”新しい未来をともに”最先端のがん治療を追求するがん治療専門クリニック ”新しい未来をともに”最先端のがん治療を追求するがん治療専門クリニック

がんの情報をみなさまにお届けします

がんと向き合うすべての方へ
知りたいことに寄り添い、大切な選択の助けとなる情報をお届けします。

※本記事の承認状況や適応は、2026年7月時点の情報に基づいています。

乳がんの薬物療法は、ホルモン受容体陽性、HER2陽性、トリプルネガティブという分類だけでなく、HER2の発現量や遺伝子変化、これまでに受けた治療を詳しく調べて選ぶ方向へ進んでいます。

近年は、従来HER2陰性とされていたHER2-low(HER2低発現)/HER2-ultralow(HER2超低発現)乳がんを対象とする治療、ESR1などの遺伝子変化に応じた内分泌療法、がん細胞へ抗がん剤成分を運ぶ抗体薬物複合体などが登場しています。血液中のがん由来DNAを調べ、画像検査で病変が大きくなる前に治療を変更する方法も実用化されました。

ただし、新しい薬がすべての乳がんに使えるわけではありません。サブタイプ、遺伝子検査の結果、治療を受ける段階、過去に使用した薬、肺や心臓、肝臓などの状態によって適応が異なります。海外で承認された治療が日本では未承認の場合もあり、国内で承認されていても、定められた検査結果や治療歴を満たさなければ保険診療では使用できません。

本記事では、主に手術不能・再発・転移乳がんを対象として、乳がん治療の何が変わったのか、どの検査によって治療が分かれるのか、最新治療を検討するときに何を確認すべきかを解説します。

乳がんの最新治療は何が変わったのか

乳がんの「最新治療」は、新薬が増えたことだけを意味しません。治療対象となる患者さんの範囲、薬を使用する順番、検査を行う時期も変わっています。

主な変化 治療選択への影響
HER2-low/HER2-ultralowが治療対象になった 従来HER2陰性とされた一部の患者さんにも抗HER2抗体薬物複合体を検討できる
遺伝子変化に応じて薬を選ぶ ESR1、PIK3CA、AKT1、PTEN、BRCA1/2などが治療選択に関わる
抗体薬物複合体が増えた HER2やTROP-2を目印として抗がん剤成分を届ける治療を選べる
血液検査で治療抵抗性を調べる ctDNAからESR1変異を見つけ、画像上の進行前に治療を変更できる場合がある
脳転移を意識した薬が増えた HER2陽性乳がんでは、脳転移への効果が検討された内服薬も国内で使用できる

これまでは薬が効かなくなれば別の内分泌療法や抗がん剤へ順番に切り替える治療が中心でした。現在は、なぜ薬が効きにくくなったのかを検査し、その仕組みに応じて次の薬を選べる場合があります。

新しい薬が有効と確認された後、より早い段階で使用する臨床試験も進められています。ただし、早く使える薬が、すべての患者さんにとって最初に選ぶべき薬とは限りません。

現在の治療で病気を抑えられている場合には、副作用や通院負担の大きい薬へ急いで変更せず、効果が続く間は同じ治療を続けることもあります。新しさだけでなく、期待できる効果、治療を続けやすいか、次に残る選択肢まで考えて順番を決めます。

最新治療を選ぶために必要な検査

新薬の名称を調べる前に、自分の乳がんがどの治療の対象になるのかを確認する必要があります。

検査項目 主に分かること 関係する治療
ER・PgR 女性ホルモンを利用して増殖する乳がんか 内分泌療法、CDK4/6阻害薬、経口SERD
HER2 HER2陽性、HER2-low、HER2-ultralowなど 抗HER2薬、抗体薬物複合体
PD-L1 免疫療法の効果を期待できる可能性 トリプルネガティブ乳がんの免疫療法
ESR1 内分泌療法への耐性に関係する変化 カミゼストラント、イムルネストラント
PIK3CA・AKT1・PTEN PI3K/AKT経路の遺伝子変化 カピバセルチブなど
BRCA1/2 DNA修復に関係する遺伝子変化 PARP阻害薬
がん遺伝子パネル検査 多数の遺伝子変化を一度に調べる 標準治療後の薬や臨床試験の候補

ホルモン受容体(ER・PgR)とHER2の検査は、乳がん治療を決める基本的な検査です。ただし、再発・転移した病変では、最初の乳がんと検査結果が異なる場合があります。安全に組織を採取でき、結果によって治療が変わる可能性がある場合には、転移巣の再生検や保存標本の再評価を行います。

HER2についても、単に陽性か陰性かを見るだけではありません。IHC 1+またはIHC 2+かつISH陰性のHER2-lowや、IHC 0の中に含まれるHER2-ultralowを区別することが、トラスツズマブ デルクステカンの治療選択に関わります。判定には、承認された検査と十分な経験を持つ病理医・検査施設が必要です。

遺伝子検査は、すべてを一度に受ければよいわけではありません。現在のサブタイプ、治療段階、次に検討する薬に応じて必要な検査を選びます。陰性だった場合に治療方針がどう変わるかまで確認したうえで検査を受けることが、結果を実際の治療へつなげるために重要です。

ホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がんで増えた治療

ホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がんでは、内分泌療法とCDK4/6阻害薬を組み合わせ、病気をできるだけ長く抑える治療が中心です。

従来は内分泌療法が効かなくなると、別の内分泌療法や抗がん剤へ切り替えることが中心でした。現在は、ESR1やPIK3CA、AKT1、PTENなどを調べ、薬が効きにくくなった仕組みに応じて治療を選べるようになっています。

ESR1遺伝子変異の場合

ESR1遺伝子変異が確認された場合でも、使用する薬は病気の状態によって異なります。一次治療中で画像上の進行がまだない場合には、アロマターゼ阻害薬をカミゼストラントへ変更し、CDK4/6阻害薬を継続する治療が候補になります。これは、ctDNA検査で耐性の兆候を捉え、画像上の進行前に対応する方法です。

参考:エトカマ(一般名:カミゼストラント)適正使用ガイド|独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

すでに内分泌療法後の進行が確認されているESR1変異陽性乳がんでは、イムルネストラントなどの経口SERDを検討します。同じESR1変異でも、変異を確認した時期と画像上の進行の有無によって使用する薬が変わります。

参考:イムルリオ(一般名:イムルネストラント)審議結果報告書|独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

PIK3CA、AKT1、PTEN遺伝子変異の場合

PIK3CA、AKT1、PTENのいずれかに遺伝子変化がある場合には、カピバセルチブとフルベストラントの併用が候補になります。ただし、カピバセルチブでは高血糖や糖尿病ケトアシドーシスが報告されているため、遺伝子変化だけでなく、糖尿病の有無や血糖値を確認しながら使用します。

参考:アストラゼネカのトルカプとフェソロデックスの併用療法、日本においてHR陽性進行乳がん患者さんの治療薬として承認取得

内分泌療法で病気を抑えることが難しくなった後は、HER2-low/ultralowの状態や抗がん剤治療歴によって、抗体薬物複合体を検討できる場合があります。

このタイプの最新治療では「遺伝子変異があるか」だけでなく、「現在の治療が効いているか」「画像上の進行があるか」「抗がん剤へ移る段階か」を合わせて判断します。

HER2陽性乳がんで増えた治療

HER2陽性乳がんでは、ペルツズマブ、トラスツズマブ、タキサン系抗がん剤を組み合わせる治療が、手術不能・転移性乳がんの一次治療として広く用いられています。

一次治療後に病気が進行した場合には、HER2を目印として抗がん剤成分を届けるトラスツズマブ デルクステカンが主要な選択肢です。従来の抗HER2抗体とは異なり、HER2の増殖シグナルを抑えるだけでなく、がん細胞内へ細胞傷害性の薬物を届けます。

参考:エンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)適正使用ガイド|独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

HER2陽性乳がんでは、全身の病変が抑えられていても脳転移が問題になることがあります。2026年には、HER2の細胞内シグナルを抑える内服薬ツカチニブが国内で承認され、トラスツズマブ、カペシタビンとの併用が選択肢に加わりました。ツカチニブは脳転移のある患者さんも含む臨床試験で検討されています。

参考:ツカイザ(ツカチニブ)審議結果報告書|独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

ただし、脳転移があれば必ずツカチニブを使用するわけではありません。頭痛、麻痺、けいれんなどを伴う大きな脳転移では、手術や放射線治療を先に行うことがあります。

HER2陽性乳がんでは使用できる薬が増えたため、どの薬が使えるかだけでなく、どの順番で使うかが重要です。間質性肺疾患がある場合にはトラスツズマブ デルクステカンを選びにくく、強い下痢や肝機能障害がある場合にはツカチニブを慎重に判断します。

新しい一次治療の研究も進んでいますが、海外の承認情報や臨床試験の結果と、日本の保険診療で現在使用できる治療は区別して確認する必要があります。

HER2-low/HER2-ultralowという新しい治療対象

HER2-lowとHER2-ultralowは、これまでHER2陰性とまとめられていた乳がんのうち、がん細胞に少量のHER2が発現している状態です。

HER2-lowは、一般にIHC 1+またはIHC 2+かつISH陰性を指します。HER2-ultralowはIHC 0と判定される乳がんのうち、がん細胞の膜にごく弱いHER2発現が確認される状態です。これらはHER2陽性乳がんと同じ病気ではありません。トラスツズマブやペルツズマブなど、従来の抗HER2療法を同じように使用できるわけでもありません。

治療対象が広がった背景には、抗体薬物複合体であるトラスツズマブ デルクステカンの登場があります。この薬は、HER2の発現量が少なくてもHER2を目印として細胞内へ取り込まれ、抗がん剤成分を放出します。

参考:HER2 低発現乳癌に対するトラスツズマブ デルクステカン(商品名 エンハーツ)適応拡⼤についてのステートメント|一般社団法人日本乳癌学会

ホルモン受容体陽性のHER2-low/ultralow乳がんでは、内分泌療法で病気を抑えることが難しくなり、抗がん剤へ移ることが適切と判断された段階で、トラスツズマブ デルクステカンを検討できる場合があります。

過去の病理報告書に「HER2陰性」とだけ記載されている場合には、IHCの具体的な数値を確認します。保存標本を再評価することで、新たな治療対象に該当すると分かることもあります。

一方、HER2-low/ultralowと判定されても、現在の内分泌療法で病気が安定している場合に、すぐ点滴治療へ変更するわけではありません。病気の進行速度、肺の状態、吐き気や脱毛などの負担を考慮して、治療を切り替える時期を判断します。

トリプルネガティブ乳がんで増えた治療

トリプルネガティブ乳がんは、ホルモン受容体とHER2のいずれも標的にできないため、以前は抗がん剤が治療の中心でした。

現在は、PD-L1、BRCA1/2、HER2のわずかな発現、過去の抗がん剤治療を確認することで、免疫チェックポイント阻害薬、PARP阻害薬、抗体薬物複合体を検討できます。

進行・再発後の一次治療では、PD-L1のCPSが10以上の場合に、ペムブロリズマブと抗がん剤の併用が候補になります。免疫療法では、甲状腺、副腎、肺、肝臓、大腸などに免疫関連副作用が生じることがあり、抗がん剤とは異なる経過観察が必要です。

参考:最適使用推進ガイドライン – ペムブロリズマブ(遺伝子組換え)|厚生労働省

生殖細胞系列BRCA1/2病的バリアントが確認され、サブタイプや治療歴などの条件を満たす場合には、オラパリブやタラゾパリブといったPARP阻害薬が検討されます。BRCA1/2検査は薬の選択だけでなく、遺伝性乳がん・卵巣がんの可能性や血縁者にも関係するため、遺伝カウンセリングを伴うことがあります。

参考:リムパーザ(一般名:オラパリブ)審議結果報告書|独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
参考:ターゼナ(一般名:タラゾパリブ)審議結果報告書|独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

複数の抗がん剤を受けた後には、TROP-2を標的とするサシツズマブ ゴビテカンが候補になります。また、トリプルネガティブ乳がんの中でもHER2-lowに該当し、治療歴などの条件を満たせば、トラスツズマブ デルクステカンを検討できる場合があります。

参考:トロデルビ(一般名:サシツズマブ ゴビテカン)審議結果報告書|独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

トリプルネガティブ乳がんでは、病気の進行が速い場合もあるため、検査結果を待てる状態かどうかも治療判断に関わります。検査上は新薬の対象でも、肝機能の急速な悪化や症状の強い脳転移があれば、すぐに効果を期待できる治療や局所治療を優先することがあります。

抗体薬物複合体とは

抗体薬物複合体(ADC)は、がん細胞の表面にあるタンパク質を見つける抗体と、細胞を傷害する薬物を結合させた治療薬です。

乳がんでは、HER2を標的とするトラスツズマブ デルクステカンや、トラスツズマブ エムタンシン、TROP-2を標的とするダトポタマブ デルクステカンや、サシツズマブ ゴビテカンなどが使用されています。

抗体薬物複合体は、抗体、両者をつなぐリンカー、抗がん剤成分であるペイロードからできています。抗体がHER2やTROP-2へ結合すると薬が細胞内へ取り込まれ、ペイロードが放出されてがん細胞を傷害します。

通常の抗がん剤よりも、標的となるタンパク質を持つ細胞へ薬物を届けやすいよう設計されています。ただし、がん細胞だけに作用するわけではなく、脱毛、吐き気、骨髄抑制、下痢、口内炎などが起こることがあります。

抗体薬物複合体の注意点

注意する副作用は薬によって異なります。トラスツズマブ デルクステカンやダトポタマブ デルクステカンでは間質性肺疾患、ダトポタマブ デルクステカンでは口内炎や角膜障害、サシツズマブ ゴビテカンでは好中球減少や下痢が治療継続に影響します。

抗体薬物複合体が複数使える場合でも、最適な順番はすべての患者さんで確立しているわけではありません。標的がHER2かTROP-2かだけでなく、前の治療が効かなくなった理由、副作用がどこまで回復しているか、肺や骨髄の状態を確認します。

なお、国内でのダトポタマブ デルクステカンの適応は、化学療法歴のあるホルモン受容体陽性・HER2陰性の手術不能または再発乳がんです。TROP-2を発現していれば、すべての乳がんに使用できるわけではありません。

抗体薬物複合体は、従来の抗がん剤で十分な効果を得られなかった患者さんへ新しい選択肢をもたらしています。一方で、「新しい」「狙って届ける」という表現から、副作用が少ない治療だと判断することはできません。

自分が国内の適応条件を満たしているか、現在の治療よりどのような利益を期待できるか、特に注意すべき副作用は何かを確認したうえで選ぶ必要があります。

 ctDNAを活用した治療選択

ctDNA(circulating tumor DNA)は、がん細胞から血液中へ放出されたDNAの断片です。血液などの体液からがんに関係する情報を調べる方法は、リキッドバイオプシーと呼ばれます。組織を採取する生検と比べて体への負担が小さく、繰り返し検査しやすいことが特徴です。

乳がんでは、ctDNAからESR1遺伝子変異などを調べ、内分泌療法が効きにくくなる兆候を捉える使い方が始まっています。

これまでの進行・再発乳がんでは、CTなどで病変の増大を確認してから薬を変更することが基本でした。現在は、ホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がんの一部で、画像上の進行が起こる前にctDNAからESR1遺伝子変異を見つけ、内分泌療法を切り替えることが可能になっています。

国内で承認されたカミゼストラントの対象は、アロマターゼ阻害薬とCDK4/6阻害薬による一次治療を6か月以上受け、ctDNA検査でESR1遺伝子変異が確認されたものの、画像や症状では病気の進行が認められていない患者さんです。臨床試験では、一次治療開始から6か月以降、2~3か月ごとにctDNA検査が行われました。

一方、すでに内分泌療法後の進行が確認されているESR1遺伝子変異陽性乳がんでは、イムルネストラントなどを検討します。この場合も、承認された検査によってESR1遺伝子変異を確認する必要があります。

このように、同じESR1遺伝子変異でも、画像上の進行前に見つかったのか、進行後に確認されたのかによって、治療の位置付けが異なります。

ctDNA検査が画像検査や組織検査に代わるわけではない

ctDNA検査には、病気の変化を血液から繰り返し確認できる利点があります。しかし、乳がん患者さん全員を対象として、すべての遺伝子変化を定期的に調べればよいわけではありません。

血液中へ放出されるctDNAの量は、病変の大きさや転移部位などによって異なります。ctDNAが少なければ、実際には遺伝子変異が存在していても検出できない可能性があります。リキッドバイオプシーの感度を高める研究が続いているのも、血液中のctDNA量が検出結果に影響するためです。

ctDNA検査が陰性だったことだけで、対象となる遺伝子変異が絶対にないとは断定できません。治療を選ぶ際には、画像検査、症状、腫瘍組織の検査、過去の治療歴と合わせて判断します。

また、カミゼストラントのようにctDNAを利用した治療変更が承認されたことは、すべての遺伝子変異について画像上の進行前に薬を変更すべきという意味ではありません。現在の国内適応や臨床試験で有効性が確認されている範囲を確認する必要があります。

ctDNA検査を提案された場合には、何の遺伝子を調べるのか、陽性ならどの治療へ変更できるのか、陰性の場合は現在の治療をどうするのかを確認すると、検査の目的が分かりやすくなります。

がん遺伝子パネル検査

がん遺伝子パネル検査は、がん組織や血液を使い、一度に多数の遺伝子を調べる検査です。多くの検査では100種類以上の遺伝子を解析し、治療に結び付く可能性のある遺伝子変化や、参加できる臨床試験がないかを探します。

乳がんで行われるER、HER2、PD-L1、ESR1、BRCA1/2などの個別検査とは、目的が少し異なります。

特定の薬を使用するために一つまたは数種類の遺伝子を調べる検査は、その薬の対象患者を選ぶための検査です。一方、がん遺伝子パネル検査は、多数の遺伝子を幅広く調べ、標準治療以外も含めた次の候補を探します。

したがって、がん遺伝子パネル検査を受ければ、乳がん治療に必要なすべての個別検査を省略できるわけではありません。薬によっては、使用前に承認されたコンパニオン診断薬による検査が別に必要です。

日本で保険診療の対象になる時期

日本では一般に、標準治療がない固形がん、または局所進行・転移があり、標準治療が終了したか終了が見込まれる固形がんで、新たな薬物療法を希望する場合に、保険診療としてがん遺伝子パネル検査が検討されます。全身状態などの条件もあります。

「終了が見込まれる」という条件には、標準治療が完全になくなるまで検査を待たなければならないという意味ではありません。結果を今後の治療へつなげられるよう、標準治療の選択肢が少なくなってきた段階で、検査時期を主治医へ相談することがあります。

検査結果は、がん薬物療法の専門医、病理医、遺伝医学の専門家などで構成されるエキスパートパネルで検討されます。遺伝子変化に対応する国内承認薬、臨床試験、適応外薬などの情報を整理し、実際に治療へ結び付けられるかを判断します。

遺伝子変化が見つかっても治療できるとは限らない

がん遺伝子パネル検査では、治療選択に関係する可能性のある遺伝子変化が見つかっても、その変化に対応する薬が国内で承認されていない場合があります。臨床試験があっても、乳がんのサブタイプ、過去に使用した薬、臓器機能、全身状態、実施施設などの参加条件を満たさなければ参加できません。

国立がん研究センターの公開情報では、検査結果から実際に対応する薬の使用へ結び付く人は、臨床試験を含めて全体の10%程度と説明されています。検査には可能性がある一方、必ず新しい治療が見つかる検査ではありません。

また、治療選択を目的として検査を受けた結果、生まれつきがんを発症しやすい遺伝子変化が疑われることがあります。これを二次的所見と呼びます。本人の将来の健康管理だけでなく、血縁者にも関係する可能性があるため、結果をどこまで知りたいかを事前に確認し、必要に応じて遺伝カウンセリングを受けます。

がん遺伝子パネル検査を受ける際には、検査後に標準治療が残っているか、候補となる試験へ通院できるか、二次的所見を知りたいかまで含めて相談することが大切です。

参考:がん遺伝子パネル検査とは|国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター

国内承認済み・承認申請中・研究段階の違い

乳がんの最新治療を調べていると、「承認」「申請」「治験」「海外承認」など、似た表現が使われています。これらは同じ意味ではありません。

表示されている状態 意味 確認すべきこと
国内承認済み 厚生労働大臣が品質・有効性・安全性を審査して承認した 自分の乳がんのサブタイプや治療歴が効能・効果に該当するか
薬価収載済み 保険診療に用いる医薬品として薬価基準に収載されている 発売時期、実際に治療施設で使用できるか
承認申請中 製薬企業が承認を求め、PMDAなどが審査している まだ通常の保険診療として使用できない
海外承認済み 海外の規制当局では承認されている 日本で同じ適応が承認されているとは限らない
臨床試験・治験中 有効性や安全性を研究している段階 参加条件、予想される利益と不利益、代わりの標準治療

医薬品の製造販売承認は厚生労働大臣が行い、PMDAが申請資料に基づいて品質・有効性・安全性を審査します。承認では、治療によって期待できる利益と副作用などのリスクのバランスが評価されます。

承認された薬が保険診療で広く使用されるには、薬価基準への収載も関係します。厚生労働省は、保険診療で用いられる医療用医薬品を薬価基準収載品目として公開しています。

参考:医療保険が適用される医薬品について|厚生労働省

一つの薬が国内で承認されていても、すべての乳がんに使用できるわけではありません。たとえば同じ薬でも、HER2陽性、HER2-low、治療歴の有無などによって認められている効能・効果が異なります。

「乳がんに承認済み」と書かれているだけでは、自分が保険診療の対象か判断できません。国内の電子添文で、効能・効果、効能・効果に関連する注意、用法・用量を確認する必要があります。

承認申請中の治療は、良好な臨床試験結果が発表されていても、審査の結果が確定していません。海外で承認されていても、日本人を含む試験結果や国内の医療環境などを踏まえ、日本では異なる判断になる可能性があります。

最新治療の記事では「良い結果が出た」という情報だけでなく、国内承認済みなのか、申請中なのか、臨床試験段階なのかを分けて読むことが欠かせません。

参考:PMDA「薬剤承認の仕組みについて」

臨床試験・治験を探す方法

臨床試験は、新しい治療法や診断法などの有効性と安全性を、人を対象として調べる研究です。その中でも、医薬品や医療機器の承認を得ることを目的として行われる試験を治験と呼びます。

臨床試験は、標準治療がすべて終了した患者さんだけを対象とするものではありません。治療を受けたことがない患者さんを対象とする一次治療の試験、標準治療へ新薬を追加する試験、特定の遺伝子変化がある患者さんを対象とする試験などがあります。参加する時期や条件は、試験ごとに異なります。

臨床試験への参加によって、通常診療ではまだ使用できない治療を受けられる可能性があります。一方、期待した効果が得られない可能性や、十分に分かっていない副作用が生じる可能性もあります。試験によっては、標準治療群やプラセボを含む比較群へ割り付けられることがあります。参加前には、どの治療群になる可能性があるのか、現在受けられる標準治療と何が違うのかを確認します。

国内の臨床試験を検索する

国立がん研究センターの「がんの臨床試験を探す」では、がんの種類、薬剤名、都道府県などから、国内で行われている企業治験、医師主導治験、臨床研究などを検索できます。

ただし、検索結果に表示された試験が、現在も患者登録中とは限りません。情報を収集した時点から募集状況が変わっている場合や、実施医療機関が表示されていない場合もあります。国立がん研究センターも、検索結果を印刷するなどして担当医へ相談するよう案内しています。

参考:がんの臨床試験を探す|国立がん研究センター がん情報サービス

厚生労働省の臨床研究等提出・公開システムであるjRCTからも、研究の名称、対象疾患、試験の種類などを検索できます。

検索するときには「乳がん」だけでなく、「HER2陽性」「トリプルネガティブ」「ESR1」「脳転移」など、自分のサブタイプや検査結果を組み合わせると、候補を絞りやすくなります。ただし、検索画面だけでは参加できるか判断できません。適格基準には、過去に使用した薬、治療回数、脳転移の状態、血液検査、心臓・肝臓・腎臓の機能など、細かな条件が定められています。

参加を希望する場合には、試験名や登録番号を主治医へ示し、自分が対象となる可能性があるか、現在の標準治療を中断して参加する意味があるかを確認します。

参考:臨床研究等提出・公開システム|jRCT

費用と通院負担も確認する

治験では、試験薬や試験に特有の検査費用を依頼者が負担する場合がありますが、通常診療に該当する費用や、試験と直接関係しない治療費は患者負担になることがあります。

遠方の施設へ定期的に通院する必要がある場合や、通常診療より検査や受診回数が増える場合もあります。交通費、仕事の休み、家族の付き添い、体調悪化時の連絡先も、参加を決める前に確認しておきます。

臨床試験への参加は本人の自由意思で決めるものであり、同意した後でも撤回できます。参加しないことによって、通常受けられる標準治療が受けられなくなるわけではありません。

最新治療を検討するときの注意点

最新治療を調べるときに最も注意したいのは、「新しい治療」と「現在の自分に適した治療」を同じものとして考えないことです。

臨床試験で良好な結果が示されても、試験へ参加した患者さんと自分の状態が異なれば、同じ効果や安全性を期待できるとは限りません。

確認する項目 判断するときの考え方
対象患者 サブタイプ、遺伝子変化、過去の治療が自分と一致しているか
治療段階 一次治療なのか、複数の薬を使用した後なのか
比較対象 新薬が何と比較され、どの点で上回ったのか
評価された効果 腫瘍縮小率、無増悪生存期間、全生存期間のどれか
副作用 治療中止や入院につながる副作用がどの程度あったか
国内での状態 承認済み、申請中、治験中のどれか

無増悪生存期間が延びた治療でも、全生存期間への影響がまだ分かっていないことがあります。腫瘍が縮小しやすい治療でも、間質性肺疾患、重い下痢、感染症などによって治療を続けられない場合があります。

薬の効果を示す数字だけでなく、どの患者さんを対象とした試験か、比較群には何が使われたか、副作用でどの程度治療を中止したかを見る必要があります。

新薬が見つかった場合

現在の治療によって病気が安定し、副作用も許容できている場合には、新しい薬が承認されたからといって直ちに変更するとは限りません。

治療を早く切り替えると、現在効果のある薬を十分に使わないまま、将来の選択肢を一つ消費する可能性があります。反対に、病気の進行が速く、臓器機能へ影響が出ている場合には、検査結果を長く待たず、早く効果を期待できる治療を優先することがあります。

治療を変更するかどうかは、新薬の名称よりも、現在の病変の状態、治療効果、副作用、次に残る選択肢を基に判断します。

自由診療の「最新治療」は根拠を確認

インターネットでは「標準治療では受けられない最新治療」「副作用がほとんどない個別化治療」などを掲げる自由診療が紹介されることがあります。

自由診療であること自体が、治療効果がないことを意味するわけではありません。しかし、国内で承認された治療や適切に管理された臨床試験とは、効果と安全性を評価する仕組みが異なる場合があります。

国立がん研究センターも、インターネット上には科学的な有効性が証明されていない自由診療の情報が含まれるため、慎重な確認が必要だと説明しています。検討する場合には、乳がん患者を対象とした比較試験があるか、全生存期間や生活の質を改善した根拠があるか、治療費だけでなく副作用への対応費も含まれるかを確認します。

「海外で行われている」「遺伝子に合わせている」「免疫を高める」といった説明だけでは、標準治療より有効である根拠にはなりません。

参考:病院選びを考えるときに|国立がん研究センター がん情報サービス

セカンドオピニオンで治療の位置付けを確認する

新薬、遺伝子検査、臨床試験について判断が難しい場合には、乳がん薬物療法やがんゲノム医療を専門とする医師へセカンドオピニオンを求める方法があります。

セカンドオピニオンでは、別の治療を必ず提案してもらうことが目的ではありません。現在の治療が標準的であること、新薬の適応条件をまだ満たさないこと、臨床試験より現在の治療を続ける方がよいことを確認できる場合もあります。

相談時には、病理報告書、HER2や遺伝子検査の結果、画像検査、これまでに使用した薬、治療を中止した理由を準備します。薬剤名だけでなく、どの薬がどの程度効き、どの副作用が問題になったかが分かると、その後の治療順序を判断しやすくなります。

参考:セカンドオピニオン|国立がん研究センター がん情報サービス

まとめ

乳がんの最新治療は、単に新しい薬が増えたというだけではありません。

HER2-low/HER2-ultralowという新たな治療対象が加わり、ESR1、PIK3CA、AKT1、PTEN、BRCA1/2などの遺伝子変化に応じた薬を選べるようになりました。抗体薬物複合体や脳転移を意識した薬も登場し、進行・再発乳がんで選べる治療は広がっています。

ctDNAを使って画像上の進行前に治療抵抗性を見つける方法や、がん遺伝子パネル検査から臨床試験を探す方法も、実際の診療へ取り入れられています。ただし、新しい薬が自分に使えるかは、サブタイプや遺伝子検査だけでは決まりません。画像上の進行、過去の治療、転移部位、臓器機能、副作用、国内の承認状況を合わせて判断します。

