”新しい未来をともに”最先端のがん治療を追求するがん治療専門クリニック ”新しい未来をともに”最先端のがん治療を追求するがん治療専門クリニック

がんの情報をみなさまにお届けします

がんと向き合うすべての方へ
知りたいことに寄り添い、大切な選択の助けとなる情報をお届けします。

卵巣がんは、早期の段階では自覚症状がほとんどないことが多く、おなかの張りや食欲の低下、頻尿、便秘などをきっかけに検査を受け、初めて見つかることがあります。進行すると腹水がたまり、おなかが大きくなることもあります。こうした症状は胃腸の不調や加齢による変化などでも起こるため、症状だけから卵巣がんを見分けるのが難しいことも、早期発見を難しくしている理由の1つです。

国立がん研究センターの最新統計では、日本で2023年に卵巣がんと診断された人は12,926人、2024年に卵巣がんで亡くなった人は5,116人でした。この数字は「卵巣」の統計であり、卵管がんや原発性腹膜がんをすべて合計した患者数ではありません。

実際の診療では「卵巣がん」だけを単独で考えないことが増えています。卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんは発生する場所こそ異なりますが、特に上皮性の漿液性がんでは細胞の性質や広がり方、ステージ分類、治療の考え方に多くの共通点があります。国立がん研究センターも2026年3月に患者向け情報を更新し、ページ名を「卵巣がん・卵管がん」から「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん」へ変更しました。

ただし、同じ卵巣がんでも、がん細胞の種類(組織型)や、遺伝子検査などで分かるがんの特徴によって治療が変わることがあります。近年は、こうした違いに応じて維持療法や分子標的薬を選ぶ治療も増えています。

この記事では、最も頻度が高く、卵管がん・腹膜がんと共通した診療体系で扱われる上皮性卵巣がん・卵管がん・原発性腹膜がんを中心に、原因や症状、検査、ステージ、手術、抗がん剤、維持療法、再発治療、遺伝子検査、生存率まで解説します。

参考:国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がんについて」、国立がん研究センター「がん統計 卵巣」

卵巣がん・卵管がん・腹膜がんとは|なぜ3つをまとめて扱うのか

卵巣は、子宮の左右に1つずつある親指ほどの大きさの臓器です。卵子を育てて排卵するだけでなく、エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンを分泌する働きがあります。

卵巣の近くから子宮に向かって伸びている細い管が卵管です。卵管の卵巣側の先端は「卵管采」と呼ばれる漏斗状の構造になっており、排卵された卵子を取り込み、子宮側へ運びます。

腹膜は、胃や腸などとは違って1つの塊になった臓器ではありません。おなかの内壁や、胃・腸などの臓器の表面を広く覆っている薄い膜です。腹膜自体は男女ともに存在します。

この位置関係を知っておくと、卵巣がんが腹膜へ広がりやすい理由も理解しやすくなります。卵巣や卵管は腹腔の中にあり、その周囲には腹膜、大網、小腸、大腸、横隔膜、脾臓などがあります。そのため、がん細胞が卵巣や卵管の表面から腹腔内にこぼれるように広がると、腹膜や大網などに複数の病変をつくる「腹膜播種」が起こることがあります。

卵巣がん・卵管がん・腹膜がんの違い

卵巣がんは卵巣に発生する悪性腫瘍、卵管がんは卵管から発生する悪性腫瘍です。

原発性腹膜がんは、腹膜から発生したと考えられるがんです。腹膜に卵巣がん・卵管がんとよく似た漿液性がんが広がっている一方、卵巣や卵管には原発巣といえる腫瘍が認められない、あるいは病変がごく限られている場合などに腹膜がんとして診断されます。国立がん研究センターは、卵管がんはほとんどが上皮性(じょうひせい)で、腹膜がんでは卵巣・卵管と同様の性質を持つ漿液性(しょうえきせい)がんがみられると説明しています。

診断書に「卵巣がん」と書かれているか「卵管がん」と書かれているかだけで、まったく別の治療になるとは限りません。反対に、同じ「卵巣がん」という病名でも、組織型が異なれば病気の性質や治療上の判断が違ってきます。

発生場所が違っても治療を共通して考える理由

3疾患をまとめて扱う大きな理由は、特に高異型度(こういけいど)漿液性がんで生物学的な共通性が大きいからです。

かつて「卵巣がん」と考えられていた高異型度漿液性がんの中には、実際には卵管の先端付近から発生したものが少なくないことが分かってきました。卵管采にできる漿液性卵管上皮内癌(STIC)が高異型度漿液性がんの前駆病変となる場合があることも知られています。すべての高異型度漿液性がんが卵管から始まると断定できるわけではありませんが、「卵巣・卵管・腹膜を完全に別々の病気として考える」という従来の見方は変化しています。

こうした病態の共通性から、現在は3疾患で共通の進行期分類を用い、手術による腫瘍減量、プラチナ製剤を中心とした薬物療法、BRCAやHRDに応じた維持療法などを組み合わせて治療します。

腹膜がん・腹膜播種・腹膜中皮腫は別のもの

名前が似ていますが、「原発性腹膜がん」と「腹膜播種」は同じ意味ではありません。

原発性腹膜がんは、腹膜そのものから発生したと考えられるがんです。これに対し腹膜播種は、卵巣がんや胃がん、大腸がんなど、別の場所から発生したがん細胞が腹膜へ散らばって広がった状態を指します。

さらに「悪性腹膜中皮腫」も別の病気です。腹膜中皮腫は腹膜を覆う中皮細胞から発生する腫瘍であり、上皮性卵巣がんなどと共通して扱われる原発性腹膜がんとは、腫瘍の成り立ちも治療体系も異なります。国立がん研究センターも2026年更新の患者向け情報で、この3者を明確に区別しています。

「腹膜にがんがある」と説明された場合には、腹膜そのものから発生した原発性腹膜がんなのか、別のがんからの腹膜播種なのかを確認することが、その後の病状理解の第一歩になります。

参考:国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がんについて」、NCI「Ovarian, Fallopian Tube, & Primary Peritoneal Cancers Screening (PDQ)」

卵巣がんの種類

「卵巣がん」とひとまとめに呼ばれることがありますが、卵巣には性質の異なるさまざまな細胞があるため、卵巣にできる悪性腫瘍も1種類ではありません。

大きく分けると、卵巣の表面などを構成する上皮系の細胞から発生する上皮性卵巣がん、卵子のもとになる細胞から発生する悪性胚細胞腫瘍(あくせいはいさいぼうしゅよう)、ホルモン産生などに関係する細胞から発生する性索間質性腫瘍(せいさくかんしつせいしゅよう)があります。

そして、この記事で中心的に扱う上皮性卵巣がんをさらに詳しく分けると、漿液性(しょうえきせい)がん、明細胞(めいさいぼう)がん、類内膜(るいないまく)がん、粘液性(ねんえきせい)がんなどの組織型があります。

「上皮性・胚細胞性・性索間質性」は卵巣の悪性腫瘍を大きく分けたグループで、「漿液性・明細胞・類内膜・粘液性」は上皮性卵巣がんをさらに細かく分けた組織型と考えると分かりやすいでしょう。

大きな分類 主な種類・組織型 特徴
上皮性卵巣がん 漿液性がん、明細胞がん、類内膜がん、粘液性がんなど 卵巣の悪性腫瘍の中で最も多く、本記事で主に扱う
悪性胚細胞腫瘍 未分化胚細胞腫、卵黄嚢腫瘍、未熟奇形腫など 若年者にもみられ、上皮性卵巣がんとは治療や妊孕性温存の考え方が異なる
性索間質性腫瘍 顆粒膜細胞腫など ホルモンを産生する腫瘍を含み、上皮性卵巣がんとは性質や治療体系が異なる

この3つは発生する細胞だけでなく、発症しやすい年代、病気の広がり方、抗がん剤の種類、妊孕性温存の考え方なども異なります。

日本婦人科腫瘍学会の『卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2025年版』でも、上皮性の卵巣がん・卵管がん・腹膜がんと、悪性胚細胞腫瘍、性索間質性腫瘍は別々の章で扱われています。

この記事では、卵巣がんの中で最も多く、卵管がん・原発性腹膜がんと共通する部分が多い上皮性卵巣がんを中心に解説します。

上皮性卵巣がん

上皮性卵巣がんは、卵巣の悪性腫瘍の中で最も多いグループです。

「上皮性卵巣がん」という1種類のがんがあるわけではなく、病理検査によって、さらに漿液性がん、明細胞がん、類内膜がん、粘液性がんなどの組織型に分けられます。

この組織型の違いは単なる名前の違いではありません。たとえば、高異型度漿液性がんではBRCA1・BRCA2やHRDが治療選択に関わることがあり、明細胞がんでは2026年からPIK3CA遺伝子変異が再発時の治療選択につながるようになっています。

上皮性卵巣がんと診断された場合には、「卵巣がんだった」という情報だけでなく、何という組織型なのかまで確認することが重要です。

悪性胚細胞腫瘍

胚細胞腫瘍は、卵子のもとになる胚細胞から発生する腫瘍です。

悪性のものには、未分化胚細胞腫、卵黄嚢腫瘍、未熟奇形腫などがあります。上皮性卵巣がんに比べて若い年代で発症することが多く、治療に使う抗がん剤や妊孕性温存の考え方も異なります。

悪性胚細胞腫瘍について、この記事で後述する「上皮性卵巣がんのステージ別治療」や「BRCA・HRDに基づく維持療法」がそのまま当てはまるわけではありません。

性索間質性腫瘍

性索間質性腫瘍は、卵巣でホルモン産生などに関係する性索・間質系の細胞から発生する腫瘍です。

代表的なものに顆粒膜細胞腫などがあります。女性ホルモンを産生する腫瘍もあるため、不正出血などをきっかけに見つかることがあります。

性索間質性腫瘍も、上皮性卵巣がんとは病気の性質や治療法が異なります。そのため、本記事では概要にとどめ、これ以降の治療については主に上皮性卵巣がん・卵管がん・原発性腹膜がんを対象として説明します。

境界悪性腫瘍は「卵巣がん」ではない

卵巣腫瘍には、良性腫瘍と悪性腫瘍のほかに境界悪性腫瘍(きょうかいせくせいしゅよう)というグループがあります。

名前に「悪性」と入っているため卵巣がんの一種だと思われることがありますが、一般的な浸潤性の卵巣がんとは病理学的な性質や治療方針が異なります。

境界悪性腫瘍は、良性腫瘍と悪性腫瘍の中間的な特徴を持つ腫瘍で、典型的な卵巣がんに比べると若い年代でもみられます。病期や年齢、妊娠希望などによっては、子宮や反対側の卵巣を残す手術を検討できる場合があります。

画像検査だけでは良性・境界悪性・悪性を完全に判別できないこともあり、手術中の迅速病理診断や、手術後の最終病理診断によって正式な診断が決まることがあります。

参考:国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がんについて」、日本婦人科腫瘍学会『卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2025年版』

上皮性卵巣がんの組織型|漿液性・明細胞・類内膜・粘液性の違い

上皮性卵巣がんは、病理検査によってさらに複数の組織型に分けられます。

代表的なものが、漿液性がん、明細胞がん、類内膜がん、粘液性がんです。漿液性(しょうえきせい)がんはさらに、高異型度(こういけいど)漿液性がんと低異型度(ていいけいど)漿液性がんに分けられます。

ここまでの分類を整理すると、次のようになります。

卵巣の悪性腫瘍
├ 上皮性卵巣がん
│ ├ 漿液性がん
│ │ ├ 高異型度漿液性がん
│ │ └ 低異型度漿液性がん
│ ├ 明細胞がん
│ ├ 類内膜がん
│ └ 粘液性がん
├ 悪性胚細胞腫瘍
└ 性索間質性腫瘍

このように「上皮性」は大きな分類で、「漿液性・明細胞・類内膜・粘液性」はその中にある組織型です。

組織型は単なる病理診断上の名称ではありません。がんの広がり方、抗がん剤への反応、関係しやすい遺伝子異常、再発時に検討できる治療などにも関係します。

組織型 主な特徴
高異型度漿液性がん 代表的な組織型。腹腔内へ広がりやすく、BRCA1/2やHRDなどDNA修復機構との関係が深い
低異型度漿液性がん 高異型度漿液性がんとは発生過程や生物学的性質が異なり、比較的ゆっくり進行する傾向がある
明細胞がん 子宮内膜症との関連が知られる。2026年からPIK3CA遺伝子変異が一部の再発治療の選択につながっている
類内膜がん 子宮内膜症との関連があり、一部ではMMR異常やリンチ症候群との関連が問題になる
粘液性がん ほかの上皮性卵巣がんとは生物学的性質が異なり、病理診断では消化管など他臓器からの転移との区別も重要になる

高異型度漿液性がん

高異型度漿液性がんは、上皮性卵巣がんを代表する組織型で、卵管がんや原発性腹膜がんでも多くみられます。腹腔内へ広がりやすく、診断された時点ですでにⅢ期やⅣ期となっていることもあります。

さらに高異型度漿液性がんはBRCA1・BRCA2やDNAの相同組換え修復機構との関係が深いことが知られています。そのため、後述するBRCA検査やHRD検査の結果が、PARP阻害薬などの維持療法を考えるうえで重要になります。

また、以前は卵巣から発生すると考えられていた高異型度漿液性がんの一部が、実際には卵管の先端にある卵管采付近から発生していることも分かってきました。

こうした背景もあり、現在では卵巣がん・卵管がん・原発性腹膜がんを共通した治療体系で扱うようになっています。

低異型度漿液性がん

「漿液性がん」という名前は同じでも、高異型度(こういけいど)漿液性がんと低異型度(ていいけいど)漿液性がんは、単に悪性度の強さだけが違うわけではありません。発生の仕組みや遺伝子異常の特徴などにも違いがあり、生物学的には異なる性質を持つがんとして考えられています。

低異型度漿液性がんは、高異型度漿液性がんより比較的ゆっくり進行することが多い一方、一般的な抗がん剤への反応性にも違いがあります。

病理結果で「漿液性がん」と説明された場合には、可能であれば高異型度なのか低異型度なのかまで確認すると、その後の治療説明を理解しやすくなります。

明細胞がん

明細胞がんは、日本の卵巣がん診療で特に重要な組織型の1つです。子宮内膜症との関連が知られており、高異型度漿液性がんとは発生の背景や分子生物学的な特徴が異なります。また、組織型の違いが実際の治療選択にもつながるようになっています。

2026年3月には、PI3Kα阻害薬リソバリシブが「がん化学療法後に増悪したPIK3CA遺伝子変異を有する卵巣明細胞癌」に対して日本で承認されました。

明細胞がんであることを確認する意味は「どの種類の卵巣がんなのか」を知ることだけではありません。再発時には、PIK3CA遺伝子変異があるかどうかによって選択できる治療が変わる場合があります。

類内膜がん

類内膜がんも上皮性卵巣がんの組織型の1つで、子宮内膜症との関連が知られています。

一部の類内膜がんでは、DNAのミスマッチ修復機能に関わるMMRの異常や、遺伝性腫瘍であるリンチ症候群との関連が問題になります。そのため、病理結果や本人・家族のがん歴などによっては、MSI/MMR検査や遺伝学的検査を検討することがあります。

「類内膜」という名前から子宮体がんと同じ病気だと思われることがありますが、類内膜がんは病理学的に似た形態を示す組織型の名称です。卵巣に発生した類内膜がんと、子宮内膜から発生した子宮体がんは、発生部位も含めて診断します。

粘液性がん

粘液性がんも上皮性卵巣がんの組織型の1つです。ただし、漿液性がんや明細胞がんとは生物学的な特徴が異なります。

卵巣に粘液性の腫瘍が見つかった場合には、卵巣から発生した原発性粘液性がんなのか、それとも大腸、虫垂、胃など他の臓器から卵巣へ転移したがんなのかを区別することが重要になる場合があります。そのため、病理所見だけでなく、画像検査や消化管の検査などを組み合わせて原発部位を確認することがあります。

卵管がん・原発性腹膜がんでは漿液性がんが中心

ここまでの組織型分類は主に上皮性卵巣がんについて説明しましたが、卵管がん・原発性腹膜がんも無関係ではありません。

卵管がんのほとんどは上皮性で、その中でも高異型度漿液性がんが中心です。原発性腹膜がんでも、卵巣・卵管の高異型度漿液性がんと非常によく似た性質を持つがんが多くみられます。

この記事ではここから先、特に断りがない限り、上皮性卵巣がん・上皮性卵管がん・原発性腹膜がんを中心に、共通する検査・ステージ・治療について解説します。

組織型・グレードが治療や予後に関係する理由

卵巣がんでは「ステージが同じなら全員が同じ治療になる」というわけではありません。同じⅢ期だったとしても、高異型度漿液性がん、明細胞がん、低異型度漿液性がんでは生物学的な特徴が異なります。

さらに、高異型度漿液性がんではBRCAやHRD、明細胞がんではPIK3CA、類内膜がんではMSI/MMRなど、組織型によって確認する意味の大きい分子情報も変わってきます。

診断時には「卵巣がん」「ステージⅢ」といった大きな病名だけでなく「何という組織型なのか」「異型度・グレードはどうか」まで確認しておくことが、その後の治療を理解するうえで役立ちます。

参考:国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がんについて」、国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 治療」、日本婦人科腫瘍学会『卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2025年版』

卵巣がんの原因・リスク・検診

卵巣がんの多くでは「この出来事が原因だった」と1つに特定することはできません。

一方で、発症リスクと関係することが分かっている遺伝的要因や病態があります。特に現在の卵巣がん診療では、BRCA1・BRCA2などの遺伝情報は「なぜがんになったのか」を考えるだけでなく、実際の治療薬の選択にも関係するため、診断後にも重要な意味を持ちます。

BRCA1・BRCA2と遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)

BRCA1とBRCA2は、傷ついたDNAの修復などに関わるがん抑制遺伝子です。生まれつきBRCA1またはBRCA2に病的バリアント(病気の原因となりえる遺伝子変異)があると、乳がんや卵巣がんなどを発症するリスクが高くなる「遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)」となります。

日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)の2024年版診療ガイドラインでは、BRCA1病的バリアント保持者が80歳までに卵巣がんを発症する累積リスクは44%、BRCA2では17%とされています。これは「病的バリアントがあれば必ず発症する」という数字ではなく、一般集団より発症確率が大きく上昇することを示すものです。

反対に「卵巣がんになった人の大部分がHBOC」というわけでもありません。ただ、日本人の卵巣がん患者634例を調べた研究では、BRCA1/2病的バリアントが93例、14.7%に認められています。また、BRCA1/2病的バリアントを持つ卵巣がん患者の35~40%には明らかな家族歴がなかったとの報告もあります。したがって「家族に乳がんや卵巣がんがいないから、自分はBRCAとは関係ない」とは言い切れません。

現在のJOHBOCガイドラインでは、すべての卵巣がん・卵管がん・原発性腹膜がん患者にBRCA遺伝学的検査を提案することが推奨されています。後述するように、その結果は本人の遺伝的リスクを調べるだけでなく、PARP阻害薬などの治療選択にも関係します。

リンチ症候群など遺伝性腫瘍との関係

遺伝性卵巣がんはBRCA1・BRCA2だけではありません。

大腸がんや子宮体がんとの関連で知られる「リンチ症候群」でも、卵巣がんの発症リスクが高くなります。リンチ症候群は主にMLH1、MSH2、MSH6、PMS2などDNAミスマッチ修復に関係する遺伝子の病的バリアントによって起こります。

日本婦人科腫瘍学会の2025年の見解では、卵巣がん全体のおよそ2%がリンチ症候群とされ、特に類内膜がんなど一部の組織型では関連が強くなる可能性が示されています。どの遺伝子に変化があるかによっても卵巣がんリスクは異なります。

若くして大腸がんや子宮体がんになった近親者がいる、多重がんの家族歴があるといった場合には、BRCAだけでなくほかの遺伝性腫瘍についても確認する意味があります。

子宮内膜症など組織型によって異なるリスク

子宮内膜症も卵巣がんとの関連が報告されています。ただし「子宮内膜症があると将来卵巣がんになる」という意味ではありません。

卵巣がん全体で一様に関係するのではなく、関連は特に明細胞がんと類内膜がんで強いことが知られています。

この点も、卵巣がんを1種類の病気として扱えない理由の1つです。BRCAと高異型度漿液性がん、子宮内膜症と明細胞・類内膜がんなど、組織型によって発生背景が異なります。

一般の人を対象とした卵巣がん検診は確立していない

乳がんのマンモグラフィや子宮頸がんの細胞診のような、国の指針に基づく卵巣がん検診は現在の日本にはありません。国立がん研究センターの2026年3月更新情報でも、卵巣がん・卵管がん・腹膜がんについて、国の指針として定められたがん検診はないとされています。

婦人科超音波検査やCA125を定期的に調べれば、一般の人の卵巣がん死亡を確実に減らせるという検診法も現在のところ確立していません。CA125は卵巣がんで上昇することがありますが、良性疾患などでも変動し、がんかどうかをCA125だけで判断することはできません。

したがって「卵巣がん検診を受けていないから見つからなかった」という病気ではありません。現在は有効性が確立した一般集団向け検診そのものがないため、気になる症状が続く場合には「次の検診を待つ」のではなく婦人科で評価を受けることが大切です。

BRCA病的バリアントがある場合のリスク低減卵管卵巣摘出術

BRCA1またはBRCA2の病的バリアントがあり、卵巣がん・卵管がんの発症リスクが高い場合には、がんを発症する前に両側の卵管と卵巣を摘出する「リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)」を検討することがあります。

JOHBOCの2024年版ガイドラインでは、BRCA1/2病的バリアント保持者に対するRRSOを条件付きで推奨しています。卵巣がん・卵管がんの発症リスクを低下させる重要な方法である一方、妊孕性を失うことや、閉経前に行えば卵巣機能を失うことによる身体への影響もあるため、年齢、遺伝子の種類、妊娠・出産の希望などを踏まえて判断します。

RRSOを受けても原発性腹膜がんのリスクはゼロにはならない

卵巣と卵管を摘出した後でも、原発性腹膜がんのリスクが完全にゼロになるわけではありません。

JOHBOCの2024年版ガイドラインでは、BRCA1/2病的バリアント保持者がRRSOを受けた後にも、原発性腹膜がんが発生するリスクが1~4.9%程度あるとされています。RRSO時の卵管にSTICが認められた場合などでは、その後の腹膜がんリスクが高くなることも報告されています。

そのため「卵巣も卵管も取ったのに、なぜ腹膜がんになるのか」という状況は医学的に矛盾していません。RRSOは発症リスクを大きく減らすための手術であって、腹膜を含む関連がんを100%防ぐ手術ではないことを理解しておく必要があります。

参考:JOHBOC 2024年版ガイドライン、JSGO Lynch見解2025、NLM「Endometriosis and cancer: a systematic review and meta-analysis」

卵巣がん・卵管がん・腹膜がんの初期症状

卵巣がんの難しさの1つは「特徴的な初期症状」が乏しいことです。国立がん研究センターは、卵巣がん・卵管がん・腹膜がんでは初期の段階でほとんど自覚症状がなく、見つかったときには進行していることも多いとしています。

一方「症状がまったくない病気」という意味でもありません。がんが大きくなったり腹腔内へ広がったりすると、おなかの張りや食事量の変化、排尿・排便の変化などが現れます。

おなかの張り・腹部膨満

卵巣がんで比較的注意したい症状の1つが、腹部膨満感です。

「体重はあまり変わっていないのにウエストがきつくなった」「以前よりおなかが張る」「下腹部が膨らんでいる感じがする」といった変化から受診につながることがあります。腫瘍そのものが大きくなる場合もあれば、腹水が増えることで腹囲が大きくなる場合もあります。

もちろん、腹部膨満は便秘や胃腸疾患などでも起こります。症状の存在だけで卵巣がんを疑うのではなく、これまでにはなかった張りが続く、徐々に強くなる、ほかの症状も伴うといった変化があれば婦人科で相談するという考え方が現実的です。

食欲低下・すぐ満腹になる

「以前と同じ量を食べられなくなった」「少し食べただけですぐ満腹になる」という変化がみられることもあります。

腫瘍や腹水によって腹腔内が圧迫されることなどが関係します。国立がん研究センターは食欲低下を症状の1つとして挙げ、米国国立がん研究所(NCI)も「食べにくい・すぐ満腹になる」ことを卵巣・卵管・腹膜がんでみられる症状として挙げています。

胃の病気だけだと思って消化器科を受診した後、画像検査で卵巣や腹膜の異常が見つかることもあり得ます。症状だけで発生臓器を判断するのが難しい病気だということです。

頻尿・便秘・下腹部の圧迫感

卵巣は膀胱や直腸に近いため、腫瘍が大きくなると周囲の臓器を圧迫することがあります。

膀胱が圧迫されればトイレが近くなることがあり、直腸側への圧迫などによって便秘が起こることもあります。下腹部の圧迫感、腹痛、骨盤内の違和感などを感じる場合もあります。

頻尿も便秘も日常的によくある症状なので、単独では卵巣がん特有の症状とはいえません。しかし、これまでなかった症状が続き、おなかの張りや食欲の変化なども重なっている場合には、婦人科疾患を含めて調べる理由になります。

腹水がたまるとおなかが大きくなる

進行した卵巣がん・卵管がん・腹膜がんでは、腹水がたまることがあります。

がんが腹膜へ広がると腹膜の機能やリンパの流れなどに影響し、腹腔内に液体が蓄積します。腹水が増えると、おなかが前へ張り出す、体重が増える、食事が取りにくい、息苦しいといった問題につながることがあります。

腹水があるから直ちにステージⅣというわけではありません。腹水の量だけでステージが決まるわけではなく、がんがどこまで広がっているか、腹水中にがん細胞があるかなどを含めて評価します。

症状が続く場合は婦人科を受診する

卵巣がんの症状には、便秘、腹部膨満、食欲低下、頻尿など「よくある体調不良」に見えるものが多く含まれています。

「おなかが張ったら卵巣がん」と考える必要はありません。一方で、症状が自然に改善せず続いている、徐々に悪化している、複数の症状が同時に出てきた場合には、婦人科で超音波検査などを受ける理由になります。NCIも、こうした症状が悪化する、あるいは自然に消えない場合には医療機関へ相談するよう案内しています。

特に閉経後に新しく腹部膨満や骨盤内の違和感などが出てきた場合には、「年齢のせい」「胃腸が弱くなっただけ」と自己判断し続けず、一度評価を受けることが大切です。

参考:国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がんについて」

卵巣がん・卵管がん・腹膜がんの検査と診断

卵巣がんが疑われた場合、最初から1つの検査だけで診断するわけではありません。

内診や超音波検査で卵巣・骨盤内を確認し、CTやMRIで腫瘍の性状や広がりを調べ、CA125などの腫瘍マーカーも参考にします。しかし最終的に「がんなのか」「何という組織型なのか」を確定するには、病変の組織を顕微鏡で調べる病理検査が必要です。

内診・経腟超音波検査

婦人科では、まず腹部の触診や内診などを行い、子宮や卵巣の大きさ、腫瘤の有無などを確認します。

経腟超音波検査では、細い超音波プローブを腟内へ入れ、子宮や卵巣を体の近くから観察します。卵巣腫瘍の大きさ、内部が液体なのか充実性なのか、形状、周囲の臓器との位置関係などを調べることができます。

超音波で「腫瘍がある」ことが分かっても、それだけで良性・境界悪性・悪性を100%判定できるわけではありません。画像所見、年齢、腫瘍マーカーなどを組み合わせて悪性の可能性を評価し、必要な検査や手術を考えます。

CT・MRIで腫瘍と腹膜播種・転移を評価する

CTは、卵巣だけでなく腹部から胸部まで広い範囲を調べるのに向いています。リンパ節転移、腹膜播種、肝臓や肺などへの遠隔転移が疑われないかを確認し、治療計画を立てるためにも使われます。

MRIは特に骨盤内の構造を詳しく見ることができ、腫瘍内部の性状や、子宮・膀胱・直腸など周囲臓器との位置関係などを評価するために行われます。

画像検査は「がんらしいか」「どこまで広がっていそうか」を判断するために非常に重要ですが、最終的な組織型を決める検査ではありません。

CA125などの腫瘍マーカー

卵巣がん・卵管がん・腹膜がんでは、血液検査でCA125などの腫瘍マーカーを測定することがあります。

CA125が高ければ卵巣がんが確定するわけではありません。反対に、CA125が正常だから卵巣がんではないとも言い切れません。国立がん研究センターも、腫瘍マーカーだけではがんの診断や進行・転移の判断はできず、画像検査や病理検査などと組み合わせて評価するとしています。

診断後には、治療によって値がどのように変化しているかをみることで治療効果を判断する材料になったり、治療後の経過観察で参考にしたりすることもあります。その場合もCA125だけで再発の有無や治療開始を決めるわけではありません。

病理検査で良性・境界悪性・悪性と組織型を確定する

がんかどうかを最終的に判断するには病理検査が必要です。

手術などで採取した組織を顕微鏡で詳しく調べ、良性なのか、境界悪性なのか、悪性なのかを確認します。悪性であれば、漿液性がん、明細胞がん、類内膜がん、粘液性がんなどの組織型も判定します。

手術中に「悪性の可能性が高いか」を判断し、その場で手術範囲を決める必要があるときには術中迅速病理診断を行うことがあります。ただし迅速診断は時間や採取できる組織量に制約があり、手術後に時間をかけて行う最終病理診断と結果が異なる場合もあります。

最終的な病理結果が出るまでには一定の時間がかかるため、手術直後には「卵巣がんの可能性が高い」と説明され、その後の病理結果で正式な組織型や治療方針が決まることがあります。

「がんが疑われても手術まで確定診断できない」ことがある理由

胃がんや大腸がんでは、内視鏡で病変の一部を採取して手術前に病理診断をつけられることが一般的です。

卵巣がんでは事情が異なります。卵巣や卵管は腹腔の奥深い場所にあり、皮膚の上から簡単に組織を採取できる臓器ではありません。さらに、状況によっては腫瘍へ針を刺すことで内容物が腹腔内へ漏れることなども考慮しなければなりません。

画像検査などで卵巣がんが疑われ、最初から切除可能と考えられる場合には、手術で腫瘍を摘出し、その組織を病理検査することで確定診断と治療を同時に進めることがあります。国立がん研究センターも、卵巣・卵管は組織採取が容易ではないため、手術によって病変を採取して診断する場合があると説明しています。

つまり「手術前なのに、まだ100%がんとは確定していない」という状態があり得るのが卵巣腫瘍の特徴です。

最初から手術が難しい場合は診査腹腔鏡・針生検を行うことがある

画像検査の段階で腹膜播種が広範囲にあり、最初の手術で腫瘍を十分に取り除くことが難しいと予想される場合には、いきなり大きな腫瘍減量手術を行わないことがあります。

診査腹腔鏡で腹腔内を観察して組織を採取したり、CTなどで位置を確認しながら針生検を行ったりして、まず病理診断をつけます。そのうえで抗がん剤による術前化学療法を行い、腫瘍を小さくしてから手術する「NAC+IDS」という治療を検討します。

最初に「生検をして抗がん剤から始めます」と説明されたとしても、それだけで「もう手術ができない末期がん」という意味ではありません。後から手術を組み込むことを前提にした治療戦略である場合があります。

この点は治療選択を理解するうえで非常に大きいため、後の「術前化学療法とインターバル腫瘍減量術」の章で詳しく説明します。

参考:国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 検査」、日本婦人科腫瘍学会『卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2025年版』

卵巣がん・卵管がん・腹膜がんのステージ|3つは共通の進行期分類で考える

卵巣がん・卵管がん・腹膜がんでは、がんの広がりをⅠ期からⅣ期までの進行期で表します。

治療を考えるうえでステージは重要ですが、ほかのがんの感覚だけで判断すると誤解しやすい部分があります。特に覚えておきたいのが、腹膜播種があるからといって、必ずしもステージⅣではないという点です。

現在の進行期分類の大きな区分は次のようになります。

ステージ 主ながんの広がり
Ⅰ期 卵巣または卵管内に限局している
Ⅱ期 骨盤内の臓器などへ広がっている、または原発性腹膜がん
Ⅲ期 骨盤外の腹膜播種や後腹膜リンパ節転移がある
Ⅳ期 胸水中のがん細胞や腹腔外転移、肝・脾などの実質転移がある

Ⅰ期|卵巣または卵管に限局

Ⅰ期は、がんが卵巣または卵管にとどまっている段階です。

同じⅠ期でも状態によってⅠA、ⅠB、ⅠCに分かれます。ⅠA期は片側の卵巣または卵管に限局し、卵巣の被膜が破れておらず、表面にもがんがなく、腹水や腹腔洗浄細胞診にもがん細胞が認められない状態です。ⅠB期は同じ条件で両側の卵巣または卵管に病変がある場合です。

ⅠC期では病変自体は卵巣・卵管にとどまっていますが、手術中に被膜が破れたⅠC1期、手術前から被膜が破れていたり表面に腫瘍があったりするⅠC2期、腹水または腹腔洗浄細胞診でがん細胞が確認されるⅠC3期に分けられます。

したがって「卵巣の中だけにあった」という説明を受けても、ⅠAなのかⅠCなのかによって術後薬物療法の必要性などが変わることがあります。

Ⅱ期|骨盤内へ広がる

Ⅱ期では、がんが卵巣・卵管から骨盤内へ広がっています。

ⅡA期は子宮や反対側の卵巣・卵管などへ広がった場合、ⅡB期は直腸、膀胱、腟など、それ以外の骨盤内臓器へ広がった場合です。原発性腹膜がんもⅡ期以上の分類の中で扱われます。

「隣の臓器に広がった」という言葉から、すぐに遠隔転移を想像する人もいますが、骨盤内への進展はⅡ期に含まれます。

Ⅲ期|腹膜播種や後腹膜リンパ節転移

Ⅲ期では、骨盤の外側まで腹膜播種が広がっている場合や、後腹膜リンパ節へ転移している場合などが含まれます。

ⅢA1期は後腹膜リンパ節転移のみ、ⅢA2期は顕微鏡で確認できる骨盤外腹膜転移、ⅢB期は最大径2cm以下の骨盤外腹膜転移、ⅢC期は2cmを超える骨盤外腹膜転移がある場合です。

卵巣がんではⅢ期であっても、手術と薬物療法を組み合わせた治療が積極的に検討されます。「Ⅲ期=手術はしない」とは限りません。むしろ進行卵巣がんでは、腹腔内に見えている腫瘍をどこまで減らせるかが、その後の経過に関係するためです。治療編では、最初に手術するPDSと、抗がん剤後に手術するNAC+IDSの違いを詳しく解説します。

