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主要ながん 2026.8.10

胃がんとは?初期症状・原因・治療法・ステージ別生存率まで詳しく解説

胃がんの主なリスクや症状、検査から診断、ステージ別分類や治療方法の選択について

胃がんは、日本で現在も多く診断されているがんの一つです。2023年には104,864例が新たに診断され、2024年には37,867人が胃がんで亡くなっています。

胃がんは、早い段階では自覚症状がないことがあります。みぞおちの痛み、胃もたれ、食欲低下、胸やけなどが現れる場合もありますが、胃炎や胃潰瘍などでも起こる症状であり、症状の有無や強さだけから胃がんの進行度を判断することはできません。

一方、早い段階で発見され、リンパ節転移の可能性が低い条件を満たせば、胃を切除せず内視鏡で病変を取り除ける場合があります。胃の壁の深くまでがんが入り込んでいる場合やリンパ節転移の可能性がある場合には、胃切除とリンパ節郭清を行い、病期によっては手術前後の薬物療法を組み合わせます。

切除不能・再発胃がんでは、現在はHER2、PD-L1、MSI/MMR、CLDN18.2などを調べ、その結果を薬物療法の選択につなげます。日本胃癌学会は2025年3月に「胃癌治療ガイドライン第7版」を刊行し、2026年には患者向けガイドライン、同年7月には「切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き第3版」を公開しています。

この記事では、胃がんの原因や症状だけでなく、胃がん検診と受診の違い、内視鏡・病理検査、ステージ、ESD、手術、2026年時点の薬物療法、治療後の食事や体重減少、生存率まで、治療を判断する流れに沿って解説します。

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  • 胃がん検診・胃内視鏡による早期発見が治療の選択肢を広げる
  • 胃がんの治療はステージだけでなく、病理結果やバイオマーカーをもとに選ぶ
  • 治療後は再発だけでなく「食べられること」と栄養・体重を長期的にみていく

胃がんとは何か

胃がんは、胃の内側を覆う粘膜の細胞から発生する悪性腫瘍です。

胃の壁は、内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜(しょうまく)などの層で構成されています。胃がんは粘膜から発生し、進行すると胃壁の外側へ向かって深く入り込みます。

胃がんでは、病変の横幅だけではなく、胃壁のどの深さまでがんが達しているかが治療を考えるうえで大きな意味を持ちます。

「早期胃がん」はステージ1と同じ意味ではない

胃がんでは、がんの浸潤が粘膜または粘膜下層までにとどまっているものを「早期胃がん」と呼びます。リンパ節転移があるかどうかとは別に、胃壁への深さによって定義される言葉です。

そのため「早期胃がん=必ず内視鏡で治療できる」「早期胃がん=必ずステージ1」という意味ではありません。

内視鏡治療を行えるかどうかは、がんの深さだけでなく、大きさ、組織型、潰瘍の有無などからリンパ節転移の可能性を評価して判断します。内視鏡治療では十分な根治性が得られないと考えられる場合には、早期胃がんでも胃切除とリンパ節郭清を検討します。

反対に、がんが固有筋層より深く入り込んだものは「進行胃がん」と呼ばれます。ここでいう「進行胃がん」も、そのままステージ4を意味する言葉ではありません。遠隔転移がなく、手術によって根治を目指せる進行胃がんもあります。

胃がんでは「深さ・リンパ節・遠隔転移」を分けて考える

胃がんの治療を理解するときは、「早期か進行か」だけでは十分ではありません。

がんが胃壁のどこまで深く広がっているか、周囲のリンパ節へ転移しているか、肝臓・肺・腹膜など離れた場所へ転移しているかを調べ、その組み合わせからステージを判断します。

たとえば、胃壁の比較的浅い部分にある病変でも、リンパ節転移の可能性が高ければ内視鏡治療だけでは不十分です。一方、胃壁の深い層へ進んでいても遠隔転移がなければ、胃切除とリンパ節郭清、さらに薬物療法を組み合わせて根治を目指すことがあります。

この違いが、胃がんで「胃カメラだけで取れる人」「胃を切除する人」「薬物療法を中心に行う人」が分かれる理由です。

胃がんの多くは腺がん

胃がんの大部分は、胃の粘膜にある腺組織から発生する腺がんです。

病理検査では、がん細胞の形や腺管のつくり方などから分化型・未分化型などに分類します。この組織型は、内視鏡治療が可能か判断するときにも関係します。

また、胃がんの中には、胃の表面に明瞭なしこりをつくらず、胃壁の中を広く浸潤して胃を硬く厚くするスキルス胃がん(4型胃がん)があります。

スキルス胃がんは一般的な胃がんとは広がり方や診断上の難しさが異なり、腹膜播種の評価なども治療方針に大きく関係するため、以下の記事で詳しく解説しています。

胃がんは治療後の「食べること」まで考えて治療を選ぶ

胃がんでは、がんを取り除けるかどうかだけでなく、治療後の生活も治療法を理解するうえで欠かせません。

胃には、食べ物を一時的にため、少しずつ十二指腸へ送り出す働きがあります。胃の一部または全部を切除すると、一度に食べられる量が減り、食後の動悸や冷や汗、腹痛などを伴うダンピング症候群、体重減少、貧血などが問題になることがあります。

そのため手術では「どの範囲まで切ればがんを適切に取り除けるか」と同時に、どの部分の胃を残せるのか、術後にどのような食生活になるのかも確認します。

進行・再発胃がんでも同様です。薬によってがんを小さくすることだけでなく、胃の通り道を保って食事を取れる状態を維持すること、出血や腹水などの症状を抑えることも治療の一部になります。

胃がんステージ4の腹膜播種や食事が通らなくなった場合の治療については、以下の記事で詳しく解説しています。

次の章では、胃がんの発症と強く関係するピロリ菌を中心に、喫煙、食生活、遺伝的背景などの原因・リスクについて解説します。

胃がんの原因とリスク

胃がんは、一つの原因だけで発症する病気ではありません。年齢や生活習慣など複数の要因が関係しますが、日本の胃がんで特に深く関係しているのがヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染です。

国立がん研究センターでは、胃がんの主な発生要因としてピロリ菌感染と喫煙を挙げ、食塩や高塩分食品の摂取も胃がんのリスクを高めるとしています。

ただし、これらは「当てはまれば胃がんになる」「当てはまらなければ胃がんにならない」というものではありません。胃がんになった理由を一つに決めることはできず、生活習慣だけを原因として考える必要もありません。

参考:胃がん 予防・検診|国立がん研究センター がん情報サービス

ピロリ菌は胃の粘膜に長期間炎症を起こす

ピロリ菌は胃の粘膜に感染する細菌です。感染が続くと慢性的な胃炎が起こり、胃粘膜の萎縮などを経て、胃がんが発生しやすい環境につながることがあります。

ピロリ菌に感染している人すべてが胃がんになるわけではありませんが、感染している人では胃がんになる可能性が高くなることが分かっています。

ピロリ菌感染の有無は、血液や呼気、便、胃内視鏡検査時の検体などを使って調べます。どの検査が適しているかは、除菌歴や服用している薬などによっても変わるため、医療機関で判断します。

感染が確認された場合には、抗菌薬などを使った除菌治療を行うことがあります。

ピロリ菌を除菌しても胃がんの可能性がゼロになるわけではない

ピロリ菌を除菌すると、胃がんが発生するリスクを下げられることが分かっています。国立がん研究センターも、ピロリ菌除菌によって胃がんの発生リスクが低下するとしています。

一方、除菌に成功したからといって、その後の胃がんリスクが完全になくなるわけではありません。

ピロリ菌に長期間感染していた人では、除菌した時点ですでに胃粘膜の萎縮などが進んでいる場合があります。そのため、過去にピロリ菌を除菌した人も「もう胃がんにはならない」と考えるのではなく、その後の胃の状態に応じて内視鏡検査などを受けることが必要です。

ピロリ菌検査は「胃がんがあるかどうか」を直接調べる検査ではありません。ピロリ菌が陽性だから胃がんという意味ではなく、陰性だから現在の胃がんを否定できるわけでもありません。

喫煙や塩分の多い食生活も胃がんリスクに関係する

喫煙も胃がんの発生リスクを高める要因です。禁煙は胃がんだけでなく、肺がんをはじめとするさまざまながんや心血管疾患のリスクを下げることにもつながります。

また、食塩や塩分の多い食品を多く取る食生活も、胃がんの発生リスクと関係しています。国立がん研究センターでは、胃がん予防の観点からも高塩分食品の取りすぎを控えることを勧めています。

「これを食べれば胃がんを防げる」という特定の食品があるわけではありません。塩分の取りすぎを避け、野菜や果物を含めたバランスのよい食生活を続けることを考えます。

リスクがある人ほど「症状が出るまで待つ」ことは避ける

ピロリ菌感染歴がある、除菌治療を受けたことがある、喫煙歴があるといった場合でも、自覚症状から胃がんの有無を判断することはできません。

早期胃がんでは症状がないこともあります。反対に、胃もたれやみぞおちの痛みがあっても、原因が胃炎や胃潰瘍であることもあります。

つまり「症状があるかどうか」と「胃がんのリスク」は分けて考える必要があります。症状のない人には一定の年齢から胃がん検診があり、症状がある人には検診ではなく医療機関で原因を調べる検査が必要です。

胃がん検診と症状がある場合の受診

胃がん検診は、胃に症状のない人を対象として、胃がんによる死亡を減らすことを目的に行うものです。

国が推奨する胃がん検診は、原則として50歳以上の男女を対象に2年に1回です。検査方法は、胃部X線検査(バリウム検査)または胃内視鏡検査(胃カメラ)のいずれかです。

項目 国が推奨する胃がん検診
対象 50歳以上の男女
受診間隔 2年に1回
検査方法 胃部X線検査または胃内視鏡検査

なお、胃部X線検査については、当分の間、自治体によって40歳以上を対象に年1回実施することも認められています。自治体によって実施方法が異なる場合があるため、実際の受診条件は住んでいる地域の案内を確認します。

胃部X線検査と胃内視鏡検査はどちらを受ければよい?