最新治療について情報を得たときには、次の薬の名前だけを尋ねるのではなく、自分の乳がんではどの検査が必要か、現在の治療を続ける利益はあるか、新薬へ変更する適切な時期はいつかを主治医と確認することが大切です。

臨床試験や治験も選択肢の一つですが、効果が保証された特別な治療ではありません。現在受けられる標準治療との違い、予想される副作用、通院や費用の負担を理解したうえで参加を判断します。

乳がん治療の進歩は速く、承認状況や治療の順番は今後も変わる可能性があります。過去に治療対象外だった場合でも、新しい適応や検査によって選択肢が増えることがあるため、病理検査や治療歴を整理し、必要に応じて専門医へ相談することが次の治療判断につながります。

HER2陽性乳がんは、乳がん全体の約15〜20%を占めるサブタイプで、がん細胞の表面に「HER2」というタンパク質が過剰につくられているタイプの乳がんです。増殖スピードが速く転移のリスクも高い傾向がありますが、HER2を狙い撃ちにする分子標的薬(抗HER2薬)がよく効くという大きな特徴があります。初期には自覚症状がほとんどなく、乳房のしこり、乳頭の陥没や分泌物、皮膚の変化などをきっかけに見つかることがあります。

本ページでは、HER2陽性乳がんの特徴や原因、症状、診断(マンモグラフィ・生検・HER2検査)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • 乳がん全体の約15〜20%を占め、HER2というタンパク質が過剰につくられているタイプ
  • 増殖が速い一方、HER2を狙い撃ちにする分子標的薬(抗HER2薬)がよく効く
  • 抗HER2薬の登場で治療成績は大きく向上し、早期では5年生存率90%以上

HER2陽性乳がんとは

乳がんは、がん細胞の性質によっていくつかの「サブタイプ(種類)」に分類されます。その中のひとつが「HER2(ハーツー)陽性乳がん」です。

HER2とは、細胞の表面に存在する「ヒト上皮成長因子受容体2型」というタンパク質であり、細胞の成長や修復を助ける働きをしています。

しかし、何らかの理由でHER2をつくる遺伝子が増幅すると、細胞表面にHER2タンパクが大量につくられる「HER2過剰発現」が起こります。この状態になったがん細胞は、増殖のアクセルが踏みっぱなしの状態になり、通常よりも速いスピードで分裂・増殖を繰り返すようになります。

HER2陽性乳がんは、乳がん全体の約15〜20%を占めるサブタイプです。他のサブタイプと比べて増殖スピードが速く、転移のリスクも高い傾向があるとされています。

ただし、HER2陽性乳がんには大きな特徴があります。それは、「HER2タンパクを狙い撃ちにする薬(抗HER2薬)が非常によく効く」という点です。

また、HER2陽性乳がんはさらに「ホルモン受容体(エストロゲンやプロゲステロンというホルモンの受け口)」が陽性かどうかによっても性質が異なります。このようにサブタイプの特徴を正しく把握することが、それぞれの患者様に合った治療を選ぶうえでとても重要です。

HER2陽性乳がんの原因

HER2陽性乳がんの正確な原因は、医学的にもまだ完全には解明されていません。ただ、そのメカニズムについては、少しずつ明らかになってきています。

私たちの細胞には、もともと「HER2」という名前のタンパク質が少量存在しています。このHER2は、細胞が正常に増殖するときのアクセルのような役割を担っています。

ところが何らかの理由でHER2遺伝子が増えすぎると、HER2タンパクが細胞の表面に大量に作られ、アクセルが踏みっぱなしの状態になります。その結果、増殖のブレーキが利かなくなり、がん細胞が生まれると考えられています。

この遺伝子の変化は、生まれつきの体質(遺伝)によるものではなく、多くの場合は生きている間に細胞の中で自然に起こる「後天的な変化」です。特定の生活習慣や行動が直接の原因になるとは言い切れません。

HER2陽性乳がんの診断

「(無)症状」から「確定診断」まで

HER2陽性乳がんは、初期段階では自覚症状がほとんどありません。進行すると、乳房のしこり、乳頭の陥没や分泌物、皮膚がオレンジの皮のようにボコボコする変化などが現れます。良性のしこりも多いため、症状がなくても乳がん検診を受け、気になる変化を感じたらすぐに医療機関を受診することが重要です。

受診すると、医師による「視触診」のほか、X線撮影を行う「マンモグラフィ」や「超音波(エコー)検査」を実施します。これらの画像検査で異常が疑われた場合は、注射針などを用いて細胞や組織を採取する「生検」を行い、がんの有無を確定診断します。

「HER2陽性」と判定されるまでの病理検査の流れ

乳がん診断後、採取した組織を顕微鏡で調べる病理検査によって、HER2陽性かどうかを判定します。

最初に行われる「免疫染色(IHC法)」では、タンパクの染まり具合をスコア0〜3+の4段階で評価します。3+は陽性、0と1+は陰性、2+は「判定保留(グレーゾーン)」です。

判定保留(2+)の場合は、次のステップとして「FISH法」を実施します。これは蛍光色素を用いてHER2遺伝子の数を直接数える検査で、遺伝子の増幅が確認されれば「陽性」と確定し、保険治療による抗HER2薬の治療対象となります。

ステージ(病期)の確定

がんの広がりを客観的に示す「ステージ(病期)」の判定も、診断の重要なステップです。乳がんのステージは、腫瘍の大きさ(T)、リンパ節への転移の有無(N)、他の臓器への遠隔転移の有無(M)の3要素を組み合わせて0期〜Ⅳ期に分類され、これにより具体的な治療方針が検討されます。

このように、HER2陽性乳がんの診断は「画像検査から生検、HER2スコア判定、そしてステージ確定」という一連のプロセスを経て行われます。

HER2陽性乳がんの一般的な治療法

HER2陽性乳がんの治療は、「手術」「放射線療法」「薬物療法」の3つを組み合わせるのが基本です。どの治療をどの順序で行うかは、がんのステージ、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、患者様の希望などをもとに医師と相談して決定します。

現在は、手術の前に抗がん剤と抗HER2薬を組み合わせる「術前化学療法」から始めるアプローチが標準的です。事前に腫瘍を縮小させることで、切除範囲を小さくし、乳房を温存できる可能性を高める目的があります。

手術と放射線療法

手術には、がんとその周辺のみを取り除く「乳房温存手術」と、乳房全体を取り除く「乳房全切除術」があります。温存手術を選択した場合は、残った乳房での再発を防ぐために、術後の放射線療法をセットで行うのが標準です。放射線療法は、手術部位や周辺のリンパ節に残ったがん細胞を根絶し、局所再発のリスクを下げる役割を担います。

薬物療法の主役「抗HER2薬」

治療の中心となるのが、がんの弱点を狙い撃ちにする分子標的薬「抗HER2薬」です。手術前後の薬物療法では、がん細胞の増殖を抑える「トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)」を使用することが多いです。

リンパ節転移など再発リスクが高い場合は、異なる仕組みでがんをブロックする「ペルツズマブ」を追加し、複数の角度からがん細胞を攻撃します。また、術前療法の後に手術でがん細胞が残っていた場合は、強力なミサイル型の抗体薬物複合体「トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)」を用いて再発リスクを低下させます。

治療成績と生存率

かつては予後不良とされていたHER2陽性乳がんですが、抗HER2薬の登場により治療成績は劇的に向上しました。現在、早期HER2陽性乳がんの5年生存率は90%以上とされています。ただし効果や副作用には個人差があるため、担当医と綿密に相談しながら治療を進めることが重要です。

HER2陽性乳がんにおける保険診療の限界

HER2陽性乳がんの保険診療では、手術・化学療法・放射線療法などを組み合わせて治療を進めます。抗HER2薬の登場によって治療成績は大きく改善しましたが、それでも再発や脳転移のリスクは残るため、標準治療だけでは長期的に病状を安定させるのが難しいケースもあります。

実施できる化学療法の限界

抗HER2薬は高い効果が期待できる一方で、保険診療には2つの限界があります。1つ目は、がん細胞が薬への抵抗性を獲得し、別の経路で再び増殖する「薬剤耐性」です。耐性が生じるメカニズムは未解明な部分も多く、時間が経つと効果が低下するケースがあります。2つ目は「脳転移」です。脳には異物を遮断する「血液脳関門」というバリアがあり抗HER2薬が届きにくいため、進行性患者様の25〜50%の方に脳転移が生じることが大きな課題となっています。

化学療法に伴う「きつい」副作用

薬物療法では、心身に重い負担を強いる副作用とも向き合わなければなりません。抗がん剤による吐き気、強い倦怠感、脱毛、感染症リスクなどに加え、抗HER2薬特有の心機能低下や下痢なども起こりえます。長期間の治療や強力な薬の組み合わせにより、激しい身体的・精神的苦痛から治療の継続が難しくなったり、生活の質(QOL)が著しく低下したりするリスクがあります。

保険診療ではカバーしきれない再発・進行のリスク

保険診療では確立された標準治療が提供されますが、再発リスクをゼロにはできません。手術後にトラスツズマブを含めた術後補助化学療法を行っても再発のリスクが約15〜30%程度残ります。さらに、標準治療後に増悪・再発した際、保険診療内で選べる有効な手立ては限られてしまうのが実情です。

HER2陽性乳がんで重要な新しい治療の考え方

これまで記載した通り、HER2陽性乳がんは抗がん剤治療や手術などの標準治療を実施しても、脳転移や再発のリスクが問題となるがんです。

このようなリスクを低くしつつ、がんに対する治療効果をより高める治療法が最近注目されてきています。

分子レベルの異常にアプローチする「核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)」

近年、がんの発生や進行に関わる分子レベルの異常に直接アプローチする「核酸医薬」が世界的に注目を集め、研究・臨床応用が進んでいます。

当グループでは、がんの根本的な原因に直接作用することが期待される治療選択肢として、「アプタマー」「siRNAなどのRNA干渉技術」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を取り入れた治療を提供しております。

アプタマー核酸医薬」は、がん細胞に特有の異常なタンパク質にピンポイントで結合し、その働きをブロックすることで、がんの増殖抑制や死滅を狙う治療薬です。一方で「miR-34a mimic核酸医薬」は、がん化によって失われてしまった「体が本来持っているがんを抑制する力」を補い、がんの成長を止め、自然な細胞死(アポトーシス)を促す画期的な治療薬です。

がん中央クリニックグループでは、このように分子レベルの異常にアプローチする治療を用い、患者様一人ひとりに合わせた新たな治療の可能性を追求しています。

がん細胞を狙い撃ちする「がん光免疫療法」

がん光免疫療法は、光に反応する薬(光感受性物質)を体に入れ、そこにレーザー光を当ててがん細胞を破壊する治療法です。医学的には光線力学的療法(PDT)の一種で、日本でも1990年代から一部のがんに保険適用されてきました。

乳がんは体表近くにできる腫瘍であるため、光線が届きやすく治療効果が見込めるがんの1つです。

仕組みは大きく二つあります。一つは「狙い撃ち」です。光感受性物質はがん細胞に集まる性質があり、そこへ特定の波長のレーザーを当てると、薬が反応して活性酸素を発生させ、がん細胞を内側から傷つけます。

使うレーザーは手をかざしても熱くない弱い光で、重要なのは熱ではなく薬を反応させる「波長」です。薬が集まっていない正常細胞は、光が当たっても反応しません。

もう一つは「全身への波及」です。壊れたがん細胞から放出される目印(抗原)を免疫細胞が取り込むことで、残ったがんや全身に散った転移巣への攻撃力が高まると期待されます。つまり局所治療と全身治療の両面を狙える点が特徴です。

また手術・抗がん剤・放射線といった標準治療と併用でき、体への負担が比較的少なく週1回の通院で受けられるため、取り残した微小転移や薬剤耐性がんへの相乗効果を狙う選択肢として位置づけられています。

HER2を標的にする「分子標的ワクチン療法」

分子標的ワクチン療法は、がんの増殖・浸潤・転移に関わるタンパク質「HER2」を標的にした自由診療の治療です。

保険診療では、HER2の発現が比較的少ない場合には抗HER2薬が使えないことが多いです。しかし、一部のがん細胞には発現しているため、HER2をブロックすることで少しでもがん細胞の増殖を抑えられる可能性があります。ただし、標準治療ですでに抗HER2薬を使用している場合には効果が見込みづらいことに注意が必要です。

この治療では、HER2の一部をワクチンとして筋肉注射します。狙いは、患者様ご自身の体内でHER2に対する抗体を作らせることです。抗体ができると、HER2が他の受容体と結合できなくなり、増殖・浸潤・転移を促す信号が止まると想定されています。さらに、抗体がくっついたがん細胞を免疫細胞が攻撃する効果も期待されています。

HER2の発現が少ないと説明された方は、こちらもご覧ください。

当グループの自由診療・治療をおすすめする患者様

当グループで実施可能な治療法はほとんどの患者様にお選びいただけます。以下では、どのような患者様に効果が期待できるのかを解説します。ご自身の状況に照らし合わせてご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

HER2陽性乳がんでは、病状や体力、副作用などの理由で、保険診療の標準治療だけでは選択肢が限られることがあります。そうした場合でも、がんに関わる分子レベルの異常に着目する核酸医薬、がん光免疫療法、分子標的ワクチン療法は、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供することが可能です。

これらの治療法は目立った副作用が現れにくく、「体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方でも、治療の提案が可能です。

さらに、まだ治療ができる体力があるにもかかわらず選択肢がなくなり、緩和を勧められている方にとっても、新たな治療の選択肢として検討いただけます。

がん中央クリニックグループでは、核酸医薬、がん光免疫療法、分子標的ワクチン療法を含め、様々な治療を組み合わせながら患者様の状態や疾患に応じて、患者様一人ひとりに合わせたテーラーメイドの治療を提案、提供しています。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

核酸医薬、がん光免疫療法、分子標的ワクチン療法は、化学療法などの薬物療法や放射線療法と併用でき、相乗効果が期待できます。

なぜなら、化学療法はすでに増殖したがん細胞や産生されたたんぱく質に作用するのに対し、核酸医薬はがん細胞やたんぱく質が作られる前の段階に作用するからです。

そして、がん光免疫療法は薬物でがん細胞に目印をつけて破壊する方法だからです。

このように当グループが提供する治療法は、標準治療が攻撃するポイントが異なるため、標準治療と組み合わせることでより高い効果が期待できます。

このように、HER2陽性乳がんの完治を目指すには複数の治療法を組み合わせることが重要です。標準治療(手術前後の抗がん剤治療を含む)を受けている患者様にも、核酸医薬、がん光免疫療法、分子標的ワクチン療法の併用は選択肢となります。

再発を抑制・防止するため―手術前後の患者様

HER2陽性乳がんは、手術を行っても再発しやすい疾患です。手術に加えて術後補助化学療法を行っても約15〜30%程度の患者様が再発するとされています。また、抗がん剤には副作用があるため、体力に不安のある高齢の患者様や副作用が心配な患者様には実施が難しいこともあります。

こうした背景から、手術前後の患者様が核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、がん光免疫療法、分子標的ワクチン療法を併用することは、再発リスクを下げる一つの選択肢として検討いただけます。

治療を継続しやすい副作用

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、がん光免疫療法、分子標的ワクチン療法には目立った副作用が起こりにくいです。特に、化学療法で起きやすい嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。核酸医薬の副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などがあります。

その他、がん光免疫療法には、照射部位の赤み、熱感、日光による影響など、分子標的ワクチン療法には、注射部位反応(赤み、腫れ、痛みなど)、疲労感、発熱が見られることがあります。

解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半であり、治療を継続するのに支障をきたしません。

「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」といった方でも受けていただける治療となっております。

HER2陽性乳がんの完治を目指して、保険診療と患者様に合った自由診療を組み合わせる

HER2陽性乳がんは、適切に治療を行えば完治を目指せる疾患です。

発症要因の一つに遺伝子異常があるため、保険診療と核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、がん光免疫療法分子標的ワクチン療法などを組み合わせる集学的治療が有効な選択肢となります。保険診療だけではカバーしきれない場合にも、これらの治療によって腫瘍縮小効果や再発抑制効果が期待できます。

がん中央クリニックグループでは、このような「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがん治療をご提案いたします。HER2陽性乳がんの患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。

「ステージ4の大腸がんです。」

診察室でそう告げられた瞬間、多くの患者さんやご家族は「もう治療法はないのではないか」「余命はどれくらいなのだろう」と強い不安を感じます。

大腸がんのステージ4とは、大腸から離れた臓器やリンパ節へがんが転移した状態を意味します。そのため「末期がん」と説明されることもあり、治療を諦めなければならない病気という印象を持たれがちです。しかし、現在の大腸がん治療は以前とは大きく変わっています。

抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬の進歩に加え、転移した病変を切除する外科治療も発達し、ステージ4であっても根治を目指せる患者さんが存在する数少ないがんの一つになっています。

肝臓や肺への転移が限られている場合には、薬物療法で腫瘍を縮小させた後に切除を行い、長期間再発なく生活している患者さんもいます。診断時には手術が難しいと判断されても、治療への反応によって状況が変わることもあり「ステージ4だから手術はできない」と最初から決まっているわけではないのです。

一方で、すべての患者さんが同じ治療を受けるわけでもありません。近年では、転移の部位や数だけでなく、RAS遺伝子やBRAF遺伝子の変異、MSI(マイクロサテライト不安定性)の有無、HER2の発現なども調べたうえで、一人ひとりに適した治療法を選択します。「大腸がんステージ4」という診断名は同じでも、実際の治療内容や期待できる治療効果は患者さんによって大きく異なります。

生存率や余命についても、インターネット上にはさまざまな数字が掲載されていますが、それだけで将来を決めつけることはできません。新しい薬剤が次々と登場し、10年前の統計では現在の治療成績を十分に反映できなくなっているためです。

この記事では、大腸がんステージ4とはどのような状態なのかをはじめ、治療の流れ、生存率や余命、完治の可能性、最新治療、標準治療以外の選択肢まで、現在の医学的根拠に基づいて詳しく解説します。

診断されたばかりの方はもちろん、治療中で今後の選択肢について知りたい方、ご家族として情報を整理したい方にも、治療を考えるための判断材料となる記事を目指しています。

  • 大腸がんステージ4でも肝転移や肺転移を含めて切除できる一部の患者では根治を目指せる
  • 切除できない場合は遺伝子・免疫の特徴に応じた薬物療法が中心
  • ステージ4の5年生存率(ネット・サバイバル)は18.3%だが、経過には大きな幅がある

大腸がんステージ4とは

大腸がんのステージは、がんがどこまで広がっているかを表す指標です。

早期のステージⅠではがんは腸の壁の浅い部分にとどまっていますが、病気が進行すると腸の外側へ広がり、周囲のリンパ節へ転移するようになります。そして「大腸から離れた臓器や遠隔リンパ節へ転移した状態がステージ4」です。

医学的にはTNM分類によって決定され、「M(遠隔転移)」が認められた場合はステージ4に分類されます。

ここで重要なのは「ステージ4=全身へ無数に転移している状態」とは限らないということです。例えば、肝臓に小さな転移が一つだけ見つかった患者さんも、肝臓・肺・腹膜へ複数の転移が広がっている患者さんも、同じステージ4に分類されます。しかし、実際の治療方針や予後は大きく異なります。

近年の大腸がん診療では「ステージ4」という分類だけではなく、転移した臓器、転移の個数、腫瘍の大きさ、手術で切除できるか、遺伝子変異の有無、全身状態(Performance Status)などを総合的に評価し、一人ひとりに適した治療方針を決定します。

大腸がんの主な転移先

大腸がんで最も多い転移先は「肝臓」です。大腸から流れ出る血液は門脈を通って肝臓へ集まるため、がん細胞も肝臓へ運ばれやすくなります。実際、大腸がんステージ4患者さんの多くで肝転移が認められます。

次に多いのが「肺転移」です。直腸がんでは骨盤内の静脈を経由して肺へ転移することが多く、結腸がんとはやや異なる転移パターンを示します。そのほかにも、腹膜播種、遠隔リンパ節転移、骨転移、脳転移などがみられることがあります。

転移先によって異なる症状

転移した場所によって症状も異なります。肝転移では初期にはほとんど症状がありませんが、病気が進行すると倦怠感や黄疸が現れることがあります。肺転移では咳や息切れがみられることもありますが、健康診断やCT検査で偶然見つかるケースも少なくありません。腹膜播種では腹水がたまり、お腹の張りや食欲低下、腸閉塞などが問題になることがあります。

このように、大腸がんステージ4といっても転移した部位によって症状や治療方法は大きく変わります。

大腸がんはステージ4でも根治を目指せる

他の多くのがんでは、遠隔転移が見つかった時点で手術が難しくなることが少なくありません。

しかし、大腸がんでは肝転移や肺転移が限られた範囲にとどまっている場合には、転移巣も含めて切除できる可能性があります。さらに近年では、最初は切除できないと判断された患者さんでも、薬物療法への反応などを踏まえ、選択された患者では『コンバージョン手術』が検討されます。

もちろん、すべての患者さんが対象になるわけではありません。それでも「ステージ4=延命治療だけ」という考え方ではなく、「根治を目指せる可能性があるかどうか」を最初に評価することが、近年の大腸がん診療では非常に重要になっています。

大腸がんステージ4でも治療を行う理由

大腸がんステージ4の治療では「がんを完全になくすこと」だけが目標になるわけではありません。病気の進行を抑えながら生活の質を維持すること、つらい症状を改善すること、そして患者さんによっては根治を目指すことまで、病状に応じて複数の目標を持ちながら治療を進めていきます。

他のがんでは、遠隔転移が見つかった時点で手術による根治が難しくなることも少なくありません。一方、大腸がんでは肝臓や肺への転移が限られている場合、転移巣も含めて切除することで長期生存や根治を期待できる患者さんがいます。診断直後から「治療の目的は延命だけ」と決めつけることはできません。

現在の診療では、まず薬物療法で病気をコントロールし、その治療効果を慎重に評価しながら、手術を含めた次の治療へつなげられるかを検討していく流れが一般的になっています。

根治を目指せる可能性の見極め

大腸がんステージ4と診断された患者さんの中には、診断時には切除が難しいと判断されるケースも少なくありません。しかし、その判断が治療開始後も変わらないとも限りません。

近年は抗がん剤や分子標的薬の進歩によって、切除不能と考えられていた肝転移や肺転移が大きく縮小し、手術が可能になる例が増えています。このような治療戦略は「コンバージョン治療(Conversion Therapy)」と呼ばれ、大腸がんでは特に重要な考え方の一つです。

もちろん、すべての患者さんが対象になるわけではありません。転移の数や部位、全身状態などを総合的に判断する必要がありますが、「現在は手術できない」という診断が、そのまま将来まで変わらないとは限らないことは知っておくべきでしょう。

だからこそ、大腸がんステージ4では治療開始時だけではなく、薬物療法の途中でも画像検査を繰り返し行い、切除の可能性が生まれていないかを定期的に評価することが重要になります。

生活の質を保つことも治療の大切な目的

すべての患者さんが根治を目指せるわけではありません。転移が広範囲に及んでいる場合や、切除が難しい部位へ病変が広がっている場合には、病気と付き合いながら長く生活していくことが現実的な目標になります。

大腸がんでは、腸が狭くなることで便が通りにくくなったり、腸閉塞を起こしたりすることがあります。また、出血による貧血や腹膜播種による腹水などが日常生活へ影響することもあります。こうした症状を改善し、食事や睡眠、外出など、これまでの生活をできるだけ維持できるよう支援することも、ステージ4治療の重要な役割です。

場合によっては、人工肛門(ストーマ)の造設や腸閉塞を防ぐための手術、内視鏡によるステント留置などを行い、まず生活しやすい状態を整えてから薬物療法を開始することもあります。このような治療は「根治を諦めたから行う治療」ではありません。患者さんがその後の治療を安全に続けるためにも、大切な意味を持っています。

治療の目標は経過とともに変わることがある

大腸がんステージ4の治療では、診断された時点で最終的な治療方針が決まるわけではありません。薬物療法が予想以上によく効けば、当初は難しいと考えられていた手術が可能になることがあります。逆に、副作用や病気の進行によって治療内容を見直した方がよい場面もあります。

近年の診療現場では「最初に決めた治療を最後まで続ける」という考え方ではなく、その時々の病状や治療効果を評価しながら、最も適した選択肢へ切り替えていくことが基本になります。この柔軟な治療戦略こそが、大腸がんステージ4診療の特徴です。

治療開始時には延命を主な目的としていた患者さんが、その後コンバージョン手術を目指せるようになることもありますし、根治を目指していた患者さんが、生活の質を優先した治療へ切り替えることもあります。大切なのは「ステージ4だからこうする」と一律に考えるのではなく、現在の病状と治療への反応を踏まえながら、その時点で最善と考えられる選択を積み重ねていくことです。

治療方針を決める検査 ― 「切除できるか」と「どの薬が合うか」を同時に見極める

大腸がんステージ4の検査には、診断を確定するだけでなく、その後の治療方針を組み立てる役割があります。最初に確認するのは、原発巣と転移巣をすべて切除できる可能性があるかどうかです。同時に、がん細胞の遺伝子や免疫に関わる特徴を調べ、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬のうち、どの治療が適しているかを判断します。

日常生活をどの程度送れているか、肝臓や腎臓が薬物療法に耐えられる状態か、食事や栄養を維持できているかも含めて評価するため、同じステージ4でも検査後に提示される治療は一人ひとり異なります。

画像検査は転移の有無だけでなく「切除できる配置か」を確認

CT検査

胸部・腹部・骨盤部の造影CTは、肝臓や肺、腹膜、遠隔リンパ節などへの転移を確認する基本的な検査です。肝転移が見つかった場合には、個数や大きさだけでなく、肝臓の左右どちらに分布しているか、重要な血管へどの程度近いか、切除後に十分な肝臓を残せるかまで確認します。

MRI検査

CTだけでは小さな病変の評価が難しい場合や、肝切除を具体的に検討する段階では、造影MRIを追加して転移の範囲をより詳しく調べることがあります。

直腸がんでは骨盤MRIの役割も大きく、原発巣が骨盤内の周囲組織へどこまで広がっているか、肛門を残せる可能性があるか、放射線治療を組み合わせる必要があるかを評価します。

PET-CT

PET-CTはすべての患者さんに必須の検査ではありませんが、通常の画像検査だけでは判断しにくい病変がある場合や、肝転移・肺転移を切除する前にほかの遠隔転移がないことを確認したい場合に検討されます。検査の目的は転移を数えることではなく、局所治療によってすべての病変を制御できる余地があるかを見極めることにあります。

大腸内視鏡検査

大腸内視鏡検査では原発巣の位置や大きさを確認し、採取した組織によって大腸がんであることを病理学的に確定します。腸管が狭くなって内視鏡を奥まで通せない場合には、画像検査も組み合わせながら別の病変がないかを確認します。

便がほとんど通らない、出血が続いている、腸閉塞が近いと判断される場合は、薬物療法の内容を決める前に、ステント留置や人工肛門造設、原発巣切除などの対応が必要になることもあります。

RAS・BRAF・MSI/MMRの結果が薬剤選択を変える

切除不能な大腸がんでは、病理組織を用いてRAS遺伝子、BRAF遺伝子、MSIまたはMMRの状態を調べます。

RAS遺伝子

RAS遺伝子に変異があるがんでは、セツキシマブやパニツムマブといった抗EGFR抗体薬の効果が期待しにくいため、別の分子標的薬を組み合わせた治療を検討します。RAS野生型であれば抗EGFR抗体薬の候補になりますが、原発巣が右側結腸にあるか、左側結腸から直腸にあるかによっても期待される効果が異なり、腫瘍の発生部位まで含めて一次治療を選びます。

BRAF V600E変異

BRAF V600E変異は、病気が進行しやすい性質を示す予後因子であると同時に、BRAFを標的とした治療へつながる情報でもあります。2025年以降は、BRAF V600E変異陽性の切除不能進行・再発大腸がんに対し、エンコラフェニブとセツキシマブを含む治療を一次治療から用いる選択肢も加わり、診断時にBRAFの状態を把握する意味がさらに大きくなっています。

MSI-H/dMMR

MSI-HまたはdMMRと判定された大腸がんでは、DNAの複製ミスを修復する機能が低下しており、免疫チェックポイント阻害薬が高い効果を示すことがあります。このタイプでは、従来の抗がん剤よりも免疫療法を先に検討する場合があるため、治療開始前の検査結果が初回治療そのものを変えます。