Ⅳ期|腹腔外などへの遠隔転移

Ⅳ期は、腹腔内の腹膜播種とは異なる遠隔転移がある段階です。

ⅣA期は胸水の中からがん細胞が確認された場合です。単に胸水があるだけではなく、胸水細胞診で悪性細胞が認められることが分類上のポイントです。

ⅣB期には、肝臓や脾臓の「実質」、つまり臓器の内部への転移、鼠径リンパ節など腹腔外のリンパ節転移、そのほか腹腔外臓器への転移などが含まれます。

肝臓については特に混乱しやすく、肝臓の表面に腹膜播種として病変がある場合はⅢC期に含まれますが、肝臓の内部へ転移している場合はⅣB期です。

同じ「肝臓にも病変があります」という説明でも、病変が表面なのか実質内なのかで意味が異なります。

腹膜播種があるからといって必ずステージ4ではない

卵巣がんで特に多い誤解が「腹膜播種=ステージⅣ」というものです。

大腸がんや胃がんなどでは腹膜播種を遠隔転移として扱うため、その知識から卵巣がんも同じだと思いやすいのですが、卵巣がん・卵管がん・腹膜がんでは分類が異なります。

骨盤外に腹膜播種があっても、基本的にはⅢ期の範囲です。最大径2cmを超える腹膜播種でもⅢC期に分類されます。肝臓や脾臓の表面への播種もⅢC期です。Ⅳ期となるのは、胸水細胞診陽性や肝・脾の実質転移、腹腔外への転移などです。

「腹膜にたくさん広がっていると説明されたから、ステージ4だ」と自己判断することはできません。担当医から正式な進行期を確認する必要があります。

原発性腹膜がんはⅠ期には分類されない

原発性腹膜がんでは、がんそのものが腹膜に発生しているため「卵巣または卵管の中だけにとどまっている」というⅠ期の状態がありません。

現在の分類では、原発性腹膜がんはⅡ期またはⅢ期以降の枠組みで扱われます。国立がん研究センターの進行期分類でも、Ⅰ期は卵巣・卵管に限局する病態とされ、Ⅱ期には原発性腹膜がんが含まれています。

そのため「腹膜がんはⅠ期がない=診断された時点ですべて末期」という意味ではありません。そもそも発生臓器が違うため、Ⅰ期という分類が設定されていないということです。

正確な進行期が手術後に決まることが多い理由

CTやMRIでは、手術前にも「おそらくⅠ期」「Ⅲ期が疑われる」といった広がりを予測できます。

しかし、小さな腹膜播種やリンパ節の微小転移、腹水中のがん細胞など、画像だけでは分からない情報があります。卵巣がん・卵管がん・腹膜がんでは、手術時の腹腔内所見や、切除した臓器・組織の病理検査が正確な進行期を決めるうえで大きな役割を持ちます。

そのため、手術前に聞いていたステージと手術後の最終ステージが変わることもあります。

そして卵巣がんでは、このステージだけで次の治療が決まるわけではありません。どの組織型なのか、手術で目に見える腫瘍をどこまで取り除けそうなのか、最初から手術を行う方がよいのか、先に抗がん剤を使う方がよいのかという判断が、ここからの治療選択では大きくなります。

参考:国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 治療」、日本産科婦人科学会/日本病理学会編 卵巣腫瘍・卵管癌・腹膜癌取扱い規約 臨床編 第1版補訂版

治療の全体像

卵巣がん・卵管がん・腹膜がんの治療では、手術と薬物療法を組み合わせることが基本です。ただし、すべての患者さんが「手術をしてから抗がん剤」という同じ順番で治療するわけではありません。

早期と考えられる場合には、まず手術を行って腫瘍を切除すると同時に、腹腔内の状態や病理検査から正確なステージを確認します。その結果、再発リスクが高いと判断されれば術後に薬物療法を行います。

Ⅲ期・Ⅳ期などの進行例では、最初の手術で目に見える腫瘍をどこまで取り除けるかが治療方針を決める大きな判断材料になります。国立がん研究センターも、卵巣がん・卵管がん・腹膜がんでは手術後に残ったがんが小さいほど予後が良いとしており、可能であれば肉眼的に確認できる腫瘍をできるだけ残さないことを目指します。

「手術ができるか、できないか」という二択ではなく、今すぐ手術した方が十分な腫瘍減量を期待できるのか、それとも先に抗がん剤を使った方が安全かつ十分な手術につなげやすいのかを考えることが重要になります。

早期では進行期決定手術+必要に応じて薬物療法

画像検査でⅠ期などの早期が疑われる場合でも、CTやMRIだけでは本当に卵巣・卵管内に限局しているかを完全には判断できません。小さな腹膜病変やリンパ節転移、腹水・腹腔洗浄液中のがん細胞などは、手術や病理検査を行って初めて分かる場合があります。

そこで、腫瘍を切除すると同時に腹腔内を確認し、必要な組織を採取して正確な進行期を決める「進行期決定手術」を行います。

手術後は、確定したステージ、組織型、異型度、被膜破綻の有無などを踏まえて術後化学療法の必要性を判断します。Ⅰ期であっても全員が経過観察になるわけではありませんが、逆に、適切な進行期決定手術が行われ、再発リスクが低いと判断された一部の患者さんでは、術後化学療法を省略できる場合があります。

進行例ではPDSかNAC+IDSかを考える

進行した卵巣がん・卵管がん・腹膜がんでは、大きく分けて2つの治療経路があります。

治療の流れ 主な考え方
PDSから始める 最初に一次的腫瘍減量術(PDS)を行い、できるだけ腫瘍を切除した後に薬物療法を行う
NAC+IDS 最初の手術で十分な切除が難しいと予想される場合などに、術前化学療法(NAC)を行い、その後にインターバル腫瘍減量術(IDS)を行う

どちらを選ぶかはステージだけでは決まりません。画像で確認できる腹膜播種の範囲、上腹部を含む病変の広がり、手術で肉眼的完全切除を目指せる可能性、手術による身体的負担、年齢や臓器機能などを総合して判断します。

NAC+IDSは「手術を諦めた治療」ではなく、手術を治療計画の後半へ移す戦略です。この違いを知っておくと、「なぜ自分は最初に手術をしないのか」という疑問を整理しやすくなります。

ステージⅢ・Ⅳでも手術を行うことがある

ほかのがんでは遠隔転移があると、原発巣を切除する手術が治療の中心ではなくなることがあります。そのため、「ステージⅢやⅣなら手術はできない」と考える人もいるかもしれません。

しかし、卵巣がん・卵管がん・腹膜がんでは事情が異なります。Ⅲ期では腹膜播種が広がっている場合でも腫瘍減量手術が治療の中心となり、Ⅳ期でも病変の分布や全身状態などによって手術を組み込むことがあります。

これは、原発巣である卵巣だけを取ればよいからではありません。腹腔内に存在する腫瘍全体をどこまで減らせるかが治療上大きな意味を持つためです。

「切除不能」という言葉を他のがんと同じ意味で考えない

進行卵巣がんで「今は全部取り切るのが難しい」と説明された場合、その意味を確認しておきましょう。

「現時点でPDSを行っても十分な腫瘍減量が期待しにくい」という意味であれば、NACによって腫瘍を縮小させた後にIDSを行う可能性があります。つまり、「今すぐ完全な手術をするのが難しい」と「今後も手術を行わない」は同じではありません。

治療開始時に確認したいポイント
最初にPDSを行う予定なのか、それともNACから始めるのか。
その判断になった理由は「病変の広がり」なのか「体への負担」なのか。
NACから始める場合、どの時点でIDSが可能かを再評価する予定なのか。
手術を行う場合、目標は肉眼的完全切除なのか。

参考:国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 治療」、日本婦人科腫瘍学会『卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2025年版』

卵巣がん・卵管がん・腹膜がんの手術

卵巣がんの手術は、単に「がんができた卵巣を取る手術」ではありません。

早期が疑われる場合には正確なステージを決める役割があり、進行例では腹膜などに広がった腫瘍を可能な限り減らす役割があります。そのため、病変の広がりによって手術範囲は大きく異なります。

進行期決定開腹手術とは

卵巣がん・卵管がんでは、手術前の画像検査だけでは正確なステージを決められないことがあります。早期と考えられる場合にも腹腔内を詳しく確認し、必要な組織を採取する進行期決定手術を行います。

一般的には両側の卵巣・卵管、子宮、大網などを切除し、腹水または腹腔洗浄液の細胞診、腹膜の観察や生検、必要に応じたリンパ節の評価などを行います。

「画像ではⅠ期だったのに、手術後にステージが変わった」ということがあるのは、この手術によって画像では分からなかった小さな病変が見つかることがあるためです。

一次的腫瘍減量術(PDS)とは

進行例で、初回治療としてできるだけ多くの腫瘍を取り除く手術を一次的腫瘍減量術(Primary Debulking Surgery:PDS)といいます。

卵巣がんの手術では、かつて「残存腫瘍を1cm未満にする」といった基準も用いられてきましたが、現在は可能であれば、手術終了時に肉眼で確認できる腫瘍を残さない状態を目標にします。

国立がん研究センターも、手術後に残ったがんが小さいほど予後が良いと説明しています。ただし、腫瘍を減らすためにどこまでも手術範囲を広げればよいわけではありません。完全切除を目指すメリットと、長時間手術や臓器切除による合併症、術後の回復、抗がん剤開始への影響などを合わせて判断する必要があります。

卵巣・卵管・子宮・大網などを切除する理由

標準的な手術では、両側の卵巣・卵管だけでなく、子宮や大網も切除することがあります。

大網は胃から垂れ下がる脂肪組織を含んだ膜状の組織で、卵巣がんが転移・播種しやすい場所の1つです。肉眼的な病変がはっきりしない場合でも、進行期の判定や病変の除去を目的として切除対象になります。

こうした手術範囲は、「卵巣に腫瘍があるのになぜ子宮や大網まで取るのか」と疑問を感じやすい部分です。卵巣がんの手術は原発巣だけを切除するのではなく、腹腔内の病変を評価し、再発につながる可能性のある腫瘍をできるだけ減らすという目的を持っています。

腹膜播種がある場合は周囲臓器の切除が必要になることもある

進行卵巣がんでは、腹膜、大網、腸管、横隔膜周辺などに病変が広がることがあります。がんが周囲臓器へ付着・浸潤しており、その部分を残すと肉眼的腫瘍が残ってしまう場合には、病変のある腹膜や周囲臓器の一部を合わせて切除することがあります。

たとえば腸管に病変が広がっていれば、腸の一部を切除してつなぎ直す手術が必要になる場合があります。病変の位置によっては、より広範囲な腹膜切除などが必要になることもあります。

すべての患者さんがこのような拡大手術を受けるわけではありません。実際の手術範囲は病変の分布や切除可能性、体力、合併症の危険性などによって大きく変わります。

手術前には「卵巣と子宮を取ります」という説明だけでなく、腸などの追加切除が必要になる可能性があるのか、その場合に生活へどのような影響があるのかも確認しておくと、術後の状況を想定しやすくなります。

リンパ節郭清は全員に同じように行うわけではない

卵巣がんではリンパ節にも転移することがありますが、「卵巣がんなら全員が骨盤・傍大動脈リンパ節を広範囲に郭清する」という考え方ではありません。

特に進行卵巣がんについては、腹腔内の肉眼的腫瘍を完全切除でき、手術前・手術中にリンパ節の腫大が認められない患者さんを対象としたLION試験で、骨盤・傍大動脈リンパ節を系統的に郭清しても全生存期間や無増悪生存期間の改善は認められず、重い術後合併症は増加しました。

この結果からも、リンパ節郭清は「多く取るほど良い」と単純には考えません。一方、画像や手術中の所見で転移が疑われるリンパ節がある場合や、正確な進行期評価が必要な状況などでは、リンパ節の切除・生検を行うことがあります。どの患者さんにもLION試験の結果をそのまま当てはめられるわけではない点にも注意が必要です。

上皮性卵巣がんで妊孕性温存手術を検討できる条件

通常の上皮性卵巣がんの手術では、両側の卵巣・卵管や子宮を切除するため、手術後に自分の卵子で妊娠することはできなくなります。

ただし、若く妊娠を希望しており、がんがごく早期に限られているなど一定の条件を満たす場合には、がんのない側の卵巣と卵管、子宮を残す妊孕性温存手術を検討できることがあります。

国立がん研究センターの2026年更新情報では、上皮性卵巣がん・卵管がんについて、漿液性がんまたは類内膜がんのⅠA期・ⅠC1期、あるいは明細胞がんのⅠA期などが検討可能な条件として示されています。さらに、十分な進行期評価、病変の切除、長期間の厳重な経過観察、本人の十分な理解なども必要です。

妊娠を希望している場合は、卵巣・子宮を切除した後では元に戻せないため、治療開始前に希望を伝えることが大切です。

なお、この条件は主に上皮性卵巣がんについてのものです。若年者に多い悪性胚細胞腫瘍などでは妊孕性温存の考え方が異なるため、前述した組織型の確認が重要になります。

参考:国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 治療」、日本婦人科腫瘍学会『卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2025年版』、Harter P, et al. A Randomized Trial of Lymphadenectomy in Patients with Advanced Ovarian Neoplasms. N Engl J Med. 2019.

術前化学療法とインターバル腫瘍減量術

卵巣がん・卵管がん・腹膜がんでは、診断されたらすぐに大きな手術を行うとは限りません。

進行したがんが腹腔内に広く分布しており、最初から手術をしても十分な腫瘍減量が難しいと予想される場合などには、先に抗がん剤を投与する術前化学療法(Neoadjuvant Chemotherapy:NAC)を行うことがあります。その後、治療効果を確認したうえで行う腫瘍減量手術がインターバル腫瘍減量術(Interval Debulking Surgery:IDS)です。

術前に完全切除が難しいと予想される場合

PDSを行うかNACから始めるかを考えるときには、「ステージⅢだからNAC」「ステージⅣだからNAC」と機械的に決めるわけではありません。

CTなどで病変の分布を確認し、最初から手術した場合に肉眼的完全切除を期待できるか、非常に大きな手術を必要としないか、患者さんがその手術に耐えられる状態かなどを検討します。

最初のPDSで大きな腫瘍が残ってしまう可能性が高い場合には、無理に手術を先行するより、NACで病変を縮小させてからIDSを行う方が適切と判断されることがあります。

逆に、進行例であっても最初から十分な腫瘍減量が期待でき、体の状態も手術に耐えられると判断されれば、PDSから開始することがあります。

診査腹腔鏡・生検で組織を確認する

手術を先に行う場合には、その手術で病理診断を確定できます。しかし、NACから始める場合には、抗がん剤を投与する前に「本当に卵巣・卵管・腹膜がんとして治療してよいのか」を確認する必要があります。

そのため、診査腹腔鏡で腹腔内を直接観察して組織を採取したり、CTで位置を確認しながら針生検を行ったりすることがあります。

診査腹腔鏡には病理診断のための組織を得るだけでなく、画像検査では判断しにくい腹膜播種の分布を実際に確認し、十分な腫瘍減量手術が可能かを評価する意味もあります。

NACで腫瘍を小さくしてからIDSを行う

NACでは、初回化学療法と同様にプラチナ製剤を中心とした治療を行います。一定期間治療した後、画像検査や腫瘍マーカー、全身状態などから効果を評価し、手術によって十分な腫瘍減量が期待できるようになればIDSを行います。

IDSの目的もPDSと同様に、可能な限り肉眼的腫瘍を減らすことです。その後は残りの薬物療法を行い、条件に応じて維持療法へ進みます。

PDSから始める場合
手術 → 初回化学療法 → 必要に応じて維持療法
NAC+IDSの場合
病理診断 → 術前化学療法(NAC) → 効果判定 → インターバル腫瘍減量術(IDS) → 薬物療法 → 必要に応じて維持療法

「最初に抗がん剤=手術できない末期」とは限らない

患者さんにとって混乱しやすいのが、「手術より先に抗がん剤を行う」と説明されたときです。

最初に抗がん剤を行うことは、「今後も手術ができない」「治すことを諦めた」という意味ではありません。NAC+IDSという一連の治療計画として、最初から後の手術を想定していることがあります。

NACを提案された場合には「なぜPDSではなくNACなのか」だけでなく、「どのような状態になればIDSを行えるのか」「いつ手術可能性を再評価するのか」まで確認すると、自分の治療計画を理解しやすくなります。

参考:国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 治療」、日本婦人科腫瘍学会『卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2025年版』

初回薬物療法|TC療法を中心に治療する

卵巣がん・卵管がん・腹膜がんでは、手術だけで治療が終了する患者さんは限られています。特に進行例では、手術で肉眼的な腫瘍を取り除けたとしても、目に見えないがん細胞が残っている可能性があるため、薬物療法を組み合わせます。

また、NACから治療を始める患者さんでは、薬物療法そのものが手術へつなげるための重要な役割を持ちます。

パクリタキセル+カルボプラチン(TC療法)が基本

上皮性卵巣がん・卵管がん・腹膜がんの初回化学療法では、パクリタキセル+カルボプラチンを組み合わせるTC療法が基本となります。

カルボプラチンはプラチナ製剤と呼ばれる抗がん剤で、がん細胞のDNAに作用して増殖を妨げます。パクリタキセルは細胞分裂に必要な微小管に作用する薬です。異なる仕組みを持つ2剤を組み合わせることで治療効果を高めます。

特に高異型度漿液性がんはプラチナ製剤を含む化学療法に反応しやすい性質がありますが、再発することも少なくないため、初回化学療法の効果だけでなく、その後の維持療法まで含めて治療計画を考えるようになっています。

TC療法では、白血球や血小板の減少、脱毛、吐き気などに加え、パクリタキセルによる手足のしびれが問題になることがあります。副作用の程度は患者さんによって異なり、治療を続けるうえでは「効いているか」だけでなく「生活への影響をどの程度許容できるか」も重要です。副作用については後の章で詳しく扱います。

TC療法が難しい場合の選択肢

TC療法が標準だからといって、すべての患者さんに同じ2剤を同じように投与できるわけではありません。

アレルギー反応、末梢神経障害、体力や臓器機能などの理由からTC療法が適さない場合には、ドセタキセル+カルボプラチン(DC療法)や、リポソーム化ドキソルビシン+カルボプラチン(PLD-C療法)などを検討します。複数の抗がん剤を組み合わせることが難しい場合には、カルボプラチン単剤が検討されることもあります。

「標準治療と違う薬になった=治療の質が下がった」とは限りません。なぜ変更するのか、治療効果と副作用のどちらを考慮した変更なのかを確認しましょう。

Ⅲ・Ⅳ期ではベバシズマブを併用することがある

進行期がⅢ期・Ⅳ期の場合には、TC療法などにベバシズマブを加えることがあります。

ベバシズマブは、がんが新しい血管をつくるために利用するVEGFという因子の働きを抑える分子標的薬です。細胞障害性抗がん剤とは作用の仕組みが異なり、初回化学療法に併用した後、そのまま維持療法として継続する場合があります。

ベバシズマブには高血圧、蛋白尿、血栓症、出血、創傷治癒への影響、まれではあるものの消化管穿孔など、通常の抗がん剤とは異なる副作用があります。病変の状態や手術時期、既往症などを踏まえて使用できるかを判断します。

Ⅰ期では組織型・病期によって術後化学療法を省略できる場合もある

「卵巣がんになったら必ず抗がん剤を受ける」とは限りません。

進行期決定手術によって早期であることが十分に確認され、組織型や異型度などから再発リスクが低いと判断される一部のⅠ期では、術後化学療法を行わず経過観察とする場合があります。

同じⅠ期でも、ⅠC期であったり、再発リスクの高い組織型・病理学的特徴があったりすれば、術後化学療法を検討します。

手術後には「ステージⅠだった」という情報だけでなく「ⅠA・ⅠCなどのどこに該当するのか」「組織型と異型度は何か」「なぜ抗がん剤を行う、または行わないのか」まで確認すると、これからの生活への影響を理解しやすくなります。

組織型によって薬物療法の効き方や選択が異なる

前半で説明した「組織型」は、病理診断だけで終わる情報ではありません。

高異型度漿液性がん、明細胞がん、低異型度漿液性がんなどでは生物学的な性質が異なり、抗がん剤への反応にも違いがあります。ただし、組織型が違うから初回治療の抗がん剤を必ず別のものに変える、というほど単純ではありません。

初回治療ではTC療法を中心とした治療が広く用いられる一方、組織型の違いは再発時の治療選択でさらに大きな意味を持つようになっています。

その代表例が卵巣明細胞がんです。2026年にはPIK3CA遺伝子変異のある既治療卵巣明細胞がんに対する新しい分子標的薬が国内承認され、「病理で何型だったのか」が後の遺伝子検査と治療薬の選択につながるようになりました。

高齢者では年齢だけでなく体力・臓器機能をみて治療を調整する

高齢の患者さんでは、「この年齢なら抗がん剤は無理なのでは」と考えることがあります。しかし、年齢だけで治療の可否や薬の量を一律に決めることはできません。

同じ80歳でも、日常生活を自立して送っていて臓器機能が保たれている人と、複数の持病があり身体機能が大きく低下している人では、治療に耐えられる可能性が異なります。年齢に加えて全身状態、腎機能などの臓器機能、持病、栄養状態、日常生活動作などを評価し、必要に応じて薬剤や投与量を調整します。

反対に「若いから標準量を必ず投与できる」とも限りません。治療量は暦年齢だけではなく、その人の体の状態と副作用を見ながら調整します。

参考:国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 治療」、日本婦人科腫瘍学会『卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2025年版』

初回治療で確認するBRCA・HRD|遺伝学的検査と腫瘍検査の違い

現在の卵巣がん治療では、病理検査で組織型を確認するだけでなく、BRCA1・BRCA2やHRDなど、がん細胞のDNA修復に関係する情報が治療選択に使われます。

特にⅢ期・Ⅳ期で初回治療が効いた後に維持療法を考える場合、BRCAやHRDの結果によって選択肢が変わることがあります。「再発してから遺伝子検査を考える」のではなく、初回治療の段階から必要な検査を考えておくことが重要です。

また、BRCA検査には「自分が生まれつき持っている遺伝子変化を調べる検査」と「がん組織の中にある変化を調べる検査」があり、意味は同じではありません。

検査・情報 主に何を調べるか 主な意味
生殖細胞系列BRCA(gBRCA) 血液などから、生まれつきBRCA1/2病的バリアントを持つか調べる 治療薬の選択に加え、HBOCや血縁者への影響を考える材料になる
腫瘍BRCA(tBRCA) がん組織のBRCA1/2病的バリアントを調べる PARP阻害薬などの治療選択に関係する。結果だけでは生まれつきの変化か、腫瘍だけの変化か区別できない場合がある
HRD DNAの相同組換え修復機能が低下している特徴があるかを評価する 主に初回治療後の維持療法を選択する材料になる

BRCA1/2検査には「治療」と「遺伝」の両方の意味がある

BRCA1・BRCA2は、傷ついたDNAを修復する仕組みに関係する遺伝子です。これらの遺伝子が正常に働かなくなると、DNAの修復がうまくできなくなり、がんの発生につながることがあります。

卵巣がんではBRCAの状態がPARP阻害薬による維持療法の選択に関係します。BRCA検査は「遺伝性の病気かどうかを知るためだけの検査」ではありません。

生殖細胞系列のBRCA1/2病的バリアントが確認された場合には、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)として本人の乳がんなどのリスクだけでなく、血縁者にも同じ病的バリアントが受け継がれている可能性を考える必要があります。

つまりBRCA検査は、今の卵巣がんにどの薬を使うかという情報と、本人・家族の将来のがんリスクに関する情報の両方を含む点が特徴です。

生殖細胞系列と腫瘍BRCAは同じではない

がん組織でBRCA病的バリアントが見つかっても、それが必ず生まれつき持っていたものとは限りません。

体のすべての細胞に存在する病的バリアントを生殖細胞系列(germline)の病的バリアント、がん細胞ができる過程で腫瘍の中だけに生じたものを体細胞(somatic)の病的バリアントといいます。

腫瘍組織を使ったHRD検査などからBRCA病的バリアントが見つかった場合、その結果だけでは「生まれつきなのか、がん細胞だけなのか」を区別できないことがあります。その場合には、必要に応じて血液などを用いた遺伝学的検査を行います。

混同しやすいポイント
BRCA陽性=必ず遺伝性、とは限らない。
BRCA陰性=必ずHRD陰性、ではない。
HRD陽性=必ずHBOC、ではない。

HRD検査は維持療法の選択に関係する

HRDはHomologous Recombination Deficiency(相同組換え修復欠損)の略で、DNAが大きく傷ついたときに修復する仕組みがうまく働いていない状態を指します。

BRCA1・BRCA2の異常はHRDを起こす代表的な原因ですが、HRDはBRCA以外の原因でも生じます。BRCAだけを調べることとHRDを評価することは同じではありません。

現在、進行卵巣がんで初回治療に効果が得られた場合には、このBRCA・HRDの状態を踏まえてPARP阻害薬やベバシズマブを含む維持療法を検討します。

HRD検査は「がんが遺伝するかどうか」を判定する検査ではなく、主として腫瘍のDNA修復機能の特徴を調べ、治療選択に役立てる検査です。

家族にも関係する結果では遺伝カウンセリングを考える

生殖細胞系列BRCA1/2病的バリアントが確認された場合、その結果は患者さん本人だけの問題ではなくなります。血縁者も同じ病的バリアントを持っている可能性があり、乳がんや卵巣がんなどの発症リスクを考えるきっかけになるためです。

検査結果を家族にどう伝えるか、誰が検査を受けるのかという問題には、心理的・家族関係上の負担も伴います。必要に応じて遺伝カウンセリングを利用し、検査の意味や血縁者への影響を整理しながら判断します。

参考:国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 治療」、日本婦人科腫瘍学会「卵巣癌患者に対してコンパニオン診断としてHRDの検査を実施する際の考え方」、日本婦人科腫瘍学会「卵巣癌患者に対してコンパニオン診断としてBRCA1あるいはBRCA2の遺伝学的検査を実施する際の考え方」

維持療法|手術と抗がん剤が終わった後も治療を続けることがある

以前は、手術と抗がん剤が終わり、画像上がんが消えたり小さくなったりすれば、いったん治療を終了して経過観察に入ることが一般的でした。

現在の進行卵巣がんでは、初回治療が効いた後にその状態をできるだけ長く保ち、再発や病気の進行までの期間を延ばすことを目的として「維持療法」を行う場合があります。

したがって「抗がん剤が終わったのに、まだ薬を飲むのは治療が効かなかったから」という意味ではありません。むしろ、初回治療に反応したからこそ、その効果を維持するために行う治療です。

維持療法は何のために行うのか

卵巣がん、とりわけ進行した高異型度漿液性がんでは、初回のプラチナ製剤を含む治療によって腫瘍が大きく縮小しても、その後に再発することがあります。

維持療法は、目に見える腫瘍を大量に減らすことを主目的とした治療ではなく、治療によって得られた状態を長く維持し、がんが再び増えるまでの時間を延ばすことを目的とします。

国立がん研究センターは、Ⅲ期・Ⅳ期で初回手術と薬物療法を終え、がんが見つからない状態または縮小している場合に維持療法を行うと説明しています。

PARP阻害薬|オラパリブ・ニラパリブ

維持療法で重要な薬剤の1つがPARP阻害薬です。国内ではオラパリブやニラパリブが使用されています。

PARPはDNAの傷を修復する働きに関係する酵素です。PARPの働きを薬で妨げることで、DNA修復能力が低下しているがん細胞を増殖しにくくすることを狙います。

特にBRCA1/2に病的バリアントがある腫瘍では相同組換え修復がうまく働かないため、PARPをさらに阻害することが治療につながります。また、BRCA以外の理由でHRDとなっている腫瘍でも、維持療法の効果とHRDの状態が関係します。

ただし、PARP阻害薬は「BRCA・HRDの結果だけを見れば自動的に薬が決まる」ものではありません。使用できる薬や組み合わせは、初回治療の内容、ベバシズマブを使用したか、治療への反応、病期、薬の適応条件なども踏まえて決めます。

ベバシズマブ

Ⅲ期・Ⅳ期などで初回化学療法にベバシズマブを加えた場合には、化学療法が終了した後もベバシズマブを維持療法として継続することがあります。

また、HRDなどの条件によってはPARP阻害薬との組み合わせを検討する場合があります。

ベバシズマブは点滴、PARP阻害薬は内服薬であり、通院方法や日常生活への影響も異なります。維持療法は比較的長期間続くことがあるため、治療効果だけでなく、副作用や通院負担、仕事や家庭生活との両立も含めて考える必要があります。

BRCA・HRD結果によって維持療法の選択が変わる

現在の維持療法では、「初回治療が効いたか」だけでなく、BRCA1/2病的バリアントの有無やHRDの状態を確認する意味が大きくなっています。

このため、初回抗がん剤が終わってから慌てて検査を考えるより、治療途中から「維持療法を考えるときに必要なBRCA・HRDの結果がそろっているか」を確認しておくと、次の治療を検討しやすくなります。

維持療法を考えるときに確認したいこと
初回治療にどの程度反応したか。
BRCA1/2病的バリアントがあるか。
HRD陽性か、それ以外か。
初回治療でベバシズマブを使用したか。
維持療法で期待する効果と、想定される副作用は何か。

維持療法をしない選択になる場合もある

維持療法が登場したからといって、卵巣がんの患者さん全員が何らかの薬を飲み続けなければならないわけではありません。

病期や再発リスク、初回治療の結果、BRCA・HRDの状態、これまで使用した薬、副作用や持病などによっては、維持療法を行わず経過観察とすることがあります。

また、薬を使える条件に該当していても、期待できる効果と副作用・生活への影響を比較して判断する場面があります。

維持療法を行わないことと、「治療を何もしていない」ことは同じではありません。経過観察も、定期的に病状を確認しながら必要な時点で次の治療へつなげる治療方針の1つです。

参考:国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 治療」、日本婦人科腫瘍学会「HRD検査を実施する際の考え方」、日本婦人科腫瘍学会『卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2025年版』

再発した卵巣がん・卵管がん・腹膜がんの治療

卵巣がん・卵管がん・腹膜がんは、初回治療によって画像上がんが認められない状態になっても、後に再発することがあります。

再発した場合には、「最初にステージⅢだったからこの治療」と初回のステージだけで考えるのではなく、現在どこに再発しているのか、前回の治療からどれくらい時間がたっているのか、これまでどの薬を使ったのか、どの薬が効いたのかをあらためて整理します。

さらに現在は、PIK3CAやFRα、MSI/MMRなどのバイオマーカーや、がん遺伝子パネル検査によって次の治療候補を探す場面もあり、初回治療以上に個人差が大きくなります。

再発では「最初のステージ」より現在の病状を見る

再発とは、一度治療によって見えなくなった、あるいは抑えられていたがんが再び確認されることです。腹膜に再発する場合もあれば、リンパ節やほかの臓器に病変が現れる場合もあります。

再発後は通常、「ステージⅢからステージⅣになった」というように最初からステージを付け直して治療を決めるわけではありません。

治療選択では、再発した場所と範囲、症状、手術で切除できる可能性、前回のプラチナ製剤から再発までの期間、過去のベバシズマブ・PARP阻害薬などの使用歴、組織型やバイオマーカー、全身状態などを見ます。

プラチナ製剤が再び効く可能性をどう考えるか

再発治療で大きな判断材料になるのが、カルボプラチンなどのプラチナ製剤をもう一度使うことで効果を期待できるかという点です。

一般に、最後のプラチナ製剤による治療から長い期間が経過して再発したほど、再びプラチナ製剤が効く可能性は高くなる傾向があります。反対に、プラチナ製剤による治療中または治療終了後早期に再発した場合には、同じ系統の薬が効きにくい可能性を考えます。

国立がん研究センターの患者向け情報では、再発まで6カ月以上の場合には複数の抗がん剤による治療を中心に検討し、6カ月未満の場合には初回とは異なる抗がん剤の単剤治療などを検討すると説明しています。

なお、2026年8月24日には、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)についても「白金系抗悪性腫瘍剤抵抗性の再発卵巣がん」への適応追加が薬事審議会で了承されました。記事執筆時の2026年9月3日時点では正式承認後の最終的な適応条件を確認する段階にあるため、実際の対象患者や併用療法については最新の添付文書を確認する必要があります。

プラチナ感受性再発とプラチナ抵抗性再発

従来、プラチナ製剤による治療終了から再発までの期間が6カ月以上であれば「プラチナ感受性再発」、6カ月未満であれば「プラチナ抵抗性再発」と整理する方法が広く使われてきました。

6カ月を超えた瞬間に薬が効くようになったり、6カ月未満ならまったく効かなくなったりするわけではありません。実際の治療では、前回のプラチナ製剤への反応、治療終了からの期間、これまでの治療歴、残っている副作用なども含めて判断します。

それでも、この6カ月という区分は患者さんが再発治療の大まかな考え方を理解するうえでは役立ちます。

再発まで6カ月以上の場合
プラチナ製剤を含む併用療法を再び検討しやすく、条件によって分子標的薬やその後の維持療法も考える。
再発まで6カ月未満の場合
プラチナ製剤が効きにくい可能性を考え、別の細胞障害性抗がん剤を中心に、必要に応じて分子標的薬などを組み合わせる。

PARP阻害薬・ベバシズマブ使用後では次の治療選択が変わる

現在の卵巣がん治療では、初回治療後からベバシズマブやPARP阻害薬を使用する患者さんが増えています。そのため、再発したときには「過去に何を使ったか」が以前より重要になっています。

同じプラチナ感受性再発でも、PARP阻害薬を使ったことがない患者さんと、PARP阻害薬の維持療法中に再発した患者さんでは、その後の治療を同じようには考えられません。ベバシズマブについても、未使用なのか、使用中または使用後に再発したのかによって検討する内容が変わります。

再発時には薬の名前だけでなく、「何次治療で使ったか」「どのくらい効いたか」「治療中に再発したのか、終了後に再発したのか」を治療歴として整理することが重要です。

再発でも選ばれた患者さんでは手術を検討する

再発したら必ず薬物療法だけになるわけではありません。病変が限られており、手術で肉眼的に完全切除できる可能性が高いなど、条件を満たす一部の患者さんでは再発腫瘍減量手術(二次的腫瘍減量術)を検討します。

再発手術については「手術をすれば必ず生存期間が延びる」と単純にはいえません。

DESKTOP III試験では、初回手術で完全切除できている、全身状態が良好、腹水が少ないなどの基準で選択されたプラチナ感受性の初回再発患者を対象に、手術+化学療法群で化学療法単独群より全生存期間の延長が示されました。一方、別のGOG-0213試験では、再発手術による全生存期間の延長は示されませんでした。