国が推奨する胃がん検診では、胃部X線検査または胃内視鏡検査のどちらか一方を選んで受診します。「両方を受けた方が確実」という考え方ではなく、受診できる検査、体の状態、検査への希望などを踏まえて選びます。

胃部X線検査では、発泡剤で胃を膨らませ、バリウムを飲んでX線撮影を行い、胃の形や粘膜の変化から異常を探します。内視鏡を挿入する必要がない一方、検査中には体の向きを何度も変える必要があり、バリウムによる便秘などが起こることもあります。

胃内視鏡検査では、口または鼻から内視鏡を挿入し、胃の粘膜を直接観察します。検査中に胃がんが疑われる病変が見つかった場合には、その部分から組織を採取して病理検査につなげられることが特徴です。

どちらを選ぶか迷う場合は「胃カメラの挿入への抵抗が強い」「バリウム検査を受けにくい身体的な事情がある」など、自分が受けにくい検査がないかも含めて、検診を実施する医療機関に相談するとよいでしょう。

なお、胃部X線検査と胃内視鏡検査を毎年交互に受ければ胃がんをより確実に防げる、というものではありません。国立がん研究センターは、偽陽性や検査に伴う偶発症などの不利益を増やす可能性があるため、2つの検査を毎年交互に受けることは推奨していません。

参考:胃がん検診について|国立がん研究センター がん情報サービス

「要精密検査」は胃がんが確定したという意味ではない

胃がん検診で「要精密検査」と判定されても、その時点で胃がんと診断されたわけではありません。

胃部X線検査などで詳しく調べる必要のある変化が見つかったという意味です。精密検査では主に胃内視鏡検査を行い、必要に応じて組織を採取して胃がんかどうかを確認します。

反対に、検診を受けて異常なしだった場合も、その後に症状が出たのに「次の検診まで待てばよい」と考えるものではありません。

胃の症状がある場合は、胃がん検診を待たずに受診する

胃がん検診は、症状のない人を対象とした検査です。

みぞおちの痛みや不快感、胃もたれ、食欲低下など気になる症状がある場合には、「50歳になっていないから」「今年は検診の年ではないから」と待たず、医療機関を受診します。国立がん研究センターも、気になる症状がある場合には胃がん検診を待たずに医療機関を受診するよう案内しています。

食事が通りにくい、繰り返し嘔吐する、黒い便が出る、理由のはっきりしない体重減少があるといった変化も、検診ではなく診療として原因を調べる必要があります。

年齢や症状によっては胃がん以外の病気が原因であることも多いため、「症状がある=胃がん」と考える必要はありません。症状の原因を胃内視鏡検査などで確かめることが目的です。

ピロリ菌検査やABC検査は胃がん検診そのものではない

血液検査でピロリ菌抗体やペプシノゲンを調べ「胃がんリスク検査」「ABC検査」などとして行われている検査があります。これらは胃がんになりやすい背景を評価するために利用されることがありますが、胃に現在がんがあるかを直接見つける検査ではありません。

国立がん研究センターでは、ペプシノゲン検査、ピロリ菌抗体検査、両者を組み合わせたABC検査について、胃がん死亡を減らす科学的根拠が現時点では十分ではないとして、国が行う対策型胃がん検診としては推奨していません。

したがって「ABC検査が低リスクだったから胃カメラは必要ない」「ピロリ菌陰性だったから胃がん検診を受けなくてもよい」と判断するものではありません。

一方、ピロリ菌に感染しているかを知り、必要に応じて除菌治療を受けることは胃がん予防を考えるうえで別の意味があります。胃がんのリスク評価と、胃がんを早期に発見するための検診は分けて考える必要があります。

胃がんの初期症状

胃がんは、早い段階では自覚症状がほとんどないことがあります。検診や、胃炎・胃潰瘍など別の病気を調べるために受けた胃内視鏡検査をきっかけに、症状のない胃がんが見つかることもあります。

一方、胃がんが進行していても症状が目立たない場合があります。そのため「胃が痛くないから胃がんではない」「症状が軽いから早期だろう」と判断することはできません。

反対に、強い胃痛や胃もたれがあっても、原因が胃炎、胃潰瘍、逆流性食道炎などであることもあります。症状だけから胃がんかどうかを見分けることはできないため、気になる変化がある場合は必要に応じて胃内視鏡検査で胃の粘膜を確認します。

胃痛・胃もたれ・胸やけ

胃がんでみられる症状には、みぞおちの痛みや不快感、胃もたれ、胸やけ、吐き気、食欲低下などがあります。ただし、これらは胃がんに特有の症状ではありません。日常的な胃腸の不調でも起こるため「胃もたれがあるから胃がん」と考える必要はありません。

一方で、胃薬を飲みながら長期間様子を見続けることにも注意が必要です。これまでなかった胃の症状が続く、以前とは症状の出方が変わった、食欲低下など別の変化も伴う場合には、原因を確認するために医療機関を受診します。

前章で説明したように、症状がある人は胃がん検診を受ける時期まで待つのではなく、診療として内科や消化器内科などを受診します。

貧血・黒色便

胃がんの表面から出血すると、血液が胃酸などの影響を受けて黒くなり、黒色便として現れることがあります。

出血量が少ない場合には便の変化に気付かず、少しずつ貧血が進むこともあります。すると、以前より疲れやすい、階段で息切れする、動悸がする、立ちくらみがするといった症状がきっかけになる場合があります。

ただし、黒色便や貧血の原因も胃がんだけではありません。胃潰瘍や十二指腸潰瘍など消化管からの出血でも起こるため、原因を調べる必要があります。明らかな黒色便が出た場合や、吐血した場合には、単なる胃もたれとして様子を見ず医療機関へ相談します。

少量で満腹になる・食べ物がつかえる・吐き気・嘔吐

胃がんの場所や広がり方によっては、食べ物の通り道が狭くなることがあります。胃の出口に近い幽門付近が狭くなると、食べ物が十二指腸へ流れにくくなり、少し食べただけでお腹がいっぱいになる、食後の膨満感が強い、吐き気や嘔吐を繰り返すといった症状が現れることがあります。

胃の入り口に近い噴門部や胃食道接合部付近では、食事がつかえる、飲み込みにくいと感じる場合があります。

こうした症状があると食事量が減り、体重低下や体力低下につながることがあります。そのため、単に「食欲が落ちた」と考えるだけでなく、食べたいのに食べ物が通らないのか、少量ですぐ満腹になるのか、吐いてしまうのかを医師へ伝えると、症状の原因を整理しやすくなります。

食欲低下・体重減少

胃がんでは、食欲低下や食事の通りにくさなどによって摂取量が減り、体重が減少することがあります。

ただし、「何kg減ったら胃がん」という基準があるわけではありません。意図的に食事制限や運動をしていないのに体重が落ち続けている場合には、その原因を調べます。

とくに食欲低下、早期満腹感、嘔吐、貧血などを伴っている場合には、体重だけを見るのではなく、胃内視鏡検査などを含めて消化管の状態を確認する意味があります。

腹水や腹部膨満

胃がんが腹膜へ広がる腹膜播種が起こると、腹水がたまってお腹が張る、食事を少し取っただけで苦しくなる、腸の動きや通過が悪くなるといった症状が現れる場合があります。

腹膜播種は胃がんの遠隔転移の一つで、ステージ4に分類されます。ただし、お腹が張る症状だけで腹膜播種と判断することはできません。CT検査や、病状によっては審査腹腔鏡などを用いて確認します。

腹膜播種がある場合の治療については、以下の記事で詳しく解説しています。

スキルス胃がんでは内視鏡で変化を捉えにくいことがある

胃がんの中でもスキルス胃がんは、胃の表面に明瞭なしこりをつくるよりも、胃壁の中を広く浸潤していく特徴があります。そのため、胃の粘膜表面に目立った変化が現れにくく、一般的な胃がんよりも早い段階で診断することが難しい場合があります。

胃壁が硬くなって広がりにくくなると、少し食べただけで満腹になる、食欲が低下する、体重が減少するといった変化がきっかけになることがあります。ただし、これらの症状だけでスキルス胃がんを診断することはできません。

スキルス胃がんの症状や検査、腹膜播種との関係については、以下の記事で詳しく解説しています。

症状から「早期か進行か」を自己判断しない

胃がんでは、早期でも胃の不快感などがみられる人がいる一方、進行していてもほとんど症状がない人がいます。受診するかどうかを「痛みが強いか」「日常生活に耐えられるか」だけで決めるのは適切ではありません。

胃の不調が続く、黒い便が出た、食べ物がつかえる、食事量が明らかに減った、理由の分からない体重減少や貧血があるなど、これまでとは異なる変化があれば、検診を待たず医療機関へ相談します。

胃がんかどうかを確定するには、症状ではなく胃内視鏡検査で病変を確認し、疑わしい部分から組織を採取して行う病理検査が必要です。

胃がんの検査と診断

胃がんが疑われた場合、最初からステージを調べる検査をすべて行うわけではありません。

まず胃内視鏡検査で病変を確認し、疑わしい部分から組織を採取して、胃がんかどうかを病理検査で確定します。胃がんと診断された後にCTなどでリンパ節や他の臓器への広がりを調べ、その結果からステージと治療方針を考えます。国立がん研究センターも、胃がんの検査を「がんかどうかを確定する検査」と「進行度を診断して治療方針を決める検査」に分けて説明しています。

切除不能・進行・再発胃がんでは、ここにHER2、PD-L1、CLDN18.2、MSIなどのバイオマーカー検査が加わり、検査結果によって使用する薬が変わります。

参考:胃がん 検査|国立がん研究センター がん情報サービス

胃内視鏡検査で病変の場所や広がりを確認

胃がんの診断で中心となるのが胃内視鏡検査、いわゆる胃カメラです。

口または鼻から内視鏡を入れて胃の粘膜を直接観察し、病変の場所、形、大きさ、広がりなどを確認します。病変の深さをより詳しく評価する必要がある場合には、超音波内視鏡検査を追加することもあります。

検診で胃部X線検査を受けて「要精密検査」となった場合にも、胃内視鏡検査で実際の胃粘膜を確認します。

ただし、内視鏡で「胃がんらしい病変」が見つかっただけでは、通常は胃がんの確定診断にはなりません。疑わしい部分から組織を採取し、病理検査へ進みます。

胃がんの確定診断には生検・病理検査が必要

胃内視鏡検査で胃がんが疑われた場合には、病変の一部を小さく採取する生検を行います。

採取した組織を顕微鏡で調べ、がん細胞があるかどうかを確認します。胃がんであることが確認された場合には、腺がんなどの組織型や、分化型・未分化型といった性質も評価します。国立がん研究センターでも、生検した組織から「がんがあるか」「どのような種類のがんか」を病理診断するとしています。

この病理結果は「胃がんかどうか」を確定するためだけのものではありません。

早期胃がんでは、病変の深さ、大きさ、組織型、潰瘍の有無などが内視鏡治療の適応を考える材料になります。また、内視鏡治療や手術で病変全体を切除した後には、切除標本を詳しく調べることで、生検だけでは分からなかった実際の浸潤の深さ、脈管侵襲、リンパ節転移などが明らかになることがあります。

そのため、治療前の生検結果と、ESDや手術後の最終病理結果は役割が異なります。

CT検査ではリンパ節や他の臓器への広がりを調べる

胃がんと診断された後は、胃の中だけを見て治療方法を決めることはできません。造影CT検査などを行い、周囲のリンパ節への転移、肝臓や肺などへの遠隔転移、胃に隣接する膵臓や肝臓などへの浸潤がないかを確認します。この結果は、内視鏡治療や手術によって根治を目指せる病状なのか、薬物療法を中心に考える病状なのかを判断する材料になります。

MRIやPETが追加されることもありますが、すべての胃がん患者に一律に行う検査ではありません。国立がん研究センターでは、PETはリンパ節や他臓器への転移、再発の有無が通常のCTだけでははっきりしない場合などに行うことがあるとしています。

