”新しい未来をともに”最先端のがん治療を追求するがん治療専門クリニック ”新しい未来をともに”最先端のがん治療を追求するがん治療専門クリニック

胃がんstomach-cancer

スキルス胃がんは、がん細胞が胃の粘膜表面にかたまりをつくらず、胃壁の内部にしみ込むようにして広がっていくタイプの胃がんです。医学的には「びまん性浸潤型胃がん」「4型胃がん」と呼ばれ、胃がん全体の約10〜20%を占めます。

進行が速いうえ、内視鏡検査でも見つけにくいため、発見時にはすでに進行しているケースが目立ちます。初期には自覚症状がほとんどなく、胃もたれ、食欲不振、少し食べただけで満腹になる、体重減少などをきっかけに見つかることがあります。

本ページでは、スキルス胃がんの特徴や原因、症状、診断(内視鏡検査・審査腹腔鏡)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • 胃壁の内部にしみ込むように広がるタイプで、胃がん全体の約10〜20%を占める
  • 内視鏡でも見つけにくく、発見時にはすでに進行しているケースが多い
  • 腹膜播種を起こしやすく、抗HER2薬などの分子標的薬が使いにくい

スキルス胃がんとは

胃がんは、がん細胞の特徴によっていくつかのタイプに分けられます。

なかでも治療が難しいとされているのが「スキルス胃がん」です。

スキルス胃がんは、がん細胞が胃の粘膜表面にかたまり(腫瘍)をつくらず、胃壁の内部にしみ込むようにして広がっていくタイプの胃がんです。医学的には「びまん性浸潤型胃がん」あるいは「4型胃がん(ボールマン4型)」と呼びます。がん細胞が胃壁の中を這うように浸潤していくため、胃全体が硬く厚くなっていきます。

胃がん全体のうち、スキルス胃がんが占める割合はおよそ10〜20%です。組織型でみると、低分化腺がんや印環細胞がんと呼ばれる未分化型が大半を占めます。

他の胃がんと比べたときの特徴は、次のとおりです。

進行が速い 
増殖するスピードが速く、短期間のうちに病期が進んでいきます。

発見が遅れやすい
内視鏡検査でも見つけにくく、発見時にはすでに進行しているケースが目立ちます。

腹膜播種を起こしやすい
がん細胞が胃壁を突き破り、お腹の中に散らばる腹膜播種が高頻度で発生します。

若年・女性に比較的多い

以上のように、同じ「胃がん」という名前でも、通常の胃がんとは性質がかなり違う疾患です。

スキルス胃がんの原因

スキルス胃がんがなぜ起こるのか、その正確な原因は医学的にもまだ解明されていません。ただ、メカニズムについては少しずつ分かってきています。

一般的な胃がんでは、ピロリ菌の持続感染が最大の危険因子とされます。しかしスキルス胃がんは、ピロリ菌に感染したことのない若い患者様にも発症します。このことから、発生の経路そのものが異なる可能性が指摘されています。

分子のレベルでは、細胞同士を接着させる働きを持つ「E-カドヘリン(CDH1遺伝子)」の異常が深く関わっていると考えられています。細胞をつなぎとめる糊のような役割を担うタンパクが失われると、がん細胞がバラバラになって胃壁の中に浸み込み、腹腔内へも散らばりやすくなるのです。

一方、がん細胞の暴走を食い止める「ブレーキ役」を担っているのが、がん抑制遺伝子の「p53(TP53)」です。p53はDNAに傷がついたときにそれを修復させ、修復できない細胞は自然死(アポトーシス)へと導きます。この機能が失われると、傷ついた細胞が排除されないまま増え続け、がん化へとつながっていきます。

胃がんにおけるp53変異の頻度は報告によって幅がありますが、スキルス胃がんが含まれるびまん型では25〜40%の範囲で認められるとされています。特に進行期のびまん型胃がんでは約40%にのぼる一方、早期のびまん型では変異が稀です。このことから、p53の異常は病期の進行にともなって蓄積していく可能性が示唆されています。

もうひとつ注目したいのが「HER2」の発現頻度です。HER2は細胞の増殖シグナルを伝える受容体タンパクであり、胃がんにおいては抗HER2薬の重要な標的となります。ところがHER2陽性率は、胃がん全体で22.1%、腸型で31.8%であるのに対し、スキルス胃がんではわずか6.1%にとどまります。

スキルス胃がんはその多くがびまん型に分類されるため、抗HER2薬の適応となる患者さんは限られます。

スキルス胃がんの診断

「(無)症状」から「確定診断」まで

スキルス胃がんは、初期の段階では自覚症状がほとんどありません。がんは胃の表面に隆起や潰瘍をつくらないため、通常の胃がんなら手がかりになるはずの黒色便や貧血といったサインが出にくく、これが早期発見を難しくしています。

進行してくると、胃もたれ、食欲不振、少し食べただけで満腹になる、体重減少、腹水などによる腹部の張りといった症状が現れます。ただ、こうした症状は胃炎など良性の疾患でも起こるため、自己判断で受診が遅れてしまうケースが少なくありません。症状がなくても定期的に検診を受けること、気になる症状が続くようなら早めに受診することが大切です。

スキルス胃がんに特有の検査上の難しさ

受診すると、まず内視鏡検査(胃カメラ)や胃X線検査が行われます。

ここでスキルス胃がんならではの問題が出てきます。がん細胞が粘膜の表面ではなく深い層を広がっていくため、内視鏡で表面を観察しても明らかな腫瘍が見えないことがあるのです。通常の生検ではがん細胞を採取できず、偽陰性となる場合もあります。

そのため、胃X線検査、超音波内視鏡(胃壁の層構造を断層で評価)、EUS-FNA(深部の組織を採取)、CT検査などを組み合わせながら診断を進めていきます。

さらに重要な検査として、審査腹腔鏡があります。全身麻酔をかけてお腹に小さな穴を開け、カメラを入れて、CTでは捉えきれない小さな腹膜播種を直接確認します。あわせて腹腔内を洗浄した液を採取し、がん細胞の有無を調べる腹腔洗浄細胞診も行います。腹膜播種があるかどうかで治療方針が大きく変わるため、スキルス胃がんでは特に重要な検査です。

ステージ(病期)の確定

胃がんのステージは、胃壁のどの深さまでがんが達しているか(T)、リンパ節転移の有無と個数(N)、腹膜播種を含む遠隔転移の有無(M)を組み合わせて、Ⅰ期〜Ⅳ期に分類されます。スキルス胃がんは診断された時点ですでにステージⅢ〜Ⅳであることが多く、この点が予後を大きく左右します。

スキルス胃がんの一般的な治療法

スキルス胃がんの治療は「手術」と「薬物療法」を軸に組み立てていきます。放射線療法が根治目的で用いられる機会は限られており、症状の緩和を目的として選択されるのが一般的です。治療方針を決めるうえで最大の分岐点となるのは、腹膜播種があるかどうかです。

腹膜播種や遠隔転移がなく、切除可能と判断された場合は手術が中心となります。スキルス胃がんは胃全体に広がっていることが多いため、胃をすべて切除する全摘術を行うケースが多いです。手術後は再発予防のために補助化学療法を行う場合があり、病理学的ステージに応じてさまざまな抗がん剤を使用します。

腹膜播種や遠隔転移が確認された場合は、薬物療法が中心になります。抗がん剤のほか、HER2の状態やPD-L1発現、MSI検査などの結果をふまえて最適な薬物を選択します。

治療成績と生存率

韓国での進行胃がんの解析によると、スキルス胃がんの5年生存率は27.6%、それ以外の通常の胃がんは61.2%でした。ステージⅢbでは15.2%対38.5%、ステージⅣでは10.2%対20.1%と、いずれの病期においても通常の胃がんより予後が不良でした。

また、日本での検討でも、5年生存率は10.2%、ステージⅡ/Ⅲで根治手術を受けた患者様では24.3%と報告されています。

このようにスキルス胃がんは、通常の胃がんと比べて予後が悪いタイプのがんだと言えます。

スキルス胃がんにおける保険診療の限界

化学療法に伴う「きつい」副作用

抗がん剤では、吐き気、強い倦怠感、食欲不振、脱毛、手足のしびれ、骨髄抑制による感染症リスクなどが起こりえます。さらにスキルス胃がんの場合、胃全摘術を受けた患者様が少なくありません。胃を失えば食事量が減り、ダンピング症候群や貧血、体重減少が生じやすくなります。もともと栄養状態が低下しているところへ副作用が重なることで、治療の継続そのものが困難になるリスクがあるのです。

保険診療ではカバーしきれない再発・進行のリスク

根治切除と術後補助化学療法を行っても、腹膜再発を中心とした再発が高い頻度で生じます。スキルス胃がんでは、胃の根治切除後であっても5年生存率が18.1%にとどまるという報告もあります。

腹膜播種などに対して実施できる化学療法の限界

スキルス胃がんで手術を試みた患者様のうち、腹膜播種がある割合は48.2%にのぼると報告されています。また、それらの腹膜播種をすべて切除した場合の5年生存率は12%、切除不能例では0%でした。

腹膜播種が問題になるのは、抗がん剤が届きにくいからです。腹膜には血管が乏しく、点滴で投与した薬剤が播種巣まで十分な濃度で到達しにくいと考えられています。腹膜播種が増えれば腹水も溜まりやすくなり、腹部膨満、食欲低下、呼吸苦などが現れて、生活の質(QOL)が大きく損なわれてしまいます。

また、腹膜播種がなくてもスキルス胃がんに対して実施できる化学療法の種類は多くはなく、通常の場合は3~4種類程度使用すると、保険診療ではもう手立てがないと言われてしまいます。

関連記事:腹膜播種について解説。完治の可能性は?進行を止めるための治療はあるのか。

分子標的薬の選択肢の少なさ

びまん型胃がんにおけるHER2陽性率は6.1にとどまるため、スキルス胃がんの患者様の多くは抗HER2薬の対象外となってしまいます。免疫チェックポイント阻害薬についても、びまん性の胃がんや腹膜播種例では効果がやや限定的であると指摘されています。

スキルス胃がんで重要な新しい治療の考え方

ここまで述べてきたとおり、スキルス胃がんは標準治療を行っても腹膜播種や再発のリスクが問題となるがんです。加えて、HER2陽性率が低いために分子標的薬の選択肢が限られるという特有の課題も抱えています。当グループでは、こうした課題に対して、標準治療とは作用の仕方が異なる治療を選択肢としてご提案しています。

分子レベルの異常にアプローチする「核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)」

近年、がんの発生や進行に関わる分子レベルの異常に直接アプローチする「核酸医薬」が世界的に注目を集め、研究・臨床応用が進んでいます。

当グループでは、がんの根本的な原因に直接作用することが期待される治療選択肢として、「アプタマー」「siRNAなどのRNA干渉技術」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を取り入れた治療を提供しております。

アプタマー核酸医薬」は、がん細胞に特有の異常なタンパク質にピンポイントで結合し、その働きをブロックすることで、がんの増殖抑制や死滅を狙う治療薬です。一方で「miR-34a mimic核酸医薬」は、がん化によって失われてしまった「体が本来持っているがんを抑制する力」を補い、がんの成長を止め、自然な細胞死(アポトーシス)を促す治療薬です。

スキルス胃がんを含む胃がんでTP53変異が高頻度に認められることは、先に述べたとおりです。miR-34a mimicは、miR-34aと同じ働きをする分子を外部から補充することで、p53というブレーキが壊れてしまった細胞に対しても、その先の経路から直接ブレーキをかけ直すことを狙う治療です。

がん中央クリニックグループでは、がん種ごとに標的となる遺伝子を指定して核酸医薬を設計し、患者様一人ひとりの状態に合わせた治療をご提案しています。複数の核酸医薬を組み合わせて使い分けられる点も、特徴のひとつです。

HER2を標的にする「分子標的ワクチン療法」

分子標的ワクチン療法は、がんの増殖・浸潤・転移に関わるタンパク質「HER2」を標的とした、当グループで施術可能な自由診療の治療法です。

スキルス胃がんにおいて、この治療は特に検討する価値があります。というのも、保険診療の抗HER2薬はHER2の発現が高い患者様にしか使えず、びまん型胃がんでHER2陽性となるのは6.1%程度にすぎないからです。しかし、HER2陽性と判定されないがん細胞にもHER2は一定量発現しているため、治療効果が見られることがあります。

この治療の目的は、筋肉注射によって患者様ご自身の体内でHER2に対する抗体をつくらせることです。

体内でHER2に対する抗体がつくられると、細胞周期や細胞分裂を促進するシグナルを送ることができなくなります。さらに、抗体がくっついたがん細胞を免疫細胞が攻撃するという効果も期待されます。

ただし、標準治療ですでに抗HER2薬を使用している場合には、効果が見込みづらい点に注意が必要です。

当グループの自由診療・治療をおすすめする患者様

当グループで実施可能な治療法は、ほとんどの患者様にご検討いただけます。以下では、どのような患者様に効果が期待できるのかを解説します。ご自身の状況に照らし合わせてご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

スキルス胃がんでは、病状や体力、副作用などの理由から、保険診療の標準治療だけでは選択肢が限られてしまうことがあります。特に腹膜播種を伴う進行例、HER2陰性で分子標的薬が使えない患者様、二次・三次治療まで進んで次の手立てが見つからない患者様は少なくありません。

そうした場合でも、核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法なら、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供することが可能です。

これらの治療法は目立った副作用が起こりにくく体への負担が少ないため、「胃全摘後で体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方にも、1つの治療の選択肢となり得ます。

さらに、まだ治療ができる体力があるにもかかわらず選択肢がなくなり、緩和を勧められている方にとっても、新たな治療の選択肢として検討いただけます。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

核酸医薬と分子標的ワクチン療法は、化学療法などの薬物療法と併用でき、相乗効果が期待できます。

なぜなら、化学療法がすでに増殖したがん細胞や産生されたたんぱく質に作用するのに対し、核酸医薬はがん細胞やたんぱく質がつくられる前の段階、すなわち遺伝子レベルに作用するからです。そして分子標的ワクチン療法は、患者様ご自身の免疫の力を使ってHER2を発現するがん細胞を攻撃する方法だからです。

このように当グループが提供する治療法は、標準治療とは攻撃するポイントが異なります。だからこそ、標準治療と組み合わせることでより高い効果が期待できるのです。

スキルス胃がんの完治を目指すには、複数の治療法を組み合わせることが重要と考えています。標準治療を受けている患者様にとっても、核酸医薬と分子標的ワクチン療法の併用は選択肢のひとつです。

再発を抑制、防止するため。手術前後のすべての患者様

スキルス胃がんは、根治手術を行っても腹膜再発を中心とした再発が生じやすい疾患です。また抗がん剤には副作用があるため、胃全摘後で栄養状態に不安のある患者様や、体力に不安のある高齢の患者様では、術後補助化学療法を完遂すること自体が難しい場合もあります。

こうした背景から、手術前後の患者様が核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法を併用することは、再発リスクを下げるひとつの選択肢として検討いただけます。

副作用が不安な患者様

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法は、目立った副作用が起こりにくい治療です。特に、化学療法で起きやすい嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。核酸医薬の副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などが挙げられます。

分子標的ワクチン療法では、注射部位反応(赤み、腫れ、痛みなど)、疲労感、発熱が見られることがあります。解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半であり、治療を継続するうえで支障をきたすことはありません。

「胃を全摘して食事が思うようにとれない」「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」

当グループの治療は、そのような方にも受けていただける治療となっております。

スキルス胃がんの完治を目指して、保険診療と患者様に合った自由診療を組み合わせる

スキルス胃がんは、胃がんのなかでも進行が速く、腹膜播種を起こしやすい難治性のがんです。しかし、適切に治療を行えば完治を目指せる疾患でもあります。

発症要因のひとつにp53をはじめとする遺伝子異常があることから、保険診療と核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、分子標的ワクチン療法などを組み合わせる集学的治療が有効な選択肢となります。保険診療だけではカバーしきれない場合でも、これらの治療によって腫瘍縮小効果や再発抑制効果が期待できます。

がん中央クリニックグループでは、こうした「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがん治療をご提案いたします。スキルス胃がんの患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。

「胃がんのステージ4です。」

医師からその言葉を告げられた瞬間「もう治療はできないのではないか」「余命はあとどれくらいなのだろう」「家族には何と伝えればいいのか」と頭が真っ白になった方も多いのではないでしょうか。

インターネットで「胃がん ステージ4」と検索すると「末期がん」「余命」「腹膜播種」「治らない」といった不安をあおるような言葉が並び、さらに気持ちが落ち込んでしまうことも少なくありません。しかし、現在の胃がん診療は以前とは大きく変わっています。

かつて、ステージ4胃がんの治療は、抗がん剤による延命治療が中心であり、治療の選択肢は限られていました。しかし近年は、HER2陽性胃がんに対する分子標的薬や、免疫チェックポイント阻害薬、さらにCLDN18.2を標的とした新しい治療薬の登場によって、患者さん一人ひとりのがんの特徴に合わせた治療が行われるようになっています。

ステージ4と一口に言っても、その病状は決して同じではありません。腹膜播種が中心の人もいれば、肝臓だけに転移している人もいます。HER2陽性の人もいれば、MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)が見つかる人もいます。転移の部位や数、がん細胞の性質、全身状態によって選択できる治療は大きく異なり、その後の経過も一人ひとり違います。

さらに近年では、薬物療法によって腫瘍が大きく縮小した患者に対し、根治切除を目指す「コンバージョン手術(Conversion Surgery)」が行われるケースも増えてきました。以前は「手術はできない」と考えられていた患者でも、治療の経過によって新たな選択肢が生まれることがあります。

もちろん、ステージ4胃がんは依然として治療が難しい病気であることに変わりはありません。しかし「何もできない病気」ではなくなっていることも、現在の医学が示している事実です。

この記事では、胃がんステージ4とはどのような状態なのかをはじめ、生存率や余命の考え方、現在受けられる標準治療、分子標的薬や免疫療法、最新治療、完治の可能性、さらに保険診療以外の選択肢まで、現在の医学的知見に基づいて詳しく解説します。

診断直後に知っておきたい基本的な知識だけでなく、これから治療方針を考えるうえで判断材料となる情報も、できるだけ分かりやすくまとめました。この記事が、不安の中で情報を探している患者さんやご家族にとって、現状を冷静に理解し、納得できる治療を選択するための一助になれば幸いです。

  • 胃がんステージ4は遠くの臓器や腹膜などへがんが転移している状態
  • 胃がんステージ4の5年生存率は約6.2%(国立がん研究センター 2015年5年生存率)
  • 進行胃がんの治療成績は新しい薬剤の登場によって少しずつ改善している

胃がんステージ4とは

胃がんステージ4とは、胃の壁を越えて広がったがんが、遠くの臓器や腹膜などへ転移している状態を指します。一般的には「最も進行した胃がん」「末期胃がん」と説明されることもありますが、実際の診療では「ステージ4」という言葉だけで病状や予後を判断することはありません。

現在の胃がん治療では、どこへ転移しているのか、転移はどの程度広がっているのか、そしてがん細胞がどのような特徴を持っているのかまで詳しく調べたうえで、一人ひとりに合わせた治療方針が決められます。同じステージ4という診断であっても、治療内容や期待できる効果、生存期間は患者さんによって大きく異なります。

TNM分類

胃がんの進行度は、国際的に用いられているTNM分類によって決定されます。Tは胃壁への深達度や周囲臓器への浸潤、Nはリンパ節転移、Mは遠隔転移を表しており、この三つを組み合わせて病期(ステージ)が決まります。このうち、ステージ4へ分類される最大の理由は「M」、つまり遠隔転移です。

胃から離れた臓器へ転移している場合だけでなく、腹膜へがん細胞が散らばる「腹膜播種」も遠隔転移として扱われます。そのため、肝臓や肺などに転移がなくても、腹膜播種が確認されればステージ4と診断されます。

