食道がんは、のどと胃をつなぐ食道の粘膜から発生するがんです。2023年に国内で新たに食道がんと診断された人は2万5,889例、2024年の死亡数は1万638人で、男性に多い傾向があります。
食道がんは早期には自覚症状がないことがあります。進行すると、食べ物を飲み込んだときのつかえ、体重減少、胸や背中の痛み、咳、声のかすれなどが現れることがありますが、症状の有無や強さだけで食道がんのステージを判断することはできません。
治療は、がんが食道壁のどこまで入り込んでいるか、リンパ節やほかの臓器へ広がっているかだけでなく、食道のどこにできたのかによっても変わります。ごく浅いがんでは内視鏡治療で根治を目指せる場合があり、局所進行がんでは術前薬物療法と手術、あるいは化学放射線療法などを検討します。遠隔転移や再発がある場合には、薬物療法が治療の中心になります。
食道がんでは、治療によって「食べる」「飲み込む」「声を出す」といった日常生活にも影響が及ぶことがあります。この記事では、症状や原因だけでなく、検査結果から治療をどう選ぶのか、治療後の食事や栄養、ステージ別の生存率、再発後の経過まで順番に解説します。
再発・転移・ステージ4
諦めないがん治療の選択肢があります。
今の治療に限界、不安を感じている方緩和ケアを提示された方へ10種のがん治療から次の一手をご提案します。
- 治療実績5,000回以上
- ステージ4に対する豊富な治療実績
- 難治性を含む幅広いがん種に対応
- 全国展開4都市 (東京・名古屋・大阪・福岡)
- 標準治療との複合治療も可能
- 往診、当日治療も可能
がん光免疫療法、核酸医薬、分子標的ワクチン療法など、様々な治療法を用いてあなたのがんと闘います。
- 食道がんは早期には無症状のことがあり、飲食時のつかえや違和感があれば検診を待たず受診する
- 治療の選択はステージだけでなく、がんの深さ・場所・リンパ節転移などから選ぶ
- 治療後は再発だけでなく、食事量・体重・嚥下機能や頭頸部がんなどの重複がんも長期に確認する
目次
- 1 食道がんとは何か
- 2 食道がんの原因とリスク
- 3 食道がんの予防・検診と受診の目安
- 4 食道がんの初期症状・進行した場合の症状
- 5 食道がんの検査と診断
- 6 食道がんのステージ分類|cStage・pStageとTNM分類
- 7 ステージ別に見る食道がん治療の全体像
- 8 食道がんの内視鏡治療|ESD・EMRで治療できる場合
- 9 食道がんの手術と術前治療|DCF・食道切除・リンパ節郭清
- 10 化学放射線療法・放射線治療|食道温存と救済治療
- 11 切除不能・再発食道がんの薬物療法とバイオマーカー
- 12 食べ物が通らない場合の治療・栄養管理・緩和ケア
- 13 食道がん治療の副作用と治療後の食事・嚥下・生活
- 14 食道がんのステージ別生存率
- 15 食道がんの再発・経過観察|重複がんにも注意
- 16 食道がんの治療を選ぶときに確認したいこと
- 17 食道がんは治すことと「食べる・飲み込む生活」を一緒に考える
食道がんとは何か
食道は、のどの奥にある咽頭から胃までをつなぐ管状の臓器です。成人では長さがおよそ25cmあり、飲み込んだ食べ物を食道の筋肉の動きによって胃へ運びます。食べ物を消化する臓器ではなく、主な役割は食べ物を胃へ届けることです。
食道の壁は内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、外膜などで構成されています。食道がんは最も内側にある粘膜から発生し、進行すると粘膜下層、筋層、さらに食道の外側へと広がります。
食道の周囲には気管、気管支、肺、大動脈などが近接しているため、食道壁を越えて進展すると、これらの臓器との位置関係が治療方法に大きく関係します。
日本の食道がんは扁平上皮がんが多い
食道がんにはいくつかの組織型がありますが、日本では約9割が扁平上皮がんです。食道の内側を覆う扁平上皮から発生し、飲酒や喫煙との関連が強いことが知られています。
一方、食道の下部では腺がんが発生することがあります。欧米では食道腺がんが多く、胃酸の逆流などによって食道粘膜が変化したバレット食道との関連が知られていますが、日本では扁平上皮がんの方が圧倒的に多い状況です。
組織型は単なる病名の違いではありません。ステージ分類や薬物療法を考える際にも関係するため、生検後の病理結果では「食道がんだった」ということに加えて、扁平上皮がんなのか、腺がんなのかを確認します。
食道がんは「どこにできたか」によって治療が変わる
食道は大きく、首にある頸部食道、胸の中にある胸部食道、胃につながる食道胃接合部などに分けて考えます。胸部食道も上部・中部・下部に分かれ、日本では胸部中部食道に発生するがんが最も多いと報告されています。
場所を確認する理由は、手術で切除する範囲やリンパ節郭清、再建方法が変わるためです。
たとえば頸部食道は咽頭や喉頭と近接しています。がんの広がりによっては喉頭も切除する必要があり、その場合には発声方法が大きく変わります。
食道胃接合部がんでは、食道側へどの程度広がっているかによって、胸の中にある縦隔リンパ節をどの範囲まで郭清するのかが変わります。2026年3月には日本食道学会から、食道浸潤長などをもとに手術アプローチとリンパ節郭清範囲を考える新たな速報も公表されています。
したがって、食道がんでは「ステージはいくつか」と同じくらい、食道のどの位置にがんがあるのかを知っておくことが治療を理解する助けになります。
参考:2026年3月 食道胃接合部癌の手術・リンパ節郭清に関する速報|日本食道学会
早期がん・表在がん・進行がんはステージと同じ意味ではない
食道がんでは、がんの深さを表す言葉として「早期がん」「表在がん」「進行がん」が使われます。
食道粘膜内にとどまるものを「早期がん」、粘膜または粘膜下層にとどまるものを「表在がん」と呼びます。固有筋層まで入り込んだものは「進行がん」と呼ばれます。
「進行がん=遠隔転移がある」という意味ではありません。筋層に達した時点で進行がんと呼ぶため、手術によって根治を目指せる進行がんもあります。
逆に、表在がんであっても粘膜下層まで深く入り込むとリンパ節転移の可能性が高くなります。そのため、食道がんでは「早期か進行か」という言葉だけで治療を決めず、深達度とリンパ節転移を詳しく評価します。
食道がんの原因とリスク
食道がんは、一つの原因だけで発生する病気ではありません。ただし、日本で多い食道扁平上皮がんでは、飲酒と喫煙が特に重要なリスク因子です。国立がん研究センターも、食道がんの予防として禁煙と飲酒を控えることを挙げています。
