EGFR遺伝子変異陽性肺がんは、非小細胞肺がんの一種で、がん細胞の増殖に関わる「EGFR」という遺伝子に変異が起きているタイプの肺がんです。肺腺がんに多くみられ、非喫煙者、女性、東アジア人に多いという特徴があります。初期にはほとんど症状が出ませんが、進行すると咳が続く、血痰、息切れ、胸の痛み、体重減少などが現れます。EGFRを狙い撃ちにする分子標的薬(EGFR-TKI)がよく効く一方で、いずれ薬が効かなくなる「薬剤耐性」が課題となります。
本ページでは、EGFR遺伝子変異陽性肺がんの特徴や原因、症状、診断(コンパニオン診断・遺伝子検査)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。
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- 非小細胞肺がんの一種で、非喫煙者・女性・東アジア人に多い
- EGFRを狙い撃ちにする分子標的薬(EGFR-TKI)がよく効く
- いずれ薬が効かなくなる薬剤耐性が、治療上の大きな課題
EGFR遺伝子変異陽性肺がんとは

肺がんは、がん細胞の見た目や性質によっていくつかのタイプに分けられます。まず大きく「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」に分かれ、日本人の肺がんの多くは後者です。
この非小細胞肺がんのなかに、EGFR遺伝子変異陽性肺がんが含まれます。
EGFR(上皮成長因子受容体)は、細胞の表面にある増殖のシグナルを受け取るタンパク質です。このEGFRを生み出す遺伝子に変異が起きると、がん細胞が限りなく増えていきます。この変異を持つ肺がんが、EGFR遺伝子変異陽性肺がんです。そして非小細胞肺がんの中でも、肺腺がんに多くみられます。
EGFR変異が起きやすい方は、非喫煙者、女性、そして東アジア人です。
世界的な研究では、EGFR変異の頻度は全体で32.3%、女性で43.7%(男性24.0%)、非喫煙者で49.3%(喫煙者21.5%)、腺がんで38.0%(非腺がん11.7%)と報告されています。
EGFR遺伝子変異陽性肺がんの原因
肺がん全般では喫煙が最大の危険因子とされますが、EGFR変異陽性肺がんは、タバコをまったく吸わない人にも高い頻度で発症します。
なぜEGFR遺伝子に変異が起こるのか、その根本的な原因はまだ解明されていません。ただ、変異が起きた結果としてその細胞が増殖することは分かっています。正常なEGFRは、体からの指令を受けたときだけ増殖のシグナルを送ります。しかし変異したEGFRは、指令がなくても勝手にシグナルを出し続けるため、細胞が止まらず増殖していきます。
ここで、もうひとつ重要な遺伝子があります。がん細胞の暴走を食い止める「ブレーキ役」の、がん抑制遺伝子「p53(TP53)」です。p53はDNAに傷がついた細胞を修復させ、修復できないものは自然死(アポトーシス)へと導きます。p53が壊れると、傷ついた細胞が排除されずに生き残ってしまいます。
EGFR変異陽性肺がんでは、このTP53変異が高い割合で見られます。その頻度は、約26~40%の範囲と報告されています。
さらに、EGFR変異に対する治療を行った患者様でTP53変異も見られた患者様は、予後が悪いとの研究結果もあります。
つまりアクセル(EGFR)が壊れているだけでなく、ブレーキ(p53)まで故障してしまう場合があり、それが治療の難しさにつながっているのです。
関連ページ:ゲノムの守護神 p53の代わりとして働く「miRNA mimic 核酸医薬」
・TP53 co-mutations in EGFR mutated patients in NSCLC stage IV: A strong predictive factor of ORR, PFS and OS in EGFR mt+ NSCLC
・Meta-analysis of the prognostic impact of TP53 co-mutations in EGFR-mutant advanced non-small-cell lung cancer treated with tyrosine kinase inhibitors
EGFR遺伝子変異陽性肺がんの診断
「(無)症状」から「確定診断」まで
肺がんは、初期にはほとんど症状が出ません。ある程度進行してから、咳が続く、血痰、息切れ、胸の痛み、体重減少といった症状が現れます。ただ、これらは風邪や気管支炎でも起こるため、見過ごされがちです。健康診断の胸部X線検査やCT検査で、偶然発見される場合も少なくありません。
異常が疑われた場合、気管支鏡検査やCTガイド下針生検などで組織を採取し、がんかどうかを確定します。脳転移や全身転移の有無を調べるため、脳MRI検査やPET-CT検査も実施されます。
コンパニオン診断という重要なステップ
EGFR変異陽性肺がんの診断で欠かせないのが、遺伝子検査です。採取したがん組織を使い、EGFR遺伝子に変異があるかどうかを調べます。この検査は「コンパニオン診断」と呼ばれ、分子標的薬が効くタイプかどうかを判断します。また、組織が採れないときは、血液中を流れるがん由来のDNAを調べるリキッドバイオプシーを行う場合もあります。
ステージ(病期)の確定
肺がんのステージは、腫瘍の大きさと広がり(T)、リンパ節転移(N)、遠隔転移(M)を組み合わせてⅠ期~Ⅳ期に分類されます。EGFR変異陽性肺がんは、脳や骨などへ転移した進行した状態で見つかることも多く、病期が予後を大きく左右します。
EGFR遺伝子変異陽性肺がんの一般的な治療法
早期であれば手術が主な治療法ですが、必要に応じて薬物療法を加えます。一方、診断時にすでに進行・転移している場合や、術後に再発した場合は、薬物療法が治療の中心になります。
