”新しい未来をともに”最先端のがん治療を追求するがん治療専門クリニック ”新しい未来をともに”最先端のがん治療を追求するがん治療専門クリニック

胃がんstomach-cancer

HER2陽性胃がんは、胃がんの中でも、がん細胞の表面に「HER2」というタンパク質が過剰につくられているタイプです。胃がん全体の15~25%を占め、HER2を狙い撃ちにする分子標的薬(トラスツズマブ)が標準治療として確立しています。初期にはほとんど症状が出ませんが、進行するとみぞおちの痛み、胃もたれ、食欲不振、体重減少、貧血、黒色便などが現れます。有効な標的薬がある一方で、薬剤耐性や治療選択肢の少なさが課題となります。

本ページでは、HER2陽性胃がんの特徴や原因、症状、診断(内視鏡検査・HER2検査)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • 胃がん全体の15~25%を占め、HER2が過剰につくられているタイプ
  • HER2を狙い撃ちにする分子標的薬(トラスツズマブ)が標準治療
  • 薬剤耐性と、使える薬の少なさが治療上の課題

HER2陽性胃がんとは

胃がんは、がん細胞の性質によっていくつかのタイプに分類されます。その中のひとつが、HER2陽性胃がんで、がん細胞の表面に「HER2タンパク」と呼ばれる特定の受容体が過剰に現れているタイプです。

HER2とは、細胞の表面に存在する「ヒト上皮成長因子受容体2型」というタンパク質であり、細胞の成長や修復を助ける働きをしています。

しかし、何らかの理由でHER2を作る遺伝子が増えると、細胞表面にHER2タンパクが大量につくられます。この状態になったがん細胞は、増殖のアクセルが踏みっぱなしの状態になり、通常よりも速いスピードで分裂・増殖を繰り返すようになります。

HER2陽性胃がんは胃がん全体の15~25%に認められ、トラスツズマブなどのHER2を標的とした抗HER2療法が標準治療として位置づけられています。

HER2陽性胃がんの原因

一般的な胃がんの発生にはピロリ菌の持続感染や塩分の過剰摂取、喫煙などが関係しています。しかし、HER2が過剰に増える具体的なメカニズムについては、まだ解明されていないのが現状です。

分子レベルでは、HER2をつくる遺伝子(ERBB2)が増幅し、細胞表面にHER2タンパクが大量に並ぶことが確認されています。その結果、細胞を増殖させる信号が常に送られ続け、がん細胞が過剰に増殖します。

ここで、もうひとつ重要な遺伝子があります。がん細胞の暴走を食い止める「ブレーキ役」の、がん抑制遺伝子「p53(TP53)」です。p53はDNAに傷がついた細胞を修復させ、修復できないものは自然死(アポトーシス)へと導きます。このp53が壊れると、傷ついた細胞が排除されずに生き残ってしまいます。

HER2陽性胃がん全体におけるTP53遺伝子変異の頻度は約80%と高頻度に認められます。つまりアクセル(HER2)が過剰であるだけでなく、ブレーキ(p53)も故障しているケースが多いということです。

HER2陽性胃がんの診断

「(無)症状」から「確定診断」まで

胃がんは、初期にはほとんど症状が出ません。進行してくると、みぞおちの痛み、胃もたれ、食欲不振、体重減少、貧血、黒色便といった症状が現れます。ただ、これらは胃炎や胃潰瘍でも起こるため、見過ごされがちです。

受診すると、まず上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)で胃の中を観察し、疑わしい部分の組織を採取する生検を行います。採取した組織を顕微鏡で調べる病理検査で、がんの有無を確定します。転移の評価にはCT検査などを用います。

「HER2陽性」と判定されるまでの検査の流れ

胃がんと診断されたら、その組織を使ってHER2の状態を調べます。ここが治療方針を分ける重要なステップです。

最初に行うのが免疫染色(IHC法)です。HER2タンパクの染まり具合をスコア0~3+の4段階で評価します。3+は陽性、0と1+は陰性、2+は判定保留(グレーゾーン)です。

判定保留(2+)だった場合、次にFISH法を行います。蛍光色素でHER2遺伝子の数を直接数える検査で、遺伝子の増幅が確認されれば陽性と確定します。この陽性判定が、抗HER2薬による保険治療の対象となる条件です。

ステージ(病期)の確定

胃がんのステージは、胃壁のどの深さまでがんが達しているか(T)、リンパ節転移(N)、腹膜播種を含む遠隔転移(M)を組み合わせて、Ⅰ期~Ⅳ期に分類されます。

HER2陽性胃がんの一般的な治療法

早期であれば手術(内視鏡的切除または外科的切除)が中心となり、進行度に応じて薬物療法を組み合わせます。一方、進行・転移した状態や再発した場合は、薬物療法が治療の柱になります。

HER2陽性胃がんの薬物療法で軸となるのが、HER2を狙い撃ちにする分子標的薬「トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)」です。これを抗がん剤(フッ化ピリミジン系+プラチナ系など)と組み合わせるのが、進行例の一次治療の基本形です。

ちなみに、トラスツズマブを化学療法に追加すると、治療開始後の生存期間の中央値は、抗がん剤だけの場合の11.1ヶ月から13.8ヶ月へと約2.7ヶ月延びました。

さらに、近年はこれに免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブ)を加える治療も登場し、トラスツズマブと化学療法に追加すると、治療開始後の生存期間の中央値は、16.9ヶ月から20.0か月と約3.1ヶ月延長したと報告されています。

HER2陽性胃がんにおける保険診療の限界

HER2陽性胃がんには抗HER2療法という有効な標的薬があるとはいえ、保険診療にはいくつもの壁があります。

トラスツズマブの効果はいつまでも続かない

抗HER2療法の問題点として、がん細胞が薬物への抵抗性を獲得し、別の経路で再び増殖する「薬剤耐性」があります。耐性が生じるメカニズムは未解明な部分も多く、時間が経つと効果が低下するケースがあります。トラスツズマブは高い治療効果を発揮するものの、腫瘍が縮小した患者様のうち、半数の方ではその効果持続期間は6.9ヶ月程度にとどまるという報告もあります。

使える薬の種類が限られる

HER2陽性であっても、その先に用意された保険の手札は多くありません。一次治療でトラスツズマブ+化学療法、二次治療以降でトラスツズマブ-デルクステカンやその他の抗がん剤、と進んでいきますが、数種類のパターンを使い切ると「保険診療ではもう手立てがない」と説明されることがあります。

化学療法に伴う「きつい」副作用

抗がん剤では、吐き気、強い倦怠感、食欲不振、脱毛、手足のしびれ、骨髄抑制による感染症リスクなどが起こりえます。トラスツズマブ自体にも、まれに心機能低下という副作用があります。胃を切除した患者様では、もともと食事量が減って栄養状態が低下しているところに副作用が重なり、治療の継続が難しくなることも少なくありません。

再発のリスクをゼロにはできない

HER2陽性胃がんに対して手術にて根治切除を行った後、再発率を低くするために術後補助化学療法という治療を行う場合があります。ステージⅡ・Ⅲ胃がんの患者様に対して手術後に術後補助化学療法を実施すると、手術後3年間で再発せずに生存していた方は約72%でした。逆に言えば、10人に約3人が3年以内に再発または死亡していたことになります。

HER2陽性胃がんで重要な新しい治療の考え方

ここまで述べてきたとおり、HER2陽性胃がんは有効な標的薬がある一方で、耐性、治療薬の選択肢の少なさ、術後再発という課題を抱えています。

がん中央クリニックグループでは、こうした課題に対して、標準治療とは作用の仕方が異なる治療を選択肢としてご提案しています。

分子レベルの異常にアプローチする「核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)」

がんの発生や進行に関わる分子レベルの異常へ直接働きかける「核酸医薬」は、世界的に研究と臨床応用が進んでいます。当グループでは治療選択肢として、「アプタマー」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を取り入れた治療を提供しております。

アプタマー核酸医薬」は、がん細胞に特有の異常なタンパク質にピンポイントで結合し、その働きをブロックすることで、がんの増殖抑制や死滅を狙う治療薬です。一方で「miR-34a mimic核酸医薬」は、がん化によって失われてしまった「体が本来持っているがんを抑制する力」を補い、がんの成長を止め、自然な細胞死(アポトーシス)を促す治療薬です。

胃がんでTP53変異が高頻度に認められることは、先に述べたとおりです。miR-34a mimicは、miR-34aと同じ働きをする分子を外部から補充することで、p53というブレーキが壊れた細胞に対しても、その先の経路から直接ブレーキをかけ直すことを狙う治療です。

がん中央クリニックグループでは、がん種ごとに標的となる遺伝子を指定して核酸医薬を設計し、患者様一人ひとりの状態に合わせた治療をご提案しています。複数の核酸医薬を組み合わせて使い分けられる点も、特徴のひとつです。

免疫の「盾」を外す「ハイブリッド免疫療法」

ハイブリッド免疫療法は、がん細胞が免疫の攻撃から逃れるために使う「盾」、すなわち免疫ブロックタンパク質「PD-L1」を標的とする治療です。

HER2陽性胃がんは、免疫療法の標的となる「PD-L1」の陽性率(CPS≥1)が約85%と非常に高いため、免疫の仕組みを活用した治療アプローチが大きな意義を持ちます。

ハイブリッド免疫療法は、このPD-L1を内側と外側の両方から無力化します。まず、がん細胞の表面に出ているPD-L1に結合し、免疫の攻撃を妨げる「盾」を取り払います。さらに、がん細胞の中に入り込んで、これから作られるPD-L1の設計図(mRNA)を分解し、新たな「盾」が生まれるのを防ぎます。攻撃を逃れる術を失ったがん細胞を、患者様ご自身の免疫細胞が敵として認識し、攻撃できるようになるという仕組みです。

ただし、保険治療ですでに免疫チェックポイント阻害薬を使用されている場合は効果が弱まる可能性があるため注意が必要です。

当グループの自由診療・治療をおすすめする患者様

当グループで実施可能な治療法は、ほとんどの患者様にご検討いただけます。以下では、どのような患者様に効果が期待できるのかを解説します。ご自身の状況に照らし合わせてご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

HER2陽性胃がんでは、トラスツズマブへの耐性や数パターンの化学療法を使用した後の選択肢不足といった理由から、保険診療が行き詰まることがあります。

そうした場合でも、核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、ハイブリッド免疫療法、分子標的ワクチン療法なら、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供できます。これらは目立った副作用が起こりにくく体への負担が少ないため、「体力がないため抗がん剤はできません」と説明された方にも、1つの選択肢となり得ます。まだ体力があるのに選択肢がなくなり、緩和を勧められている方にとっても、新たな選択肢として検討いただけます。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

核酸医薬、ハイブリッド免疫療法、分子標的ワクチン療法は、化学療法や標準の分子標的薬と併用でき、相乗効果が期待できます。

化学療法がすでに増殖したがん細胞や産生されたタンパク質に作用するのに対し、核酸医薬はそれらが作られる前の遺伝子レベルに作用します。

分子標的ワクチン療法は患者様自身の免疫でHER2を発現するがん細胞を攻撃し、ハイブリッド免疫療法はPD-L1という別の標的を叩きます。攻撃するポイントが異なるため、標準治療と組み合わせることでより高い効果が期待できると考えています。

HER2陽性胃がんの完治を目指すには、複数の治療法を組み合わせることが重要と考えています。標準治療を受けている患者様にとっても、これらの併用は選択肢のひとつです。

再発を抑制・防止するために手術前後の患者様

HER2陽性胃がんは、先述した通り根治手術を行っても再発しうる疾患です。また抗がん剤には副作用があるため、胃切除後で栄養状態に不安のある患者様、体力に不安のある高齢の患者様では、術後補助化学療法の完遂が難しい場合もあります。

こうした背景から、手術前後の患者様が核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、ハイブリッド免疫療法を併用することは、再発リスクを下げるひとつの選択肢として検討いただけます。

副作用が不安な患者様

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、ハイブリッド免疫療法は、目立った副作用が起こりにくい治療です。化学療法で起きやすい嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。核酸医薬の副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などが挙げられます。ハイブリッド免疫療法では治療部位の反応などが見られることがあります。

解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半で、治療の継続に支障をきたすことはありません。

「胃を切除して食事が思うようにとれない」「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」。当グループの治療は、そのような方にも受けていただけます。

HER2陽性胃がんの完治を目指して、保険診療と患者様に合った自由診療を組み合わせる

HER2陽性胃がんは、有効な標的薬がある一方で、耐性や再発という壁が立ちはだかる疾患です。しかし、適切に治療を行えば完治を目指せる疾患でもあります。

発症要因にHER2やp53といった遺伝子異常があるため、保険診療と核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、ハイブリッド免疫療法、分子標的ワクチン療法などを組み合わせる集学的治療が有効な選択肢となります。保険診療だけではカバーしきれない場合でも、これらの治療によって生存率や予後の改善が期待できます。

がん中央クリニックグループでは、こうした「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがん治療をご提案いたします。HER2陽性胃がんの患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。

胃がんは、日本で現在も多く診断されているがんの一つです。2023年には104,864例が新たに診断され、2024年には37,867人が胃がんで亡くなっています。

胃がんは、早い段階では自覚症状がないことがあります。みぞおちの痛み、胃もたれ、食欲低下、胸やけなどが現れる場合もありますが、胃炎や胃潰瘍などでも起こる症状であり、症状の有無や強さだけから胃がんの進行度を判断することはできません。

一方、早い段階で発見され、リンパ節転移の可能性が低い条件を満たせば、胃を切除せず内視鏡で病変を取り除ける場合があります。胃の壁の深くまでがんが入り込んでいる場合やリンパ節転移の可能性がある場合には、胃切除とリンパ節郭清を行い、病期によっては手術前後の薬物療法を組み合わせます。

切除不能・再発胃がんでは、現在はHER2、PD-L1、MSI/MMR、CLDN18.2などを調べ、その結果を薬物療法の選択につなげます。日本胃癌学会は2025年3月に「胃癌治療ガイドライン第7版」を刊行し、2026年には患者向けガイドライン、同年7月には「切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き第3版」を公開しています。

この記事では、胃がんの原因や症状だけでなく、胃がん検診と受診の違い、内視鏡・病理検査、ステージ、ESD、手術、2026年時点の薬物療法、治療後の食事や体重減少、生存率まで、治療を判断する流れに沿って解説します。

  • 胃がん検診・胃内視鏡による早期発見が治療の選択肢を広げる
  • 胃がんの治療はステージだけでなく、病理結果やバイオマーカーをもとに選ぶ
  • 治療後は再発だけでなく「食べられること」と栄養・体重を長期的にみていく

胃がんとは何か

胃がんは、胃の内側を覆う粘膜の細胞から発生する悪性腫瘍です。

胃の壁は、内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜(しょうまく)などの層で構成されています。胃がんは粘膜から発生し、進行すると胃壁の外側へ向かって深く入り込みます。

胃がんでは、病変の横幅だけではなく、胃壁のどの深さまでがんが達しているかが治療を考えるうえで大きな意味を持ちます。

「早期胃がん」はステージ1と同じ意味ではない

胃がんでは、がんの浸潤が粘膜または粘膜下層までにとどまっているものを「早期胃がん」と呼びます。リンパ節転移があるかどうかとは別に、胃壁への深さによって定義される言葉です。

そのため「早期胃がん=必ず内視鏡で治療できる」「早期胃がん=必ずステージ1」という意味ではありません。

内視鏡治療を行えるかどうかは、がんの深さだけでなく、大きさ、組織型、潰瘍の有無などからリンパ節転移の可能性を評価して判断します。内視鏡治療では十分な根治性が得られないと考えられる場合には、早期胃がんでも胃切除とリンパ節郭清を検討します。

反対に、がんが固有筋層より深く入り込んだものは「進行胃がん」と呼ばれます。ここでいう「進行胃がん」も、そのままステージ4を意味する言葉ではありません。遠隔転移がなく、手術によって根治を目指せる進行胃がんもあります。

胃がんでは「深さ・リンパ節・遠隔転移」を分けて考える

胃がんの治療を理解するときは、「早期か進行か」だけでは十分ではありません。

がんが胃壁のどこまで深く広がっているか、周囲のリンパ節へ転移しているか、肝臓・肺・腹膜など離れた場所へ転移しているかを調べ、その組み合わせからステージを判断します。

たとえば、胃壁の比較的浅い部分にある病変でも、リンパ節転移の可能性が高ければ内視鏡治療だけでは不十分です。一方、胃壁の深い層へ進んでいても遠隔転移がなければ、胃切除とリンパ節郭清、さらに薬物療法を組み合わせて根治を目指すことがあります。

この違いが、胃がんで「胃カメラだけで取れる人」「胃を切除する人」「薬物療法を中心に行う人」が分かれる理由です。

胃がんの多くは腺がん

胃がんの大部分は、胃の粘膜にある腺組織から発生する腺がんです。

病理検査では、がん細胞の形や腺管のつくり方などから分化型・未分化型などに分類します。この組織型は、内視鏡治療が可能か判断するときにも関係します。

また、胃がんの中には、胃の表面に明瞭なしこりをつくらず、胃壁の中を広く浸潤して胃を硬く厚くするスキルス胃がん(4型胃がん)があります。

スキルス胃がんは一般的な胃がんとは広がり方や診断上の難しさが異なり、腹膜播種の評価なども治療方針に大きく関係するため、以下の記事で詳しく解説しています。

胃がんは治療後の「食べること」まで考えて治療を選ぶ

胃がんでは、がんを取り除けるかどうかだけでなく、治療後の生活も治療法を理解するうえで欠かせません。

胃には、食べ物を一時的にため、少しずつ十二指腸へ送り出す働きがあります。胃の一部または全部を切除すると、一度に食べられる量が減り、食後の動悸や冷や汗、腹痛などを伴うダンピング症候群、体重減少、貧血などが問題になることがあります。

そのため手術では「どの範囲まで切ればがんを適切に取り除けるか」と同時に、どの部分の胃を残せるのか、術後にどのような食生活になるのかも確認します。

進行・再発胃がんでも同様です。薬によってがんを小さくすることだけでなく、胃の通り道を保って食事を取れる状態を維持すること、出血や腹水などの症状を抑えることも治療の一部になります。

胃がんステージ4の腹膜播種や食事が通らなくなった場合の治療については、以下の記事で詳しく解説しています。

次の章では、胃がんの発症と強く関係するピロリ菌を中心に、喫煙、食生活、遺伝的背景などの原因・リスクについて解説します。

胃がんの原因とリスク

胃がんは、一つの原因だけで発症する病気ではありません。年齢や生活習慣など複数の要因が関係しますが、日本の胃がんで特に深く関係しているのがヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染です。

国立がん研究センターでは、胃がんの主な発生要因としてピロリ菌感染と喫煙を挙げ、食塩や高塩分食品の摂取も胃がんのリスクを高めるとしています。

ただし、これらは「当てはまれば胃がんになる」「当てはまらなければ胃がんにならない」というものではありません。胃がんになった理由を一つに決めることはできず、生活習慣だけを原因として考える必要もありません。

参考:胃がん 予防・検診|国立がん研究センター がん情報サービス

ピロリ菌は胃の粘膜に長期間炎症を起こす

ピロリ菌は胃の粘膜に感染する細菌です。感染が続くと慢性的な胃炎が起こり、胃粘膜の萎縮などを経て、胃がんが発生しやすい環境につながることがあります。

ピロリ菌に感染している人すべてが胃がんになるわけではありませんが、感染している人では胃がんになる可能性が高くなることが分かっています。

ピロリ菌感染の有無は、血液や呼気、便、胃内視鏡検査時の検体などを使って調べます。どの検査が適しているかは、除菌歴や服用している薬などによっても変わるため、医療機関で判断します。

感染が確認された場合には、抗菌薬などを使った除菌治療を行うことがあります。

ピロリ菌を除菌しても胃がんの可能性がゼロになるわけではない

ピロリ菌を除菌すると、胃がんが発生するリスクを下げられることが分かっています。国立がん研究センターも、ピロリ菌除菌によって胃がんの発生リスクが低下するとしています。

一方、除菌に成功したからといって、その後の胃がんリスクが完全になくなるわけではありません。

ピロリ菌に長期間感染していた人では、除菌した時点ですでに胃粘膜の萎縮などが進んでいる場合があります。そのため、過去にピロリ菌を除菌した人も「もう胃がんにはならない」と考えるのではなく、その後の胃の状態に応じて内視鏡検査などを受けることが必要です。

ピロリ菌検査は「胃がんがあるかどうか」を直接調べる検査ではありません。ピロリ菌が陽性だから胃がんという意味ではなく、陰性だから現在の胃がんを否定できるわけでもありません。

喫煙や塩分の多い食生活も胃がんリスクに関係する

喫煙も胃がんの発生リスクを高める要因です。禁煙は胃がんだけでなく、肺がんをはじめとするさまざまながんや心血管疾患のリスクを下げることにもつながります。

また、食塩や塩分の多い食品を多く取る食生活も、胃がんの発生リスクと関係しています。国立がん研究センターでは、胃がん予防の観点からも高塩分食品の取りすぎを控えることを勧めています。

「これを食べれば胃がんを防げる」という特定の食品があるわけではありません。塩分の取りすぎを避け、野菜や果物を含めたバランスのよい食生活を続けることを考えます。

リスクがある人ほど「症状が出るまで待つ」ことは避ける

ピロリ菌感染歴がある、除菌治療を受けたことがある、喫煙歴があるといった場合でも、自覚症状から胃がんの有無を判断することはできません。

早期胃がんでは症状がないこともあります。反対に、胃もたれやみぞおちの痛みがあっても、原因が胃炎や胃潰瘍であることもあります。

つまり「症状があるかどうか」と「胃がんのリスク」は分けて考える必要があります。症状のない人には一定の年齢から胃がん検診があり、症状がある人には検診ではなく医療機関で原因を調べる検査が必要です。

胃がん検診と症状がある場合の受診

胃がん検診は、胃に症状のない人を対象として、胃がんによる死亡を減らすことを目的に行うものです。

国が推奨する胃がん検診は、原則として50歳以上の男女を対象に2年に1回です。検査方法は、胃部X線検査(バリウム検査)または胃内視鏡検査(胃カメラ)のいずれかです。

項目 国が推奨する胃がん検診
対象 50歳以上の男女
受診間隔 2年に1回
検査方法 胃部X線検査または胃内視鏡検査

なお、胃部X線検査については、当分の間、自治体によって40歳以上を対象に年1回実施することも認められています。自治体によって実施方法が異なる場合があるため、実際の受診条件は住んでいる地域の案内を確認します。

胃部X線検査と胃内視鏡検査はどちらを受ければよい?