MSI-H/dMMRはリンチ症候群を疑う手がかりにもなり、発症年齢や家族歴などによっては、遺伝カウンセリングや追加の遺伝学的検査が提案されます。

HER2やKRAS G12Cなど、二次治療以降につながる検査もある

標準的な検査で治療方針が固まった後も、病状や治療歴に応じて追加のバイオマーカー検査を行うことがあります。

HER2の遺伝子増幅やタンパク質の過剰発現が確認された大腸がんでは、HER2を標的とする薬剤が治療候補になります。KRAS G12C変異陽性例では、KRAS G12C阻害薬と抗EGFR抗体薬を組み合わせる治療が選択肢となり、極めてまれではあるもののNTRK融合遺伝子などが見つかれば、がんが発生した臓器を問わず使える分子標的薬へつながる可能性があります。

がん遺伝子パネル検査

遺伝子変異を一つずつ調べるのではなく、複数の遺伝子をまとめて解析するがん遺伝子パネル検査が検討されることもあります。検査を受ければ必ず新しい薬が見つかるわけではありませんが、標準治療の選択肢が少なくなってきた段階で、治験や適応可能な薬剤を探す手がかりになります。

組織の量が不足している場合や再生検が難しい場合には、血液中の腫瘍由来DNAを調べるリキッドバイオプシーが利用できることもありますが、血液検査で異常が検出されなかったからといって、腫瘍に遺伝子変異がないとは断定できません。

治療を安全に続けられるかも検査で確認

薬物療法を選ぶ際には、腫瘍の情報だけでなく、患者さんの体が治療に耐えられる状態かを確認します。

血液検査/腫瘍マーカー検査

血液検査では白血球や血小板、貧血の程度に加え、肝機能や腎機能、電解質、栄養状態を評価します。CEAやCA19-9などの腫瘍マーカーは、それだけで治療効果を判定できるものではありませんが、治療前の値を基準として、その後の変化を画像検査とともに追う際に役立ちます。

イリノテカンを含む治療が候補になる場合には、UGT1A1遺伝子多型を調べることがあります。特定の型を持つ患者さんでは、重い白血球減少や下痢が起こりやすいため、開始時の投与量や治療中の観察方法を調整する判断材料になります。

パフォーマンスステータス(PS)評価

日常生活をどの程度自立して送れているかを示すPerformance Status、体重減少や筋肉量、心臓や肺の持病なども治療強度を決めるうえで欠かせません。医学的には使用できる薬であっても、現在の体力や臓器機能によっては、薬剤や投与量を変えた方が安全に長く治療を続けられることがあります。

治療中も定期的に検査を行う

検査結果は一度確認して終わりではありません。診断時には切除不能だった肝転移や肺転移が薬物療法で縮小し、手術や局所治療の対象へ変わることがあるため、治療中も定期的に画像を撮影して切除可能性を見直します。原発巣と転移巣の位置関係、遺伝子検査の結果、薬物療法への反応を、消化器内科、外科、放射線科、病理診断科などが共有して検討することで、手術へ切り替える時期を逃しにくくなります。

大腸がんステージ4の検査は、単に病状の悪さを確認するために行うものではありません。根治を目指せる余地があるのか、最初にどの薬を選ぶべきか、治療をどの程度の強さで始められるかを明らかにし、その後の選択肢をできるだけ多く残すために行われます。

参考:大腸癌治療ガイドライン|JSCCR 大腸癌研究会

大腸がんステージ4の治療全体像

大腸がんステージ4の治療方針を決める際、最初の分岐になるのは、原発巣と遠隔転移巣をすべて切除できるかどうかです。

肝臓や肺に転移があっても、病変の数や位置が限られ、手術後に十分な臓器機能を残せると判断されれば、転移巣を含めた切除によって根治を目指せる可能性があります。遠隔転移が見つかった時点で一律に薬物療法へ進むのではなく、まず外科的に病変を取り切れる余地がないかを検討する点は、大腸がんステージ4の大きな特徴です。

切除可能な場合は手術が検討される

切除可能と判断された場合には、大腸の原発巣と肝転移や肺転移の手術が検討されます。すべてを一度に切除する方法もあれば、患者さんの体力や手術範囲を考慮し、複数回に分けて行う方法もあります。肝臓に多数の病変がある場合でも、切除する順番を工夫したり、残す予定の肝臓をあらかじめ大きくしたりすることで手術を目指せることがあります。

手術の可否は単に転移の個数だけで決まるものではなく、血管との位置関係、切除後に残る臓器の量、原発巣の状態、ほかの臓器への転移の有無まで含めて判断されます。

切除できなくても薬物療法によって手術を目指せる場合がある

診断時には切除不能であっても、薬物療法によって腫瘍を十分に縮小させれば、手術へ移行できる可能性があります。これがコンバージョン治療です。肝転移が重要な血管へ近接している、多数の病変が肝臓の両側に広がっているといった理由で手術が難しい場合でも、抗がん剤と分子標的薬によって病変が縮小すれば、切除可能という判断へ変わることがあります。

コンバージョン治療では、腫瘍を小さくすること自体が最終目的ではありません。薬物療法が効いている間に、すべての病変を取り切れる時期が来ていないかを定期的に確認する必要があります。治療を長く続け過ぎると、薬剤による肝障害や全身状態の低下によって、かえって手術が難しくなることもあります。画像上の変化を腫瘍内科だけで判断するのではなく、大腸外科や肝胆膵外科、呼吸器外科などの専門医が早い段階から評価へ加わることが、手術へ切り替える機会を逃さないために重要です。

切除不能例ではバイオマーカーに応じた薬物療法が中心

遠隔転移が広範囲に及び、すべてを切除することが難しい場合には、薬物療法によって病気の進行を抑えることが治療の中心になります。FOLFOXやCAPOX、FOLFIRIなどの抗がん剤治療を土台として、RASやBRAF、MSI/MMRの検査結果、原発巣が右側結腸にあるか左側結腸から直腸にあるか、患者さんの体力や臓器機能を踏まえて、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせます。

薬物療法は一つの治療を最後まで続けるものではありません。一定期間ごとにCTやMRIで効果を確認し、病気が抑えられていれば継続し、進行が確認された場合には作用の異なる薬剤へ切り替えます。

副作用が強いときには投与量を調整したり、原因となる薬だけを一時的に休薬したりしながら、治療効果と生活への負担のバランスを取ります。一次治療の時点から二次治療以降を見据え、将来使える薬剤を残しながら順番を考えることも、長期的な病勢コントロールにつながります。

参考:大腸がん(結腸がん・直腸がん)治療|国立がん研究センター がん情報サービス

原発巣による症状が強い場合は、腸の状態を整える治療を優先

遠隔転移が切除できない状態でも、大腸の原発巣が腸閉塞や出血、穿孔を起こしている場合には、原発巣への対応が必要です。便やガスが通らないほど腸管が狭くなっていれば、内視鏡で金属製ステントを留置して通過を確保したり、人工肛門を造設して便の流れを変えたりします。出血が続いて重い貧血を起こしている場合や、腸に穴が開く危険が高い場合には、原発巣の切除を検討することもあります。

これらの処置は、遠隔転移を治すために行うものではありませんが、食事や排便ができる状態を取り戻し、その後の薬物療法を安全に始めるために欠かせないことがあります。一方、原発巣による症状がなく、遠隔転移を切除できない場合には、予防的に大腸を切除するより、全身治療を優先することが一般的です。大きな手術によって薬物療法の開始が遅れたり、術後合併症で体力が落ちたりする可能性もあるため、原発巣切除によって得られる利益を慎重に見極めます。

直腸がんでは放射線治療を組み合わせる場面もある

結腸がんと直腸がんでは、局所治療の考え方が一部異なります。直腸は骨盤の深い位置にあり、膀胱や生殖器、肛門に近いため、腫瘍が周囲へ広がると痛みや出血、排便障害を起こしやすくなります。こうした症状を抑える目的や、骨盤内の病変を小さくして切除可能性を高める目的で、放射線治療や化学放射線療法を組み合わせることがあります。

肝転移や肺転移に対しても、手術だけが局所治療ではありません。病変の大きさや位置、患者さんの体力によっては、ラジオ波焼灼療法や定位放射線治療などが検討されます。どの方法が適しているかは病変ごとに異なり、薬物療法との順番まで含めて治療計画を組み立てます。

大腸がんステージ4の治療は、手術か薬物療法かを一度だけ選んで終わるものではありません。切除可能性を繰り返し評価し、病気の広がりや薬物療法への反応が変われば、治療の目標と方法も見直します。切除不能から根治手術を目指す方向へ進む患者さんもいれば、症状を抑えながら薬物療法を長く続けることを目標とする患者さんもいます。最初の方針に固執せず、その時点で得られている検査結果をもとに治療を組み替えていくことが、ステージ4の診療を支える基本的な考え方です。

参考:ESMO Clinical Practice Guideline「Metastatic Colorectal Cancer」

抗がん剤治療 ― FOLFOX・CAPOX・FOLFIRIはどう使い分けるのか

大腸がんステージ4の薬物療法では、一種類の抗がん剤だけを投与するのではなく、作用の異なる複数の薬を組み合わせる治療が基本になります。中心になるのは、5-FUまたはカペシタビンといったフッ化ピリミジン系薬剤に、オキサリプラチンまたはイリノテカンを組み合わせる方法です。治療効果を高めるため、バイオマーカーの結果に応じて分子標的薬を追加することも多く、抗がん剤は薬物療法全体の土台として使われています。

どの組み合わせを選ぶかは、単純に「最も強い治療はどれか」で決まるものではありません。転移巣を縮小させて手術へつなげたいのか、病気を長く抑えながら生活を維持したいのかによって、必要な治療強度は変わります。手足のしびれや腎機能低下、下痢を起こしやすい持病、過去に受けた抗がん剤、通院方法や仕事の都合も薬剤選択へ影響します。大腸がんの抗がん剤治療では、腫瘍への効果と治療後の生活を切り離さずに考える必要があります。

FOLFOXとCAPOXはオキサリプラチンを使う代表的な治療

FOLFOX(フォルフォックス)

FOLFOXは、5-FU、レボホリナート、オキサリプラチンを組み合わせる治療です。国内ではmFOLFOX6と呼ばれる方法が広く使われており、一般的には2週間を一つの周期として投与します。

点滴当日だけで終わるわけではなく、携帯型ポンプを使って5-FUを約46時間かけて持続投与するため、多くの施設では中心静脈ポートを留置します。ポンプを装着したまま自宅で過ごす時間が生じますが、通院日と体調の波を把握できれば、仕事を続けながら治療を受けることも可能です。

CAPOX(カポックス)/XELOX(ゼロックス)

CAPOXは、オキサリプラチンの点滴と、カペシタビンという内服薬を組み合わせます。XELOXと呼ばれることもあり、一般的には3週間を一つの周期として、治療初日にオキサリプラチンを投与し、その後一定期間カペシタビンを服用します。

持続点滴用のポンプを必要としない点は生活上の利点ですが、毎日の服薬管理が必要であり、食事や水分を十分に取れない患者さん、腎機能が低下している患者さんでは別の治療が適することもあります。FOLFOXより簡単な治療、あるいは弱い治療という意味ではなく、同じオキサリプラチン系治療を異なる方法で行う選択肢と考える方が正確です。

オキサリプラチンの副作用について

オキサリプラチンで特徴的なのが、冷たい物へ触れた際に起こるしびれや痛みです。投与後しばらくは、冷たい飲み物で喉が締め付けられるように感じたり、冷蔵庫の物へ触れた手が強くしびれたりすることがあります。

治療を重ねると、温度に関係なく手足のしびれが残り、ボタンを留める、文字を書く、箸を使うといった動作へ影響する場合もあります。末梢神経障害は累積投与量とともに悪化しやすいため、症状が強くなる前にオキサリプラチンを休薬し、ほかの薬だけで治療を続ける判断も行われます。

参考:オキサリプラチン 添付文書|医薬品医療機器総合機構

FOLFIRI(フォルフィリ)ではイリノテカンを組み合わせる

FOLFIRIは、5-FUとレボホリナートにイリノテカンを加えた治療で、FOLFOXと同じく2週間ごとに行う方法が一般的です。

FOLFOXとFOLFIRIはいずれも転移性大腸がんに対する主要な治療であり、一方がすべての患者さんに優れているわけではありません。治療歴がない段階からFOLFIRIを選ぶ場合もあれば、最初にFOLFOXやCAPOXを使用し、病気が進行した後にオキサリプラチンからイリノテカンへ切り替える場合もあります。反対に、FOLFIRIから治療を開始し、二次治療でオキサリプラチン系へ変更する流れもあります。

イリノテカンの副作用

イリノテカンでは下痢と骨髄抑制が問題になりやすく、下痢は投与直後に現れるタイプと、数日後から続くタイプに分かれます。遅れて起こる下痢を放置すると脱水や腎機能低下につながるため、排便回数が急に増えた場合や、水分を取れない状態が続く場合には早い対応が必要です。白血球、とくに好中球が低下すると感染症の危険が高まり、発熱を伴う場合には緊急の診察が必要になることがあります。

イリノテカンの分解にはUGT1A1という酵素が関わっており、特定の遺伝子型を持つ患者さんでは重い好中球減少や下痢が起こりやすいことが分かっています。治療前にUGT1A1遺伝子多型を調べ、その結果や年齢、肝機能を踏まえて開始量を調整することがあります。検査で特定の型が見つかってもイリノテカンを必ず使えないわけではなく、副作用を避けるために投与方法を慎重に決めるための情報として利用されます。

腫瘍を大きく縮小させたい場合にはFOLFOXIRI(フォルフォキシリ)が検討

FOLFOXIRIは、5-FU、レボホリナート、オキサリプラチン、イリノテカンを組み合わせる治療です。通常は分子標的薬のベバシズマブと併用し、診断時には切除できなかった肝転移などを縮小させ、手術へつなげたい場合に検討されます。FOLFOXやFOLFIRIより多くの薬を同時に使うため、高い腫瘍縮小効果が期待できる反面、好中球減少、下痢、口内炎、末梢神経障害などの負担も大きくなります。

体力が保たれ、主要な臓器機能に問題がなく、強い治療を行う医学的な理由がある患者さんが主な対象です。高齢であることだけを理由に一律に除外されるわけではありませんが、持病や日常生活の状態を含めて慎重に適応を判断します。薬剤の数が多いほど良い治療ということではなく、治療強度を上げることで得られる利益が、副作用による不利益を上回るかを見極めなければなりません。

参考:National Cancer Institute「Colon Cancer Treatment(PDQ)」

副作用に合わせた減量や休薬は治療の失敗ではない

5-FUやカペシタビンでは、口内炎、下痢、食欲低下、骨髄抑制などが起こることがあります。カペシタビンでは、手のひらや足の裏に赤み、痛み、ひび割れが現れる手足症候群にも注意が必要です。初期の段階で保湿や摩擦の回避、休薬などの対応を行えば重症化を防ぎやすいため、日常動作へ影響が出るまで我慢する必要はありません。

抗がん剤の量を減らしたり、投与日を延期したりすると「治療効果がなくなるのではないか」と心配する患者さんもいます。しかし、副作用によって体力を大きく失い、治療を続けられなくなる方が、その後の選択肢を狭めることがあります。

安全に継続できる量は患者さんごとに異なり、減量や休薬は治療を長く続けるための調整です。発熱、強い下痢、食事や水分を取れない状態、急速に悪化するしびれなどがあれば、次の診察日まで待たずに治療施設へ連絡する必要があります。

参考:重篤副作用疾患別対応マニュアル 手足症候群|厚生労働省

同じ薬を最後まで続けるとは限らない

抗がん剤治療中は、一定の間隔でCT検査や腫瘍マーカー、全身状態を確認し、効果と副作用の両方を評価します。腫瘍が縮小して手術可能になれば、薬物療法を続けるのではなく、外科治療へ切り替える時期を検討します。切除を目的としない場合でも、治療効果が保たれている一方でオキサリプラチンによるしびれが蓄積してきたときには、オキサリプラチンだけを外し、フッ化ピリミジン系薬剤と分子標的薬を残す維持療法へ移行することがあります。

病気が進行した場合には、それまで使用していなかった作用機序の薬へ切り替えます。オキサリプラチン系から始めた患者さんではイリノテカン系を、イリノテカン系から始めた患者さんではオキサリプラチン系を次に使うことが基本的な考え方の一つです。後の治療ではトリフルリジン・チピラシルなど別の抗がん剤が候補となることもあり、最初の治療だけで全経過が決まるわけではありません。

大腸がんステージ4の抗がん剤治療では、強い薬を限界まで続けることより、効果が得られる治療を安全につなぎ、必要な時期に手術や次の薬へ移れる状態を保つことが大切です。使用する抗がん剤の骨格が同じでも、組み合わせる分子標的薬はRASやBRAFの遺伝子変異、原発巣の左右によって変わります。

分子標的薬 ― 遺伝子変異と原発巣の位置によって使う薬が変わる

大腸がんに使われる分子標的薬には、腫瘍が新しい血管を作る働きを抑える薬、がん細胞の増殖に関わる受容体を遮断する薬、特定の遺伝子変異を直接狙う薬があります。いずれも抗がん剤とは異なる仕組みで作用しますが、単独で使用するとは限りません。一次治療ではFOLFOXやCAPOX、FOLFIRI、FOLFOXIRIなどを土台に分子標的薬を組み合わせ、病気が進行した後は、それまでの治療歴と遺伝子検査の結果を見ながら作用の異なる薬へ切り替えていきます。

薬剤選択には、腫瘍の広がりだけでなくRAS、BRAF、HER2、KRAS G12Cなどの状態が関わります。抗EGFR抗体薬では原発巣が大腸の右側にあるか左側にあるかも治療効果へ影響するため、遺伝子変異がないという結果だけで薬が決まるわけではありません。どの分子標的薬を使うかは、腫瘍を縮小させて手術へつなげたいのか、病気を長く抑えたいのか、副作用をどこまで許容できるのかまで含めて判断されます。

ベバシズマブは、腫瘍へ栄養を送る血管が作られるのを抑える

ベバシズマブは、血管内皮増殖因子であるVEGFの働きを抑える抗体薬です。がんは増殖するために周囲へ新しい血管を作り、酸素や栄養を取り込もうとします。ベバシズマブはこの血管新生を妨げることで、抗がん剤の効果を補います。RAS遺伝子の変異の有無にかかわらず使用を検討でき、原発巣が右側にある大腸がんや、抗EGFR抗体薬の対象にならない患者さんにも広く用いられています。

一次治療ではFOLFOX、CAPOX、FOLFIRI、FOLFOXIRIなどと組み合わせます。病気が進行した後もVEGF経路を抑える治療を続ける考え方があり、ベバシズマブを別の抗がん剤と組み合わせて継続するほか、FOLFIRIへラムシルマブまたはアフリベルセプトを加える治療が候補になります。どの薬を選ぶかは、一次治療で使用した薬剤、副作用、病気の進行速度、肝臓や腎臓の状態などを踏まえて決めます。

参考:大腸癌治療ガイドライン医師用 2026年版|大腸癌研究会

ベバシズマブの副作用

抗VEGF薬では、高血圧、たんぱく尿、出血、血栓症などに注意が必要です。まれではあるものの、消化管穿孔や傷の治りにくさが問題になることもあります。手術を予定している患者さんでは、薬の投与と手術の間隔を適切に空けなければなりません。コンバージョン治療によって肝切除や肺切除を目指す場合には、腫瘍の縮小だけでなく、最後にベバシズマブを投与した時期まで含めて手術日程を組みます。

抗EGFR抗体薬は、RAS野生型の左側大腸がんで特に重要

セツキシマブとパニツムマブは、がん細胞の表面にあるEGFRへ結合し、増殖の信号を遮断する抗体薬です。効果を期待するには、少なくともRAS遺伝子が野生型、すなわち治療効果を妨げる変異が確認されていないことが前提になります。RAS変異がある腫瘍では、EGFRを遮断してもその下流で増殖の信号が流れ続けるため、これらの薬を使っても十分な効果は期待できません。

RAS野生型でも、原発巣の位置によって薬剤の選び方が変わります。下行結腸、S状結腸、直腸などの左側大腸がんでは、一次治療として抗EGFR抗体薬を抗がん剤へ加える治療が有力な選択肢です。

日本で行われたPARADIGM試験では、RAS野生型の左側大腸がんに対するmFOLFOX6との併用で、パニツムマブ群の全生存期間中央値は37.9か月、ベバシズマブ群は34.3か月でした。5年生存割合も32%対21%となり、左側原発では抗EGFR抗体薬を最初から用いる意義が示されています。

参考:世界初RAS遺伝子野生型大腸がんに対する標準治療を確認|国立がん研究センター

盲腸、上行結腸、横行結腸などの右側大腸がんでは、抗EGFR抗体薬による生存利益が左側ほど一貫していません。一次治療ではベバシズマブを組み合わせることが多いものの、肝転移を大きく縮小して手術へつなげたいなど、腫瘍縮小を強く求める状況では抗EGFR抗体薬が検討されることもあります。左右差だけで機械的に決めるのではなく、切除可能性や病気の勢いも含めた判断が必要です。

抗EGFR抗体薬の副作用

抗EGFR抗体薬で多い副作用は、顔や胸、背中に現れるにきびのような発疹、皮膚の乾燥、爪の周囲の炎症、低マグネシウム血症です。皮膚症状が悪化してから対応するより、治療開始時から保湿剤や日焼け止めを使用し、必要に応じて抗菌薬を併用する方が重症化を防ぎやすくなります。発疹が出たことだけを理由に薬が効いていると判断することはできませんが、皮膚障害を早く管理できれば治療を継続しやすくなります。

BRAF V600E変異には、BRAFとEGFRを同時に抑える治療を行う

BRAF V600E変異を持つ大腸がんは、進行が速く、従来の抗がん剤だけでは治療が難しい傾向があります。BRAFだけを阻害すると、がん細胞がEGFR経路を使って増殖の信号を再び活性化させるため、BRAF阻害薬と抗EGFR抗体薬を組み合わせる必要があります。化学療法後に病気が進行した患者さんには、エンコラフェニブとセツキシマブの併用が標準的な選択肢として用いられてきました。

2025年11月には、日本でもBRAF V600E変異陽性の切除不能進行・再発大腸がんに対し、一次治療からエンコラフェニブ、セツキシマブ、FOLFOXを組み合わせる治療が承認されました。根拠となったBREAKWATER試験では、奏効率が従来治療の40.0%に対して60.9%、無増悪生存期間中央値は7.1か月に対して12.8か月でした。BRAF V600E変異は予後不良因子として知られていますが、診断時に変異を確認することで、初回治療からその性質を直接狙う選択肢を持てるようになっています。

参考:BRAF阻害剤「ビラフトビ®カプセル」の結腸・直腸がんに対する併用療法の一部変更承認を取得

この治療では、抗EGFR抗体薬による皮膚症状に加え、下痢、悪心、倦怠感、肝機能異常などが現れることがあります。複数の薬剤を組み合わせるため、副作用がどの薬に由来するのかを見極め、休薬や減量を調整しながら続けます。

KRAS変異があっても、G12C型では標的治療を選べるようになった

長い間、RAS変異陽性の大腸がんは抗EGFR抗体薬が効きにくく、遺伝子変異を直接狙う治療もありませんでした。しかし、KRAS変異の中でもG12Cという特定の型に対する阻害薬が開発され、治療の考え方が変わっています。KRAS G12Cは大腸がん全体では少数ですが、該当する患者さんにとっては治療選択を左右する情報です。

日本では2025年、フッ化ピリミジン、オキサリプラチン、イリノテカンなどを含む治療後に増悪したKRAS G12C変異陽性の切除不能進行・再発大腸がんに対し、ソトラシブとパニツムマブの併用が承認されました。KRAS G12C阻害薬だけではEGFR経路が再活性化して効果が弱まりやすいため、パニツムマブを同時に用いて二つの経路を抑えます。

参考:ソトラシブとパニツムマブ併用療法の国内承認|武田薬品工業

「RAS変異があるから分子標的治療はない」という説明は、すべての患者さんには当てはまらなくなっています。ただし、対象になるのはKRAS変異全体ではなくG12C型に限られ、ほかの変異型へ同じ治療を用いることはできません。

HER2陽性大腸がんでも治療の選択肢が広がっている

一部の大腸がんでは、HER2遺伝子の増幅やHER2タンパク質の強い発現が認められます。HER2陽性はRAS野生型の腫瘍に多く、抗EGFR抗体薬への抵抗性に関わることもあります。頻度は高くありませんが、標準治療後の次の選択肢を考えるうえで、HER2検査の意味は大きくなっています。

2026年3月には、トラスツズマブ デルクステカンがHER2陽性の進行・再発固形がんへ適応拡大され、標準的な治療が困難となった大腸がんも、承認された検査でHER2遺伝子増幅が確認されるなど所定の条件を満たせば治療候補になり得ます。

参考:PMDA「エンハーツ適正使用ガイド」

この薬はHER2を目印に抗がん剤成分を腫瘍細胞へ届ける抗体薬物複合体です。肺に炎症を起こす間質性肺疾患が重症化することがあるため、咳や息切れ、発熱が現れた場合には速やかな評価が必要です。HER2の判定方法やこれまでの治療歴によって適応が異なるため、検査結果を専門医が確認したうえで使用を判断します。

分子標的薬は検査結果だけで決まるわけではない

同じRAS野生型でも、原発巣が左右どちらにあるか、腫瘍をどの程度縮小させたいか、手術を予定しているかによって、抗EGFR抗体薬と抗VEGF薬のどちらを選ぶかは変わります。BRAF V600EやKRAS G12C、HER2陽性では専用の治療が候補になりますが、治療を行う時期や、すでに受けた薬との関係まで確認しなければなりません。分子標的薬は「遺伝子に合う薬を一つ選べば終わり」という治療ではなく、抗がん剤との組み合わせや治療の順番まで含めて設計する医療です。

治療中に新たな遺伝子変異が現れ、以前効いていた薬へ抵抗性を持つこともあります。病気が進行した際には、保存してある組織を調べ直したり、再生検やリキッドバイオプシーを行ったりすることで、次の治療につながる変化が見つかる場合があります。初回の検査結果だけを固定的に見るのではなく、病気の変化に合わせて治療標的を再評価する視点も必要です。

分子標的薬によって大腸がんの薬物療法は細分化され、従来なら選択肢が限られていた遺伝子変異にも専用の治療が加わっています。さらに、MSI-HまたはdMMRの大腸がんでは、がん細胞を直接狙う分子標的薬とは異なり、患者さん自身の免疫を利用する治療が中心になることがあります。

免疫チェックポイント阻害薬

免疫チェックポイント阻害薬は、ステージ4大腸がんの患者さん全員に使用する治療ではありません。

主な対象になるのは、MSI-HまたはdMMRと呼ばれる特徴を持つ大腸がんです。切除不能な進行・再発大腸がんのうち、このタイプが占める割合は約4%と決して高くありませんが、該当する場合には、従来の抗がん剤ではなく免疫療法を最初の治療から選べることがあります。数としては少なくても、検査結果によって治療の組み立てが大きく変わるため、MSI/MMR検査はステージ4大腸がんで欠かせない検査の一つです。

MSI-H・dMMRとはどのような状態か

細胞が増えるときにはDNAが複製されますが、その過程では小さなコピーの間違いが生じます。正常な細胞には、その間違いを見つけて修復する仕組みがあります。修復機能がうまく働かなくなった状態がdMMRであり、その結果として特定のDNA配列に多くの異常が蓄積した状態がMSI-Hです。検査方法や見ている対象は異なるものの、治療選択では互いに近い意味を持つ指標として扱われています。

DNAの異常が多く蓄積したがん細胞は、免疫から見つけられやすい特徴を持ちます。しかし、がん細胞は免疫へブレーキをかけ、攻撃を逃れる仕組みも備えています。免疫チェックポイント阻害薬は、このブレーキを解除することで、患者さん自身の免疫細胞が再びがんを攻撃できる状態へ導く薬です。がん細胞を直接壊す抗がん剤とは、治療の仕組みそのものが異なります。

ペムブロリズマブ単剤と、ニボルマブ・イピリムマブ併用が主な選択肢

MSI-HまたはdMMRの切除不能進行・再発大腸がんでは、ペムブロリズマブを単独で使用する治療が、一次治療から選択肢になります。

KEYNOTE-177試験では、ペムブロリズマブを使用した患者の無増悪生存期間中央値は16.5か月で、抗がん剤を中心とした標準治療群の8.2か月を上回りました。5年時点の全生存率も、ペムブロリズマブ群で55%、標準治療群で44%と報告されています。これは臨床試験に参加したMSI-H/dMMR患者全体の結果であり、個人の余命を示す数字ではありませんが、免疫療法の効果が長く続く患者がいることを示しています。