EGFR変異陽性肺がんの薬物療法で主役となるのが、分子標的薬の「EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)」です。暴走するEGFRのシグナルをピンポイントで遮断する薬で、様々な種類の薬物(オシメルチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブなど)が開発されています。
また、EGFR-TKIが効きにくくなった場合や、変異のタイプによっては、抗がん剤(プラチナ製剤などの化学療法)や、状況に応じた免疫療法が検討されます。
EGFR遺伝子変異陽性肺がんにおける保険診療の限界
避けられない「耐性」の問題
EGFR-TKIは高い効果を示す一方で、多くの患者様でいずれ効かなくなります。これが「薬剤耐性」です。
がん細胞が薬から逃れる別の経路を見つけ出し、再び増え始めてしまいます。
例えば、オシメルチニブというEGFR-TKIは高い効果を示しますが、無増悪生存期間の中央値は18.9ヶ月でした。逆に言えば、約1.5年で薬剤耐性がついてしまい病勢が進行するということです。また、耐性が生じるメカニズムは多様で、そのすべてに有効な次の一手が用意されているわけではありません。
手術後の高い再発率
早期に発見され、手術で取りきれたとしても、EGFR変異陽性肺がんは再発しうる疾患です。切除後の再発率はおよそ70%と報告されています。
この再発を抑える目的で、近年は術後にオシメルチニブを一定期間服用する補助療法が行われます。これにより手術後4年後の再発率は30%にまで下がりました。
大きな進歩ではありますが、裏を返せば、補助療法を行ってもなお再発を経験する患者様が10人中3人は残るということでもあります。また、この補助療法で使うオシメルチニブは、進行・再発した際の一次治療でも中心となる薬です。術後補助療法の段階で使うことは、いざ再発したときに切り札の一つを先に投じておくことにもなり、その後の選択肢をどう組み立てるかという課題も残ります。
EGFR-TKIや化学療法に伴う「きつい」副作用
代表的なEGFR-TKIであるオシメルチニブによる治療では、日常生活に支障をきたすほどの重い副作用が、およそ3人に1人にみられたと報告されています。
例えば、下痢、皮疹やにきびのような皮膚症状、爪の周りの炎症(爪囲炎)、口内炎などが多くみられ、まれに間質性肺炎という重い副作用が生じることもあります。
また、EGFR-TKIが用いられた後に用いる抗がん剤では、吐き気、強い倦怠感、食欲不振、脱毛、骨髄抑制による感染症リスクなどが起こりえます。長期にわたる治療や薬の切り替えのなかで、身体的・精神的な負担から治療の継続が難しくなり、生活の質(QOL)が損なわれるリスクがあります。
EGFR遺伝子変異陽性肺がんで重要な新しい治療の考え方
ここまで述べたように、EGFR変異陽性肺がんは分子標的薬がよく効く一方で、耐性の問題や手術後再発率の高さ、副作用のきつさという固有の課題を抱えています。
がん中央クリニックグループでは、こうした課題に対して、標準治療とは作用の仕方が異なる治療を選択肢としてご提案しています。
分子レベルの異常にアプローチする「核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)」
がんの発生や進行に関わる分子レベルの異常へ直接働きかける「核酸医薬」は、世界的に研究と臨床応用が進んでいます。当グループでは治療選択肢として、「アプタマー」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を取り入れた治療を提供しております。
「アプタマー核酸医薬」は、がん細胞に特有の異常なタンパク質にピンポイントで結合し、その働きをブロックすることで、がんの増殖抑制や死滅を狙う治療薬です。一方で「miR-34a mimic核酸医薬」は、がん化によって失われてしまった「体が本来持っているがんを抑制する力」を補い、がんの成長を止め、自然な細胞死(アポトーシス)を促す治療薬です。
EGFR変異陽性肺がんでTP53変異が高頻度に併存することは、先に述べたとおりです。miR-34a mimicは、miR-34aと同じ働きが期待できる分子を外部から補充することで、p53というブレーキが壊れた細胞に対しても、その先の経路から直接ブレーキをかけ直すことを狙います。EGFRという「アクセル」だけでなく、失われた「ブレーキ」の側から攻めるという発想です。
がん中央クリニックグループでは、がん種ごとに標的となる遺伝子を指定して核酸医薬を設計し、患者様一人ひとりの状態に合わせた治療をご提案しています。複数の核酸医薬を組み合わせて使い分けられる点も、特徴のひとつです。
HER2を標的にする「分子標的ワクチン療法」
分子標的ワクチン療法は、がんの増殖・浸潤・転移に関わるタンパク質「HER2」を標的にした、当グループで施術可能な治療法です。
EGFR変異陽性肺がんに対して、なぜHER2を狙う治療が意味を持つのか。ここには、EGFRとHER2の深い関係があります。
HER2は、EGFRと同じ受容体チロシンキナーゼファミリーに属する仲間です。EGFRは単独でもシグナルを送りますが、HER2と手を組んでペアになると、より強力に増殖シグナルを伝えることが知られています。さらに、HER2の遺伝子増幅は、EGFR-TKIに対する耐性の主要なメカニズムのひとつとしても報告されています。つまりHER2は、EGFR変異陽性肺がんにおいて、増殖を後押しする共犯者であり、EGFR-TKIへの耐性獲得を手助けする可能性もある存在なのです。
この治療では、HER2タンパク質の機能部位ペプチド2種類をワクチンとして筋肉注射します。狙いは、患者様自身の体内でHER2に対する抗体をつくらせることです。