この違いからも、再発手術では「手術できるか」だけでなく、「肉眼的完全切除を期待できる患者さんを適切に選べるか」が重要と考えられます。

病変が広範囲に広がっている場合や完全切除が難しい場合には、手術による負担だけが大きくなる可能性があります。再発時に手術を提案された場合は、「なぜ自分が手術候補なのか」「完全切除できる可能性をどう評価しているのか」を確認するとよいでしょう。

PIK3CA|卵巣明細胞がんでは遺伝子変異が治療選択につながる

2026年、日本の卵巣がん治療で大きく変わった点の1つが、PIK3CA遺伝子変異を有する卵巣明細胞がんに対する治療です。

2026年3月23日、PI3Kα阻害薬リソバリシブ(商品名:ハイツエキシン)が、「がん化学療法後に増悪したPIK3CA遺伝子変異を有する卵巣明細胞癌」を対象として国内承認されました。7月15日に薬価収載され、7月28日に発売されています。

使用にあたっては、腫瘍にPIK3CA遺伝子変異があることを確認する必要があります。PMDAが公表しているコンパニオン診断薬の一覧では、卵巣明細胞がんに対するリソバリシブの適応判定に「AmoyDx PIK3CA変異検出キット」が示されています。

これは、前半で説明した「卵巣がんは組織型まで知る必要がある」という話が、実際の治療に直接つながる例です。

高異型度漿液性がんを中心に発展してきたBRCA・HRD・PARP阻害薬とは別に、明細胞がんではPIK3CAという分子情報が治療選択につながるようになりました。

「卵巣がんだからPIK3CA検査を全員に行う」という意味ではなく、特に卵巣明細胞がんで、化学療法後に病勢が進行した場合に治療選択へつながる可能性がある検査です。

参考:PMDA「ハイツエキシン錠10mg 承認審査情報」、大鵬薬品工業「PI3Kα阻害剤 ハイツエキシン錠10mg 国内新発売のお知らせ」

FRα|今後の再発治療選択に関わる重要なバイオマーカー

FRα(葉酸受容体α)は、一部の卵巣がん細胞の表面に多く発現しているタンパク質です。特に再発卵巣がんで、FRαを標的とした治療につなげるためのバイオマーカーとして注目されています。

日本婦人科腫瘍学会は2026年7月1日、「卵巣癌患者に対してコンパニオン診断として葉酸受容体αの検査を実施する際の考え方」を公表しました。2025年版ガイドライン発刊後にも、この領域の診療が更新されていることを示す動きです。

FRα陽性のプラチナ製剤抵抗性再発卵巣がんを対象とする薬として、FRαを標的に抗がん作用を持つ薬剤をがん細胞へ届ける抗体薬物複合体(ADC)ミルベツキシマブ ソラブタンシンがあります。

ただし国内での位置付けには注意が必要です。武田薬品工業は2026年1月30日に、日本でFRα陽性のプラチナ製剤抵抗性再発卵巣がんを対象として製造販売承認申請を行ったと公表し、2026年8月24日に厚生労働省の薬事審議会・医薬品第二部会で、FRα陽性の白金系抗悪性腫瘍剤抵抗性の再発卵巣がんに対するミルベツキシマブ ソラブタンシン(エラヒア)の承認が了承されました。

この記事を執筆した2026年9月3日時点では、正式な国内承認取得を確認できていないため、正式承認後に最新の添付文書や適応条件を確認する必要があります。

承認申請に加えて日本婦人科腫瘍学会がコンパニオン診断についての見解を公表していることから、FRαは今後の再発治療を考えるうえで注目度の高いバイオマーカーといえます。

参考:日本婦人科腫瘍学会「見解・指針」、武田薬品工業「葉酸受容体α陽性のプラチナ製剤抵抗性の再発卵巣がんに対するミルベツキシマブ ソラブタンシンの日本における製造販売承認申請について」

MSI/MMRやがん遺伝子パネル検査で治療候補を探すこともある

再発・進行した卵巣がんでは、BRCA、HRD、PIK3CA、FRα以外の分子情報が治療につながる場合もあります。

その1つがMSI(マイクロサテライト不安定性)・MMR(ミスマッチ修復)です。DNAの複製エラーを修復するMMR機能が低下すると、MSI-Highという特徴が生じることがあります。

MSI-Highを有する進行・再発の固形がんでは、標準的な治療が困難な場合など一定の適応条件のもとで、免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブが治療候補となることがあります。これは「卵巣がん専用の薬」というより、がんの発生臓器を越えて特定のバイオマーカーをもとに治療する考え方です。

また、標準治療が終了した、あるいは終了が見込まれる段階などでは、がん遺伝子パネル検査(CGP:Comprehensive Genomic Profiling)を検討することがあります。

CGPでは多数の遺伝子を一度に調べ、治療につながる可能性がある遺伝子異常を探索します。ただし、異常が見つかっても必ず対応する薬があるとは限らず、薬が見つかってもそのがんでは保険適用外であったり、臨床試験への参加が必要だったりする場合があります。

がん遺伝子パネル検査は、BRCAやHRDなど標準治療を選ぶために必要な検査の代わりに最初から行う検査ではありません。標準治療に必要なコンパニオン診断と、治療候補を広く探すCGPは目的が異なります。

再発治療では、従来の「どの抗がん剤を次に使うか」という判断に加え、組織型、これまでの治療歴、プラチナ製剤への反応、手術可能性、そして治療につながるバイオマーカーがあるかを組み合わせて治療を考える時代になっています。

参考:国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 治療」、国立がん研究センター「がんゲノム医療 もっと詳しく」、PMDA「ペムブロリズマブ 最適使用推進ガイドライン」、日本婦人科腫瘍学会『卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2025年版』、Harter P, et al. Randomized Trial of Cytoreductive Surgery for Relapsed Ovarian Cancer. N Engl J Med. 2021.、Coleman RL, et al. Secondary Surgical Cytoreduction for Recurrent Ovarian Cancer. N Engl J Med. 2019.

放射線治療・腹水・腸閉塞・緩和ケア/支持療法

卵巣がん・卵管がん・腹膜がんでは、手術と薬物療法が治療の中心です。しかし、進行や再発によって痛み、腹水、腸閉塞などが起こった場合には、「がんを小さくする治療」だけでなく、今ある症状を軽くして食事や睡眠、外出などの日常生活を保つための治療も重要になります。

こうした治療には放射線治療や腹水への処置、腸閉塞への対応、痛みの治療などが含まれます。これらは抗がん治療を諦めた後だけに行うものではありません。がんそのものへの治療と、症状を和らげる緩和ケア・支持療法を同時に進めることがあります。

放射線治療は初回治療の中心ではない

放射線治療は多くのがんで重要な治療法ですが、卵巣がん・卵管がん・腹膜がんでは、通常、初回治療の中心にはなりません。

卵巣がんは腹膜や大網など腹腔内の広い範囲へ病変が広がることがあり、その範囲全体へ十分な量の放射線を照射しようとすると、腸管、肝臓、腎臓など正常な臓器も照射範囲に含まれてしまうためです。

国立がん研究センターも、十分な線量を安全に照射することが難しいことから、卵巣がん・卵管がん・腹膜がんに対する最初の治療として放射線治療は推奨されていないと説明しています。

初回治療では「手術・抗がん剤・分子標的薬・維持療法」が大きな軸となり、放射線治療は別の役割で使われることが一般的です。

再発病変の痛みなどに放射線を使うことがある

初回治療の中心ではない一方、再発後に限られた場所の病変が症状を起こしている場合には、放射線治療が役立つことがあります。

たとえば骨やリンパ節などの病変によって強い痛みがある場合には、その場所へ放射線を照射することで痛みを軽減できることがあります。出血の原因となっている局所病変や、脳転移などに放射線治療を検討する場合もあります。

このように、再発卵巣がんで行う放射線治療では、体内すべてのがんを放射線で治療するのではなく、「今、生活を大きく妨げている特定の病変を局所的に治療する」という役割を持つことがあります。

薬物療法と放射線治療のどちらか一方だけを選ぶとは限らず、病変の場所や症状によって組み合わせることもあります。

腹水がたまった場合の対応

卵巣がん・卵管がん・腹膜がんが腹膜へ広がると、腹腔内に腹水がたまることがあります。腹水が少ないうちは症状がほとんどない場合もありますが、量が増えるとおなかが張る、食事を少量しか食べられない、横になると苦しい、息切れがする、動きにくいといった問題が起こります。

腹水を伴う場合でも、まず可能であれば薬物療法によってがんそのものを抑えることを考えます。治療が効いて腹膜の病変が縮小すれば、腹水も減ることがあるためです。

腹水による苦痛が強い場合には、腹腔に針や管を入れて腹水を排出する腹水穿刺・腹水ドレナージを行うことがあります。患者さんの状態や腹水の性質によっては、利尿薬を使用したり、採取した腹水から細胞などを除いてタンパク成分を濃縮し、体内に戻す腹水濾過濃縮再静注法(CART)などを検討したりする場合もあります。

ただし、腹水を抜けばがんそのものが治るわけではありません。また、一度抜いても再びたまることがあります。

腹水治療では「何リットルたまっているか」だけでなく、食事ができるか、呼吸が苦しくないか、眠れるか、外出できるかといった生活への影響を見ながら、処置を行う時期を考えます。

悪性腸閉塞が起きた場合の治療

進行・再発した卵巣がんでは、腹膜播種によって腸が圧迫されたり、腸の動きが悪くなったりして、食べ物や消化液が腸を通れなくなる悪性腸閉塞が起こることがあります。

また、がんそのものではなく、過去の腹部手術によって生じた癒着が原因で腸閉塞が起こる場合もあります。「卵巣がんの治療後に腸閉塞になった=再発した」とは限りません。

腸閉塞では、腹部の張りや痛み、吐き気、嘔吐、食事が取れない、便やガスが出ないといった症状がみられます。

治療は原因、閉塞している場所、病変の広がり、全身状態、その後に予定している抗がん治療などによって異なります。食事をいったん止めて点滴を行ったり、胃や腸にたまった内容物を管で減圧したり、吐き気や消化液の分泌を抑える薬を使用したりします。状態によっては手術などの処置を検討することもあります。

すべての悪性腸閉塞で手術を行うわけではありません。広範囲の腹膜播種がある場合などには、大きな手術をしても食事が十分に取れる状態へ戻れない可能性もあるためです。

悪性腸閉塞では「処置が技術的にできるか」だけでなく、その処置によって症状や生活が実際にどの程度改善すると期待できるかまで考えて治療方法を選びます。

吐き気や嘔吐を伴う強い腹痛、おなかの急激な張りなどがある場合には、次の定期受診まで待たず医療機関へ連絡する必要があります。

緩和ケアは抗がん治療と並行して受ける

「緩和ケア」と聞くと、抗がん剤が効かなくなった後に受ける医療だと思う人もいるかもしれません。しかし、現在の緩和ケアはそのような位置付けではありません。国立がん研究センターは、緩和ケア・支持療法について、がんと診断された時から、がん治療とともに必要に応じて受けられるものと説明しています。

対象となるのは痛みだけではありません。吐き気、食欲低下、腹水、便秘、息苦しさ、不眠、しびれなどの身体症状に加え、不安や気分の落ち込み、仕事・家計・介護・家族関係などの問題も支援の対象になります。

卵巣がんでは治療が長期間にわたる場合があります。特に再発を繰り返した場合には、「がんをどこまで小さくできるか」と同じくらい、「治療を続けながらどのような生活を保てるか」が重要になります。

緩和ケアを受けることと、抗がん治療をやめることは同じではありません。抗がん剤、分子標的薬、放射線治療などと並行しながら、症状や生活上の負担を軽減するために利用できます。

参考:国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 治療」、日本婦人科腫瘍学会『卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2025年版』

治療後の生活|妊孕性・更年期症状・リンパ浮腫・薬物療法の副作用

卵巣がんの治療では、治療効果だけでなく、その後の生活にどのような変化が起こるのかも考えておく必要があります。

手術によって卵巣機能を失うこと、リンパ節や腹腔内の手術に伴う合併症、抗がん剤によるしびれや脱毛、維持療法を長期間続けることなどは、仕事、食事、外出、睡眠、妊娠・出産、性生活などにも影響します。

副作用があるから治療をやめる、反対に治療のためならすべて我慢する、という二択ではありません。副作用を早い段階で把握し、必要に応じて支持療法、休薬、減量、薬剤変更などを行いながら治療を続けるという考え方が重要です。

手術後の更年期症状と卵巣欠落症状

閉経前に両側の卵巣を摘出すると、卵巣から分泌されていた女性ホルモンが急激に減少します。

自然な閉経を迎える前であっても、ほてり、発汗、動悸、不眠、気分の変化、腟の乾燥など、更年期障害に似た症状が現れることがあります。これを卵巣欠落症状と呼びます。

自然閉経では卵巣機能が徐々に低下していくのに対し、手術では短期間でホルモン環境が変化するため、症状を強く感じる人もいます。

また、女性ホルモンが低下した状態が長期間続くことは、骨密度の低下など将来の健康にも関係します。若い年齢で両側卵巣を摘出した場合には、手術直後の症状だけでなく長期的な健康管理も考える必要があります。

妊娠希望がある場合は治療前に相談する

両側の卵巣・卵管と子宮を摘出した後に、自分の卵子と子宮を使って妊娠することはできません。将来子どもを持ちたいという希望がある場合には、できるだけ治療を開始する前に担当医へ伝えることが重要です。

前述したように、上皮性卵巣がんでもⅠA期や一部のⅠC1期など、組織型・病期などの条件を満たす場合には、子宮と反対側の卵巣を残す妊孕性温存手術を検討できることがあります。

また、治療内容や時間的な余裕などによっては、生殖医療の専門医と相談し、卵子や胚(受精卵)の凍結保存などを検討することもあります。

妊孕性温存のためにがん治療を大きく遅らせることが適切とは限りません。がんの安全な治療を優先しながら、残せる選択肢があるかを婦人科腫瘍医と生殖医療の専門医の双方で検討します。

リンパ浮腫・腸閉塞など手術後の合併症

卵巣がんの手術後には、腸閉塞、リンパ嚢胞、リンパ浮腫などが起こることがあります。骨盤や腹部のリンパ節を切除した場合にはリンパ液の流れが変化し、脚、足の付け根、陰部、下腹部などにリンパ液がたまってむくむことがあります。

リンパ浮腫は手術直後だけに起こるものではありません。国立がん研究センターは、治療から数年たってから発症することもあると説明しています。

左右の脚の太さが違う、靴下の跡が以前より残る、脚が重い、足の付け根や下腹部がむくむといった変化は早期のサインになることがあります。リンパ浮腫は進行すると改善しにくくなるため、「少しむくんでいるだけ」と長期間放置せず相談することが大切です。

また、手術後は腸管の癒着によって、治療から時間がたってから腸閉塞が起こることもあります。吐き気や嘔吐を伴う腹痛、強い腹部膨満などが現れた場合には医療機関へ連絡します。

TC療法のしびれ・骨髄抑制・脱毛

TC療法では、パクリタキセルとカルボプラチンそれぞれの副作用を考える必要があります。代表的なものには、白血球や血小板の減少、貧血、吐き気、食欲低下、脱毛、手足のしびれなどがあります。

白血球、特に好中球が減る時期には感染症に注意が必要です。発熱など、あらかじめ医療機関から説明された注意症状がある場合には、「次の診察まで様子を見る」のではなく、病院から指示された方法で連絡します。

貧血が強くなれば、少し動いただけで息切れする、疲れやすい、仕事や家事を続けにくいといった影響が出ることがあります。血小板が大きく減った場合には出血しやすくなるため、血液検査を行いながら治療を続けます。

パクリタキセルで特に生活へ影響しやすい副作用が末梢神経障害による手足のしびれです。治療開始後数週間や複数回の投与後から出現することがあり、治療を終えた後に少しずつ改善する人がいる一方、数カ月から1年以上続く場合もあります。

「指先がジンジンする」という感覚だけではなく、ボタンを留めにくい、箸を使いにくい、パソコンのキーボードを打ちにくい、物を落とす、歩きにくい、つまずきやすいといった生活上の問題につながります。しびれでは「ある・ない」だけでなく、仕事や家事で何ができなくなってきたかを医療者へ伝えることが重要です。

症状が強くなれば、治療効果とのバランスを見ながら休薬、減量、薬剤変更などを検討することがあります。治療を継続するために我慢し続けることが必ずしも最善とは限りません。

脱毛もTC療法で起こりやすい副作用です。医学的な重症度だけを見れば生命に直接影響する副作用ではありませんが、外見の変化が仕事や人との交流、精神的負担に大きく影響する人もいます。ウィッグや帽子などを含むアピアランスケアについて、治療開始前から相談することもできます。

PARP阻害薬・ベバシズマブ治療中の生活

維持療法では治療期間が長くなることがあるため、「大きな副作用が一度起きるか」だけでなく、軽度から中等度の症状と長期間付き合えるかという視点が重要になります。

PARP阻害薬のオラパリブやニラパリブでは、貧血、白血球・好中球の減少、血小板減少、吐き気、倦怠感などが問題になることがあります。症状の確認と定期的な血液検査を行いながら治療します。

内服薬であるため、「点滴ではないから体への負担はほとんどない」というわけではありません。倦怠感や貧血が続けば、仕事中の集中力や外出、運動などに影響することがあります。

ベバシズマブでは高血圧や蛋白尿などに注意が必要で、治療中には血圧測定や尿検査を行います。また、創傷治癒に影響することがあるため、手術との間隔も考慮する必要があります。

薬によって確認すべき副作用が異なるため、維持療法を始める際には「どの副作用が起きたら連絡すべきか」「どのくらいの頻度で血液・血圧・尿などを確認するか」を聞いておくと安心です。

HRTを検討できる場合

閉経前に両側の卵巣を摘出し、強い卵巣欠落症状がある場合などには、ホルモン補充療法(HRT)を検討することがあります。

「がんになったのだから女性ホルモンは絶対に使えない」と考える人もいるかもしれませんが、卵巣がんのすべてが女性ホルモンによって増殖するがんではありません。

2025年に公表された『ホルモン補充療法ガイドライン2025年度版』に関する解説では、卵巣がん治療後のHRTについて、適応のある女性ではHRTが推奨される一方、一部の組織型では抗エストロゲン療法が用いられることなどから個別の配慮が必要とされています。

つまり、「卵巣がんだからHRTは禁止」でも、「誰でも安全に使える」でもありません。

組織型、ステージ、これまでの治療、現在の症状、骨や心血管系への影響、本人の希望などを踏まえて判断します。ほてりや不眠、腟の乾燥などで生活への影響が大きい場合には、我慢するのではなく、HRTを含めた対策が可能か担当医へ相談する価値があります。

参考:国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 治療」、国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 療養」、国立がん研究センター「妊孕性」、国立がん研究センター「リンパ浮腫」、国立がん研究センター「しびれQ&A」、『産科と婦人科』「卵巣癌治療後のHRTは推奨されるか?」、PMDA「リムパーザ錠 医薬品情報」、PMDA「ゼジューラ錠 医薬品情報」

卵巣がん・卵管がん・腹膜がんの生存率・予後

がんと診断されたとき、「治る可能性はどのくらいあるのか」「あと何年生きられるのか」を知りたいと思うのは自然なことです。

ただし、生存率を見るときには「何年に診断された、どの患者集団の数字なのか」「卵巣がんだけなのか、卵管がんや腹膜がんも含むのか」「ステージ以外にどのような違いがあるのか」まで確認する必要があります。

国立がん研究センターが2026年7月22日に更新した全国がん登録の最新統計では、2018年に診断された卵巣がんの5年相対生存率は59.9%です。

これはすべてのステージを合わせた卵巣がんの数字であり、卵管がん・腹膜がんを合わせた数字ではありません。

卵巣がんのステージ別5年生存率

ステージⅠ~Ⅳ別の数字を確認する場合には、国立がん研究センターの「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム」で、2014~2015年診断例の5年ネット・サバイバルが公開されています。

ステージ 対象数 5年ネット・サバイバル
Ⅰ期 4,686例 90.6%
Ⅱ期 905例 76.6%
Ⅲ期 2,860例 46.2%
Ⅳ期 1,270例 27.8%

出典:国立がん研究センター「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム 卵巣がん 2014~2015年5年生存率」

ここで使っている「ネット・サバイバル」は、がん以外の死因による影響を統計的に除き、「そのがんのみが死因となる状況」を仮定して算出する指標です。

なお、前述した2018年診断例の5年相対生存率59.9%と、上表の数字は集計した患者集団・診断年・生存率の計算方法が異なります。59.9%とステージ別の数字を足したり、単純に比較したりすることはできません。

卵管がん・腹膜がんへ卵巣がんの数字をそのまま当てはめない

この記事では卵巣がん・卵管がん・腹膜がんをまとめて解説していますが、生存率まで3疾患を同じ数字にすることは適切ではありません。

国立がん研究センターによると、日本で卵管がんと診断される人は年間約200例です。一方、原発性腹膜がんはまれで、正確な患者数の統計がありません。

公的ながん統計で十分な症例数を用いてステージ別生存率を示しやすいのは、主に卵巣がんです。

海外の研究や単一施設の研究から卵管がん・腹膜がんの生存率を示すことはできますが、診断年代、組織型、治療内容、ステージの割合などが異なる集団を比較すると、「卵巣がんより腹膜がんの方が何%悪い」といった誤解につながる可能性があります。

そのため本記事では、卵巣がんの公的な生存率を、卵管がん・腹膜がんの生存率としてそのまま置き換えない方針としています。

同じステージでも組織型・残存腫瘍・BRCA/HRDなどで経過は異なる

生存率はステージによって大きく変わりますが、同じステージであれば全員が同じ経過をたどるわけではありません。高異型度漿液性がん、明細胞がん、低異型度漿液性がんなどでは生物学的な性質が異なります。

進行例では、手術後に肉眼的な腫瘍がどの程度残ったかも重要です。卵巣がんでは、手術後の残存腫瘍が小さいほど予後が良いことが知られており、現在は可能であれば肉眼的完全切除を目指して腫瘍減量手術を行います。

また、BRCA1/2やHRDなどの分子情報は、がんの性質だけでなくPARP阻害薬をはじめとした維持療法の選択にも関係します。明細胞がんでは、2026年からPIK3CA遺伝子変異がある一部の再発例に新たな分子標的治療が使えるようになりました。

同じ「ステージⅢ」という診断でも、組織型、手術での残存腫瘍、薬物療法への反応、BRCA・HRDなどの分子情報、年齢や全身状態によって、その後の経過は異なります。

BRCA陽性なら必ず予後が良い、HRD陰性なら必ず悪い、と個人の予後を単純に決めることもできません。これらは治療方針を考えるための重要な情報ではありますが、ステージや治療結果などと合わせて解釈します。

5年生存率は個人の余命ではない

5年生存率が27.8%と聞くと「自分が5年生きられる確率は27.8%」「5年以上は生きられない」と受け取ってしまうことがあります。しかし、そのような意味ではありません。

生存率は、過去に同じ病気と診断された多数の患者さんを集団として追跡した統計です。個人が何年生きられるのかを予測する数字ではありません。たとえば同じⅣ期でも、病変の場所や量、手術可能性、抗がん剤への反応、組織型、分子情報、体の状態などには大きな違いがあります。

「5年生存率が30%だから、自分には30%しか可能性がない」と個人の余命へ置き換えないことが大切です。自分自身の見通しについて知りたい場合には、一般的な統計だけではなく、現在の病状や治療への反応を把握している担当医から説明を受ける必要があります。

古い統計には現在の維持療法が十分反映されていない場合がある

生存率を見る際にもう1つ注意したいのが、統計には時間差があることです。5年生存率を算出するには、当然ながら診断から少なくとも5年間患者さんを追跡する必要があります。

上表のステージ別生存率は2014~2015年に診断された患者さんのデータです。その後、BRCA・HRDに基づくPARP阻害薬による初回維持療法、ベバシズマブとの治療戦略、再発手術の患者選択など、卵巣がん治療は変化してきました。2026年にはPIK3CA遺伝子変異を有する卵巣明細胞がんに対するリソバリシブも国内承認されています。

全国がん登録による最新の5年相対生存率も2018年診断例であり、2026年現在の治療を受ける患者さんの成績そのものではありません。国立がん研究センターも、生存率は過去に診断された人のデータから算出されるため、治療法の進歩によって現在や今後の患者さんにそのまま当てはまらない可能性があると注意しています。

古い統計を無視する必要はありませんが、「現在の治療を受けたら必ずこの数字になる」と考えるのも適切ではありません。

参考:国立がん研究センター「がん統計 卵巣」、国立がん研究センター「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム 卵巣がん」、国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 患者数(がん統計)」、国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 治療」

再発・経過観察|CA125が上がっただけで治療開始とは限らない

卵巣がん・卵管がん・腹膜がんの治療が終了した後も、定期的な経過観察を行います。経過観察の目的は再発を見つけることだけではありません。手術や薬物療法による後遺症・合併症を確認し、日常生活上の問題に対応することも含まれます。

「できるだけ頻繁にCTや腫瘍マーカーを調べれば、その分だけ長生きできる」と単純に考えることもできません。特に卵巣がんでは、CA125の数値だけが上昇したときに、すぐ治療を開始すべきかという問題が長く検討されてきました。

治療後1~2年、3~5年、その後の通院目安

国立がん研究センターは、卵巣がん・卵管がん・腹膜がん治療後の経過観察について、次の間隔を目安としています。

治療後1~2年目:1~3カ月ごと
治療後3~5年目:3~6カ月ごと
治療後6年目以降:1年ごと

実際の受診間隔は、ステージ、組織型、これまでの治療、再発リスク、維持療法を続けているかなどによって変わります。

維持療法中で定期的な採血が必要な場合などには、ここで示した経過観察の目安より頻繁に受診することもあります。

問診・内診・超音波・画像検査・CA125

国立がん研究センターでは、経過観察中の基本的な診察として問診、内診、超音波検査を挙げています。

必要に応じてCA125などの腫瘍マーカー、CT、MRI、PET-CTなどを追加します。

経過観察で大切なのは「検査項目をできるだけ増やすこと」ではなく、再発の可能性、以前の病変の場所、症状などに応じて必要な検査を組み合わせることです。

CA125もその中の1つであり、単独で再発を確定する検査ではありません。

CA125は再発を考える材料だが単独で判断しない

CA125は卵巣がん、特に漿液性がんなどで上昇することがあり、初回治療中の変化や治療後の経過を見るために利用されます。治療後に一度下がったCA125が再び上昇してくると、再発の可能性を考える材料になります。

しかし、CA125が上昇したことと、治療を今すぐ開始しなければならないことは同じではありません。CA125はがん以外の状態でも変動することがあります。また、再発した場所や組織型によっては、再発していてもCA125があまり上昇しない場合があります。

数値の推移だけではなく、症状、診察所見、画像検査などを合わせて評価します。

無症状でCA125だけが上昇した場合をどう考えるか

この問題については、CA125の上昇だけを根拠に早期に抗がん剤を開始する群と、症状や画像などで再発が明らかになってから治療する群を比較した大規模ランダム化試験「MRC OV05/EORTC 55955」があります。

この試験では、CA125上昇だけを根拠に早く抗がん剤治療を開始しても、全生存期間を延長する効果は確認されませんでした。そのため「CA125が基準値を超えたから明日から抗がん剤を始める」という判断にはなりません。

ただし、この試験結果を「CA125を測る意味がない」「症状が出るまで何もしない」と読み替えることにも注意が必要です。試験が行われた時代と現在では、PARP阻害薬、ベバシズマブ、再発手術の患者選択、バイオマーカーに基づく治療など、利用できる選択肢が変化しています。

また、CA125上昇をきっかけに画像検査を行ったところ、完全切除を期待できる限局した再発病変が見つかるといった状況もあり得ます。「CA125だけで抗がん剤を開始しない」ことと、「CA125の上昇を無視する」ことを区別して考える必要があります。

数値が上昇した場合には、その推移と現在の症状を確認し、必要に応じて画像検査などを行ったうえで次の治療が必要かを判断します。

新しい症状があれば次の定期検査まで待たない

定期検査の予定が3カ月後だからといって、それまで何があっても待つ必要はありません。

治療後に、以前にはなかった腹部膨満、おなかや骨盤の痛み、食欲低下、すぐに満腹になる、便秘、吐き気、息苦しさ、急激な腹囲増加などが続く場合には、予定されている次回受診より前でも医療機関へ相談することができます。

また、手術後の腸閉塞やリンパ浮腫など、再発ではない合併症が原因の可能性もあります。

「再発だったら怖いから次の検査まで待とう」と症状を我慢するのではなく、新しく出た症状や悪化している症状は、それ自体を受診理由として考えることが大切です。

参考:国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 療養」、日本婦人科腫瘍学会『卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2025年版』、Rustin GJS, et al. Early versus delayed treatment of relapsed ovarian cancer (MRC OV05/EORTC 55955). Lancet. 2010.

治療を選ぶときに確認したいこと

卵巣がん・卵管がん・腹膜がんでは、「ステージはいくつか」だけを確認しても、自分の治療方針を十分に理解できないことがあります。

診断直後、手術後、初回化学療法後、再発時では、確認すべき情報も変わります。

治療の説明を受ける際には、次のような項目を整理しておくと、「なぜ自分はこの治療なのか」が分かりやすくなります。

確認したいこと 確認する意味
正確な原発部位 卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんのどれと診断されているかを確認する
組織型・異型度/グレード 高異型度漿液性、低異型度漿液性、明細胞、類内膜、粘液性などによって性質や治療上の判断が異なる
FIGO進行期 Ⅰ~Ⅳ期だけでなく、ⅠC1・ⅢC・ⅣAなど細分類まで確認すると病状を理解しやすい
最初にPDSかNACか 最初に腫瘍減量手術をするのか、術前化学療法後にIDSを予定するのか、その理由を確認する
手術後の残存腫瘍 肉眼的完全切除だったのか、腫瘍が残ったのかは、その後の治療や予後を考える重要な情報になる
BRCA1/2 PARP阻害薬などの治療選択だけでなく、HBOCや血縁者への影響を考える情報にもなる
HRD 主に進行がんの初回治療後に、PARP阻害薬などの維持療法を検討する材料になる
維持療法の目的と期間 なぜオラパリブ、ニラパリブ、ベバシズマブなどを使うのか、期待できる効果と副作用を確認する
再発までの期間とプラチナ治療歴 再びプラチナ製剤を使うことで効果を期待できるかを考える重要な判断材料になる
過去のPARP阻害薬・ベバシズマブ使用歴 同じ「再発」でも、これまでどの維持療法を受けたかによって次の治療選択が変わる
PIK3CA 卵巣明細胞がんでは、化学療法後に増悪した場合、PIK3CA遺伝子変異がリソバリシブによる治療選択につながることがある
FRα・MSI/MMR・CGP 主に再発・進行時に、次の治療候補を探す目的で検討する。FRα標的薬などは国内の最新承認状況も確認する必要がある
妊孕性・更年期・生活への希望 妊娠希望、仕事、介護、しびれなど、治療後の生活で何を大切にしたいかも治療選択に関わる

すべてを患者さん自身が医学的に判断する必要はありません。

大切なのは「この治療が標準だから受ける」という説明だけで終わらせず、「自分のどの情報を根拠としてこの治療が選ばれたのか」を理解することです。

たとえばNACから始めるのであれば、なぜPDSではないのか。PARP阻害薬を使うのであれば、BRCA・HRDの結果とどのようにつながっているのか。再発時に以前とは違う薬を使うのであれば、前回の治療歴や再発までの期間がどのように影響したのかを確認できます。

治療法が複数あり、メリットと負担のどちらを優先するかによって選択が変わる場合には、別の婦人科腫瘍専門医から意見を聞くセカンドオピニオンを利用する方法もあります。

なお、この表はガイドラインに掲載された表を転載したものではなく、2025年版ガイドラインと2026年時点の治療体系をもとに、患者さんが診察時に確認しやすいよう治療判断に関わる情報を整理したものです。。

参考:国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 治療」、日本婦人科腫瘍学会『卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2025年版』

まとめ|病名だけでなく「組織型・ステージ・手術結果・遺伝子情報」を確認する

卵巣がん・卵管がん・原発性腹膜がんは、発生する場所は異なりますが、特に上皮性・漿液性がんでは病気の性質や治療に多くの共通点があります。一方で、「3つをまとめて扱う=すべて同じがん」という意味ではありません。

治療を考えるうえでは、病名やステージだけでなく、何という組織型なのか、手術で腫瘍をどこまで取り除けたのか、BRCA・HRDなどの検査結果はどうかといった情報も重要です。再発した場合には、これまでに受けた治療や再発までの期間、新たに確認できるバイオマーカーなども次の治療選択に関わります。

また、治療効果だけでなく、副作用や妊孕性、更年期症状、仕事や日常生活への影響についても相談しながら治療を続けることができます。緩和ケアや支持療法も、抗がん治療が終わってから利用するものではありません。

生存率は病気の見通しを知る参考になりますが、個人の余命をそのまま示す数字ではありません。

病名やステージを知ることは治療を理解する出発点ですが、それだけが答えではありません。自分が今どの治療段階にいて、どの情報を根拠に治療が選ばれているのかを確認していくことが、卵巣がん・卵管がん・腹膜がんの治療を理解する助けになります。

参考:国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がんについて」、国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 治療」、国立がん研究センター「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 療養」、日本婦人科腫瘍学会『卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2025年版』

RAS遺伝子変異陽性大腸がんは、がん細胞の増殖スイッチである「RAS遺伝子」に変異が起きているタイプの大腸がんです。KRAS変異は大腸がんの30~40%に認められます。初期にはほとんど症状が出ませんが、進行すると血便、便が細くなる、便秘と下痢を繰り返す、腹痛、貧血、体重減少などが現れます。RAS変異があると抗EGFR抗体薬が効かないため、使える分子標的薬が限られることが治療上の課題となります。

本ページでは、RAS遺伝子変異陽性大腸がんの特徴や原因、症状、診断(大腸内視鏡検査・RAS遺伝子検査)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • KRAS変異は大腸がんの30~40%に認められる、珍しくないタイプ
  • RAS変異があると抗EGFR抗体薬が効かず、使える薬が限られる
  • 治療方針を決めるうえでRAS遺伝子検査が欠かせない

