「胃がんのステージ4です。」
医師からその言葉を告げられた瞬間「もう治療はできないのではないか」「余命はあとどれくらいなのだろう」「家族には何と伝えればいいのか」と頭が真っ白になった方も多いのではないでしょうか。
インターネットで「胃がん ステージ4」と検索すると「末期がん」「余命」「腹膜播種」「治らない」といった不安をあおるような言葉が並び、さらに気持ちが落ち込んでしまうことも少なくありません。しかし、現在の胃がん診療は以前とは大きく変わっています。
かつて、ステージ4胃がんの治療は抗がん剤による延命治療が中心であり、治療の選択肢は限られていました。しかし近年は、HER2陽性胃がんに対する分子標的薬や、免疫チェックポイント阻害薬、さらにCLDN18.2を標的とした新しい治療薬の登場によって、患者さん一人ひとりのがんの特徴に合わせた治療が行われるようになっています。
ステージ4と一口に言っても、その病状は決して同じではありません。腹膜播種が中心の人もいれば、肝臓だけに転移している人もいます。HER2陽性の人もいれば、MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)が見つかる人もいます。転移の部位や数、がん細胞の性質、全身状態によって選択できる治療は大きく異なり、その後の経過も一人ひとり違います。
薬物療法が非常によく効き、原発巣と転移巣を含めてすべての病変を切除できる可能性が生じた一部の患者さんでは、コンバージョン手術を再検討することがあります。ただし、ステージ4胃がんに対して広く確立した標準的な治療手順ではなく、手術による生存期間の上乗せがすべての患者さんで証明されているわけではありません。
もちろん、ステージ4胃がんは依然として治療が難しい病気であることに変わりはありません。しかし「何もできない病気」ではなくなっていることも、現在の医学が示している事実です。
この記事では、胃がんステージ4とはどのような状態なのかをはじめ、生存率や余命の考え方、現在受けられる標準治療、分子標的薬や免疫療法、最新治療、完治の可能性、さらに保険診療以外の選択肢まで、現在の医学的知見に基づいて詳しく解説します。
診断直後に知っておきたい基本的な知識だけでなく、これから治療方針を考えるうえで判断材料となる情報も、できるだけ分かりやすくまとめました。この記事が、不安の中で情報を探している患者さんやご家族にとって、現状を冷静に理解し、納得できる治療を選択するための一助になれば幸いです。
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- 胃がんステージ4は遠くの臓器や腹膜などへがんが転移している状態
- 胃がんステージ4の5年ネット・サバイバルは6.3%(国立がん研究センター、2014~2015年診断例)
- 進行胃がんの治療成績は新しい薬剤の登場によって少しずつ改善している
目次
- 1 胃がんステージ4とは
- 2 胃がんステージ4の腹膜播種とは
- 3 胃がんステージ4でも治療を行う理由
- 4 胃がんステージ4と診断された後に行われる検査
- 5 胃がんステージ4の治療全体像
- 6 胃がんステージ4の抗がん剤治療
- 7 分子標的薬 ― 胃がんの特徴に合わせて治療を選ぶ時代へ
- 8 免疫チェックポイント阻害薬 ― 免疫の力でがんと闘う新しい治療
- 9 手術・放射線治療・内視鏡治療
- 10 緩和ケア・支持療法 ― 治療を続けるために欠かせない医療
- 11 胃がんステージ4の生存率
- 12 胃がんステージ4の余命 ― 平均余命や中央値の考え方
- 13 胃がんステージ4でも完治する可能性はあるのか
- 14 標準治療以外の選択肢 ― 自由診療・治験・先進的な治療について
- 15 胃がんステージ4の最新治療 ― 今後期待されている新しい治療法
- 16 よくある質問(FAQ)
- 17 胃がんステージ4でも自分に合った治療を選択することが大切
胃がんステージ4とは
胃がんステージ4は、原発巣の大きさや胃壁への深さにかかわらず、肝臓、肺、腹膜、遠隔リンパ節などへの遠隔転移が確認される状態です。TNM分類では遠隔転移をM1と表し、T分類やN分類にかかわらずステージ4になります。ただし、「ステージ4」と「終末期」は同じ意味ではなく、全身状態や治療への反応によって病状と治療選択には幅があります。
現在の胃がん治療では、どこへ転移しているのか、転移はどの程度広がっているのか、そしてがん細胞がどのような特徴を持っているのかまで詳しく調べたうえで、一人ひとりに合わせた治療方針が決められます。同じステージ4という診断であっても、治療内容や期待できる効果、生存期間は患者さんによって大きく異なります。
TNM分類
胃がんの進行度は、国際的に用いられているTNM分類によって決定されます。Tは胃壁への深達度や周囲臓器への浸潤、Nはリンパ節転移、Mは遠隔転移を表しており、この三つを組み合わせて病期(ステージ)が決まります。このうち、ステージ4へ分類される最大の理由は「M」、つまり遠隔転移です。
胃から離れた臓器へ転移している場合だけでなく、腹膜へがん細胞が散らばる「腹膜播種」も遠隔転移として扱われます。そのため、肝臓や肺などに転移がなくても、腹膜播種が確認されればステージ4と診断されます。
参考:胃がん 治療・病期分類|国立がん研究センター がん情報サービス、Gastric Cancer Treatment(PDQ)|米国国立がん研究所(NCI)
胃がんステージ4でも病状は一人ひとり大きく異なる
肝臓に小さな転移が一つだけ見つかった患者さんと、腹膜全体へがん細胞が広がり腹水がたまっている患者さんでは、同じステージ4であっても病気の性質や治療方針は大きく異なります。転移の部位だけではなく、HER2陽性やMSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)、CLDN18.2陽性など、がん細胞が持つ特徴によって使用できる薬剤も変わります。
そのため「ステージ4だから○○という治療を行う」という考え方ではなく、「その患者さんの胃がんには、どのような特徴があるのか」を詳しく調べたうえで治療方針を決定します。「ステージ4」という診断は治療のスタートラインであり、その後どのような治療を選択できるかは、これから行う詳しい検査によって決まっていくのです。
胃がんステージ4の腹膜播種とは
胃がんステージ4を理解するうえで、最も重要なキーワードの一つが『腹膜播種(ふくまくはしゅ)』です。
肺がんや大腸がんでは肝臓や肺への転移が中心になることが多い一方、胃がんでは腹膜播種が非常に高い頻度でみられます。実際、ステージ4胃がんの患者さんでは、腹膜播種が治療方針や予後に大きく影響するケースが少なくありません。
腹膜とは
腹膜とは、お腹の中にある胃や腸、肝臓などの臓器を包んでいる薄い膜です。胃がんが胃の壁を深く越えて進行すると、一部のがん細胞が胃の外へこぼれ落ち、腹腔内を漂うようになります。そして腹膜へ付着・増殖し、小さながんが無数に広がっていく状態が腹膜播種です。
血液やリンパ液の流れに乗って転移する肝転移や肺転移とは異なり、腹膜播種は「お腹の中にがん細胞が散らばる」という特徴的な広がり方をします。そのため、CT検査でははっきり確認できないほど小さな病変が多数存在していることも珍しくありません。
腹膜播種で現れる症状
腹膜播種が始まったばかりの段階では、自覚症状がほとんどないこともあります。しかし、病変が増えてくると、お腹全体にさまざまな症状が現れるようになります。
腹水
代表的なのが、腹水です。腹膜へ広がったがん細胞が炎症を引き起こすことで、お腹の中へ水分がたまりやすくなります。腹水が増えると、お腹が張るような感覚や圧迫感が強くなり、食事を少し食べただけでもすぐ満腹になることがあります。さらに腹水が大量になると、横になるだけで息苦しさを感じたり、歩くことが難しくなったりすることもあります。
腸閉塞(イレウス)
もう一つ注意したい症状が『腸閉塞(イレウス)』です。腹膜播種が腸の表面へ広がると、腸の動きが悪くなったり、一部が狭くなったりすることがあります。すると、食べたものや消化液が正常に流れなくなり、腹痛や吐き気、嘔吐、便やガスが出にくくなるといった症状が現れます。
イレウスは緊急の対応が必要になることもあるため「お腹の張りが急に強くなった」「何度も吐いてしまう」「数日間便が出ない」といった症状がある場合には、早めに主治医へ相談することが重要です。
その他の症状
腹膜播種では、このほかにも体重減少、食欲低下、全身のだるさなどが少しずつ進行することがあります。これらは胃がんそのものによる症状だけではなく、腹膜播種によって食事量や栄養状態が悪化することも大きく関係しています。
腹膜播種があると治療はできないのか
以前は、腹膜播種が見つかった時点で手術は難しく、治療の選択肢も限られていました。しかし近年の診療では、その考え方も変わりつつあります。
分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を含む薬物療法によって腹膜播種が縮小し、症状を長期間コントロールできる患者さんも増えています。薬物療法が非常によく効き、腹膜播種が画像上あるいは腹腔鏡検査でほとんど確認できなくなった一部の患者さんでは、コンバージョン手術が検討されることもあります。
もちろん、これはすべての患者さんに適応される治療ではありません。腹膜播種の広がり方や薬物療法への反応、全身状態などを慎重に評価したうえで判断されます。それでも「腹膜播種があるから何もできない」という時代ではなくなってきたことは、現在の胃がん診療における大きな変化の一つといえるでしょう。
胃がんステージ4でも治療を行う理由
胃がんステージ4は遠隔転移を伴う進行した状態であり、早期胃がんのように手術だけで治癒を目指せるケースは多くありません。しかし、ステージ4と診断されたからといって、治療の選択肢がなくなるわけではありません。
薬物療法によって病気の進行を抑え、生存期間の延長や症状の改善を目指せる場合があります。また、出血や食べ物の通過障害などに対して、内視鏡治療や放射線治療などを組み合わせることもあります。
一方、全身状態や持病、患者さん自身の希望によっては、抗がん剤などの薬物療法を行わず、症状の緩和を中心とした医療を選択する場合もあります。重要なのは、治療を受けること自体を目的にするのではなく、期待できる効果や体への負担を理解し、何を大切にして治療を進めるかを考えることです。