国が推奨する胃がん検診では、胃部X線検査または胃内視鏡検査のどちらか一方を選んで受診します。「両方を受けた方が確実」という考え方ではなく、受診できる検査、体の状態、検査への希望などを踏まえて選びます。

胃部X線検査では、発泡剤で胃を膨らませ、バリウムを飲んでX線撮影を行い、胃の形や粘膜の変化から異常を探します。内視鏡を挿入する必要がない一方、検査中には体の向きを何度も変える必要があり、バリウムによる便秘などが起こることもあります。

胃内視鏡検査では、口または鼻から内視鏡を挿入し、胃の粘膜を直接観察します。検査中に胃がんが疑われる病変が見つかった場合には、その部分から組織を採取して病理検査につなげられることが特徴です。

どちらを選ぶか迷う場合は「胃カメラの挿入への抵抗が強い」「バリウム検査を受けにくい身体的な事情がある」など、自分が受けにくい検査がないかも含めて、検診を実施する医療機関に相談するとよいでしょう。

なお、胃部X線検査と胃内視鏡検査を毎年交互に受ければ胃がんをより確実に防げる、というものではありません。国立がん研究センターは、偽陽性や検査に伴う偶発症などの不利益を増やす可能性があるため、2つの検査を毎年交互に受けることは推奨していません。

参考:胃がん検診について|国立がん研究センター がん情報サービス

「要精密検査」は胃がんが確定したという意味ではない

胃がん検診で「要精密検査」と判定されても、その時点で胃がんと診断されたわけではありません。

胃部X線検査などで詳しく調べる必要のある変化が見つかったという意味です。精密検査では主に胃内視鏡検査を行い、必要に応じて組織を採取して胃がんかどうかを確認します。

反対に、検診を受けて異常なしだった場合も、その後に症状が出たのに「次の検診まで待てばよい」と考えるものではありません。

胃の症状がある場合は、胃がん検診を待たずに受診する

胃がん検診は、症状のない人を対象とした検査です。

みぞおちの痛みや不快感、胃もたれ、食欲低下など気になる症状がある場合には、「50歳になっていないから」「今年は検診の年ではないから」と待たず、医療機関を受診します。国立がん研究センターも、気になる症状がある場合には胃がん検診を待たずに医療機関を受診するよう案内しています。

食事が通りにくい、繰り返し嘔吐する、黒い便が出る、理由のはっきりしない体重減少があるといった変化も、検診ではなく診療として原因を調べる必要があります。

年齢や症状によっては胃がん以外の病気が原因であることも多いため、「症状がある=胃がん」と考える必要はありません。症状の原因を胃内視鏡検査などで確かめることが目的です。

ピロリ菌検査やABC検査は胃がん検診そのものではない

血液検査でピロリ菌抗体やペプシノゲンを調べ「胃がんリスク検査」「ABC検査」などとして行われている検査があります。これらは胃がんになりやすい背景を評価するために利用されることがありますが、胃に現在がんがあるかを直接見つける検査ではありません。

国立がん研究センターでは、ペプシノゲン検査、ピロリ菌抗体検査、両者を組み合わせたABC検査について、胃がん死亡を減らす科学的根拠が現時点では十分ではないとして、国が行う対策型胃がん検診としては推奨していません。

したがって「ABC検査が低リスクだったから胃カメラは必要ない」「ピロリ菌陰性だったから胃がん検診を受けなくてもよい」と判断するものではありません。

一方、ピロリ菌に感染しているかを知り、必要に応じて除菌治療を受けることは胃がん予防を考えるうえで別の意味があります。胃がんのリスク評価と、胃がんを早期に発見するための検診は分けて考える必要があります。

胃がんの初期症状

胃がんは、早い段階では自覚症状がほとんどないことがあります。検診や、胃炎・胃潰瘍など別の病気を調べるために受けた胃内視鏡検査をきっかけに、症状のない胃がんが見つかることもあります。

一方、胃がんが進行していても症状が目立たない場合があります。そのため「胃が痛くないから胃がんではない」「症状が軽いから早期だろう」と判断することはできません。

反対に、強い胃痛や胃もたれがあっても、原因が胃炎、胃潰瘍、逆流性食道炎などであることもあります。症状だけから胃がんかどうかを見分けることはできないため、気になる変化がある場合は必要に応じて胃内視鏡検査で胃の粘膜を確認します。

胃痛・胃もたれ・胸やけ

胃がんでみられる症状には、みぞおちの痛みや不快感、胃もたれ、胸やけ、吐き気、食欲低下などがあります。ただし、これらは胃がんに特有の症状ではありません。日常的な胃腸の不調でも起こるため「胃もたれがあるから胃がん」と考える必要はありません。

一方で、胃薬を飲みながら長期間様子を見続けることにも注意が必要です。これまでなかった胃の症状が続く、以前とは症状の出方が変わった、食欲低下など別の変化も伴う場合には、原因を確認するために医療機関を受診します。

前章で説明したように、症状がある人は胃がん検診を受ける時期まで待つのではなく、診療として内科や消化器内科などを受診します。

貧血・黒色便

胃がんの表面から出血すると、血液が胃酸などの影響を受けて黒くなり、黒色便として現れることがあります。

出血量が少ない場合には便の変化に気付かず、少しずつ貧血が進むこともあります。すると、以前より疲れやすい、階段で息切れする、動悸がする、立ちくらみがするといった症状がきっかけになる場合があります。

ただし、黒色便や貧血の原因も胃がんだけではありません。胃潰瘍や十二指腸潰瘍など消化管からの出血でも起こるため、原因を調べる必要があります。明らかな黒色便が出た場合や、吐血した場合には、単なる胃もたれとして様子を見ず医療機関へ相談します。

少量で満腹になる・食べ物がつかえる・吐き気・嘔吐

胃がんの場所や広がり方によっては、食べ物の通り道が狭くなることがあります。胃の出口に近い幽門付近が狭くなると、食べ物が十二指腸へ流れにくくなり、少し食べただけでお腹がいっぱいになる、食後の膨満感が強い、吐き気や嘔吐を繰り返すといった症状が現れることがあります。

胃の入り口に近い噴門部や胃食道接合部付近では、食事がつかえる、飲み込みにくいと感じる場合があります。

こうした症状があると食事量が減り、体重低下や体力低下につながることがあります。そのため、単に「食欲が落ちた」と考えるだけでなく、食べたいのに食べ物が通らないのか、少量ですぐ満腹になるのか、吐いてしまうのかを医師へ伝えると、症状の原因を整理しやすくなります。

食欲低下・体重減少

胃がんでは、食欲低下や食事の通りにくさなどによって摂取量が減り、体重が減少することがあります。

ただし、「何kg減ったら胃がん」という基準があるわけではありません。意図的に食事制限や運動をしていないのに体重が落ち続けている場合には、その原因を調べます。

とくに食欲低下、早期満腹感、嘔吐、貧血などを伴っている場合には、体重だけを見るのではなく、胃内視鏡検査などを含めて消化管の状態を確認する意味があります。

腹水や腹部膨満

胃がんが腹膜へ広がる腹膜播種が起こると、腹水がたまってお腹が張る、食事を少し取っただけで苦しくなる、腸の動きや通過が悪くなるといった症状が現れる場合があります。

腹膜播種は胃がんの遠隔転移の一つで、ステージ4に分類されます。ただし、お腹が張る症状だけで腹膜播種と判断することはできません。CT検査や、病状によっては審査腹腔鏡などを用いて確認します。

腹膜播種がある場合の治療については、以下の記事で詳しく解説しています。

スキルス胃がんでは内視鏡で変化を捉えにくいことがある

胃がんの中でもスキルス胃がんは、胃の表面に明瞭なしこりをつくるよりも、胃壁の中を広く浸潤していく特徴があります。そのため、胃の粘膜表面に目立った変化が現れにくく、一般的な胃がんよりも早い段階で診断することが難しい場合があります。

胃壁が硬くなって広がりにくくなると、少し食べただけで満腹になる、食欲が低下する、体重が減少するといった変化がきっかけになることがあります。ただし、これらの症状だけでスキルス胃がんを診断することはできません。

スキルス胃がんの症状や検査、腹膜播種との関係については、以下の記事で詳しく解説しています。

症状から「早期か進行か」を自己判断しない

胃がんでは、早期でも胃の不快感などがみられる人がいる一方、進行していてもほとんど症状がない人がいます。受診するかどうかを「痛みが強いか」「日常生活に耐えられるか」だけで決めるのは適切ではありません。

胃の不調が続く、黒い便が出た、食べ物がつかえる、食事量が明らかに減った、理由の分からない体重減少や貧血があるなど、これまでとは異なる変化があれば、検診を待たず医療機関へ相談します。

胃がんかどうかを確定するには、症状ではなく胃内視鏡検査で病変を確認し、疑わしい部分から組織を採取して行う病理検査が必要です。

胃がんの検査と診断

胃がんが疑われた場合、最初からステージを調べる検査をすべて行うわけではありません。

まず胃内視鏡検査で病変を確認し、疑わしい部分から組織を採取して、胃がんかどうかを病理検査で確定します。胃がんと診断された後にCTなどでリンパ節や他の臓器への広がりを調べ、その結果からステージと治療方針を考えます。国立がん研究センターも、胃がんの検査を「がんかどうかを確定する検査」と「進行度を診断して治療方針を決める検査」に分けて説明しています。

切除不能・進行・再発胃がんでは、ここにHER2、PD-L1、CLDN18.2、MSIなどのバイオマーカー検査が加わり、検査結果によって使用する薬が変わります。

参考:胃がん 検査|国立がん研究センター がん情報サービス

胃内視鏡検査で病変の場所や広がりを確認

胃がんの診断で中心となるのが胃内視鏡検査、いわゆる胃カメラです。

口または鼻から内視鏡を入れて胃の粘膜を直接観察し、病変の場所、形、大きさ、広がりなどを確認します。病変の深さをより詳しく評価する必要がある場合には、超音波内視鏡検査を追加することもあります。

検診で胃部X線検査を受けて「要精密検査」となった場合にも、胃内視鏡検査で実際の胃粘膜を確認します。

ただし、内視鏡で「胃がんらしい病変」が見つかっただけでは、通常は胃がんの確定診断にはなりません。疑わしい部分から組織を採取し、病理検査へ進みます。

胃がんの確定診断には生検・病理検査が必要

胃内視鏡検査で胃がんが疑われた場合には、病変の一部を小さく採取する生検を行います。

採取した組織を顕微鏡で調べ、がん細胞があるかどうかを確認します。胃がんであることが確認された場合には、腺がんなどの組織型や、分化型・未分化型といった性質も評価します。国立がん研究センターでも、生検した組織から「がんがあるか」「どのような種類のがんか」を病理診断するとしています。

この病理結果は「胃がんかどうか」を確定するためだけのものではありません。

早期胃がんでは、病変の深さ、大きさ、組織型、潰瘍の有無などが内視鏡治療の適応を考える材料になります。また、内視鏡治療や手術で病変全体を切除した後には、切除標本を詳しく調べることで、生検だけでは分からなかった実際の浸潤の深さ、脈管侵襲、リンパ節転移などが明らかになることがあります。

そのため、治療前の生検結果と、ESDや手術後の最終病理結果は役割が異なります。

CT検査ではリンパ節や他の臓器への広がりを調べる

胃がんと診断された後は、胃の中だけを見て治療方法を決めることはできません。造影CT検査などを行い、周囲のリンパ節への転移、肝臓や肺などへの遠隔転移、胃に隣接する膵臓や肝臓などへの浸潤がないかを確認します。この結果は、内視鏡治療や手術によって根治を目指せる病状なのか、薬物療法を中心に考える病状なのかを判断する材料になります。

MRIやPETが追加されることもありますが、すべての胃がん患者に一律に行う検査ではありません。国立がん研究センターでは、PETはリンパ節や他臓器への転移、再発の有無が通常のCTだけでははっきりしない場合などに行うことがあるとしています。

腹膜播種が疑われる場合は審査腹腔鏡を行うことがある

胃がんで治療方針を決めるときに特に注意するのが腹膜播種(ふくまくはしゅ)です。腹膜播種とは、胃の表面からこぼれ落ちたがん細胞がお腹の中に広がり、腹膜に転移した状態です。腹膜播種があると遠隔転移のあるステージ4に分類され、通常の根治手術とは治療方針が変わります。

しかし、小さな腹膜播種はCTだけでは確認できないことがあります。

腹膜播種の可能性が高い進行胃がんでは、全身麻酔のもとで腹腔鏡を入れて腹腔内を直接観察する審査腹腔鏡を行うことがあります。腹水や疑わしい病変を採取するほか、腹腔内を生理食塩水で洗浄し、その液にがん細胞が含まれていないかを調べる腹腔洗浄細胞診を行う場合もあります。

日本胃癌学会では、腹膜播種の可能性が比較的高い進行胃がんについて、治療方針を決めるための審査腹腔鏡を推奨してきました。とくに4型胃がんや大型3型胃がんなどでは、画像検査では分からない腹膜播種を確認する意味があります。

つまり審査腹腔鏡は「胃がんを診断するために全員が受ける検査」ではなく、CT上では手術できそうに見えても、腹膜播種の可能性を確認してから治療方針を決めたい場合に検討する検査です。

参考:胃癌治療ガイドライン第7版|日本胃癌学会

切除不能・進行・再発胃がんではバイオマーカー検査が治療選択につながる

胃がんが手術で取り切ることが難しい場合や再発した場合には、病理組織を使って「どの薬が効く可能性があるか」につながるバイオマーカーを調べます。

2026年現在、日本胃癌学会は切除不能進行・再発胃がんについてバイオマーカー検査の手引きを公開しており、国立がん研究センターも一次薬物療法を始める前にHER2、PD-L1、CLDN18.2、MSIを調べ、その結果から薬剤を選択することを示しています。

参考:切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き 第3版|日本胃癌学会

検査 何を調べるか 主な治療との関係
HER2 HER2タンパク質の発現や遺伝子増幅 トラスツズマブなどHER2を標的とする治療の選択に関係する
PD-L1 がん細胞や免疫細胞におけるPD-L1発現をCPSなどで評価 免疫チェックポイント阻害薬を含む治療を選ぶ際の判断材料になる
CLDN18.2 がん細胞にCLDN18.2がどの程度発現しているか HER2陰性・CLDN18.2陽性ではゾルベツキシマブを含む治療の選択に関係する
MSI/MMR DNAの傷を修復する機能に異常があるか MSI-Highなどでは免疫療法の選択を考えるうえで重要な情報になる

これらは単なる「追加検査」ではありません。

たとえばHER2陽性か陰性かによって一次治療の内容が変わり、HER2陰性でもCLDN18.2の発現やPD-L1、MSIなどによって治療候補が変わります。日本胃癌学会は2024年にCLDN18.2陽性・HER2陰性胃がんに対するゾルベツキシマブの一次治療について公式コメントを出しており、HER2陽性胃がんについても2025年にペムブロリズマブ+トラスツズマブ+化学療法の一次治療、2026年にはT-DXdの二次治療について新たなコメントを公表しています。

参考:胃癌治療ガイドライン第7版 < 速報 >|日本胃癌学会

具体的な薬の組み合わせや治療順序については、後の「胃がんの薬物療法」で詳しく解説します。

がん遺伝子パネル検査を検討する場合もある

標準的な治療で確認するHER2やPD-L1などとは別に、がん細胞に起きている多数の遺伝子変化を一度に調べる「がん遺伝子パネル検査」が検討される場合があります。

ただし、進行胃がんと診断された人全員が最初から受ける検査ではありません。まず、現在の胃がん治療に直接結び付くHER2、PD-L1、CLDN18.2、MSIなどの検査結果を確認し、それに基づいて標準的な治療を考えます。

がん遺伝子パネル検査は、標準治療後の選択肢や治験などを検討するときに役立つ可能性がありますが、治療につながる遺伝子変化が必ず見つかるわけではありません。

検査結果は「胃がんかどうか」だけでなく「次に何をするか」まで確認

胃がんの検査結果を説明されたときは「がんでした」「ステージは○です」だけでは治療方針の全体像が分からないことがあります。

内視鏡治療を検討している場合には、病変の深さや組織型からなぜ内視鏡で取り切れると考えるのか。手術を予定している場合には、CTでリンパ節や遠隔転移をどう評価しているのか。進行・再発胃がんで薬物療法を行う場合には、HER2、PD-L1、CLDN18.2、MSIなど、治療選択に必要な検査がそろっているのかを確認します。

検査結果を「異常あり・なし」で終わらせず、その結果によって治療がどう変わるのかまで理解しておくと、その後の治療説明を整理しやすくなります。

次の章では、こうした検査結果をT・N・Mに当てはめ、胃がんのステージ1~4をどのように判断するのかを解説します。

胃がんのステージ分類|TNM分類とは

胃がんのステージは、単に「がんが何cmあるか」で決まるものではありません。

胃壁のどの深さまでがんが入り込んでいるかを示すT、胃の周囲にあるリンパ節への転移を示すN、胃から離れた場所への転移を示すMを組み合わせて、ステージ1~4を判断します。国立がん研究センターでも、胃がんの病期をⅠ期~Ⅳ期として、このTNM分類に基づいて評価しています。

分類 確認すること 治療との関係
T 胃壁のどの深さまでがんが入り込んでいるか 内視鏡治療が可能か、胃切除が必要かなどの判断に関係する
N 領域リンパ節へどの程度転移しているか 手術時のリンパ節郭清や術後治療などに関係する
M 胃から離れた臓器やリンパ節、腹膜などへの転移 根治手術を中心にするか、薬物療法を中心にするかの判断に大きく関係する

T分類|胃壁のどこまでがんが深く入り込んでいるか

胃の壁は内側から、粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜というように層状になっています。

胃がんは胃の内側にある粘膜から発生し、進行すると外側へ向かって入り込んでいきます。この胃壁への浸潤の深さを表すのがT分類です。

T分類 主な深達度
T1 粘膜または粘膜下層まで
T2 固有筋層まで
T3 漿膜下層まで
T4a 胃の表面を覆う漿膜まで達している
T4b 周囲の臓器へ直接入り込んでいる

T1のうち、粘膜にとどまるものをT1a、粘膜下層まで達したものをT1bと分けて考えます。

胃がんでは、T1に相当する粘膜または粘膜下層までの胃がんを「早期胃がん」と呼び、それより深く入り込んだものを「進行胃がん」と呼びます。

ただし、早期胃がんだから内視鏡治療ができるとは限りません。リンパ節転移の可能性を含め、深さ、大きさ、組織型、潰瘍の有無などを評価して治療法を決めます。

N分類|リンパ節転移は「ある・ない」だけではなく個数も評価

胃の周囲には多くのリンパ節があり、胃がんはリンパ管を通ってこれらのリンパ節へ転移することがあります。胃がんのN分類では、手術後の病理診断では転移している領域リンパ節の個数によって、N0、N1、N2、N3などに分類します。

日本胃癌学会の公開されている分類では、N0は領域リンパ節転移なし、N1は1~2個、N2は3~6個、N3aは7~15個、N3bは16個以上の転移として分類されています。

リンパ節転移があるから、ただちに遠隔転移という意味ではありません。胃の周囲にある領域リンパ節への転移であれば、胃切除とリンパ節郭清を行い、根治を目指せる場合があります。

その一方で、転移しているリンパ節が多いほど病期は進み、手術後の再発を抑えるための薬物療法を考える際にも重要な情報になります。

参考:胃癌治療ガイドライン|日本胃癌学会

M分類|胃から離れた場所への転移を確認

M分類では、胃から離れた臓器やリンパ節などへの遠隔転移があるかを確認します。胃がんでは、肝臓、肺、骨などへの転移だけでなく、腹膜へがん細胞が広がる腹膜播種も治療方針を大きく変える所見です。また、日本胃癌学会の分類では、腹腔洗浄細胞診でがん細胞が確認されるCY1もM1として扱われます。

このため、CTで明らかな肝転移や肺転移がなくても、審査腹腔鏡で腹膜播種が見つかったり、腹腔洗浄細胞診が陽性になったりすると、治療方針が変わることがあります。

腹膜播種の診断や治療法については以下の記事でも詳しく解説しています。

胃がんのステージ分類

胃がんのステージはT・N・Mを組み合わせて決まるため、「T2ならステージ2」というように深さだけから決めることはできません。

同じT2でもリンパ節転移の程度によってステージが変わり、同じような大きさの胃がんでも遠隔転移があるかどうかによって治療の目的は大きく異なります。国立がん研究センターでも、胃がんではTNMの組み合わせからⅠ~Ⅳ期を決定しています。

一般的な治療の全体像を理解するためには、次のように捉えると分かりやすくなります。

ステージ 病状の大まかな捉え方 治療を考えるときの中心
ステージ1 比較的浅い胃がんや、リンパ節への広がりが限られている胃がん 条件を満たせば内視鏡治療、それ以外では手術による根治を目指す
ステージ2 胃壁への浸潤やリンパ節転移が進んでいるものの、根治切除を目指せる場合がある 手術を中心に、病状に応じて周術期・術後の薬物療法を組み合わせる
ステージ3 胃壁への深い浸潤や、より広いリンパ節転移を伴うことがある 手術だけでなく、手術前後の薬物療法を含めた治療計画が重要になる
ステージ4 遠隔転移や腹膜播種などを伴う場合を含む、根治切除が難しい病状が中心 薬物療法を中心に、症状や病変に応じて手術・放射線・支持療法などを組み合わせる

なお、胃がんでは治療前の臨床ステージと、手術後の病理ステージで分類方法が異なるため、この表は治療の全体像を理解するための大まかな整理です。実際のステージはT・N・Mを組み合わせて判定します。

胃がんステージ4については、腹膜播種、肝転移、治療目標、薬物療法などを以下の記事で詳しく解説しています。

治療前の「臨床ステージ」と手術後の「病理ステージ」

胃がんでは、同じ患者さんでも治療前と手術後でステージが変わることがあります。

治療前には、胃内視鏡、生検、CT、必要に応じて審査腹腔鏡などの結果から、がんの広がりを推定します。これが臨床分類(cTNM・cStage)です。治療方法を決めるときに使います。

一方、手術を行った場合には、切除した胃やリンパ節を病理検査で詳しく調べます。実際に胃壁のどこまでがんが達していたか、何個のリンパ節に転移していたかが分かり、病理分類(pTNM・pStage)が決まります。

たとえば手術前のCTではリンパ節転移がないと考えられていても、手術後の病理検査で小さなリンパ節転移が見つかれば、病理ステージが変わることがあります。

この病理ステージは、手術後に再発を抑えるための薬物療法が必要かどうかを判断する材料にもなります。

「早期胃がん」と「ステージ1」は同じ意味ではない

ここは胃がんを理解するときに混同しやすいところです。

「早期胃がん」は、胃壁への深さで定義する言葉です。粘膜または粘膜下層までにとどまるT1を早期胃がんと呼びます。

一方「ステージ」は深さだけでなくリンパ節転移や遠隔転移まで含めて判断します。

そのため「粘膜内にある=ステージ0」という考え方にはなりません。また、「早期胃がんだから必ずステージ1」「早期胃がんだから必ずESD」という意味でもありません。

胃がんの治療を理解するときは、「早期か進行か」では胃壁への深さを確認し、「ステージ」では深さ・リンパ節・遠隔転移を組み合わせて確認する、と分けて考えると整理しやすくなります。

胃がんの内視鏡治療

早期胃がんの中には、開腹手術や腹腔鏡手術で胃を切除せず、胃カメラを使って病変を取り除けるものがあります。

代表的な方法が、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)内視鏡的粘膜切除術(EMR)です。

ただし、「早期胃がんだから内視鏡で取れる」というわけではありません。内視鏡治療では胃の周囲にあるリンパ節を一緒に切除できないため、リンパ節転移の可能性が極めて低く、内視鏡で病変を適切に切除できると判断される胃がんが主な対象になります。

そのため治療前には、がんが胃壁のどの深さまで入り込んでいるか、病変の大きさ、組織型、潰瘍の有無などを確認します。国立がん研究センターでも、こうした条件からリンパ節転移の可能性を評価し、内視鏡治療の適応を判断しています。

ESDとEMRはどのように違うのか

EMRは、病変の下に薬液を注入して浮かせ、スネアと呼ばれる輪状のワイヤーをかけて切除する方法です。比較的小さな病変に用いられます。

一方、ESDでは病変の周囲を切開し、専用の高周波ナイフを使って粘膜下層を剥がしながら病変を切除します。EMRよりも技術的には複雑ですが、より大きな病変でも一つの塊として切除しやすいことが特徴です。国立がん研究センターでは、EMRは主に2cm以下で潰瘍のない病変、ESDはより大きな病変や条件によって潰瘍を伴う病変にも行われると説明しています。

胃がんでは、治療後に切除した病変全体を病理検査で詳しく調べる必要があります。そのため、病変を分割せず一括して切除できることには、治療だけでなく、その後の根治性を正確に評価するという意味もあります。

参考:内視鏡治療|国立がん研究センター がん情報サービス

内視鏡治療ができるかは「がんの深さ」だけでは決まらない

内視鏡治療の主な対象となるのは、胃の粘膜にとどまる早期胃がんのうち、リンパ節転移の可能性が極めて低いと考えられる病変です。

しかし、同じ粘膜内がんでもすべてがESDの対象になるわけではありません。

胃がんでは、分化型か未分化型か、病変がどの程度の大きさか、潰瘍を伴っているかによってリンパ節転移の可能性が変わります。そのため、内視鏡治療の適応はこれらを組み合わせて判断します。日本胃癌学会のガイドラインでも、深達度、組織型、腫瘍径、潰瘍所見などをもとに内視鏡的切除の適応を定めています。

「胃カメラで見える範囲なら取れる」という意味ではありません。胃の表面に見えている病変を切除できても、リンパ節へ転移している可能性が無視できなければ、胃とリンパ節を切除する手術の方が根治性を確保しやすくなります。

ESD後は「全部取れたか」だけでなくeCuraを判定

ESDを受けた後には、切除した組織を病理検査で詳しく調べます。

ここで確認するのは、目に見える胃がんを取り切れたかどうかだけではありません。実際のがんの深さ、病変の大きさ、組織型、切除した端にがんが残っていないか、リンパ管や血管の中にがん細胞が入り込んでいないかなどを確認します。

これらの結果から判定するのが、内視鏡的根治度(eCura)です。

日本胃癌学会では、ESD・EMR後の根治性を大きくeCuraA、eCuraB、eCuraCに分類し、その結果によって経過観察でよいのか、追加治療を検討するのかを決めています。

判定 大まかな意味 その後の考え方
eCuraA 内視鏡治療によって十分な根治性が得られたと判断される 定期的な胃内視鏡検査で経過をみる
eCuraB 粘膜下層へわずかに浸潤していても、一定の条件からリンパ節転移の危険性が低いと判断される 内視鏡検査に加え、画像検査なども含めて経過をみる
eCuraC eCuraA・Bの条件を満たさず、局所にがんが残っている可能性やリンパ節転移の可能性を考える必要がある C-1とC-2の内容に応じて再ESDや追加手術などを検討する