参考:Diaz LA Jr, et al. KEYNOTE-177:5年以上の追跡解析

もう一つの選択肢が、ニボルマブとイピリムマブを組み合わせる治療です。ニボルマブとイピリムマブは、免疫にかかる別々のブレーキを解除する薬であり、二つを併用することで、より幅広く免疫反応を引き出すことを目指します。

CheckMate 8HW試験では、未治療のMSI-H/dMMR転移性大腸がんに対し、併用療法が抗がん剤を中心とした治療より病気の進行を長く抑える結果を示しました。日本でも2025年8月に適応が拡大され、一次治療から検討できるようになっています。

参考:オプジーボ・ヤーボイ併用療法の国内適応拡大|小野薬品工業

単剤と併用療法のどちらが適しているかは、病気の進行速度だけでなく、年齢、持病、自己免疫疾患の有無、副作用への対応力なども含めて判断します。二つの薬を組み合わせれば誰にでも有利になるわけではなく、免疫が過剰に働く副作用も増える可能性があるため、期待できる効果と体への負担を比べながら選ぶ必要があります。治療歴によっては、ニボルマブ単剤が候補になる場合もあります。

MSI-H・dMMRでも、すべての患者に効くわけではない

免疫療法が長く効く患者さんがいる一方で、治療開始後も腫瘍が縮小せず、早い段階で別の治療へ切り替えなければならないこともあります。MSI-HまたはdMMRであれば必ず効果が得られるわけではなく、定期的なCT検査や血液検査、症状の変化を通じて治療効果を確認します。十分な効果が得られない場合には、FOLFOXやFOLFIRIなどの抗がん剤、RASやBRAFの状態に応じた分子標的薬へ移ることになります。

大腸がんの大部分を占めるMSSまたはpMMRでは、免疫チェックポイント阻害薬を単独で使用しても十分な効果が得られにくく、一般的な標準治療にはなっていません。免疫療法という名称だけを見て、「抗がん剤より新しいから自分にも適している」と判断することはできません。MSI/MMR検査の結果を確認し、その治療が自分の大腸がんに合う医学的な根拠があるかを見極める必要があります。

免疫チェックポイント阻害薬の副作用

免疫チェックポイント阻害薬では、抗がん剤でよくみられる強い吐き気や脱毛、白血球減少が比較的少ない一方、活性化した免疫が正常な臓器まで攻撃する免疫関連有害事象が起こることがあります。甲状腺や副腎の機能低下、大腸炎、肝炎、肺炎、皮膚障害、1型糖尿病など、影響を受ける臓器は一つに限られません。投与中だけでなく、治療を終えた後に症状が現れる場合もあります。

強いだるさが続く、下痢の回数が急に増える、咳や息切れが出る、皮膚や白目が黄色くなる、異常に喉が渇いて尿の回数が増えるといった変化は、免疫関連有害事象のサインかもしれません。一般的な体調不良に見える症状もあるため、次の診察日まで様子を見るのではなく、治療施設へ連絡して評価を受けることが大切です。早い段階で発見できれば、休薬やステロイド治療などによって重症化を防げる可能性があります。

免疫チェックポイント阻害薬は、対象となる患者さんが限られる一方、効果が長く続けば大腸がんステージ4の経過を大きく変え得る治療です。MSI-H/dMMRかどうかを治療開始前に確認し、単剤と併用療法の違い、副作用への備えまで理解したうえで選択する必要があります。

手術・放射線治療・局所治療

大腸がんステージ4がほかの多くのがんと異なる点の一つは、肝臓や肺へ転移していても、原発巣と転移巣をすべて取り除けると判断された一部の患者さんでは、手術による根治を目指せることです。

ただし、転移があるだけで手術の対象になるわけではありません。転移の場所や数、重要な血管との位置関係、手術後に十分な肝臓や肺の機能を残せるか、ほかの臓器に制御できない病変がないかを詳しく確認し、体力や持病も含めて判断します。

手術が可能かどうかは、最初の検査だけで確定するとも限りません。診断時には切除できなかった病変が、抗がん剤や分子標的薬によって縮小し、後から手術の対象へ変わることがあります。反対に、画像上は小さな転移でも、位置によっては安全に切除するのが難しい場合があります。転移の個数だけではなく、すべての病変を取り切れるかどうかが治療方針を分けます。

肝転移では切除後に十分な肝臓を残せるか確認

大腸がんが最も転移しやすい臓器は肝臓です。肝転移の手術では、転移巣を取り除くことに加え、手術後も肝臓が十分に機能できる量を残す必要があります。病変が肝臓の左右に複数あっても、すぐに手術不能と決まるわけではなく、切除する順番を工夫したり、薬物療法で腫瘍を縮小させたりすることで、手術を目指せる場合があります。

原発巣と肝転移を同時に切除することもあれば、体への負担を考えて複数回に分けることもあります。大腸の手術を先に行う方法、肝転移を先に治療する方法のどちらが適しているかは、原発巣による腸閉塞や出血の有無、肝転移の広がり、薬物療法を急ぐ必要性などによって変わります。大腸外科だけでなく、肝胆膵外科や腫瘍内科も交えて計画を立てる必要があるのは、このように複数の治療順序が考えられるためです。

肝転移をすべて切除できれば、長期生存や治癒を期待できる患者さんもいますが、手術後の再発は決して珍しくありません。画像上の病変を取り切れたことと、体内にがん細胞が一つも残っていないことは同じではないためです。手術後も定期的なCT検査や血液検査を続け、病状によっては薬物療法を組み合わせます。

参考:大腸癌肝転移データベース委員会|大腸癌研究会

肺転移でも病変が限られていれば手術を検討できる

肺転移では、転移巣を切除しても呼吸機能を十分に保てること、ほかの病変が制御されていること、手術に耐えられる全身状態であることなどを確認します。

肺に複数の転移があっても切除を検討できる場合がありますが、取り除く範囲が広くなれば、残る肺の機能への影響も大きくなります。病変の数だけでなく、左右どちらの肺にあるのか、肺の奥か表面に近いか、過去に肺の手術を受けているかまで含めた評価が必要です。

肝転移と肺転移の両方があっても、すべての病変を安全に治療できると判断された患者さんでは、薬物療法と複数回の手術を組み合わせることがあります。ただし、手術による利益が期待できるのは選択された患者さんに限られます。「転移を切除できる」という情報だけで手術を急ぐのではなく、全身の病気がどの程度制御されているかを確認してから判断します。

手術が難しい場合には病変だけを狙う治療が候補になる

病変の場所や体力の問題で手術が難しい場合には、転移巣へ針を刺して熱で焼くラジオ波焼灼療法やマイクロ波凝固療法、放射線を病変へ集中させる定位放射線治療などが検討されます。小さく数の限られた肝転移や肺転移が主な対象で、手術の代わりに行う場合もあれば、切除と組み合わせてすべての病変を治療する場合もあります。

これらの局所治療は、体を大きく切開せずに行える可能性がある一方、どの病変にも手術と同じ効果を期待できるわけではありません。腫瘍の大きさや位置によって治療できる範囲が限られ、処置した場所に再びがんが現れることもあります。手術が可能な患者さんでは、切除が優先されることが多く、局所治療は外科手術が難しい理由や病変の特徴を踏まえて選ばれます。

放射線治療は、直腸がんが骨盤内で周囲へ広がっている場合や、骨転移による痛み、脳転移による症状を抑える場面でも使われます。結腸がんでは放射線治療が中心になることは多くありませんが、病変の場所を限定して治療できるため、薬物療法だけでは改善しにくい症状を和らげる役割があります。

参考:National Cancer Institute「Colon Cancer Treatment(PDQ)」

腹膜播種では手術の対象を慎重に選ぶ

腹膜播種は、お腹の内側を覆う腹膜へがん細胞が散らばった状態です。病変が広く分布している場合には、すべてを切除することが難しく、薬物療法が治療の中心になります。一方、腹膜以外に転移がなく、播種の範囲が限られ、目に見える病変を取り切れると判断された患者さんでは、専門施設で減量手術が検討されることがあります。

腹膜の病変を切除した後、お腹の中へ温めた抗がん剤を流すHIPECという治療を目にすることもありますが、すべての腹膜播種に行う標準治療ではありません。手術そのものの負担が大きく、HIPECを追加する利益が明確でない場合もあるため、実施経験のある専門施設で適応を慎重に判断する必要があります。自由診療として紹介されることもありますが、「腹膜へ直接薬を入れるから全身の抗がん剤より効く」と単純に考えることはできません。

参考:ASCO Guideline「Treatment of Metastatic Colorectal Cancer」

原発巣による腸閉塞や出血には症状を改善する治療を行う

遠隔転移をすべて切除できない場合でも、大腸の原発巣が便の通り道を塞いだり、出血や穿孔を起こしたりしているときには、原発巣への処置が必要です。内視鏡で金属製のステントを入れて腸を広げる方法、人工肛門を造って便の流れを変える方法、問題となっている腸を切除する方法などから、緊急性と患者さんの体力に合うものを選びます。

これらは遠隔転移を根治する治療ではありませんが、腸閉塞や感染を防ぎ、食事や排便を安定させたうえで薬物療法へ進むために行われます。原発巣による症状がない場合には、予防目的で大腸を切除するよりも、全身の病気へ作用する薬物療法を優先することが一般的です。大きな手術を受けることで治療開始が遅れたり、術後の体力低下によって薬物療法を受けにくくなったりする可能性があるためです。

大腸がんステージ4に対する手術や局所治療は、転移があるから行えない治療でも、希望すれば誰でも受けられる治療でもありません。病変をすべて制御できる見込みと、治療後に保てる臓器機能、手術による負担を比較しながら判断します。完全に切除できた場合でも再発の可能性は残るため、手術後の経過観察と必要に応じた薬物療法まで含めて一つの治療計画として考える必要があります。

緩和ケア・支持療法 ― 治療を続けながら日常生活を支える医療

緩和ケアという言葉から、抗がん剤などの治療を終えた後に受ける医療を想像する人は少なくありません。しかし、緩和ケアは終末期だけのものではなく、がんと診断された時点から、手術や薬物療法と並行して受けることができます。痛みや吐き気といった身体症状だけでなく、将来への不安、仕事や治療費、家族との関係など、病気によって生じるさまざまな負担を和らげることが目的です。

抗がん剤の副作用を抑える制吐薬や下痢止め、栄養管理、ストーマケアなども含め、治療を無理なく続けるための医療全体を支持療法と呼びます。

大腸がんステージ4では、病気そのものによる症状と治療による副作用が重なり、日常生活へ影響することがあります。転移巣があっても体調が安定している時期には、仕事や外出を続けながら通院治療を受けられる患者さんもいますが、腸の狭窄による排便の変化、腹膜播種による腹部の張り、薬物療法による下痢やしびれが生活を制限する場合もあります。症状が悪化してから対処するより、軽いうちに医療者へ伝えた方が治療内容を調整しやすく、重症化を防げることもあります。

参考:緩和ケア|国立がん研究センター がん情報サービス

腸閉塞を疑う症状は早めの連絡が必要

大腸の原発巣や腹膜播種によって腸が狭くなると、便やガスが流れにくくなり、腸閉塞を起こすことがあります。便秘だけでなく、お腹の張りや波のある腹痛、吐き気、嘔吐、ガスが出ないといった症状が重なっている場合には、次の診察日まで待たずに治療施設へ連絡してください。完全に腸が詰まっている状態で自己判断によって下剤を増やすと、症状が悪化する可能性もあります。

腸が狭くなっている患者さんでは、食物繊維の多い食品を積極的に取ることが、かえって便の通過を妨げる場合があります。一般的な便秘対策としては食物繊維が勧められますが、大腸がんによる狭窄がある場合は事情が異なります。

食事内容や下剤の使い方は病変の位置や狭窄の程度によって変わるため、担当医や看護師、管理栄養士の指示に合わせる必要があります。ステント留置や人工肛門造設によって便の通り道を確保した方が安全と判断されることもあり、症状を落ち着かせることで薬物療法へ進みやすくなる場合があります。

人工肛門は治療を続けるために必要になることがある

人工肛門は、腸の一部をお腹の表面へ出し、便の出口を新たに作る処置です。ストーマとも呼ばれ、一時的に造設して後から閉鎖する場合と、その後も継続して使用する場合があります。直腸がんで肛門を残せない場合だけでなく、ステージ4大腸がんで腸閉塞を避け、早く薬物療法を始める目的で造設されることもあります。人工肛門を勧められたからといって、治療の手段がなくなったという意味ではありません。

ストーマを造設した後は、お腹へ装具を貼り、袋の中へ便をためて処理します。排便の時刻を完全に調整することは難しいものの、装具には防臭対策が施されており、状態が安定すれば仕事や旅行、入浴、無理のない運動も可能です。便漏れや皮膚のかぶれを防ぐには、体形や便の状態に合った装具を選び、正しい交換方法を身に付ける必要があります。皮膚・排泄ケア認定看護師などの支援を受けながら慣れていくことで、日常生活の負担を減らせます。

参考:大腸がん Q&A|国立がん研究センター がん情報サービス

食事は「がんに効くもの」より、体力を保てるものを優先

特定の食品や食事療法だけでステージ4大腸がんを治せるという科学的な根拠はありません。食事で重視したいのは、治療を続けるためのエネルギーやタンパク質、水分を確保し、急激な体重減少や筋力低下を防ぐことです。食欲が落ちている時期には、栄養バランスを完璧に整えようとして無理に一人前を食べるより、食べられるものを少量ずつ複数回に分けた方が負担を抑えられます。

下痢が続いているときは脱水に注意し、水分と塩分を補いながら、冷たい飲み物や脂肪の多い食品など、症状を悪化させるものを一時的に控えることがあります。口内炎や味覚の変化があれば、柔らかい料理や刺激の少ない味付けに変えることで食べやすくなることもあります。

口から十分な栄養を取れない場合には栄養補助食品を利用し、病状によっては経管栄養や点滴からの栄養補給を検討します。食べられないことを本人の努力不足と考える必要はなく、病気や治療による症状として早めに相談することが大切です。

参考:がんと食事|国立がん研究センター がん情報サービス

痛みや副作用は我慢せず、治療内容を調整

がんによる痛みには、一般的な鎮痛薬から医療用麻薬まで、痛みの強さや原因に合わせた薬を使用します。医療用麻薬は終末期だけの薬ではなく、がんによる痛みを抑えて睡眠や食事、外出をしやすくするために使われます。医師の指示どおりに使用する限り、依存を過度に心配して痛みを我慢する必要はありません。痛む場所や時間帯、薬を飲んだ後にどれくらい改善したかを記録しておくと、薬の種類や量を調整しやすくなります。

薬物療法による吐き気、下痢、手足のしびれ、皮膚症状、強い倦怠感も、治療を続けるために対処すべき症状です。副作用を伝えると薬を中止されるのではないかと心配する人もいますが、早めに申告することで、予防薬の追加、投与量の調整、一時的な休薬などを行いやすくなります。限界まで我慢して体力を失うより、生活への影響が小さい段階で調整した方が、その後の治療選択肢を保ちやすくなります。

心配事や生活上の問題も相談対象

ステージ4と診断された後は、病気や治療のことだけでなく、仕事を続けられるか、医療費をどう負担するか、家族へどのように伝えるかといった問題も生じます。こうした悩みは治療と切り離されたものではありません。眠れない状態や強い不安が続けば食欲や体力にも影響し、通院や服薬が負担になることがあります。

病院では、担当医や看護師に加え、緩和ケアチーム、薬剤師、管理栄養士、リハビリスタッフ、医療ソーシャルワーカーなどが支援に関わります。がん相談支援センターでは、治療中の生活、仕事、経済的な制度、在宅療養などについて、患者さん本人だけでなく家族も無料で相談できます。

緩和ケアは外来や入院中だけでなく、訪問診療や訪問看護を整えることで自宅でも受けられるため、通院が難しくなってから初めて考えるのではなく、早い段階から希望する生活について相談しておくこともできます。

大腸がんステージ4の治療では、腫瘍を小さくすることと同じように、食事や排便、睡眠、移動といった日常生活を保つことが重要です。つらさを我慢せず、症状がいつからどのように現れ、生活のどこへ影響しているかを伝えることで、治療と生活の両方を支える方法を検討しやすくなります。

参考:がん相談支援センターとは|国立がん研究センター がん情報サービス

大腸がんステージ4の生存率 ― 5年・10年の数字の受け止め方

大腸がんステージ4と診断されたとき、多くの患者さんやご家族が最初に知りたいのは「治療によってどれくらい長く生きられるのか」ということでしょう。生存率はその疑問を考えるための重要な資料ですが、一つの数字だけで個人の将来を予測できるものではありません。

大腸がんでは、肝臓や肺の転移をすべて切除できる患者さんと、複数の臓器へ病気が広がっている患者さんが同じステージ4に含まれるため、実際の経過には大きな幅があります。

国立がん研究センターの院内がん登録では、大腸がんの病期別ネット・サバイバルが公表されています。ネット・サバイバルとは、ほかの病気による死亡の影響をできるだけ除き、大腸がんが生命へ与える影響を推計した生存率です。

病期 5年ネット・サバイバル 10年ネット・サバイバル
ステージI 92.3% 79.2%
ステージII 85.5% 70.7%
ステージIII 75.5%  61.6%
ステージIV 18.3% 11.6%

※5年生存率は2014~2015年診断例、10年生存率は2012年診断例を対象とした院内がん登録の集計です。異なる時期に診断された別の患者集団であり、18.3%から11.6%へ同じ集団の生存率が低下したことを示す表ではありません。また長期の統計ほど新しい薬物療法や手術技術の影響が十分に反映されていない可能性があります。
参考:国立がん研究センター 院内がん登録生存率集計結果閲覧システム

表を見ると、ステージⅠからⅢまでは5年後にも多くの患者さんが生存している一方、遠隔転移を伴うステージⅣでは数字が大きく低下しています。

ただし、ステージ4の5年ネット・サバイバルが18.3%だからといって、診断された患者さんの余命が一律に決まるわけではありません。この数字には、転移を切除できた患者さん、薬物療法だけを受けた患者さん、体力の低下によって積極的な治療が難しかった患者さんなど、病状の異なる人がすべて含まれています。

結腸がんと直腸がんでも集計結果に違いがある

大腸がんは、結腸がんと直腸がんを合わせた呼び方です。2014~2015年診断例の5年ネット・サバイバルを見ると、ステージⅣの結腸がんは15.8%、直腸がんは23.1%でした。数値には差がありますが、この結果だけから「直腸がんの方が治りやすい」と判断することはできません。患者さんの年齢、転移の場所、手術を受けた割合、治療内容など、集計対象となった患者背景が異なるためです。

自分の病状を考える際には、大腸がん全体の数字よりも、原発巣が結腸と直腸のどちらにあるのか、どこへ転移しているのか、転移巣を切除できる可能性があるのかを確認する方が、治療方針の理解につながります。

参考:大腸がん 患者数(がん統計)|国立がん研究センター

転移をすべて切除できる場合、全体統計より良好な経過を期待できる

大腸がんステージ4の生存率を大きく左右するのが、原発巣と転移巣をすべて取り除けるかどうかです。肝臓や肺への転移が限られ、手術によって病変を完全に切除できる患者さんでは、ステージ4全体の18.3%という数字より良好な長期成績が報告されています。一部では10年以上再発なく経過し、治癒に近い状態へ至る患者さんもいます。

ただし、手術を受けた患者さんの生存率は、最初から病変の数や位置、体力などの条件が良く、切除可能と判断された人だけを集めた結果です。ステージ4全体の統計と単純に比較し「手術をすれば誰でも生存率が上がる」と受け取ることはできません。手術による利益が期待できるかは、病変をすべて制御できる見込み、残せる肝臓や肺の機能、ほかの臓器への転移の有無を確認したうえで判断します。

診断時には切除不能でも、抗がん剤や分子標的薬によって転移巣が縮小し、後から手術できる状態へ変わることがあります。治療中も定期的に画像検査を行うのは、薬が効いているかを調べるだけでなく、根治を目指す治療へ切り替えられる時期が来ていないかを確かめる意味もあります。

病気が広がっている範囲と治療を続けられる体力も経過へ影響する

同じステージ4でも、肝臓だけに転移している状態と、肝臓、肺、腹膜など複数の場所へ病気が広がっている状態では、治療の難しさが異なります。腹膜播種によって腸閉塞や腹水が起きている場合には、食事や栄養を維持しにくくなり、薬物療法を予定どおり続けられないこともあります。肝転移が広範囲に及び肝機能へ影響している場合にも、使用できる薬や投与量が限られる可能性があります。

日常生活をどの程度自分で送れているかを示すPerformance Statusや、体重、筋肉量、肝臓・腎臓の機能も治療選択に関わります。体力が保たれていれば、一次治療の後に二次治療、三次治療へ進みやすく、病気を長くコントロールできる可能性が高まります。年齢だけで治療の可否が決まるわけではなく、現在の生活状態や持病を含めて、治療による利益と負担を評価します。

遺伝子や免疫の特徴によって治療成績が変わる

大腸がんの一部には、MSI-HまたはdMMRという特徴があり、免疫チェックポイント阻害薬が長期間効く患者さんがいます。BRAF V600EやKRAS G12C、HER2などが確認された場合にも、それぞれを標的とする薬が治療候補になることがあります。これらの患者さんは大腸がん全体の中では少数ですが、従来は選択肢が限られていた病状にも専用の治療が加わり始めています。

一方で、標的となる遺伝子変異が見つからなくても、FOLFOXやFOLFIRIなどの抗がん剤と分子標的薬を順番に使用しながら、何年にもわたって病気をコントロールできる患者さんもいます。バイオマーカーだけで経過が決まるわけではなく、治療への反応、副作用を管理できるか、次の治療へ移れるかといった要素も重なって生存期間が変わります。

生存率は個人の余命を示す数字ではない

5年生存率が18.3%という数字は、5年後に18.3%の人だけが生きられると個人へ宣告するものではありません。過去の一定期間に診断された患者集団をまとめた結果であり、現在利用できるすべての治療や、これから登場する薬の効果まで反映しているわけではないからです。また、ステージ4と診断された時点で病変を切除できる人と、広範な転移を伴う人の数字も一緒に集計されています。

生存率は病気の厳しさを理解するために欠かせない情報ですが、自分の経過を考えるには、転移を切除できるか、病気がどこまで広がっているか、どの薬を使えるか、現在の体力を保てているかを併せて見る必要があります。統計を軽視するのでも、数字だけで将来を決めつけるのでもなく、自分がどの患者群に近いのかを主治医へ確認することが現実的です。

大腸がんステージ4の余命 ― 治療別の生存期間中央値の見方

大腸がんステージ4と診断された患者さんやご家族にとって、「あとどれくらい生きられるのか」は避けて通れない疑問です。インターネットでは「余命○年」と断定する情報も見られますが、実際の診療で使われるのは、個人の余命ではなく、臨床試験に参加した患者集団の『全生存期間中央値(Overall Survival:OS)』です。

大腸がんステージ4の経過は、転移を切除できるか、どの薬を使用できるか、治療開始時の体力が保たれているかによって大きく変わります。まずは、代表的な臨床試験で報告された全生存期間中央値を見てみましょう。

主な臨床試験で報告された全生存期間中央値

臨床試験 主な対象・治療段階 治療内容 全生存期間中央値(OS)
TRIBE試験 切除不能例の一次治療 FOLFOXIRI+ベバシズマブ 29.8か月
PARADIGM試験 RAS野生型・左側原発の一次治療 mFOLFOX6+パニツムマブ 37.9か月
KEYNOTE-177試験 MSI-H/dMMRの一次治療 ペムブロリズマブ 77.5か月
SUNLIGHT試験 標準治療後に病気が進行した患者 トリフルリジン・チピラシル+ベバシズマブ 10.8か月

※それぞれ対象患者、治療を始めた時期、遺伝子や免疫の特徴が異なるため、数値を横並びにして治療の優劣を判断することはできません。いずれも原則として、臨床試験の治療を始めた時点から数えた全生存期間であり、大腸がんと診断されてからの余命を示す数字ではありません。

表を見ると、一次治療の臨床試験では全生存期間中央値が約30~38か月に達する患者集団がある一方、MSI-H/dMMRという特徴を持つ患者では、ペムブロリズマブによる中央値が77.5か月、約6年半まで延びています。

反対に、複数の標準治療をすでに受けた患者を対象とするSUNLIGHT試験では10.8か月でした。この数字が短いのは治療そのものが劣っているからではなく、すでに複数の治療を受け、病気が進行した段階から計測されているためです。

参考:TRIBE試験|FOLFOXIRI+ベバシズマブとFOLFIRI+ベバシズマブの比較
参考:PARADIGM試験. JAMA. 2023.
参考:KEYNOTE-177試験 5年追跡解析. Annals of Oncology.
参考:SUNLIGHT試験. New England Journal of Medicine. 2023.

全生存期間中央値は「平均余命」ではありません

全生存期間中央値が29.8か月だった場合、29.8か月で全員が亡くなるわけではありません。治療を受けた患者を生存期間の短い順に並べたとき、中央に位置した人の期間を表しています。半数はそれより短い一方、残る半数は29.8か月を超えて生存していたことになります。

中央値が使われるのは、少数の長期生存者がいる場合でも、患者集団のおおまかな傾向を示しやすいためです。平均値は5年、10年と長く生存した患者の影響を強く受けますが、中央値はその影響を比較的受けにくくなります。それでも、中央値は個人の未来を予測する数字ではなく、同じ条件で治療を受けた患者集団を理解するための指標にすぎません。

もう一つ見落としやすいのが、数字を数え始める時点です。

PARADIGM試験やKEYNOTE-177試験の全生存期間は、原則として試験治療を開始した時点から計測されています。再発する前の治療期間や、別の薬を受けていた期間まで含めた「診断からの総生存期間」ではありません。SUNLIGHT試験の10.8か月も、複数の治療を終えた後にこの治療を始めてからの中央値であり、ステージ4と診断されてから10.8か月という意味ではありません。

同じステージ4でも数字が大きく違うのは、対象となる患者が異なるため

TRIBE試験のFOLFOXIRIは複数の抗がん剤を同時に使う強度の高い治療であり、治療に耐えられる体力と臓器機能を持つ患者が主な対象でした。すべての患者さんへ同じ治療を行えるわけではありません。

PARADIGM試験の37.9か月という数字も、大腸がんステージ4全体を示すものではありません。RAS遺伝子に治療を妨げる変異がなく、原発巣が左側にある患者に限った結果です。抗EGFR抗体薬の効果が期待しやすい条件を満たした患者集団であるため、ほかのタイプの大腸がんへそのまま当てはめることはできません。

KEYNOTE-177試験の77.5か月は、免疫療法が効きやすいMSI-H/dMMRという少数の大腸がんを対象とした結果です。非常に長い中央値ではありますが、ステージ4大腸がんの大部分を占めるMSS/pMMRの患者には、同じ結果を期待できません。数字を見る際には、治療名だけでなく、自分がその試験の対象条件に近いかを確認する必要があります。

転移を切除できる患者は当てはまらない

表に挙げた試験の多くは、原発巣と遠隔転移をすべて切除することが難しく、薬物療法を中心に治療する患者を対象としています。肝転移や肺転移が限られ、すべての病変を手術で取り除ける患者では、治療の目標も期待できる経過も異なります。

薬物療法で腫瘍が縮小し、後から根治切除へ移行できた場合にも、診断時の切除不能例だけを集めた中央値で将来を考えることはできません。前章で紹介したPARADIGM試験でも、左側大腸がんのパニツムマブ群では18.3%の患者がR0切除に進んでいます。薬物療法を続けることだけでなく、治療中に手術可能な状態へ変わっていないかを確認する意味がここにあります。

一方、複数の臓器へ病気が広がっている場合や、腸閉塞、腹水、肝機能低下などによって体力が大きく落ちている場合には、臨床試験の結果より厳しい経過になることもあります。多くの臨床試験では、一定の体力と臓器機能を保ち、決められた治療を受けられる患者が対象となるためです。

自分の余命を考えるときは「どの数字に近いか」を確認

主治医へ余命を尋ねても、明確な年数を答えられないことがあります。それは説明を避けているからではなく、診断時点では治療への反応や、その後に手術へ進めるか、二次治療以降を受けられるかまで分からないためです。

数字について相談するときは「これは診断時からの数字ですか、それとも現在の治療を始めてからの数字ですか」「自分はどの臨床試験の患者に近いですか」「肝転移や肺転移を切除できる可能性はありますか」と確認すると、統計と自分の病状を結び付けやすくなります。治療を始めた後は、画像上の縮小率、腫瘍マーカーの推移、食事や日常生活を維持できているかといった情報が加わり、見通しも少しずつ具体的になります。

大腸がんステージ4の余命は、ひとつの平均値で表すことができません。切除不能例の一次治療では2年半から3年以上の中央値が報告され、特定のタイプではさらに長い経過が示される一方、治療歴や全身状態によっては短くなることもあります。数字を曖昧にする必要はありませんが、どの患者集団から得られた数字なのかを理解せず、自分の余命として受け取ることも避ける必要があります。

大腸がんステージ4でも完治する可能性はあるのか

大腸がんステージ4は遠隔転移を伴う状態ですが、肝臓や肺などの転移を原発巣とともにすべて取り除ける一部の患者さんでは、根治を目指した治療が可能です。大腸がんステージ4全体の完治率を示す統一された数字はありませんが、特に切除可能な肝転移では、治療後10年以上にわたって再発せず、医学的にも治癒に近いと考えられる患者さんが実際に存在します。

ただし、これはステージ4の患者さん全体に当てはまる話ではありません。長期生存に関する多くのデータは、転移が限られ、すべての病変を安全に切除できると判断された患者さんを対象にしています。複数の臓器へ病気が広がっている場合や、切除しても十分な肝臓・肺の機能を残せない場合には、薬物療法による病勢コントロールが治療の中心になります。

転移を切除できた場合、どの程度の長期生存が報告されているか

根治を目指した治療の成績は、転移した臓器や病変の広がりによって異なります。以下の数値はいずれも、手術を受けられる条件を満たした患者さんの結果であり、ステージ4全体の生存率とは直接比較できません。

病状・治療 報告されている主な長期成績 数字を見る際の注意点
切除可能な肝転移の手術 5年生存率 25~40% 原発巣と肝転移を切除できると選択された患者が対象
肝転移切除後の長期追跡 実測10年生存率 約17~24%
観察上の治癒率 約17~20%
過去の単施設・選択症例を中心とした後ろ向き研究
肺転移切除後 メタ解析で5年生存率 54.1% 手術を受けた高度選択例の集計で、手術自体の利益には不確実性も残る
切除不能から薬物療法後に切除可能となった肝転移 当初から切除可能だった患者に近い5年成績が報告される場合がある 薬物療法がよく効き、完全切除へ進めた患者に限られる

米国国立がん研究所(NCI)のPDQでは、切除可能な肝転移を断端陰性で切除できた患者の5年生存率を25~40%とし、選択された転移切除例では5年治癒率が20%を超えると説明しています。ここでいう断端陰性とは、切除した組織の端を顕微鏡で調べてもがん細胞が確認されない状態です。日本では一般に「R0切除」と呼ばれ、根治を目指すうえで欠かせない条件になります。

参考:National Cancer Institute「Colon Cancer Treatment(PDQ)」

肝転移の手術後、10年以上再発しないケースもある

大腸がん肝転移を切除した612人を10年以上追跡した研究では、102人が実際に10年以上生存していました。割合にすると約16.7%です。10年生存者のうち99人は最終確認時にも病気がなく、10年を超えてから大腸がんで亡くなった患者は1人だけでした。研究者らは、この結果から「肝転移切除後に10年生存した患者は、実質的に治癒したと考えられる」と結論付けています。

別の長期追跡研究でも、肝転移切除後の実測10年生存率は24%、観察上の治癒率は20%と報告されました。これらの数字は、大腸がんステージ4でも完治に近い経過をたどる患者さんがいることを具体的に示しています。ただし、肝転移切除を受けた患者さんの中でも、がんの広がりや遺伝子の特徴、リンパ節転移、肝臓以外の病変などによって治療成績には大きな差があります。

参考:Tomlinson JS, et al. *Actual 10-year survival after resection of colorectal liver metastases defines cure.* Journal of Clinical Oncology. 2007.
参考:Viganò L, et al. *Actual 10-year survival after hepatic resection of colorectal liver metastases: what factors preclude cure?* Surgery. 2018.