飲酒と食道がん
アルコールは体内でアセトアルデヒドに分解され、その後さらに分解を繰り返し体外に排出されます。このアセトアルデヒドは発がんに関係する物質であり、飲酒量が多いほど食道がんのリスクが高くなることが分かっています。
特に大量飲酒を続けている人では、飲酒量を減らす、または飲酒しないことが食道がんの予防につながります。
お酒を飲むと顔が赤くなる体質との関係
アルコールの代謝にはALDH2という酵素が関係しています。この働きが弱い人ではアセトアルデヒドを分解しにくく、お酒を飲んだときに顔が赤くなりやすい傾向があります。
国立がん研究センターの研究でも、ALDH2の働きが低い遺伝的特徴は日本人を含む東アジア人に比較的多く、食道がんなどのリスクと関連することが示されています。
以前は少量の飲酒で顔が赤くなったものの、飲み続けるうちに赤くならなくなった人もいます。「お酒に慣れたから問題ない」とは限りません。飲酒量と体質を合わせて考える必要があります。
喫煙と飲酒が重なるとリスクはさらに高くなる
喫煙も食道扁平上皮がんの主要なリスク因子です。飲酒と喫煙の両方の習慣がある場合には、それぞれ単独の場合よりリスクが高くなることが知られています。
食道がんと診断された後も、禁煙と飲酒を控えることには意味があります。食道には別の場所に新たながんができることがあり、同じく飲酒や喫煙との関連が強い頭頸部がんなども発生しやすいためです。
非常に熱い飲み物との関係
非常に高温の飲み物を習慣的に飲むことも、食道がんとの関連が指摘されています。WHOの国際がん研究機関(IARC)は、65℃を超える非常に熱い飲み物を「おそらく発がん性がある」と分類しています。
食道がん予防で国内のエビデンスが特に強いのは禁煙と飲酒を控えることですが、熱いものを無理に飲み込まず、少し冷ましてから飲むことも食道への慢性的な熱刺激を避ける方法になります。
参考:FACT SHEET Cancer of the Oesophagus and Drinking Very Hot Beverages|IARC
バレット食道と食道腺がん
胃酸などの逆流が長期間続くと、下部食道の粘膜が胃や腸に似た粘膜へ変化することがあります。これをバレット食道と呼びます。
欧米ではバレット食道が食道腺がんの発生母地として知られています。日本では食道腺がん自体が比較的少ないため、食道がん全体を考えると飲酒・喫煙と扁平上皮がんの関係の方が大きな比重を占めています。
食道がんの予防・検診と受診の目安
胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんには国が推奨する対策型検診がありますが、食道がんには現在、国の指針で定められた対策型がん検診はありません。
そのため「何歳になったら年1回食道がん検診を受ける」という一律の制度にはなっていません。
胃がん検診を受けていれば食道も十分に調べられるとは限らない
胃がん検診で行われる胃部X線検査では上部消化管を撮影しますが、検査の中心は胃です。
国立がん研究センターも、胃がん検診の上部消化管造影では食道より胃を重点的に調べるため、飲食時の胸の違和感や食べ物のつかえがある場合には、検査前に症状を伝えるよう案内しています。
胃がん検診を定期的に受けていることを理由に、食道の症状を様子見するのは避けた方がよいでしょう。
予防では禁煙と飲酒を控えることが中心
食道扁平上皮がんでは、禁煙と飲酒を控えることが予防の中心です。特に大量飲酒をしている人では、飲酒を控えることで食道がんの発生を減らせる可能性があります。
ただし、生活習慣を改善すれば食道がんにならないわけではありません。過去に飲酒・喫煙歴がある人も含め、気になる症状があれば診察を受けることが優先されます。
症状がある場合は「検診」ではなく診断のために受診する
食べ物がつかえる、飲み込みにくい、飲食時に胸がしみる、原因の分からない体重減少があるといった場合は、食道がん検診を探すのではなく、消化器内科などを受診します。
がん検診は症状のない人を対象として行うものです。症状がある人には、その原因を調べるための胃カメラなどの診断検査が必要です。
食道がんの初期症状・進行した場合の症状
食道がんは早期には自覚症状がないことがあります。内視鏡検査で偶然見つかり、初めて食道がんと分かる場合もあります。
一方、がんが大きくなると食道の内腔が狭くなるため、飲み込みに関する症状が現れます。ただし、症状だけから深達度やステージを正確に判断することはできません。
飲み込んだときにしみる・違和感がある
比較的早い時期には、熱いものや刺激のあるものを飲み込んだ際に胸の奥がしみる、軽く痛む、何となく引っかかるといった違和感を感じることがあります。
一時的な食道炎などでも似た症状は起こるため、症状があるから食道がんというわけではありません。しかし、これまでなかった症状が続く場合は内視鏡検査などを検討します。
食べ物がつかえる・飲み込みにくい
がんによって食道が狭くなると、まず固形物を飲み込みにくくなります。
肉やご飯などが胸の途中で止まるように感じたり、水分を一緒に取らないと飲み込めなくなったりします。さらに狭窄が進むと、やわらかい食事や水分も通りにくくなる場合があります。
「年齢のせいで飲み込みにくくなった」と考えて放置せず、症状が続く場合には原因を確認します。
食事量の減少と体重減少
食べるとつかえるため無意識に食事量が減ったり、食事に時間がかかるようになったりすると、体重が減っていくことがあります。
食道がんでは、治療を開始する前から栄養状態が低下している患者さんもいます。体重減少はがんそのものだけでなく、その後に手術や薬物療法を受ける体力にも関係するため、診断時から栄養状態を確認します。
声のかすれ・咳・胸や背中の痛み
食道の周囲には声帯を動かす反回神経、気管、気管支、大動脈などがあります。
がんが反回神経へ影響すると声がかすれることがあり、気管などへ及ぶと咳や呼吸に関する症状が現れることがあります。胸や背中に痛みを感じる場合もあります。
首の腫れ、強い呼吸苦、血痰などがある場合は早めの受診が必要です。
食道がんの検査と診断
食道がんの検査は、食道にがんがあるか確認する検査と、がんと確定した後に広がりを調べる検査に分けて考えると理解しやすくなります。
最初からすべての検査を受けるわけではありません。内視鏡と病理診断を中心に確定診断を行い、その後、治療方針を決めるために画像検査などを組み合わせます。
