腹膜播種(ふくまくはしゅ)とは、がんが腹膜に広がることで起こる転移の一種です。
お腹の中にがん細胞が広がるため、進行すると様々な症状が現れ、治療や予後にも大きな影響を及ぼします。この記事では、腹膜播種の原因や初期症状、診断方法、そして完治の可能性についてわかりやすく解説します。
- 早期発見が非常に難しいがんの一つ。
- がん種に応じて様々な遺伝子が高確率で変異を起こしている。
- 適切な治療をすることで完治が見込める。
腹膜播種とは
腹膜播種とは、元々のがん(原発巣)からがん細胞がお腹の中に脱落した後、腹膜と呼ばれるお腹を覆う膜に定着して増殖し、小さな腫瘍ができた状態です。原発巣としては、胃、大腸、膵臓、卵巣など全身の様々な臓器が報告されています。
腹膜播種の状態になっても初期には症状が現れにくいですが、進行すると腹部膨満(お腹が張る)、腹痛、食欲不振、吐き気などの症状が出現します。
腹膜播種が現れると、原発巣のがん種によっても予後や余命が異なります。例えば胃がんであれば約7ヶ月ですが、卵巣がんでは5年生存する患者様が約半数と報告されています。
参考:
胃癌腹膜播種に特化したアンチセンス核酸医薬開発|AMEDfind
院内がん登録生存率集計結果閲覧システム 卵巣がん(卵巣癌)|国立がん研究センター
腹膜播種の原因
腹膜播種が発生する原因は、もともとの癌が体のどこかにあることです。このような癌が発生する原因としては、がん種にもよりますが、大きな原因の1つとして「遺伝子変異」があげられます。
遺伝子とは、細胞を作るための情報がつまった部分ですが、この遺伝子が異常になると遺伝子変異が起こり、がんを発症すると報告されています。
腹膜播種を引き起こす胃がんや大腸がん、膵臓がん、卵巣がんで頻度が高い代表的な遺伝子変異としては、「KRAS」「TP53」などがあげられます。
これらの他にも、がん種に応じて様々な遺伝子が高確率で変異を起こしています。そのため。腹膜播種の患者様は、原発巣のがん種に応じた遺伝子変異に直接アプローチできる遺伝子治療がおすすめと言えるでしょう。
参考:
KRAS, TP53, CDKN2A, SMAD4, BRCA1, and BRCA2 Mutations in Pancreatic Cancer|MDPI
Comprehensive molecular characterization of gastric adenocarcinoma|nature
The consensus molecular subtypes of colorectal cancer|nature
腹膜播種の診断
腹膜播種は早期発見が非常に難しいがんの一つであり、診断には腫瘍マーカーを測定する血液検査や、お腹の中である腹腔内を観察する画像検査や腹腔鏡検査など複数の手法を組み合わせて行われます。
腹膜播種は微細な結節で見つけにくいことも多く、正確な診断には工夫と複数の検査の組み合わせが必要です。
血液検査では、腫瘍マーカーと呼ばれるそれぞれのがんで異常を認めやすいタンパク質などを測定します。画像検査では、造影CT検査・MRI検査・PET検査・超音波検査などを行います。また、腹腔内を直接観察する腹腔鏡検査や、腹水が貯留している場合は、腹水内に含まれるがん細胞を採取して顕微鏡検査を行う場合があります。
患者様の状態によって実施すべき検査が異なりますので、具体的には主治医の先生と相談して検査内容や種類を決定していくのがおすすめです。
腹膜播種の一般的な治療法
腹膜播種に対して実施される一般的な保険診療での治療としては、完治(根治)できる状態であれば、手術を行います。ただし、元々のがん種によって治療法が異なり、腹膜播種が少しでもあれば外科的な手術は適応がないとして化学療法などの薬物療法や放射線療法を行う施設もあります。
また、手術も患者様の体に負担をかけるため、ある程度体力があることが望まれます。
そのため、体力があまり無い患者様や、様々な病気をお持ちで手術が危険だと判断される患者様には手術の対象とならない場合があります。
さらに、手術で目に見える範囲の腹膜播種を切除できたとしても、目に見えない微小病変が残っていることで再発リスクが高い状態です。例えば、胃がんであれば腹膜播種が少量しか認めない場合でも約30~50%、大腸癌であればごくわずかな腹膜播種しか認めない患者様で約20~30%、卵巣がんでは約30~70%と報告されています。