R0切除ができても、再発の可能性は残る

画像に映る病変をすべて切除できても、体内に顕微鏡では確認できないほど小さながん細胞が残っている可能性があります。肝転移切除後の臨床試験では、5年時点で再発せずに生存していた患者の割合は約27~34%でした。言い換えると、多くの患者さんが手術後に何らかの再発を経験しており、R0切除がそのまま完治を保証するわけではありません。

再発した場合でも、病変が肝臓や肺の限られた範囲にとどまっていれば、再び切除できることがあります。手術、薬物療法、焼灼療法などを組み合わせながら再発を繰り返し治療し、その結果として長期生存へつながる患者さんもいます。最初の手術だけで治療が完結するとは限らず、再発後の治療まで含めて長期的に病気と向き合うことになります。

肺転移の切除でも長期生存例があるが、数字の解釈には注意が必要

大腸がん肺転移の手術に関する115研究、1万3,294人をまとめたメタ解析では、切除後の5年生存率は54.1%でした。病変が一つで2cm未満、胸部リンパ節転移がない、肺以外の転移歴がないといった患者さんでは、比較的良好な成績が報告されています。

一方、この分野の研究の多くは、手術を受けた患者さんの経過を後から調べたものです。病変が少なく、体力も保たれた患者さんが手術群へ選ばれているため、54.1%という数字を「手術をすれば半数以上が治る」と解釈することはできません。肺転移切除が生存期間をどこまで延ばすのかについては、質の高い比較試験が十分ではなく、手術の適応は慎重に判断されます。

参考:Gkikas A, et al. Preoperative prognostic factors for 5-year survival following pulmonary metastasectomy from colorectal cancer.* European Journal of Cardio-Thoracic Surgery. 2023.

最初は切除不能でも、後から根治手術へ進めることがある

肝転移が多い、重要な血管へ近い、切除後に残る肝臓が少ないといった理由で、診断時には手術できないと判断されることがあります。その後、抗がん剤や分子標的薬によって病変が縮小し、すべて切除できる状態へ変われば、コンバージョン手術を検討します。NCIは、このように薬物療法後に切除可能となった肝転移患者では、当初から切除可能だった患者に近い5年生存率が得られる場合があると説明しています。

ただし、腫瘍が縮小しただけで手術へ進めるわけではありません。画像上見えなくなった病変が本当に消失したとは限らず、肝臓の奥に微小ながんが残っている可能性もあります。薬物療法を続けることで肝機能が低下し、手術の負担が増すこともあるため、治療開始時から外科医が画像を確認し、手術へ切り替える時期を見極めることが大切です。

薬物療法だけで病変が消えた場合は「完治」と言えるのか

抗がん剤や免疫チェックポイント阻害薬によって、画像上すべての病変が消える『完全奏効』が得られる患者さんもいます。ただし、完全奏効は「検査で確認できるがんがなくなった状態」であり、体内からがん細胞が完全に消えたことを証明するものではありません。治療を中止できるか、どの程度の期間再発がなければ治癒と考えられるかについても、すべての患者さんへ共通する基準はありません。

MSI-H/dMMR大腸がんでは免疫療法が長く効く患者さんがいますが、これも長期の病勢コントロールと完治を同じ意味で捉えることはできません。病変が見えなくなった後も、定期的な画像検査や血液検査を続け、再発の有無を確認していきます。

大腸がんステージ4で完治を目指せる可能性が最も高いのは、原発巣と遠隔転移をすべてR0切除できる患者さんです。なかでも肝転移切除後には、10年以上病気のない状態を保ち、治癒したと考えられる患者さんが一定数存在します。その一方で、手術後の再発は多く、肺転移切除の成績には患者選択の影響も含まれています。「手術できるかどうか」だけではなく、すべての病変を取り切れるのか、手術後も十分な臓器機能を保てるのか、再発した際に次の治療を行えるのかまで含めた評価が必要です。

標準治療以外の選択肢 ― 治験・遺伝子パネル検査・自由診療

現在受けている薬が効かなくなったと言われても、それだけで大腸がんの治療がすべて終わるわけではありません。

大腸がんステージ4では、作用の異なる薬を順番に使う治療が一般的であり、一次治療の後には二次治療、三次治療、さらにその後の治療が残っている場合があります。最初の薬が効かなくなった時点で自由診療を探すのではなく、まず承認された標準治療の中に未使用の薬がないか、病変を局所治療できる余地がないか、遺伝子や免疫の検査結果から新たな候補が見つからないかを整理します。

医療でいう標準治療は「一般的で古い治療」ではありません。臨床試験によって効果と安全性が確認され、その時点で多くの患者さんに勧められる最良の治療です。「最新治療」という名称だけで標準治療より高い効果が期待できるわけではなく、新しい治療が標準治療になるには、従来の方法を上回る利益を臨床試験で示す必要があります。

参考:標準治療と診療ガイドライン|国立がん研究センター がん情報サービス

薬が効かなくなった理由と、病気の進み方を確認

画像検査で腫瘍が大きくなった場合でも、全身の病変が一斉に進行しているとは限りません。多くの病変は抑えられているものの、肝臓や肺の一部だけが大きくなっている場合には、その病変へ手術や放射線治療、焼灼療法などを行い、全身治療を継続できることがあります。反対に、複数の臓器で新しい病変が増えていれば、作用の異なる薬へ切り替える判断が中心になります。

病気の進行ではなく、副作用によって現在の治療を続けられない場合もあります。このときは、投与量を減らす、原因となる薬だけを外す、別の薬へ変更するといった調整が可能です。「今の治療を中止すること」と「治療そのものを諦めること」は同じではありません。治療効果が乏しいのか、体が薬に耐えられないのかによって、次に選ぶ方法は変わります。

RAS、BRAF、MSI/MMR、HER2、KRAS G12Cなどの検査が十分に行われていない場合や、診断時から時間がたち、病気の性質が変化している可能性がある場合には、保存されている組織の再検査や新たな生検、血液を使った検査が提案されることもあります。すでに標準治療として使える薬が見つかることもあれば、治験を探す手がかりになる場合もあります。

「治験」は効果と安全性を確かめている研究段階の治療

治験は、承認前の薬や新しい治療の組み合わせについて、効果と安全性を確認する臨床試験です。「標準治療がなくなった人だけの最後の手段」とは限らず、一次治療や二次治療の段階から参加できる試験もあります。大腸がんでは、新しい分子標的薬、免疫療法、抗体薬物複合体、既存薬の新しい組み合わせなどが研究されています。

参加できるかどうかは、遺伝子変異、これまで受けた治療、転移の状態、年齢、全身状態、肝臓や腎臓の機能などの条件で決まります。希望する薬の治験が見つかっても、条件に合わなければ参加できません。比較試験では治療群が無作為に決められることもあり、必ず新薬を受けられるとは限らないため、試験の目的と治療内容を理解したうえで参加を判断します。

国内のがん臨床試験は、国立がん研究センターの検索サービスから調べることができます。ただし、掲載情報が更新される前に募集が終了している場合や、実施施設が表示されていない試験もあります。自分で見つけた試験へ直接申し込むのではなく、試験情報を主治医へ見せ、病状や検査結果が参加条件に合うかを確認する進め方が現実的です。

参考:がんの臨床試験を探す|国立がん研究センター がん情報サービス

治験には全身状態や臓器機能の基準が設けられることが多いため、治療選択肢がほとんどなくなり、体力が大きく低下してから探し始めると参加が難しくなる場合があります。現在の治療が効きにくくなった段階で、次の標準治療と並行して治験の可能性を確認しておくと、選択肢を比較する時間を取りやすくなります。

がん遺伝子パネル検査で多数の遺伝子をまとめて調べることがある

がん遺伝子パネル検査は、一度に100以上の遺伝子を調べ、治療につながる遺伝子変化がないかを探す検査です。大腸がんで最初から調べるRASやBRAF、MSI/MMRなどの検査とは役割が異なり、標準治療がない、または終了した・終了が見込まれる進行がんなど、一定の条件を満たす場合に保険診療で検討されます。結果は複数の専門家による会議で評価され、使用できる薬や参加可能な治験がないかを確認します。

参考:がんゲノム医療 もっと詳しく|国立がん研究センター がん情報サービス

検査を受ければ、自分に合う薬が必ず見つかるわけではありません。国立がん研究センターのC-CATが公表した2022年6月30日までの集計では、検査を受けた患者さんの44.5%に新しい治療候補が提示された一方、その治療が比較的早期に実施された割合は9.4%でした。候補となる薬が国内で承認されていない、治験の参加条件に合わない、実施施設へ通えないといった理由で、結果が治療へ結び付かないこともあります。

参考:がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査|国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT)

多数の遺伝子を調べる過程で、現在の大腸がんの治療とは別に、生まれつきがんになりやすい体質が示唆されることもあります。本人だけでなく血縁者にも関係する可能性があるため、結果をどこまで知りたいかを検査前に確認し、必要に応じて遺伝カウンセリングを受けます。

先進医療や患者申出療養は、自由に未承認薬を使える制度ではない

「先進医療」という名称から、標準治療より進んだ優れた治療を想像する人もいますが、制度上は将来の保険適用に向けて評価されている医療技術です。対象となる治療や実施施設はあらかじめ定められており、患者さんが希望し、医師が必要性と合理性を認めた場合に実施されます。先進医療に当たる部分の費用は全額自己負担となり、通常の診察や検査など保険診療と共通する部分には保険が適用されます。

参考:先進医療の概要について|厚生労働省

患者申出療養は、国内で承認されていない薬や適応外の治療について、患者さんの希望をきっかけに臨床研究として実施する制度です。一定の安全性や有効性が確認され、将来の保険適用を目指せる治療が対象となり、専門家による審査を受けます。希望した治療を必ず受けられる制度ではなく、申請や検討に時間がかかることもあり、保険適用外の薬や研究に必要な費用は自己負担となる可能性があります。

参考:厚生労働省 患者申出療養制度

これらの制度を利用できるか知りたい場合は、治療を受けたい施設へ直接連絡するより、まず主治医やがん相談支援センターへ相談し、対象となる治療の科学的根拠、実施施設、費用、申請に必要な期間を確認します。

自由診療は「保険外だから効果が高い」という意味ではない

自由診療とは、公的医療保険を使わず、原則として費用を患者さんが負担する診療です。海外では承認されているものの日本では未承認の薬を使用する治療から、免疫細胞療法、がんワクチン、サプリメントや食事療法まで、内容は大きく異なります。自由診療という区分そのものは、その治療の有効性や安全性を保証するものではありません。

検討する際には、その治療を受けた患者数、比較対象を置いた臨床試験の有無、腫瘍が縮小した割合だけでなく生存期間が延びたか、重い副作用がどれくらい起きたかを確認します。「学会で発表した」「大学と共同研究している」「症例報告がある」という説明だけでは、標準治療を上回る効果が証明されたことにはなりません。治療費についても、薬剤費だけでなく検査、診察、副作用が起きた際の対応、交通・宿泊、治療を継続した場合の総額まで確認しておく必要があります。

標準治療を中断して自由診療だけへ切り替える場合は、特に慎重な判断が求められます。効果が確立していない治療を受けている間に病気が進行し、後から標準治療へ戻ろうとしても、体力や臓器機能の低下によって受けられなくなる可能性があるためです。健康食品やサプリメントであっても、抗がん剤の作用を弱めたり、予期しない副作用を起こしたりすることがあるため、使用前に治療担当医や薬剤師へ内容を伝える必要があります。

参考:がんと民間療法|国立がん研究センター がん情報サービス

次の選択肢は、順番を付けて確認

現在の治療が効かなくなったときには、まず未使用の標準治療と局所治療の可能性を確認し、必要ならバイオマーカーの再評価を行います。そのうえで、参加できる治験やがん遺伝子パネル検査を検討し、患者申出療養や自由診療は、科学的根拠と費用を十分に確認してから判断します。複数の選択肢がある場合には、セカンドオピニオンを利用し、標準治療を続けた場合と新しい治療を選んだ場合の利益と不利益を比較する方法もあります。

標準治療で期待した効果が得られなかった経験は、患者さんやご家族にとって大きな落胆につながります。しかし、そこで焦って「最も新しい」「最も高額な」治療を選ぶ必要はありません。病気の状態、残されている標準治療、治験の条件、検査結果、生活で大切にしたいことを整理し、その時点で根拠と現実性のある選択肢を比較することが、次の治療へ進むための出発点になります。

大腸がんステージ4の最新治療

大腸がんの「最新治療」には、すでに日本で承認され、条件を満たせば保険診療で受けられる治療と、治験によって有効性や安全性を確かめている研究段階の治療が混在しています。新しい薬が次々と報道されると、標準治療より優れた方法がすぐに受けられるように感じるかもしれませんが、研究段階の治療は効果が確立しているわけではなく、参加できる患者さんにも細かな条件があります。

執筆時点での大きな変化は、以前は専用の薬がなかった遺伝子変異に対する治療が増え、複数の標準治療を受けた後にも選べる薬が広がっていることです。一方、免疫療法が効きにくいタイプへの新しい治療や、血液検査によって再発や薬剤耐性を早く見つける方法については、まだ研究が続いています。

治療・技術 2026年7月時点の位置付け 主に関係する患者さん
BRAF V600Eを標的とする治療 国内承認済み。一次治療から選択可能 BRAF V600E変異陽性
KRAS G12Cを標的とする治療 国内承認済み。標準的な薬物療法後に検討 KRAS G12C変異陽性
HER2を標的とするADC 条件を満たせば国内で使用可能 HER2陽性で標準治療が難しくなった患者
フルキンチニブ 国内承認済み。複数の治療後に検討 バイオマーカーを問わず、一定の治療歴がある患者
ctDNAによる血液検査 遺伝子変異の検索には実用化。微小残存病変に基づく治療変更は研究段階 組織採取が難しい患者、手術後の再発リスクを詳しく調べる患者
MSS/pMMRに対する新しい免疫療法 治験段階 一般的な免疫療法が効きにくいタイプ

BRAF V600E変異では、最初の治療から遺伝子変異を狙えるようになった

BRAF V600E変異を持つ大腸がんは、病気の進行が比較的速く、従来の抗がん剤だけでは十分な効果を得にくいタイプとして知られてきました。以前は、一次治療の後に病気が進行してからBRAF阻害薬を使用するのが一般的でしたが、2025年11月、日本でもエンコラフェニブ、セツキシマブ、mFOLFOX6を組み合わせる治療が一次治療から使用できるようになりました。

承認の根拠となったBREAKWATER試験では、腫瘍が一定以上縮小した患者の割合が新しい併用療法で60.9%、従来治療で40.0%でした。病気が進行せずに過ごせた期間の中央値も12.8か月対7.1か月となり、診断時からBRAF V600E変異を直接狙う意義が示されています。誰にでも使える治療ではありませんが、予後が厳しいと考えられていたタイプに、最初から専用の治療を選べるようになったことは大きな変化です。

参考:「BRAF V600E変異陽性結腸・直腸がんに対する一次治療の国内承認」小野薬品工業

KRAS変異の一部にも専用の治療が加わっている

RAS遺伝子に変異がある大腸がんでは抗EGFR抗体薬の効果が期待しにくく、長い間、変異そのものを狙う薬もありませんでした。しかし、KRAS変異の中でもG12Cという型については、KRAS G12C阻害薬と抗EGFR抗体薬を組み合わせる治療が開発されています。

日本では2025年、標準的な抗がん剤治療後に病気が進行したKRAS G12C変異陽性の大腸がんに対し、ソトラシブとパニツムマブの併用が承認されました。対象になるのはKRAS変異全体ではなくG12C型に限られますが、「RAS変異があれば専用の分子標的薬は使えない」という状況は少しずつ変わっています。

参考:「KRAS G12C変異陽性結腸・直腸がんに対するソトラシブ・パニツムマブ併用療法の国内承認」武田薬品工業

HER2陽性大腸がんでは、抗体薬物複合体が治療候補になる

一部の大腸がんでは、がん細胞にHER2というタンパク質や遺伝子の異常が認められます。HER2を標的とする治療には複数の選択肢がありますが、2026年3月には抗体薬物複合体であるトラスツズマブ デルクステカンが、一定のHER2陽性条件を満たす進行・再発固形がんへ適応拡大されました。

抗体薬物複合体は、がん細胞の目印へ結合する抗体に抗がん剤成分をつなぎ、標的となる細胞へ薬を届ける仕組みです。大腸がんでも、HER2遺伝子増幅や強いHER2発現が確認され、標準的な治療が難しくなった場合には候補となることがあります。ただし、HER2がわずかに発現しているだけで使用できるわけではなく、承認された検査で条件を満たしているかを確認しなければなりません。重い間質性肺疾患を起こす可能性もあるため、治療中に新しい咳や息切れ、発熱が現れた場合には早急な評価が必要です。

参考:「エンハーツのHER2陽性進行・再発固形がんへの国内適応拡大」第一三共

複数の標準治療後にも、経口薬の選択肢が増えている

遺伝子変異に対応する薬だけでなく、バイオマーカーを問わず検討できる後方治療も増えています。フルキンチニブは、がんが新しい血管を作る際に使うVEGF受容体の働きを抑える飲み薬で、日本では2024年に承認されました。フッ化ピリミジン、オキサリプラチン、イリノテカン、分子標的薬など、複数の標準治療を受けた後に病気が進行した患者が主な対象です。

参考:「フリュザクラの国内発売」武田薬品工業

国際共同第Ⅲ相試験のFRESCO-2では、フルキンチニブを開始してからの全生存期間中央値が7.4か月、プラセボ群では4.8か月でした。これはステージ4と診断されてから7.4か月という意味ではなく、複数の治療を受けた後に試験治療を始めた時点からの数字です。腫瘍を大きく縮小させることより、病気の進行を遅らせる役割を持つ薬であり、高血圧、強い疲労感、手足症候群などに注意しながら使用します。

参考:Dasari A, et al. FRESCO-2. The Lancet.

ctDNA検査は、治療標的を探す目的では実用化が進んでいる

がん細胞から血液中へ流れ出したDNAを調べる検査を、ctDNA検査またはリキッドバイオプシーと呼びます。腫瘍組織を採取するのが難しい場合や、病気が治療によって性質を変えた可能性がある場合に、血液からRASやBRAFなどの遺伝子変異を調べる目的で使われることがあります。

採血だけで繰り返し調べられることは大きな利点ですが、血液中へ十分な腫瘍DNAが出ていないと、実際には変異があっても検出されない場合があります。結果が陰性でも必要に応じて組織検査を追加するのは、この偽陰性を避けるためです。

参考:「ctDNA検査に関する推奨」ESMO

手術後の血液中にctDNAが残っているかを調べ、画像に映らない微小な病変や再発リスクを推定する研究も進んでいます。

肝転移や肺転移を根治目的で切除した後に、ctDNAの結果をもとに抗がん剤を強くする、減らす、早く再開するといった治療戦略が検討されていますが、2026年7月時点では、ctDNAだけを根拠に治療方針を決めることは一般的な標準診療にはなっていません。CT検査や腫瘍マーカーに代わる検査ではなく、既存の検査へ情報を加える技術として研究が続いています。

参考:ctDNA applications and integration in colorectal cancer: an NCI Colon and Rectal–Anal Task Forces whitepaper

免疫療法が効きにくいタイプへの研究も続いている

免疫チェックポイント阻害薬が高い効果を示しやすいのは、MSI-HまたはdMMRという特徴を持つ少数の大腸がんです。大腸がんの多くを占めるMSSまたはpMMRでは、免疫療法を単独で使用しても十分な効果が得られにくく、この壁を越えることが研究上の大きな課題になっています。

研究では、免疫療法へ抗がん剤や血管新生阻害薬を組み合わせる方法、一つの薬で免疫と血管新生の両方へ作用する二重特異性抗体、免疫細胞をがん細胞へ近づける抗体などが検討されています。RAS経路をより広く抑える次世代薬や、HER2以外の目印へ抗がん剤成分を届ける抗体薬物複合体も治験段階にあります。研究が行われていることと、効果が確立していることは同じではなく、MSS/pMMRの患者さんへ一般診療として勧められる新しい免疫療法はまだ限られています。

最新治療を調べるときは「承認済みか、治験段階か」を確認

最新治療という言葉だけでは、その治療を実際に受けられるかどうかは分かりません。日本で承認され保険診療として使える薬なのか、海外だけで承認されているのか、治験で効果を検証している段階なのかによって、利用条件や費用、予測できる副作用は大きく異なります。自分が対象になるかを判断するには、遺伝子検査の結果だけでなく、これまで受けた治療、病気の広がり、全身状態、治験を実施している施設へ通えるかまで確認する必要があります。

大腸がんの最新治療は、すべての患者さんへ同じ新薬を追加する方向ではなく、がん細胞の特徴を細かく分け、それぞれに合う治療を選ぶ方向へ進んでいます。以前は予後が厳しいと考えられていたBRAF V600E変異や、専用薬がなかったKRAS G12C変異にも治療が加わり、標準治療後の選択肢も広がりました。その一方で、研究段階の治療を過度に期待せず、現在利用できる標準治療を逃さないことも同じくらい重要です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 大腸がんステージ4でも手術を受けられますか?

受けられる場合があります。肝臓や肺への転移があっても、大腸の原発巣と転移巣をすべて切除でき、手術後に十分な臓器機能を残せると判断されれば、根治を目指した手術が検討されます。診断時には切除できなくても、薬物療法で腫瘍が縮小した後に手術へ進めることもあります。

手術の可否は、転移の個数だけでは決まりません。病変の位置、重要な血管との関係、肝臓や肺に残せる機能、ほかの臓器への転移、患者さんの体力まで含めて判断します。手術の可能性がある場合は、大腸外科だけでなく肝胆膵外科や呼吸器外科など、転移先の手術を専門とする医師にも評価してもらうことが重要です。

Q2. 肝転移や肺転移があっても完治できますか?

一部の患者さんでは、原発巣と転移巣を完全に切除し、長期間再発しない状態を目指せます。大腸がんでは、選択された肝転移や肺転移の患者さんに対して、手術が根治の可能性を持つ治療になります。

ただし、手術を受ければ必ず完治するわけではありません。画像で確認できる病変をすべて切除しても、体内に微小ながん細胞が残っている可能性があり、手術後に再発する患者さんもいます。再発した病変が再び切除できる場合もあるため、手術後も定期的な画像検査と血液検査を続けます。

Q3. ステージ4と診断されたら、必ず人工肛門になりますか?

必ず人工肛門になるわけではありません。人工肛門が必要になるのは、主に腫瘍によって便の通り道が塞がれている場合、腸に穴が開く危険がある場合、直腸がんの手術で肛門を残すことが難しい場合などです。腸閉塞を避け、早く薬物療法へ進む目的で一時的な人工肛門を造ることもあります。

人工肛門には、一時的に造設して後から閉鎖できるものと、継続して使用するものがあります。装具の扱いに慣れ、状態が安定すれば、仕事、旅行、入浴、無理のない運動も可能です。食事にも原則として一律の禁止はありませんが、便の状態や腸の狭窄に合わせた調整が必要になる場合があります。

Q4. 食事で大腸がんを小さくできますか?

特定の食品や食事療法だけで、ステージ4大腸がんを縮小させたり治したりできるという信頼できる根拠はありません。標準治療の代わりに極端な糖質制限や断食、健康食品だけへ頼ると、体重や筋肉量が低下し、予定していた治療を受けにくくなるおそれがあります。

治療中の食事で優先したいのは、十分なエネルギー、水分、タンパク質を確保し、体力を保つことです。食欲がないときは少量を複数回に分け、食べられる食品を利用します。ただし、腸が狭くなっている場合には、一般には健康的とされる食物繊維の多い食品が腸閉塞の原因になることもあります。病変の状態に応じて、担当医や管理栄養士へ具体的な食事内容を確認してください。

Q5. 治療を受けながら仕事を続けられますか?

病状と仕事内容によりますが、外来で薬物療法を受けながら仕事を続けている患者さんもいます。治療日と副作用が強く出やすい日を把握し、在宅勤務、時差出勤、勤務時間の短縮などを利用することで、退職せずに治療を続けられる場合があります。

診断直後に仕事を辞めるかどうかを決める必要はありません。治療を始めてから体調の波を確認し、必要な配慮を勤務先と相談する方法もあります。病院のがん相談支援センターや医療ソーシャルワーカーでは、休職制度、傷病手当金、職場への伝え方などについて相談できます。2026年度からは、事業主による治療と仕事の両立支援が努力義務として位置付けられています。

Q6. お酒は飲んでもよいのでしょうか?

大腸がんになったからといって、すべての患者さんが必ず禁酒しなければならないわけではありません。ただし、抗がん剤による吐き気や下痢、脱水、肝機能障害がある時期には、飲酒によって症状が悪化する可能性があります。手術前後や治療直後も、飲酒を控えるよう指示されることがあります。

飲酒できる量は、治療内容、肝臓の状態、服用している薬によって異なります。以前と同じ量を飲んでよいとは限らないため、治療中は担当医や薬剤師へ確認してください。下痢が続いている場合には、アルコールが腸を刺激して症状を強めることもあります。

Q7. 運動や旅行をしても大丈夫ですか?