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)で食道の粘膜を直接確認
上部消化管内視鏡検査、いわゆる胃カメラでは、咽頭から食道、胃、十二指腸まで粘膜を直接観察します。
通常の白色光だけでは見つけにくい早期食道がんを確認するため、NBIなどの画像強調観察や拡大観察を組み合わせることがあります。表在がんでは、表面の構造や血管の変化から、どの程度深く入り込んでいる可能性があるかを評価します。
生検と病理検査で食道がんかどうかを確定
内視鏡で食道がんが疑われる病変が見つかった場合には、病変の一部を採取する生検を行います。
採取した組織を顕微鏡で調べ、がん細胞があるか、扁平上皮がんなのか腺がんなのかなどを確認します。
ただし、生検は病変の一部を調べる検査です。内視鏡治療や手術を行った後には、切除した病変全体から深達度や脈管侵襲などをより詳しく評価します。
食道造影では腫瘍の長さや狭窄を確認
上部消化管造影・食道造影では造影剤を飲み、食道の形や食べ物の通り道をX線で確認します。
腫瘍がどのくらいの長さに及んでいるか、食道がどの程度狭くなっているかなど、食道全体の形を把握するために役立ちます。国立がん研究センターも、内視鏡と上部消化管造影を食道がんを確認する検査として挙げています。
血液検査・腫瘍マーカーは診断や経過を見る補助になる
食道がんでは血液検査で、扁平上皮がんの場合にSCC抗原やCEA、腺がんではCEAなどの腫瘍マーカーを測定することがあります。
ただし、食道がんがあっても数値が上がらない場合があり、高値だからといって食道がんと確定することもできません。画像検査や病理検査と合わせ、診断や治療効果、経過をみるための補助情報として使います。
EUS・CTなどでがんの深さと転移を調べる
超音波内視鏡検査(EUS)は、内視鏡の先端から超音波を当て、食道壁の層や周囲のリンパ節を詳しく評価する検査です。
CTでは食道周囲への広がりだけでなく、頸部・胸部・腹部のリンパ節、肺、肝臓などへの転移がないかを調べます。食道がんではリンパ節転移が首から胸、腹部まで広い範囲に起こり得るため、一部分だけではなく広い範囲を評価します。
必要に応じてPET、MRI、頸部超音波なども追加します。PETはすべての患者さんに必ず行う検査ではなく、ほかの画像検査と組み合わせて転移などを評価する際に利用します。
食道がんのステージ分類|cStage・pStageとTNM分類
本章では、主に日本食道学会「臨床・病理 食道癌取扱い規約 第12版」に基づく、食道扁平上皮がんの臨床的進行度(cStage)を中心に説明します。食道腺がんでは進行度分類が異なり、食道胃接合部腺がんでは胃がんの病期分類を用いるため、診断書などに記載されたステージがどの分類に基づくものかを確認することが大切です。
食道がんのステージは、がんが食道壁のどこまで入り込んでいるかを示す「T」、リンパ節転移を示す「N」、遠隔転移を示す「M」を組み合わせて判断します。
| 分類 | 何を見ているか |
|---|---|
| T | がんが食道壁のどこまで深く入り込んでいるか。T1aは粘膜内、T1bは粘膜下層、T2は固有筋層、T3は外膜、T4は周囲臓器への浸潤 |
| N | 領域リンパ節転移。N0は0個、N1は1〜2個、N2は3〜6個、N3は7個以上 |
| M | 領域外リンパ節や遠隔臓器への転移。M1aは一部の領域外リンパ節、M1bはそれ以外の領域外リンパ節や肺・肝臓などへの遠隔転移 |
食道がんでは、浅い段階でも深さが少し変わるだけでリンパ節転移の可能性が大きく変わるため、T1の中を細かく評価する意味があります。なお、第12版では治療前のT3を、手術で切除可能と判断される「T3r」と、切除可能か慎重な判断が必要な「T3br」に分けています。
食道がんは0期からⅣB期まで分類する
日本で多い食道扁平上皮がんの臨床的進行度は、0期、Ⅰ期、Ⅱ期、ⅢA期、ⅢB期、ⅣA期、ⅣB期に分類されます。
| ステージ | 一般的な病状のイメージ |
|---|---|
| 0期 | 主に粘膜内にとどまり、リンパ節・遠隔転移がない |
| Ⅰ期 | 主に粘膜下層までで、リンパ節転移が確認されない |
| Ⅱ期 | より深く広がっている、または浅くても一部のリンパ節転移がある |
| ⅢA期 | リンパ節転移が増えているなど、より進行した状態 |
| ⅢB期 | 食道周囲への広がりから、切除可能性を慎重に評価する状態 |
| ⅣA期 | 周囲臓器へ明らかに浸潤している局所進行がん |
| ⅣB期 | 遠隔臓器などへ転移している状態 |
実際のステージはT・N・Mの組み合わせによって決まるため、この表は病状を理解するための大まかな整理です。たとえば同じT1bでも、リンパ節転移がなければⅠ期ですが、N1であればⅡ期になります。正確な病期は画像検査などをもとに医師が判定します。
ステージを理解するときには「食道壁への深さ」と「リンパ節転移」を一緒に見る必要があります。
例1:T1b+N0 → Ⅰ期
粘膜下層まで達していても、リンパ節転移が確認されなければⅠ期です。
例2:T1b+N1 → Ⅱ期
深さが同じT1bでも、領域リンパ節1〜2個に転移があれば病期は上がります。
例3:M1b → ⅣB期
肺や肝臓などの遠隔臓器転移がある場合は、TやNにかかわらずⅣB期です。
ちなみに「M1=遠隔転移=ステージ4」とは限りません。食道癌取扱い規約第12版では、領域リンパ節の外にあるリンパ節転移のうち、手術による治療効果が期待される一部をM1aとして扱います。肺や肝臓への転移などを示すM1bとは区別されています。
治療前のcStageと手術後のpStageは意味が違う
食道がんでは、治療開始前に内視鏡、CT、PETなどから推定した病期を臨床病期(cStage)と呼びます。
一方、手術を行った場合には、切除した食道やリンパ節を顕微鏡で詳しく調べ、病理学的な情報から病理病期(pStage)を評価します。
画像検査では転移しているように見えなかった小さなリンパ節に、手術後の病理検査でがん細胞が見つかることがあります。また、手術前に薬物療法などを受けた場合には、治療によってがんが縮小・消失していることもあります。
そのため、治療前に説明されたcStageと、手術後に評価される病理学的な状態が異なることがあります。これは画像検査と病理検査で得られる情報が異なることや、術前治療によって病状そのものが変化することがあるためで、「最初の診断が間違っていた」という意味ではありません。