胃がんステージ4の治療目的
ステージ4胃がんに対する治療の最も大きな目的は、がんの増殖をできるだけ抑えながら、生存期間の延長を目指すことです。
現在の薬物療法は、単に腫瘍を小さくするだけではありません。がんの進行を遅らせることで、食事や会話、仕事、趣味など、これまでの生活をできるだけ長く維持できるよう支援することも重要な役割になっています。
実際、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が使用できる患者さんでは、以前より長期間にわたって病気をコントロールできるケースも増えてきました。すべての患者さんに同じ効果が得られるわけではありませんが、治療を開始することで病気の勢いを抑えられる可能性がある以上「ステージ4だから何もできない」と考える必要はありません。
食べられる状態を維持する
胃がんでは「食べられること」を守ることも重要な治療目的になります。
胃がんは、食べ物の通り道そのものにできるがんです。そのため、病気が進行すると腫瘍が胃の出口や食道とのつなぎ目を狭くし、食事が十分に取れなくなることがあります。また、腹膜播種によって腹水が増えたり、腸の動きが悪くなったりすると、食欲低下や吐き気、早期満腹感などが強く現れることもあります。
食事量が減れば、体重だけでなく筋肉量も減少し、全身状態が悪化します。すると、予定していた抗がん剤を十分な量で続けられなくなったり、新しい治療を受けられなくなったりする可能性もあります。「食べられる状態を維持すること」は、生活の質だけではなく、その後の治療を続けるためにも重要なのです。
胃がんステージ4では、薬物療法だけではなく栄養管理や支持療法も治療の重要な柱になります。
出血や通過障害などの症状を改善する
胃がんが進行すると、腫瘍から出血したり、胃の出口が狭くなったりすることがあります。慢性的な出血では貧血が進行し、強い倦怠感や息切れの原因になります。一方、胃の出口が狭くなると、食べ物が十二指腸へ流れにくくなり、食後の吐き気や嘔吐が続くことがあります。
このような症状に対しては、薬物療法だけではなく、患者さんの状態に応じて内視鏡によるステント留置、胃空腸バイパス術、止血処置、放射線治療などを組み合わせることがあります。これらは胃がんそのものを根治する治療ではありませんが、「食べられるようになる」「出血を止める」「痛みを和らげる」といった症状改善を目的とした重要な治療です。
症状が改善することで体力が回復し、その後の薬物療法を継続できるようになるケースも少なくありません。
薬物療法がよく効けば、新たな治療選択肢が生まれることも
以前は、ステージ4胃がんでは手術はほとんど行われませんでした。しかし現在では、薬物療法によって腫瘍や転移巣が大きく縮小し、遠隔転移が十分にコントロールされた患者さんに対して「コンバージョン手術」が検討されることがあります。
これは最初から手術を予定する治療ではなく、薬物療法の効果を慎重に評価した結果「根治切除が可能」と判断された場合に選択される治療です。もちろん、すべての患者さんが対象になるわけではありません。それでも「最初は手術できない状態だった患者さんに、新しい選択肢が生まれる可能性がある」という点は、現在の胃がん治療を理解するうえで重要な変化といえるでしょう。
次の章では、こうした治療方針を決定するために行われる検査について詳しく解説します。現在の胃がん診療では、転移の有無だけではなく、HER2やCLDN18.2、MSI、PD-L1などのバイオマーカー検査が治療選択に大きく関わるため、それぞれの検査がどのような意味を持つのかを理解しておくことが重要です。
胃がんステージ4と診断された後に行われる検査
胃がんステージ4と診断された後は、病気の広がりやがん細胞の特徴、患者さんの全身状態などを確認し、治療方針を検討します。どの治療が適しているかを判断するためには、画像検査や病理検査、バイオマーカー検査などが重要になります。ただし、出血や食べ物の通過障害、腸閉塞など、緊急性の高い症状がある場合には、詳しい検査と並行して症状への対応を優先することもあります。
以前の胃がん治療では、転移の有無や患者さんの体力を中心に治療方針が決められていました。しかし現在は、がん細胞そのものの特徴まで詳しく調べ、一人ひとりに合った薬剤を選択する時代へ変わっています。そのため、診断後に行われる検査には「病気がどこまで広がっているか」を確認する検査と、「どの薬が使えるか」を調べる検査という二つの役割があります。
転移の広がりを正確に把握する画像検査
治療方針を決めるうえで最初に重要になるのが、がんがどこまで広がっているのかを正確に確認することです。
CT検査では、胃の周囲だけでなく、肝臓や肺、リンパ節などへの転移を評価します。胃がんは肝転移やリンパ節転移を起こしやすいだけでなく、腹膜播種を伴うことも多いため、お腹全体の状態を丁寧に確認することが欠かせません。
必要に応じてPET-CTが追加されることもありますが、胃がんではすべての病変がPET-CTで描出されるわけではありません。特に腹膜播種や小さな転移巣では検出が難しいこともあるため、CTや内視鏡検査の結果と合わせて総合的に判断されます。
画像検査だけでは判断が難しい場合には、腹腔鏡検査を行うことがあります。腹部に小さな穴を開けてカメラを挿入し、腹膜を直接観察する検査です。CTでは確認できなかった小さな腹膜播種や腹水中のがん細胞が見つかることもあり、治療方針を決めるうえで重要な情報になります。
がん細胞の特徴を調べる病理検査
胃がん治療で近年特に重要になっているのが、病理検査です。内視鏡検査などで採取した組織を詳しく調べることで、胃がんの種類だけでなく、分子標的薬や免疫療法が使用できる可能性も評価します。
HER2検査
代表的なのはHER2検査です。HER2というタンパク質が過剰に発現している胃がんでは、トラスツズマブなどHER2を標的とした治療が第一選択になることがあります。胃がん全体では約15~20%前後がHER2陽性とされており、治療方針を左右する重要な検査の一つです。
MSI検査
MSI検査も重要です。MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)が確認された胃がんでは、免疫チェックポイント阻害薬が高い効果を示すことがあります。頻度は高くありませんが、治療戦略が大きく変わる可能性があるため、現代では標準的に調べられることが増えています。
PD-L1検査
免疫チェックポイント阻害薬を検討する際には、PD-L1というタンパク質の発現状況を調べることがあります。胃がんでは、がん細胞だけでなく周囲の免疫細胞も含めて評価するCPS(Combined Positive Score)という指標が用いられ、ニボルマブやペムブロリズマブなどの治療を選ぶ際の判断材料になります。
一方、2026年に胃がんへの使用が国内で承認されたチスレリズマブ(テビムブラ)では、TAPという別の評価指標が用いられます。PD-L1の検査結果は、すべての薬剤で同じ方法や基準によって判断されるわけではありません。使用する薬剤ごとの適応条件を確認することが重要です。
CLDN18.2検査
2024年からはCLDN18.2(クローディン18.2)の検査も注目されています。CLDN18.2陽性胃がんでは、ゾルベツキシマブ(ビロイ)を含む治療が新たな選択肢となりました。これまで使える薬剤が限られていた患者さんでも、検査結果によって治療の幅が広がる可能性があります。
がん遺伝子パネル検査が勧められることもある
標準治療が終了した後や、次の治療を検討する段階では、がん遺伝子パネル検査が提案されることがあります。これは一度に数百種類の遺伝子異常を調べ、治験や適応となる薬剤がないかを探す検査です。すべての患者さんが対象になるわけではありませんが、従来の検査では分からなかった遺伝子異常が見つかり、新しい治療へつながる可能性もあります。
この検査だけで治療法が決まるわけではありません。しかし、標準治療の選択肢が少なくなった段階では、今後の方針を考えるための重要な情報になることがあります。
ここまで紹介したように、現在の胃がん診療では「胃がん」という診断だけで治療を決めることはほとんどありません。転移の広がりに加え、HER2、MSI、PD-L1、CLDN18.2など複数の情報を組み合わせることで、一人ひとりに適した治療法を選択しています。
胃がんステージ4の治療全体像
胃がんステージ4と診断されると「抗がん剤しか方法はないのでしょうか」と質問されることがよくあります。薬物療法はステージ4胃がんの中心となる治療です。しかし、一つの治療だけで経過をみることはほとんどありません。
胃がんは、病気の進行によって起こる症状が患者さんごとに大きく異なります。食事が通りにくくなる人もいれば、腹膜播種による腹水が問題になる人もいます。肝転移が中心の人もいれば、リンパ節転移だけで比較的全身状態が保たれている人もいます。
胃がんステージ4の治療は「どの薬を使うか」だけで決まるものではありません。薬物療法を軸にしながら、必要に応じて手術や放射線治療、内視鏡治療、栄養管理、緩和ケアを組み合わせ、一人ひとりの病状に合わせて治療計画を組み立てていきます。
薬物療法が治療の中心
ステージ4胃がんでは、全身へ広がったがん細胞を一度に治療する必要があります。手術で胃を切除しても、腹膜や肝臓、リンパ節などへ転移した病変まですべて取り除くことは難しいため、まずは全身へ作用する薬物療法が治療の中心になります。
薬物療法といっても、現在は単純に抗がん剤を使用するだけではありません。HER2陽性であれば分子標的薬を組み合わせることがありますし、PD-L1の発現状況やMSI-Hであるかどうかによって免疫チェックポイント阻害薬が加わることもあります。さらにCLDN18.2陽性では、新たな分子標的薬を使用できるようになり、治療の組み合わせは以前よりも複雑になっています。
同じステージ4胃がんでも、検査結果によって第一選択となる治療が変わるため「誰もが同じ抗がん剤を使う」という時代ではなくなっています。
治療は段階的に組み立てられる
薬物療法は、一度開始したら最後まで同じ薬を使い続けるわけではありません。治療を始めた後は、CT検査や血液検査を定期的に行い、腫瘍が縮小しているのか、変化がないのか、それとも大きくなっているのかを確認します。