RAS遺伝子変異陽性大腸がんとは

大腸がんは、がん細胞が持つ遺伝子の状態によっていくつかのタイプに分けられます。なかでも治療方針を大きく左右するのが、「RAS遺伝子」の変異があるかどうかです。

RASは、細胞の表面から届いた「増殖せよ」という指令を、細胞の内側へ伝えるスイッチの役割を果たす遺伝子です。正常なRASは、指令があったときだけスイッチが入ります。しかしRAS遺伝子に変異が起きると、指令がなくてもスイッチが入りっぱなしになり、がん細胞が際限なく増えていきます。この変異を持つ大腸がんが、RAS遺伝子変異陽性大腸がんです。RASにはKRASとNRASという種類がありますが、KRASの変異が大部分を占めます。

RAS変異は、珍しくない大腸がんです。KRAS変異は大腸がんの30~40%に認められると報告されています。

RASが変異していない状態を「野生型」、変異している状態を「変異型」と呼びますが、変異型では後述する一部の分子標的薬が有効ではなく、より予後が不良になりやすいことが知られています。同じ大腸がんでも、RASの状態によって治療の組み立てが変わってきます。

RAS遺伝子変異陽性大腸がんの原因

RAS遺伝子変異陽性大腸がんは、RAS遺伝子の変異がきっかけで発症しますが、なぜ変異するかはまだ解明されていません。ただ、変異したRASは増殖のスイッチが入りっぱなしになり、細胞が増えていきます。

大腸がんは、いくつかの遺伝子変異が段階的に積み重なって発生することが分かっています。まず「APC」という遺伝子の異常で良性のポリープができ、そこにRASの変異が加わって増殖が加速し、さらに別の遺伝子の異常が重なって悪性化していく、という流れです。

ここで、その最後の段階で重要になるのが、がん細胞の暴走を食い止める「ブレーキ役」の、がん抑制遺伝子「p53(TP53)」です。p53はDNAに傷がついた細胞を修復させ、修復できないものは自然死(アポトーシス)へと導きます。p53が壊れると、傷ついた細胞が排除されずに生き残ってしまいます。

大腸がんでは、このp53変異が高い割合で起こります。TP53変異は転移のあるRAS遺伝子変異陽性大腸がんの約28%に認められると報告されています。

さらに、RASとTP53の両方に変異を持つ患者様は、標準的な化学療法への効果が弱く、術後の再発・転移を起こしやすいことも報告されています。

つまりアクセル(RAS)が入りっぱなしであるだけでなく、ブレーキ(p53)まで故障してしまう場合があり、それが治療の難しさにつながっているのです。

RAS遺伝子変異陽性大腸がんの診断

「(無)症状」から「確定診断」まで

大腸がんは、初期にはほとんど症状が出ません。進行してくると、血便、便が細くなる、便秘と下痢を繰り返す、腹痛、貧血、体重減少といった症状が現れます。

ただ、これらは痔や胃腸炎でも起こるため、見過ごされがちです。肛門から距離がある結腸にできたがんは症状が出にくく、肛門に近い直腸にできたがんは血便で気づかれやすいなど、部位によって症状の違いもあります。また、健康診断の便潜血検査が陽性となり、精密検査をすると偶然見つかる場合も少なくありません。

異常が疑われた場合、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)で腸の中を観察し、疑わしい部分の組織を採取する生検を行います。採取した組織を顕微鏡で調べる病理検査で、大腸がんの診断を確定します。肝転移や肺転移など遠隔転移の評価にはCT検査やMRI検査などを用います。

RAS遺伝子検査という重要なステップ

大腸がん、特に転移をきたした大腸がんの治療方針を決めるうえで欠かせないのが、RAS遺伝子検査です。

採取したがん組織を使い、RAS遺伝子に変異があるかどうかを調べます。この検査は、BRAF遺伝子なども含め、特定の薬物による効果が見込めるかどうかを見極める「コンパニオン診断」と呼ばれます。

この検査が重要なのは、その結果により使用できる薬物が変わるからです。後述する抗EGFR抗体薬は、RASが変異していない野生型の患者様にしか効果が発揮されません。つまりRAS変異が見つかれば、抗EGFR抗体薬は最初から選択肢から外れます。

ステージ(病期)の確定

大腸がんのステージは、がんが腸の壁のどの深さまで達しているか(T)、リンパ節転移(N)、肝臓や肺などへの遠隔転移(M)を組み合わせて、0期~Ⅳ期に分類されます。RAS変異陽性大腸がんは、診断時にすでに肝転移や肺転移などをきたした状態で見つかることもあり、病期が予後を大きく左右します。

RAS遺伝子変異陽性大腸がんの一般的な治療法

早期であれば手術(内視鏡的切除または外科的切除)が主な治療法で、進行度に応じて薬物療法を組み合わせます。一方、診断時にすでに転移している場合や、術後に再発した場合は、薬物療法が治療の中心になります。

大腸がんの薬物療法は、複数の抗がん剤(フルオロウラシル、オキサリプラチン、イリノテカンなど)を組み合わせた化学療法を土台に、分子標的薬を上乗せするのが一般的です。

分子標的薬には、血管の新生を抑える「抗VEGF抗体薬(ベバシズマブ)」と、EGFRという増殖の入り口を狙う「抗EGFR抗体薬(セツキシマブ、パニツムマブ)」などがあります。

ここでRASの状態が決定的な意味を持ちます。抗EGFR抗体薬はEGFRの入り口をふさぐ薬ですが、RASはそのEGFRよりも下流にあるスイッチです。RASが変異してスイッチが入りっぱなしになっていると、入り口をふさいでも下流でRAS変異による増殖の信号が出続けるため、抗EGFR抗体薬は効果が発揮されません。

RAS遺伝子変異陽性大腸がんにおける保険診療の限界

RAS変異陽性大腸がんには化学療法と一部の分子標的薬という選択肢がありますが、保険診療にはいくつもの壁があります。

使える分子標的薬が限られる

最大の制約が、標的薬の選択肢の狭さです。大腸がんに使える分子標的薬のうち、抗EGFR抗体薬は前述のとおりRAS変異があると効果がありません。つまりRAS変異陽性の患者様は、有力な武器の一つを最初から失っているのです。すなわち、RAS遺伝子変異陽性大腸がんは「有効な薬物が限られる」タイプの大腸がんです。

使える薬をいずれ使い切ってしまう

化学療法と抗VEGF抗体薬を組み合わせても、多くの患者様でいずれ効果が薄れ、がんが再び増え始めます。一次治療、二次治療と薬を切り替えていきますが、大腸がんの標準的なレジメン(治療薬の組み合わせ)は無限にあるわけではありません。いくつかのレジメンを使い切ると、「保険診療ではもう有効な手立てがない」と説明される場面が訪れます。

手術後の高い再発率

早期に発見され、手術で取りきれたとしても、大腸がんは再発しうる疾患です。特にRAS変異を持つ場合、再発のリスクは軽視できません。ステージⅢの大腸がんでは、根治手術に術後補助化学療法を加えても、およそ17%の患者様が3年以内に再発すると報告されています。すなわち約5人に1人は再発するという計算です。手術と抗がん剤という標準的な手立てを尽くしてもなお、これだけの再発リスクが残ります。

しかも前述のとおり、RASとp53の両方に変異があると化学療法が効きにくく、術後の再発・転移を起こしやすいことも報告されています。さらに標準治療後に再発した場合、保険診療内で選べる有効な手立ては限られてしまいます。

化学療法に伴う「きつい」副作用

抗がん剤では、吐き気、強い倦怠感、食欲不振、脱毛、手足のしびれ(末梢神経障害)、下痢、骨髄抑制による感染症リスクなどが起こりえます。長期にわたる治療により、身体的・精神的な負担から治療の継続が難しくなり、生活の質(QOL)が損なわれるリスクがあります。

RAS遺伝子変異陽性大腸がんで重要な新しい治療の考え方

ここまで述べたように、RAS変異陽性大腸がんは、使える分子標的薬が限られ、再発のリスクも残るという固有の課題を抱えています。

がん中央クリニックグループでは、こうした課題に対して、標準治療とは作用の仕方が異なる治療を選択肢としてご提案しています。

分子レベルの異常にアプローチする「核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)」

がんの発生や進行に関わる分子レベルの異常へ直接働きかける「核酸医薬」は、世界的に研究と臨床応用が進んでいます。当グループでは治療選択肢として、「アプタマー」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を取り入れた治療を提供しております。

「アプタマー核酸医薬」は、がん細胞に特有の異常なタンパク質にピンポイントで結合し、その働きをブロックすることで、がんの増殖抑制や死滅を狙う治療薬です。一方で「miR-34a mimic核酸医薬」は、がん化によって失われてしまった「体が本来持っているがんを抑制する力」を補い、がんの成長を止め、自然な細胞死(アポトーシス)を促す治療薬です。

RAS変異陽性大腸がんでp53変異が高頻度に併存することは、先に述べたとおりです。miR-34a mimicは、miR-34aと同じ働きをする分子を外部から補充することで、p53というブレーキが壊れた細胞に対しても、その先の経路から直接ブレーキをかけ直すことを狙います。RASという「アクセル」だけでなく、失われた「ブレーキ」の側から攻めるという発想です。

がん中央クリニックグループでは、がん種ごとに標的となる遺伝子を指定して核酸医薬を設計し、患者様一人ひとりの状態に合わせた治療をご提案しています。複数の核酸医薬を組み合わせて使い分けられる点も、特徴のひとつです。

免疫の「盾」を外す「ハイブリッド免疫療法」

ハイブリッド免疫療法は、がん細胞が免疫の攻撃から逃れるために使う「盾」、すなわち免疫ブロックタンパク質「PD-L1」を標的とする治療です。

RAS変異陽性大腸がんにはPD-L1が一定の割合で発現しています。大腸がんのPD-L1陽性率(1%以上変異を認める確率)は、約15%と報告されています。つまり6~7人中1人の方がハイブリッド免疫療法による効果が期待できる可能性があるということです。

ハイブリッド免疫療法は、このPD-L1を内側と外側の両方から無力化します。まず、がん細胞の表面に出ているPD-L1に結合し、免疫の攻撃を妨げる「盾」を取り払います。さらに、がん細胞の中に入り込んで、これから作られるPD-L1の設計図(mRNA)を分解し、新たな「盾」が生まれるのを防ぎます。攻撃を逃れる術を失ったがん細胞を、患者様ご自身の免疫細胞が敵として認識し、攻撃できるようになるという仕組みです。

当グループの自由診療・治療をおすすめする患者様

当グループで実施可能な治療法は、ほとんどの患者様にご検討いただけます。以下では、どのような患者様に効果が期待できるのかを解説します。ご自身の状況に照らし合わせてご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

RAS変異陽性大腸がんでは、使える分子標的薬が限られることなどから、保険診療の選択肢が行き詰まることがあります。特に、いくつかのパターンの治療を使い切って次の手立てが見つからない患者様は少なくありません。

そうした場合でも、核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)やハイブリッド免疫療法なら、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供できます。これらは目立った副作用が起こりにくく体への負担が少ないため、「体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方にも、1つの治療の選択肢となり得ます。

また、まだ体力があるのに選択肢がなくなり、緩和治療を勧められている方にとっても、新たな選択肢として検討いただけます。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

核酸医薬とハイブリッド免疫療法は、化学療法や分子標的薬と併用でき、相乗効果が期待できます。化学療法や分子標的薬がすでに存在するタンパク質やシグナルに作用するのに対し、核酸医薬はそれらが作られる前の遺伝子レベルに作用します。ハイブリッド免疫療法は、PD-L1という別の標的を叩きます。攻撃するポイントが異なるため、組み合わせることでより高い効果が期待できると考えています。

このように、RAS変異陽性大腸がんの完治を目指すには、複数の治療法を組み合わせることが重要と考えています。標準治療を受けている患者様にとっても、これらの併用は選択肢のひとつとして検討いただけると考えています。

再発を抑制・防止するために手術前後の患者様

早期がんで手術を受けた場合でも、RAS変異陽性大腸がんは再発しうる疾患です。国内のステージⅢ結腸がん患者様を対象とした研究では、手術のみを受けた場合、約40%の方が3年以内に再発するリスクがあります。また、手術後に補助化学療法を行っても、再発する患者様は17%程度いらっしゃいます。さらに抗がん剤には副作用があるため、体力に不安のある高齢の患者様には、術後補助化学療法の完遂が難しいこともあります。

こうした背景から、手術前後に核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)とハイブリッド免疫療法を併用することは、再発リスクを下げるひとつの選択肢として検討いただけます。

副作用が不安な患者様

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)とハイブリッド免疫療法は、目立った副作用が起こりにくい治療です。化学療法で起きやすい嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、手足のしびれ、下痢、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。核酸医薬の副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などが挙げられます。ハイブリッド免疫療法では、治療部位の反応などが見られることがあります。

解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半で、治療の継続に支障をきたすことはありません。「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」という方にも受けていただける治療です。

RAS遺伝子変異陽性大腸がんの完治を目指して、保険診療と患者様に合った自由診療を組み合わせる

RAS遺伝子変異陽性大腸がんは、使える分子標的薬が限られ、再発という壁も立ちはだかる疾患です。しかし、適切に治療を行えば完治を目指せる疾患でもあります。

発症要因にRASやp53といった遺伝子異常があるため、保険診療と核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、ハイブリッド免疫療法などを組み合わせる集学的治療が有効な選択肢となります。保険診療だけではカバーしきれない場合でも、これらの治療によって腫瘍縮小効果や再発抑制効果が期待できると考えています。

がん中央クリニックグループでは、こうした「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがん治療をご提案いたします。RAS遺伝子変異陽性大腸がんの患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。

HER2陽性胃がんは、胃がんの中でも、がん細胞の表面に「HER2」というタンパク質が過剰につくられているタイプです。胃がん全体の15~25%を占め、HER2を狙い撃ちにする分子標的薬(トラスツズマブ)が標準治療として確立しています。初期にはほとんど症状が出ませんが、進行するとみぞおちの痛み、胃もたれ、食欲不振、体重減少、貧血、黒色便などが現れます。有効な標的薬がある一方で、薬剤耐性や治療選択肢の少なさが課題となります。

本ページでは、HER2陽性胃がんの特徴や原因、症状、診断(内視鏡検査・HER2検査)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • 胃がん全体の15~25%を占め、HER2が過剰につくられているタイプ
  • HER2を狙い撃ちにする分子標的薬(トラスツズマブ)が標準治療
  • 薬剤耐性と、使える薬の少なさが治療上の課題

HER2陽性胃がんとは

胃がんは、がん細胞の性質によっていくつかのタイプに分類されます。その中のひとつが、HER2陽性胃がんで、がん細胞の表面に「HER2タンパク」と呼ばれる特定の受容体が過剰に現れているタイプです。

HER2とは、細胞の表面に存在する「ヒト上皮成長因子受容体2型」というタンパク質であり、細胞の成長や修復を助ける働きをしています。

しかし、何らかの理由でHER2を作る遺伝子が増えると、細胞表面にHER2タンパクが大量につくられます。この状態になったがん細胞は、増殖のアクセルが踏みっぱなしの状態になり、通常よりも速いスピードで分裂・増殖を繰り返すようになります。

HER2陽性胃がんは胃がん全体の15~25%に認められ、トラスツズマブなどのHER2を標的とした抗HER2療法が標準治療として位置づけられています。

HER2陽性胃がんの原因

一般的な胃がんの発生にはピロリ菌の持続感染や塩分の過剰摂取、喫煙などが関係しています。しかし、HER2が過剰に増える具体的なメカニズムについては、まだ解明されていないのが現状です。

分子レベルでは、HER2をつくる遺伝子(ERBB2)が増幅し、細胞表面にHER2タンパクが大量に並ぶことが確認されています。その結果、細胞を増殖させる信号が常に送られ続け、がん細胞が過剰に増殖します。

ここで、もうひとつ重要な遺伝子があります。がん細胞の暴走を食い止める「ブレーキ役」の、がん抑制遺伝子「p53(TP53)」です。p53はDNAに傷がついた細胞を修復させ、修復できないものは自然死(アポトーシス)へと導きます。このp53が壊れると、傷ついた細胞が排除されずに生き残ってしまいます。

HER2陽性胃がん全体におけるTP53遺伝子変異の頻度は約80%と高頻度に認められます。つまりアクセル(HER2)が過剰であるだけでなく、ブレーキ(p53)も故障しているケースが多いということです。

HER2陽性胃がんの診断

「(無)症状」から「確定診断」まで

胃がんは、初期にはほとんど症状が出ません。進行してくると、みぞおちの痛み、胃もたれ、食欲不振、体重減少、貧血、黒色便といった症状が現れます。ただ、これらは胃炎や胃潰瘍でも起こるため、見過ごされがちです。

受診すると、まず上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)で胃の中を観察し、疑わしい部分の組織を採取する生検を行います。採取した組織を顕微鏡で調べる病理検査で、がんの有無を確定します。転移の評価にはCT検査などを用います。

「HER2陽性」と判定されるまでの検査の流れ

胃がんと診断されたら、その組織を使ってHER2の状態を調べます。ここが治療方針を分ける重要なステップです。

最初に行うのが免疫染色(IHC法)です。HER2タンパクの染まり具合をスコア0~3+の4段階で評価します。3+は陽性、0と1+は陰性、2+は判定保留(グレーゾーン)です。

判定保留(2+)だった場合、次にFISH法を行います。蛍光色素でHER2遺伝子の数を直接数える検査で、遺伝子の増幅が確認されれば陽性と確定します。この陽性判定が、抗HER2薬による保険治療の対象となる条件です。

ステージ(病期)の確定

胃がんのステージは、胃壁のどの深さまでがんが達しているか(T)、リンパ節転移(N)、腹膜播種を含む遠隔転移(M)を組み合わせて、Ⅰ期~Ⅳ期に分類されます。

HER2陽性胃がんの一般的な治療法

早期であれば手術(内視鏡的切除または外科的切除)が中心となり、進行度に応じて薬物療法を組み合わせます。一方、進行・転移した状態や再発した場合は、薬物療法が治療の柱になります。

HER2陽性胃がんの薬物療法で軸となるのが、HER2を狙い撃ちにする分子標的薬「トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)」です。これを抗がん剤(フッ化ピリミジン系+プラチナ系など)と組み合わせるのが、進行例の一次治療の基本形です。

ちなみに、トラスツズマブを化学療法に追加すると、治療開始後の生存期間の中央値は、抗がん剤だけの場合の11.1ヶ月から13.8ヶ月へと約2.7ヶ月延びました。

さらに、近年はこれに免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブ)を加える治療も登場し、トラスツズマブと化学療法に追加すると、治療開始後の生存期間の中央値は、16.9ヶ月から20.0か月と約3.1ヶ月延長したと報告されています。

HER2陽性胃がんにおける保険診療の限界

HER2陽性胃がんには抗HER2療法という有効な標的薬があるとはいえ、保険診療にはいくつもの壁があります。

トラスツズマブの効果はいつまでも続かない

抗HER2療法の問題点として、がん細胞が薬物への抵抗性を獲得し、別の経路で再び増殖する「薬剤耐性」があります。耐性が生じるメカニズムは未解明な部分も多く、時間が経つと効果が低下するケースがあります。トラスツズマブは高い治療効果を発揮するものの、腫瘍が縮小した患者様のうち、半数の方ではその効果持続期間は6.9ヶ月程度にとどまるという報告もあります。

使える薬の種類が限られる

HER2陽性であっても、その先に用意された保険の手札は多くありません。一次治療でトラスツズマブ+化学療法、二次治療以降でトラスツズマブ-デルクステカンやその他の抗がん剤、と進んでいきますが、数種類のパターンを使い切ると「保険診療ではもう手立てがない」と説明されることがあります。

化学療法に伴う「きつい」副作用

抗がん剤では、吐き気、強い倦怠感、食欲不振、脱毛、手足のしびれ、骨髄抑制による感染症リスクなどが起こりえます。トラスツズマブ自体にも、まれに心機能低下という副作用があります。胃を切除した患者様では、もともと食事量が減って栄養状態が低下しているところに副作用が重なり、治療の継続が難しくなることも少なくありません。

再発のリスクをゼロにはできない

HER2陽性胃がんに対して手術にて根治切除を行った後、再発率を低くするために術後補助化学療法という治療を行う場合があります。ステージⅡ・Ⅲ胃がんの患者様に対して手術後に術後補助化学療法を実施すると、手術後3年間で再発せずに生存していた方は約72%でした。逆に言えば、10人に約3人が3年以内に再発または死亡していたことになります。

HER2陽性胃がんで重要な新しい治療の考え方

ここまで述べてきたとおり、HER2陽性胃がんは有効な標的薬がある一方で、耐性、治療薬の選択肢の少なさ、術後再発という課題を抱えています。

がん中央クリニックグループでは、こうした課題に対して、標準治療とは作用の仕方が異なる治療を選択肢としてご提案しています。

分子レベルの異常にアプローチする「核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)」

がんの発生や進行に関わる分子レベルの異常へ直接働きかける「核酸医薬」は、世界的に研究と臨床応用が進んでいます。当グループでは治療選択肢として、「アプタマー」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を取り入れた治療を提供しております。

「アプタマー核酸医薬」は、がん細胞に特有の異常なタンパク質にピンポイントで結合し、その働きをブロックすることで、がんの増殖抑制や死滅を狙う治療薬です。一方で「miR-34a mimic核酸医薬」は、がん化によって失われてしまった「体が本来持っているがんを抑制する力」を補い、がんの成長を止め、自然な細胞死(アポトーシス)を促す治療薬です。

胃がんでTP53変異が高頻度に認められることは、先に述べたとおりです。miR-34a mimicは、miR-34aと同じ働きをする分子を外部から補充することで、p53というブレーキが壊れた細胞に対しても、その先の経路から直接ブレーキをかけ直すことを狙う治療です。

がん中央クリニックグループでは、がん種ごとに標的となる遺伝子を指定して核酸医薬を設計し、患者様一人ひとりの状態に合わせた治療をご提案しています。複数の核酸医薬を組み合わせて使い分けられる点も、特徴のひとつです。

免疫の「盾」を外す「ハイブリッド免疫療法」

ハイブリッド免疫療法は、がん細胞が免疫の攻撃から逃れるために使う「盾」、すなわち免疫ブロックタンパク質「PD-L1」を標的とする治療です。

HER2陽性胃がんは、免疫療法の標的となる「PD-L1」の陽性率(CPS≥1)が約85%と非常に高いため、免疫の仕組みを活用した治療アプローチが大きな意義を持ちます。

ハイブリッド免疫療法は、このPD-L1を内側と外側の両方から無力化します。まず、がん細胞の表面に出ているPD-L1に結合し、免疫の攻撃を妨げる「盾」を取り払います。さらに、がん細胞の中に入り込んで、これから作られるPD-L1の設計図(mRNA)を分解し、新たな「盾」が生まれるのを防ぎます。攻撃を逃れる術を失ったがん細胞を、患者様ご自身の免疫細胞が敵として認識し、攻撃できるようになるという仕組みです。

ただし、保険治療ですでに免疫チェックポイント阻害薬を使用されている場合は効果が弱まる可能性があるため注意が必要です。

当グループの自由診療・治療をおすすめする患者様

当グループで実施可能な治療法は、ほとんどの患者様にご検討いただけます。以下では、どのような患者様に効果が期待できるのかを解説します。ご自身の状況に照らし合わせてご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

HER2陽性胃がんでは、トラスツズマブへの耐性や数パターンの化学療法を使用した後の選択肢不足といった理由から、保険診療が行き詰まることがあります。

そうした場合でも、核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、ハイブリッド免疫療法、分子標的ワクチン療法なら、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供できます。これらは目立った副作用が起こりにくく体への負担が少ないため、「体力がないため抗がん剤はできません」と説明された方にも、1つの選択肢となり得ます。まだ体力があるのに選択肢がなくなり、緩和を勧められている方にとっても、新たな選択肢として検討いただけます。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

核酸医薬、ハイブリッド免疫療法、分子標的ワクチン療法は、化学療法や標準の分子標的薬と併用でき、相乗効果が期待できます。

化学療法がすでに増殖したがん細胞や産生されたタンパク質に作用するのに対し、核酸医薬はそれらが作られる前の遺伝子レベルに作用します。

分子標的ワクチン療法は患者様自身の免疫でHER2を発現するがん細胞を攻撃し、ハイブリッド免疫療法はPD-L1という別の標的を叩きます。攻撃するポイントが異なるため、標準治療と組み合わせることでより高い効果が期待できると考えています。

HER2陽性胃がんの完治を目指すには、複数の治療法を組み合わせることが重要と考えています。標準治療を受けている患者様にとっても、これらの併用は選択肢のひとつです。

再発を抑制・防止するために手術前後の患者様

HER2陽性胃がんは、先述した通り根治手術を行っても再発しうる疾患です。また抗がん剤には副作用があるため、胃切除後で栄養状態に不安のある患者様、体力に不安のある高齢の患者様では、術後補助化学療法の完遂が難しい場合もあります。

こうした背景から、手術前後の患者様が核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、ハイブリッド免疫療法を併用することは、再発リスクを下げるひとつの選択肢として検討いただけます。

副作用が不安な患者様

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、ハイブリッド免疫療法は、目立った副作用が起こりにくい治療です。化学療法で起きやすい嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。核酸医薬の副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などが挙げられます。ハイブリッド免疫療法では治療部位の反応などが見られることがあります。

解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半で、治療の継続に支障をきたすことはありません。

「胃を切除して食事が思うようにとれない」「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」。当グループの治療は、そのような方にも受けていただけます。

HER2陽性胃がんの完治を目指して、保険診療と患者様に合った自由診療を組み合わせる

HER2陽性胃がんは、有効な標的薬がある一方で、耐性や再発という壁が立ちはだかる疾患です。しかし、適切に治療を行えば完治を目指せる疾患でもあります。

発症要因にHER2やp53といった遺伝子異常があるため、保険診療と核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、ハイブリッド免疫療法、分子標的ワクチン療法などを組み合わせる集学的治療が有効な選択肢となります。保険診療だけではカバーしきれない場合でも、これらの治療によって生存率や予後の改善が期待できます。

がん中央クリニックグループでは、こうした「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがん治療をご提案いたします。HER2陽性胃がんの患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。

胆道がんは、肝臓でつくられた胆汁が流れる「胆道」に発生するがんの総称です。

一つのがんの名前ではなく、発生する場所によって、肝内胆管がん、肝門部領域胆管がん、遠位胆管がん、胆のうがん、十二指腸乳頭部がんなどに分けられます。国立がん研究センターも、これらをそれぞれ異なる病型として分類しています。

同じ「胆道がん」であっても、病変ができた場所が違えば、症状の出方も大きく変わります。肝門部領域胆管がんや遠位胆管がん、十二指腸乳頭部がんでは、胆汁の流れが妨げられて黄疸が発見のきっかけになることがあります。一方、肝内胆管がんや胆のうがんは、早い段階では自覚症状がないことも少なくありません。

さらに、発生場所によってステージ分類も手術方法も異なります。肝内胆管がんなら肝切除、遠位胆管がんや十二指腸乳頭部がんなら膵頭十二指腸切除、胆のうがんなら胆のう摘出を基本として必要に応じて肝切除などを組み合わせるというように、同じ胆道がんでも治療内容には大きな違いがあります。

一方、切除不能・再発例の薬物療法や術後補助化学療法など、複数の病型に共通して考えられる治療もあります。また近年は、がんが持つ遺伝子異常やタンパク質などのバイオマーカーも治療選択に関係するようになっています。

この記事では、胆道がんの種類と胆管がん・胆のうがんとの違いから、原因、症状、検査、ステージ、手術、胆道ドレナージ、薬物療法、バイオマーカー、生存率、再発後の治療まで順番に解説します。

参考:国立がん研究センター「胆道がんについて」

  • 胆道がんは一つのがんではなく、胆管・胆のう・十二指腸乳頭部などに発生するがんの総称
  • 発生場所によって症状、ステージ分類、手術方法が大きく異なる
  • 治療では病名やステージだけでなく「手術で完全に取り切れるか」を確認する

胆道がんとは何か

胆道とは、肝臓でつくられた胆汁を十二指腸まで運び、必要に応じて胆汁をためておくための経路や臓器をまとめた言葉です。

国立がん研究センターでは、胆道を大きく胆管、胆のう、十二指腸乳頭の3つに分けています。

胆汁は胆管を通って十二指腸へ流れる

肝臓の中には細い胆管が木の枝のように広がっています。これらが徐々に合流して太くなり、肝臓の出口で左右の肝管から総肝管へつながります。

その先で、胆のうとつながる胆のう管が合流すると総胆管となり、総胆管は膵臓の中を通って十二指腸へ向かいます。胆管と膵管が十二指腸へ開く部分が十二指腸乳頭です。

流れを簡単にすると、次のようになります。

肝臓の中の胆管
↓
左右の肝管・総肝管
↓
総胆管
↓
十二指腸乳頭
↓
十二指腸

胆のうは胆汁が必ず通る臓器ではなく、胆のう管を介して胆管につながり、胆汁を一時的にためて濃縮する袋状の臓器です。

食事をすると胆のうが収縮し、ためられていた胆汁が胆のう管から総胆管へ流れ、十二指腸へ送られます。胆汁は脂肪の消化や吸収を助けます。

胆道がんは一つの病気の名前ではない

胆道がんとは、この胆道を構成する胆管、胆のう、十二指腸乳頭などに発生するがんをまとめた総称です。

さらに胆管がんも、発生する位置によって分けられます。

胆道がん
├ 胆管がん
│ ├ 肝内胆管がん
│ └ 肝外胆管がん
│   ├ 肝門部領域胆管がん
│   └ 遠位胆管がん
├ 胆のうがん
└ 十二指腸乳頭部がん

したがって、「胆道がん」と「胆管がん」は同じ意味ではありません。

胆管がんは胆道がんの一部であり、胆のうがんや十二指腸乳頭部がんも胆道がんに含まれます。

胆管がんと胆のうがんでは見るべきポイントが違う

胆管がんでは、胆管のどこにがんがあるかによって、周囲にある血管や臓器との関係が変わります。そのため、肝内胆管がん、肝門部領域胆管がん、遠位胆管がんで、ステージ分類や手術方法も別々に考えます。

胆管がんについては、以下の記事で詳しく解説しています。

一方、胆のうがんでは、胆管のように「どこにできたか」だけでなく、がんが胆のう壁のどの層まで入り込んでいるのかが手術範囲を考える大きな判断材料になります。

胆のうがんについては、以下の記事で詳しく解説しています。

胆道がんの5つの病型

「胆道がん」という診断名だけでは、具体的な病状や治療方法まで判断することはできません。

国立がん研究センターは、胆道がんの病期について、肝内胆管がん、肝門部領域胆管がん、遠位胆管がん、胆のうがん、十二指腸乳頭部がんの5つに分けた病期表を掲載しています。

まず、それぞれの違いを整理します。

病型 発生する場所 症状の特徴 代表的な手術
肝内胆管がん 肝臓の中の胆管 早期には症状が出ないことも多い 肝切除
肝門部領域胆管がん 左右の肝管が合流する肝門部周辺 胆汁が流れにくくなり黄疸が出ることがある 肝切除+胆管切除など
遠位胆管がん 膵臓に近い側の胆管 閉塞性黄疸が発見のきっかけになることがある 膵頭十二指腸切除
胆のうがん 胆のう 早期には無症状のことが多い 胆のう摘出+必要に応じ肝切除・リンパ節郭清など
十二指腸乳頭部がん 胆管と膵管が十二指腸へ開く部分 黄疸や膵炎、それに伴う腹痛が起こることがある 膵頭十二指腸切除

症状と手術がこれだけ異なるのは、それぞれの病変の周囲にある臓器や血管が異なるためです。

肝内胆管がん|肝臓の中の胆管にできる

肝内胆管がんは、肝臓の中に張り巡らされた胆管から発生します。

肝臓から発生するため原発性肝がんの一つに分類され、「胆管細胞がん」と呼ばれることもあります。しかし肝細胞から発生する肝細胞がんとは別の病気であり、検査や治療法も異なります。

小さい段階では太い胆管を塞がないこともあり、黄疸などの症状が出ないまま、超音波やCTで肝臓の腫瘤として見つかる場合があります。

根治を目指せる場合には、がんがある部分を含めて肝臓を切除する肝切除が治療の中心になります。

肝門部領域胆管がん|胆管と重要な血管が集まる場所にできる

肝門部領域胆管がんは、左右の肝管が合流する肝門部付近に発生する胆管がんです。

この場所には胆管だけでなく、肝臓へ血液を運ぶ門脈や肝動脈などの重要な血管が集まっています。そのため、がんがどの胆管や血管へ広がっているかによって、手術可能性や切除する肝臓の範囲が変わります。

また、左右の肝臓から流れてきた胆汁が集まる場所に近いため、がんによって胆管が狭くなると黄疸が現れることがあります。

遠位胆管がん|膵臓に近い胆管にできる

遠位胆管がんは、肝門部より十二指腸側、特に膵臓に近い部分の胆管に発生します。

この部分の胆管は膵臓の中を通って十二指腸へ向かうため、根治手術では胆管だけを短く切除するのではなく、膵頭部や十二指腸などをまとめて切除する膵頭十二指腸切除が必要になることがあります。

また、細い胆管が塞がれることで閉塞性黄疸が起こり、皮膚や白目が黄色くなることが診断のきっかけになる場合があります。

胆のうがん|胆汁をためる胆のうにできる

胆のうがんは、肝臓の下にある袋状の臓器である胆のうから発生します。

早期には症状が出ないことが多く、胆石や胆のう炎、胆のうポリープを調べている際や、胆のう摘出後の病理検査で偶然見つかることもあります。

治療では、がんが胆のう壁のどこまで入り込んでいるかによって手術範囲が変わります。浅いがんなら胆のう摘出だけで治療できる場合がありますが、深く広がれば肝臓や胆管、リンパ節などの切除が必要になることがあります。

十二指腸乳頭部がん|胆管と膵管の出口にできる

十二指腸乳頭部は、胆汁を流す胆管と膵液を流す膵管が十二指腸へ開く部分です。ここにできるがんを十二指腸乳頭部がんと呼び、「乳頭部がん」「Vater乳頭部がん」と表記されることもあります。