参考:胃癌治療ガイドライン|一般社団法人 日本胃癌学会

胃がんステージ4でも病状は一人ひとり大きく異なる

肝臓に小さな転移が一つだけ見つかった患者さんと、腹膜全体へがん細胞が広がり腹水がたまっている患者さんでは、同じステージ4であっても病気の性質や治療方針は大きく異なります。転移の部位だけではなく、HER2陽性やMSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)、CLDN18.2陽性など、がん細胞が持つ特徴によって使用できる薬剤も変わります。

そのため「ステージ4だから○○という治療を行う」という考え方ではなく、「その患者さんの胃がんには、どのような特徴があるのか」を詳しく調べたうえで治療方針を決定します。「ステージ4」という診断は治療のスタートラインであり、その後どのような治療を選択できるかは、これから行う詳しい検査によって決まっていくのです。

胃がんステージ4で最も多い「腹膜播種」とは

胃がんステージ4を理解するうえで、最も重要なキーワードの一つが『腹膜播種(ふくまくはしゅ)』です。

肺がんや大腸がんでは肝臓や肺への転移が中心になることが多い一方、胃がんでは腹膜播種が非常に高い頻度でみられます。実際、ステージ4胃がんの患者さんでは、腹膜播種が治療方針や予後に大きく影響するケースが少なくありません。

腹膜とは

腹膜とは、お腹の中にある胃や腸、肝臓などの臓器を包んでいる薄い膜です。胃がんが胃の壁を深く越えて進行すると、一部のがん細胞が胃の外へこぼれ落ち、腹腔内を漂うようになります。そして腹膜へ付着・増殖し、小さながんが無数に広がっていく状態が腹膜播種です。

血液やリンパ液の流れに乗って転移する肝転移や肺転移とは異なり、腹膜播種は「お腹の中にがん細胞が散らばる」という特徴的な広がり方をします。そのため、CT検査でははっきり確認できないほど小さな病変が多数存在していることも珍しくありません。

腹膜播種で現れる症状

腹膜播種が始まったばかりの段階では、自覚症状がほとんどないこともあります。しかし、病変が増えてくると、お腹全体にさまざまな症状が現れるようになります。

腹水

代表的なのが、腹水です。腹膜へ広がったがん細胞が炎症を引き起こすことで、お腹の中へ水分がたまりやすくなります。腹水が増えると、お腹が張るような感覚や圧迫感が強くなり、食事を少し食べただけでもすぐ満腹になることがあります。さらに腹水が大量になると、横になるだけで息苦しさを感じたり、歩くことが難しくなったりすることもあります。

腸閉塞(イレウス)

もう一つ注意したい症状が『腸閉塞(イレウス)』です。腹膜播種が腸の表面へ広がると、腸の動きが悪くなったり、一部が狭くなったりすることがあります。すると、食べたものや消化液が正常に流れなくなり、腹痛や吐き気、嘔吐、便やガスが出にくくなるといった症状が現れます。

イレウスは緊急の対応が必要になることもあるため「お腹の張りが急に強くなった」「何度も吐いてしまう」「数日間便が出ない」といった症状がある場合には、早めに主治医へ相談することが重要です。

その他の症状

腹膜播種では、このほかにも体重減少、食欲低下、全身のだるさなどが少しずつ進行することがあります。これらは胃がんそのものによる症状だけではなく、腹膜播種によって食事量や栄養状態が悪化することも大きく関係しています。

腹膜播種があると治療はできないのか

以前は、腹膜播種が見つかった時点で手術は難しく、治療の選択肢も限られていました。しかし近年の診療では、その考え方も変わりつつあります。

分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を含む薬物療法によって腹膜播種が縮小し、症状を長期間コントロールできる患者さんも増えています。薬物療法が非常によく効き、腹膜播種が画像上あるいは腹腔鏡検査でほとんど確認できなくなった一部の患者さんでは、コンバージョン手術が検討されることもあります。

もちろん、これはすべての患者さんに適応される治療ではありません。腹膜播種の広がり方や薬物療法への反応、全身状態などを慎重に評価したうえで判断されます。それでも「腹膜播種があるから何もできない」という時代ではなくなってきたことは、現在の胃がん診療における大きな変化の一つといえるでしょう。

参考:胃がん|国立がん研究センター がん情報サービス

胃がんステージ4でも治療を行う理由

胃がんステージ4は遠隔転移を伴う進行した状態であり、早期胃がんのように手術だけで治癒を目指せるケースは多くありません。しかし「ステージ4だから治療をしない」という考え方は基本的にありません。

その理由は、薬物療法を中心とした治療によって、病気の進行を抑え、症状を改善し、生活の質を維持できる可能性があるからです。患者さんによっては腫瘍が大きく縮小し、新たな治療の選択肢が生まれることもあります。ステージ4胃がんの治療は「治療をするか、しないか」ではなく「どのような目的で治療を行うのか」を考えることが重要になります。

胃がんステージ4の治療目的

ステージ4胃がんに対する治療の最も大きな目的は、がんの増殖をできるだけ抑えながら、生存期間の延長を目指すことです。

現在の薬物療法は、単に腫瘍を小さくするだけではありません。がんの進行を遅らせることで、食事や会話、仕事、趣味など、これまでの生活をできるだけ長く維持できるよう支援することも重要な役割になっています。

実際、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が使用できる患者さんでは、以前より長期間にわたって病気をコントロールできるケースも増えてきました。すべての患者さんに同じ効果が得られるわけではありませんが、治療を開始することで病気の勢いを抑えられる可能性がある以上「ステージ4だから何もできない」と考える必要はありません。

食べられる状態を維持する

胃がんでは「食べられること」を守ることも重要な治療目的になります。

胃がんは、食べ物の通り道そのものにできるがんです。そのため、病気が進行すると腫瘍が胃の出口や食道とのつなぎ目を狭くし、食事が十分に取れなくなることがあります。また、腹膜播種によって腹水が増えたり、腸の動きが悪くなったりすると、食欲低下や吐き気、早期満腹感などが強く現れることもあります。

食事量が減れば、体重だけでなく筋肉量も減少し、全身状態が悪化します。すると、予定していた抗がん剤を十分な量で続けられなくなったり、新しい治療を受けられなくなったりする可能性もあります。「食べられる状態を維持すること」は、生活の質だけではなく、その後の治療を続けるためにも重要なのです。

胃がんステージ4では、薬物療法だけではなく栄養管理や支持療法も治療の重要な柱になります。

出血や通過障害などの症状を改善する

胃がんが進行すると、腫瘍から出血したり、胃の出口が狭くなったりすることがあります。慢性的な出血では貧血が進行し、強い倦怠感や息切れの原因になります。一方、胃の出口が狭くなると、食べ物が十二指腸へ流れにくくなり、食後の吐き気や嘔吐が続くことがあります。

このような症状に対しては、薬物療法だけではなく、患者さんの状態に応じて内視鏡によるステント留置、胃空腸バイパス術、止血処置、放射線治療などを組み合わせることがあります。これらは胃がんそのものを根治する治療ではありませんが、「食べられるようになる」「出血を止める」「痛みを和らげる」といった症状改善を目的とした重要な治療です。

症状が改善することで体力が回復し、その後の薬物療法を継続できるようになるケースも少なくありません。

薬物療法がよく効けば、新たな治療選択肢が生まれることも

以前は、ステージ4胃がんでは手術はほとんど行われませんでした。しかし現在では、薬物療法によって腫瘍や転移巣が大きく縮小し、遠隔転移が十分にコントロールされた患者さんに対して「コンバージョン手術」が検討されることがあります。

これは最初から手術を予定する治療ではなく、薬物療法の効果を慎重に評価した結果「根治切除が可能」と判断された場合に選択される治療です。もちろん、すべての患者さんが対象になるわけではありません。それでも「最初は手術できない状態だった患者さんに、新しい選択肢が生まれる可能性がある」という点は、現在の胃がん治療を理解するうえで重要な変化といえるでしょう。

次の章では、こうした治療方針を決定するために行われる検査について詳しく解説します。現在の胃がん診療では、転移の有無だけではなく、HER2やCLDN18.2、MSI、PD-L1などのバイオマーカー検査が治療選択に大きく関わるため、それぞれの検査がどのような意味を持つのかを理解しておくことが重要です。

胃がんステージ4と診断された後に行われる検査

胃がんステージ4と診断された後、治療はすぐに始まるわけではありません。まず行われるのは、「どの治療が最も効果を期待できるのか」を判断するための詳しい検査です。

以前の胃がん治療では、転移の有無や患者さんの体力を中心に治療方針が決められていました。しかし現在は、がん細胞そのものの特徴まで詳しく調べ、一人ひとりに合った薬剤を選択する時代へ変わっています。そのため、診断後に行われる検査には「病気がどこまで広がっているか」を確認する検査と、「どの薬が使えるか」を調べる検査という二つの役割があります。

転移の広がりを正確に把握する画像検査

治療方針を決めるうえで最初に重要になるのが、がんがどこまで広がっているのかを正確に確認することです。

CT検査では、胃の周囲だけでなく、肝臓や肺、リンパ節などへの転移を評価します。胃がんは肝転移やリンパ節転移を起こしやすいだけでなく、腹膜播種を伴うことも多いため、お腹全体の状態を丁寧に確認することが欠かせません。

必要に応じてPET-CTが追加されることもありますが、胃がんではすべての病変がPET-CTで描出されるわけではありません。特に腹膜播種や小さな転移巣では検出が難しいこともあるため、CTや内視鏡検査の結果と合わせて総合的に判断されます。

画像検査だけでは判断が難しい場合には、腹腔鏡検査を行うことがあります。腹部に小さな穴を開けてカメラを挿入し、腹膜を直接観察する検査です。CTでは確認できなかった小さな腹膜播種や腹水中のがん細胞が見つかることもあり、治療方針を決めるうえで重要な情報になります。

がん細胞の特徴を調べる病理検査

胃がん治療で近年特に重要になっているのが、病理検査です。内視鏡検査などで採取した組織を詳しく調べることで、胃がんの種類だけでなく、分子標的薬や免疫療法が使用できる可能性も評価します。

HER2検査

代表的なのはHER2検査です。HER2というタンパク質が過剰に発現している胃がんでは、トラスツズマブなどHER2を標的とした治療が第一選択になることがあります。胃がん全体では約15~20%前後がHER2陽性とされており、治療方針を左右する重要な検査の一つです。

MSI検査

MSI検査も重要です。MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)が確認された胃がんでは、免疫チェックポイント阻害薬が高い効果を示すことがあります。頻度は高くありませんが、治療戦略が大きく変わる可能性があるため、現代では標準的に調べられることが増えています。

PD-L1検査

免疫療法を検討する際にはPD-L1検査も行われます。胃がんではPD-L1の発現をCPS(Combined Positive Score)という指標で評価します。この結果はニボルマブやペムブロリズマブなどを使用する際の重要な判断材料になります。

CLDN18.2検査

2024年からはCLDN18.2(クローディン18.2)の検査も注目されています。CLDN18.2陽性胃がんでは、ゾルベツキシマブ(ビロイ)を含む治療が新たな選択肢となりました。これまで使える薬剤が限られていた患者さんでも、検査結果によって治療の幅が広がる可能性があります。

がん遺伝子パネル検査が勧められることもある

標準治療が終了した後や、次の治療を検討する段階では、がん遺伝子パネル検査が提案されることがあります。これは一度に数百種類の遺伝子異常を調べ、治験や適応となる薬剤がないかを探す検査です。すべての患者さんが対象になるわけではありませんが、従来の検査では分からなかった遺伝子異常が見つかり、新しい治療へつながる可能性もあります。

この検査だけで治療法が決まるわけではありません。しかし、標準治療の選択肢が少なくなった段階では、今後の方針を考えるための重要な情報になることがあります。

ここまで紹介したように、現在の胃がん診療では「胃がん」という診断だけで治療を決めることはほとんどありません。転移の広がりに加え、HER2、MSI、PD-L1、CLDN18.2など複数の情報を組み合わせることで、一人ひとりに適した治療法を選択しています。

参考:ゲノム医療について|厚生労働省

胃がんステージ4の治療全体像

胃がんステージ4と診断されると「抗がん剤しか方法はないのでしょうか」と質問されることがよくあります。薬物療法はステージ4胃がんの中心となる治療です。しかし、一つの治療だけで経過をみることはほとんどありません。

胃がんは、病気の進行によって起こる症状が患者さんごとに大きく異なります。食事が通りにくくなる人もいれば、腹膜播種による腹水が問題になる人もいます。肝転移が中心の人もいれば、リンパ節転移だけで比較的全身状態が保たれている人もいます。

胃がんステージ4の治療は「どの薬を使うか」だけで決まるものではありません。薬物療法を軸にしながら、必要に応じて手術や放射線治療、内視鏡治療、栄養管理、緩和ケアを組み合わせ、一人ひとりの病状に合わせて治療計画を組み立てていきます。

薬物療法が治療の中心

ステージ4胃がんでは、全身へ広がったがん細胞を一度に治療する必要があります。手術で胃を切除しても、腹膜や肝臓、リンパ節などへ転移した病変まですべて取り除くことは難しいため、まずは全身へ作用する薬物療法が治療の中心になります。

薬物療法といっても、現在は単純に抗がん剤を使用するだけではありません。HER2陽性であれば分子標的薬を組み合わせることがありますし、PD-L1の発現状況やMSI-Hであるかどうかによって免疫チェックポイント阻害薬が加わることもあります。さらにCLDN18.2陽性では、新たな分子標的薬を使用できるようになり、治療の組み合わせは以前よりも複雑になっています。

同じステージ4胃がんでも、検査結果によって第一選択となる治療が変わるため、「誰もが同じ抗がん剤を使う」という時代ではなくなっています。

治療は段階的に組み立てられる

薬物療法は、一度開始したら最後まで同じ薬を使い続けるわけではありません。治療を始めた後は、CT検査や血液検査を定期的に行い、腫瘍が縮小しているのか、変化がないのか、それとも大きくなっているのかを確認します。

十分な効果が得られている間は同じ治療を継続し、病気が進行した場合や副作用が強くなった場合には、次の治療へ切り替えることになります。これを二次治療、三次治療と呼びます。

近年は使用できる薬剤が増えたことで、一つの治療だけで終わるのではなく、複数の治療を順番に受けながら病気をコントロールしていく考え方が一般的になっています。治療開始時だけでなく「次にどの治療を選択するか」まで見据えて計画を立てることも、現在の胃がん診療では重要になっています。

薬物療法以外の治療を優先することもある

すべての患者さんが、診断直後から抗がん剤を開始できるとは限りません。例えば、胃の出口が狭くなり、水分さえ十分に飲めない状態では、まず食事が通るようにする治療を優先することがあります。腫瘍から出血が続いている場合には止血処置が必要になることがありますし、腹水によって呼吸が苦しい場合には腹水を抜く処置を行うこともあります。

病状によっては胃空腸バイパス術やステント留置術が選択されることもあり、これらによって食事が可能になった後に薬物療法を開始するケースも少なくありません。胃がんでは、病気そのものだけではなく、病気によって生じる症状を改善することも治療の重要な役割になります。

治療目標が途中で変わる場合も

治療を始めた時点では「病気の進行を抑えながら生活を維持すること」が目標になる患者さんがほとんどです。一方で、薬物療法が予想以上によく効き、転移巣が大きく縮小した場合には、当初は考えられなかった選択肢が見えてくることがあります。

代表的なのが、コンバージョン手術です。最初は切除できないと判断された胃がんでも、薬物療法によって根治切除が可能と判断されれば、手術を検討できる場合があります。逆に、治療を続ける中で体力の低下や副作用が問題となり、治療内容を調整した方がよい場面もあります。

治療の目標は最初から最後まで変わらないものではなく、病気の変化や生活の状況に合わせて見直されていきます。診断直後の時点で将来を決めつける必要はありません。治療に対する反応を一つひとつ確認しながら、その時点で最も適した選択を積み重ねていくことが、胃がんステージ4の診療では何よりも大切になります。

次の章では、ステージ4胃がん治療の中心となる抗がん剤について、どのような薬剤が使用されるのか、どのような患者さんに選択されるのか、副作用への対策も含めて詳しく解説します。

参考:胃がん 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

胃がんステージ4の抗がん剤治療

胃がんステージ4の治療では、薬物療法が中心になります。その中でも、最も基本となるのが抗がん剤治療です。胃がん治療の標準的な抗がん剤は一つではありません。年齢や体力、転移の広がり、HER2やPD-L1、CLDN18.2などの検査結果を踏まえて治療内容が決められます。現在は、複数の薬剤を組み合わせた治療を基本とし、必要に応じて分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を追加する方法が標準治療になっています。

一次治療ではフッ化ピリミジン系とプラチナ製剤の併用が基本

薬物療法の中心となるのは、フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ製剤を組み合わせた化学療法です。具体的には、S-1とオキサリプラチンを組み合わせたSOX療法や、カペシタビンとオキサリプラチンを組み合わせたCapeOX療法、5-FUとオキサリプラチンを併用するFOLFOX療法などが広く用いられています。これらの治療は、がん細胞のDNA合成や細胞分裂を妨げることで増殖を抑えることを目的としています。

どの治療法が選択されるかは、患者さんの年齢や腎機能、通院頻度、内服薬を継続できるかどうかなども考慮して決定されます。S-1は内服薬であるため自宅で服用できますが、食事が十分に取れない患者さんでは点滴中心の治療が選択されることもあります。一方、オキサリプラチンは比較的高い治療効果が期待できる反面、手足のしびれが長期間残ることがあるため、副作用の程度を確認しながら投与量を調整していきます。

参考:胃癌治療ガイドライン|日本胃癌学会

HER2陽性では分子標的薬を併用する

HER2陽性胃がんでは、抗がん剤だけではなく、HER2を標的とした分子標的薬を併用することが標準治療になります。代表的なのがトラスツズマブ(ハーセプチン)です。

ToGA試験では、HER2陽性進行胃がんに対して抗がん剤へトラスツズマブを追加することで、生存期間の延長が確認されました。この結果を受け、HER2検査は現在の胃がん診療で欠かせない検査の一つとなっています。

さらに近年では、HER2陽性胃がんに対する抗体薬物複合体(ADC)であるトラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)も使用できるようになり、HER2陽性患者の治療選択肢は大きく広がっています。同じ抗がん剤治療でも、HER2の結果によって組み合わせる薬剤は大きく変わります。

参考:Herceptin の主要な試験(ToGA)でHER2陽性胃がんにおいて有意な延命効果が認められる
参考:抗悪性腫瘍剤 「エンハーツ®」の日本におけるHER2陽性胃がんの二次治療に係る添付文書改訂のお知らせ

抗がん剤だけで治療する患者は以前より少なくなっている

胃がん治療は、この数年で大きく変化しました。以前は抗がん剤単独が標準だった患者さんでも、現在では免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬を併用するケースが増えています。例えばPD-L1 CPSが一定以上の患者さんでは、ニボルマブを追加することが標準治療になっています。CLDN18.2陽性胃がんでは、ゾルベツキシマブ(ビロイ)を組み合わせた治療も選択肢になります。

現在の抗がん剤治療は「抗がん剤だけで戦う治療」ではなく「抗がん剤を土台として複数の薬剤を組み合わせる治療」へ変わっています。

副作用が管理しやすくなっている

抗がん剤に対して「吐き気がひどい」「何も食べられなくなる」「髪がすべて抜ける」といったイメージを持っている人も多いでしょう。確かに副作用は避けて通れませんが、副作用を予防する薬剤や支持療法が大きく進歩しています。

吐き気には複数の制吐薬を組み合わせて使用し、白血球減少にはG-CSF製剤を使用することがあります。下痢や口内炎、末梢神経障害についても早い段階から対策を行い、必要に応じて休薬や減量を行いながら治療を継続していきます。

副作用が出ること自体は珍しくありませんが、「我慢しながら治療を続ける」のではなく「副作用を管理しながら治療を続ける」という考え方が現在の標準になっています。気になる症状があれば早めに医療スタッフへ伝えることで、重症化を防ぎやすくなります。

抗がん剤は「効かなくなるまで続ける」わけではない

「一度始めた抗がん剤は、一生続けるのでしょうか」と質問されることがあります。実際にはそのようなことはありません。治療中は定期的にCT検査や血液検査を行い、腫瘍が縮小しているか、副作用が強くなっていないかを確認します。十分な効果が得られている間は治療を継続しますが、病気が進行した場合や副作用によって生活への影響が大きくなった場合には、薬剤の変更や休薬を検討します。