十分な効果が得られている間は同じ治療を継続し、病気が進行した場合や副作用が強くなった場合には、次の治療へ切り替えることになります。これを二次治療、三次治療と呼びます。
近年は使用できる薬剤が増えたことで、一つの治療だけで終わるのではなく、複数の治療を順番に受けながら病気をコントロールしていく考え方が一般的になっています。治療開始時だけでなく「次にどの治療を選択するか」まで見据えて計画を立てることも、現在の胃がん診療では重要になっています。
薬物療法以外の治療を優先することもある
すべての患者さんが、診断直後から抗がん剤を開始できるとは限りません。例えば、胃の出口が狭くなり、水分さえ十分に飲めない状態では、まず食事が通るようにする治療を優先することがあります。腫瘍から出血が続いている場合には止血処置が必要になることがありますし、腹水によって呼吸が苦しい場合には腹水を抜く処置を行うこともあります。
病状によっては胃空腸バイパス術やステント留置術が選択されることもあり、これらによって食事が可能になった後に薬物療法を開始するケースも少なくありません。胃がんでは、病気そのものだけではなく、病気によって生じる症状を改善することも治療の重要な役割になります。
治療目標が途中で変わる場合も
治療を始めた時点では「病気の進行を抑えながら生活を維持すること」が目標になる患者さんがほとんどです。一方で、薬物療法が予想以上によく効き、転移巣が大きく縮小した場合には、当初は考えられなかった選択肢が見えてくることがあります。
代表的なのが、コンバージョン手術です。最初は切除できないと判断された胃がんでも、薬物療法によって根治切除が可能と判断されれば、手術を検討できる場合があります。逆に、治療を続ける中で体力の低下や副作用が問題となり、治療内容を調整した方がよい場面もあります。
治療の目標は最初から最後まで変わらないものではなく、病気の変化や生活の状況に合わせて見直されていきます。診断直後の時点で将来を決めつける必要はありません。治療に対する反応を一つひとつ確認しながら、その時点で最も適した選択を積み重ねていくことが、胃がんステージ4の診療では何よりも大切になります。
胃がんステージ4の抗がん剤治療
胃がんステージ4の治療では、薬物療法が中心になります。その中でも、最も基本となるのが抗がん剤治療です。胃がん治療の標準的な抗がん剤は一つではありません。年齢や体力、転移の広がり、HER2やPD-L1、CLDN18.2などの検査結果を踏まえて治療内容が決められます。
現在は、複数の薬剤を組み合わせた治療を基本とし、必要に応じて分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を追加する方法が標準治療になっています。
一次治療ではフッ化ピリミジン系とプラチナ製剤の併用が基本
切除不能・進行・再発胃がんでは、フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ製剤を組み合わせた化学療法が基本的な治療の一つです。ただし2026年現在は、HER2、PD-L1(CPS)、MSI、CLDN18.2などの結果と全身状態・治療歴によって、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬を最初から併用する治療も選択されます。
具体的には、S-1とオキサリプラチンを組み合わせたSOX療法や、カペシタビンとオキサリプラチンを組み合わせたCapeOX療法、5-FUとオキサリプラチンを併用するFOLFOX療法などが広く用いられています。これらの治療は、がん細胞のDNA合成や細胞分裂を妨げることで増殖を抑えることを目的としています。
どの治療法が選択されるかは、患者さんの年齢や腎機能、通院頻度、内服薬を継続できるかどうかなども考慮して決定されます。S-1は内服薬であるため自宅で服用できますが、食事が十分に取れない患者さんでは点滴中心の治療が選択されることもあります。一方、オキサリプラチンは比較的高い治療効果が期待できる反面、手足のしびれが長期間残ることがあるため、副作用の程度を確認しながら投与量を調整していきます。
参考:胃がん 治療|国立がん研究センター がん情報サービス、Gastric Cancer Treatment(PDQ)|NCI
HER2陽性では分子標的薬を併用する
HER2陽性の切除不能・進行・再発胃がんでは、フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ製剤を含む化学療法に、抗HER2抗体トラスツズマブを併用する治療が基本的な選択肢になります。PD-L1の発現が国内で承認された方法により確認されるなどの適応条件を満たす場合には、ペムブロリズマブをさらに併用する治療も国内で承認されています。実際の併用の可否はPD-L1 CPS、治療歴、全身状態、国内電子添文を確認して判断します。
ToGA試験では、HER2陽性進行胃がんに対して抗がん剤へトラスツズマブを追加することで、生存期間の延長が確認されました。この結果を受け、HER2検査は現在の胃がん診療で欠かせない検査の一つとなっています。
さらに近年では、HER2陽性胃がんに対する抗体薬物複合体(ADC)であるトラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)も使用できるようになり、HER2陽性患者の治療選択肢は大きく広がっています。同じ抗がん剤治療でも、HER2の結果によって組み合わせる薬剤は大きく変わります。
参考:Gastric Cancer Treatment(PDQ):ToGA試験|米国国立がん研究所(NCI)、胃がんに対する二次治療としてのトラスツズマブ デルクステカンが生存期間を有意に延長|国立がん研究センター、エンハーツ|PMDA
抗がん剤だけで治療する患者は以前より少なくなっている
胃がん治療は、この数年で大きく変化しました。以前は抗がん剤単独が標準だった患者さんでも、現在では免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬を併用するケースが増えています。例えばPD-L1 CPSが一定以上の患者さんでは、ニボルマブを追加することが標準治療になっています。CLDN18.2陽性胃がんでは、ゾルベツキシマブ(ビロイ)を組み合わせた治療も選択肢になります。
現在の抗がん剤治療は「抗がん剤だけで戦う治療」ではなく「抗がん剤を土台として複数の薬剤を組み合わせる治療」へ変わっています。
副作用が管理しやすくなっている
抗がん剤に対して「吐き気がひどい」「何も食べられなくなる」「髪がすべて抜ける」といったイメージを持っている人も多いでしょう。確かに副作用は避けて通れませんが、副作用を予防する薬剤や支持療法が大きく進歩しています。
吐き気には複数の制吐薬を組み合わせて使用し、白血球減少にはG-CSF製剤を使用することがあります。下痢や口内炎、末梢神経障害についても早い段階から対策を行い、必要に応じて休薬や減量を行いながら治療を継続していきます。
副作用が出ること自体は珍しくありませんが、「我慢しながら治療を続ける」のではなく「副作用を管理しながら治療を続ける」という考え方が現在の標準になっています。気になる症状があれば早めに医療スタッフへ伝えることで、重症化を防ぎやすくなります。
抗がん剤は「効かなくなるまで続ける」わけではない
「一度始めた抗がん剤は、一生続けるのでしょうか」と質問されることがあります。実際にはそのようなことはありません。治療中は定期的にCT検査や血液検査を行い、腫瘍が縮小しているか、副作用が強くなっていないかを確認します。十分な効果が得られている間は治療を継続しますが、病気が進行した場合や副作用によって生活への影響が大きくなった場合には、薬剤の変更や休薬を検討します。
近年は二次治療、三次治療まで見据えて治療を組み立てることが一般的になっています。最初の抗がん剤が効かなくなったからといって、そこで治療が終わるとは限りません。病状やこれまでの治療経過に応じて、新しい薬剤や分子標的薬、免疫療法へ切り替えられる可能性もあります。抗がん剤治療は、一つの薬剤だけで完結するものではなく、その後の治療へつなげていくための重要な第一歩でもあります。
分子標的薬 ― 胃がんの特徴に合わせて治療を選ぶ時代へ
胃がんの薬物療法は、長い間「抗がん剤」が中心でした。しかし近年は、がん細胞が持つ特定の分子や遺伝子異常を標的とした『分子標的薬』が次々に登場し、治療の考え方は大きく変わっています。
分子標的薬は、すべての胃がん患者さんが使用できるわけではありません。HER2やCLDN18.2など、がん細胞に特定の特徴が確認された場合に使用される薬剤であり、事前に行う病理検査やバイオマーカー検査が治療方針を決める重要な鍵になります。そのため「どのタイプの胃がんなのか」を見極めたうえで治療を組み立てることが基本になっています。
HER2陽性胃がんでは分子標的薬が第一選択
最も広く使用されている分子標的薬が、HER2を標的とした治療です。HER2は、がん細胞の増殖に関わるタンパク質の一つで、このタンパク質が過剰に発現している胃がんでは、通常よりも増殖する力が強くなることがあります。HER2陽性は進行胃がん全体の約15~20%に認められるとされており、診断時にはHER2検査を行うことが標準となっています。
HER2陽性と判定された場合には、抗がん剤にトラスツズマブ(ハーセプチン)を組み合わせた治療が第一選択になります。トラスツズマブはHER2へ選択的に結合し、がん細胞の増殖を抑えるだけでなく、免疫細胞ががん細胞を攻撃しやすくする働きもあります。
トラスツズマブを含む治療後に病状が進行したHER2陽性の治癒切除不能・進行・再発胃がんでは、抗体薬物複合体(ADC)トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)が治療選択肢になります。国内電子添文では胃がんに対する一次治療での有効性・安全性は確立していないため、最初から使用する薬というわけではありません。また、重篤な間質性肺疾患が起こる場合があるため、新しい咳、発熱、息切れが出た場合には早急な評価が必要です。
国際共同第III相試験であるDESTINY-Gastric04試験では、トラスツズマブを含む治療後に病状が進行し、HER2陽性が再確認された患者さんを対象に、トラスツズマブ デルクステカンと従来の二次治療が比較されました。