腹膜播種が疑われる場合は審査腹腔鏡を行うことがある

胃がんで治療方針を決めるときに特に注意するのが腹膜播種(ふくまくはしゅ)です。腹膜播種とは、胃の表面からこぼれ落ちたがん細胞がお腹の中に広がり、腹膜に転移した状態です。腹膜播種があると遠隔転移のあるステージ4に分類され、通常の根治手術とは治療方針が変わります。

しかし、小さな腹膜播種はCTだけでは確認できないことがあります。

腹膜播種の可能性が高い進行胃がんでは、全身麻酔のもとで腹腔鏡を入れて腹腔内を直接観察する審査腹腔鏡を行うことがあります。腹水や疑わしい病変を採取するほか、腹腔内を生理食塩水で洗浄し、その液にがん細胞が含まれていないかを調べる腹腔洗浄細胞診を行う場合もあります。

日本胃癌学会では、腹膜播種の可能性が比較的高い進行胃がんについて、治療方針を決めるための審査腹腔鏡を推奨してきました。とくに4型胃がんや大型3型胃がんなどでは、画像検査では分からない腹膜播種を確認する意味があります。

つまり審査腹腔鏡は「胃がんを診断するために全員が受ける検査」ではなく、CT上では手術できそうに見えても、腹膜播種の可能性を確認してから治療方針を決めたい場合に検討する検査です。

参考:胃癌治療ガイドライン第7版|日本胃癌学会

切除不能・進行・再発胃がんではバイオマーカー検査が治療選択につながる

胃がんが手術で取り切ることが難しい場合や再発した場合には、病理組織を使って「どの薬が効く可能性があるか」につながるバイオマーカーを調べます。

2026年現在、日本胃癌学会は切除不能進行・再発胃がんについてバイオマーカー検査の手引きを公開しており、国立がん研究センターも一次薬物療法を始める前にHER2、PD-L1、CLDN18.2、MSIを調べ、その結果から薬剤を選択することを示しています。

参考:切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き 第3版|日本胃癌学会

検査 何を調べるか 主な治療との関係
HER2 HER2タンパク質の発現や遺伝子増幅 トラスツズマブなどHER2を標的とする治療の選択に関係する
PD-L1 がん細胞や免疫細胞におけるPD-L1発現をCPSなどで評価 免疫チェックポイント阻害薬を含む治療を選ぶ際の判断材料になる
CLDN18.2 がん細胞にCLDN18.2がどの程度発現しているか HER2陰性・CLDN18.2陽性ではゾルベツキシマブを含む治療の選択に関係する
MSI/MMR DNAの傷を修復する機能に異常があるか MSI-Highなどでは免疫療法の選択を考えるうえで重要な情報になる

これらは単なる「追加検査」ではありません。

たとえばHER2陽性か陰性かによって一次治療の内容が変わり、HER2陰性でもCLDN18.2の発現やPD-L1、MSIなどによって治療候補が変わります。日本胃癌学会は2024年にCLDN18.2陽性・HER2陰性胃がんに対するゾルベツキシマブの一次治療について公式コメントを出しており、HER2陽性胃がんについても2025年にペムブロリズマブ+トラスツズマブ+化学療法の一次治療、2026年にはT-DXdの二次治療について新たなコメントを公表しています。

参考:胃癌治療ガイドライン第7版 < 速報 >|日本胃癌学会

具体的な薬の組み合わせや治療順序については、後の「胃がんの薬物療法」で詳しく解説します。

がん遺伝子パネル検査を検討する場合もある

標準的な治療で確認するHER2やPD-L1などとは別に、がん細胞に起きている多数の遺伝子変化を一度に調べる「がん遺伝子パネル検査」が検討される場合があります。

ただし、進行胃がんと診断された人全員が最初から受ける検査ではありません。まず、現在の胃がん治療に直接結び付くHER2、PD-L1、CLDN18.2、MSIなどの検査結果を確認し、それに基づいて標準的な治療を考えます。

がん遺伝子パネル検査は、標準治療後の選択肢や治験などを検討するときに役立つ可能性がありますが、治療につながる遺伝子変化が必ず見つかるわけではありません。

検査結果は「胃がんかどうか」だけでなく「次に何をするか」まで確認

胃がんの検査結果を説明されたときは「がんでした」「ステージは○です」だけでは治療方針の全体像が分からないことがあります。

内視鏡治療を検討している場合には、病変の深さや組織型からなぜ内視鏡で取り切れると考えるのか。手術を予定している場合には、CTでリンパ節や遠隔転移をどう評価しているのか。進行・再発胃がんで薬物療法を行う場合には、HER2、PD-L1、CLDN18.2、MSIなど、治療選択に必要な検査がそろっているのかを確認します。

検査結果を「異常あり・なし」で終わらせず、その結果によって治療がどう変わるのかまで理解しておくと、その後の治療説明を整理しやすくなります。

次の章では、こうした検査結果をT・N・Mに当てはめ、胃がんのステージ1~4をどのように判断するのかを解説します。

胃がんのステージ分類|TNM分類とは

胃がんのステージは、単に「がんが何cmあるか」で決まるものではありません。

胃壁のどの深さまでがんが入り込んでいるかを示すT、胃の周囲にあるリンパ節への転移を示すN、胃から離れた場所への転移を示すMを組み合わせて、ステージ1~4を判断します。国立がん研究センターでも、胃がんの病期をⅠ期~Ⅳ期として、このTNM分類に基づいて評価しています。

分類 確認すること 治療との関係
T 胃壁のどの深さまでがんが入り込んでいるか 内視鏡治療が可能か、胃切除が必要かなどの判断に関係する
N 領域リンパ節へどの程度転移しているか 手術時のリンパ節郭清や術後治療などに関係する
M 胃から離れた臓器やリンパ節、腹膜などへの転移 根治手術を中心にするか、薬物療法を中心にするかの判断に大きく関係する

T分類|胃壁のどこまでがんが深く入り込んでいるか

胃の壁は内側から、粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜というように層状になっています。

胃がんは胃の内側にある粘膜から発生し、進行すると外側へ向かって入り込んでいきます。この胃壁への浸潤の深さを表すのがT分類です。

T分類 主な深達度
T1 粘膜または粘膜下層まで
T2 固有筋層まで
T3 漿膜下層まで
T4a 胃の表面を覆う漿膜まで達している
T4b 周囲の臓器へ直接入り込んでいる

T1のうち、粘膜にとどまるものをT1a、粘膜下層まで達したものをT1bと分けて考えます。

胃がんでは、T1に相当する粘膜または粘膜下層までの胃がんを「早期胃がん」と呼び、それより深く入り込んだものを「進行胃がん」と呼びます。

ただし、早期胃がんだから内視鏡治療ができるとは限りません。リンパ節転移の可能性を含め、深さ、大きさ、組織型、潰瘍の有無などを評価して治療法を決めます。

N分類|リンパ節転移は「ある・ない」だけではなく個数も評価

胃の周囲には多くのリンパ節があり、胃がんはリンパ管を通ってこれらのリンパ節へ転移することがあります。胃がんのN分類では、手術後の病理診断では転移している領域リンパ節の個数によって、N0、N1、N2、N3などに分類します。

日本胃癌学会の公開されている分類では、N0は領域リンパ節転移なし、N1は1~2個、N2は3~6個、N3aは7~15個、N3bは16個以上の転移として分類されています。

リンパ節転移があるから、ただちに遠隔転移という意味ではありません。胃の周囲にある領域リンパ節への転移であれば、胃切除とリンパ節郭清を行い、根治を目指せる場合があります。

その一方で、転移しているリンパ節が多いほど病期は進み、手術後の再発を抑えるための薬物療法を考える際にも重要な情報になります。

参考:胃癌治療ガイドライン|日本胃癌学会

M分類|胃から離れた場所への転移を確認

M分類では、胃から離れた臓器やリンパ節などへの遠隔転移があるかを確認します。胃がんでは、肝臓、肺、骨などへの転移だけでなく、腹膜へがん細胞が広がる腹膜播種も治療方針を大きく変える所見です。また、日本胃癌学会の分類では、腹腔洗浄細胞診でがん細胞が確認されるCY1もM1として扱われます。

このため、CTで明らかな肝転移や肺転移がなくても、審査腹腔鏡で腹膜播種が見つかったり、腹腔洗浄細胞診が陽性になったりすると、治療方針が変わることがあります。

腹膜播種の診断や治療法については以下の記事でも詳しく解説しています。

胃がんのステージ分類

胃がんのステージはT・N・Mを組み合わせて決まるため、「T2ならステージ2」というように深さだけから決めることはできません。

同じT2でもリンパ節転移の程度によってステージが変わり、同じような大きさの胃がんでも遠隔転移があるかどうかによって治療の目的は大きく異なります。国立がん研究センターでも、胃がんではTNMの組み合わせからⅠ~Ⅳ期を決定しています。

一般的な治療の全体像を理解するためには、次のように捉えると分かりやすくなります。

ステージ 病状の大まかな捉え方 治療を考えるときの中心
ステージ1 比較的浅い胃がんや、リンパ節への広がりが限られている胃がん 条件を満たせば内視鏡治療、それ以外では手術による根治を目指す
ステージ2 胃壁への浸潤やリンパ節転移が進んでいるものの、根治切除を目指せる場合がある 手術を中心に、病状に応じて周術期・術後の薬物療法を組み合わせる
ステージ3 胃壁への深い浸潤や、より広いリンパ節転移を伴うことがある 手術だけでなく、手術前後の薬物療法を含めた治療計画が重要になる
ステージ4 遠隔転移や腹膜播種などを伴う場合を含む、根治切除が難しい病状が中心 薬物療法を中心に、症状や病変に応じて手術・放射線・支持療法などを組み合わせる

なお、胃がんでは治療前の臨床ステージと、手術後の病理ステージで分類方法が異なるため、この表は治療の全体像を理解するための大まかな整理です。実際のステージはT・N・Mを組み合わせて判定します。

胃がんステージ4については、腹膜播種、肝転移、治療目標、薬物療法などを以下の記事で詳しく解説しています。

治療前の「臨床ステージ」と手術後の「病理ステージ」

胃がんでは、同じ患者さんでも治療前と手術後でステージが変わることがあります。

治療前には、胃内視鏡、生検、CT、必要に応じて審査腹腔鏡などの結果から、がんの広がりを推定します。これが臨床分類(cTNM・cStage)です。治療方法を決めるときに使います。

一方、手術を行った場合には、切除した胃やリンパ節を病理検査で詳しく調べます。実際に胃壁のどこまでがんが達していたか、何個のリンパ節に転移していたかが分かり、病理分類(pTNM・pStage)が決まります。

たとえば手術前のCTではリンパ節転移がないと考えられていても、手術後の病理検査で小さなリンパ節転移が見つかれば、病理ステージが変わることがあります。

この病理ステージは、手術後に再発を抑えるための薬物療法が必要かどうかを判断する材料にもなります。

「早期胃がん」と「ステージ1」は同じ意味ではない

ここは胃がんを理解するときに混同しやすいところです。

「早期胃がん」は、胃壁への深さで定義する言葉です。粘膜または粘膜下層までにとどまるT1を早期胃がんと呼びます。

一方「ステージ」は深さだけでなくリンパ節転移や遠隔転移まで含めて判断します。

そのため「粘膜内にある=ステージ0」という考え方にはなりません。また、「早期胃がんだから必ずステージ1」「早期胃がんだから必ずESD」という意味でもありません。

胃がんの治療を理解するときは、「早期か進行か」では胃壁への深さを確認し、「ステージ」では深さ・リンパ節・遠隔転移を組み合わせて確認する、と分けて考えると整理しやすくなります。