このため、ESD後に医師から「がんは取れました」と説明された場合でも、病理結果が出た後にeCuraがどの判定だったのかまで確認することが、その後の治療を理解するうえで役立ちます。

参考:胃癌治療ガイドライン|日本胃癌学会

eCuraCになったら必ず同じ対応をするわけではない

eCuraCは、さらにeCuraC-1eCuraC-2に分けて考えます。

eCuraC-1は、主に病変を分割して切除した場合や、病変の横方向の切除断端にがんが残っている場合など、局所に病変が残る可能性が問題となるものです。この場合には、病変の状態によって再度ESDを行う、追加の外科切除を行う、慎重に経過観察するなど複数の対応が検討されます。

一方、eCuraC-2では、がんが想定より深く入り込んでいた、リンパ管や血管への侵襲が確認されたなど、リンパ節転移の可能性を無視できない条件が含まれます。この場合、胃の中の病変をESDで取り切れていたとしても、ESDではリンパ節を切除できていません。そのため、日本胃癌学会の公開ガイドラインでは、eCuraC-2に対して胃切除とリンパ節郭清を行う追加外科切除を原則的な標準治療としています。

つまり、追加手術を勧められたからといって「ESDに失敗した」という意味ではありません。ESDで切除した病変を詳しく調べた結果、胃の外にあるリンパ節にも治療が必要な可能性が分かったために、治療方針が変わったと考える方が実際の流れに近くなります。

追加手術を行うかは病理結果と手術の負担を合わせて考える

eCuraC-2では追加の胃切除が標準ですが、実際の治療では年齢、心臓や肺などの持病、体力、胃切除によって予想される生活への影響なども確認します。

高齢で重い併存症があるなど、胃切除そのものの危険性が高い場合には、リンパ節転移の可能性と手術による利益・負担について説明を受けたうえで、その後の方針を検討することがあります。日本胃癌学会も、外科切除を選択しない場合にはリンパ節転移や再発の危険性を十分説明したうえで判断する必要があるとしています。

したがって、ESD後に追加手術を提案された場合には「なぜ追加手術が必要なのか」だけでなく、深達度、脈管侵襲、断端など、どの病理結果がeCuraの判定に影響したのかを確認すると判断しやすくなります。

ESDで根治できても、その後の胃がんリスクはなくならない

eCuraAやeCuraBと判定され、最初の胃がんについて十分な根治性が得られた場合でも、その後の胃に新しい胃がんができる可能性は残ります。そのため、治療後も定期的な胃内視鏡検査を続けます。

日本胃癌学会の公開ガイドラインでは、eCuraAでは年1回程度の内視鏡検査、eCuraBでは年1~2回程度の内視鏡検査に加え、腹部超音波やCTなどを用いた経過観察を示しています。また、ピロリ菌感染が確認された場合には除菌を推奨しています。

ただし、ピロリ菌を除菌しても新しい胃がんの可能性が完全になくなるわけではありません。ESDで胃を残せることは大きな利点ですが、その分、残った胃を長期的に観察していく必要があります。

内視鏡治療にも出血や穿孔などの合併症がある

ESD・EMRは胃を切除する手術より体への負担を抑えられる治療ですが、合併症がないわけではありません。

代表的なのは、治療した部分からの出血と、胃壁に穴が開く穿孔です。国立がん研究センターも、内視鏡治療後の出血・穿孔によって吐血、下血、腹痛などが起こる場合があるとしています。

入院中だけでなく退院後に出血する場合もあるため、退院後に黒い便が続く、吐血する、強い腹痛があるなど、医療機関から説明された症状が現れた場合には連絡します。

内視鏡治療と手術の違いは「胃を残せるか」だけではない

ESDには胃を切除せずに治療できるという大きな利点があります。治療後の食事量や栄養への影響も、胃切除と比べて小さく抑えられます。

一方、ESDで治療できるのは、リンパ節転移の可能性が極めて低いと判断できる胃がんです。

リンパ節転移の可能性がある胃がんでは「胃を残せるからESDの方が体に優しい」という理由だけで治療を選ぶことはできません。胃切除には胃を失う負担がありますが、胃とともにリンパ節を切除し、がんを取り除くことを目的とする治療だからです。

胃がんの手術

胃がんが内視鏡治療では十分に治療できず、遠隔転移がなく手術によってがんを取り切れると判断された場合には、胃切除を中心とした外科治療を行います。

胃がんの手術は、見えている腫瘍だけを切り取る治療ではありません。がんのある胃を適切な範囲で切除するとともに、転移している可能性のある胃周囲のリンパ節を取り除き、その後に食べ物が通るよう消化管をつなぎ直します。

胃がんの手術を理解するときには「胃をどこまで切るか」「リンパ節をどこまで取るか」「切った後をどのようにつなぐか」の3点を分けて考えると分かりやすくなります。国立がん研究センターでも、胃切除、リンパ節郭清、消化管再建を胃がん手術の基本的な構成として説明しています。

胃をどこまで切るかは、がんの場所と広がりで決まる

胃を少しでも多く残せれば、術後の食事への影響を小さくできる可能性があります。しかし「胃を残すこと」だけを優先して、がんを十分な範囲で切除できなければ根治性が損なわれます。

胃切除の範囲は、がんが胃のどこにあるか、どの程度広がっているか、必要な切除断端を確保できるかなどから決めます。

代表的な術式には、幽門側胃(ゆうもんそくい)切除術胃全摘術噴門側胃(ふんもんそくい)切除術幽門保存胃切除術などがあります。国立がん研究センターも、がんの部位と進行度によって胃の切除範囲を決めるとしています。

主な術式 どのような手術か 術後に意識したいこと
幽門側胃切除術 主に胃の中央~出口側にあるがんに対し、胃の出口側を切除する 胃は一部残るが、食事量の低下やダンピングなどが起こることがある
胃全摘術 胃をすべて切除し、食道と小腸などをつなぐ 一度に食べられる量が大きく減り、体重減少やビタミンB12欠乏などへの長期的な対応が必要になる
噴門側胃切除術 主に胃の入口側にある早期胃がんなどで、胃の上部を切除して下部を残す 胃を残せる一方、再建法によっては逆流などが問題になることがある
幽門保存胃切除術 条件を満たす胃体部の早期胃がんで、胃の出口である幽門を残す 食べ物を十二指腸へ送り出す機能をできるだけ保つことを目指す

幽門側胃切除では胃の出口側を切除

幽門側胃切除術は、胃がん手術でよく行われる術式の一つです。胃の中央から出口側にあるがんなどに対して、がんを含む胃の下側を切除し、残った胃と十二指腸または小腸をつなぎます。

胃の一部が残るため、胃全摘と比べれば食べ物を一時的にためる機能を残せます。ただし、胃の容量は小さくなり、幽門を切除するため、食べ物が小腸へ速く流れ込むことがあります。その結果、食後に動悸、冷や汗、腹痛などが起こるダンピング症候群や、食事量低下、体重減少などがみられることがあります。

したがって「胃が残ったから食事は以前と同じ」と考えるのではなく、残った胃の大きさや再建方法に合わせて、少量ずつ食べる生活へ慣れていく必要があります。

胃全摘は「胃を全部取る必要がある病状」で選択

胃全摘術では胃をすべて切除します。胃の上部を含めて広い範囲にがんがある場合や、部分的な切除では必要な切除範囲を確保できない場合などに行います。

胃を残せないことは生活への負担につながりますが「全摘より部分切除の方がよい」と一律には考えられません。がんを十分な範囲で切除するために全摘が必要な病状であれば、胃を無理に残すことで再発の危険を高めることは避ける必要があります。

胃全摘後は食べ物をためる胃がなくなるため、食道と小腸をつないで新しい通り道を作ります。一般的にはRoux-en-Y法(ルーワイまたはルーエンワイ法)などによる再建が行われます。

術後は一度に食べられる量が減り、体重が落ちやすくなります。また、胃から分泌される内因子がなくなるため、時間がたつとビタミンB12欠乏が起こります。ビタミンB12は体内に一定量蓄えられているため、欠乏による貧血は手術直後ではなく数年後に現れることもあります。国立がん研究センターでも、胃全摘後はB12の吸収に必要な内因子がなくなるため、定期的な血液検査と必要に応じた補充治療が必要になると説明しています。

参考:胃がん 療養|国立がん研究センター がん情報サービス

胃上部の早期胃がんでは噴門側胃切除を検討

胃の入口である噴門に近い上部に早期胃がんがある場合、胃全摘ではなく、胃の上部だけを切除して下部を残す噴門側胃切除術を検討できることがあります。

胃を一部残せるため、胃全摘と比べて栄養や体重への影響を抑えられる可能性があります。

ただし、食道と胃の境界には胃内容物が逆流しにくくする仕組みがあります。この部分を切除するため、再建方法によっては逆流性食道炎が問題になることがあります。

噴門側胃切除後には、食道と残胃を直接つなぐ方法のほか、小腸を介してつなぐ方法など複数の再建方法があります。どの方法を採用するかは、残せる胃の範囲や施設の方針などによって異なります。

早期胃がんでは胃の機能を残す手術を選べることもある

内視鏡治療の対象にはならないものの、胃がんが早期で場所などの条件を満たす場合には、胃の機能をできるだけ残す手術を検討することがあります。代表的なのが幽門保存胃切除術です。

通常の幽門側胃切除では胃の出口である幽門を切除しますが、幽門保存胃切除では幽門を残すことで、食べ物が小腸へ急速に流れ込むことを抑え、術後の生活への影響を小さくすることを目指します。

ただし、胃を残せることだけで手術方法を選ぶわけではありません。がんの位置やリンパ節転移の可能性などから、必要な根治性を確保できる患者さんが対象です。

胃と一緒にリンパ節を切除する「リンパ節郭清」

胃がんの手術がESDと大きく異なるのは、胃だけでなく、転移している可能性のある周囲のリンパ節を取り除けることです。

胃の周囲にはリンパ管とリンパ節が多数あり、胃がんは胃壁からリンパ管へ入り、周囲のリンパ節へ広がることがあります。画像検査でリンパ節転移が見えなくても、小さな転移が存在する可能性があります。そのため胃切除と同時に、病状に応じた範囲のリンパ節郭清を行います。

国立がん研究センターでは、胃のすぐ近くから少し離れた領域までのリンパ節を切除するD2リンパ節郭清が標準的に行われ、早期胃がんでリンパ節転移の可能性が低い場合にはD1またはD1+など、範囲を縮小した郭清を行うと説明しています。

リンパ節郭清には、すでに存在する小さな転移を取り除く意味だけでなく、切除したリンパ節を病理検査して、実際に何個のリンパ節へ転移していたのかを確認する役割もあります。この結果によって手術後の病理ステージが決まり、術後補助化学療法が必要かどうかの判断にもつながります。

参考:胃がん手術(外科治療)|国立がん研究センター がん情報サービス

胃を切った後は「再建」で食べ物の通り道を作り直す

胃を切除した後は、そのままでは食べ物が腸まで届かないため、残った胃、食道、十二指腸、小腸などをつなぎ直します。これを消化管再建と呼びます。

幽門側胃切除後では、残胃と十二指腸をつなぐBillroth I法(ビルロート1法)、残胃と小腸をつなぐBillroth II法やRoux-en-Y法などがあります。

胃全摘後では、食道と小腸をつなぐRoux-en-Y法などが用いられます。噴門側胃切除後にも複数の再建方法があります。日本胃癌学会のガイドラインでも、胃の切除範囲に応じて複数の再建法が示されています。

患者さんにとっては再建法の名前だけを覚える必要はありませんが「手術後に食べ物がどの経路を通るようになるのか」を説明してもらうと、食後の症状や生活の変化を理解しやすくなります。

開腹・腹腔鏡・ロボット支援手術の選び方

胃がんの手術には、お腹を大きく切開する開腹手術のほか、小さな穴からカメラや手術器具を入れて行う腹腔鏡下手術、手術支援ロボットを使う方法があります。腹腔鏡下手術やロボット支援手術では創が小さくなるなどの利点がありますが、すべての胃がんで同じように選べるわけではありません。

国立がん研究センターは2026年現在、腹腔鏡下手術やロボット支援手術を推奨できるかは胃がんの進行度などによって異なり、十分な経験を持つ医師や施設で行う必要があるとしています。

したがって「ロボットだから最先端で治りやすい」「腹腔鏡だから必ず体に優しい」という理由だけで術式を決めるものではありません。自分のステージや必要な切除・リンパ節郭清を安全に行える方法の中から、術者や施設の経験も含めて選択します。

胃がん手術の合併症

胃がん手術では、切除した消化管をつないだ部分から内容物が漏れる縫合不全や、手術操作によって膵臓から膵液が漏れる膵液漏などが起こることがあります。国立がん研究センターも、これらを胃がん手術の代表的な合併症として挙げています。

縫合不全が起こると、発熱や腹痛が現れ、重い場合には腹膜炎を起こすことがあります。膵液漏でも腹腔内の感染や膿瘍につながる場合があります。

手術を受けるかどうかを判断するときには、年齢だけではなく、心臓・肺・腎臓などの機能、栄養状態、歩行などの体力も含めて手術に耐えられるかを評価します。

特に高齢者では「高齢だから手術できない」「高齢でも必ず手術した方がよい」と年齢だけで決めるのではなく、手術によって得られる利益と、術後に生活機能がどの程度低下する可能性があるかを合わせて検討します。

胃切除後は食べ方そのものを変える必要がある

胃切除後の生活で大きく変わるのが食事です。胃の一部または全部を切除すると、以前と同じ量を一度に食べることが難しくなります。最初から元の食事量に戻そうとすると、腹痛や膨満感、ダンピング症候群などにつながることがあります。

国立がん研究センターでは、胃切除後の食事について「少量ずつ」「何回かに分けて」「よくかんで」「ゆっくり食べる」ことを基本とし、新しい胃腸の状態に慣れるまで数カ月~1年ほどかかることもあるとしています。

体重も手術前とまったく同じ状態に戻るとは限りません。重要なのは、体重の数字だけを見るのではなく、食事量が少しずつ増えているか、歩けるか、仕事や家事を続けられる体力があるか、貧血や栄養不足が起きていないかを確認することです。

胃全摘後ではビタミンB12、胃全摘や幽門側胃切除後では鉄欠乏性貧血などにも注意し、定期的な血液検査を受けます。

ダンピング症候群、体重減少、貧血、食事の取り方などについては、後の「胃がん治療後の副作用と生活」の章で詳しく解説します。

手術を受けたら治療がすべて終わるとは限らない

胃がんを手術で目に見える範囲すべて切除できても、それだけで再発の可能性がなくなるわけではありません。

手術後には、切除した胃とリンパ節を病理検査し、実際の深達度、リンパ節転移の数などから病理ステージを決めます。その結果、再発する可能性が一定以上あると判断された場合には、画像には映らない微小ながん細胞を抑える目的で「術後補助化学療法」を行います。

さらに2026年現在は、切除可能な局所進行胃がんについて、手術後だけに薬物療法を行う方法だけでなく、手術前から治療を始め、手術後も続ける「周術期治療」が選択肢になる病状もあります。

手術の説明を受けるときには「どこまで胃を切るのか」だけでなく、手術前に薬物療法を行う可能性があるのか、手術後にはどのような治療を予定しているのかまで確認しておく必要があります。

切除可能胃がんの薬物療法

胃がんでは、手術で目に見えるがんをすべて切除できても、検査では確認できないほど小さながん細胞が体内に残り、後になって再発することがあります。そこで、再発する可能性が一定以上ある胃がんでは、手術だけで治療を終えるのではなく、薬物療法を組み合わせます。

日本ではこれまで、根治切除を行った後に病理結果を確認し、ステージ2・3であれば術後補助化学療法を行う治療が中心でした。2026年にはこれに加えて、根治切除可能な局所進行胃がんの一部で、手術前から薬物療法を開始し、手術後も続ける「周術期治療」が新たな選択肢になっています。

そのため現在の切除可能胃がんでは「手術できるかどうか」だけでなく、最初に手術するのか、手術前から薬物療法を始めるのかまで治療開始前に検討する病状があります。

手術後の病理ステージ2・3では術後補助化学療法を行う

手術を先に行った場合には、切除した胃とリンパ節を病理検査で詳しく調べます。

画像検査では分からなかった実際のがんの深さやリンパ節転移の数が明らかになり、病理ステージが決まります。その結果、病理ステージ2または3と判断された場合には、手術後の再発を減らす目的で術後補助化学療法を行うことが推奨されています。

これは、手術でがんを取り切れなかったという意味ではありません。

手術では肉眼や画像で確認できる病変を切除できても、ごく少数のがん細胞が血液やリンパ液を介して体内に残っている可能性までは否定できません。術後補助化学療法は、そうした目に見えない微小ながん細胞による再発を減らすための治療です。日本胃癌学会も、術後補助化学療法を治癒切除後の微小遺残腫瘍による再発予防を目的とした治療と位置づけています。

ステージ2ではS-1、ステージ3では併用療法を含めて検討

術後補助化学療法は、すべての患者さんに同じ薬を使用するわけではありません。

これまで日本では、病理ステージ2胃がんに対するS-1(エスワン)の1年間投与が標準的な治療として確立してきました。S-1は飲み薬の抗がん薬で、胃切除後の再発を減らす目的で使用します。

病理ステージ3では再発リスクがより高いため、S-1単独だけではなく、複数の抗がん薬を組み合わせる治療が重視されます。代表的な選択肢には、S-1+ドセタキセル療法や、カペシタビンとオキサリプラチンを組み合わせるCapeOX療法などがあります。日本胃癌学会では、pStage3について併用療法を推奨し、S-1+ドセタキセルとCapeOXなどのオキサリプラチン併用療法の間で、どちらが一律に優れているとは結論できないとしています。

そのため、ステージだけで薬を機械的に決めるのではなく、手術後の回復状態、年齢、腎機能、食事量、体重、持病なども含めて治療を選びます。

胃切除後は、それまでと同じ量の食事を取れず、体重が減少する患者さんも少なくありません。術後補助化学療法は再発を減らすための治療ですが、薬を予定どおり開始・継続できるだけの栄養状態や体力があるかも治療計画に関係します。

術後補助化学療法は「強い治療ほどよい」わけではない

ステージ3で併用療法が選択肢になるからといって、すべての患者さんができるだけ多くの薬を使った方がよいわけではありません。

S-1では食欲低下、下痢、口内炎、骨髄抑制などがみられることがあり、ドセタキセルでは白血球減少や脱毛など、オキサリプラチンでは手足のしびれや冷たいものに触れたときの違和感などが問題になることがあります。

とくに胃切除直後は、がんになる前とは食事量や体重が変化しています。そのため、再発予防として期待できる利益と、治療によって食事や体力の回復を妨げる可能性の両方を見ながら、薬剤や投与量を調整します。

国立がん研究センターでも、術後の体の状態や進行度に応じて単剤または併用療法を選び、単剤では1年間、併用療法では薬剤に応じて6カ月または1年間の治療を行うと説明しています。

2026年からは手術前後に治療する「周術期D-FLOT療法」が選択肢に

2026年、切除可能胃がんの治療に大きな変化がありました。

日本胃癌学会は2026年6月、MATTERHORN試験の結果を受けて、根治切除可能な胃癌・胃食道接合部腺癌に対する周術期デュルバルマブ+FLOT療法(D-FLOT)と、その後のデュルバルマブ単剤療法を推奨する速報コメントを公表しました。

参考:MATTERHORN 試験の概要ならびに根治切除可能な胃癌および胃食道接合部腺癌に対する周術期 デュルバルマブ+フルオロウラシル、レボホリナート、オキサリプラチン、ドセタキセル(FLOT)療法に関する日本胃癌学会ガイドライン委員会のコメント

FLOTは、フルオロウラシル、レボホリナート、オキサリプラチン、ドセタキセルを組み合わせる化学療法です。ここへ、PD-L1を標的とする免疫チェックポイント阻害薬のデュルバルマブを加えます。

MATTERHORN試験では、根治切除可能な胃癌・胃食道接合部腺癌のうち、AJCC第8版で臨床病期2~4A、全身状態が良好で周術期FLOTと根治手術が可能と判断された患者が対象になりました。なお、MATTERHORN試験でいう「臨床病期4A」はAJCC第8版による分類であり、腹膜播種や他臓器への遠隔転移を伴うM1症例とは異なります。この試験では遠隔転移のある患者は対象になっていません。

周術期治療では「手術の前と後」の両方で薬物療法を行う

D-FLOT療法では、まず手術前にデュルバルマブとFLOTによる治療を行います。その後に根治手術を行い、手術後にもデュルバルマブとFLOTを投与し、さらにデュルバルマブ単剤による治療を続けます。

PMDAの2026年7月時点の添付文書では、胃癌の術前・術後補助療法として、デュルバルマブをFLOTの4剤と併用して術前・術後に投与し、その後デュルバルマブ単剤を追加する用法が規定されています。

この治療の考え方は、従来の「まず手術を行い、病理結果を見てから抗がん薬を始める」という流れとは異なります。

手術前から全身治療を行うことで、画像に映らない微小ながん細胞へ早い段階から治療を開始できるほか、原発巣やリンパ節のがんを縮小させてから手術へ進める可能性があります。

一方で、治療開始時点ではまだ手術後の病理結果が分かりません。そのため、画像による臨床ステージをもとに治療を選ぶことになり、実際の病理ステージより治療を強く行う可能性や、反対に画像では確認できない腹膜転移などを見落とす可能性も考慮します。日本胃癌学会も、周術期治療を選択する際には術前画像診断の限界と、過剰治療・過小治療の可能性に留意するよう指摘しています。

MATTERHORN試験では再発・進行などのイベントと全生存期間の両方が改善した

MATTERHORN試験では、FLOTだけを行った場合と比べて、デュルバルマブを加えたD-FLOT療法で、再発・進行・死亡などを含むイベントが起こるまでの期間であるEFSが改善しました。

2年EFSはD-FLOT群67.4%、FLOT群58.5%で、病理学的完全奏効(pCR)も19.2%対7.2%とD-FLOT群で高くなりました。その後の最終解析では全生存期間についても改善が確認され、3年全生存率はD-FLOT群68.6%、FLOT群61.9%でした。

ただし、この数字を「D-FLOTを受ければ自分の3年生存率は68.6%」と個人の予後へそのまま当てはめることはできません。試験参加者全体の比較結果であり、実際の予後は臨床病期、病理結果、年齢、全身状態などによって異なります。

D-FLOTは切除できる胃がん全員に行う治療ではない

周術期D-FLOTが承認されたからといって、手術できる胃がん患者さん全員がこの治療を受けるわけではありません。

日本胃癌学会は、臨床病期だけでなく、全身状態、年齢、併存疾患、FLOTに耐えられるか、手術前後の治療を完遂できるかなどを総合して適応を判断する必要があるとしています。

とくにFLOTは4種類の抗がん薬を組み合わせる治療です。MATTERHORN試験の日本人サブグループでは、重度の好中球減少などの骨髄抑制が全体集団より多くみられました。ただし、日本人解析は86例という比較的小さな集団であり、その数字の解釈には注意が必要です。

デュルバルマブを使用するため、通常の抗がん薬による副作用に加えて、肺、腸、肝臓、甲状腺などに炎症が起こる免疫関連有害事象にも注意します。PMDAの添付文書では、間質性肺疾患、大腸炎・下痢、肝機能障害、内分泌障害などについて、重症度に応じた休薬・中止が定められています。

「手術先行」と「周術期治療」のどちらを選ぶか

2026年現在、根治切除可能な局所進行胃がんでは、周術期D-FLOTが加わったことで、治療開始前に検討する内容が増えています。

治療の流れ 特徴
手術先行→術後補助化学療法 まず根治手術を行い、切除標本から正確な病理ステージを確認したうえで、ステージ2・3などに術後補助化学療法を行う
周術期D-FLOT 臨床的に根治切除可能な局所進行胃がんに対し、手術前からD-FLOTを開始し、手術後も治療を継続する

どちらかがすべての患者さんに優れているという単純な関係ではありません。

日本胃癌学会は、周術期D-FLOTを新たな標準治療の一つになり得る治療として推奨する一方、従来から日本で行われてきた手術先行後、病理ステージに応じて術後補助化学療法を行う治療戦略とのバランスを考えて選択する必要があるとしています。

治療開始前には、現在の臨床ステージはどの程度か、腹膜播種を疑う所見はないか、手術前から治療する利点はどの程度あるか、FLOTを受けられる体力・臓器機能があるかなどを確認します。

