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ALK陽性肺がんは、非小細胞肺がんの一種で、がん細胞のALKという遺伝子が他の遺伝子と融合しているタイプの肺がんです。肺腺がんに多くみられ、若年、非喫煙者に多いという特徴があります。初期にはほとんど症状が出ませんが、進行すると咳が続く、血痰、息切れ、胸の痛み、体重減少などが現れます。ALKを狙い撃ちにする分子標的薬(ALK-TKI)がよく効く一方で、いずれ薬が効かなくなる「薬剤耐性」が課題となります。

本ページでは、ALK陽性肺がんの特徴や原因、症状、診断(コンパニオン診断・遺伝子検査)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • 非小細胞肺がんの一種で、若年・非喫煙者に多い
  • ALKを狙い撃ちにする分子標的薬(ALK-TKI)がよく効く
  • いずれ薬が効かなくなる薬剤耐性が、治療上の大きな課題

ALK陽性肺がんとは

肺がんは、がん細胞の見た目や性質によっていくつかのタイプに分けられます。

まず大きく「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」に分かれ、日本人の肺がんの多くは後者です。この非小細胞肺がんのなかにALK陽性肺がんが含まれます。

ALK(未分化リンパ腫キナーゼ)は、細胞の増殖に関わる遺伝子です。ALK単体では悪いことは起こりませんが、他の遺伝子と「融合」すると、増殖のスイッチが入りっぱなしになります。この異常を持つ肺がんが、ALK陽性肺がんです。そして非小細胞肺がんの中でも、肺腺がんに多くみられます。

ALK陽性肺がんは、非小細胞肺がんの約4~5%に認められると報告されています。頻度としては多くありませんが、ALK陽性肺がんは若年者や非喫煙者に多く、主に腺がんで認められることが知られています。45歳以下の若年患者を対象とした研究では、非小細胞肺がん患者の14.2%でALK陽性が認められました。

ALK陽性肺がんの原因

ALK陽性肺がんは、ALK遺伝子の融合がきっかけで発症しますが、その根本の原因はまだ解明されていません。ただ、融合が起きた結果として何が起こるかは分かっています。本来ばらばらに存在しているALK遺伝子が別の遺伝子(多くはEML4)と結合すると、異常なタンパク質が作られ増殖のシグナルを出し続けるため、細胞が止まらず増えていきます。

ここで、もうひとつ重要な遺伝子があります。がん細胞の暴走を食い止める「ブレーキ役」の、がん抑制遺伝子「p53(TP53)」です。p53はDNAに傷がついた細胞を修復させ、修復できないものは自然死(アポトーシス)へと導きます。p53が壊れると、傷ついた細胞が排除されずに生き残ってしまいます。

ALK陽性肺がんでは、このp53変異率が20~25%と報告されています。また、p53変異が併存した患者様は、併存しない患者様よりも予後が悪いと言われています。

つまりアクセル(ALK)が入りっぱなしであるだけでなく、ブレーキ(p53)まで故障してしまう場合があり、それが治療の難しさにつながっているのです。

ALK陽性肺がんの診断

「(無)症状」から「確定診断」まで

肺がんは、初期にはほとんど症状が出ません。ある程度進行してから、咳が続く、血痰、息切れ、胸の痛み、体重減少といった症状が現れます。ただ、これらは風邪でも起こるため、見過ごされがちです。健康診断の胸部X線検査やCT検査で、偶然発見される場合も少なくありません。

異常が疑われた場合、気管支鏡検査やCTガイド下針生検などで組織を採取し、がんかどうかを確定します。脳転移や全身転移の有無を調べるため、脳MRI検査やPET-CT検査も実施されます。

コンパニオン診断という重要なステップ

ALK陽性肺がんの診断で欠かせないのが、遺伝子検査です。採取したがん組織を使い、ALK融合遺伝子があるかどうかを調べます。免疫染色(IHC法)でALKタンパクの発現を見る方法と、FISH法で遺伝子の並びを直接調べる方法があります。この検査は「コンパニオン診断」と呼ばれ、分子標的薬が効くタイプかどうかを見極める役割を担います。また、組織が採れないときは、血液中のがん由来DNAを調べるリキッドバイオプシーを行う場合もあります。

ステージ(病期)の確定

肺がんのステージは、腫瘍の大きさと広がり(T)、リンパ節転移(N)、遠隔転移(M)を組み合わせてⅠ期~Ⅳ期に分類されます。ALK陽性肺がんは、診断時にすでに脳などへ転移した進行した状態で見つかることも多く、病期が予後を大きく左右します。

ALK陽性肺がんの一般的な治療法

早期であれば手術が主な治療法ですが、必要に応じて薬物療法を加えます。一方、診断時にすでに進行・転移している場合や、術後に再発した場合は、薬物療法が治療の中心になります。

ALK陽性肺がんの薬物療法で主役となるのが、分子標的薬の「ALK阻害薬(ALK-TKI)」です。異常なALKのシグナルをピンポイントで遮断する薬で、第一世代のクリゾチニブから、現在の標準治療である第二世代のアレクチニブ、さらに第三世代のロルラチニブまで、複数の世代があります。

ALK-TKIが効きにくくなった場合は、別の世代のALK-TKIへの変更や、抗がん剤(プラチナ製剤ベースの化学療法)が検討されます。

ALK陽性肺がんにおける保険診療の限界

ALK陽性肺がんにはALK-TKIという有効な標的薬があるとはいえ、保険診療にはいくつもの壁があります。

避けられない「耐性」の問題

アレクチニブを投与すれば、半数の方が約35ヶ月もの間腫瘍が増大しないとはいえ、裏を返せば、半数の患者様が3年前後で進行してしまうということです。また、ALK-TKIを使う患者様の最大4分の1は、治療開始から1年以内に進行するという報告もあります。

手術後の高い再発率

早期に発見され、手術で取りきれたとしても、ALK陽性肺がんは再発しうる疾患です。切除後の再発率は病期が進むほど高くなり、根治手術後も一定の割合で再発が生じます。

この再発を抑える目的で、近年は術後にアレクチニブを一定期間服用する補助療法が標準となりました。以前の化学療法に比べ、ステージII~IIIAでの2年間で再発しない患者様が約63%から約94%と治療成績が向上しました。しかし逆に言えばそれでもなお再発する患者様はいらっしゃるということです。

また、この補助療法で使うALK-TKIは、進行・再発した際の治療でも中心となる薬です。術後の段階で使うことは、いざ再発したときの切り札を先に投じておくことにもなり、その後の選択肢をどう組み立てるかという課題も残ります。

化学療法に伴う「きつい」副作用

ALK-TKIの中で代表的なアレクチニブの副作用は、肝機能障害(41%)、便秘(39%)、倦怠感(36%)、筋肉痛(31%)、むくみ(29%)、皮疹(23%)などが多くみられます。また、まれに間質性肺炎や、筋肉が破壊される副作用が生じることもあります。

さらに、ALK-TKIが効かなくなったあとに用いる抗がん剤では、吐き気、強い倦怠感、食欲不振、脱毛、骨髄抑制による感染症リスクなどが起こりえます。長期にわたる治療や薬の切り替えのなかで、身体的・精神的な負担から治療の継続が難しくなり、生活の質(QOL)が損なわれるリスクがあります。

ALK陽性肺がんで重要な新しい治療の考え方

ここまで述べたように、ALK陽性肺がんは分子標的薬がよく効く一方で、耐性や手術後の再発に対してどう治療戦略をたてるか、副作用のきつさ、などという固有の課題を抱えています。

がん中央クリニックグループでは、こうした課題に対して、標準治療とは作用の仕方が異なる治療を選択肢としてご提案しています。

分子レベルの異常にアプローチする「核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)」

がんの発生や進行に関わる分子レベルの異常へ直接働きかける「核酸医薬」は、世界的に研究と臨床応用が進んでいます。当グループでは治療選択肢として、「アプタマー」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を取り入れた治療を提供しております。

アプタマー核酸医薬」は、がん細胞に特有の異常なタンパク質にピンポイントで結合し、その働きをブロックすることで、がんの増殖抑制や死滅を狙う治療薬です。一方で「miR-34a mimic核酸医薬」は、がん化によって失われてしまった「体が本来持っているがんを抑制する力」を補い、がんの成長を止め、自然な細胞死(アポトーシス)を促す治療薬です。

ALK陽性肺がんでp53変異が高頻度に併存することは、先に述べたとおりです。miR-34a mimicは、miR-34aと同じ働きをする分子を外部から補充することで、p53というブレーキが壊れた細胞に対しても、その先の経路から直接ブレーキをかけ直すことを狙います。ALKという「アクセル」だけでなく、失われた「ブレーキ」の側から攻めるという発想です。

がん中央クリニックグループでは、がん種ごとに標的となる遺伝子を指定して核酸医薬を設計し、患者様一人ひとりの状態に合わせた治療をご提案しています。複数の核酸医薬を組み合わせて使い分けられる点も、特徴のひとつです。

免疫の「盾」を外す「ハイブリッド免疫療法」

ハイブリッド免疫療法は、がん細胞が免疫の攻撃から逃れるために使う「盾」、すなわち免疫ブロックタンパク質「PD-L1」を標的とする治療です。

ALK陽性肺がんでは、標準の免疫療法が効きにくいですが、PD-L1自体は一定の割合で発現しています。

ALK陽性肺がんでのPD-L1陽性率(TPS≥1%)は50%と報告されています。標準の免疫チェックポイント阻害薬がうまく働きにくいこのタイプにこそ、PD-L1へ別の角度からアプローチする意義があると考えています。

ハイブリッド免疫療法は、このPD-L1を内側と外側の両方から無力化します。まず、がん細胞の表面に出ているPD-L1に結合し、免疫の攻撃を妨げる「盾」を取り払います。さらに、がん細胞の中に入り込んで、これから作られるPD-L1の設計図(mRNA)を分解し、新たな「盾」が生まれるのを防ぎます。攻撃を逃れる術を失ったがん細胞を、患者様ご自身の免疫細胞が敵として認識し、攻撃できるようになるという仕組みです。

関連ページ:HER2をターゲットにした”がんのピンポイント治療薬”|分子標的ワクチン療法

当グループのがん治療をおすすめする患者様

当グループで実施可能な治療法は、ほとんどの患者様にご検討いただけます。以下では、どのような患者様に効果が期待できるのかを解説します。ご自身の状況に照らし合わせてご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

ALK陽性肺がんでは、ALK-TKIへの耐性や免疫療法が効きにくいといった理由から、保険診療の選択肢が行き詰まることがあります。特に、複数のALK-TKIを使い切ってしまい、次の手立てが見つからない患者様は少なくありません。

そうした場合でも、核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)とハイブリッド免疫療法なら、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供できます。これらは目立った副作用が現れにくく体への負担が少ないため、「体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方にも、1つの治療の選択肢となり得ます。

また、まだ体力があるのに選択肢がなくなり、緩和治療を勧められている方にとっても、新たな選択肢として検討いただけます。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

核酸医薬とハイブリッド免疫療法は、ALK-TKIや抗がん剤と併用でき、相乗効果が期待できます。化学療法や分子標的薬がすでに存在するタンパク質やシグナルに作用するのに対し、核酸医薬はそれらが作られる前の遺伝子レベルに作用します。

ハイブリッド免疫療法は、PD-L1という別の標的を叩きます。攻撃するポイントが異なるため、組み合わせることでより高い効果が期待できると考えています。

このように、ALK陽性肺がんの完治を目指すには、複数の治療法を組み合わせることが重要と考えています。標準治療を受けている患者様にとっても、これらの併用は選択肢のひとつとして検討可能です。

関連ページ:がん細胞を“内からも外からも”攻撃する次世代の二刀流療法|ハイブリッド免疫療法

再発を抑制・防止するために手術前後の患者様

早期がんで手術を受けた場合でも、ALK陽性肺がんは再発しうる疾患です。手術後にALK-TKIを用いる補助療法で再発リスクは下がりますが、それでも再発する患者様は残ります。またALK-TKIには副作用があり、体力に不安のある患者様には術後の補助療法が難しいこともあります。

こうした背景から、手術前後に核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)とハイブリッド免疫療法を併用することは、再発リスクを下げ生存率を高めるひとつの選択肢として検討いただけます。

副作用が不安な患者様

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)とハイブリッド免疫療法は、目立った副作用が起こりにくい治療です。ALK-TKIや化学療法で起きやすい肝機能障害、便秘、倦怠感、筋肉痛、嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。核酸医薬の副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などが挙げられます。ハイブリッド免疫療法では、治療部位の反応などが見られることがあります。

解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半で、治療の継続に支障をきたすことはありません。「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」という方にも受けていただける治療です。

ALK陽性肺がんの完治を目指して、保険診療と患者様に合った治療を組み合わせる

ALK陽性肺がんは、分子標的薬がよく効くタイプである一方、耐性や手術後再発という壁が立ちはだかる疾患です。しかし、適切に治療を行えば完治を目指せる疾患でもあります。

発症要因にALKやp53といった遺伝子異常があるため、保険診療と核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、ハイブリッド免疫療法などを組み合わせる集学的治療が有効な選択肢となります。保険診療だけではカバーしきれない場合でも、これらの治療によって腫瘍縮小効果や再発抑制効果が期待できます。

がん中央クリニックグループでは、こうした「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがん治療をご提案いたします。ALK陽性肺がんの患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。

EGFR遺伝子変異陽性肺がんは、非小細胞肺がんの一種で、がん細胞の増殖に関わる「EGFR」という遺伝子に変異が起きているタイプの肺がんです。肺腺がんに多くみられ、非喫煙者、女性、東アジア人に多いという特徴があります。初期にはほとんど症状が出ませんが、進行すると咳が続く、血痰、息切れ、胸の痛み、体重減少などが現れます。EGFRを狙い撃ちにする分子標的薬(EGFR-TKI)がよく効く一方で、いずれ薬が効かなくなる「薬剤耐性」が課題となります。

本ページでは、EGFR遺伝子変異陽性肺がんの特徴や原因、症状、診断(コンパニオン診断・遺伝子検査)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。

  • 非小細胞肺がんの一種で、非喫煙者・女性・東アジア人に多い
  • EGFRを狙い撃ちにする分子標的薬(EGFR-TKI)がよく効く
  • いずれ薬が効かなくなる薬剤耐性が、治療上の大きな課題

EGFR遺伝子変異陽性肺がんとは

肺がんは、がん細胞の見た目や性質によっていくつかのタイプに分けられます。まず大きく「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」に分かれ、日本人の肺がんの多くは後者です。

この非小細胞肺がんのなかに、EGFR遺伝子変異陽性肺がんが含まれます。

EGFR(上皮成長因子受容体)は、細胞の表面にある増殖のシグナルを受け取るタンパク質です。このEGFRを生み出す遺伝子に変異が起きると、がん細胞が限りなく増えていきます。この変異を持つ肺がんが、EGFR遺伝子変異陽性肺がんです。そして非小細胞肺がんの中でも、肺腺がんに多くみられます。

EGFR変異が起きやすい方は、非喫煙者、女性、そして東アジア人です。

世界的な研究では、EGFR変異の頻度は全体で32.3%、女性で43.7%(男性24.0%)、非喫煙者で49.3%(喫煙者21.5%)、腺がんで38.0%(非腺がん11.7%)と報告されています。

EGFR遺伝子変異陽性肺がんの原因

肺がん全般では喫煙が最大の危険因子とされますが、EGFR変異陽性肺がんは、タバコをまったく吸わない人にも高い頻度で発症します。

なぜEGFR遺伝子に変異が起こるのか、その根本的な原因はまだ解明されていません。ただ、変異が起きた結果としてその細胞が増殖することは分かっています。正常なEGFRは、体からの指令を受けたときだけ増殖のシグナルを送ります。しかし変異したEGFRは、指令がなくても勝手にシグナルを出し続けるため、細胞が止まらず増殖していきます。

ここで、もうひとつ重要な遺伝子があります。がん細胞の暴走を食い止める「ブレーキ役」の、がん抑制遺伝子「p53(TP53)」です。p53はDNAに傷がついた細胞を修復させ、修復できないものは自然死(アポトーシス)へと導きます。p53が壊れると、傷ついた細胞が排除されずに生き残ってしまいます。

EGFR変異陽性肺がんでは、このTP53変異が高い割合で見られます。その頻度は、約26~40%の範囲と報告されています。

さらに、EGFR変異に対する治療を行った患者様でTP53変異も見られた患者様は、予後が悪いとの研究結果もあります。

つまりアクセル(EGFR)が壊れているだけでなく、ブレーキ(p53)まで故障してしまう場合があり、それが治療の難しさにつながっているのです。

関連ページ:ゲノムの守護神 p53の代わりとして働く「miRNA mimic 核酸医薬」

EGFR遺伝子変異陽性肺がんの診断

「(無)症状」から「確定診断」まで

肺がんは、初期にはほとんど症状が出ません。ある程度進行してから、咳が続く、血痰、息切れ、胸の痛み、体重減少といった症状が現れます。ただ、これらは風邪や気管支炎でも起こるため、見過ごされがちです。健康診断の胸部X線検査やCT検査で、偶然発見される場合も少なくありません。

異常が疑われた場合、気管支鏡検査やCTガイド下針生検などで組織を採取し、がんかどうかを確定します。脳転移や全身転移の有無を調べるため、脳MRI検査やPET-CT検査も実施されます。

コンパニオン診断という重要なステップ

EGFR変異陽性肺がんの診断で欠かせないのが、遺伝子検査です。採取したがん組織を使い、EGFR遺伝子に変異があるかどうかを調べます。この検査は「コンパニオン診断」と呼ばれ、分子標的薬が効くタイプかどうかを判断します。また、組織が採れないときは、血液中を流れるがん由来のDNAを調べるリキッドバイオプシーを行う場合もあります。

ステージ(病期)の確定

肺がんのステージは、腫瘍の大きさと広がり(T)、リンパ節転移(N)、遠隔転移(M)を組み合わせてⅠ期~Ⅳ期に分類されます。EGFR変異陽性肺がんは、脳や骨などへ転移した進行した状態で見つかることも多く、病期が予後を大きく左右します。

EGFR遺伝子変異陽性肺がんの一般的な治療法

早期であれば手術が主な治療法ですが、必要に応じて薬物療法を加えます。一方、診断時にすでに進行・転移している場合や、術後に再発した場合は、薬物療法が治療の中心になります。

EGFR変異陽性肺がんの薬物療法で主役となるのが、分子標的薬の「EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)」です。暴走するEGFRのシグナルをピンポイントで遮断する薬で、様々な種類の薬物(オシメルチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブなど)が開発されています。

