”新しい未来をともに”最先端のがん治療を追求するがん治療専門クリニック ”新しい未来をともに”最先端のがん治療を追求するがん治療専門クリニック

転移・再発乳がんの最新治療|新薬・抗体薬物複合体・臨床試験・治験を解説

新薬・抗体薬物複合体・臨床試験・治験情報など最新情報を紹介
※本記事の承認状況や適応は、2026年7月時点の情報に基づいています。

乳がんの薬物療法は、ホルモン受容体陽性、HER2陽性、トリプルネガティブという分類だけでなく、HER2の発現量や遺伝子変化、これまでに受けた治療を詳しく調べて選ぶ方向へ進んでいます。

近年は、従来HER2陰性とされていたHER2-low(HER2低発現)/HER2-ultralow(HER2超低発現)乳がんを対象とする治療、ESR1などの遺伝子変化に応じた内分泌療法、がん細胞へ抗がん剤成分を運ぶ抗体薬物複合体などが登場しています。血液中のがん由来DNAを調べ、画像検査で病変が大きくなる前に治療を変更する方法も実用化されました。

ただし、新しい薬がすべての乳がんに使えるわけではありません。サブタイプ、遺伝子検査の結果、治療を受ける段階、過去に使用した薬、肺や心臓、肝臓などの状態によって適応が異なります。海外で承認された治療が日本では未承認の場合もあり、国内で承認されていても、定められた検査結果や治療歴を満たさなければ保険診療では使用できません。

本記事では、主に手術不能・再発・転移乳がんを対象として、乳がん治療の何が変わったのか、どの検査によって治療が分かれるのか、最新治療を検討するときに何を確認すべきかを解説します。

乳がんの最新治療は何が変わったのか

乳がんの「最新治療」は、新薬が増えたことだけを意味しません。治療対象となる患者さんの範囲、薬を使用する順番、検査を行う時期も変わっています。

主な変化 治療選択への影響
HER2-low/HER2-ultralowが治療対象になった 従来HER2陰性とされた一部の患者さんにも抗HER2抗体薬物複合体を検討できる
遺伝子変化に応じて薬を選ぶ ESR1、PIK3CA、AKT1、PTEN、BRCA1/2などが治療選択に関わる
抗体薬物複合体が増えた HER2やTROP-2を目印として抗がん剤成分を届ける治療を選べる
血液検査で治療抵抗性を調べる ctDNAからESR1変異を見つけ、画像上の進行前に治療を変更できる場合がある
脳転移を意識した薬が増えた HER2陽性乳がんでは、脳転移への効果が検討された内服薬も国内で使用できる

これまでは薬が効かなくなれば別の内分泌療法や抗がん剤へ順番に切り替える治療が中心でした。現在は、なぜ薬が効きにくくなったのかを検査し、その仕組みに応じて次の薬を選べる場合があります。

新しい薬が有効と確認された後、より早い段階で使用する臨床試験も進められています。ただし、早く使える薬が、すべての患者さんにとって最初に選ぶべき薬とは限りません。

現在の治療で病気を抑えられている場合には、副作用や通院負担の大きい薬へ急いで変更せず、効果が続く間は同じ治療を続けることもあります。新しさだけでなく、期待できる効果、治療を続けやすいか、次に残る選択肢まで考えて順番を決めます。

最新治療を選ぶために必要な検査

新薬の名称を調べる前に、自分の乳がんがどの治療の対象になるのかを確認する必要があります。

検査項目 主に分かること 関係する治療
ER・PgR 女性ホルモンを利用して増殖する乳がんか 内分泌療法、CDK4/6阻害薬、経口SERD
HER2 HER2陽性、HER2-low、HER2-ultralowなど 抗HER2薬、抗体薬物複合体
PD-L1 免疫療法の効果を期待できる可能性 トリプルネガティブ乳がんの免疫療法
ESR1 内分泌療法への耐性に関係する変化 カミゼストラント、イムルネストラント
PIK3CA・AKT1・PTEN PI3K/AKT経路の遺伝子変化 カピバセルチブなど
BRCA1/2 DNA修復に関係する遺伝子変化 PARP阻害薬
がん遺伝子パネル検査 多数の遺伝子変化を一度に調べる 標準治療後の薬や臨床試験の候補