乳頭部は胆汁と膵液の出口にあたるため、腫瘍によって流れが塞がれると黄疸だけでなく、膵液の流れが悪くなることで膵炎や腹痛が起こることがあります。

また、十二指腸の内側から観察できる場所にあるため、後述する内視鏡検査では腫瘍を直接観察し、組織を採取できる点も胆管がんや胆のうがんとの違いです。

根治手術では、膵頭部、十二指腸、下部胆管などを切除する膵頭十二指腸切除が標準的な手術となります。

自分がどの胆道がんなのかを確認する

「胆道がんです」と説明された場合、まず確認したいのは「具体的にどこから発生した胆道がんなのか」です。

「肝内胆管がん」なのか
「肝門部領域胆管がん」なのか
「遠位胆管がん」なのか
「胆のうがん」なのか
「十二指腸乳頭部がん」なのか

こうした違いによって、同じ「ステージⅡ」「ステージⅢ」という言葉でも意味する病状が違い、根治手術の方法も変わります。国立がん研究センターが病期表を5病型に分けているのも、このためです。

診断書などでは、肝内胆管がんが胆管細胞がん、肝門部領域胆管がんと遠位胆管がんがまとめて肝外胆管がんと書かれている場合もあります。

病名を確認することは単なる名称の確認ではありません。「どのステージ分類を見ればよいのか」「どの手術を考えるのか」「どの分子異常が比較的見つかりやすいのか」を理解する出発点になります。

胆道がんの原因・リスク・検診

胆道がんには、すべての患者さんに共通する一つの原因があるわけではありません。

胆管に慢性的な炎症が続く病気、胆道の生まれつきの構造異常、胆石など、発症リスクとの関連が知られている病気はいくつかありますが、明らかなリスク因子がない人にも胆道がんは発生します。

また、胆管がん、胆のうがん、十二指腸乳頭部がんでは、関連が知られている病気も同じではありません。

胆管がん|PSC・肝内結石など

胆管がんでは、原発性硬化性胆管炎(PSC)や肝内結石症など、胆管へ慢性的な炎症や胆汁うっ滞が起こる病気との関連が知られています。

また、膵管と胆管が通常とは異なる位置で合流する膵・胆管合流異常などの先天的な異常も胆道がんのリスクと関係します。

肝内胆管がんでは、肝硬変やB型・C型肝炎などの慢性肝疾患との関連も報告されています。

胆のうがん|胆石・胆のうポリープ・膵胆管合流異常など

胆のうがんでは、胆石症との関連が知られています。ただし、胆石がある人の大部分が胆のうがんになるわけではありません。

また胆のうポリープも、そのすべてががんではありません。大きさ、形、増大傾向、胆のう壁の変化などから、悪性の可能性を評価します。

膵・胆管合流異常では膵液が胆道へ逆流しやすくなり、胆のう粘膜が長期間刺激されるため、胆のうがんの発生リスクが高くなることが知られています。

十二指腸乳頭部がん|FAPとの関連が確認されている

十二指腸乳頭部がんの多くは散発的に発生し、一般の患者さんについて明確な原因を特定できるわけではありません。

一方、遺伝性疾患である家族性大腸腺腫症(FAP)では、十二指腸や十二指腸乳頭部に腺腫・がんを発症するリスクが一般人口より高いことが知られています。NCIのFAPに関する資料でも、十二指腸がんだけでなくampullary cancer(乳頭部がん)のリスク上昇が示されています。

2026年に報告されたオランダのFAP全国コホートでも、一般人口と比較して十二指腸がんと乳頭部がんの発症率が大きく高いことが確認されています。

また、乳頭部にできる腺腫は、がんへ進展する可能性がある病変として扱われます。

ただし、FAPがない人にも十二指腸乳頭部がんは発生します。「乳頭部がんになった=遺伝性の病気がある」という意味ではありません。

参考:NCI|Genetics of Colorectal Cancer PDQ、2026年 FAP全国コホート研究|PubMed

リスク因子があっても胆道がんになるとは限らない

胆石、PSC、肝内結石、膵・胆管合流異常、FAPなどがあるからといって、必ず胆道がんになるわけではありません。反対に、こうした病気が一つもなくても胆道がんを発症することがあります。

したがって、リスク因子は「将来がんになるかどうかを決めるもの」ではなく、一般の人とは異なる経過観察や検査が必要かを考える材料として捉える必要があります。

一般人口を対象とした胆道がん検診はない

現在、胆道がんには、胃がん・大腸がん・肺がんなどのような国の指針に基づく対策型がん検診はありません。そのため、症状のない一般の人が毎年特定の検査を受ければ胆道がんを早期発見できる、という確立した方法はありません。

一方、PSCや膵・胆管合流異常、FAPなどの基礎疾患がある人は、その病気に応じた定期的な検査や診療を受けることがあります。これは一般人口を対象とした「胆道がん検診」とは別の考え方です。

症状がある場合は検診を探すのではなく受診する

皮膚や白目が黄色くなった、尿が濃くなった、便が白っぽくなった、右上腹部やみぞおちの痛みが続く、原因の分からない体重減少があるなどの症状がある場合には、胆道がん検診を探すのではなく医療機関を受診します。

特に黄疸に高熱や悪寒、強い腹痛を伴う場合には、胆汁がうっ滞して急性胆管炎を起こしている可能性もあります。胆管炎は重症化することがあるため、通常の定期受診まで待たず相談する必要があります。

参考:国立がん研究センター「胆道がん 予防・検診」

胆道がんの初期症状と進行時の症状

胆道がんの症状を理解するときには、「胆道がんならこの症状が出る」と一括りにしないことが必要です。

がんが胆汁の流れる太い胆管や十二指腸乳頭に発生すると、比較的小さな病変でも胆汁の通り道を塞ぐことがあります。一方、肝臓の中や胆のうに小さながんがある段階では、胆汁の本流が保たれ、特徴的な症状が現れない場合があります。

黄疸は胆汁の流れが塞がると起こる

胆道がんで代表的な症状の一つが黄疸です。

胆汁にはビリルビンという黄色い色素が含まれています。本来は胆汁と一緒に胆管を通り、十二指腸へ排出されます。

ところが、がんによって胆管が狭くなったり塞がったりすると、胆汁が正常に流れず、ビリルビンが血液中に増えます。その結果、以下のような変化が現れることがあります。

皮膚や白目が黄色くなる
尿が茶色っぽく濃くなる
便が白・灰色っぽくなる
皮膚がかゆくなる

ただし、黄疸は胆道がんだけで起こるものではありません。胆管結石、膵臓の病気、肝臓の病気などでも起こります。

また、「黄疸がある=末期」「黄疸がない=早期」と判断することもできません。腫瘍の位置によっては、小さくても胆管を塞いで黄疸が出るためです。

肝門部領域・遠位胆管がんでは黄疸が出やすい

肝門部領域胆管がんや遠位胆管がんは、胆汁が流れる胆管そのものから発生します。

特に胆汁が集中して流れる場所が狭くなると、上流側に胆汁がたまり、閉塞性黄疸が起こりやすくなります。国立がん研究センターも、肝外胆管がんでは黄疸がよくみられると説明しています。

十二指腸乳頭部がんでは黄疸や膵炎が現れることがある

十二指腸乳頭部は、胆汁だけでなく膵液も十二指腸へ流れ込む出口です。

この部分に腫瘍ができると、胆管が塞がれて黄疸が起こるだけでなく、膵管の流れが妨げられて膵炎を起こすことがあります。膵炎では、みぞおちや背中の強い痛み、吐き気などが現れる場合があります。

「胆道がんで膵炎」というと不思議に感じるかもしれませんが、胆管と膵管が同じ乳頭部付近から十二指腸へ開いているためです。

参考:日本肝胆膵外科学会|乳頭部がん

肝内胆管がん・胆のうがんは早期には症状がないことが多い

肝内胆管がんは、肝臓内部の胆管から発生します。小さい段階では太い胆管を塞がないため、黄疸などが現れないことがあります。

胆のうがんも、胆汁の本流である胆管そのものから発生するわけではないため、早期には自覚症状がないことが多いがんです。胆石や胆のう炎を調べるために受けた超音波検査や、胆のう摘出後の病理検査から胆のうがんが偶然見つかることもあります。

腹痛・食欲低下・体重減少・倦怠感などが現れる場合もある

胆道がんでは、進行に伴ってみぞおちや右上腹部の痛み、食欲不振、体重減少、全身のだるさなどが現れることがあります。しかし、これらは胆道がんだけに起こる症状ではありません。

「腹痛があるから胆道がん」「体重が減ったからがん」と判断することはできませんが、食事量や運動量を変えていないのに体重が減り続ける、腹部症状と黄疸が重なるなど、これまでになかった変化が続く場合には原因を調べる必要があります。

黄疸に発熱・悪寒が加わった場合は胆管炎にも注意

胆管が塞がって胆汁の流れが悪くなると、そこへ細菌感染が加わり急性胆管炎を起こすことがあります。胆管炎では、発熱、悪寒、黄疸、右上腹部痛などが現れ、重症になると血圧低下や意識障害につながることもあります。

胆道がんと診断されている患者さんや胆管ステントが入っている患者さんで、高熱、強い悪寒、黄疸の急な悪化などがみられた場合には、次の予約日まで待たず治療を受けている医療機関へ連絡します。

参考:日本肝胆膵外科学会|急性胆のう炎と急性胆管炎

胆道がんの検査

胆道がんの診断では、最初からすべての患者さんへ同じ検査を行うわけではありません。

一般的には、血液検査や腹部超音波で異常を確認し、CTやMRIで病変の場所と広がりを評価します。その後、疑われる病型や治療方針に応じてEUS、ERCP、内視鏡検査、病理検査などを追加します。

ここでは検査名を一つずつ詳しく覚えるよりも、「どの病型で、何を確認するためにその検査を行っているのか」を理解すると、検査結果と治療方針を結び付けやすくなります。

参考:国立がん研究センター|胆道がん 検査

最初は血液検査・超音波・CT・MRIなどで病変と広がりを調べる

血液検査では、胆汁の流れが悪くなっていないかをみるために、ビリルビン、ALP、γ-GTPなどを調べます。また、CA19-9やCEAなどの腫瘍マーカーを測定することがあります。ただし、腫瘍マーカーだけで胆道がんを診断することはできません。胆管炎や胆汁うっ滞などでも上昇し、反対にがんがあっても上昇しない場合があります。

腹部超音波では胆管の拡張、胆のう壁や胆石、肝臓の腫瘤などを確認します。異常が疑われた場合は造影CTで、がんの大きさや周囲臓器・血管への広がり、リンパ節転移、遠隔転移などを評価します。

MRIやMRCPでは、胆管や膵管の形を詳しく確認できます。CTとMRIは一方だけで完結するとは限らず、それぞれの情報を組み合わせて診断と切除可能性を評価します。

胆管がんではERCPなどで狭窄や広がりを詳しく調べる

胆管がんでは、CTやMRIだけでなく、胆管そのものへアクセスして詳しく調べる検査が必要になることがあります。

ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)では、口から内視鏡を十二指腸まで進め、十二指腸乳頭からカテーテルを胆管へ入れます。胆管へ造影剤を注入して狭窄の形や広がりを調べるほか、胆汁の細胞診や胆管生検を行うことができます。黄疸がある場合には、そのまま胆汁を流す胆道ドレナージにつなげることもあります。

さらに必要に応じて、胆管内へ細い超音波プローブを入れるIDUSや、胆管内を直接観察するPOCSなどを使用します。

ただし、これらはすべての胆道がん患者さんに必要な検査ではありません。詳しい胆管がんの検査については「胆管がんとは?」の記事で解説しています。

胆のうがんではEUSで胆のう壁や病変を詳しく見ることがある

胆のうがんでは、腹部超音波やCT、MRIに加えてEUS(超音波内視鏡検査)を行うことがあります。

EUSは先端に超音波装置が付いた内視鏡を胃や十二指腸まで進め、体の内側から胆のうを観察する検査です。病変へ近づいて観察できるため、胆のうポリープや壁肥厚の性質、胆のう壁への深達度などを評価する際に役立ちます。

一方、胆のうがんでは、病変の位置や切除可能性などによっては手術前に組織検査を行わないこともあります。胆道がんは「がんが疑われたら全員同じ方法で生検する」病気ではありません。

さらに詳しい胆のうがんの検査については「胆のうがんとは?」の記事で解説しています。

十二指腸乳頭部がんでは内視鏡で病変を直接観察できる

十二指腸乳頭部がんは、胆管や胆のうのがんとは検査上の特徴が異なります。乳頭部は十二指腸の内側に露出しているため、内視鏡を十二指腸まで進めることで、腫瘍そのものを直接観察できます。さらに、疑わしい部分から組織を採取して病理検査を行うことも可能です。

EUSを使えば、十二指腸の壁や膵臓、胆管へどの程度広がっているかをより詳しく評価できます。ERCPでは胆管や膵管内への広がりを確認したり、黄疸に対してドレナージを行ったりすることがあります。

このように、胆道がんでも「内視鏡で腫瘍を直接見られる病型」と「胆管の中から間接的に調べる必要がある病型」があります。

PET・PET-CTはリンパ節・遠隔転移を追加評価するために行うことがある

PET・PET-CTは、FDGという放射性物質を含む薬剤を使って、糖を多く取り込む組織を画像化する検査です。

胆道がんでは、CTやMRIなどで評価したうえで、リンパ節転移や遠隔転移などを追加で確認する目的で行うことがあります。すべての患者さんに必須の検査ではなく、CT・MRIの所見や手術可能性などを踏まえて必要性を判断します。

病理診断の取り方も病型によって異なる

がんの確定診断では、採取した細胞や組織を顕微鏡で調べる病理診断が基本になります。ただし、検体の採り方は病型によって異なります。

十二指腸乳頭部がんでは、内視鏡で病変を直接見ながら生検できます。胆管がんではERCPで胆汁細胞診や胆管生検を行うことがありますが、十分な組織が取れず、がんがあっても検査で確認できない場合があります。胆のうがんでは、病変の深さや手術方針によっては、胆のう摘出後の病理検査で確定診断となる場合があります。

したがって「病理診断がまだついていない」「生検をしていない」という事実だけから、診断や治療が不十分だと判断することはできません。疑われている病型と、治療方針を決めるためにどの検査結果が必要なのかを合わせて確認します。

参考:胆道癌診療ガイドライン 第4版

胆道がんのステージ分類

胆道がんのステージを調べるときに最も気をつけたいのが、「胆道がん全体に一つのステージ表があるわけではない」という点です。

国立がん研究センターでは、胆道がんを以下の5つに分け、それぞれ別の病期表を掲載しています。

肝内胆管がん
肝門部領域胆管がん
遠位胆管がん
胆のうがん
十二指腸乳頭部がん

これは単なる分類上の違いではありません。発生する場所によって周囲の臓器や血管が違い、「どこまで広がると治療上大きな意味を持つのか」も異なるためです。

参考:国立がん研究センター|胆道がん 治療

原発巣・リンパ節・遠隔転移を組み合わせて病期を評価する

胆道がんでは、基本的に次のような情報から病気の広がりを評価します。

分類 何を評価するか
T 原発巣の大きさ・深さ・数・周囲臓器や血管への広がりなど。何を基準にするかは病型で異なる
N 領域リンパ節へ転移しているか、または転移リンパ節の数など
M 離れた臓器や遠隔リンパ節への転移があるか

ただし、Tで何を評価するかは5病型で大きく違います。

T分類で見るポイントが病型によって大きく違う

2026年8月時点で、国立がん研究センターが患者向けに掲載している病期表では、各病型で次のような違いがあります。

病型 T分類を理解するうえで主に見るポイント
肝内胆管がん 腫瘍の数や大きさ、血管・主要胆管への浸潤など
肝門部領域胆管がん 胆管壁を越えた広がり、門脈・肝動脈などへの浸潤
遠位胆管がん 胆管壁へ入り込んだ深さ、主要動脈などへの浸潤
胆のうがん 胆のう壁への深達度、肝臓側・腹腔側、周囲臓器や血管への浸潤
十二指腸乳頭部がん 乳頭部から十二指腸や膵臓などへどこまで広がっているか

したがって「T2だから、どの胆道がんでも同じくらい進んでいる」という読み方はできません。

たとえば、胆のうがんでは胆のう壁の深さが大きな意味を持ちますが、肝門部領域胆管がんでは門脈や肝動脈との位置関係が手術に直結します。

同じ「ステージⅡ・Ⅲ・Ⅳ」でも病型が違えば意味が異なる

同じステージ番号でも、含まれる病状は病型によって違います。

一部の胆道がんでは、ステージⅣであっても必ずしも遠隔転移を意味しません。多数の領域リンパ節転移や高度な局所進行がステージⅣに含まれる分類もあります。

そのため「ステージ4と書いてあったから、必ず肺や骨へ転移している」と数字だけから判断することはできません。反対に、同じステージでも、どの血管へ浸潤しているか、どの臓器へ広がっているかによって手術可能性が大きく異なる場合があります。

詳しい病期については、胆管がんと胆のうがんの記事でそれぞれ解説しています。

国立がん研究センターの現行ページでも病型によって分類が異なる

2026年8月時点で、国立がん研究センターの患者向けページでは、肝内胆管がんには日本肝癌研究会『原発性肝癌取扱い規約 第6版補訂版(2019年)』、肝門部領域胆管がん、遠位胆管がん、胆のうがん、十二指腸乳頭部がんにはUICC TNM第8版に基づく病期表が掲載されています。

一方、UICCはTNM第9版を2025年に刊行し、2026年1月1日からの使用を推奨しています。

病期表を見るときの注意
インターネットや冊子に掲載されているステージ表と、現在の診療で使われる分類・版が一致しているとは限りません。実際の診断書や病理報告書については、「どの病型に対して、どの分類・何版を使ったステージなのか」を確認してください。

治療前のcStageと手術後のpStageで変わることもある

治療前にはCT、MRI、EUS、内視鏡検査などを使って、がんの広がりやリンパ節・遠隔転移を推定します。

この治療前の情報から判断する病期を臨床病期(cStage)と呼びます。

一方、手術で摘出したがんやリンパ節を顕微鏡で詳しく調べると、画像では分からなかった小さな浸潤やリンパ節転移が見つかることがあります。この病理結果から決めるものが病理病期(pStage)です。

そのため、手術前に説明されたステージと、手術後の最終的なステージが変わることがあります。

特に胆のうがんでは、胆石や胆のう炎などで胆のうを摘出した後、病理検査によって初めてがんと深達度が分かることもあります。

ステージの数字だけを見るのではなく「どの胆道がんなのか」「cStageなのかpStageなのか」「どの分類を使っているのか」まで確認すると、自分の病状をより正確に理解できます。

参考:国立がん研究センター「胆道がん 治療」、UICC「TNM Classification of Malignant Tumours」

胆道がん治療の全体像

胆道がんの治療には、手術、薬物療法、放射線治療などがあります。その中で、根治を目指せる場合に中心となるのが手術による完全切除です。

そのため胆道がんでは、ステージを確認したうえで、「手術によってがんを完全に取り切れる可能性があるか」を検討することが治療方針の大きな分岐になります。国立がん研究センターも、胆道がんではまず手術ができるかを検討し、手術できない場合には薬物療法を中心に治療すると説明しています。2025年版『胆道癌診療ガイドライン 改訂第4版』も、外科切除の可否を治療アルゴリズムの最初の大きな分岐としています。

病状 治療の基本的な考え方
切除可能 病型に応じた手術で完全切除を目指す。手術後は病理結果などから術後補助化学療法を検討する
局所進行で切除困難 薬物療法が中心。遠隔転移がない場合には放射線治療などを検討することがある
遠隔転移・再発 全身薬物療法が中心。治療歴やバイオマーカーも次の治療選択に関係する
黄疸・胆管炎を伴う 必要に応じて胆道ドレナージや感染治療を行い、手術・薬物療法を安全に進められる状態へ整える

ただし、「切除可能か」はステージ番号だけで自動的に決まるものではありません。

遠隔転移がなくても手術できない場合がある

胆道がんでは、肺や腹膜などへの遠隔転移がなければ必ず手術できるわけではありません。

たとえば肝門部領域胆管がんでは、がんが左右の胆管や門脈・肝動脈へどこまで広がっているか、がんを取り切った後に十分な肝臓を残せるかが手術可能性に関係します。

胆のうがんでは、肝臓、胆管、膵臓、十二指腸などへ広く浸潤している場合、すべてを切除しても完全切除できない、あるいは手術の負担が大きすぎると判断されることがあります。

国立がん研究センターも、胆道がんでは遠隔転移がなくても、原発巣や周囲への広がりによって技術的に切除が難しいことがあると説明しています。

したがって「手術できない」と説明された場合には、遠隔転移があるためなのか、重要な血管への広がりが問題なのか、必要な臓器を切除すると安全性を保てないためなのかまで確認すると、その後の治療方針を理解しやすくなります。

切除可能性の判断が難しい場合は専門施設への相談も選択肢

胆道がんの手術には、肝切除、胆管切除、膵頭十二指腸切除、血管を含む複雑な切除・再建など、高度な肝胆膵外科手術が必要になることがあります。

特に局所進行例では、同じ画像を見ても切除可能性の判断が施設や医師によって異なる場合があります。国立がん研究センターも、胆道がんでは手術できるかどうかの判断が施設・医師によって異なることがあり、必要に応じてセカンドオピニオンを検討できると案内しています。

そのため、大きな肝切除や複雑な血管処理を伴う手術を提案された場合や、「切除できない」と説明されたものの理由を十分理解できていない場合には、肝胆膵外科を専門とする施設で別の意見を聞くことも治療選択の一つです。

セカンドオピニオンは「現在の担当医を信用しない」という意味ではなく、切除可能性や治療選択について情報を増やすために利用できます。

参考:国立がん研究センター「胆道がん 治療」、日本肝胆膵外科学会「胆道癌診療ガイドライン 改訂第4版」

黄疸がある場合の胆道ドレナージ

胆道がんでは、がんそのものへの手術や薬物療法だけでなく、胆汁を正常に流すための胆道ドレナージが治療計画の一部になる場合があります。

胆管ががんによって狭くなったり塞がったりすると、胆汁が十二指腸へ流れなくなり、黄疸やかゆみ、胆管炎などを起こします。さらに肝機能が悪化すると、手術や薬物療法を安全に行うことが難しくなる場合があります。

胆道ドレナージはがんそのものを治す処置ではない

胆道ドレナージの目的は、がんを小さくしたり消したりすることではありません。

詰まった胆道から胆汁を流し、黄疸や感染を改善して、その後のがん治療を安全に進められる状態へ整えるために行います。

そのため「抗がん剤を始める前にステントを入れる」「手術の前にドレナージをする」と説明された場合でも、がん治療が止まっているわけではありません。胆道ドレナージ自体が、その後の治療へ進むための準備になることがあります。

内ろうと外ろうがある

胆道ドレナージは、大きく内ろう(内瘻:ないろう)と外ろう(外瘻:がいろう)に分けられます。

方法 胆汁の流れ
内ろう 胆管内にステントを留置し、胆汁を本来の流れに近い形で腸へ流す
外ろう 鼻や腹部から出したチューブを通して胆汁を体外へ排出する

どちらを選ぶかは、胆管が詰まっている位置、手術を予定しているか、胆管炎の有無などによって変わります。

肝門部領域胆管がんのように複数の胆管が分かれる場所では、どの胆管をドレナージするかも治療計画に関係します。こうした細かな方法については「胆管がんとは?」の記事で詳しく説明しています。

発熱・悪寒・黄疸の再悪化は胆管炎や閉塞の可能性がある

胆管ステントやドレナージチューブを留置した後も、ステントが詰まったり、細菌感染による胆管炎を起こしたりする場合があります。

高熱、悪寒、右上腹部痛、黄疸の再悪化などがみられた場合には、予定された外来まで様子を見るのではなく、治療を受けている医療機関へ相談します。

参考:国立がん研究センター「胆道がん 治療」

胆道がんの手術

「胆道がんの手術」という一つの決まった手術があるわけではありません。

どこから発生したがんかによって、切除する臓器が大きく異なるのが胆道がん手術の特徴です。国立がん研究センターも、5病型それぞれについて別の手術方法を説明しています。

病型 代表的な手術 手術を理解するポイント
肝内胆管がん 肝切除 腫瘍の位置や数に応じ、がんを含む肝臓を切除する
肝門部領域胆管がん 肝切除+肝外胆管切除など 胆管だけでなく肝臓を大きく切除し、残った胆管と腸を再建することがある
遠位胆管がん 膵頭十二指腸切除 胆管が膵頭部を通るため、膵頭部や十二指腸などをまとめて切除する
胆のうがん 胆のう摘出+必要に応じ肝切除・リンパ節郭清など 胆のう壁への深達度と周囲への広がりで切除範囲が変わる
十二指腸乳頭部がん 膵頭十二指腸切除 十二指腸、膵頭部、肝外胆管、胆のうなどを切除して再建する

参考:国立がん研究センター|胆道がん 治療

肝内胆管がんでは肝切除が中心

肝内胆管がんは肝臓内部に発生するため、切除可能であればがんとその周囲の肝臓を含めて切除します。

腫瘍の場所によって部分的な肝切除から、右葉・左葉などを大きく切除する手術まで範囲が変わります。肝門部に近い病変では、肝外胆管や胆のう、周囲リンパ節の切除を追加することもあります。

肝門部領域胆管がんでは肝臓と胆管を一緒に切除することが多い

肝門部領域には、左右の胆管だけでなく門脈や肝動脈が複雑に集まっています。

そのため、肝門部領域胆管がんでは、がんが広がっている胆管だけを切り取るのではなく、左右どちらかの肝臓、肝外胆管、胆のう、周囲のリンパ節などをまとめて切除する手術が一般的です。切除した後には、残した胆管と小腸をつなぎ、胆汁が腸へ流れるよう再建します。

大きな肝切除が必要な場合には、「がんを取り切れるか」だけでなく、手術後に残る肝臓の大きさと機能が十分かも評価します。必要に応じて、手術前に門脈塞栓術を行い、残す側の肝臓を大きくしてから手術へ進む場合があります。

遠位胆管がんと十二指腸乳頭部がんでは膵頭十二指腸切除を行う

遠位胆管と十二指腸乳頭部は、いずれも膵頭部や十二指腸に近接しています。

そのため、根治手術では膵頭十二指腸切除が中心になります。

膵頭十二指腸切除では、膵頭部、十二指腸、胆管、胆のうなどを切除した後、残った膵臓や胆管、消化管を小腸などへつなぎ直します。十二指腸乳頭部がんについても、日本肝胆膵外科学会は膵頭十二指腸切除を標準的な手術としています。

同じ手術名でも、がんの広がりや患者さんの状態によって細かな切除・再建方法は異なります。

胆のうがんは深達度によって手術範囲が変わる

胆のうがんでは、浅い早期がんであれば胆のう摘出だけで根治できる場合があります。一方、胆のう壁を越えて広がると、肝切除やリンパ節郭清を追加し、胆管などへ浸潤していればさらに切除範囲が広がる場合があります。

胆のうがんのT1a・T1b・T2a・T2bや、胆のう摘出後に偶然がんが判明した場合の追加切除については、以下の記事で詳しく説明しています。

手術の説明を受けるときには、手術名だけでなく「どの臓器を、なぜそこまで切る必要があるのか」を確認すると、治療の目的を理解しやすくなります。

切除可能胆道がんの術前・術後薬物療法

手術によって目に見える胆道がんを完全に取り切れても、その後に再発する場合があります。これは、画像や手術では確認できないごく少量のがん細胞が、手術の時点ですでに体内に存在している可能性があるためです。そのため根治切除後には、病理結果や全身状態などをもとに術後補助化学療法を検討します。

日本ではS-1が術後補助化学療法の標準治療

日本で根治切除後胆道がんの術後治療を大きく変えたのが、JCOG1202/ASCOT試験です。

この第III相試験には、肝外胆管がん、胆のうがん、十二指腸乳頭部がん、肝内胆管がんの患者さんが含まれ、手術後に経過観察を行う群とS-1を投与する群が比較されました。440人を対象とした解析では、3年全生存割合は経過観察群67.6%、S-1群77.1%で、S-1による生存期間の改善が示されました。

この結果から、JCOGはS-1が胆道がん根治手術後の標準的な術後補助療法になったとしています。

S-1を使うのは「手術でがんを取り残したから」とは限りません。完全切除できていても、目に見えない微小ながん細胞を治療し、再発リスクを下げることが術後補助療法の目的です。

参考:JCOG|JCOG1202/ASCOT 試験結果、JCOG1202/ASCOT 原著|PubMed

手術をした患者さん全員に機械的にS-1を使うわけではない

JCOG1202の結果があるからといって、胆道がんの手術を受けた患者さん全員が同じようにS-1を必要とするわけではありません。試験には一定の病期・病理条件を満たした患者さんが登録されているため、ごく浅い早期がんなどまで試験結果をそのまま当てはめることはできません。

実際には、がんの深達度、リンパ節転移、切除断端、病理組織型、手術後の回復状況、肝機能・腎機能、体力などを確認して術後治療を判断します。

術前化学療法はすべての切除可能胆道がんで確立した治療ではない

「抗がん剤でがんを小さくしてから手術した方がよいのでは」と考えるかもしれません。しかし2026年8月時点では、切除可能な胆道がんすべてに術前化学療法を行うことが標準治療として確立しているわけではありません。

JCOG1920では、切除可能胆道がんを対象に、手術を先に行う治療と、GCS療法を術前に行ってから手術する治療を比較する第III相試験が行われています。なお、2026年8月時点で患者募集は終了しており、結果の公表が待たれます。

したがって、手術可能と判断された患者さんが最初に手術を受けることは「必要な抗がん剤を省略している」という意味ではありません。

参考:JCOG1920/NABICAT

切除不能・再発胆道がんの薬物療法

手術で完全に取り切ることが難しい胆道がんや、手術後に再発した胆道がんでは、全身へ作用する薬物療法が治療の中心になります。ただし、ここでも「胆道がん」という総称だけで一括りにしない方がよい部分があります。特に2026年現在の免疫療法については、胆管がん・胆のうがんと、十二指腸乳頭部がんで主要臨床試験の対象が異なる点を理解しておく必要があります。

胆管がん・胆のうがんでは化学療法+免疫療法が一次治療の重要な選択肢

切除不能・再発の胆管がん・胆のうがんでは、長くゲムシタビン+シスプラチンを組み合わせるGC療法が治療の基本となってきました。

現在は、これに免疫チェックポイント阻害薬を加える「ゲムシタビン+シスプラチン+デュルバルマブ(GCD療法)」または「ゲムシタビン+シスプラチン+ペムブロリズマブ(GCP療法)」が一次治療の重要な選択肢になっています。PMDAではデュルバルマブとペムブロリズマブについて胆道がんの最適使用推進ガイドラインが公開され、デュルバルマブ版は2026年6月にも改訂されています。

デュルバルマブを検証したTOPAZ-1試験、ペムブロリズマブを検証したKEYNOTE-966試験はいずれも、進行胆道がんに対するGC療法へ免疫療法を加えることで全生存期間を改善することを示しました。

参考:PMDA|最適使用推進ガイドライン一覧、TOPAZ-1 3年追跡|PubMed、KEYNOTE-966 原著|PubMed

十二指腸乳頭部がんでは免疫療法の根拠をそのまま当てはめない

TOPAZ-1では乳頭部がんが除外されており、KEYNOTE-966も対象を肝内胆管がん、肝外胆管がん、胆のうがんとして、ampullary cancer(乳頭部がん)を除外基準にしています。

したがって「胆道がんだから、十二指腸乳頭部がんにもTOPAZ-1やKEYNOTE-966とまったく同じエビデンスがある」と説明するのは正確ではありません。

参考:TOPAZ-1|ClinicalTrials.gov、KEYNOTE-966|ClinicalTrials.gov

一方で、十二指腸乳頭部がんが胆道がんの薬物療法研究から常に除外されてきたわけでもありません。

国内のJCOG1113/FUGA-BT試験では、肝内胆管がん、肝外胆管がん、胆のうがんとともに十二指腸乳頭部がんが対象に含まれ、GC療法とゲムシタビン+S-1(GS療法)が比較されています。

また、GCS療法とGC療法を比較したMITSUBA試験にもVater乳頭部がんが含まれています。

つまり、十二指腸乳頭部がんでも薬物療法を行いますが、治療法ごとに「その病型が臨床試験に含まれていたか」を分けて考える必要があります。

実際の治療では、病理組織型、これまでの治療、全身状態、国内の承認条件やガイドラインなどを踏まえて個別に判断します。

参考:JCOG1113/FUGA-BT|PubMed、JCOG1113 病型別解析|PubMed、MITSUBA/KHBO1401|PubMed

GS療法やGCS療法も選択肢になる

日本では、患者さんの状態や治療方針によって、ゲムシタビン+S-1(GS療法)や、ゲムシタビン+シスプラチン+S-1(GCS療法)も検討されます。

JCOG1113ではGS療法がGC療法に全生存期間で劣らないことが示され、GS療法はシスプラチン投与に伴う補液を必要としない点にも特徴があります。

MITSUBA試験では、GCS療法とGC療法が比較され、GCS療法による生存期間の改善が示されました。

ただし現在は免疫療法を含む治療も導入されているため、これらの試験結果だけから「どの患者さんにもGSやGCSが第一選択」と考えるものではありません。

黄疸や胆管炎がある場合は薬物療法より先に状態を整えることがある

胆管が詰まり、強い黄疸や胆管炎がある状態では、そのまま薬物療法を開始することが難しい場合があります。

必要に応じて胆道ドレナージや抗菌薬治療を行い、胆汁の流れ、感染、肝機能などを改善してから薬物療法へ進みます。2025年版胆道癌診療ガイドラインでも、閉塞性黄疸を伴う切除不能胆道がんでの薬物療法開始時期が独立した臨床課題として扱われています。

二次治療以降ではバイオマーカーも次の治療選択に関係する

一次治療でがんが進行した場合には、これまで使った薬、全身状態、臓器機能などから次の治療を考えます。

現在はそれだけでなく、がんが治療につながる分子異常を持っているかも確認する必要があります。

2026年8月の3学会合同手引きでは、胆道がんにはFGFR2融合、IDH1変異、HER2遺伝子増幅、BRAF V600E、MSI-High/dMMR、TMB-High、NTRK融合、RET融合、ALK融合など、治療選択につながり得る複数のバイオマーカーが整理されています。

そのため、進行・再発胆道がんでは「今使っている抗がん剤」の次に何を使うかだけでなく「バイオマーカー検査がどこまで済んでいるか」も治療計画の一部になります。

胆道がんのバイオマーカー・遺伝子検査

胆道がんは、同じ病名・同じステージでも、がん細胞が持っている遺伝子異常などが患者さんごとに異なります。現在は、こうした特徴をバイオマーカーとして調べ、条件が合えば分子標的薬や免疫療法へつなげられる場合があります。