また、EGFR-TKIが効きにくくなった場合や、変異のタイプによっては、抗がん剤(プラチナ製剤などの化学療法)や、状況に応じた免疫療法が検討されます。

EGFR遺伝子変異陽性肺がんにおける保険診療の限界

避けられない「耐性」の問題

EGFR-TKIは高い効果を示す一方で、多くの患者様でいずれ効かなくなります。これが「薬剤耐性」です。

がん細胞が薬から逃れる別の経路を見つけ出し、再び増え始めてしまいます。

例えば、オシメルチニブというEGFR-TKIは高い効果を示しますが、無増悪生存期間の中央値は18.9ヶ月でした。逆に言えば、約1.5年で薬剤耐性がついてしまい病勢が進行するということです。また、耐性が生じるメカニズムは多様で、そのすべてに有効な次の一手が用意されているわけではありません。

手術後の高い再発率

早期に発見され、手術で取りきれたとしても、EGFR変異陽性肺がんは再発しうる疾患です。切除後の再発率はおよそ70%と報告されています。

この再発を抑える目的で、近年は術後にオシメルチニブを一定期間服用する補助療法が行われます。これにより手術後4年後の再発率は30%にまで下がりました。

大きな進歩ではありますが、裏を返せば、補助療法を行ってもなお再発を経験する患者様が10人中3人は残るということでもあります。また、この補助療法で使うオシメルチニブは、進行・再発した際の一次治療でも中心となる薬です。術後補助療法の段階で使うことは、いざ再発したときに切り札の一つを先に投じておくことにもなり、その後の選択肢をどう組み立てるかという課題も残ります。

EGFR-TKIや化学療法に伴う「きつい」副作用

代表的なEGFR-TKIであるオシメルチニブによる治療では、日常生活に支障をきたすほどの重い副作用が、およそ3人に1人にみられたと報告されています。

例えば、下痢、皮疹やにきびのような皮膚症状、爪の周りの炎症(爪囲炎)、口内炎などが多くみられ、まれに間質性肺炎という重い副作用が生じることもあります。

また、EGFR-TKIが用いられた後に用いる抗がん剤では、吐き気、強い倦怠感、食欲不振、脱毛、骨髄抑制による感染症リスクなどが起こりえます。長期にわたる治療や薬の切り替えのなかで、身体的・精神的な負担から治療の継続が難しくなり、生活の質(QOL)が損なわれるリスクがあります。

EGFR遺伝子変異陽性肺がんで重要な新しい治療の考え方

ここまで述べたように、EGFR変異陽性肺がんは分子標的薬がよく効く一方で、耐性の問題や手術後再発率の高さ、副作用のきつさという固有の課題を抱えています。

がん中央クリニックグループでは、こうした課題に対して、標準治療とは作用の仕方が異なる治療を選択肢としてご提案しています。

分子レベルの異常にアプローチする「核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)」

がんの発生や進行に関わる分子レベルの異常へ直接働きかける「核酸医薬」は、世界的に研究と臨床応用が進んでいます。当グループでは治療選択肢として、「アプタマー」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を取り入れた治療を提供しております。

アプタマー核酸医薬」は、がん細胞に特有の異常なタンパク質にピンポイントで結合し、その働きをブロックすることで、がんの増殖抑制や死滅を狙う治療薬です。一方で「miR-34a mimic核酸医薬」は、がん化によって失われてしまった「体が本来持っているがんを抑制する力」を補い、がんの成長を止め、自然な細胞死(アポトーシス)を促す治療薬です。

EGFR変異陽性肺がんでTP53変異が高頻度に併存することは、先に述べたとおりです。miR-34a mimicは、miR-34aと同じ働きが期待できる分子を外部から補充することで、p53というブレーキが壊れた細胞に対しても、その先の経路から直接ブレーキをかけ直すことを狙います。EGFRという「アクセル」だけでなく、失われた「ブレーキ」の側から攻めるという発想です。

がん中央クリニックグループでは、がん種ごとに標的となる遺伝子を指定して核酸医薬を設計し、患者様一人ひとりの状態に合わせた治療をご提案しています。複数の核酸医薬を組み合わせて使い分けられる点も、特徴のひとつです。

HER2を標的にする「分子標的ワクチン療法」

分子標的ワクチン療法は、がんの増殖・浸潤・転移に関わるタンパク質「HER2」を標的にした、当グループで施術可能な治療法です。

EGFR変異陽性肺がんに対して、なぜHER2を狙う治療が意味を持つのか。ここには、EGFRとHER2の深い関係があります。

HER2は、EGFRと同じ受容体チロシンキナーゼファミリーに属する仲間です。EGFRは単独でもシグナルを送りますが、HER2と手を組んでペアになると、より強力に増殖シグナルを伝えることが知られています。さらに、HER2の遺伝子増幅は、EGFR-TKIに対する耐性の主要なメカニズムのひとつとしても報告されています。つまりHER2は、EGFR変異陽性肺がんにおいて、増殖を後押しする共犯者であり、EGFR-TKIへの耐性獲得を手助けする可能性もある存在なのです。

この治療では、HER2タンパク質の機能部位ペプチド2種類をワクチンとして筋肉注射します。狙いは、患者様自身の体内でHER2に対する抗体をつくらせることです。

体内でHER2に対する抗体がつくられると、HER2がEGFRをはじめとする仲間と手を組むことができなくなり、増殖・浸潤・転移を促すシグナルの伝達が抑えられます。さらに、抗体がくっついたがん細胞を免疫細胞が攻撃するという効果も期待されます。

直接EGFRを阻害する薬ではありませんが、EGFRによる細胞増殖経路にも間接的に影響を与えます。そのため、腫瘍縮小への効果が期待できる可能性があります。

関連ページ:HER2をターゲットにした”がんのピンポイント治療薬”|分子標的ワクチン療法

当グループのがん治療をおすすめする患者様

当グループで実施可能な治療法は、ほとんどの患者様にご検討いただけます。以下では、どのような患者様に効果が期待できるのかを解説します。ご自身の状況に照らし合わせてご検討ください。

治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ

EGFR変異陽性肺がんでは、EGFR-TKIへの耐性やきつい副作用などが原因で、保険診療の選択肢が行き詰まることがあります。特に、複数のEGFR-TKIを使い切ってしまい次の手立てが見つからない患者様は少なくありません。

そうした場合でも、核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法などであれば、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供できます。これらは目立った副作用が現れにくく体への負担が少ないため、「体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方にも、1つの治療の選択肢となり得ます。

また、まだ体力があるのに選択肢がなくなり、緩和を勧められている方にとっても、新たな選択肢として検討いただけます。

保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待

核酸医薬と分子標的ワクチン療法は、EGFR-TKIや抗がん剤と併用でき、相乗効果が期待できます。化学療法や分子標的薬がすでに存在するタンパク質やシグナルに作用するのに対し、核酸医薬はそれらが作られる前の遺伝子レベルに作用します。攻撃するポイントが異なるため、組み合わせることでより高い効果が期待できるのです。

このように、EGFR変異陽性肺がんの完治を目指すには、複数の治療法を組み合わせることが重要と考えています。標準治療を受けている患者様にとっても、これらの併用は選択肢のひとつです。

再発を抑制、防止するため。手術前後のすべての患者様

早期がんで手術を受けた場合でも、EGFR変異陽性肺がんは再発しうる疾患です。手術後にEGFR-TKI(オシメルチニブ)を用いると4年無病生存率は約70%まで改善しますが、裏を返せば、それでも30%の患者様は再発するリスクがあるということです。

またEGFR-TKIには副作用があるため、体力に不安のある高齢の患者様には、術後の補助療法が難しいこともあります。

こうした背景から、手術前後に核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法を併用することは、再発リスクを下げるひとつの選択肢として検討いただけます。

副作用が不安な患者様

核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)と分子標的ワクチン療法は、目立った副作用が起こりにくい治療です。EGFR-TKIや化学療法で起きやすい下痢、皮疹、嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。核酸医薬の副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などが挙げられます。分子標的ワクチン療法では、注射部位反応(赤み、腫れ、痛みなど)、疲労感、発熱が見られることがあります。

解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半で、治療の継続に支障をきたすことはありません。「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」という方にも受けていただける治療です。

EGFR遺伝子変異陽性肺がんの完治を目指して、保険診療と患者様に合った治療を組み合わせる

EGFR変異陽性肺がんは、分子標的薬がよく効くタイプである一方、耐性や副作用、手術後再発という壁が立ちはだかる疾患です。しかし、適切に治療を行えば完治を目指せる疾患でもあります。

発症要因にEGFRやp53といった遺伝子異常があるため、保険診療と核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、分子標的ワクチン療法などを組み合わせる集学的治療が有効な選択肢となります。保険診療だけではカバーしきれない場合でも、これらの治療によって腫瘍縮小効果や再発抑制効果が期待できます。

がん中央クリニックグループでは、こうした「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがん治療をご提案いたします。EGFR遺伝子変異陽性肺がんの患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。

食道がんは、のどと胃をつなぐ食道の粘膜から発生するがんです。2023年に国内で新たに食道がんと診断された人は2万5,889例、2024年の死亡数は1万638人で、男性に多い傾向があります。

食道がんは早期には自覚症状がないことがあります。進行すると、食べ物を飲み込んだときのつかえ、体重減少、胸や背中の痛み、咳、声のかすれなどが現れることがありますが、症状の有無や強さだけで食道がんのステージを判断することはできません。

治療は、がんが食道壁のどこまで入り込んでいるか、リンパ節やほかの臓器へ広がっているかだけでなく、食道のどこにできたのかによっても変わります。ごく浅いがんでは内視鏡治療で根治を目指せる場合があり、局所進行がんでは術前薬物療法と手術、あるいは化学放射線療法などを検討します。遠隔転移や再発がある場合には、薬物療法が治療の中心になります。

食道がんでは、治療によって「食べる」「飲み込む」「声を出す」といった日常生活にも影響が及ぶことがあります。この記事では、症状や原因だけでなく、検査結果から治療をどう選ぶのか、治療後の食事や栄養、ステージ別の生存率、再発後の経過まで順番に解説します。

参考:食道|国立がん研究センター がん情報サービス

  • 食道がんは早期には無症状のことがあり、飲食時のつかえや違和感があれば検診を待たず受診する
  • 治療の選択はステージだけでなく、がんの深さ・場所・リンパ節転移などから選ぶ
  • 治療後は再発だけでなく、食事量・体重・嚥下機能や頭頸部がんなどの重複がんも長期に確認する

食道がんとは何か

食道は、のどの奥にある咽頭から胃までをつなぐ管状の臓器です。成人では長さがおよそ25cmあり、飲み込んだ食べ物を食道の筋肉の動きによって胃へ運びます。食べ物を消化する臓器ではなく、主な役割は食べ物を胃へ届けることです。

食道の壁は内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、外膜などで構成されています。食道がんは最も内側にある粘膜から発生し、進行すると粘膜下層、筋層、さらに食道の外側へと広がります。

食道の周囲には気管、気管支、肺、大動脈などが近接しているため、食道壁を越えて進展すると、これらの臓器との位置関係が治療方法に大きく関係します。

参考:食道とは、食道がんとは?|日本食道学会

日本の食道がんは扁平上皮がんが多い

食道がんにはいくつかの組織型がありますが、日本では約9割が扁平上皮がんです。食道の内側を覆う扁平上皮から発生し、飲酒や喫煙との関連が強いことが知られています。

一方、食道の下部では腺がんが発生することがあります。欧米では食道腺がんが多く、胃酸の逆流などによって食道粘膜が変化したバレット食道との関連が知られていますが、日本では扁平上皮がんの方が圧倒的に多い状況です。

組織型は単なる病名の違いではありません。ステージ分類や薬物療法を考える際にも関係するため、生検後の病理結果では「食道がんだった」ということに加えて、扁平上皮がんなのか、腺がんなのかを確認します。

参考:食道がんの疫学・現状・危険因子|日本食道学会

食道がんは「どこにできたか」によって治療が変わる

食道は大きく、首にある頸部食道、胸の中にある胸部食道、胃につながる食道胃接合部などに分けて考えます。胸部食道も上部・中部・下部に分かれ、日本では胸部中部食道に発生するがんが最も多いと報告されています。

場所を確認する理由は、手術で切除する範囲やリンパ節郭清、再建方法が変わるためです。

たとえば頸部食道は咽頭や喉頭と近接しています。がんの広がりによっては喉頭も切除する必要があり、その場合には発声方法が大きく変わります。

食道胃接合部がんでは、食道側へどの程度広がっているかによって、胸の中にある縦隔リンパ節をどの範囲まで郭清するのかが変わります。2026年3月には日本食道学会から、食道浸潤長などをもとに手術アプローチとリンパ節郭清範囲を考える新たな速報も公表されています。

したがって、食道がんでは「ステージはいくつか」と同じくらい、食道のどの位置にがんがあるのかを知っておくことが治療を理解する助けになります。

参考:2026年3月 食道胃接合部癌の手術・リンパ節郭清に関する速報|日本食道学会

早期がん・表在がん・進行がんはステージと同じ意味ではない

食道がんでは、がんの深さを表す言葉として「早期がん」「表在がん」「進行がん」が使われます。

食道粘膜内にとどまるものを「早期がん」粘膜または粘膜下層にとどまるものを「表在がん」と呼びます。固有筋層まで入り込んだものは「進行がん」と呼ばれます。

「進行がん=遠隔転移がある」という意味ではありません。筋層に達した時点で進行がんと呼ぶため、手術によって根治を目指せる進行がんもあります。

逆に、表在がんであっても粘膜下層まで深く入り込むとリンパ節転移の可能性が高くなります。そのため、食道がんでは「早期か進行か」という言葉だけで治療を決めず、深達度とリンパ節転移を詳しく評価します。

参考:食道がんについて|国立がん研究センター

食道がんの原因とリスク

食道がんは、一つの原因だけで発生する病気ではありません。ただし、日本で多い食道扁平上皮がんでは、飲酒と喫煙が特に重要なリスク因子です。国立がん研究センターも、食道がんの予防として禁煙と飲酒を控えることを挙げています。

参考:食道がん 予防・検診|国立がん研究センター

飲酒と食道がん

アルコールは体内でアセトアルデヒドに分解され、その後さらに分解を繰り返し体外に排出されます。このアセトアルデヒドは発がんに関係する物質であり、飲酒量が多いほど食道がんのリスクが高くなることが分かっています。

特に大量飲酒を続けている人では、飲酒量を減らす、または飲酒しないことが食道がんの予防につながります。

お酒を飲むと顔が赤くなる体質との関係

アルコールの代謝にはALDH2という酵素が関係しています。この働きが弱い人ではアセトアルデヒドを分解しにくく、お酒を飲んだときに顔が赤くなりやすい傾向があります。

国立がん研究センターの研究でも、ALDH2の働きが低い遺伝的特徴は日本人を含む東アジア人に比較的多く、食道がんなどのリスクと関連することが示されています。

以前は少量の飲酒で顔が赤くなったものの、飲み続けるうちに赤くならなくなった人もいます。「お酒に慣れたから問題ない」とは限りません。飲酒量と体質を合わせて考える必要があります。

喫煙と飲酒が重なるとリスクはさらに高くなる

喫煙も食道扁平上皮がんの主要なリスク因子です。飲酒と喫煙の両方の習慣がある場合には、それぞれ単独の場合よりリスクが高くなることが知られています。

食道がんと診断された後も、禁煙と飲酒を控えることには意味があります。食道には別の場所に新たながんができることがあり、同じく飲酒や喫煙との関連が強い頭頸部がんなども発生しやすいためです。

非常に熱い飲み物との関係

非常に高温の飲み物を習慣的に飲むことも、食道がんとの関連が指摘されています。WHOの国際がん研究機関(IARC)は、65℃を超える非常に熱い飲み物を「おそらく発がん性がある」と分類しています。

食道がん予防で国内のエビデンスが特に強いのは禁煙と飲酒を控えることですが、熱いものを無理に飲み込まず、少し冷ましてから飲むことも食道への慢性的な熱刺激を避ける方法になります。

参考:FACT SHEET Cancer of the Oesophagus and Drinking Very Hot Beverages|IARC

バレット食道と食道腺がん

胃酸などの逆流が長期間続くと、下部食道の粘膜が胃や腸に似た粘膜へ変化することがあります。これをバレット食道と呼びます。

欧米ではバレット食道が食道腺がんの発生母地として知られています。日本では食道腺がん自体が比較的少ないため、食道がん全体を考えると飲酒・喫煙と扁平上皮がんの関係の方が大きな比重を占めています。

参考:食道がんの疫学・現状・危険因子|日本食道学会

食道がんの予防・検診と受診の目安

胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんには国が推奨する対策型検診がありますが、食道がんには現在、国の指針で定められた対策型がん検診はありません。

そのため「何歳になったら年1回食道がん検診を受ける」という一律の制度にはなっていません。

胃がん検診を受けていれば食道も十分に調べられるとは限らない

胃がん検診で行われる胃部X線検査では上部消化管を撮影しますが、検査の中心は胃です。

国立がん研究センターも、胃がん検診の上部消化管造影では食道より胃を重点的に調べるため、飲食時の胸の違和感や食べ物のつかえがある場合には、検査前に症状を伝えるよう案内しています。

胃がん検診を定期的に受けていることを理由に、食道の症状を様子見するのは避けた方がよいでしょう。

予防では禁煙と飲酒を控えることが中心

食道扁平上皮がんでは、禁煙と飲酒を控えることが予防の中心です。特に大量飲酒をしている人では、飲酒を控えることで食道がんの発生を減らせる可能性があります。

ただし、生活習慣を改善すれば食道がんにならないわけではありません。過去に飲酒・喫煙歴がある人も含め、気になる症状があれば診察を受けることが優先されます。

症状がある場合は「検診」ではなく診断のために受診する

食べ物がつかえる、飲み込みにくい、飲食時に胸がしみる、原因の分からない体重減少があるといった場合は、食道がん検診を探すのではなく、消化器内科などを受診します。

がん検診は症状のない人を対象として行うものです。症状がある人には、その原因を調べるための胃カメラなどの診断検査が必要です。

参考:がん検診について|国立がん研究センター

食道がんの初期症状・進行した場合の症状

食道がんは早期には自覚症状がないことがあります。内視鏡検査で偶然見つかり、初めて食道がんと分かる場合もあります。

一方、がんが大きくなると食道の内腔が狭くなるため、飲み込みに関する症状が現れます。ただし、症状だけから深達度やステージを正確に判断することはできません。

参考:食道がんについて|国立がん研究センター

飲み込んだときにしみる・違和感がある

比較的早い時期には、熱いものや刺激のあるものを飲み込んだ際に胸の奥がしみる、軽く痛む、何となく引っかかるといった違和感を感じることがあります。

一時的な食道炎などでも似た症状は起こるため、症状があるから食道がんというわけではありません。しかし、これまでなかった症状が続く場合は内視鏡検査などを検討します。

食べ物がつかえる・飲み込みにくい

がんによって食道が狭くなると、まず固形物を飲み込みにくくなります。

肉やご飯などが胸の途中で止まるように感じたり、水分を一緒に取らないと飲み込めなくなったりします。さらに狭窄が進むと、やわらかい食事や水分も通りにくくなる場合があります。