その結果、全生存期間中央値はトラスツズマブ デルクステカン群で14.7か月、ラムシルマブ+パクリタキセル群で11.4か月となり、統計学的に有意な生存期間の延長が確認されました。HER2陽性の進行胃がんに対して、二次治療から新しい治療を選択できる可能性を示した重要な結果です。
参考:胃がんに対する二次治療としてのトラスツズマブ デルクステカンが生存期間を有意に延長|国立がん研究センター
CLDN18.2陽性胃がんでは新しい標準治療が始まっている
近年、胃がん領域で最も大きな話題の一つとなっているのが『CLDN18.2(クローディン18.2)』です。CLDN18.2は胃粘膜に存在するタンパク質ですが、一部の胃がんではがん細胞の表面に強く発現しています。このタンパク質を標的とする薬剤が「ゾルベツキシマブ(ビロイ)」です。
SPOTLIGHT試験では、CLDN18.2陽性・HER2陰性進行胃がんに対し、標準的な化学療法へゾルベツキシマブを追加することで、無増悪生存期間と全生存期間の改善が確認されました。これを受け、日本でも新たな治療選択肢として使用できるようになっています。
ゾルベツキシマブ(ビロイ)は、CLDN18.2陽性かつHER2陰性の治癒切除不能な進行・再発胃がんで、承認された検査などにより適応を確認して使用します。一次化学療法と組み合わせる治療であり、HER2陽性の患者さんや、CLDN18.2発現の基準を満たさない患者さんに一律に使用できるわけではありません。悪心・嘔吐などが問題になることがあるため、制吐療法を含む副作用対策も重要です。
参考:クローディン18.2陽性胃がんに対するゾルベツキシマブと化学療法併用による長期の生存延長効果を公表|国立がん研究センター、ビロイ|PMDA
血管新生を抑える分子標的薬も使用されている
胃がんは、成長するために新しい血管を作りながら栄養を取り込んでいます。この血管新生を抑える目的で使用されるのが『ラムシルマブ(サイラムザ)』です。ラムシルマブはVEGFR2という受容体を標的とし、腫瘍へ新しい血管が作られるのを抑えることで、がんの増殖を遅らせます。
一次治療終了後の二次治療では、パクリタキセルとラムシルマブを組み合わせた治療が広く行われています。RAINBOW試験では、この併用療法がパクリタキセル単独と比べて生存期間を延長することが示され、現在も世界各国のガイドラインで推奨されています。
参考:Gastric Cancer Treatment(PDQ):RAINBOW試験|NCI
分子標的薬は「使える人」が決まっている
分子標的薬は非常に高い治療効果が期待できる一方で、「胃がんなら誰でも使える薬」ではありません。HER2陽性でなければトラスツズマブやエンハーツは使用できませんし、CLDN18.2が確認されなければゾルベツキシマブの適応にはなりません。
逆に言えば、これらの検査を行わなければ、本来受けられる治療を見逃してしまう可能性もあります。だからこそ、進行胃がんでは診断時にHER2、PD-L1、MSI、CLDN18.2などのバイオマーカー検査を十分に行うことが重要となります。
免疫チェックポイント阻害薬 ― 免疫の力でがんと闘う新しい治療
胃がん治療は分子標的薬の登場だけでなく「免疫チェックポイント阻害薬」によっても大きく変わりました。これまでの抗がん剤は、がん細胞そのものを攻撃することが目的でした。一方、免疫チェックポイント阻害薬は、患者さん自身が持つ免疫の働きを回復させ、免疫細胞ががんを攻撃しやすい状態を作る治療です。この仕組みが従来の抗がん剤とは大きく異なるため、効果の現れ方や副作用にも違いがあります。
免疫療法は「誰にでもよく効く治療」ではありません。効果が期待できる患者さんと、そうでない患者さんがいることが分かっており、治療を始める前にはいくつかの検査結果を参考にして適応を判断します。
一次治療から免疫療法を併用するケース
切除不能・進行・再発胃がんでは、HER2陰性の患者さんに対して、ニボルマブやペムブロリズマブなどの免疫チェックポイント阻害薬と化学療法を組み合わせる治療が選択肢になります。治療によって得られる利益はPD-L1の発現状況などで異なるため、HER2、PD-L1、MSIなどの検査結果や全身状態、国内での適応条件を踏まえて判断します。
さらに2026年6月には、チスレリズマブ(テビムブラ)も、治癒切除不能な進行・再発胃がんに対して国内で追加承認されました。HER2陰性の患者さんを対象に、化学療法と組み合わせて使用する薬剤です。効果はPD-L1の発現状況によって異なる傾向が示されており、TAPという評価指標も参考にしながら治療の適否を検討します。
一方、HER2陽性の患者さんでも、PD-L1の発現など国内の適応条件を満たす場合には、トラスツズマブ+化学療法+ペムブロリズマブの併用が選択肢になります。どの免疫チェックポイント阻害薬を使用するかは、がん細胞の特徴や治療歴によって異なり、すべての患者さんに同じ組み合わせが適しているわけではありません。
国際共同第Ⅲ相試験である「CheckMate 649試験」では、HER2陰性進行胃がん・食道胃接合部がん患者を対象に、化学療法へニボルマブを追加した群で、生存期間の延長が確認されました。この結果を受け、日本でも条件を満たす患者さんでは、一次治療からニボルマブを併用することが推奨されています。
以前は「抗がん剤が効かなくなってから検討する治療」という位置付けでしたが、現在では診断直後から使用されることも珍しくありません。
参考:Gastric Cancer Treatment(PDQ):CheckMate 649試験|NCI
PD-L1検査は治療方針を決める重要な材料
免疫チェックポイント阻害薬を検討する際に重要になる検査の一つが、PD-L1検査です。PD-L1は、がん細胞や免疫細胞などに発現するタンパク質で、その発現状況が治療効果を予測する判断材料になります。
胃がんでは、CPS(Combined Positive Score)と呼ばれる指標が広く用いられていますが、チスレリズマブではTAPという異なる評価指標が用いられます。一般に、PD-L1の発現が高い患者さんほど、一部の免疫チェックポイント阻害薬による利益が大きい傾向があります。ただし、薬剤ごとに評価方法や臨床試験で確認された効果が異なるため、検査結果の数値だけで治療を決めることはできません。
ただし、「PD-L1が低いから免疫療法はまったく効かない」という意味ではありません。PD-L1はあくまでも判断材料の一つであり、年齢や全身状態、転移の状況、ほかのバイオマーカーなども総合的に考慮したうえで治療方針が決められます。検査結果だけで治療が決まるわけではありませんが、今では欠かせない情報の一つになっています。
MSI-H胃がんでは高い治療効果が期待できる
免疫チェックポイント阻害薬との関係で重要なのが、MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)という特徴です。MSI-Hとは、DNAの複製時に生じる誤りを修復する仕組みなどの異常によって、DNA中の特定の繰り返し配列に多くの変化が認められる状態を指します。
この特徴を持つがんでは、遺伝子の変化によって生じた異常なタンパク質が免疫細胞に認識されやすくなる場合があり、免疫チェックポイント阻害薬が高い効果を示すことがあります。すべてのMSI-H胃がんに同じ効果が得られるわけではありませんが、治療方針を考えるうえで重要な検査結果の一つです。
胃がん全体から見るとMSI-Hは多くありませんが、該当する患者さんでは治療方針そのものが変わる可能性があります。そのため、進行胃がんではMSI検査も重要な検査として位置付けられています。
抗がん剤とは異なる副作用
免疫療法は副作用が少ない治療というイメージを持たれることがあります。実際には吐き気や脱毛などは抗がん剤より少ない傾向がありますが、免疫療法には『免疫関連有害事象(irAE)』と呼ばれる特有の副作用があります。これは、活性化した免疫が正常な臓器まで攻撃してしまうことで起こる副作用です。
皮膚の発疹やかゆみ、甲状腺機能異常、肺炎、大腸炎、肝機能障害、副腎機能低下など、さまざまな臓器に影響する可能性があります。多くは早期に発見して適切な治療を行えば改善しますが、「少し息苦しい」「下痢が続く」「強いだるさがある」といった症状を軽く考えず、早めに主治医へ相談することが重要です。
免疫療法は長く効果が続く場合もある
免疫チェックポイント阻害薬の特徴の一つが、効果が現れた患者さんでは長期間病気をコントロールできることがある点です。
もちろん、すべての患者さんに同じ結果が得られるわけではありません。治療を開始しても十分な効果が得られない場合もありますし、途中で病気が進行することもあります。一方で、免疫療法がよく効いた患者さんでは、病気を長期間抑えながら日常生活を維持している例も報告されています。こうした治療成績が積み重ねられたことで、免疫チェックポイント阻害薬は現在の進行胃がん治療に欠かせない選択肢となりました。
抗がん剤、分子標的薬、免疫療法は、それぞれ役割が異なります。胃がん診療ではそれらを単独で考えるのではなく、患者さんの病状やバイオマーカーに応じて最適な組み合わせを選択することが標準になっています。
手術・放射線治療・内視鏡治療
胃がんステージ4では薬物療法が治療の中心になりますが、それだけで対応できるとは限りません。
胃は食べ物を一時的にため、十二指腸へ送り出す役割を担っています。そのため、がんが大きくなると食べ物の通り道が狭くなり、食事が十分に取れなくなることがあります。また、腫瘍から出血が続けば貧血が進行し、腹膜播種が広がれば腹水や腸閉塞などの症状が現れることもあります。こうした症状が強くなると、薬物療法を始めたくても体力が追いつかず、予定どおり治療を進められないことがあります。
胃がんステージ4では「がんを小さくする治療」と並行して、「食べられる状態を維持する治療」や「症状を和らげる治療」も重要になります。
胃を切除する手術が検討されるケース
ステージ4胃がんでは、遠隔転移を残したまま胃の原発巣を切除しても、必ずしも生存期間が延びるわけではありません。REGATTA試験では、非治癒因子が一つある進行胃がんに対して、最初に胃切除を追加しても化学療法単独を上回る生存利益は示されませんでした。一方、出血や通過障害の対応として胃の手術やバイパス術が必要になることはあります。薬物療法後にR0切除の可能性が生じて行うコンバージョン手術とは、治療目的と対象を区別して考えます。
