋層、さらに食道の外側へと広がります。

食道の周囲には気管、気管支、肺、大動脈などが近接しているため、食道壁を越えて進展すると、これらの臓器との位置関係が治療方法に大きく関係します。

参考:食道とは、食道がんとは?|日本食道学会

日本の食道がんは扁平上皮がんが多い

食道がんにはいくつかの組織型がありますが、日本では約9割が扁平上皮がんです。食道の内側を覆う扁平上皮から発生し、飲酒や喫煙との関連が強いことが知られています。

一方、食道の下部では腺がんが発生することがあります。欧米では食道腺がんが多く、胃酸の逆流などによって食道粘膜が変化したバレット食道との関連が知られていますが、日本では扁平上皮がんの方が圧倒的に多い状況です。

組織型は単なる病名の違いではありません。ステージ分類や薬物療法を考える際にも関係するため、生検後の病理結果では「食道がんだった」ということに加えて、扁平上皮がんなのか、腺がんなのかを確認します。

参考:食道がんの疫学・現状・危険因子|日本食道学会

食道がんは「どこにできたか」によって治療が変わる

食道は大きく、首にある頸部食道、胸の中にある胸部食道、胃につながる食道胃接合部などに分けて考えます。胸部食道も上部・中部・下部に分かれ、日本では胸部中部食道に発生するがんが最も多いと報告されています。

場所を確認する理由は、手術で切除する範囲やリンパ節郭清、再建方法が変わるためです。

たとえば頸部食道は咽頭や喉頭と近接しています。がんの広がりによっては喉頭も切除する必要があり、その場合には発声方法が大きく変わります。

食道胃接合部がんでは、食道側へどの程度広がっているかによって、胸の中にある縦隔リンパ節をどの範囲まで郭清するのかが変わります。2026年3月には日本食道学会から、食道浸潤長などをもとに手術アプローチとリンパ節郭清範囲を考える新たな速報も公表されています。

したがって、食道がんでは「ステージはいくつか」と同じくらい、食道のどの位置にがんがあるのかを知っておくことが治療を理解する助けになります。

参考:2026年3月 食道胃接合部癌の手術・リンパ節郭清に関する速報|日本食道学会

早期がん・表在がん・進行がんはステージと同じ意味ではない

食道がんでは、がんの深さを表す言葉として「早期がん」「表在がん」「進行がん」が使われます。

食道粘膜内にとどまるものを「早期がん」粘膜または粘膜下層にとどまるものを「表在がん」と呼びます。固有筋層まで入り込んだものは「進行がん」と呼ばれます。

「進行がん=遠隔転移がある」という意味ではありません。筋層に達した時点で進行がんと呼ぶため、手術によって根治を目指せる進行がんもあります。

逆に、表在がんであっても粘膜下層まで深く入り込むとリンパ節転移の可能性が高くなります。そのため、食道がんでは「早期か進行か」という言葉だけで治療を決めず、深達度とリンパ節転移を詳しく評価します。

参考:食道がんについて|国立がん研究センター

食道がんの原因とリスク

食道がんは、一つの原因だけで発生する病気ではありません。ただし、日本で多い食道扁平上皮がんでは、飲酒と喫煙が特に重要なリスク因子です。国立がん研究センターも、食道がんの予防として禁煙と飲酒を控えることを挙げています。

参考:食道がん 予防・検診|国立がん研究センター

飲酒と食道がん

アルコールは体内でアセトアルデヒドに分解され、その後さらに分解を繰り返し体外に排出されます。このアセトアルデヒドは発がんに関係する物質であり、飲酒量が多いほど食道がんのリスクが高くなることが分かっています。

特に大量飲酒を続けている人では、飲酒量を減らす、または飲酒しないことが食道がんの予防につながります。

お酒を飲むと顔が赤くなる体質との関係

アルコールの代謝にはALDH2という酵素が関係しています。この働きが弱い人ではアセトアルデヒドを分解しにくく、お酒を飲んだときに顔が赤くなりやすい傾向があります。

国立がん研究センターの研究でも、ALDH2の働きが低い遺伝的特徴は日本人を含む東アジア人に比較的多く、食道がんなどのリスクと関連することが示されています。

以前は少量の飲酒で顔が赤くなったものの、飲み続けるうちに赤くならなくなった人もいます。「お酒に慣れたから問題ない」とは限りません。飲酒量と体質を合わせて考える必要があります。

喫煙と飲酒が重なるとリスクはさらに高くなる

喫煙も食道扁平上皮がんの主要なリスク因子です。飲酒と喫煙の両方の習慣がある場合には、それぞれ単独の場合よりリスクが高くなることが知られています。

食道がんと診断された後も、禁煙と飲酒を控えることには意味があります。食道には別の場所に新たながんができることがあり、同じく飲酒や喫煙との関連が強い頭頸部がんなども発生しやすいためです。

非常に熱い飲み物との関係

非常に高温の飲み物を習慣的に飲むことも、食道がんとの関連が指摘されています。WHOの国際がん研究機関(IARC)は、65℃を超える非常に熱い飲み物を「おそらく発がん性がある」と分類しています。

食道がん予防で国内のエビデンスが特に強いのは禁煙と飲酒を控えることですが、熱いものを無理に飲み込まず、少し冷ましてから飲むことも食道への慢性的な熱刺激を避ける方法になります。

参考:FACT SHEET Cancer of the Oesophagus and Drinking Very Hot Beverages|IARC

バレット食道と食道腺がん

胃酸などの逆流が長期間続くと、下部食道の粘膜が胃や腸に似た粘膜へ変化することがあります。これをバレット食道と呼びます。

欧米ではバレット食道が食道腺がんの発生母地として知られています。日本では食道腺がん自体が比較的少ないため、食道がん全体を考えると飲酒・喫煙と扁平上皮がんの関係の方が大きな比重を占めています。

参考:食道がんの疫学・現状・危険因子|日本食道学会

食道がんの予防・検診と受診の目安

胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんには国が推奨する対策型検診がありますが、食道がんには現在、国の指針で定められた対策型がん検診はありません。

そのため「何歳になったら年1回食道がん検診を受ける」という一律の制度にはなっていません。

胃がん検診を受けていれば食道も十分に調べられるとは限らない

胃がん検診で行われる胃部X線検査では上部消化管を撮影しますが、検査の中心は胃です。

国立がん研究センターも、胃がん検診の上部消化管造影では食道より胃を重点的に調べるため、飲食時の胸の違和感や食べ物のつかえがある場合には、検査前に症状を伝えるよう案内しています。

胃がん検診を定期的に受けていることを理由に、食道の症状を様子見するのは避けた方がよいでしょう。

予防では禁煙と飲酒を控えることが中心

食道扁平上皮がんでは、禁煙と飲酒を控えることが予防の中心です。特に大量飲酒をしている人では、飲酒を控えることで食道がんの発生を減らせる可能性があります。

ただし、生活習慣を改善すれば食道がんにならないわけではありません。過去に飲酒・喫煙歴がある人も含め、気になる症状があれば診察を受けることが優先されます。

症状がある場合は「検診」ではなく診断のために受診する

食べ物がつかえる、飲み込みにくい、飲食時に胸がしみる、原因の分からない体重減少があるといった場合は、食道がん検診を探すのではなく、消化器内科などを受診します。

がん検診は症状のない人を対象として行うものです。症状がある人には、その原因を調べるための胃カメラなどの診断検査が必要です。

参考:がん検診について|国立がん研究センター

食道がんの初期症状・進行した場合の症状

食道がんは早期には自覚症状がないことがあります。内視鏡検査で偶然見つかり、初めて食道がんと分かる場合もあります。

一方、がんが大きくなると食道の内腔が狭くなるため、飲み込みに関する症状が現れます。ただし、症状だけから深達度やステージを正確に判断することはできません。

参考:食道がんについて|国立がん研究センター

飲み込んだときにしみる・違和感がある

比較的早い時期には、熱いものや刺激のあるものを飲み込んだ際に胸の奥がしみる、軽く痛む、何となく引っかかるといった違和感を感じることがあります。

一時的な食道炎などでも似た症状は起こるため、症状があるから食道がんというわけではありません。しかし、これまでなかった症状が続く場合は内視鏡検査などを検討します。

食べ物がつかえる・飲み込みにくい

がんによって食道が狭くなると、まず固形物を飲み込みにくくなります。

肉やご飯などが胸の途中で止まるように感じたり、水分を一緒に取らないと飲み込めなくなったりします。さらに狭窄が進むと、やわらかい食事や水分も通りにくくなる場合があります。

「年齢のせいで飲み込みにくくなった」と考えて放置せず、症状が続く場合には原因を確認します。

食事量の減少と体重減少

食べるとつかえるため無意識に食事量が減ったり、食事に時間がかかるようになったりすると、体重が減っていくことがあります。

食道がんでは、治療を開始する前から栄養状態が低下している患者さんもいます。体重減少はがんそのものだけでなく、その後に手術や薬物療法を受ける体力にも関係するため、診断時から栄養状態を確認します。

声のかすれ・咳・胸や背中の痛み

食道の周囲には声帯を動かす反回神経、気管、気管支、大動脈などがあります。

がんが反回神経へ影響すると声がかすれることがあり、気管などへ及ぶと咳や呼吸に関する症状が現れることがあります。胸や背中に痛みを感じる場合もあります。

首の腫れ、強い呼吸苦、血痰などがある場合は早めの受診が必要です。

食道がんの検査と診断

食道がんの検査は、食道にがんがあるか確認する検査と、がんと確定した後に広がりを調べる検査に分けて考えると理解しやすくなります。

最初からすべての検査を受けるわけではありません。内視鏡と病理診断を中心に確定診断を行い、その後、治療方針を決めるために画像検査などを組み合わせます。

参考:食道がん 検査|国立がん研究センター

上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)で食道の粘膜を直接確認

上部消化管内視鏡検査、いわゆる胃カメラでは、咽頭から食道、胃、十二指腸まで粘膜を直接観察します。

通常の白色光だけでは見つけにくい早期食道がんを確認するため、NBIなどの画像強調観察や拡大観察を組み合わせることがあります。表在がんでは、表面の構造や血管の変化から、どの程度深く入り込んでいる可能性があるかを評価します。

生検と病理検査で食道がんかどうかを確定

内視鏡で食道がんが疑われる病変が見つかった場合には、病変の一部を採取する生検を行います。

採取した組織を顕微鏡で調べ、がん細胞があるか、扁平上皮がんなのか腺がんなのかなどを確認します。

ただし、生検は病変の一部を調べる検査です。内視鏡治療や手術を行った後には、切除した病変全体から深達度や脈管侵襲などをより詳しく評価します。

食道造影では腫瘍の長さや狭窄を確認

上部消化管造影・食道造影では造影剤を飲み、食道の形や食べ物の通り道をX線で確認します。

腫瘍がどのくらいの長さに及んでいるか、食道がどの程度狭くなっているかなど、食道全体の形を把握するために役立ちます。国立がん研究センターも、内視鏡と上部消化管造影を食道がんを確認する検査として挙げています。

血液検査・腫瘍マーカーは診断や経過を見る補助になる

食道がんでは血液検査で、扁平上皮がんの場合にSCC抗原やCEA、腺がんではCEAなどの腫瘍マーカーを測定することがあります。

ただし、食道がんがあっても数値が上がらない場合があり、高値だからといって食道がんと確定することもできません。画像検査や病理検査と合わせ、診断や治療効果、経過をみるための補助情報として使います。

EUS・CTなどでがんの深さと転移を調べる

超音波内視鏡検査(EUS)は、内視鏡の先端から超音波を当て、食道壁の層や周囲のリンパ節を詳しく評価する検査です。

CTでは食道周囲への広がりだけでなく、頸部・胸部・腹部のリンパ節、肺、肝臓などへの転移がないかを調べます。食道がんではリンパ節転移が首から胸、腹部まで広い範囲に起こり得るため、一部分だけではなく広い範囲を評価します。

必要に応じてPET、MRI、頸部超音波なども追加します。PETはすべての患者さんに必ず行う検査ではなく、ほかの画像検査と組み合わせて転移などを評価する際に利用します。

参考:CT・MRI・PET検査|日本食道学会

食道がんのステージ分類|cStage・pStageとTNM分類

本章では、主に日本食道学会「臨床・病理 食道癌取扱い規約 第12版」に基づく、食道扁平上皮がんの臨床的進行度(cStage)を中心に説明します。食道腺がんでは進行度分類が異なり、食道胃接合部腺がんでは胃がんの病期分類を用いるため、診断書などに記載されたステージがどの分類に基づくものかを確認することが大切です。

食道がんのステージは、がんが食道壁のどこまで入り込んでいるかを示す「T」、リンパ節転移を示す「N」、遠隔転移を示す「M」を組み合わせて判断します。

分類 何を見ているか
T がんが食道壁のどこまで深く入り込んでいるか。T1aは粘膜内、T1bは粘膜下層、T2は固有筋層、T3は外膜、T4は周囲臓器への浸潤
N 領域リンパ節転移。N0は0個、N1は1〜2個、N2は3〜6個、N3は7個以上
M 領域外リンパ節や遠隔臓器への転移。M1aは一部の領域外リンパ節、M1bはそれ以外の領域外リンパ節や肺・肝臓などへの遠隔転移

食道がんでは、浅い段階でも深さが少し変わるだけでリンパ節転移の可能性が大きく変わるため、T1の中を細かく評価する意味があります。なお、第12版では治療前のT3を、手術で切除可能と判断される「T3r」と、切除可能か慎重な判断が必要な「T3br」に分けています。

参考:臨床・病理 食道癌取扱い規約 第12版|日本食道学会

食道がんは0期からⅣB期まで分類する

日本で多い食道扁平上皮がんの臨床的進行度は、0期、Ⅰ期、Ⅱ期、ⅢA期、ⅢB期、ⅣA期、ⅣB期に分類されます。

ステージ 一般的な病状のイメージ
0期 主に粘膜内にとどまり、リンパ節・遠隔転移がない
Ⅰ期 主に粘膜下層までで、リンパ節転移が確認されない
Ⅱ期 より深く広がっている、または浅くても一部のリンパ節転移がある
ⅢA期 リンパ節転移が増えているなど、より進行した状態
ⅢB期 食道周囲への広がりから、切除可能性を慎重に評価する状態
ⅣA期 周囲臓器へ明らかに浸潤している局所進行がん
ⅣB期 遠隔臓器などへ転移している状態

実際のステージはT・N・Mの組み合わせによって決まるため、この表は病状を理解するための大まかな整理です。たとえば同じT1bでも、リンパ節転移がなければⅠ期ですが、N1であればⅡ期になります。正確な病期は画像検査などをもとに医師が判定します。

ステージを理解するときには「食道壁への深さ」と「リンパ節転移」を一緒に見る必要があります。

例1:T1b+N0 → Ⅰ期
粘膜下層まで達していても、リンパ節転移が確認されなければⅠ期です。

例2:T1b+N1 → Ⅱ期
深さが同じT1bでも、領域リンパ節1〜2個に転移があれば病期は上がります。

例3:M1b → ⅣB期
肺や肝臓などの遠隔臓器転移がある場合は、TやNにかかわらずⅣB期です。

ちなみに「M1=遠隔転移=ステージ4」とは限りません。食道癌取扱い規約第12版では、領域リンパ節の外にあるリンパ節転移のうち、手術による治療効果が期待される一部をM1aとして扱います。肺や肝臓への転移などを示すM1bとは区別されています。