ホルモン受容体(ER・PgR)とHER2の検査は、乳がん治療を決める基本的な検査です。ただし、再発・転移した病変では、最初の乳がんと検査結果が異なる場合があります。安全に組織を採取でき、結果によって治療が変わる可能性がある場合には、転移巣の再生検や保存標本の再評価を行います。

HER2についても、単に陽性か陰性かを見るだけではありません。IHC 1+またはIHC 2+かつISH陰性のHER2-lowや、IHC 0の中に含まれるHER2-ultralowを区別することが、トラスツズマブ デルクステカンの治療選択に関わります。判定には、承認された検査と十分な経験を持つ病理医・検査施設が必要です。

遺伝子検査は、すべてを一度に受ければよいわけではありません。現在のサブタイプ、治療段階、次に検討する薬に応じて必要な検査を選びます。陰性だった場合に治療方針がどう変わるかまで確認したうえで検査を受けることが、結果を実際の治療へつなげるために重要です。

ホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がんで増えた治療

ホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がんでは、内分泌療法とCDK4/6阻害薬を組み合わせ、病気をできるだけ長く抑える治療が中心です。

従来は内分泌療法が効かなくなると、別の内分泌療法や抗がん剤へ切り替えることが中心でした。現在は、ESR1やPIK3CA、AKT1、PTENなどを調べ、薬が効きにくくなった仕組みに応じて治療を選べるようになっています。

ESR1遺伝子変異の場合

ESR1遺伝子変異が確認された場合でも、使用する薬は病気の状態によって異なります。一次治療中で画像上の進行がまだない場合には、アロマターゼ阻害薬をカミゼストラントへ変更し、CDK4/6阻害薬を継続する治療が候補になります。これは、ctDNA検査で耐性の兆候を捉え、画像上の進行前に対応する方法です。

参考:エトカマ(一般名:カミゼストラント)適正使用ガイド|独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

すでに内分泌療法後の進行が確認されているESR1変異陽性乳がんでは、イムルネストラントなどの経口SERDを検討します。同じESR1変異でも、変異を確認した時期と画像上の進行の有無によって使用する薬が変わります。

参考:イムルリオ(一般名:イムルネストラント)審議結果報告書|独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

PIK3CA、AKT1、PTEN遺伝子変異の場合

PIK3CA、AKT1、PTENのいずれかに遺伝子変化がある場合には、カピバセルチブとフルベストラントの併用が候補になります。ただし、カピバセルチブでは高血糖や糖尿病ケトアシドーシスが報告されているため、遺伝子変化だけでなく、糖尿病の有無や血糖値を確認しながら使用します。

参考:アストラゼネカのトルカプとフェソロデックスの併用療法、日本においてHR陽性進行乳がん患者さんの治療薬として承認取得

内分泌療法で病気を抑えることが難しくなった後は、HER2-low/ultralowの状態や抗がん剤治療歴によって、抗体薬物複合体を検討できる場合があります。

このタイプの最新治療では「遺伝子変異があるか」だけでなく、「現在の治療が効いているか」「画像上の進行があるか」「抗がん剤へ移る段階か」を合わせて判断します。

HER2陽性乳がんで増えた治療

HER2陽性乳がんでは、ペルツズマブ、トラスツズマブ、タキサン系抗がん剤を組み合わせる治療が、手術不能・転移性乳がんの一次治療として広く用いられています。

一次治療後に病気が進行した場合には、HER2を目印として抗がん剤成分を届けるトラスツズマブ デルクステカンが主要な選択肢です。従来の抗HER2抗体とは異なり、HER2の増殖シグナルを抑えるだけでなく、がん細胞内へ細胞傷害性の薬物を届けます。

参考:エンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)適正使用ガイド|独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

HER2陽性乳がんでは、全身の病変が抑えられていても脳転移が問題になることがあります。2026年には、HER2の細胞内シグナルを抑える内服薬ツカチニブが国内で承認され、トラスツズマブ、カペシタビンとの併用が選択肢に加わりました。ツカチニブは脳転移のある患者さんも含む臨床試験で検討されています。