近年は二次治療、三次治療まで見据えて治療を組み立てることが一般的になっています。最初の抗がん剤が効かなくなったからといって、そこで治療が終わるとは限りません。病状やこれまでの治療経過に応じて、新しい薬剤や分子標的薬、免疫療法へ切り替えられる可能性もあります。抗がん剤治療は、一つの薬剤だけで完結するものではなく、その後の治療へつなげていくための重要な第一歩でもあります。

分子標的薬 ― 胃がんの特徴に合わせて治療を選ぶ時代へ

胃がんの薬物療法は、長い間「抗がん剤」が中心でした。しかし近年は、がん細胞が持つ特定の分子や遺伝子異常を標的とした『分子標的薬』が次々に登場し、治療の考え方は大きく変わっています。

分子標的薬は、すべての胃がん患者さんが使用できるわけではありません。HER2やCLDN18.2など、がん細胞に特定の特徴が確認された場合に使用される薬剤であり、事前に行う病理検査やバイオマーカー検査が治療方針を決める重要な鍵になります。そのため「どのタイプの胃がんなのか」を見極めたうえで治療を組み立てることが基本になっています。

HER2陽性胃がんでは分子標的薬が第一選択

最も広く使用されている分子標的薬が、HER2を標的とした治療です。HER2は、がん細胞の増殖に関わるタンパク質の一つで、このタンパク質が過剰に発現している胃がんでは、通常よりも増殖する力が強くなることがあります。HER2陽性は進行胃がん全体の約15~20%に認められるとされており、診断時にはHER2検査を行うことが標準となっています。

HER2陽性と判定された場合には、抗がん剤にトラスツズマブ(ハーセプチン)を組み合わせた治療が第一選択になります。トラスツズマブはHER2へ選択的に結合し、がん細胞の増殖を抑えるだけでなく、免疫細胞ががん細胞を攻撃しやすくする働きもあります。

トラスツズマブが効かなくなった場合でも治療が終わるわけではありません。近年は『トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)』という抗体薬物複合体(ADC)が使用できるようになりました。ADCは、HER2を目印にして抗がん剤をがん細胞へ直接届ける仕組みを持つ薬剤です。

DESTINY-Gastric01試験では、これまで治療を受けたHER2陽性進行胃がん患者に対して、高い奏効率と生存期間の延長が報告されました。従来であれば治療選択肢が限られていた患者さんにも、新たな治療の可能性が広がっています。

参考:胃がんに対する二次治療としてのトラスツズマブ デルクステカンが生存期間を有意に延長|国立がん研究センター

CLDN18.2陽性胃がんでは新しい標準治療が始まっている

近年、胃がん領域で最も大きな話題の一つとなっているのが『CLDN18.2(クローディン18.2)』です。CLDN18.2は胃粘膜に存在するタンパク質ですが、一部の胃がんではがん細胞の表面に強く発現しています。このタンパク質を標的とする薬剤が「ゾルベツキシマブ(ビロイ)」です。

SPOTLIGHT試験では、CLDN18.2陽性・HER2陰性進行胃がんに対し、標準的な化学療法へゾルベツキシマブを追加することで、無増悪生存期間と全生存期間の改善が確認されました。これを受け、日本でも新たな治療選択肢として使用できるようになっています。

CLDN18.2はすべての胃がんで陽性になるわけではないため、使用には専用の検査が必要です。しかし、検査結果によっては治療成績の向上が期待できることから、今後ますます重要性が高まると考えられています。

参考:クローディン18.2陽性HER2陰性進行胃がんに対するゾルベツキシマブ+化学療法+ニボルマブ併用療法が有効な可能性|国立がん研究センター

血管新生を抑える分子標的薬も使用されている

胃がんは、成長するために新しい血管を作りながら栄養を取り込んでいます。この血管新生を抑える目的で使用されるのが『ラムシルマブ(サイラムザ)』です。ラムシルマブはVEGFR2という受容体を標的とし、腫瘍へ新しい血管が作られるのを抑えることで、がんの増殖を遅らせます。

一次治療終了後の二次治療では、パクリタキセルとラムシルマブを組み合わせた治療が広く行われています。RAINBOW試験では、この併用療法がパクリタキセル単独と比べて生存期間を延長することが示され、現在も世界各国のガイドラインで推奨されています。

参考:治療歴のある進行胃癌または食道胃接合部腺癌患者におけるRamucirumab+paclitaxel-療法 vs. プラセボ+paclitaxel療法:第III相二重盲検無作為化比較試験(RAINBOW)

分子標的薬は「使える人」が決まっている

分子標的薬は非常に高い治療効果が期待できる一方で、「胃がんなら誰でも使える薬」ではありません。HER2陽性でなければトラスツズマブやエンハーツは使用できませんし、CLDN18.2が確認されなければゾルベツキシマブの適応にはなりません。

逆に言えば、これらの検査を行わなければ、本来受けられる治療を見逃してしまう可能性もあります。だからこそ、進行胃がんでは診断時にHER2、PD-L1、MSI、CLDN18.2などのバイオマーカー検査を十分に行うことが重要となります。

免疫チェックポイント阻害薬 ― 免疫の力でがんと闘う新しい治療

胃がん治療は分子標的薬の登場だけでなく「免疫チェックポイント阻害薬」によっても大きく変わりました。これまでの抗がん剤は、がん細胞そのものを攻撃することが目的でした。一方、免疫チェックポイント阻害薬は、患者さん自身が持つ免疫の働きを回復させ、免疫細胞ががんを攻撃しやすい状態を作る治療です。この仕組みが従来の抗がん剤とは大きく異なるため、効果の現れ方や副作用にも違いがあります。

免疫療法は「誰にでもよく効く治療」ではありません。効果が期待できる患者さんと、そうでない患者さんがいることが分かっており、治療を始める前にはいくつかの検査結果を参考にして適応を判断します。

一次治療から免疫療法を併用するケース

進行胃がんでは、HER2陰性の患者さんを中心に、抗がん剤へ免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせる治療が標準となっています。代表的な薬剤が 『ニボルマブ(オプジーボ)』です。

国際共同第Ⅲ相試験である「CheckMate 649試験」では、HER2陰性進行胃がん・食道胃接合部がん患者を対象に、化学療法へニボルマブを追加した群で、生存期間の延長が確認されました。この結果を受け、日本でも条件を満たす患者さんでは、一次治療からニボルマブを併用することが推奨されています。

以前は「抗がん剤が効かなくなってから検討する治療」という位置付けでしたが、現在では診断直後から使用されることも珍しくありません。

参考:切除不能進行・再発胃/食道胃接合部/食道腺癌の1次治療におけるNivolumab+化学療法と化学療法を比較した国際共同無作為化オープンラベル比較第III相試験(CheckMate 649試験)

PD-L1検査は治療方針を決める重要な材料

免疫療法を検討する際に重要になる検査が『PD-L1検査』です。胃がんでは、PD-L1の発現を「CPS(Combined Positive Score)」という方法で評価します。この数値が高い患者さんでは、免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待しやすいことが知られています。

ただし、「PD-L1が低いから免疫療法はまったく効かない」という意味ではありません。PD-L1はあくまでも判断材料の一つであり、年齢や全身状態、転移の状況、ほかのバイオマーカーなども総合的に考慮したうえで治療方針が決められます。検査結果だけで治療が決まるわけではありませんが、今では欠かせない情報の一つになっています。

MSI-H胃がんでは高い治療効果が期待できる

免疫療法との関係で忘れてはならないのが『MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)』です。MSI-Hとは、がん細胞に多くの遺伝子異常が蓄積した状態を指します。このタイプの胃がんでは免疫細胞が異常を認識しやすくなるため、免疫チェックポイント阻害薬が高い効果を示すことがあります。

胃がん全体から見るとMSI-Hは多くありませんが、該当する患者さんでは治療方針そのものが変わる可能性があります。そのため、進行胃がんではMSI検査も重要な検査として位置付けられています。

抗がん剤とは異なる副作用

免疫療法は副作用が少ない治療というイメージを持たれることがあります。実際には吐き気や脱毛などは抗がん剤より少ない傾向がありますが、免疫療法には『免疫関連有害事象(irAE)』と呼ばれる特有の副作用があります。これは、活性化した免疫が正常な臓器まで攻撃してしまうことで起こる副作用です。

皮膚の発疹やかゆみ、甲状腺機能異常、肺炎、大腸炎、肝機能障害、副腎機能低下など、さまざまな臓器に影響する可能性があります。多くは早期に発見して適切な治療を行えば改善しますが、「少し息苦しい」「下痢が続く」「強いだるさがある」といった症状を軽く考えず、早めに主治医へ相談することが重要です。

免疫療法は長く効果が続く場合もある

免疫チェックポイント阻害薬の特徴の一つが、効果が現れた患者さんでは長期間病気をコントロールできることがある点です。

もちろん、すべての患者さんに同じ結果が得られるわけではありません。治療を開始しても十分な効果が得られない場合もありますし、途中で病気が進行することもあります。一方で、免疫療法がよく効いた患者さんでは、病気を長期間抑えながら日常生活を維持している例も報告されています。こうした治療成績が積み重ねられたことで、免疫チェックポイント阻害薬は現在の進行胃がん治療に欠かせない選択肢となりました。

抗がん剤、分子標的薬、免疫療法は、それぞれ役割が異なります。胃がん診療ではそれらを単独で考えるのではなく、患者さんの病状やバイオマーカーに応じて最適な組み合わせを選択することが標準になっています。

手術・放射線治療・内視鏡治療

胃がんステージ4では薬物療法が治療の中心になりますが、それだけで対応できるとは限りません。

胃は食べ物を一時的にため、十二指腸へ送り出す役割を担っています。そのため、がんが大きくなると食べ物の通り道が狭くなり、食事が十分に取れなくなることがあります。また、腫瘍から出血が続けば貧血が進行し、腹膜播種が広がれば腹水や腸閉塞などの症状が現れることもあります。こうした症状が強くなると、薬物療法を始めたくても体力が追いつかず、予定どおり治療を進められないことがあります。

胃がんステージ4では「がんを小さくする治療」と並行して、「食べられる状態を維持する治療」や「症状を和らげる治療」も重要になります。

胃を切除する手術が検討されるケース

ステージ4胃がんでは、診断時から胃を切除する手術を行うケースは多くありません。遠隔転移がある状態では、胃だけを切除しても体内に残った転移巣まで取り除くことはできないためです。しかし、例外があります。薬物療法によって原発巣と転移巣が大きく縮小し、画像検査などで根治切除が可能と判断された場合には、「コンバージョン手術」が検討されることがあります。

この手術は、最初から予定されているものではありません。薬物療法にどの程度反応したかを慎重に評価したうえで、「切除することによって長期的な病勢コントロールが期待できる」と判断された患者さんに限って行われます。適応となる患者さんは多くありませんが、胃がん治療の進歩によって、以前は手術が不可能と考えられていた症例でも新たな選択肢が生まれるようになっています。

食事が通らないときは、食べられる状態を取り戻す治療を優先

胃がんでは、腫瘍が胃の出口や食道との境目を狭くし、食事や水分が十分に通らなくなることがあります。食べられない状態が続けば、体重や筋力は急速に低下し、抗がん剤を続けることも難しくなります。こうした場合には、内視鏡で金属製のステントを留置して通り道を広げたり、胃と小腸をつないで食べ物の流れを確保する「胃空腸バイパス術」を行ったりすることがあります。

これらの治療は胃がんを根治するものではありませんが、栄養状態を改善し、その後の薬物療法へつなげるという重要な役割を担っています。「まず食べられるようにする」という判断が、結果的に治療全体の継続につながることも少なくありません。

放射線治療の目的

胃がんでは、放射線治療が第一選択になることは多くありません。一方で、腫瘍からの出血が続いている場合や、骨転移による強い痛みがある場合には、放射線治療が大きな効果を発揮することがあります。

特に出血性胃がんでは、輸血を繰り返さなければならないほど貧血が進行することもあります。そのような状況では放射線によって出血を抑えられる場合があり、患者さんの負担軽減につながります。また、骨転移による痛みや神経の圧迫症状に対しても、放射線治療は生活の質を維持するための重要な治療法として位置付けられています。

薬物療法だけでは改善しにくい症状に対して局所治療を組み合わせることで、日常生活を送りやすい状態を維持できることも少なくありません。

参考:経口摂取不良の切除不能胃癌に対する治療戦略|消化器癌治療の広場

緩和ケア・支持療法 ― 治療を続けるために欠かせない医療

「緩和ケア」と聞くと、「もう治療ができなくなった人が受ける医療」というイメージを持つ人は少なくありません。しかし、その考え方は既に大きく変わっています。緩和ケアは終末期だけに行われるものではなく、診断された早い段階から標準治療と並行して取り入れることが推奨されています。

緩和ケアの大きな役割は、がんによる痛みや吐き気、食欲低下、精神的な不安を和らげながら、抗がん剤や免疫療法を無理なく続けられるよう支えることです。治療そのものと対立するものではなく、治療を支える医療と考える方が実際の診療に近いでしょう。

緩和ケアの考え方

胃がんステージ4では、がんそのものよりも、病気によって起こる症状が日常生活へ大きな影響を及ぼすことがあります。例えば、腫瘍によって食べ物が通りにくくなれば十分な栄養を取ることができず、腹膜播種が進行すれば腹水による腹部膨満感や食欲低下が現れます。こうした症状が続くと体力や筋力は急速に低下し、本来受けられるはずだった薬物療法を続けられなくなることもあります。そのため、症状を我慢しながら治療を続けるのではなく、症状を積極的に改善しながら治療を継続するという考え方が基本になっています。

栄養管理

胃がんでは栄養管理が治療成績を左右することも珍しくありません。胃は食べ物を一時的にため、消化を助ける重要な臓器であるため、病気が進行すると少量しか食べられなくなったり、食後すぐに満腹感を覚えたりすることがあります。さらに腹膜播種や腹水が加わると、胃が十分に広がらず、以前と同じ量の食事を摂ることが難しくなります。

このような状態では、一度に多く食べようとするよりも、一日の食事回数を増やして少量ずつ栄養を補う方が体への負担は少なくなります。必要に応じて栄養補助食品や経腸栄養、点滴による栄養補給を組み合わせることもあり、管理栄養士が食事内容を調整しながら治療を支えるケースも増えています。

腹水への対応

腹膜播種を伴う患者さんでは、腹水への対応も重要になります。腹水が増えると、お腹の張りだけでなく呼吸のしづらさや食欲低下、歩行時の疲れやすさなど、日常生活のさまざまな場面へ影響が及びます。薬物療法によって腹水が減少することもありますが、症状が強い場合には腹水穿刺によって水分を排出し、苦痛を軽減する処置が行われることもあります。

腹水は「抜けば終わり」というものではなく、栄養状態や腎機能とのバランスを考えながら対応する必要があるため、病状に応じた個別の判断が欠かせません。

痛みのコントロール

痛みのコントロールも緩和ケアの重要な役割です。がんによる痛みは我慢するものではなく、適切に治療することで生活の質を大きく改善できる症状です。現在はアセトアミノフェンなどの鎮痛薬から医療用麻薬まで、痛みの程度に応じてさまざまな薬剤が使用されています。医療用麻薬に対して不安を抱く患者さんもいますが、医師の管理のもとで適切に使用すれば、依存を過度に心配する必要はありません。痛みを抑えることで睡眠や食事が改善し、その結果として体力を維持しやすくなることも少なくありません。

精神的な負担のケア

胃がんステージ4では、身体的な症状だけでなく、将来への不安や家族への心配など精神的な負担も大きくなります。こうした悩みに対しても、医師だけではなく看護師、薬剤師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、公認心理師など、多職種が連携して支援を行います。

治療を続けるかどうかという大きな判断だけではなく、「今食べられない」「夜眠れない」「家族へどう伝えればよいか」といった日常の困りごとについて相談できることも、緩和ケアの大切な役割です。

緩和ケアは自分らしい生活を続けられるように支える医療

緩和ケアは、治療を諦めるための医療ではありません。治療によって得られる効果を最大限に引き出し、患者さんが自分らしい生活をできるだけ長く続けられるよう支える医療です。胃がんステージ4では、薬物療法と同じくらい重要な柱として考えられており、症状を我慢せず早い段階から医療スタッフへ相談することが、結果として治療の継続や生活の質の向上につながります。

胃がんステージ4の生存率

胃がんは、早期に発見されれば手術だけで根治できる可能性が高いがんです。一方、遠隔転移を伴うステージ4では治療の目的が大きく変わるため、生存率にも大きな差が生じます。

国立がん研究センターの院内がん登録の長期予後データでは、ステージごとの5年・10年生存率は次のように報告されています。

病期 5年生存率 10年生存率
ステージI 約82.0% 約64.6%
ステージII 約59.7% 約44.0%
ステージIII 約37.5% 約25.2%
ステージIV 約6.2% 約3.4%

参考:院内がん登録生存率集計結果閲覧システム|がん情報サービス

この表からも分かるように、胃がんはステージⅢまでは一定数の患者さんで長期生存が期待できますが、遠隔転移を伴うステージⅣになると生存率は大きく低下します。ただし、この数字だけで「ステージ4なら必ず5年以内に亡くなる」という意味ではありません。

この統計には10年以上前に診断された患者さんも含まれており、現在では標準となっているHER2標的治療や免疫チェックポイント阻害薬、CLDN18.2を標的とした治療などの効果は十分に反映されていません。現在診断される患者さんでは、これらの新しい治療によって長期間病気をコントロールできるケースも少しずつ増えています。

同じステージ4でも病状には幅がある

「ステージ4」という診断名は同じでも、病状には大きな幅があります。肝臓へ小さな転移が一つだけ見つかった患者さんと、腹膜播種が広範囲に広がり腹水を伴っている患者さんでは、病気の進行速度も治療方針も異なります。同じステージ4でも、分子標的薬や免疫療法が高い効果を示す患者さんでは、これまでより長期間病勢をコントロールできることがあります。

「ステージ4の5年生存率は約6%」という数字は、あくまでも多くの患者さんを平均した結果であり、個々の患者さんの予後を示すものではありません。

ネット・サバイバルデータ

病期 5年ネット・サバイバル 10年ネット・サバイバル
ステージI 約92.8% 約79.1%
ステージII 約66.6% 約52.0%
ステージIII 約41.4% 約29.3%
ステージIV 約6.7% 約3.9%

参考:院内がん登録生存率集計結果閲覧システム|がん情報サービス

国立がん研究センターが公表している「ネット・サバイバル」でも、遠隔転移を伴う胃がんは、限局がんや領域リンパ節転移に比べて生存率が低いことが示されています。ネット・サバイバルとは、胃がん以外の死亡要因を統計学的に補正し「胃がんだけが原因だった場合の生存率」を推計した指標です。

このデータでも、遠隔転移例の5年生存率は10%未満と報告されており、ステージ4が依然として治療の難しい病期であることが分かります。

生存率を左右するのは「ステージ」だけではない

現在の胃がん診療では、ステージよりも細かい情報が治療成績へ影響することが少なくありません。

HER2陽性ではトラスツズマブを含む治療が選択できますし、治療経過によってはトラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)という新しい薬剤も使用できます。MSI-Hでは免疫チェックポイント阻害薬が高い効果を示すことがあり、CLDN18.2陽性ではゾルベツキシマブ(ビロイ)が新たな選択肢になります。

腹膜播種が主体なのか、肝転移が主体なのかによっても経過は異なります。腹膜播種では腹水や腸閉塞による栄養状態の悪化が問題になりやすい一方、肝転移が限局している患者さんでは薬物療法が奏効し、長期間病勢をコントロールできるケースもあります。

このように、生存率を決める要素は「ステージ4」という一つの診断名だけではありません。

生存率は現在の医学水準を示す数字

統計を見ると不安になるのは当然です。しかし、生存率は過去の患者さんの集計結果であり、「あなたがあと何年生きられるか」を示す数字ではありません。治療開始後すぐに病気が進行する患者さんもいれば、複数の薬物療法を受けながら5年以上仕事や日常生活を続けている患者さんもいます。近年は新しい薬剤の承認が相次いでおり、診断された時点では存在しなかった治療が、その後の治療中に選択肢へ加わることもあります。