体調が安定し、主治医から制限を受けていなければ、散歩や軽い筋力運動などを続けることは可能です。無理のない運動は筋力や体力の維持に役立ち、治療中の生活を保ちやすくします。ただし、骨転移がある場合、手術直後、貧血や発熱がある場合には、運動内容を調整しなければなりません。

旅行も一律に禁止されるものではありませんが、治療日程、副作用が出やすい時期、緊急時の受診先を確認してから計画します。人工肛門があっても旅行は可能です。装具を多めに持参し、長距離移動では脱水や血栓を防ぐため、可能な範囲で水分補給と体を動かす時間を確保します。

Q8. セカンドオピニオンはどの時点で受けるべきですか?

治療方針の説明を受けたものの、肝転移や肺転移を切除できる可能性について確認したい場合、複数の治療選択肢が提示されて迷っている場合、治験を含めた次の治療を知りたい場合には、セカンドオピニオンが役立ちます。大腸がんステージ4では、転移巣の切除可能性やコンバージョン治療の判断に複数分野の専門性が必要になるため、専門施設の意見を聞く意味があります。

セカンドオピニオンは、転院を前提とした診察ではありません。現在の検査画像や病理結果を別の専門医に見てもらい、診断や治療方針について意見を聞く制度です。治療開始前だけでなく、薬が効かなくなり次の方針を考える時点も利用しやすいタイミングです。ただし、治療を急ぐ病状では時間的な制約があるため、いつまでに決める必要があるかを主治医へ確認しておきます。

Q9. 大腸がんは家族へ遺伝しますか?

大腸がんの多くは、親から子へ直接遺伝する病気ではありません。一方、ごく一部にはリンチ症候群や家族性大腸腺腫症など、生まれつき大腸がんになりやすい体質が関係するものがあります。若い年齢で発症した場合、血縁者に大腸がんや子宮体がんなどの患者さんが複数いる場合、複数のがんを経験している場合には、遺伝性腫瘍の評価が提案されることがあります。

治療選択のために調べるRASやBRAFなどの遺伝子変異は、多くの場合、がん細胞の中だけに生じた変化であり、そのまま家族へ遺伝するものではありません。MSI-H/dMMRが見つかった場合にはリンチ症候群が隠れている可能性もあるため、必要に応じて遺伝カウンセリングや血液を使った遺伝学的検査を行います。

Q10. 標準治療が効かなくなったら、もう治療法はありませんか?

現在の薬が効かなくなっても、作用の異なる標準治療へ切り替えられる場合があります。特定の病変だけが進行しているなら、手術や放射線治療を追加して、全身治療を続ける方法も検討されます。バイオマーカーを再評価し、BRAF V600E、KRAS G12C、HER2などに対応する治療が候補になることもあります。

標準治療の選択肢が少なくなった段階では、治験やがん遺伝子パネル検査も検討できます。ただし、自由診療を含む「最新治療」が標準治療より優れているとは限りません。現在残されている保険診療、治験の参加条件、期待できる効果と副作用を整理したうえで、次の選択肢を比較することが大切です。

大腸がんステージ4と向き合うために ― 納得できる治療を選ぶための考え方

大腸がんステージ4は、原発巣から離れた臓器や腹膜、遠隔リンパ節などへがんが広がった状態であり、決して治療が容易な病期ではありません。しかし、ステージ4という診断だけで治療の目的や将来が一つに決まるわけでもありません。

大腸がんステージ4の治療を考えるとき、最初に確認したいのは「一番強い薬は何か」ではなく、「すべての病変を切除できる可能性があるか」という点です。肝転移や肺転移を切除できるかどうかは、単純な個数だけでは判断できません。初回の診断だけで「生涯手術できない」と決まるものではない一方、腫瘍が小さくなっただけで必ず手術できるわけでもなく、完全に取り切れる見込みがあるかを慎重に判断する必要があります。

生存率や全生存期間中央値は、病気の厳しさや治療の進歩を理解するうえで欠かせない情報です。しかし、それらは一定の条件を満たした患者集団の結果であり、個人の余命をそのまま示すものではありません。数字を見ないようにする必要はありませんが「自分はその統計のどの患者群に近いのか」「数字は診断時から数えたものか、特定の治療を始めてから数えたものか」を確認しなければ、実際以上に悲観したり、反対に過度な期待を抱いたりすることがあります。

治療方針に迷いがある場合、セカンドオピニオンを利用することもできます。別の専門医へ相談することは、現在の担当医を否定する行為ではありません。今の方針が妥当であることを確認し、納得して治療へ進むためにも利用できます。ただし、腸閉塞や出血など急いで対応しなければならない病状では、意見を聞くために治療開始を長く遅らせないよう、相談できる期限を主治医へ確認しておく必要があります。

大腸がんステージ4は、根治を目指せる患者さんと、病気を長くコントロールすることを目標とする患者さんが同じ病期の中に含まれています。治療開始時の方針が途中で変わることもあり、一度の選択ですべてが決まるわけではありません。切除可能性を繰り返し評価し、遺伝子や免疫の特徴に合った薬を選び、副作用や生活への影響を調整しながら、その時点で現実的な選択を積み重ねていくことが大切です。

「胃がんのステージ4です。」

医師からその言葉を告げられた瞬間「もう治療はできないのではないか」「余命はあとどれくらいなのだろう」「家族には何と伝えればいいのか」と頭が真っ白になった方も多いのではないでしょうか。

インターネットで「胃がん ステージ4」と検索すると「末期がん」「余命」「腹膜播種」「治らない」といった不安をあおるような言葉が並び、さらに気持ちが落ち込んでしまうことも少なくありません。しかし、現在の胃がん診療は以前とは大きく変わっています。

かつて、ステージ4胃がんの治療は、抗がん剤による延命治療が中心であり、治療の選択肢は限られていました。しかし近年は、HER2陽性胃がんに対する分子標的薬や、免疫チェックポイント阻害薬、さらにCLDN18.2を標的とした新しい治療薬の登場によって、患者さん一人ひとりのがんの特徴に合わせた治療が行われるようになっています。

ステージ4と一口に言っても、その病状は決して同じではありません。腹膜播種が中心の人もいれば、肝臓だけに転移している人もいます。HER2陽性の人もいれば、MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)が見つかる人もいます。転移の部位や数、がん細胞の性質、全身状態によって選択できる治療は大きく異なり、その後の経過も一人ひとり違います。

さらに近年では、薬物療法によって腫瘍が大きく縮小した患者に対し、根治切除を目指す「コンバージョン手術(Conversion Surgery)」が行われるケースも増えてきました。以前は「手術はできない」と考えられていた患者でも、治療の経過によって新たな選択肢が生まれることがあります。

もちろん、ステージ4胃がんは依然として治療が難しい病気であることに変わりはありません。しかし「何もできない病気」ではなくなっていることも、現在の医学が示している事実です。

この記事では、胃がんステージ4とはどのような状態なのかをはじめ、生存率や余命の考え方、現在受けられる標準治療、分子標的薬や免疫療法、最新治療、完治の可能性、さらに保険診療以外の選択肢まで、現在の医学的知見に基づいて詳しく解説します。

診断直後に知っておきたい基本的な知識だけでなく、これから治療方針を考えるうえで判断材料となる情報も、できるだけ分かりやすくまとめました。この記事が、不安の中で情報を探している患者さんやご家族にとって、現状を冷静に理解し、納得できる治療を選択するための一助になれば幸いです。

  • 胃がんステージ4は遠くの臓器や腹膜などへがんが転移している状態
  • 胃がんステージ4の5年生存率は約6.2%(国立がん研究センター 2015年5年生存率)
  • 進行胃がんの治療成績は新しい薬剤の登場によって少しずつ改善している

胃がんステージ4とは

胃がんステージ4とは、胃の壁を越えて広がったがんが、遠くの臓器や腹膜などへ転移している状態を指します。一般的には「最も進行した胃がん」「末期胃がん」と説明されることもありますが、実際の診療では「ステージ4」という言葉だけで病状や予後を判断することはありません。

現在の胃がん治療では、どこへ転移しているのか、転移はどの程度広がっているのか、そしてがん細胞がどのような特徴を持っているのかまで詳しく調べたうえで、一人ひとりに合わせた治療方針が決められます。同じステージ4という診断であっても、治療内容や期待できる効果、生存期間は患者さんによって大きく異なります。

TNM分類

胃がんの進行度は、国際的に用いられているTNM分類によって決定されます。Tは胃壁への深達度や周囲臓器への浸潤、Nはリンパ節転移、Mは遠隔転移を表しており、この三つを組み合わせて病期(ステージ)が決まります。このうち、ステージ4へ分類される最大の理由は「M」、つまり遠隔転移です。

胃から離れた臓器へ転移している場合だけでなく、腹膜へがん細胞が散らばる「腹膜播種」も遠隔転移として扱われます。そのため、肝臓や肺などに転移がなくても、腹膜播種が確認されればステージ4と診断されます。

参考:胃癌治療ガイドライン|一般社団法人 日本胃癌学会

胃がんステージ4でも病状は一人ひとり大きく異なる

肝臓に小さな転移が一つだけ見つかった患者さんと、腹膜全体へがん細胞が広がり腹水がたまっている患者さんでは、同じステージ4であっても病気の性質や治療方針は大きく異なります。転移の部位だけではなく、HER2陽性やMSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)、CLDN18.2陽性など、がん細胞が持つ特徴によって使用できる薬剤も変わります。

そのため「ステージ4だから○○という治療を行う」という考え方ではなく、「その患者さんの胃がんには、どのような特徴があるのか」を詳しく調べたうえで治療方針を決定します。「ステージ4」という診断は治療のスタートラインであり、その後どのような治療を選択できるかは、これから行う詳しい検査によって決まっていくのです。

胃がんステージ4で最も多い「腹膜播種」とは

胃がんステージ4を理解するうえで、最も重要なキーワードの一つが『腹膜播種(ふくまくはしゅ)』です。

肺がんや大腸がんでは肝臓や肺への転移が中心になることが多い一方、胃がんでは腹膜播種が非常に高い頻度でみられます。実際、ステージ4胃がんの患者さんでは、腹膜播種が治療方針や予後に大きく影響するケースが少なくありません。

腹膜とは

腹膜とは、お腹の中にある胃や腸、肝臓などの臓器を包んでいる薄い膜です。胃がんが胃の壁を深く越えて進行すると、一部のがん細胞が胃の外へこぼれ落ち、腹腔内を漂うようになります。そして腹膜へ付着・増殖し、小さながんが無数に広がっていく状態が腹膜播種です。

血液やリンパ液の流れに乗って転移する肝転移や肺転移とは異なり、腹膜播種は「お腹の中にがん細胞が散らばる」という特徴的な広がり方をします。そのため、CT検査でははっきり確認できないほど小さな病変が多数存在していることも珍しくありません。

腹膜播種で現れる症状

腹膜播種が始まったばかりの段階では、自覚症状がほとんどないこともあります。しかし、病変が増えてくると、お腹全体にさまざまな症状が現れるようになります。

腹水

代表的なのが、腹水です。腹膜へ広がったがん細胞が炎症を引き起こすことで、お腹の中へ水分がたまりやすくなります。腹水が増えると、お腹が張るような感覚や圧迫感が強くなり、食事を少し食べただけでもすぐ満腹になることがあります。さらに腹水が大量になると、横になるだけで息苦しさを感じたり、歩くことが難しくなったりすることもあります。

腸閉塞(イレウス)

もう一つ注意したい症状が『腸閉塞(イレウス)』です。腹膜播種が腸の表面へ広がると、腸の動きが悪くなったり、一部が狭くなったりすることがあります。すると、食べたものや消化液が正常に流れなくなり、腹痛や吐き気、嘔吐、便やガスが出にくくなるといった症状が現れます。

イレウスは緊急の対応が必要になることもあるため「お腹の張りが急に強くなった」「何度も吐いてしまう」「数日間便が出ない」といった症状がある場合には、早めに主治医へ相談することが重要です。

その他の症状

腹膜播種では、このほかにも体重減少、食欲低下、全身のだるさなどが少しずつ進行することがあります。これらは胃がんそのものによる症状だけではなく、腹膜播種によって食事量や栄養状態が悪化することも大きく関係しています。

腹膜播種があると治療はできないのか

以前は、腹膜播種が見つかった時点で手術は難しく、治療の選択肢も限られていました。しかし近年の診療では、その考え方も変わりつつあります。

分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を含む薬物療法によって腹膜播種が縮小し、症状を長期間コントロールできる患者さんも増えています。薬物療法が非常によく効き、腹膜播種が画像上あるいは腹腔鏡検査でほとんど確認できなくなった一部の患者さんでは、コンバージョン手術が検討されることもあります。

もちろん、これはすべての患者さんに適応される治療ではありません。腹膜播種の広がり方や薬物療法への反応、全身状態などを慎重に評価したうえで判断されます。それでも「腹膜播種があるから何もできない」という時代ではなくなってきたことは、現在の胃がん診療における大きな変化の一つといえるでしょう。

参考:胃がん|国立がん研究センター がん情報サービス

胃がんステージ4でも治療を行う理由

胃がんステージ4は遠隔転移を伴う進行した状態であり、早期胃がんのように手術だけで治癒を目指せるケースは多くありません。しかし「ステージ4だから治療をしない」という考え方は基本的にありません。

その理由は、薬物療法を中心とした治療によって、病気の進行を抑え、症状を改善し、生活の質を維持できる可能性があるからです。患者さんによっては腫瘍が大きく縮小し、新たな治療の選択肢が生まれることもあります。ステージ4胃がんの治療は「治療をするか、しないか」ではなく「どのような目的で治療を行うのか」を考えることが重要になります。

胃がんステージ4の治療目的

ステージ4胃がんに対する治療の最も大きな目的は、がんの増殖をできるだけ抑えながら、生存期間の延長を目指すことです。

現在の薬物療法は、単に腫瘍を小さくするだけではありません。がんの進行を遅らせることで、食事や会話、仕事、趣味など、これまでの生活をできるだけ長く維持できるよう支援することも重要な役割になっています。

実際、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が使用できる患者さんでは、以前より長期間にわたって病気をコントロールできるケースも増えてきました。すべての患者さんに同じ効果が得られるわけではありませんが、治療を開始することで病気の勢いを抑えられる可能性がある以上「ステージ4だから何もできない」と考える必要はありません。

食べられる状態を維持する

胃がんでは「食べられること」を守ることも重要な治療目的になります。

胃がんは、食べ物の通り道そのものにできるがんです。そのため、病気が進行すると腫瘍が胃の出口や食道とのつなぎ目を狭くし、食事が十分に取れなくなることがあります。また、腹膜播種によって腹水が増えたり、腸の動きが悪くなったりすると、食欲低下や吐き気、早期満腹感などが強く現れることもあります。

食事量が減れば、体重だけでなく筋肉量も減少し、全身状態が悪化します。すると、予定していた抗がん剤を十分な量で続けられなくなったり、新しい治療を受けられなくなったりする可能性もあります。「食べられる状態を維持すること」は、生活の質だけではなく、その後の治療を続けるためにも重要なのです。

胃がんステージ4では、薬物療法だけではなく栄養管理や支持療法も治療の重要な柱になります。

出血や通過障害などの症状を改善する

胃がんが進行すると、腫瘍から出血したり、胃の出口が狭くなったりすることがあります。慢性的な出血では貧血が進行し、強い倦怠感や息切れの原因になります。一方、胃の出口が狭くなると、食べ物が十二指腸へ流れにくくなり、食後の吐き気や嘔吐が続くことがあります。

このような症状に対しては、薬物療法だけではなく、患者さんの状態に応じて内視鏡によるステント留置、胃空腸バイパス術、止血処置、放射線治療などを組み合わせることがあります。これらは胃がんそのものを根治する治療ではありませんが、「食べられるようになる」「出血を止める」「痛みを和らげる」といった症状改善を目的とした重要な治療です。

症状が改善することで体力が回復し、その後の薬物療法を継続できるようになるケースも少なくありません。

薬物療法がよく効けば、新たな治療選択肢が生まれることも

以前は、ステージ4胃がんでは手術はほとんど行われませんでした。しかし現在では、薬物療法によって腫瘍や転移巣が大きく縮小し、遠隔転移が十分にコントロールされた患者さんに対して「コンバージョン手術」が検討されることがあります。

これは最初から手術を予定する治療ではなく、薬物療法の効果を慎重に評価した結果「根治切除が可能」と判断された場合に選択される治療です。もちろん、すべての患者さんが対象になるわけではありません。それでも「最初は手術できない状態だった患者さんに、新しい選択肢が生まれる可能性がある」という点は、現在の胃がん治療を理解するうえで重要な変化といえるでしょう。

次の章では、こうした治療方針を決定するために行われる検査について詳しく解説します。現在の胃がん診療では、転移の有無だけではなく、HER2やCLDN18.2、MSI、PD-L1などのバイオマーカー検査が治療選択に大きく関わるため、それぞれの検査がどのような意味を持つのかを理解しておくことが重要です。

胃がんステージ4と診断された後に行われる検査

胃がんステージ4と診断された後、治療はすぐに始まるわけではありません。まず行われるのは、「どの治療が最も効果を期待できるのか」を判断するための詳しい検査です。

以前の胃がん治療では、転移の有無や患者さんの体力を中心に治療方針が決められていました。しかし現在は、がん細胞そのものの特徴まで詳しく調べ、一人ひとりに合った薬剤を選択する時代へ変わっています。そのため、診断後に行われる検査には「病気がどこまで広がっているか」を確認する検査と、「どの薬が使えるか」を調べる検査という二つの役割があります。

転移の広がりを正確に把握する画像検査

治療方針を決めるうえで最初に重要になるのが、がんがどこまで広がっているのかを正確に確認することです。

CT検査では、胃の周囲だけでなく、肝臓や肺、リンパ節などへの転移を評価します。胃がんは肝転移やリンパ節転移を起こしやすいだけでなく、腹膜播種を伴うことも多いため、お腹全体の状態を丁寧に確認することが欠かせません。

必要に応じてPET-CTが追加されることもありますが、胃がんではすべての病変がPET-CTで描出されるわけではありません。特に腹膜播種や小さな転移巣では検出が難しいこともあるため、CTや内視鏡検査の結果と合わせて総合的に判断されます。

画像検査だけでは判断が難しい場合には、腹腔鏡検査を行うことがあります。腹部に小さな穴を開けてカメラを挿入し、腹膜を直接観察する検査です。CTでは確認できなかった小さな腹膜播種や腹水中のがん細胞が見つかることもあり、治療方針を決めるうえで重要な情報になります。

がん細胞の特徴を調べる病理検査

胃がん治療で近年特に重要になっているのが、病理検査です。内視鏡検査などで採取した組織を詳しく調べることで、胃がんの種類だけでなく、分子標的薬や免疫療法が使用できる可能性も評価します。

HER2検査

代表的なのはHER2検査です。HER2というタンパク質が過剰に発現している胃がんでは、トラスツズマブなどHER2を標的とした治療が第一選択になることがあります。胃がん全体では約15~20%前後がHER2陽性とされており、治療方針を左右する重要な検査の一つです。

MSI検査

MSI検査も重要です。MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)が確認された胃がんでは、免疫チェックポイント阻害薬が高い効果を示すことがあります。頻度は高くありませんが、治療戦略が大きく変わる可能性があるため、現代では標準的に調べられることが増えています。

PD-L1検査

免疫療法を検討する際にはPD-L1検査も行われます。胃がんではPD-L1の発現をCPS(Combined Positive Score)という指標で評価します。この結果はニボルマブやペムブロリズマブなどを使用する際の重要な判断材料になります。

CLDN18.2検査

2024年からはCLDN18.2(クローディン18.2)の検査も注目されています。CLDN18.2陽性胃がんでは、ゾルベツキシマブ(ビロイ)を含む治療が新たな選択肢となりました。これまで使える薬剤が限られていた患者さんでも、検査結果によって治療の幅が広がる可能性があります。

がん遺伝子パネル検査が勧められることもある

標準治療が終了した後や、次の治療を検討する段階では、がん遺伝子パネル検査が提案されることがあります。これは一度に数百種類の遺伝子異常を調べ、治験や適応となる薬剤がないかを探す検査です。すべての患者さんが対象になるわけではありませんが、従来の検査では分からなかった遺伝子異常が見つかり、新しい治療へつながる可能性もあります。

この検査だけで治療法が決まるわけではありません。しかし、標準治療の選択肢が少なくなった段階では、今後の方針を考えるための重要な情報になることがあります。

ここまで紹介したように、現在の胃がん診療では「胃がん」という診断だけで治療を決めることはほとんどありません。転移の広がりに加え、HER2、MSI、PD-L1、CLDN18.2など複数の情報を組み合わせることで、一人ひとりに適した治療法を選択しています。

参考:ゲノム医療について|厚生労働省

胃がんステージ4の治療全体像

胃がんステージ4と診断されると「抗がん剤しか方法はないのでしょうか」と質問されることがよくあります。薬物療法はステージ4胃がんの中心となる治療です。しかし、一つの治療だけで経過をみることはほとんどありません。

胃がんは、病気の進行によって起こる症状が患者さんごとに大きく異なります。食事が通りにくくなる人もいれば、腹膜播種による腹水が問題になる人もいます。肝転移が中心の人もいれば、リンパ節転移だけで比較的全身状態が保たれている人もいます。

胃がんステージ4の治療は「どの薬を使うか」だけで決まるものではありません。薬物療法を軸にしながら、必要に応じて手術や放射線治療、内視鏡治療、栄養管理、緩和ケアを組み合わせ、一人ひとりの病状に合わせて治療計画を組み立てていきます。

薬物療法が治療の中心

ステージ4胃がんでは、全身へ広がったがん細胞を一度に治療する必要があります。手術で胃を切除しても、腹膜や肝臓、リンパ節などへ転移した病変まですべて取り除くことは難しいため、まずは全身へ作用する薬物療法が治療の中心になります。

薬物療法といっても、現在は単純に抗がん剤を使用するだけではありません。HER2陽性であれば分子標的薬を組み合わせることがありますし、PD-L1の発現状況やMSI-Hであるかどうかによって免疫チェックポイント阻害薬が加わることもあります。さらにCLDN18.2陽性では、新たな分子標的薬を使用できるようになり、治療の組み合わせは以前よりも複雑になっています。

同じステージ4胃がんでも、検査結果によって第一選択となる治療が変わるため、「誰もが同じ抗がん剤を使う」という時代ではなくなっています。

治療は段階的に組み立てられる

薬物療法は、一度開始したら最後まで同じ薬を使い続けるわけではありません。治療を始めた後は、CT検査や血液検査を定期的に行い、腫瘍が縮小しているのか、変化がないのか、それとも大きくなっているのかを確認します。

十分な効果が得られている間は同じ治療を継続し、病気が進行した場合や副作用が強くなった場合には、次の治療へ切り替えることになります。これを二次治療、三次治療と呼びます。

近年は使用できる薬剤が増えたことで、一つの治療だけで終わるのではなく、複数の治療を順番に受けながら病気をコントロールしていく考え方が一般的になっています。治療開始時だけでなく「次にどの治療を選択するか」まで見据えて計画を立てることも、現在の胃がん診療では重要になっています。

薬物療法以外の治療を優先することもある

すべての患者さんが、診断直後から抗がん剤を開始できるとは限りません。例えば、胃の出口が狭くなり、水分さえ十分に飲めない状態では、まず食事が通るようにする治療を優先することがあります。腫瘍から出血が続いている場合には止血処置が必要になることがありますし、腹水によって呼吸が苦しい場合には腹水を抜く処置を行うこともあります。

病状によっては胃空腸バイパス術やステント留置術が選択されることもあり、これらによって食事が可能になった後に薬物療法を開始するケースも少なくありません。胃がんでは、病気そのものだけではなく、病気によって生じる症状を改善することも治療の重要な役割になります。

治療目標が途中で変わる場合も

治療を始めた時点では「病気の進行を抑えながら生活を維持すること」が目標になる患者さんがほとんどです。一方で、薬物療法が予想以上によく効き、転移巣が大きく縮小した場合には、当初は考えられなかった選択肢が見えてくることがあります。

代表的なのが、コンバージョン手術です。最初は切除できないと判断された胃がんでも、薬物療法によって根治切除が可能と判断されれば、手術を検討できる場合があります。逆に、治療を続ける中で体力の低下や副作用が問題となり、治療内容を調整した方がよい場面もあります。

治療の目標は最初から最後まで変わらないものではなく、病気の変化や生活の状況に合わせて見直されていきます。診断直後の時点で将来を決めつける必要はありません。治療に対する反応を一つひとつ確認しながら、その時点で最も適した選択を積み重ねていくことが、胃がんステージ4の診療では何よりも大切になります。

次の章では、ステージ4胃がん治療の中心となる抗がん剤について、どのような薬剤が使用されるのか、どのような患者さんに選択されるのか、副作用への対策も含めて詳しく解説します。

参考:胃がん 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

胃がんステージ4の抗がん剤治療

胃がんステージ4の治療では、薬物療法が中心になります。その中でも、最も基本となるのが抗がん剤治療です。胃がん治療の標準的な抗がん剤は一つではありません。年齢や体力、転移の広がり、HER2やPD-L1、CLDN18.2などの検査結果を踏まえて治療内容が決められます。現在は、複数の薬剤を組み合わせた治療を基本とし、必要に応じて分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を追加する方法が標準治療になっています。

一次治療ではフッ化ピリミジン系とプラチナ製剤の併用が基本

薬物療法の中心となるのは、フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ製剤を組み合わせた化学療法です。具体的には、S-1とオキサリプラチンを組み合わせたSOX療法や、カペシタビンとオキサリプラチンを組み合わせたCapeOX療法、5-FUとオキサリプラチンを併用するFOLFOX療法などが広く用いられています。これらの治療は、がん細胞のDNA合成や細胞分裂を妨げることで増殖を抑えることを目的としています。

どの治療法が選択されるかは、患者さんの年齢や腎機能、通院頻度、内服薬を継続できるかどうかなども考慮して決定されます。S-1は内服薬であるため自宅で服用できますが、食事が十分に取れない患者さんでは点滴中心の治療が選択されることもあります。一方、オキサリプラチンは比較的高い治療効果が期待できる反面、手足のしびれが長期間残ることがあるため、副作用の程度を確認しながら投与量を調整していきます。

参考:胃癌治療ガイドライン|日本胃癌学会

HER2陽性では分子標的薬を併用する

HER2陽性胃がんでは、抗がん剤だけではなく、HER2を標的とした分子標的薬を併用することが標準治療になります。代表的なのがトラスツズマブ(ハーセプチン)です。

ToGA試験では、HER2陽性進行胃がんに対して抗がん剤へトラスツズマブを追加することで、生存期間の延長が確認されました。この結果を受け、HER2検査は現在の胃がん診療で欠かせない検査の一つとなっています。

さらに近年では、HER2陽性胃がんに対する抗体薬物複合体(ADC)であるトラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)も使用できるようになり、HER2陽性患者の治療選択肢は大きく広がっています。同じ抗がん剤治療でも、HER2の結果によって組み合わせる薬剤は大きく変わります。

参考:Herceptin の主要な試験(ToGA)でHER2陽性胃がんにおいて有意な延命効果が認められる
参考:抗悪性腫瘍剤 「エンハーツ®」の日本におけるHER2陽性胃がんの二次治療に係る添付文書改訂のお知らせ

抗がん剤だけで治療する患者は以前より少なくなっている

胃がん治療は、この数年で大きく変化しました。以前は抗がん剤単独が標準だった患者さんでも、現在では免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬を併用するケースが増えています。例えばPD-L1 CPSが一定以上の患者さんでは、ニボルマブを追加することが標準治療になっています。CLDN18.2陽性胃がんでは、ゾルベツキシマブ(ビロイ)を組み合わせた治療も選択肢になります。

現在の抗がん剤治療は「抗がん剤だけで戦う治療」ではなく「抗がん剤を土台として複数の薬剤を組み合わせる治療」へ変わっています。

副作用が管理しやすくなっている

抗がん剤に対して「吐き気がひどい」「何も食べられなくなる」「髪がすべて抜ける」といったイメージを持っている人も多いでしょう。確かに副作用は避けて通れませんが、副作用を予防する薬剤や支持療法が大きく進歩しています。

吐き気には複数の制吐薬を組み合わせて使用し、白血球減少にはG-CSF製剤を使用することがあります。下痢や口内炎、末梢神経障害についても早い段階から対策を行い、必要に応じて休薬や減量を行いながら治療を継続していきます。

副作用が出ること自体は珍しくありませんが、「我慢しながら治療を続ける」のではなく「副作用を管理しながら治療を続ける」という考え方が現在の標準になっています。気になる症状があれば早めに医療スタッフへ伝えることで、重症化を防ぎやすくなります。