このように、手術後も再発リスクが高いため、手術後に再発しないように抗がん剤治療が勧められるケースが多いです。ただし、抗がん剤治療にはつらい副作用もあるため、体力があまり無い患者様や副作用が心配な患者様には実施できません。
また、腹膜播種が発見されて手術を実施できない患者様には、抗がん剤治療などの化学療法や抗がん剤を直接腹腔内に注入する腹腔内化学療法を実施します。このような治療を組み合わせることで寛解を目指せることもあります。
以上のような点から、腹膜播種は難治性のがんの状態だということが分かります。
しかし最近では、腹膜播種を発生させている元々のがんに注目し、それらのがん発症の主な原因の1つである、遺伝子変異に直接効果を発揮する遺伝子治療が最新の治療法として注目されています。
参考:
Peritonectomy procedures|PubMed
A comprehensive treatment for peritoneal metastases from gastric cancer with curative intent|PubMed
A comprehensive overview of ovarian cancer stem cells: correlation with high recurrence rate, underlying mechanisms, and therapeutic opportunities|BMC
腹膜播種は寛解が期待できる状態
腹膜播種は寛解を見込める状態です。
腹膜播種が発見された時にはすでに元あるがんから転移を起こしている状態であるため、いわゆる進行がんの状態ではありますが、様々な化学療法や手術、放射線療法などを組み合わせることで治癒も十分に期待できます。
また、当院では腹膜播種に対しての最新治療である遺伝子治療を積極的に取り入れております。ぜひ一度お問い合わせください。
腹膜播種に対する保険診療の限界
腹膜播種に対する保険診療には、化学療法や手術、放射線療法などがあります。手術法の発達や化学療法・放射線療法の進歩といった医療界の発展により膵臓がんの治療法が発展してきましたが、保険診療では治療が困難な場合もあります。
実施できる化学療法の制限
保険診療では腹膜播種に対して使用できる抗がん剤の数に制限があります。
腹膜播種を発症させる元々のがん細胞のタイプに合わせて様々な抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などを使い分けます。しかし、通常3~4種類程度しか有効な薬物療法はありません。
そのため、使用できる薬物を使い切った場合、もしくは体に合わない場合には、選択できる薬剤や治療はもう存在しないと医師から言われてしまいます。
また、1個の新しい抗がん剤などの薬物が開発されるまでには10~20年かかると言われているため、投与できる薬物療法には制限ができてしまいます。
保険診療ではカバーしきれない腹膜播種の再発
腹膜播種が発見され、手術によって病巣を切除した場合でも、がんの種類によっては再発率が30~70%に達することが報告されています。
そのため、手術単独では不十分であると考えられ、再発予防を目的として、術前化学療法および術後補助化学療法(いずれも抗がん剤治療)を組み合わせた治療戦略が推奨されることが一般的です。
しかしながら、抗がん剤治療にはさまざまな副作用が伴うため、高齢者や体力の低下した患者にとっては実施が困難となるケースもあります。さらに、腹膜播種の切除手術自体が大きな負担を伴うため、術後に著しく体力を消耗し、本来予定していた抗がん剤治療が継続できなくなることも少なくありません。
また、仮に術後補助化学療法が実施された場合であっても、腹膜播種は進行がんに分類されるため、再発リスクは依然として高い状態にあります。例えば胃がんでは、術後でも再発率が約50%にのぼるというデータも存在します。
このように、現在の国内保険診療の範囲内で提供できる治療では、腹膜播種に対する手術を行ったとしても、2人に1人が再発するという厳しい現実があるのです。
参考:
Risk Factors for Recurrence After Curative Conversion Surgery for Unresectable Gastric Cancer|ANTICANCER RESEARCH 35: 6183-6188 (2015)