胃がんの内視鏡治療

早期胃がんの中には、開腹手術や腹腔鏡手術で胃を切除せず、胃カメラを使って病変を取り除けるものがあります。

代表的な方法が、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)内視鏡的粘膜切除術(EMR)です。

ただし、「早期胃がんだから内視鏡で取れる」というわけではありません。内視鏡治療では胃の周囲にあるリンパ節を一緒に切除できないため、リンパ節転移の可能性が極めて低く、内視鏡で病変を適切に切除できると判断される胃がんが主な対象になります。

そのため治療前には、がんが胃壁のどの深さまで入り込んでいるか、病変の大きさ、組織型、潰瘍の有無などを確認します。国立がん研究センターでも、こうした条件からリンパ節転移の可能性を評価し、内視鏡治療の適応を判断しています。

ESDとEMRはどのように違うのか

EMRは、病変の下に薬液を注入して浮かせ、スネアと呼ばれる輪状のワイヤーをかけて切除する方法です。比較的小さな病変に用いられます。

一方、ESDでは病変の周囲を切開し、専用の高周波ナイフを使って粘膜下層を剥がしながら病変を切除します。EMRよりも技術的には複雑ですが、より大きな病変でも一つの塊として切除しやすいことが特徴です。国立がん研究センターでは、EMRは主に2cm以下で潰瘍のない病変、ESDはより大きな病変や条件によって潰瘍を伴う病変にも行われると説明しています。

胃がんでは、治療後に切除した病変全体を病理検査で詳しく調べる必要があります。そのため、病変を分割せず一括して切除できることには、治療だけでなく、その後の根治性を正確に評価するという意味もあります。

参考:内視鏡治療|国立がん研究センター がん情報サービス

内視鏡治療ができるかは「がんの深さ」だけでは決まらない

内視鏡治療の主な対象となるのは、胃の粘膜にとどまる早期胃がんのうち、リンパ節転移の可能性が極めて低いと考えられる病変です。

しかし、同じ粘膜内がんでもすべてがESDの対象になるわけではありません。

胃がんでは、分化型か未分化型か、病変がどの程度の大きさか、潰瘍を伴っているかによってリンパ節転移の可能性が変わります。そのため、内視鏡治療の適応はこれらを組み合わせて判断します。日本胃癌学会のガイドラインでも、深達度、組織型、腫瘍径、潰瘍所見などをもとに内視鏡的切除の適応を定めています。

「胃カメラで見える範囲なら取れる」という意味ではありません。胃の表面に見えている病変を切除できても、リンパ節へ転移している可能性が無視できなければ、胃とリンパ節を切除する手術の方が根治性を確保しやすくなります。

ESD後は「全部取れたか」だけでなくeCuraを判定

ESDを受けた後には、切除した組織を病理検査で詳しく調べます。

ここで確認するのは、目に見える胃がんを取り切れたかどうかだけではありません。実際のがんの深さ、病変の大きさ、組織型、切除した端にがんが残っていないか、リンパ管や血管の中にがん細胞が入り込んでいないかなどを確認します。

これらの結果から判定するのが、内視鏡的根治度(eCura)です。

日本胃癌学会では、ESD・EMR後の根治性を大きくeCuraA、eCuraB、eCuraCに分類し、その結果によって経過観察でよいのか、追加治療を検討するのかを決めています。

判定 大まかな意味 その後の考え方
eCuraA 内視鏡治療によって十分な根治性が得られたと判断される 定期的な胃内視鏡検査で経過をみる
eCuraB 粘膜下層へわずかに浸潤していても、一定の条件からリンパ節転移の危険性が低いと判断される 内視鏡検査に加え、画像検査なども含めて経過をみる
eCuraC eCuraA・Bの条件を満たさず、局所にがんが残っている可能性やリンパ節転移の可能性を考える必要がある C-1とC-2の内容に応じて再ESDや追加手術などを検討する

このため、ESD後に医師から「がんは取れました」と説明された場合でも、病理結果が出た後にeCuraがどの判定だったのかまで確認することが、その後の治療を理解するうえで役立ちます。

参考:胃癌治療ガイドライン|日本胃癌学会

eCuraCになったら必ず同じ対応をするわけではない

eCuraCは、さらにeCuraC-1eCuraC-2に分けて考えます。

eCuraC-1は、主に病変を分割して切除した場合や、病変の横方向の切除断端にがんが残っている場合など、局所に病変が残る可能性が問題となるものです。この場合には、病変の状態によって再度ESDを行う、追加の外科切除を行う、慎重に経過観察するなど複数の対応が検討されます。

一方、eCuraC-2では、がんが想定より深く入り込んでいた、リンパ管や血管への侵襲が確認されたなど、リンパ節転移の可能性を無視できない条件が含まれます。この場合、胃の中の病変をESDで取り切れていたとしても、ESDではリンパ節を切除できていません。そのため、日本胃癌学会の公開ガイドラインでは、eCuraC-2に対して胃切除とリンパ節郭清を行う追加外科切除を原則的な標準治療としています。

つまり、追加手術を勧められたからといって「ESDに失敗した」という意味ではありません。ESDで切除した病変を詳しく調べた結果、胃の外にあるリンパ節にも治療が必要な可能性が分かったために、治療方針が変わったと考える方が実際の流れに近くなります。

追加手術を行うかは病理結果と手術の負担を合わせて考える

eCuraC-2では追加の胃切除が標準ですが、実際の治療では年齢、心臓や肺などの持病、体力、胃切除によって予想される生活への影響なども確認します。

高齢で重い併存症があるなど、胃切除そのものの危険性が高い場合には、リンパ節転移の可能性と手術による利益・負担について説明を受けたうえで、その後の方針を検討することがあります。日本胃癌学会も、外科切除を選択しない場合にはリンパ節転移や再発の危険性を十分説明したうえで判断する必要があるとしています。

したがって、ESD後に追加手術を提案された場合には「なぜ追加手術が必要なのか」だけでなく、深達度、脈管侵襲、断端など、どの病理結果がeCuraの判定に影響したのかを確認すると判断しやすくなります。

ESDで根治できても、その後の胃がんリスクはなくならない

eCuraAやeCuraBと判定され、最初の胃がんについて十分な根治性が得られた場合でも、その後の胃に新しい胃がんができる可能性は残ります。そのため、治療後も定期的な胃内視鏡検査を続けます。

日本胃癌学会の公開ガイドラインでは、eCuraAでは年1回程度の内視鏡検査、eCuraBでは年1~2回程度の内視鏡検査に加え、腹部超音波やCTなどを用いた経過観察を示しています。また、ピロリ菌感染が確認された場合には除菌を推奨しています。

ただし、ピロリ菌を除菌しても新しい胃がんの可能性が完全になくなるわけではありません。ESDで胃を残せることは大きな利点ですが、その分、残った胃を長期的に観察していく必要があります。

内視鏡治療にも出血や穿孔などの合併症がある

ESD・EMRは胃を切除する手術より体への負担を抑えられる治療ですが、合併症がないわけではありません。

代表的なのは、治療した部分からの出血と、胃壁に穴が開く穿孔です。国立がん研究センターも、内視鏡治療後の出血・穿孔によって吐血、下血、腹痛などが起こる場合があるとしています。

入院中だけでなく退院後に出血する場合もあるため、退院後に黒い便が続く、吐血する、強い腹痛があるなど、医療機関から説明された症状が現れた場合には連絡します。

内視鏡治療と手術の違いは「胃を残せるか」だけではない

ESDには胃を切除せずに治療できるという大きな利点があります。治療後の食事量や栄養への影響も、胃切除と比べて小さく抑えられます。

一方、ESDで治療できるのは、リンパ節転移の可能性が極めて低いと判断できる胃がんです。

リンパ節転移の可能性がある胃がんでは「胃を残せるからESDの方が体に優しい」という理由だけで治療を選ぶことはできません。胃切除には胃を失う負担がありますが、胃とともにリンパ節を切除し、がんを取り除くことを目的とする治療だからです。

胃がんの手術

胃がんが内視鏡治療では十分に治療できず、遠隔転移がなく手術によってがんを取り切れると判断された場合には、胃切除を中心とした外科治療を行います。

胃がんの手術は、見えている腫瘍だけを切り取る治療ではありません。がんのある胃を適切な範囲で切除するとともに、転移している可能性のある胃周囲のリンパ節を取り除き、その後に食べ物が通るよう消化管をつなぎ直します。

胃がんの手術を理解するときには「胃をどこまで切るか」「リンパ節をどこまで取るか」「切った後をどのようにつなぐか」の3点を分けて考えると分かりやすくなります。国立がん研究センターでも、胃切除、リンパ節郭清、消化管再建を胃がん手術の基本的な構成として説明しています。

胃をどこまで切るかは、がんの場所と広がりで決まる

胃を少しでも多く残せれば、術後の食事への影響を小さくできる可能性があります。しかし「胃を残すこと」だけを優先して、がんを十分な範囲で切除できなければ根治性が損なわれます。

胃切除の範囲は、がんが胃のどこにあるか、どの程度広がっているか、必要な切除断端を確保できるかなどから決めます。

代表的な術式には、幽門側胃(ゆうもんそくい)切除術胃全摘術噴門側胃(ふんもんそくい)切除術幽門保存胃切除術などがあります。国立がん研究センターも、がんの部位と進行度によって胃の切除範囲を決めるとしています。

主な術式 どのような手術か 術後に意識したいこと
幽門側胃切除術 主に胃の中央~出口側にあるがんに対し、胃の出口側を切除する 胃は一部残るが、食事量の低下やダンピングなどが起こることがある
胃全摘術 胃をすべて切除し、食道と小腸などをつなぐ 一度に食べられる量が大きく減り、体重減少やビタミンB12欠乏などへの長期的な対応が必要になる
噴門側胃切除術 主に胃の入口側にある早期胃がんなどで、胃の上部を切除して下部を残す 胃を残せる一方、再建法によっては逆流などが問題になることがある
幽門保存胃切除術 条件を満たす胃体部の早期胃がんで、胃の出口である幽門を残す 食べ物を十二指腸へ送り出す機能をできるだけ保つことを目指す

幽門側胃切除では胃の出口側を切除

幽門側胃切除術は、胃がん手術でよく行われる術式の一つです。胃の中央から出口側にあるがんなどに対して、がんを含む胃の下側を切除し、残った胃と十二指腸または小腸をつなぎます。

胃の一部が残るため、胃全摘と比べれば食べ物を一時的にためる機能を残せます。ただし、胃の容量は小さくなり、幽門を切除するため、食べ物が小腸へ速く流れ込むことがあります。その結果、食後に動悸、冷や汗、腹痛などが起こるダンピング症候群や、食事量低下、体重減少などがみられることがあります。