スキルス胃がんでは「術前治療をすれば必ずよい」とは限らない

スキルス胃がんや4型胃がんでは腹膜播種が画像で見つかりにくいことがあるため、治療開始前の病期評価が特に重要です。

前の検査章で説明したように、CT上では遠隔転移がないように見えても、審査腹腔鏡によって腹膜播種や腹腔洗浄細胞診陽性が判明することがあります。

また「局所進行胃がんに周術期治療が導入された」という情報だけから、すべてのスキルス胃がんに同じ術前治療が適していると考えることもできません。病型、腹膜播種の有無、切除可能性などを確認して治療を考えます。

切除可能胃がんでは「手術だけ」の説明で終わらないことが増えている

胃がんの治療説明を受けるときは「どの範囲まで胃を切るのか」だけでなく、その手術が治療全体のどこに位置するのかまで確認すると理解しやすくなります。

手術を先に行う場合には、手術後の病理結果によって術後補助化学療法が必要になる可能性があります。一方、臨床的に局所進行胃がんと判断された場合には、手術前からD-FLOTを行う周術期治療が候補になることがあります。

そのため治療開始前に「なぜ手術を先に行うのか、あるいはなぜ手術前から薬物療法を行うのか」を確認することが、現在の胃がん治療を理解するうえで役立ちます。

切除不能・進行・再発胃がんの薬物療法

遠隔転移や腹膜播種があり手術で取り切ることが難しい胃がんや、手術後に再発した胃がんでは、全身に作用する薬物療法が治療の中心になります。

現在は、すべての患者さんに同じ抗がん薬を使うのではありません。治療を始める前にHER2、PD-L1、CLDN18.2、MSI/MMRなどを調べ、胃がんの性質に合った治療を選びます。

進行・再発胃がんでは「どの薬を使うのか」だけでなく、治療選択に必要なバイオマーカー検査が揃っているかを確認することが治療の出発点になります。日本胃癌学会も2026年7月に「切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き 第3版」を公開しています。

参考:切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き 第3版|日本胃癌学会

HER2陽性ではHER2を標的とする治療を組み合わせる

HER2陽性の切除不能・進行・再発胃がんでは、抗がん薬にHER2を標的とするトラスツズマブを組み合わせる治療が一次治療の軸になります。

さらに、HER2陽性でPD-L1をCPS(複合陽性スコア)で評価して1以上の場合には、化学療法+トラスツズマブにペムブロリズマブを加える治療が一次治療の選択肢になります。治療開始前にHER2とPD-L1の両方を確認します。

またトラスツズマブを含む一次治療後に病状が進行したHER2陽性胃がんでは、2026年現在、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が重要な二次治療の一つになっています。日本胃癌学会は2026年3月、HER2陽性胃がんの二次治療におけるT-DXdについて最新コメントを公表しています。

抗HER2療法後にはHER2発現が低下し、陽性から陰性へ変化することがあります。そのため、可能であれば一次治療で病状が進行した時点で再生検を行い、HER2を再評価したうえで二次治療を選択することが望ましいとされています。

HER2陰性ではCLDN18.2・PD-L1・MSIなどから治療を選ぶ

HER2陰性胃がんでは、CLDN18.2、PD-L1、MSI/MMRなどの結果が一次治療の選択に関係します。

CLDN18.2陽性であれば、CLDN18.2を標的とするゾルベツキシマブと抗がん薬を組み合わせる治療が候補になります。

一方、PD-L1の発現やMSI/MMRなどを踏まえ、ニボルマブやペムブロリズマブなどの免疫チェックポイント阻害薬と抗がん薬を組み合わせる治療を選ぶ場合があります。

2026年にはHER2陰性の切除不能・進行・再発胃がんに対するチスレリズマブ+化学療法も国内の一次治療に加わりました。日本胃癌学会も2026年7月にこの治療について最新コメントを公開しています。

複数のバイオマーカーが治療候補に当てはまることもあるため、検査結果だけで機械的に薬が一つに決まるわけではありません。全身状態、これまでの治療、副作用の特徴なども含めて治療を選びます。

二次治療以降は、それまでに使った薬を踏まえて選ぶ

一次治療を続けても胃がんが進行した場合には、治療内容を見直します。

HER2陽性で条件を満たす場合には前述したT-DXdが候補となり、それ以外ではラムシルマブ+パクリタキセルなどが代表的な二次治療です。全身状態や、それまでに生じた副作用によっては別の薬を選ぶこともあります。

進行・再発胃がんでは、一つの薬を使い続けるのではなく、効果と副作用を確認しながら、病状が進行したときに次の治療へ切り替えていきます。

「次は何次治療か」だけでなく、これまでにHER2標的治療、免疫療法、CLDN18.2を標的とする治療のどれを受けたのかが、その後の治療選択に関係します。

薬を選ぶことと同時に「食べられる状態」を保つ

胃がんでは、薬物療法の効果だけを見て治療を続けられるか判断することはできません。

腹膜播種によって腹水が増える、胃の出口が狭くなって食事が通らない、吐いてしまう、体重が大きく減るといった状態になると、栄養状態や体力が低下し、薬物療法を続けること自体が難しくなる場合があります。食事の通過障害がある場合には、薬物療法だけでなく、消化管ステントやバイパス手術などを検討することもあります。

進行胃がんでは、がんを小さくすることだけでなく、食べられる状態や日常生活をできるだけ保ちながら治療を続けることも治療方針を考えるうえで欠かせません。

胃がん治療の副作用と治療後の生活

胃がんの治療では、手術によって胃の大きさや食べ物の通り道が変わることに加え、薬物療法による吐き気、しびれ、倦怠感などが生活に影響することがあります。

特に胃がんでは、治療前から食欲が落ちていたり、手術後に一度に食べられる量が減っていたりすることがあります。そのため、副作用を考えるときは症状の有無だけでなく、食事量や体重を保てているか、仕事や家事を続けられているか、治療を続ける体力が保てているかまで確認します。国立がん研究センターも、胃切除後は体重減少、貧血、骨粗しょう症などが起こることがあり、食事の取り方や栄養状態への注意が必要としています。

胃切除後は「以前と同じ量を食べる」ことを目標にしない

胃の一部または全部を切除すると、食べ物を一時的にためる容量が小さくなり、少量で満腹になりやすくなります。

手術直後から以前と同じ量を食べようとするのではなく、一度の食事量を減らし、回数を増やしながら新しい消化管の状態に慣れていきます。国立がん研究センターでも、胃切除後に一度に食べられる量が減った場合には、食事回数を増やし、少量ずつ時間をかけて食べることを勧めています。

体重が手術前より減ることも珍しくありません。

ただし、体重が減っていることだけを見るのではなく、減少が続いていないか、必要な食事や水分を取れているか、歩く・外出する・仕事をするといった活動が維持できているかを確認します。

食べてもすぐに吐いてしまう、食事量がさらに減っている、体重が急速に落ちている場合には「胃を切ったから仕方がない」と考えず、通過障害や治療の副作用など別の原因がないかを調べます。

ダンピング症候群は食後すぐに起こるものだけではない

胃切除後には、食べ物が小腸へ急速に流れ込むことでダンピング症候群が起こることがあります。

食後比較的早い時間に、動悸、発汗、腹痛、下痢、めまいなどが起こるものを早期ダンピング症候群と呼びます。

一方、食後しばらくしてから血糖値が下がりすぎ、脱力感、冷や汗、震えなどが現れる後期ダンピング症候群もあります。国立がん研究センターでは、糖質を一度に多く取ると急速な血糖上昇とインスリン分泌のあとに低血糖を起こすことがあると説明しています。

食後に体調が悪くなる場合には「食事が合わなかった」とだけ考えず、食べた内容と症状が現れた時間を記録しておくと原因を整理しやすくなります。

胃全摘後は数年たってからビタミンB12不足が起こることがある

胃切除後には、鉄の吸収が低下して鉄欠乏性貧血が起こることがあります。特に胃全摘後では、ビタミンB12の吸収に必要な「内因子」が分泌されなくなるため、ビタミンB12欠乏による貧血にも注意します。

ビタミンB12は体内に一定量蓄えられているため、手術直後ではなく、数年たってから不足が明らかになる場合があります。そのため、体調が良くても定期的な血液検査を続け、必要に応じて鉄やビタミンB12を補います。

また、胃切除後にはカルシウムの吸収低下などによって骨が弱くなることもあるため、長期的には貧血だけでなく骨の状態にも注意します。

抗がん薬では「食べられないこと」と「しびれ」が治療継続に影響する

胃がんの薬物療法では、吐き気、食欲低下、下痢、口内炎、骨髄抑制などが起こることがあります。

胃切除後や進行胃がんでは、もともと食事量が少ない患者さんもいるため、吐き気や口内炎が重なると短期間でも体重や体力が落ちることがあります。副作用そのものだけでなく「昨日まで食べられていた量を食べられなくなった」という変化も医療者へ伝えます。国立がん研究センターも、通院治療では仕事や家事などへの影響を含め、副作用が出やすい時期や対処法、病院へ連絡する基準を治療前に確認するよう案内しています。

CapeOXやFLOTなどで使用されるオキサリプラチンでは、手足や口の周囲のしびれなどの末梢神経症状が問題になることがあります。冷たい飲み物や物に触れたときの違和感だけでなく、治療を重ねるうちに、箸を使いにくい、ボタンを留めにくい、歩くと足裏の感覚がおかしいといった症状が続く場合があります。

日常動作に影響し始めている場合には、我慢して次回まで治療を続けるのではなく、投与量や治療スケジュールを調整する必要がないか相談します。

ゾルベツキシマブでは吐き気・嘔吐への対策が特に重要

CLDN18.2陽性胃がんで使用するゾルベツキシマブでは、悪心・嘔吐が起こりやすいことが特徴です。

PMDAの患者向医薬品ガイドでも、吐き気や嘔吐が高頻度に現れるため、投与前に制吐薬を使用する場合があると説明されています。

胃がん患者さんでは、吐き気が続いて食べられなくなること自体が体力低下につながります。

「吐いてはいないから大丈夫」と考えるのではなく、吐き気のために食事量や水分量が減っている場合も医療者へ伝えます。治療前から制吐薬を使用したり、症状に応じて支持療法を調整したりしながら、食事を取れる状態を保つことが治療継続につながります。

T-DXdでは新しい咳や息切れを放置しない

HER2陽性胃がんで使用するトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)では、間質性肺疾患が重大な副作用の一つです。PMDAも現在、間質性肺疾患について専用の患者向け資材を公開しています。

治療中に新しく咳が出る、息切れする、呼吸が苦しい、発熱するといった症状が現れた場合には、「風邪かもしれない」と次の診察まで待たず、治療を受けている医療機関へ連絡します。

T-DXdでは骨髄抑制などにも注意しますが、間質性肺疾患は早い段階で気付き、治療を中止して評価・治療する必要がある副作用です。

免疫チェックポイント阻害薬ではいつもと違う症状を伝える

ニボルマブ、ペムブロリズマブ、チスレリズマブ、デュルバルマブなどの免疫チェックポイント阻害薬では、通常の抗がん薬とは異なり、免疫機能が自分の臓器を攻撃することで副作用が起こることがあります。

肺、腸、肝臓、甲状腺などさまざまな臓器に影響する可能性があり、咳や息切れ、長引く下痢、強い倦怠感など、症状の現れ方も一つではありません。ペムブロリズマブについても、PMDAは胃がんを含む適応のもとで最新の添付文書や適正使用情報を公開しています。

免疫療法の副作用は、一般的な抗がん薬のように単純に「薬を少し減らして続ける」対応とは異なります。症状の重さによって休薬や中止を行い、必要に応じてステロイドなどで免疫反応を抑える治療を行います。

点滴を受けた直後に問題がなくても後から症状が出ることがあるため、治療中にこれまでとは違う体調変化があれば、免疫療法を受けていることを医療者へ伝えます。

副作用を我慢して予定どおり治療することが目的ではない

薬物療法では、副作用や体調に応じて休薬、投与間隔の変更、投与量の調整、薬の変更を行うことがあります。予定していた薬を一度も変更せず続けること自体が治療の目的ではありません。

とくに胃がんでは、食事量と体重が低下すると治療を続ける体力にも影響します。副作用によって食べられない、歩けない、仕事や家事ができない状態が続いているのであれば、その負担も治療方針を見直す材料になります。

治療を始める前に、よく起こる副作用だけでなく「どの症状が出たら次の診察を待たずに病院へ連絡するのか」まで確認しておくと、治療中の判断がしやすくなります。国立がん研究センターも、薬物療法開始前に病院へ連絡する基準を医療者へ確認しておくことを勧めています。

次の章では、胃がんのステージ別生存率について、5年・10年ネット・サバイバルの違いと、数字を個人の余命として受け取らないための見方を解説します。

胃がんのステージ別生存率

胃がんの予後を調べると「5年生存率」「10年生存率」という数字を目にします。

国立がん研究センターの院内がん登録では、胃がんについてステージ別のネット・サバイバルが公表されています。

ステージ 5年ネット・サバイバル
2014~2015年診断例
10年ネット・サバイバル
2012年診断例
ステージ1 92.8% 79.1%
ステージ2 67.2% 52.0%
ステージ3 41.3% 29.3%
ステージ4 6.3% 3.9%

5年値は2014~2015年に診断された患者、10年値は2012年に診断された患者を対象とした別々の集計です。

したがって「ステージ2では5年時点の67.2%から10年時点で52.0%まで下がる」というように、同じ患者集団を5年から10年まで追跡した数字として比較することはできません。

参考:院内がん登録生存率集計結果閲覧システム|国立がん研究センター がん情報サービス

ネット・サバイバルは個人の余命を示す数字ではない

ネット・サバイバルは、がん以外の病気や事故などによる死亡の影響を統計学的に取り除き、胃がんだけが死因になると仮定した場合の生存状況を推定する指標です。

国立がん研究センターでは、2014~2015年診断例の5年生存率から国際的にも使用されているネット・サバイバルを採用しています。

たとえば「ステージ3の5年ネット・サバイバルが41.3%だから、自分が5年後に生きている確率も41.3%」という意味ではありません。

年齢、全身状態、胃がんの広がり方、手術で取り切れたかどうか、治療への反応などが異なる多くの患者をまとめた集団の統計として受け取ります。

5年と10年では診断された年代も異なる

生存率を見るときには「何年生存したか」だけでなく、いつ診断された患者の数字なのかも確認する必要があります。

今回の5年ネット・サバイバルは2014~2015年診断例、10年ネット・サバイバルは2012年診断例です。

その後、進行胃がんでは免疫チェックポイント阻害薬、HER2を標的とする治療、CLDN18.2を標的とするゾルベツキシマブなどが導入され、2026年には切除可能な局所進行胃がんに対する周術期治療も新たな選択肢となっています。

そのため、これらの生存率には現在の治療環境がすべて反映されているわけではありません。特にステージ4の数字を、2026年現在治療を始める患者さんの将来をそのまま予測する値として扱うことはできません。

ステージ4の6.3%を「余命5年以内」と読むことはできない

ステージ4胃がんの5年ネット・サバイバルは6.3%ですが、これは「ステージ4と診断されたら余命が5年以内」という意味ではありません。生存率と余命は異なる指標です。

ステージ4胃がんには、腹膜播種が中心の人、肝臓へ転移している人、複数臓器へ転移している人など、さまざまな病状が含まれます。HER2、PD-L1、CLDN18.2、MSI/MMRなどによって使用できる薬も異なります。

同じステージ4でも、病状の進み方や薬物療法への反応は一人ひとり異なります。

胃がんステージ4の治療や生存率の考え方については、以下の記事で詳しく解説しています。

生存率を見るときは「自分の治療後に何を確認するか」へつなげる

ステージ別生存率から分かるのは、病期が進むほど再発や胃がんによる死亡の影響が大きくなるという集団としての傾向です。

一方、手術によって根治を目指した患者さんでは、その後の見通しを考えるうえで、ステージだけでなく、胃壁への深達度、リンパ節転移の程度、手術後の病理結果、術後補助化学療法を行ったかなども関係します。

生存率の数字だけを見て将来を判断するよりも、自分の場合はどの病理所見から再発リスクを考え、どのような治療と経過観察が必要なのかを確認する方が、その後の判断につながります。

胃がん治療後の経過観察と再発

胃がんの治療後は、体の回復状態を確認しながら、再発や新たな胃がんがないかをみるために定期的に通院します。

ただし、どの患者さんも同じ検査を同じ間隔で受けるわけではありません。内視鏡治療を受けたのか、胃切除を受けたのか、術後補助化学療法を行ったのかによって、確認する内容や検査間隔は変わります。国立がん研究センターでも、経過観察の頻度はステージや治療法によって異なるとしています。

内視鏡治療後は残った胃を定期的に確認

ESDなどの内視鏡治療で胃がんを取り除いた場合、胃そのものは残っています。そのため、治療した場所に再発がないかだけでなく、残っている胃の別の場所に新しい胃がんができていないかを胃内視鏡検査で確認します。

経過観察の方法はESD後の病理結果によって異なりますが、国立がん研究センターでは年1~2回程度の胃内視鏡検査を基本とし、必要に応じてCTなどを追加するとしています。

前に説明したeCuraの判定が、その後どのように経過を見るかにも関係します。

胃切除後は少なくとも5年間を目安に通院

胃切除後は、再発の有無だけを確認するわけではありません。食事量や体重が回復しているか、貧血やビタミン不足が起きていないか、ダンピング症候群などの術後症状が生活に影響していないかも確認します。

国立がん研究センターでは、胃がん手術後は状況に応じて定期的に診察や検査を受け、少なくとも手術後5年間は通院が必要としています。

経過観察では、診察や血液検査、CT、胃が残っている場合の胃内視鏡検査などを、ステージや再発リスクに応じて組み合わせます。

術後補助化学療法を受けた場合には、治療後もCTなどで定期的に状態を確認します。国立がん研究センターでは、術後補助化学療法後は半年ごとにCTなどで確認することが示されています。

検査を頻繁に受ければ必ず予後がよくなるわけではない

治療後は「できるだけ頻繁にCTやPETを受けた方が、再発を早く見つけられて安心なのでは」と考えることがあります。

しかし、日本胃癌学会では、胃切除後に計画的なフォローアップを行うことで生存期間が延びるという十分な科学的根拠はまだ確立していないとしています。一方で、再発や残胃にできる新たながんを確認するために、CT、腫瘍マーカー、胃内視鏡検査などが利用されています。

「検査は多いほどよい」という考え方ではなく、自分のステージや治療内容に応じた検査を受けることが基本です。

また、定期検査の予定が先でも、新しく食事が通りにくくなった、理由の分からない体重減少が続く、腹部の張りや痛みが強くなったなど、これまでとは違う症状が出た場合には次回の受診まで待たずに相談します。

再発は胃の近くだけに起こるとは限らない

再発とは、治療によって見えなくなった胃がんが、その後再び見つかることです。

胃を切除した場所やその周辺だけではなく、リンパ節、肝臓、肺などへの転移や、腹膜へ広がる腹膜播種として見つかることもあります。国立がん研究センターでは、胃がんの主な再発・転移として、血行性転移、リンパ行性転移、腹膜播種を挙げています。

胃を全摘している場合でも「胃がないから胃がんは再発しない」という意味ではありません。手術前から体内に存在していた微小ながん細胞が、時間がたって別の場所で増えることで再発することがあります。

再発した場合の治療の決め方

胃がんが再発した場合には、再発した場所、病変の広がり、現在の全身状態、これまでに受けた治療とその効果などから次の治療を考えます。再発胃がんでは薬物療法が中心になることが一般的です。

また、前の薬物療法章で説明したように、進行・再発胃がんではHER2、PD-L1、CLDN18.2、MSI/MMRなどが治療選択に関係します。最初に診断されたときの「ステージ2だった」「HER2陽性だった」といった情報だけで、その後の治療がすべて決まるわけではありません。

再発時には、それまでにどの薬を使ったのか、現在使える治療標的があるのか、食事や体力をどの程度保てているのかまで確認して治療方針を決めます。

腹膜播種や通過障害では症状への治療も同時に考える

再発胃がんでは、がんを抑える薬物療法だけでは解決できない問題が生じることがあります。

腹膜播種によって腹水が増えれば、お腹の張りや食欲低下が強くなることがあります。胃や腸の通り道が狭くなれば、食べたいのに食べられない、嘔吐を繰り返すといった状態になることもあります。このような場合には、薬物療法と並行して、腹水への対応、消化管ステント、バイパス手術、栄養管理などを検討します。

再発後の治療では、画像上の腫瘍を小さくすることだけでなく、食べられること、痛みを抑えること、日常生活を続けられる状態を保つことも治療目標になります。

胃がん治療が効きにくくなったときに確認したいこと

切除不能・再発胃がんでは、一つの薬がずっと効き続けるとは限りません。治療を続けても病変が大きくなった場合や、副作用によって同じ治療を続けることが難しくなった場合には、次の治療を検討します。

このとき「最初の治療が効かなくなった=標準治療ではもうできることがない」という意味ではありません。胃がんには複数の薬物療法があり、それまでに使用した薬、HER2などのバイオマーカー、現在の全身状態を確認しながら次の治療へ進みます。

それまでに受けた治療と検査結果の整理

次の治療を考えるときは「新しい薬がないか」を探す前に、これまでの治療内容を整理します。一次治療で何を使用したのか、どのくらいの期間効果が続いたのか、どのような副作用があったのかによって、その後に選べる薬は変わります。

また、HER2陽性胃がんでは、治療を受ける過程でHER2の状態が変化する場合があります。次の治療によってHER2の再確認が意味を持つ場合には、再生検などを検討します。

2026年7月に日本胃癌学会が更新した「切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き 第3版」でも、HER2、PD-L1、CLDN18.2、MSI/MMRなどを治療選択につなげる考え方が示されています。

治療変更時には「次に使える薬は何か」だけでなく「その薬を選ぶために追加で確認する検査はあるか」まで聞いておくと、その後の方針を理解しやすくなります。

「標準治療」の意味

標準治療とは、臨床試験などによって効果と安全性が確認され、現時点で多くの患者さんに推奨される治療です。胃がんでも、免疫チェックポイント阻害薬、HER2を標的とする治療、CLDN18.2を標的とする治療など、新しい薬の有効性が確認されるたびに標準治療そのものが更新されています。

そのため「標準治療か最新治療か」という二択で考えるものではありません。新しく登場した治療でも、有効性と安全性が確認されれば標準治療の一部になります。治療が効きにくくなったときには、現在の診療ガイドラインの中にまだ受けていない治療が残っていないかを確認します。

臨床試験が選択肢になることもある

病状やこれまでの治療歴によっては、臨床試験や治験への参加を検討できる場合があります。

臨床試験は「効果が確立した特別な治療」を受ける制度ではありません。新しい薬や治療方法について、現在の標準治療と比べてどの程度の効果と安全性があるのかを調べる研究です。現在使われている標準治療も、過去の臨床試験によって効果と安全性が確認されてきました。

参加できるかどうかは、胃がんの状態、これまでに受けた治療、臓器機能、全身状態など、それぞれの試験で定められた条件によって決まります。臨床試験を提案された場合には、どのような治療を評価する試験なのか、現在受けられる標準治療と何が違うのか、期待される効果だけでなく分かっている副作用や通院負担まで確認します。

迷ったときはセカンドオピニオンも利用できる

「ほかに治療方法はないのか」「提示された治療を選んでよいのか」と迷う場合には、セカンドオピニオンを利用できます。

セカンドオピニオンは、現在の病院からすぐに転院するための制度ではありません。検査結果や治療方針について別の医師から意見を聞き、現在提示されている治療を理解したり、ほかの選択肢があるか確認したりするために利用します。

進行・再発胃がんでは治療選択肢が増えているため、HER2やCLDN18.2などの検査結果、これまでに使った薬、現在提案されている治療を整理して相談すると、意見を聞きやすくなります。

ただし、病状によっては治療開始を長く待てない場合があります。セカンドオピニオンを希望するときには、どの程度まで治療開始を待てるのかも担当医へ確認します。

今困っている症状も治療方針に関係する

進行胃がんでは、薬の候補が残っているかどうかだけで治療を決めるわけではありません。

腹水が増えて食事が取れない、通過障害によって嘔吐を繰り返す、体重や筋力が大きく落ちているといった場合には、薬物療法と並行して症状への治療や栄養管理が必要になります。

治療によって期待できる効果と、その治療を受けながらどのような生活を送れるのかを一緒に考えます。

胃がんは病状だけでなく、治療後の生活まで考えて治療を選ぶ

胃がんは、早い段階で見つかれば胃を切除せず内視鏡で治療できる場合がある一方、胃壁への深い浸潤やリンパ節転移があれば手術や薬物療法が必要になります。進行・再発胃がんでは、HER2やCLDN18.2などの検査結果も治療選択に関係します。