化学療法の「きつい」副作用
腹膜播種に対する化学療法では、主に抗がん剤が使用されますが、その副作用は薬剤の種類や患者さんの体質によって大きく異なります。一般的にみられる副作用としては、吐き気、食欲不振、下痢、脱毛、手足のしびれ、倦怠感、発疹、貧血、高血圧などが挙げられます。これらの症状は個人差が大きく、軽度で済む方もいれば、日常生活に支障をきたすほど強く出る方もいます。
また、使用する薬剤によっては、まれに命に関わるような重篤な副作用や合併症が発生する可能性もあり、十分な注意が必要です。治療を開始した当初は問題なく受けられていたとしても、回を重ねるごとに副作用が蓄積し、継続が困難になる場合もあります。
さらに、化学療法の副作用が精神的な影響を及ぼすこともあります。頑張って治療を続けていても、副作用によって生活の質(QOL)が大きく低下し、気分の落ち込みや意欲の低下につながる患者さんも少なくありません。
最新の治療法である遺伝子治療がおすすめ
近年、腹膜播種を含む進行がんに対する新たな治療法として「遺伝子治療」が注目を集めています。
遺伝子治療とは、がんの発症に関与する遺伝子の異常(変異)に直接アプローチし、がん細胞を根本から治療することを目指す最先端の医療技術です。
従来の抗がん剤治療や手術とは異なり、がん細胞の「設計図」である遺伝子そのものを標的とする点が最大の特徴です。
海外では「がんの部位」ではなく「遺伝子異常」で治療を決定
特に欧米では、がんの種類(胃がん・大腸がん・膵がん・卵巣がんなど)ではなく、どのような遺伝子異常があるかを重視して治療法を選ぶという考え方が主流になりつつあります。
このような治療法は「がんゲノム医療」や「プレシジョン・メディシン(個別化医療)」と呼ばれ、さまざまな臨床試験が世界中で進行中です。腹膜播種の原因となる遺伝子異常に対しても、個別に効果的な治療薬や治療方法が検討されています。
日本の現状と今後の展望
日本でも近年、がん遺伝子パネル検査(がんゲノムプロファイリング)や、特定の遺伝子異常に対応する分子標的薬が一部保険適用化されるなど、少しずつ普及が進んでいます。
しかしながら、欧米に比べると臨床現場への導入は遅れているのが現状です。そのため、最先端の遺伝子治療を希望する患者さんの中には、保険外診療や自由診療を選択して専門クリニックでの治療を受けるケースも増えています。
がん中央クリニックグループでは、いち早く遺伝子異常に基づく個別化診療を導入し、腹膜播種を含むさまざまながんに対して柔軟な治療を提供しています。
なお、遺伝子治療には「がん抑制遺伝子」と「核酸医薬」の2種類があります。詳しくは下記をご参照ください。
がん中央クリニックグループのクリニックでは、患者様の状態に合わせて行う最新のがん遺伝子治療を提供できます。是非一度ご相談ください。
保険診療では「治療方法がない」方も治療可能
腹膜播種に対する遺伝子治療は保険診療ではなく自由診療(保険外診療)であり、保険診療ではもう治療方法がない、と言われた患者様でも実施できます。
がん中央クリニックグループの病院では膵臓がんの患者様1人ひとりに合わせてテーラーメイドの遺伝子治療を提供します。
保険診療との相乗効果が期待
遺伝子治療は腹膜播種の化学療法などのあらゆる薬物療法と併用できるとともに、治療効果として相乗効果が期待できます。
なぜなら、化学療法は産生された膵臓がんの細胞やたんぱく質に作用しますが、遺伝子治療は細胞やたんぱく質が産生される前段階に作用するため、膵臓がんの細胞に対して作用するポイントが異なるからです。
また、放射線療法もがん細胞の遺伝子に作用する治療法であり、遺伝子治療を併用すれば相乗効果が期待できます。遺伝子治療はすでに保険診療で化学療法を含む薬物療法や放射線治療を実施中の患者様にもおすすめできる治療法です。
治療継続可能な副作用
遺伝子治療には目立った副作用が起こりにくいです。特に、化学療法で起きやすい嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。
遺伝子治療の副作用としては、一時的な微熱、血圧上昇、顔の紅潮、アレルギー反応(0.3%以下)などがあります。解熱剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半であり、治療を継続するのに支障をきたしません。