しかし、例外があります。薬物療法によって原発巣と転移巣が大きく縮小し、画像検査などで根治切除が可能と判断された場合には、「コンバージョン手術」が検討されることがあります。この手術は、最初から予定されているものではありません。薬物療法にどの程度反応したかを慎重に評価したうえで、「切除することによって長期的な病勢コントロールが期待できる」と判断された患者さんに限って行われます。適応となる患者さんは多くありませんが、胃がん治療の進歩によって、以前は手術が不可能と考えられていた症例でも新たな選択肢が生まれるようになっています。
食事が通らないときは、食べられる状態を取り戻す治療を優先
胃がんでは、腫瘍が胃の出口や食道との境目を狭くし、食事や水分が十分に通らなくなることがあります。食べられない状態が続けば、体重や筋力は急速に低下し、抗がん剤を続けることも難しくなります。こうした場合には、内視鏡で金属製のステントを留置して通り道を広げたり、胃と小腸をつないで食べ物の流れを確保する「胃空腸バイパス術」を行ったりすることがあります。
これらの治療は胃がんを根治するものではありませんが、栄養状態を改善し、その後の薬物療法へつなげるという重要な役割を担っています。「まず食べられるようにする」という判断が、結果的に治療全体の継続につながることも少なくありません。
放射線治療の目的
胃がんでは、放射線治療が第一選択になることは多くありません。一方で、腫瘍からの出血が続いている場合や、骨転移による強い痛みがある場合には、放射線治療が大きな効果を発揮することがあります。
特に出血性胃がんでは、輸血を繰り返さなければならないほど貧血が進行することもあります。そのような状況では放射線によって出血を抑えられる場合があり、患者さんの負担軽減につながります。また、骨転移による痛みや神経の圧迫症状に対しても、放射線治療は生活の質を維持するための重要な治療法として位置付けられています。
薬物療法だけでは改善しにくい症状に対して局所治療を組み合わせることで、日常生活を送りやすい状態を維持できることも少なくありません。
参考:胃がん 治療|国立がん研究センター がん情報サービス、Gastric Cancer Treatment(PDQ):出血・通過障害などに対する治療|米国国立がん研究所(NCI)、切除不能進行胃がんに対する胃切除の意義に関するREGATTA試験|国立がん研究センター
緩和ケア・支持療法 ― 治療を続けるために欠かせない医療
「緩和ケア」と聞くと、「もう治療ができなくなった人が受ける医療」というイメージを持つ人は少なくありません。しかし、その考え方は既に大きく変わっています。緩和ケアは終末期だけに行われるものではなく、診断された早い段階から標準治療と並行して取り入れることが推奨されています。
緩和ケアの大きな役割は、がんによる痛みや吐き気、食欲低下、精神的な不安を和らげながら、抗がん剤や免疫療法を無理なく続けられるよう支えることです。治療そのものと対立するものではなく、治療を支える医療と考える方が実際の診療に近いでしょう。
緩和ケアの考え方
胃がんステージ4では、がんそのものよりも、病気によって起こる症状が日常生活へ大きな影響を及ぼすことがあります。例えば、腫瘍によって食べ物が通りにくくなれば十分な栄養を取ることができず、腹膜播種が進行すれば腹水による腹部膨満感や食欲低下が現れます。こうした症状が続くと体力や筋力は急速に低下し、本来受けられるはずだった薬物療法を続けられなくなることもあります。そのため、症状を我慢しながら治療を続けるのではなく、症状を積極的に改善しながら治療を継続するという考え方が基本になっています。
栄養管理
胃がんでは栄養管理が治療成績を左右することも珍しくありません。胃は食べ物を一時的にため、消化を助ける重要な臓器であるため、病気が進行すると少量しか食べられなくなったり、食後すぐに満腹感を覚えたりすることがあります。さらに腹膜播種や腹水が加わると、胃が十分に広がらず、以前と同じ量の食事を摂ることが難しくなります。
このような状態では、一度に多く食べようとするよりも、一日の食事回数を増やして少量ずつ栄養を補う方が体への負担は少なくなります。必要に応じて栄養補助食品や経腸栄養、点滴による栄養補給を組み合わせることもあり、管理栄養士が食事内容を調整しながら治療を支えるケースも増えています。
腹水への対応
腹膜播種を伴う患者さんでは、腹水への対応も重要になります。腹水が増えると、お腹の張りだけでなく呼吸のしづらさや食欲低下、歩行時の疲れやすさなど、日常生活のさまざまな場面へ影響が及びます。薬物療法によって腹水が減少することもありますが、症状が強い場合には腹水穿刺によって水分を排出し、苦痛を軽減する処置が行われることもあります。
腹水は「抜けば終わり」というものではなく、栄養状態や腎機能とのバランスを考えながら対応する必要があるため、病状に応じた個別の判断が欠かせません。
痛みのコントロール
痛みのコントロールも緩和ケアの重要な役割です。がんによる痛みは我慢するものではなく、適切に治療することで生活の質を大きく改善できる症状です。現在はアセトアミノフェンなどの鎮痛薬から医療用麻薬まで、痛みの程度に応じてさまざまな薬剤が使用されています。医療用麻薬に対して不安を抱く患者さんもいますが、医師の管理のもとで適切に使用すれば、依存を過度に心配する必要はありません。痛みを抑えることで睡眠や食事が改善し、その結果として体力を維持しやすくなることも少なくありません。
精神的な負担のケア
胃がんステージ4では、身体的な症状だけでなく、将来への不安や家族への心配など精神的な負担も大きくなります。こうした悩みに対しても、医師だけではなく看護師、薬剤師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、公認心理師など、多職種が連携して支援を行います。
治療を続けるかどうかという大きな判断だけではなく、「今食べられない」「夜眠れない」「家族へどう伝えればよいか」といった日常の困りごとについて相談できることも、緩和ケアの大切な役割です。
緩和ケアは自分らしい生活を続けられるように支える医療
緩和ケアは、治療を諦めるための医療ではありません。治療によって得られる効果を最大限に引き出し、患者さんが自分らしい生活をできるだけ長く続けられるよう支える医療です。胃がんステージ4では、薬物療法と同じくらい重要な柱として考えられており、症状を我慢せず早い段階から医療スタッフへ相談することが、結果として治療の継続や生活の質の向上につながります。
胃がんステージ4の生存率
胃がんは、早期に発見されれば手術だけで根治できる可能性が高いがんです。一方、遠隔転移を伴うステージ4では治療の目的が大きく変わるため、生存率にも大きな差が生じます。
国立がん研究センターの院内がん登録では、5年・10年の生存状況が集計されています。ただし、同じ「生存率」でも、実測生存率とネット・サバイバルは指標が異なり、5年と10年では診断年も異なります。本記事では指標の混同を避けるため、後述の表にネット・サバイバルの数値を統一して掲載します。
公表された病期別統計では、胃がんは進行度が高くなるほど生存率が低下する傾向があり、とくに遠隔転移を伴うステージ4は治療の難しい病期です。ただし、過去の患者集団についての統計であり、2026年現在の個々の患者さんの余命をそのまま示すものではありません。
この統計は過去に診断された患者さんの治療成績を示したものです。当時もトラスツズマブなど一部の分子標的薬は使用されていましたが、その後に登場した免疫チェックポイント阻害薬、CLDN18.2標的薬、新しいHER2標的薬などの効果は十分に反映されていません。
現在は、がん細胞の特徴に応じて使用できる薬剤が増えており、長期間病気をコントロールできる患者さんもいます。ただし、過去の生存率から現在の治療成績がどの程度改善したかを正確に計算することはできず、患者さん個人の余命を判断することもできません。
ステージ別の5年・10年ネット・サバイバル
国立がん研究センターの院内がん登録に基づく胃がんの病期別ネット・サバイバルは、以下のとおりです。5年値は2014~2015年に診断された患者さん、10年値は2012年に診断された患者さんの集計です。
| 病期 | 5年ネット・サバイバル (2014~2015年診断例) |
10年ネット・サバイバル (2012年診断例) |
|---|---|---|
| ステージ1 | 92.8% | 79.1% |
| ステージ2 | 67.2% | 52.0% |
| ステージ3 | 41.3% | 29.3% |
| ステージ4 | 6.3% | 3.9% |
参考:院内がん登録生存率最新集計値|国立がん研究センター がん情報サービス
5年値と10年値は別々の患者集団です。同じ人たちを5年目から10年目まで追跡した変化と解釈したり、2026年に治療を始める患者さん個人の余命に当てはめたりすることはできません。
国立がん研究センターが公表している「ネット・サバイバル」でも、遠隔転移を伴う胃がんは、限局がんや領域リンパ節転移に比べて生存率が低いことが示されています。ネット・サバイバルとは、胃がん以外の死亡要因を統計学的に補正し「胃がんだけが原因だった場合の生存率」を推計した指標です。
この統計ではステージ4の5年ネット・サバイバルは6.3%です。ただし、5年・10年とも、現在の免疫療法やCLDN18.2標的治療が十分普及する前の患者集団の成績であり、患者さん個人の予後や現行治療の効果を直接示す数字ではありません。
同じステージ4でも病状には幅がある
「ステージ4」という診断名は同じでも、病状には大きな幅があります。肝臓へ小さな転移が一つだけ見つかった患者さんと、腹膜播種が広範囲に広がり腹水を伴っている患者さんでは、病気の進行速度も治療方針も異なります。同じステージ4でも、分子標的薬や免疫療法が高い効果を示す患者さんでは、これまでより長期間病勢をコントロールできることがあります。
「ステージ4の5年生存率は約6%」という数字は、あくまでも多くの患者さんを平均した結果であり、個々の患者さんの予後を示すものではありません。
生存率を左右するのは「ステージ」だけではない
現在の胃がん診療では、ステージよりも細かい情報が治療成績へ影響することが少なくありません。