2026年8月に公開された3学会合同『胆道癌患者におけるバイオマーカー検査の手引き Ver.1.0』では、胆道がんを肝内胆管がん、肝外胆管がん、胆のうがん、Vater乳頭部がんを含む多様な疾患群として捉え、治療につながるバイオマーカーと検査方法を整理しています。

参考:3学会合同|胆道癌患者におけるバイオマーカー検査の手引き 2026年8月 Ver.1.0

同じ胆道がんでも見つかりやすい分子異常には偏りがある

胆道がんのバイオマーカー検査で理解しておきたいのは、「すべての胆道がんで同じ遺伝子異常が同じ頻度で見つかるわけではない」という点です。

大まかな特徴を整理すると、次のようになります。

病型 比較的注目されるバイオマーカー
肝内胆管がん FGFR2融合遺伝子、IDH1変異など
肝外胆管がん HER2異常などがみられる場合がある
胆のうがん HER2異常が胆道がんの中では比較的みられやすい
病型をまたいで検討 BRAF V600E、MSI-High/dMMR、TMB-High、NTRK融合、RET融合、ALK融合など

これは「肝内胆管がんなら必ずFGFR2がある」「胆のうがんならHER2がある」という意味ではありません。あくまで病型によって分子異常の分布に偏りがあるため、実際には患者さんごとに検査します。

肝内胆管がんではFGFR2融合・IDH1変異が重要

肝内胆管がんでは、FGFR2融合遺伝子とIDH1遺伝子変異が特に重要な治療標的になっています。

2026年手引きでは、FGFR2融合に対してペミガチニブ、フチバチニブ、タスルグラチニブ、IDH1変異に対してイボシデニブなど、対応する国内治療薬と検査法が整理されています。

これらの検査方法や薬剤の適応条件は、胆管がんの記事で詳しく説明しています。

胆のうがん・肝外胆管がんではHER2が治療につながる場合がある

胆のうがんや肝外胆管がんでは、HER2異常が治療選択につながる場合があります。特に胆のうがんでは、HER2タンパク質の過剰発現やHER2遺伝子増幅が胆道がんの中で比較的多く報告されています。

ただし、HER2陽性、HER2タンパク過剰発現、HER2遺伝子増幅は、検査方法まで含めれば完全に同じ意味ではありません。治療薬を使用できるかは、承認された適応条件と検査結果を確認して判断します。2026年手引きでは、HER2遺伝子増幅も治療につながるバイオマーカーとして整理されています。

胆のうがんのHER2については以下の記事で詳しく説明しています。

BRAF・MSI・TMB・NTRK・RETなどは病型をまたいで治療につながる場合がある

胆道がんでは、FGFR2・IDH1・HER2以外にも、以下の遺伝子変異などが条件を満たした場合に治療選択へつながることがあります。

  • BRAF V600E
  • MSI-High/dMMR
  • TMB-High
  • NTRK融合遺伝子
  • RET融合遺伝子
  • ALK融合遺伝子

これらの異常は頻度が高いとは限りませんが、見つかった患者さんでは治療選択を大きく変える可能性があります。

「遺伝子異常が見つかった=必ずその薬を使える」ではない

検査で分子異常が見つかっても、自動的に対応する薬を使用できるわけではありません。

治療薬ごとに、どの検査法で確認する必要があるか、どの治療歴で使用できるか、現在の病状・全身状態で治療できるかなどを確認します。

また、一つの検査で検出された情報が、そのまま薬剤の適応判定に使用できない場合もあります。2026年手引きでも、検査ごとにコンパニオン診断として使用できるバイオマーカーが異なることが示されています。

バイオマーカー検査とCGPは治療に間に合う時期を考える

進行胆道がんでは、標準治療がすべて終わった後に初めて遺伝子検査を考えると、検査結果が次の治療へ間に合わない場合があります。

2026年手引きでは、国内の実臨床で二次治療へ移行できる胆道がん患者さんの割合が約44%とするデータを紹介し、一次治療開始後の適切な時期からCGPを計画する必要性を説明しています。

ただし、保険診療でCGPを目的としたがん遺伝子パネル検査を行う場合には、原則として標準治療が終了した、または終了が見込まれることなどの実施条件があります。早くから検査について相談することと、直ちに保険診療でCGPを受けられることは同じではありません。

特定の薬を使えるか判断するコンパニオン診断と、治療候補を幅広く探索するCGPでは、検査の目的や保険診療上の実施条件が異なります。

そのため進行・再発胆道がんでは「遺伝子検査をしたか」だけでなく「何を調べた検査なのか」「次の治療判断に使える結果なのか」まで確認するとよいでしょう。

参考:肝癌研究会・日本肝胆膵外科学会・日本胆道学会合同「胆道癌患者におけるバイオマーカー検査の手引き(2026年8月 Ver.1.0)」

胆道がんの放射線治療・コンバージョン手術・緩和ケア

胆道がんでは、切除可能なら手術、切除不能・再発では薬物療法が治療の大きな柱になります。放射線治療も使われることがありますが、すべての胆道がん患者さんに一律に行う治療ではありません。

2025年版胆道癌診療ガイドラインでは、切除不能胆道がんへの放射線治療・化学放射線療法はFRQ(フューチャー・リサーチ・クエスチョン:将来の研究課題)として、明確な推奨を示すにはさらに検証が必要な課題として扱われています。

参考:胆道癌診療ガイドライン 第4版

遠隔転移のない局所進行例で放射線治療を検討することがある

手術できない理由が遠隔転移ではなく、がんが周囲の血管や臓器へ局所的に広がっているためという場合には、薬物療法に加えて放射線治療や化学放射線療法を検討することがあります。

目的は、局所の腫瘍を抑えることや症状を軽減することなどです。国立がん研究センターも、遠隔転移のない切除不能胆道がんで放射線治療を検討する場合があるとしています。

ただし、現時点ではすべての局所進行胆道がんへ行う標準治療とは位置づけられていません。

参考:国立がん研究センター|胆道がん 治療

コンバージョン手術は「抗がん剤が効けば必ず手術する」という治療ではない

最初は切除不能と判断された胆道がんでも、薬物療法によって腫瘍が縮小し、遠隔転移が出現せず、改めて評価した結果、完全切除できる可能性が生じる場合があります。

このように、薬物療法などの後に手術を再検討する考え方をコンバージョン手術と呼びます。

ただし、2025年版ガイドラインではコンバージョン手術はFRQ(将来の研究課題)として扱われており、切除不能胆道がんで「薬が効いたら手術する」という確立した一律の標準治療ではありません。腫瘍が小さくなっただけではなく、血管や周囲臓器との関係、遠隔転移、患者さんの全身状態などを再評価して判断します。

緩和ケア・支持療法はがん治療と並行して行う

胆道がんでは、痛み、黄疸、かゆみ、食欲不振、体重減少、倦怠感など、がんそのものによる症状が生活に影響することがあります。

また、手術や抗がん薬による副作用を軽減し、治療を続けられる身体の状態を保つための支持療法も治療の一部です。

緩和ケアは「もう抗がん治療をしない人だけが受ける治療」ではありません。痛みや不安、食事の問題などがあれば、手術・薬物療法などと並行して利用します。

参考:国立がん研究センター|緩和ケア

胆道がん治療後の生活

胆道がん治療後の生活を「胆道がんの手術後」と一つにまとめることはできません。肝臓を大きく切除した人、膵頭十二指腸切除を受けた人、胆のうだけを摘出した人では、残った臓器と身体の変化が大きく異なるためです。国立がん研究センターも、胆道がん治療後の日常生活上の注意は症状や治療内容によって異なると説明しています。

参考:国立がん研究センター|胆道がん 療養

肝切除後|残った肝臓が回復するまで状態を確認する

肝内胆管がんや肝門部領域胆管がんでは、大きな肝切除を行う場合があります。

肝臓には再生する力がありますが、大きく切除した直後は残った肝臓へ負担がかかります。術後には肝機能、黄疸、腹水などを確認し、まれに起こる肝不全にも注意します。

退院後の運動量や飲酒、食生活などは、残った肝臓の機能や手術範囲によって異なるため、個別に確認します。

膵頭十二指腸切除後|消化・栄養状態の変化に注意する

遠位胆管がんや十二指腸乳頭部がんでは、膵頭十二指腸切除を行うことがあります。

この手術では膵臓の一部、十二指腸、胆管、胆のうなどを切除し、残った臓器をつなぎ直すため、単純な胆のう摘出より身体への負担が大きくなります。

膵液には食べ物を消化する酵素が含まれているため、手術後に消化吸収が低下し、下痢や体重減少などが問題になる場合があります。膵臓手術後には必要に応じて栄養状態を評価し、食事方法や消化を助ける薬などを調整します。

胆のう摘出後|多くの場合は胆のうがなくても生活できる

胆のうは胆汁をつくる臓器ではなく、肝臓でつくられた胆汁を一時的にためる臓器です。

そのため胆のうを摘出しても、肝臓では胆汁がつくられ続け、胆管を通って十二指腸へ流れます。

胆のう摘出だけであれば、長期的に極端な食事制限を必要としない人も多くいます。一方、胆のうがんでは肝切除や胆管切除などを同時に受けている場合があるため、「胆のう摘出後」と「胆のうがんの拡大手術後」を同じものとして考えないことが必要です。

胆道ドレナージ中|外ろうと内ろうで生活上の注意が異なる

外ろうの場合には、鼻や腹部からチューブが体外へ出ているため、抜けたり曲がったりしないよう管理が必要です。

内ろうでは体外にチューブは出ませんが、ステントが閉塞すると再び黄疸や胆管炎が起こる場合があります。

国立がん研究センターも、胆道ドレナージ後は外ろうと内ろうそれぞれで生活上の注意点が異なるため、医療者へ確認するよう案内しています。

薬物療法中は副作用だけでなく「治療を続けられる状態か」をみる

胆道がんの薬物療法では、血球減少、食欲低下、吐き気、倦怠感、下痢などが生活に影響する場合があります。

シスプラチンでは腎機能、聴力、手足のしびれなどにも注意します。免疫チェックポイント阻害薬では、通常の抗がん薬とは異なり、免疫反応によって肺、肝臓、腸、甲状腺などに炎症や機能障害が起こる場合があります。PMDAでは胆道がんに対する免疫療法について現在も最適使用推進ガイドラインを公開しています。

副作用は単に「我慢する症状」ではありません。食事が取れず体重が落ちる、脱水する、感染症を起こすなどすると、予定していた薬物療法を続けにくくなることがあります。

治療を予定どおり続けることだけを目標にするのではなく、副作用を早く伝えて、休薬・減量・支持療法などで身体の状態を保つことも治療の一部です。

食べられない・体重が減る場合は食事量だけを責めない

胆道がんでは、手術による消化機能の変化、黄疸、感染、抗がん薬の副作用、がんそのものなど、さまざまな理由で食欲や体重が低下することがあります。

国立がん研究センターでは胆道がん治療後の一般的な食事として、一度に多く食べず回数を分けることや、症状に合わせて食べ方を調整することを案内しています。また、必要に応じて管理栄養士へ相談することもできます。

「食べなければ体力が落ちる」と無理に一度に多く食べるより、なぜ食べられないのかを確認し、その原因に合わせて食事量・回数・薬などを調整する方が治療を続けやすくなります。

胆道がんの生存率・予後

胆道がんの予後を調べるときに、最初に確認したいのは「どの胆道がんの生存率を見ているのか」です。

これまで説明したように、胆道がんには肝内胆管がん、肝門部領域胆管がん、遠位胆管がん、胆のうがん、十二指腸乳頭部がんがあり、病期分類そのものが同じではありません。国立がん研究センターも5病型を別々の病期表で示しています。

「胆道がんステージⅠの5年生存率は○%」という一つの表を、すべての胆道がんへ共通して当てはめることは適切ではありません。

胆道がん全体に一つのステージ別生存率を当てはめない理由

たとえば、同じ「ステージⅡ」であっても、肝内胆管がんと胆のうがんでは、そのステージに含まれるT・N・Mの組み合わせが異なります。

さらに、肝内胆管がんでは肝臓内の腫瘍の数や血管への広がりなどが病期評価に関係する一方、胆のうがんでは胆のう壁への深達度や肝臓側・腹腔側への広がりなどが大きな意味を持ちます。肝門部領域胆管がんや遠位胆管がんにも、それぞれ異なるT分類があります。

生存率を調べる際には「胆道がん」→「どの病型か」→「その病型のどの病期か」という順番で確認する必要があります。

国立がん研究センターの現在の統計も病型を分けて掲載

国立がん研究センターの現在の胆道がん統計ページでは、最新の病期別5年生存率へのリンクとして、肝内胆管がんと胆のうがんが個別に掲載されています。肝外胆管がんや十二指腸乳頭部がんについて、同じ形式で5病型を横並びに比較できる最新の病期別生存率表が掲載されているわけではありません。

そのため本記事では、異なる分類・集計方法の数字を無理に組み合わせて「胆道がんステージ別生存率表」を作成しません。

胆管がんについては、公開されている統計の範囲と病型の違いを含めて以下の記事で詳しく解説しています。

胆のうがんでは、国立がん研究センターの院内がん登録によるステージ別5年生存率を以下の記事で詳しく紹介しています。

十二指腸乳頭部がんは全国登録で比較的高い5年生存率が報告されている

十二指腸乳頭部がんは、胆管がんや胆のうがんとは別の病期分類を持つため、これらの生存率をそのまま当てはめることはできません。

2008~2013年に日本で登録された胆道がん18,606例を解析した全国胆道癌登録では、十二指腸乳頭部領域がんの5年生存率は61.3%でした。同じ報告では、胆のうがん39.8%、肝門部領域胆管がん24.2%、遠位胆管がん39.1%であり、十二指腸乳頭部がんは胆道がんの中では比較的良好な治療成績が報告されています。

さらに、当時の病期分類による5年生存率は、ステージIA 92.2%、ステージIB 74.7%、ステージIIA 47.8%、ステージIIB 31.3%、ステージIV 11.7%と報告されています。

ただし、この全国登録で使用された病期分類は、UICC TNM第7版を取り入れた当時の分類です。現在、国立がん研究センターの患者向けページでは、十二指腸乳頭部がんについてUICC TNM第8版に基づく病期分類を掲載しており、T分類やリンパ節分類などが変更されています。

そのため、上記のステージIA~IVの生存率を、現在のUICC TNM第8版で同じステージと診断された患者さんへそのまま当てはめることはできません。また、生存率は診断された年代、手術の可否、リンパ節転移、病理学的な特徴、全身状態などによっても異なります。

参考:Biliary tract cancer registry in Japan from 2008 to 2013|Journal of Hepato-Biliary-Pancreatic Sciences、胆道がん 治療|国立がん研究センター

予後を左右するのはステージだけではない

ステージは予後を考えるうえで大きな情報ですが、それだけで今後の経過が決まるわけではありません。

胆道がんでは、発生部位、手術で完全切除できるか、リンパ節や遠隔臓器への転移、手術後の病理所見、全身状態、肝機能・腎機能、薬物療法への反応などによって経過が異なります。胆道がんの治療でも、病期だけでなく体の状態や切除可能性などを合わせて治療法が決められます。

進行・再発例では、利用できる薬物療法や、治療につながるバイオマーカーが見つかるかも治療選択に関係します。2026年の3学会合同手引きでは、胆道がんで複数の治療標的となる分子異常が整理されています。

5年生存率は「あと何年生きられるか」を示す数字ではない

5年生存率は、ある時期に診断された多くの患者さんを追跡して算出した集団の統計です。国立がん研究センターも、生存率のデータは平均的かつ確率として推測されるものであり、すべての患者さんにそのまま当てはまるものではないと説明しています。

そのため「5年生存率が20%だから、自分が5年生きられる確率も20%」と個人の余命へ直接置き換えることはできません。同じ病型・同じステージであっても、病変の広がり方や治療への反応などは一人ひとり異なります。

過去の生存率には現在の治療が十分反映されていない場合がある

生存率を見る際には、何年に診断された患者さんのデータなのかも確認します。

現在の胆道がん治療では、根治切除後のS-1による術後補助化学療法、切除不能・再発例に対する免疫療法、分子異常に応じた治療など、以前には標準的に行われていなかった治療が加わっています。2026年のバイオマーカー手引きでも、HER2を含む複数の分子標的と治療法が整理されています。

古い統計を見るときは「現在治療を受ける自分の将来そのもの」と考えるのではなく、治療成績を理解するための一つの参考資料として受け取ることが適切です。

参考:国立がん研究センター「胆道がん 患者数(がん統計)」、「胆道がん 治療」、2026年バイオマーカー検査の手引き

胆道がんの再発・経過観察

胆道がんを手術で完全に切除した後も、身体の回復や再発の有無を確認するために定期的な経過観察を行います。

国立がん研究センターでは、胆道がん治療後の検査頻度はがんの進行度や治療法によって異なるとし、問診、血液検査、腫瘍マーカー検査を行い、必要に応じて腹部超音波やCTなどを組み合わせるとしています。

2025年版『胆道癌診療ガイドライン 改訂第4版』でも、「胆道癌に対する術後経過観察はどのように行うか」がFRQ(フューチャー・リサーチ・クエスチョン)として独立した臨床課題になっています。

参考:国立がん研究センター「胆道がん 療養」、胆道癌診療ガイドライン 改訂第4版

胆道がんは肝臓・リンパ節・肺・腹膜などに再発することがある

胆道がんは、周囲のリンパ節、肝臓、肺などへ転移することがあります。

手術後には、切除した場所やその周囲へ再びがんが現れる局所再発や、腹膜へがん細胞が広がる腹膜播種として見つかる場合もあります。再発した場所や数、これまでに受けた治療によって次の治療は異なります。再発胆道がんでは、多くの場合、全身へ作用する薬物療法を検討します。

腹膜播種についての治療法や完治の可能性については、以下の記事で解説しています。

問診・血液検査・腫瘍マーカー・画像検査を組み合わせる

経過観察では、単にCTだけを定期的に撮影するわけではありません。

問診では、黄疸、腹部痛、食欲の変化などを確認します。血液検査ではビリルビンなど胆道・肝臓の状態に関係する数値を調べ、CA19-9やCEAなどの腫瘍マーカーを測定することがあります。必要に応じて腹部超音波やCTなどを追加します。

検査間隔は、最初の病型やステージ、手術内容、病理結果、術後治療の有無などで異なります。そのため、他の胆道がん患者さんとCTの間隔が違うことだけで、経過観察が不足しているとは判断できません。

CA19-9だけで「再発した」と判断しない

CA19-9やCEAは胆道がんで使用される腫瘍マーカーですが、数値だけでがんの有無や再発を確定する検査ではありません。

国立がん研究センターは、胆道がんではがんがあっても腫瘍マーカーが上昇しない場合があり、反対にがんがなくても上昇することがあると説明しています。また、がんの進行や転移についても、腫瘍マーカーだけでなく画像検査などを組み合わせて判断します。

CA19-9が上昇した場合には、以前からの推移、胆汁の流れや炎症の状態、症状、CTなどの画像所見を合わせて原因を評価します。

再発した場合は「現在の病状」を評価する

手術時にステージⅡだった患者さんが数年後に再発した場合、「ステージⅡの治療をもう一度行う」と考えるわけではありません。

再発時には、現在どこに病変があるのか、いくつあるのか、遠隔転移があるのか、どの薬をすでに使用したのか、現在の肝機能・腎機能・体力はどうかを改めて評価します。胆道がんの再発では薬物療法が中心となる場合が多いとされています。

再発後の治療を考えるときは、「最初は何期だったか」より「今どのような病状なのか」が治療選択の中心になります。

再発時にはバイオマーカー検査の状況も確認する

進行・再発胆道がんでは、再発した場所だけでなく、がん細胞が持つ分子異常が治療選択に関係する場合があります。

過去に遺伝子検査を受けていても、どの遺伝子まで調べたか、コンパニオン診断として行ったのか、CGPを行ったのかによって得られている情報は異なります。

2026年の3学会合同手引きでは、FGFR2、IDH1、HER2などを含む複数のバイオマーカーが治療選択と関係し、検査方法や実施時期も治療戦略の一部として整理されています。

そのため、再発時には「以前どのバイオマーカーを調べたのか」「保存されている手術標本などを追加検査に利用できるのか」も確認すると、その後の選択肢を整理しやすくなります。

参考:2026年バイオマーカー検査の手引き

新しい症状が出たら次の定期検査まで待たない

定期的な経過観察を受けていても、予定されたCTの日まで必ず待つ必要はありません。国立がん研究センターも、経過観察では黄疸、腹部痛、食欲の変化などを確認し、気になる症状があれば担当医へ伝えるよう案内しています。

特に、黄疸が新しく出た・悪化した、発熱や悪寒がある、腹痛が続く、食欲や体重が急に落ちたなどの場合には、再発だけでなく胆管炎、胆道ドレナージの閉塞、治療の副作用など別の原因も考えられます。

症状だけから再発と判断することはできませんが、急な変化があれば治療を受けている医療機関へ相談します。

胆道がんの治療を選ぶときに確認したいこと

胆道がんでは、「ステージはいくつですか」と確認するだけでは、提案された治療の理由を十分に理解できないことがあります。

これは、胆道がんという一つの名前の中に複数の病型があり、発生部位によってステージ、手術、薬物療法の根拠、バイオマーカーの特徴まで異なるためです。国立がん研究センターも5病型を別々の病期分類として扱い、手術可能性を病状と全身状態から評価しています。

治療説明を受ける際には、次のように整理すると、自分の治療計画を理解しやすくなります。

確認したいこと なぜ確認するのか
正確な病名・発生部位はどこか 肝内胆管、肝門部領域胆管、遠位胆管、胆のう、十二指腸乳頭部では、ステージや手術が異なるため
どの分類・何版でステージを評価しているか 病型によって使用される病期分類が異なり、分類の版によって表記が変わる場合もあるため
手術で完全切除できる可能性があるか 根治を目指す手術が可能かどうかが治療方針の大きな分岐になるため
「手術できない」と判断された理由は何か 遠隔転移、血管や周囲臓器への広がり、残せる肝臓の量など、理由によって病状と次の治療が異なるため
黄疸・胆管炎への処置が必要か 胆道ドレナージや感染治療を、手術・薬物療法より先に行う場合があるため
どの臓器を、なぜ切除するのか 同じ胆道がんでも、肝切除、膵頭十二指腸切除、胆のう摘出など手術内容が大きく異なるため
術後S-1を行うか、その理由は何か 手術後の再発リスクと身体の回復状況から術後補助化学療法を判断するため
十二指腸乳頭部がんなら、提案された薬物療法の根拠は何か TOPAZ-1など乳頭部がんを含まない試験もあり、治療ごとにエビデンスとなる対象病型が異なるため
バイオマーカー検査では何を調べたか 病型によってFGFR2、IDH1、HER2などの分子異常に偏りがあり、次の治療候補につながる場合があるため
現在の治療が効かなくなった場合の次の候補は何か バイオマーカー検査や次の薬物療法を含め、先を見通した治療計画を考えるため

胆道がんで手術可能性の判断が難しい場合には、胆道手術を専門とする外科医への相談やセカンドオピニオンも選択肢になります。国立がん研究センターも、遠隔転移がなくても技術的に切除が難しい場合があり、切除可能性の判断が施設・医師によって異なることがあると説明しています。

胆管がんでは、さらに「どの胆管がんなのか」「血管への広がり」「残せる肝臓の量」などが大きな判断材料になります。

胆のうがんでは、「胆のう壁への深達度」「胆のう摘出後に偶然見つかった場合の追加切除」など、別の確認事項があります。

「胆道がん」という大きな病名だけで治療を理解しようとせず、自分の病型と、その治療が選ばれた理由まで確認することが、治療方針を整理する出発点になります。

参考:国立がん研究センター「胆道がん 治療」、3学会合同「胆道癌患者におけるバイオマーカー検査の手引き」

まとめ|「胆道がん」だけでなく発生部位を確認する

胆道がんは、肝内胆管がん、肝門部領域胆管がん、遠位胆管がん、胆のうがん、十二指腸乳頭部がんを含む総称です。発生部位によって黄疸などの症状の出方、病期分類、根治を目指す手術が異なります。

治療を考える際には、ステージ番号だけでなく、どこに発生したがんか、手術で完全切除を目指せるかを確認することが重要です。切除不能・再発例では薬物療法が中心となり、病型によってはFGFR2、IDH1、HER2などのバイオマーカーが治療選択につながります。

「胆道がん」という総称から、自分の正確な病型まで一段深く理解することが、症状・ステージ・手術・薬物療法を正しく理解するための出発点です。

胆管がんについて詳しく知りたい場合はこちらをご覧ください。

胆のうがんについて詳しく知りたい場合はこちらをご覧ください。

胆のうがんは、肝臓の下にある「胆のう」に発生するがんです。胆のうは、肝臓でつくられた胆汁を一時的にためて濃縮し、食事の際に胆管を通して十二指腸へ送り出す働きをしています。

胆のうがんは、早い段階では症状が出ないことが多く、胆石や胆のう炎、胆のうポリープなどを調べている途中や、別の理由で胆のうを摘出した後の病理検査で初めて見つかることがあります。一方、進行すると、みぞおちや右上腹部の痛み、食欲低下、体重減少、黄疸などが現れることがあります。

胆のうがんの治療を理解するうえで特に重要なのが、「がんが胆のう壁のどこまで入り込んでいるか」と「手術で完全に取り切れるか」です。胆のうは肝臓に接し、近くに胆管、十二指腸、膵臓、大腸などがあるため、がんが壁を越えると必要な手術範囲が大きく変わります。胆道がんでは、まず外科切除が可能かを判断することが治療方針の大きな分岐になります。

胆のうがんでは、胆石や胆のうポリープとの関係、胆のう摘出後に偶然がんが見つかった場合の対応など、胆のう特有の判断が必要になる場面があります。

この記事では、胆のうがんの原因や症状、検査、ステージ、手術、胆のう摘出後に偶然がんが見つかった場合の対応、薬物療法、バイオマーカー、生存率、再発後の治療まで順番に解説します。

参考:国立がん研究センター|胆道がんについて

  • 胆のうがんは早期には症状が出にくく、胆石や胆のう炎の手術後に偶然見つかることもある
  • 胆石や胆のうポリープがあるからといって、すべてが胆のうがんになるわけではない
  • 胆のう壁への深達度、周囲への広がり、リンパ節・遠隔転移から「手術で取り切れるか」を判断する

胆のうがんとは何か

胆のうは、肝臓の下面にある袋状の臓器です。

肝臓では、脂肪の消化を助ける胆汁が絶えずつくられています。胆汁は胆管を流れ、一部が胆のう管を通って胆のうへ入ります。胆のうでは胆汁が一時的に蓄えられて濃縮され、食べ物が十二指腸へ入ると胆のうが収縮し、胆汁を胆管から十二指腸へ送り出します。

胆のうがんは、この胆のうを構成する細胞から発生する悪性腫瘍です。胆のうの内側を覆う上皮から生じるものが中心で、病理組織型では腺がんが大部分を占めます。腺がん以外にも扁平上皮がん、腺扁平上皮がん、神経内分泌癌などがありますが、頻度は低いため、本記事では一般的な「胆のう腺がん」を中心に説明します。

胆のうは胆汁を一時的にためて濃縮する臓器

胆汁は肝臓でつくられます。胆のうは、その胆汁を食事まで一時的に保存し、必要なときに送り出す役割を持っています。

そのため、後述する胆のう摘出術で胆のうを取り除いた後も、肝臓では胆汁がつくられ続けます。胆汁をためて一度に送り出す仕組みはなくなりますが、肝臓から胆管を通って十二指腸へ流れる経路は残ります。

胆のう摘出後の食事や生活については、後の「胆のうがん治療後の生活と治療の副作用」で詳しく説明します。

胆のう壁は薄く、すぐ近くに肝臓や胆管がある

胆のうがんを理解するうえでは、胆のうが肝臓に直接接していることが重要です。

胆のうの周囲には肝臓だけでなく、胆管、十二指腸、膵臓、大腸などがあります。胆のうがんが深くなると、胆のう壁を越えてこれらの周囲組織へ広がることがあります。日本肝胆膵外科学会も、胆のうがんでは周囲に重要臓器が多いことが、進行例の治療を難しくする一因だと説明しています。

この解剖学的な特徴は、後で説明するT1・T2・T3などの深達度と手術範囲に直結します。

浅い段階で胆のう内にとどまっていれば胆のう摘出だけで治療できる場合がありますが、肝臓側へ深く広がれば肝切除、胆管へ広がれば胆管切除などを追加することがあります。

参考:日本肝胆膵外科学会|胆のうがん

胆のうがんは胆道がんの一つ

胆のうがんは、胆道がんの一つです。胆道がんは胆汁が流れる胆道に発生するがんの総称で、胆管がん、胆のうがん、十二指腸乳頭部がんなどが含まれます。

同じ胆道がんでも、胆管がんと胆のうがんでは、症状の出方やステージの考え方、手術方法が異なります。胆のうがんでは特に、胆のう壁への深達度と周囲臓器への広がりが治療を理解するうえで大きな鍵になります。

参考:国立がん研究センター|胆道がんについて

胆のうがんの原因とリスク

胆のうがんの原因を一つに特定することはできませんが、胆石、胆のうポリープ、膵・胆管合流異常など、発症との関連が知られている病気や所見があります。2025年版『胆道癌診療ガイドライン 改訂第4版』でも、胆道がんの危険因子に加えて、無症状胆石に胆のう摘出を行うか、どのような胆のうポリープでがんを疑うかが独立した項目になっています。

ただし、胆石や胆のうポリープがある人すべてが胆のうがんを発症するわけではありません。

参考:胆道癌診療ガイドライン 第4版

胆石と胆のうがんの関係性

胆石症と胆のうがんには関連が知られています。

胆石が長期間存在すると、胆のう粘膜への慢性的な刺激や炎症が起こり、胆のうがんの発生と関連する可能性が考えられています。日本肝胆膵外科学会の患者向け解説でも、胆のうがん患者では胆石を合併する例が多いことが紹介されています。

しかし、胆石があっても、胆のうがんを発症する人は一部です。

NCIも、胆石は胆のうがんの代表的なリスク因子ではあるものの、胆石を持つ人全体からみた胆のうがんの発症リスクは低く、大多数は胆のうがんにならないと説明しています。

胆石を指摘された場合は「がんになる前に必ず胆のうを取る」と考えるのではなく、症状、胆のう壁の状態、ポリープや腫瘤の有無などから治療の必要性を判断します。

参考:日本癌治療学会|胆道癌診療ガイドライン 公開本文

無症状の胆石を胆のうがん予防で手術するべきか

腹痛や胆のう炎などを起こしている胆石では、症状そのものを治療する目的で胆のう摘出術を行うことがあります。

一方、症状がなく偶然見つかった無症状胆石については、胆のうがん予防だけを目的として、すべての人に胆のう摘出術を行う考え方にはなっていません。公開されている国内ガイドライン解説や日本肝胆膵外科学会の患者向け情報でも、胆のう壁を画像で評価できる無症状胆石では、がん予防目的の一律な手術ではなく経過観察を考える方向が示されています。

ただし、胆のう壁を十分に観察できない、胆のうに別の異常がある、胆石以外の病気が疑われるなどの場合には判断が変わります。

胆のうポリープの多くはがんではない

胆のうポリープとは、胆のうの内側へ盛り上がるようにできる病変の総称です。

胆のうポリープには腫瘍性と非腫瘍性のものがあり、多くは直ちにがんを意味する所見ではありません。画像上の特徴から、腫瘍性ポリープや胆のうがんを疑う所見があるかを評価します。

どのような胆のうポリープでがんを疑うのか

国内で公開されている胆道癌診療ガイドラインでは、胆のうポリープについて、10mm以上であること、広基性であること、画像上で増大傾向があることなどを、胆のうがんを疑う所見として挙げています。2025年版第4版でも「どのような胆嚢ポリープに対して癌を疑うのか」がBQ(基本項目)として継続されています。

ただし、10mmは重要な目安の一つですが、良性・悪性を分ける絶対的な境界ではありません。大きさに加えて、形、茎の有無、内部の超音波所見、胆のう壁の変化、増大傾向などを合わせて評価します。

膵・胆管合流異常は胆のうがんの重要なリスク

膵・胆管合流異常とは、膵液が流れる膵管と胆汁が流れる胆管が、通常とは異なる位置で合流する先天的な異常です。

通常は、胆管と膵管の合流部分にある括約筋の働きによって、膵液が胆道へ逆流しにくくなっています。膵・胆管合流異常では、この調節が働かない位置で両者が合流するため、膵液が胆管や胆のうへ逆流しやすくなります。膵液が胆のう粘膜へ長期間接触すると、粘膜への慢性的な刺激が続き、胆道がんの発生リスクが高くなると考えられています。

このため、膵・胆管合流異常では、がんが見つかってから治療するだけでなく、病型に応じて予防的な手術を検討します。2025年版胆道癌診療ガイドラインでも「膵・胆管合流異常には予防的手術を行うか?」が独立したBQ(バックグラウンドクエスチョン:対応の基本方針)として設定されています。

参考:日本胆道学会|膵・胆管合流異常と先天性胆道拡張症

胆のうの慢性炎症など

胆のうがんの発生には、胆石に伴う慢性胆のう炎など、胆のう粘膜へ長期間炎症が加わる状態が関係すると考えられています。ただし「胆のう炎になったことがあるから将来がんになる」という意味ではありません。

胆石や慢性炎症はあくまでリスクに関係する要素であり、明らかなリスク因子がなくても胆のうがんが発生することがあります。反対に、リスク因子があっても生涯胆のうがんにならない人もいます。

胆のうがんの予防・検診と受診の目安

現在、胆のうがんには、胃がんや大腸がんのような国の指針に基づく対策型がん検診はありません。国立がん研究センターは、胆のうがんを含む胆道がんについて、現在の国の指針で定められた検診はないとしています。

したがって、症状のない一般の人が「毎年胆のうがん検診を受ければ早期発見できる」という確立した方法はありません。

参考:国立がん研究センター|胆道がん 予防・検診

胆のうがんを確実に防ぐ方法は確立していない

胆のうがんには膵・胆管合流異常や胆石などのリスク因子がありますが、発症する人すべてに共通する原因が分かっているわけではありません。そのため、特定の食品、健康食品、サプリメントなどによって胆のうがんを確実に予防できる方法は確立していません。

国立がん研究センターは胆道がんに限らない一般的ながん予防として、禁煙、飲酒を控える、バランスのよい食事、身体活動、適正体重の維持、感染予防などを案内していますが、これらはがん予防に推奨される生活習慣であり、胆のうがんに特化した予防法ではありません。