ステージ別に見る食道がん治療の全体像
食道がんの治療は「ステージがいくつならこの治療」と一つに固定されるわけではありません。がんの深さ、リンパ節転移、発生した位置、全身状態、治療に対する希望などを合わせて決定します。
ただし、治療全体の流れは次のように整理できます。
| 病状の目安 | 主な治療の考え方 |
|---|---|
| 0期・ごく浅いT1a | ESDなどの内視鏡治療で根治を目指す |
| Ⅰ期・T1bなど | 手術または根治的化学放射線療法などを検討する |
| 切除可能なⅡ・Ⅲ期 | 胸部食道扁平上皮がんでは術前DCF療法+手術が国内の標準治療 |
| 局所進行で切除が難しい場合・ⅣA期 | 根治的化学放射線療法などを検討する |
| 遠隔転移を伴うⅣB期・再発 | 薬物療法を中心に、症状への治療や栄養管理を組み合わせる |
日本食道学会では、切除可能なステージⅡ・Ⅲ期の胸部食道扁平上皮がんでは手術前に薬物療法を行ってから手術する方法を標準治療としています。現在、日本で代表的なのはDCF療法です。
一方、食道を切除せず根治を目指す化学放射線療法も重要な治療です。特にⅠ期や、手術を希望しないⅡ・Ⅲ期、局所的に手術が難しい病変では治療候補になります。
食道がんの治療では「内視鏡で取り切れる深さか」「手術によって根治を目指せるか」「食道を温存する化学放射線療法が候補になるか」が大きな分岐点になります。
食道がんの内視鏡治療|ESD・EMRで治療できる場合
内視鏡治療は、口から内視鏡を入れて食道の内側からがんを切除する治療です。胸やお腹を大きく切開せず、食道そのものを残せることが大きな利点です。
ただし、「早期食道がんならすべて内視鏡で治療できる」というわけではありません。判断の中心になるのは、リンパ節転移の可能性が十分に低い深さかどうかです。
参考:内視鏡治療|日本食道学会
T1a-EP・LPMは内視鏡治療の中心的な対象
食道粘膜は、表面側から粘膜上皮(EP)、粘膜固有層(LPM)、粘膜筋板(MM)へ分かれます。
T1a-EPやT1a-LPMまでにとどまる食道がんではリンパ節転移の可能性が極めて低いため、内視鏡治療の中心的な対象です。
T1a-MMまで達するとリンパ節転移が約10%、粘膜下層へ入り込むT1b-SMではさらに転移の可能性が高まります。日本食道学会では、T1b-SMで20~50%程度の転移が報告されています。
そのため、内視鏡で病変そのものを取れるかどうかだけではなく、食道の外にあるリンパ節まで治療する必要があるかを考えます。
ESDとEMRは病変の切除方法が異なる
内視鏡的粘膜切除術(EMR)は病変を持ち上げてスネア(ワイヤー)で切除する方法です。
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は病変の下にある粘膜下層を専用の器具で少しずつ剥離し、比較的大きな病変でも一括切除を目指す方法です。現在は食道表在がんでもESDが広く用いられています。
一括切除する利点は、治療そのものだけではありません。切除した標本を広い範囲で病理検査できるため、本当の深達度、脈管侵襲、切除断端などを詳しく確認できます。
内視鏡で取れた後に追加治療が必要になることがある
ESD後の病理検査で予想より深くがんが入り込んでいたり、リンパ管や血管への侵入が確認されたりした場合には、リンパ節転移を治療するため手術や化学放射線療法を追加することがあります。
これは「内視鏡治療に失敗した」という意味ではありません。
治療前の内視鏡では完全には分からなかった深さや転移リスクが、切除標本を詳しく調べることで明らかになったためです。
参考:食道癌診療ガイドライン システマティックレビュー|日本食道学会
広い範囲を切除すると食道狭窄が問題になる
食道の内周を広く切除すると、治った部分が瘢痕となって縮み、食道が狭くなることがあります。
特に全周に近い広範囲の切除では狭窄リスクが高くなるため、予防治療を組み合わせたり、病変の範囲によっては最初から手術や化学放射線療法を検討したりします。
食道を残せる治療であっても、「切除できるか」だけではなく、切除後も食事を通せる食道を保てるかまで考えて治療方法を選びます。
食道がんの手術と術前治療|DCF・食道切除・リンパ節郭清
内視鏡治療ではリンパ節まで治療できないため、リンパ節転移の可能性が高い食道がんでは食道切除とリンパ節郭清を行います。
食道がんの手術は、食道を切除するだけではありません。がんのある食道を切除し、転移する可能性があるリンパ節を郭清し、その後、胃や腸を使って新しい食べ物の通り道を作る再建までが一連の手術です。
参考:手術治療|日本食道学会
手術前にDCF療法を行う理由
切除可能なステージⅡ・Ⅲ期の胸部食道扁平上皮がんを中心に、日本では手術前に薬物療法を行うことが標準となっています。現在の代表的な治療が「DCF療法」です。
DCFは、ドセタキセル(D)、シスプラチン(C)、5-FU(F)の3剤を組み合わせます。
術前治療の目的は、単に大きな腫瘍を小さくして切りやすくすることだけではありません。画像には写っていない微小ながん細胞を手術前から全身的に治療し、手術後の再発を減らすことも目的です。
JCOG1109(NExT)試験を受け、日本食道学会はcStageⅡ・Ⅲの食道扁平上皮がんで手術を中心とする場合、DCFを含む術前治療を重視する方針を示しています。
なお、DCFの有効性を示したJCOG1109試験は75歳までの患者さんを対象としていました。高齢者や併存症がある場合には、試験結果をそのまま当てはめず、DCFによる副作用と治療に耐えられる状態かを慎重に評価し、別の術前治療を検討することがあります。
参考:JCOG1109(NExT)術前DCF速報|日本食道学会
胸部食道がんでは広い範囲のリンパ節を治療する
食道には縦方向へ広がる豊富なリンパ管があります。そのため胸部食道がんでも、胸のリンパ節だけでなく首や腹部のリンパ節へ転移することがあります。
手術では、がんの位置や広がりに応じて頸部・胸部・腹部のリンパ節をまとめて切り取る「郭清(かくせい)」を行います。
「食道の腫瘍だけ小さく取ればよい」とならないのは、このリンパ節転移の特徴があるためです。
切除した食道の代わりに胃などで通り道を作る
胸部食道を切除した後は、胃を細長く形成した胃管(いかん)を胸や首まで持ち上げ、残った食道とつないで食べ物の通り道を再建する方法が一般的です。
胃が使えない場合などには、大腸や小腸を使うこともあります。