「年齢のせいで飲み込みにくくなった」と考えて放置せず、症状が続く場合には原因を確認します。

食事量の減少と体重減少

食べるとつかえるため無意識に食事量が減ったり、食事に時間がかかるようになったりすると、体重が減っていくことがあります。

食道がんでは、治療を開始する前から栄養状態が低下している患者さんもいます。体重減少はがんそのものだけでなく、その後に手術や薬物療法を受ける体力にも関係するため、診断時から栄養状態を確認します。

声のかすれ・咳・胸や背中の痛み

食道の周囲には声帯を動かす反回神経、気管、気管支、大動脈などがあります。

がんが反回神経へ影響すると声がかすれることがあり、気管などへ及ぶと咳や呼吸に関する症状が現れることがあります。胸や背中に痛みを感じる場合もあります。

首の腫れ、強い呼吸苦、血痰などがある場合は早めの受診が必要です。

食道がんの検査と診断

食道がんの検査は、食道にがんがあるか確認する検査と、がんと確定した後に広がりを調べる検査に分けて考えると理解しやすくなります。

最初からすべての検査を受けるわけではありません。内視鏡と病理診断を中心に確定診断を行い、その後、治療方針を決めるために画像検査などを組み合わせます。

参考:食道がん 検査|国立がん研究センター

上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)で食道の粘膜を直接確認

上部消化管内視鏡検査、いわゆる胃カメラでは、咽頭から食道、胃、十二指腸まで粘膜を直接観察します。

通常の白色光だけでは見つけにくい早期食道がんを確認するため、NBIなどの画像強調観察や拡大観察を組み合わせることがあります。表在がんでは、表面の構造や血管の変化から、どの程度深く入り込んでいる可能性があるかを評価します。

生検と病理検査で食道がんかどうかを確定

内視鏡で食道がんが疑われる病変が見つかった場合には、病変の一部を採取する生検を行います。

採取した組織を顕微鏡で調べ、がん細胞があるか、扁平上皮がんなのか腺がんなのかなどを確認します。

ただし、生検は病変の一部を調べる検査です。内視鏡治療や手術を行った後には、切除した病変全体から深達度や脈管侵襲などをより詳しく評価します。

食道造影では腫瘍の長さや狭窄を確認

上部消化管造影・食道造影では造影剤を飲み、食道の形や食べ物の通り道をX線で確認します。

腫瘍がどのくらいの長さに及んでいるか、食道がどの程度狭くなっているかなど、食道全体の形を把握するために役立ちます。国立がん研究センターも、内視鏡と上部消化管造影を食道がんを確認する検査として挙げています。

血液検査・腫瘍マーカーは診断や経過を見る補助になる

食道がんでは血液検査で、扁平上皮がんの場合にSCC抗原やCEA、腺がんではCEAなどの腫瘍マーカーを測定することがあります。

ただし、食道がんがあっても数値が上がらない場合があり、高値だからといって食道がんと確定することもできません。画像検査や病理検査と合わせ、診断や治療効果、経過をみるための補助情報として使います。

EUS・CTなどでがんの深さと転移を調べる

超音波内視鏡検査(EUS)は、内視鏡の先端から超音波を当て、食道壁の層や周囲のリンパ節を詳しく評価する検査です。

CTでは食道周囲への広がりだけでなく、頸部・胸部・腹部のリンパ節、肺、肝臓などへの転移がないかを調べます。食道がんではリンパ節転移が首から胸、腹部まで広い範囲に起こり得るため、一部分だけではなく広い範囲を評価します。

必要に応じてPET、MRI、頸部超音波なども追加します。PETはすべての患者さんに必ず行う検査ではなく、ほかの画像検査と組み合わせて転移などを評価する際に利用します。

参考:CT・MRI・PET検査|日本食道学会

食道がんのステージ分類|cStage・pStageとTNM分類

本章では、主に日本食道学会「臨床・病理 食道癌取扱い規約 第12版」に基づく、食道扁平上皮がんの臨床的進行度(cStage)を中心に説明します。食道腺がんでは進行度分類が異なり、食道胃接合部腺がんでは胃がんの病期分類を用いるため、診断書などに記載されたステージがどの分類に基づくものかを確認することが大切です。

食道がんのステージは、がんが食道壁のどこまで入り込んでいるかを示す「T」、リンパ節転移を示す「N」、遠隔転移を示す「M」を組み合わせて判断します。

分類 何を見ているか
T がんが食道壁のどこまで深く入り込んでいるか。T1aは粘膜内、T1bは粘膜下層、T2は固有筋層、T3は外膜、T4は周囲臓器への浸潤
N 領域リンパ節転移。N0は0個、N1は1〜2個、N2は3〜6個、N3は7個以上
M 領域外リンパ節や遠隔臓器への転移。M1aは一部の領域外リンパ節、M1bはそれ以外の領域外リンパ節や肺・肝臓などへの遠隔転移

食道がんでは、浅い段階でも深さが少し変わるだけでリンパ節転移の可能性が大きく変わるため、T1の中を細かく評価する意味があります。なお、第12版では治療前のT3を、手術で切除可能と判断される「T3r」と、切除可能か慎重な判断が必要な「T3br」に分けています。

参考:臨床・病理 食道癌取扱い規約 第12版|日本食道学会

食道がんは0期からⅣB期まで分類する

日本で多い食道扁平上皮がんの臨床的進行度は、0期、Ⅰ期、Ⅱ期、ⅢA期、ⅢB期、ⅣA期、ⅣB期に分類されます。

ステージ 一般的な病状のイメージ
0期 主に粘膜内にとどまり、リンパ節・遠隔転移がない
Ⅰ期 主に粘膜下層までで、リンパ節転移が確認されない
Ⅱ期 より深く広がっている、または浅くても一部のリンパ節転移がある
ⅢA期 リンパ節転移が増えているなど、より進行した状態
ⅢB期 食道周囲への広がりから、切除可能性を慎重に評価する状態
ⅣA期 周囲臓器へ明らかに浸潤している局所進行がん
ⅣB期 遠隔臓器などへ転移している状態

実際のステージはT・N・Mの組み合わせによって決まるため、この表は病状を理解するための大まかな整理です。たとえば同じT1bでも、リンパ節転移がなければⅠ期ですが、N1であればⅡ期になります。正確な病期は画像検査などをもとに医師が判定します。

ステージを理解するときには「食道壁への深さ」と「リンパ節転移」を一緒に見る必要があります。

例1:T1b+N0 → Ⅰ期
粘膜下層まで達していても、リンパ節転移が確認されなければⅠ期です。

例2:T1b+N1 → Ⅱ期
深さが同じT1bでも、領域リンパ節1〜2個に転移があれば病期は上がります。

例3:M1b → ⅣB期
肺や肝臓などの遠隔臓器転移がある場合は、TやNにかかわらずⅣB期です。

ちなみに「M1=遠隔転移=ステージ4」とは限りません。食道癌取扱い規約第12版では、領域リンパ節の外にあるリンパ節転移のうち、手術による治療効果が期待される一部をM1aとして扱います。肺や肝臓への転移などを示すM1bとは区別されています。

参考:食道がんのステージと治療の選択|日本食道学会

治療前のcStageと手術後のpStageは意味が違う

食道がんでは、治療開始前に内視鏡、CT、PETなどから推定した病期を臨床病期(cStage)と呼びます。

一方、手術を行った場合には、切除した食道やリンパ節を顕微鏡で詳しく調べ、病理学的な情報から病理病期(pStage)を評価します。

画像検査では転移しているように見えなかった小さなリンパ節に、手術後の病理検査でがん細胞が見つかることがあります。また、手術前に薬物療法などを受けた場合には、治療によってがんが縮小・消失していることもあります。

そのため、治療前に説明されたcStageと、手術後に評価される病理学的な状態が異なることがあります。これは画像検査と病理検査で得られる情報が異なることや、術前治療によって病状そのものが変化することがあるためで、「最初の診断が間違っていた」という意味ではありません。

参考:食道がん 治療|国立がん研究センター

ステージ別に見る食道がん治療の全体像

食道がんの治療は「ステージがいくつならこの治療」と一つに固定されるわけではありません。がんの深さ、リンパ節転移、発生した位置、全身状態、治療に対する希望などを合わせて決定します。

ただし、治療全体の流れは次のように整理できます。

病状の目安 主な治療の考え方
0期・ごく浅いT1a ESDなどの内視鏡治療で根治を目指す
Ⅰ期・T1bなど 手術または根治的化学放射線療法などを検討する
切除可能なⅡ・Ⅲ期 胸部食道扁平上皮がんでは術前DCF療法+手術が国内の標準治療
局所進行で切除が難しい場合・ⅣA期 根治的化学放射線療法などを検討する
遠隔転移を伴うⅣB期・再発 薬物療法を中心に、症状への治療や栄養管理を組み合わせる

日本食道学会では、切除可能なステージⅡ・Ⅲ期の胸部食道扁平上皮がんでは手術前に薬物療法を行ってから手術する方法を標準治療としています。現在、日本で代表的なのはDCF療法です。

一方、食道を切除せず根治を目指す化学放射線療法も重要な治療です。特にⅠ期や、手術を希望しないⅡ・Ⅲ期、局所的に手術が難しい病変では治療候補になります。

食道がんの治療では「内視鏡で取り切れる深さか」「手術によって根治を目指せるか」「食道を温存する化学放射線療法が候補になるか」が大きな分岐点になります。

参考:食道がんのステージと治療の選択|日本食道学会

食道がんの内視鏡治療|ESD・EMRで治療できる場合

内視鏡治療は、口から内視鏡を入れて食道の内側からがんを切除する治療です。胸やお腹を大きく切開せず、食道そのものを残せることが大きな利点です。

ただし、「早期食道がんならすべて内視鏡で治療できる」というわけではありません。判断の中心になるのは、リンパ節転移の可能性が十分に低い深さかどうかです。

参考:内視鏡治療|日本食道学会

T1a-EP・LPMは内視鏡治療の中心的な対象

食道粘膜は、表面側から粘膜上皮(EP)、粘膜固有層(LPM)、粘膜筋板(MM)へ分かれます。

T1a-EPやT1a-LPMまでにとどまる食道がんではリンパ節転移の可能性が極めて低いため、内視鏡治療の中心的な対象です。

T1a-MMまで達するとリンパ節転移が約10%、粘膜下層へ入り込むT1b-SMではさらに転移の可能性が高まります。日本食道学会では、T1b-SMで20~50%程度の転移が報告されています。

そのため、内視鏡で病変そのものを取れるかどうかだけではなく、食道の外にあるリンパ節まで治療する必要があるかを考えます。

ESDとEMRは病変の切除方法が異なる

内視鏡的粘膜切除術(EMR)は病変を持ち上げてスネア(ワイヤー)で切除する方法です。

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は病変の下にある粘膜下層を専用の器具で少しずつ剥離し、比較的大きな病変でも一括切除を目指す方法です。現在は食道表在がんでもESDが広く用いられています。

一括切除する利点は、治療そのものだけではありません。切除した標本を広い範囲で病理検査できるため、本当の深達度、脈管侵襲、切除断端などを詳しく確認できます。

内視鏡で取れた後に追加治療が必要になることがある

ESD後の病理検査で予想より深くがんが入り込んでいたり、リンパ管や血管への侵入が確認されたりした場合には、リンパ節転移を治療するため手術や化学放射線療法を追加することがあります。

これは「内視鏡治療に失敗した」という意味ではありません。

治療前の内視鏡では完全には分からなかった深さや転移リスクが、切除標本を詳しく調べることで明らかになったためです。

参考:食道癌診療ガイドライン システマティックレビュー|日本食道学会

広い範囲を切除すると食道狭窄が問題になる

食道の内周を広く切除すると、治った部分が瘢痕となって縮み、食道が狭くなることがあります。

特に全周に近い広範囲の切除では狭窄リスクが高くなるため、予防治療を組み合わせたり、病変の範囲によっては最初から手術や化学放射線療法を検討したりします。

食道を残せる治療であっても、「切除できるか」だけではなく、切除後も食事を通せる食道を保てるかまで考えて治療方法を選びます。

食道がんの手術と術前治療|DCF・食道切除・リンパ節郭清

内視鏡治療ではリンパ節まで治療できないため、リンパ節転移の可能性が高い食道がんでは食道切除とリンパ節郭清を行います。

食道がんの手術は、食道を切除するだけではありません。がんのある食道を切除し、転移する可能性があるリンパ節を郭清し、その後、胃や腸を使って新しい食べ物の通り道を作る再建までが一連の手術です。

参考:手術治療|日本食道学会

手術前にDCF療法を行う理由

切除可能なステージⅡ・Ⅲ期の胸部食道扁平上皮がんを中心に、日本では手術前に薬物療法を行うことが標準となっています。現在の代表的な治療が「DCF療法」です。

DCFは、ドセタキセル(D)、シスプラチン(C)、5-FU(F)の3剤を組み合わせます。

術前治療の目的は、単に大きな腫瘍を小さくして切りやすくすることだけではありません。画像には写っていない微小ながん細胞を手術前から全身的に治療し、手術後の再発を減らすことも目的です。

JCOG1109(NExT)試験を受け、日本食道学会はcStageⅡ・Ⅲの食道扁平上皮がんで手術を中心とする場合、DCFを含む術前治療を重視する方針を示しています。

なお、DCFの有効性を示したJCOG1109試験は75歳までの患者さんを対象としていました。高齢者や併存症がある場合には、試験結果をそのまま当てはめず、DCFによる副作用と治療に耐えられる状態かを慎重に評価し、別の術前治療を検討することがあります。

参考:JCOG1109(NExT)術前DCF速報|日本食道学会

胸部食道がんでは広い範囲のリンパ節を治療する

食道には縦方向へ広がる豊富なリンパ管があります。そのため胸部食道がんでも、胸のリンパ節だけでなく首や腹部のリンパ節へ転移することがあります。

手術では、がんの位置や広がりに応じて頸部・胸部・腹部のリンパ節をまとめて切り取る「郭清(かくせい)」を行います。

「食道の腫瘍だけ小さく取ればよい」とならないのは、このリンパ節転移の特徴があるためです。

切除した食道の代わりに胃などで通り道を作る

胸部食道を切除した後は、胃を細長く形成した胃管(いかん)を胸や首まで持ち上げ、残った食道とつないで食べ物の通り道を再建する方法が一般的です。

胃が使えない場合などには、大腸や小腸を使うこともあります。

再建後は以前と消化管の位置や形が変わるため、一度に食べられる量の低下、逆流、ダンピング症候群などが起こることがあります。

頸部食道がんでは「声を残せるか」も治療判断に関係する

頸部食道は咽頭や喉頭と非常に近いため、がんの広がりによっては食道だけを切除することが難しくなります。

喉頭まで一緒に切除する必要がある場合には、通常の声帯による発声ができなくなります。一方、病変の位置や広がりによっては喉頭を残した手術や化学放射線療法を検討できる場合があります。

頸部食道がんでは、「がんを取り切れるか」と同時に、治療後の発声や嚥下機能をどこまで維持できるかを含めて相談します。

開胸・胸腔鏡・ロボット支援手術は何が違うのか

食道がんの手術では、胸部の操作方法として開胸手術、胸腔鏡下手術、ロボット支援手術などがあります。

どの方法でも、がんのある食道を切除し、必要なリンパ節を郭清して食べ物の通り道を再建するという手術の目的は基本的に同じです。違うのは、胸の中へどのようにアプローチし、どのように手術器具を操作するかです。

手術方法 方法 特徴
開胸手術 胸部を大きく切開し、術者が胸の中を直接確認しながら食道切除とリンパ節郭清を行う 広い術野を確保しやすい一方、胸壁への負担が大きくなりやすい
胸腔鏡下手術 胸部に複数の小さな孔を開け、カメラと手術器具を入れ、モニター画像を見ながら術者が器具を直接操作する 開胸手術より胸壁への侵襲を抑えられる一方、高度な内視鏡外科技術が必要になる
ロボット支援手術 胸部の小さな孔からカメラとロボットアームを入れ、術者が操作席からロボットアームを操作する 立体的な拡大視野と自由度の高い鉗子操作を利用でき、狭い胸の中で繊細な操作を行いやすいことが期待される

2025年に公表されたJCOG1409(MONET)試験では、十分な経験を持つ術者が行った胸腔鏡下食道切除術について、開胸手術に全生存期間で劣らないことが示され、術後の呼吸機能も良好に保たれることが確認されました。これを受け、日本食道学会は胸部食道がんに対する胸腔鏡下食道切除術を強く推奨しています。

一方、ロボット支援手術が開胸手術や胸腔鏡下手術より長期生存率を改善することまで確立しているわけではありません。 国立がん研究センターも、ロボット支援食道手術ではより繊細な操作が期待される一方、その有効性については今後も評価が必要としています。

そのため、食道がん手術は「ロボットだから最も優れている」「開胸だから古い」といった基準で選ぶものではありません。病変の位置や広がり、これまでの手術歴、全身状態に加えて、その術式を施設や術者がどの程度経験しているかも考えて選択します。

参考:JCOG1409(MONET)胸腔鏡下食道切除術速報|日本食道学会
参考:胸腔鏡下手術が切除可能食道がんの新たな標準治療に|国立がん研究センター

食道がん手術では肺炎・縫合不全・反回神経麻痺に注意する

食道切除は胸部、腹部、場合によっては頸部にも操作が及ぶ大きな手術です。

術後には肺炎、食道と胃管などをつないだ部分から内容物が漏れる縫合不全、声帯を動かす反回神経の障害などが起こることがあります。日本食道学会も、術後肺炎は食道手術で注意すべき合併症の一つとしています。

反回神経麻痺が起こると、声がかすれるだけでなく、食べ物や唾液が気管へ入りやすくなり、誤嚥性肺炎につながることがあります。そのため食道がん手術では、手術前から呼吸機能や栄養状態を整え、術後には呼吸・嚥下リハビリテーションを行いながら回復を目指します。

化学放射線療法・放射線治療|食道温存と救済治療

化学放射線療法は、放射線治療と抗がん薬を同時に組み合わせ、食道を切除せずにがんの根治を目指す治療です。

放射線だけを照射するより、抗がん薬を併用することで治療効果を高めることを目的とします。国内ではシスプラチンと5-FUを組み合わせる方法などが用いられます。

参考:放射線治療/化学放射線療法|日本食道学会

Ⅰ期では手術と化学放射線療法の両方が候補になることがある

粘膜下層まで達してリンパ節転移の可能性があるⅠ期食道がんでは、内視鏡だけでは治療が不十分になることがあります。

このような場合には手術のほか、根治的化学放射線療法によって食道を温存する方法も検討します。日本食道学会のガイドラインでも、cStageⅠで手術を行わない場合の化学放射線療法について検討されています。