参考:ツカイザ(ツカチニブ)審議結果報告書|独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

ただし、脳転移があれば必ずツカチニブを使用するわけではありません。頭痛、麻痺、けいれんなどを伴う大きな脳転移では、手術や放射線治療を先に行うことがあります。

HER2陽性乳がんでは使用できる薬が増えたため、どの薬が使えるかだけでなく、どの順番で使うかが重要です。間質性肺疾患がある場合にはトラスツズマブ デルクステカンを選びにくく、強い下痢や肝機能障害がある場合にはツカチニブを慎重に判断します。

新しい一次治療の研究も進んでいますが、海外の承認情報や臨床試験の結果と、日本の保険診療で現在使用できる治療は区別して確認する必要があります。

HER2-low/HER2-ultralowという新しい治療対象

HER2-lowとHER2-ultralowは、これまでHER2陰性とまとめられていた乳がんのうち、がん細胞に少量のHER2が発現している状態です。

HER2-lowは、一般にIHC 1+またはIHC 2+かつISH陰性を指します。HER2-ultralowはIHC 0と判定される乳がんのうち、がん細胞の膜にごく弱いHER2発現が確認される状態です。これらはHER2陽性乳がんと同じ病気ではありません。トラスツズマブやペルツズマブなど、従来の抗HER2療法を同じように使用できるわけでもありません。

治療対象が広がった背景には、抗体薬物複合体であるトラスツズマブ デルクステカンの登場があります。この薬は、HER2の発現量が少なくてもHER2を目印として細胞内へ取り込まれ、抗がん剤成分を放出します。

参考:HER2 低発現乳癌に対するトラスツズマブ デルクステカン(商品名 エンハーツ)適応拡⼤についてのステートメント|一般社団法人日本乳癌学会

ホルモン受容体陽性のHER2-low/ultralow乳がんでは、内分泌療法で病気を抑えることが難しくなり、抗がん剤へ移ることが適切と判断された段階で、トラスツズマブ デルクステカンを検討できる場合があります。

過去の病理報告書に「HER2陰性」とだけ記載されている場合には、IHCの具体的な数値を確認します。保存標本を再評価することで、新たな治療対象に該当すると分かることもあります。

一方、HER2-low/ultralowと判定されても、現在の内分泌療法で病気が安定している場合に、すぐ点滴治療へ変更するわけではありません。病気の進行速度、肺の状態、吐き気や脱毛などの負担を考慮して、治療を切り替える時期を判断します。

トリプルネガティブ乳がんで増えた治療

トリプルネガティブ乳がんは、ホルモン受容体とHER2のいずれも標的にできないため、以前は抗がん剤が治療の中心でした。

現在は、PD-L1、BRCA1/2、HER2のわずかな発現、過去の抗がん剤治療を確認することで、免疫チェックポイント阻害薬、PARP阻害薬、抗体薬物複合体を検討できます。

進行・再発後の一次治療では、PD-L1のCPSが10以上の場合に、ペムブロリズマブと抗がん剤の併用が候補になります。免疫療法では、甲状腺、副腎、肺、肝臓、大腸などに免疫関連副作用が生じることがあり、抗がん剤とは異なる経過観察が必要です。

参考:最適使用推進ガイドライン – ペムブロリズマブ(遺伝子組換え)|厚生労働省

生殖細胞系列BRCA1/2病的バリアントが確認され、サブタイプや治療歴などの条件を満たす場合には、オラパリブやタラゾパリブといったPARP阻害薬が検討されます。BRCA1/2検査は薬の選択だけでなく、遺伝性乳がん・卵巣がんの可能性や血縁者にも関係するため、遺伝カウンセリングを伴うことがあります。

参考:リムパーザ(一般名:オラパリブ)審議結果報告書|独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
参考:ターゼナ(一般名:タラゾパリブ)審議結果報告書|独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

複数の抗がん剤を受けた後には、TROP-2を標的とするサシツズマブ ゴビテカンが候補になります。また、トリプルネガティブ乳がんの中でもHER2-lowに該当し、治療歴などの条件を満たせば、トラスツズマブ デルクステカンを検討できる場合があります。

参考:トロデルビ(一般名:サシツズマブ ゴビテカン)審議結果報告書|独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