再建後は以前と消化管の位置や形が変わるため、一度に食べられる量の低下、逆流、ダンピング症候群などが起こることがあります。
頸部食道がんでは「声を残せるか」も治療判断に関係する
頸部食道は咽頭や喉頭と非常に近いため、がんの広がりによっては食道だけを切除することが難しくなります。
喉頭まで一緒に切除する必要がある場合には、通常の声帯による発声ができなくなります。一方、病変の位置や広がりによっては喉頭を残した手術や化学放射線療法を検討できる場合があります。
頸部食道がんでは、「がんを取り切れるか」と同時に、治療後の発声や嚥下機能をどこまで維持できるかを含めて相談します。
開胸・胸腔鏡・ロボット支援手術は何が違うのか
食道がんの手術では、胸部の操作方法として開胸手術、胸腔鏡下手術、ロボット支援手術などがあります。
どの方法でも、がんのある食道を切除し、必要なリンパ節を郭清して食べ物の通り道を再建するという手術の目的は基本的に同じです。違うのは、胸の中へどのようにアプローチし、どのように手術器具を操作するかです。
| 手術方法 | 方法 | 特徴 |
|---|---|---|
| 開胸手術 | 胸部を大きく切開し、術者が胸の中を直接確認しながら食道切除とリンパ節郭清を行う | 広い術野を確保しやすい一方、胸壁への負担が大きくなりやすい |
| 胸腔鏡下手術 | 胸部に複数の小さな孔を開け、カメラと手術器具を入れ、モニター画像を見ながら術者が器具を直接操作する | 開胸手術より胸壁への侵襲を抑えられる一方、高度な内視鏡外科技術が必要になる |
| ロボット支援手術 | 胸部の小さな孔からカメラとロボットアームを入れ、術者が操作席からロボットアームを操作する | 立体的な拡大視野と自由度の高い鉗子操作を利用でき、狭い胸の中で繊細な操作を行いやすいことが期待される |
2025年に公表されたJCOG1409(MONET)試験では、十分な経験を持つ術者が行った胸腔鏡下食道切除術について、開胸手術に全生存期間で劣らないことが示され、術後の呼吸機能も良好に保たれることが確認されました。これを受け、日本食道学会は胸部食道がんに対する胸腔鏡下食道切除術を強く推奨しています。
一方、ロボット支援手術が開胸手術や胸腔鏡下手術より長期生存率を改善することまで確立しているわけではありません。 国立がん研究センターも、ロボット支援食道手術ではより繊細な操作が期待される一方、その有効性については今後も評価が必要としています。
そのため、食道がん手術は「ロボットだから最も優れている」「開胸だから古い」といった基準で選ぶものではありません。病変の位置や広がり、これまでの手術歴、全身状態に加えて、その術式を施設や術者がどの程度経験しているかも考えて選択します。
参考:JCOG1409(MONET)胸腔鏡下食道切除術速報|日本食道学会
参考:胸腔鏡下手術が切除可能食道がんの新たな標準治療に|国立がん研究センター
食道がん手術では肺炎・縫合不全・反回神経麻痺に注意する
食道切除は胸部、腹部、場合によっては頸部にも操作が及ぶ大きな手術です。
術後には肺炎、食道と胃管などをつないだ部分から内容物が漏れる縫合不全、声帯を動かす反回神経の障害などが起こることがあります。日本食道学会も、術後肺炎は食道手術で注意すべき合併症の一つとしています。
反回神経麻痺が起こると、声がかすれるだけでなく、食べ物や唾液が気管へ入りやすくなり、誤嚥性肺炎につながることがあります。そのため食道がん手術では、手術前から呼吸機能や栄養状態を整え、術後には呼吸・嚥下リハビリテーションを行いながら回復を目指します。
化学放射線療法・放射線治療|食道温存と救済治療
化学放射線療法は、放射線治療と抗がん薬を同時に組み合わせ、食道を切除せずにがんの根治を目指す治療です。
放射線だけを照射するより、抗がん薬を併用することで治療効果を高めることを目的とします。国内ではシスプラチンと5-FUを組み合わせる方法などが用いられます。
Ⅰ期では手術と化学放射線療法の両方が候補になることがある
粘膜下層まで達してリンパ節転移の可能性があるⅠ期食道がんでは、内視鏡だけでは治療が不十分になることがあります。
このような場合には手術のほか、根治的化学放射線療法によって食道を温存する方法も検討します。日本食道学会のガイドラインでも、cStageⅠで手術を行わない場合の化学放射線療法について検討されています。
食道を残せることは大きな利点ですが、治療後にがんが残ったり同じ場所へ再発したりする可能性があるため、定期的な内視鏡検査などが必要です。
Ⅱ・Ⅲ期でも手術を行わない根治治療として選ばれる
切除可能なステージⅡ・Ⅲ期の胸部食道扁平上皮がんでは、国内では術前DCF療法+手術が標準治療です。
一方、手術を希望しない場合や全身状態などから手術の負担が大きい場合には、根治的化学放射線療法を検討します。
治療を選ぶ際には「食道を残せるか」だけでなく、根治できる可能性、手術のリスク、化学放射線療法後に病変が残った場合の次の治療まで含めて比較します。
ⅣA期でも根治を目指して化学放射線療法を行うことがある
食道がんが気管や大動脈など周囲臓器へ広がり、そのままでは切除が難しいⅣA期では、全身状態が保たれていれば根治的化学放射線療法が候補になります。
治療後は画像検査などで病変の状態を改めて評価します。一部の患者さんでは、治療効果や病変の範囲、全身状態などを踏まえ、経験のある施設で手術を含む追加治療を慎重に検討する場合があります。
化学放射線療法でがんが残った・再発した場合の救済治療
根治的化学放射線療法を行っても、食道局所にがんが残ったり、その後同じ場所に再発したりすることがあります。
その場合、病変の深さや範囲によっては救済手術、内視鏡切除、光線力学的療法(PDT)などを検討します。
PDTは、薬剤を投与した後に特定の波長のレーザー光をがんへ照射して治療する方法で、化学放射線療法後の局所遺残・再発の一部が対象になります。
救済手術は根治を目指せる可能性がある一方、放射線治療を受けた組織を手術するため、初回から手術する場合より合併症リスクが高くなることがあります。
そのため化学放射線療法を選ぶ段階から、治療後に病変が残った場合にどのような救済治療が可能なのかも確認しておくと、その治療を選ぶ意味を理解しやすくなります。
参考:内視鏡治療|日本食道学会
術前化学放射線療法後の術後ニボルマブ
術後ニボルマブについては、適応となる治療経過を区別して理解する必要があります。