参考:食道がんのステージと治療の選択|日本食道学会

治療前のcStageと手術後のpStageは意味が違う

食道がんでは、治療開始前に内視鏡、CT、PETなどから推定した病期を臨床病期(cStage)と呼びます。

一方、手術を行った場合には、切除した食道やリンパ節を顕微鏡で詳しく調べ、病理学的な情報から病理病期(pStage)を評価します。

画像検査では転移しているように見えなかった小さなリンパ節に、手術後の病理検査でがん細胞が見つかることがあります。また、手術前に薬物療法などを受けた場合には、治療によってがんが縮小・消失していることもあります。

そのため、治療前に説明されたcStageと、手術後に評価される病理学的な状態が異なることがあります。これは画像検査と病理検査で得られる情報が異なることや、術前治療によって病状そのものが変化することがあるためで、「最初の診断が間違っていた」という意味ではありません。

参考:食道がん 治療|国立がん研究センター

ステージ別に見る食道がん治療の全体像

食道がんの治療は「ステージがいくつならこの治療」と一つに固定されるわけではありません。がんの深さ、リンパ節転移、発生した位置、全身状態、治療に対する希望などを合わせて決定します。

ただし、治療全体の流れは次のように整理できます。

病状の目安 主な治療の考え方
0期・ごく浅いT1a ESDなどの内視鏡治療で根治を目指す
Ⅰ期・T1bなど 手術または根治的化学放射線療法などを検討する
切除可能なⅡ・Ⅲ期 胸部食道扁平上皮がんでは術前DCF療法+手術が国内の標準治療
局所進行で切除が難しい場合・ⅣA期 根治的化学放射線療法などを検討する
遠隔転移を伴うⅣB期・再発 薬物療法を中心に、症状への治療や栄養管理を組み合わせる

日本食道学会では、切除可能なステージⅡ・Ⅲ期の胸部食道扁平上皮がんでは手術前に薬物療法を行ってから手術する方法を標準治療としています。現在、日本で代表的なのはDCF療法です。

一方、食道を切除せず根治を目指す化学放射線療法も重要な治療です。特にⅠ期や、手術を希望しないⅡ・Ⅲ期、局所的に手術が難しい病変では治療候補になります。

食道がんの治療では「内視鏡で取り切れる深さか」「手術によって根治を目指せるか」「食道を温存する化学放射線療法が候補になるか」が大きな分岐点になります。

参考:食道がんのステージと治療の選択|日本食道学会

食道がんの内視鏡治療|ESD・EMRで治療できる場合

内視鏡治療は、口から内視鏡を入れて食道の内側からがんを切除する治療です。胸やお腹を大きく切開せず、食道そのものを残せることが大きな利点です。

ただし、「早期食道がんならすべて内視鏡で治療できる」というわけではありません。判断の中心になるのは、リンパ節転移の可能性が十分に低い深さかどうかです。

参考:内視鏡治療|日本食道学会

T1a-EP・LPMは内視鏡治療の中心的な対象

食道粘膜は、表面側から粘膜上皮(EP)、粘膜固有層(LPM)、粘膜筋板(MM)へ分かれます。

T1a-EPやT1a-LPMまでにとどまる食道がんではリンパ節転移の可能性が極めて低いため、内視鏡治療の中心的な対象です。

T1a-MMまで達するとリンパ節転移が約10%、粘膜下層へ入り込むT1b-SMではさらに転移の可能性が高まります。日本食道学会では、T1b-SMで20~50%程度の転移が報告されています。

そのため、内視鏡で病変そのものを取れるかどうかだけではなく、食道の外にあるリンパ節まで治療する必要があるかを考えます。

ESDとEMRは病変の切除方法が異なる

内視鏡的粘膜切除術(EMR)は病変を持ち上げてスネア(ワイヤー)で切除する方法です。

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は病変の下にある粘膜下層を専用の器具で少しずつ剥離し、比較的大きな病変でも一括切除を目指す方法です。現在は食道表在がんでもESDが広く用いられています。

一括切除する利点は、治療そのものだけではありません。切除した標本を広い範囲で病理検査できるため、本当の深達度、脈管侵襲、切除断端などを詳しく確認できます。

内視鏡で取れた後に追加治療が必要になることがある

ESD後の病理検査で予想より深くがんが入り込んでいたり、リンパ管や血管への侵入が確認されたりした場合には、リンパ節転移を治療するため手術や化学放射線療法を追加することがあります。

これは「内視鏡治療に失敗した」という意味ではありません。

治療前の内視鏡では完全には分からなかった深さや転移リスクが、切除標本を詳しく調べることで明らかになったためです。

参考:食道癌診療ガイドライン システマティックレビュー|日本食道学会

広い範囲を切除すると食道狭窄が問題になる

食道の内周を広く切除すると、治った部分が瘢痕となって縮み、食道が狭くなることがあります。

特に全周に近い広範囲の切除では狭窄リスクが高くなるため、予防治療を組み合わせたり、病変の範囲によっては最初から手術や化学放射線療法を検討したりします。

食道を残せる治療であっても、「切除できるか」だけではなく、切除後も食事を通せる食道を保てるかまで考えて治療方法を選びます。

食道がんの手術と術前治療|DCF・食道切除・リンパ節郭清

内視鏡治療ではリンパ節まで治療できないため、リンパ節転移の可能性が高い食道がんでは食道切除とリンパ節郭清を行います。

食道がんの手術は、食道を切除するだけではありません。がんのある食道を切除し、転移する可能性があるリンパ節を郭清し、その後、胃や腸を使って新しい食べ物の通り道を作る再建までが一連の手術です。

参考:手術治療|日本食道学会

手術前にDCF療法を行う理由

切除可能なステージⅡ・Ⅲ期の胸部食道扁平上皮がんを中心に、日本では手術前に薬物療法を行うことが標準となっています。現在の代表的な治療が「DCF療法」です。

DCFは、ドセタキセル(D)、シスプラチン(C)、5-FU(F)の3剤を組み合わせます。

術前治療の目的は、単に大きな腫瘍を小さくして切りやすくすることだけではありません。画像には写っていない微小ながん細胞を手術前から全身的に治療し、手術後の再発を減らすことも目的です。

JCOG1109(NExT)試験を受け、日本食道学会はcStageⅡ・Ⅲの食道扁平上皮がんで手術を中心とする場合、DCFを含む術前治療を重視する方針を示しています。

なお、DCFの有効性を示したJCOG1109試験は75歳までの患者さんを対象としていました。高齢者や併存症がある場合には、試験結果をそのまま当てはめず、DCFによる副作用と治療に耐えられる状態かを慎重に評価し、別の術前治療を検討することがあります。

参考:JCOG1109(NExT)術前DCF速報|日本食道学会

胸部食道がんでは広い範囲のリンパ節を治療する

食道には縦方向へ広がる豊富なリンパ管があります。そのため胸部食道がんでも、胸のリンパ節だけでなく首や腹部のリンパ節へ転移することがあります。

手術では、がんの位置や広がりに応じて頸部・胸部・腹部のリンパ節をまとめて切り取る「郭清(かくせい)」を行います。

「食道の腫瘍だけ小さく取ればよい」とならないのは、このリンパ節転移の特徴があるためです。

切除した食道の代わりに胃などで通り道を作る

胸部食道を切除した後は、胃を細長く形成した胃管(いかん)を胸や首まで持ち上げ、残った食道とつないで食べ物の通り道を再建する方法が一般的です。

胃が使えない場合などには、大腸や小腸を使うこともあります。

再建後は以前と消化管の位置や形が変わるため、一度に食べられる量の低下、逆流、ダンピング症候群などが起こることがあります。

頸部食道がんでは「声を残せるか」も治療判断に関係する

頸部食道は咽頭や喉頭と非常に近いため、がんの広がりによっては食道だけを切除することが難しくなります。

喉頭まで一緒に切除する必要がある場合には、通常の声帯による発声ができなくなります。一方、病変の位置や広がりによっては喉頭を残した手術や化学放射線療法を検討できる場合があります。

頸部食道がんでは、「がんを取り切れるか」と同時に、治療後の発声や嚥下機能をどこまで維持できるかを含めて相談します。

開胸・胸腔鏡・ロボット支援手術は何が違うのか

食道がんの手術では、胸部の操作方法として開胸手術、胸腔鏡下手術、ロボット支援手術などがあります。

どの方法でも、がんのある食道を切除し、必要なリンパ節を郭清して食べ物の通り道を再建するという手術の目的は基本的に同じです。違うのは、胸の中へどのようにアプローチし、どのように手術器具を操作するかです。

手術方法 方法 特徴
開胸手術 胸部を大きく切開し、術者が胸の中を直接確認しながら食道切除とリンパ節郭清を行う 広い術野を確保しやすい一方、胸壁への負担が大きくなりやすい
胸腔鏡下手術 胸部に複数の小さな孔を開け、カメラと手術器具を入れ、モニター画像を見ながら術者が器具を直接操作する 開胸手術より胸壁への侵襲を抑えられる一方、高度な内視鏡外科技術が必要になる
ロボット支援手術 胸部の小さな孔からカメラとロボットアームを入れ、術者が操作席からロボットアームを操作する 立体的な拡大視野と自由度の高い鉗子操作を利用でき、狭い胸の中で繊細な操作を行いやすいことが期待される

2025年に公表されたJCOG1409(MONET)試験では、十分な経験を持つ術者が行った胸腔鏡下食道切除術について、開胸手術に全生存期間で劣らないことが示され、術後の呼吸機能も良好に保たれることが確認されました。これを受け、日本食道学会は胸部食道がんに対する胸腔鏡下食道切除術を強く推奨しています。

一方、ロボット支援手術が開胸手術や胸腔鏡下手術より長期生存率を改善することまで確立しているわけではありません。 国立がん研究センターも、ロボット支援食道手術ではより繊細な操作が期待される一方、その有効性については今後も評価が必要としています。

そのため、食道がん手術は「ロボットだから最も優れている」「開胸だから古い」といった基準で選ぶものではありません。病変の位置や広がり、これまでの手術歴、全身状態に加えて、その術式を施設や術者がどの程度経験しているかも考えて選択します。

参考:JCOG1409(MONET)胸腔鏡下食道切除術速報|日本食道学会
参考:胸腔鏡下手術が切除可能食道がんの新たな標準治療に|国立がん研究センター

食道がん手術では肺炎・縫合不全・反回神経麻痺に注意する

食道切除は胸部、腹部、場合によっては頸部にも操作が及ぶ大きな手術です。

術後には肺炎、食道と胃管などをつないだ部分から内容物が漏れる縫合不全、声帯を動かす反回神経の障害などが起こることがあります。日本食道学会も、術後肺炎は食道手術で注意すべき合併症の一つとしています。

反回神経麻痺が起こると、声がかすれるだけでなく、食べ物や唾液が気管へ入りやすくなり、誤嚥性肺炎につながることがあります。そのため食道がん手術では、手術前から呼吸機能や栄養状態を整え、術後には呼吸・嚥下リハビリテーションを行いながら回復を目指します。

化学放射線療法・放射線治療|食道温存と救済治療

化学放射線療法は、放射線治療と抗がん薬を同時に組み合わせ、食道を切除せずにがんの根治を目指す治療です。

放射線だけを照射するより、抗がん薬を併用することで治療効果を高めることを目的とします。国内ではシスプラチンと5-FUを組み合わせる方法などが用いられます。

参考:放射線治療/化学放射線療法|日本食道学会

Ⅰ期では手術と化学放射線療法の両方が候補になることがある

粘膜下層まで達してリンパ節転移の可能性があるⅠ期食道がんでは、内視鏡だけでは治療が不十分になることがあります。

このような場合には手術のほか、根治的化学放射線療法によって食道を温存する方法も検討します。日本食道学会のガイドラインでも、cStageⅠで手術を行わない場合の化学放射線療法について検討されています。

食道を残せることは大きな利点ですが、治療後にがんが残ったり同じ場所へ再発したりする可能性があるため、定期的な内視鏡検査などが必要です。

Ⅱ・Ⅲ期でも手術を行わない根治治療として選ばれる

切除可能なステージⅡ・Ⅲ期の胸部食道扁平上皮がんでは、国内では術前DCF療法+手術が標準治療です。

一方、手術を希望しない場合や全身状態などから手術の負担が大きい場合には、根治的化学放射線療法を検討します。

治療を選ぶ際には「食道を残せるか」だけでなく、根治できる可能性、手術のリスク、化学放射線療法後に病変が残った場合の次の治療まで含めて比較します。

ⅣA期でも根治を目指して化学放射線療法を行うことがある

食道がんが気管や大動脈など周囲臓器へ広がり、そのままでは切除が難しいⅣA期では、全身状態が保たれていれば根治的化学放射線療法が候補になります。

治療後は画像検査などで病変の状態を改めて評価します。一部の患者さんでは、治療効果や病変の範囲、全身状態などを踏まえ、経験のある施設で手術を含む追加治療を慎重に検討する場合があります。

化学放射線療法でがんが残った・再発した場合の救済治療

根治的化学放射線療法を行っても、食道局所にがんが残ったり、その後同じ場所に再発したりすることがあります。

その場合、病変の深さや範囲によっては救済手術、内視鏡切除、光線力学的療法(PDT)などを検討します。

PDTは、薬剤を投与した後に特定の波長のレーザー光をがんへ照射して治療する方法で、化学放射線療法後の局所遺残・再発の一部が対象になります。

救済手術は根治を目指せる可能性がある一方、放射線治療を受けた組織を手術するため、初回から手術する場合より合併症リスクが高くなることがあります。

そのため化学放射線療法を選ぶ段階から、治療後に病変が残った場合にどのような救済治療が可能なのかも確認しておくと、その治療を選ぶ意味を理解しやすくなります。

参考:内視鏡治療|日本食道学会

術前化学放射線療法後の術後ニボルマブ

術後ニボルマブについては、適応となる治療経過を区別して理解する必要があります。

CheckMate 577試験で効果が示されたのは、cStageⅡ・Ⅲなどの食道がんに対して術前化学放射線療法を行った後にR0切除ができたものの、病理学的にがんが残っていた患者です。この条件では、日本食道学会も術後ニボルマブを強く推奨しています。

一方、日本で標準的に行われている術前DCFなどの化学療法→手術の後にニボルマブを追加すれば再発を減らせる、ということは現在確立していません。日本食道学会の患者向け情報でも、この点は明確に区別されています。

「食道がんの手術後だからニボルマブを使う」という治療ではなく、手術前にどの治療を受けたのか、手術標本にがんが残っていたかによって考えます。

参考:術前・術後の薬物療法|日本食道学会

切除不能・再発食道がんの薬物療法とバイオマーカー

肺や肝臓などへの遠隔転移があるⅣB期や、手術後に複数の場所へ再発した食道がんでは、全身へ作用する薬物療法が治療の中心になります。

手術や放射線治療は特定の場所を治療する方法ですが、薬物療法は画像では見えない病変も含め、全身のがん細胞へ作用することを目的とします。

なお、以下では、日本で多い食道扁平上皮がんの薬物療法を中心に説明します。食道腺がんや食道胃接合部腺がんでは、組織型やバイオマーカーに応じて治療の考え方が異なる場合があります。

参考:進行・再発食道がんに対する薬物療法|日本食道学会

一次治療では化学療法と免疫療法を組み合わせる

現在の進行・再発食道がんでは、5-FUやプラチナ系抗がん薬による化学療法だけでなく、免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせる治療が一次治療として用いられています。