抗がん剤は「効かなくなるまで続ける」わけではない

「一度始めた抗がん剤は、一生続けるのでしょうか」と質問されることがあります。実際にはそのようなことはありません。治療中は定期的にCT検査や血液検査を行い、腫瘍が縮小しているか、副作用が強くなっていないかを確認します。十分な効果が得られている間は治療を継続しますが、病気が進行した場合や副作用によって生活への影響が大きくなった場合には、薬剤の変更や休薬を検討します。

近年は二次治療、三次治療まで見据えて治療を組み立てることが一般的になっています。最初の抗がん剤が効かなくなったからといって、そこで治療が終わるとは限りません。病状やこれまでの治療経過に応じて、新しい薬剤や分子標的薬、免疫療法へ切り替えられる可能性もあります。抗がん剤治療は、一つの薬剤だけで完結するものではなく、その後の治療へつなげていくための重要な第一歩でもあります。

分子標的薬 ― 胃がんの特徴に合わせて治療を選ぶ時代へ

胃がんの薬物療法は、長い間「抗がん剤」が中心でした。しかし近年は、がん細胞が持つ特定の分子や遺伝子異常を標的とした『分子標的薬』が次々に登場し、治療の考え方は大きく変わっています。

分子標的薬は、すべての胃がん患者さんが使用できるわけではありません。HER2やCLDN18.2など、がん細胞に特定の特徴が確認された場合に使用される薬剤であり、事前に行う病理検査やバイオマーカー検査が治療方針を決める重要な鍵になります。そのため「どのタイプの胃がんなのか」を見極めたうえで治療を組み立てることが基本になっています。

HER2陽性胃がんでは分子標的薬が第一選択

最も広く使用されている分子標的薬が、HER2を標的とした治療です。HER2は、がん細胞の増殖に関わるタンパク質の一つで、このタンパク質が過剰に発現している胃がんでは、通常よりも増殖する力が強くなることがあります。HER2陽性は進行胃がん全体の約15~20%に認められるとされており、診断時にはHER2検査を行うことが標準となっています。

HER2陽性と判定された場合には、抗がん剤にトラスツズマブ(ハーセプチン)を組み合わせた治療が第一選択になります。トラスツズマブはHER2へ選択的に結合し、がん細胞の増殖を抑えるだけでなく、免疫細胞ががん細胞を攻撃しやすくする働きもあります。

トラスツズマブが効かなくなった場合でも治療が終わるわけではありません。近年は『トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)』という抗体薬物複合体(ADC)が使用できるようになりました。ADCは、HER2を目印にして抗がん剤をがん細胞へ直接届ける仕組みを持つ薬剤です。

DESTINY-Gastric01試験では、これまで治療を受けたHER2陽性進行胃がん患者に対して、高い奏効率と生存期間の延長が報告されました。従来であれば治療選択肢が限られていた患者さんにも、新たな治療の可能性が広がっています。

参考:胃がんに対する二次治療としてのトラスツズマブ デルクステカンが生存期間を有意に延長|国立がん研究センター

CLDN18.2陽性胃がんでは新しい標準治療が始まっている

近年、胃がん領域で最も大きな話題の一つとなっているのが『CLDN18.2(クローディン18.2)』です。CLDN18.2は胃粘膜に存在するタンパク質ですが、一部の胃がんではがん細胞の表面に強く発現しています。このタンパク質を標的とする薬剤が「ゾルベツキシマブ(ビロイ)」です。

SPOTLIGHT試験では、CLDN18.2陽性・HER2陰性進行胃がんに対し、標準的な化学療法へゾルベツキシマブを追加することで、無増悪生存期間と全生存期間の改善が確認されました。これを受け、日本でも新たな治療選択肢として使用できるようになっています。

CLDN18.2はすべての胃がんで陽性になるわけではないため、使用には専用の検査が必要です。しかし、検査結果によっては治療成績の向上が期待できることから、今後ますます重要性が高まると考えられています。

参考:クローディン18.2陽性HER2陰性進行胃がんに対するゾルベツキシマブ+化学療法+ニボルマブ併用療法が有効な可能性|国立がん研究センター

血管新生を抑える分子標的薬も使用されている

胃がんは、成長するために新しい血管を作りながら栄養を取り込んでいます。この血管新生を抑える目的で使用されるのが『ラムシルマブ(サイラムザ)』です。ラムシルマブはVEGFR2という受容体を標的とし、腫瘍へ新しい血管が作られるのを抑えることで、がんの増殖を遅らせます。

一次治療終了後の二次治療では、パクリタキセルとラムシルマブを組み合わせた治療が広く行われています。RAINBOW試験では、この併用療法がパクリタキセル単独と比べて生存期間を延長することが示され、現在も世界各国のガイドラインで推奨されています。

参考:治療歴のある進行胃癌または食道胃接合部腺癌患者におけるRamucirumab+paclitaxel-療法 vs. プラセボ+paclitaxel療法:第III相二重盲検無作為化比較試験(RAINBOW)

分子標的薬は「使える人」が決まっている

分子標的薬は非常に高い治療効果が期待できる一方で、「胃がんなら誰でも使える薬」ではありません。HER2陽性でなければトラスツズマブやエンハーツは使用できませんし、CLDN18.2が確認されなければゾルベツキシマブの適応にはなりません。

逆に言えば、これらの検査を行わなければ、本来受けられる治療を見逃してしまう可能性もあります。だからこそ、進行胃がんでは診断時にHER2、PD-L1、MSI、CLDN18.2などのバイオマーカー検査を十分に行うことが重要となります。

免疫チェックポイント阻害薬 ― 免疫の力でがんと闘う新しい治療

胃がん治療は分子標的薬の登場だけでなく「免疫チェックポイント阻害薬」によっても大きく変わりました。これまでの抗がん剤は、がん細胞そのものを攻撃することが目的でした。一方、免疫チェックポイント阻害薬は、患者さん自身が持つ免疫の働きを回復させ、免疫細胞ががんを攻撃しやすい状態を作る治療です。この仕組みが従来の抗がん剤とは大きく異なるため、効果の現れ方や副作用にも違いがあります。

免疫療法は「誰にでもよく効く治療」ではありません。効果が期待できる患者さんと、そうでない患者さんがいることが分かっており、治療を始める前にはいくつかの検査結果を参考にして適応を判断します。

一次治療から免疫療法を併用するケース

進行胃がんでは、HER2陰性の患者さんを中心に、抗がん剤へ免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせる治療が標準となっています。代表的な薬剤が 『ニボルマブ(オプジーボ)』です。

国際共同第Ⅲ相試験である「CheckMate 649試験」では、HER2陰性進行胃がん・食道胃接合部がん患者を対象に、化学療法へニボルマブを追加した群で、生存期間の延長が確認されました。この結果を受け、日本でも条件を満たす患者さんでは、一次治療からニボルマブを併用することが推奨されています。

以前は「抗がん剤が効かなくなってから検討する治療」という位置付けでしたが、現在では診断直後から使用されることも珍しくありません。

参考:切除不能進行・再発胃/食道胃接合部/食道腺癌の1次治療におけるNivolumab+化学療法と化学療法を比較した国際共同無作為化オープンラベル比較第III相試験(CheckMate 649試験)

PD-L1検査は治療方針を決める重要な材料

免疫療法を検討する際に重要になる検査が『PD-L1検査』です。胃がんでは、PD-L1の発現を「CPS(Combined Positive Score)」という方法で評価します。この数値が高い患者さんでは、免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待しやすいことが知られています。

ただし、「PD-L1が低いから免疫療法はまったく効かない」という意味ではありません。PD-L1はあくまでも判断材料の一つであり、年齢や全身状態、転移の状況、ほかのバイオマーカーなども総合的に考慮したうえで治療方針が決められます。検査結果だけで治療が決まるわけではありませんが、今では欠かせない情報の一つになっています。

MSI-H胃がんでは高い治療効果が期待できる

免疫療法との関係で忘れてはならないのが『MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)』です。MSI-Hとは、がん細胞に多くの遺伝子異常が蓄積した状態を指します。このタイプの胃がんでは免疫細胞が異常を認識しやすくなるため、免疫チェックポイント阻害薬が高い効果を示すことがあります。

胃がん全体から見るとMSI-Hは多くありませんが、該当する患者さんでは治療方針そのものが変わる可能性があります。そのため、進行胃がんではMSI検査も重要な検査として位置付けられています。

抗がん剤とは異なる副作用

免疫療法は副作用が少ない治療というイメージを持たれることがあります。実際には吐き気や脱毛などは抗がん剤より少ない傾向がありますが、免疫療法には『免疫関連有害事象(irAE)』と呼ばれる特有の副作用があります。これは、活性化した免疫が正常な臓器まで攻撃してしまうことで起こる副作用です。

皮膚の発疹やかゆみ、甲状腺機能異常、肺炎、大腸炎、肝機能障害、副腎機能低下など、さまざまな臓器に影響する可能性があります。多くは早期に発見して適切な治療を行えば改善しますが、「少し息苦しい」「下痢が続く」「強いだるさがある」といった症状を軽く考えず、早めに主治医へ相談することが重要です。

免疫療法は長く効果が続く場合もある

免疫チェックポイント阻害薬の特徴の一つが、効果が現れた患者さんでは長期間病気をコントロールできることがある点です。

もちろん、すべての患者さんに同じ結果が得られるわけではありません。治療を開始しても十分な効果が得られない場合もありますし、途中で病気が進行することもあります。一方で、免疫療法がよく効いた患者さんでは、病気を長期間抑えながら日常生活を維持している例も報告されています。こうした治療成績が積み重ねられたことで、免疫チェックポイント阻害薬は現在の進行胃がん治療に欠かせない選択肢となりました。

抗がん剤、分子標的薬、免疫療法は、それぞれ役割が異なります。胃がん診療ではそれらを単独で考えるのではなく、患者さんの病状やバイオマーカーに応じて最適な組み合わせを選択することが標準になっています。

手術・放射線治療・内視鏡治療

胃がんステージ4では薬物療法が治療の中心になりますが、それだけで対応できるとは限りません。

胃は食べ物を一時的にため、十二指腸へ送り出す役割を担っています。そのため、がんが大きくなると食べ物の通り道が狭くなり、食事が十分に取れなくなることがあります。また、腫瘍から出血が続けば貧血が進行し、腹膜播種が広がれば腹水や腸閉塞などの症状が現れることもあります。こうした症状が強くなると、薬物療法を始めたくても体力が追いつかず、予定どおり治療を進められないことがあります。

胃がんステージ4では「がんを小さくする治療」と並行して、「食べられる状態を維持する治療」や「症状を和らげる治療」も重要になります。

胃を切除する手術が検討されるケース

ステージ4胃がんでは、診断時から胃を切除する手術を行うケースは多くありません。遠隔転移がある状態では、胃だけを切除しても体内に残った転移巣まで取り除くことはできないためです。しかし、例外があります。薬物療法によって原発巣と転移巣が大きく縮小し、画像検査などで根治切除が可能と判断された場合には、「コンバージョン手術」が検討されることがあります。

この手術は、最初から予定されているものではありません。薬物療法にどの程度反応したかを慎重に評価したうえで、「切除することによって長期的な病勢コントロールが期待できる」と判断された患者さんに限って行われます。適応となる患者さんは多くありませんが、胃がん治療の進歩によって、以前は手術が不可能と考えられていた症例でも新たな選択肢が生まれるようになっています。

食事が通らないときは、食べられる状態を取り戻す治療を優先

胃がんでは、腫瘍が胃の出口や食道との境目を狭くし、食事や水分が十分に通らなくなることがあります。食べられない状態が続けば、体重や筋力は急速に低下し、抗がん剤を続けることも難しくなります。こうした場合には、内視鏡で金属製のステントを留置して通り道を広げたり、胃と小腸をつないで食べ物の流れを確保する「胃空腸バイパス術」を行ったりすることがあります。

これらの治療は胃がんを根治するものではありませんが、栄養状態を改善し、その後の薬物療法へつなげるという重要な役割を担っています。「まず食べられるようにする」という判断が、結果的に治療全体の継続につながることも少なくありません。

放射線治療の目的

胃がんでは、放射線治療が第一選択になることは多くありません。一方で、腫瘍からの出血が続いている場合や、骨転移による強い痛みがある場合には、放射線治療が大きな効果を発揮することがあります。

特に出血性胃がんでは、輸血を繰り返さなければならないほど貧血が進行することもあります。そのような状況では放射線によって出血を抑えられる場合があり、患者さんの負担軽減につながります。また、骨転移による痛みや神経の圧迫症状に対しても、放射線治療は生活の質を維持するための重要な治療法として位置付けられています。

薬物療法だけでは改善しにくい症状に対して局所治療を組み合わせることで、日常生活を送りやすい状態を維持できることも少なくありません。

参考:経口摂取不良の切除不能胃癌に対する治療戦略|消化器癌治療の広場

緩和ケア・支持療法 ― 治療を続けるために欠かせない医療

「緩和ケア」と聞くと、「もう治療ができなくなった人が受ける医療」というイメージを持つ人は少なくありません。しかし、その考え方は既に大きく変わっています。緩和ケアは終末期だけに行われるものではなく、診断された早い段階から標準治療と並行して取り入れることが推奨されています。

緩和ケアの大きな役割は、がんによる痛みや吐き気、食欲低下、精神的な不安を和らげながら、抗がん剤や免疫療法を無理なく続けられるよう支えることです。治療そのものと対立するものではなく、治療を支える医療と考える方が実際の診療に近いでしょう。

緩和ケアの考え方

胃がんステージ4では、がんそのものよりも、病気によって起こる症状が日常生活へ大きな影響を及ぼすことがあります。例えば、腫瘍によって食べ物が通りにくくなれば十分な栄養を取ることができず、腹膜播種が進行すれば腹水による腹部膨満感や食欲低下が現れます。こうした症状が続くと体力や筋力は急速に低下し、本来受けられるはずだった薬物療法を続けられなくなることもあります。そのため、症状を我慢しながら治療を続けるのではなく、症状を積極的に改善しながら治療を継続するという考え方が基本になっています。

栄養管理

胃がんでは栄養管理が治療成績を左右することも珍しくありません。胃は食べ物を一時的にため、消化を助ける重要な臓器であるため、病気が進行すると少量しか食べられなくなったり、食後すぐに満腹感を覚えたりすることがあります。さらに腹膜播種や腹水が加わると、胃が十分に広がらず、以前と同じ量の食事を摂ることが難しくなります。

このような状態では、一度に多く食べようとするよりも、一日の食事回数を増やして少量ずつ栄養を補う方が体への負担は少なくなります。必要に応じて栄養補助食品や経腸栄養、点滴による栄養補給を組み合わせることもあり、管理栄養士が食事内容を調整しながら治療を支えるケースも増えています。

腹水への対応

腹膜播種を伴う患者さんでは、腹水への対応も重要になります。腹水が増えると、お腹の張りだけでなく呼吸のしづらさや食欲低下、歩行時の疲れやすさなど、日常生活のさまざまな場面へ影響が及びます。薬物療法によって腹水が減少することもありますが、症状が強い場合には腹水穿刺によって水分を排出し、苦痛を軽減する処置が行われることもあります。

腹水は「抜けば終わり」というものではなく、栄養状態や腎機能とのバランスを考えながら対応する必要があるため、病状に応じた個別の判断が欠かせません。

痛みのコントロール

痛みのコントロールも緩和ケアの重要な役割です。がんによる痛みは我慢するものではなく、適切に治療することで生活の質を大きく改善できる症状です。現在はアセトアミノフェンなどの鎮痛薬から医療用麻薬まで、痛みの程度に応じてさまざまな薬剤が使用されています。医療用麻薬に対して不安を抱く患者さんもいますが、医師の管理のもとで適切に使用すれば、依存を過度に心配する必要はありません。痛みを抑えることで睡眠や食事が改善し、その結果として体力を維持しやすくなることも少なくありません。

精神的な負担のケア

胃がんステージ4では、身体的な症状だけでなく、将来への不安や家族への心配など精神的な負担も大きくなります。こうした悩みに対しても、医師だけではなく看護師、薬剤師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、公認心理師など、多職種が連携して支援を行います。

治療を続けるかどうかという大きな判断だけではなく、「今食べられない」「夜眠れない」「家族へどう伝えればよいか」といった日常の困りごとについて相談できることも、緩和ケアの大切な役割です。

緩和ケアは自分らしい生活を続けられるように支える医療

緩和ケアは、治療を諦めるための医療ではありません。治療によって得られる効果を最大限に引き出し、患者さんが自分らしい生活をできるだけ長く続けられるよう支える医療です。胃がんステージ4では、薬物療法と同じくらい重要な柱として考えられており、症状を我慢せず早い段階から医療スタッフへ相談することが、結果として治療の継続や生活の質の向上につながります。

胃がんステージ4の生存率

胃がんは、早期に発見されれば手術だけで根治できる可能性が高いがんです。一方、遠隔転移を伴うステージ4では治療の目的が大きく変わるため、生存率にも大きな差が生じます。

国立がん研究センターの院内がん登録の長期予後データでは、ステージごとの5年・10年生存率は次のように報告されています。

病期 5年生存率 10年生存率
ステージI 約82.0% 約64.6%
ステージII 約59.7% 約44.0%
ステージIII 約37.5% 約25.2%
ステージIV 約6.2% 約3.4%

参考:院内がん登録生存率集計結果閲覧システム|がん情報サービス

この表からも分かるように、胃がんはステージⅢまでは一定数の患者さんで長期生存が期待できますが、遠隔転移を伴うステージⅣになると生存率は大きく低下します。ただし、この数字だけで「ステージ4なら必ず5年以内に亡くなる」という意味ではありません。

この統計には10年以上前に診断された患者さんも含まれており、現在では標準となっているHER2標的治療や免疫チェックポイント阻害薬、CLDN18.2を標的とした治療などの効果は十分に反映されていません。現在診断される患者さんでは、これらの新しい治療によって長期間病気をコントロールできるケースも少しずつ増えています。

同じステージ4でも病状には幅がある

「ステージ4」という診断名は同じでも、病状には大きな幅があります。肝臓へ小さな転移が一つだけ見つかった患者さんと、腹膜播種が広範囲に広がり腹水を伴っている患者さんでは、病気の進行速度も治療方針も異なります。同じステージ4でも、分子標的薬や免疫療法が高い効果を示す患者さんでは、これまでより長期間病勢をコントロールできることがあります。

「ステージ4の5年生存率は約6%」という数字は、あくまでも多くの患者さんを平均した結果であり、個々の患者さんの予後を示すものではありません。

ネット・サバイバルデータ

病期 5年ネット・サバイバル 10年ネット・サバイバル
ステージI 約92.8% 約79.1%
ステージII 約66.6% 約52.0%
ステージIII 約41.4% 約29.3%
ステージIV 約6.7% 約3.9%

参考:院内がん登録生存率集計結果閲覧システム|がん情報サービス

国立がん研究センターが公表している「ネット・サバイバル」でも、遠隔転移を伴う胃がんは、限局がんや領域リンパ節転移に比べて生存率が低いことが示されています。ネット・サバイバルとは、胃がん以外の死亡要因を統計学的に補正し「胃がんだけが原因だった場合の生存率」を推計した指標です。

このデータでも、遠隔転移例の5年生存率は10%未満と報告されており、ステージ4が依然として治療の難しい病期であることが分かります。

生存率を左右するのは「ステージ」だけではない

現在の胃がん診療では、ステージよりも細かい情報が治療成績へ影響することが少なくありません。

HER2陽性ではトラスツズマブを含む治療が選択できますし、治療経過によってはトラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)という新しい薬剤も使用できます。MSI-Hでは免疫チェックポイント阻害薬が高い効果を示すことがあり、CLDN18.2陽性ではゾルベツキシマブ(ビロイ)が新たな選択肢になります。

腹膜播種が主体なのか、肝転移が主体なのかによっても経過は異なります。腹膜播種では腹水や腸閉塞による栄養状態の悪化が問題になりやすい一方、肝転移が限局している患者さんでは薬物療法が奏効し、長期間病勢をコントロールできるケースもあります。

このように、生存率を決める要素は「ステージ4」という一つの診断名だけではありません。

生存率は現在の医学水準を示す数字

統計を見ると不安になるのは当然です。しかし、生存率は過去の患者さんの集計結果であり、「あなたがあと何年生きられるか」を示す数字ではありません。治療開始後すぐに病気が進行する患者さんもいれば、複数の薬物療法を受けながら5年以上仕事や日常生活を続けている患者さんもいます。近年は新しい薬剤の承認が相次いでおり、診断された時点では存在しなかった治療が、その後の治療中に選択肢へ加わることもあります。

生存率は現実を知るための大切な指標ですが、それだけで将来を決めつける必要はありません。現在受けられる治療を正しく理解し、自分の病状に合った選択肢を一つずつ検討していくことが、これからの治療を考えるうえで何より重要になります。

胃がんステージ4の余命 ― 平均余命や中央値の考え方

胃がんステージ4と診断されると、多くの患者さんやご家族が気になるのが「余命」です。

しかし、医学では「余命○年」と一律に表現することはほとんどありません。実際の臨床では『全生存期間中央値(Overall Survival:OS)』という指標が用いられます。これは臨床試験に参加した患者さんのうち、半数が生存していた期間を示すものであり、一人ひとりの余命を予測する数字ではありません。

近年は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場によって治療成績が改善しており、どの治療を受けられるかによって全生存期間にも違いがみられるようになっています。

まずは、現在の胃がん治療を代表する主要な臨床試験の結果を見てみましょう。

主な臨床試験で報告されている全生存期間中央値

臨床試験 主な対象 治療内容 全生存期間(OS中央値)
従来の標準化学療法※1 HER2陰性など 化学療法 約10~12か月
ToGA試験 HER2陽性 トラスツズマブ+化学療法 13.8か月
CheckMate 649試験 HER2陰性・PD-L1 CPS≥5 ニボルマブ+化学療法 14.4か月
ATTRACTION-4試験 HER2陰性(アジア) ニボルマブ+化学療法  約17.5か月※2
SPOTLIGHT試験 CLDN18.2陽性・HER2陰性 ゾルベツキシマブ+化学療法 18.2か月

※1 従来の標準化学療法は複数の臨床試験を参考にした概ねの目安です。
※2 ATTRACTION-4試験では無増悪生存期間(PFS)は有意に延長しましたが、全生存期間(OS)は統計学的な有意差を示しませんでした。試験ごとに対象患者や治療条件が異なるため、数値を単純に比較することはできません。

この表を見ると、進行胃がんの治療成績は新しい薬剤の登場によって少しずつ改善していることが分かります。

もちろん「18.2か月だから最も優れた治療」という意味ではありません。

SPOTLIGHT試験はCLDN18.2陽性患者だけを対象としていますし、ToGA試験はHER2陽性患者、CheckMate 649試験はPD-L1の発現状況を考慮した患者集団を対象としています。つまり、それぞれ『対象となる患者さんが異なるため、数字だけを横並びに比較することはできない』のです。

重要なのは、自分の胃がんがどのタイプに当てはまり、どの治療を受けられる可能性があるかを知ることです。

「全生存期間中央値」の意味

全生存期間中央値という言葉は「その期間しか生きられない」と誤解されることがあります。

例えばOS中央値が14.4か月と報告されている場合、それは14.4か月で全員が亡くなるという意味ではありません。実際には、それより短期間で病気が進行する患者さんもいれば、2年、3年、5年以上治療を続けながら生活している患者さんも含まれています。

中央値とは、患者さんを生存期間の短い順に並べたとき、ちょうど真ん中の患者さんが生存していた期間を表す統計学上の指標です。そのため、個人の余命を判断する数字として使うことはできません。

余命を左右するのは治療だけではない

同じ薬剤を使用していても、患者さんによって経過が異なるのは珍しいことではありません。年齢や持病、体力だけでなく、腹膜播種の有無、腹水の量、食事が十分に取れているかどうか、治療開始時の全身状態(Performance Status)など、多くの要素が予後へ影響します。

胃がんでは栄養状態が特に重要です。食事量が減って体重や筋肉量が大きく低下すると、予定していた治療を十分な量で継続できなくなることがあります。一方、症状を早期からコントロールし、栄養状態を維持できれば、二次治療や三次治療まで進める可能性が高まり、その結果として生存期間が延びることも期待できます。

余命は「がんの大きさ」だけでは決まりません。病気とどのように付き合いながら治療を続けられるかも、大きな要素になります。

新しい治療によって長期生存例も増え始めている

近年は、従来であれば難しいと考えられていた長期生存例も国内外から報告されています。

HER2陽性胃がんで分子標的薬が長期間奏効した症例、免疫チェックポイント阻害薬によって病勢を数年間コントロールできた症例、薬物療法によって転移巣が大きく縮小し、コンバージョン手術へ進んだ症例など、その内容はさまざまです。

もちろん、これらはすべての患者さんに当てはまるものではありません。しかし、「ステージ4だから余命は○か月」と断定できない理由も、このような症例が少しずつ増えていることにあります。新しい薬剤は現在も開発が続いており、診断された時点では利用できなかった治療が、その後の治療中に選択肢へ加わることもあります。

余命は「未来を決める数字」ではなく「治療を考えるための目安」

余命の数字は、これからの生活や治療について考えるための参考になります。一方で、その数字だけで将来を決めつける必要はありません。現在の胃がん治療は、HER2やCLDN18.2などの分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、さらに今後実用化が期待される新しい治療によって、少しずつ治療成績が改善しています。

大切なのは「平均は何か月か」という一点だけを見ることではなく、自分の胃がんにはどの治療が適しているのか、今後どのような選択肢が残されているのかを主治医と確認しながら、一つずつ治療を積み重ねていくことです。

次の章では、「胃がんステージ4でも完治する可能性はあるのか」という疑問について、コンバージョン手術や長期生存例、現在の医学的な考え方をもとに詳しく解説します。

胃がんステージ4でも完治する可能性はあるのか

「ステージ4でも完治することはありますか。」

これは、生存率や余命と並んで、患者さんやご家族から最も多く寄せられる質問の一つです。結論から言えば『胃がんステージ4が完治する可能性はゼロではありません。』しかし、早期胃がんのように手術だけで根治が期待できる病気とは異なり、その可能性は決して高くありません。一方で「ステージ4=絶対に完治しない」と断言することも、現在の医学では正確ではなくなっています。

近年は薬物療法の進歩によって、転移巣が画像上ほとんど確認できないほど縮小したり、切除不能と考えられていた胃がんが手術可能になったりする症例が報告されるようになりました。

まずは「完治」という言葉が医学的にどのような意味を持つのかを理解しておくことが大切です。

「完治」と「治癒」は意味が異なる

一般的には「がんがなくなれば完治」と考えられることが多いでしょう。しかし、医学では「画像検査でがんが見えなくなったこと」と「再発する可能性がほとんどなくなったこと」は区別して考えます。

例えば、抗がん剤や免疫療法によってCT検査で腫瘍が見えなくなったとしても、体内には画像では確認できないごく少数のがん細胞が残っている可能性があります。

そのため、医療現場では「完全奏効(Complete Response:CR)」という表現を用いることはあっても、「完治」と断言することはほとんどありません。特にステージ4胃がんでは、一度遠隔転移が確認されている以上、治療後も慎重な経過観察が必要になります。

コンバージョン手術によって長期生存が期待できるケース

現在、胃がんステージ4で最も「治癒」に近づける可能性がある治療として注目されているのが『コンバージョン手術(Conversion Surgery)』です。これは、診断時には切除できないと判断された胃がんに対して薬物療法を行い、その結果、原発巣や転移巣が大きく縮小して根治切除(R0切除)が可能になった場合に手術を行う治療戦略です。

例えば、肝転移が少数に限られている症例や、リンパ節転移が薬物療法によって著しく縮小した症例では、胃と転移巣を切除することで長期間再発なく経過する患者さんも報告されています。

もちろん、この治療を受けられる患者さんは限られています。腹膜播種が広範囲に広がっている場合や、複数の臓器へ転移している場合には適応が難しいことも少なくありません。さらに、R0切除が達成できても再発リスクは残ることは忘れてはならない事実です。それでも「ステージ4だから最初から手術は不可能」と考えられていた時代と比べると、治療の可能性は確実に広がっています。

腹膜播種でも手術を目指せるケース

胃がんステージ4では、腹膜播種を伴う患者さんが少なくありません。以前は、腹膜播種が確認された時点で根治手術はほぼ不可能と考えられていました。しかし近年では、薬物療法によって腹膜播種が著しく縮小し、腹腔鏡検査でも活動性がほとんど認められなくなった患者さんに対して、コンバージョン手術が行われるケースも報告されています。

実際には非常に慎重な判断が必要であり、すべての患者さんが対象になるわけではありません。それでも、「腹膜播種がある=治療は緩和ケアだけ」という時代ではなくなったことは、現在の胃がん診療における大きな変化の一つです。