HER2陽性ではトラスツズマブを含む治療が選択できますし、治療経過によってはトラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)という新しい薬剤も使用できます。MSI-Hでは免疫チェックポイント阻害薬が高い効果を示すことがあり、CLDN18.2陽性ではゾルベツキシマブ(ビロイ)が新たな選択肢になります。
腹膜播種が主体なのか、肝転移が主体なのかによっても経過は異なります。腹膜播種では腹水や腸閉塞による栄養状態の悪化が問題になりやすい一方、肝転移が限局している患者さんでは薬物療法が奏効し、長期間病勢をコントロールできるケースもあります。
このように、生存率を決める要素は「ステージ4」という一つの診断名だけではありません。
生存率は過去の患者集団の治療成績を示す数字
統計を見ると不安になるのは当然です。しかし、生存率は過去の患者さんの集計結果であり、「あなたがあと何年生きられるか」を示す数字ではありません。治療開始後すぐに病気が進行する患者さんもいれば、複数の薬物療法を受けながら5年以上仕事や日常生活を続けている患者さんもいます。近年は新しい薬剤の承認が相次いでおり、診断された時点では存在しなかった治療が、その後の治療中に選択肢へ加わることもあります。
生存率は現実を知るための大切な指標ですが、それだけで将来を決めつける必要はありません。現在受けられる治療を正しく理解し、自分の病状に合った選択肢を一つずつ検討していくことが、これからの治療を考えるうえで何より重要になります。
胃がんステージ4の余命 ― 平均余命や中央値の考え方
胃がんステージ4と診断されると、多くの患者さんやご家族が気になるのが「余命」です。
しかし、医学では「余命○年」と一律に表現することはほとんどありません。実際の臨床では『全生存期間中央値(Overall Survival:OS)』という指標が用いられます。これは臨床試験に参加した患者さんのうち、半数が生存していた期間を示すものであり、一人ひとりの余命を予測する数字ではありません。
近年は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場によって治療成績が改善しており、どの治療を受けられるかによって全生存期間にも違いがみられるようになっています。
まずは、現在の胃がん治療を代表する主要な臨床試験の結果を見てみましょう。
主な臨床試験で報告されている全生存期間中央値
| 臨床試験 | 主な対象 | 治療内容 | 全生存期間中央値(治療群/比較群) |
|---|---|---|---|
| ToGA試験 | HER2陽性 | トラスツズマブ+化学療法 | 13.8か月/11.1か月 |
| CheckMate 649試験 | HER2陰性・PD-L1発現スコア5以上 | ニボルマブ+化学療法 | 14.4か月/11.1か月 |
| SPOTLIGHT試験 | CLDN18.2陽性・HER2陰性 | ゾルベツキシマブ+化学療法 | 18.2か月/15.6か月 |
| RATIONALE-305試験 | HER2陰性・PD-L1発現率(TAP)5%以上 | チスレリズマブ+化学療法 | 17.2か月/12.6か月 |
※ 全生存期間中央値は、それぞれの臨床試験で報告された結果です。比較群はいずれも分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を追加しない化学療法を基本とする群です。試験ごとに対象患者、治療方法、解析時期が異なるため、異なる試験の数値を直接比較して治療の優劣を判断することはできません。
参考:Gastric Cancer Treatment(PDQ):ToGA・CheckMate 649試験|NCI、SPOTLIGHT試験・GLOW試験の統合解析|国立がん研究センター、テビムブラ(RATIONALE-305試験の成績)|PMDA
この表では、それぞれの臨床試験において、化学療法へ分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を追加した治療群と、比較対象となった化学療法群の全生存期間中央値を示しています。いずれの試験でも、対象となった患者集団において、薬剤を追加した治療群で生存期間の延長が確認されました。
ただし、異なる臨床試験で報告された生存期間を比較して、どの治療が最も優れているかを判断することはできません。HER2陽性、CLDN18.2陽性、PD-L1の発現状況など、対象となる患者さんの特徴が異なるためです。
また、表に示した数値は、臨床試験に参加した患者集団の結果であり、個々の患者さんがその期間までしか生きられないという意味ではありません。重要なのは、自分の胃がんの特徴や全身状態に合った治療を主治医と検討することです。
「全生存期間中央値」の意味
全生存期間中央値という言葉は「その期間しか生きられない」と誤解されることがあります。
例えば全生存期間中央値が14.4か月と報告されている場合、それは14.4か月で全員が亡くなるという意味ではありません。その時点より前に亡くなった患者さんもいれば、中央値を超えて長く生存している患者さんもいます。
全生存期間は、病気が進行するまでの期間を示す「無増悪生存期間」とは異なります。また、中央値は特定の患者集団について計算されたものであり、一人ひとりの生存期間を予測する数字ではありません。
中央値とは、患者さんを生存期間の短い順に並べたとき、ちょうど真ん中の患者さんが生存していた期間を表す統計学上の指標です。そのため、個人の余命を判断する数字として使うことはできません。
余命を左右するのは治療だけではない
同じ薬剤を使用していても、患者さんによって経過が異なるのは珍しいことではありません。年齢や持病、体力だけでなく、腹膜播種の有無、腹水の量、食事が十分に取れているかどうか、治療開始時の全身状態(Performance Status)など、多くの要素が予後へ影響します。
胃がんでは栄養状態が特に重要です。食事量が減って体重や筋肉量が大きく低下すると、予定していた治療を十分な量で継続できなくなることがあります。一方、症状を早期からコントロールし、栄養状態を維持できれば、二次治療や三次治療まで進める可能性が高まり、その結果として生存期間が延びることも期待できます。
余命は「がんの大きさ」だけでは決まりません。病気とどのように付き合いながら治療を続けられるかも、大きな要素になります。
新しい治療によって長期生存例も増え始めている
近年は、従来であれば難しいと考えられていた長期生存例も国内外から報告されています。
HER2陽性胃がんで分子標的薬が長期間奏効した症例、免疫チェックポイント阻害薬によって病勢を数年間コントロールできた症例、薬物療法によって転移巣が大きく縮小し、コンバージョン手術へ進んだ症例など、その内容はさまざまです。
もちろん、これらはすべての患者さんに当てはまるものではありません。しかし、「ステージ4だから余命は○か月」と断定できない理由も、このような症例が少しずつ増えていることにあります。新しい薬剤は現在も開発が続いており、診断された時点では利用できなかった治療が、その後の治療中に選択肢へ加わることもあります。
余命は「未来を決める数字」ではなく「治療を考えるための目安」
余命の数字は、これからの生活や治療について考えるための参考になります。一方で、その数字だけで将来を決めつける必要はありません。現在の胃がん治療は、HER2やCLDN18.2などの分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、さらに今後実用化が期待される新しい治療によって、少しずつ治療成績が改善しています。
大切なのは「平均は何か月か」という一点だけを見ることではなく、自分の胃がんにはどの治療が適しているのか、今後どのような選択肢が残されているのかを主治医と確認しながら、一つずつ治療を積み重ねていくことです。
次の章では、「胃がんステージ4でも完治する可能性はあるのか」という疑問について、コンバージョン手術や長期生存例、現在の医学的な考え方をもとに詳しく解説します。
胃がんステージ4でも完治する可能性はあるのか
「ステージ4でも完治することはありますか。」
これは、生存率や余命と並んで、患者さんやご家族から最も多く寄せられる質問の一つです。結論から言えば『胃がんステージ4が完治する可能性はゼロではありません。』しかし、早期胃がんのように手術だけで根治が期待できる病気とは異なり、その可能性は決して高くありません。一方で「ステージ4=絶対に完治しない」と断言することも、現在の医学では正確ではなくなっています。
近年は薬物療法の進歩によって、転移巣が画像上ほとんど確認できないほど縮小したり、切除不能と考えられていた胃がんが手術可能になったりする症例が報告されるようになりました。
まずは「完治」という言葉が医学的にどのような意味を持つのかを理解しておくことが大切です。
画像でがんが見えなくなることと治癒の違い
一般的には「がんがなくなれば完治」と考えられることが多いでしょう。しかし、医学では「画像検査でがんが見えなくなったこと」と「再発する可能性がほとんどなくなったこと」は区別して考えます。
例えば、抗がん剤や免疫療法によってCT検査で腫瘍が見えなくなったとしても、体内には画像では確認できないごく少数のがん細胞が残っている可能性があります。
そのため、医療現場では「完全奏効(Complete Response:CR)」という表現を用いることはあっても、「完治」と断言することはほとんどありません。特にステージ4胃がんでは、一度遠隔転移が確認されている以上、治療後も慎重な経過観察が必要になります。
薬物療法後に手術を再評価する「コンバージョン手術」
切除不能なステージ4胃がんでも、薬物療法が非常によく効き、胃の原発巣と遠隔転移を含めてすべての病変を切除できる見込みが得られたごく一部の患者さんでは、コンバージョン手術を検討することがあります。ただし、ステージ4胃がん全体に確立された標準治療ではなく、手術を受けた患者さんが長期生存したという観察研究だけでは、手術そのものが生存期間を延長したと断定できません。
例えば、肝転移が少数に限られている症例や、リンパ節転移が薬物療法によって著しく縮小した症例では、胃と転移巣を切除することで長期間再発なく経過する患者さんも報告されています。