トリプルネガティブ乳がんでは、病気の進行が速い場合もあるため、検査結果を待てる状態かどうかも治療判断に関わります。検査上は新薬の対象でも、肝機能の急速な悪化や症状の強い脳転移があれば、すぐに効果を期待できる治療や局所治療を優先することがあります。

抗体薬物複合体とは

抗体薬物複合体(ADC)は、がん細胞の表面にあるタンパク質を見つける抗体と、細胞を傷害する薬物を結合させた治療薬です。

乳がんでは、HER2を標的とするトラスツズマブ デルクステカンや、トラスツズマブ エムタンシン、TROP-2を標的とするダトポタマブ デルクステカンや、サシツズマブ ゴビテカンなどが使用されています。

抗体薬物複合体は、抗体、両者をつなぐリンカー、抗がん剤成分であるペイロードからできています。抗体がHER2やTROP-2へ結合すると薬が細胞内へ取り込まれ、ペイロードが放出されてがん細胞を傷害します。

通常の抗がん剤よりも、標的となるタンパク質を持つ細胞へ薬物を届けやすいよう設計されています。ただし、がん細胞だけに作用するわけではなく、脱毛、吐き気、骨髄抑制、下痢、口内炎などが起こることがあります。

抗体薬物複合体の注意点

注意する副作用は薬によって異なります。トラスツズマブ デルクステカンやダトポタマブ デルクステカンでは間質性肺疾患、ダトポタマブ デルクステカンでは口内炎や角膜障害、サシツズマブ ゴビテカンでは好中球減少や下痢が治療継続に影響します。

抗体薬物複合体が複数使える場合でも、最適な順番はすべての患者さんで確立しているわけではありません。標的がHER2かTROP-2かだけでなく、前の治療が効かなくなった理由、副作用がどこまで回復しているか、肺や骨髄の状態を確認します。

なお、国内でのダトポタマブ デルクステカンの適応は、化学療法歴のあるホルモン受容体陽性・HER2陰性の手術不能または再発乳がんです。TROP-2を発現していれば、すべての乳がんに使用できるわけではありません。

抗体薬物複合体は、従来の抗がん剤で十分な効果を得られなかった患者さんへ新しい選択肢をもたらしています。一方で、「新しい」「狙って届ける」という表現から、副作用が少ない治療だと判断することはできません。

自分が国内の適応条件を満たしているか、現在の治療よりどのような利益を期待できるか、特に注意すべき副作用は何かを確認したうえで選ぶ必要があります。

 ctDNAを活用した治療選択

ctDNA(circulating tumor DNA)は、がん細胞から血液中へ放出されたDNAの断片です。血液などの体液からがんに関係する情報を調べる方法は、リキッドバイオプシーと呼ばれます。組織を採取する生検と比べて体への負担が小さく、繰り返し検査しやすいことが特徴です。

乳がんでは、ctDNAからESR1遺伝子変異などを調べ、内分泌療法が効きにくくなる兆候を捉える使い方が始まっています。

これまでの進行・再発乳がんでは、CTなどで病変の増大を確認してから薬を変更することが基本でした。現在は、ホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がんの一部で、画像上の進行が起こる前にctDNAからESR1遺伝子変異を見つけ、内分泌療法を切り替えることが可能になっています。

国内で承認されたカミゼストラントの対象は、アロマターゼ阻害薬とCDK4/6阻害薬による一次治療を6か月以上受け、ctDNA検査でESR1遺伝子変異が確認されたものの、画像や症状では病気の進行が認められていない患者さんです。臨床試験では、一次治療開始から6か月以降、2~3か月ごとにctDNA検査が行われました。

一方、すでに内分泌療法後の進行が確認されているESR1遺伝子変異陽性乳がんでは、イムルネストラントなどを検討します。この場合も、承認された検査によってESR1遺伝子変異を確認する必要があります。

このように、同じESR1遺伝子変異でも、画像上の進行前に見つかったのか、進行後に確認されたのかによって、治療の位置付けが異なります。

ctDNA検査が画像検査や組織検査に代わるわけではない

ctDNA検査には、病気の変化を血液から繰り返し確認できる利点があります。しかし、乳がん患者さん全員を対象として、すべての遺伝子変化を定期的に調べればよいわけではありません。