代表的には、ペムブロリズマブまたはニボルマブと化学療法を組み合わせる方法があります。また、ニボルマブとイピリムマブという2種類の免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせる治療も選択肢です。

2025年には、チスレリズマブ+シスプラチン+5-FU療法も一次治療の選択肢に加わりました。根拠となったRATIONALE-306試験は進行・再発の食道扁平上皮がんを対象とした試験で、日本食道学会はこの併用療法を強く推奨しています。PD-L1のTAPスコアによって上乗せ効果が異なる傾向も示されているため、患者さんの病状やPD-L1発現などを踏まえて治療を選択します。

どの治療を選ぶかは、PD-L1発現、がんの進み方、全身状態、腎機能などによって変わります。また各試験でPD-L1の評価方法や、効果が大きくみられた患者群が異なるため、「PD-L1が高い/低い」だけで一律に薬を決めるものではありません。

参考:RATIONALE-306 試験の概要|日本食道学会ガイドライン委員会

二次治療以降は、これまでに使った薬から次の治療を考える

一次治療で病状が進行した場合には、それまでに使用していない種類の薬へ切り替えます。

一次治療で化学療法と免疫療法を使用した場合には、パクリタキセルなどのタキサン系薬剤を使うことがあります。反対に一次治療でニボルマブ+イピリムマブを使用した場合には、フルオロウラシル系薬剤とプラチナ系薬剤を組み合わせるなど、治療歴に応じて次の治療を決めます。

「二次治療だからこの薬」と自動的に決まるのではなく、これまでにどの薬を使い、どの副作用が残っているかが選択に関係します。

一部の食道がんではHER2遺伝子増幅が治療につながる

これまで食道がんでは、肺がんなどのようにバイオマーカーから薬を選ぶ治療は限定的でした。

しかし2026年には、HER2遺伝子増幅を持つ切除不能・進行・再発食道がんで、標準的な治療が難しくなった場合にトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が新たな選択肢となりました。

日本食道学会は2026年4月、HER2遺伝子増幅を持つ切除不能進行・再発食道がんに対するT-DXdを弱く推奨しています。HERALD試験に登録された食道がん12例のうち10例は扁平上皮がんであり、HER2は食道腺がんだけに関係する情報ではありません。現時点では、T-DXdの適応を判断する際には、承認されたコンパニオン診断薬などを用いてHER2遺伝子増幅を確認する必要があります。

ただし、HER2検査をすべての早期食道がん患者が受けるという意味ではありません。進行・再発し、標準治療後の次の選択肢を考える場面などで、検査の必要性を判断します。

参考:2026年 T-DXd 食道癌ガイドライン速報|日本食道学会

食べ物が通らない場合の治療・栄養管理・緩和ケア

食道がんでは、治療の副作用とは別に、がんそのものによって食べられなくなることがあります。

食道が狭くなって十分な栄養を取れない状態が続くと、体重と筋肉が減り、その後の手術や薬物療法を受ける体力にも影響します。そのため、がんを治療することと栄養を保つことを同時に考えます。

参考:緩和治療|日本食道学会

食べられる範囲に合わせて食事形態を変える

軽い通過障害であれば、食べ物を小さくする、よく噛む、やわらかい食品へ変える、とろみや水分を利用するといった方法で食事を取りやすくできることがあります。

ただし、無理に固形物を押し込むと途中で詰まることがあります。食べ物が頻繁につかえる場合には、栄養指導だけで済ませず、狭窄の程度を医療者へ伝えます。

口から十分に取れない場合は別の経路から栄養を補う

食事だけでは必要な栄養を確保できない場合には、点滴による栄養や、胃ろう・腸ろうなどを使った経管栄養を検討します。

食道がんでは手術の際に腸ろうを作り、術後に食事が十分取れるようになるまで栄養を補うこともあります。

「口から食べられない=治療ができない」というわけではなく、栄養経路を確保して体力を保ちながら治療を続ける方法があります。

参考:食道がんQ&A|国立がん研究センター

食道ステントで通り道を広げる場合がある

食道の狭窄が強い場合には、内側から金属製などのステントを広げて食べ物の通り道を確保する方法があります。

ただし、食道が狭いから必ずステントを入れるわけではありません。

病変の場所や今後予定している治療によっては、放射線治療、化学放射線療法、バイパス手術、胃ろう・腸ろうなどの方が適している場合があります。放射線治療との組み合わせなどでは重い合併症を起こす可能性もあるため、その後の治療計画を踏まえて選択します。

緩和ケアは治療をやめた後に始めるものではない

食べられないこと、痛み、息苦しさ、不安などを和らげる緩和ケアは、抗がん治療を終了した患者さんだけが受けるものではありません。

日本食道学会も、食道がんに対する緩和治療は診断と同時に進め、身体症状や心理的なつらさを軽減してQOLを保つことを目的とすると説明しています。

薬物療法や放射線治療を行いながら、痛み、栄養、睡眠、仕事や家庭生活などの問題について緩和ケアチームへ相談することもできます。

食道がん治療の副作用と治療後の食事・嚥下・生活

食道がんでは、治療が終わった後も食事の仕方や体重、飲み込み方が以前と同じには戻らない場合があります。

副作用を「症状が出るか出ないか」だけで考えず、食べられているか、体重を保てているか、誤嚥せず飲み込めているか、日常生活を送れるかまで確認します。

参考:食道がん 療養|国立がん研究センター

食道切除後は少量ずつ回数を分けて食べる

食道切除後に胃管で再建すると、胃の形や位置が手術前と大きく変わります。

一度にたくさん食べると苦しくなる場合があるため、少ない量から始め、食事回数を増やしながら自分が食べられる量を探していきます。食事量が少ない時期には、1回の量だけで栄養を確保しようとせず、間食なども利用しながら一日全体で必要なエネルギーを取れるよう調整します。

体重は手術前より減ることがある

食事量の低下、消化管の形の変化、術後の代謝変化などによって、食道がん手術後には体重が減少することがあります。

多少の体重減少だけで治療異常とは限りませんが、体重が下がり続ける、食事を増やせない、筋力が低下して外出できなくなったといった場合には、管理栄養士などへ相談します。「食道を切ったから痩せるのは仕方がない」と決めつけず、食べにくさの原因を探します。

逆流やダンピング症候群が起こることがある

胃管を胸や首まで持ち上げると、胃液や腸液が逆流しやすくなることがあります。特に食後すぐに横になると逆流しやすいため、食後の姿勢や就寝時の上半身の高さなどを調整することがあります。

また、食物が急速に小腸へ流れ込むことで、食後の動悸、冷や汗、腹痛、下痢、めまいなどを生じるダンピング症候群が起こることもあります。

声のかすれや誤嚥には嚥下リハビリが関係する

手術中に反回神経が影響を受けると、声帯の動きが低下し、声がかすれることがあります。声の問題だけでなく、飲み込んだ食物や唾液が気管へ入りやすくなることがあり、誤嚥性肺炎につながる場合があります。

食事中にむせる、飲んだ後に声が濁る、発熱を繰り返すといった場合には、嚥下機能を評価し、言語聴覚士などによるリハビリテーションを検討します。

DCFでは感染症につながる骨髄抑制などに注意する

DCF療法では、白血球や好中球の減少、発熱、食欲低下、吐き気、口内炎などが起こることがあります。

特に好中球が大きく減少すると感染症が重症化する可能性があります。高熱や強い倦怠感などがある場合には、次の受診日まで待たず病院へ連絡する必要があります。

食道がんでは治療前から栄養状態が低下している場合があるため、吐き気や口内炎によって食事量がさらに落ちていることも治療継続に関係します。

放射線治療中は一時的に飲み込みにくさが強くなることがある

放射線を食道へ照射すると、治療途中から粘膜に炎症が起こり、飲み込んだ際の痛みやつかえ感が一時的に強くなることがあります。国立がん研究センターでは、治療中から治療直後にこのような症状が続く場合があると説明しています。

放射線治療では、治療中の食道炎だけでなく、治療終了後しばらくして副作用が現れることもあります。食道が狭くなる食道狭窄や、肺・心臓への影響などがみられる場合があるため、治療終了後も新しい飲み込みにくさ、咳や息切れなどがあれば医療機関へ相談します。

がんによる狭窄と放射線食道炎が重なると食事量が大きく落ちることがあるため、鎮痛薬や栄養管理を組み合わせます。

参考:放射線治療/化学放射線療法|日本食道学会

免疫療法では普段と違う症状を早めに伝える

ニボルマブ、ペムブロリズマブ、チスレリズマブ、イピリムマブなどの免疫チェックポイント阻害薬では、免疫反応が自分自身の臓器へ及ぶことで副作用が起こる場合があります。

肺、腸、肝臓、甲状腺などさまざまな臓器に影響する可能性があるため、新しい咳や息切れ、下痢、強い倦怠感などが続く場合には治療を受けている医療機関へ連絡します。

免疫療法では通常の抗がん薬のように単純に減量して続けるのではなく、副作用の重さによって休薬・中止し、必要に応じステロイドなどで治療します。

また、T-DXdを使用する場合には間質性肺疾患にも注意が必要です。新しい咳や息切れなどが現れた場合には早期に評価します。日本食道学会もT-DXd使用時の間質性肺疾患への注意を示しています。

参考:T-DXdの間質性肺疾患|日本食道学会ガイドライン委員会

食道がんのステージ別生存率

食道がんの予後を調べると、「5年生存率」「10年生存率」という数字を目にします。

国立がん研究センターの院内がん登録では、食道がんのステージ別ネット・サバイバルが公表されています。2014~2015年診断例の5年値と、2012年診断例の10年値は次のとおりです。

ステージ 5年ネット・サバイバル
2014~2015年診断例
10年ネット・サバイバル
2012年診断例
Ⅰ期 78.4% 59.4%
Ⅱ期 48.9% 34.0%
Ⅲ期 27.4% 17.1%
Ⅳ期 8.7% 5.5%

なお、この生存率集計ではⅣA期とⅣB期は分かれておらず、「Ⅳ期」として集計されています。また、この生存率は扁平上皮がんだけではなく「食道がん」全体の集計です。

ここで示す院内がん登録の生存率はUICC TNM分類による病期を用いた集計です。前の章で説明した日本食道学会「食道癌取扱い規約 第12版」に基づく臨床的進行度とは分類方法が同じではないため、両者のステージ番号を完全に同じ病状として置き換えることはできません。また、2012年および2014〜2015年診断例は現在とは異なる版のUICC TNM分類が使われていた時期の統計となっています。

参考:2014~2015年診断例・5年生存率|国立がん研究センター
参考:2012年診断例・10年生存率 最新集計値|国立がん研究センター

ネット・サバイバルは個人の余命を示す数字ではない

ネット・サバイバルとは、がん以外の病気や事故などによる死亡の影響を統計学的に取り除き、そのがんだけが死亡に影響すると仮定した場合の生存状況を推定する指標です。

たとえばⅢ期の5年ネット・サバイバルが27.4%だからといって、「自分が5年後に生きている確率が27.4%」とそのまま解釈することはできません。

同じⅢ期でも、がんの位置、リンパ節転移の程度、年齢、全身状態、術前治療への反応、根治切除できたかなどによって病状は異なります。

5年と10年は同じ患者を続けて集計した数字ではない

5年ネット・サバイバルは2014~2015年診断例、10年ネット・サバイバルは2012年診断例です。

したがって「Ⅰ期では5年後78.4%だった人が10年後59.4%になった」というように、同じ患者集団の時間経過として直接比較することはできません。

現在の治療成績がすべて反映されているわけではない

この生存率が集計された患者さんが診断された後、食道がん治療は変化しています。

現在の切除可能な局所進行食道がんでは術前DCF療法が標準となり、進行・再発例ではニボルマブ、ペムブロリズマブ、イピリムマブ、チスレリズマブなどを用いた免疫療法が導入されています。2026年にはHER2遺伝子増幅を持つ一部の進行・再発食道がんにT-DXdという選択肢も加わっています。

したがって、過去の生存率を2026年現在治療を始める患者さんの将来へ、そのまま当てはめることはできません。

食道がんの再発・経過観察|重複がんにも注意

食道がんの治療後は、治療した場所だけでなく、リンパ節や別の臓器への再発がないかを定期的に確認します。

経過観察の内容や間隔は、内視鏡治療、手術、化学放射線療法など、受けた治療と病理結果によって異なります。日本食道学会では、すべての患者さんに共通する一つの決まったフォローアップ手順があるわけではないと説明しています。

参考:食道がん治療後の経過観察|日本食道学会

再発は食道の同じ場所だけに起こるわけではない

食道がんの再発には、食道や手術部位周辺に再び現れる局所再発、リンパ節再発、肺・肝臓・骨などへの遠隔転移があります。

再発した場合には、再発した場所と範囲、これまで受けた治療、全身状態から治療を考え直します。

局所に限られた再発であれば内視鏡治療、放射線治療、救済手術などを検討できることがあり、広範囲に再発している場合には薬物療法が中心になります。

内視鏡治療後も食道内に新しいがんができることがある

ESDやEMRで病変を切除しても、食道そのものは残っています。

最初に治療した場所が治っていても、残った食道の別の場所に新しい食道がんが発生することがあります。そのため、内視鏡治療後も継続した内視鏡検査が必要です。

内視鏡治療後にリンパ節転移のリスクがある病理所見が確認された場合には、CTなども組み合わせて経過を確認します。

食道がんでは「重複がん」にも注意する

食道がん患者さんでは、同時期または時間をおいて、別の臓器にもがんが発生することがあります。

日本食道学会では、食道がん患者の約23%にほかの臓器のがんがみられ、特に咽頭を中心とする頭頸部がん、胃がん、大腸がんなどが多いと報告しています。

食道がんと頭頸部がんは、ともに飲酒・喫煙との関連が強いため、一人の患者さんに複数発生することがあります。

そのため食道がん治療後の内視鏡検査では、食道だけでなく咽頭や胃なども観察します。再発を探すだけでなく、別の場所に新しくできたがんを早い段階で見つけることも経過観察の目的です。

治療後1~2年は特に再発を確認する

経過観察の具体的な間隔は治療内容や施設によって異なりますが、食道がんでは再発の多くが治療後の比較的早い時期にみられます。

日本食道学会では、手術後は最初の1~2年に3~6カ月ごとを目安としてCTなどを行い、その後徐々に間隔を延ばす方法が一般的としています。根治的化学放射線療法後も、最初の1~2年は内視鏡とCTなどを3~6カ月ごとに行うことがあります。

新しい症状があれば次の定期検査まで待たない

定期的にCTや内視鏡検査を受けていても、検査と検査の間に病状が変化することがあります。

新しく食べ物がつかえるようになった、体重が急に減った、声のかすれが続く、痛みや咳が強くなったなど、以前とは違う変化がある場合には次回の定期受診まで待たず相談します。

食道がんの治療を選ぶときに確認したいこと

食道がんでは、同じ「食道がん」という診断でも、内視鏡治療だけで根治を目指せる患者さんから、DCF療法と大きな手術が必要な患者さん、食道を残す化学放射線療法を検討できる患者さんまで治療が大きく異なります。