CheckMate 577試験で効果が示されたのは、cStageⅡ・Ⅲなどの食道がんに対して術前化学放射線療法を行った後にR0切除ができたものの、病理学的にがんが残っていた患者です。この条件では、日本食道学会も術後ニボルマブを強く推奨しています。
一方、日本で標準的に行われている術前DCFなどの化学療法→手術の後にニボルマブを追加すれば再発を減らせる、ということは現在確立していません。日本食道学会の患者向け情報でも、この点は明確に区別されています。
「食道がんの手術後だからニボルマブを使う」という治療ではなく、手術前にどの治療を受けたのか、手術標本にがんが残っていたかによって考えます。
切除不能・再発食道がんの薬物療法とバイオマーカー
肺や肝臓などへの遠隔転移があるⅣB期や、手術後に複数の場所へ再発した食道がんでは、全身へ作用する薬物療法が治療の中心になります。
手術や放射線治療は特定の場所を治療する方法ですが、薬物療法は画像では見えない病変も含め、全身のがん細胞へ作用することを目的とします。
なお、以下では、日本で多い食道扁平上皮がんの薬物療法を中心に説明します。食道腺がんや食道胃接合部腺がんでは、組織型やバイオマーカーに応じて治療の考え方が異なる場合があります。
一次治療では化学療法と免疫療法を組み合わせる
現在の進行・再発食道がんでは、5-FUやプラチナ系抗がん薬による化学療法だけでなく、免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせる治療が一次治療として用いられています。
代表的には、ペムブロリズマブまたはニボルマブと化学療法を組み合わせる方法があります。また、ニボルマブとイピリムマブという2種類の免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせる治療も選択肢です。
2025年には、チスレリズマブ+シスプラチン+5-FU療法も一次治療の選択肢に加わりました。根拠となったRATIONALE-306試験は進行・再発の食道扁平上皮がんを対象とした試験で、日本食道学会はこの併用療法を強く推奨しています。PD-L1のTAPスコアによって上乗せ効果が異なる傾向も示されているため、患者さんの病状やPD-L1発現などを踏まえて治療を選択します。
どの治療を選ぶかは、PD-L1発現、がんの進み方、全身状態、腎機能などによって変わります。また各試験でPD-L1の評価方法や、効果が大きくみられた患者群が異なるため、「PD-L1が高い/低い」だけで一律に薬を決めるものではありません。
参考:RATIONALE-306 試験の概要|日本食道学会ガイドライン委員会
二次治療以降は、これまでに使った薬から次の治療を考える
一次治療で病状が進行した場合には、それまでに使用していない種類の薬へ切り替えます。
一次治療で化学療法と免疫療法を使用した場合には、パクリタキセルなどのタキサン系薬剤を使うことがあります。反対に一次治療でニボルマブ+イピリムマブを使用した場合には、フルオロウラシル系薬剤とプラチナ系薬剤を組み合わせるなど、治療歴に応じて次の治療を決めます。
「二次治療だからこの薬」と自動的に決まるのではなく、これまでにどの薬を使い、どの副作用が残っているかが選択に関係します。
一部の食道がんではHER2遺伝子増幅が治療につながる
これまで食道がんでは、肺がんなどのようにバイオマーカーから薬を選ぶ治療は限定的でした。
しかし2026年には、HER2遺伝子増幅を持つ切除不能・進行・再発食道がんで、標準的な治療が難しくなった場合にトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が新たな選択肢となりました。
日本食道学会は2026年4月、HER2遺伝子増幅を持つ切除不能進行・再発食道がんに対するT-DXdを弱く推奨しています。HERALD試験に登録された食道がん12例のうち10例は扁平上皮がんであり、HER2は食道腺がんだけに関係する情報ではありません。現時点では、T-DXdの適応を判断する際には、承認されたコンパニオン診断薬などを用いてHER2遺伝子増幅を確認する必要があります。
ただし、HER2検査をすべての早期食道がん患者が受けるという意味ではありません。進行・再発し、標準治療後の次の選択肢を考える場面などで、検査の必要性を判断します。
参考:2026年 T-DXd 食道癌ガイドライン速報|日本食道学会
食べ物が通らない場合の治療・栄養管理・緩和ケア
食道がんでは、治療の副作用とは別に、がんそのものによって食べられなくなることがあります。
食道が狭くなって十分な栄養を取れない状態が続くと、体重と筋肉が減り、その後の手術や薬物療法を受ける体力にも影響します。そのため、がんを治療することと栄養を保つことを同時に考えます。
参考:緩和治療|日本食道学会
食べられる範囲に合わせて食事形態を変える
軽い通過障害であれば、食べ物を小さくする、よく噛む、やわらかい食品へ変える、とろみや水分を利用するといった方法で食事を取りやすくできることがあります。
ただし、無理に固形物を押し込むと途中で詰まることがあります。食べ物が頻繁につかえる場合には、栄養指導だけで済ませず、狭窄の程度を医療者へ伝えます。
口から十分に取れない場合は別の経路から栄養を補う
食事だけでは必要な栄養を確保できない場合には、点滴による栄養や、胃ろう・腸ろうなどを使った経管栄養を検討します。
食道がんでは手術の際に腸ろうを作り、術後に食事が十分取れるようになるまで栄養を補うこともあります。
「口から食べられない=治療ができない」というわけではなく、栄養経路を確保して体力を保ちながら治療を続ける方法があります。
食道ステントで通り道を広げる場合がある
食道の狭窄が強い場合には、内側から金属製などのステントを広げて食べ物の通り道を確保する方法があります。
ただし、食道が狭いから必ずステントを入れるわけではありません。
病変の場所や今後予定している治療によっては、放射線治療、化学放射線療法、バイパス手術、胃ろう・腸ろうなどの方が適している場合があります。放射線治療との組み合わせなどでは重い合併症を起こす可能性もあるため、その後の治療計画を踏まえて選択します。
緩和ケアは治療をやめた後に始めるものではない
食べられないこと、痛み、息苦しさ、不安などを和らげる緩和ケアは、抗がん治療を終了した患者さんだけが受けるものではありません。
日本食道学会も、食道がんに対する緩和治療は診断と同時に進め、身体症状や心理的なつらさを軽減してQOLを保つことを目的とすると説明しています。