血液中へ放出されるctDNAの量は、病変の大きさや転移部位などによって異なります。ctDNAが少なければ、実際には遺伝子変異が存在していても検出できない可能性があります。リキッドバイオプシーの感度を高める研究が続いているのも、血液中のctDNA量が検出結果に影響するためです。

ctDNA検査が陰性だったことだけで、対象となる遺伝子変異が絶対にないとは断定できません。治療を選ぶ際には、画像検査、症状、腫瘍組織の検査、過去の治療歴と合わせて判断します。

また、カミゼストラントのようにctDNAを利用した治療変更が承認されたことは、すべての遺伝子変異について画像上の進行前に薬を変更すべきという意味ではありません。現在の国内適応や臨床試験で有効性が確認されている範囲を確認する必要があります。

ctDNA検査を提案された場合には、何の遺伝子を調べるのか、陽性ならどの治療へ変更できるのか、陰性の場合は現在の治療をどうするのかを確認すると、検査の目的が分かりやすくなります。

がん遺伝子パネル検査

がん遺伝子パネル検査は、がん組織や血液を使い、一度に多数の遺伝子を調べる検査です。多くの検査では100種類以上の遺伝子を解析し、治療に結び付く可能性のある遺伝子変化や、参加できる臨床試験がないかを探します。

乳がんで行われるER、HER2、PD-L1、ESR1、BRCA1/2などの個別検査とは、目的が少し異なります。

特定の薬を使用するために一つまたは数種類の遺伝子を調べる検査は、その薬の対象患者を選ぶための検査です。一方、がん遺伝子パネル検査は、多数の遺伝子を幅広く調べ、標準治療以外も含めた次の候補を探します。

したがって、がん遺伝子パネル検査を受ければ、乳がん治療に必要なすべての個別検査を省略できるわけではありません。薬によっては、使用前に承認されたコンパニオン診断薬による検査が別に必要です。

日本で保険診療の対象になる時期

日本では一般に、標準治療がない固形がん、または局所進行・転移があり、標準治療が終了したか終了が見込まれる固形がんで、新たな薬物療法を希望する場合に、保険診療としてがん遺伝子パネル検査が検討されます。全身状態などの条件もあります。

「終了が見込まれる」という条件には、標準治療が完全になくなるまで検査を待たなければならないという意味ではありません。結果を今後の治療へつなげられるよう、標準治療の選択肢が少なくなってきた段階で、検査時期を主治医へ相談することがあります。

検査結果は、がん薬物療法の専門医、病理医、遺伝医学の専門家などで構成されるエキスパートパネルで検討されます。遺伝子変化に対応する国内承認薬、臨床試験、適応外薬などの情報を整理し、実際に治療へ結び付けられるかを判断します。

遺伝子変化が見つかっても治療できるとは限らない

がん遺伝子パネル検査では、治療選択に関係する可能性のある遺伝子変化が見つかっても、その変化に対応する薬が国内で承認されていない場合があります。臨床試験があっても、乳がんのサブタイプ、過去に使用した薬、臓器機能、全身状態、実施施設などの参加条件を満たさなければ参加できません。

国立がん研究センターの公開情報では、検査結果から実際に対応する薬の使用へ結び付く人は、臨床試験を含めて全体の10%程度と説明されています。検査には可能性がある一方、必ず新しい治療が見つかる検査ではありません。

また、治療選択を目的として検査を受けた結果、生まれつきがんを発症しやすい遺伝子変化が疑われることがあります。これを二次的所見と呼びます。本人の将来の健康管理だけでなく、血縁者にも関係する可能性があるため、結果をどこまで知りたいかを事前に確認し、必要に応じて遺伝カウンセリングを受けます。

がん遺伝子パネル検査を受ける際には、検査後に標準治療が残っているか、候補となる試験へ通院できるか、二次的所見を知りたいかまで含めて相談することが大切です。

参考:がん遺伝子パネル検査とは|国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター

国内承認済み・承認申請中・研究段階の違い

乳がんの最新治療を調べていると、「承認」「申請」「治験」「海外承認」など、似た表現が使われています。これらは同じ意味ではありません。

表示されている状態 意味 確認すべきこと
国内承認済み 厚生労働大臣が品質・有効性・安全性を審査して承認した 自分の乳がんのサブタイプや治療歴が効能・効果に該当するか
薬価収載済み 保険診療に用いる医薬品として薬価基準に収載されている 発売時期、実際に治療施設で使用できるか
承認申請中 製薬企業が承認を求め、PMDAなどが審査している まだ通常の保険診療として使用できない
海外承認済み 海外の規制当局では承認されている 日本で同じ適応が承認されているとは限らない
臨床試験・治験中 有効性や安全性を研究している段階 参加条件、予想される利益と不利益、代わりの標準治療