その違いは、単に病院や医師の好みで決まるのではありません。

確認したいこと 治療選択に関係する理由
扁平上皮がんか腺がんか 病期分類や薬物療法の考え方に関係する
食道のどこにがんがあるか 切除範囲、リンパ節郭清、声や嚥下機能への影響が変わる
cStage・深達度はいくつか 内視鏡治療、手術、化学放射線療法の分岐になる
なぜ手術または化学放射線療法が勧められているか 根治の可能性と治療後の生活を比較するため
治療後に病変が残った場合の次の治療 救済手術、PDT、薬物療法など次の選択肢を理解するため
現在の体重・食事量・体力 予定した治療を安全に受け続けられるかに関係する

参考:食道がんのステージと治療の選択|日本食道学会
参考:食道がん 治療|国立がん研究センター

特に手術と化学放射線療法の両方が候補になる場合には、「食道を残せるか」だけで比較しない方がよいでしょう。

それぞれの治療で期待できる根治性、合併症、治療期間、食事や仕事への影響、治療後にがんが残った場合の救済治療まで聞いたうえで、自分にとって受け入れられる治療を考えます。

食道切除は身体への負担が大きい治療ですが、胸腔鏡手術など手術方法も進歩しています。一方、化学放射線療法は食道を残せる可能性がありますが、局所再発した場合にはその後の治療が必要になります。

提示された治療について迷う場合には、食道がんを多く扱う施設でセカンドオピニオンを受ける方法もあります。日本食道学会では、食道がんの内視鏡治療、放射線治療、外科治療を行う施設や食道外科専門医を公開しています。

参考:食道がん治療を行う病院一覧|日本食道学会

食道がんは治すことと「食べる・飲み込む生活」を一緒に考える

食道がんは、早い段階で見つかれば食道を切除せず、ESDなどの内視鏡治療で根治を目指せる場合があります。一方、がんが深くなりリンパ節転移の可能性が高くなると、術前DCF療法と手術や、根治的化学放射線療法などを検討します。

どの治療が適しているかを理解するには、ステージの数字だけを見るのではなく、がんの深さ、リンパ節への広がり、食道のどこにできたのか、手術で取り切れるのかを確認する必要があります。

食道は毎日の食事に直接関係する臓器です。治療後に体重が減る、食事量が変わる、飲み込みにくくなる、声が変わるといったこともあります。治療を選ぶときには、がんを取り除くことだけでなく、治療後にどのように食べ、どのような生活を送りたいのかまで主治医と共有してみてください。

参考:患者さんとご家族のための食道がん診療の手引き(2026年4月)|日本食道学会

肝臓がんは、肝臓そのものから発生する原発性肝がんの総称です。日本ではその90%以上を肝細胞がんが占めており、一般に「肝臓がん」といった場合は肝細胞がんを指すことが多くあります。

肝細胞がんには、ほかのがんとは異なる特徴があります。

治療方法を決めるとき、がんの大きさや個数、血管への広がり、転移の有無だけを見ればよいわけではありません。肝細胞がんはB型・C型肝炎、アルコール関連肝障害、肝硬変、MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)など、もともと傷んだ肝臓に発生することが多いため、「がんをどこまで治療できるか」と同時に「治療後も肝臓がどこまで働けるか」を考える必要があります。

そのため、同じ大きさ・同じ個数の肝細胞がんでも、肝機能が十分保たれている人と肝硬変が進んでいる人では、選択される治療が異なることがあります。

この記事では、一般に「肝臓がん」と呼ばれることの多い肝細胞がんを中心に、原因、検診・定期検査、症状、診断、ステージ、肝予備能、肝切除、ラジオ波焼灼療法(RFA)、TACE、肝移植、薬物療法、生存率、再発まで解説します。

  • 肝細胞がんの治療は、ステージだけでなく肝機能も合わせて決める
  • 肝細胞がんは背景に慢性肝疾患があることが多く、治療後も再発と肝機能低下の両方に注意する
  • 進行・再発しても治療法は一つではなく、その時点の病状と肝機能から次の選択肢を考える

肝臓がんとは何か

肝臓に見つかるがんが、すべて同じ「肝臓がん」という病気なのではありません。

肝臓の細胞から発生したのか、肝臓内の胆管から発生したのか、別の臓器から転移してきたのかによって、診断名も治療方法も異なります。

この記事で主に扱うのは「肝細胞がん」

肝細胞がんは、肝臓の大部分を構成している肝細胞から発生するがんです。

国立がん研究センターでは、日本で発生する肝臓がんの90%以上が肝細胞がんであるとしています。そのため、一般的には「肝臓がん」という言葉が肝細胞がんの意味で使われることも多くあります。

肝細胞がんの特徴は、がんだけが単独で発生するというより、慢性的な肝障害を抱えた肝臓に発生することが多いことです。

B型肝炎やC型肝炎、アルコール関連肝障害、肝硬変などに加え、現在では肥満や糖尿病などの代謝異常と関係するMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患、旧NAFLD)や、MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎、旧NASH)も肝細胞がんの背景として考えます。

こうした背景肝疾患があるため、肝細胞がんでは「がんを取り除けるか」だけでなく、治療によって残った肝臓が十分に働けるかまで評価しなければなりません。

参考:肝臓がん(肝細胞がん)について|国立がん研究センター がん情報サービス

「肝内胆管がん」は肝細胞がんとは別のがん

肝臓の中を通る胆管の細胞から発生するものを肝内胆管がんと呼びます。

肝臓の中にできるため広い意味では原発性肝がんに含まれますが、肝細胞がんとは発生する細胞が異なり、ステージ分類や薬物療法など治療の考え方も異なります。

そのため、本記事でこれ以降に説明するRFA、TACE、肝移植、肝細胞がんの薬物療法、ステージ別生存率などは、特に断りがない限り肝細胞がんを対象とした内容です。

「肝臓に転移したがん」は肝細胞がんではない

大腸がん、胃がん、膵臓がん、肺がん、乳がんなどが肝臓へ転移することがあります。これを転移性肝がん(肝転移)と呼びます。

たとえば大腸がんが肝臓へ転移した場合、肝臓に腫瘍があっても肝細胞がんではありません。「大腸がんの肝転移」として、大腸がんに基づいた治療を考えます。

「肝臓にがんがある」と「肝臓からがんが発生した」は同じ意味ではないため、診断を受けたときには、原発性の肝細胞がんなのか、肝内胆管がんなのか、ほかのがんからの肝転移なのかを確認することが治療を理解する最初の段階になります。

肝細胞がんでは「がんの進行度」と「肝予備能」の両方を見る

肝細胞がんの治療では、腫瘍の状態と肝臓そのものの状態を分けて評価します。

腫瘍については、大きさや個数、門脈・肝静脈などの血管へがんが入り込んでいないか、リンパ節やほかの臓器へ転移していないかを確認します。

肝臓については、アルブミンやビリルビン、血液凝固能、腹水などから、残っている肝機能である肝予備能を評価します。Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類や、ALBI grade(アルブミン・ビリルビン・グレードまたはアルビグレード)などが、そのために使われる指標です。

この2つを分けて考える理由は、がんだけを強く治療して肝機能が大きく低下すると、その後の治療を続けられなくなる可能性があるためです。

たとえば小さな肝細胞がんでも肝硬変が進んでいれば、肝切除が適さない場合があります。反対に、腫瘍がある程度大きくても、肝機能が保たれ、十分な肝臓を残せると判断されれば切除を検討できる場合があります。

肝細胞がんでは「どの治療が最も強いか」ではなく「がんを抑えながら、その後の治療に必要な肝機能をどこまで残せるか」という視点が治療選択に関わります。

進行した肝細胞がんでもステージだけで治療は決まらない

肝細胞がんが血管へ広がっている場合や、肝臓以外へ転移している場合には、薬物療法が治療の中心になることがあります。

一方で、現在の肝細胞がんには複数の免疫療法や分子標的薬があり、薬物療法によって腫瘍が大きく縮小した場合には、肝切除や局所治療が可能にならないか再評価することもあります。

また、同じ進行した肝細胞がんでも、肝機能が低下すると使用できる治療が限られる場合があります。

ステージ4という言葉だけから「もう手術は絶対にできない」「使える治療は一つしかない」と判断することはできません。病変の広がり、血管侵襲、肝外転移、肝機能、これまでの治療などを確認して方針を考えます。

肝臓がんステージ4の病状や治療については、以下の記事で詳しく解説しています。

肝臓がんの原因とリスク

肝細胞がんの多くは、長い期間にわたって炎症や線維化が続いた肝臓を背景に発生します。

代表的なのがB型・C型肝炎ウイルスの持続感染ですが、アルコール関連肝障害、肥満や糖尿病などに関連する脂肪性肝疾患も発症リスクに関係します。「お酒をたくさん飲む人だけがなるがん」「肝炎ウイルスに感染していなければ心配ない」と考えることはできません。

B型肝炎・C型肝炎は肝細胞がんの主要な原因

B型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)が長期間体内に存在すると、肝臓で炎症と肝細胞の再生が繰り返されます。その過程で遺伝子の変化が蓄積し、肝細胞がんが発生しやすくなると考えられています。

ただし、肝炎ウイルスに感染していても自覚症状がないことがあります。「肝臓が痛くない」「体調に問題がない」という理由だけでは、慢性肝炎や肝線維化がないとは判断できません。

現在はB型・C型肝炎に対する抗ウイルス治療が大きく進歩しています。

B型肝炎ではウイルスの増殖を抑える治療、C型肝炎ではウイルス排除を目指す治療が行われます。肝炎ウイルス感染が分かった場合には、肝細胞がんの検査だけでなく、肝炎そのものを適切に治療することも肝臓を守るために必要です。

なお、C型肝炎ウイルスを排除できた場合でも、すでに高度な肝線維化や肝硬変がある人では肝細胞がんのリスクがなくなるわけではありません。治療後も肝臓の状態に応じた定期検査を続けます。

参考:B型肝炎治療ガイドライン 第5版(2026年6月)|日本肝臓学会
参考:C型肝炎治療ガイドライン 第8.4版(2025年4月)|日本肝臓学会

MASLD・MASHなどの脂肪性肝疾患

これまで「NAFLD」「NASH」と呼ばれてきた脂肪性肝疾患は、現在、国際的な病名変更を受け、MASLD(マッスルディー)MASH(マッシュ)という名称が使われています。

MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)は、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの心代謝系リスクと関連する脂肪性肝疾患です。

脂肪肝がある人すべてが肝細胞がんになるわけではありません。しかし、肝臓の炎症や線維化が進み、肝硬変へ至ると肝細胞がんのリスクも高くなります。健康診断で「脂肪肝」と指摘された場合には、体重だけを見るのではなく、糖尿病などの代謝異常や肝線維化が進んでいないかを確認することが重要です。

また現在は飲酒の有無だけで「アルコール性」「非アルコール性」と単純に二分する考え方ではありません。代謝異常と飲酒量の両方を踏まえて、MASLD、MetALD、アルコール関連肝疾患(ALD)などに分類します。

参考:脂肪性肝疾患の診断基準に関して|日本肝臓学会

アルコールによる慢性的な肝障害

長期間にわたるアルコール摂取によって肝臓の炎症や線維化が続くと、アルコール関連肝疾患から肝硬変へ進行し、肝細胞がんのリスクが高くなることがあります。

ただし「何年間飲んだら肝臓がんになる」「この量までなら絶対に安全」と一律に決められるものではありません。実際の影響は、飲酒量だけでなく、性別、体格、代謝異常、肝炎ウイルス感染の有無、すでに生じている肝障害などによっても変わります。

肝機能異常を指摘されている場合には、自分の感覚で飲酒量の多い・少ないを判断するのではなく、現在の肝臓の状態を確認したうえで飲酒について相談します。

肥満や糖尿病も肝細胞がんのリスクと関連する

国立がん研究センターでは、肝細胞がんの危険因子として、肝炎ウイルス感染やアルコール摂取のほか、肥満、脂肪肝、糖尿病、喫煙などを挙げています。特に糖尿病や肥満はMASLDとも関係するため、肝臓だけの問題として切り離すのではなく、血糖、体重、脂質、血圧なども含めて管理します。

危険因子があることと「肝細胞がんがあること」は同じではありません。脂肪肝や糖尿病があるだけで過度に心配する必要はありませんが、慢性肝炎や肝硬変、肝線維化などによって肝細胞がんの発症リスクが高いと判断された場合には、定期的な画像検査につなげることが早期発見に役立ちます。

肝臓がんの検診はある?定期検査・サーベイランス

胃がんや大腸がんなどには、一定の年齢になった人を対象とする国のがん検診があります。

しかし、肝細胞がんには、現在、健康な一般人口を一律に対象とする国の対策型がん検診はありません。

その代わり、肝細胞がんが発生するリスクの高い人をあらかじめ把握し、腹部超音波検査などを定期的に行う「サーベイランス」が重要になります。

慢性肝炎や肝硬変がある人では3~6カ月ごとの検査が推奨

国立がん研究センターでは、B型・C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎や肝硬変がある人、また肝炎ウイルスを伴わない肝硬変がある人には、3~6カ月間隔で腹部超音波検査などの定期検査を受けることを勧めています。

一般に、腹部超音波検査とAFP、PIVKA-IIなどの腫瘍マーカーを組み合わせ、異常が疑われた場合には造影CTやMRIなどで詳しく調べます。

これは「健康な人全員が半年ごとに腹部エコーを受けた方がよい」という意味ではありません。肝細胞がんでは、発症リスクが高い人を特定し、その人に必要な頻度で検査を続けることが重要です。

参考:肝臓がん(肝細胞がん) 予防・検診|国立がん研究センター がん情報サービス

肝炎ウイルス検査を受けたことがなければ一度確認する

B型・C型肝炎ウイルスは、感染していても長期間症状が出ない場合があります。そのため、自分が感染していることを知らないまま慢性肝炎が進行することがあります。

国立がん研究センターは、肝炎ウイルス感染を早期に知るため、これまで検査を受けたことがない人には一度は肝炎ウイルス検査を受けることを勧めています。検査は自治体の肝炎ウイルス検診や医療機関などで受けられる場合があります。

検査で陽性になったからといって、肝細胞がんがあるという意味ではありません。肝炎ウイルス感染の有無を知り、必要であれば抗ウイルス治療や肝細胞がんの定期検査につなげるための検査です。

症状がある場合は「検診」を待たずに受診する

肝細胞がんは早い段階では症状がほとんどないことがあります。

一方で、黄疸、腹部の張りや痛み、著しい倦怠感、むくみなどが現れている場合には、定期検診の時期を待つのではなく医療機関を受診します。

健康診断で肝機能異常や脂肪肝を繰り返し指摘されている場合も「症状がないから大丈夫」と放置せず、自分に慢性肝疾患や肝線維化がないかを確認することが、その後の検査方針を決めるうえで役立ちます。

肝臓がんの初期症状

肝細胞がんは、早い段階では自覚症状がほとんどないことがあります。

肝臓には大きな予備能力があり、一部にがんができてもすぐに肝機能全体が低下するとは限りません。国立がん研究センターも、肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、炎症やがんがあっても初期には自覚症状がほとんどないと説明しています。

肝細胞がんが発覚するのは、B型・C型慢性肝炎や肝硬変の定期検査、健康診断で見つかった肝機能異常の精密検査、腹部超音波検査などをきっかけとして、症状がない段階で見つかることが少なくありません。