体内でHER2に対する抗体がつくられると、HER2がEGFRをはじめとする仲間と手を組むことができなくなり、増殖・浸潤・転移を促すシグナルの伝達が抑えられます。さらに、抗体がくっついたがん細胞を免疫細胞が攻撃するという効果も期待されます。
直接EGFRを阻害する薬ではありませんが、EGFRによる細胞増殖経路にも間接的に影響を与えます。そのため、腫瘍縮小への効果が期待できる可能性があります。
関連ページ:HER2をターゲットにした”がんのピンポイント治療薬”|分子標的ワクチン療法
・Predictive value of EGFR and HER2 overexpression in advanced non-small-cell lung cancer
・HER2 Amplification in Advanced NSCLC Patients After Progression on EGFR-TKI and Clinical Response to EGFR-TKI Plus Pyrotinib Combination Therapy
当グループのがん治療をおすすめする患者様
当グループで実施可能な治療法は、ほとんどの患者様にご検討いただけます。以下では、どのような患者様に効果が期待できるのかを解説します。ご自身の状況に照らし合わせてご検討ください。
治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ
EGFR変異陽性肺がんでは、EGFR-TKIへの耐性やきつい副作用などが原因で、保険診療の選択肢が行き詰まることがあります。特に、複数のEGFR-TKIを使い切ってしまい次の手立てが見つからない患者様は少なくありません。
そうした場合でも、核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法などであれば、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供できます。これらは目立った副作用が現れにくく体への負担が少ないため、「体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方にも、1つの治療の選択肢となり得ます。
また、まだ体力があるのに選択肢がなくなり、緩和を勧められている方にとっても、新たな選択肢として検討いただけます。
保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待
核酸医薬と分子標的ワクチン療法は、EGFR-TKIや抗がん剤と併用でき、相乗効果が期待できます。化学療法や分子標的薬がすでに存在するタンパク質やシグナルに作用するのに対し、核酸医薬はそれらが作られる前の遺伝子レベルに作用します。攻撃するポイントが異なるため、組み合わせることでより高い効果が期待できるのです。
このように、EGFR変異陽性肺がんの完治を目指すには、複数の治療法を組み合わせることが重要と考えています。標準治療を受けている患者様にとっても、これらの併用は選択肢のひとつです。
再発を抑制、防止するため。手術前後のすべての患者様
早期がんで手術を受けた場合でも、EGFR変異陽性肺がんは再発しうる疾患です。手術後にEGFR-TKI(オシメルチニブ)を用いると4年無病生存率は約70%まで改善しますが、裏を返せば、それでも30%の患者様は再発するリスクがあるということです。
またEGFR-TKIには副作用があるため、体力に不安のある高齢の患者様には、術後の補助療法が難しいこともあります。
こうした背景から、手術前後に核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法を併用することは、再発リスクを下げるひとつの選択肢として検討いただけます。
副作用が不安な患者様
核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法は、目立った副作用が起こりにくい治療です。EGFR-TKIや化学療法で起きやすい下痢、皮疹、嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。核酸医薬の副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などが挙げられます。分子標的ワクチン療法では、注射部位反応(赤み、腫れ、痛みなど)、疲労感、発熱が見られることがあります。
解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半で、治療の継続に支障をきたすことはありません。「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」という方にも受けていただける治療です。
EGFR遺伝子変異陽性肺がんの完治を目指して、保険診療と患者様に合った治療を組み合わせる
EGFR変異陽性肺がんは、分子標的薬がよく効くタイプである一方、耐性や副作用、手術後再発という壁が立ちはだかる疾患です。しかし、適切に治療を行えば完治を目指せる疾患でもあります。
発症要因にEGFRやp53といった遺伝子異常があるため、保険診療と核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、分子標的ワクチン療法などを組み合わせる集学的治療が有効な選択肢となります。保険診療だけではカバーしきれない場合でも、これらの治療によって腫瘍縮小効果や再発抑制効果が期待できます。
がん中央クリニックグループでは、こうした「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがん治療をご提案いたします。EGFR遺伝子変異陽性肺がんの患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。