したがって「胃が残ったから食事は以前と同じ」と考えるのではなく、残った胃の大きさや再建方法に合わせて、少量ずつ食べる生活へ慣れていく必要があります。

胃全摘は「胃を全部取る必要がある病状」で選択

胃全摘術では胃をすべて切除します。胃の上部を含めて広い範囲にがんがある場合や、部分的な切除では必要な切除範囲を確保できない場合などに行います。

胃を残せないことは生活への負担につながりますが「全摘より部分切除の方がよい」と一律には考えられません。がんを十分な範囲で切除するために全摘が必要な病状であれば、胃を無理に残すことで再発の危険を高めることは避ける必要があります。

胃全摘後は食べ物をためる胃がなくなるため、食道と小腸をつないで新しい通り道を作ります。一般的にはRoux-en-Y法(ルーワイまたはルーエンワイ法)などによる再建が行われます。

術後は一度に食べられる量が減り、体重が落ちやすくなります。また、胃から分泌される内因子がなくなるため、時間がたつとビタミンB12欠乏が起こります。ビタミンB12は体内に一定量蓄えられているため、欠乏による貧血は手術直後ではなく数年後に現れることもあります。国立がん研究センターでも、胃全摘後はB12の吸収に必要な内因子がなくなるため、定期的な血液検査と必要に応じた補充治療が必要になると説明しています。

参考:胃がん 療養|国立がん研究センター がん情報サービス

胃上部の早期胃がんでは噴門側胃切除を検討

胃の入口である噴門に近い上部に早期胃がんがある場合、胃全摘ではなく、胃の上部だけを切除して下部を残す噴門側胃切除術を検討できることがあります。

胃を一部残せるため、胃全摘と比べて栄養や体重への影響を抑えられる可能性があります。

ただし、食道と胃の境界には胃内容物が逆流しにくくする仕組みがあります。この部分を切除するため、再建方法によっては逆流性食道炎が問題になることがあります。

噴門側胃切除後には、食道と残胃を直接つなぐ方法のほか、小腸を介してつなぐ方法など複数の再建方法があります。どの方法を採用するかは、残せる胃の範囲や施設の方針などによって異なります。

早期胃がんでは胃の機能を残す手術を選べることもある

内視鏡治療の対象にはならないものの、胃がんが早期で場所などの条件を満たす場合には、胃の機能をできるだけ残す手術を検討することがあります。代表的なのが幽門保存胃切除術です。

通常の幽門側胃切除では胃の出口である幽門を切除しますが、幽門保存胃切除では幽門を残すことで、食べ物が小腸へ急速に流れ込むことを抑え、術後の生活への影響を小さくすることを目指します。

ただし、胃を残せることだけで手術方法を選ぶわけではありません。がんの位置やリンパ節転移の可能性などから、必要な根治性を確保できる患者さんが対象です。

胃と一緒にリンパ節を切除する「リンパ節郭清」

胃がんの手術がESDと大きく異なるのは、胃だけでなく、転移している可能性のある周囲のリンパ節を取り除けることです。

胃の周囲にはリンパ管とリンパ節が多数あり、胃がんは胃壁からリンパ管へ入り、周囲のリンパ節へ広がることがあります。画像検査でリンパ節転移が見えなくても、小さな転移が存在する可能性があります。そのため胃切除と同時に、病状に応じた範囲のリンパ節郭清を行います。

国立がん研究センターでは、胃のすぐ近くから少し離れた領域までのリンパ節を切除するD2リンパ節郭清が標準的に行われ、早期胃がんでリンパ節転移の可能性が低い場合にはD1またはD1+など、範囲を縮小した郭清を行うと説明しています。

リンパ節郭清には、すでに存在する小さな転移を取り除く意味だけでなく、切除したリンパ節を病理検査して、実際に何個のリンパ節へ転移していたのかを確認する役割もあります。この結果によって手術後の病理ステージが決まり、術後補助化学療法が必要かどうかの判断にもつながります。

参考:胃がん手術(外科治療)|国立がん研究センター がん情報サービス

胃を切った後は「再建」で食べ物の通り道を作り直す

胃を切除した後は、そのままでは食べ物が腸まで届かないため、残った胃、食道、十二指腸、小腸などをつなぎ直します。これを消化管再建と呼びます。

幽門側胃切除後では、残胃と十二指腸をつなぐBillroth I法(ビルロート1法)、残胃と小腸をつなぐBillroth II法やRoux-en-Y法などがあります。

胃全摘後では、食道と小腸をつなぐRoux-en-Y法などが用いられます。噴門側胃切除後にも複数の再建方法があります。日本胃癌学会のガイドラインでも、胃の切除範囲に応じて複数の再建法が示されています。

患者さんにとっては再建法の名前だけを覚える必要はありませんが「手術後に食べ物がどの経路を通るようになるのか」を説明してもらうと、食後の症状や生活の変化を理解しやすくなります。

開腹・腹腔鏡・ロボット支援手術の選び方

胃がんの手術には、お腹を大きく切開する開腹手術のほか、小さな穴からカメラや手術器具を入れて行う腹腔鏡下手術、手術支援ロボットを使う方法があります。腹腔鏡下手術やロボット支援手術では創が小さくなるなどの利点がありますが、すべての胃がんで同じように選べるわけではありません。

国立がん研究センターは2026年現在、腹腔鏡下手術やロボット支援手術を推奨できるかは胃がんの進行度などによって異なり、十分な経験を持つ医師や施設で行う必要があるとしています。

したがって「ロボットだから最先端で治りやすい」「腹腔鏡だから必ず体に優しい」という理由だけで術式を決めるものではありません。自分のステージや必要な切除・リンパ節郭清を安全に行える方法の中から、術者や施設の経験も含めて選択します。

胃がん手術の合併症

胃がん手術では、切除した消化管をつないだ部分から内容物が漏れる縫合不全や、手術操作によって膵臓から膵液が漏れる膵液漏などが起こることがあります。国立がん研究センターも、これらを胃がん手術の代表的な合併症として挙げています。

縫合不全が起こると、発熱や腹痛が現れ、重い場合には腹膜炎を起こすことがあります。膵液漏でも腹腔内の感染や膿瘍につながる場合があります。

手術を受けるかどうかを判断するときには、年齢だけではなく、心臓・肺・腎臓などの機能、栄養状態、歩行などの体力も含めて手術に耐えられるかを評価します。

特に高齢者では「高齢だから手術できない」「高齢でも必ず手術した方がよい」と年齢だけで決めるのではなく、手術によって得られる利益と、術後に生活機能がどの程度低下する可能性があるかを合わせて検討します。

胃切除後は食べ方そのものを変える必要がある

胃切除後の生活で大きく変わるのが食事です。胃の一部または全部を切除すると、以前と同じ量を一度に食べることが難しくなります。最初から元の食事量に戻そうとすると、腹痛や膨満感、ダンピング症候群などにつながることがあります。

国立がん研究センターでは、胃切除後の食事について「少量ずつ」「何回かに分けて」「よくかんで」「ゆっくり食べる」ことを基本とし、新しい胃腸の状態に慣れるまで数カ月~1年ほどかかることもあるとしています。

体重も手術前とまったく同じ状態に戻るとは限りません。重要なのは、体重の数字だけを見るのではなく、食事量が少しずつ増えているか、歩けるか、仕事や家事を続けられる体力があるか、貧血や栄養不足が起きていないかを確認することです。

胃全摘後ではビタミンB12、胃全摘や幽門側胃切除後では鉄欠乏性貧血などにも注意し、定期的な血液検査を受けます。

ダンピング症候群、体重減少、貧血、食事の取り方などについては、後の「胃がん治療後の副作用と生活」の章で詳しく解説します。

手術を受けたら治療がすべて終わるとは限らない

胃がんを手術で目に見える範囲すべて切除できても、それだけで再発の可能性がなくなるわけではありません。

手術後には、切除した胃とリンパ節を病理検査し、実際の深達度、リンパ節転移の数などから病理ステージを決めます。その結果、再発する可能性が一定以上あると判断された場合には、画像には映らない微小ながん細胞を抑える目的で「術後補助化学療法」を行います。

さらに2026年現在は、切除可能な局所進行胃がんについて、手術後だけに薬物療法を行う方法だけでなく、手術前から治療を始め、手術後も続ける「周術期治療」が選択肢になる病状もあります。

手術の説明を受けるときには「どこまで胃を切るのか」だけでなく、手術前に薬物療法を行う可能性があるのか、手術後にはどのような治療を予定しているのかまで確認しておく必要があります。

切除可能胃がんの薬物療法

胃がんでは、手術で目に見えるがんをすべて切除できても、検査では確認できないほど小さながん細胞が体内に残り、後になって再発することがあります。そこで、再発する可能性が一定以上ある胃がんでは、手術だけで治療を終えるのではなく、薬物療法を組み合わせます。

日本ではこれまで、根治切除を行った後に病理結果を確認し、ステージ2・3であれば術後補助化学療法を行う治療が中心でした。2026年にはこれに加えて、根治切除可能な局所進行胃がんの一部で、手術前から薬物療法を開始し、手術後も続ける「周術期治療」が新たな選択肢になっています。

そのため現在の切除可能胃がんでは「手術できるかどうか」だけでなく、最初に手術するのか、手術前から薬物療法を始めるのかまで治療開始前に検討する病状があります。

手術後の病理ステージ2・3では術後補助化学療法を行う

手術を先に行った場合には、切除した胃とリンパ節を病理検査で詳しく調べます。

画像検査では分からなかった実際のがんの深さやリンパ節転移の数が明らかになり、病理ステージが決まります。その結果、病理ステージ2または3と判断された場合には、手術後の再発を減らす目的で術後補助化学療法を行うことが推奨されています。

これは、手術でがんを取り切れなかったという意味ではありません。

手術では肉眼や画像で確認できる病変を切除できても、ごく少数のがん細胞が血液やリンパ液を介して体内に残っている可能性までは否定できません。術後補助化学療法は、そうした目に見えない微小ながん細胞による再発を減らすための治療です。日本胃癌学会も、術後補助化学療法を治癒切除後の微小遺残腫瘍による再発予防を目的とした治療と位置づけています。

ステージ2ではS-1、ステージ3では併用療法を含めて検討

術後補助化学療法は、すべての患者さんに同じ薬を使用するわけではありません。

これまで日本では、病理ステージ2胃がんに対するS-1(エスワン)の1年間投与が標準的な治療として確立してきました。S-1は飲み薬の抗がん薬で、胃切除後の再発を減らす目的で使用します。

病理ステージ3では再発リスクがより高いため、S-1単独だけではなく、複数の抗がん薬を組み合わせる治療が重視されます。代表的な選択肢には、S-1+ドセタキセル療法や、カペシタビンとオキサリプラチンを組み合わせるCapeOX療法などがあります。日本胃癌学会では、pStage3について併用療法を推奨し、S-1+ドセタキセルとCapeOXなどのオキサリプラチン併用療法の間で、どちらが一律に優れているとは結論できないとしています。