長期生存例の特徴

国内外から報告されている長期生存例を見ると、いくつか共通する特徴があります。

一つは、薬物療法が非常によく効いたことです。HER2陽性胃がんではトラスツズマブを含む治療によって長期間病勢をコントロールできた症例が報告されていますし、近年では免疫チェックポイント阻害薬やトラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)が著効した症例も報告されています。

もう一つは、「R0切除」が達成できた症例です。R0切除とは、画像上だけではなく、病理学的にもがんを完全に切除できた状態を指します。コンバージョン手術後にR0切除が達成された患者さんでは、5年以上再発なく経過している症例も報告されており、長期生存を期待できる重要な因子と考えられています。

もちろん、これらは一部の患者さんで得られた結果であり、すべての患者さんへ当てはまるものではありません。

「完治」を目標にするか「長く病気をコントロールするか」はケースバイケース

現在の胃がんステージ4治療では、「完治だけ」を唯一の目標にしているわけではありません。病気をできるだけ長くコントロールしながら、自分らしい生活を続けることを重視する患者さんも多くいます。実際、分子標的薬や免疫療法によって数年間仕事や家庭生活を続けながら治療を受けている患者さんもいます。一方で、薬物療法への反応が非常によく、コンバージョン手術を目指せる患者さんもいます。

どちらが正しいということではなく、病気の状態や患者さん自身が大切にしたいことによって、治療の目標は変わります。「ステージ4だから何もできない」という考え方ではなく、「今の病状ならどこまで治療を目指せるのか」を一人ひとり検討することが重要になっています。

標準治療以外の選択肢 ― 自由診療・治験・先進的な治療について

胃がんステージ4の治療を続けていると「標準治療が効かなくなったら、もう方法はないのでしょうか」という不安を抱く患者さんは少なくありません。インターネットで情報を調べると「最新治療」「自由診療」「海外では新しい治療が受けられる」といった情報が数多く見つかりますが、その内容は玉石混交であり、科学的根拠が十分に示されていないものも含まれています。

まず知っておきたいのは「標準治療が終了したからといって、直ちに治療の選択肢がなくなるわけではない」ということです。胃がんでは二次治療、三次治療まで見据えて治療計画が立てられることが一般的になっており、新しい薬剤への切り替えや、バイオマーカーの再評価、治験への参加など、病状によって検討できる選択肢が残されている場合があります。自由診療を考える前に、現在の医学的根拠に基づいて利用できる治療を整理することが大切です。

治験は新しい治療を受けられる可能性の一つ

治験という言葉に「ほかに治療法がなくなった人だけが参加するもの」という印象を持っている方もいるかもしれません。しかし実際には、新しい薬剤や治療法の有効性・安全性を検証するため、さまざまな段階の患者さんを対象に実施されています。

胃がん領域では、HER2を標的とした新しい抗体薬物複合体(ADC)、CLDN18.2やFGFR2bを標的とする薬剤、二重特異性抗体、新しい免疫療法など、多くの治験が国内外で進められています。標準治療では十分な効果が得られなかった患者さんにとって、新しい治療へアクセスできる可能性があることは治験の大きな意義です。

治験は研究の一環であり、必ず高い効果が得られることを保証するものではありません。期待した結果が得られない可能性や、予測されていない副作用が現れる可能性もあります。参加する際には治療内容だけでなく、期待できる利益と考えられるリスクについて十分な説明を受け、自分自身が納得したうえで判断することが重要です。

参考:胃がん 臨床試験|国立がん研究センター がん情報サービス

自由診療を検討するときに重要なこと

自由診療には、公的医療保険が適用されない治療が含まれます。なかには海外では承認されている薬剤を国内で自費診療として使用するケースや、自由診療だからこそ受けられる検査や治療を提供している医療機関もあります。一方で「がんが消える」「標準治療より優れている」といった表現で十分な科学的根拠が示されていない治療が紹介されていることもあり、慎重な判断が必要です。

自由診療というだけで効果が高いわけではありませんし、標準治療より優れていることが証明されているわけでもありません。治療を検討する際には「どのような臨床試験で効果が確認されているのか」「医学論文として公表されているのか」「国内外のガイドラインでどのように位置付けられているのか」を確認することが欠かせません。

費用面についても十分に理解しておく必要があります。自由診療では数十万円で済むものもあれば、治療を継続することで数百万円以上の費用がかかる場合もあります。期待できる効果と経済的負担の両方を踏まえ、家族や主治医とも相談しながら検討することが大切です。

腹膜播種に対する新しい治療の研究が進められている

胃がんステージ4で特に課題となる腹膜播種については、現在も新しい治療法の研究が続けられています。

代表的なものの一つが、腹腔内へ抗がん剤を投与する『腹腔内化学療法』です。点滴による全身化学療法では届きにくい腹膜播種へ直接薬剤を届けることを目的とした治療で、国内外の臨床研究が進められています。ただし、現時点ではすべての患者さんに対する標準治療ではなく、実施できる施設や適応となる患者さんは限られています。

このほかにも、温熱療法を組み合わせた治療や、新しいドラッグデリバリーシステムを利用した治療法などが研究されていますが、多くはまだ検証段階です。「新しい治療だから優れている」と考えるのではなく、どの程度の医学的根拠があるのかを確認したうえで判断することが重要です。

参考:大腸癌腹膜播種に対する腹腔内化学療法におけるドラッグデリバリーシステムの工夫|KAKEN

標準治療を土台に考えることが後悔の少ない治療選択に繋がる

新しい治療へ期待を持つことは決して悪いことではありません。しかし、標準治療には長年の臨床試験によって有効性と安全性が確認され、多くの患者さんで利益が証明されてきたという大きな強みがあります。日本や欧米のガイドラインでも、まずは標準治療を基本とし、そのうえで治験や新しい治療の可能性を検討することが推奨されています。

標準治療が思うような結果につながらなかった場合でも、次の薬剤への変更や治験への参加、新しい分子標的薬の適応確認など、検討できる選択肢が残されていることは少なくありません。「標準治療か自由診療か」という二者択一で考えるのではなく、その時点で利用できる医学的根拠のある治療を一つずつ整理し、自分に合った選択肢を見極めていくことが、納得できる治療につながります。

胃がんステージ4の最新治療 ― 今後期待されている新しい治療法

胃がんの治療は、この10年ほどで大きく進歩しました。以前は、進行胃がんに対する治療といえば抗がん剤が中心で、一つの薬剤が効かなくなると選択肢は限られていました。しかし治療の進歩によって、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が標準治療として定着し、患者さんのがん細胞の特徴に応じて治療を選択する時代へ変わっています。

現在も新しい分子標的薬や抗体薬物複合体(ADC)、免疫療法などの研究が世界中で進められており、数年前には存在しなかった治療が次々と実用化されています。こうした新しい治療法は、すべての患者さんがすぐに受けられるわけではありません。しかし「標準治療が終われば治療法はなくなる」という時代ではなくなってきていることは、胃がん診療における大きな変化といえるでしょう。

抗体薬物複合体(ADC)は胃がん治療を大きく変えつつある

近年、最も注目されている治療の一つが『抗体薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate:ADC)』です。

ADCは、分子標的薬の「狙った細胞へ結合する力」と、抗がん剤の「がん細胞を攻撃する力」を組み合わせた薬剤です。標的となるタンパク質を持つがん細胞へ選択的に薬剤を届けることで、正常な細胞への影響をできるだけ抑えながら高い治療効果を目指します。

胃がんでは、HER2陽性患者を対象とした「トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)」が代表例です。DESTINY-Gastric01試験では、従来治療後のHER2陽性進行胃がんにおいて高い奏効率と生存期間の延長が報告されました。

現在はHER2以外にも、新たな標的分子に対するADCの開発が進んでおり、今後さらに治療の幅が広がることが期待されています。

分子標的薬は「HER2だけ」の時代ではなくなった

胃がんの分子標的治療は、HER2を中心に発展してきました。しかし近年は、それ以外の分子を標的とする薬剤も相次いで登場しています。その代表が『CLDN18.2』です。CLDN18.2陽性胃がんでは、ゾルベツキシマブ(ビロイ)が標準治療へ加わり、SPOTLIGHT試験では全生存期間の延長が報告されました。

さらに現在は『FGFR2b』を標的とするベムマリツズマブ(Bemarituzumab)の国際共同試験も進められています。FGFR2bは一部の胃がんで高発現しており、この分子を標的とした治療によって生存期間のさらなる改善が期待されています。

今後はHER2だけでなく、CLDN18.2やFGFR2bなど複数のバイオマーカーを評価し、それぞれに適した薬剤を選択する流れがさらに進むと考えられます。

免疫療法も新しい組み合わせが研究されている

免疫チェックポイント阻害薬は、すでに一次治療の標準となっていますが、研究は現在も続いています。

PD-1阻害薬と新しい免疫調節薬を組み合わせる治療や、分子標的薬との併用療法など、多くの国際共同試験が進行しています。HER2陽性胃がんでは、抗HER2療法と免疫療法を組み合わせることで治療効果をさらに高められる可能性も報告されており、今後の結果が注目されています。

免疫療法は「単独で使う治療」から、「他の治療と組み合わせて効果を高める治療」へ発展しつつあります。

がんゲノム医療によって新しい治療へつながる可能性もある

標準治療が終了した患者さんでは『がん遺伝子パネル検査』が提案されることがあります。この検査では数百種類の遺伝子異常を一度に調べることができ、特定の遺伝子変異が見つかった場合には、治験や適応となる分子標的薬を検討できることがあります。

現時点では、胃がん患者さん全員が新しい治療へ結び付くわけではありません。それでも、従来であれば治療選択肢が限られていた患者さんに対して、新たな可能性を見つける手段として期待されています。がんゲノム医療は「現在使える薬を探す検査」であると同時に、「これから受けられる可能性のある治療」を探す検査でもあります。

最新治療は根拠を確認することが重要

新しい治療法が次々と報道されると「最新治療の方が標準治療より優れているのではないか」と感じる方もいるでしょう。しかし、医学では「新しい治療」であることと「効果が証明されている治療」であることは同じではありません。

現在の標準治療になっている薬剤も、長い年月をかけた臨床試験によって有効性と安全性が確認されたからこそ、多くの患者さんへ使用されるようになりました。これから登場する新しい薬剤も同じです。有望な結果が報告されていても、さらに大規模な臨床試験で有効性が確認されなければ標準治療にはなりません。

最新治療を検討する際は「新しい治療だから受けたい」と考えるのではなく、その治療がどの段階まで研究され、どのような患者さんを対象としているのかを確認することが重要です。

胃がん治療は今も進歩を続けています。数年前には存在しなかった薬剤が現在では標準治療となり、現在研究段階にある薬剤が数年後には新たな選択肢になっている可能性もあります。新しい情報を正しく理解し、標準治療と最新治療の位置付けを整理しながら治療方針を考えることが、納得のいく選択につながるでしょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 胃がんステージ4でも手術を受けられることはありますか?

あります。

一般的には、遠隔転移を伴うステージ4では薬物療法が治療の中心になりますが、薬物療法によって腫瘍や転移巣が大きく縮小し、根治切除(R0切除)が可能と判断された場合には「コンバージョン手術」が検討されることがあります。ただし、適応となる患者さんは限られており、すべてのステージ4胃がんで手術ができるわけではありません。

Q2. 胃がんステージ4でも仕事を続けることはできますか?

病状や治療内容によって異なりますが、仕事を続けながら治療を受けている患者さんも少なくありません。最近の抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬は外来で受けられるものも多く、副作用をコントロールしながら通院治療を続けられるケースが増えています。

一方で、体力や栄養状態によっては勤務時間の調整や休職が必要になることもあります。無理を続けるよりも、主治医や勤務先と相談しながら働き方を見直すことが、長く治療を続けるためには重要です。

Q3. 食事で気を付けることはありますか?

特別な「胃がんに効く食事」はありません。大切なのは十分な栄養を維持することです。

胃がんステージ4では、一度に多く食べることが難しくなる場合があります。そのようなときは、一日3食にこだわらず、少量ずつ回数を分けて食べるほうが負担を減らせることがあります。食欲低下や体重減少が続く場合には早めに主治医や管理栄養士へ相談しましょう。

Q4. セカンドオピニオンを受ける意味はありますか?

あります。特にステージ4では、HER2、CLDN18.2、MSI、PD-L1などの検査結果によって治療方針が変わることがあります。また、治験を実施している施設や、コンバージョン手術を積極的に検討している医療機関など、病院によって対応が異なることもあります。

現在の治療に納得したうえで前向きに治療を受けるためにも、セカンドオピニオンは有効な選択肢の一つです。

Q5. 標準治療が終わったら、もう治療法はないのでしょうか?

必ずしもそうではありません。二次治療、三次治療へ進める場合もありますし、HER2陽性やCLDN18.2陽性などでは、新しい薬剤が使用できる可能性もあります。さらに治験への参加やがん遺伝子パネル検査によって、新たな治療選択肢が見つかることもあります。

標準治療が終了したからといって、すべての治療が終わるとは限りません。

Q6. 禁煙や禁酒をすると治療効果は変わりますか?

喫煙は手術後の回復を遅らせるだけでなく、抗がん剤治療中の合併症や肺炎などのリスクを高めることが知られています。また過度の飲酒は肝機能へ影響し、治療の継続が難しくなる場合もあります。

禁煙や節酒だけで胃がんが治るわけではありませんが、治療を安全に続けるためにも生活習慣を見直すことは大切です。

Q7. 胃がんステージ4でも旅行や外出はできますか?

病状が安定しており、主治医から制限を受けていなければ、旅行や外出を楽しんでいる患者さんもいます。ただし、抗がん剤投与直後や体調が不安定な時期は無理をせず、旅行先で医療機関を受診できるかどうかも事前に確認しておくと安心です。

生活をすべて我慢するのではなく、体調と相談しながら自分らしい時間を過ごすことも、治療を続けるうえで大切な要素になります。

胃がんステージ4でも自分に合った治療を選択することが大切

胃がんステージ4は、遠隔転移を伴う進行した状態であり、決して簡単に治療できる病気ではありません。しかし、現在は抗がん剤だけでなく、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの登場によって、治療の選択肢は以前より大きく広がっています。

さらに、HER2やCLDN18.2などのバイオマーカーに応じて治療を選択する個別化医療が進み、一部の患者さんではコンバージョン手術による長期生存も期待できるようになってきました。新しい薬剤や治療法の研究も世界中で続いており「ステージ4だから何もできない」という時代ではなくなっています。

一方で、インターネットにはさまざまな情報があふれており、すべてが科学的根拠に基づいているとは限りません。治療を選択するときは、生存率や余命といった数字だけを見るのではなく、自分の病状や遺伝子・バイオマーカーの特徴、生活で大切にしたいことなども含めて、主治医と十分に相談しながら判断することが重要です。

胃がんステージ4の治療は、一つの治療法だけで完結するものではありません。その時々の病状に合わせて最適な選択肢を積み重ねていくことが、長く病気と向き合うための第一歩になります。不安や疑問を一人で抱え込まず、必要に応じてセカンドオピニオンも活用しながら、自分にとって納得できる治療を選択していきましょう。

参考:
胃癌治療ガイドライン|一般社団法人 日本胃癌学会
胃がん|国立がん研究センター がん情報サービス
ゲノム医療について|厚生労働省
胃がん 治療|国立がん研究センター がん情報サービス
Herceptin の主要な試験(ToGA)でHER2陽性胃がんにおいて有意な延命効果が認められる
抗悪性腫瘍剤 「エンハーツ®」の日本におけるHER2陽性胃がんの二次治療に係る添付文書改訂のお知らせ
胃がんに対する二次治療としてのトラスツズマブ デルクステカンが生存期間を有意に延長|国立がん研究センター
クローディン18.2陽性HER2陰性進行胃がんに対するゾルベツキシマブ+化学療法+ニボルマブ併用療法が有効な可能性|国立がん研究センター
治療歴のある進行胃癌または食道胃接合部腺癌患者におけるRamucirumab+paclitaxel-療法 vs. プラセボ+paclitaxel療法:第III相二重盲検無作為化比較試験(RAINBOW)
切除不能進行・再発胃/食道胃接合部/食道腺癌の1次治療におけるNivolumab+化学療法と化学療法を比較した国際共同無作為化オープンラベル比較第III相試験(CheckMate 649試験)
経口摂取不良の切除不能胃癌に対する治療戦略|消化器癌治療の広場
院内がん登録生存率集計結果閲覧システム|がん情報サービス
胃がん 臨床試験|国立がん研究センター がん情報サービス
大腸癌腹膜播種に対する腹腔内化学療法におけるドラッグデリバリーシステムの工夫|KAKEN

大細胞神経内分泌癌(Large Cell Neuroendocrine Carcinoma/LCNEC)は、肺癌全体の約3%を占める希少ながんで、非小細胞肺癌に分類される組織型のひとつです。増殖スピードが速く悪性度が高いという小細胞肺癌に似た特徴があり、平均発症年齢は約65歳、喫煙歴のある男性に多い疾患です。初期には自覚症状が乏しく、進行すると長引く咳、血痰、息切れ、胸の痛み、声のかすれ、体重減少、全身の倦怠感などが現れます。

本ページでは、大細胞神経内分泌癌の特徴や原因、症状、診断(画像検査・病理検査・免疫染色)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • 肺癌全体の約3%を占める希少ながんで、悪性度が高く再発しやすい
  • TP53・RB1などの遺伝子異常が高頻度で見られる
  • 手術後も再発リスクが高く、複数の治療を組み合わせることが重要

大細胞神経内分泌癌(LCNEC)とは

大細胞神経内分泌癌は肺癌全体の約3%しかみられない希少腫瘍です。LCNECが発生する臓器は肺が最も多く、約半数を占めています。

LCNECが発生する臓器は肺が最も多く、次いで消化器(膵臓や大腸、小腸などの消化管など)に発生することが多いがんです。

大細胞神経内分泌癌は神経内分泌腫瘍の一種と考えられています。ちなみに、神経内分泌腫瘍は、神経内分泌細胞から発生する腫瘍で、悪性度に応じて、小細胞癌、大細胞神経内分泌癌、非定型カルチノイド、定型カルチノイドに分類されます。この中で、大細胞神経内分泌癌は、小細胞癌に近い性質を持つ悪性度が高く予後不良の神経内分泌腫瘍と考えられています。

肺癌は「非小細胞肺癌」と「小細胞肺癌」の2つに分けられ、大細胞神経内分泌癌は非小細胞肺癌に属します。しかし、増殖スピードが速く悪性度が極めて高いという、小細胞肺癌によく似た特徴があります。

また、平均発症年齢は約65歳で、喫煙歴(タバコ)との強い関連があります。

肺に発生する大細胞神経内分泌癌は、初期段階では自覚症状が乏しいのが一般的です。がんが進行するにつれ、長引く咳、血痰、息切れ、胸の痛み、声のかすれ、体重減少、全身の倦怠感などの症状が現れます。

大細胞神経内分泌癌(LCNEC)の原因

大細胞神経内分泌癌の発生メカニズムは完全には解明されていませんが、喫煙(タバコ)との関連が非常に強いことが分かっています。患者様の多くは高齢男性で、長年の喫煙量(本数×年数)に比例して発症リスクが高まるのが特徴です。

また、遺伝子異常も発症原因に深く関わっていると考えられています。例えば、細胞のがん化を抑える「TP53」や「RB1」といった遺伝子の異常が高頻度で見られます。さらにこの両方とも同時に遺伝子異常が見られる方は、約40%(10人中4人程度)と報告されています。

また、一部の患者様では「STK11」や「KEAP1」の変異も確認されています。

これらの異常が重なることで、がん細胞が過剰に増え続け、極めて進行の速いがんになると考えられています。

大細胞神経内分泌癌(LCNEC)の診断

大細胞神経内分泌癌の診断は、画像検査と詳細な病理組織学的検査を組み合わせて行います。

画像検査では、CT検査で肺の末梢(外側)に比較的大きな塊(腫瘤)として発見されることが多く、PET-CT検査や頭部MRI検査を用いて全身への転移状況を調べます。

また、診断の最大の鍵となるのが病理検査です。大細胞神経内分泌癌は「細胞が大きいこと」と「ホルモンを出す性質を持つこと」の2つの条件を病理医が確認する必要があります。

一般的には、口から気管支鏡という細いカメラを挿入して腫瘍の一部を採取して病理検査を行いますが、小さな組織片では特徴を捉えきれないことが多く、手術で切り取った部分を詳しく解析して初めて病名が確定することも珍しくありません。

最終的には、特殊な染料を使って特定のタンパク質の有無を調べる「免疫染色」を行い、神経内分泌の目印(CD56、クロモグラニンA、シナプトフィジンなど)が陽性所見であれば病理診断上、確定診断できます。

大細胞神経内分泌癌(LCNEC)の一般的な治療法

大細胞神経内分泌癌の治療方針は、がんがどれくらい進行しているか(ステージ)や、患者様の体力・体調に合わせて決められます。

この病気は症例数が少なく、「どの治療が本当に効果的か」を確かめるための大規模な研究データがまだ十分にそろっておらず様々な治験も行われている状況です。

そのため実際の治療では、比較的データが蓄積されている非小細胞肺癌や小細胞肺癌の治療実績を参考にしながら、患者様お一人おひとりに合わせて慎重に治療方針を組み立てていきます。

早期の場合(まだ広がっていない場合)

大細胞神経内分泌癌の治療では、手術が最も重要な役割を果たします。ただしこの病気は、他の非小細胞肺癌に比べて、たとえ早期に見つかっても手術後に再発しやすいという特徴があります。

そのため手術だけで終わらせず、術後に抗がん剤治療(術後補助化学療法)を組み合わせることが勧められています。主に使われるのは「プラチナ製剤(シスプラチンなど)+エトポシド」という抗がん剤の組み合わせです。このような術後補助化学療法を行うことで、生存率が約58%→約88%まで改善したという報告もあります。

進行している場合・再発した場合

手術で取りきれないほど進行している場合や、再発してしまった場合には、抗がん剤を中心とした治療が主体になります。最初に選ばれることが多いのは、小細胞肺癌に準じた治療内容(プラチナ製剤+エトポシドなど)ですが、非小細胞肺癌向けの治療法が取り入れられることもあります。また近年では、一部の患者様において免疫チェックポイント阻害薬による効果も期待され始めています。

放射線治療について

放射線治療は、がんがそれ以上広がらないように抑えたり、症状を和らげたりする目的で行われます。がんが1か所にとどまっていても手術が難しいという場合には、抗がん剤治療と組み合わせる「化学放射線療法」が検討されます。

また大細胞神経内分泌癌は脳に転移しやすいという特徴があるため、転移が見つかった際の治療や痛みの緩和は、生活の質を保つうえでとても大切になります。

大細胞神経内分泌癌(LCNEC)における保険診療の限界

大細胞神経内分泌癌の保険診療では、手術・化学療法・放射線療法などを組み合わせて治療を進めます。

ただしこの病気は悪性度が非常に高く、早期再発しやすいという特徴があるため、標準治療だけでは長期的に病状を安定させるのが難しいケースも少なくありません。

実施できる化学療法の限界

大細胞神経内分泌癌は、最初の抗がん剤治療である程度の効果が見込まれますが、小細胞肺癌と同じように早期に薬が効かなくなり、再び進行するリスクが高いがんです。再発後の二次治療において、有効性が証明されたお薬の選択肢が限られている点は大きな課題となっています。

化学療法に伴う「きつい」副作用

治療に用いられるプラチナ製剤などは、吐き気、嘔吐、食欲不振、全身の倦怠感に加え、骨髄抑制(白血球や血小板の減少)による感染症リスクを伴う場合があります。特に高齢者や合併症を持つ患者様の場合、副作用により治療を続けることが難しくなるとともに、普段の生活を楽しく送れなくなる可能性があるため注意が必要です。

保険診療ではカバーしきれない再発・進行のリスク

大細胞神経内分泌癌は、手術で完全に切除できたと思われる場合であっても、短期間で別の臓器へ転移(遠隔転移)しやすい傾向があります。手術後に術後補助化学療法を行わない場合には10人に4人が、行えたとしても10人に1割程度は再発してしまうと報告されています。

大細胞神経内分泌癌で重要な新しい治療の考え方

大細胞神経内分泌癌では、現時点で最も重要なのは、「遺伝子異常の有無を調べること」と「免疫療法の適応を評価すること」です。

特にTP53変異やRB1変異は比較的高頻度とされ、標的治療の候補となりえます。また、免疫チェックポイント阻害薬が有効となる可能性もあります。これらの治療を組み合わせることで、治療効果を高めることが期待できます。

分子レベルの異常にアプローチする「核酸医薬(アプタマー・siRNA ・miR-34a mimic)」

近年、がんの発症や進行に関わる分子レベルの異常に着目した核酸医薬が注目され、研究・臨床応用が進んでいます。当院では、根本的な原因に直接作用することが期待される「アプタマー」「RNA干渉を利用した核酸医薬(siRNA など)」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を、新たな治療の選択肢として提供しています。

アプタマー核酸医薬は、がんに特有に発現している異常なタンパク質に結合し、その働きを抑えてがん細胞の増殖を抑制したり死滅させたりする治療薬です。一方、miR-34a mimic 核酸医薬は、がん化によって失われた体に本来備わる「がんを抑える力」を取り戻す治療薬で、がんの成長や増殖を止め、自然ながん細胞の死滅を促します。

がん中央クリニックグループでは、こうした分子レベルにアプローチする治療を提供しています。

欧米では、がんの部位ではなく遺伝子やタンパク質の異常に注目して治療法を決定する研究や臨床試験が行われています。日本では一部の遺伝子レベルの治療が保険適用となっているものの、国際的にはやや遅れをとっている状況です。がん中央クリニックグループでは、いち早く遺伝子レベルの異常に焦点をあてた診察・治療を導入しています。

「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」治療をオススメする患者様

アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」は、大細胞神経内分泌癌のほとんどの患者様にお選びいただける治療法です。

以下では、どのような患者様に効果が期待できるのかを解説します。ご自身の状況に照らし合わせてご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

大細胞神経内分泌癌では、病状や体力、副作用などの理由で、保険診療の標準治療だけでは選択肢が限られることがあります。そうした場合でも、がんに関わる分子レベルの異常に着目する核酸医薬は、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供することが可能です。

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)は目立った副作用が現れにくく、「体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方でも、治療の提案が可能です。

さらに、まだ治療ができる体力があるにもかかわらず選択肢がなくなり、緩和を勧められている方にとっても、新たな治療の選択肢として検討いただけます。

がん中央クリニックグループでは、核酸医薬を含め、様々な治療を組み合わせながら患者様の状態や疾患に応じて、患者様一人ひとりに合わせたテーラーメイドによる治療を提案、提供しています。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)は、化学療法などの薬物療法や放射線療法と併用でき、相乗効果が期待できます。

なぜなら、化学療法はすでに増殖したがん細胞や産生されたたんぱく質に作用するのに対し、核酸医薬はがん細胞やたんぱく質が作られる前の段階に作用するからです。両者は攻撃するポイントが異なるため、組み合わせることでより高い効果が期待できます。

大細胞神経内分泌癌は肺癌の中でも悪性度が高いため、完治を目指すには複数の治療法を組み合わせることが重要です。標準治療(手術前後の抗がん剤治療を含む)を受けている患者様にも、核酸医薬の併用は選択肢となります。

再発を抑制、防止するため。手術前後のすべての患者様

大細胞神経内分泌癌は、手術を行っても再発しやすい疾患です。手術のみでは5年以内に約4割の患者様が再発するとされ、再発予防のために術後補助化学療法(抗がん剤治療)が勧められるケースがあります。

しかし、術後補助化学療法を実施しても再発する患者様は一定数おられます。また、抗がん剤には副作用があるため、体力に不安のある高齢の患者様や副作用が心配な患者様には実施が難しいこともあります。

こうした背景から、手術前後の患者様が核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)を併用することは、再発リスクを下げる一つの選択肢となります。

治療継続可能な副作用

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)には目立った副作用が少ないことも特徴です。

特に、化学療法で起きやすい嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応などがあります。解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半であり、治療を継続するのに支障をきたしません。

「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」といった方でも受けていただける治療となっております。

大細胞神経内分泌癌の完治を目指して保険診療と患者様に合った自由診療を組み合わせるのがおすすめ

大細胞神経内分泌癌は、適切に治療を行えば完治を目指せる疾患です。

発症要因の一つに遺伝子異常があるため、保険診療と核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、免疫チェックポイント阻害薬などを組み合わせる集学的治療が有効な選択肢となります。保険診療だけではカバーしきれない場合にも、これらの治療によって腫瘍縮小効果や再発抑制効果が期待できます。

がん中央クリニックグループでは、「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがんの自由診療を提案いたします。大細胞神経内分泌癌の患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。