初期には「肝臓がん特有の症状」がほとんどない

小さな肝細胞がんでは、痛みや食欲低下などがまったくない場合があります。

症状が出る場合も、だるさ、食欲低下、体重減少、腹部の違和感といった、肝細胞がんだけに特有とはいえないものが中心です。

「右のお腹が痛くないから肝臓は大丈夫」とは判断できません。症状がない時期に定期検査を受ける意味が大きいのは、この病気の特徴によるものです。

前章で説明したB型・C型慢性肝炎や肝硬変などの高リスク者では、症状が現れるのを待つのではなく、決められた間隔で腹部超音波検査などを受けます。

進行すると腹部の張りや痛みが出ることがある

腫瘍が大きくなると、右上腹部の圧迫感、張り、しこり、痛みなどが現れることがあります。

食欲低下や体重減少が目立ってくることもありますが、こうした症状だけから肝細胞がんのステージを判断することはできません。大きな腫瘍でも症状が乏しい人がいるためです。

肺や骨などへ転移した場合には、咳や息切れ、背中や腰の痛みなど、転移した臓器に応じた症状が現れることもあります。

黄疸や腹水は「がんだけ」が原因とは限らない

肝細胞がんの患者さんでは、背景に慢性肝炎や肝硬変があることが少なくありません。

肝機能が低下すると、皮膚や白目が黄色くなる黄疸、お腹に水がたまる腹水、足のむくみ、皮膚のかゆみ、強い倦怠感などが現れることがあります。

さらに肝機能が低下すると、肝臓で処理できない物質が体内に蓄積し、意識がぼんやりする肝性脳症を起こすこともあります。

こうした症状は、腫瘍そのものが大きくなった結果だけではなく、もともとの肝硬変や肝不全が進行して生じる場合があります。

肝細胞がんでは「がんがどこまで進んでいるか」と「肝臓がどこまで機能しているか」は別々に評価する必要があります。

突然の強い腹痛は腫瘍破裂の可能性もある

頻度は高くありませんが、肝細胞がんが破裂して腹腔内に出血することがあります。

急激な強い腹痛、冷や汗、ふらつき、血圧低下などを伴う場合には緊急の治療が必要になることがあります。こうした症状がある場合は定期受診を待たず、速やかに医療機関を受診してください。

肝臓がんの検査と診断

肝細胞がんが疑われた場合には、腹部超音波、造影CT、MRI、血液検査などを組み合わせて診断します。

胃がんや大腸がんとの大きな違いは、肝細胞がんでは必ずしも全員に腫瘍の生検を行うわけではないことです。慢性肝疾患などの背景があり、造影CTやMRIで肝細胞がんに特徴的な画像所見が確認できる場合には、画像から診断できることがあります。

検査ではがんの有無だけでなく、腫瘍の個数や大きさ、血管への広がり、肝外転移、治療に耐えられる肝機能が残っているかまで確認します。

腹部超音波検査|肝臓に腫瘤がないかを調べる

腹部超音波検査は、体の外から超音波を当てて肝臓内部を観察する検査です。

腫瘍の大きさや個数、血管との位置関係、肝臓の形、腹水の有無などを確認できます。放射線被ばくがなく、繰り返し行いやすいため、慢性肝炎や肝硬変がある人の定期検査にも用いられます。

ただし、病変の位置や体格などによっては十分に観察できないことがあります。超音波で腫瘍が疑われた場合や、腫瘍マーカーが上昇した場合には、造影CTやMRIによる詳しい検査へ進みます。

造影CT・MRI|肝細胞がんに特徴的な血流を確認する

肝細胞がんの診断では、造影剤を使ったCTやMRIが重要な役割を持ちます。

肝細胞がんでは、腫瘍が成長するにつれて血流の入り方が正常な肝臓とは変わることがあります。典型的な肝細胞がんでは、造影CTなどで動脈から血液が入る時期に強く造影され、その後の時相で周囲の肝臓より造影効果が低くなる特徴的なパターンがみられます。

MRIでは、肝細胞に取り込まれる造影剤を使ったEOB-MRIなどが用いられることがあります。CTだけでは判断しにくい小さな病変を詳しく評価する際にも役立ちます。

どちらか一つが常に優れているというわけではなく、腎機能、造影剤を使用できるか、病変の位置や大きさなどを考えて検査を選択します。

AFP・PIVKA-IIは診断を補助する腫瘍マーカー

血液検査では、肝細胞がんの腫瘍マーカーとしてAFP、PIVKA-II、AFP-L3分画などを測定します。

数値が高い場合には肝細胞がんを疑う材料になりますが、腫瘍マーカーだけで診断することはできません。

肝細胞がんがあってもAFPやPIVKA-IIが上昇しないことがあります。反対に、肝炎や肝硬変など、がん以外の影響で数値が変化することもあります。

「AFPが正常だから肝臓がんではない」「PIVKA-IIが高いから肝臓がんで確定」という読み方はせず、超音波、CT、MRIなどの画像所見と合わせて判断します。

肝細胞がんでは全員に生検をするわけではない

がんの診断というと、腫瘍の組織を採取して顕微鏡で確認する「生検」が必要だと思う人もいるかもしれません。

肝細胞がんでは、慢性肝疾患などの背景があり、造影CTやMRIで肝細胞がんに特徴的な血流パターンが確認できる場合、画像所見から診断できることがあります。このような場合は、生検を行わずに治療方針を決めることもあります。

生検が検討されるのは、画像だけでは肝細胞がんかどうか判断しにくい場合や、ほかの種類の腫瘍との区別が必要な場合などです。皮膚から針を刺して腫瘍の一部を採取し、病理検査で細胞の特徴を調べます。

生検には出血などのリスクもあるため、すべての患者さんに一律に行う検査ではありません。画像所見や背景にある肝疾患を踏まえ、生検の結果によって診断や治療方針が変わる可能性があるかを考えて実施を判断します。

参考:肝臓がん(肝細胞がん) 検査|国立がん研究センター がん情報サービス

診断と同時に「肝予備能」を調べる

肝細胞がんが確認された後は、腫瘍だけを詳しく調べても治療方法を決められません。

血液検査ではアルブミン、ビリルビン、血液凝固能などを調べ、腹水や肝性脳症の有無も確認します。これらを組み合わせたChild-Pugh(チャイルド・ピュー)分類は、肝予備能を評価する代表的な方法です。アルブミンとビリルビンから計算するALBI grade(アルビグレード)も肝機能評価に使われています。

同じ3cmの肝細胞がんでも、十分な肝機能が残っている人と肝硬変が進んでいる人では、安全に行える治療が変わります。

肝切除を考える場合には「腫瘍を切除できるか」だけでなく、手術後に十分な肝臓を残せるかまで評価します。薬物療法を考える場面でも肝予備能は治療選択に関係します。

肝硬変がある場合は食道・胃静脈瘤を調べることもある

肝硬変が進むと、肝臓へ流れ込む血液の圧力が上昇し、食道や胃に静脈瘤ができることがあります。治療内容によっては静脈瘤からの出血リスクが問題になるため、上部消化管内視鏡検査で静脈瘤の有無や状態を確認することがあります。

特に進行肝細胞がんの薬物療法では、出血リスクが治療薬の選択にも関係します。この点は薬物療法の章で詳しく解説します。

検査によって、腫瘍の個数・大きさ・血管侵襲・転移と、現在の肝予備能が把握できると、次に治療方針を決めるためのステージを評価します。

肝臓がんのステージ分類

肝細胞がんのステージは、がんが肝臓の中でどの程度広がっているか、血管へ入り込んでいるか、リンパ節や肝臓以外の臓器へ転移しているかなどから判定します。

日本では、主に次の2つの病期分類が使われています。

  • 日本肝癌研究会の「原発性肝癌取扱い規約」による分類
  • 国際的に用いられるUICCのTNM分類

国立がん研究センターも両方の分類を患者向けに紹介しており、どちらの分類を使ったかによって、同じ「ステージ4」という表記でも病状の定義が異なることがあると説明しています。

本記事では、日本国内で肝細胞がんを理解する際に使われている日本肝癌研究会の分類をもとに、ステージ1~4の違いを説明します。

参考:肝がんの検査・診断について|国立がん研究センター

日本肝癌研究会分類では「個数・2cm・脈管侵襲」の3項目を見る

日本肝癌研究会の分類では、まず肝臓内にある腫瘍について、次の3項目を確認します。

  • 腫瘍が1個に限られている
  • 腫瘍の大きさが2cm以下である
  • 門脈・肝静脈・胆管などの脈管へがんが広がっていない

いくつ満たしているかによってT1~T4に分かれます。

T分類 3項目のうち満たす数
T1 3項目すべて
T2 2項目
T3 1項目
T4 0項目

肝細胞がんのT分類は、腫瘍径だけでは決まりません。

たとえば、2cm以下の小さながんでも、複数ある場合や脈管侵襲がある場合にはT1にはなりません。反対に、2cmを超えていても単発で脈管侵襲がなければ、3条件のうち2つを満たすためT2になります。

ステージ1~4はT・リンパ節転移・遠隔転移から決まる

T分類に、リンパ節転移と遠隔転移の有無を加えて最終的なステージを決めます。

日本肝癌研究会分類では、次のようにステージ1~4Bへ分類されます。

ステージ 日本肝癌研究会分類での状態
ステージ1 T1で、リンパ節転移・遠隔転移がない
ステージ2 T2で、リンパ節転移・遠隔転移がない
ステージ3 T3で、リンパ節転移・遠隔転移がない
ステージ4A T4でリンパ節転移・遠隔転移がない場合、またはリンパ節転移があるが遠隔転移はない場合
ステージ4B 肝臓以外への遠隔転移がある

この分類を見ると、ステージ4=必ず遠隔転移がある状態「ではない」ことが分かります。

ステージ4Aには、遠隔転移がなくても肝臓内の腫瘍の状態からT4となるケースや、リンパ節転移があるケースが含まれます。

肺、骨、副腎など肝臓から離れた臓器へ転移している場合はステージ4Bです。

ステージ4Aでも遠隔転移がない場合

「ステージ4」と聞くと、がんが肝臓以外へ転移した状態をイメージする人もいるかもしれません。

しかし、日本肝癌研究会分類では、そうとは限りません。

腫瘍が複数あり、2cmを超え、脈管侵襲も認められるなど、T分類の3条件を一つも満たさなければT4になります。リンパ節転移・遠隔転移がなくても、この場合はステージ4Aです。

リンパ節転移が認められ、遠隔転移がない場合もステージ4Aに分類されます。

ステージ4Bは、肝臓以外の臓器への遠隔転移が確認された状態です。

同じ「ステージ4」でも4Aと4Bでは病変の広がり方が違うため、ステージという数字だけで治療内容や今後の見通しを判断することはできません。

UICC分類ではステージの決め方が異なる

肝細胞がんには、国際的に使用されるUICCのTNM分類もあります。

UICC分類でも、原発腫瘍を示すT、所属リンパ節転移を示すN、遠隔転移を示すMからステージを決めますが、T分類の基準は日本肝癌研究会分類と同じではありません。

参考:UICC「TNM Classification of Malignant Tumours」

国立がん研究センターの一般向け肝がん情報でも、日本肝癌研究会分類とUICC分類を別々に掲載しています。

参考:肝臓がん(肝細胞がん)|国立がん研究センター がん情報サービス

診断書や紹介状に「ステージ2」「ステージ4」と書かれている場合には、どの病期分類によるステージなのかを確認すると、病状をより正確に理解できます。

なお、UICCはTNM分類第9版を2025年に公表し、2026年1月からの使用を推奨しています。ただし、国内のがん登録や患者向け資料では現在もUICC第8版に基づく表記が用いられているものがあり、使用する版は診断年や施設、登録の用途によって異なります。

本記事では、肝細胞がんの病期そのものを理解するため、日本肝癌研究会の分類を中心に説明しました。一方、後述するステージ別生存率は、国立がん研究センターの院内がん登録による統計を使用しており、登録時のUICC TNM分類に基づいています。分類方法が異なるため、両者のステージを完全に同じものとして比較することはできません。

ステージと肝機能は別の評価

肝細胞がんでは、ステージが分かれば治療法が自動的に決まるわけではありません。

治療選択には、がんの広がりと同じくらい肝予備能が関係します。

肝細胞がんの多くは慢性肝炎や肝硬変を背景に発生します。腫瘍そのものが早期でも、肝機能が大きく低下していれば肝切除が難しい場合があります。腫瘍が進行していても、肝機能が十分に保たれていれば薬物療法など複数の治療を検討できます。

国立がん研究センターでは、肝障害度やChild-Pugh分類に加え、近年はアルブミンとビリルビンから評価するALBI gradeも肝機能評価に用いられると説明しています。肝細胞がんの治療方針を理解するときには「ステージはいくつか」だけでなく、「肝機能はどの程度残っているか」を確認する必要があります。

肝予備能とは|Child-Pugh分類について

肝細胞がんでは、がんのステージと同時に肝予備能を確認します。

肝予備能とは、現在の肝臓にどの程度の機能が残っているかを示す考え方です。

肝細胞がんは、慢性肝炎や肝硬変などを背景に発生することが多く、がんができる前から肝機能が低下している患者さんもいます。同じ大きさ・個数の肝細胞がんでも、肝予備能が十分に保たれているかどうかによって、安全に行える治療が変わります。

肝予備能を評価する代表的な方法の一つがChild-Pugh(チャイルド・ピュー)分類です。

Child-Pugh分類では5つの項目を点数化

Child-Pugh分類では、血液検査で分かるアルブミン、ビリルビン、プロトロンビン時間に加えて、腹水と肝性脳症の状態を評価します。

評価項目 1点 2点 3点
アルブミン(g/dL) 3.5超 2.8~3.5 2.8未満
ビリルビン(mg/dL) 2.0未満 2.0~3.0 3.0超
腹水 なし 軽度・コントロール可能 中等度・コントロール困難
肝性脳症 なし 1~2度 3~4度
プロトロンビン時間(%) 70超 40~70 40未満

5項目の点数を合計し、5~6点をChild-Pugh A、7~9点をB、10~15点をCと判定します。

Child-Pugh分類 合計点 肝機能の状態
A 5~6点 比較的保たれている
B 7~9点 中等度に低下している
C 10~15点 大きく低下している

A・B・Cは肝細胞がんのステージを表しているわけではありません。

ステージは「がんがどこまで広がっているか」、Child-Pugh分類は「肝臓にどの程度の機能が残っているか」を見る指標です。この2つを分けて理解すると、肝細胞がんの治療方針が分かりやすくなります。

同じステージでもChild-Pugh分類によって治療が変わる

Child-Pugh分類は、肝細胞がんの治療方針を決める際にも使われます。肝予備能が低下するほど、安全に行える治療が限られるためです。実際の治療選択では、Child-Pugh分類だけでなく、腫瘍の個数や大きさ、脈管侵襲、肝外転移なども合わせて判断します。

薬物療法でも肝予備能は重要です。多くの全身薬物療法は肝機能が比較的保たれた患者さんを中心に有効性と安全性が確認されているため、どの薬を使用できるかを考える際にも現在の肝機能を確認します。

Child-Pugh Aでも全員が同じ肝機能ではない

Child-Pugh分類は分かりやすい指標ですが、同じAやBの中にも肝機能の違いがあります。

評価項目には腹水や肝性脳症のように医師の判断を含む項目もあり、点数の境界付近では肝機能の細かな差を十分に表せない場合があります。

肝細胞がんでは、より細かく肝予備能を評価するためにALBI grade(アルビグレード)も使われています。

ALBIスコアは、血液検査のアルブミンとビリルビンから算出する指標です。通常はgrade 1~3に分けられ、現在はgrade 2を2aと2bに分けたmodified ALBI(mALBI)gradeも用いられています。