そのため、ステージだけで薬を機械的に決めるのではなく、手術後の回復状態、年齢、腎機能、食事量、体重、持病なども含めて治療を選びます。

胃切除後は、それまでと同じ量の食事を取れず、体重が減少する患者さんも少なくありません。術後補助化学療法は再発を減らすための治療ですが、薬を予定どおり開始・継続できるだけの栄養状態や体力があるかも治療計画に関係します。

術後補助化学療法は「強い治療ほどよい」わけではない

ステージ3で併用療法が選択肢になるからといって、すべての患者さんができるだけ多くの薬を使った方がよいわけではありません。

S-1では食欲低下、下痢、口内炎、骨髄抑制などがみられることがあり、ドセタキセルでは白血球減少や脱毛など、オキサリプラチンでは手足のしびれや冷たいものに触れたときの違和感などが問題になることがあります。

とくに胃切除直後は、がんになる前とは食事量や体重が変化しています。そのため、再発予防として期待できる利益と、治療によって食事や体力の回復を妨げる可能性の両方を見ながら、薬剤や投与量を調整します。

国立がん研究センターでも、術後の体の状態や進行度に応じて単剤または併用療法を選び、単剤では1年間、併用療法では薬剤に応じて6カ月または1年間の治療を行うと説明しています。

2026年からは手術前後に治療する「周術期D-FLOT療法」が選択肢に

2026年、切除可能胃がんの治療に大きな変化がありました。

日本胃癌学会は2026年6月、MATTERHORN試験の結果を受けて、根治切除可能な胃癌・胃食道接合部腺癌に対する周術期デュルバルマブ+FLOT療法(D-FLOT)と、その後のデュルバルマブ単剤療法を推奨する速報コメントを公表しました。

参考:MATTERHORN 試験の概要ならびに根治切除可能な胃癌および胃食道接合部腺癌に対する周術期 デュルバルマブ+フルオロウラシル、レボホリナート、オキサリプラチン、ドセタキセル(FLOT)療法に関する日本胃癌学会ガイドライン委員会のコメント

FLOTは、フルオロウラシル、レボホリナート、オキサリプラチン、ドセタキセルを組み合わせる化学療法です。ここへ、PD-L1を標的とする免疫チェックポイント阻害薬のデュルバルマブを加えます。

MATTERHORN試験では、根治切除可能な胃癌・胃食道接合部腺癌のうち、AJCC第8版で臨床病期2~4A、全身状態が良好で周術期FLOTと根治手術が可能と判断された患者が対象になりました。なお、MATTERHORN試験でいう「臨床病期4A」はAJCC第8版による分類であり、腹膜播種や他臓器への遠隔転移を伴うM1症例とは異なります。この試験では遠隔転移のある患者は対象になっていません。

周術期治療では「手術の前と後」の両方で薬物療法を行う

D-FLOT療法では、まず手術前にデュルバルマブとFLOTによる治療を行います。その後に根治手術を行い、手術後にもデュルバルマブとFLOTを投与し、さらにデュルバルマブ単剤による治療を続けます。

PMDAの2026年7月時点の添付文書では、胃癌の術前・術後補助療法として、デュルバルマブをFLOTの4剤と併用して術前・術後に投与し、その後デュルバルマブ単剤を追加する用法が規定されています。

この治療の考え方は、従来の「まず手術を行い、病理結果を見てから抗がん薬を始める」という流れとは異なります。

手術前から全身治療を行うことで、画像に映らない微小ながん細胞へ早い段階から治療を開始できるほか、原発巣やリンパ節のがんを縮小させてから手術へ進める可能性があります。

一方で、治療開始時点ではまだ手術後の病理結果が分かりません。そのため、画像による臨床ステージをもとに治療を選ぶことになり、実際の病理ステージより治療を強く行う可能性や、反対に画像では確認できない腹膜転移などを見落とす可能性も考慮します。日本胃癌学会も、周術期治療を選択する際には術前画像診断の限界と、過剰治療・過小治療の可能性に留意するよう指摘しています。

MATTERHORN試験では再発・進行などのイベントと全生存期間の両方が改善した

MATTERHORN試験では、FLOTだけを行った場合と比べて、デュルバルマブを加えたD-FLOT療法で、再発・進行・死亡などを含むイベントが起こるまでの期間であるEFSが改善しました。

2年EFSはD-FLOT群67.4%、FLOT群58.5%で、病理学的完全奏効(pCR)も19.2%対7.2%とD-FLOT群で高くなりました。その後の最終解析では全生存期間についても改善が確認され、3年全生存率はD-FLOT群68.6%、FLOT群61.9%でした。

ただし、この数字を「D-FLOTを受ければ自分の3年生存率は68.6%」と個人の予後へそのまま当てはめることはできません。試験参加者全体の比較結果であり、実際の予後は臨床病期、病理結果、年齢、全身状態などによって異なります。

D-FLOTは切除できる胃がん全員に行う治療ではない

周術期D-FLOTが承認されたからといって、手術できる胃がん患者さん全員がこの治療を受けるわけではありません。

日本胃癌学会は、臨床病期だけでなく、全身状態、年齢、併存疾患、FLOTに耐えられるか、手術前後の治療を完遂できるかなどを総合して適応を判断する必要があるとしています。

とくにFLOTは4種類の抗がん薬を組み合わせる治療です。MATTERHORN試験の日本人サブグループでは、重度の好中球減少などの骨髄抑制が全体集団より多くみられました。ただし、日本人解析は86例という比較的小さな集団であり、その数字の解釈には注意が必要です。

デュルバルマブを使用するため、通常の抗がん薬による副作用に加えて、肺、腸、肝臓、甲状腺などに炎症が起こる免疫関連有害事象にも注意します。PMDAの添付文書では、間質性肺疾患、大腸炎・下痢、肝機能障害、内分泌障害などについて、重症度に応じた休薬・中止が定められています。

「手術先行」と「周術期治療」のどちらを選ぶか

2026年現在、根治切除可能な局所進行胃がんでは、周術期D-FLOTが加わったことで、治療開始前に検討する内容が増えています。

治療の流れ 特徴
手術先行→術後補助化学療法 まず根治手術を行い、切除標本から正確な病理ステージを確認したうえで、ステージ2・3などに術後補助化学療法を行う
周術期D-FLOT 臨床的に根治切除可能な局所進行胃がんに対し、手術前からD-FLOTを開始し、手術後も治療を継続する

どちらかがすべての患者さんに優れているという単純な関係ではありません。

日本胃癌学会は、周術期D-FLOTを新たな標準治療の一つになり得る治療として推奨する一方、従来から日本で行われてきた手術先行後、病理ステージに応じて術後補助化学療法を行う治療戦略とのバランスを考えて選択する必要があるとしています。

治療開始前には、現在の臨床ステージはどの程度か、腹膜播種を疑う所見はないか、手術前から治療する利点はどの程度あるか、FLOTを受けられる体力・臓器機能があるかなどを確認します。

スキルス胃がんでは「術前治療をすれば必ずよい」とは限らない

スキルス胃がんや4型胃がんでは腹膜播種が画像で見つかりにくいことがあるため、治療開始前の病期評価が特に重要です。

前の検査章で説明したように、CT上では遠隔転移がないように見えても、審査腹腔鏡によって腹膜播種や腹腔洗浄細胞診陽性が判明することがあります。

また「局所進行胃がんに周術期治療が導入された」という情報だけから、すべてのスキルス胃がんに同じ術前治療が適していると考えることもできません。病型、腹膜播種の有無、切除可能性などを確認して治療を考えます。

切除可能胃がんでは「手術だけ」の説明で終わらないことが増えている

胃がんの治療説明を受けるときは「どの範囲まで胃を切るのか」だけでなく、その手術が治療全体のどこに位置するのかまで確認すると理解しやすくなります。

手術を先に行う場合には、手術後の病理結果によって術後補助化学療法が必要になる可能性があります。一方、臨床的に局所進行胃がんと判断された場合には、手術前からD-FLOTを行う周術期治療が候補になることがあります。

そのため治療開始前に「なぜ手術を先に行うのか、あるいはなぜ手術前から薬物療法を行うのか」を確認することが、現在の胃がん治療を理解するうえで役立ちます。

切除不能・進行・再発胃がんの薬物療法

遠隔転移や腹膜播種があり手術で取り切ることが難しい胃がんや、手術後に再発した胃がんでは、全身に作用する薬物療法が治療の中心になります。

現在は、すべての患者さんに同じ抗がん薬を使うのではありません。治療を始める前にHER2、PD-L1、CLDN18.2、MSI/MMRなどを調べ、胃がんの性質に合った治療を選びます。

進行・再発胃がんでは「どの薬を使うのか」だけでなく、治療選択に必要なバイオマーカー検査が揃っているかを確認することが治療の出発点になります。日本胃癌学会も2026年7月に「切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き 第3版」を公開しています。

参考:切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き 第3版|日本胃癌学会

HER2陽性ではHER2を標的とする治療を組み合わせる

HER2陽性の切除不能・進行・再発胃がんでは、抗がん薬にHER2を標的とするトラスツズマブを組み合わせる治療が一次治療の軸になります。

さらに、HER2陽性でPD-L1をCPS(複合陽性スコア)で評価して1以上の場合には、化学療法+トラスツズマブにペムブロリズマブを加える治療が一次治療の選択肢になります。治療開始前にHER2とPD-L1の両方を確認します。

またトラスツズマブを含む一次治療後に病状が進行したHER2陽性胃がんでは、2026年現在、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が重要な二次治療の一つになっています。日本胃癌学会は2026年3月、HER2陽性胃がんの二次治療におけるT-DXdについて最新コメントを公表しています。

抗HER2療法後にはHER2発現が低下し、陽性から陰性へ変化することがあります。そのため、可能であれば一次治療で病状が進行した時点で再生検を行い、HER2を再評価したうえで二次治療を選択することが望ましいとされています。

HER2陰性ではCLDN18.2・PD-L1・MSIなどから治療を選ぶ

HER2陰性胃がんでは、CLDN18.2、PD-L1、MSI/MMRなどの結果が一次治療の選択に関係します。

CLDN18.2陽性であれば、CLDN18.2を標的とするゾルベツキシマブと抗がん薬を組み合わせる治療が候補になります。

一方、PD-L1の発現やMSI/MMRなどを踏まえ、ニボルマブやペムブロリズマブなどの免疫チェックポイント阻害薬と抗がん薬を組み合わせる治療を選ぶ場合があります。

2026年にはHER2陰性の切除不能・進行・再発胃がんに対するチスレリズマブ+化学療法も国内の一次治療に加わりました。日本胃癌学会も2026年7月にこの治療について最新コメントを公開しています。

複数のバイオマーカーが治療候補に当てはまることもあるため、検査結果だけで機械的に薬が一つに決まるわけではありません。全身状態、これまでの治療、副作用の特徴なども含めて治療を選びます。