食道を残せることは大きな利点ですが、治療後にがんが残ったり同じ場所へ再発したりする可能性があるため、定期的な内視鏡検査などが必要です。

Ⅱ・Ⅲ期でも手術を行わない根治治療として選ばれる

切除可能なステージⅡ・Ⅲ期の胸部食道扁平上皮がんでは、国内では術前DCF療法+手術が標準治療です。

一方、手術を希望しない場合や全身状態などから手術の負担が大きい場合には、根治的化学放射線療法を検討します。

治療を選ぶ際には「食道を残せるか」だけでなく、根治できる可能性、手術のリスク、化学放射線療法後に病変が残った場合の次の治療まで含めて比較します。

ⅣA期でも根治を目指して化学放射線療法を行うことがある

食道がんが気管や大動脈など周囲臓器へ広がり、そのままでは切除が難しいⅣA期では、全身状態が保たれていれば根治的化学放射線療法が候補になります。

治療後は画像検査などで病変の状態を改めて評価します。一部の患者さんでは、治療効果や病変の範囲、全身状態などを踏まえ、経験のある施設で手術を含む追加治療を慎重に検討する場合があります。

化学放射線療法でがんが残った・再発した場合の救済治療

根治的化学放射線療法を行っても、食道局所にがんが残ったり、その後同じ場所に再発したりすることがあります。

その場合、病変の深さや範囲によっては救済手術、内視鏡切除、光線力学的療法(PDT)などを検討します。

PDTは、薬剤を投与した後に特定の波長のレーザー光をがんへ照射して治療する方法で、化学放射線療法後の局所遺残・再発の一部が対象になります。

救済手術は根治を目指せる可能性がある一方、放射線治療を受けた組織を手術するため、初回から手術する場合より合併症リスクが高くなることがあります。

そのため化学放射線療法を選ぶ段階から、治療後に病変が残った場合にどのような救済治療が可能なのかも確認しておくと、その治療を選ぶ意味を理解しやすくなります。

参考:内視鏡治療|日本食道学会

術前化学放射線療法後の術後ニボルマブ

術後ニボルマブについては、適応となる治療経過を区別して理解する必要があります。

CheckMate 577試験で効果が示されたのは、cStageⅡ・Ⅲなどの食道がんに対して術前化学放射線療法を行った後にR0切除ができたものの、病理学的にがんが残っていた患者です。この条件では、日本食道学会も術後ニボルマブを強く推奨しています。

一方、日本で標準的に行われている術前DCFなどの化学療法→手術の後にニボルマブを追加すれば再発を減らせる、ということは現在確立していません。日本食道学会の患者向け情報でも、この点は明確に区別されています。

「食道がんの手術後だからニボルマブを使う」という治療ではなく、手術前にどの治療を受けたのか、手術標本にがんが残っていたかによって考えます。

参考:術前・術後の薬物療法|日本食道学会

切除不能・再発食道がんの薬物療法とバイオマーカー

肺や肝臓などへの遠隔転移があるⅣB期や、手術後に複数の場所へ再発した食道がんでは、全身へ作用する薬物療法が治療の中心になります。

手術や放射線治療は特定の場所を治療する方法ですが、薬物療法は画像では見えない病変も含め、全身のがん細胞へ作用することを目的とします。

なお、以下では、日本で多い食道扁平上皮がんの薬物療法を中心に説明します。食道腺がんや食道胃接合部腺がんでは、組織型やバイオマーカーに応じて治療の考え方が異なる場合があります。

参考:進行・再発食道がんに対する薬物療法|日本食道学会

一次治療では化学療法と免疫療法を組み合わせる

現在の進行・再発食道がんでは、5-FUやプラチナ系抗がん薬による化学療法だけでなく、免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせる治療が一次治療として用いられています。

代表的には、ペムブロリズマブまたはニボルマブと化学療法を組み合わせる方法があります。また、ニボルマブとイピリムマブという2種類の免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせる治療も選択肢です。

2025年には、チスレリズマブ+シスプラチン+5-FU療法も一次治療の選択肢に加わりました。根拠となったRATIONALE-306試験は進行・再発の食道扁平上皮がんを対象とした試験で、日本食道学会はこの併用療法を強く推奨しています。PD-L1のTAPスコアによって上乗せ効果が異なる傾向も示されているため、患者さんの病状やPD-L1発現などを踏まえて治療を選択します。

どの治療を選ぶかは、PD-L1発現、がんの進み方、全身状態、腎機能などによって変わります。また各試験でPD-L1の評価方法や、効果が大きくみられた患者群が異なるため、「PD-L1が高い/低い」だけで一律に薬を決めるものではありません。

参考:RATIONALE-306 試験の概要|日本食道学会ガイドライン委員会

二次治療以降は、これまでに使った薬から次の治療を考える

一次治療で病状が進行した場合には、それまでに使用していない種類の薬へ切り替えます。

一次治療で化学療法と免疫療法を使用した場合には、パクリタキセルなどのタキサン系薬剤を使うことがあります。反対に一次治療でニボルマブ+イピリムマブを使用した場合には、フルオロウラシル系薬剤とプラチナ系薬剤を組み合わせるなど、治療歴に応じて次の治療を決めます。

「二次治療だからこの薬」と自動的に決まるのではなく、これまでにどの薬を使い、どの副作用が残っているかが選択に関係します。

一部の食道がんではHER2遺伝子増幅が治療につながる

これまで食道がんでは、肺がんなどのようにバイオマーカーから薬を選ぶ治療は限定的でした。

しかし2026年には、HER2遺伝子増幅を持つ切除不能・進行・再発食道がんで、標準的な治療が難しくなった場合にトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が新たな選択肢となりました。

日本食道学会は2026年4月、HER2遺伝子増幅を持つ切除不能進行・再発食道がんに対するT-DXdを弱く推奨しています。HERALD試験に登録された食道がん12例のうち10例は扁平上皮がんであり、HER2は食道腺がんだけに関係する情報ではありません。現時点では、T-DXdの適応を判断する際には、承認されたコンパニオン診断薬などを用いてHER2遺伝子増幅を確認する必要があります。

ただし、HER2検査をすべての早期食道がん患者が受けるという意味ではありません。進行・再発し、標準治療後の次の選択肢を考える場面などで、検査の必要性を判断します。

参考:2026年 T-DXd 食道癌ガイドライン速報|日本食道学会

食べ物が通らない場合の治療・栄養管理・緩和ケア

食道がんでは、治療の副作用とは別に、がんそのものによって食べられなくなることがあります。

食道が狭くなって十分な栄養を取れない状態が続くと、体重と筋肉が減り、その後の手術や薬物療法を受ける体力にも影響します。そのため、がんを治療することと栄養を保つことを同時に考えます。

参考:緩和治療|日本食道学会

食べられる範囲に合わせて食事形態を変える

軽い通過障害であれば、食べ物を小さくする、よく噛む、やわらかい食品へ変える、とろみや水分を利用するといった方法で食事を取りやすくできることがあります。

ただし、無理に固形物を押し込むと途中で詰まることがあります。食べ物が頻繁につかえる場合には、栄養指導だけで済ませず、狭窄の程度を医療者へ伝えます。

口から十分に取れない場合は別の経路から栄養を補う

食事だけでは必要な栄養を確保できない場合には、点滴による栄養や、胃ろう・腸ろうなどを使った経管栄養を検討します。

食道がんでは手術の際に腸ろうを作り、術後に食事が十分取れるようになるまで栄養を補うこともあります。

「口から食べられない=治療ができない」というわけではなく、栄養経路を確保して体力を保ちながら治療を続ける方法があります。

参考:食道がんQ&A|国立がん研究センター

食道ステントで通り道を広げる場合がある

食道の狭窄が強い場合には、内側から金属製などのステントを広げて食べ物の通り道を確保する方法があります。

ただし、食道が狭いから必ずステントを入れるわけではありません。

病変の場所や今後予定している治療によっては、放射線治療、化学放射線療法、バイパス手術、胃ろう・腸ろうなどの方が適している場合があります。放射線治療との組み合わせなどでは重い合併症を起こす可能性もあるため、その後の治療計画を踏まえて選択します。

緩和ケアは治療をやめた後に始めるものではない

食べられないこと、痛み、息苦しさ、不安などを和らげる緩和ケアは、抗がん治療を終了した患者さんだけが受けるものではありません。

日本食道学会も、食道がんに対する緩和治療は診断と同時に進め、身体症状や心理的なつらさを軽減してQOLを保つことを目的とすると説明しています。

薬物療法や放射線治療を行いながら、痛み、栄養、睡眠、仕事や家庭生活などの問題について緩和ケアチームへ相談することもできます。

食道がん治療の副作用と治療後の食事・嚥下・生活

食道がんでは、治療が終わった後も食事の仕方や体重、飲み込み方が以前と同じには戻らない場合があります。

副作用を「症状が出るか出ないか」だけで考えず、食べられているか、体重を保てているか、誤嚥せず飲み込めているか、日常生活を送れるかまで確認します。

参考:食道がん 療養|国立がん研究センター

食道切除後は少量ずつ回数を分けて食べる

食道切除後に胃管で再建すると、胃の形や位置が手術前と大きく変わります。

一度にたくさん食べると苦しくなる場合があるため、少ない量から始め、食事回数を増やしながら自分が食べられる量を探していきます。食事量が少ない時期には、1回の量だけで栄養を確保しようとせず、間食なども利用しながら一日全体で必要なエネルギーを取れるよう調整します。

体重は手術前より減ることがある

食事量の低下、消化管の形の変化、術後の代謝変化などによって、食道がん手術後には体重が減少することがあります。

多少の体重減少だけで治療異常とは限りませんが、体重が下がり続ける、食事を増やせない、筋力が低下して外出できなくなったといった場合には、管理栄養士などへ相談します。「食道を切ったから痩せるのは仕方がない」と決めつけず、食べにくさの原因を探します。

逆流やダンピング症候群が起こることがある

胃管を胸や首まで持ち上げると、胃液や腸液が逆流しやすくなることがあります。特に食後すぐに横になると逆流しやすいため、食後の姿勢や就寝時の上半身の高さなどを調整することがあります。

また、食物が急速に小腸へ流れ込むことで、食後の動悸、冷や汗、腹痛、下痢、めまいなどを生じるダンピング症候群が起こることもあります。

声のかすれや誤嚥には嚥下リハビリが関係する

手術中に反回神経が影響を受けると、声帯の動きが低下し、声がかすれることがあります。声の問題だけでなく、飲み込んだ食物や唾液が気管へ入りやすくなることがあり、誤嚥性肺炎につながる場合があります。

食事中にむせる、飲んだ後に声が濁る、発熱を繰り返すといった場合には、嚥下機能を評価し、言語聴覚士などによるリハビリテーションを検討します。

DCFでは感染症につながる骨髄抑制などに注意する

DCF療法では、白血球や好中球の減少、発熱、食欲低下、吐き気、口内炎などが起こることがあります。

特に好中球が大きく減少すると感染症が重症化する可能性があります。高熱や強い倦怠感などがある場合には、次の受診日まで待たず病院へ連絡する必要があります。

食道がんでは治療前から栄養状態が低下している場合があるため、吐き気や口内炎によって食事量がさらに落ちていることも治療継続に関係します。

放射線治療中は一時的に飲み込みにくさが強くなることがある

放射線を食道へ照射すると、治療途中から粘膜に炎症が起こり、飲み込んだ際の痛みやつかえ感が一時的に強くなることがあります。国立がん研究センターでは、治療中から治療直後にこのような症状が続く場合があると説明しています。

放射線治療では、治療中の食道炎だけでなく、治療終了後しばらくして副作用が現れることもあります。食道が狭くなる食道狭窄や、肺・心臓への影響などがみられる場合があるため、治療終了後も新しい飲み込みにくさ、咳や息切れなどがあれば医療機関へ相談します。

がんによる狭窄と放射線食道炎が重なると食事量が大きく落ちることがあるため、鎮痛薬や栄養管理を組み合わせます。

参考:放射線治療/化学放射線療法|日本食道学会

免疫療法では普段と違う症状を早めに伝える

ニボルマブ、ペムブロリズマブ、チスレリズマブ、イピリムマブなどの免疫チェックポイント阻害薬では、免疫反応が自分自身の臓器へ及ぶことで副作用が起こる場合があります。

肺、腸、肝臓、甲状腺などさまざまな臓器に影響する可能性があるため、新しい咳や息切れ、下痢、強い倦怠感などが続く場合には治療を受けている医療機関へ連絡します。

免疫療法では通常の抗がん薬のように単純に減量して続けるのではなく、副作用の重さによって休薬・中止し、必要に応じステロイドなどで治療します。

また、T-DXdを使用する場合には間質性肺疾患にも注意が必要です。新しい咳や息切れなどが現れた場合には早期に評価します。日本食道学会もT-DXd使用時の間質性肺疾患への注意を示しています。

参考:T-DXdの間質性肺疾患|日本食道学会ガイドライン委員会

食道がんのステージ別生存率

食道がんの予後を調べると、「5年生存率」「10年生存率」という数字を目にします。

国立がん研究センターの院内がん登録では、食道がんのステージ別ネット・サバイバルが公表されています。2014~2015年診断例の5年値と、2012年診断例の10年値は次のとおりです。

ステージ 5年ネット・サバイバル
2014~2015年診断例
10年ネット・サバイバル
2012年診断例
Ⅰ期 78.4% 59.4%
Ⅱ期 48.9% 34.0%
Ⅲ期 27.4% 17.1%
Ⅳ期 8.7% 5.5%

なお、この生存率集計ではⅣA期とⅣB期は分かれておらず、「Ⅳ期」として集計されています。また、この生存率は扁平上皮がんだけではなく「食道がん」全体の集計です。

ここで示す院内がん登録の生存率はUICC TNM分類による病期を用いた集計です。前の章で説明した日本食道学会「食道癌取扱い規約 第12版」に基づく臨床的進行度とは分類方法が同じではないため、両者のステージ番号を完全に同じ病状として置き換えることはできません。また、2012年および2014〜2015年診断例は現在とは異なる版のUICC TNM分類が使われていた時期の統計となっています。

参考:2014~2015年診断例・5年生存率|国立がん研究センター
参考:2012年診断例・10年生存率 最新集計値|国立がん研究センター

ネット・サバイバルは個人の余命を示す数字ではない

ネット・サバイバルとは、がん以外の病気や事故などによる死亡の影響を統計学的に取り除き、そのがんだけが死亡に影響すると仮定した場合の生存状況を推定する指標です。

たとえばⅢ期の5年ネット・サバイバルが27.4%だからといって、「自分が5年後に生きている確率が27.4%」とそのまま解釈することはできません。

同じⅢ期でも、がんの位置、リンパ節転移の程度、年齢、全身状態、術前治療への反応、根治切除できたかなどによって病状は異なります。

5年と10年は同じ患者を続けて集計した数字ではない

5年ネット・サバイバルは2014~2015年診断例、10年ネット・サバイバルは2012年診断例です。

したがって「Ⅰ期では5年後78.4%だった人が10年後59.4%になった」というように、同じ患者集団の時間経過として直接比較することはできません。

現在の治療成績がすべて反映されているわけではない

この生存率が集計された患者さんが診断された後、食道がん治療は変化しています。

現在の切除可能な局所進行食道がんでは術前DCF療法が標準となり、進行・再発例ではニボルマブ、ペムブロリズマブ、イピリムマブ、チスレリズマブなどを用いた免疫療法が導入されています。2026年にはHER2遺伝子増幅を持つ一部の進行・再発食道がんにT-DXdという選択肢も加わっています。

したがって、過去の生存率を2026年現在治療を始める患者さんの将来へ、そのまま当てはめることはできません。

食道がんの再発・経過観察|重複がんにも注意

食道がんの治療後は、治療した場所だけでなく、リンパ節や別の臓器への再発がないかを定期的に確認します。

経過観察の内容や間隔は、内視鏡治療、手術、化学放射線療法など、受けた治療と病理結果によって異なります。日本食道学会では、すべての患者さんに共通する一つの決まったフォローアップ手順があるわけではないと説明しています。

参考:食道がん治療後の経過観察|日本食道学会

再発は食道の同じ場所だけに起こるわけではない

食道がんの再発には、食道や手術部位周辺に再び現れる局所再発、リンパ節再発、肺・肝臓・骨などへの遠隔転移があります。

再発した場合には、再発した場所と範囲、これまで受けた治療、全身状態から治療を考え直します。

局所に限られた再発であれば内視鏡治療、放射線治療、救済手術などを検討できることがあり、広範囲に再発している場合には薬物療法が中心になります。

内視鏡治療後も食道内に新しいがんができることがある

ESDやEMRで病変を切除しても、食道そのものは残っています。

最初に治療した場所が治っていても、残った食道の別の場所に新しい食道がんが発生することがあります。そのため、内視鏡治療後も継続した内視鏡検査が必要です。

内視鏡治療後にリンパ節転移のリスクがある病理所見が確認された場合には、CTなども組み合わせて経過を確認します。

食道がんでは「重複がん」にも注意する

食道がん患者さんでは、同時期または時間をおいて、別の臓器にもがんが発生することがあります。

日本食道学会では、食道がん患者の約23%にほかの臓器のがんがみられ、特に咽頭を中心とする頭頸部がん、胃がん、大腸がんなどが多いと報告しています。

食道がんと頭頸部がんは、ともに飲酒・喫煙との関連が強いため、一人の患者さんに複数発生することがあります。

そのため食道がん治療後の内視鏡検査では、食道だけでなく咽頭や胃なども観察します。再発を探すだけでなく、別の場所に新しくできたがんを早い段階で見つけることも経過観察の目的です。

治療後1~2年は特に再発を確認する

経過観察の具体的な間隔は治療内容や施設によって異なりますが、食道がんでは再発の多くが治療後の比較的早い時期にみられます。

日本食道学会では、手術後は最初の1~2年に3~6カ月ごとを目安としてCTなどを行い、その後徐々に間隔を延ばす方法が一般的としています。根治的化学放射線療法後も、最初の1~2年は内視鏡とCTなどを3~6カ月ごとに行うことがあります。

新しい症状があれば次の定期検査まで待たない

定期的にCTや内視鏡検査を受けていても、検査と検査の間に病状が変化することがあります。

新しく食べ物がつかえるようになった、体重が急に減った、声のかすれが続く、痛みや咳が強くなったなど、以前とは違う変化がある場合には次回の定期受診まで待たず相談します。

食道がんの治療を選ぶときに確認したいこと

食道がんでは、同じ「食道がん」という診断でも、内視鏡治療だけで根治を目指せる患者さんから、DCF療法と大きな手術が必要な患者さん、食道を残す化学放射線療法を検討できる患者さんまで治療が大きく異なります。

その違いは、単に病院や医師の好みで決まるのではありません。

確認したいこと 治療選択に関係する理由
扁平上皮がんか腺がんか 病期分類や薬物療法の考え方に関係する
食道のどこにがんがあるか 切除範囲、リンパ節郭清、声や嚥下機能への影響が変わる
cStage・深達度はいくつか 内視鏡治療、手術、化学放射線療法の分岐になる
なぜ手術または化学放射線療法が勧められているか 根治の可能性と治療後の生活を比較するため
治療後に病変が残った場合の次の治療 救済手術、PDT、薬物療法など次の選択肢を理解するため
現在の体重・食事量・体力 予定した治療を安全に受け続けられるかに関係する