もちろん、この治療を受けられる患者さんは限られています。腹膜播種が広範囲に広がっている場合や、複数の臓器へ転移している場合には適応が難しいことも少なくありません。さらに、R0切除が達成できても、再発リスクがなくなるわけではありません。それでも「ステージ4だから最初から手術は不可能」と考えられていた時代と比べると、治療の可能性は確実に広がっています。
腹膜播種でも手術を目指せるケース
胃がんステージ4では、腹膜播種を伴う患者さんが少なくありません。以前は、腹膜播種が確認された時点で根治手術はほぼ不可能と考えられていました。しかし近年では、薬物療法によって腹膜播種が著しく縮小し、腹腔鏡検査でも活動性がほとんど認められなくなった患者さんに対して、コンバージョン手術が行われるケースも報告されています。
実際には非常に慎重な判断が必要であり、すべての患者さんが対象になるわけではありません。それでも、「腹膜播種がある=治療は緩和ケアだけ」という時代ではなくなったことは、現在の胃がん診療における大きな変化の一つです。
長期生存例の特徴
国内外から報告されている長期生存例を見ると、いくつか共通する特徴があります。
一つは、薬物療法が非常によく効いたことです。HER2陽性胃がんではトラスツズマブを含む治療によって長期間病勢をコントロールできた症例が報告されていますし、近年では免疫チェックポイント阻害薬やトラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)が著効した症例も報告されています。
もう一つは、手術によって「R0切除」が達成されたことです。R0切除とは、手術後に肉眼的にも顕微鏡的にも、がんの遺残が認められない状態を指します。
コンバージョン手術によってR0切除が達成された患者さんでは、長期間再発せずに経過する場合もあります。ただし、画像検査や病理検査で確認できない微小ながん細胞が体内に残っている可能性までは否定できず、R0切除が達成されても再発することがあります。そのため、手術後も慎重な経過観察が必要です。
もちろん、これらは一部の患者さんで得られた結果であり、すべての患者さんへ当てはまるものではありません。
「完治」を目標にするか「長く病気をコントロールするか」はケースバイケース
現在の胃がんステージ4治療では、「完治だけ」を唯一の目標にしているわけではありません。病気をできるだけ長くコントロールしながら、自分らしい生活を続けることを重視する患者さんも多くいます。実際、分子標的薬や免疫療法によって数年間仕事や家庭生活を続けながら治療を受けている患者さんもいます。一方で、薬物療法への反応が非常によく、コンバージョン手術を目指せる患者さんもいます。
どちらが正しいということではなく、病気の状態や患者さん自身が大切にしたいことによって、治療の目標は変わります。「ステージ4だから何もできない」という考え方ではなく、「今の病状ならどこまで治療を目指せるのか」を一人ひとり検討することが重要になっています。
標準治療以外の選択肢 ― 自由診療・治験・先進的な治療について
胃がんステージ4の治療を続けていると「標準治療が効かなくなったら、もう方法はないのでしょうか」という不安を抱く患者さんは少なくありません。インターネットで情報を調べると「最新治療」「自由診療」「海外では新しい治療が受けられる」といった情報が数多く見つかりますが、その内容は玉石混交であり、科学的根拠が十分に示されていないものも含まれています。
まず知っておきたいのは、最初の薬物療法が効かなくなったことと、すべての標準治療が終了したことは異なるという点です。胃がんでは、一次治療で十分な効果が得られなくなった場合でも、二次治療や三次治療として有効性が確認された別の薬剤を使用できることがあります。
利用できる標準治療を一通り受けた場合や、全身状態などの理由で標準治療を続けることが難しい場合にも、病状によっては治験やがん遺伝子パネル検査などを検討できます。ただし、すべての患者さんに新たな薬物療法が見つかるわけではありません。自由診療を考える前に、現在利用できる標準治療、研究段階の治療、症状を和らげるための医療を整理し、それぞれの目的と負担を理解することが大切です。
治験は新しい治療を受けられる可能性の一つ
治験という言葉に「ほかに治療法がなくなった人だけが参加するもの」という印象を持っている方もいるかもしれません。しかし実際には、新しい薬剤や治療法の有効性・安全性を検証するため、さまざまな段階の患者さんを対象に実施されています。
胃がん領域では、HER2やCLDN18.2などを標的とした新しい薬剤、二重特異性抗体、免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせた治療など、さまざまな治療法の研究が行われています。研究によっては、すでに結果が公表されているものや、実施を終了・中止したものもあるため、現在参加できる治験とは区別する必要があります。
治験への参加によって、一般診療ではまだ使用できない薬剤や治療法を受けられる可能性があります。ただし、参加できるかどうかは、病状、過去の治療歴、バイオマーカーの検査結果、全身状態など、各試験で定められた条件によって異なります。具体的な募集状況については、主治医や治験を実施する医療機関へ確認することが重要です。
治験は研究の一環であり、必ず高い効果が得られることを保証するものではありません。期待した結果が得られない可能性や、予測されていない副作用が現れる可能性もあります。参加する際には治療内容だけでなく、期待できる利益と考えられるリスクについて十分な説明を受け、自分自身が納得したうえで判断することが重要です。
参考:胃がん 臨床試験|国立がん研究センター がん情報サービス
自由診療を検討するときに重要なこと
自由診療には、公的医療保険が適用されない治療が含まれます。なかには海外では承認されている薬剤を国内で自費診療として使用するケースや、自由診療だからこそ受けられる検査や治療を提供している医療機関もあります。一方で「がんが消える」「標準治療より優れている」といった表現で十分な科学的根拠が示されていない治療が紹介されていることもあり、慎重な判断が必要です。
自由診療というだけで効果が高いわけではありませんし、標準治療より優れていることが証明されているわけでもありません。治療を検討する際には「どのような臨床試験で効果が確認されているのか」「医学論文として公表されているのか」「国内外のガイドラインでどのように位置付けられているのか」を確認することが欠かせません。
費用面についても十分に理解しておく必要があります。自由診療では数十万円で済むものもあれば、治療を継続することで数百万円以上の費用がかかる場合もあります。期待できる効果と経済的負担の両方を踏まえ、家族や主治医とも相談しながら検討することが大切です。
腹膜播種に対する新しい治療の研究が進められている
胃がんステージ4で特に課題となる腹膜播種については、現在も新しい治療法の研究が続けられています。
胃がんの腹膜播種では、腹腔内へ抗がん剤を投与する治療や温熱化学療法などの研究が行われています。国内の第III相PHOENIX-GC試験では、腹腔内パクリタキセルを含む治療の可能性が検討されましたが、主要評価項目の全生存期間について、事前に設定された統計学的な有意差は示されませんでした。したがって、腹腔内化学療法やHIPECを「標準治療より優れることが確立した治療」と紹介することはできません。実施を検討する場合は、研究段階の位置づけ、治験・臨床研究の条件、副作用、保険適用の有無を確認する必要があります。
参考:腹膜播種を伴う胃がんに対する腹腔内化学療法の評価資料(PHOENIX-GC試験を含む)|厚生労働省、Gastric Cancer Treatment(PDQ)|米国国立がん研究所(NCI)
標準治療を土台に考えることが後悔の少ない治療選択に繋がる
新しい治療へ期待を持つことは決して悪いことではありません。しかし、標準治療には長年の臨床試験によって有効性と安全性が確認され、多くの患者さんで利益が証明されてきたという大きな強みがあります。日本や欧米のガイドラインでも、まずは標準治療を基本とし、そのうえで治験や新しい治療の可能性を検討することが推奨されています。
標準治療が思うような結果につながらなかった場合でも、次の薬剤への変更や治験への参加、新しい分子標的薬の適応確認など、検討できる選択肢が残されていることは少なくありません。「標準治療か自由診療か」という二者択一で考えるのではなく、その時点で利用できる医学的根拠のある治療を一つずつ整理し、自分に合った選択肢を見極めていくことが、納得できる治療につながります。
胃がんステージ4の最新治療 ― 今後期待されている新しい治療法
胃がんの治療は、この10年ほどで大きく進歩しました。以前は、進行胃がんに対する治療といえば抗がん剤が中心で、一つの薬剤が効かなくなると選択肢は限られていました。しかし治療の進歩によって、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が標準治療として定着し、患者さんのがん細胞の特徴に応じて治療を選択する時代へ変わっています。
2026年現在、胃がんでは抗HER2抗体、免疫チェックポイント阻害薬、CLDN18.2標的薬、ADCなど、国内承認済みの治療選択肢があります。一方、これらにさらに薬を加える三剤・四剤併用や、新しい標的分子に対する薬剤などは、臨床試験で有望な結果が報告されても、日本の保険診療で直ちに使用できるとは限りません。承認状況、対象患者、治療歴、バイオマーカーの条件は区別して紹介する必要があります。
抗体薬物複合体(ADC)は胃がん治療を大きく変えつつある
近年、最も注目されている治療の一つが『抗体薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate:ADC)』です。
ADCは、分子標的薬の「狙った細胞へ結合する力」と、抗がん剤の「がん細胞を攻撃する力」を組み合わせた薬剤です。標的となるタンパク質を持つがん細胞へ選択的に薬剤を届けることで、正常な細胞への影響をできるだけ抑えながら高い治療効果を目指します。