薬物療法や放射線治療を行いながら、痛み、栄養、睡眠、仕事や家庭生活などの問題について緩和ケアチームへ相談することもできます。
食道がん治療の副作用と治療後の食事・嚥下・生活
食道がんでは、治療が終わった後も食事の仕方や体重、飲み込み方が以前と同じには戻らない場合があります。
副作用を「症状が出るか出ないか」だけで考えず、食べられているか、体重を保てているか、誤嚥せず飲み込めているか、日常生活を送れるかまで確認します。
食道切除後は少量ずつ回数を分けて食べる
食道切除後に胃管で再建すると、胃の形や位置が手術前と大きく変わります。
一度にたくさん食べると苦しくなる場合があるため、少ない量から始め、食事回数を増やしながら自分が食べられる量を探していきます。食事量が少ない時期には、1回の量だけで栄養を確保しようとせず、間食なども利用しながら一日全体で必要なエネルギーを取れるよう調整します。
体重は手術前より減ることがある
食事量の低下、消化管の形の変化、術後の代謝変化などによって、食道がん手術後には体重が減少することがあります。
多少の体重減少だけで治療異常とは限りませんが、体重が下がり続ける、食事を増やせない、筋力が低下して外出できなくなったといった場合には、管理栄養士などへ相談します。「食道を切ったから痩せるのは仕方がない」と決めつけず、食べにくさの原因を探します。
逆流やダンピング症候群が起こることがある
胃管を胸や首まで持ち上げると、胃液や腸液が逆流しやすくなることがあります。特に食後すぐに横になると逆流しやすいため、食後の姿勢や就寝時の上半身の高さなどを調整することがあります。
また、食物が急速に小腸へ流れ込むことで、食後の動悸、冷や汗、腹痛、下痢、めまいなどを生じるダンピング症候群が起こることもあります。
声のかすれや誤嚥には嚥下リハビリが関係する
手術中に反回神経が影響を受けると、声帯の動きが低下し、声がかすれることがあります。声の問題だけでなく、飲み込んだ食物や唾液が気管へ入りやすくなることがあり、誤嚥性肺炎につながる場合があります。
食事中にむせる、飲んだ後に声が濁る、発熱を繰り返すといった場合には、嚥下機能を評価し、言語聴覚士などによるリハビリテーションを検討します。
DCFでは感染症につながる骨髄抑制などに注意する
DCF療法では、白血球や好中球の減少、発熱、食欲低下、吐き気、口内炎などが起こることがあります。
特に好中球が大きく減少すると感染症が重症化する可能性があります。高熱や強い倦怠感などがある場合には、次の受診日まで待たず病院へ連絡する必要があります。
食道がんでは治療前から栄養状態が低下している場合があるため、吐き気や口内炎によって食事量がさらに落ちていることも治療継続に関係します。
放射線治療中は一時的に飲み込みにくさが強くなることがある
放射線を食道へ照射すると、治療途中から粘膜に炎症が起こり、飲み込んだ際の痛みやつかえ感が一時的に強くなることがあります。国立がん研究センターでは、治療中から治療直後にこのような症状が続く場合があると説明しています。
放射線治療では、治療中の食道炎だけでなく、治療終了後しばらくして副作用が現れることもあります。食道が狭くなる食道狭窄や、肺・心臓への影響などがみられる場合があるため、治療終了後も新しい飲み込みにくさ、咳や息切れなどがあれば医療機関へ相談します。
がんによる狭窄と放射線食道炎が重なると食事量が大きく落ちることがあるため、鎮痛薬や栄養管理を組み合わせます。
免疫療法では普段と違う症状を早めに伝える
ニボルマブ、ペムブロリズマブ、チスレリズマブ、イピリムマブなどの免疫チェックポイント阻害薬では、免疫反応が自分自身の臓器へ及ぶことで副作用が起こる場合があります。
肺、腸、肝臓、甲状腺などさまざまな臓器に影響する可能性があるため、新しい咳や息切れ、下痢、強い倦怠感などが続く場合には治療を受けている医療機関へ連絡します。
免疫療法では通常の抗がん薬のように単純に減量して続けるのではなく、副作用の重さによって休薬・中止し、必要に応じステロイドなどで治療します。
また、T-DXdを使用する場合には間質性肺疾患にも注意が必要です。新しい咳や息切れなどが現れた場合には早期に評価します。日本食道学会もT-DXd使用時の間質性肺疾患への注意を示しています。
参考:T-DXdの間質性肺疾患|日本食道学会ガイドライン委員会
食道がんのステージ別生存率
食道がんの予後を調べると、「5年生存率」「10年生存率」という数字を目にします。
国立がん研究センターの院内がん登録では、食道がんのステージ別ネット・サバイバルが公表されています。2014~2015年診断例の5年値と、2012年診断例の10年値は次のとおりです。
| ステージ | 5年ネット・サバイバル 2014~2015年診断例 |
10年ネット・サバイバル 2012年診断例 |
|---|---|---|
| Ⅰ期 | 78.4% | 59.4% |
| Ⅱ期 | 48.9% | 34.0% |
| Ⅲ期 | 27.4% | 17.1% |
| Ⅳ期 | 8.7% | 5.5% |
なお、この生存率集計ではⅣA期とⅣB期は分かれておらず、「Ⅳ期」として集計されています。また、この生存率は扁平上皮がんだけではなく「食道がん」全体の集計です。
ここで示す院内がん登録の生存率はUICC TNM分類による病期を用いた集計です。前の章で説明した日本食道学会「食道癌取扱い規約 第12版」に基づく臨床的進行度とは分類方法が同じではないため、両者のステージ番号を完全に同じ病状として置き換えることはできません。また、2012年および2014〜2015年診断例は現在とは異なる版のUICC TNM分類が使われていた時期の統計となっています。
参考:2014~2015年診断例・5年生存率|国立がん研究センター
参考:2012年診断例・10年生存率 最新集計値|国立がん研究センター
ネット・サバイバルは個人の余命を示す数字ではない
ネット・サバイバルとは、がん以外の病気や事故などによる死亡の影響を統計学的に取り除き、そのがんだけが死亡に影響すると仮定した場合の生存状況を推定する指標です。
たとえばⅢ期の5年ネット・サバイバルが27.4%だからといって、「自分が5年後に生きている確率が27.4%」とそのまま解釈することはできません。
同じⅢ期でも、がんの位置、リンパ節転移の程度、年齢、全身状態、術前治療への反応、根治切除できたかなどによって病状は異なります。
5年と10年は同じ患者を続けて集計した数字ではない