胃がんと診断されたときは「ステージはいくつか」だけではなく、がんが胃壁のどこまで達しているのか、リンパ節や他の臓器への広がりはあるのか、どの治療によって根治を目指せるのかを順番に確認することが治療の理解につながります。

また、胃がんでは治療後の食事や体重の変化も無視できません。胃を切除すれば、一度に食べられる量が減ったり、ダンピング症候群や貧血などが起こったりすることがあります。進行胃がんでも、薬物療法の効果だけでなく、食事を取れる状態や体力をどこまで保てるかが治療を続けるうえで関係します。

治療について迷ったときは、提示された治療の名前だけを比較するのではなく「この治療は何を目指しているのか」「ほかにどのような選択肢があるのか」「治療後の生活はどう変わるのか」まで確認してみてください。

腹膜播種の治療や完治の可能性について詳しく知りたい場合は、以下の記事で解説しています。

スキルス胃がんの特徴や検査、治療については、以下の記事も参考にしてください。

胃がんは、病気だけではなく生活そのものへの影響も小さくありません。胃がんの治療では「治療を受けるかどうか」だけではなく「どう生活を続けていくか」も含めて考えていくことが大切になります。

スキルス胃がんは、がん細胞が胃の粘膜表面にかたまりをつくらず、胃壁の内部にしみ込むようにして広がっていくタイプの胃がんです。医学的には「びまん性浸潤型胃がん」「4型胃がん」と呼ばれ、胃がん全体の約10〜20%を占めます。

進行が速いうえ、内視鏡検査でも見つけにくいため、発見時にはすでに進行しているケースが目立ちます。初期には自覚症状がほとんどなく、胃もたれ、食欲不振、少し食べただけで満腹になる、体重減少などをきっかけに見つかることがあります。

本ページでは、スキルス胃がんの特徴や原因、症状、診断(内視鏡検査・審査腹腔鏡)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • 胃壁の内部にしみ込むように広がるタイプで、胃がん全体の約10〜20%を占める
  • 内視鏡でも見つけにくく、発見時にはすでに進行しているケースが多い
  • 腹膜播種を起こしやすく、抗HER2薬などの分子標的薬が使いにくい

スキルス胃がんとは

胃がんは、がん細胞の特徴によっていくつかのタイプに分けられます。

なかでも治療が難しいとされているのが「スキルス胃がん」です。

スキルス胃がんは、がん細胞が胃の粘膜表面にかたまり(腫瘍)をつくらず、胃壁の内部にしみ込むようにして広がっていくタイプの胃がんです。医学的には「びまん性浸潤型胃がん」あるいは「4型胃がん(ボールマン4型)」と呼びます。がん細胞が胃壁の中を這うように浸潤していくため、胃全体が硬く厚くなっていきます。

胃がん全体のうち、スキルス胃がんが占める割合はおよそ10〜20%です。組織型でみると、低分化腺がんや印環細胞がんと呼ばれる未分化型が大半を占めます。

他の胃がんと比べたときの特徴は、次のとおりです。

進行が速い 
増殖するスピードが速く、短期間のうちに病期が進んでいきます。

発見が遅れやすい
内視鏡検査でも見つけにくく、発見時にはすでに進行しているケースが目立ちます。

腹膜播種を起こしやすい
がん細胞が胃壁を突き破り、お腹の中に散らばる腹膜播種が高頻度で発生します。

若年・女性に比較的多い

以上のように、同じ「胃がん」という名前でも、通常の胃がんとは性質がかなり違う疾患です。

スキルス胃がんの原因

スキルス胃がんがなぜ起こるのか、その正確な原因は医学的にもまだ解明されていません。ただ、メカニズムについては少しずつ分かってきています。

一般的な胃がんでは、ピロリ菌の持続感染が最大の危険因子とされます。しかしスキルス胃がんは、ピロリ菌に感染したことのない若い患者様にも発症します。このことから、発生の経路そのものが異なる可能性が指摘されています。

分子のレベルでは、細胞同士を接着させる働きを持つ「E-カドヘリン(CDH1遺伝子)」の異常が深く関わっていると考えられています。細胞をつなぎとめる糊のような役割を担うタンパクが失われると、がん細胞がバラバラになって胃壁の中に浸み込み、腹腔内へも散らばりやすくなるのです。

一方、がん細胞の暴走を食い止める「ブレーキ役」を担っているのが、がん抑制遺伝子の「p53(TP53)」です。p53はDNAに傷がついたときにそれを修復させ、修復できない細胞は自然死(アポトーシス)へと導きます。この機能が失われると、傷ついた細胞が排除されないまま増え続け、がん化へとつながっていきます。

胃がんにおけるp53変異の頻度は報告によって幅がありますが、スキルス胃がんが含まれるびまん型では25〜40%の範囲で認められるとされています。特に進行期のびまん型胃がんでは約40%にのぼる一方、早期のびまん型では変異が稀です。このことから、p53の異常は病期の進行にともなって蓄積していく可能性が示唆されています。

もうひとつ注目したいのが「HER2」の発現頻度です。HER2は細胞の増殖シグナルを伝える受容体タンパクであり、胃がんにおいては抗HER2薬の重要な標的となります。ところがHER2陽性率は、胃がん全体で22.1%、腸型で31.8%であるのに対し、スキルス胃がんではわずか6.1%にとどまります。

スキルス胃がんはその多くがびまん型に分類されるため、抗HER2薬の適応となる患者さんは限られます。

スキルス胃がんの診断

「(無)症状」から「確定診断」まで

スキルス胃がんは、初期の段階では自覚症状がほとんどありません。がんは胃の表面に隆起や潰瘍をつくらないため、通常の胃がんなら手がかりになるはずの黒色便や貧血といったサインが出にくく、これが早期発見を難しくしています。

進行してくると、胃もたれ、食欲不振、少し食べただけで満腹になる、体重減少、腹水などによる腹部の張りといった症状が現れます。ただ、こうした症状は胃炎など良性の疾患でも起こるため、自己判断で受診が遅れてしまうケースが少なくありません。症状がなくても定期的に検診を受けること、気になる症状が続くようなら早めに受診することが大切です。

スキルス胃がんに特有の検査上の難しさ

受診すると、まず内視鏡検査(胃カメラ)や胃X線検査が行われます。

ここでスキルス胃がんならではの問題が出てきます。がん細胞が粘膜の表面ではなく深い層を広がっていくため、内視鏡で表面を観察しても明らかな腫瘍が見えないことがあるのです。通常の生検ではがん細胞を採取できず、偽陰性となる場合もあります。

そのため、胃X線検査、超音波内視鏡(胃壁の層構造を断層で評価)、EUS-FNA(深部の組織を採取)、CT検査などを組み合わせながら診断を進めていきます。

さらに重要な検査として、審査腹腔鏡があります。全身麻酔をかけてお腹に小さな穴を開け、カメラを入れて、CTでは捉えきれない小さな腹膜播種を直接確認します。あわせて腹腔内を洗浄した液を採取し、がん細胞の有無を調べる腹腔洗浄細胞診も行います。腹膜播種があるかどうかで治療方針が大きく変わるため、スキルス胃がんでは特に重要な検査です。

ステージ(病期)の確定

胃がんのステージは、胃壁のどの深さまでがんが達しているか(T)、リンパ節転移の有無と個数(N)、腹膜播種を含む遠隔転移の有無(M)を組み合わせて、Ⅰ期〜Ⅳ期に分類されます。スキルス胃がんは診断された時点ですでにステージⅢ〜Ⅳであることが多く、この点が予後を大きく左右します。

スキルス胃がんの一般的な治療法

スキルス胃がんの治療は「手術」と「薬物療法」を軸に組み立てていきます。放射線療法が根治目的で用いられる機会は限られており、症状の緩和を目的として選択されるのが一般的です。治療方針を決めるうえで最大の分岐点となるのは、腹膜播種があるかどうかです。

腹膜播種や遠隔転移がなく、切除可能と判断された場合は手術が中心となります。スキルス胃がんは胃全体に広がっていることが多いため、胃をすべて切除する全摘術を行うケースが多いです。手術後は再発予防のために補助化学療法を行う場合があり、病理学的ステージに応じてさまざまな抗がん剤を使用します。

腹膜播種や遠隔転移が確認された場合は、薬物療法が中心になります。抗がん剤のほか、HER2の状態やPD-L1発現、MSI検査などの結果をふまえて最適な薬物を選択します。

治療成績と生存率

韓国での進行胃がんの解析によると、スキルス胃がんの5年生存率は27.6%、それ以外の通常の胃がんは61.2%でした。ステージⅢbでは15.2%対38.5%、ステージⅣでは10.2%対20.1%と、いずれの病期においても通常の胃がんより予後が不良でした。

また、日本での検討でも、5年生存率は10.2%、ステージⅡ/Ⅲで根治手術を受けた患者様では24.3%と報告されています。

このようにスキルス胃がんは、通常の胃がんと比べて予後が悪いタイプのがんだと言えます。

スキルス胃がんにおける保険診療の限界

化学療法に伴う「きつい」副作用

抗がん剤では、吐き気、強い倦怠感、食欲不振、脱毛、手足のしびれ、骨髄抑制による感染症リスクなどが起こりえます。さらにスキルス胃がんの場合、胃全摘術を受けた患者様が少なくありません。胃を失えば食事量が減り、ダンピング症候群や貧血、体重減少が生じやすくなります。もともと栄養状態が低下しているところへ副作用が重なることで、治療の継続そのものが困難になるリスクがあるのです。

保険診療ではカバーしきれない再発・進行のリスク

根治切除と術後補助化学療法を行っても、腹膜再発を中心とした再発が高い頻度で生じます。スキルス胃がんでは、胃の根治切除後であっても5年生存率が18.1%にとどまるという報告もあります。

腹膜播種などに対して実施できる化学療法の限界

スキルス胃がんで手術を試みた患者様のうち、腹膜播種がある割合は48.2%にのぼると報告されています。また、それらの腹膜播種をすべて切除した場合の5年生存率は12%、切除不能例では0%でした。

腹膜播種が問題になるのは、抗がん剤が届きにくいからです。腹膜には血管が乏しく、点滴で投与した薬剤が播種巣まで十分な濃度で到達しにくいと考えられています。腹膜播種が増えれば腹水も溜まりやすくなり、腹部膨満、食欲低下、呼吸苦などが現れて、生活の質(QOL)が大きく損なわれてしまいます。

また、腹膜播種がなくてもスキルス胃がんに対して実施できる化学療法の種類は多くはなく、通常の場合は3~4種類程度使用すると、保険診療ではもう手立てがないと言われてしまいます。

関連記事:腹膜播種について解説。完治の可能性は?進行を止めるための治療はあるのか。

分子標的薬の選択肢の少なさ

びまん型胃がんにおけるHER2陽性率は6.1にとどまるため、スキルス胃がんの患者様の多くは抗HER2薬の対象外となってしまいます。免疫チェックポイント阻害薬についても、びまん性の胃がんや腹膜播種例では効果がやや限定的であると指摘されています。

スキルス胃がんで重要な新しい治療の考え方

ここまで述べてきたとおり、スキルス胃がんは標準治療を行っても腹膜播種や再発のリスクが問題となるがんです。加えて、HER2陽性率が低いために分子標的薬の選択肢が限られるという特有の課題も抱えています。当グループでは、こうした課題に対して、標準治療とは作用の仕方が異なる治療を選択肢としてご提案しています。

分子レベルの異常にアプローチする「核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)」

近年、がんの発生や進行に関わる分子レベルの異常に直接アプローチする「核酸医薬」が世界的に注目を集め、研究・臨床応用が進んでいます。

当グループでは、がんの根本的な原因に直接作用することが期待される治療選択肢として、「アプタマー」「siRNAなどのRNA干渉技術」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を取り入れた治療を提供しております。

アプタマー核酸医薬」は、がん細胞に特有の異常なタンパク質にピンポイントで結合し、その働きをブロックすることで、がんの増殖抑制や死滅を狙う治療薬です。一方で「miR-34a mimic核酸医薬」は、がん化によって失われてしまった「体が本来持っているがんを抑制する力」を補い、がんの成長を止め、自然な細胞死(アポトーシス)を促す治療薬です。

スキルス胃がんを含む胃がんでTP53変異が高頻度に認められることは、先に述べたとおりです。miR-34a mimicは、miR-34aと同じ働きをする分子を外部から補充することで、p53というブレーキが壊れてしまった細胞に対しても、その先の経路から直接ブレーキをかけ直すことを狙う治療です。

がん中央クリニックグループでは、がん種ごとに標的となる遺伝子を指定して核酸医薬を設計し、患者様一人ひとりの状態に合わせた治療をご提案しています。複数の核酸医薬を組み合わせて使い分けられる点も、特徴のひとつです。

HER2を標的にする「分子標的ワクチン療法」

分子標的ワクチン療法は、がんの増殖・浸潤・転移に関わるタンパク質「HER2」を標的とした、当グループで施術可能な自由診療の治療法です。

スキルス胃がんにおいて、この治療は特に検討する価値があります。というのも、保険診療の抗HER2薬はHER2の発現が高い患者様にしか使えず、びまん型胃がんでHER2陽性となるのは6.1%程度にすぎないからです。しかし、HER2陽性と判定されないがん細胞にもHER2は一定量発現しているため、治療効果が見られることがあります。

この治療の目的は、筋肉注射によって患者様ご自身の体内でHER2に対する抗体をつくらせることです。

体内でHER2に対する抗体がつくられると、細胞周期や細胞分裂を促進するシグナルを送ることができなくなります。さらに、抗体がくっついたがん細胞を免疫細胞が攻撃するという効果も期待されます。

ただし、標準治療ですでに抗HER2薬を使用している場合には、効果が見込みづらい点に注意が必要です。

当グループの自由診療・治療をおすすめする患者様

当グループで実施可能な治療法は、ほとんどの患者様にご検討いただけます。以下では、どのような患者様に効果が期待できるのかを解説します。ご自身の状況に照らし合わせてご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

スキルス胃がんでは、病状や体力、副作用などの理由から、保険診療の標準治療だけでは選択肢が限られてしまうことがあります。特に腹膜播種を伴う進行例、HER2陰性で分子標的薬が使えない患者様、二次・三次治療まで進んで次の手立てが見つからない患者様は少なくありません。

そうした場合でも、核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法なら、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供することが可能です。

これらの治療法は目立った副作用が起こりにくく体への負担が少ないため、「胃全摘後で体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方にも、1つの治療の選択肢となり得ます。

さらに、まだ治療ができる体力があるにもかかわらず選択肢がなくなり、緩和を勧められている方にとっても、新たな治療の選択肢として検討いただけます。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

核酸医薬と分子標的ワクチン療法は、化学療法などの薬物療法と併用でき、相乗効果が期待できます。

なぜなら、化学療法がすでに増殖したがん細胞や産生されたたんぱく質に作用するのに対し、核酸医薬はがん細胞やたんぱく質がつくられる前の段階、すなわち遺伝子レベルに作用するからです。そして分子標的ワクチン療法は、患者様ご自身の免疫の力を使ってHER2を発現するがん細胞を攻撃する方法だからです。

このように当グループが提供する治療法は、標準治療とは攻撃するポイントが異なります。だからこそ、標準治療と組み合わせることでより高い効果が期待できるのです。

スキルス胃がんの完治を目指すには、複数の治療法を組み合わせることが重要と考えています。標準治療を受けている患者様にとっても、核酸医薬と分子標的ワクチン療法の併用は選択肢のひとつです。

再発を抑制、防止するため。手術前後のすべての患者様

スキルス胃がんは、根治手術を行っても腹膜再発を中心とした再発が生じやすい疾患です。また抗がん剤には副作用があるため、胃全摘後で栄養状態に不安のある患者様や、体力に不安のある高齢の患者様では、術後補助化学療法を完遂すること自体が難しい場合もあります。

こうした背景から、手術前後の患者様が核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法を併用することは、再発リスクを下げるひとつの選択肢として検討いただけます。

副作用が不安な患者様

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法は、目立った副作用が起こりにくい治療です。特に、化学療法で起きやすい嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。核酸医薬の副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などが挙げられます。

分子標的ワクチン療法では、注射部位反応(赤み、腫れ、痛みなど)、疲労感、発熱が見られることがあります。解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半であり、治療を継続するうえで支障をきたすことはありません。

「胃を全摘して食事が思うようにとれない」「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」

当グループの治療は、そのような方にも受けていただける治療となっております。

スキルス胃がんの完治を目指して、保険診療と患者様に合った自由診療を組み合わせる

スキルス胃がんは、胃がんのなかでも進行が速く、腹膜播種を起こしやすい難治性のがんです。しかし、適切に治療を行えば完治を目指せる疾患でもあります。

発症要因のひとつにp53をはじめとする遺伝子異常があることから、保険診療と核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、分子標的ワクチン療法などを組み合わせる集学的治療が有効な選択肢となります。保険診療だけではカバーしきれない場合でも、これらの治療によって腫瘍縮小効果や再発抑制効果が期待できます。

がん中央クリニックグループでは、こうした「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがん治療をご提案いたします。スキルス胃がんの患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。

「胃がんのステージ4です。」

医師からその言葉を告げられた瞬間「もう治療はできないのではないか」「余命はあとどれくらいなのだろう」「家族には何と伝えればいいのか」と頭が真っ白になった方も多いのではないでしょうか。

インターネットで「胃がん ステージ4」と検索すると「末期がん」「余命」「腹膜播種」「治らない」といった不安をあおるような言葉が並び、さらに気持ちが落ち込んでしまうことも少なくありません。しかし、現在の胃がん診療は以前とは大きく変わっています。

かつて、ステージ4胃がんの治療は、抗がん剤による延命治療が中心であり、治療の選択肢は限られていました。しかし近年は、HER2陽性胃がんに対する分子標的薬や、免疫チェックポイント阻害薬、さらにCLDN18.2を標的とした新しい治療薬の登場によって、患者さん一人ひとりのがんの特徴に合わせた治療が行われるようになっています。

ステージ4と一口に言っても、その病状は決して同じではありません。腹膜播種が中心の人もいれば、肝臓だけに転移している人もいます。HER2陽性の人もいれば、MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)が見つかる人もいます。転移の部位や数、がん細胞の性質、全身状態によって選択できる治療は大きく異なり、その後の経過も一人ひとり違います。

さらに近年では、薬物療法によって腫瘍が大きく縮小した患者に対し、根治切除を目指す「コンバージョン手術(Conversion Surgery)」が行われるケースも増えてきました。以前は「手術はできない」と考えられていた患者でも、治療の経過によって新たな選択肢が生まれることがあります。

もちろん、ステージ4胃がんは依然として治療が難しい病気であることに変わりはありません。しかし「何もできない病気」ではなくなっていることも、現在の医学が示している事実です。

この記事では、胃がんステージ4とはどのような状態なのかをはじめ、生存率や余命の考え方、現在受けられる標準治療、分子標的薬や免疫療法、最新治療、完治の可能性、さらに保険診療以外の選択肢まで、現在の医学的知見に基づいて詳しく解説します。

診断直後に知っておきたい基本的な知識だけでなく、これから治療方針を考えるうえで判断材料となる情報も、できるだけ分かりやすくまとめました。この記事が、不安の中で情報を探している患者さんやご家族にとって、現状を冷静に理解し、納得できる治療を選択するための一助になれば幸いです。

  • 胃がんステージ4は遠くの臓器や腹膜などへがんが転移している状態
  • 胃がんステージ4の5年生存率は約6.2%(国立がん研究センター 2015年5年生存率)
  • 進行胃がんの治療成績は新しい薬剤の登場によって少しずつ改善している

胃がんステージ4とは

胃がんステージ4とは、胃の壁を越えて広がったがんが、遠くの臓器や腹膜などへ転移している状態を指します。一般的には「最も進行した胃がん」「末期胃がん」と説明されることもありますが、実際の診療では「ステージ4」という言葉だけで病状や予後を判断することはありません。

現在の胃がん治療では、どこへ転移しているのか、転移はどの程度広がっているのか、そしてがん細胞がどのような特徴を持っているのかまで詳しく調べたうえで、一人ひとりに合わせた治療方針が決められます。同じステージ4という診断であっても、治療内容や期待できる効果、生存期間は患者さんによって大きく異なります。

TNM分類

胃がんの進行度は、国際的に用いられているTNM分類によって決定されます。Tは胃壁への深達度や周囲臓器への浸潤、Nはリンパ節転移、Mは遠隔転移を表しており、この三つを組み合わせて病期(ステージ)が決まります。このうち、ステージ4へ分類される最大の理由は「M」、つまり遠隔転移です。

胃から離れた臓器へ転移している場合だけでなく、腹膜へがん細胞が散らばる「腹膜播種」も遠隔転移として扱われます。そのため、肝臓や肺などに転移がなくても、腹膜播種が確認されればステージ4と診断されます。

参考:胃癌治療ガイドライン|一般社団法人 日本胃癌学会

胃がんステージ4でも病状は一人ひとり大きく異なる

肝臓に小さな転移が一つだけ見つかった患者さんと、腹膜全体へがん細胞が広がり腹水がたまっている患者さんでは、同じステージ4であっても病気の性質や治療方針は大きく異なります。転移の部位だけではなく、HER2陽性やMSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)、CLDN18.2陽性など、がん細胞が持つ特徴によって使用できる薬剤も変わります。

そのため「ステージ4だから○○という治療を行う」という考え方ではなく、「その患者さんの胃がんには、どのような特徴があるのか」を詳しく調べたうえで治療方針を決定します。「ステージ4」という診断は治療のスタートラインであり、その後どのような治療を選択できるかは、これから行う詳しい検査によって決まっていくのです。

胃がんステージ4で最も多い「腹膜播種」とは

胃がんステージ4を理解するうえで、最も重要なキーワードの一つが『腹膜播種(ふくまくはしゅ)』です。

肺がんや大腸がんでは肝臓や肺への転移が中心になることが多い一方、胃がんでは腹膜播種が非常に高い頻度でみられます。実際、ステージ4胃がんの患者さんでは、腹膜播種が治療方針や予後に大きく影響するケースが少なくありません。

腹膜とは

腹膜とは、お腹の中にある胃や腸、肝臓などの臓器を包んでいる薄い膜です。胃がんが胃の壁を深く越えて進行すると、一部のがん細胞が胃の外へこぼれ落ち、腹腔内を漂うようになります。そして腹膜へ付着・増殖し、小さながんが無数に広がっていく状態が腹膜播種です。

血液やリンパ液の流れに乗って転移する肝転移や肺転移とは異なり、腹膜播種は「お腹の中にがん細胞が散らばる」という特徴的な広がり方をします。そのため、CT検査でははっきり確認できないほど小さな病変が多数存在していることも珍しくありません。

腹膜播種で現れる症状

腹膜播種が始まったばかりの段階では、自覚症状がほとんどないこともあります。しかし、病変が増えてくると、お腹全体にさまざまな症状が現れるようになります。

腹水

代表的なのが、腹水です。腹膜へ広がったがん細胞が炎症を引き起こすことで、お腹の中へ水分がたまりやすくなります。腹水が増えると、お腹が張るような感覚や圧迫感が強くなり、食事を少し食べただけでもすぐ満腹になることがあります。さらに腹水が大量になると、横になるだけで息苦しさを感じたり、歩くことが難しくなったりすることもあります。

腸閉塞(イレウス)

もう一つ注意したい症状が『腸閉塞(イレウス)』です。腹膜播種が腸の表面へ広がると、腸の動きが悪くなったり、一部が狭くなったりすることがあります。すると、食べたものや消化液が正常に流れなくなり、腹痛や吐き気、嘔吐、便やガスが出にくくなるといった症状が現れます。

イレウスは緊急の対応が必要になることもあるため「お腹の張りが急に強くなった」「何度も吐いてしまう」「数日間便が出ない」といった症状がある場合には、早めに主治医へ相談することが重要です。

その他の症状

腹膜播種では、このほかにも体重減少、食欲低下、全身のだるさなどが少しずつ進行することがあります。これらは胃がんそのものによる症状だけではなく、腹膜播種によって食事量や栄養状態が悪化することも大きく関係しています。

腹膜播種があると治療はできないのか

以前は、腹膜播種が見つかった時点で手術は難しく、治療の選択肢も限られていました。しかし近年の診療では、その考え方も変わりつつあります。

分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を含む薬物療法によって腹膜播種が縮小し、症状を長期間コントロールできる患者さんも増えています。薬物療法が非常によく効き、腹膜播種が画像上あるいは腹腔鏡検査でほとんど確認できなくなった一部の患者さんでは、コンバージョン手術が検討されることもあります。

もちろん、これはすべての患者さんに適応される治療ではありません。腹膜播種の広がり方や薬物療法への反応、全身状態などを慎重に評価したうえで判断されます。それでも「腹膜播種があるから何もできない」という時代ではなくなってきたことは、現在の胃がん診療における大きな変化の一つといえるでしょう。