参考:食道がんのステージと治療の選択|日本食道学会
参考:食道がん 治療|国立がん研究センター

特に手術と化学放射線療法の両方が候補になる場合には、「食道を残せるか」だけで比較しない方がよいでしょう。

それぞれの治療で期待できる根治性、合併症、治療期間、食事や仕事への影響、治療後にがんが残った場合の救済治療まで聞いたうえで、自分にとって受け入れられる治療を考えます。

食道切除は身体への負担が大きい治療ですが、胸腔鏡手術など手術方法も進歩しています。一方、化学放射線療法は食道を残せる可能性がありますが、局所再発した場合にはその後の治療が必要になります。

提示された治療について迷う場合には、食道がんを多く扱う施設でセカンドオピニオンを受ける方法もあります。日本食道学会では、食道がんの内視鏡治療、放射線治療、外科治療を行う施設や食道外科専門医を公開しています。

参考:食道がん治療を行う病院一覧|日本食道学会

食道がんは治すことと「食べる・飲み込む生活」を一緒に考える

食道がんは、早い段階で見つかれば食道を切除せず、ESDなどの内視鏡治療で根治を目指せる場合があります。一方、がんが深くなりリンパ節転移の可能性が高くなると、術前DCF療法と手術や、根治的化学放射線療法などを検討します。

どの治療が適しているかを理解するには、ステージの数字だけを見るのではなく、がんの深さ、リンパ節への広がり、食道のどこにできたのか、手術で取り切れるのかを確認する必要があります。

食道は毎日の食事に直接関係する臓器です。治療後に体重が減る、食事量が変わる、飲み込みにくくなる、声が変わるといったこともあります。治療を選ぶときには、がんを取り除くことだけでなく、治療後にどのように食べ、どのような生活を送りたいのかまで主治医と共有してみてください。

参考:患者さんとご家族のための食道がん診療の手引き(2026年4月)|日本食道学会

肝臓がんは、肝臓そのものから発生する原発性肝がんの総称です。日本ではその90%以上を肝細胞がんが占めており、一般に「肝臓がん」といった場合は肝細胞がんを指すことが多くあります。

肝細胞がんには、ほかのがんとは異なる特徴があります。

治療方法を決めるとき、がんの大きさや個数、血管への広がり、転移の有無だけを見ればよいわけではありません。肝細胞がんはB型・C型肝炎、アルコール関連肝障害、肝硬変、MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)など、もともと傷んだ肝臓に発生することが多いため、「がんをどこまで治療できるか」と同時に「治療後も肝臓がどこまで働けるか」を考える必要があります。

そのため、同じ大きさ・同じ個数の肝細胞がんでも、肝機能が十分保たれている人と肝硬変が進んでいる人では、選択される治療が異なることがあります。

この記事では、一般に「肝臓がん」と呼ばれることの多い肝細胞がんを中心に、原因、検診・定期検査、症状、診断、ステージ、肝予備能、肝切除、ラジオ波焼灼療法(RFA)、TACE、肝移植、薬物療法、生存率、再発まで解説します。

  • 肝細胞がんの治療は、ステージだけでなく肝機能も合わせて決める
  • 肝細胞がんは背景に慢性肝疾患があることが多く、治療後も再発と肝機能低下の両方に注意する
  • 進行・再発しても治療法は一つではなく、その時点の病状と肝機能から次の選択肢を考える

肝臓がんとは何か

肝臓に見つかるがんが、すべて同じ「肝臓がん」という病気なのではありません。

肝臓の細胞から発生したのか、肝臓内の胆管から発生したのか、別の臓器から転移してきたのかによって、診断名も治療方法も異なります。

この記事で主に扱うのは「肝細胞がん」

肝細胞がんは、肝臓の大部分を構成している肝細胞から発生するがんです。

国立がん研究センターでは、日本で発生する肝臓がんの90%以上が肝細胞がんであるとしています。そのため、一般的には「肝臓がん」という言葉が肝細胞がんの意味で使われることも多くあります。

肝細胞がんの特徴は、がんだけが単独で発生するというより、慢性的な肝障害を抱えた肝臓に発生することが多いことです。

B型肝炎やC型肝炎、アルコール関連肝障害、肝硬変などに加え、現在では肥満や糖尿病などの代謝異常と関係するMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患、旧NAFLD)や、MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎、旧NASH)も肝細胞がんの背景として考えます。

こうした背景肝疾患があるため、肝細胞がんでは「がんを取り除けるか」だけでなく、治療によって残った肝臓が十分に働けるかまで評価しなければなりません。

参考:肝臓がん(肝細胞がん)について|国立がん研究センター がん情報サービス

「肝内胆管がん」は肝細胞がんとは別のがん

肝臓の中を通る胆管の細胞から発生するものを肝内胆管がんと呼びます。

肝臓の中にできるため広い意味では原発性肝がんに含まれますが、肝細胞がんとは発生する細胞が異なり、ステージ分類や薬物療法など治療の考え方も異なります。

そのため、本記事でこれ以降に説明するRFA、TACE、肝移植、肝細胞がんの薬物療法、ステージ別生存率などは、特に断りがない限り肝細胞がんを対象とした内容です。

「肝臓に転移したがん」は肝細胞がんではない

大腸がん、胃がん、膵臓がん、肺がん、乳がんなどが肝臓へ転移することがあります。これを転移性肝がん(肝転移)と呼びます。

たとえば大腸がんが肝臓へ転移した場合、肝臓に腫瘍があっても肝細胞がんではありません。「大腸がんの肝転移」として、大腸がんに基づいた治療を考えます。

「肝臓にがんがある」と「肝臓からがんが発生した」は同じ意味ではないため、診断を受けたときには、原発性の肝細胞がんなのか、肝内胆管がんなのか、ほかのがんからの肝転移なのかを確認することが治療を理解する最初の段階になります。

肝細胞がんでは「がんの進行度」と「肝予備能」の両方を見る

肝細胞がんの治療では、腫瘍の状態と肝臓そのものの状態を分けて評価します。

腫瘍については、大きさや個数、門脈・肝静脈などの血管へがんが入り込んでいないか、リンパ節やほかの臓器へ転移していないかを確認します。

肝臓については、アルブミンやビリルビン、血液凝固能、腹水などから、残っている肝機能である肝予備能を評価します。Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類や、ALBI grade(アルブミン・ビリルビン・グレードまたはアルビグレード)などが、そのために使われる指標です。

この2つを分けて考える理由は、がんだけを強く治療して肝機能が大きく低下すると、その後の治療を続けられなくなる可能性があるためです。

たとえば小さな肝細胞がんでも肝硬変が進んでいれば、肝切除が適さない場合があります。反対に、腫瘍がある程度大きくても、肝機能が保たれ、十分な肝臓を残せると判断されれば切除を検討できる場合があります。

肝細胞がんでは「どの治療が最も強いか」ではなく「がんを抑えながら、その後の治療に必要な肝機能をどこまで残せるか」という視点が治療選択に関わります。

進行した肝細胞がんでもステージだけで治療は決まらない

肝細胞がんが血管へ広がっている場合や、肝臓以外へ転移している場合には、薬物療法が治療の中心になることがあります。

一方で、現在の肝細胞がんには複数の免疫療法や分子標的薬があり、薬物療法によって腫瘍が大きく縮小した場合には、肝切除や局所治療が可能にならないか再評価することもあります。

また、同じ進行した肝細胞がんでも、肝機能が低下すると使用できる治療が限られる場合があります。

ステージ4という言葉だけから「もう手術は絶対にできない」「使える治療は一つしかない」と判断することはできません。病変の広がり、血管侵襲、肝外転移、肝機能、これまでの治療などを確認して方針を考えます。

肝臓がんステージ4の病状や治療については、以下の記事で詳しく解説しています。

肝臓がんの原因とリスク

肝細胞がんの多くは、長い期間にわたって炎症や線維化が続いた肝臓を背景に発生します。

代表的なのがB型・C型肝炎ウイルスの持続感染ですが、アルコール関連肝障害、肥満や糖尿病などに関連する脂肪性肝疾患も発症リスクに関係します。「お酒をたくさん飲む人だけがなるがん」「肝炎ウイルスに感染していなければ心配ない」と考えることはできません。

B型肝炎・C型肝炎は肝細胞がんの主要な原因

B型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)が長期間体内に存在すると、肝臓で炎症と肝細胞の再生が繰り返されます。その過程で遺伝子の変化が蓄積し、肝細胞がんが発生しやすくなると考えられています。

ただし、肝炎ウイルスに感染していても自覚症状がないことがあります。「肝臓が痛くない」「体調に問題がない」という理由だけでは、慢性肝炎や肝線維化がないとは判断できません。

現在はB型・C型肝炎に対する抗ウイルス治療が大きく進歩しています。

B型肝炎ではウイルスの増殖を抑える治療、C型肝炎ではウイルス排除を目指す治療が行われます。肝炎ウイルス感染が分かった場合には、肝細胞がんの検査だけでなく、肝炎そのものを適切に治療することも肝臓を守るために必要です。

なお、C型肝炎ウイルスを排除できた場合でも、すでに高度な肝線維化や肝硬変がある人では肝細胞がんのリスクがなくなるわけではありません。治療後も肝臓の状態に応じた定期検査を続けます。

参考:B型肝炎治療ガイドライン 第5版(2026年6月)|日本肝臓学会
参考:C型肝炎治療ガイドライン 第8.4版(2025年4月)|日本肝臓学会

MASLD・MASHなどの脂肪性肝疾患

これまで「NAFLD」「NASH」と呼ばれてきた脂肪性肝疾患は、現在、国際的な病名変更を受け、MASLD(マッスルディー)MASH(マッシュ)という名称が使われています。

MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)は、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの心代謝系リスクと関連する脂肪性肝疾患です。

脂肪肝がある人すべてが肝細胞がんになるわけではありません。しかし、肝臓の炎症や線維化が進み、肝硬変へ至ると肝細胞がんのリスクも高くなります。健康診断で「脂肪肝」と指摘された場合には、体重だけを見るのではなく、糖尿病などの代謝異常や肝線維化が進んでいないかを確認することが重要です。

また現在は飲酒の有無だけで「アルコール性」「非アルコール性」と単純に二分する考え方ではありません。代謝異常と飲酒量の両方を踏まえて、MASLD、MetALD、アルコール関連肝疾患(ALD)などに分類します。

参考:脂肪性肝疾患の診断基準に関して|日本肝臓学会

アルコールによる慢性的な肝障害

長期間にわたるアルコール摂取によって肝臓の炎症や線維化が続くと、アルコール関連肝疾患から肝硬変へ進行し、肝細胞がんのリスクが高くなることがあります。

ただし「何年間飲んだら肝臓がんになる」「この量までなら絶対に安全」と一律に決められるものではありません。実際の影響は、飲酒量だけでなく、性別、体格、代謝異常、肝炎ウイルス感染の有無、すでに生じている肝障害などによっても変わります。

肝機能異常を指摘されている場合には、自分の感覚で飲酒量の多い・少ないを判断するのではなく、現在の肝臓の状態を確認したうえで飲酒について相談します。

肥満や糖尿病も肝細胞がんのリスクと関連する

国立がん研究センターでは、肝細胞がんの危険因子として、肝炎ウイルス感染やアルコール摂取のほか、肥満、脂肪肝、糖尿病、喫煙などを挙げています。特に糖尿病や肥満はMASLDとも関係するため、肝臓だけの問題として切り離すのではなく、血糖、体重、脂質、血圧なども含めて管理します。

危険因子があることと「肝細胞がんがあること」は同じではありません。脂肪肝や糖尿病があるだけで過度に心配する必要はありませんが、慢性肝炎や肝硬変、肝線維化などによって肝細胞がんの発症リスクが高いと判断された場合には、定期的な画像検査につなげることが早期発見に役立ちます。

肝臓がんの検診はある?定期検査・サーベイランス

胃がんや大腸がんなどには、一定の年齢になった人を対象とする国のがん検診があります。

しかし、肝細胞がんには、現在、健康な一般人口を一律に対象とする国の対策型がん検診はありません。

その代わり、肝細胞がんが発生するリスクの高い人をあらかじめ把握し、腹部超音波検査などを定期的に行う「サーベイランス」が重要になります。

慢性肝炎や肝硬変がある人では3~6カ月ごとの検査が推奨

国立がん研究センターでは、B型・C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎や肝硬変がある人、また肝炎ウイルスを伴わない肝硬変がある人には、3~6カ月間隔で腹部超音波検査などの定期検査を受けることを勧めています。

一般に、腹部超音波検査とAFP、PIVKA-IIなどの腫瘍マーカーを組み合わせ、異常が疑われた場合には造影CTやMRIなどで詳しく調べます。

これは「健康な人全員が半年ごとに腹部エコーを受けた方がよい」という意味ではありません。肝細胞がんでは、発症リスクが高い人を特定し、その人に必要な頻度で検査を続けることが重要です。

参考:肝臓がん(肝細胞がん) 予防・検診|国立がん研究センター がん情報サービス

肝炎ウイルス検査を受けたことがなければ一度確認する

B型・C型肝炎ウイルスは、感染していても長期間症状が出ない場合があります。そのため、自分が感染していることを知らないまま慢性肝炎が進行することがあります。

国立がん研究センターは、肝炎ウイルス感染を早期に知るため、これまで検査を受けたことがない人には一度は肝炎ウイルス検査を受けることを勧めています。検査は自治体の肝炎ウイルス検診や医療機関などで受けられる場合があります。

検査で陽性になったからといって、肝細胞がんがあるという意味ではありません。肝炎ウイルス感染の有無を知り、必要であれば抗ウイルス治療や肝細胞がんの定期検査につなげるための検査です。

症状がある場合は「検診」を待たずに受診する

肝細胞がんは早い段階では症状がほとんどないことがあります。

一方で、黄疸、腹部の張りや痛み、著しい倦怠感、むくみなどが現れている場合には、定期検診の時期を待つのではなく医療機関を受診します。

健康診断で肝機能異常や脂肪肝を繰り返し指摘されている場合も「症状がないから大丈夫」と放置せず、自分に慢性肝疾患や肝線維化がないかを確認することが、その後の検査方針を決めるうえで役立ちます。

肝臓がんの初期症状

肝細胞がんは、早い段階では自覚症状がほとんどないことがあります。

肝臓には大きな予備能力があり、一部にがんができてもすぐに肝機能全体が低下するとは限りません。国立がん研究センターも、肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、炎症やがんがあっても初期には自覚症状がほとんどないと説明しています。

肝細胞がんが発覚するのは、B型・C型慢性肝炎や肝硬変の定期検査、健康診断で見つかった肝機能異常の精密検査、腹部超音波検査などをきっかけとして、症状がない段階で見つかることが少なくありません。

初期には「肝臓がん特有の症状」がほとんどない

小さな肝細胞がんでは、痛みや食欲低下などがまったくない場合があります。

症状が出る場合も、だるさ、食欲低下、体重減少、腹部の違和感といった、肝細胞がんだけに特有とはいえないものが中心です。

「右のお腹が痛くないから肝臓は大丈夫」とは判断できません。症状がない時期に定期検査を受ける意味が大きいのは、この病気の特徴によるものです。

前章で説明したB型・C型慢性肝炎や肝硬変などの高リスク者では、症状が現れるのを待つのではなく、決められた間隔で腹部超音波検査などを受けます。

進行すると腹部の張りや痛みが出ることがある

腫瘍が大きくなると、右上腹部の圧迫感、張り、しこり、痛みなどが現れることがあります。

食欲低下や体重減少が目立ってくることもありますが、こうした症状だけから肝細胞がんのステージを判断することはできません。大きな腫瘍でも症状が乏しい人がいるためです。

肺や骨などへ転移した場合には、咳や息切れ、背中や腰の痛みなど、転移した臓器に応じた症状が現れることもあります。

黄疸や腹水は「がんだけ」が原因とは限らない

肝細胞がんの患者さんでは、背景に慢性肝炎や肝硬変があることが少なくありません。

肝機能が低下すると、皮膚や白目が黄色くなる黄疸、お腹に水がたまる腹水、足のむくみ、皮膚のかゆみ、強い倦怠感などが現れることがあります。

さらに肝機能が低下すると、肝臓で処理できない物質が体内に蓄積し、意識がぼんやりする肝性脳症を起こすこともあります。

こうした症状は、腫瘍そのものが大きくなった結果だけではなく、もともとの肝硬変や肝不全が進行して生じる場合があります。

肝細胞がんでは「がんがどこまで進んでいるか」と「肝臓がどこまで機能しているか」は別々に評価する必要があります。

突然の強い腹痛は腫瘍破裂の可能性もある

頻度は高くありませんが、肝細胞がんが破裂して腹腔内に出血することがあります。

急激な強い腹痛、冷や汗、ふらつき、血圧低下などを伴う場合には緊急の治療が必要になることがあります。こうした症状がある場合は定期受診を待たず、速やかに医療機関を受診してください。

肝臓がんの検査と診断

肝細胞がんが疑われた場合には、腹部超音波、造影CT、MRI、血液検査などを組み合わせて診断します。

胃がんや大腸がんとの大きな違いは、肝細胞がんでは必ずしも全員に腫瘍の生検を行うわけではないことです。慢性肝疾患などの背景があり、造影CTやMRIで肝細胞がんに特徴的な画像所見が確認できる場合には、画像から診断できることがあります。

検査ではがんの有無だけでなく、腫瘍の個数や大きさ、血管への広がり、肝外転移、治療に耐えられる肝機能が残っているかまで確認します。

腹部超音波検査|肝臓に腫瘤がないかを調べる

腹部超音波検査は、体の外から超音波を当てて肝臓内部を観察する検査です。

腫瘍の大きさや個数、血管との位置関係、肝臓の形、腹水の有無などを確認できます。放射線被ばくがなく、繰り返し行いやすいため、慢性肝炎や肝硬変がある人の定期検査にも用いられます。

ただし、病変の位置や体格などによっては十分に観察できないことがあります。超音波で腫瘍が疑われた場合や、腫瘍マーカーが上昇した場合には、造影CTやMRIによる詳しい検査へ進みます。

造影CT・MRI|肝細胞がんに特徴的な血流を確認する

肝細胞がんの診断では、造影剤を使ったCTやMRIが重要な役割を持ちます。

肝細胞がんでは、腫瘍が成長するにつれて血流の入り方が正常な肝臓とは変わることがあります。典型的な肝細胞がんでは、造影CTなどで動脈から血液が入る時期に強く造影され、その後の時相で周囲の肝臓より造影効果が低くなる特徴的なパターンがみられます。