胃がんでは、HER2陽性の患者さんに使用されるトラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)が代表例です。DESTINY-Gastric04試験では、トラスツズマブを含む治療後に病状が進行したHER2陽性の進行胃がん患者さんを対象に、トラスツズマブ デルクステカンが従来の二次治療よりも全生存期間を有意に延長することが確認されました。
ただし、使用できる患者さんには適応条件があり、間質性肺疾患など重篤な副作用にも注意が必要です。薬剤の有効性だけでなく、治療歴や全身状態、副作用のリスクも含めて適応が判断されます。
現在はHER2以外にも、新たな標的分子に対するADCの開発が進んでおり、今後さらに治療の幅が広がることが期待されています。
分子標的薬は「HER2だけ」の時代ではなくなった
胃がんの分子標的治療は、HER2を中心に発展してきました。しかし近年は、それ以外の分子を標的とする薬剤も相次いで登場しています。その代表が『CLDN18.2』です。CLDN18.2陽性胃がんでは、ゾルベツキシマブ(ビロイ)が標準治療へ加わり、SPOTLIGHT試験では全生存期間の延長が報告されました。
新たな治療標的として研究されてきたものに、FGFR2bというタンパク質があります。FGFR2bは一部の胃がんで高く発現しており、これを標的とするベムマリツズマブ(Bemarituzumab)の臨床開発が行われてきました。
ただし、2026年10月時点では、国内で登録された主な臨床試験であるFORTITUDE-101は研究終了、FORTITUDE-103も中止を経て研究終了となっています。ベムマリツズマブは、日本で胃がんの標準治療として承認された薬剤ではありません。研究対象となった薬剤を、現在一般診療で受けられる治療と混同しないことが重要です。
現在の胃がん診療では、HER2やCLDN18.2などのバイオマーカーに応じた治療が実際に行われています。一方、FGFR2bなど新しい標的については、臨床試験の結果や開発状況、国内での承認の有無を確認したうえで、標準治療と区別して考える必要があります。
参考:FORTITUDE-101試験|臨床研究等提出・公開システム(jRCT)、FORTITUDE-103試験|臨床研究等提出・公開システム(jRCT)
免疫療法も新しい組み合わせが研究されている
免疫チェックポイント阻害薬は、すでに一次治療の標準となっていますが、研究は現在も続いています。
PD-1阻害薬と新しい免疫調節薬を組み合わせる治療や、分子標的薬との併用療法など、多くの国際共同試験が進行しています。HER2陽性胃がんでは、抗HER2療法と免疫療法を組み合わせることで治療効果をさらに高められる可能性も報告されており、今後の結果が注目されています。
免疫療法は「単独で使う治療」から、「他の治療と組み合わせて効果を高める治療」へ発展しつつあります。
がんゲノム医療によって新しい治療へつながる可能性もある
標準治療の選択肢がなくなった患者さんや、標準治療の終了が見込まれる患者さんなどでは、がん遺伝子パネル検査が提案されることがあります。この検査は複数の遺伝子の変化をまとめて調べ、治験や新たな薬物療法につながる可能性があるかを検討するものです。
ただし、検査を受ければ必ず治療に結び付くわけではありません。保険診療で検査を受けるための条件や、検査結果を治療へ活用できる可能性について、事前に主治医と相談することが重要です。
現時点では、胃がん患者さん全員が新しい治療へ結び付くわけではありません。それでも、従来であれば治療選択肢が限られていた患者さんに対して、新たな可能性を見つける手段として期待されています。がんゲノム医療は「現在使える薬を探す検査」であると同時に、「これから受けられる可能性のある治療」を探す検査でもあります。
最新治療は根拠を確認することが重要
新しい治療法が次々と報道されると「最新治療の方が標準治療より優れているのではないか」と感じる方もいるでしょう。しかし、医学では「新しい治療」であることと「効果が証明されている治療」であることは同じではありません。
現在の標準治療になっている薬剤も、長い年月をかけた臨床試験によって有効性と安全性が確認されたからこそ、多くの患者さんへ使用されるようになりました。これから登場する新しい薬剤も同じです。有望な結果が報告されていても、さらに大規模な臨床試験で有効性が確認されなければ標準治療にはなりません。
最新治療を検討する際は「新しい治療だから受けたい」と考えるのではなく、その治療がどの段階まで研究され、どのような患者さんを対象としているのかを確認することが重要です。
胃がん治療は今も進歩を続けています。数年前には存在しなかった薬剤が現在では標準治療となり、現在研究段階にある薬剤が数年後には新たな選択肢になっている可能性もあります。新しい情報を正しく理解し、標準治療と最新治療の位置付けを整理しながら治療方針を考えることが、納得のいく選択につながるでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 胃がんステージ4でも手術を受けられることはありますか?
はい、患者さんの病状によっては手術が検討されることがあります。一般的に、遠隔転移を伴うステージ4胃がんでは薬物療法が治療の中心ですが、薬物療法によって原発巣や転移巣が大きく縮小し、根治切除(R0切除)が可能と判断された場合には、コンバージョン手術を検討することがあります。
ただし、コンバージョン手術はステージ4胃がんのすべての患者さんに対して確立された標準治療ではなく、対象となる患者さんも限られています。手術によってどの程度の利益が期待できるか、再発の可能性や手術の負担も含めて慎重に判断する必要があります。
Q2. 胃がんステージ4でも仕事を続けることはできますか?
病状や治療内容によって異なりますが、仕事を続けながら治療を受けている患者さんも少なくありません。最近の抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬は外来で受けられるものも多く、副作用をコントロールしながら通院治療を続けられるケースが増えています。
一方で、体力や栄養状態によっては勤務時間の調整や休職が必要になることもあります。無理を続けるよりも、主治医や勤務先と相談しながら働き方を見直すことが、長く治療を続けるためには重要です。
Q3. 食事で気を付けることはありますか?
特定の食べ物だけで胃がんを治せるという科学的根拠はありません。大切なのは、患者さんの体調や食べられる量に合わせて、必要な栄養をできるだけ維持することです。
胃がんステージ4では、一度に多くの食事を取ることが難しくなる場合があります。そのようなときは、一日3食にこだわらず、少量ずつ食事の回数を増やすと負担を減らせることがあります。ただし、腸閉塞や強い通過障害がある場合には食事の取り方に制限が必要になることもあります。食欲低下や体重減少、吐き気などが続く場合には、無理に食べようとせず、主治医や管理栄養士へ相談してください。
Q4. セカンドオピニオンを受ける意味はありますか?
あります。特にステージ4では、HER2、CLDN18.2、MSI、PD-L1などの検査結果によって治療方針が変わることがあります。また、治験を実施している施設や、コンバージョン手術を積極的に検討している医療機関など、病院によって対応が異なることもあります。
現在の治療に納得したうえで前向きに治療を受けるためにも、セカンドオピニオンは有効な選択肢の一つです。
Q5. 抗がん剤が効かなくなったら、もう治療法はないのでしょうか?
必ずしもそうではありません。最初の薬物療法が効かなくなっても、患者さんの状態によっては二次治療や三次治療へ進める場合があります。これまで使用した薬剤や、HER2などのバイオマーカーの検査結果によって、別の治療を選択できることもあります。
利用できる標準治療が少なくなった場合には、治験への参加やがん遺伝子パネル検査を検討することもあります。ただし、新しい薬が必ず見つかるわけではなく、全身状態によっては薬物療法の負担が大きくなる場合もあります。次の治療に期待できる効果と副作用、症状を和らげるための医療も含めて、主治医と相談しながら方針を考えることが大切です。
Q6. 禁煙や禁酒をすると治療効果は変わりますか?
喫煙は手術後の回復を遅らせるだけでなく、抗がん剤治療中の合併症や肺炎などのリスクを高めることが知られています。また過度の飲酒は肝機能へ影響し、治療の継続が難しくなる場合もあります。
禁煙や節酒だけで胃がんが治るわけではありませんが、治療を安全に続けるためにも生活習慣を見直すことは大切です。
Q7. 胃がんステージ4でも旅行や外出はできますか?
病状が安定しており、主治医から制限を受けていなければ、旅行や外出を楽しんでいる患者さんもいます。ただし、抗がん剤投与直後や体調が不安定な時期は無理をせず、旅行先で医療機関を受診できるかどうかも事前に確認しておくと安心です。
生活をすべて我慢するのではなく、体調と相談しながら自分らしい時間を過ごすことも、治療を続けるうえで大切な要素になります。
胃がんステージ4でも自分に合った治療を選択することが大切
胃がんステージ4は、遠隔転移を伴う進行した状態であり、決して簡単に治療できる病気ではありません。しかし、現在は抗がん剤だけでなく、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの登場によって、治療の選択肢は以前より大きく広がっています。
さらに、HER2やCLDN18.2などのバイオマーカーに応じて治療を選択する個別化医療が進み、一部の患者さんではコンバージョン手術による長期生存も期待できるようになってきました。新しい薬剤や治療法の研究も世界中で続いており「ステージ4だから何もできない」という時代ではなくなっています。
一方で、インターネットにはさまざまな情報があふれており、すべてが科学的根拠に基づいているとは限りません。治療を選択するときは、生存率や余命といった数字だけを見るのではなく、自分の病状や遺伝子・バイオマーカーの特徴、生活で大切にしたいことなども含めて、主治医と十分に相談しながら判断することが重要です。
胃がんステージ4の治療は、一つの治療法だけで完結するものではありません。その時々の病状に合わせて最適な選択肢を積み重ねていくことが、長く病気と向き合うための第一歩になります。不安や疑問を一人で抱え込まず、必要に応じてセカンドオピニオンも活用しながら、自分にとって納得できる治療を選択していきましょう。