参考:胃がん|国立がん研究センター がん情報サービス

胃がんステージ4でも治療を行う理由

胃がんステージ4は遠隔転移を伴う進行した状態であり、早期胃がんのように手術だけで治癒を目指せるケースは多くありません。しかし「ステージ4だから治療をしない」という考え方は基本的にありません。

その理由は、薬物療法を中心とした治療によって、病気の進行を抑え、症状を改善し、生活の質を維持できる可能性があるからです。患者さんによっては腫瘍が大きく縮小し、新たな治療の選択肢が生まれることもあります。ステージ4胃がんの治療は「治療をするか、しないか」ではなく「どのような目的で治療を行うのか」を考えることが重要になります。

胃がんステージ4の治療目的

ステージ4胃がんに対する治療の最も大きな目的は、がんの増殖をできるだけ抑えながら、生存期間の延長を目指すことです。

現在の薬物療法は、単に腫瘍を小さくするだけではありません。がんの進行を遅らせることで、食事や会話、仕事、趣味など、これまでの生活をできるだけ長く維持できるよう支援することも重要な役割になっています。

実際、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が使用できる患者さんでは、以前より長期間にわたって病気をコントロールできるケースも増えてきました。すべての患者さんに同じ効果が得られるわけではありませんが、治療を開始することで病気の勢いを抑えられる可能性がある以上「ステージ4だから何もできない」と考える必要はありません。

食べられる状態を維持する

胃がんでは「食べられること」を守ることも重要な治療目的になります。

胃がんは、食べ物の通り道そのものにできるがんです。そのため、病気が進行すると腫瘍が胃の出口や食道とのつなぎ目を狭くし、食事が十分に取れなくなることがあります。また、腹膜播種によって腹水が増えたり、腸の動きが悪くなったりすると、食欲低下や吐き気、早期満腹感などが強く現れることもあります。

食事量が減れば、体重だけでなく筋肉量も減少し、全身状態が悪化します。すると、予定していた抗がん剤を十分な量で続けられなくなったり、新しい治療を受けられなくなったりする可能性もあります。「食べられる状態を維持すること」は、生活の質だけではなく、その後の治療を続けるためにも重要なのです。

胃がんステージ4では、薬物療法だけではなく栄養管理や支持療法も治療の重要な柱になります。

出血や通過障害などの症状を改善する

胃がんが進行すると、腫瘍から出血したり、胃の出口が狭くなったりすることがあります。慢性的な出血では貧血が進行し、強い倦怠感や息切れの原因になります。一方、胃の出口が狭くなると、食べ物が十二指腸へ流れにくくなり、食後の吐き気や嘔吐が続くことがあります。

このような症状に対しては、薬物療法だけではなく、患者さんの状態に応じて内視鏡によるステント留置、胃空腸バイパス術、止血処置、放射線治療などを組み合わせることがあります。これらは胃がんそのものを根治する治療ではありませんが、「食べられるようになる」「出血を止める」「痛みを和らげる」といった症状改善を目的とした重要な治療です。

症状が改善することで体力が回復し、その後の薬物療法を継続できるようになるケースも少なくありません。

薬物療法がよく効けば、新たな治療選択肢が生まれることも

以前は、ステージ4胃がんでは手術はほとんど行われませんでした。しかし現在では、薬物療法によって腫瘍や転移巣が大きく縮小し、遠隔転移が十分にコントロールされた患者さんに対して「コンバージョン手術」が検討されることがあります。

これは最初から手術を予定する治療ではなく、薬物療法の効果を慎重に評価した結果「根治切除が可能」と判断された場合に選択される治療です。もちろん、すべての患者さんが対象になるわけではありません。それでも「最初は手術できない状態だった患者さんに、新しい選択肢が生まれる可能性がある」という点は、現在の胃がん治療を理解するうえで重要な変化といえるでしょう。

次の章では、こうした治療方針を決定するために行われる検査について詳しく解説します。現在の胃がん診療では、転移の有無だけではなく、HER2やCLDN18.2、MSI、PD-L1などのバイオマーカー検査が治療選択に大きく関わるため、それぞれの検査がどのような意味を持つのかを理解しておくことが重要です。

胃がんステージ4と診断された後に行われる検査

胃がんステージ4と診断された後、治療はすぐに始まるわけではありません。まず行われるのは、「どの治療が最も効果を期待できるのか」を判断するための詳しい検査です。

以前の胃がん治療では、転移の有無や患者さんの体力を中心に治療方針が決められていました。しかし現在は、がん細胞そのものの特徴まで詳しく調べ、一人ひとりに合った薬剤を選択する時代へ変わっています。そのため、診断後に行われる検査には「病気がどこまで広がっているか」を確認する検査と、「どの薬が使えるか」を調べる検査という二つの役割があります。

転移の広がりを正確に把握する画像検査

治療方針を決めるうえで最初に重要になるのが、がんがどこまで広がっているのかを正確に確認することです。

CT検査では、胃の周囲だけでなく、肝臓や肺、リンパ節などへの転移を評価します。胃がんは肝転移やリンパ節転移を起こしやすいだけでなく、腹膜播種を伴うことも多いため、お腹全体の状態を丁寧に確認することが欠かせません。

必要に応じてPET-CTが追加されることもありますが、胃がんではすべての病変がPET-CTで描出されるわけではありません。特に腹膜播種や小さな転移巣では検出が難しいこともあるため、CTや内視鏡検査の結果と合わせて総合的に判断されます。

画像検査だけでは判断が難しい場合には、腹腔鏡検査を行うことがあります。腹部に小さな穴を開けてカメラを挿入し、腹膜を直接観察する検査です。CTでは確認できなかった小さな腹膜播種や腹水中のがん細胞が見つかることもあり、治療方針を決めるうえで重要な情報になります。

がん細胞の特徴を調べる病理検査

胃がん治療で近年特に重要になっているのが、病理検査です。内視鏡検査などで採取した組織を詳しく調べることで、胃がんの種類だけでなく、分子標的薬や免疫療法が使用できる可能性も評価します。

HER2検査

代表的なのはHER2検査です。HER2というタンパク質が過剰に発現している胃がんでは、トラスツズマブなどHER2を標的とした治療が第一選択になることがあります。胃がん全体では約15~20%前後がHER2陽性とされており、治療方針を左右する重要な検査の一つです。

MSI検査

MSI検査も重要です。MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)が確認された胃がんでは、免疫チェックポイント阻害薬が高い効果を示すことがあります。頻度は高くありませんが、治療戦略が大きく変わる可能性があるため、現代では標準的に調べられることが増えています。

PD-L1検査

免疫療法を検討する際にはPD-L1検査も行われます。胃がんではPD-L1の発現をCPS(Combined Positive Score)という指標で評価します。この結果はニボルマブやペムブロリズマブなどを使用する際の重要な判断材料になります。

CLDN18.2検査

2024年からはCLDN18.2(クローディン18.2)の検査も注目されています。CLDN18.2陽性胃がんでは、ゾルベツキシマブ(ビロイ)を含む治療が新たな選択肢となりました。これまで使える薬剤が限られていた患者さんでも、検査結果によって治療の幅が広がる可能性があります。

がん遺伝子パネル検査が勧められることもある

標準治療が終了した後や、次の治療を検討する段階では、がん遺伝子パネル検査が提案されることがあります。これは一度に数百種類の遺伝子異常を調べ、治験や適応となる薬剤がないかを探す検査です。すべての患者さんが対象になるわけではありませんが、従来の検査では分からなかった遺伝子異常が見つかり、新しい治療へつながる可能性もあります。

この検査だけで治療法が決まるわけではありません。しかし、標準治療の選択肢が少なくなった段階では、今後の方針を考えるための重要な情報になることがあります。

ここまで紹介したように、現在の胃がん診療では「胃がん」という診断だけで治療を決めることはほとんどありません。転移の広がりに加え、HER2、MSI、PD-L1、CLDN18.2など複数の情報を組み合わせることで、一人ひとりに適した治療法を選択しています。

参考:ゲノム医療について|厚生労働省

胃がんステージ4の治療全体像

胃がんステージ4と診断されると「抗がん剤しか方法はないのでしょうか」と質問されることがよくあります。薬物療法はステージ4胃がんの中心となる治療です。しかし、一つの治療だけで経過をみることはほとんどありません。

胃がんは、病気の進行によって起こる症状が患者さんごとに大きく異なります。食事が通りにくくなる人もいれば、腹膜播種による腹水が問題になる人もいます。肝転移が中心の人もいれば、リンパ節転移だけで比較的全身状態が保たれている人もいます。

胃がんステージ4の治療は「どの薬を使うか」だけで決まるものではありません。薬物療法を軸にしながら、必要に応じて手術や放射線治療、内視鏡治療、栄養管理、緩和ケアを組み合わせ、一人ひとりの病状に合わせて治療計画を組み立てていきます。

薬物療法が治療の中心

ステージ4胃がんでは、全身へ広がったがん細胞を一度に治療する必要があります。手術で胃を切除しても、腹膜や肝臓、リンパ節などへ転移した病変まですべて取り除くことは難しいため、まずは全身へ作用する薬物療法が治療の中心になります。

薬物療法といっても、現在は単純に抗がん剤を使用するだけではありません。HER2陽性であれば分子標的薬を組み合わせることがありますし、PD-L1の発現状況やMSI-Hであるかどうかによって免疫チェックポイント阻害薬が加わることもあります。さらにCLDN18.2陽性では、新たな分子標的薬を使用できるようになり、治療の組み合わせは以前よりも複雑になっています。

同じステージ4胃がんでも、検査結果によって第一選択となる治療が変わるため、「誰もが同じ抗がん剤を使う」という時代ではなくなっています。

治療は段階的に組み立てられる

薬物療法は、一度開始したら最後まで同じ薬を使い続けるわけではありません。治療を始めた後は、CT検査や血液検査を定期的に行い、腫瘍が縮小しているのか、変化がないのか、それとも大きくなっているのかを確認します。

十分な効果が得られている間は同じ治療を継続し、病気が進行した場合や副作用が強くなった場合には、次の治療へ切り替えることになります。これを二次治療、三次治療と呼びます。

近年は使用できる薬剤が増えたことで、一つの治療だけで終わるのではなく、複数の治療を順番に受けながら病気をコントロールしていく考え方が一般的になっています。治療開始時だけでなく「次にどの治療を選択するか」まで見据えて計画を立てることも、現在の胃がん診療では重要になっています。

薬物療法以外の治療を優先することもある

すべての患者さんが、診断直後から抗がん剤を開始できるとは限りません。例えば、胃の出口が狭くなり、水分さえ十分に飲めない状態では、まず食事が通るようにする治療を優先することがあります。腫瘍から出血が続いている場合には止血処置が必要になることがありますし、腹水によって呼吸が苦しい場合には腹水を抜く処置を行うこともあります。

病状によっては胃空腸バイパス術やステント留置術が選択されることもあり、これらによって食事が可能になった後に薬物療法を開始するケースも少なくありません。胃がんでは、病気そのものだけではなく、病気によって生じる症状を改善することも治療の重要な役割になります。

治療目標が途中で変わる場合も

治療を始めた時点では「病気の進行を抑えながら生活を維持すること」が目標になる患者さんがほとんどです。一方で、薬物療法が予想以上によく効き、転移巣が大きく縮小した場合には、当初は考えられなかった選択肢が見えてくることがあります。

代表的なのが、コンバージョン手術です。最初は切除できないと判断された胃がんでも、薬物療法によって根治切除が可能と判断されれば、手術を検討できる場合があります。逆に、治療を続ける中で体力の低下や副作用が問題となり、治療内容を調整した方がよい場面もあります。

治療の目標は最初から最後まで変わらないものではなく、病気の変化や生活の状況に合わせて見直されていきます。診断直後の時点で将来を決めつける必要はありません。治療に対する反応を一つひとつ確認しながら、その時点で最も適した選択を積み重ねていくことが、胃がんステージ4の診療では何よりも大切になります。

次の章では、ステージ4胃がん治療の中心となる抗がん剤について、どのような薬剤が使用されるのか、どのような患者さんに選択されるのか、副作用への対策も含めて詳しく解説します。

参考:胃がん 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

胃がんステージ4の抗がん剤治療

胃がんステージ4の治療では、薬物療法が中心になります。その中でも、最も基本となるのが抗がん剤治療です。胃がん治療の標準的な抗がん剤は一つではありません。年齢や体力、転移の広がり、HER2やPD-L1、CLDN18.2などの検査結果を踏まえて治療内容が決められます。現在は、複数の薬剤を組み合わせた治療を基本とし、必要に応じて分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を追加する方法が標準治療になっています。

一次治療ではフッ化ピリミジン系とプラチナ製剤の併用が基本

薬物療法の中心となるのは、フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ製剤を組み合わせた化学療法です。具体的には、S-1とオキサリプラチンを組み合わせたSOX療法や、カペシタビンとオキサリプラチンを組み合わせたCapeOX療法、5-FUとオキサリプラチンを併用するFOLFOX療法などが広く用いられています。これらの治療は、がん細胞のDNA合成や細胞分裂を妨げることで増殖を抑えることを目的としています。

どの治療法が選択されるかは、患者さんの年齢や腎機能、通院頻度、内服薬を継続できるかどうかなども考慮して決定されます。S-1は内服薬であるため自宅で服用できますが、食事が十分に取れない患者さんでは点滴中心の治療が選択されることもあります。一方、オキサリプラチンは比較的高い治療効果が期待できる反面、手足のしびれが長期間残ることがあるため、副作用の程度を確認しながら投与量を調整していきます。

参考:胃癌治療ガイドライン|日本胃癌学会

HER2陽性では分子標的薬を併用する

HER2陽性胃がんでは、抗がん剤だけではなく、HER2を標的とした分子標的薬を併用することが標準治療になります。代表的なのがトラスツズマブ(ハーセプチン)です。

ToGA試験では、HER2陽性進行胃がんに対して抗がん剤へトラスツズマブを追加することで、生存期間の延長が確認されました。この結果を受け、HER2検査は現在の胃がん診療で欠かせない検査の一つとなっています。

さらに近年では、HER2陽性胃がんに対する抗体薬物複合体(ADC)であるトラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)も使用できるようになり、HER2陽性患者の治療選択肢は大きく広がっています。同じ抗がん剤治療でも、HER2の結果によって組み合わせる薬剤は大きく変わります。

参考:Herceptin の主要な試験(ToGA)でHER2陽性胃がんにおいて有意な延命効果が認められる
参考:抗悪性腫瘍剤 「エンハーツ®」の日本におけるHER2陽性胃がんの二次治療に係る添付文書改訂のお知らせ

抗がん剤だけで治療する患者は以前より少なくなっている

胃がん治療は、この数年で大きく変化しました。以前は抗がん剤単独が標準だった患者さんでも、現在では免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬を併用するケースが増えています。例えばPD-L1 CPSが一定以上の患者さんでは、ニボルマブを追加することが標準治療になっています。CLDN18.2陽性胃がんでは、ゾルベツキシマブ(ビロイ)を組み合わせた治療も選択肢になります。

現在の抗がん剤治療は「抗がん剤だけで戦う治療」ではなく「抗がん剤を土台として複数の薬剤を組み合わせる治療」へ変わっています。

副作用が管理しやすくなっている

抗がん剤に対して「吐き気がひどい」「何も食べられなくなる」「髪がすべて抜ける」といったイメージを持っている人も多いでしょう。確かに副作用は避けて通れませんが、副作用を予防する薬剤や支持療法が大きく進歩しています。

吐き気には複数の制吐薬を組み合わせて使用し、白血球減少にはG-CSF製剤を使用することがあります。下痢や口内炎、末梢神経障害についても早い段階から対策を行い、必要に応じて休薬や減量を行いながら治療を継続していきます。

副作用が出ること自体は珍しくありませんが、「我慢しながら治療を続ける」のではなく「副作用を管理しながら治療を続ける」という考え方が現在の標準になっています。気になる症状があれば早めに医療スタッフへ伝えることで、重症化を防ぎやすくなります。

抗がん剤は「効かなくなるまで続ける」わけではない

「一度始めた抗がん剤は、一生続けるのでしょうか」と質問されることがあります。実際にはそのようなことはありません。治療中は定期的にCT検査や血液検査を行い、腫瘍が縮小しているか、副作用が強くなっていないかを確認します。十分な効果が得られている間は治療を継続しますが、病気が進行した場合や副作用によって生活への影響が大きくなった場合には、薬剤の変更や休薬を検討します。

近年は二次治療、三次治療まで見据えて治療を組み立てることが一般的になっています。最初の抗がん剤が効かなくなったからといって、そこで治療が終わるとは限りません。病状やこれまでの治療経過に応じて、新しい薬剤や分子標的薬、免疫療法へ切り替えられる可能性もあります。抗がん剤治療は、一つの薬剤だけで完結するものではなく、その後の治療へつなげていくための重要な第一歩でもあります。

分子標的薬 ― 胃がんの特徴に合わせて治療を選ぶ時代へ

胃がんの薬物療法は、長い間「抗がん剤」が中心でした。しかし近年は、がん細胞が持つ特定の分子や遺伝子異常を標的とした『分子標的薬』が次々に登場し、治療の考え方は大きく変わっています。

分子標的薬は、すべての胃がん患者さんが使用できるわけではありません。HER2やCLDN18.2など、がん細胞に特定の特徴が確認された場合に使用される薬剤であり、事前に行う病理検査やバイオマーカー検査が治療方針を決める重要な鍵になります。そのため「どのタイプの胃がんなのか」を見極めたうえで治療を組み立てることが基本になっています。

HER2陽性胃がんでは分子標的薬が第一選択

最も広く使用されている分子標的薬が、HER2を標的とした治療です。HER2は、がん細胞の増殖に関わるタンパク質の一つで、このタンパク質が過剰に発現している胃がんでは、通常よりも増殖する力が強くなることがあります。HER2陽性は進行胃がん全体の約15~20%に認められるとされており、診断時にはHER2検査を行うことが標準となっています。

HER2陽性と判定された場合には、抗がん剤にトラスツズマブ(ハーセプチン)を組み合わせた治療が第一選択になります。トラスツズマブはHER2へ選択的に結合し、がん細胞の増殖を抑えるだけでなく、免疫細胞ががん細胞を攻撃しやすくする働きもあります。

トラスツズマブが効かなくなった場合でも治療が終わるわけではありません。近年は『トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)』という抗体薬物複合体(ADC)が使用できるようになりました。ADCは、HER2を目印にして抗がん剤をがん細胞へ直接届ける仕組みを持つ薬剤です。

DESTINY-Gastric01試験では、これまで治療を受けたHER2陽性進行胃がん患者に対して、高い奏効率と生存期間の延長が報告されました。従来であれば治療選択肢が限られていた患者さんにも、新たな治療の可能性が広がっています。

参考:胃がんに対する二次治療としてのトラスツズマブ デルクステカンが生存期間を有意に延長|国立がん研究センター

CLDN18.2陽性胃がんでは新しい標準治療が始まっている

近年、胃がん領域で最も大きな話題の一つとなっているのが『CLDN18.2(クローディン18.2)』です。CLDN18.2は胃粘膜に存在するタンパク質ですが、一部の胃がんではがん細胞の表面に強く発現しています。このタンパク質を標的とする薬剤が「ゾルベツキシマブ(ビロイ)」です。

SPOTLIGHT試験では、CLDN18.2陽性・HER2陰性進行胃がんに対し、標準的な化学療法へゾルベツキシマブを追加することで、無増悪生存期間と全生存期間の改善が確認されました。これを受け、日本でも新たな治療選択肢として使用できるようになっています。

CLDN18.2はすべての胃がんで陽性になるわけではないため、使用には専用の検査が必要です。しかし、検査結果によっては治療成績の向上が期待できることから、今後ますます重要性が高まると考えられています。

参考:クローディン18.2陽性HER2陰性進行胃がんに対するゾルベツキシマブ+化学療法+ニボルマブ併用療法が有効な可能性|国立がん研究センター

血管新生を抑える分子標的薬も使用されている

胃がんは、成長するために新しい血管を作りながら栄養を取り込んでいます。この血管新生を抑える目的で使用されるのが『ラムシルマブ(サイラムザ)』です。ラムシルマブはVEGFR2という受容体を標的とし、腫瘍へ新しい血管が作られるのを抑えることで、がんの増殖を遅らせます。

一次治療終了後の二次治療では、パクリタキセルとラムシルマブを組み合わせた治療が広く行われています。RAINBOW試験では、この併用療法がパクリタキセル単独と比べて生存期間を延長することが示され、現在も世界各国のガイドラインで推奨されています。

参考:治療歴のある進行胃癌または食道胃接合部腺癌患者におけるRamucirumab+paclitaxel-療法 vs. プラセボ+paclitaxel療法:第III相二重盲検無作為化比較試験(RAINBOW)

分子標的薬は「使える人」が決まっている

分子標的薬は非常に高い治療効果が期待できる一方で、「胃がんなら誰でも使える薬」ではありません。HER2陽性でなければトラスツズマブやエンハーツは使用できませんし、CLDN18.2が確認されなければゾルベツキシマブの適応にはなりません。

逆に言えば、これらの検査を行わなければ、本来受けられる治療を見逃してしまう可能性もあります。だからこそ、進行胃がんでは診断時にHER2、PD-L1、MSI、CLDN18.2などのバイオマーカー検査を十分に行うことが重要となります。

免疫チェックポイント阻害薬 ― 免疫の力でがんと闘う新しい治療

胃がん治療は分子標的薬の登場だけでなく「免疫チェックポイント阻害薬」によっても大きく変わりました。これまでの抗がん剤は、がん細胞そのものを攻撃することが目的でした。一方、免疫チェックポイント阻害薬は、患者さん自身が持つ免疫の働きを回復させ、免疫細胞ががんを攻撃しやすい状態を作る治療です。この仕組みが従来の抗がん剤とは大きく異なるため、効果の現れ方や副作用にも違いがあります。

免疫療法は「誰にでもよく効く治療」ではありません。効果が期待できる患者さんと、そうでない患者さんがいることが分かっており、治療を始める前にはいくつかの検査結果を参考にして適応を判断します。

一次治療から免疫療法を併用するケース

進行胃がんでは、HER2陰性の患者さんを中心に、抗がん剤へ免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせる治療が標準となっています。代表的な薬剤が 『ニボルマブ(オプジーボ)』です。

国際共同第Ⅲ相試験である「CheckMate 649試験」では、HER2陰性進行胃がん・食道胃接合部がん患者を対象に、化学療法へニボルマブを追加した群で、生存期間の延長が確認されました。この結果を受け、日本でも条件を満たす患者さんでは、一次治療からニボルマブを併用することが推奨されています。

以前は「抗がん剤が効かなくなってから検討する治療」という位置付けでしたが、現在では診断直後から使用されることも珍しくありません。

参考:切除不能進行・再発胃/食道胃接合部/食道腺癌の1次治療におけるNivolumab+化学療法と化学療法を比較した国際共同無作為化オープンラベル比較第III相試験(CheckMate 649試験)

PD-L1検査は治療方針を決める重要な材料

免疫療法を検討する際に重要になる検査が『PD-L1検査』です。胃がんでは、PD-L1の発現を「CPS(Combined Positive Score)」という方法で評価します。この数値が高い患者さんでは、免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待しやすいことが知られています。

ただし、「PD-L1が低いから免疫療法はまったく効かない」という意味ではありません。PD-L1はあくまでも判断材料の一つであり、年齢や全身状態、転移の状況、ほかのバイオマーカーなども総合的に考慮したうえで治療方針が決められます。検査結果だけで治療が決まるわけではありませんが、今では欠かせない情報の一つになっています。

MSI-H胃がんでは高い治療効果が期待できる

免疫療法との関係で忘れてはならないのが『MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)』です。MSI-Hとは、がん細胞に多くの遺伝子異常が蓄積した状態を指します。このタイプの胃がんでは免疫細胞が異常を認識しやすくなるため、免疫チェックポイント阻害薬が高い効果を示すことがあります。

胃がん全体から見るとMSI-Hは多くありませんが、該当する患者さんでは治療方針そのものが変わる可能性があります。そのため、進行胃がんではMSI検査も重要な検査として位置付けられています。

抗がん剤とは異なる副作用

免疫療法は副作用が少ない治療というイメージを持たれることがあります。実際には吐き気や脱毛などは抗がん剤より少ない傾向がありますが、免疫療法には『免疫関連有害事象(irAE)』と呼ばれる特有の副作用があります。これは、活性化した免疫が正常な臓器まで攻撃してしまうことで起こる副作用です。

皮膚の発疹やかゆみ、甲状腺機能異常、肺炎、大腸炎、肝機能障害、副腎機能低下など、さまざまな臓器に影響する可能性があります。多くは早期に発見して適切な治療を行えば改善しますが、「少し息苦しい」「下痢が続く」「強いだるさがある」といった症状を軽く考えず、早めに主治医へ相談することが重要です。