胆石や胆のうポリープを指摘された場合

胆石や胆のうポリープがある人は、「胆のうがん検診」を別に探すというより、現在見つかっている胆のうの病変を適切に評価することが重要です。

無症状胆石であれば、症状の有無や胆のう壁を十分観察できるかなどを確認します。胆のうポリープであれば、大きさ、形、増大傾向などから、経過観察を続けるか、より詳しい検査や胆のう摘出を検討するかを判断します。

膵・胆管合流異常など明らかに胆道がんリスクが高い病気がある場合には、一般人口とは異なる管理が必要になることがあります。

参考:胆道癌診療ガイドライン 第4版

症状がある場合は検診ではなく医療機関を受診

みぞおちや右上腹部の痛みが続く、皮膚や白目が黄色くなる、原因の分からない体重減少や食欲不振が続くといった症状がある場合には、検診を待つのではなく医療機関を受診します。

胆のうがんは早期には症状が出ないことが多い一方、進行すると右上腹部痛や黄疸などが現れる場合があります。これらの症状は胆石症や胆のう炎などでも起こるため、症状だけから胆のうがんと判断することはできません。

特に強い腹痛に発熱や悪寒を伴う場合は、急性胆のう炎や胆管炎など、がん以外でも早い治療が必要な病気の可能性があります。

胆のうがんの初期症状・進行した場合の症状

胆のうがんは早期には自覚症状に乏しく、進行すると右上腹部痛、食欲低下、体重減少、黄疸などがみられることがあります。

胆のうがんは早期には症状がないことが多い

胆のうは腹部の奥にあり、早い段階のがんが胆のう内にとどまっている間は、胆汁の流れを大きく妨げないことがあります。

そのため、早期胆のうがんには「これが出たら疑う」という特徴的な初期症状がありません。日本肝胆膵外科学会も、胆のうがんは初期症状や自覚症状に乏しいと説明しています。

「症状がないから胆のうに異常はない」とは限りませんが、症状のない一般の人へ胆のうがん検診を行う方法も確立していません。実際には、胆石やポリープなど別の胆のう疾患を調べた際に見つかることがあります。

参考:日本肝胆膵外科学会|胆のうがん

右上腹部・みぞおちの痛み

胆のうがんが進行すると、右上腹部やみぞおちの痛みが出ることがあります。

ただし、右上腹部痛は胆石症や胆のう炎でも起こるため、痛みだけから胆のうがんかどうかを判断することはできません。痛みが繰り返す、長引く、発熱や黄疸を伴う場合には原因を調べます。

食欲低下・体重減少・倦怠感

胆のうがんが進行すると、食欲が落ちたり、体重が減少したり、全身のだるさを感じたりすることがありますが、これらも胆のうがんだけに起こる症状ではなく、感染症、胃腸の病気、肝臓や膵臓の病気などさまざまな原因があります。

食事量や生活習慣を変えていないのに体重が減り続ける、腹部の違和感と食欲不振が長く続くなど、これまでになかった変化が重なる場合には原因を調べることが必要です。

進行すると黄疸が出ることがある

胆のうがんは胆管がんと異なり、胆汁の通り道である胆管そのものから発生するがんではありません。

そのため、胆管がんほど黄疸が早期の中心症状にはなりません。一方、胆のうがんが進行して胆管へ広がったり、周囲のリンパ節などが胆管を圧迫したりすると、胆汁が流れにくくなり「閉塞性黄疸」が起こることがあります。黄疸では、皮膚や白目が黄色くなるだけでなく、尿が茶色っぽく濃くなる、便が白っぽくなる、皮膚がかゆくなるなどの変化がみられることがあります。

黄疸の有無だけではステージは決まりません。胆管がどの場所で、なぜ塞がっているのか、がんが周囲へどこまで広がっているのかを画像検査で確認して判断します。

発熱や強い腹痛では胆のう炎・胆管炎なども考える

発熱や強い右上腹部痛がある場合には、胆のうがんだけではなく急性胆のう炎なども考える必要があります。胆石などで胆のう管が詰まると胆のうに炎症が起こり、腹痛や発熱が生じることがあります。また、胆汁の流れが胆管で妨げられれば胆管炎を起こすこともあります。

特に高熱、悪寒、強い腹痛、黄疸などが急に現れた場合は、通常の外来予約まで様子を見るのではなく医療機関へ相談します。

参考:国立がん研究センター|胆道がんについて

胆のうがんの検査と診断

胆のうがんの診断では、病変の有無に加えて、良性・悪性の可能性、胆のう壁への深達度、周囲臓器やリンパ節・遠隔臓器への広がりを順に評価します。

国立がん研究センターは、胆道がんでは血液検査と腹部超音波を行い、必要に応じてCT、MRI、内視鏡検査、PET/PET-CT、生検・細胞診などを組み合わせると説明しています。

胆のうがんではさらに、画像でどの程度深く胆のう壁へ入り込んでいるか、肝臓や胆管へ広がっているかを評価することが、手術方法の決定にも直結します。

参考:国立がん研究センター|胆道がん 検査

血液検査・CA19-9・CEA

胆のうがんが疑われた場合には、肝臓や胆道の状態を確認するために血液検査を行います。

胆汁の流れが悪くなっていれば、ビリルビン、ALP、γ-GTPなどの値が変化することがあります。また、炎症の有無、肝機能や腎機能、血球数なども確認し、手術や薬物療法を安全に行える状態かを評価します。

胆道がんではCA19-9やCEAなどの腫瘍マーカーを測定することもあります。ただし、これらの数値だけで胆のうがんを診断することはできません。がんがあっても高くならない場合があり、逆に胆道の炎症や閉塞など、がん以外の状態で上昇する場合もあります。

そのため、腫瘍マーカーは画像所見や病理結果などと合わせて判断する補助的な情報です。

腹部超音波|胆のう壁やポリープを観察

腹部超音波検査は、胆のうの異常を見つけるために広く用いられる画像検査です。

体の表面から超音波を当てて、胆のう壁が厚くなっていないか、ポリープ状の病変や腫瘤がないか、胆石がないかなどを観察します。胆のうがんは、胆のう内へ盛り上がる腫瘤として見える場合もあれば、胆のう壁の一部が厚くなる形で見つかることもあります。国立がん研究センターは、腹部超音波を胆道がんの初期画像検査として位置づけています。

胆のうポリープの経過観察でも腹部超音波は重要です。以前の画像と比較し、大きさや形が変化していないかを確認します。腹部超音波だけで判断が難しい場合には、CT、MRI、EUSなどを追加します。

造影CT|肝臓や周囲臓器への広がりを見る

造影CTは、胆のうがんの進展度と切除可能性を評価するうえで重要な検査です。

胆のうの腫瘤や壁肥厚に加えて、胆のうに接している肝臓へがんが広がっていないか、胆管や十二指腸、膵臓、大腸などへ浸潤していないか、リンパ節や肝臓の別の部位、肺などへ転移していないかを調べます。国立がん研究センターも、CTをがんの広がりやリンパ節・他臓器転移を評価する検査として説明しています。

胆のうがんでは、手術で「胆のうだけを取るのか」「肝臓や胆管などをどこまで一緒に切除する必要があるのか」を考えるため、診断と進展度評価を同時に進めていきます。

MRI・MRCP|胆のうと胆管の関係を詳しく調べる

MRIは磁気を利用して体内を画像化する検査で、胆のうがんの存在や周囲への広がりを評価する際に使用します。

胆道領域では、MRIを利用したMRCP(磁気共鳴胆管膵管造影)によって、胆のうや胆管、膵管の形を非侵襲的に描き出すことができます。胆のうがんが胆のう管や胆管側へ広がっていないか、胆汁の通り道に異常がないかを評価する際にも役立ちます。

CTとMRIは、どちらか一方だけで診断するというより、それぞれの画像情報を組み合わせて病変の広がりを判断します。

参考:胆道癌診療ガイドライン 第4版

EUS|胆のう壁や腫瘤を近くから詳しく見る

EUS(超音波内視鏡検査)は、先端に超音波装置が付いた内視鏡を胃や十二指腸まで入れ、体の内側から胆のうを観察する検査です。

病変のすぐ近くから高い解像度で観察できるため、胆のうポリープや胆のう壁肥厚の性質、がんが胆のう壁のどの程度まで広がっている可能性があるかを評価する際に役立ちます。国立がん研究センターも、EUSは腫瘍の位置、良悪性、広がりを診断する検査と説明しています。

EUSでも、炎症による壁肥厚などがあると深達度の評価が難しい場合があります。

PET・PET-CT|リンパ節転移や遠隔転移を追加で調べることがある

PET・PET-CTは、FDGという放射性物質を含む薬剤を使い、糖を多く取り込む組織を画像化する検査です。

胆のうがんでは、CTやMRIなどで評価したうえで、リンパ節転移や遠隔転移などを追加で確認する目的で行うことがあります。国立がん研究センターは、PET/PET-CTを、進行がんの他臓器転移を確認したり、CTやMRIなどで診断がはっきりしない場合に追加したりする検査と説明しています。

すべての胆のうがん患者さんに必ず行う検査ではなく、CTやMRIの所見、手術可能性などを踏まえて必要性を判断します。

胆のう腺筋腫症・黄色肉芽腫性胆のう炎など良性疾患との鑑別

胆のう壁の肥厚や腫瘤状の所見は、胆のうがんだけでなく、胆のう腺筋腫症や黄色肉芽腫性胆のう炎などでもみられます。画像所見が似ることがあるため、超音波、CT、MRI、EUSなどを組み合わせて鑑別します。

参考:日本癌治療学会|胆道癌診療ガイドライン 公開本文

胆のうがんでは手術前に組織検査を行わない場合がある

一般にがんの診断では、生検によって組織を採取し、顕微鏡でがん細胞を確認することをイメージするかもしれません。

胆のうがんでは、手術前に組織や細胞を採取するかどうかは、疑われるがんの深さや予定している治療によって異なります。

比較的浅いT1胆のうがんが疑われる場合には、胆のう摘出そのものが診断を兼ねることがあり、手術前の生検や細胞診を必ずしも必要としない場合があります。一方、T2以深が疑われ、肝切除やリンパ節郭清などを含む大きな手術が予定される場合には、術前に生検または細胞診による診断を得ることが望ましいとされています。

ただし、胆のうから検体を採取する方法には技術的な制約があり、検査方法によっては胆汁性腹膜炎や播種などを考慮する必要もあります。そのため「がんが疑われるから全員に針生検を行う」というわけではなく、どの方法で病理診断を得るかを専門施設で判断します。

手術で切除することが難しく、薬物療法を行う場合には、治療を選択するために治療前の病理診断が重要になります。

胆のうがんのステージ分類|TNM分類・cStage/pStage

胆のうがんのステージは、原発巣の広がりを示すT、領域リンパ節への転移を示すN、遠隔転移を示すMを組み合わせたTNM分類によって決まります。国立がん研究センターの現行患者向け情報では、胆のうがんの病期分類にUICC TNM第8版を使用しています。

胆のうがんで特に理解しておきたいのがT分類です。胃がんなどでは腫瘍の大きさを気にする人も多いですが、胆のうがんでは「がんが胆のう壁のどの層まで入り込んでいるのか」「肝臓側か腹腔側か」「壁を越えて周囲臓器まで広がっているか」がT分類に大きく関係します。

※UICCはTNM第9版を2025年に刊行し、2026年1月からの使用を推奨しています。一方、国立がん研究センターの現行患者向け胆のうがん病期表と2026年の院内がん登録実務資料では第8版が使われています。本記事では患者向け公的情報と対応させるため第8版を示しますが、実際の診断書・病理報告書では、使用された分類と版を確認してください。
参考:国立がん研究センター|胆道がん 治療、UICC|第9版発行・2026年1月からの使用推奨

胆のう壁の構造とT分類

胆のうの内側には粘膜があり、その外側に固有筋層、さらに筋層の外側の結合組織が続いています。がんが内側から外側へ深く入り込むにつれて、T分類も高くなっていきます。

UICC TNM第8版では、胆のうがんのT分類は次のように整理されています。

T分類 がんの広がり
Tis 上皮内がんで、浸潤がんになっていない状態
T1a 粘膜固有層まで浸潤している
T1b 固有筋層まで浸潤している
T2a 腹腔側の筋層周囲結合組織まで浸潤しているが、漿膜表面には達していない
T2b 肝臓側の筋層周囲結合組織まで浸潤しているが、肝実質には直接入り込んでいない
T3 漿膜を越える、肝臓へ直接浸潤する、または胃・十二指腸・大腸・膵臓・大網・肝外胆管など1つの周囲臓器・組織へ直接広がっている
T4 門脈本幹や肝動脈へ浸潤している、または肝臓以外の2つ以上の周囲臓器・組織へ広がっている

T1aとT1bでは、がんが粘膜にとどまるのか、固有筋層まで入り込んでいるのかが違います。T2になると筋層の外側まで進んでいますが、さらにT2aの「腹腔側」とT2bの「肝臓側」を分けて評価するのが胆のうがんの特徴です。

胆のうの肝臓側は肝臓と接しているため、同じ「筋層を越えたがん」でも、どちら側に広がっているかを区別して病期を評価します。したがって、診断書に「T2」と書かれている場合には、T2aなのかT2bなのかまで確認すると病状をより具体的に理解できます。

病理結果に書かれる「m・mp・ss」とは?

胆のう摘出後の病理結果では、がんの深さをm(粘膜)、mp(固有筋層)、ss(漿膜下層)などと表記することがあります。国内の胆道癌診療ガイドラインでも、偶発胆のうがんについて「m・mp」「ss以上」という表現が使われてきました。

m・mp・ssは主に胆のう壁への深達度を表すのに対し、T分類では肝臓側・腹腔側の違いや周囲臓器への浸潤も評価します。

参考:NCI|Gallbladder Cancer Treatment PDQ

胆のうがんのステージ0~Ⅳ

T分類だけでステージが決まるわけではありません。領域リンパ節転移のN分類と、遠隔転移のM分類を組み合わせます。

UICC TNM第8版では、領域リンパ節転移が1~3個ならN1、4個以上ならN2です。遠隔転移がなければM0、あればM1となります。

一般の人が病状を把握しやすいよう、ステージごとの意味を整理すると次のようになります。

ステージ 一般的な病状のイメージ
0期 上皮内がんで、リンパ節転移・遠隔転移がない状態
Ⅰ期 がんが粘膜または固有筋層までにとどまり、リンパ節・遠隔転移がない状態(T1N0M0)
ⅡA期 腹腔側で筋層の外側まで広がっているが、リンパ節・遠隔転移がない状態(T2aN0M0)
ⅡB期 肝臓側で筋層の外側まで広がっているが、肝臓そのものへの直接浸潤やリンパ節・遠隔転移はない状態(T2bN0M0)
ⅢA期 漿膜を越える、肝臓や1つの周囲臓器へ直接広がっているが、領域リンパ節転移・遠隔転移はない状態(T3N0M0)
ⅢB期 T1~T3のがんで1~3個の領域リンパ節転移があるが、遠隔転移はない状態
ⅣA期 門脈本幹・肝動脈への浸潤や2つ以上の周囲臓器への浸潤がある高度な局所進行だが、遠隔転移はない状態
ⅣB期 4個以上の領域リンパ節転移がある状態、または肝臓の離れた部位、肺、腹膜などへの遠隔転移がある状態

※上表は国立がん研究センターの現行患者向け情報と対応するUICC TNM第8版を一般向けに整理したものです。

胆のうがんのステージ4はどのような状態か

UICC TNM第8版の胆のうがんでは、ⅣA期とⅣB期で病状が異なります。ⅣA期は高度な局所進行で、遠隔転移はありません。ⅣB期には、4個以上の領域リンパ節へ転移しているものの遠隔転移がない状態と、肺・腹膜などへ遠隔転移している状態の両方が含まれます。

さらに、ステージ番号だけから手術できるかを機械的に決めることもできません。胆道がんでは、遠隔転移の有無だけでなく、周囲の血管や臓器への広がり、完全切除できる可能性、手術に耐えられる全身状態などを合わせて切除可能性を判断します。

治療前のcStageと手術後のpStageは異なることがある

手術前には、CTやMRI、EUS、必要に応じてPET・PET-CTなどから病変の深さ、リンパ節転移、遠隔転移を推定します。このような治療前の情報に基づくステージを臨床病期(cStage)と呼びます。

一方、手術後には摘出した胆のうや肝臓、リンパ節などを顕微鏡で詳しく調べられます。この結果から決める病期が病理病期(pStage)です。

胆のうがんでは、胆石や胆のう炎などのために胆のうを摘出し、術後の病理検査で初めてがんが判明することもあります。その場合には、病理検査によって「実際にはどこまで深く入り込んでいたか」が初めて分かることがあります。偶然見つかった胆のうがんについては「偶発胆のうがん」の章で詳しく説明します。

胆のうがん治療の全体像

胆のうがんの治療では、ステージに加えて、手術で完全切除できるかどうかが大きな判断材料になります。

国立がん研究センターは胆道がんについて、まず手術が可能かを検討し、手術できない場合には薬物療法を中心に治療すると説明しています。2025年版『胆道癌診療ガイドライン 改訂第4版』の診療アルゴリズムも「外科切除の可否」を最初の大きな分岐としています。

病状 主な治療の考え方
胆のう壁の浅い範囲に限局 胆のう摘出を中心に根治切除を目指す。深達度によっては胆のう摘出のみで治療が完結する場合がある
筋層を越えて広がっている 肝切除やリンパ節郭清などを含め、完全切除に必要な手術範囲を検討する
肝臓・胆管・周囲臓器へ広がる 浸潤範囲に応じて肝臓、胆管、十二指腸などの合併切除を検討する。完全切除できるかを慎重に評価する
局所進行で切除できない 薬物療法が中心。遠隔転移がない場合などには放射線治療を検討することがある
遠隔転移・再発 全身薬物療法が中心。治療歴やバイオマーカーも次の治療選択に関係する

国立がん研究センターでは、胆のうがんが胆のう内にとどまる場合には胆のう摘出を行い、周囲へ広がっている場合には、広がりに応じて肝臓、胆管、膵臓、大腸、十二指腸、リンパ節などの切除が必要になると説明しています。

切除不能と説明された場合には、遠隔転移、重要血管への浸潤、周囲臓器への広がり、全身状態など、手術が難しい理由を確認します。

参考:胆道癌診療ガイドライン 第4版

胆のうがんの手術|深達度によって切除範囲が変わる

胆のうがんの手術では、がんを残さず完全に切除することを目指します。

必要な手術範囲は、胆のう壁への深達度によって大きく異なります。早期で胆のう内に限局していれば胆のう摘出だけで治療できる場合がありますが、より深くなると肝切除やリンパ節郭清、さらに周囲臓器の合併切除が必要になることがあります。

参考:国立がん研究センター|胆道がん 治療

早期胆のうがんの摘出手術について

がんが粘膜などの浅い範囲に限られている早期胆のうがんでは、胆のうを摘出することで根治を目指せる場合があります。

特にT1aは粘膜固有層までのがんであり、リンパ節転移や遠隔転移がなければⅠ期です。胆のう摘出後の病理検査で浅いがんが偶然見つかり、追加治療を必要とせず経過観察となる場合もあります。

一方、T1bは固有筋層まで入り込んだがんです。

T1bでは、胆のう摘出後に追加切除を行う意義について一定の議論が残っています。NCI PDQでも、偶発T1b胆のうがんに対する再切除の必要性は議論のある領域とされています。2025年版国内ガイドラインで追加切除を独立したBQ(基本項目)として明示しているのは「胆のう摘出後に深達度ss以上と判明した場合」です。

したがって、実際には術前画像、病理結果、切除断端、リンパ節転移の可能性、患者さんの全身状態などを踏まえて手術範囲を判断します。

参考:NCI|Gallbladder Cancer Treatment PDQ、胆道癌診療ガイドライン 第4版

筋層を越えた胆のうがんの切除範囲

がんが固有筋層を越えて筋層周囲結合組織まで入り込むT2以降では、胆のう周囲への微小な進展やリンパ節転移の可能性を考慮する必要が高まります。根治切除を目指す場合には、病変の位置や広がりに応じて、胆のうに接する肝臓の一部の切除や周囲リンパ節の郭清などを検討します。切除範囲はT2a・T2bの別、肝浸潤、胆のう管・胆管への広がりなどをもとに決めます。

なぜ胆のうがんで肝臓まで切除するのか

胆のうは肝臓の下面に接しています。

特に肝臓側へ向かって深く広がった胆のうがんでは、胆のうだけを取り外しても、胆のうと接していた肝臓側にがんが残る可能性があります。そのため、がんから十分な切除距離を確保して完全切除する目的で、胆のう床周囲の肝臓を一緒に切除することがあります。

国内で公開されている胆道癌診療ガイドラインでは、肝浸潤が疑われる胆のうがんについて、胆のう床切除とより系統的な肝切除を比較した研究を踏まえ、R0切除、すなわち顕微鏡的にもがんを残さず切除できることが重要だと説明しています。

胆のう床切除とより大きな肝切除はどう使い分けるのか

胆のうに接していた肝臓の部分を楔状に切除する方法は、一般に胆のう床切除などと呼ばれます。

一方、がんの位置や肝臓への広がりによっては、肝臓のS4a・S5と呼ばれる区域を含めた切除や、さらに大きな肝切除が必要になる場合があります。

肝切除の範囲は、肝浸潤の位置・範囲、確保できる切除断端、術後に残る肝機能などから計画します。国内ガイドラインでも、胆のう床切除か系統的肝切除かという術式そのものより、十分な切除断端を確保する考え方が重視されてきました。

胆管を一緒に切除するかはがんの広がりで判断する

胆のうがんの拡大手術では肝外胆管を切除する場合がありますが、肝外胆管切除は、胆管への直接浸潤や十分な切除断端の確保が必要な場合などに検討します。一方、国内で公開されているガイドラインでは、肝外胆管へ直接浸潤がない胆のうがんについて、リンパ節郭清などを目的とした予防的な肝外胆管切除を原則として行わない考え方が示されています。

胆管まで切除した場合には、残った胆管と小腸をつなぎ、胆汁が再び腸へ流れる経路をつくる再建が必要になることがあります。

参考:胆道癌診療ガイドライン 第4版

十二指腸・膵臓・大腸などの合併切除が必要になる場合

胆のうの周囲には、十二指腸、大腸、膵臓などがあります。

進行した胆のうがんがこれらへ直接入り込んでいる場合、完全切除を目指すために浸潤した臓器の一部を一緒に切除することがあります。

ただし、切除する臓器が増えるほど手術の負担や合併症リスクも大きくなります。そのため、画像上「隣の臓器へ接している」ことだけではなく、すべてを一緒に切除することで本当にがんを取り切れるのか、その大きな手術に耐えられるかまで含めて手術適応を判断します。2025年版ガイドラインでも、複雑な肝胆膵手術や胆道がん手術を経験の多い施設で行う意義が個別の臨床課題として扱われています。

腹腔鏡・ロボット手術は「手術範囲」とは別の問題

腹腔鏡手術やロボット支援手術は、手術を行う「アプローチ」の違いです。低侵襲手術を選択しても、胆のうがんの根治に必要な切除範囲が小さくなるとは限りません。

T2胆のうがんで低侵襲手術を検討する場合にも、病変の広がりに応じて肝切除やリンパ節郭清などを行います。2025年版胆道癌診療ガイドラインでは、深達度T2までの胆のうがんに対する腹腔鏡・ロボット支援下手術がCQ(クリニカルクエスチョン:臨床的課題項目)として検討されています。

手術の説明では、開腹・腹腔鏡・ロボットの別とあわせて、胆のう以外にどの臓器やリンパ節を切除する予定なのかを確認するとよいでしょう。

参考:胆道癌診療ガイドライン 第4版

胆のう摘出後にがんが見つかった場合|偶発胆のうがんとは

胆のうがんには、診断の時点から「胆のうがん」と分かって治療を始める患者さんだけでなく、胆石、胆のう炎、胆のうポリープなど別の病気のために胆のう摘出術を受け、摘出した胆のうを病理検査した結果、初めてがんが見つかる患者さんがいます。

このように手術前には胆のうがんと診断されておらず、胆のう摘出後に偶然判明したものを偶発胆のうがんと呼びます。国内ガイドラインでも、良性胆のう疾患として胆のう摘出を受けた後に病理組織学的に判明する偶発胆のうがんが独立した臨床課題として扱われています。

がんが見つかったからといって、すべての患者さんが直ちにもう一度手術を受けるわけではありません。病理結果からがんの深さや切除断端などを確認し、画像で現在の病状を再評価したうえで、追加治療が必要かを判断します。

まず病理結果で「がんの深さ」を確認する

胆のう摘出後にがんが見つかった場合、最初に確認したい情報の一つが深達度です。

病理報告書には「m」「mp」「ss」や「pT1a」「pT1b」「pT2」などと書かれている場合があります。

浅い粘膜内の病変なのか、固有筋層までなのか、それとも筋層を越えた漿膜下層まで入り込んでいるのかによって、最初の胆のう摘出だけで十分な可能性と、周囲へ目に見えないがんが残っている可能性が変わります。

胆のう摘出だけで治療が完結する場合

胆のう壁のごく浅い範囲にとどまるがんでは、最初の胆のう摘出によって病変が完全に取り切れており、追加手術を必要としない場合があります。

特に粘膜固有層までのT1aは早期の病変です。NCIも、胆のう摘出後に偶然見つかった表在性の胆のうがんでは、追加治療なしで治癒する患者さんが多いと説明しています。

一方、固有筋層まで達するT1bについては、追加切除の必要性を一律に決められるほど単純ではありません。NCIは偶発T1b胆のうがんに対する再切除について議論が残るとしています。国内の旧版ガイドラインでもmp症例について異なる報告があることが示され、2025年第4版で明確に追加切除のBQ(基本項目)として取り上げられているのはss以上です。

そのため「T1bと書いてあるから必ず再手術」「ステージⅠだから絶対に追加手術は不要」と患者さん自身で判断するのではなく、病理結果全体を確認します。

参考:NCI|Gallbladder Cancer Treatment PDQ

ss以上では追加手術を検討する

筋層を越えて漿膜下層までがんが入り込んでいると、最初の胆のう摘出だけでは、胆のう床側の肝臓や周囲のリンパ節などに目に見えない病変が残っている可能性を考える必要があります。国内の公開ガイドラインでも、ss以上では必要に応じて肝切除やリンパ節郭清を伴う追加根治手術を検討する考え方が示されています。

ここで行う追加手術は、「最初の手術が失敗だったからもう一度胆のうを取る」ものではありません。

すでに胆のうは摘出されています。追加手術では、がんが残っている可能性がある肝臓側やリンパ節などを切除し、最初から胆のうがんと分かっていれば行っていた根治手術の範囲へ近づけることが目的になります。

参考:胆道癌診療ガイドライン 第4版

追加手術を決めるときは深達度だけを見ない

追加手術の判断では、深達度は非常に重要ですが、それだけを見るわけではありません。

たとえば、胆のう管断端などの切除断端にがんが残っていないか、リンパ管・血管への侵襲があるか、病理学的な悪性度はどうかなどを確認します。また、CTなどで肝臓、リンパ節、腹膜、肺などに明らかな転移がないかを改めて評価します。リンパ節転移や切除断端は、胆道がん根治切除後の再発リスクとも関連する重要な病理情報です。

これらの病理所見と画像検査をもとに、追加手術によって完全切除を目指せるかを判断します。

追加手術は完全切除を目指せる場合に検討する

追加根治手術は、再発リスクを減らし、完全切除を目指せる可能性がある患者さんに検討する治療です。

しかし、術後の再評価ですでに遠隔転移が見つかった場合や、周囲へ広く浸潤して完全切除が難しい場合、全身状態から大きな手術の負担が高すぎる場合などには、追加手術以外の治療を考えます。胆道がんの切除可否は、遠隔転移、局所進展、全身状態などを総合して判断されます。

そのため、胆のう摘出後にがんが判明した場合には、「がんだった」という事実だけでなく、病理結果のどの所見が追加手術を勧める理由になっているのかを担当医に確認すると、その治療の目的を理解しやすくなります。

切除可能胆のうがんの術前・術後薬物療法

胆のうがんを手術で完全に切除できても、その後に再発することがあります。

画像や手術で確認できる病変を取り切っていても、検査では見えないごく少量のがん細胞がすでに身体の中に存在している場合があるためです。そのため、一定の再発リスクがある胆道がんでは、手術後に術後補助化学療法を行います。

術後補助化学療法ではS-1が標準治療

日本で胆道がん根治切除後の標準治療を大きく変えたのが、JCOG1202/ASCOT試験です。

この第III相試験には、肝内・肝外胆管がんだけでなく胆のうがんも含まれており、手術後に経過観察する群とS-1による補助化学療法を行う群が比較されました。440人を対象とした主解析では、3年全生存割合は経過観察群67.6%、S-1群77.1%で、S-1による生存期間の改善が示されました。JCOGはこの結果をもとに、S-1補助療法が胆道がん根治手術後の標準治療になったとしています。

S-1は、手術で目に見えるがんを取り残したから使用する薬ではありません。

画像には映らない微小ながん細胞を治療し、再発する可能性を下げることが術後補助療法の目的です。

参考:JCOG|JCOG1202/ASCOT 患者向け試験結果、JCOG1202/ASCOT 原著論文|PubMed

ごく早期の胆のうがんではS-1の必要性を個別に判断する

「胆のうがんを手術したら全員S-1を飲む」と理解するのは正確ではありません。

JCOG1202で対象となった胆のうがんは、当時使用されたUICC第7版でT2~T4かつリンパ節転移なし、またはT1~T4でリンパ節転移ありなどの患者さんでした。pT1N0の胆のうがんは試験対象ではありませんでした。

したがって、T1aなどごく早期の胆のうがんまで、JCOG1202の結果をそのまま当てはめて「必ずS-1が必要」と考えるべきではありません。

実際の術後治療では、病理学的な深達度、リンパ節転移、切除断端、脈管侵襲などの再発リスクと、手術からの回復状況、年齢、臓器機能などを確認して治療方針を決めます。リンパ節転移や切除断端などは、JCOG1202の2026年副次解析でも術後早期再発と関連する因子として報告されています。

S-1を安全に続けられる状態かも確認する

標準治療として推奨される薬であっても、すべての患者さんが同じ状態で治療を開始できるわけではありません。

胆のうがんで胆のう摘出だけを受けた患者さんと、肝切除や胆管切除、周囲臓器の合併切除まで受けた患者さんでは、術後の身体への負担が大きく異なります。

術後補助化学療法を開始する際には、食事が取れているか、体重や体力が回復しているか、肝機能・腎機能・血球数に問題がないかなどを確認します。S-1では好中球減少などの血液毒性を含む副作用があり、JCOG1202でも治療中の有害事象が評価されています。

そのため主治医からS-1を勧められた場合には「病理結果のどの点から再発リスクがあると考えているのか」「自分の場合はS-1によるメリットをどう考えているのか」まで確認すると、術後治療の目的を理解しやすくなります。

切除可能胆のうがんの術前化学療法は臨床試験で検証が続いている

切除不能胆道がんでは複数の有効な薬物療法があります。しかし2026年現在、切除可能な胆のうがんすべてに術前化学療法を行う治療は標準として確立していません。

2025年版胆道癌診療ガイドラインでも「切除可能胆道がんに対する術前化学療法は推奨されるか」が独立CQ(臨床的課題項目)として扱われています。JCOGでは、切除可能胆道がんを対象に、ゲムシタビン+シスプラチン+S-1(GCS)による術前補助化学療法を検証する第III相試験JCOG1920が進められています。2026年8月時点では患者登録は終了しており、追跡・解析が続いています。

したがって、手術可能と判断された胆のうがんで最初に手術を行うことは、術前治療を省略しているという意味ではありません。

一方、非常に局所進行した病変などでは、個々の状況や臨床試験などに応じて術前治療が検討される場合があります。「手術前に薬を使うか」は、標準治療として確立している術後S-1とは分けて理解する必要があります。

参考:JCOG1920|術前GCS療法 第III相試験、JCOG肝胆膵グループ

切除不能・再発胆のうがんの薬物療法

胆のうがんが肝臓や重要な血管、複数の周囲臓器へ広がっていて手術で完全に取り切ることが難しい場合や、肺・腹膜などへの遠隔転移がある場合、手術後に再発した場合には、全身に作用する薬物療法が治療の中心になります。

2025年版『胆道癌診療ガイドライン 改訂第4版』では、切除不能胆道がんについて一次治療と二次治療がそれぞれ独立したCQ(臨床的課題項目)として扱われています。胆のうがんだけ別の薬物療法体系があるわけではなく、胆管がんなどとともに「胆道がん」として治療法が検討されます。

参考:胆道癌診療ガイドライン 第4版

一次治療では化学療法+免疫療法が重要な選択肢

進行・再発胆道がんでは、長くゲムシタビン+シスプラチン(GC療法)が薬物療法の基本となってきました。

現在は、GC療法に免疫チェックポイント阻害薬を加える治療が重要な一次治療の選択肢となっています。代表的なのが、「ゲムシタビン+シスプラチン+デュルバルマブ」と、「ゲムシタビン+シスプラチン+ペムブロリズマブ」です。

デュルバルマブについては、2026年6月改訂のPMDA最適使用推進ガイドラインで、治癒切除不能な胆道がんに対してゲムシタビン・シスプラチンとの併用が示されています。ペムブロリズマブにも胆道がんの最適使用推進ガイドラインがあります。

デュルバルマブを検証したTOPAZ-1試験では、治癒切除不能胆道がんに対してGC療法のみの場合と比べ、デュルバルマブを加えた群で全生存期間が延長しました。さらに長期追跡でも生存効果が確認されています。

ペムブロリズマブを検証したKEYNOTE-966試験でも、進行胆道がんに対するGC療法へペムブロリズマブを加えることで全生存期間が改善しました。この試験には肝内・肝外胆管がんだけでなく胆のうがんも含まれています。

したがって、「胆のうがんだから特別な抗がん剤を使う」というより、切除不能・再発胆道がんとして病状と全身状態に応じた一次治療を選ぶと考える方が実際の診療に近くなります。

参考:PMDA|最適使用推進ガイドライン、TOPAZ-1|デュルバルマブ+GC 3年追跡、KEYNOTE-966|ペムブロリズマブ+GC

日本ではGCS療法も治療選択肢になる

日本では、ゲムシタビン+シスプラチン+S-1(GCS療法)も進行胆道がんに対する重要な選択肢です。

国内の第III相MITSUBA試験では、GCS療法とGC療法を比較し、全生存期間中央値はGCS療法13.5カ月、GC療法12.6カ月で、GCS療法による生存期間の改善が示されました。奏効率もGCS療法41.5%、GC療法15.0%でした。