医薬品の製造販売承認は厚生労働大臣が行い、PMDAが申請資料に基づいて品質・有効性・安全性を審査します。承認では、治療によって期待できる利益と副作用などのリスクのバランスが評価されます。

承認された薬が保険診療で広く使用されるには、薬価基準への収載も関係します。厚生労働省は、保険診療で用いられる医療用医薬品を薬価基準収載品目として公開しています。

参考:医療保険が適用される医薬品について|厚生労働省

一つの薬が国内で承認されていても、すべての乳がんに使用できるわけではありません。たとえば同じ薬でも、HER2陽性、HER2-low、治療歴の有無などによって認められている効能・効果が異なります。

「乳がんに承認済み」と書かれているだけでは、自分が保険診療の対象か判断できません。国内の電子添文で、効能・効果、効能・効果に関連する注意、用法・用量を確認する必要があります。

承認申請中の治療は、良好な臨床試験結果が発表されていても、審査の結果が確定していません。海外で承認されていても、日本人を含む試験結果や国内の医療環境などを踏まえ、日本では異なる判断になる可能性があります。

最新治療の記事では「良い結果が出た」という情報だけでなく、国内承認済みなのか、申請中なのか、臨床試験段階なのかを分けて読むことが欠かせません。

参考:PMDA「薬剤承認の仕組みについて」

臨床試験・治験を探す方法

臨床試験は、新しい治療法や診断法などの有効性と安全性を、人を対象として調べる研究です。その中でも、医薬品や医療機器の承認を得ることを目的として行われる試験を治験と呼びます。

臨床試験は、標準治療がすべて終了した患者さんだけを対象とするものではありません。治療を受けたことがない患者さんを対象とする一次治療の試験、標準治療へ新薬を追加する試験、特定の遺伝子変化がある患者さんを対象とする試験などがあります。参加する時期や条件は、試験ごとに異なります。

臨床試験への参加によって、通常診療ではまだ使用できない治療を受けられる可能性があります。一方、期待した効果が得られない可能性や、十分に分かっていない副作用が生じる可能性もあります。試験によっては、標準治療群やプラセボを含む比較群へ割り付けられることがあります。参加前には、どの治療群になる可能性があるのか、現在受けられる標準治療と何が違うのかを確認します。

国内の臨床試験を検索する

国立がん研究センターの「がんの臨床試験を探す」では、がんの種類、薬剤名、都道府県などから、国内で行われている企業治験、医師主導治験、臨床研究などを検索できます。

ただし、検索結果に表示された試験が、現在も患者登録中とは限りません。情報を収集した時点から募集状況が変わっている場合や、実施医療機関が表示されていない場合もあります。国立がん研究センターも、検索結果を印刷するなどして担当医へ相談するよう案内しています。

参考:がんの臨床試験を探す|国立がん研究センター がん情報サービス

厚生労働省の臨床研究等提出・公開システムであるjRCTからも、研究の名称、対象疾患、試験の種類などを検索できます。

検索するときには「乳がん」だけでなく、「HER2陽性」「トリプルネガティブ」「ESR1」「脳転移」など、自分のサブタイプや検査結果を組み合わせると、候補を絞りやすくなります。ただし、検索画面だけでは参加できるか判断できません。適格基準には、過去に使用した薬、治療回数、脳転移の状態、血液検査、心臓・肝臓・腎臓の機能など、細かな条件が定められています。