5年ネット・サバイバルは2014~2015年診断例、10年ネット・サバイバルは2012年診断例です。
したがって「Ⅰ期では5年後78.4%だった人が10年後59.4%になった」というように、同じ患者集団の時間経過として直接比較することはできません。
現在の治療成績がすべて反映されているわけではない
この生存率が集計された患者さんが診断された後、食道がん治療は変化しています。
現在の切除可能な局所進行食道がんでは術前DCF療法が標準となり、進行・再発例ではニボルマブ、ペムブロリズマブ、イピリムマブ、チスレリズマブなどを用いた免疫療法が導入されています。2026年にはHER2遺伝子増幅を持つ一部の進行・再発食道がんにT-DXdという選択肢も加わっています。
したがって、過去の生存率を2026年現在治療を始める患者さんの将来へ、そのまま当てはめることはできません。
食道がんの再発・経過観察|重複がんにも注意
食道がんの治療後は、治療した場所だけでなく、リンパ節や別の臓器への再発がないかを定期的に確認します。
経過観察の内容や間隔は、内視鏡治療、手術、化学放射線療法など、受けた治療と病理結果によって異なります。日本食道学会では、すべての患者さんに共通する一つの決まったフォローアップ手順があるわけではないと説明しています。
再発は食道の同じ場所だけに起こるわけではない
食道がんの再発には、食道や手術部位周辺に再び現れる局所再発、リンパ節再発、肺・肝臓・骨などへの遠隔転移があります。
再発した場合には、再発した場所と範囲、これまで受けた治療、全身状態から治療を考え直します。
局所に限られた再発であれば内視鏡治療、放射線治療、救済手術などを検討できることがあり、広範囲に再発している場合には薬物療法が中心になります。
内視鏡治療後も食道内に新しいがんができることがある
ESDやEMRで病変を切除しても、食道そのものは残っています。
最初に治療した場所が治っていても、残った食道の別の場所に新しい食道がんが発生することがあります。そのため、内視鏡治療後も継続した内視鏡検査が必要です。
内視鏡治療後にリンパ節転移のリスクがある病理所見が確認された場合には、CTなども組み合わせて経過を確認します。
食道がんでは「重複がん」にも注意する
食道がん患者さんでは、同時期または時間をおいて、別の臓器にもがんが発生することがあります。
日本食道学会では、食道がん患者の約23%にほかの臓器のがんがみられ、特に咽頭を中心とする頭頸部がん、胃がん、大腸がんなどが多いと報告しています。
食道がんと頭頸部がんは、ともに飲酒・喫煙との関連が強いため、一人の患者さんに複数発生することがあります。
そのため食道がん治療後の内視鏡検査では、食道だけでなく咽頭や胃なども観察します。再発を探すだけでなく、別の場所に新しくできたがんを早い段階で見つけることも経過観察の目的です。
治療後1~2年は特に再発を確認する
経過観察の具体的な間隔は治療内容や施設によって異なりますが、食道がんでは再発の多くが治療後の比較的早い時期にみられます。
日本食道学会では、手術後は最初の1~2年に3~6カ月ごとを目安としてCTなどを行い、その後徐々に間隔を延ばす方法が一般的としています。根治的化学放射線療法後も、最初の1~2年は内視鏡とCTなどを3~6カ月ごとに行うことがあります。
新しい症状があれば次の定期検査まで待たない
定期的にCTや内視鏡検査を受けていても、検査と検査の間に病状が変化することがあります。
新しく食べ物がつかえるようになった、体重が急に減った、声のかすれが続く、痛みや咳が強くなったなど、以前とは違う変化がある場合には次回の定期受診まで待たず相談します。
食道がんの治療を選ぶときに確認したいこと
食道がんでは、同じ「食道がん」という診断でも、内視鏡治療だけで根治を目指せる患者さんから、DCF療法と大きな手術が必要な患者さん、食道を残す化学放射線療法を検討できる患者さんまで治療が大きく異なります。
その違いは、単に病院や医師の好みで決まるのではありません。
| 確認したいこと | 治療選択に関係する理由 |
|---|---|
| 扁平上皮がんか腺がんか | 病期分類や薬物療法の考え方に関係する |
| 食道のどこにがんがあるか | 切除範囲、リンパ節郭清、声や嚥下機能への影響が変わる |
| cStage・深達度はいくつか | 内視鏡治療、手術、化学放射線療法の分岐になる |
| なぜ手術または化学放射線療法が勧められているか | 根治の可能性と治療後の生活を比較するため |
| 治療後に病変が残った場合の次の治療 | 救済手術、PDT、薬物療法など次の選択肢を理解するため |
| 現在の体重・食事量・体力 | 予定した治療を安全に受け続けられるかに関係する |
参考:食道がんのステージと治療の選択|日本食道学会
参考:食道がん 治療|国立がん研究センター
特に手術と化学放射線療法の両方が候補になる場合には、「食道を残せるか」だけで比較しない方がよいでしょう。
それぞれの治療で期待できる根治性、合併症、治療期間、食事や仕事への影響、治療後にがんが残った場合の救済治療まで聞いたうえで、自分にとって受け入れられる治療を考えます。
食道切除は身体への負担が大きい治療ですが、胸腔鏡手術など手術方法も進歩しています。一方、化学放射線療法は食道を残せる可能性がありますが、局所再発した場合にはその後の治療が必要になります。
提示された治療について迷う場合には、食道がんを多く扱う施設でセカンドオピニオンを受ける方法もあります。日本食道学会では、食道がんの内視鏡治療、放射線治療、外科治療を行う施設や食道外科専門医を公開しています。
食道がんは治すことと「食べる・飲み込む生活」を一緒に考える
食道がんは、早い段階で見つかれば食道を切除せず、ESDなどの内視鏡治療で根治を目指せる場合があります。一方、がんが深くなりリンパ節転移の可能性が高くなると、術前DCF療法と手術や、根治的化学放射線療法などを検討します。
どの治療が適しているかを理解するには、ステージの数字だけを見るのではなく、がんの深さ、リンパ節への広がり、食道のどこにできたのか、手術で取り切れるのかを確認する必要があります。
食道は毎日の食事に直接関係する臓器です。治療後に体重が減る、食事量が変わる、飲み込みにくくなる、声が変わるといったこともあります。治療を選ぶときには、がんを取り除くことだけでなく、治療後にどのように食べ、どのような生活を送りたいのかまで主治医と共有してみてください。