生存率は現実を知るための大切な指標ですが、それだけで将来を決めつける必要はありません。現在受けられる治療を正しく理解し、自分の病状に合った選択肢を一つずつ検討していくことが、これからの治療を考えるうえで何より重要になります。

胃がんステージ4の余命 ― 平均余命や中央値の考え方

胃がんステージ4と診断されると、多くの患者さんやご家族が気になるのが「余命」です。

しかし、医学では「余命○年」と一律に表現することはほとんどありません。実際の臨床では『全生存期間中央値(Overall Survival:OS)』という指標が用いられます。これは臨床試験に参加した患者さんのうち、半数が生存していた期間を示すものであり、一人ひとりの余命を予測する数字ではありません。

近年は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場によって治療成績が改善しており、どの治療を受けられるかによって全生存期間にも違いがみられるようになっています。

まずは、現在の胃がん治療を代表する主要な臨床試験の結果を見てみましょう。

主な臨床試験で報告されている全生存期間中央値

臨床試験 主な対象 治療内容 全生存期間(OS中央値)
従来の標準化学療法※1 HER2陰性など 化学療法 約10~12か月
ToGA試験 HER2陽性 トラスツズマブ+化学療法 13.8か月
CheckMate 649試験 HER2陰性・PD-L1 CPS≥5 ニボルマブ+化学療法 14.4か月
ATTRACTION-4試験 HER2陰性(アジア) ニボルマブ+化学療法  約17.5か月※2
SPOTLIGHT試験 CLDN18.2陽性・HER2陰性 ゾルベツキシマブ+化学療法 18.2か月

※1 従来の標準化学療法は複数の臨床試験を参考にした概ねの目安です。
※2 ATTRACTION-4試験では無増悪生存期間(PFS)は有意に延長しましたが、全生存期間(OS)は統計学的な有意差を示しませんでした。試験ごとに対象患者や治療条件が異なるため、数値を単純に比較することはできません。

この表を見ると、進行胃がんの治療成績は新しい薬剤の登場によって少しずつ改善していることが分かります。

もちろん「18.2か月だから最も優れた治療」という意味ではありません。

SPOTLIGHT試験はCLDN18.2陽性患者だけを対象としていますし、ToGA試験はHER2陽性患者、CheckMate 649試験はPD-L1の発現状況を考慮した患者集団を対象としています。つまり、それぞれ『対象となる患者さんが異なるため、数字だけを横並びに比較することはできない』のです。

重要なのは、自分の胃がんがどのタイプに当てはまり、どの治療を受けられる可能性があるかを知ることです。

「全生存期間中央値」の意味

全生存期間中央値という言葉は「その期間しか生きられない」と誤解されることがあります。

例えばOS中央値が14.4か月と報告されている場合、それは14.4か月で全員が亡くなるという意味ではありません。実際には、それより短期間で病気が進行する患者さんもいれば、2年、3年、5年以上治療を続けながら生活している患者さんも含まれています。

中央値とは、患者さんを生存期間の短い順に並べたとき、ちょうど真ん中の患者さんが生存していた期間を表す統計学上の指標です。そのため、個人の余命を判断する数字として使うことはできません。

余命を左右するのは治療だけではない

同じ薬剤を使用していても、患者さんによって経過が異なるのは珍しいことではありません。年齢や持病、体力だけでなく、腹膜播種の有無、腹水の量、食事が十分に取れているかどうか、治療開始時の全身状態(Performance Status)など、多くの要素が予後へ影響します。

胃がんでは栄養状態が特に重要です。食事量が減って体重や筋肉量が大きく低下すると、予定していた治療を十分な量で継続できなくなることがあります。一方、症状を早期からコントロールし、栄養状態を維持できれば、二次治療や三次治療まで進める可能性が高まり、その結果として生存期間が延びることも期待できます。

余命は「がんの大きさ」だけでは決まりません。病気とどのように付き合いながら治療を続けられるかも、大きな要素になります。

新しい治療によって長期生存例も増え始めている

近年は、従来であれば難しいと考えられていた長期生存例も国内外から報告されています。

HER2陽性胃がんで分子標的薬が長期間奏効した症例、免疫チェックポイント阻害薬によって病勢を数年間コントロールできた症例、薬物療法によって転移巣が大きく縮小し、コンバージョン手術へ進んだ症例など、その内容はさまざまです。

もちろん、これらはすべての患者さんに当てはまるものではありません。しかし、「ステージ4だから余命は○か月」と断定できない理由も、このような症例が少しずつ増えていることにあります。新しい薬剤は現在も開発が続いており、診断された時点では利用できなかった治療が、その後の治療中に選択肢へ加わることもあります。

余命は「未来を決める数字」ではなく「治療を考えるための目安」

余命の数字は、これからの生活や治療について考えるための参考になります。一方で、その数字だけで将来を決めつける必要はありません。現在の胃がん治療は、HER2やCLDN18.2などの分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、さらに今後実用化が期待される新しい治療によって、少しずつ治療成績が改善しています。

大切なのは「平均は何か月か」という一点だけを見ることではなく、自分の胃がんにはどの治療が適しているのか、今後どのような選択肢が残されているのかを主治医と確認しながら、一つずつ治療を積み重ねていくことです。

次の章では、「胃がんステージ4でも完治する可能性はあるのか」という疑問について、コンバージョン手術や長期生存例、現在の医学的な考え方をもとに詳しく解説します。

胃がんステージ4でも完治する可能性はあるのか

「ステージ4でも完治することはありますか。」

これは、生存率や余命と並んで、患者さんやご家族から最も多く寄せられる質問の一つです。結論から言えば『胃がんステージ4が完治する可能性はゼロではありません。』しかし、早期胃がんのように手術だけで根治が期待できる病気とは異なり、その可能性は決して高くありません。一方で「ステージ4=絶対に完治しない」と断言することも、現在の医学では正確ではなくなっています。

近年は薬物療法の進歩によって、転移巣が画像上ほとんど確認できないほど縮小したり、切除不能と考えられていた胃がんが手術可能になったりする症例が報告されるようになりました。

まずは「完治」という言葉が医学的にどのような意味を持つのかを理解しておくことが大切です。

「完治」と「治癒」は意味が異なる

一般的には「がんがなくなれば完治」と考えられることが多いでしょう。しかし、医学では「画像検査でがんが見えなくなったこと」と「再発する可能性がほとんどなくなったこと」は区別して考えます。

例えば、抗がん剤や免疫療法によってCT検査で腫瘍が見えなくなったとしても、体内には画像では確認できないごく少数のがん細胞が残っている可能性があります。

そのため、医療現場では「完全奏効(Complete Response:CR)」という表現を用いることはあっても、「完治」と断言することはほとんどありません。特にステージ4胃がんでは、一度遠隔転移が確認されている以上、治療後も慎重な経過観察が必要になります。

コンバージョン手術によって長期生存が期待できるケース

現在、胃がんステージ4で最も「治癒」に近づける可能性がある治療として注目されているのが『コンバージョン手術(Conversion Surgery)』です。これは、診断時には切除できないと判断された胃がんに対して薬物療法を行い、その結果、原発巣や転移巣が大きく縮小して根治切除(R0切除)が可能になった場合に手術を行う治療戦略です。

例えば、肝転移が少数に限られている症例や、リンパ節転移が薬物療法によって著しく縮小した症例では、胃と転移巣を切除することで長期間再発なく経過する患者さんも報告されています。

もちろん、この治療を受けられる患者さんは限られています。腹膜播種が広範囲に広がっている場合や、複数の臓器へ転移している場合には適応が難しいことも少なくありません。さらに、R0切除が達成できても再発リスクは残ることは忘れてはならない事実です。それでも「ステージ4だから最初から手術は不可能」と考えられていた時代と比べると、治療の可能性は確実に広がっています。

腹膜播種でも手術を目指せるケース

胃がんステージ4では、腹膜播種を伴う患者さんが少なくありません。以前は、腹膜播種が確認された時点で根治手術はほぼ不可能と考えられていました。しかし近年では、薬物療法によって腹膜播種が著しく縮小し、腹腔鏡検査でも活動性がほとんど認められなくなった患者さんに対して、コンバージョン手術が行われるケースも報告されています。

実際には非常に慎重な判断が必要であり、すべての患者さんが対象になるわけではありません。それでも、「腹膜播種がある=治療は緩和ケアだけ」という時代ではなくなったことは、現在の胃がん診療における大きな変化の一つです。

長期生存例の特徴

国内外から報告されている長期生存例を見ると、いくつか共通する特徴があります。

一つは、薬物療法が非常によく効いたことです。HER2陽性胃がんではトラスツズマブを含む治療によって長期間病勢をコントロールできた症例が報告されていますし、近年では免疫チェックポイント阻害薬やトラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)が著効した症例も報告されています。

もう一つは、「R0切除」が達成できた症例です。R0切除とは、画像上だけではなく、病理学的にもがんを完全に切除できた状態を指します。コンバージョン手術後にR0切除が達成された患者さんでは、5年以上再発なく経過している症例も報告されており、長期生存を期待できる重要な因子と考えられています。

もちろん、これらは一部の患者さんで得られた結果であり、すべての患者さんへ当てはまるものではありません。

「完治」を目標にするか「長く病気をコントロールするか」はケースバイケース

現在の胃がんステージ4治療では、「完治だけ」を唯一の目標にしているわけではありません。病気をできるだけ長くコントロールしながら、自分らしい生活を続けることを重視する患者さんも多くいます。実際、分子標的薬や免疫療法によって数年間仕事や家庭生活を続けながら治療を受けている患者さんもいます。一方で、薬物療法への反応が非常によく、コンバージョン手術を目指せる患者さんもいます。

どちらが正しいということではなく、病気の状態や患者さん自身が大切にしたいことによって、治療の目標は変わります。「ステージ4だから何もできない」という考え方ではなく、「今の病状ならどこまで治療を目指せるのか」を一人ひとり検討することが重要になっています。

標準治療以外の選択肢 ― 自由診療・治験・先進的な治療について

胃がんステージ4の治療を続けていると「標準治療が効かなくなったら、もう方法はないのでしょうか」という不安を抱く患者さんは少なくありません。インターネットで情報を調べると「最新治療」「自由診療」「海外では新しい治療が受けられる」といった情報が数多く見つかりますが、その内容は玉石混交であり、科学的根拠が十分に示されていないものも含まれています。

まず知っておきたいのは「標準治療が終了したからといって、直ちに治療の選択肢がなくなるわけではない」ということです。胃がんでは二次治療、三次治療まで見据えて治療計画が立てられることが一般的になっており、新しい薬剤への切り替えや、バイオマーカーの再評価、治験への参加など、病状によって検討できる選択肢が残されている場合があります。自由診療を考える前に、現在の医学的根拠に基づいて利用できる治療を整理することが大切です。

治験は新しい治療を受けられる可能性の一つ

治験という言葉に「ほかに治療法がなくなった人だけが参加するもの」という印象を持っている方もいるかもしれません。しかし実際には、新しい薬剤や治療法の有効性・安全性を検証するため、さまざまな段階の患者さんを対象に実施されています。

胃がん領域では、HER2を標的とした新しい抗体薬物複合体(ADC)、CLDN18.2やFGFR2bを標的とする薬剤、二重特異性抗体、新しい免疫療法など、多くの治験が国内外で進められています。標準治療では十分な効果が得られなかった患者さんにとって、新しい治療へアクセスできる可能性があることは治験の大きな意義です。

治験は研究の一環であり、必ず高い効果が得られることを保証するものではありません。期待した結果が得られない可能性や、予測されていない副作用が現れる可能性もあります。参加する際には治療内容だけでなく、期待できる利益と考えられるリスクについて十分な説明を受け、自分自身が納得したうえで判断することが重要です。

参考:胃がん 臨床試験|国立がん研究センター がん情報サービス

自由診療を検討するときに重要なこと

自由診療には、公的医療保険が適用されない治療が含まれます。なかには海外では承認されている薬剤を国内で自費診療として使用するケースや、自由診療だからこそ受けられる検査や治療を提供している医療機関もあります。一方で「がんが消える」「標準治療より優れている」といった表現で十分な科学的根拠が示されていない治療が紹介されていることもあり、慎重な判断が必要です。

自由診療というだけで効果が高いわけではありませんし、標準治療より優れていることが証明されているわけでもありません。治療を検討する際には「どのような臨床試験で効果が確認されているのか」「医学論文として公表されているのか」「国内外のガイドラインでどのように位置付けられているのか」を確認することが欠かせません。

費用面についても十分に理解しておく必要があります。自由診療では数十万円で済むものもあれば、治療を継続することで数百万円以上の費用がかかる場合もあります。期待できる効果と経済的負担の両方を踏まえ、家族や主治医とも相談しながら検討することが大切です。

腹膜播種に対する新しい治療の研究が進められている

胃がんステージ4で特に課題となる腹膜播種については、現在も新しい治療法の研究が続けられています。

代表的なものの一つが、腹腔内へ抗がん剤を投与する『腹腔内化学療法』です。点滴による全身化学療法では届きにくい腹膜播種へ直接薬剤を届けることを目的とした治療で、国内外の臨床研究が進められています。ただし、現時点ではすべての患者さんに対する標準治療ではなく、実施できる施設や適応となる患者さんは限られています。

このほかにも、温熱療法を組み合わせた治療や、新しいドラッグデリバリーシステムを利用した治療法などが研究されていますが、多くはまだ検証段階です。「新しい治療だから優れている」と考えるのではなく、どの程度の医学的根拠があるのかを確認したうえで判断することが重要です。

参考:大腸癌腹膜播種に対する腹腔内化学療法におけるドラッグデリバリーシステムの工夫|KAKEN

標準治療を土台に考えることが後悔の少ない治療選択に繋がる

新しい治療へ期待を持つことは決して悪いことではありません。しかし、標準治療には長年の臨床試験によって有効性と安全性が確認され、多くの患者さんで利益が証明されてきたという大きな強みがあります。日本や欧米のガイドラインでも、まずは標準治療を基本とし、そのうえで治験や新しい治療の可能性を検討することが推奨されています。

標準治療が思うような結果につながらなかった場合でも、次の薬剤への変更や治験への参加、新しい分子標的薬の適応確認など、検討できる選択肢が残されていることは少なくありません。「標準治療か自由診療か」という二者択一で考えるのではなく、その時点で利用できる医学的根拠のある治療を一つずつ整理し、自分に合った選択肢を見極めていくことが、納得できる治療につながります。

胃がんステージ4の最新治療 ― 今後期待されている新しい治療法

胃がんの治療は、この10年ほどで大きく進歩しました。以前は、進行胃がんに対する治療といえば抗がん剤が中心で、一つの薬剤が効かなくなると選択肢は限られていました。しかし治療の進歩によって、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が標準治療として定着し、患者さんのがん細胞の特徴に応じて治療を選択する時代へ変わっています。

現在も新しい分子標的薬や抗体薬物複合体(ADC)、免疫療法などの研究が世界中で進められており、数年前には存在しなかった治療が次々と実用化されています。こうした新しい治療法は、すべての患者さんがすぐに受けられるわけではありません。しかし「標準治療が終われば治療法はなくなる」という時代ではなくなってきていることは、胃がん診療における大きな変化といえるでしょう。

抗体薬物複合体(ADC)は胃がん治療を大きく変えつつある

近年、最も注目されている治療の一つが『抗体薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate:ADC)』です。

ADCは、分子標的薬の「狙った細胞へ結合する力」と、抗がん剤の「がん細胞を攻撃する力」を組み合わせた薬剤です。標的となるタンパク質を持つがん細胞へ選択的に薬剤を届けることで、正常な細胞への影響をできるだけ抑えながら高い治療効果を目指します。

胃がんでは、HER2陽性患者を対象とした「トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)」が代表例です。DESTINY-Gastric01試験では、従来治療後のHER2陽性進行胃がんにおいて高い奏効率と生存期間の延長が報告されました。

現在はHER2以外にも、新たな標的分子に対するADCの開発が進んでおり、今後さらに治療の幅が広がることが期待されています。

分子標的薬は「HER2だけ」の時代ではなくなった

胃がんの分子標的治療は、HER2を中心に発展してきました。しかし近年は、それ以外の分子を標的とする薬剤も相次いで登場しています。その代表が『CLDN18.2』です。CLDN18.2陽性胃がんでは、ゾルベツキシマブ(ビロイ)が標準治療へ加わり、SPOTLIGHT試験では全生存期間の延長が報告されました。

さらに現在は『FGFR2b』を標的とするベムマリツズマブ(Bemarituzumab)の国際共同試験も進められています。FGFR2bは一部の胃がんで高発現しており、この分子を標的とした治療によって生存期間のさらなる改善が期待されています。

今後はHER2だけでなく、CLDN18.2やFGFR2bなど複数のバイオマーカーを評価し、それぞれに適した薬剤を選択する流れがさらに進むと考えられます。

免疫療法も新しい組み合わせが研究されている

免疫チェックポイント阻害薬は、すでに一次治療の標準となっていますが、研究は現在も続いています。

PD-1阻害薬と新しい免疫調節薬を組み合わせる治療や、分子標的薬との併用療法など、多くの国際共同試験が進行しています。HER2陽性胃がんでは、抗HER2療法と免疫療法を組み合わせることで治療効果をさらに高められる可能性も報告されており、今後の結果が注目されています。

免疫療法は「単独で使う治療」から、「他の治療と組み合わせて効果を高める治療」へ発展しつつあります。

がんゲノム医療によって新しい治療へつながる可能性もある

標準治療が終了した患者さんでは『がん遺伝子パネル検査』が提案されることがあります。この検査では数百種類の遺伝子異常を一度に調べることができ、特定の遺伝子変異が見つかった場合には、治験や適応となる分子標的薬を検討できることがあります。

現時点では、胃がん患者さん全員が新しい治療へ結び付くわけではありません。それでも、従来であれば治療選択肢が限られていた患者さんに対して、新たな可能性を見つける手段として期待されています。がんゲノム医療は「現在使える薬を探す検査」であると同時に、「これから受けられる可能性のある治療」を探す検査でもあります。

最新治療は根拠を確認することが重要

新しい治療法が次々と報道されると「最新治療の方が標準治療より優れているのではないか」と感じる方もいるでしょう。しかし、医学では「新しい治療」であることと「効果が証明されている治療」であることは同じではありません。

現在の標準治療になっている薬剤も、長い年月をかけた臨床試験によって有効性と安全性が確認されたからこそ、多くの患者さんへ使用されるようになりました。これから登場する新しい薬剤も同じです。有望な結果が報告されていても、さらに大規模な臨床試験で有効性が確認されなければ標準治療にはなりません。

最新治療を検討する際は「新しい治療だから受けたい」と考えるのではなく、その治療がどの段階まで研究され、どのような患者さんを対象としているのかを確認することが重要です。

胃がん治療は今も進歩を続けています。数年前には存在しなかった薬剤が現在では標準治療となり、現在研究段階にある薬剤が数年後には新たな選択肢になっている可能性もあります。新しい情報を正しく理解し、標準治療と最新治療の位置付けを整理しながら治療方針を考えることが、納得のいく選択につながるでしょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 胃がんステージ4でも手術を受けられることはありますか?

あります。

一般的には、遠隔転移を伴うステージ4では薬物療法が治療の中心になりますが、薬物療法によって腫瘍や転移巣が大きく縮小し、根治切除(R0切除)が可能と判断された場合には「コンバージョン手術」が検討されることがあります。ただし、適応となる患者さんは限られており、すべてのステージ4胃がんで手術ができるわけではありません。

Q2. 胃がんステージ4でも仕事を続けることはできますか?

病状や治療内容によって異なりますが、仕事を続けながら治療を受けている患者さんも少なくありません。最近の抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬は外来で受けられるものも多く、副作用をコントロールしながら通院治療を続けられるケースが増えています。

一方で、体力や栄養状態によっては勤務時間の調整や休職が必要になることもあります。無理を続けるよりも、主治医や勤務先と相談しながら働き方を見直すことが、長く治療を続けるためには重要です。

Q3. 食事で気を付けることはありますか?