Child-Pugh分類を置き換えるものというより、治療を選ぶ場面で肝機能をより詳しく把握するための指標の一つと考えるとよいでしょう。

参考:肝予備能評価スコア計算サイト(mALBIグレード追加)のご案内|日本肝臓学会

肝機能は治療の途中でも変化する

肝予備能は、診断された時点で一度評価すれば終わりではありません。肝切除やTACEなどの治療によって肝臓に負担がかかることもあれば、肝硬変そのものが進行して肝機能が低下することもあります。

特にTACEを繰り返す場面では、腫瘍への効果だけでなく、治療後の肝機能がどこまで保たれているかを確認する必要があります。肝予備能が低下すると、それまで候補だった薬物療法や局所治療を行いにくくなる場合があるためです。

次の章では、Child-Pugh分類などで確認した肝予備能と、腫瘍の個数・大きさ・広がりを踏まえて、肝切除、RFA、TACEなどをどのように選ぶのかを解説します。

肝細胞がんの治療

肝細胞がんの治療には、肝切除、ラジオ波焼灼療法(RFA)、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、放射線治療、肝移植、薬物療法などがあります。

治療方法を決める際に見るのはステージだけではありません。腫瘍の個数や大きさ、脈管侵襲、肝臓以外への転移に加えて、Child-Pugh分類などで評価した肝予備能を確認します。

肝細胞がんでは、慢性肝炎や肝硬変によってもともとの肝機能が低下していることがあります。がんを十分に治療できる方法であっても、治療後に肝機能を保てないと判断されれば別の方法を選ぶことがあります。

国立がん研究センターでは、Child-Pugh分類AまたはBで、がんが肝臓内にとどまっている場合には、肝切除、RFA、TACEが中心になるとしています。遠隔転移がある場合には薬物療法、Child-Pugh分類Cでは条件によって肝移植が検討されます。

治療 主に検討される状況
肝切除 肝機能が保たれ、がんを切除した後も十分な肝臓を残せる場合
RFA 一般にChild-Pugh AまたはBで、3cm以下・3個以下の場合
TACE 切除やRFAが難しい多発肝細胞がんなど
放射線治療 手術やRFAなどが難しい局所病変、骨転移の痛みや脳転移への治療にも
薬物療法 切除・RFA・TACEなどの局所治療が適さない進行肝細胞がんなど
肝移植 肝機能が大きく低下していても、腫瘍が一定の基準内にある場合

この表は治療選択の大まかな位置づけです。同じ3cmの腫瘍でも、肝臓のどこにあるか、周囲の血管や胆管との位置関係、肝硬変の程度によって選択は変わります。

参考:肝細胞癌診療ガイドライン 2025年版|日本肝臓学会

肝切除

肝切除は、肝細胞がんとその周囲の肝組織を手術で取り除く治療です。

国立がん研究センターでは、多くの場合、がんが肝臓内にとどまり、腫瘍が3個以下であれば肝切除を検討すると説明しています。腫瘍の大きさそのものに明確な上限はなく、大きな肝細胞がんでも安全に切除できると判断されれば手術の対象になることがあります。

手術前には、腫瘍の位置や数だけでなく、切除後にどの程度の肝臓を残せるかを調べます。

  • 腫瘍が肝臓のどこにあるか
  • 門脈・肝静脈・胆管などへ広がっているか
  • どの範囲の肝臓を切除する必要があるか
  • 切除後の肝臓で十分な機能を保てるか

腫瘍を技術的に切除できても、残る肝臓が少なすぎれば術後肝不全の危険があります。腹水があるなど肝予備能が大きく低下している場合には、肝切除以外の治療が選ばれることがあります。

参考:肝臓がん(肝細胞がん) 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

ラジオ波焼灼療法(RFA)

ラジオ波焼灼療法(RFA)は、腹部の皮膚から腫瘍へ針を刺し、針の先端から発生させた熱によってがん細胞を焼灼する治療です。

国立がん研究センターでは、穿刺局所療法は一般にChild-Pugh分類AまたはBで、腫瘍が3cm以下かつ3個以下の場合に行われるとしています。現在、肝細胞がんの穿刺局所療法として中心となるのがRFAです。開腹手術を行わずに局所的な根治を目指せるため、肝切除より体への負担を抑えられる場合があります。

「3cm以下・3個以下」であれば必ずRFAを選ぶわけではありません。腫瘍が太い血管の近くにあると熱が逃げて十分に焼灼できないことがあり、胆管や消化管に近い場合には周囲組織への熱損傷にも注意が必要です。

肝切除とRFAのどちらも可能な小さな肝細胞がんでは、腫瘍の位置、肝機能、手術による負担、再発した際に残しておきたい治療選択肢などを比べながら決めます。

RFA後には発熱や腹痛がみられることがあり、出血、腸管損傷、肝機能障害などが起こることもあります。

肝動脈化学塞栓療法(TACE)

TACEは、足の付け根や腕などの動脈からカテーテルを入れ、肝動脈を通して腫瘍の近くまで進める治療です。

抗がん薬を腫瘍へ送り込んだ後、腫瘍へ血液を送る動脈を塞ぐことで、薬の作用と血流を減らす作用の両方を利用してがんを治療します。

国立がん研究センターでは、Child-Pugh分類AまたはBで、肝切除やRFAが難しい患者のうち、腫瘍が1~3個で3cmを超えている場合、もしくは腫瘍の大きさにかかわらず4個以上ある場合にTACEが行われるとしています。

肝臓内に複数の腫瘍がある場合でも治療できることがTACEの特徴です。腫瘍が広い範囲に分布している場合には、複数回に分けて治療することがあります。

TACEは効きにくくなった後も繰り返せばよいわけではない

TACEは繰り返して行うことができますが、治療のたびに正常な肝組織にも負担がかかります。

十分な効果が得られない状態でTACEを続けると、腫瘍が進行するだけでなく、薬物療法など次の治療を受けるために必要な肝機能が低下する可能性があります。

国立がん研究センターでは、治療方法の変更を検討する状況として「TACEを2回行っても十分な効果が得られない、または肝臓内に新しい病変が現れた時」「脈管侵襲や遠隔転移が現れた時」「腫瘍マーカーが持続的に上昇している時」のような例を挙げています。

これは「2回行ったら必ずTACEを中止する」という意味ではありません。画像で確認した治療効果、腫瘍の増え方、肝予備能などを見ながら、同じ治療を続ける利益があるかを判断します。TACEでがんを十分に抑えにくいと判断された場合には、肝機能が保たれている段階で薬物療法へ切り替えることも検討します。

肝細胞がんでは、目の前にある腫瘍だけを治療するのではなく、次の治療を受けられる肝機能を残すことまで含めて治療の順序を考える必要があります。

また、肝動脈を利用する治療にはTACE以外に肝動注化学療法もあります。病変の広がりや脈管侵襲などによっては、カテーテルから肝動脈へ抗がん薬を投与する肝動注化学療法が検討される場合があります。

放射線治療|手術やRFAが難しい場合の局所治療

放射線治療は、体の外から放射線を照射し、がん細胞を傷害する局所治療です。

肝細胞がんでは、肝切除やRFAなどが治療の中心になりますが、手術や穿刺局所療法を行うことが難しい局所病変では、放射線治療を検討することがあります。門脈などの脈管内へがんが広がっている場合に用いられることもあります。

治療を選ぶ際には、腫瘍の大きさや位置、個数、周囲の消化管や正常肝との位置関係、肝予備能などを確認します。

小さな病変では体幹部定位放射線治療(SBRT)を検討する

体幹部定位放射線治療(SBRT)は、さまざまな方向から腫瘍へ放射線を集中して照射する方法です。正常な肝臓や周囲の臓器への照射をできるだけ抑えながら、腫瘍へ高い線量を照射します。

日本放射線腫瘍学会では、肝臓へのSBRTについて、5cm以下の原発性肝がんなどに対して根治を目指して行う治療と説明しています。

肝細胞がんが小さくても、腫瘍の位置によってはRFAの針を安全に刺しにくいことがあります。手術が難しい、RFAなどの局所療法を実施しにくい、あるいは十分な効果を得にくいと判断される場合に、放射線治療が選択肢となります。

ただし、腫瘍の大きさだけでSBRTが適しているかを判断するわけではありません。肝機能や照射できる正常肝の量、胃や十二指腸など周囲臓器との距離も含めて放射線腫瘍医が治療可能かを判断します。

参考:放射線治療Q&A 上腹部(膵、肝など)への放射線治療について|日本放射線腫瘍学会

大きな肝細胞がんでは陽子線・重粒子線治療を検討

肝細胞がんでは、陽子線や重粒子線を使った粒子線治療が選択肢になる場合もあります。

粒子線は、X線とは異なる性質を利用して腫瘍へ放射線を集中させ、周囲の正常組織への線量を抑えることを目指す治療です。

2026年8月時点では、長径4cm以上の肝細胞がんで、手術による根治的な治療が困難な場合、陽子線治療・重粒子線治療が保険適用の対象となっています。

すべての肝細胞がんに粒子線治療が適しているわけではありません。腫瘍の大きさや位置、肝機能、これまでに受けた治療などから適応を判断します。粒子線治療を行える医療機関も限られているため、候補になるか知りたい場合には担当医や放射線腫瘍医へ確認します。

参考:粒子線治療(陽子線治療、重粒子線治療)の保険適用となる疾患|日本放射線腫瘍学会

骨転移の痛みや脳転移にも放射線治療を使う

放射線治療の目的は、肝臓にある腫瘍を局所的に治療することだけではありません。

肝細胞がんが骨へ転移して痛みがある場合には、痛みを軽減する目的で放射線治療を行うことがあります。脳転移に対しても放射線治療が検討されます。

この場合は、肝臓内の腫瘍に対して根治を目指して行うSBRTや粒子線治療とは目的が異なります。転移によって生じている症状や、転移部位、全身のがんの状態を踏まえて治療方針を決めます。

肝細胞がんの放射線治療は、腫瘍の大きさだけで一律に選択するものではありません。なぜ肝切除やRFAなどが難しいのか、放射線治療では何を目指すのかを確認したうえで、ほかの局所治療や薬物療法と比較して検討します。

肝細胞がんの肝移植|ミラノ基準と5-5-500基準

肝移植は、病気のある肝臓を取り出し、ドナーから提供された肝臓に置き換える治療です。肝細胞がんでは、がんだけでなく、背景にある肝硬変や重度の肝機能低下も同時に治療できる点が大きな特徴です。

肝切除やRFAでは、がんを治療しても傷んだ肝臓そのものは残ります。肝移植では肝臓全体を置き換えるため、肝機能が大きく低下している患者さんでも根治を目指せる場合があります。

ただし、Child-Pugh Cであれば誰でも肝移植を受けられるわけではありません。がんがどこまで広がっているか、脈管侵襲や肝外転移がないか、全身状態、移植手術に耐えられるかなどを含めて適応を判断します。

参考:肝移植の適応 基準|日本肝臓学会

肝細胞がんでは「がんの広がり」が移植適応に関係する

肝移植後にがんが再発する危険を抑えるには、肝細胞がんが一定の範囲にとどまっていることが必要です。

日本では、肝細胞がんの肝移植を検討する際にミラノ基準5-5-500基準が用いられています。

基準 主な条件
ミラノ基準 脈管侵襲・肝外転移がなく、単発なら5cm以下、複数なら3個以下かつ各3cm以下
5-5-500基準 脈管侵襲・肝外転移がなく、腫瘍径5cm以下、腫瘍数5個以下、AFP 500ng/mL以下

5-5-500基準では、腫瘍の大きさと個数だけでなく、肝細胞がんの腫瘍マーカーであるAFPも評価に含まれます。

ミラノ基準を超えていても、5-5-500基準を満たす場合には肝移植を検討できる可能性があります。

5-5-500基準によって移植を検討できる範囲が広がった

従来、肝細胞がんの肝移植ではミラノ基準が広く使われてきました。

日本では2019年に脳死肝移植の基準へ5-5-500基準が導入され、2020年4月からは生体肝移植についても同様の基準が保険適用となっています。

日本肝臓学会では、ミラノ基準内、またはミラノ基準を外れていても腫瘍径5cm以下・5個以下・AFP 500ng/mL以下であれば、他の条件を含めて肝移植の適応を検討するとしています。

「ミラノ基準を超えたから肝移植はできない」と一律に判断するのではなく、5-5-500基準まで含めて評価することが現在の国内診療では重要です。

参考:肝細胞癌に対する生体肝移植の保険適応の改訂について|日本肝臓学会
参考:肝細胞癌の脳死肝移植に関する適応基準と選択基準の改訂について|日本肝臓学会

日本では生体肝移植と脳死肝移植が行われている

肝移植には、主に生体肝移植脳死肝移植があります。

生体肝移植では、健康なドナーから肝臓の一部を提供してもらい、患者さんへ移植します。日本では近親者などから提供を受ける生体肝移植が行われてきました。

脳死肝移植では、脳死となったドナーから提供された肝臓を移植します。脳死肝移植には登録基準や優先順位があり、希望すればすぐに移植を受けられるわけではありません。

生体肝移植の場合にも、患者さんだけでなくドナーとなる人の安全性を評価する必要があります。移植が必要と考えられる場合には、移植施設で患者さんとドナー候補の双方を詳しく調べます。

肝移植は「肝機能が悪くなってから考える治療」とは限らない

肝移植の適応は、Child-Pugh分類の数字だけで決めるものではありません。

日本肝臓学会では、生体肝移植について、非代償性肝硬変と判断される場合にはChild-Pughスコアが10点に達していなくても適応となる可能性があり、最終的な判断は移植施設で行うとしています。

移植を検討する可能性がある患者さんでは、肝機能がさらに悪化してから相談するのではなく、がんの状態と肝機能の両方を見ながら移植施設への紹介時期を考えます。

肝細胞がんの肝移植では、現在の肝機能だけでなく、腫瘍が移植適応の範囲内にあるうちに評価できるかも重要になります。

切除不能な肝細胞がんの薬物療法

肝切除、RFA、TACEなどで十分な治療が難しい肝細胞がんでは、全身に作用する薬物療法を検討します。

薬物療法を行えるかどうかは、がんの広がりだけでは決まりません。肝細胞がんの薬物療法に関する臨床試験は、主に肝機能が保たれた患者さんを対象に行われているため、Child-Pugh分類などで現在の肝予備能を確認します。全身状態、脈管侵襲、肝外転移、これまでに受けたTACEなどの治療歴も判断材料になります。

2026年現在、一次治療には免疫チェックポイント阻害薬を含む複数の併用療法があります。「進行肝細胞がんならこの薬」と一つに決まるのではなく、副作用や持病、出血リスクなどを比べながら選択します。

一次治療では免疫療法を含む複数の選択肢がある

切除不能な肝細胞がんの一次治療では、代表的な選択肢として次の併用療法があります。

治療 治療の特徴
アテゾリズマブ+ベバシズマブ 免疫チェックポイント阻害薬と、血管新生を抑える薬を組み合わせる
デュルバルマブ+トレメリムマブ 作用する免疫の仕組みが異なる2種類の免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせる
ニボルマブ+イピリムマブ 2種類の免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせる。2025年6月に国内で切除不能肝細胞がんへの適応が承認された

どの治療が適しているかは、単純な新旧だけでは比較できません。

このほか、局所療法が適さない切除不能肝細胞がんでは、デュルバルマブ単剤も国内で承認されています。免疫療法の併用による利益と副作用、患者さんの全身状態などを踏まえ、単剤療法を検討する場合があります。