二次治療以降は、それまでに使った薬を踏まえて選ぶ

一次治療を続けても胃がんが進行した場合には、治療内容を見直します。

HER2陽性で条件を満たす場合には前述したT-DXdが候補となり、それ以外ではラムシルマブ+パクリタキセルなどが代表的な二次治療です。全身状態や、それまでに生じた副作用によっては別の薬を選ぶこともあります。

進行・再発胃がんでは、一つの薬を使い続けるのではなく、効果と副作用を確認しながら、病状が進行したときに次の治療へ切り替えていきます。

「次は何次治療か」だけでなく、これまでにHER2標的治療、免疫療法、CLDN18.2を標的とする治療のどれを受けたのかが、その後の治療選択に関係します。

薬を選ぶことと同時に「食べられる状態」を保つ

胃がんでは、薬物療法の効果だけを見て治療を続けられるか判断することはできません。

腹膜播種によって腹水が増える、胃の出口が狭くなって食事が通らない、吐いてしまう、体重が大きく減るといった状態になると、栄養状態や体力が低下し、薬物療法を続けること自体が難しくなる場合があります。食事の通過障害がある場合には、薬物療法だけでなく、消化管ステントやバイパス手術などを検討することもあります。

進行胃がんでは、がんを小さくすることだけでなく、食べられる状態や日常生活をできるだけ保ちながら治療を続けることも治療方針を考えるうえで欠かせません。

胃がん治療の副作用と治療後の生活

胃がんの治療では、手術によって胃の大きさや食べ物の通り道が変わることに加え、薬物療法による吐き気、しびれ、倦怠感などが生活に影響することがあります。

特に胃がんでは、治療前から食欲が落ちていたり、手術後に一度に食べられる量が減っていたりすることがあります。そのため、副作用を考えるときは症状の有無だけでなく、食事量や体重を保てているか、仕事や家事を続けられているか、治療を続ける体力が保てているかまで確認します。国立がん研究センターも、胃切除後は体重減少、貧血、骨粗しょう症などが起こることがあり、食事の取り方や栄養状態への注意が必要としています。

胃切除後は「以前と同じ量を食べる」ことを目標にしない

胃の一部または全部を切除すると、食べ物を一時的にためる容量が小さくなり、少量で満腹になりやすくなります。

手術直後から以前と同じ量を食べようとするのではなく、一度の食事量を減らし、回数を増やしながら新しい消化管の状態に慣れていきます。国立がん研究センターでも、胃切除後に一度に食べられる量が減った場合には、食事回数を増やし、少量ずつ時間をかけて食べることを勧めています。

体重が手術前より減ることも珍しくありません。

ただし、体重が減っていることだけを見るのではなく、減少が続いていないか、必要な食事や水分を取れているか、歩く・外出する・仕事をするといった活動が維持できているかを確認します。

食べてもすぐに吐いてしまう、食事量がさらに減っている、体重が急速に落ちている場合には「胃を切ったから仕方がない」と考えず、通過障害や治療の副作用など別の原因がないかを調べます。

ダンピング症候群は食後すぐに起こるものだけではない

胃切除後には、食べ物が小腸へ急速に流れ込むことでダンピング症候群が起こることがあります。

食後比較的早い時間に、動悸、発汗、腹痛、下痢、めまいなどが起こるものを早期ダンピング症候群と呼びます。

一方、食後しばらくしてから血糖値が下がりすぎ、脱力感、冷や汗、震えなどが現れる後期ダンピング症候群もあります。国立がん研究センターでは、糖質を一度に多く取ると急速な血糖上昇とインスリン分泌のあとに低血糖を起こすことがあると説明しています。

食後に体調が悪くなる場合には「食事が合わなかった」とだけ考えず、食べた内容と症状が現れた時間を記録しておくと原因を整理しやすくなります。

胃全摘後は数年たってからビタミンB12不足が起こることがある

胃切除後には、鉄の吸収が低下して鉄欠乏性貧血が起こることがあります。特に胃全摘後では、ビタミンB12の吸収に必要な「内因子」が分泌されなくなるため、ビタミンB12欠乏による貧血にも注意します。

ビタミンB12は体内に一定量蓄えられているため、手術直後ではなく、数年たってから不足が明らかになる場合があります。そのため、体調が良くても定期的な血液検査を続け、必要に応じて鉄やビタミンB12を補います。

また、胃切除後にはカルシウムの吸収低下などによって骨が弱くなることもあるため、長期的には貧血だけでなく骨の状態にも注意します。

抗がん薬では「食べられないこと」と「しびれ」が治療継続に影響する

胃がんの薬物療法では、吐き気、食欲低下、下痢、口内炎、骨髄抑制などが起こることがあります。

胃切除後や進行胃がんでは、もともと食事量が少ない患者さんもいるため、吐き気や口内炎が重なると短期間でも体重や体力が落ちることがあります。副作用そのものだけでなく「昨日まで食べられていた量を食べられなくなった」という変化も医療者へ伝えます。国立がん研究センターも、通院治療では仕事や家事などへの影響を含め、副作用が出やすい時期や対処法、病院へ連絡する基準を治療前に確認するよう案内しています。

CapeOXやFLOTなどで使用されるオキサリプラチンでは、手足や口の周囲のしびれなどの末梢神経症状が問題になることがあります。冷たい飲み物や物に触れたときの違和感だけでなく、治療を重ねるうちに、箸を使いにくい、ボタンを留めにくい、歩くと足裏の感覚がおかしいといった症状が続く場合があります。

日常動作に影響し始めている場合には、我慢して次回まで治療を続けるのではなく、投与量や治療スケジュールを調整する必要がないか相談します。

ゾルベツキシマブでは吐き気・嘔吐への対策が特に重要

CLDN18.2陽性胃がんで使用するゾルベツキシマブでは、悪心・嘔吐が起こりやすいことが特徴です。

PMDAの患者向医薬品ガイドでも、吐き気や嘔吐が高頻度に現れるため、投与前に制吐薬を使用する場合があると説明されています。

胃がん患者さんでは、吐き気が続いて食べられなくなること自体が体力低下につながります。

「吐いてはいないから大丈夫」と考えるのではなく、吐き気のために食事量や水分量が減っている場合も医療者へ伝えます。治療前から制吐薬を使用したり、症状に応じて支持療法を調整したりしながら、食事を取れる状態を保つことが治療継続につながります。

T-DXdでは新しい咳や息切れを放置しない

HER2陽性胃がんで使用するトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)では、間質性肺疾患が重大な副作用の一つです。PMDAも現在、間質性肺疾患について専用の患者向け資材を公開しています。

治療中に新しく咳が出る、息切れする、呼吸が苦しい、発熱するといった症状が現れた場合には、「風邪かもしれない」と次の診察まで待たず、治療を受けている医療機関へ連絡します。

T-DXdでは骨髄抑制などにも注意しますが、間質性肺疾患は早い段階で気付き、治療を中止して評価・治療する必要がある副作用です。

免疫チェックポイント阻害薬ではいつもと違う症状を伝える

ニボルマブ、ペムブロリズマブ、チスレリズマブ、デュルバルマブなどの免疫チェックポイント阻害薬では、通常の抗がん薬とは異なり、免疫機能が自分の臓器を攻撃することで副作用が起こることがあります。

肺、腸、肝臓、甲状腺などさまざまな臓器に影響する可能性があり、咳や息切れ、長引く下痢、強い倦怠感など、症状の現れ方も一つではありません。ペムブロリズマブについても、PMDAは胃がんを含む適応のもとで最新の添付文書や適正使用情報を公開しています。

免疫療法の副作用は、一般的な抗がん薬のように単純に「薬を少し減らして続ける」対応とは異なります。症状の重さによって休薬や中止を行い、必要に応じてステロイドなどで免疫反応を抑える治療を行います。

点滴を受けた直後に問題がなくても後から症状が出ることがあるため、治療中にこれまでとは違う体調変化があれば、免疫療法を受けていることを医療者へ伝えます。

副作用を我慢して予定どおり治療することが目的ではない

薬物療法では、副作用や体調に応じて休薬、投与間隔の変更、投与量の調整、薬の変更を行うことがあります。予定していた薬を一度も変更せず続けること自体が治療の目的ではありません。

とくに胃がんでは、食事量と体重が低下すると治療を続ける体力にも影響します。副作用によって食べられない、歩けない、仕事や家事ができない状態が続いているのであれば、その負担も治療方針を見直す材料になります。

治療を始める前に、よく起こる副作用だけでなく「どの症状が出たら次の診察を待たずに病院へ連絡するのか」まで確認しておくと、治療中の判断がしやすくなります。国立がん研究センターも、薬物療法開始前に病院へ連絡する基準を医療者へ確認しておくことを勧めています。

次の章では、胃がんのステージ別生存率について、5年・10年ネット・サバイバルの違いと、数字を個人の余命として受け取らないための見方を解説します。

胃がんのステージ別生存率

胃がんの予後を調べると「5年生存率」「10年生存率」という数字を目にします。

国立がん研究センターの院内がん登録では、胃がんについてステージ別のネット・サバイバルが公表されています。

ステージ 5年ネット・サバイバル
2014~2015年診断例
10年ネット・サバイバル
2012年診断例
ステージ1 92.8% 79.1%
ステージ2 67.2% 52.0%
ステージ3 41.3% 29.3%
ステージ4 6.3% 3.9%

5年値は2014~2015年に診断された患者、10年値は2012年に診断された患者を対象とした別々の集計です。

したがって「ステージ2では5年時点の67.2%から10年時点で52.0%まで下がる」というように、同じ患者集団を5年から10年まで追跡した数字として比較することはできません。

参考:院内がん登録生存率集計結果閲覧システム|国立がん研究センター がん情報サービス

ネット・サバイバルは個人の余命を示す数字ではない

ネット・サバイバルは、がん以外の病気や事故などによる死亡の影響を統計学的に取り除き、胃がんだけが死因になると仮定した場合の生存状況を推定する指標です。

国立がん研究センターでは、2014~2015年診断例の5年生存率から国際的にも使用されているネット・サバイバルを採用しています。

たとえば「ステージ3の5年ネット・サバイバルが41.3%だから、自分が5年後に生きている確率も41.3%」という意味ではありません。

年齢、全身状態、胃がんの広がり方、手術で取り切れたかどうか、治療への反応などが異なる多くの患者をまとめた集団の統計として受け取ります。

5年と10年では診断された年代も異なる

生存率を見るときには「何年生存したか」だけでなく、いつ診断された患者の数字なのかも確認する必要があります。

今回の5年ネット・サバイバルは2014~2015年診断例、10年ネット・サバイバルは2012年診断例です。

その後、進行胃がんでは免疫チェックポイント阻害薬、HER2を標的とする治療、CLDN18.2を標的とするゾルベツキシマブなどが導入され、2026年には切除可能な局所進行胃がんに対する周術期治療も新たな選択肢となっています。

そのため、これらの生存率には現在の治療環境がすべて反映されているわけではありません。特にステージ4の数字を、2026年現在治療を始める患者さんの将来をそのまま予測する値として扱うことはできません。

ステージ4の6.3%を「余命5年以内」と読むことはできない

ステージ4胃がんの5年ネット・サバイバルは6.3%ですが、これは「ステージ4と診断されたら余命が5年以内」という意味ではありません。生存率と余命は異なる指標です。