特別な「胃がんに効く食事」はありません。大切なのは十分な栄養を維持することです。

胃がんステージ4では、一度に多く食べることが難しくなる場合があります。そのようなときは、一日3食にこだわらず、少量ずつ回数を分けて食べるほうが負担を減らせることがあります。食欲低下や体重減少が続く場合には早めに主治医や管理栄養士へ相談しましょう。

Q4. セカンドオピニオンを受ける意味はありますか?

あります。特にステージ4では、HER2、CLDN18.2、MSI、PD-L1などの検査結果によって治療方針が変わることがあります。また、治験を実施している施設や、コンバージョン手術を積極的に検討している医療機関など、病院によって対応が異なることもあります。

現在の治療に納得したうえで前向きに治療を受けるためにも、セカンドオピニオンは有効な選択肢の一つです。

Q5. 標準治療が終わったら、もう治療法はないのでしょうか?

必ずしもそうではありません。二次治療、三次治療へ進める場合もありますし、HER2陽性やCLDN18.2陽性などでは、新しい薬剤が使用できる可能性もあります。さらに治験への参加やがん遺伝子パネル検査によって、新たな治療選択肢が見つかることもあります。

標準治療が終了したからといって、すべての治療が終わるとは限りません。

Q6. 禁煙や禁酒をすると治療効果は変わりますか?

喫煙は手術後の回復を遅らせるだけでなく、抗がん剤治療中の合併症や肺炎などのリスクを高めることが知られています。また過度の飲酒は肝機能へ影響し、治療の継続が難しくなる場合もあります。

禁煙や節酒だけで胃がんが治るわけではありませんが、治療を安全に続けるためにも生活習慣を見直すことは大切です。

Q7. 胃がんステージ4でも旅行や外出はできますか?

病状が安定しており、主治医から制限を受けていなければ、旅行や外出を楽しんでいる患者さんもいます。ただし、抗がん剤投与直後や体調が不安定な時期は無理をせず、旅行先で医療機関を受診できるかどうかも事前に確認しておくと安心です。

生活をすべて我慢するのではなく、体調と相談しながら自分らしい時間を過ごすことも、治療を続けるうえで大切な要素になります。

胃がんステージ4でも自分に合った治療を選択することが大切

胃がんステージ4は、遠隔転移を伴う進行した状態であり、決して簡単に治療できる病気ではありません。しかし、現在は抗がん剤だけでなく、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの登場によって、治療の選択肢は以前より大きく広がっています。

さらに、HER2やCLDN18.2などのバイオマーカーに応じて治療を選択する個別化医療が進み、一部の患者さんではコンバージョン手術による長期生存も期待できるようになってきました。新しい薬剤や治療法の研究も世界中で続いており「ステージ4だから何もできない」という時代ではなくなっています。

一方で、インターネットにはさまざまな情報があふれており、すべてが科学的根拠に基づいているとは限りません。治療を選択するときは、生存率や余命といった数字だけを見るのではなく、自分の病状や遺伝子・バイオマーカーの特徴、生活で大切にしたいことなども含めて、主治医と十分に相談しながら判断することが重要です。

胃がんステージ4の治療は、一つの治療法だけで完結するものではありません。その時々の病状に合わせて最適な選択肢を積み重ねていくことが、長く病気と向き合うための第一歩になります。不安や疑問を一人で抱え込まず、必要に応じてセカンドオピニオンも活用しながら、自分にとって納得できる治療を選択していきましょう。

参考:
胃癌治療ガイドライン|一般社団法人 日本胃癌学会
胃がん|国立がん研究センター がん情報サービス
ゲノム医療について|厚生労働省
胃がん 治療|国立がん研究センター がん情報サービス
Herceptin の主要な試験(ToGA)でHER2陽性胃がんにおいて有意な延命効果が認められる
抗悪性腫瘍剤 「エンハーツ®」の日本におけるHER2陽性胃がんの二次治療に係る添付文書改訂のお知らせ
胃がんに対する二次治療としてのトラスツズマブ デルクステカンが生存期間を有意に延長|国立がん研究センター
クローディン18.2陽性HER2陰性進行胃がんに対するゾルベツキシマブ+化学療法+ニボルマブ併用療法が有効な可能性|国立がん研究センター
治療歴のある進行胃癌または食道胃接合部腺癌患者におけるRamucirumab+paclitaxel-療法 vs. プラセボ+paclitaxel療法:第III相二重盲検無作為化比較試験(RAINBOW)
切除不能進行・再発胃/食道胃接合部/食道腺癌の1次治療におけるNivolumab+化学療法と化学療法を比較した国際共同無作為化オープンラベル比較第III相試験(CheckMate 649試験)
経口摂取不良の切除不能胃癌に対する治療戦略|消化器癌治療の広場
院内がん登録生存率集計結果閲覧システム|がん情報サービス
胃がん 臨床試験|国立がん研究センター がん情報サービス
大腸癌腹膜播種に対する腹腔内化学療法におけるドラッグデリバリーシステムの工夫|KAKEN

胃がんは、日本人にとって長く身近ながんの一つです。国立がん研究センターの統計では、2023年に新たに胃がんと診断された人は104,864例、2024年の死亡数は37,867人と報告されています。かつてより減少傾向はあるものの、現在でも決して少ない病気ではありません。

胃がんの早期発見が難しい原因として、早い段階では自覚症状がほとんど出ないことがあげられます。胃の不快感、みぞおちの痛み、食欲低下、胸やけ、胃もたれのような症状があっても、多くの人はまず「胃炎かもしれない」「食べすぎたのだろう」「ストレスのせいだろう」と考えます。実際、こうした症状は良性の胃炎や逆流性食道炎、胃潰瘍でも起こります。そのため、胃がんだけを疑ってすぐ検査へ進む人は多くありません。

胃がんは早期に見つかれば内視鏡治療で治療できる場合があります。胃の粘膜に浅くとどまっている段階で発見できれば、胃を大きく切除せずに済む可能性もあります。胃がん治療には内視鏡治療、手術、薬物療法などがあり、病気の進行度によって選択が大きく変わります。

問題は、症状が出てから見つかる胃がんでは、すでに粘膜の深い層へ進んでいたり、リンパ節転移を伴っていたりすることがある点です。胃はある程度広がりのある臓器なので、小さな病変では食事の通り道を大きく妨げません。出血があっても少量なら便の色や体調変化として気づきにくく、貧血が進んで初めて検査につながることもあります。

この記事では、胃がんを単なる病気説明としてではなく、なぜ見逃されやすいのか、どの段階で検査を考えるべきなのか、なぜ内視鏡治療で済む場合と手術や薬物療法が必要になる場合があるのかまで含めて解説します。胃の症状を抱えている人、検診で異常を指摘された人、すでに診断を受けて治療選択に迷っている人が、自分の状況を整理するための判断材料として読める内容を目指します。

出典:国立がん研究センター がん統計「胃」

  • 胃がんは減少傾向はあるものの日本人にとって身近ながんの一つ
  • 早期の胃がんは自覚症状がほとんど出ないため見逃されがち
  • 症状が出てから見つかる胃がんは既に進行していることが多い

胃がんとは何か

胃がんは、胃の内側を覆う粘膜の細胞ががん化し、無秩序に増えていくことで発生します。胃は、食道から入ってきた食べ物を一時的に溜め、胃酸や消化酵素によって消化を進め、十二指腸へ送り出す臓器です。胃の壁は内側から粘膜、粘膜下層、筋層、漿膜へと層を作っており、胃がんはこの内側の粘膜から始まります。

胃がんで大きな分かれ目になるのは、がんが胃の壁のどの深さまで広がっているかです。粘膜や粘膜下層にとどまる早期胃がんでは、リンパ節転移の可能性が低い条件を満たせば、内視鏡治療が検討されます。胃の外側へ深く進んだ場合やリンパ節転移の可能性が高い場合には、胃の一部または全部を切除する手術が必要になることがあります。

胃がんは、同じ「胃がん」という診断名でも、発生部位や進み方によって治療後の生活がかなり変わります。胃の出口に近い部分にできれば食べ物が通りにくくなり、少量でお腹が張ることがあります。胃の入り口に近い部分では、食べ物がつかえる感じが出ることもあります。胃の広い範囲に浸潤するタイプでは、内視鏡で見ても境界が分かりにくい場合があり、診断や治療方針の判断が難しくなることがあります。

患者側で誤解しやすいのは、「胃痛が強いほど進行している」「痛みがないなら大丈夫」という考え方です。胃がんは、かなり進行していても症状が乏しい場合があります。逆に強い胃痛があっても、原因が胃がんではなく胃炎や潰瘍であることもあります。症状の強さだけでは、胃がんかどうか、どこまで進んでいるかを判断できません。

「何となく胃が重い」「食欲が落ちた」「黒い便が出た」「体重が減った」といった変化が、後から振り返ると重要だったということがあります。胃の症状は日常的に起こりやすいため、自己判断で胃薬を飲んで済ませてしまう人もいます。胃がんを早く見つけるには、症状の有無だけに頼らず、年齢や検診歴、ピロリ菌感染歴、症状の続き方を含めて考える必要があります。

胃がんの原因とリスク

胃がんは、一つの原因だけで起こる病気ではありません。発症には、ピロリ菌感染、慢性胃炎、食生活、喫煙、加齢、遺伝的背景などが複雑に関わります。その中でも、日本人の胃がんで特に重要なのがヘリコバクター・ピロリ菌です。

ピロリ菌感染・慢性胃炎

ピロリ菌は胃の粘膜に感染し、長い時間をかけて慢性胃炎を引き起こします。慢性的な炎症が続くと、胃粘膜が萎縮し、細胞が変化しやすい状態になります。この変化が長年積み重なることで、胃がんの発生リスクが高まると考えられています。胃がんが「ある日突然できる」というより、長い炎症の積み重ねの中で発生する場合があるのはこのためです。

ただし、ピロリ菌に感染している人が全員胃がんになるわけではありません。そして除菌治療を受けたからといって、胃がんリスクが完全にゼロになるわけでもありません。すでに萎縮性胃炎が進んでいる場合には、除菌後も定期的な内視鏡検査が必要になることがあります。患者の中には「除菌したからもう胃カメラは不要」と考えてしまう人もいますが、実際には胃の状態によって検査の必要性が変わります。

食生活・喫煙・生活習慣

食生活も胃がんリスクと関係します。塩分の多い食事は胃粘膜へ負担をかけ、発がんリスクと関連すると考えられています。喫煙も胃がんのリスク因子として知られています。ただ、ここで注意したいのは、生活習慣だけが胃がんの発生原因ではないということです。健康に気をつけていた人でも胃がんになることはありますし、逆にリスク要因があっても発症しない人もいます。

胃がんの疑いがあると診断された際に重要なのは、「自分に何か原因があったのか」を探し続けることより、今の胃の状態を把握することです。ピロリ菌感染歴がある人、慢性胃炎を指摘されたことがある人、胃がんの家族歴がある人、長く胃の不調が続いている人では、胃薬で様子を見るだけではなく、内視鏡検査で粘膜を直接確認する意味があります。

胃がんの症状と見逃されやすさ

胃がんが見逃されやすい理由の一つに、初期症状がはっきりしないことにあります。胃痛や胃もたれ、胸やけ、食欲低下、吐き気のような症状は、日常的な胃腸トラブルでも起こります。忙しい時期に胃が重くなればストレスのせいだと考えやすく、食後の不快感が続いても市販薬でしのいでしまう人は少なくありません。

早期胃がんでは、まったく症状がないことも珍しくありません。検診や別の理由で受けた胃カメラで偶然見つかることもあります。胃の粘膜に浅くとどまっている段階では、食べ物の通過を妨げることも少なく、出血があっても微量で自覚しにくいからです。

胃がんの進行と症状の変化

病気が進むと、症状は少しずつ変わります。腫瘍から出血すれば貧血が進み、疲れやすさ、息切れ、顔色の悪さとして現れることがあります。便が黒くなる場合もあります。胃の出口に近い部分が狭くなると、食べたものが通りにくくなり、少量で満腹になる、食後に吐き気が出る、体重が減るといった変化につながります。胃の入り口付近では、食べ物がつかえる感覚が出ることもあります。

ここで難しいのは、こうした症状が胃がんだけに特有ではないことです。胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、機能性ディスペプシアでも似た症状が起こります。症状だけで胃がんを見分けることはできません。

受診を考える上で大切なのは、「一度症状が出たか」ではなく、「変化が続いているか」「以前と違うか」です。胃薬を飲んでも改善しない胃もたれが続く、食欲が戻らない、体重が落ちている、黒い便が出る、貧血を指摘された。こうした変化がある場合には、単なる胃の不調として片付けず、内視鏡検査を含めて確認する方が現実的です。

胃がんの検査と診断

胃がんを確定するために重要なのは、内視鏡検査です。胃カメラでは、胃の粘膜を直接観察し、疑わしい部分があれば組織を採取して病理検査を行います。画像だけで「胃がんらしい」と判断するのではなく、実際に細胞を確認して診断を確定します。

胃X線検査・内視鏡検査

検診では、胃X線検査や内視鏡検査が行われます。胃X線検査はバリウムを飲んで胃の形や粘膜の異常を調べる方法で、広く行われてきました。内視鏡検査では粘膜を直接見ることができ、早期胃がんや小さな病変の確認に役立ちます。どちらにも役割がありますが、症状が続いている場合や精密検査が必要な場合には、内視鏡で直接確認する意味が大きくなります。

患者側では特に胃カメラへの抵抗感が強いことがあります。苦しい、怖い、以前つらかったという経験から、検査を先延ばしにしてしまう人もいます。現在は経鼻内視鏡や鎮静を使う検査など、負担を減らす工夫もあります。もちろん施設によって対応は異なりますが、「胃カメラが怖いから検査しない」と決めてしまう前に、検査方法を相談してみましょう。

胃がん診断後の流れ

胃がんと診断された後は、病気の広がりを調べる検査が行われます。CTではリンパ節転移や肝臓、肺、腹膜などへの転移を確認します。必要に応じて超音波検査、MRI、PET検査などが検討されることもあります。胃がんには、腹膜播種という形でお腹の中に広がることがあり、画像では分かりにくい場合もあります。進行度によっては、審査腹腔鏡で腹膜播種の有無を確認することもあります。

検査の種類が増えると「かなり悪いのではないか」と不安になる人もいますが、胃がんの治療方法は進行度によって大きく変わります。内視鏡治療で済むのか、手術が必要なのか、先に薬物療法を行うべきなのかを判断するには、病気の深さや転移の有無をできるだけ正確に把握する必要があります。検査は不安を増やすためではなく、治療を選ぶための土台になるのです。

胃がんのステージ分類

胃がんのステージ分類は、がんが胃の壁のどの深さまで広がっているか、リンパ節転移があるか、遠隔転移があるかをもとに判断されます。胃がんでは、この分類が治療方針に直結します。内視鏡治療で済む段階なのか、胃切除とリンパ節郭清が必要なのか、薬物療法を中心に考える段階なのかが変わるからです。

ステージ0期

ステージ0に相当する非常に早い段階では、がんが粘膜内にとどまっています。リンパ節転移の可能性が極めて低い条件を満たす場合には、内視鏡治療が検討されます。「がんと診断されたのに内視鏡だけで取れるのか」と驚かれることがありますが、早期胃がんでは深さと転移リスクを見極めた上で、体への負担が少ない治療を選べる場合があります。

ステージⅠ期

ステージ1では、がんが粘膜下層や筋層近くまで進んでいる場合がありますが、リンパ節転移がない、または限られている段階です。条件によっては内視鏡治療が適応になることもありますが、転移リスクがある場合には手術が選ばれます。胃の一部を切除するのか、胃全体を切除するのかは、がんの位置や広がりによって変わります。

ステージⅡ~Ⅲ期

ステージ2からステージ3になると、胃の壁の深い層まで浸潤していたり、リンパ節転移が明らかになったりします。この段階では、手術で胃の病変と周囲リンパ節を切除することが治療の中心になります。

手術で見える病変を取り除けても、目に見えない微小転移が残っている可能性があるため、術後補助化学療法が検討されます。「手術で取れたのに、なぜ抗がん剤が必要なのか」と感じやすいのですが、ここでの薬物療法は再発リスクを下げる目的で行われます。

ステージⅣ期

ステージ4では、肝臓、肺、腹膜、遠隔リンパ節などへの転移がある状態です。この段階では、手術で胃だけを切除しても全身の病気を治すことは難しくなります。そのため、薬物療法を中心に、症状を抑えながら病状をコントロールする治療が行われます。胃の出口が詰まって食事が取れない、出血が続くといった場合には、症状緩和のための手術や内視鏡治療、放射線治療が検討されることもあります。

胃がんのステージは、単なる数字ではありません。どの治療が現実的なのか、治療の目的が根治なのか、再発予防なのか、症状緩和なのかを判断するための基準です。ステージを聞いたときに不安になるのは自然ですが、数字だけで将来を決めつけるのではなく、自分の胃がんがどこまで広がっていて、どの治療で何を目指すのかを確認することが大切です。

胃がん治療の全体像

胃がんは進行度によって治療の目的が大きく変わります。早期でリンパ節転移の可能性が低い場合には、内視鏡治療で胃を温存できることがあります。胃の壁の深い層へ進んでいる場合やリンパ節転移の可能性がある場合には、手術が中心になります。遠隔転移がある場合には、薬物療法を中心に病状をコントロールする治療へ移ります。

胃がん治療で最初に考えるのは「がんを取り切れる状態かどうか」です。内視鏡治療や手術で根治を目指せる場合には、病変を確実に取り除くことが治療の中心になります。ただ、胃がんの手術後は生活変化も大きいため、単にがんを切除できるかだけでなく、食事量、体重減少、ダンピング症状、栄養状態まで含めて考える必要があります。

  • 内視鏡治療

内視鏡治療は、胃を切除せずに病変部分だけを内側から切除する方法です。体への負担は比較的少ない一方で、適応は限られます。がんが浅く、リンパ節転移の可能性が低いと判断される場合に行われます。内視鏡で取れたように見えても、病理検査で深く浸潤していたり、リンパ管や血管への侵襲が見つかったりすると、追加手術が必要になることがあります。

  • 手術

手術では、胃の一部または全体を切除し、周囲のリンパ節も一緒に切除します。がんの場所によって、幽門側胃切除、噴門側胃切除、胃全摘などが選ばれます。胃を切除すると、食べ物をためる機能が弱くなり、一度に食べられる量が減ります。食後の動悸、冷や汗、眠気、下痢などが出ることもあります。胃がん手術は「がんを取る治療」であると同時に、「食べ方を変える生活の始まり」でもあります。

  • 薬物療法

薬物療法は、進行胃がんや再発胃がんで中心になる治療です。手術後の再発予防として行われることもあります。近年は、従来の抗がん剤だけではなく、HER2を標的とした治療、免疫チェックポイント阻害薬、CLDN18.2などを標的とした新しい治療選択も登場し、胃がんの薬物療法は大きく変化しています。ただし、すべての患者に同じ薬が使えるわけではありません。がんの性質や検査結果、体力、臓器機能、副作用の許容度を見ながら選択します。

  • 栄養管理・支持療法

胃がん治療では、栄養管理と支持療法も非常に重要です。胃を切除した後は体重が落ちやすく、食事量が戻らない患者もいます。薬物療法中も食欲低下、吐き気、味覚変化、下痢、しびれなどで生活が大きく変わることがあります。治療を続けるには、がんを攻撃する治療だけでなく、食べる力、動く力、眠る力を支える医療が必要になります。

胃がん治療で大切なのは、「標準治療を受けるかどうか」だけではありません。今の病状で治療の目的は何か、その治療によって何が期待でき、どんな生活変化が起こるのかを理解することです。治療は医師だけが決めるものではなく、患者自身が生活の中で続けていくものです。だからこそ、治療効果だけでなく、食事、体力、仕事、家族との生活を含めて考えることが重要になります。