アテゾリズマブ+ベバシズマブでは出血リスクを確認

アテゾリズマブは、PD-L1という免疫のブレーキに関わる分子を標的とする免疫チェックポイント阻害薬です。ベバシズマブは、腫瘍が新しい血管をつくる働きに関わるVEGFを標的とします。

肝硬変がある患者さんでは、食道や胃に静脈瘤ができていることがあります。ベバシズマブには出血に注意が必要なため、治療前に食道・胃静脈瘤や出血リスクを評価することがあります。

前の検査章で上部消化管内視鏡について触れたのは、このように薬物療法の選択にも関係するためです。

アテゾリズマブ+ベバシズマブは2020年に国内で切除不能肝細胞がんへの適応が承認されています。

参考:中外製薬「テセントリクおよびアバスチン、切除不能な肝細胞がんに対する承認」
参考:PMDA「テセントリク(アテゾリズマブ)」

デュルバルマブ+トレメリムマブは2種類の免疫療法を組み合わせる

デュルバルマブはPD-L1、トレメリムマブはCTLA-4という異なる免疫チェックポイントを標的とします。

肝細胞がんでは、トレメリムマブを初回に投与し、デュルバルマブを継続する治療方法が用いられます。この治療は「STRIDE」と呼ばれることがあります。

ベバシズマブを含まないため、治療選択ではアテゾリズマブ+ベバシズマブとは異なる特徴を持ちます。ただし、免疫チェックポイント阻害薬による肝障害、肺障害、内分泌障害などの免疫関連有害事象には注意が必要です。

自己免疫疾患がある場合など、免疫チェックポイント阻害薬を使用しにくい患者さんもいるため、持病やこれまでの治療歴を確認して選択します。

参考:PMDA「イミフィンジ(デュルバルマブ)」
参考:PMDA「イジュド(トレメリムマブ)」

ニボルマブ+イピリムマブが2025年から一次治療候補に加わった

ニボルマブ+イピリムマブも、異なる免疫チェックポイントを標的とする2剤を組み合わせる治療です。

国内では2025年6月24日、切除不能な肝細胞がんに対する効能・効果が追加承認されました。

承認の根拠となったCheckMate-9DW試験では、全身薬物療法を受けていない切除不能肝細胞がん患者を対象に、ニボルマブ+イピリムマブとレンバチニブまたはソラフェニブが比較されました。ニボルマブ+イピリムマブ群では全生存期間の改善が示されています。

参考:PMDA「オプジーボ(ニボルマブ)」
参考:小野薬品工業「オプジーボとヤーボイの併用療法による『切除不能な肝細胞癌』に対する国内承認」2025年6月24日

3つの併用療法から単純に「最も強い薬」を選ぶわけではない

3つの併用療法には、それぞれ異なる特徴があります。

アテゾリズマブ+ベバシズマブでは、食道・胃静脈瘤を含む出血リスクを確認します。免疫チェックポイント阻害薬同士を組み合わせる治療では、免疫が自分の臓器を攻撃する免疫関連有害事象に注意します。

治療選択では、肝予備能、全身状態、自己免疫疾患などの持病、出血リスク、これまでの治療、副作用が起きた場合に対応できるかといった点を確認します。

これら3つを直接比較して「すべての患者さんにこの治療が最も優れている」と決めるものではありません。

免疫療法を使いにくい場合は分子標的薬を検討する

免疫チェックポイント阻害薬を使用しにくい場合には、レンバチニブやソラフェニブなどの分子標的薬を一次治療として検討することがあります。

これらは内服薬で、がんの増殖や腫瘍へ血液を送る血管の形成などに関係する分子を標的とします。

分子標的薬にも高血圧、手足症候群、食欲低下、倦怠感、下痢などさまざまな副作用があります。免疫療法が使えないから負担の軽い治療になる、という意味ではありません。

現在の肝機能と全身状態を確認しながら、必要に応じて休薬や減量を行います。

二次治療以降は「これまで何を使ったか」で変わる

一次治療で病状が進行した場合や、副作用によって治療を続けられない場合には、次の薬物療法を検討します。

肝細胞がんでは、レゴラフェニブ、カボザンチニブ、ラムシルマブなどがあります。薬剤ごとに前治療歴などの適応条件が異なり、ラムシルマブは血清AFP値400ng/mL以上で、がん化学療法後に増悪した切除不能肝細胞がんが対象です。

どの薬を選べるかは、一次治療で使用した薬、以前の治療への反応、AFPの値、肝予備能、全身状態などによって変わります。

特に現在は一次治療で免疫療法を含む併用療法を使う患者さんが増えているため、「二次治療だからこの薬」と治療の順番だけで決めるのではなく、それまでの治療歴から次の選択肢を考える必要があります。

参考:PMDA「最適使用推進ガイドライン(医薬品)」

薬物療法で大きく縮小した場合は局所治療を再検討することもある

切除不能肝細胞がんに対する薬物療法では、多くの場合、がんの進行を抑えながら肝機能と生活をできるだけ保つことを目指します。

ただし、「薬物療法を始めたら、その後は薬だけを続ける」と決まっているわけではありません。治療によって腫瘍が大きく縮小し、脈管侵襲や肝内病変の状態が変化した場合には、肝切除やRFAなどの局所治療が可能にならないか再評価することがあります。

治療開始時に切除不能だったという事実だけで、その後の選択肢まで固定されるわけではありません。画像検査と肝予備能を繰り返し確認し、その時点で可能な治療を検討します。

肝臓がんステージ4の薬物療法や、遠隔転移がある場合の治療については以下の記事でも詳しく解説しています。

肝細胞がん治療の副作用と生活への影響

肝細胞がんの治療では、肝切除、RFA、TACE、放射線治療、薬物療法など、それぞれ異なる副作用や合併症、治療による体への影響が起こることがあります。

肝細胞がんで特に意識したいのは、治療そのものによる副作用と、肝機能が低下して生じる症状が似ていることがある点です。

食欲低下、倦怠感、腹部の張り、むくみなどは、治療後に一時的に起こることもあれば、肝硬変や肝機能低下が関係していることもあります。「治療を受けた後だから仕方がない」と自己判断せず、症状が続く場合や強くなる場合には医療者へ伝えることが、その後の治療を続けるためにも必要です。

治療法によって起こりやすい副作用は異なる

代表的な治療と、治療後に注意する症状を整理すると次のようになります。

治療 主な副作用・合併症
肝切除 胆汁漏、出血、肝不全など
RFA 発熱、腹痛、出血、肝機能障害、周囲臓器の損傷など
TACE 発熱、吐き気、腹痛、食欲不振、肝機能障害など
放射線治療 倦怠感、食欲低下、吐き気、肝機能への影響など。照射する部位・範囲・線量によって異なる
分子標的薬 高血圧、食欲低下、下痢、手足症候群など。薬剤によって異なる
免疫チェックポイント阻害薬 肝障害、肺障害、腸炎、甲状腺などの内分泌障害を含む免疫関連有害事象

どの副作用が起こりやすいかは、治療法だけでなく、治療前の肝機能や全身状態によっても変わります。

肝切除後は「肝臓がどこまで回復しているか」を確認する

肝切除後には、創部の痛みや体力低下に加えて、出血、胆汁漏、肝不全などの合併症が起こることがあります。

肝臓には再生能力がありますが、肝硬変などで傷んだ肝臓では、正常な肝臓と同じように回復できるとは限りません。手術後に黄疸が強くなる、腹水が増える、意識がぼんやりするといった症状がある場合には、肝機能が低下していないかを確認します。

退院後はすぐに以前と同じ活動量へ戻すのではなく、体力の回復に合わせて少しずつ活動量を増やします。国立がん研究センターでは、手術後約1カ月は無理を避け、散歩などから徐々に運動量を増やすよう案内しています。

RFA・TACEでは治療後の発熱や腹痛がみられることがある

RFAでは、腫瘍を熱で焼灼した影響から発熱や腹痛が起こることがあります。出血、肝機能障害、周囲の腸管などへの熱損傷にも注意します。TACEでは、治療後に発熱、吐き気、腹痛、食欲低下などが出ることがあります。

数日で改善する症状もありますが、肝細胞がんでは「治療後だから発熱や食欲低下は当然」と考え続けないことが重要です。食事や水分を十分に取れない、腹痛が強くなる、黄疸が現れるなどの変化があれば、肝機能低下や合併症が起きていないかを確認する必要があります。

TACEを繰り返している場合には、腫瘍への効果だけでなく、治療前後で肝予備能が低下していないかも確認します。前章で説明したように、肝機能を大きく低下させると、その後に行える薬物療法などが限られる可能性があります。

放射線治療では照射する範囲によって体への影響が異なる

放射線治療は腫瘍へ放射線を集中させる局所治療ですが、腫瘍の周囲にある正常な肝臓や臓器にも一定量の放射線が当たることがあります。

治療による体への影響は、照射する位置や範囲、放射線の量、治療前の肝機能などによって異なります。治療中から終了後しばらくの間には、倦怠感や食欲低下、吐き気などがみられることがあります。

肝細胞がんでは、治療前から慢性肝炎や肝硬変によって肝機能が低下している患者さんもいます。放射線治療を行う際には、腫瘍へ必要な線量を照射しながら、正常な肝臓へ照射される範囲をできるだけ抑えるよう治療計画を立てます。

体幹部定位放射線治療(SBRT)や粒子線治療では、腫瘍へ放射線を集中させ、周囲の正常組織への照射を抑えることを目指します。ただし、こうした治療でも体への影響がなくなるわけではありません。

治療中や治療後に食欲低下や強い倦怠感が続く、黄疸や腹部の張りが現れるなどの変化があれば、「放射線治療後だから」と自己判断せず、治療を受けている医療機関へ相談します。

薬物療法では薬ごとに注意する症状が異なる

切除不能肝細胞がんで使われる薬には、免疫チェックポイント阻害薬、血管新生を抑える薬、分子標的薬などがあります。

アテゾリズマブ+ベバシズマブでは、ベバシズマブによる出血、高血圧、蛋白尿などに注意します。特に肝硬変がある人では食道・胃静脈瘤を伴うことがあるため、出血リスクを評価してから治療を始めることがあります。

デュルバルマブ+トレメリムマブやニボルマブ+イピリムマブなどの免疫チェックポイント阻害薬では、免疫反応が強く働くことで正常な臓器に炎症が起こる免疫関連有害事象に注意します。肝臓、肺、腸、甲状腺など影響を受ける臓器はさまざまです。

肝細胞がんではもともと肝機能異常がある患者さんもいるため、血液検査の変化ががんや肝硬変によるものなのか、免疫療法による肝障害なのかを医療者が判断します。症状の程度によっては免疫療法を休薬・中止し、ステロイドなどによる治療が必要になることがあります。

レンバチニブやソラフェニブなどの分子標的薬では、高血圧、食欲低下、下痢、倦怠感、手足症候群などが治療継続の負担になる場合があります。

副作用が強いときは、予定どおりの量を無理に続けることが目的ではありません。休薬や減量などを行いながら、治療を継続できる状態を整えます。

食欲低下や倦怠感を「副作用」と決めつけない

肝細胞がんの治療中には、食欲がない、疲れやすい、体重が減るといった変化が起こることがあります。こうした症状は薬物療法やTACEの影響でも生じますが、肝機能低下や腹水、がんの進行が原因になっていることもあります。

症状だけから原因を区別することは難しいため、いつから症状が始まったか、治療後に強くなったか、食事量や体重がどの程度変化したかを診察時に伝えると、原因を考える手がかりになります。

黄疸が強くなった、腹水や足のむくみが増えた、意識がぼんやりするといった変化は、肝機能低下のサインである可能性があります。次の定期受診まで様子を見るのではなく、治療を受けている医療機関へ相談します。

食事・飲酒・運動は肝臓の状態に合わせて考える

肝細胞がんだからといって、すべての患者さんに同じ食事制限が必要になるわけではありません。国立がん研究センターでは、基本的には栄養バランスを意識した食事を勧めています。慢性肝疾患がある場合には飲酒を避け、腹水やむくみがある場合には塩分を控えるなど、肝臓の状態に応じた調整が必要になります。

食欲が落ちている人が自己判断で厳しい食事制限をすると、必要なエネルギーや栄養を十分に取れなくなることもあります。何をどこまで制限するかは、肝機能や腹水の状態を踏まえて医師や管理栄養士などに確認します。

運動についても、手術直後と薬物療法を続けながら生活している時期では適切な強度が違います。体力と肝機能が安定していれば、散歩などから日常の活動量を戻していきます。

緩和ケア・支持療法はがん治療と並行して行う

緩和ケアや支持療法は、治療法がなくなった後だけに行うものではありません。

肝細胞がんでは、がんそのものによる痛みだけでなく、腹水、むくみ、食欲低下、倦怠感、かゆみなど、肝機能低下に伴う症状も生活へ影響します。こうした症状への治療や栄養管理、心理・社会面の支援は、肝切除、TACE、薬物療法などと並行して行います。

治療中に早めに相談したい症状

治療中に症状が出たとき、「これくらいなら次の診察まで待ってよいのか」と迷うことがあります。

特に、次のような変化がある場合には早めに医療機関へ連絡してください。

  • 吐血や黒い便など、消化管出血を疑う症状
  • 息苦しさや新しく続く咳
  • 強い腹痛や急激な腹部の張り
  • 黄疸が強くなる
  • 腹水や足のむくみが急に増える
  • 意識がぼんやりする、会話がかみ合わない
  • 食事や水分をほとんど取れない状態が続く

実際にどの症状で連絡すべきかは、受けている治療によって異なります。薬物療法を始める際には、よく起こる副作用だけでなく、「どの症状が出たら次の受診を待たずに連絡するのか」まで確認しておくと判断しやすくなります。

肝細胞がんの治療では、腫瘍を抑えることと同時に、肝機能と体力を保って次の治療につなげることも治療計画の一部です。

次の章では、肝細胞がんのステージ別生存率について、5年・10年ネット・サバイバルの違いと、その数字を個人の余命として受け取らないための見方を解説します。

肝細胞がんのステージ別生存率

肝細胞がんの予後を調べると「5年生存率」「10年生存率」という数字を目にすることがあります。

国立がん研究センターの院内がん登録では、原発性肝がんのうち、本記事で主に扱っている肝細胞がんについてステージ別のネット・サバイバルが公表されています。

ステージ 5年ネット・サバイバル
2014~2015年診断例
10年ネット・サバイバル
2012年診断例
ステージ1 63.0% 36.3%
ステージ2 45.2% 21.6%
ステージ3 16.0% 7.1%
ステージ4 4.4% 1.9%

ここで示している5年値と10年値は、同じ患者さんを5年から10年まで追跡した数字ではありません。

5年ネット・サバイバルは2014~2015年に診断された患者、10年ネット・サバイバルは2012年に診断された患者を対象とした別々の集計です。

「ステージ1では5年時点の63.0%が、そのまま10年後に36.3%まで低下した」という読み方はできません。

参考:院内がん登録生存率最新集計値|国立がん研究センター がん情報サービス

ネット・サバイバルは個人の余命を示す数字ではない

ネット・サバイバルとは、がん以外の病気や事故などによる死亡の影響を統計学的に調整し、がんだけが死因となる状況を仮定して推計した生存率です。肝細胞がんでは、この考え方が特に重要です。

患者さんの中には、肝硬変、慢性肝炎、糖尿病など、がん以外にも健康状態へ影響する病気を持つ人がいます。すべての死亡をそのまま数える実測生存率では、肝細胞がんそのものによる影響と、ほかの病気による影響が混ざります。