MRIでは、肝細胞に取り込まれる造影剤を使ったEOB-MRIなどが用いられることがあります。CTだけでは判断しにくい小さな病変を詳しく評価する際にも役立ちます。

どちらか一つが常に優れているというわけではなく、腎機能、造影剤を使用できるか、病変の位置や大きさなどを考えて検査を選択します。

AFP・PIVKA-IIは診断を補助する腫瘍マーカー

血液検査では、肝細胞がんの腫瘍マーカーとしてAFP、PIVKA-II、AFP-L3分画などを測定します。

数値が高い場合には肝細胞がんを疑う材料になりますが、腫瘍マーカーだけで診断することはできません。

肝細胞がんがあってもAFPやPIVKA-IIが上昇しないことがあります。反対に、肝炎や肝硬変など、がん以外の影響で数値が変化することもあります。

「AFPが正常だから肝臓がんではない」「PIVKA-IIが高いから肝臓がんで確定」という読み方はせず、超音波、CT、MRIなどの画像所見と合わせて判断します。

肝細胞がんでは全員に生検をするわけではない

がんの診断というと、腫瘍の組織を採取して顕微鏡で確認する「生検」が必要だと思う人もいるかもしれません。

肝細胞がんでは、慢性肝疾患などの背景があり、造影CTやMRIで肝細胞がんに特徴的な血流パターンが確認できる場合、画像所見から診断できることがあります。このような場合は、生検を行わずに治療方針を決めることもあります。

生検が検討されるのは、画像だけでは肝細胞がんかどうか判断しにくい場合や、ほかの種類の腫瘍との区別が必要な場合などです。皮膚から針を刺して腫瘍の一部を採取し、病理検査で細胞の特徴を調べます。

生検には出血などのリスクもあるため、すべての患者さんに一律に行う検査ではありません。画像所見や背景にある肝疾患を踏まえ、生検の結果によって診断や治療方針が変わる可能性があるかを考えて実施を判断します。

参考:肝臓がん(肝細胞がん) 検査|国立がん研究センター がん情報サービス

診断と同時に「肝予備能」を調べる

肝細胞がんが確認された後は、腫瘍だけを詳しく調べても治療方法を決められません。

血液検査ではアルブミン、ビリルビン、血液凝固能などを調べ、腹水や肝性脳症の有無も確認します。これらを組み合わせたChild-Pugh(チャイルド・ピュー)分類は、肝予備能を評価する代表的な方法です。アルブミンとビリルビンから計算するALBI grade(アルビグレード)も肝機能評価に使われています。

同じ3cmの肝細胞がんでも、十分な肝機能が残っている人と肝硬変が進んでいる人では、安全に行える治療が変わります。

肝切除を考える場合には「腫瘍を切除できるか」だけでなく、手術後に十分な肝臓を残せるかまで評価します。薬物療法を考える場面でも肝予備能は治療選択に関係します。

肝硬変がある場合は食道・胃静脈瘤を調べることもある

肝硬変が進むと、肝臓へ流れ込む血液の圧力が上昇し、食道や胃に静脈瘤ができることがあります。治療内容によっては静脈瘤からの出血リスクが問題になるため、上部消化管内視鏡検査で静脈瘤の有無や状態を確認することがあります。

特に進行肝細胞がんの薬物療法では、出血リスクが治療薬の選択にも関係します。この点は薬物療法の章で詳しく解説します。

検査によって、腫瘍の個数・大きさ・血管侵襲・転移と、現在の肝予備能が把握できると、次に治療方針を決めるためのステージを評価します。

肝臓がんのステージ分類

肝細胞がんのステージは、がんが肝臓の中でどの程度広がっているか、血管へ入り込んでいるか、リンパ節や肝臓以外の臓器へ転移しているかなどから判定します。

日本では、主に次の2つの病期分類が使われています。

  • 日本肝癌研究会の「原発性肝癌取扱い規約」による分類
  • 国際的に用いられるUICCのTNM分類

国立がん研究センターも両方の分類を患者向けに紹介しており、どちらの分類を使ったかによって、同じ「ステージ4」という表記でも病状の定義が異なることがあると説明しています。

本記事では、日本国内で肝細胞がんを理解する際に使われている日本肝癌研究会の分類をもとに、ステージ1~4の違いを説明します。

参考:肝がんの検査・診断について|国立がん研究センター

日本肝癌研究会分類では「個数・2cm・脈管侵襲」の3項目を見る

日本肝癌研究会の分類では、まず肝臓内にある腫瘍について、次の3項目を確認します。

  • 腫瘍が1個に限られている
  • 腫瘍の大きさが2cm以下である
  • 門脈・肝静脈・胆管などの脈管へがんが広がっていない

いくつ満たしているかによってT1~T4に分かれます。

T分類 3項目のうち満たす数
T1 3項目すべて
T2 2項目
T3 1項目
T4 0項目

肝細胞がんのT分類は、腫瘍径だけでは決まりません。

たとえば、2cm以下の小さながんでも、複数ある場合や脈管侵襲がある場合にはT1にはなりません。反対に、2cmを超えていても単発で脈管侵襲がなければ、3条件のうち2つを満たすためT2になります。

ステージ1~4はT・リンパ節転移・遠隔転移から決まる

T分類に、リンパ節転移と遠隔転移の有無を加えて最終的なステージを決めます。

日本肝癌研究会分類では、次のようにステージ1~4Bへ分類されます。

ステージ 日本肝癌研究会分類での状態
ステージ1 T1で、リンパ節転移・遠隔転移がない
ステージ2 T2で、リンパ節転移・遠隔転移がない
ステージ3 T3で、リンパ節転移・遠隔転移がない
ステージ4A T4でリンパ節転移・遠隔転移がない場合、またはリンパ節転移があるが遠隔転移はない場合
ステージ4B 肝臓以外への遠隔転移がある

この分類を見ると、ステージ4=必ず遠隔転移がある状態「ではない」ことが分かります。

ステージ4Aには、遠隔転移がなくても肝臓内の腫瘍の状態からT4となるケースや、リンパ節転移があるケースが含まれます。

肺、骨、副腎など肝臓から離れた臓器へ転移している場合はステージ4Bです。

ステージ4Aでも遠隔転移がない場合

「ステージ4」と聞くと、がんが肝臓以外へ転移した状態をイメージする人もいるかもしれません。

しかし、日本肝癌研究会分類では、そうとは限りません。

腫瘍が複数あり、2cmを超え、脈管侵襲も認められるなど、T分類の3条件を一つも満たさなければT4になります。リンパ節転移・遠隔転移がなくても、この場合はステージ4Aです。

リンパ節転移が認められ、遠隔転移がない場合もステージ4Aに分類されます。

ステージ4Bは、肝臓以外の臓器への遠隔転移が確認された状態です。

同じ「ステージ4」でも4Aと4Bでは病変の広がり方が違うため、ステージという数字だけで治療内容や今後の見通しを判断することはできません。

UICC分類ではステージの決め方が異なる

肝細胞がんには、国際的に使用されるUICCのTNM分類もあります。

UICC分類でも、原発腫瘍を示すT、所属リンパ節転移を示すN、遠隔転移を示すMからステージを決めますが、T分類の基準は日本肝癌研究会分類と同じではありません。

参考:UICC「TNM Classification of Malignant Tumours」

国立がん研究センターの一般向け肝がん情報でも、日本肝癌研究会分類とUICC分類を別々に掲載しています。

参考:肝臓がん(肝細胞がん)|国立がん研究センター がん情報サービス

診断書や紹介状に「ステージ2」「ステージ4」と書かれている場合には、どの病期分類によるステージなのかを確認すると、病状をより正確に理解できます。

なお、UICCはTNM分類第9版を2025年に公表し、2026年1月からの使用を推奨しています。ただし、国内のがん登録や患者向け資料では現在もUICC第8版に基づく表記が用いられているものがあり、使用する版は診断年や施設、登録の用途によって異なります。

本記事では、肝細胞がんの病期そのものを理解するため、日本肝癌研究会の分類を中心に説明しました。一方、後述するステージ別生存率は、国立がん研究センターの院内がん登録による統計を使用しており、登録時のUICC TNM分類に基づいています。分類方法が異なるため、両者のステージを完全に同じものとして比較することはできません。

ステージと肝機能は別の評価

肝細胞がんでは、ステージが分かれば治療法が自動的に決まるわけではありません。

治療選択には、がんの広がりと同じくらい肝予備能が関係します。

肝細胞がんの多くは慢性肝炎や肝硬変を背景に発生します。腫瘍そのものが早期でも、肝機能が大きく低下していれば肝切除が難しい場合があります。腫瘍が進行していても、肝機能が十分に保たれていれば薬物療法など複数の治療を検討できます。

国立がん研究センターでは、肝障害度やChild-Pugh分類に加え、近年はアルブミンとビリルビンから評価するALBI gradeも肝機能評価に用いられると説明しています。肝細胞がんの治療方針を理解するときには「ステージはいくつか」だけでなく、「肝機能はどの程度残っているか」を確認する必要があります。

肝予備能とは|Child-Pugh分類について

肝細胞がんでは、がんのステージと同時に肝予備能を確認します。

肝予備能とは、現在の肝臓にどの程度の機能が残っているかを示す考え方です。

肝細胞がんは、慢性肝炎や肝硬変などを背景に発生することが多く、がんができる前から肝機能が低下している患者さんもいます。同じ大きさ・個数の肝細胞がんでも、肝予備能が十分に保たれているかどうかによって、安全に行える治療が変わります。

肝予備能を評価する代表的な方法の一つがChild-Pugh(チャイルド・ピュー)分類です。

Child-Pugh分類では5つの項目を点数化

Child-Pugh分類では、血液検査で分かるアルブミン、ビリルビン、プロトロンビン時間に加えて、腹水と肝性脳症の状態を評価します。

評価項目 1点 2点 3点
アルブミン(g/dL) 3.5超 2.8~3.5 2.8未満
ビリルビン(mg/dL) 2.0未満 2.0~3.0 3.0超
腹水 なし 軽度・コントロール可能 中等度・コントロール困難
肝性脳症 なし 1~2度 3~4度
プロトロンビン時間(%) 70超 40~70 40未満

5項目の点数を合計し、5~6点をChild-Pugh A、7~9点をB、10~15点をCと判定します。

Child-Pugh分類 合計点 肝機能の状態
A 5~6点 比較的保たれている
B 7~9点 中等度に低下している
C 10~15点 大きく低下している

A・B・Cは肝細胞がんのステージを表しているわけではありません。

ステージは「がんがどこまで広がっているか」、Child-Pugh分類は「肝臓にどの程度の機能が残っているか」を見る指標です。この2つを分けて理解すると、肝細胞がんの治療方針が分かりやすくなります。

同じステージでもChild-Pugh分類によって治療が変わる

Child-Pugh分類は、肝細胞がんの治療方針を決める際にも使われます。肝予備能が低下するほど、安全に行える治療が限られるためです。実際の治療選択では、Child-Pugh分類だけでなく、腫瘍の個数や大きさ、脈管侵襲、肝外転移なども合わせて判断します。

薬物療法でも肝予備能は重要です。多くの全身薬物療法は肝機能が比較的保たれた患者さんを中心に有効性と安全性が確認されているため、どの薬を使用できるかを考える際にも現在の肝機能を確認します。

Child-Pugh Aでも全員が同じ肝機能ではない

Child-Pugh分類は分かりやすい指標ですが、同じAやBの中にも肝機能の違いがあります。

評価項目には腹水や肝性脳症のように医師の判断を含む項目もあり、点数の境界付近では肝機能の細かな差を十分に表せない場合があります。

肝細胞がんでは、より細かく肝予備能を評価するためにALBI grade(アルビグレード)も使われています。

ALBIスコアは、血液検査のアルブミンとビリルビンから算出する指標です。通常はgrade 1~3に分けられ、現在はgrade 2を2aと2bに分けたmodified ALBI(mALBI)gradeも用いられています。

Child-Pugh分類を置き換えるものというより、治療を選ぶ場面で肝機能をより詳しく把握するための指標の一つと考えるとよいでしょう。

参考:肝予備能評価スコア計算サイト(mALBIグレード追加)のご案内|日本肝臓学会

肝機能は治療の途中でも変化する

肝予備能は、診断された時点で一度評価すれば終わりではありません。肝切除やTACEなどの治療によって肝臓に負担がかかることもあれば、肝硬変そのものが進行して肝機能が低下することもあります。

特にTACEを繰り返す場面では、腫瘍への効果だけでなく、治療後の肝機能がどこまで保たれているかを確認する必要があります。肝予備能が低下すると、それまで候補だった薬物療法や局所治療を行いにくくなる場合があるためです。

次の章では、Child-Pugh分類などで確認した肝予備能と、腫瘍の個数・大きさ・広がりを踏まえて、肝切除、RFA、TACEなどをどのように選ぶのかを解説します。

肝細胞がんの治療

肝細胞がんの治療には、肝切除、ラジオ波焼灼療法(RFA)、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、放射線治療、肝移植、薬物療法などがあります。

治療方法を決める際に見るのはステージだけではありません。腫瘍の個数や大きさ、脈管侵襲、肝臓以外への転移に加えて、Child-Pugh分類などで評価した肝予備能を確認します。

肝細胞がんでは、慢性肝炎や肝硬変によってもともとの肝機能が低下していることがあります。がんを十分に治療できる方法であっても、治療後に肝機能を保てないと判断されれば別の方法を選ぶことがあります。

国立がん研究センターでは、Child-Pugh分類AまたはBで、がんが肝臓内にとどまっている場合には、肝切除、RFA、TACEが中心になるとしています。遠隔転移がある場合には薬物療法、Child-Pugh分類Cでは条件によって肝移植が検討されます。

治療 主に検討される状況
肝切除 肝機能が保たれ、がんを切除した後も十分な肝臓を残せる場合
RFA 一般にChild-Pugh AまたはBで、3cm以下・3個以下の場合
TACE 切除やRFAが難しい多発肝細胞がんなど
放射線治療 手術やRFAなどが難しい局所病変、骨転移の痛みや脳転移への治療にも
薬物療法 切除・RFA・TACEなどの局所治療が適さない進行肝細胞がんなど
肝移植 肝機能が大きく低下していても、腫瘍が一定の基準内にある場合

この表は治療選択の大まかな位置づけです。同じ3cmの腫瘍でも、肝臓のどこにあるか、周囲の血管や胆管との位置関係、肝硬変の程度によって選択は変わります。

参考:肝細胞癌診療ガイドライン 2025年版|日本肝臓学会

肝切除

肝切除は、肝細胞がんとその周囲の肝組織を手術で取り除く治療です。

国立がん研究センターでは、多くの場合、がんが肝臓内にとどまり、腫瘍が3個以下であれば肝切除を検討すると説明しています。腫瘍の大きさそのものに明確な上限はなく、大きな肝細胞がんでも安全に切除できると判断されれば手術の対象になることがあります。

手術前には、腫瘍の位置や数だけでなく、切除後にどの程度の肝臓を残せるかを調べます。

  • 腫瘍が肝臓のどこにあるか
  • 門脈・肝静脈・胆管などへ広がっているか
  • どの範囲の肝臓を切除する必要があるか
  • 切除後の肝臓で十分な機能を保てるか

腫瘍を技術的に切除できても、残る肝臓が少なすぎれば術後肝不全の危険があります。腹水があるなど肝予備能が大きく低下している場合には、肝切除以外の治療が選ばれることがあります。

参考:肝臓がん(肝細胞がん) 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

ラジオ波焼灼療法(RFA)

ラジオ波焼灼療法(RFA)は、腹部の皮膚から腫瘍へ針を刺し、針の先端から発生させた熱によってがん細胞を焼灼する治療です。

国立がん研究センターでは、穿刺局所療法は一般にChild-Pugh分類AまたはBで、腫瘍が3cm以下かつ3個以下の場合に行われるとしています。現在、肝細胞がんの穿刺局所療法として中心となるのがRFAです。開腹手術を行わずに局所的な根治を目指せるため、肝切除より体への負担を抑えられる場合があります。

「3cm以下・3個以下」であれば必ずRFAを選ぶわけではありません。腫瘍が太い血管の近くにあると熱が逃げて十分に焼灼できないことがあり、胆管や消化管に近い場合には周囲組織への熱損傷にも注意が必要です。

肝切除とRFAのどちらも可能な小さな肝細胞がんでは、腫瘍の位置、肝機能、手術による負担、再発した際に残しておきたい治療選択肢などを比べながら決めます。

RFA後には発熱や腹痛がみられることがあり、出血、腸管損傷、肝機能障害などが起こることもあります。

肝動脈化学塞栓療法(TACE)

TACEは、足の付け根や腕などの動脈からカテーテルを入れ、肝動脈を通して腫瘍の近くまで進める治療です。

抗がん薬を腫瘍へ送り込んだ後、腫瘍へ血液を送る動脈を塞ぐことで、薬の作用と血流を減らす作用の両方を利用してがんを治療します。

国立がん研究センターでは、Child-Pugh分類AまたはBで、肝切除やRFAが難しい患者のうち、腫瘍が1~3個で3cmを超えている場合、もしくは腫瘍の大きさにかかわらず4個以上ある場合にTACEが行われるとしています。

肝臓内に複数の腫瘍がある場合でも治療できることがTACEの特徴です。腫瘍が広い範囲に分布している場合には、複数回に分けて治療することがあります。

TACEは効きにくくなった後も繰り返せばよいわけではない

TACEは繰り返して行うことができますが、治療のたびに正常な肝組織にも負担がかかります。

十分な効果が得られない状態でTACEを続けると、腫瘍が進行するだけでなく、薬物療法など次の治療を受けるために必要な肝機能が低下する可能性があります。

国立がん研究センターでは、治療方法の変更を検討する状況として「TACEを2回行っても十分な効果が得られない、または肝臓内に新しい病変が現れた時」「脈管侵襲や遠隔転移が現れた時」「腫瘍マーカーが持続的に上昇している時」のような例を挙げています。

これは「2回行ったら必ずTACEを中止する」という意味ではありません。画像で確認した治療効果、腫瘍の増え方、肝予備能などを見ながら、同じ治療を続ける利益があるかを判断します。TACEでがんを十分に抑えにくいと判断された場合には、肝機能が保たれている段階で薬物療法へ切り替えることも検討します。

肝細胞がんでは、目の前にある腫瘍だけを治療するのではなく、次の治療を受けられる肝機能を残すことまで含めて治療の順序を考える必要があります。

また、肝動脈を利用する治療にはTACE以外に肝動注化学療法もあります。病変の広がりや脈管侵襲などによっては、カテーテルから肝動脈へ抗がん薬を投与する肝動注化学療法が検討される場合があります。

放射線治療|手術やRFAが難しい場合の局所治療

放射線治療は、体の外から放射線を照射し、がん細胞を傷害する局所治療です。

肝細胞がんでは、肝切除やRFAなどが治療の中心になりますが、手術や穿刺局所療法を行うことが難しい局所病変では、放射線治療を検討することがあります。門脈などの脈管内へがんが広がっている場合に用いられることもあります。