各治療法の詳細

胃がんの治療は「どの治療が強いか」を選ぶものではありません。がんが胃の壁のどの深さまで入り込んでいるのか、リンパ節転移や遠隔転移があるのか、内視鏡で安全に切除できるのか、手術で取り切れるのか、薬物療法で全身の病気として抑えるべき段階なのかによって、治療の目的そのものが変わります。

国立がん研究センターのがん情報サービスでも、胃がん治療はステージ、がんの性質、体の状態などに基づいて、内視鏡治療、手術、薬物療法、免疫療法、緩和ケア/支持療法などを検討すると説明されています。

参考:国立がん研究センターがん情報サービス 胃がん治療

内視鏡治療

胃がんが最も早い段階に見つかった場合、内視鏡治療が検討されます。これは胃カメラを使って胃の内側から病変を切除する治療で、腹部を切開せず、胃を大きく失わずに済む可能性があります。国立がん研究センター中央病院でも、内視鏡治療は胃を温存でき、治療後の食事や生活の質を高く維持しやすい治療だと説明しています。

参考: 国立がん研究センター中央病院 | 胃がんの内視鏡治療について 

ただし、胃がんであれば誰でも内視鏡で取れるわけではありません。内視鏡治療が成立するためには、がんが浅い層にとどまっており、リンパ節転移の可能性が極めて低いと判断できる必要があります。胃がんは粘膜から発生しますが、粘膜下層へ深く入り込むほどリンパ管や血管へ到達しやすくなり、リンパ節転移の可能性が出てきます。内視鏡で胃の表面の病変だけをきれいに切除できても、すでにリンパ節へ広がっていれば根治にはなりません。ここが、患者側にとって分かりにくいところです。

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

内視鏡治療には、内視鏡的粘膜下層剥離術、いわゆるESDが広く行われています。病変の下に薬液を入れて浮かせ、粘膜下層を慎重にはがしながら病変を一括で切除します。病変を一つの標本として取り出せるため、切除後に本当に取り切れているか、がんがどの深さまで入っていたか、リンパ管や血管への侵襲がないかを病理検査で確認できます。

内視鏡で取れた場合でも、その場で完全に終わりではなく、切除後の病理結果によって追加手術が必要になる場合があります。術前には浅いがんに見えていても、病理で粘膜下層へ深く浸潤していたり、リンパ管や血管への侵襲が見つかったり、切除断端にがんが残っている可能性が示されたりすると、リンパ節転移リスクを考えて手術が勧められることがあります。

内視鏡治療は「負担の少ない治療」ではありますが、どんな胃がんにも使える簡単な治療ではありません。それでも、適応を満たした早期胃がんでは、内視鏡治療の価値は非常に大きいです。

胃を温存できるため、胃切除後の食事量低下、体重減少、ダンピング症状といった生活変化を避けられる可能性があります。だからこそ胃がんは、症状が出る前、または症状が軽い段階で見つけることが大きな意味を持ちます。胃の不調が続くときに検査を先延ばしにするか、内視鏡で確認するかによって、治療の負担が大きく変わることを覚えておいてください。

手術治療

がんが粘膜下層へ進んでいる場合や、リンパ節転移の可能性がある場合、治療の中心は手術になります。胃がん手術では、胃の病変だけをくり抜くのではなく、がんのある胃の範囲と周囲のリンパ節を一緒に切除します。胃がんはリンパ節へ広がることがあるため、画像で明らかな転移が見えなくても、一定範囲のリンパ節郭清が必要になる場合があります。

幽門側胃切除・噴門側胃切除・胃全摘

手術方法は、がんの位置によって変わります。胃の出口側にできた場合は幽門側胃切除が検討され、胃の入り口側では噴門側胃切除が選ばれることがあります。胃の広い範囲に病変がある場合や、胃の上部から中央にかけて広がる場合には、胃全摘が必要になることもあります。患者にとって大きな不安は「どれくらい胃が残るのか」「食事はどうなるのか」という点です。

胃は、食べ物を一時的にため、少しずつ小腸へ送る役割を持っています。胃を切除すると、この貯留機能が弱くなります。そのため術後は、一度に食べられる量が減り、少量ずつ何回かに分けて食べる生活へ変わることがあります。食後に動悸、冷や汗、腹痛、下痢、眠気が出るダンピング症候群に悩む患者もいます。胃全摘後では、体重減少や栄養不足、ビタミンB12欠乏による貧血にも注意が必要になります。

胃がん手術は、根治を目指す治療であると同時に、術後の食べ方、体重、体力、仕事復帰に長く影響する治療です。患者によっては、退院後に「思っていたより食べられない」「外食が怖い」「食後に動けなくなる」と感じることがあります。手術前に聞いていた説明と、実際の生活のギャップに戸惑う人もいます。

腹腔鏡手術・ロボット支援手術

現在は、腹腔鏡手術やロボット支援手術など、体への負担を減らす手術も広がっています。傷が小さく、術後回復が早いケースもあります。ただし、低侵襲手術であっても、胃を切除すること自体は変わりません。腹部の傷が小さくても、胃の機能変化、食事量低下、体重減少への対応は必要になります。「傷が小さいから軽い治療」と考えると、術後生活の準備が不十分になることがあります。

術後補助化学療法

手術後に病理検査で実際のステージが確定すると、術後補助化学療法が検討されることがあります。患者としては「手術で全部取れたのに、なぜ抗がん剤が必要なのか」と感じやすい部分です。ここでの薬物療法は、見えている病変を小さくするためではなく、目に見えない微小ながん細胞による再発リスクを下げるために行われます。手術は局所の病気を取り除く治療であり、術後補助療法は全身に残っているかもしれない病気へ備える治療です。

薬物療法

胃がんの薬物療法は、再発予防として行われる場合と、切除不能・再発胃がんに対して病状をコントロールする目的で行われる場合があります。以前は「胃がんの抗がん剤」として一括りに考えられがちでしたが、現在はがんの分子特性を調べた上で薬を選ぶ時代に入っています。

手術後の補助化学療法

前述の通り、手術後の補助化学療法は病理ステージや再発リスクに応じて治療が検討されます。胃切除後は食事量が減りやすく、体重も落ちやすいため、その状態で薬物療法を続けるには栄養管理や副作用対策が非常に重要になります。

切除不能・再発胃がんの薬物療法

切除不能・再発胃がんでは、薬物療法が治療の中心になります。この段階では、手術で胃だけを切除しても全身の病気を治すことが難しいため、全身に作用する治療で病状を抑えることを目指します。現在の治療では、HER2、PD-L1、MSI、CLDN18.2などの検査結果が治療選択に関わります。

日本胃癌学会は、2025年5月にHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発胃がん/胃食道接合部がんの一次治療におけるペムブロリズマブ、化学療法、トラスツズマブ併用に関するガイドライン委員会コメントを公表しています。

参考:一般社団法人日本胃癌学会|胃癌治療ガイドライン速報

HER2阻害薬

HER2陽性胃がんでは、トラスツズマブなどHER2を標的とした治療が重要になります。HER2は乳がんでも知られる分子ですが、胃がんでも一部の患者でHER2陽性となり、治療選択に関わります。HER2陽性かどうかを調べないままでは、使える可能性のある治療を見逃すことになります。

免疫チェックポイント阻害薬

免疫チェックポイント阻害薬も、胃がん薬物療法の中で重要な位置を占めるようになっています。ただし、免疫療法は「免疫を高める安全な治療」という単純なものではありません。効果が期待できる患者を見極めるために、PD-L1やMSIなどの情報が参考になります。

副作用として、肺炎、腸炎、肝機能障害、内分泌障害など、免疫が過剰に働くことによる症状が出る場合があります。抗がん剤とは違う副作用の出方をするため、「熱がある」「下痢が続く」「息苦しい」といった変化を我慢しないことが大切です。

CLDN18.2抗体薬

近年注目されているのが、CLDN18.2を標的とした治療です。CLDN18.2は胃がん細胞に発現することがある分子で、HER2陰性の進行胃がんでも治療選択に関わる可能性があります。

国立がん研究センターは2026年に、CLDN18.2陽性かつHER2陰性の切除不能または転移性胃・食道接合部・食道腺がんに対するゾルベツキシマブ、ニボルマブ、化学療法併用の研究について公表しています。

参考:国立がん研究センター|クローディン 18.2 陽性 HER2 陰性進行胃がんに対するゾルベツキシマブ+化学療法+ニボルマブ併用療法が有効な可能性

薬剤の適応について

薬の名前が増えるほど「自分にもすべて使えるのでは」と感じてしまいますが、実際には、HER2陽性か、CLDN18.2陽性か、MSI-highか、PD-L1発現がどうか、全身状態が保たれているかによって、使える治療は変わります。新しい薬があることと、自分に適応があることは同じではありません。

副作用と治療継続の判断

薬物療法で忘れてはいけないのは、胃がんは「食べる力」が治療継続に直結することです。吐き気、食欲低下、口内炎、下痢、味覚変化、しびれ、倦怠感が出ると、食事量がさらに落ちます。胃切除後の患者では、もともと少量しか食べられない状態に薬の副作用が重なり、体重減少や筋力低下が進むことがあります。

薬物療法は、がんを抑える治療であると同時に、栄養状態を守りながら続ける治療です。副作用が強い場合には、減量、休薬、薬剤変更、支持療法の追加が検討されます。予定通り続けることだけが正解ではなく、続けられる形へ調整することも治療の一部となります。

放射線治療と症状緩和のための治療

胃がんでは、乳がんや前立腺がんのように放射線治療が根治治療の中心になることは多くありません。胃は動きがあり、周囲に腸や肝臓などの臓器もあるため、放射線治療を根治目的で使う場面は限られます。ただし、症状を和らげる目的では非常に重要な役割を持つことがあります。

胃がんから出血が続いて貧血が進む場合、内視鏡治療や薬物療法だけでは出血を十分に抑えられないことがあります。そのような場面で、放射線治療によって出血量を減らし、輸血の頻度を下げることを目指す場合があります。骨転移による痛みが強いときにも、放射線治療によって痛みが軽くなり、歩行や睡眠が改善することがあります。

胃空腸バイパス手術・消化管ステント留置術

胃の出口が狭くなって食事が通らない場合には、胃空腸バイパス手術やステント治療が検討されることがあります。ここでの目的は、がんを完全に取り切ることではありません。食べ物が通る道を確保し、吐き気や嘔吐を減らし、食事を少しでも取れるようにすることです。進行胃がんでは、根治だけを治療の成功と考えると、患者の生活を支える治療の意味を見落としてしまいます。

緩和ケア

緩和ケアも同じです。緩和ケアは「治療をやめた人のもの」ではありません。国立がん研究センターのがん情報サービスでも、胃がんでは診断されたときから心身のつらさを和らげる緩和ケア/支持療法を受けることができると説明されています。

胃がんでは、痛みだけでなく、食べられないつらさ、吐き気、体重減少、不眠、不安、治療継続への迷いが生活全体を苦しくします。がんを小さくする治療だけでは、患者の毎日は支えきれません。栄養士、薬剤師、看護師、リハビリスタッフ、緩和ケアチームが関わりながら、食事、体力、症状、気持ちを支えることが必要になります。

参考:国立がん研究センター がん情報サービス 緩和ケア/支持療法

先進医療・自由診療・新しい治療をどう見るか

胃がんについて調べていると、先進医療、免疫療法、といった言葉に出会います。標準治療だけでは不安が残る患者ほど、こうした言葉に期待を持ちやすくなります。ただ、治療名が新しく見えることと、標準治療より有効性が高いことは同じではありません。

日本胃癌学会は、胃がん治療ガイドラインを公開しており、一般向けにも胃がん治療を理解するための情報を提供しています。標準治療は、過去の治療を漫然と続けているものではなく、臨床試験の結果や新しい薬剤の登場に応じて更新されていくものです。

参考:一般社団法人日本胃癌学会|ガイドライン

新しい治療を検討するときに確認すべきなのは、「標準治療ではないから特別なのか」ではありません。自分の胃がんに適応があるのか、どの検査結果に基づいて使うのか、標準治療と比べてどの程度の効果が示されているのか、副作用は何か、費用負担はどれくらいか、標準治療の開始を遅らせるリスクがないかを確認する必要があります。

胃がんの治療で大切なのは、選択肢を増やすこと自体ではありません。自分の病状に対して医学的に意味のある選択肢を見極めることです。広告や体験談で「効いた人がいる」と書かれていても、それが自分の胃がんに当てはまるとは限りません。気になる治療がある場合は、主治医に治療名を伝え、その治療の根拠、適応、標準治療との関係を確認することが現実的です。

副作用と生活への影響

胃がん治療では、治療効果だけでなく、治療後の生活をどう維持していくかも重要になります。特に胃は「食べること」に直接関わる臓器のため、治療によって食事や体力に影響が出ることがあります。

手術後の影響

変化を感じやすいのは、やはり胃切除後です。胃を部分的に切除した患者でも「少し食べただけですぐ苦しくなる」と話すことがあります。以前と同じ感覚で食べると、膨満感や吐き気が出てしまい、食事を途中でやめるようになることもあります。

胃全摘後では、食事のペースそのものが変わります。「食べること自体が仕事みたいになった」と表現する患者もいます。少量ずつ何回にも分けて食べないと体がついていかず、外食を避けるようになる人もいます。

周囲から見ると普通に生活しているように見えても、本人は「食べるだけで疲れる」と感じているケースもあります。食後に冷や汗、動悸、腹痛、眠気、下痢などが出るダンピング症候群も、胃切除後によくみられる症状です。食後しばらく横にならないと動けないという悩みもよくみられます。

体重減少が続くことも少なくありません。「手術が終われば自然に戻ると思っていた」という患者もいますが、術前の体重まで戻らないということも多いです。筋力低下によって、以前より疲れやすくなったと感じる人もいます。

また、胃全摘後ではビタミンB12吸収障害による貧血が問題になることがあります。胃にはビタミンB12吸収に必要な因子を分泌する役割があるため、長期的に補充治療が必要になる場合もあります。

薬物療法の副作用

一方、薬物療法では別の負担があります。胃がんの抗がん剤治療では、吐き気、食欲低下、倦怠感、口内炎、下痢、味覚変化、しびれなどがみられ、特につらくなりやすいのは「食べないと体力が落ちる」と分かっていても食べられない時です。においだけで気分が悪くなる人もいますし、「好きだったものほど受け付けなくなった」と話す患者もいます。

胃がんや大腸がん、膵がんなどにも用いられるオキサリプラチン(商品名:エルプラットなど)では、末梢神経障害が問題になることがあります。冷たいものに触れた時にしびれや痛みが出やすくなり、冬場に水道へ触れるのがつらくなる人もいます。ボタンを留める、文字を書くといった細かい作業が負担になることもあります。

現在は、副作用を我慢しながら治療を続けるのではなく、症状を調整しながら治療継続を目指す考え方が一般的です。制吐薬などの支持療法を組み合わせたり、薬剤量や投与間隔を調整したりしながら治療を行うことがあります。胃がんの治療では「がんを抑えること」だけでなく、「体力を維持しながら続けられるか」も重要です。

生活面への影響

胃がん治療中・治療後は生活面への影響も小さくありません。脱毛のように見た目へ大きな変化が出ない場合でも、食後の不調や慢性的な疲労感によって、以前と同じ生活が難しくなる人はいます。職場復帰後に、長時間勤務や会食が負担になることもあります。周囲からは「元気そう」と思われていても、本人は食事のたびに体調を気にしながら生活していることがあります。

治療後は「完全に元通りへ戻す」というより、今の体調に合わせながら生活を立て直していく感覚に近いかもしれません。食事回数を増やす、栄養補助食品を使う、無理のない働き方へ調整する、リハビリで筋力低下を防ぐ。そうした工夫を続けながら生活リズムを整えていくことも必要です。

胃がん治療は、腫瘍の大小や腫瘍マーカーの数値だけを見ていればよいわけではありません。食事、体力、仕事、社会生活まで含めて、どのように生活を維持していくかも大切なテーマになります。

ステージ別の生存率と予後

胃がんの予後を考えるとき、まず確認したいのは「全体の平均」ではなく、「自分のステージではどの程度の見通しなのか」です。

国立がん研究センターのがん統計では、胃がん全体の5年相対生存率は66.6%とされています。これは2009〜2011年診断例をもとにした地域がん登録のデータです。ただ、この66.6%という数字だけでは、胃がんの実態はほとんど分かりません。胃がんはステージによって生存率が大きく変わるからです。

出典:国立がん研究センター がん統計 [胃]

ステージ別5年生存率

院内がん登録の全国集計をもとに整理されたデータでは、2015年診断例の5年生存率は、ステージⅠで82.0%、ステージⅡで59.7%、ステージⅢで37.5%、ステージⅣで6.2%とされています。

ステージ別10年生存率

10年生存率では、2012年診断例でステージⅠが64.6%、ステージⅡが44.0%、ステージⅢが25.2%、ステージⅣが3.4%と整理されています。

出典:がん情報サービス 院内がん登録生存率集計結果閲覧システム

この差を見ると、胃がんでは「どの段階で見つかるか」が治療後の見通しに大きく関わることが分かります。

ステージⅠの予後

ステージⅠでは、がんが比較的浅い層にとどまり、リンパ節転移がない、または非常に限られている状態です。この段階では、条件を満たせば内視鏡治療で根治を目指せる場合があります。手術が必要になる場合でも、切除によって長期生存が期待できるケースが多くなります。

5年生存率82.0%という数字は、早期発見の意味を非常にはっきり示しています。ただし、ここで誤解してはいけないのは、「ステージⅠなら安心」という意味ではないことです。内視鏡治療後にも追加手術が必要になるケースはありますし、胃を残した場合には別の場所に新たな胃がんが見つかることもあります。早期であっても、治療後の内視鏡フォローは重要です。

ステージⅡの予後

ステージⅡになると、がんが胃の壁の深い層へ進んでいたり、リンパ節転移を伴っていたりする状態が含まれます。5年生存率は59.7%とされ、ステージⅠから大きく下がります。

この段階では、手術によって目に見える病変を取り除ける可能性がありますが、すでに微小転移が存在している可能性も考える必要があります。そのため、手術後に補助化学療法が検討されます。

患者側は「手術で取り切れたのに、なぜ抗がん剤が必要なのか」と感じることがあります。けれどもステージⅡでは、再発を防ぐために『見えないがん細胞』へ備える治療が重要になります。10年生存率44.0%という数字は、根治が期待できる患者が多い一方で、再発リスクを軽く見てはいけない段階であることを示しています。

ステージⅢの予後

ステージⅢでは、がんがさらに深く進んでいたり、リンパ節転移が広がっていたりする状態になります。5年生存率は37.5%、10年生存率は25.2%とされ、ステージⅡよりもさらに厳しい数字になります。

この段階では、手術で切除できる場合でも、手術だけで十分とは考えにくくなります。胃の病変とリンパ節を切除しても、目に見えない微小転移が残っている可能性が高くなるため、術後補助化学療法が治療成績に関わります。

患者にとってステージⅢという言葉は強い不安を伴いますが、「すぐに何もできない」という意味ではありません。むしろ、手術、薬物療法、栄養管理、再発監視を組み合わせながら、どこまで再発リスクを下げられるかを考える段階です。数字だけを見ると厳しく感じますが、治療を受けられる体力があるか、栄養状態を維持できるか、術後治療を続けられるかによって実際の経過は変わります。

ステージⅣの予後

ステージⅣでは、肝臓、腹膜、肺、遠隔リンパ節などへの転移がある状態です。5年生存率は6.2%、10年生存率は3.4%とされ、他のステージと比べて大きく低下します。

胃がんのステージⅣで特に問題になりやすいのが腹膜播種です。腹膜播種があると、腹水がたまる、腸が動きにくくなる、食事が通りにくくなるといった症状につながることがあります。胃がんは食事と体力に直結するため、転移そのものだけでなく、「食べられなくなること」が治療継続を難しくします。

ただ、ステージⅣの数字を見るときにも注意が必要です。5年生存率6.2%という数値は非常に厳しい現実を示していますが、一方で、それは「すべての患者が同じ経過をたどる」という意味ではありません。