がん遺伝子治療をオススメする患者様
がん遺伝子治療は腹膜播種のほとんどの患者様におすすめできる治療法です。
どのような患者様に効果が期待できるのかを以下に具体的に解説します。ぜひご自身のパターンに合わせてがん遺伝子治療をご検討ください。
腹膜播種に対して薬物治療中や放射線療法中の患者様
がん遺伝子治療は、抗がん剤や放射線治療などの標準治療を受けている患者さんすべてにおすすめできる新しい治療法です。
がんは放っておくと進行してしまうため、さまざまな治療法を組み合わせて、がんをできるだけ小さくすることが重要です。標準治療に加えて遺伝子治療を併用することで、異なる仕組みでがんにアプローチでき、治療効果の向上が期待できます。
実際に、抗がん剤と遺伝子治療を組み合わせたことで、がんの縮小効果が高まったという研究結果もあります。
腹膜播種は特に悪性度が高く、治療が難しいがんのひとつです。完治を目指すには、一つの方法に頼らず、複数の治療を組み合わせた戦略が大切です。がん遺伝子治療は、その選択肢の一つとして、大きな可能性を持っています。
腹膜播種手術後のすべての患者様
腹膜播種に対して、術前化学療法や術後補助化学療法を組み合わせて手術を行った場合でも、がんの種類によっては再発率が約50%にのぼると報告されています。つまり、抗がん剤治療を受けたとしても2人に1人が再発するリスクがあるのが現状です。
さらに、抗がん剤には吐き気や倦怠感などの副作用があるため、体力の低い高齢者や副作用に不安を感じる方には治療の継続が難しい場合もあります。
このような背景を踏まえると、腹膜播種の手術を受けたすべての患者さんにとって、再発リスクを少しでも減らすために最新のがん遺伝子治療を取り入れることが非常に重要です。
遺伝子治療はがんの根本原因に働きかける治療法であり、従来の化学療法とは異なる角度から再発を防ぐ可能性が期待されています。
参考:
Risk Factors for Recurrence After Curative Conversion Surgery for Unresectable Gastric Cancer|ANTICANCER RESEARCH 35: 6183-6188 (2015)
保険治療では治療困難な患者様
腹膜播種に対するがん遺伝子治療は、保険診療ではなく自由診療(保険外診療)として提供されているため、保険診療では「治療の選択肢がない」と言われた患者さんでも受けることが可能です。
がん中央クリニックグループでは、患者さん一人ひとりの遺伝子異常や体調に応じた「テーラーメイドのがん遺伝子治療」を行っており、標準治療が難しい方にも対応しています。
この治療法の大きな特徴は、副作用がほとんど見られない点です。
そのため、通院が可能であれば、体力が落ちている方や高齢の方でも無理なく受けていただけます。実際に、「抗がん剤は難しい」と説明された患者さんが、当院でがん遺伝子治療を開始されているケースも多くあります。
また、通院が難しい方には、訪問診療による対応が可能な場合もあります。詳しいご相談や治療の可否については、下記の無料相談窓口までお気軽にお問い合わせください。専門スタッフが丁寧に対応いたします。
腹膜播種の寛解を目指して保険診療と患者様に合った自由診療を組み合わせるのがおすすめ
腹膜播種は、適切な治療を行うことで寛解を目指すことが可能な疾患です。そのためには、がんの進行状況や体調に応じた柔軟な治療戦略の選択が重要です。
中でも近年注目されているのが、がんの発生原因のひとつとされる「遺伝子異常」に着目した治療法です。腹膜播種に対しては、保険診療による化学療法や手術に加えて、がん遺伝子治療を組み合わせることで、腫瘍の縮小や再発リスクの軽減が期待されています。
また、保険診療だけでは対応が難しいケースでも、遺伝子治療を取り入れることで新たな治療の選択肢が広がる場合があります。
がん中央クリニックグループでは、遺伝子治療をはじめとした患者様一人ひとりの状態に合わせた自由診療プランをご提案しています。標準治療が難しいと感じている方や、他の医療機関で治療の選択肢が限られていると伝えられた方も、ぜひ一度ご相談ください。
腹膜播種の患者様が前向きに治療へ臨めるよう、専門スタッフが丁寧にサポートいたします。どのようなご状況でも、まずはお気軽にお問い合わせください。