ステージ4胃がんには、腹膜播種が中心の人、肝臓へ転移している人、複数臓器へ転移している人など、さまざまな病状が含まれます。HER2、PD-L1、CLDN18.2、MSI/MMRなどによって使用できる薬も異なります。

同じステージ4でも、病状の進み方や薬物療法への反応は一人ひとり異なります。

胃がんステージ4の治療や生存率の考え方については、以下の記事で詳しく解説しています。

生存率を見るときは「自分の治療後に何を確認するか」へつなげる

ステージ別生存率から分かるのは、病期が進むほど再発や胃がんによる死亡の影響が大きくなるという集団としての傾向です。

一方、手術によって根治を目指した患者さんでは、その後の見通しを考えるうえで、ステージだけでなく、胃壁への深達度、リンパ節転移の程度、手術後の病理結果、術後補助化学療法を行ったかなども関係します。

生存率の数字だけを見て将来を判断するよりも、自分の場合はどの病理所見から再発リスクを考え、どのような治療と経過観察が必要なのかを確認する方が、その後の判断につながります。

胃がん治療後の経過観察と再発

胃がんの治療後は、体の回復状態を確認しながら、再発や新たな胃がんがないかをみるために定期的に通院します。

ただし、どの患者さんも同じ検査を同じ間隔で受けるわけではありません。内視鏡治療を受けたのか、胃切除を受けたのか、術後補助化学療法を行ったのかによって、確認する内容や検査間隔は変わります。国立がん研究センターでも、経過観察の頻度はステージや治療法によって異なるとしています。

内視鏡治療後は残った胃を定期的に確認

ESDなどの内視鏡治療で胃がんを取り除いた場合、胃そのものは残っています。そのため、治療した場所に再発がないかだけでなく、残っている胃の別の場所に新しい胃がんができていないかを胃内視鏡検査で確認します。

経過観察の方法はESD後の病理結果によって異なりますが、国立がん研究センターでは年1~2回程度の胃内視鏡検査を基本とし、必要に応じてCTなどを追加するとしています。

前に説明したeCuraの判定が、その後どのように経過を見るかにも関係します。

胃切除後は少なくとも5年間を目安に通院

胃切除後は、再発の有無だけを確認するわけではありません。食事量や体重が回復しているか、貧血やビタミン不足が起きていないか、ダンピング症候群などの術後症状が生活に影響していないかも確認します。

国立がん研究センターでは、胃がん手術後は状況に応じて定期的に診察や検査を受け、少なくとも手術後5年間は通院が必要としています。

経過観察では、診察や血液検査、CT、胃が残っている場合の胃内視鏡検査などを、ステージや再発リスクに応じて組み合わせます。

術後補助化学療法を受けた場合には、治療後もCTなどで定期的に状態を確認します。国立がん研究センターでは、術後補助化学療法後は半年ごとにCTなどで確認することが示されています。

検査を頻繁に受ければ必ず予後がよくなるわけではない

治療後は「できるだけ頻繁にCTやPETを受けた方が、再発を早く見つけられて安心なのでは」と考えることがあります。

しかし、日本胃癌学会では、胃切除後に計画的なフォローアップを行うことで生存期間が延びるという十分な科学的根拠はまだ確立していないとしています。一方で、再発や残胃にできる新たながんを確認するために、CT、腫瘍マーカー、胃内視鏡検査などが利用されています。

「検査は多いほどよい」という考え方ではなく、自分のステージや治療内容に応じた検査を受けることが基本です。

また、定期検査の予定が先でも、新しく食事が通りにくくなった、理由の分からない体重減少が続く、腹部の張りや痛みが強くなったなど、これまでとは違う症状が出た場合には次回の受診まで待たずに相談します。

再発は胃の近くだけに起こるとは限らない

再発とは、治療によって見えなくなった胃がんが、その後再び見つかることです。

胃を切除した場所やその周辺だけではなく、リンパ節、肝臓、肺などへの転移や、腹膜へ広がる腹膜播種として見つかることもあります。国立がん研究センターでは、胃がんの主な再発・転移として、血行性転移、リンパ行性転移、腹膜播種を挙げています。

胃を全摘している場合でも「胃がないから胃がんは再発しない」という意味ではありません。手術前から体内に存在していた微小ながん細胞が、時間がたって別の場所で増えることで再発することがあります。

再発した場合の治療の決め方

胃がんが再発した場合には、再発した場所、病変の広がり、現在の全身状態、これまでに受けた治療とその効果などから次の治療を考えます。再発胃がんでは薬物療法が中心になることが一般的です。

また、前の薬物療法章で説明したように、進行・再発胃がんではHER2、PD-L1、CLDN18.2、MSI/MMRなどが治療選択に関係します。最初に診断されたときの「ステージ2だった」「HER2陽性だった」といった情報だけで、その後の治療がすべて決まるわけではありません。

再発時には、それまでにどの薬を使ったのか、現在使える治療標的があるのか、食事や体力をどの程度保てているのかまで確認して治療方針を決めます。

腹膜播種や通過障害では症状への治療も同時に考える

再発胃がんでは、がんを抑える薬物療法だけでは解決できない問題が生じることがあります。

腹膜播種によって腹水が増えれば、お腹の張りや食欲低下が強くなることがあります。胃や腸の通り道が狭くなれば、食べたいのに食べられない、嘔吐を繰り返すといった状態になることもあります。このような場合には、薬物療法と並行して、腹水への対応、消化管ステント、バイパス手術、栄養管理などを検討します。

再発後の治療では、画像上の腫瘍を小さくすることだけでなく、食べられること、痛みを抑えること、日常生活を続けられる状態を保つことも治療目標になります。

胃がん治療が効きにくくなったときに確認したいこと

切除不能・再発胃がんでは、一つの薬がずっと効き続けるとは限りません。治療を続けても病変が大きくなった場合や、副作用によって同じ治療を続けることが難しくなった場合には、次の治療を検討します。

このとき「最初の治療が効かなくなった=標準治療ではもうできることがない」という意味ではありません。胃がんには複数の薬物療法があり、それまでに使用した薬、HER2などのバイオマーカー、現在の全身状態を確認しながら次の治療へ進みます。

それまでに受けた治療と検査結果の整理

次の治療を考えるときは「新しい薬がないか」を探す前に、これまでの治療内容を整理します。一次治療で何を使用したのか、どのくらいの期間効果が続いたのか、どのような副作用があったのかによって、その後に選べる薬は変わります。

また、HER2陽性胃がんでは、治療を受ける過程でHER2の状態が変化する場合があります。次の治療によってHER2の再確認が意味を持つ場合には、再生検などを検討します。

2026年7月に日本胃癌学会が更新した「切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き 第3版」でも、HER2、PD-L1、CLDN18.2、MSI/MMRなどを治療選択につなげる考え方が示されています。

治療変更時には「次に使える薬は何か」だけでなく「その薬を選ぶために追加で確認する検査はあるか」まで聞いておくと、その後の方針を理解しやすくなります。

「標準治療」の意味

標準治療とは、臨床試験などによって効果と安全性が確認され、現時点で多くの患者さんに推奨される治療です。胃がんでも、免疫チェックポイント阻害薬、HER2を標的とする治療、CLDN18.2を標的とする治療など、新しい薬の有効性が確認されるたびに標準治療そのものが更新されています。

そのため「標準治療か最新治療か」という二択で考えるものではありません。新しく登場した治療でも、有効性と安全性が確認されれば標準治療の一部になります。治療が効きにくくなったときには、現在の診療ガイドラインの中にまだ受けていない治療が残っていないかを確認します。

臨床試験が選択肢になることもある

病状やこれまでの治療歴によっては、臨床試験や治験への参加を検討できる場合があります。

臨床試験は「効果が確立した特別な治療」を受ける制度ではありません。新しい薬や治療方法について、現在の標準治療と比べてどの程度の効果と安全性があるのかを調べる研究です。現在使われている標準治療も、過去の臨床試験によって効果と安全性が確認されてきました。

参加できるかどうかは、胃がんの状態、これまでに受けた治療、臓器機能、全身状態など、それぞれの試験で定められた条件によって決まります。臨床試験を提案された場合には、どのような治療を評価する試験なのか、現在受けられる標準治療と何が違うのか、期待される効果だけでなく分かっている副作用や通院負担まで確認します。

迷ったときはセカンドオピニオンも利用できる

「ほかに治療方法はないのか」「提示された治療を選んでよいのか」と迷う場合には、セカンドオピニオンを利用できます。

セカンドオピニオンは、現在の病院からすぐに転院するための制度ではありません。検査結果や治療方針について別の医師から意見を聞き、現在提示されている治療を理解したり、ほかの選択肢があるか確認したりするために利用します。

進行・再発胃がんでは治療選択肢が増えているため、HER2やCLDN18.2などの検査結果、これまでに使った薬、現在提案されている治療を整理して相談すると、意見を聞きやすくなります。

ただし、病状によっては治療開始を長く待てない場合があります。セカンドオピニオンを希望するときには、どの程度まで治療開始を待てるのかも担当医へ確認します。

今困っている症状も治療方針に関係する

進行胃がんでは、薬の候補が残っているかどうかだけで治療を決めるわけではありません。

腹水が増えて食事が取れない、通過障害によって嘔吐を繰り返す、体重や筋力が大きく落ちているといった場合には、薬物療法と並行して症状への治療や栄養管理が必要になります。

治療によって期待できる効果と、その治療を受けながらどのような生活を送れるのかを一緒に考えます。

胃がんは病状だけでなく、治療後の生活まで考えて治療を選ぶ

胃がんは、早い段階で見つかれば胃を切除せず内視鏡で治療できる場合がある一方、胃壁への深い浸潤やリンパ節転移があれば手術や薬物療法が必要になります。進行・再発胃がんでは、HER2やCLDN18.2などの検査結果も治療選択に関係します。

胃がんと診断されたときは「ステージはいくつか」だけではなく、がんが胃壁のどこまで達しているのか、リンパ節や他の臓器への広がりはあるのか、どの治療によって根治を目指せるのかを順番に確認することが治療の理解につながります。

また、胃がんでは治療後の食事や体重の変化も無視できません。胃を切除すれば、一度に食べられる量が減ったり、ダンピング症候群や貧血などが起こったりすることがあります。進行胃がんでも、薬物療法の効果だけでなく、食事を取れる状態や体力をどこまで保てるかが治療を続けるうえで関係します。

治療について迷ったときは、提示された治療の名前だけを比較するのではなく「この治療は何を目指しているのか」「ほかにどのような選択肢があるのか」「治療後の生活はどう変わるのか」まで確認してみてください。

腹膜播種の治療や完治の可能性について詳しく知りたい場合は、以下の記事で解説しています。

スキルス胃がんの特徴や検査、治療については、以下の記事も参考にしてください。

胃がんは、病気だけではなく生活そのものへの影響も小さくありません。胃がんの治療では「治療を受けるかどうか」だけではなく「どう生活を続けていくか」も含めて考えていくことが大切になります。

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