参加を希望する場合には、試験名や登録番号を主治医へ示し、自分が対象となる可能性があるか、現在の標準治療を中断して参加する意味があるかを確認します。

参考:臨床研究等提出・公開システム|jRCT

費用と通院負担も確認する

治験では、試験薬や試験に特有の検査費用を依頼者が負担する場合がありますが、通常診療に該当する費用や、試験と直接関係しない治療費は患者負担になることがあります。

遠方の施設へ定期的に通院する必要がある場合や、通常診療より検査や受診回数が増える場合もあります。交通費、仕事の休み、家族の付き添い、体調悪化時の連絡先も、参加を決める前に確認しておきます。

臨床試験への参加は本人の自由意思で決めるものであり、同意した後でも撤回できます。参加しないことによって、通常受けられる標準治療が受けられなくなるわけではありません。

最新治療を検討するときの注意点

最新治療を調べるときに最も注意したいのは、「新しい治療」と「現在の自分に適した治療」を同じものとして考えないことです。

臨床試験で良好な結果が示されても、試験へ参加した患者さんと自分の状態が異なれば、同じ効果や安全性を期待できるとは限りません。

確認する項目 判断するときの考え方
対象患者 サブタイプ、遺伝子変化、過去の治療が自分と一致しているか
治療段階 一次治療なのか、複数の薬を使用した後なのか
比較対象 新薬が何と比較され、どの点で上回ったのか
評価された効果 腫瘍縮小率、無増悪生存期間、全生存期間のどれか
副作用 治療中止や入院につながる副作用がどの程度あったか
国内での状態 承認済み、申請中、治験中のどれか

無増悪生存期間が延びた治療でも、全生存期間への影響がまだ分かっていないことがあります。腫瘍が縮小しやすい治療でも、間質性肺疾患、重い下痢、感染症などによって治療を続けられない場合があります。

薬の効果を示す数字だけでなく、どの患者さんを対象とした試験か、比較群には何が使われたか、副作用でどの程度治療を中止したかを見る必要があります。

新薬が見つかった場合

現在の治療によって病気が安定し、副作用も許容できている場合には、新しい薬が承認されたからといって直ちに変更するとは限りません。

治療を早く切り替えると、現在効果のある薬を十分に使わないまま、将来の選択肢を一つ消費する可能性があります。反対に、病気の進行が速く、臓器機能へ影響が出ている場合には、検査結果を長く待たず、早く効果を期待できる治療を優先することがあります。

治療を変更するかどうかは、新薬の名称よりも、現在の病変の状態、治療効果、副作用、次に残る選択肢を基に判断します。

自由診療の「最新治療」は根拠を確認

インターネットでは「標準治療では受けられない最新治療」「副作用がほとんどない個別化治療」などを掲げる自由診療が紹介されることがあります。

自由診療であること自体が、治療効果がないことを意味するわけではありません。しかし、国内で承認された治療や適切に管理された臨床試験とは、効果と安全性を評価する仕組みが異なる場合があります。

国立がん研究センターも、インターネット上には科学的な有効性が証明されていない自由診療の情報が含まれるため、慎重な確認が必要だと説明しています。検討する場合には、乳がん患者を対象とした比較試験があるか、全生存期間や生活の質を改善した根拠があるか、治療費だけでなく副作用への対応費も含まれるかを確認します。

「海外で行われている」「遺伝子に合わせている」「免疫を高める」といった説明だけでは、標準治療より有効である根拠にはなりません。

参考:病院選びを考えるときに|国立がん研究センター がん情報サービス

セカンドオピニオンで治療の位置付けを確認する

新薬、遺伝子検査、臨床試験について判断が難しい場合には、乳がん薬物療法やがんゲノム医療を専門とする医師へセカンドオピニオンを求める方法があります。

セカンドオピニオンでは、別の治療を必ず提案してもらうことが目的ではありません。現在の治療が標準的であること、新薬の適応条件をまだ満たさないこと、臨床試験より現在の治療を続ける方がよいことを確認できる場合もあります。

相談時には、病理報告書、HER2や遺伝子検査の結果、画像検査、これまでに使用した薬、治療を中止した理由を準備します。薬剤名だけでなく、どの薬がどの程度効き、どの副作用が問題になったかが分かると、その後の治療順序を判断しやすくなります。