ただし現在は免疫チェックポイント阻害薬を含む治療も標準的な選択肢となっているため、「どの患者さんにもGCSが第一選択」という意味ではありません。腫瘍の広がり、治療の目的、腎機能、体力、併存疾患、免疫療法を使用できるかなどを踏まえて治療を選びます。

参考:MITSUBA試験|GCS vs GC

シスプラチンや免疫療法を使いにくい場合は治療を調整する

薬物療法は、腎機能、体力、併存疾患などに応じて調整します。

シスプラチンでは腎機能への影響や聴力低下、末梢神経障害などに注意する必要があります。腎機能が低下している場合や、大量の補液が身体への負担になる場合には、シスプラチンを含む治療が適さないことがあります。国立がん研究センターも、胆道がん薬物療法におけるシスプラチン特有の副作用として腎臓への負担、難聴、手足のしびれなどを挙げています。

そのような場合には、ゲムシタビン+S-1(GS療法)など別の治療を検討することがあります。

国内のJCOG1113試験では、進行・再発胆道がんに対するGS療法はGC療法に全生存期間で劣らないことが示されました。またGS療法では、シスプラチンのような補液を必要としないという違いがあります。この試験には胆のうがん患者も含まれています。

免疫チェックポイント阻害薬についても、自己免疫疾患の状態などによって慎重な判断が必要になる場合があります。したがって、「標準治療をそのまま使えない=治療そのものができない」ではありません。

参考:JCOG1113/FUGA-BT|GS vs GC

黄疸や胆管炎がある場合は先に状態を整えることがある

胆のうがんが胆管へ広がったり周囲から胆管を圧迫したりすると、胆汁が流れにくくなり、黄疸や胆管炎を起こすことがあります。

強い黄疸や胆管炎がある状態では、そのまま薬物療法を始めることが難しい場合があります。2025年版ガイドラインでも、閉塞性黄疸を伴う切除不能胆道がんで、どの程度まで減黄してから薬物療法を開始するかがCQ(臨床的課題項目)として独立しています。

そのため必要に応じて胆管ステントなどによる胆道ドレナージや感染症治療を行い、胆汁の流れや肝機能、全身状態を整えてから薬物療法へ進みます。国立がん研究センターも、胆道閉塞が手術や薬物療法を妨げる場合に胆道ドレナージを行うと説明しています。

参考:国立がん研究センター|胆道がん 治療

二次治療以降は「前の治療」とバイオマーカーを確認する

一次治療を続けていても、がんが再び大きくなったり、新しい転移が出たりすることがあります。その場合には二次治療以降を検討します。

海外のABC-06試験では、GC療法後に進行した胆道がんに対して、フルオロウラシル、レボホリナート、オキサリプラチンを組み合わせるFOLFOX療法を行うことで、症状への治療だけを行う場合と比べて全生存期間が延長しました。この試験にも胆のうがんが含まれています。なお、ABC-06試験はGC療法後を対象とした試験であり、現在一次治療で用いられるGC療法+免疫チェックポイント阻害薬の治療後を直接検証した試験ではありません。

現在の二次治療では、単に「次の抗がん剤」を選ぶだけではありません。

2026年の3学会合同手引きでは、胆道がんには治療につながる複数のバイオマーカーがあり、切除不能・再発例では分子異常に応じた治療を検討することが重視されています。特に胆のうがんでは、次章で説明するHER2が治療選択につながる可能性があります。

参考:ABC-06|二次治療FOLFOX

胆のうがんのバイオマーカー・遺伝子検査

進行・再発胆のうがんでは、同じ病名であっても、がん細胞が持つ遺伝子異常やタンパク質の特徴が患者さんごとに異なります。こうした特徴をバイオマーカーとして調べることで、特定の分子標的薬や免疫療法が治療候補になる場合があります。

2026年8月に肝癌研究会・日本肝胆膵外科学会・日本胆道学会が合同で公表した『胆道癌患者におけるバイオマーカー検査の手引き Ver.1.0』では、FGFR2、IDH1、HER2、BRAF V600E、MSI-High/dMMR、TMB-High、NTRK、RET、ALKなど、胆道がんで治療につながるバイオマーカーと検査方法が整理されています。

参考:3学会合同|胆道癌患者におけるバイオマーカー検査の手引き(2026年8月 Ver.1.0)

胆のうがんではHER2が重要な治療標的の一つ

HER2は、細胞表面に存在し、細胞増殖に関わるシグナルを伝えるタンパク質です。HER2をつくるERBB2遺伝子が増幅したり、HER2タンパク質が過剰に発現したりすると、がん細胞の増殖に関係する場合があります。

HER2異常の頻度は胆道がんの発生部位によって異なります。

2026年の3学会合同手引きでは、HER2タンパク過剰発現または遺伝子増幅は胆道がん全体でおおむね5~15%程度、胆のうがんでは10~20%程度とする報告があると整理されています。C-CATのデータでも、検査方法によって割合は異なるものの、組織CGP全体では胆のうがんのHER2遺伝子増幅は17.6%でした。

そのため胆のうがんは、胆道がんの中でもHER2標的治療につながる可能性を比較的検討しやすい病型の一つです。

ただし、この「10~20%」という数字を、「胆のうがん患者の5人に1人が必ずHER2治療を受けられる」と解釈することはできません。検査方法や対象集団によって頻度が異なり、実際の治療にはHER2の判定方法、これまでの治療、薬剤の適応条件なども関係します。

HER2陽性とHER2遺伝子増幅は完全に同じ意味ではない

HER2については、言葉を分けて理解する必要があります。

HER2タンパク過剰発現は、IHC(免疫組織化学染色)を使って、がん細胞表面にHER2タンパク質がどの程度発現しているかを調べます。

一方、HER2遺伝子増幅は、FISHなどによってERBB2遺伝子のコピー数が増えているかを評価したり、CGPなどの遺伝子解析で調べたりします。2026年手引きでは、IHC、FISH、CGPがHER2異常を評価する方法として整理されています。

そのため「HER2陽性」「HER2タンパク過剰発現」「HER2遺伝子増幅」は関連する概念ですが、検査方法まで含めれば完全な同義語ではありません。どの結果を用いて薬を選べるかは、対象となる薬剤の承認条件や承認された検査法を確認する必要があります。

HER2異常が確認された場合の治療候補

HER2異常が確認された場合には、異常の種類や検査方法、これまでに受けた治療などを確認し、HER2を標的とする治療が選択肢になるかを検討します。

2026年3月、日本ではトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)に「HER2陽性の進行・再発の固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)」という適応が追加されました。胆のうがんでも、HER2の判定とその他の適応条件を満たす場合には治療候補となります。

ただし、HER2に何らかの異常が見つかれば、すべてT-DXdの適応になるわけではありません。実際に治療へつなげられるかは、HER2の異常の種類、検査法、前治療、病状などを確認して判断します。

参考:PMDA|トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)

HER2以外にも治療につながるバイオマーカーがある

2026年の3学会合同手引きでは、胆道がんで保険適用薬につながり得るバイオマーカーとして、次のような分子異常が整理されています。

なお、以下には「胆のうがん」という病名そのものを対象として承認されている治療だけでなく、特定の遺伝子異常などを持つ固形がんを横断的に対象とする治療も含まれます。異常が見つかっただけで直ちに薬を使用できるわけではなく、前治療、病状、使用した検査法、コンパニオン診断の条件などを確認する必要があります。

バイオマーカー 胆のうがんでの考え方 条件を満たした場合に検討される治療
HER2遺伝子増幅・HER2陽性 胆道がんの中では胆のうがんで比較的みられやすい 条件を満たせばT-DXdなどHER2を標的とした治療につながる場合がある
BRAF V600E 一部の胆道がんでみられる ダブラフェニブ+トラメチニブが候補になる場合がある
MSI-High/dMMR 頻度は高くないが、免疫療法の選択に関係する 条件を満たせばペムブロリズマブが候補になる
TMB-High 腫瘍の遺伝子変異量を示す指標 条件を満たせばペムブロリズマブが候補になる
NTRK融合遺伝子 まれ TRK阻害薬が候補になる場合がある
RET融合遺伝子 非常にまれ セルペルカチニブが候補になる場合がある
ALK融合遺伝子 非常にまれ アレクチニブが候補になる場合がある

FGFR2・IDH1は胆管がんほど胆のうがんの中心的な標的ではない

胆管がんの記事ではFGFR2融合とIDH1変異を詳しく扱いました。

これは、FGFR2融合やIDH1変異が主に肝内胆管がんで特徴的にみられる分子異常だからです。これに対して胆のうがんでは、HER2異常の方が比較的多く報告されています。3学会合同手引きでも、HER2異常は胆のうがん・肝外胆管がんに比較的多く、肝内胆管がんでは頻度が低いという分布が示されています。

ただし、胆のうがんだからFGFR2やIDH1を絶対に調べる意味がないということではありません。CGPでは多くの遺伝子をまとめて解析するため、個々の患者さんで治療につながる異常が見つかる可能性を広く探索できます。

バイオマーカー検査・がん遺伝子パネル検査・CGPは目的が異なる

「遺伝子検査を受けた」と言われても、何を調べたかは検査によって異なります。

バイオマーカー検査は、薬の効果などに関係する「目印」を調べる広い概念で、遺伝子だけでなくHER2タンパク質の発現なども含まれます。

がん遺伝子パネル検査は、多数の遺伝子を一度に解析する検査方法です。

そのパネル検査を使い、特定の薬だけを前提にせず治療候補や臨床試験につながる異常を幅広く探索することをCGP(包括的がんゲノムプロファイリング)と呼びます。

一方、特定の薬を使えるか判断するための検査はコンパニオン診断です。一部のがん遺伝子パネル検査は、CGPとしてだけでなくコンパニオン診断としても使用できるため、「パネル検査=CGP」と完全に同義ではありません。2026年手引きでも、この違いを踏まえた検査の使い分けが説明されています。

バイオマーカー検査は次の治療に間に合う時期を考える

進行・再発胆道がんでは、標準治療がすべて終了してから初めてバイオマーカー検査について考えればよいとは限りません。次の治療選択に検査結果を生かせるよう、早い段階から「どの検査を、いつ行う可能性があるのか」を主治医と相談し、手術標本など利用できる検体について確認しておくことが役立ちます。

ただし、早い段階からCGPについて相談することと、実際に保険診療でCGPを実施できる時期は同じではありません。2026年8月時点では、保険診療によるがん遺伝子パネル検査には、標準治療がない、または標準治療の終了が見込まれる固形がんであることなどの条件があります。

そのため「今の治療を決めるために必要なバイオマーカー検査」「将来CGPを行う場合に備えた検体や検査計画」「実際に保険診療でCGPを実施できる時期」を分けて考えることが大切です。

参考:3学会合同|胆道癌患者におけるバイオマーカー検査の手引き(2026年8月 Ver.1.0)

胆のうがんの放射線治療・症状を和らげる治療

胆のうがんでは、根治を目指せる場合には手術、切除不能・再発では薬物療法が治療の大きな柱になります。

放射線治療を行う場合もありますが、切除不能胆のうがんの全患者さんに一律に行う標準治療という位置づけではありません。

2025年版胆道癌診療ガイドラインでは「切除不能胆道がんに放射線治療または化学放射線療法は有用か」と「胆道がん切除例に対する術後放射線療法・術後化学放射線療法は有用か」がFRQ(フューチャー・リサーチ・クエスチョン:将来の研究課題)として、今後さらに検証が必要な課題に位置づけられています。

参考:胆道癌診療ガイドライン 第4版

遠隔転移がない局所進行例で放射線治療を検討することがある

手術できない胆のうがんでも、理由が「遠隔転移」ではなく、周囲の血管や臓器へ局所的に広がっているためという場合があります。このような遠隔転移のない局所進行胆道がんでは、薬物療法とともに放射線治療や化学放射線療法を検討することがあります。

国立がん研究センターも、手術できない胆道がんで遠隔転移がない場合には、がんの進行を遅らせることなどを目的として放射線治療を行う場合がある一方、現時点では有効性が十分に証明された標準治療ではないと説明しています。

放射線治療を提案された場合には、根治、局所制御、症状緩和のどの目的で行うのか、薬物療法とどのように組み合わせるのかを確認するとよいでしょう。

痛みなどを和らげるために放射線治療を行うことがある

放射線治療には、がんを完全に消すことだけでなく、症状を軽減する目的もあります。たとえば骨転移によって強い痛みがある場合には、転移した場所へ放射線を照射し、痛みを和らげる治療を行うことがあります。

「緩和目的の放射線治療」と説明されても、それだけで抗がん治療をすべて終了するという意味ではありません。全身薬物療法を続けながら、特定の病変による症状を放射線で軽減する場合もあります。

参考:国立がん研究センター|胆道がん 治療

胆管が塞がって黄疸がある場合は胆道ドレナージを行うことがある

進行した胆のうがんが胆管へ浸潤したり周囲から圧迫したりすると、胆汁の流れが妨げられ、黄疸や胆管炎が生じることがあります。

この場合には、胆管へステントを入れるなどして胆汁を流す胆道ドレナージを行うことがあります。ドレナージはがんを消す治療ではありませんが、黄疸や感染を改善し、薬物療法を安全に続けるために必要になる場合があります。

薬物療法がよく効いた後に手術を再評価する場合がある

最初は切除不能と判断された胆のうがんでも、薬物療法によって腫瘍が縮小し、新しい遠隔転移が現れない状態が続くなどした場合には、手術で完全切除できる可能性を改めて評価することがあります。

このように、当初は切除不能だったがんに対して治療後に手術を検討する考え方をコンバージョン手術と呼びます。

ただし「抗がん剤が効けば手術する」という確立した一律の治療ではありません。2025年版胆道癌診療ガイドラインでも、切除不能胆道がんに対するコンバージョン手術はFRQ(将来の研究課題)として、今後さらに検証が必要な課題です。

薬物療法がよく効いている場合には、腫瘍の大きさだけでなく、肝臓や血管・周囲臓器との関係、リンパ節や遠隔転移、全身状態を改めて評価し、R0切除を目指せるかを検討します。

胆のうがん治療後の生活と治療の副作用

胆のうがんの治療後にどのような生活になるかは、胆のうだけを摘出したのか、肝臓や胆管まで一緒に切除したのか、その後に薬物療法を受けているのかによって大きく異なります。

術後の回復や生活への影響は、胆のう摘出のみか、肝切除・胆管切除などを伴うかによって大きく異なります。国立がん研究センターも、胆道がんでは手術範囲の違いによる術後の合併症として肝不全、胆汁漏、胆管炎などが起こる可能性を説明しています。

参考:国立がん研究センター|胆道がん 療養

胆のうを摘出しても生活できるのはなぜか

胆のうは胆汁をつくる臓器ではなく、肝臓でつくられた胆汁を一時的にためて濃縮する臓器です。

胆のうを摘出した後も肝臓では胆汁がつくられ続け、胆汁は肝臓から胆管を通って直接十二指腸へ流れます。そのため、胆のうがなくても消化そのものができなくなるわけではありません。

単純な胆のう摘出だけであれば、多くの人は長期的に特別な食事制限を必要とせず、通常の健康的な食生活へ戻れます。一方、胆のうがんでは肝切除や胆管切除などを追加していることもあります。その場合は、単純な胆石手術後と同じ回復経過とは限りません。

参考:NHS|Recovering from gallbladder removal

手術直後は少量ずつ食べ、脂肪の取りすぎを避ける

胆のう摘出後は、これまで胆のうにためていた胆汁が持続的に腸へ流れるようになります。術後しばらくは、一度に大量の食事や脂肪分の多い食事を取ると、下痢や腹部不快感などが起こる人もいます。

国立がん研究センターは胆道がん治療後の一般的な食生活として、一度の量を少なめにして回数を分ける、脂肪を取りすぎない、良質なタンパク質を取ることなどを案内しています。ただし、胆のうを取ったから一生脂肪をほとんど食べてはいけないという意味ではありません。単純な胆のう摘出後には特別な低脂肪食を長期間続ける必要がないとする患者向け医療情報もあり、実際には手術範囲や症状に合わせて調整します。

下痢、腹痛、食欲不振、体重減少などが続く場合には、自己判断で食事を大きく制限するより、医師や管理栄養士へ相談します。

参考:Guy’s and St Thomas’ NHS|胆のう摘出後の食生活

肝切除や胆管切除まで行った場合は回復の負担が大きくなる

T2以降などで胆のうに接する肝臓を切除した場合には、胆のう摘出だけの場合より手術侵襲が大きくなります。

大きな肝切除では、一時的に肝機能が低下したり、黄疸や腹水などを伴う肝不全が問題になったりすることがあります。また胆管を切除して腸とつないだ場合には、胆汁漏や術後胆管炎などが起こることがあります。

また、膵臓を含む手術を行った場合には、膵液がつないだ部分などから漏れる膵液漏が起こることもあります。どの合併症に注意する必要があるかは予定している手術によって異なるため、手術前には「自分の術式で特に起こりやすい合併症は何か」まで確認しておくとよいでしょう。

退院後に高熱、黄疸、強い上腹部痛などが出た場合には、単なる手術後の疲れとして様子を見るのではなく、治療を受けた医療機関へ相談します。胆管と腸をつないだ手術後の胆管炎は退院後にも起こる可能性があります。

参考:国立がん研究センター|胆道がん 治療

S-1では食欲・下痢・口内炎などが生活に影響することがある

術後補助化学療法などで使用するS-1では、血球減少に加えて、食欲低下、下痢、口内炎、皮膚症状、涙目などが起こることがあります。

手術後はもともと食事量や体重が落ちていることがあります。その状態に下痢や口内炎が加わると、脱水や栄養低下によって治療を予定どおり続けにくくなる場合があります。

飲み薬だから点滴より副作用が軽いとは限りません。

食事や水分が十分取れない、下痢が続く、口内炎で食べられない、強い倦怠感があるといった場合には、我慢して服用を続けるのではなく治療施設へ相談します。副作用の程度によって休薬や減量などを調整します。

ゲムシタビン・シスプラチンでは血球減少や腎機能に注意する

ゲムシタビンやシスプラチンでは、白血球・好中球・血小板の減少、貧血、食欲低下、吐き気、倦怠感などが起こることがあります。

シスプラチンでは腎機能への影響、難聴、手足のしびれなどにも注意します。ゲムシタビンでは頻度は高くないものの間質性肺炎が起こる可能性があります。

薬物療法中に発熱した場合には、好中球減少に伴う感染症だけでなく、胆管が塞がっている患者さんでは胆管炎も考える必要があります。

患者さん自身で原因を区別するのは難しいため、高熱や悪寒がある場合には「抗がん剤の副作用だろう」と自己判断せず治療施設へ連絡することが必要です。

免疫チェックポイント阻害薬では臓器の炎症に注意する

デュルバルマブやペムブロリズマブは、免疫ががんを攻撃する働きを利用する薬です。

そのため、通常の抗がん薬とは異なり、免疫反応が正常な臓器へ及ぶことで、肺、腸、肝臓、甲状腺、副腎などさまざまな場所に炎症や機能障害が起こることがあります。

2026年6月のデュルバルマブ胆道がん最適使用推進ガイドラインでも、間質性肺疾患、肝機能障害・肝炎、甲状腺機能異常、副腎機能障害などが報告されています。また、免疫反応による副作用が疑われる場合には専門医と連携して対応する必要があるとされています。

新しい咳や息切れ、続く下痢、強い倦怠感、急な体重変化など、これまでと違う症状が出た場合には早めに医療機関へ伝えます。

参考:PMDA|最適使用推進ガイドライン

HER2標的治療では間質性肺疾患に特に注意する

HER2陽性の進行・再発胆のうがんでT-DXdを使用する場合には、間質性肺疾患が特に重要な副作用です。

2026年3月の国内添付文書では、T-DXdによる間質性肺疾患で死亡した症例が報告されていることが警告され、投与開始前の胸部CT、投与中の呼吸困難・咳・発熱などの確認、胸部画像検査などが求められています。

HERB試験でもHER2陽性胆道がんへのT-DXd投与で間質性肺疾患が認められており、3学会合同手引きでも慎重なモニタリングが必要とされています。

したがって、治療中に新しく咳が出る、息切れする、発熱が続くといった変化があれば、風邪だと決めつけず早めに治療施設へ相談します。

参考:PMDA|トラスツズマブ デルクステカン

緩和ケア・支持療法は抗がん治療と並行して行う

胆のうがんでは、痛み、食欲不振、体重減少、黄疸、かゆみ、倦怠感など、がん自体の症状に加えて、手術や薬物療法による負担も生じます。

こうした問題を和らげる緩和ケアや支持療法は、診断時から治療と並行して受けることができます。

支持療法には、がんによる症状や治療の副作用・合併症・後遺症を軽減する治療やケアも含まれます。食べられない、痛みで眠れない、治療を続ける体力が落ちている、不安のため日常生活に支障があるといった問題も相談の対象です。

胆のうがんの治療では、画像上のがんを小さくすることだけでなく、治療を続けられる身体の状態を保ち、日常生活への負担をできるだけ軽くすることも治療の一部として考えます。

参考:国立がん研究センター|緩和ケア
胆のうがんのステージ別5年生存率

胆のうがんの予後を調べると「ステージ1なら何%」「ステージ4ではどのくらい生きられるのか」といった生存率の数字を目にすることがあります。

国立がん研究センターの院内がん登録では、2014~2015年に胆のうがんと診断された患者さんについて、ステージ別の5年生存率が公表されています。ここでは、がん以外の死因の影響を統計学的に調整した5年ネット・サバイバルを中心に示します。

ステージ 5年実測生存率 5年ネット・サバイバル
Ⅰ期 77.9% 87.2%
Ⅱ期 62.8% 71.4%
Ⅲ期 17.8% 19.9%
Ⅳ期 2.0% 2.1%

※国立がん研究センター「院内がん登録2014~2015年5年生存率」の胆のうがんデータ。対象は3,009人、生存状況把握割合は98.6%です。
参考:国立がん研究センター|胆のうがん 2014~2015年5年生存率

ネット・サバイバルは「胆のうがんだけが死亡に影響すると仮定した生存率」

実測生存率は、胆のうがん以外の病気や事故などによる死亡も含めて、実際にどのくらいの患者さんが生存していたかを示します。

一方、ネット・サバイバルは、一般人口の死亡率などを用いて、胆のうがん以外の死亡の影響を統計学的に取り除いた指標です。国立がん研究センターでは、2014~2015年診断例の5年生存率からネット・サバイバルを採用しています。

そのため、この記事ではがんそのものの予後を比較する目的ではネット・サバイバルを中心に見ますが、どちらも個人の寿命を直接予測する数字ではありません。

Ⅰ・Ⅱ期とⅢ期以降で生存率が大きく異なるのはなぜか

上の統計では、Ⅰ期・Ⅱ期とⅢ期以降で5年生存率に大きな差があります。

胆のうがんでは、がんが胆のう壁の浅い範囲にとどまっている段階では完全切除を目指しやすい一方、胆のう壁を越えて肝臓や周囲臓器へ広がったり、リンパ節転移が加わったりすると、手術でがんを完全に取り切ることが難しくなります。

ただし「現在のステージⅢなら5年生存率19.9%」とそのまま置き換えることはできません。

この生存率集計で用いられた2014~2015年診断例の病期はUICC TNM第7版です。一方、本記事のステージ章で説明した現在の国立がん研究センター患者向け病期表はUICC TNM第8版です。第8版ではT2が腹腔側T2aと肝臓側T2bに分けられるなど病期分類が変更されているため、生存率表のⅠ~Ⅳ期と現在の病期を一対一で対応させることはできません。

生存率表を見るときの注意

本記事のステージ解説:UICC TNM第8版
上記の2014~2015年生存率:UICC TNM第7版

病期分類の版が異なるため、現在のT2a・T2bなどを上記の生存率へ直接当てはめることはできません。

参考:国立がん研究センター|胆道がん 治療、UICC|TNM Publications and Resources

5年生存率は「あと何年生きられるか」を示す数字ではない

たとえばⅣ期の5年ネット・サバイバルが2.1%だからといって、「ステージ4なら5年生きられる確率は自分の場合も2.1%」と判断することはできません。

生存率は、特定の年代に診断された多数の患者さんを集計した統計です。同じステージでも、局所進行なのか遠隔転移があるのか、どこへ転移しているのか、年齢や体力、肝機能・腎機能、治療への反応、がんが持つ分子異常などによって病状は異なります。さらに胆のうがんでは、ステージ番号だけでなく、手術で完全切除できるかどうかも予後に大きく関係します。

生存率は「自分の余命」を示すものではなく、同じ病気を持つ患者集団の治療成績を理解するための参考値として見る必要があります。

2014~2015年の統計には現在の治療が十分に反映されていない

もう一つ確認したいのが、診断された年代です。

上記の患者さんが診断されたのは2014~2015年です。その後、根治切除後の胆道がんではJCOG1202/ASCOT試験によってS-1術後補助療法が標準治療となりました。

切除不能胆道がんでも、2022年以降はデュルバルマブを含む免疫療法が国内診療へ導入され、2026年6月にも胆道がんの最適使用推進ガイドラインが改訂されています。

さらに2026年8月の3学会合同手引きでは、HER2、BRAF V600E、MSI-High/dMMR、TMB-High、NTRK、RETなど、胆道がんで治療選択につながる複数のバイオマーカーが整理されています。

したがって、2014~2015年の生存率は、現在使われている術後補助療法、免疫療法、分子標的治療などが十分普及する前の患者集団の成績です。

過去の数字を必要以上に楽観視することも悲観視することもせず「現在自分にどの治療が可能なのか」と合わせて考える必要があります。

胆のうがんの再発・経過観察

胆のうがんを手術で完全に切除した後も、再発がないか、手術から身体が回復しているかを確認するために定期的な経過観察を行います。

国立がん研究センターでは、胆道がん治療後の検査頻度はがんの進行度や治療法によって異なり、問診、血液検査、腫瘍マーカー検査を行い、必要に応じて腹部超音波やCTなどの画像検査を行うとしています。

一方、2025年版『胆道癌診療ガイドライン 改訂第4版』では「胆道癌に対する術後経過観察はどのように行うか」がFRQ(将来の研究課題)として位置づけられています。つまり、すべての患者さんに共通する最適な検査間隔や検査方法が十分なエビデンスによって一つに決まっているわけではありません。

参考:胆道癌診療ガイドライン 第4版

胆のうがんは肝臓・リンパ節・肺・腹膜などに再発することがある

胆道がんは、周囲のリンパ節、肝臓、肺などへ転移することがあり、手術後には切除した場所やその周囲へ再び現れる局所再発や、腹膜へがん細胞が広がる腹膜播種として再発することがあります。

胆のうがんは肝臓に接しているため、肝臓の再発についても画像検査で確認します。ただし「肝臓に影がある=胆のうがんの再発」と決めることはできず、CTやMRIなどから病変の性質を評価します。

再発する場所や数によって治療方針は異なりますが、再発胆道がんでは多くの場合、全身へ作用する薬物療法を検討します。骨転移による痛みなどには、症状を和らげる目的で放射線治療を行う場合もあります。

腹膜播種の治療法や診断については、以下の記事で解説しています。

術後は血液検査・腫瘍マーカー・画像検査などを組み合わせて経過を見る

経過観察では、黄疸、腹痛、食欲、体重、発熱などの変化を確認します。

血液検査では、ビリルビンなど肝臓・胆道に関係する値を確認し、CA19-9やCEAなどの腫瘍マーカーを測定する場合があります。また、必要に応じて腹部超音波やCTなどを行い、再発を疑う病変がないか調べます。

検査の頻度は、手術時のステージ、病理結果、リンパ節転移や切除断端、術後補助化学療法を受けているか、手術からどの程度時間が経過しているかなどによって変わります。

他の胆のうがん患者さんとCTの頻度が違うことだけで「自分は十分な経過観察を受けていない」と判断することはできません。

参考:国立がん研究センター|胆道がん 療養

CA19-9だけで胆のうがんの再発を判断しない

胆のうがんの経過観察ではCA19-9を測定する場合がありますが、CA19-9の値だけで再発を確定することはできません。

CA19-9は胆道がんで利用される腫瘍マーカーですが、胆汁の流れが悪い場合や炎症がある場合などにも変動することがあります。反対に、がんがあっても数値が高くならない患者さんもいます。

そのため、以下を組み合わせて再発の可能性を評価します。

腫瘍マーカーの推移
+症状
+肝胆道系の血液検査
+CTなどの画像所見

CA19-9が以前より上昇した場合には「再発した」と数字だけで結論づけるのではなく、原因を調べるための追加評価が必要です。

再発した場合は手術時のステージではなく「現在の病状」から治療を考える

たとえば最初の手術時に「ステージⅡ」と診断されていた患者さんが、その後に肺や肝臓へ再発した場合、再び「ステージⅡの治療」を行うわけではありません。

再発時には、どこに再発しているのか、病変はいくつあるのか、遠隔転移があるのか、それまでにどの薬を使ったのか、現在どの程度の体力や臓器機能が保たれているのかを改めて評価します。再発胆道がんでは薬物療法が治療の中心になります。

再発が見つかったときには「最初は何期だったか」だけでなく、「今どこに、どの程度の病変があり、現在どの治療を選べる状態なのか」を整理することが治療選択につながります。

再発時にはHER2などのバイオマーカー情報も確認する

現在の胆のうがん治療では、再発した場所だけでなく、がん細胞が持つ分子異常も次の治療に影響する場合があります。

2026年8月の3学会合同手引きでは、胆道がんは治療薬に直結するバイオマーカーが多いがん種の一つとされ、HER2遺伝子増幅、BRAF V600E、MSI-High/dMMR、TMB-High、NTRK融合、RET融合などが治療選択と関係するものとして整理されています。

特に胆のうがんでは、これまで説明したようにHER2異常が比較的多く報告されています。

そのため再発時には、「以前バイオマーカー検査を受けているか」「何を調べたのか」「保存されている手術標本を使って追加検査できるか」を確認する価値があります。

過去に「遺伝子検査済み」と説明されていても、すべてのバイオマーカーを評価したとは限りません。3学会合同手引きでも、検査方法によって評価できる遺伝子や薬の適応判定に利用できる結果が異なることが整理されています。

参考:2026年バイオマーカー検査の手引き

気になる症状があれば次の定期検査まで待たない

経過観察は、予定されたCTの日まで待つことだけではありません。

国立がん研究センターでは、胆道がんの経過観察で黄疸、腹部痛、食欲の変化などを確認し、気になる症状があれば担当医へ伝えるよう案内しています。

たとえば、これまでなかった黄疸、続く腹痛、原因の分からない体重減少、食欲低下、高熱などが現れた場合には、再発のほか、治療の副作用や胆道の感染などさまざまな原因が考えられます。

症状が出たから再発とは限りませんが、定期検査の予約日まで必ず待つ必要もありません。新しい症状や急な変化があれば、治療を受けている医療機関へ相談します。

胆のうがんの治療を選ぶときに確認したいこと

胆のうがんでは、「ステージはいくつか」だけを確認しても、自分に提案された治療の全体像が分からないことがあります。

治療を左右するのは、胆のう壁への深達度、肝臓や胆管への広がり、リンパ節・遠隔転移、手術で完全切除できる可能性、手術後の病理結果、バイオマーカーなど複数の情報だからです。国立がん研究センターも、胆道がんでは病期に加え、手術可能性を評価して治療を決定しています。

特に胆のうがんでは、胆石などの手術後に初めてがんが判明する患者さんもいるため、「これから最初の手術を受ける場合」と「すでに胆のうを摘出した後に追加治療を考える場合」では、確認する内容も少し異なります。

確認したいこと なぜ治療選択に関係するのか
がんは胆のう壁のどこまで入り込んでいるか T1a・T1b・T2などの深達度によって、胆のう摘出だけでよいか、肝切除やリンパ節郭清などを検討するかが変わるため
T2の場合、T2aかT2bか 腹腔側と肝臓側では病変の位置関係が異なり、手術や病期評価を理解する材料になるため
肝臓・胆管・十二指腸などへ広がっているか 胆のう以外の臓器をどこまで一緒に切除する必要があるかに関係するため
リンパ節転移・遠隔転移はあるか 手術で根治を目指せるか、全身薬物療法を中心にするかを判断する材料になるため
手術でR0切除を目指せるか 肉眼だけでなく顕微鏡的にもがんを残さない完全切除を目指せるかが手術適応を考えるうえで重要なため
胆のう摘出後に偶然がんが見つかった場合、深達度はどこまでか 特にss以上では追加切除を検討する臨床課題となるため
胆のう管断端などの切除断端は陰性か 最初の手術でがんが残っている可能性や追加切除の必要性を考える材料になるため
術後S-1が勧められる理由は何か 深達度、リンパ節、切除断端などから再発リスクを考え、術後補助化学療法の利益と負担を判断するため
切除不能の場合、手術できない理由は何か 遠隔転移なのか、局所の血管・臓器浸潤なのかによって病状やその後の治療の考え方が異なるため
HER2などのバイオマーカーを調べているか 進行・再発時に分子標的治療や免疫療法など別の治療候補につながる場合があるため

2025年版胆道癌診療ガイドラインでは、外科切除の可否を治療アルゴリズムの最初の分岐とし、胆のうがんについては、肝外胆管切除、肝切除、胆のう摘出後にss以上と判明した場合の追加切除などが独立した臨床課題として扱われています。

胆のうがんの治療説明を受ける際には、治療名だけでなく「なぜその治療が必要なのか」を確認することが役立ちます。手術では切除する臓器とその理由、切除不能・再発例では現在の治療だけでなく次の治療候補やバイオマーカー検査の状況まで確認すると、今後の治療計画を整理しやすくなります。

参考:胆道癌診療ガイドライン 第4版、国立がん研究センター|胆道がん 治療、NCI|Gallbladder Cancer Treatment PDQ

胆のうがんでは「壁のどこまで広がったか」が治療を左右する

胆のうがんの治療では、ステージだけでなく、がんが胆のう壁のどこまで入り込んでいるか、肝臓や胆管などへ広がっているか、手術で完全切除を目指せるかが重要な判断材料になります。

胆のう摘出後に偶然がんが見つかった場合には、深達度や切除断端、転移の有無を確認して追加手術の必要性を判断します。切除不能・再発例では、薬物療法に加えてHER2などのバイオマーカー情報が治療選択につながることもあります。

治療法を選ぶ際には、一つの数字や薬の名前だけで判断するのではなく、現在の病状と、その治療が何を目的として行われるのかを主治医と確認しながら治療計画を整理していきましょう。