HER2陽性胃がんではHER2標的薬が使われることがありますし、PD-L1発現やMSIの状態によって免疫チェックポイント阻害薬が治療選択に入ることがあります。近年はCLDN18.2を標的とした治療も登場し、胃がんの薬物療法は少しずつ個別化されています。治療がよく効き、一定期間外来通院を続けながら生活できる患者もいます。数字は厳しいものの、治療選択肢がまったくないという意味ではありません。

生存率を見るときに大切なこと

胃がんの生存率を見るときに大切なのは、「平均値」と「個人の見通し」を混同しないことです。生存率は、多くの患者を集計した結果です。年齢、体力、栄養状態、持病、がんの場所、組織型、腹膜播種の有無、肝転移の数、薬物療法への反応、副作用で治療を続けられるかによって、実際の経過は大きく変わります。

特に胃がんでは、栄養状態が予後に強く関わります。同じステージでも、食事がある程度取れて体重を維持できる患者と、食事摂取が急速に落ちて体力が低下する患者では、治療継続のしやすさが変わります。

また、5年生存率だけを見ると、胃がんの時間的な経過を見誤ることがあります。胃がん診断後、比較的早い時期に再発や進行が問題になるケースがあり、一定期間を乗り越えるとその後の見通しが変わる場合もあります。これはサバイバー生存率という考え方にも関係します。

国立がん研究センターのがん情報サービスでは、診断から一定年数後に生存している人に限って、その後の生存率を見るサバイバー生存率も紹介しています。

参考:国立がん研究センター がん統計 [胃]生存率

生存率だけがすべてではない

胃がんのステージ別予後は、患者にとって重い情報です。特にステージⅣの数字は、不安を強める可能性があります。それでも数字を避けてしまうと、治療選択の現実が見えにくくなります。

大切なのは、数字で将来を決めつけることではなく、今の病状を正確に理解することです。自分の胃がんがステージⅠなのか、Ⅱなのか、Ⅲなのか、Ⅳなのか。切除できる状態なのか。術後補助化学療法が必要なのか。薬物療法ではどの分子マーカーが関係するのか。食事や体力をどう維持するのか。こうした点を一つずつ確認することで、生存率の数字は単なる不安材料ではなく、治療方針を考えるための手がかりになります。

標準治療の限界

現在の胃がん診療では、標準治療が治療の中心になります。標準治療とは、多数の臨床試験をもとに、有効性と安全性のバランスが確認され、「現時点で最も推奨される」と考えられている治療です。手術、術後補助化学療法、HER2標的薬、免疫チェックポイント阻害薬なども、長年のデータを積み重ねながら標準治療として位置づけられてきました。

ただ「標準治療を受ければ必ず治る」という意味ではありません。実際には、胃がんの標準治療にも明確な限界があります。もっとも大きい限界の一つが「見えている病気」と「実際に体内へ広がっている病気」が一致しないことです。

CTに映らないマイクロ転移

手術前のCTで明らかな転移が見えなくても、腹膜へ微小な播種が存在している場合があります。手術前には切除可能と判断されていても、実際に開腹して初めて腹膜播種が見つかり、予定していた根治手術を断念せざるを得ないケースもあります。

これは特に「手術できると言われていたのになぜ」と患者が大きなショックを受ける場面です。しかし現在の画像診断でも、腹膜へ散らばったごく小さな病変を完全に見つけ切ることはできません。胃がんでは、この『見えない広がり』が予後へ大きく関わります。

また、仮に手術で取り切れたように見えても、それで「完全に終わり」とは限りません。ステージⅡやⅢでは、術後補助化学療法を行っても再発する患者がいます。これは「治療が間違っていた」という意味ではありません。診断時点ですでに、画像に映らないレベルの微小転移が存在していた可能性があります。

腹膜播種による日常生活への影響

胃がんでは、腹膜再発が問題になることも少なくありません。腹膜へ再発すると、腹水が増えたり、腸の動きが悪くなったり、食事が通りづらくなったりします。胃がんが特につらく感じられるのは「がんが大きくなること」そのものより「食べられなくなること」が生活へ直結するためです。少し食べただけで苦しくなる、水分しか通らなくなる、急激に体重が落ちる、そうした形で日常生活が大きく変わっていくことがあります。

実際の診療でも、「薬があるかどうか」だけではなく、「その治療を続けられる体力が残っているか」が大きな問題になります。たとえば、食事摂取がほとんどできない、体重減少が続く、筋力低下が強い、短期間で入退院を繰り返す、長時間起きていることが難しい、といった状態になると、抗がん剤そのものを継続することが難しくなる場合があります。

抗がん剤への薬剤耐性

体力の問題だけでなく、薬剤耐性によって治療効果が徐々に弱くなっていくケースもあります。一次治療では病状が安定していても、二次治療、三次治療へ進むにつれて、効果と副作用のバランスが難しくなる場面があります。そのため「どこまで積極的な治療を続けるか」を常に考えながら治療方針を調整する必要があります。

「積極的な抗がん剤治療が難しくなる=何もできなくなる」と誤解されてしまうかも知れませんが、実際にはそうではありません。食事を通しやすくするためのステント、バイパス術、腹水による苦しさを和らげる処置、痛みや出血を抑える放射線治療、栄養管理、症状緩和なども、胃がん診療では非常に重要です。

治療の転換点

実際の診療現場では「がんを治すこと」を目標にする段階から、「がんと付き合いながら生活を維持する」段階へ切り替わる場面があります。これは患者にとって非常につらい転換点です。

多くの患者は「次の治療をやればまた治るのでは」と期待します。しかし現実には、抗がん剤が効かなくなってきた、薬剤耐性が出てきた、副作用で体力低下が強い、食事摂取が難しい、短期間で病状進行を繰り返す、といった状況になると、「腫瘍を完全に消す」ことより「症状を抑えながら生活を維持する」ことが現実的な目標になっていきます。

根治が難しくなった後も、食事を通しやすくする、吐き気を減らす、痛みを抑える、腹水を調整する、通院可能な体力を維持する、自宅生活を長く続ける、といったことは生きていく上で極めて重要な要素です。

胃の出口が狭くなった場合には、ステントやバイパス術で食事を通しやすくすることがあります。腹水による苦しさを和らげる処置が必要になる場合もあります。放射線治療で出血や痛みを抑えることもあります。この段階では「どう生活を支えるか」が非常に大きなテーマなのです。

「新しい治療」と「有効な治療」

一方で、病状が進んだ時期ほど「もっと強い治療があるのではないか」と考える患者も少なくありません。インターネット上では「末期ガンから生還」「ステージ4でも完治」「独自の特殊免疫療法」といった言葉を目にすることがあります。

もちろん、新しい治療そのものを否定するわけではありません。実際、HER2標的薬や免疫チェックポイント阻害薬も、かつては新しい治療でした。ただ「新しい治療」であることと「自分の胃がんへ本当に有効」であることは別問題です。

特に胃がんでは、治療の副作用によって食事がさらに取れなくなれば、かえって生活の質を大きく落としてしまう可能性があります。そのため「どこまで積極治療を行うか」を常に考え続けます。治療を続けることで本当に利益があるのか。副作用と効果のバランスは取れているのか。今の患者に必要なのは、さらに強い治療なのか、それとも症状緩和や栄養維持なのか。

こうした判断は「諦めるかどうか」という単純な話ではありません。胃がん診療で本当に難しいのは、「治療を続けること」そのものではなく「何を優先する段階なのか」が変化していくことなのです。

長く生きることを最優先にする時期もあります。食べることを守ることが最優先になる時期もあります。自宅で過ごす時間を大事にしたい患者もいます。

「標準治療を最後までやり切ること」だけが正解とは限りません。今の病状では何が現実的なのか。どこまで体力を維持できるのか。どんな生活を守りたいのか。そうした点を含めて、治療の目的そのものを調整していくことが重要になってきます。

再発と転移

胃がん治療を終えた患者が、その後もっとも強く不安を抱えやすいのが「再発」の問題です。

特に手術を受けて「がんは取り切れた」と説明された後ほど、再発への恐怖が強くなることがあります。治療中は目の前の手術や抗がん剤へ集中していた患者でも、治療が終わって日常へ戻り始めた頃に「また見つかったらどうしよう」という不安が現れることがあります。

実際、胃がんは治療後も長期間にわたって経過観察が続きます。特にステージⅡやⅢでは、手術と術後補助化学療法を行っても再発するケースがあります。「全部取ったはずなのに、なぜ再発するのか」と感じる患者もいます。

再発とは「手術が失敗した」という単純な意味ではありません。診断時点ですでに、画像には映らないレベルの微小転移が存在している場合があります。現在のCTやPET-CTでも、それを完全に見つけ切れるわけではありません。術後補助化学療法は、そうした『見えていない病気』も想定しながら行われていまが、それでもすべての微小転移を完全に抑え切れるとは限りません。

胃がんの再発と転移先の症状

再発というと「もう一度胃にできること」をイメージする人もいますが、実際には再発の形はさまざまです。

腹膜再発

胃がんで特に問題になりやすいのは、腹膜への再発です。がん細胞が腹膜へ広がることで、腹水が増えたり、腸の動きが悪くなったり、食事が通りづらくなったりします。

肝転移

肝転移も比較的多い再発形式です。初期には症状がほとんどなく、定期CTや採血異常で見つかることもあります。進行すると、倦怠感、黄疸、食欲低下などがみられる場合があります。

肺転移

肺転移では、咳や息切れがきっかけになることがありますが、小さい段階では無症状のまま経過することもあります。

骨転移

骨転移では、腰痛や背部痛を「年齢のせい」「疲労」と考えてしまう患者もいます。もちろん、すべての痛みが転移ではありません。ただ、胃がん既往がある患者では「いつもと違う痛みが長く続いているか」が重要になります。

経過観察の重要性

かなり進行するまで自覚症状が目立たない再発もあります。そのため治療後は、診察、採血、CT検査などを組み合わせながら経過をみていきます。

「検査のたびに不安になる」という患者も少なくありません。診察日が近づくと落ち着かなくなる人もいますし、少し食欲が落ちただけで「再発ではないか」と考えてしまう人もいます。こうした不安は珍しいものではありません。胃がんでは「治療が終わった=心理的にも完全に終わる」というわけではないためです。

再発後の治療

再発が見つかった場合でも「すぐに何もできなくなる」と決まっているわけではありません。現在は、再発後にも薬物療法、放射線治療、症状緩和、栄養管理など、さまざまな治療選択があります。HER2陽性ならHER2標的薬が検討される場合がありますし、PD-L1発現やMSI状態によっては免疫チェックポイント阻害薬が治療選択へ入ることがあります。

胃の通過障害が強い場合には、ステントやバイパス術によって食事を通しやすくすることがあります。腹水による苦しさを和らげる処置が必要になる場合もあります。再発後は「がんを完全になくすこと」だけではなく、「食事を続けられるか」「自宅で過ごせるか」「通院できる体力を維持できるか」といった点も重要になります。

実際には、薬物療法を調整しながら長期間外来通院を続けている患者もいます。体調に波がありながらも、仕事や自宅生活を維持している人もいます。

すべての患者が同じ経過になるわけではありませんが、現在の胃がん診療は「再発したらすぐ何もできなくなる」という時代ではなくなっています。そのため、再発について考える時には「再発するか、しないか」だけで捉えないことも大切になります。

再発を完全に防ぎ切れる保証はありません。一方で、再発後にも症状を調整しながら生活を続けている患者はいます。だからこそ治療後は、「過度に恐れ続ける」だけではなく、体重減少や食事変化を放置しないこと、気になる症状が続く時には早めに相談することが重要になります。

納得できる治療を選択するために

胃がんは、早期で見つかれば内視鏡治療や手術によって根治を目指せることがあります。実際、日本では検診や内視鏡診断の普及によって、比較的早い段階で見つかる患者もいます。一方で、進行してから見つかる胃がんや、再発した胃がんでは、治療が長期間に及ぶこともあります。

同じ「胃がん」という診断でも、

  • 切除できるのか
  • 転移はあるのか
  • 再発リスクはどの程度なのか
  • 食事や体力をどこまで維持できるのか

によって、現実的な治療方針は変わります。

胃がんの治療は「どの薬を使うか」だけでなく、「今の体で治療を続けられるか」が大きな意味を持ちます。治療効果を優先したい患者もいれば、食事や生活を維持したい患者もいます。副作用をできるだけ避けたい人もいますし、少しでも長く積極的治療を続けたい人もいます。そこに一つの正解があるわけではありません。

だからこそ大切なのは「誰かの正解」を探し続けることではなく、自分の病状では何を優先したいのかを整理しながら治療を考えることです。もし胃がんと診断されたのならば、主治医に「今の病状はどの段階なのか」「治療で何を目指すのか」「効果と副作用のバランスはどうか」「食事や生活へどの程度影響するのか」といった点を確認しておきましょう。

胃がんは、病気だけではなく生活そのものへの影響も小さくありません。胃がんの治療では「治療を受けるかどうか」だけではなく「どう生活を続けていくか」も含めて考えていくことが大切になります。

印環細胞がん(signet-ring cell carcinoma/SRCC)は、胃がんの中でも特徴的な病理型のひとつで、細胞内の粘液(ムチン)によって顕微鏡で印環状に見えることが名前の由来です。胃がん全体の約10%を占めるとされ、若年層や女性に多い傾向も報告されています。進行するとスキルス胃がんの形態をとることがあり、胃部不快感、腹痛、食欲低下、体重減少、貧血などをきっかけに見つかる場合もあります。

本ページでは、印環細胞がんの特徴や原因、症状、検査(胃カメラ・生検・画像検査)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • 胃がんの中でも、少し特殊なタイプ(胃がんの約10%)
  • 胃カメラで疑う部分を見つけ、組織を取って調べて確定する
  • 見つかった後はCTなどで広がりを確認し、治療の方針を決めていく

印環細胞がんとは

印環細胞がん( 印環細胞癌、signet-ring cell carcinoma/SRCC)は、胃にできる悪性腫瘍(胃がん)の中でも特徴的な病理型の1つに分類され、胃がん全体の約10%を占めると言われています。

細胞内に多量の粘液(ムチン)を含むことで核が細胞の辺縁に押しやられ、顕微鏡下で指輪(印環)状に見える構造をしています。胃以外にも、大腸や肺など他の臓器にも印環細胞がんが発生することがあります。

発症年齢は一般的な胃がんと比べて比較的若年層や女性に多い傾向があり、発生部位は胃体部から幽門部にかけてみられることが多いとされています。病変が進行すると、胃壁全体が硬く厚くなる「スキルス胃がん」の形態をとることもあります。病変が大きくなるにつれて、胃部不快感、腹痛、食欲低下、体重減少、貧血などの症状が出現し、検査をきっかけに発見される場合もあります。

胃印環細胞がんは、リンパ節転移や腹膜播種を起こしやすい傾向があるため、早期発見と手術・化学療法を組み合わせた集学的治療が重要です。

胃印環細胞がんの予後は病期により大きく変わります。リンパ節転移や遠隔転移を伴わない早期胃がんでは、5年生存率は一般に95%以上と報告されており、良好な予後が期待できます。一方で、進行例では5年生存率はおおよそ30〜40%程度に低下し予後不良とされています。

参考:
Signet-ring cell carcinoma of the stomach: Impact on prognosis and specific therapeutic challenge|PubMed Central(PMC)
Effect of double-layer structure in intramucosal gastric signet ring cell carcinoma on lymph node metastasis: a retrospective, single-center study|京都大学学術情報リポジトリ KURENAI
胃印環細胞癌の臨床病理学的検討|CiNii Research
Molecular profiling of signet-ring-cell carcinoma (SRCC) from the stomach and colon reveals potential new therapeutic targets|Oncogene(Nature Portfolio)

印環細胞がんの原因

印環細胞がんは、なぜ発症するのかがまだ完全には分かっていないがんです。ただし、これまでの研究から、発症の原因の1つに遺伝(生まれつきの体質)が関与していると報告されています。

特にCDH1遺伝子に異常があると、細胞同士の結びつきが弱くなり、印環細胞がんができやすくなることが知られています。その他にも遺伝子異常によって印環細胞がんを含む胃癌が発生することが分かっています。

印環細胞がんの診断

印環細胞がんは、画像検査、病理検査などを組み合わせて診断します。

診断で最も重要なのが、胃カメラ(内視鏡検査)です。胃カメラでは、胃の中を直接観察し、粘膜の色調や形、硬さなどの変化を詳しく調べます。

内視鏡検査中に異常が疑われる部分が見つかった場合には、その場で組織の一部を採取します。これは生検と呼ばれ、採取した組織を顕微鏡で詳しく調べることで、印環細胞がんかどうかを確定します。細胞の中に粘液がたまり、核が端に押しやられた特徴的な形が確認されると、印環細胞がんと診断されます。この病理検査が、診断を確定するための最も重要な検査です。

がんと診断された後は、病変がどこまで広がっているかを調べるために画像検査が行われます。CT検査などによって、胃の周囲のリンパ節や他の臓器への転移がないかを確認し、必要に応じて腹膜への広がりや腹水の有無も調べます。これらの結果をもとに、がんの進行度である病期(ステージ)が決定され、治療方針が検討されます。

このように、印環細胞がんは診断が難しいがんであるため、血液検査や画像検査、病理診断を組み合わせた丁寧な検査が必要となります。患者様の状態によって実施すべき検査が異なりますので、具体的には消化器外科や腫瘍内科など専門の先生と相談して検査内容や種類を決定していくのがおすすめです。

印環細胞がんの一般的な治療法

胃の印環細胞がんの治療は、がんの進行度(ステージ)や患者さんの全身状態に応じて決定されます。治療の中心となるのは、手術と抗がん剤治療を組み合わせた「集学的治療」です。

がんが胃の粘膜や粘膜下層にとどまっている早期の段階では、手術によってがんを完全に取り除くことで、治癒が期待できます。がんが胃の壁の深い部分まで及んでいる場合や、リンパ節転移の可能性がある場合には、外科手術が治療の中心となります。手術では、がんのある胃の一部、または全体を切除し、周囲のリンパ節もあわせて取り除きます。これにより、目に見えないがんの広がりも含めて治療することを目指します。

進行した印環細胞がんでは、手術だけでなく抗がん剤治療を併用することが一般的です。手術の前に抗がん剤を使用してがんを小さくする場合や、手術後に再発を防ぐ目的で抗がん剤を使用する場合があります。抗がん剤は、体内に残っている可能性のあるがん細胞を抑える役割を果たします。

一方で、腹膜播種や遠隔転移がある場合には、手術による根治が難しいこともあります。その場合は、抗がん剤治療が治療の中心となり、がんの進行を抑えながら症状の改善や生活の質を保つことを目的とした治療が行われます。

印環細胞がんにおける保険診療の限界

印環細胞がんに対する保険診療には、化学療法や手術、放射線療法などがあります。手術法の発達や化学療法・放射線療法の進歩といった医療界の発展により印環細胞がんの治療法が発展してきましたが、保険診療では治療が困難な場合もあります。

実施できる化学療法の制限

保険診療では印環細胞がんで使用できる抗がん剤の数に制限があります。

印環細胞がんではがん細胞のタイプに合わせて様々な抗がん剤を使い分けます。しかし、個人差はありますが通常3~4種類程度しか有効な薬物療法(レジメン)はありません。

そのため、使用できる薬物を使い切った場合、もしくは体に合わない場合には、選択できる薬剤や治療はもう存在しないと医師から言われてしまいます。

また、1個の新しい抗がん剤などの薬物が開発されるまでには10~20年かかると言われているため、治療中に新規抗がん剤が市場に出現することは稀と言えるでしょう。

化学療法の「きつい」副作用

印環細胞がんの化学療法では抗がん剤などを用いますが、その副作用は抗がん剤の種類や患者様により個人差があります。抗がん剤などの一般的な副作用は、嘔気、食欲不振、下痢、手足のしびれ、倦怠感、発疹、貧血、高血圧、脱毛などです。また、使用する薬物療法の種類によっては、命に関わる合併症や副作用が起きるケースもあり、注意が必要です。