免疫療法は長く効果が続く場合もある

免疫チェックポイント阻害薬の特徴の一つが、効果が現れた患者さんでは長期間病気をコントロールできることがある点です。

もちろん、すべての患者さんに同じ結果が得られるわけではありません。治療を開始しても十分な効果が得られない場合もありますし、途中で病気が進行することもあります。一方で、免疫療法がよく効いた患者さんでは、病気を長期間抑えながら日常生活を維持している例も報告されています。こうした治療成績が積み重ねられたことで、免疫チェックポイント阻害薬は現在の進行胃がん治療に欠かせない選択肢となりました。

抗がん剤、分子標的薬、免疫療法は、それぞれ役割が異なります。胃がん診療ではそれらを単独で考えるのではなく、患者さんの病状やバイオマーカーに応じて最適な組み合わせを選択することが標準になっています。

手術・放射線治療・内視鏡治療

胃がんステージ4では薬物療法が治療の中心になりますが、それだけで対応できるとは限りません。

胃は食べ物を一時的にため、十二指腸へ送り出す役割を担っています。そのため、がんが大きくなると食べ物の通り道が狭くなり、食事が十分に取れなくなることがあります。また、腫瘍から出血が続けば貧血が進行し、腹膜播種が広がれば腹水や腸閉塞などの症状が現れることもあります。こうした症状が強くなると、薬物療法を始めたくても体力が追いつかず、予定どおり治療を進められないことがあります。

胃がんステージ4では「がんを小さくする治療」と並行して、「食べられる状態を維持する治療」や「症状を和らげる治療」も重要になります。

胃を切除する手術が検討されるケース

ステージ4胃がんでは、診断時から胃を切除する手術を行うケースは多くありません。遠隔転移がある状態では、胃だけを切除しても体内に残った転移巣まで取り除くことはできないためです。しかし、例外があります。薬物療法によって原発巣と転移巣が大きく縮小し、画像検査などで根治切除が可能と判断された場合には、「コンバージョン手術」が検討されることがあります。

この手術は、最初から予定されているものではありません。薬物療法にどの程度反応したかを慎重に評価したうえで、「切除することによって長期的な病勢コントロールが期待できる」と判断された患者さんに限って行われます。適応となる患者さんは多くありませんが、胃がん治療の進歩によって、以前は手術が不可能と考えられていた症例でも新たな選択肢が生まれるようになっています。

食事が通らないときは、食べられる状態を取り戻す治療を優先

胃がんでは、腫瘍が胃の出口や食道との境目を狭くし、食事や水分が十分に通らなくなることがあります。食べられない状態が続けば、体重や筋力は急速に低下し、抗がん剤を続けることも難しくなります。こうした場合には、内視鏡で金属製のステントを留置して通り道を広げたり、胃と小腸をつないで食べ物の流れを確保する「胃空腸バイパス術」を行ったりすることがあります。

これらの治療は胃がんを根治するものではありませんが、栄養状態を改善し、その後の薬物療法へつなげるという重要な役割を担っています。「まず食べられるようにする」という判断が、結果的に治療全体の継続につながることも少なくありません。

放射線治療の目的

胃がんでは、放射線治療が第一選択になることは多くありません。一方で、腫瘍からの出血が続いている場合や、骨転移による強い痛みがある場合には、放射線治療が大きな効果を発揮することがあります。

特に出血性胃がんでは、輸血を繰り返さなければならないほど貧血が進行することもあります。そのような状況では放射線によって出血を抑えられる場合があり、患者さんの負担軽減につながります。また、骨転移による痛みや神経の圧迫症状に対しても、放射線治療は生活の質を維持するための重要な治療法として位置付けられています。

薬物療法だけでは改善しにくい症状に対して局所治療を組み合わせることで、日常生活を送りやすい状態を維持できることも少なくありません。

参考:経口摂取不良の切除不能胃癌に対する治療戦略|消化器癌治療の広場

緩和ケア・支持療法 ― 治療を続けるために欠かせない医療

「緩和ケア」と聞くと、「もう治療ができなくなった人が受ける医療」というイメージを持つ人は少なくありません。しかし、その考え方は既に大きく変わっています。緩和ケアは終末期だけに行われるものではなく、診断された早い段階から標準治療と並行して取り入れることが推奨されています。

緩和ケアの大きな役割は、がんによる痛みや吐き気、食欲低下、精神的な不安を和らげながら、抗がん剤や免疫療法を無理なく続けられるよう支えることです。治療そのものと対立するものではなく、治療を支える医療と考える方が実際の診療に近いでしょう。

緩和ケアの考え方

胃がんステージ4では、がんそのものよりも、病気によって起こる症状が日常生活へ大きな影響を及ぼすことがあります。例えば、腫瘍によって食べ物が通りにくくなれば十分な栄養を取ることができず、腹膜播種が進行すれば腹水による腹部膨満感や食欲低下が現れます。こうした症状が続くと体力や筋力は急速に低下し、本来受けられるはずだった薬物療法を続けられなくなることもあります。そのため、症状を我慢しながら治療を続けるのではなく、症状を積極的に改善しながら治療を継続するという考え方が基本になっています。

栄養管理

胃がんでは栄養管理が治療成績を左右することも珍しくありません。胃は食べ物を一時的にため、消化を助ける重要な臓器であるため、病気が進行すると少量しか食べられなくなったり、食後すぐに満腹感を覚えたりすることがあります。さらに腹膜播種や腹水が加わると、胃が十分に広がらず、以前と同じ量の食事を摂ることが難しくなります。

このような状態では、一度に多く食べようとするよりも、一日の食事回数を増やして少量ずつ栄養を補う方が体への負担は少なくなります。必要に応じて栄養補助食品や経腸栄養、点滴による栄養補給を組み合わせることもあり、管理栄養士が食事内容を調整しながら治療を支えるケースも増えています。

腹水への対応

腹膜播種を伴う患者さんでは、腹水への対応も重要になります。腹水が増えると、お腹の張りだけでなく呼吸のしづらさや食欲低下、歩行時の疲れやすさなど、日常生活のさまざまな場面へ影響が及びます。薬物療法によって腹水が減少することもありますが、症状が強い場合には腹水穿刺によって水分を排出し、苦痛を軽減する処置が行われることもあります。

腹水は「抜けば終わり」というものではなく、栄養状態や腎機能とのバランスを考えながら対応する必要があるため、病状に応じた個別の判断が欠かせません。

痛みのコントロール

痛みのコントロールも緩和ケアの重要な役割です。がんによる痛みは我慢するものではなく、適切に治療することで生活の質を大きく改善できる症状です。現在はアセトアミノフェンなどの鎮痛薬から医療用麻薬まで、痛みの程度に応じてさまざまな薬剤が使用されています。医療用麻薬に対して不安を抱く患者さんもいますが、医師の管理のもとで適切に使用すれば、依存を過度に心配する必要はありません。痛みを抑えることで睡眠や食事が改善し、その結果として体力を維持しやすくなることも少なくありません。

精神的な負担のケア

胃がんステージ4では、身体的な症状だけでなく、将来への不安や家族への心配など精神的な負担も大きくなります。こうした悩みに対しても、医師だけではなく看護師、薬剤師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、公認心理師など、多職種が連携して支援を行います。

治療を続けるかどうかという大きな判断だけではなく、「今食べられない」「夜眠れない」「家族へどう伝えればよいか」といった日常の困りごとについて相談できることも、緩和ケアの大切な役割です。

緩和ケアは自分らしい生活を続けられるように支える医療

緩和ケアは、治療を諦めるための医療ではありません。治療によって得られる効果を最大限に引き出し、患者さんが自分らしい生活をできるだけ長く続けられるよう支える医療です。胃がんステージ4では、薬物療法と同じくらい重要な柱として考えられており、症状を我慢せず早い段階から医療スタッフへ相談することが、結果として治療の継続や生活の質の向上につながります。

胃がんステージ4の生存率

胃がんは、早期に発見されれば手術だけで根治できる可能性が高いがんです。一方、遠隔転移を伴うステージ4では治療の目的が大きく変わるため、生存率にも大きな差が生じます。

国立がん研究センターの院内がん登録の長期予後データでは、ステージごとの5年・10年生存率は次のように報告されています。

病期 5年生存率 10年生存率
ステージI 約82.0% 約64.6%
ステージII 約59.7% 約44.0%
ステージIII 約37.5% 約25.2%
ステージIV 約6.2% 約3.4%

参考:院内がん登録生存率集計結果閲覧システム|がん情報サービス

この表からも分かるように、胃がんはステージⅢまでは一定数の患者さんで長期生存が期待できますが、遠隔転移を伴うステージⅣになると生存率は大きく低下します。ただし、この数字だけで「ステージ4なら必ず5年以内に亡くなる」という意味ではありません。

この統計には10年以上前に診断された患者さんも含まれており、現在では標準となっているHER2標的治療や免疫チェックポイント阻害薬、CLDN18.2を標的とした治療などの効果は十分に反映されていません。現在診断される患者さんでは、これらの新しい治療によって長期間病気をコントロールできるケースも少しずつ増えています。

同じステージ4でも病状には幅がある

「ステージ4」という診断名は同じでも、病状には大きな幅があります。肝臓へ小さな転移が一つだけ見つかった患者さんと、腹膜播種が広範囲に広がり腹水を伴っている患者さんでは、病気の進行速度も治療方針も異なります。同じステージ4でも、分子標的薬や免疫療法が高い効果を示す患者さんでは、これまでより長期間病勢をコントロールできることがあります。

「ステージ4の5年生存率は約6%」という数字は、あくまでも多くの患者さんを平均した結果であり、個々の患者さんの予後を示すものではありません。

ネット・サバイバルデータ

病期 5年ネット・サバイバル 10年ネット・サバイバル
ステージI 約92.8% 約79.1%
ステージII 約66.6% 約52.0%
ステージIII 約41.4% 約29.3%
ステージIV 約6.7% 約3.9%

参考:院内がん登録生存率集計結果閲覧システム|がん情報サービス

国立がん研究センターが公表している「ネット・サバイバル」でも、遠隔転移を伴う胃がんは、限局がんや領域リンパ節転移に比べて生存率が低いことが示されています。ネット・サバイバルとは、胃がん以外の死亡要因を統計学的に補正し「胃がんだけが原因だった場合の生存率」を推計した指標です。

このデータでも、遠隔転移例の5年生存率は10%未満と報告されており、ステージ4が依然として治療の難しい病期であることが分かります。

生存率を左右するのは「ステージ」だけではない

現在の胃がん診療では、ステージよりも細かい情報が治療成績へ影響することが少なくありません。

HER2陽性ではトラスツズマブを含む治療が選択できますし、治療経過によってはトラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)という新しい薬剤も使用できます。MSI-Hでは免疫チェックポイント阻害薬が高い効果を示すことがあり、CLDN18.2陽性ではゾルベツキシマブ(ビロイ)が新たな選択肢になります。

腹膜播種が主体なのか、肝転移が主体なのかによっても経過は異なります。腹膜播種では腹水や腸閉塞による栄養状態の悪化が問題になりやすい一方、肝転移が限局している患者さんでは薬物療法が奏効し、長期間病勢をコントロールできるケースもあります。

このように、生存率を決める要素は「ステージ4」という一つの診断名だけではありません。

生存率は現在の医学水準を示す数字

統計を見ると不安になるのは当然です。しかし、生存率は過去の患者さんの集計結果であり、「あなたがあと何年生きられるか」を示す数字ではありません。治療開始後すぐに病気が進行する患者さんもいれば、複数の薬物療法を受けながら5年以上仕事や日常生活を続けている患者さんもいます。近年は新しい薬剤の承認が相次いでおり、診断された時点では存在しなかった治療が、その後の治療中に選択肢へ加わることもあります。

生存率は現実を知るための大切な指標ですが、それだけで将来を決めつける必要はありません。現在受けられる治療を正しく理解し、自分の病状に合った選択肢を一つずつ検討していくことが、これからの治療を考えるうえで何より重要になります。

胃がんステージ4の余命 ― 平均余命や中央値の考え方

胃がんステージ4と診断されると、多くの患者さんやご家族が気になるのが「余命」です。

しかし、医学では「余命○年」と一律に表現することはほとんどありません。実際の臨床では『全生存期間中央値(Overall Survival:OS)』という指標が用いられます。これは臨床試験に参加した患者さんのうち、半数が生存していた期間を示すものであり、一人ひとりの余命を予測する数字ではありません。

近年は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場によって治療成績が改善しており、どの治療を受けられるかによって全生存期間にも違いがみられるようになっています。

まずは、現在の胃がん治療を代表する主要な臨床試験の結果を見てみましょう。

主な臨床試験で報告されている全生存期間中央値

臨床試験 主な対象 治療内容 全生存期間(OS中央値)
従来の標準化学療法※1 HER2陰性など 化学療法 約10~12か月
ToGA試験 HER2陽性 トラスツズマブ+化学療法 13.8か月
CheckMate 649試験 HER2陰性・PD-L1 CPS≥5 ニボルマブ+化学療法 14.4か月
ATTRACTION-4試験 HER2陰性(アジア) ニボルマブ+化学療法  約17.5か月※2
SPOTLIGHT試験 CLDN18.2陽性・HER2陰性 ゾルベツキシマブ+化学療法 18.2か月

※1 従来の標準化学療法は複数の臨床試験を参考にした概ねの目安です。
※2 ATTRACTION-4試験では無増悪生存期間(PFS)は有意に延長しましたが、全生存期間(OS)は統計学的な有意差を示しませんでした。試験ごとに対象患者や治療条件が異なるため、数値を単純に比較することはできません。

この表を見ると、進行胃がんの治療成績は新しい薬剤の登場によって少しずつ改善していることが分かります。

もちろん「18.2か月だから最も優れた治療」という意味ではありません。

SPOTLIGHT試験はCLDN18.2陽性患者だけを対象としていますし、ToGA試験はHER2陽性患者、CheckMate 649試験はPD-L1の発現状況を考慮した患者集団を対象としています。つまり、それぞれ『対象となる患者さんが異なるため、数字だけを横並びに比較することはできない』のです。

重要なのは、自分の胃がんがどのタイプに当てはまり、どの治療を受けられる可能性があるかを知ることです。

「全生存期間中央値」の意味

全生存期間中央値という言葉は「その期間しか生きられない」と誤解されることがあります。

例えばOS中央値が14.4か月と報告されている場合、それは14.4か月で全員が亡くなるという意味ではありません。実際には、それより短期間で病気が進行する患者さんもいれば、2年、3年、5年以上治療を続けながら生活している患者さんも含まれています。

中央値とは、患者さんを生存期間の短い順に並べたとき、ちょうど真ん中の患者さんが生存していた期間を表す統計学上の指標です。そのため、個人の余命を判断する数字として使うことはできません。

余命を左右するのは治療だけではない

同じ薬剤を使用していても、患者さんによって経過が異なるのは珍しいことではありません。年齢や持病、体力だけでなく、腹膜播種の有無、腹水の量、食事が十分に取れているかどうか、治療開始時の全身状態(Performance Status)など、多くの要素が予後へ影響します。

胃がんでは栄養状態が特に重要です。食事量が減って体重や筋肉量が大きく低下すると、予定していた治療を十分な量で継続できなくなることがあります。一方、症状を早期からコントロールし、栄養状態を維持できれば、二次治療や三次治療まで進める可能性が高まり、その結果として生存期間が延びることも期待できます。

余命は「がんの大きさ」だけでは決まりません。病気とどのように付き合いながら治療を続けられるかも、大きな要素になります。

新しい治療によって長期生存例も増え始めている

近年は、従来であれば難しいと考えられていた長期生存例も国内外から報告されています。

HER2陽性胃がんで分子標的薬が長期間奏効した症例、免疫チェックポイント阻害薬によって病勢を数年間コントロールできた症例、薬物療法によって転移巣が大きく縮小し、コンバージョン手術へ進んだ症例など、その内容はさまざまです。

もちろん、これらはすべての患者さんに当てはまるものではありません。しかし、「ステージ4だから余命は○か月」と断定できない理由も、このような症例が少しずつ増えていることにあります。新しい薬剤は現在も開発が続いており、診断された時点では利用できなかった治療が、その後の治療中に選択肢へ加わることもあります。

余命は「未来を決める数字」ではなく「治療を考えるための目安」

余命の数字は、これからの生活や治療について考えるための参考になります。一方で、その数字だけで将来を決めつける必要はありません。現在の胃がん治療は、HER2やCLDN18.2などの分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、さらに今後実用化が期待される新しい治療によって、少しずつ治療成績が改善しています。

大切なのは「平均は何か月か」という一点だけを見ることではなく、自分の胃がんにはどの治療が適しているのか、今後どのような選択肢が残されているのかを主治医と確認しながら、一つずつ治療を積み重ねていくことです。

次の章では、「胃がんステージ4でも完治する可能性はあるのか」という疑問について、コンバージョン手術や長期生存例、現在の医学的な考え方をもとに詳しく解説します。

胃がんステージ4でも完治する可能性はあるのか

「ステージ4でも完治することはありますか。」

これは、生存率や余命と並んで、患者さんやご家族から最も多く寄せられる質問の一つです。結論から言えば『胃がんステージ4が完治する可能性はゼロではありません。』しかし、早期胃がんのように手術だけで根治が期待できる病気とは異なり、その可能性は決して高くありません。一方で「ステージ4=絶対に完治しない」と断言することも、現在の医学では正確ではなくなっています。

近年は薬物療法の進歩によって、転移巣が画像上ほとんど確認できないほど縮小したり、切除不能と考えられていた胃がんが手術可能になったりする症例が報告されるようになりました。

まずは「完治」という言葉が医学的にどのような意味を持つのかを理解しておくことが大切です。

「完治」と「治癒」は意味が異なる

一般的には「がんがなくなれば完治」と考えられることが多いでしょう。しかし、医学では「画像検査でがんが見えなくなったこと」と「再発する可能性がほとんどなくなったこと」は区別して考えます。

例えば、抗がん剤や免疫療法によってCT検査で腫瘍が見えなくなったとしても、体内には画像では確認できないごく少数のがん細胞が残っている可能性があります。

そのため、医療現場では「完全奏効(Complete Response:CR)」という表現を用いることはあっても、「完治」と断言することはほとんどありません。特にステージ4胃がんでは、一度遠隔転移が確認されている以上、治療後も慎重な経過観察が必要になります。

コンバージョン手術によって長期生存が期待できるケース

現在、胃がんステージ4で最も「治癒」に近づける可能性がある治療として注目されているのが『コンバージョン手術(Conversion Surgery)』です。これは、診断時には切除できないと判断された胃がんに対して薬物療法を行い、その結果、原発巣や転移巣が大きく縮小して根治切除(R0切除)が可能になった場合に手術を行う治療戦略です。

例えば、肝転移が少数に限られている症例や、リンパ節転移が薬物療法によって著しく縮小した症例では、胃と転移巣を切除することで長期間再発なく経過する患者さんも報告されています。

もちろん、この治療を受けられる患者さんは限られています。腹膜播種が広範囲に広がっている場合や、複数の臓器へ転移している場合には適応が難しいことも少なくありません。さらに、R0切除が達成できても再発リスクは残ることは忘れてはならない事実です。それでも「ステージ4だから最初から手術は不可能」と考えられていた時代と比べると、治療の可能性は確実に広がっています。

腹膜播種でも手術を目指せるケース

胃がんステージ4では、腹膜播種を伴う患者さんが少なくありません。以前は、腹膜播種が確認された時点で根治手術はほぼ不可能と考えられていました。しかし近年では、薬物療法によって腹膜播種が著しく縮小し、腹腔鏡検査でも活動性がほとんど認められなくなった患者さんに対して、コンバージョン手術が行われるケースも報告されています。

実際には非常に慎重な判断が必要であり、すべての患者さんが対象になるわけではありません。それでも、「腹膜播種がある=治療は緩和ケアだけ」という時代ではなくなったことは、現在の胃がん診療における大きな変化の一つです。

長期生存例の特徴

国内外から報告されている長期生存例を見ると、いくつか共通する特徴があります。

一つは、薬物療法が非常によく効いたことです。HER2陽性胃がんではトラスツズマブを含む治療によって長期間病勢をコントロールできた症例が報告されていますし、近年では免疫チェックポイント阻害薬やトラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)が著効した症例も報告されています。

もう一つは、「R0切除」が達成できた症例です。R0切除とは、画像上だけではなく、病理学的にもがんを完全に切除できた状態を指します。コンバージョン手術後にR0切除が達成された患者さんでは、5年以上再発なく経過している症例も報告されており、長期生存を期待できる重要な因子と考えられています。

もちろん、これらは一部の患者さんで得られた結果であり、すべての患者さんへ当てはまるものではありません。

「完治」を目標にするか「長く病気をコントロールするか」はケースバイケース

現在の胃がんステージ4治療では、「完治だけ」を唯一の目標にしているわけではありません。病気をできるだけ長くコントロールしながら、自分らしい生活を続けることを重視する患者さんも多くいます。実際、分子標的薬や免疫療法によって数年間仕事や家庭生活を続けながら治療を受けている患者さんもいます。一方で、薬物療法への反応が非常によく、コンバージョン手術を目指せる患者さんもいます。

どちらが正しいということではなく、病気の状態や患者さん自身が大切にしたいことによって、治療の目標は変わります。「ステージ4だから何もできない」という考え方ではなく、「今の病状ならどこまで治療を目指せるのか」を一人ひとり検討することが重要になっています。

標準治療以外の選択肢 ― 自由診療・治験・先進的な治療について

胃がんステージ4の治療を続けていると「標準治療が効かなくなったら、もう方法はないのでしょうか」という不安を抱く患者さんは少なくありません。インターネットで情報を調べると「最新治療」「自由診療」「海外では新しい治療が受けられる」といった情報が数多く見つかりますが、その内容は玉石混交であり、科学的根拠が十分に示されていないものも含まれています。

まず知っておきたいのは「標準治療が終了したからといって、直ちに治療の選択肢がなくなるわけではない」ということです。胃がんでは二次治療、三次治療まで見据えて治療計画が立てられることが一般的になっており、新しい薬剤への切り替えや、バイオマーカーの再評価、治験への参加など、病状によって検討できる選択肢が残されている場合があります。自由診療を考える前に、現在の医学的根拠に基づいて利用できる治療を整理することが大切です。

治験は新しい治療を受けられる可能性の一つ

治験という言葉に「ほかに治療法がなくなった人だけが参加するもの」という印象を持っている方もいるかもしれません。しかし実際には、新しい薬剤や治療法の有効性・安全性を検証するため、さまざまな段階の患者さんを対象に実施されています。

胃がん領域では、HER2を標的とした新しい抗体薬物複合体(ADC)、CLDN18.2やFGFR2bを標的とする薬剤、二重特異性抗体、新しい免疫療法など、多くの治験が国内外で進められています。標準治療では十分な効果が得られなかった患者さんにとって、新しい治療へアクセスできる可能性があることは治験の大きな意義です。

治験は研究の一環であり、必ず高い効果が得られることを保証するものではありません。期待した結果が得られない可能性や、予測されていない副作用が現れる可能性もあります。参加する際には治療内容だけでなく、期待できる利益と考えられるリスクについて十分な説明を受け、自分自身が納得したうえで判断することが重要です。

参考:胃がん 臨床試験|国立がん研究センター がん情報サービス

自由診療を検討するときに重要なこと

自由診療には、公的医療保険が適用されない治療が含まれます。なかには海外では承認されている薬剤を国内で自費診療として使用するケースや、自由診療だからこそ受けられる検査や治療を提供している医療機関もあります。一方で「がんが消える」「標準治療より優れている」といった表現で十分な科学的根拠が示されていない治療が紹介されていることもあり、慎重な判断が必要です。

自由診療というだけで効果が高いわけではありませんし、標準治療より優れていることが証明されているわけでもありません。治療を検討する際には「どのような臨床試験で効果が確認されているのか」「医学論文として公表されているのか」「国内外のガイドラインでどのように位置付けられているのか」を確認することが欠かせません。

費用面についても十分に理解しておく必要があります。自由診療では数十万円で済むものもあれば、治療を継続することで数百万円以上の費用がかかる場合もあります。期待できる効果と経済的負担の両方を踏まえ、家族や主治医とも相談しながら検討することが大切です。

腹膜播種に対する新しい治療の研究が進められている

胃がんステージ4で特に課題となる腹膜播種については、現在も新しい治療法の研究が続けられています。

代表的なものの一つが、腹腔内へ抗がん剤を投与する『腹腔内化学療法』です。点滴による全身化学療法では届きにくい腹膜播種へ直接薬剤を届けることを目的とした治療で、国内外の臨床研究が進められています。ただし、現時点ではすべての患者さんに対する標準治療ではなく、実施できる施設や適応となる患者さんは限られています。