治療を選ぶ際には、腫瘍の大きさや位置、個数、周囲の消化管や正常肝との位置関係、肝予備能などを確認します。

小さな病変では体幹部定位放射線治療(SBRT)を検討する

体幹部定位放射線治療(SBRT)は、さまざまな方向から腫瘍へ放射線を集中して照射する方法です。正常な肝臓や周囲の臓器への照射をできるだけ抑えながら、腫瘍へ高い線量を照射します。

日本放射線腫瘍学会では、肝臓へのSBRTについて、5cm以下の原発性肝がんなどに対して根治を目指して行う治療と説明しています。

肝細胞がんが小さくても、腫瘍の位置によってはRFAの針を安全に刺しにくいことがあります。手術が難しい、RFAなどの局所療法を実施しにくい、あるいは十分な効果を得にくいと判断される場合に、放射線治療が選択肢となります。

ただし、腫瘍の大きさだけでSBRTが適しているかを判断するわけではありません。肝機能や照射できる正常肝の量、胃や十二指腸など周囲臓器との距離も含めて放射線腫瘍医が治療可能かを判断します。

参考:放射線治療Q&A 上腹部(膵、肝など)への放射線治療について|日本放射線腫瘍学会

大きな肝細胞がんでは陽子線・重粒子線治療を検討

肝細胞がんでは、陽子線や重粒子線を使った粒子線治療が選択肢になる場合もあります。

粒子線は、X線とは異なる性質を利用して腫瘍へ放射線を集中させ、周囲の正常組織への線量を抑えることを目指す治療です。

2026年8月時点では、長径4cm以上の肝細胞がんで、手術による根治的な治療が困難な場合、陽子線治療・重粒子線治療が保険適用の対象となっています。

すべての肝細胞がんに粒子線治療が適しているわけではありません。腫瘍の大きさや位置、肝機能、これまでに受けた治療などから適応を判断します。粒子線治療を行える医療機関も限られているため、候補になるか知りたい場合には担当医や放射線腫瘍医へ確認します。

参考:粒子線治療(陽子線治療、重粒子線治療)の保険適用となる疾患|日本放射線腫瘍学会

骨転移の痛みや脳転移にも放射線治療を使う

放射線治療の目的は、肝臓にある腫瘍を局所的に治療することだけではありません。

肝細胞がんが骨へ転移して痛みがある場合には、痛みを軽減する目的で放射線治療を行うことがあります。脳転移に対しても放射線治療が検討されます。

この場合は、肝臓内の腫瘍に対して根治を目指して行うSBRTや粒子線治療とは目的が異なります。転移によって生じている症状や、転移部位、全身のがんの状態を踏まえて治療方針を決めます。

肝細胞がんの放射線治療は、腫瘍の大きさだけで一律に選択するものではありません。なぜ肝切除やRFAなどが難しいのか、放射線治療では何を目指すのかを確認したうえで、ほかの局所治療や薬物療法と比較して検討します。

肝細胞がんの肝移植|ミラノ基準と5-5-500基準

肝移植は、病気のある肝臓を取り出し、ドナーから提供された肝臓に置き換える治療です。肝細胞がんでは、がんだけでなく、背景にある肝硬変や重度の肝機能低下も同時に治療できる点が大きな特徴です。

肝切除やRFAでは、がんを治療しても傷んだ肝臓そのものは残ります。肝移植では肝臓全体を置き換えるため、肝機能が大きく低下している患者さんでも根治を目指せる場合があります。

ただし、Child-Pugh Cであれば誰でも肝移植を受けられるわけではありません。がんがどこまで広がっているか、脈管侵襲や肝外転移がないか、全身状態、移植手術に耐えられるかなどを含めて適応を判断します。

参考:肝移植の適応 基準|日本肝臓学会

肝細胞がんでは「がんの広がり」が移植適応に関係する

肝移植後にがんが再発する危険を抑えるには、肝細胞がんが一定の範囲にとどまっていることが必要です。

日本では、肝細胞がんの肝移植を検討する際にミラノ基準5-5-500基準が用いられています。

基準 主な条件
ミラノ基準 脈管侵襲・肝外転移がなく、単発なら5cm以下、複数なら3個以下かつ各3cm以下
5-5-500基準 脈管侵襲・肝外転移がなく、腫瘍径5cm以下、腫瘍数5個以下、AFP 500ng/mL以下

5-5-500基準では、腫瘍の大きさと個数だけでなく、肝細胞がんの腫瘍マーカーであるAFPも評価に含まれます。

ミラノ基準を超えていても、5-5-500基準を満たす場合には肝移植を検討できる可能性があります。

5-5-500基準によって移植を検討できる範囲が広がった

従来、肝細胞がんの肝移植ではミラノ基準が広く使われてきました。

日本では2019年に脳死肝移植の基準へ5-5-500基準が導入され、2020年4月からは生体肝移植についても同様の基準が保険適用となっています。

日本肝臓学会では、ミラノ基準内、またはミラノ基準を外れていても腫瘍径5cm以下・5個以下・AFP 500ng/mL以下であれば、他の条件を含めて肝移植の適応を検討するとしています。

「ミラノ基準を超えたから肝移植はできない」と一律に判断するのではなく、5-5-500基準まで含めて評価することが現在の国内診療では重要です。

参考:肝細胞癌に対する生体肝移植の保険適応の改訂について|日本肝臓学会
参考:肝細胞癌の脳死肝移植に関する適応基準と選択基準の改訂について|日本肝臓学会

日本では生体肝移植と脳死肝移植が行われている

肝移植には、主に生体肝移植脳死肝移植があります。

生体肝移植では、健康なドナーから肝臓の一部を提供してもらい、患者さんへ移植します。日本では近親者などから提供を受ける生体肝移植が行われてきました。

脳死肝移植では、脳死となったドナーから提供された肝臓を移植します。脳死肝移植には登録基準や優先順位があり、希望すればすぐに移植を受けられるわけではありません。

生体肝移植の場合にも、患者さんだけでなくドナーとなる人の安全性を評価する必要があります。移植が必要と考えられる場合には、移植施設で患者さんとドナー候補の双方を詳しく調べます。

肝移植は「肝機能が悪くなってから考える治療」とは限らない

肝移植の適応は、Child-Pugh分類の数字だけで決めるものではありません。

日本肝臓学会では、生体肝移植について、非代償性肝硬変と判断される場合にはChild-Pughスコアが10点に達していなくても適応となる可能性があり、最終的な判断は移植施設で行うとしています。

移植を検討する可能性がある患者さんでは、肝機能がさらに悪化してから相談するのではなく、がんの状態と肝機能の両方を見ながら移植施設への紹介時期を考えます。

肝細胞がんの肝移植では、現在の肝機能だけでなく、腫瘍が移植適応の範囲内にあるうちに評価できるかも重要になります。

切除不能な肝細胞がんの薬物療法

肝切除、RFA、TACEなどで十分な治療が難しい肝細胞がんでは、全身に作用する薬物療法を検討します。

薬物療法を行えるかどうかは、がんの広がりだけでは決まりません。肝細胞がんの薬物療法に関する臨床試験は、主に肝機能が保たれた患者さんを対象に行われているため、Child-Pugh分類などで現在の肝予備能を確認します。全身状態、脈管侵襲、肝外転移、これまでに受けたTACEなどの治療歴も判断材料になります。

2026年現在、一次治療には免疫チェックポイント阻害薬を含む複数の併用療法があります。「進行肝細胞がんならこの薬」と一つに決まるのではなく、副作用や持病、出血リスクなどを比べながら選択します。

一次治療では免疫療法を含む複数の選択肢がある

切除不能な肝細胞がんの一次治療では、代表的な選択肢として次の併用療法があります。

治療 治療の特徴
アテゾリズマブ+ベバシズマブ 免疫チェックポイント阻害薬と、血管新生を抑える薬を組み合わせる
デュルバルマブ+トレメリムマブ 作用する免疫の仕組みが異なる2種類の免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせる
ニボルマブ+イピリムマブ 2種類の免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせる。2025年6月に国内で切除不能肝細胞がんへの適応が承認された

どの治療が適しているかは、単純な新旧だけでは比較できません。

このほか、局所療法が適さない切除不能肝細胞がんでは、デュルバルマブ単剤も国内で承認されています。免疫療法の併用による利益と副作用、患者さんの全身状態などを踏まえ、単剤療法を検討する場合があります。

アテゾリズマブ+ベバシズマブでは出血リスクを確認

アテゾリズマブは、PD-L1という免疫のブレーキに関わる分子を標的とする免疫チェックポイント阻害薬です。ベバシズマブは、腫瘍が新しい血管をつくる働きに関わるVEGFを標的とします。

肝硬変がある患者さんでは、食道や胃に静脈瘤ができていることがあります。ベバシズマブには出血に注意が必要なため、治療前に食道・胃静脈瘤や出血リスクを評価することがあります。

前の検査章で上部消化管内視鏡について触れたのは、このように薬物療法の選択にも関係するためです。

アテゾリズマブ+ベバシズマブは2020年に国内で切除不能肝細胞がんへの適応が承認されています。

参考:中外製薬「テセントリクおよびアバスチン、切除不能な肝細胞がんに対する承認」
参考:PMDA「テセントリク(アテゾリズマブ)」

デュルバルマブ+トレメリムマブは2種類の免疫療法を組み合わせる

デュルバルマブはPD-L1、トレメリムマブはCTLA-4という異なる免疫チェックポイントを標的とします。

肝細胞がんでは、トレメリムマブを初回に投与し、デュルバルマブを継続する治療方法が用いられます。この治療は「STRIDE」と呼ばれることがあります。

ベバシズマブを含まないため、治療選択ではアテゾリズマブ+ベバシズマブとは異なる特徴を持ちます。ただし、免疫チェックポイント阻害薬による肝障害、肺障害、内分泌障害などの免疫関連有害事象には注意が必要です。

自己免疫疾患がある場合など、免疫チェックポイント阻害薬を使用しにくい患者さんもいるため、持病やこれまでの治療歴を確認して選択します。

参考:PMDA「イミフィンジ(デュルバルマブ)」
参考:PMDA「イジュド(トレメリムマブ)」

ニボルマブ+イピリムマブが2025年から一次治療候補に加わった

ニボルマブ+イピリムマブも、異なる免疫チェックポイントを標的とする2剤を組み合わせる治療です。

国内では2025年6月24日、切除不能な肝細胞がんに対する効能・効果が追加承認されました。

承認の根拠となったCheckMate-9DW試験では、全身薬物療法を受けていない切除不能肝細胞がん患者を対象に、ニボルマブ+イピリムマブとレンバチニブまたはソラフェニブが比較されました。ニボルマブ+イピリムマブ群では全生存期間の改善が示されています。

参考:PMDA「オプジーボ(ニボルマブ)」
参考:小野薬品工業「オプジーボとヤーボイの併用療法による『切除不能な肝細胞癌』に対する国内承認」2025年6月24日

3つの併用療法から単純に「最も強い薬」を選ぶわけではない

3つの併用療法には、それぞれ異なる特徴があります。

アテゾリズマブ+ベバシズマブでは、食道・胃静脈瘤を含む出血リスクを確認します。免疫チェックポイント阻害薬同士を組み合わせる治療では、免疫が自分の臓器を攻撃する免疫関連有害事象に注意します。

治療選択では、肝予備能、全身状態、自己免疫疾患などの持病、出血リスク、これまでの治療、副作用が起きた場合に対応できるかといった点を確認します。

これら3つを直接比較して「すべての患者さんにこの治療が最も優れている」と決めるものではありません。

免疫療法を使いにくい場合は分子標的薬を検討する

免疫チェックポイント阻害薬を使用しにくい場合には、レンバチニブやソラフェニブなどの分子標的薬を一次治療として検討することがあります。

これらは内服薬で、がんの増殖や腫瘍へ血液を送る血管の形成などに関係する分子を標的とします。

分子標的薬にも高血圧、手足症候群、食欲低下、倦怠感、下痢などさまざまな副作用があります。免疫療法が使えないから負担の軽い治療になる、という意味ではありません。

現在の肝機能と全身状態を確認しながら、必要に応じて休薬や減量を行います。

二次治療以降は「これまで何を使ったか」で変わる

一次治療で病状が進行した場合や、副作用によって治療を続けられない場合には、次の薬物療法を検討します。

肝細胞がんでは、レゴラフェニブ、カボザンチニブ、ラムシルマブなどがあります。薬剤ごとに前治療歴などの適応条件が異なり、ラムシルマブは血清AFP値400ng/mL以上で、がん化学療法後に増悪した切除不能肝細胞がんが対象です。

どの薬を選べるかは、一次治療で使用した薬、以前の治療への反応、AFPの値、肝予備能、全身状態などによって変わります。

特に現在は一次治療で免疫療法を含む併用療法を使う患者さんが増えているため、「二次治療だからこの薬」と治療の順番だけで決めるのではなく、それまでの治療歴から次の選択肢を考える必要があります。

参考:PMDA「最適使用推進ガイドライン(医薬品)」

薬物療法で大きく縮小した場合は局所治療を再検討することもある

切除不能肝細胞がんに対する薬物療法では、多くの場合、がんの進行を抑えながら肝機能と生活をできるだけ保つことを目指します。

ただし、「薬物療法を始めたら、その後は薬だけを続ける」と決まっているわけではありません。治療によって腫瘍が大きく縮小し、脈管侵襲や肝内病変の状態が変化した場合には、肝切除やRFAなどの局所治療が可能にならないか再評価することがあります。

治療開始時に切除不能だったという事実だけで、その後の選択肢まで固定されるわけではありません。画像検査と肝予備能を繰り返し確認し、その時点で可能な治療を検討します。

肝臓がんステージ4の薬物療法や、遠隔転移がある場合の治療については以下の記事でも詳しく解説しています。

肝細胞がん治療の副作用と生活への影響

肝細胞がんの治療では、肝切除、RFA、TACE、放射線治療、薬物療法など、それぞれ異なる副作用や合併症、治療による体への影響が起こることがあります。

肝細胞がんで特に意識したいのは、治療そのものによる副作用と、肝機能が低下して生じる症状が似ていることがある点です。

食欲低下、倦怠感、腹部の張り、むくみなどは、治療後に一時的に起こることもあれば、肝硬変や肝機能低下が関係していることもあります。「治療を受けた後だから仕方がない」と自己判断せず、症状が続く場合や強くなる場合には医療者へ伝えることが、その後の治療を続けるためにも必要です。

治療法によって起こりやすい副作用は異なる

代表的な治療と、治療後に注意する症状を整理すると次のようになります。

治療 主な副作用・合併症
肝切除 胆汁漏、出血、肝不全など
RFA 発熱、腹痛、出血、肝機能障害、周囲臓器の損傷など
TACE 発熱、吐き気、腹痛、食欲不振、肝機能障害など
放射線治療 倦怠感、食欲低下、吐き気、肝機能への影響など。照射する部位・範囲・線量によって異なる
分子標的薬 高血圧、食欲低下、下痢、手足症候群など。薬剤によって異なる
免疫チェックポイント阻害薬 肝障害、肺障害、腸炎、甲状腺などの内分泌障害を含む免疫関連有害事象

どの副作用が起こりやすいかは、治療法だけでなく、治療前の肝機能や全身状態によっても変わります。

肝切除後は「肝臓がどこまで回復しているか」を確認する

肝切除後には、創部の痛みや体力低下に加えて、出血、胆汁漏、肝不全などの合併症が起こることがあります。

肝臓には再生能力がありますが、肝硬変などで傷んだ肝臓では、正常な肝臓と同じように回復できるとは限りません。手術後に黄疸が強くなる、腹水が増える、意識がぼんやりするといった症状がある場合には、肝機能が低下していないかを確認します。

退院後はすぐに以前と同じ活動量へ戻すのではなく、体力の回復に合わせて少しずつ活動量を増やします。国立がん研究センターでは、手術後約1カ月は無理を避け、散歩などから徐々に運動量を増やすよう案内しています。

RFA・TACEでは治療後の発熱や腹痛がみられることがある

RFAでは、腫瘍を熱で焼灼した影響から発熱や腹痛が起こることがあります。出血、肝機能障害、周囲の腸管などへの熱損傷にも注意します。TACEでは、治療後に発熱、吐き気、腹痛、食欲低下などが出ることがあります。

数日で改善する症状もありますが、肝細胞がんでは「治療後だから発熱や食欲低下は当然」と考え続けないことが重要です。食事や水分を十分に取れない、腹痛が強くなる、黄疸が現れるなどの変化があれば、肝機能低下や合併症が起きていないかを確認する必要があります。

TACEを繰り返している場合には、腫瘍への効果だけでなく、治療前後で肝予備能が低下していないかも確認します。前章で説明したように、肝機能を大きく低下させると、その後に行える薬物療法などが限られる可能性があります。

放射線治療では照射する範囲によって体への影響が異なる

放射線治療は腫瘍へ放射線を集中させる局所治療ですが、腫瘍の周囲にある正常な肝臓や臓器にも一定量の放射線が当たることがあります。

治療による体への影響は、照射する位置や範囲、放射線の量、治療前の肝機能などによって異なります。治療中から終了後しばらくの間には、倦怠感や食欲低下、吐き気などがみられることがあります。

肝細胞がんでは、治療前から慢性肝炎や肝硬変によって肝機能が低下している患者さんもいます。放射線治療を行う際には、腫瘍へ必要な線量を照射しながら、正常な肝臓へ照射される範囲をできるだけ抑えるよう治療計画を立てます。

体幹部定位放射線治療(SBRT)や粒子線治療では、腫瘍へ放射線を集中させ、周囲の正常組織への照射を抑えることを目指します。ただし、こうした治療でも体への影響がなくなるわけではありません。

治療中や治療後に食欲低下や強い倦怠感が続く、黄疸や腹部の張りが現れるなどの変化があれば、「放射線治療後だから」と自己判断せず、治療を受けている医療機関へ相談します。

薬物療法では薬ごとに注意する症状が異なる

切除不能肝細胞がんで使われる薬には、免疫チェックポイント阻害薬、血管新生を抑える薬、分子標的薬などがあります。

アテゾリズマブ+ベバシズマブでは、ベバシズマブによる出血、高血圧、蛋白尿などに注意します。特に肝硬変がある人では食道・胃静脈瘤を伴うことがあるため、出血リスクを評価してから治療を始めることがあります。

デュルバルマブ+トレメリムマブやニボルマブ+イピリムマブなどの免疫チェックポイント阻害薬では、免疫反応が強く働くことで正常な臓器に炎症が起こる免疫関連有害事象に注意します。肝臓、肺、腸、甲状腺など影響を受ける臓器はさまざまです。

肝細胞がんではもともと肝機能異常がある患者さんもいるため、血液検査の変化ががんや肝硬変によるものなのか、免疫療法による肝障害なのかを医療者が判断します。症状の程度によっては免疫療法を休薬・中止し、ステロイドなどによる治療が必要になることがあります。