患者様の中には、最初は問題なくても副作用がきつく続けられないと感じる方もいらっしゃいます。また、頑張って化学療法を続けていても副作用のせいで日常生活が楽しく送れずに気分が落ち込む患者様もいらっしゃいます。

保険診療ではカバーしきれない印環細胞がんの再発

印環細胞がんを含む胃癌は、再発率が高い腫瘍であるため、手術前後に抗がん剤が用いられることが多いです。進行胃がんにおいて手術のみでの治療した場合は、3年間での無再発率は約60%でしたが、抗がん剤を併用することで、約75%にまで向上しました。

しかし、4人に1人の方はいまだに再発して命を落とすリスクがあるとも言えます。

また、抗がん剤治療はつらい副作用もあるため、体力があまり無い高齢の患者様や副作用が心配な患者様には実施できません。

参考:海外で行われたCLASSIC試験・国内で行われたJ-CLASSIC-PII試験および胃癌術後補助化学療法におけるオキサリプラチン併用療法に関する日本胃癌学会ガイドライン委員会のコメント|日本胃癌学会

がんの性質に直接アプローチする「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」がおすすめ

近年、発症や進行に関わる分子レベルの異常に着目した核酸医薬が注目され、研究・臨床応用が進んでいます。

がん中央クリニックグループでは、根本的な原因に直接作用することが期待される「アプタマー」「RNA干渉を利用した核酸医薬(siRNA など)」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を、新たな治療の選択肢として提供しています。

アプタマー核酸医薬は、がんに特有に発現している異常なタンパク質に結合することで、その働きを抑えてがん細胞の増殖を抑制したり死滅させたりする次世代の治療薬です。

miR-34a mimic 核酸医薬は、がんになって失われた体に本来備わる「がんを抑える力」を取り戻す新しい治療薬であり、がんの成長や増殖を止め、自然ながん細胞の死滅を促します。

以上のような遺伝子レベルでの最新の治療薬をがん中央クリニックグループのクリニックでは実施できます。

欧米では、がんの部位ではなくどのような遺伝子やタンパク質異常があるか、ということに注目して治療法を決定する研究や臨床試験が行われています。日本では一部の遺伝子レベルの治療を保険でも行われていますが、国際的には遺伝子レベルの治療において遅れを取っています。

がん中央クリニックグループのクリニックではいち早く遺伝子レベルの異常に焦点をあてた診察、治療を導入しています。

「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」治療をオススメする患者様

「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」は印環細胞がんのほとんどの患者様におすすめできる治療法です。

どのような患者様に効果が期待できるのかを以下に具体的に解説します。ぜひご自身のパターンに合わせて治療をご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

印環細胞がんでは、病状や体力、副作用などの理由で、保険診療の標準治療だけでは選択肢が限られることがあります。そうした場合でも、がんに関わる分子レベルの異常に着目する核酸医薬は、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供することが可能です。

核酸医薬(アプタマー、miR-34a mimic)は目立った副作用が現れにくく、「体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方でも、治療の提案が可能です。

さらに、まだ治療ができる体力があるにもかかわらず選択肢がなくなり、緩和を勧められている方にとっても、新たな治療の選択肢として検討いただけます。

がん中央クリニックグループでは、核酸医薬を含め、様々な治療を組み合わせながら患者様の状態や疾患に応じて、患者様一人ひとりに合わせたテーラーメイドのがん治療を提案、提供しています。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」は、印環細胞がんへの化学療法などの薬物療法や放射線療法と併用でき、治療効果として相乗効果が期待できます。

なぜなら、化学療法は産生された印環細胞がんの細胞やたんぱく質に作用しますが、「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」は、がん細胞やたんぱく質が産生される前段階に作用するため、印環細胞がんの細胞に対して作用するポイントが異なるからです。

そのため、「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」は、抗がん剤治療などの薬物治療や放射線療法といった標準治療を行っている患者様におすすめできる治療法です。印環細胞がんの症例では、手術前や手術後も抗がん剤治療を行う場合がありますが、そのような患者様にもおすすめできます。

がんは放置していると大きくなっていくため、印環細胞がんでは様々な治療法を組み合わせてがんを小さくすることが重要です。標準治療に加えて「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」を併用することで、異なる治療手段から印環細胞がんの縮小を目指せます。

印環細胞がんは胃がんの中でも悪性度が極めて高いと言われています。そのため、完治を目指すためには様々な治療法を組み合わせて治療を行うことが重要です。

再発を抑制、防止するため。手術前後のすべての患者様

印環細胞がんが発見され手術を行った場合、3年以内に40%の患者様が再発すると報告されています。

保険診療ではこの高確率での再発を抑制させるため、術前化学療法や術後補助化学療法という抗がん剤治療が勧められるケースが多いです。しかし、特に抗がん剤治療には副作用もあるため、体力があまり無い高齢の患者様や副作用が心配な患者様には実施できません。

また、抗がん剤治療を併用しても4人に1人の方はいまだに再発するリスクがあります。したがって、印環細胞がん手術前後のあらゆる患者様は「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」を併用し、再発する可能性を少しでも低くすることが重要と言えます。

治療継続可能な副作用

「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」には目立った副作用が起こりにくいです。特に、化学療法で起きやすい嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。また、ホルモン治療でものぼせや発汗、血栓症などのリスクがあります。 副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などがあります。解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半であり、治療を継続するのに支障をきたしません。

「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療をを続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」といった方でも受けていただける治療となっております。

印環細胞がんの完治を目指して保険診療と患者様に合った自由診療を組み合わせるのがおすすめ

印環細胞がんは完治(治癒)を目指せる疾患であり、適切に治療を行うことが重要です。

印環細胞がんの発症要因の1つとして遺伝子異常があるため、保険診療と「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」を組み合わせることがおすすめです。保険診療ではカバーできない場合にも、「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」を行うことで腫瘍縮小効果や再発抑制効果などが期待できます。

がん中央クリニックグループのクリニックではこのような「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがんの自由診療を提案いたします。印環細胞がんの患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。

腹膜播種(ふくまくはしゅ)とは、がんが腹膜に広がることで起こる転移の一種です。

お腹の中にがん細胞が広がるため、進行すると様々な症状が現れ、治療や予後にも大きな影響を及ぼします。この記事では、腹膜播種の原因や初期症状、診断方法、そして完治の可能性についてわかりやすく解説します。

  • 早期発見が非常に難しいがんの一つ。
  • がん種に応じて様々な遺伝子が高確率で変異を起こしている。
  • 適切な治療をすることで完治が見込める。

腹膜播種とは

出典:腹膜播種とは|日本腹膜播種研究会

腹膜播種とは、元々のがん(原発巣)からがん細胞がお腹の中に脱落した後、腹膜と呼ばれるお腹を覆う膜に定着して増殖し、小さな腫瘍ができた状態です。原発巣としては、胃、大腸、膵臓、卵巣など全身の様々な臓器が報告されています。

腹膜播種の状態になっても初期には症状が現れにくいですが、進行すると腹部膨満(お腹が張る)、腹痛、食欲不振、吐き気などの症状が出現します。

腹膜播種が現れると、原発巣のがん種によっても予後や余命が異なります。例えば胃がんであれば約7ヶ月ですが、卵巣がんでは5年生存する患者様が約半数と報告されています。

参考:
胃癌腹膜播種に特化したアンチセンス核酸医薬開発|AMEDfind
院内がん登録生存率集計結果閲覧システム 卵巣がん(卵巣癌)|国立がん研究センター

腹膜播種の原因

腹膜播種が発生する原因は、もともとの癌が体のどこかにあることです。このような癌が発生する原因としては、がん種にもよりますが、大きな原因の1つとして「遺伝子変異」があげられます。

遺伝子とは、細胞を作るための情報がつまった部分ですが、この遺伝子が異常になると遺伝子変異が起こり、がんを発症すると報告されています。

腹膜播種を引き起こす胃がんや大腸がん、膵臓がん、卵巣がんで頻度が高い代表的な遺伝子変異としては、「KRAS」「TP53」などがあげられます。

参考:
KRAS, TP53, CDKN2A, SMAD4, BRCA1, and BRCA2 Mutations in Pancreatic Cancer|MDPI
Comprehensive molecular characterization of gastric adenocarcinoma|nature
The consensus molecular subtypes of colorectal cancer|nature

腹膜播種の診断

腹膜播種は早期発見が非常に難しいがんの一つであり、診断には腫瘍マーカーを測定する血液検査や、お腹の中である腹腔内を観察する画像検査や腹腔鏡検査など複数の手法を組み合わせて行われます。

腹膜播種は微細な結節で見つけにくいことも多く、正確な診断には工夫と複数の検査の組み合わせが必要です。

血液検査では、腫瘍マーカーと呼ばれるそれぞれのがんで異常を認めやすいタンパク質などを測定します。画像検査では、造影CT検査・MRI検査・PET検査・超音波検査などを行います。また、腹腔内を直接観察する腹腔鏡検査や、腹水が貯留している場合は、腹水内に含まれるがん細胞を採取して顕微鏡検査を行う場合があります。

患者様の状態によって実施すべき検査が異なりますので、具体的には主治医の先生と相談して検査内容や種類を決定していくのがおすすめです。

腹膜播種の一般的な治療法

腹膜播種に対して実施される一般的な保険診療での治療としては、完治(根治)できる状態であれば、手術を行います。ただし、元々のがん種によって治療法が異なり、腹膜播種が少しでもあれば外科的な手術は適応がないとして化学療法などの薬物療法や放射線療法を行う施設もあります。

また、手術も患者様の体に負担をかけるため、ある程度体力があることが望まれます。
そのため、体力があまり無い患者様や、様々な病気をお持ちで手術が危険だと判断される患者様には手術の対象とならない場合があります。

さらに、手術で目に見える範囲の腹膜播種を切除できたとしても、目に見えない微小病変が残っていることで再発リスクが高い状態です。例えば、胃がんであれば腹膜播種が少量しか認めない場合でも約30~50%、大腸癌であればごくわずかな腹膜播種しか認めない患者様で約20~30%、卵巣がんでは約30~70%と報告されています。

このように、手術後も再発リスクが高いため、手術後に再発しないように抗がん剤治療が勧められるケースが多いです。ただし、抗がん剤治療にはつらい副作用もあるため、体力があまり無い患者様や副作用が心配な患者様には実施できません。

また、腹膜播種が発見されて手術を実施できない患者様には、抗がん剤治療などの化学療法や抗がん剤を直接腹腔内に注入する腹腔内化学療法を実施します。このような治療を組み合わせることで寛解を目指せることもあります。

以上のような点から、腹膜播種は難治性のがんの状態だということが分かります。

参考:
Peritonectomy procedures|PubMed
A comprehensive treatment for peritoneal metastases from gastric cancer with curative intent|PubMed
A comprehensive overview of ovarian cancer stem cells: correlation with high recurrence rate, underlying mechanisms, and therapeutic opportunities|BMC

 

腹膜播種は寛解が期待できる状態

腹膜播種は寛解を見込める状態です。

腹膜播種が発見された時にはすでに元あるがんから転移を起こしている状態であるため、いわゆる進行がんの状態ではありますが、様々な化学療法や手術、放射線療法などを組み合わせることで治癒も十分に期待できます。

また、がん中央クリニックグループでは、患者様の状態や目的に応じて、核酸医薬(アプタマー、RNA干渉、miRNA mimic)を治療計画の一部としてご提案しています。ぜひ一度お問い合わせください。

腹膜播種に対する保険診療の限界

腹膜播種に対する保険診療には、化学療法や手術、放射線療法などがあります。手術法の発達や化学療法・放射線療法の進歩といった医療界の発展によりがん治療(手術、薬物療法、放射線療法)は発展してきましたが、、保険診療では治療が困難な場合もあります。

実施できる化学療法の制限

保険診療では腹膜播種に対して使用できる抗がん剤の数に制限があります。

腹膜播種を発症させる元々のがん細胞のタイプに合わせて様々な抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などを使い分けます。しかし、通常3~4種類程度しか有効な薬物療法はありません。

そのため、使用できる薬物を使い切った場合、もしくは体に合わない場合には、選択できる薬剤や治療はもう存在しないと医師から言われてしまいます。

また、1個の新しい抗がん剤などの薬物が開発されるまでには10~20年かかると言われているため、投与できる薬物療法には制限ができてしまいます。

保険診療ではカバーしきれない腹膜播種の再発

腹膜播種が発見され、手術によって病巣を切除した場合でも、がんの種類によっては再発率が30~70%に達することが報告されています。

そのため、手術単独では不十分であると考えられ、再発予防を目的として、術前化学療法および術後補助化学療法(いずれも抗がん剤治療)を組み合わせた治療戦略が推奨されることが一般的です。

しかしながら、抗がん剤治療にはさまざまな副作用が伴うため、高齢者や体力の低下した患者にとっては実施が困難となるケースもあります。さらに、腹膜播種の切除手術自体が大きな負担を伴うため、術後に著しく体力を消耗し、本来予定していた抗がん剤治療が継続できなくなることも少なくありません。

また、仮に術後補助化学療法が実施された場合であっても、腹膜播種は進行がんに分類されるため、再発リスクは依然として高い状態にあります。例えば胃がんでは、術後でも再発率が約50%にのぼるというデータも存在します。

このように、現在の国内保険診療の範囲内で提供できる治療では、腹膜播種に対する手術を行ったとしても、2人に1人が再発するという厳しい現実があるのです。

参考:
Risk Factors for Recurrence After Curative Conversion Surgery for Unresectable Gastric Cancer|ANTICANCER RESEARCH 35: 6183-6188 (2015)

化学療法の「きつい」副作用

腹膜播種に対する化学療法では、主に抗がん剤が使用されますが、その副作用は薬剤の種類や患者さんの体質によって大きく異なります。一般的にみられる副作用としては、吐き気、食欲不振、下痢、脱毛、手足のしびれ、倦怠感、発疹、貧血、高血圧などが挙げられます。これらの症状は個人差が大きく、軽度で済む方もいれば、日常生活に支障をきたすほど強く出る方もいます。

また、使用する薬剤によっては、まれに命に関わるような重篤な副作用や合併症が発生する可能性もあり、十分な注意が必要です。治療を開始した当初は問題なく受けられていたとしても、回を重ねるごとに副作用が蓄積し、継続が困難になる場合もあります。

さらに、化学療法の副作用が精神的な影響を及ぼすこともあります。頑張って治療を続けていても、副作用によって生活の質(QOL)が大きく低下し、気分の落ち込みや意欲の低下につながる患者さんも少なくありません。

最新の治療アプローチとして核酸医薬の導入

腹膜播種は、原発巣(胃・大腸・膵臓・卵巣など)によって病態が異なり、分子レベルの異常が関与することがあります。こうした背景から、患者様の状態や治療目的に応じて、核酸医薬を治療計画の一部として検討する考え方があります。核酸医薬には、標的タンパク質に結合して働きを抑えるアプタマー、特定の遺伝子発現を抑えるRNA干渉、体内の抑制機構を補うmiRNA mimic などがあります。

海外では「がんの部位」ではなく「分子レベルの情報」で治療を決定

特に欧米では、がんの種類(胃がん・大腸がん・膵がん・卵巣がんなど)ではなく、どのような分子レベルの情報があるかを重視して治療法を選ぶという考え方が主流になりつつあります。

このような治療法は「がんゲノム医療」や「プレシジョン・メディシン(個別化医療)」と呼ばれ、さまざまな臨床試験が世界中で進行中です。腹膜播種の原因となる分子レベルの情報に対しても、個別に効果的な治療薬や治療方法が検討されています。

日本の現状と今後の展望

日本でも近年、がん遺伝子パネル検査(がんゲノムプロファイリング)や、特定の分子レベルの情報対応する分子標的薬が一部保険適用化されるなど、少しずつ普及が進んでいます。しかしながら、欧米に比べると臨床現場への導入は遅れているのが現状です。

がん中央クリニックグループでは、いち早く分子レベルの情報に基づく個別化診療を導入し、腹膜播種を含むさまざまながんに対して柔軟な治療を提供しています。

がん中央クリニックグループのクリニックでは、患者様の状態に合わせて行う様々ながん治療を提供しております。是非一度ご相談ください。

保険診療では「治療方法がない」方も治療可能

腹膜播種に対する核酸医薬は保険診療ではなく自由診療(保険外診療)であり、保険診療ではもう治療方法がない、と言われた患者様でも実施できます。

がん中央クリニックグループでは患者様1人ひとりに合わせてテーラーメイドのがん治療を提供します。

保険診療と組み合わせた治療設計

核酸医薬は、標準治療(保険診療)と組み合わせて検討し得る治療アプローチの一つです。

標準治療の薬物療法は、すでに産生された細胞やタンパク質の働きを抑えることで治療効果を狙います。一方、核酸医薬は、タンパク質が作られる前段階の遺伝子発現や分子レベルの制御機構に働きかけることを狙う点が特徴です。作用点の考え方が異なるため、当院では患者様の状況に応じて、標準治療と組み合わせた治療設計も含めてご提案しています。

治療継続可能な副作用

核酸医薬は目立った副作用が起こりにくいです。特に、化学療法で起きやすい嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。

核酸医薬の副作用としては、一時的な微熱、血圧上昇、顔の紅潮、アレルギー反応(0.3%以下)などがあります。解熱剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半であり、治療を継続するのに支障をきたしません。

核酸医薬をオススメする患者様

どのような患者様に効果が期待できるのかを以下に具体的に解説します。ぜひご自身のパターンに合わせてご検討ください。

腹膜播種に対して薬物治療中や放射線療法中の患者様

核酸医薬は、抗がん剤治療などの薬物治療や放射線療法などの標準治療を行っている患者様でも、治療の選択肢を広げる観点から併用を含めてご相談いただける治療アプローチの一つです。
がんは放置すると進行するため、状況に応じて作用点の異なる治療手段を組み合わせ、腫瘍の縮小を目指していくことが重要です。

腹膜播種手術後のすべての患者様

腹膜播種に対して、術前化学療法や術後補助化学療法を組み合わせて手術を行った場合でも、がんの種類によっては再発率が約50%にのぼると報告されています。つまり、抗がん剤治療を受けたとしても2人に1人が再発するリスクがあるのが現状です。

さらに、抗がん剤には吐き気や倦怠感などの副作用があるため、体力の低い高齢者や副作用に不安を感じる方には治療の継続が難しい場合もあります。

このような患者様にも、状態や目的に応じて核酸医薬を治療計画の一部として検討し、再発抑制も含めた治療設計を行うことが重要です。

保険治療では治療困難な患者様

腹膜播種に対する核酸医薬は、保険診療ではなく自由診療(保険外診療)として提供されているため、保険診療では「治療の選択肢がない」と言われた患者さんでも受けることが可能です。

がん中央クリニックグループでは、患者さん一人ひとりの遺伝子異常や体調に応じた「テーラーメイドのがん治療」を行っており、標準治療が難しい方にも対応しています。

この治療法の大きな特徴は、副作用がほとんど見られない点です。そのため、通院が可能であれば、体力が落ちている方や高齢の方でも無理なく受けていただけます。

また、通院が難しい方には、訪問診療による対応が可能な場合もあります。詳しいご相談や治療の可否については、下記の無料相談窓口までお気軽にお問い合わせください。専門スタッフが丁寧に対応いたします。

腹膜播種の寛解を目指して保険診療と患者様に合った自由診療を組み合わせるのがおすすめ

腹膜播種は、適切な治療を行うことで寛解を目指すことが可能な疾患です。そのためには、がんの進行状況や体調に応じた柔軟な治療戦略の選択が重要です。

中でも近年注目されているのが、がんの発生原因のひとつとされる分子レベルの異常に着目した治療法です。

また、保険診療だけでは対応が難しいケースでも、核酸医薬を取り入れることで新たな治療の選択肢が広がる場合があります。

がん中央クリニックグループでは、核酸医薬をはじめとした患者様一人ひとりの状態に合わせた自由診療プランをご提案しています。標準治療が難しいと感じている方や、他の医療機関で治療の選択肢が限られていると伝えられた方も、ぜひ一度ご相談ください。

腹膜播種の患者様が前向きに治療へ臨めるよう、専門スタッフが丁寧にサポートいたします。どのようなご状況でも、まずはお気軽にお問い合わせください。