参考:セカンドオピニオン|国立がん研究センター がん情報サービス

まとめ

乳がんの最新治療は、単に新しい薬が増えたというだけではありません。

HER2-low/HER2-ultralowという新たな治療対象が加わり、ESR1、PIK3CA、AKT1、PTEN、BRCA1/2などの遺伝子変化に応じた薬を選べるようになりました。抗体薬物複合体や脳転移を意識した薬も登場し、進行・再発乳がんで選べる治療は広がっています。

ctDNAを使って画像上の進行前に治療抵抗性を見つける方法や、がん遺伝子パネル検査から臨床試験を探す方法も、実際の診療へ取り入れられています。ただし、新しい薬が自分に使えるかは、サブタイプや遺伝子検査だけでは決まりません。画像上の進行、過去の治療、転移部位、臓器機能、副作用、国内の承認状況を合わせて判断します。

最新治療について情報を得たときには、次の薬の名前だけを尋ねるのではなく、自分の乳がんではどの検査が必要か、現在の治療を続ける利益はあるか、新薬へ変更する適切な時期はいつかを主治医と確認することが大切です。

臨床試験や治験も選択肢の一つですが、効果が保証された特別な治療ではありません。現在受けられる標準治療との違い、予想される副作用、通院や費用の負担を理解したうえで参加を判断します。

乳がん治療の進歩は速く、承認状況や治療の順番は今後も変わる可能性があります。過去に治療対象外だった場合でも、新しい適応や検査によって選択肢が増えることがあるため、病理検査や治療歴を整理し、必要に応じて専門医へ相談することが次の治療判断につながります。

再発・転移・ステージ4

諦めないがん治療の選択肢があります。

今の治療に限界、不安を感じている方緩和ケアを提示された方へ10種のがん治療から次の一手をご提案します。

  • 治療実績5,000回以上
  • ステージ4に対する豊富な治療実績
  • 難治性を含む幅広いがん種に対応
  • 全国展開4都市 (東京・名古屋・大阪・福岡)
  • 標準治療との複合治療も可能
  • 往診、当日治療も可能

がん光免疫療法、核酸医薬、分子標的ワクチン療法など、様々な治療法を用いていあなたのがんと闘います。

がん中央クリニックグループ

がん治療専門クリニック

がん中央クリニックグループ

東京名古屋大阪福岡

再発・転移・ステージ4でお悩みの方、
標準治療中で今後に不安がある方へ。

まずは、ご自身に合った相談方法をお選びください

がん情報サポートサイト編集部

がん中央クリニックグループ

がん情報サポートサイト編集部

がんと向き合うすべての方へ。
知りたいことに寄り添い、大切な選択の助けとなる情報をお届けします。

がんと診断されたとき、治療を選ぶとき、何を信じればいいのか迷うことがあるかもしれません。私たちがん中央クリニックグループの「がん情報サポート編集部」は、そんな不安に寄り添い、信頼できる医療情報をお届けするために生まれました。

医師や看護師、医療ライター、患者支援スタッフが協力し、専門的な知識を、わかりやすく、正確に発信することを心がけています。

「本当に知りたいことが、きちんと届くように」そんな想いを込めて、これからも情報をお届けしていきます。

・本記事は、がん治療や予防に関する一般的な情報を提供するものであり、医師による診断・治療の代替とはなりません。
・記載された内容は作成日時点のものであり、医学の進歩や治療法の更新により変更される可能性があります。最新の情報については、医療機関や公的機関の情報をご確認ください。
・記事の内容は執筆者の見解に基づくものであり、本記事が所属するサイトの公式な見解を示すものではありません。
・記事に掲載される情報の正確性・完全性には細心の注意を払っていますが、内容の保証はできません。
・がん治療や医療に関する意思決定を行う際には、必ず主治医や専門医と相談し、ご自身の責任において判断してください。
・本記事の情報を利用したことによる損害・不利益について、当サイトは一切の責任を負いかねます。
・本記事内の情報には、研究段階の治療や承認されていない治療に関する記載が含まれる場合があります。これらの情報については、必ず専門家とご相談の上でご検討ください。
・本記事で提供する情報は参考情報であり、特定の治療や医薬品の使用を推奨するものではありません。
本記事では、できる限り正確な情報提供を心掛けておりますが、掲載情報の最新性・正確性を保証するものではありません。情報のご利用にあたっては、ご自身の責任で判断いただきますようお願いいたします。