国立がん研究センターでは、2014~2015年の5年生存率と2010年以降の10年生存率から、国際的にも使われているネット・サバイバルを採用しています。

たとえば「ステージ1の5年ネット・サバイバルが63.0%だから、自分が5年後に生きている確率が63.0%」という意味ではありません。年齢、肝予備能、肝硬変の程度、腫瘍の個数や位置、受けた治療、治療後の肝機能などが異なる多くの患者さんをまとめた集団の統計です。

この生存率はUICC TNM分類によるステージの集計

前のステージ章では、日本国内で使われている日本肝癌研究会の分類を中心に説明しました。

ここで掲載しているステージ別生存率は、国立がん研究センターの院内がん登録におけるUICC TNM分類の総合ステージを用いた統計です。

日本肝癌研究会分類とUICC TNM分類では、T分類やステージの決め方が同じではありません。

前章の「日本肝癌研究会分類のステージ1~4」と、この表の「UICC TNM分類のステージ1~4」を完全に同じ病状として置き換えて比較することはできません。

肝細胞がんでは複数の病期分類が使われるため、生存率を見る際にもどの分類に基づく数字なのかを確認する必要があります。

参考:院内がん登録生存率集計|国立がん研究センター がん情報サービス

肝細胞がんではステージだけで予後を判断しにくい

肝細胞がんの見通しに関係するのは、がんのステージだけではありません。同じステージでも、Child-Pugh分類やALBI gradeでみた肝予備能が異なれば、選択できる治療やその後の経過も変わります。

肝切除やRFAでがんを局所的に治療できても、背景に慢性肝障害が残っていれば、新たな肝細胞がんが発生することがあります。逆に、進行した肝細胞がんでも、肝機能が保たれていれば複数の薬物療法を検討できます。

ステージと肝予備能の両方を見るという考え方は、治療選択だけでなく予後を理解する際にも必要です。

過去の生存率には現在の薬物療法が十分に反映されていない

5年ネット・サバイバルの対象は2014~2015年、10年値は2012年に診断された患者さんです。

現在の切除不能肝細胞がんでは、アテゾリズマブ+ベバシズマブ、デュルバルマブ+トレメリムマブ、ニボルマブ+イピリムマブなど、当時は使われていなかった治療が選択できるようになっています。

過去の患者集団から算出された生存率には、2026年現在の治療環境がすべて反映されているわけではありません。

特にステージ4の4.4%という5年ネット・サバイバルを、現在ステージ4と診断された患者さんの将来をそのまま示す数字として受け取ることはできません。

肝臓がんステージ4の病状や治療、生存率の考え方については、以下の記事でも詳しく解説しています。

肝細胞がんの再発と経過観察

肝細胞がんは、肝切除やRFAなどで治療した後も再発に注意が必要ながんです。国立がん研究センターでは、肝切除後に初めて再発した場合、その90%以上が肝臓内での再発と説明しています。

肝臓内に再びがんが見つかる理由は一つではありません。最初の肝細胞がんからがん細胞が肝臓内の別の場所へ広がる場合もあれば、慢性肝炎や肝硬変などが残っている肝臓から、新しい肝細胞がんが発生する場合もあります。

参考:肝臓がん(肝細胞がん) 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

肝臓内の再発には「肝内転移」と新しい発がんがある

最初にできた肝細胞がんからがん細胞が肝臓内へ広がり、別の場所で増えるものを「肝内転移」と考えます。

肝細胞がんでは、治療によって最初の腫瘍を取り除いても、背景にある慢性肝炎や肝硬変などの肝疾患が残ることがあります。その肝臓の別の肝細胞から新たながんが発生することもあり、これを「多中心性発癌」と呼びます。

肝切除後に別の場所へ肝細胞がんが見つかったからといって、すべてが最初のがんから広がったものとは限りません。この特徴があるため、肝細胞がんでは「治療した場所だけ」を見て経過観察するのではなく、残った肝臓全体を長期的に確認します。

治療後は3~6カ月ごとを目安に定期検査を行う

国立がん研究センターでは、肝細胞がん治療後は再発や新たな肝細胞がんに注意し、3~6カ月ごとに定期検査を行うとしています。

検査では、肝機能やAFP、PIVKA-IIなどを確認する血液検査に加え、病状に応じて腹部超音波、造影CT、MRIなどの画像検査を組み合わせます。腫瘍マーカーだけで再発の有無を判断することはできません。治療前から腫瘍マーカーが上昇しない患者さんもいるため、画像検査と合わせて経過を確認します。

経過観察で見るのは再発だけではありません。肝切除やTACEなどの治療後に肝機能がどの程度保たれているか、慢性肝疾患が進行していないかも、その後の治療選択に関係します。

参考:肝臓がん(肝細胞がん) 療養|国立がん研究センター がん情報サービス

再発した場合も、現在の肝機能とがんの状態から治療を選び直す

肝細胞がんが再発した場合には「一度手術をしたから次は薬物療法」というように治療順序が固定されているわけではありません。再発した腫瘍の個数や大きさ、脈管侵襲、肝外転移に加え、現在の肝予備能を評価します。

肝臓内に限局し、肝機能が保たれている場合には、再切除やRFAなどの局所治療を検討できることがあります。病変が多発していればTACE、脈管侵襲や肝外転移などがあれば薬物療法を含めて治療方針を考えます。

国立がん研究センターも、肝切除や局所療法後に再発した場合は、残っている肝臓の量と肝機能を確認し、初回治療と同じように切除、RFA、塞栓療法、薬物療法などを検討すると説明しています。

治療時点のステージだけではなく、再発した時点でどの治療を安全に行えるかを改めて評価することになります。

B型・C型肝炎がある場合は肝炎の治療も続ける

B型・C型肝炎を背景に肝細胞がんが発生した場合、がんの治療だけで通院が終わるわけではありません。ウイルス性肝炎そのものを適切に治療することは、残った肝臓の炎症を抑え、肝機能を保つことにつながります。

国立がん研究センターでは、ウイルス性肝炎が原因となった肝細胞がんでは、手術やRFAなどの治療後に抗ウイルス療法を行うことで、再発を抑えられる可能性があるとしています。C型肝炎でウイルスを排除できた場合でも、すでに肝線維化や肝硬変が進んでいる患者さんでは肝細胞がんのリスクがなくなるわけではありません。定期検査を続ける必要があります。

参考:C型肝炎治療ガイドライン 第8.4版|日本肝臓学会

再発の有無だけでなく「次の治療を受けられる肝臓か」を見ていく

肝細胞がんの経過観察では、画像上に新しい腫瘍がないかを確認することに意識が向きやすくなります。

長期的には、肝機能をどの程度保てているかも重要です。再発しても、肝予備能が十分に残っていれば再切除やRFA、TACE、薬物療法など複数の治療を検討できます。肝機能が大きく低下すると、腫瘍に対して有効な治療があっても実施が難しくなる場合があります。

肝細胞がんの治療後は、再発を早く見つけることと、次の治療につなげられる肝機能を保つことの両方を考えて経過をみていきます。

肝細胞がんの治療が効きにくくなったら

肝細胞がんでは、治療を続けているうちに十分な効果が得られなくなったり、副作用や肝機能の低下によって同じ治療を続けにくくなったりすることがあります。

このような場合でも、「現在の治療が効かなくなった=もう治療法がない」とは限りません。

肝細胞がんには肝切除、RFA、TACE、薬物療法など複数の治療があり、病状の変化によって治療の位置づけも変わります。次の治療を考える際には、がんがどのように変化したのかと、現在の肝機能がどこまで保たれているのかを改めて確認します。

まず現在の治療を続ける意味があるかを見直す

治療変更を考える場面では、画像検査で腫瘍が大きくなったかどうかだけを見るわけではありません。

新しい病変が増えている、脈管侵襲や肝外転移が現れた、腫瘍マーカーが上昇しているといった変化に加え、治療によって肝予備能が低下していないかも確認します。

特にTACEでは、十分な効果が得られない状態で繰り返すと、次の薬物療法に必要な肝機能を失う可能性があります。

治療を続けるか切り替えるかを考えるときは、以下の点を整理します。

  • 現在の治療で腫瘍を抑えられているか
  • 新しい病変や脈管侵襲、肝外転移が生じていないか
  • Child-Pugh分類やALBI gradeなどでみた肝予備能が保たれているか
  • 副作用による生活への負担が大きくなっていないか

次の薬物療法だけでなく、局所治療を再検討できることもある

薬物療法を受けている患者さんで病状が変化したとき、「次はどの薬を使うのか」に意識が向きやすくなります。

実際には、治療によって腫瘍が大きく縮小し、以前は難しかった肝切除やRFAなどを検討できる状態になることもあります。逆に、TACEで十分な効果を得にくくなった場合には、肝機能が保たれているうちに全身薬物療法へ移ることがあります。

肝細胞がんでは治療法を一方向に進めるだけではなく、その時点の腫瘍の状態と肝予備能から、局所治療と全身治療を改めて検討することがあります。

標準治療は新しい治療が登場するたびに更新される

標準治療とは、現在得られている科学的根拠をもとに、多くの患者さんに推奨される治療です。「標準」という言葉から、昔から行われている治療をイメージするかもしれませんが、新しい治療でも臨床試験で効果と安全性が確認されれば標準治療に加わります。

肝細胞がんでも、近年は免疫チェックポイント阻害薬を含む治療が次々と導入され、治療の選択肢が変化しています。

現在の治療で十分な効果が得られなくなったときには、まず現在の標準治療の中に、まだ受けていない治療があるかを確認します。

条件が合えば臨床試験を検討できる

標準治療を受けた後や、病状によって適した標準治療が限られる場合には、臨床試験への参加を検討できることがあります。

臨床試験は、効果が確立した「特別な治療」を受ける制度ではありません。新しい薬や治療法について、効果と安全性を確認し、将来の標準治療になり得るかを調べる研究です。

参加できるかどうかは、肝細胞がんの状態、これまでに受けた治療、肝機能、全身状態など、それぞれの試験で定められた条件によって決まります。

臨床試験を提案された場合には、現在受けられる標準治療と何が違うのか、期待される効果についてどこまで分かっているのか、副作用や通院の負担はどの程度かを確認してから判断します。

参考:研究段階の医療(臨床試験、治験など)について|国立がん研究センター がん情報サービス

治療方針に迷ったときはセカンドオピニオンも利用できる

「提示された治療以外に選択肢はないのか」「TACEを続けるべきか薬物療法へ移るべきか」「別の治療施設でも意見を聞きたい」と感じる場合には、セカンドオピニオンを利用できます。

セカンドオピニオンは、現在の病院から転院するための制度ではありません。診断や治療方針について別の医師から意見を聞き、治療を選ぶための情報を増やす方法です。

相談するときには、これまでの画像検査、病理・診断情報、受けた治療、現在の肝機能などの資料が必要になります。

肝細胞がんでは治療の選択肢だけでなく、治療を行える肝予備能が残っているかが判断に影響します。セカンドオピニオンを希望する場合には、治療開始や変更をどの程度待てる状況なのかも担当医に確認しておくとよいでしょう。

治療が効きにくくなったときに考えるのは、「次に使える薬があるか」だけではありません。現在の治療を続ける利益、残っている肝機能、局所治療を再検討できる可能性、次の標準治療を整理したうえで、その時点で適した方針を考えます。

参考:セカンドオピニオン|国立がん研究センター がん情報サービス

納得できる治療を選択するために、診察で確認したいこと

肝細胞がんの治療について説明を受けると、Child-Pugh分類、RFA、TACE、免疫チェックポイント阻害薬など、多くの専門用語が一度に出てきます。

すべての治療法や薬剤名を覚える必要はありません。まず確認したいのは「自分は現在どのような状態で、なぜこの治療が提案されているのか」です。

診察では、次のような情報を整理すると治療方針を理解しやすくなります。

  • 正式な診断名は肝細胞がんなのか
  • ステージはいくつで、どの病期分類を使っているのか
  • 腫瘍の個数・大きさ、脈管侵襲、肝外転移はどうなっているのか
  • Child-Pugh分類やALBI gradeでみた肝予備能はどの程度なのか
  • 今回の治療では何を目指しているのか

「ステージ3です」「手術は難しいです」といった結論だけではなく、その判断につながった病状まで確認すると治療の選択肢を比較しやすくなります。

提案された治療の「目的」は何か

同じ肝細胞がんでも、治療によって目指すものは異なります。肝切除やRFAでがんを根治できる可能性を目指す場合もあれば、TACEで肝臓内の腫瘍を抑える場合、薬物療法で進行を抑える場合もあります。

治療を決める前には、この治療で何を目指しているのか、なぜ自分にはこの治療が勧められているのか、ほかに選択肢はあるのか、期待できる効果と主な副作用・合併症は何か、治療によって肝予備能へどの程度影響する可能性があるのか、などを確認しておくとよいでしょう。

治療を始めるときに「次に切り替える条件」も確認

肝細胞がんでは、一つの治療をいつまでも続けるとは限りません。TACEで十分な効果が得られなくなれば薬物療法への変更を検討することがあります。薬物療法でも、がんの進行や副作用によって別の治療へ変更する場合があります。

治療開始時には「どのような状態になったら、この治療を続けず次の治療を考えるのか」まで確認しておくと、病状が変化したときに治療方針を理解しやすくなります。

画像検査で何を見るのか、腫瘍マーカーをどう評価するのか、Child-Pugh分類やALBI gradeが変化した場合に治療へどのような影響があるのかも確認しておきましょう。

治療によって生活がどう変わるのか

治療方針を考える際には、効果や副作用だけでなく、生活への影響も確認します。

手術であれば入院期間や退院後の回復、TACEであれば治療後の発熱や食欲低下、薬物療法であれば通院頻度や副作用への対応など、治療によって負担の種類が異なります。

仕事や家事、介護などを続けながら治療を受ける場合には、診察の段階で生活上の事情を医療者に伝えておくことも治療計画を考える材料になります。

副作用が起きた場合にどこへ連絡するのか、夜間や休日はどのように対応するのかまで確認しておくと、治療開始後に迷いにくくなります。

分からないことが残ったまま治療を決める必要はない

説明を一度聞いただけで、治療内容をすべて理解するのは簡単ではありません。

分からなかった言葉や気になる点をメモして、次の診察で確認しても構いません。治療開始をどの程度急ぐ必要があるのか、考える時間を取れる病状なのかも担当医に確認できます。別の医師の意見を聞きたい場合には、セカンドオピニオンを利用する方法もあります。

治療の説明を整理したい場合や、生活・仕事・医療費などを含めて相談したい場合には、全国のがん診療連携拠点病院などに設置されている「がん相談支援センター」も利用できます。

参考:がん相談支援センターとは|国立がん研究センター がん情報サービス

診断名やステージだけで治療の可能性を決めつけない

肝細胞がんでは、同じステージでも腫瘍の状態や肝予備能によって提案される治療が異なります。

治療後に病状が変化すれば、以前は難しかった治療を再検討できることもあれば、肝機能の変化によって治療方針を変更することもあります。

この記事で紹介したステージや生存率、治療法は、自分の治療を決めるための答えそのものではありません。

診察では「今の病状はどうなっているのか」「今回の治療を選ぶ理由は何か」「効果が得られなかった場合には次に何を考えるのか」まで確認し、自分の病状に沿って治療方針を考えていくことが必要です。