このほかにも、温熱療法を組み合わせた治療や、新しいドラッグデリバリーシステムを利用した治療法などが研究されていますが、多くはまだ検証段階です。「新しい治療だから優れている」と考えるのではなく、どの程度の医学的根拠があるのかを確認したうえで判断することが重要です。

参考:大腸癌腹膜播種に対する腹腔内化学療法におけるドラッグデリバリーシステムの工夫|KAKEN

標準治療を土台に考えることが後悔の少ない治療選択に繋がる

新しい治療へ期待を持つことは決して悪いことではありません。しかし、標準治療には長年の臨床試験によって有効性と安全性が確認され、多くの患者さんで利益が証明されてきたという大きな強みがあります。日本や欧米のガイドラインでも、まずは標準治療を基本とし、そのうえで治験や新しい治療の可能性を検討することが推奨されています。

標準治療が思うような結果につながらなかった場合でも、次の薬剤への変更や治験への参加、新しい分子標的薬の適応確認など、検討できる選択肢が残されていることは少なくありません。「標準治療か自由診療か」という二者択一で考えるのではなく、その時点で利用できる医学的根拠のある治療を一つずつ整理し、自分に合った選択肢を見極めていくことが、納得できる治療につながります。

胃がんステージ4の最新治療 ― 今後期待されている新しい治療法

胃がんの治療は、この10年ほどで大きく進歩しました。以前は、進行胃がんに対する治療といえば抗がん剤が中心で、一つの薬剤が効かなくなると選択肢は限られていました。しかし治療の進歩によって、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が標準治療として定着し、患者さんのがん細胞の特徴に応じて治療を選択する時代へ変わっています。

現在も新しい分子標的薬や抗体薬物複合体(ADC)、免疫療法などの研究が世界中で進められており、数年前には存在しなかった治療が次々と実用化されています。こうした新しい治療法は、すべての患者さんがすぐに受けられるわけではありません。しかし「標準治療が終われば治療法はなくなる」という時代ではなくなってきていることは、胃がん診療における大きな変化といえるでしょう。

抗体薬物複合体(ADC)は胃がん治療を大きく変えつつある

近年、最も注目されている治療の一つが『抗体薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate:ADC)』です。

ADCは、分子標的薬の「狙った細胞へ結合する力」と、抗がん剤の「がん細胞を攻撃する力」を組み合わせた薬剤です。標的となるタンパク質を持つがん細胞へ選択的に薬剤を届けることで、正常な細胞への影響をできるだけ抑えながら高い治療効果を目指します。

胃がんでは、HER2陽性患者を対象とした「トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)」が代表例です。DESTINY-Gastric01試験では、従来治療後のHER2陽性進行胃がんにおいて高い奏効率と生存期間の延長が報告されました。

現在はHER2以外にも、新たな標的分子に対するADCの開発が進んでおり、今後さらに治療の幅が広がることが期待されています。

分子標的薬は「HER2だけ」の時代ではなくなった

胃がんの分子標的治療は、HER2を中心に発展してきました。しかし近年は、それ以外の分子を標的とする薬剤も相次いで登場しています。その代表が『CLDN18.2』です。CLDN18.2陽性胃がんでは、ゾルベツキシマブ(ビロイ)が標準治療へ加わり、SPOTLIGHT試験では全生存期間の延長が報告されました。

さらに現在は『FGFR2b』を標的とするベムマリツズマブ(Bemarituzumab)の国際共同試験も進められています。FGFR2bは一部の胃がんで高発現しており、この分子を標的とした治療によって生存期間のさらなる改善が期待されています。

今後はHER2だけでなく、CLDN18.2やFGFR2bなど複数のバイオマーカーを評価し、それぞれに適した薬剤を選択する流れがさらに進むと考えられます。

免疫療法も新しい組み合わせが研究されている

免疫チェックポイント阻害薬は、すでに一次治療の標準となっていますが、研究は現在も続いています。

PD-1阻害薬と新しい免疫調節薬を組み合わせる治療や、分子標的薬との併用療法など、多くの国際共同試験が進行しています。HER2陽性胃がんでは、抗HER2療法と免疫療法を組み合わせることで治療効果をさらに高められる可能性も報告されており、今後の結果が注目されています。

免疫療法は「単独で使う治療」から、「他の治療と組み合わせて効果を高める治療」へ発展しつつあります。

がんゲノム医療によって新しい治療へつながる可能性もある

標準治療が終了した患者さんでは『がん遺伝子パネル検査』が提案されることがあります。この検査では数百種類の遺伝子異常を一度に調べることができ、特定の遺伝子変異が見つかった場合には、治験や適応となる分子標的薬を検討できることがあります。

現時点では、胃がん患者さん全員が新しい治療へ結び付くわけではありません。それでも、従来であれば治療選択肢が限られていた患者さんに対して、新たな可能性を見つける手段として期待されています。がんゲノム医療は「現在使える薬を探す検査」であると同時に、「これから受けられる可能性のある治療」を探す検査でもあります。

最新治療は根拠を確認することが重要

新しい治療法が次々と報道されると「最新治療の方が標準治療より優れているのではないか」と感じる方もいるでしょう。しかし、医学では「新しい治療」であることと「効果が証明されている治療」であることは同じではありません。

現在の標準治療になっている薬剤も、長い年月をかけた臨床試験によって有効性と安全性が確認されたからこそ、多くの患者さんへ使用されるようになりました。これから登場する新しい薬剤も同じです。有望な結果が報告されていても、さらに大規模な臨床試験で有効性が確認されなければ標準治療にはなりません。

最新治療を検討する際は「新しい治療だから受けたい」と考えるのではなく、その治療がどの段階まで研究され、どのような患者さんを対象としているのかを確認することが重要です。

胃がん治療は今も進歩を続けています。数年前には存在しなかった薬剤が現在では標準治療となり、現在研究段階にある薬剤が数年後には新たな選択肢になっている可能性もあります。新しい情報を正しく理解し、標準治療と最新治療の位置付けを整理しながら治療方針を考えることが、納得のいく選択につながるでしょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 胃がんステージ4でも手術を受けられることはありますか?

あります。

一般的には、遠隔転移を伴うステージ4では薬物療法が治療の中心になりますが、薬物療法によって腫瘍や転移巣が大きく縮小し、根治切除(R0切除)が可能と判断された場合には「コンバージョン手術」が検討されることがあります。ただし、適応となる患者さんは限られており、すべてのステージ4胃がんで手術ができるわけではありません。

Q2. 胃がんステージ4でも仕事を続けることはできますか?

病状や治療内容によって異なりますが、仕事を続けながら治療を受けている患者さんも少なくありません。最近の抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬は外来で受けられるものも多く、副作用をコントロールしながら通院治療を続けられるケースが増えています。

一方で、体力や栄養状態によっては勤務時間の調整や休職が必要になることもあります。無理を続けるよりも、主治医や勤務先と相談しながら働き方を見直すことが、長く治療を続けるためには重要です。

Q3. 食事で気を付けることはありますか?

特別な「胃がんに効く食事」はありません。大切なのは十分な栄養を維持することです。

胃がんステージ4では、一度に多く食べることが難しくなる場合があります。そのようなときは、一日3食にこだわらず、少量ずつ回数を分けて食べるほうが負担を減らせることがあります。食欲低下や体重減少が続く場合には早めに主治医や管理栄養士へ相談しましょう。

Q4. セカンドオピニオンを受ける意味はありますか?

あります。特にステージ4では、HER2、CLDN18.2、MSI、PD-L1などの検査結果によって治療方針が変わることがあります。また、治験を実施している施設や、コンバージョン手術を積極的に検討している医療機関など、病院によって対応が異なることもあります。

現在の治療に納得したうえで前向きに治療を受けるためにも、セカンドオピニオンは有効な選択肢の一つです。

Q5. 標準治療が終わったら、もう治療法はないのでしょうか?

必ずしもそうではありません。二次治療、三次治療へ進める場合もありますし、HER2陽性やCLDN18.2陽性などでは、新しい薬剤が使用できる可能性もあります。さらに治験への参加やがん遺伝子パネル検査によって、新たな治療選択肢が見つかることもあります。

標準治療が終了したからといって、すべての治療が終わるとは限りません。

Q6. 禁煙や禁酒をすると治療効果は変わりますか?

喫煙は手術後の回復を遅らせるだけでなく、抗がん剤治療中の合併症や肺炎などのリスクを高めることが知られています。また過度の飲酒は肝機能へ影響し、治療の継続が難しくなる場合もあります。

禁煙や節酒だけで胃がんが治るわけではありませんが、治療を安全に続けるためにも生活習慣を見直すことは大切です。

Q7. 胃がんステージ4でも旅行や外出はできますか?

病状が安定しており、主治医から制限を受けていなければ、旅行や外出を楽しんでいる患者さんもいます。ただし、抗がん剤投与直後や体調が不安定な時期は無理をせず、旅行先で医療機関を受診できるかどうかも事前に確認しておくと安心です。

生活をすべて我慢するのではなく、体調と相談しながら自分らしい時間を過ごすことも、治療を続けるうえで大切な要素になります。

胃がんステージ4でも自分に合った治療を選択することが大切

胃がんステージ4は、遠隔転移を伴う進行した状態であり、決して簡単に治療できる病気ではありません。しかし、現在は抗がん剤だけでなく、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの登場によって、治療の選択肢は以前より大きく広がっています。

さらに、HER2やCLDN18.2などのバイオマーカーに応じて治療を選択する個別化医療が進み、一部の患者さんではコンバージョン手術による長期生存も期待できるようになってきました。新しい薬剤や治療法の研究も世界中で続いており「ステージ4だから何もできない」という時代ではなくなっています。

一方で、インターネットにはさまざまな情報があふれており、すべてが科学的根拠に基づいているとは限りません。治療を選択するときは、生存率や余命といった数字だけを見るのではなく、自分の病状や遺伝子・バイオマーカーの特徴、生活で大切にしたいことなども含めて、主治医と十分に相談しながら判断することが重要です。

胃がんステージ4の治療は、一つの治療法だけで完結するものではありません。その時々の病状に合わせて最適な選択肢を積み重ねていくことが、長く病気と向き合うための第一歩になります。不安や疑問を一人で抱え込まず、必要に応じてセカンドオピニオンも活用しながら、自分にとって納得できる治療を選択していきましょう。

参考:
胃癌治療ガイドライン|一般社団法人 日本胃癌学会
胃がん|国立がん研究センター がん情報サービス
ゲノム医療について|厚生労働省
胃がん 治療|国立がん研究センター がん情報サービス
Herceptin の主要な試験(ToGA)でHER2陽性胃がんにおいて有意な延命効果が認められる
抗悪性腫瘍剤 「エンハーツ®」の日本におけるHER2陽性胃がんの二次治療に係る添付文書改訂のお知らせ
胃がんに対する二次治療としてのトラスツズマブ デルクステカンが生存期間を有意に延長|国立がん研究センター
クローディン18.2陽性HER2陰性進行胃がんに対するゾルベツキシマブ+化学療法+ニボルマブ併用療法が有効な可能性|国立がん研究センター
治療歴のある進行胃癌または食道胃接合部腺癌患者におけるRamucirumab+paclitaxel-療法 vs. プラセボ+paclitaxel療法:第III相二重盲検無作為化比較試験(RAINBOW)
切除不能進行・再発胃/食道胃接合部/食道腺癌の1次治療におけるNivolumab+化学療法と化学療法を比較した国際共同無作為化オープンラベル比較第III相試験(CheckMate 649試験)
経口摂取不良の切除不能胃癌に対する治療戦略|消化器癌治療の広場
院内がん登録生存率集計結果閲覧システム|がん情報サービス
胃がん 臨床試験|国立がん研究センター がん情報サービス
大腸癌腹膜播種に対する腹腔内化学療法におけるドラッグデリバリーシステムの工夫|KAKEN

印環細胞がん(signet-ring cell carcinoma/SRCC)は、胃がんの中でも特徴的な病理型のひとつで、細胞内の粘液(ムチン)によって顕微鏡で印環状に見えることが名前の由来です。胃がん全体の約10%を占めるとされ、若年層や女性に多い傾向も報告されています。進行するとスキルス胃がんの形態をとることがあり、胃部不快感、腹痛、食欲低下、体重減少、貧血などをきっかけに見つかる場合もあります。

本ページでは、印環細胞がんの特徴や原因、症状、検査(胃カメラ・生検・画像検査)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • 胃がんの中でも、少し特殊なタイプ(胃がんの約10%)
  • 胃カメラで疑う部分を見つけ、組織を取って調べて確定する
  • 見つかった後はCTなどで広がりを確認し、治療の方針を決めていく

印環細胞がんとは

印環細胞がん( 印環細胞癌、signet-ring cell carcinoma/SRCC)は、胃にできる悪性腫瘍(胃がん)の中でも特徴的な病理型の1つに分類され、胃がん全体の約10%を占めると言われています。

細胞内に多量の粘液(ムチン)を含むことで核が細胞の辺縁に押しやられ、顕微鏡下で指輪(印環)状に見える構造をしています。胃以外にも、大腸や肺など他の臓器にも印環細胞がんが発生することがあります。

発症年齢は一般的な胃がんと比べて比較的若年層や女性に多い傾向があり、発生部位は胃体部から幽門部にかけてみられることが多いとされています。病変が進行すると、胃壁全体が硬く厚くなる「スキルス胃がん」の形態をとることもあります。病変が大きくなるにつれて、胃部不快感、腹痛、食欲低下、体重減少、貧血などの症状が出現し、検査をきっかけに発見される場合もあります。

胃印環細胞がんは、リンパ節転移や腹膜播種を起こしやすい傾向があるため、早期発見と手術・化学療法を組み合わせた集学的治療が重要です。

胃印環細胞がんの予後は病期により大きく変わります。リンパ節転移や遠隔転移を伴わない早期胃がんでは、5年生存率は一般に95%以上と報告されており、良好な予後が期待できます。一方で、進行例では5年生存率はおおよそ30〜40%程度に低下し予後不良とされています。

参考:
Signet-ring cell carcinoma of the stomach: Impact on prognosis and specific therapeutic challenge|PubMed Central(PMC)
Effect of double-layer structure in intramucosal gastric signet ring cell carcinoma on lymph node metastasis: a retrospective, single-center study|京都大学学術情報リポジトリ KURENAI
胃印環細胞癌の臨床病理学的検討|CiNii Research
Molecular profiling of signet-ring-cell carcinoma (SRCC) from the stomach and colon reveals potential new therapeutic targets|Oncogene(Nature Portfolio)

印環細胞がんの原因

印環細胞がんは、なぜ発症するのかがまだ完全には分かっていないがんです。ただし、これまでの研究から、発症の原因の1つに遺伝(生まれつきの体質)が関与していると報告されています。

特にCDH1遺伝子に異常があると、細胞同士の結びつきが弱くなり、印環細胞がんができやすくなることが知られています。その他にも遺伝子異常によって印環細胞がんを含む胃癌が発生することが分かっています。

印環細胞がんの診断

印環細胞がんは、画像検査、病理検査などを組み合わせて診断します。

診断で最も重要なのが、胃カメラ(内視鏡検査)です。胃カメラでは、胃の中を直接観察し、粘膜の色調や形、硬さなどの変化を詳しく調べます。

内視鏡検査中に異常が疑われる部分が見つかった場合には、その場で組織の一部を採取します。これは生検と呼ばれ、採取した組織を顕微鏡で詳しく調べることで、印環細胞がんかどうかを確定します。細胞の中に粘液がたまり、核が端に押しやられた特徴的な形が確認されると、印環細胞がんと診断されます。この病理検査が、診断を確定するための最も重要な検査です。

がんと診断された後は、病変がどこまで広がっているかを調べるために画像検査が行われます。CT検査などによって、胃の周囲のリンパ節や他の臓器への転移がないかを確認し、必要に応じて腹膜への広がりや腹水の有無も調べます。これらの結果をもとに、がんの進行度である病期(ステージ)が決定され、治療方針が検討されます。

このように、印環細胞がんは診断が難しいがんであるため、血液検査や画像検査、病理診断を組み合わせた丁寧な検査が必要となります。患者様の状態によって実施すべき検査が異なりますので、具体的には消化器外科や腫瘍内科など専門の先生と相談して検査内容や種類を決定していくのがおすすめです。

印環細胞がんの一般的な治療法

胃の印環細胞がんの治療は、がんの進行度(ステージ)や患者さんの全身状態に応じて決定されます。治療の中心となるのは、手術と抗がん剤治療を組み合わせた「集学的治療」です。

がんが胃の粘膜や粘膜下層にとどまっている早期の段階では、手術によってがんを完全に取り除くことで、治癒が期待できます。がんが胃の壁の深い部分まで及んでいる場合や、リンパ節転移の可能性がある場合には、外科手術が治療の中心となります。手術では、がんのある胃の一部、または全体を切除し、周囲のリンパ節もあわせて取り除きます。これにより、目に見えないがんの広がりも含めて治療することを目指します。

進行した印環細胞がんでは、手術だけでなく抗がん剤治療を併用することが一般的です。手術の前に抗がん剤を使用してがんを小さくする場合や、手術後に再発を防ぐ目的で抗がん剤を使用する場合があります。抗がん剤は、体内に残っている可能性のあるがん細胞を抑える役割を果たします。

一方で、腹膜播種や遠隔転移がある場合には、手術による根治が難しいこともあります。その場合は、抗がん剤治療が治療の中心となり、がんの進行を抑えながら症状の改善や生活の質を保つことを目的とした治療が行われます。

印環細胞がんにおける保険診療の限界

印環細胞がんに対する保険診療には、化学療法や手術、放射線療法などがあります。手術法の発達や化学療法・放射線療法の進歩といった医療界の発展により印環細胞がんの治療法が発展してきましたが、保険診療では治療が困難な場合もあります。

実施できる化学療法の制限

保険診療では印環細胞がんで使用できる抗がん剤の数に制限があります。

印環細胞がんではがん細胞のタイプに合わせて様々な抗がん剤を使い分けます。しかし、個人差はありますが通常3~4種類程度しか有効な薬物療法(レジメン)はありません。

そのため、使用できる薬物を使い切った場合、もしくは体に合わない場合には、選択できる薬剤や治療はもう存在しないと医師から言われてしまいます。

また、1個の新しい抗がん剤などの薬物が開発されるまでには10~20年かかると言われているため、治療中に新規抗がん剤が市場に出現することは稀と言えるでしょう。

化学療法の「きつい」副作用

印環細胞がんの化学療法では抗がん剤などを用いますが、その副作用は抗がん剤の種類や患者様により個人差があります。抗がん剤などの一般的な副作用は、嘔気、食欲不振、下痢、手足のしびれ、倦怠感、発疹、貧血、高血圧、脱毛などです。また、使用する薬物療法の種類によっては、命に関わる合併症や副作用が起きるケースもあり、注意が必要です。

患者様の中には、最初は問題なくても副作用がきつく続けられないと感じる方もいらっしゃいます。また、頑張って化学療法を続けていても副作用のせいで日常生活が楽しく送れずに気分が落ち込む患者様もいらっしゃいます。

保険診療ではカバーしきれない印環細胞がんの再発

印環細胞がんを含む胃癌は、再発率が高い腫瘍であるため、手術前後に抗がん剤が用いられることが多いです。進行胃がんにおいて手術のみでの治療した場合は、3年間での無再発率は約60%でしたが、抗がん剤を併用することで、約75%にまで向上しました。

しかし、4人に1人の方はいまだに再発して命を落とすリスクがあるとも言えます。

また、抗がん剤治療はつらい副作用もあるため、体力があまり無い高齢の患者様や副作用が心配な患者様には実施できません。

参考:海外で行われたCLASSIC試験・国内で行われたJ-CLASSIC-PII試験および胃癌術後補助化学療法におけるオキサリプラチン併用療法に関する日本胃癌学会ガイドライン委員会のコメント|日本胃癌学会

がんの性質に直接アプローチする「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」がおすすめ

近年、発症や進行に関わる分子レベルの異常に着目した核酸医薬が注目され、研究・臨床応用が進んでいます。

がん中央クリニックグループでは、根本的な原因に直接作用することが期待される「アプタマー」「RNA干渉を利用した核酸医薬(siRNA など)」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を、新たな治療の選択肢として提供しています。

アプタマー核酸医薬は、がんに特有に発現している異常なタンパク質に結合することで、その働きを抑えてがん細胞の増殖を抑制したり死滅させたりする次世代の治療薬です。

miR-34a mimic 核酸医薬は、がんになって失われた体に本来備わる「がんを抑える力」を取り戻す新しい治療薬であり、がんの成長や増殖を止め、自然ながん細胞の死滅を促します。

以上のような遺伝子レベルでの最新の治療薬をがん中央クリニックグループのクリニックでは実施できます。

欧米では、がんの部位ではなくどのような遺伝子やタンパク質異常があるか、ということに注目して治療法を決定する研究や臨床試験が行われています。日本では一部の遺伝子レベルの治療を保険でも行われていますが、国際的には遺伝子レベルの治療において遅れを取っています。

がん中央クリニックグループのクリニックではいち早く遺伝子レベルの異常に焦点をあてた診察、治療を導入しています。

「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」治療をオススメする患者様

「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」は印環細胞がんのほとんどの患者様におすすめできる治療法です。

どのような患者様に効果が期待できるのかを以下に具体的に解説します。ぜひご自身のパターンに合わせて治療をご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

印環細胞がんでは、病状や体力、副作用などの理由で、保険診療の標準治療だけでは選択肢が限られることがあります。そうした場合でも、がんに関わる分子レベルの異常に着目する核酸医薬は、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供することが可能です。

核酸医薬(アプタマー、miR-34a mimic)は目立った副作用が現れにくく、「体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方でも、治療の提案が可能です。

さらに、まだ治療ができる体力があるにもかかわらず選択肢がなくなり、緩和を勧められている方にとっても、新たな治療の選択肢として検討いただけます。

がん中央クリニックグループでは、核酸医薬を含め、様々な治療を組み合わせながら患者様の状態や疾患に応じて、患者様一人ひとりに合わせたテーラーメイドのがん治療を提案、提供しています。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」は、印環細胞がんへの化学療法などの薬物療法や放射線療法と併用でき、治療効果として相乗効果が期待できます。

なぜなら、化学療法は産生された印環細胞がんの細胞やたんぱく質に作用しますが、「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」は、がん細胞やたんぱく質が産生される前段階に作用するため、印環細胞がんの細胞に対して作用するポイントが異なるからです。

そのため、「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」は、抗がん剤治療などの薬物治療や放射線療法といった標準治療を行っている患者様におすすめできる治療法です。印環細胞がんの症例では、手術前や手術後も抗がん剤治療を行う場合がありますが、そのような患者様にもおすすめできます。

がんは放置していると大きくなっていくため、印環細胞がんでは様々な治療法を組み合わせてがんを小さくすることが重要です。標準治療に加えて「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」を併用することで、異なる治療手段から印環細胞がんの縮小を目指せます。

印環細胞がんは胃がんの中でも悪性度が極めて高いと言われています。そのため、完治を目指すためには様々な治療法を組み合わせて治療を行うことが重要です。

再発を抑制、防止するため。手術前後のすべての患者様

印環細胞がんが発見され手術を行った場合、3年以内に40%の患者様が再発すると報告されています。

保険診療ではこの高確率での再発を抑制させるため、術前化学療法や術後補助化学療法という抗がん剤治療が勧められるケースが多いです。しかし、特に抗がん剤治療には副作用もあるため、体力があまり無い高齢の患者様や副作用が心配な患者様には実施できません。

また、抗がん剤治療を併用しても4人に1人の方はいまだに再発するリスクがあります。したがって、印環細胞がん手術前後のあらゆる患者様は「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」を併用し、再発する可能性を少しでも低くすることが重要と言えます。

治療継続可能な副作用

「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」には目立った副作用が起こりにくいです。特に、化学療法で起きやすい嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。また、ホルモン治療でものぼせや発汗、血栓症などのリスクがあります。 副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などがあります。解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半であり、治療を継続するのに支障をきたしません。

「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療をを続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」といった方でも受けていただける治療となっております。

印環細胞がんの完治を目指して保険診療と患者様に合った自由診療を組み合わせるのがおすすめ

印環細胞がんは完治(治癒)を目指せる疾患であり、適切に治療を行うことが重要です。

印環細胞がんの発症要因の1つとして遺伝子異常があるため、保険診療と「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」を組み合わせることがおすすめです。保険診療ではカバーできない場合にも、「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」を行うことで腫瘍縮小効果や再発抑制効果などが期待できます。

がん中央クリニックグループのクリニックではこのような「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがんの自由診療を提案いたします。印環細胞がんの患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。