レンバチニブやソラフェニブなどの分子標的薬では、高血圧、食欲低下、下痢、倦怠感、手足症候群などが治療継続の負担になる場合があります。

副作用が強いときは、予定どおりの量を無理に続けることが目的ではありません。休薬や減量などを行いながら、治療を継続できる状態を整えます。

食欲低下や倦怠感を「副作用」と決めつけない

肝細胞がんの治療中には、食欲がない、疲れやすい、体重が減るといった変化が起こることがあります。こうした症状は薬物療法やTACEの影響でも生じますが、肝機能低下や腹水、がんの進行が原因になっていることもあります。

症状だけから原因を区別することは難しいため、いつから症状が始まったか、治療後に強くなったか、食事量や体重がどの程度変化したかを診察時に伝えると、原因を考える手がかりになります。

黄疸が強くなった、腹水や足のむくみが増えた、意識がぼんやりするといった変化は、肝機能低下のサインである可能性があります。次の定期受診まで様子を見るのではなく、治療を受けている医療機関へ相談します。

食事・飲酒・運動は肝臓の状態に合わせて考える

肝細胞がんだからといって、すべての患者さんに同じ食事制限が必要になるわけではありません。国立がん研究センターでは、基本的には栄養バランスを意識した食事を勧めています。慢性肝疾患がある場合には飲酒を避け、腹水やむくみがある場合には塩分を控えるなど、肝臓の状態に応じた調整が必要になります。

食欲が落ちている人が自己判断で厳しい食事制限をすると、必要なエネルギーや栄養を十分に取れなくなることもあります。何をどこまで制限するかは、肝機能や腹水の状態を踏まえて医師や管理栄養士などに確認します。

運動についても、手術直後と薬物療法を続けながら生活している時期では適切な強度が違います。体力と肝機能が安定していれば、散歩などから日常の活動量を戻していきます。

緩和ケア・支持療法はがん治療と並行して行う

緩和ケアや支持療法は、治療法がなくなった後だけに行うものではありません。

肝細胞がんでは、がんそのものによる痛みだけでなく、腹水、むくみ、食欲低下、倦怠感、かゆみなど、肝機能低下に伴う症状も生活へ影響します。こうした症状への治療や栄養管理、心理・社会面の支援は、肝切除、TACE、薬物療法などと並行して行います。

治療中に早めに相談したい症状

治療中に症状が出たとき、「これくらいなら次の診察まで待ってよいのか」と迷うことがあります。

特に、次のような変化がある場合には早めに医療機関へ連絡してください。

  • 吐血や黒い便など、消化管出血を疑う症状
  • 息苦しさや新しく続く咳
  • 強い腹痛や急激な腹部の張り
  • 黄疸が強くなる
  • 腹水や足のむくみが急に増える
  • 意識がぼんやりする、会話がかみ合わない
  • 食事や水分をほとんど取れない状態が続く

実際にどの症状で連絡すべきかは、受けている治療によって異なります。薬物療法を始める際には、よく起こる副作用だけでなく、「どの症状が出たら次の受診を待たずに連絡するのか」まで確認しておくと判断しやすくなります。

肝細胞がんの治療では、腫瘍を抑えることと同時に、肝機能と体力を保って次の治療につなげることも治療計画の一部です。

次の章では、肝細胞がんのステージ別生存率について、5年・10年ネット・サバイバルの違いと、その数字を個人の余命として受け取らないための見方を解説します。

肝細胞がんのステージ別生存率

肝細胞がんの予後を調べると「5年生存率」「10年生存率」という数字を目にすることがあります。

国立がん研究センターの院内がん登録では、原発性肝がんのうち、本記事で主に扱っている肝細胞がんについてステージ別のネット・サバイバルが公表されています。

ステージ 5年ネット・サバイバル
2014~2015年診断例
10年ネット・サバイバル
2012年診断例
ステージ1 63.0% 36.3%
ステージ2 45.2% 21.6%
ステージ3 16.0% 7.1%
ステージ4 4.4% 1.9%

ここで示している5年値と10年値は、同じ患者さんを5年から10年まで追跡した数字ではありません。

5年ネット・サバイバルは2014~2015年に診断された患者、10年ネット・サバイバルは2012年に診断された患者を対象とした別々の集計です。

「ステージ1では5年時点の63.0%が、そのまま10年後に36.3%まで低下した」という読み方はできません。

参考:院内がん登録生存率最新集計値|国立がん研究センター がん情報サービス

ネット・サバイバルは個人の余命を示す数字ではない

ネット・サバイバルとは、がん以外の病気や事故などによる死亡の影響を統計学的に調整し、がんだけが死因となる状況を仮定して推計した生存率です。肝細胞がんでは、この考え方が特に重要です。

患者さんの中には、肝硬変、慢性肝炎、糖尿病など、がん以外にも健康状態へ影響する病気を持つ人がいます。すべての死亡をそのまま数える実測生存率では、肝細胞がんそのものによる影響と、ほかの病気による影響が混ざります。

国立がん研究センターでは、2014~2015年の5年生存率と2010年以降の10年生存率から、国際的にも使われているネット・サバイバルを採用しています。

たとえば「ステージ1の5年ネット・サバイバルが63.0%だから、自分が5年後に生きている確率が63.0%」という意味ではありません。年齢、肝予備能、肝硬変の程度、腫瘍の個数や位置、受けた治療、治療後の肝機能などが異なる多くの患者さんをまとめた集団の統計です。

この生存率はUICC TNM分類によるステージの集計

前のステージ章では、日本国内で使われている日本肝癌研究会の分類を中心に説明しました。

ここで掲載しているステージ別生存率は、国立がん研究センターの院内がん登録におけるUICC TNM分類の総合ステージを用いた統計です。

日本肝癌研究会分類とUICC TNM分類では、T分類やステージの決め方が同じではありません。

前章の「日本肝癌研究会分類のステージ1~4」と、この表の「UICC TNM分類のステージ1~4」を完全に同じ病状として置き換えて比較することはできません。

肝細胞がんでは複数の病期分類が使われるため、生存率を見る際にもどの分類に基づく数字なのかを確認する必要があります。

参考:院内がん登録生存率集計|国立がん研究センター がん情報サービス

肝細胞がんではステージだけで予後を判断しにくい

肝細胞がんの見通しに関係するのは、がんのステージだけではありません。同じステージでも、Child-Pugh分類やALBI gradeでみた肝予備能が異なれば、選択できる治療やその後の経過も変わります。

肝切除やRFAでがんを局所的に治療できても、背景に慢性肝障害が残っていれば、新たな肝細胞がんが発生することがあります。逆に、進行した肝細胞がんでも、肝機能が保たれていれば複数の薬物療法を検討できます。

ステージと肝予備能の両方を見るという考え方は、治療選択だけでなく予後を理解する際にも必要です。

過去の生存率には現在の薬物療法が十分に反映されていない

5年ネット・サバイバルの対象は2014~2015年、10年値は2012年に診断された患者さんです。

現在の切除不能肝細胞がんでは、アテゾリズマブ+ベバシズマブ、デュルバルマブ+トレメリムマブ、ニボルマブ+イピリムマブなど、当時は使われていなかった治療が選択できるようになっています。

過去の患者集団から算出された生存率には、2026年現在の治療環境がすべて反映されているわけではありません。

特にステージ4の4.4%という5年ネット・サバイバルを、現在ステージ4と診断された患者さんの将来をそのまま示す数字として受け取ることはできません。

肝臓がんステージ4の病状や治療、生存率の考え方については、以下の記事でも詳しく解説しています。

肝細胞がんの再発と経過観察

肝細胞がんは、肝切除やRFAなどで治療した後も再発に注意が必要ながんです。国立がん研究センターでは、肝切除後に初めて再発した場合、その90%以上が肝臓内での再発と説明しています。

肝臓内に再びがんが見つかる理由は一つではありません。最初の肝細胞がんからがん細胞が肝臓内の別の場所へ広がる場合もあれば、慢性肝炎や肝硬変などが残っている肝臓から、新しい肝細胞がんが発生する場合もあります。

参考:肝臓がん(肝細胞がん) 治療|国立がん研究センター がん情報サービス

肝臓内の再発には「肝内転移」と新しい発がんがある

最初にできた肝細胞がんからがん細胞が肝臓内へ広がり、別の場所で増えるものを「肝内転移」と考えます。

肝細胞がんでは、治療によって最初の腫瘍を取り除いても、背景にある慢性肝炎や肝硬変などの肝疾患が残ることがあります。その肝臓の別の肝細胞から新たながんが発生することもあり、これを「多中心性発癌」と呼びます。

肝切除後に別の場所へ肝細胞がんが見つかったからといって、すべてが最初のがんから広がったものとは限りません。この特徴があるため、肝細胞がんでは「治療した場所だけ」を見て経過観察するのではなく、残った肝臓全体を長期的に確認します。

治療後は3~6カ月ごとを目安に定期検査を行う

国立がん研究センターでは、肝細胞がん治療後は再発や新たな肝細胞がんに注意し、3~6カ月ごとに定期検査を行うとしています。

検査では、肝機能やAFP、PIVKA-IIなどを確認する血液検査に加え、病状に応じて腹部超音波、造影CT、MRIなどの画像検査を組み合わせます。腫瘍マーカーだけで再発の有無を判断することはできません。治療前から腫瘍マーカーが上昇しない患者さんもいるため、画像検査と合わせて経過を確認します。

経過観察で見るのは再発だけではありません。肝切除やTACEなどの治療後に肝機能がどの程度保たれているか、慢性肝疾患が進行していないかも、その後の治療選択に関係します。

参考:肝臓がん(肝細胞がん) 療養|国立がん研究センター がん情報サービス

再発した場合も、現在の肝機能とがんの状態から治療を選び直す

肝細胞がんが再発した場合には「一度手術をしたから次は薬物療法」というように治療順序が固定されているわけではありません。再発した腫瘍の個数や大きさ、脈管侵襲、肝外転移に加え、現在の肝予備能を評価します。

肝臓内に限局し、肝機能が保たれている場合には、再切除やRFAなどの局所治療を検討できることがあります。病変が多発していればTACE、脈管侵襲や肝外転移などがあれば薬物療法を含めて治療方針を考えます。

国立がん研究センターも、肝切除や局所療法後に再発した場合は、残っている肝臓の量と肝機能を確認し、初回治療と同じように切除、RFA、塞栓療法、薬物療法などを検討すると説明しています。

治療時点のステージだけではなく、再発した時点でどの治療を安全に行えるかを改めて評価することになります。

B型・C型肝炎がある場合は肝炎の治療も続ける

B型・C型肝炎を背景に肝細胞がんが発生した場合、がんの治療だけで通院が終わるわけではありません。ウイルス性肝炎そのものを適切に治療することは、残った肝臓の炎症を抑え、肝機能を保つことにつながります。

国立がん研究センターでは、ウイルス性肝炎が原因となった肝細胞がんでは、手術やRFAなどの治療後に抗ウイルス療法を行うことで、再発を抑えられる可能性があるとしています。C型肝炎でウイルスを排除できた場合でも、すでに肝線維化や肝硬変が進んでいる患者さんでは肝細胞がんのリスクがなくなるわけではありません。定期検査を続ける必要があります。

参考:C型肝炎治療ガイドライン 第8.4版|日本肝臓学会

再発の有無だけでなく「次の治療を受けられる肝臓か」を見ていく

肝細胞がんの経過観察では、画像上に新しい腫瘍がないかを確認することに意識が向きやすくなります。

長期的には、肝機能をどの程度保てているかも重要です。再発しても、肝予備能が十分に残っていれば再切除やRFA、TACE、薬物療法など複数の治療を検討できます。肝機能が大きく低下すると、腫瘍に対して有効な治療があっても実施が難しくなる場合があります。

肝細胞がんの治療後は、再発を早く見つけることと、次の治療につなげられる肝機能を保つことの両方を考えて経過をみていきます。

肝細胞がんの治療が効きにくくなったら

肝細胞がんでは、治療を続けているうちに十分な効果が得られなくなったり、副作用や肝機能の低下によって同じ治療を続けにくくなったりすることがあります。

このような場合でも、「現在の治療が効かなくなった=もう治療法がない」とは限りません。

肝細胞がんには肝切除、RFA、TACE、薬物療法など複数の治療があり、病状の変化によって治療の位置づけも変わります。次の治療を考える際には、がんがどのように変化したのかと、現在の肝機能がどこまで保たれているのかを改めて確認します。

まず現在の治療を続ける意味があるかを見直す

治療変更を考える場面では、画像検査で腫瘍が大きくなったかどうかだけを見るわけではありません。

新しい病変が増えている、脈管侵襲や肝外転移が現れた、腫瘍マーカーが上昇しているといった変化に加え、治療によって肝予備能が低下していないかも確認します。

特にTACEでは、十分な効果が得られない状態で繰り返すと、次の薬物療法に必要な肝機能を失う可能性があります。

治療を続けるか切り替えるかを考えるときは、以下の点を整理します。

  • 現在の治療で腫瘍を抑えられているか
  • 新しい病変や脈管侵襲、肝外転移が生じていないか
  • Child-Pugh分類やALBI gradeなどでみた肝予備能が保たれているか
  • 副作用による生活への負担が大きくなっていないか

次の薬物療法だけでなく、局所治療を再検討できることもある

薬物療法を受けている患者さんで病状が変化したとき、「次はどの薬を使うのか」に意識が向きやすくなります。

実際には、治療によって腫瘍が大きく縮小し、以前は難しかった肝切除やRFAなどを検討できる状態になることもあります。逆に、TACEで十分な効果を得にくくなった場合には、肝機能が保たれているうちに全身薬物療法へ移ることがあります。

肝細胞がんでは治療法を一方向に進めるだけではなく、その時点の腫瘍の状態と肝予備能から、局所治療と全身治療を改めて検討することがあります。

標準治療は新しい治療が登場するたびに更新される

標準治療とは、現在得られている科学的根拠をもとに、多くの患者さんに推奨される治療です。「標準」という言葉から、昔から行われている治療をイメージするかもしれませんが、新しい治療でも臨床試験で効果と安全性が確認されれば標準治療に加わります。

肝細胞がんでも、近年は免疫チェックポイント阻害薬を含む治療が次々と導入され、治療の選択肢が変化しています。

現在の治療で十分な効果が得られなくなったときには、まず現在の標準治療の中に、まだ受けていない治療があるかを確認します。

条件が合えば臨床試験を検討できる

標準治療を受けた後や、病状によって適した標準治療が限られる場合には、臨床試験への参加を検討できることがあります。

臨床試験は、効果が確立した「特別な治療」を受ける制度ではありません。新しい薬や治療法について、効果と安全性を確認し、将来の標準治療になり得るかを調べる研究です。

参加できるかどうかは、肝細胞がんの状態、これまでに受けた治療、肝機能、全身状態など、それぞれの試験で定められた条件によって決まります。

臨床試験を提案された場合には、現在受けられる標準治療と何が違うのか、期待される効果についてどこまで分かっているのか、副作用や通院の負担はどの程度かを確認してから判断します。

参考:研究段階の医療(臨床試験、治験など)について|国立がん研究センター がん情報サービス

治療方針に迷ったときはセカンドオピニオンも利用できる

「提示された治療以外に選択肢はないのか」「TACEを続けるべきか薬物療法へ移るべきか」「別の治療施設でも意見を聞きたい」と感じる場合には、セカンドオピニオンを利用できます。

セカンドオピニオンは、現在の病院から転院するための制度ではありません。診断や治療方針について別の医師から意見を聞き、治療を選ぶための情報を増やす方法です。

相談するときには、これまでの画像検査、病理・診断情報、受けた治療、現在の肝機能などの資料が必要になります。

肝細胞がんでは治療の選択肢だけでなく、治療を行える肝予備能が残っているかが判断に影響します。セカンドオピニオンを希望する場合には、治療開始や変更をどの程度待てる状況なのかも担当医に確認しておくとよいでしょう。

治療が効きにくくなったときに考えるのは、「次に使える薬があるか」だけではありません。現在の治療を続ける利益、残っている肝機能、局所治療を再検討できる可能性、次の標準治療を整理したうえで、その時点で適した方針を考えます。

参考:セカンドオピニオン|国立がん研究センター がん情報サービス

納得できる治療を選択するために、診察で確認したいこと

肝細胞がんの治療について説明を受けると、Child-Pugh分類、RFA、TACE、免疫チェックポイント阻害薬など、多くの専門用語が一度に出てきます。

すべての治療法や薬剤名を覚える必要はありません。まず確認したいのは「自分は現在どのような状態で、なぜこの治療が提案されているのか」です。

診察では、次のような情報を整理すると治療方針を理解しやすくなります。

  • 正式な診断名は肝細胞がんなのか
  • ステージはいくつで、どの病期分類を使っているのか
  • 腫瘍の個数・大きさ、脈管侵襲、肝外転移はどうなっているのか
  • Child-Pugh分類やALBI gradeでみた肝予備能はどの程度なのか
  • 今回の治療では何を目指しているのか

「ステージ3です」「手術は難しいです」といった結論だけではなく、その判断につながった病状まで確認すると治療の選択肢を比較しやすくなります。

提案された治療の「目的」は何か

同じ肝細胞がんでも、治療によって目指すものは異なります。肝切除やRFAでがんを根治できる可能性を目指す場合もあれば、TACEで肝臓内の腫瘍を抑える場合、薬物療法で進行を抑える場合もあります。

治療を決める前には、この治療で何を目指しているのか、なぜ自分にはこの治療が勧められているのか、ほかに選択肢はあるのか、期待できる効果と主な副作用・合併症は何か、治療によって肝予備能へどの程度影響する可能性があるのか、などを確認しておくとよいでしょう。

治療を始めるときに「次に切り替える条件」も確認

肝細胞がんでは、一つの治療をいつまでも続けるとは限りません。TACEで十分な効果が得られなくなれば薬物療法への変更を検討することがあります。薬物療法でも、がんの進行や副作用によって別の治療へ変更する場合があります。

治療開始時には「どのような状態になったら、この治療を続けず次の治療を考えるのか」まで確認しておくと、病状が変化したときに治療方針を理解しやすくなります。

画像検査で何を見るのか、腫瘍マーカーをどう評価するのか、Child-Pugh分類やALBI gradeが変化した場合に治療へどのような影響があるのかも確認しておきましょう。

治療によって生活がどう変わるのか

治療方針を考える際には、効果や副作用だけでなく、生活への影響も確認します。

手術であれば入院期間や退院後の回復、TACEであれば治療後の発熱や食欲低下、薬物療法であれば通院頻度や副作用への対応など、治療によって負担の種類が異なります。

仕事や家事、介護などを続けながら治療を受ける場合には、診察の段階で生活上の事情を医療者に伝えておくことも治療計画を考える材料になります。

副作用が起きた場合にどこへ連絡するのか、夜間や休日はどのように対応するのかまで確認しておくと、治療開始後に迷いにくくなります。

分からないことが残ったまま治療を決める必要はない

説明を一度聞いただけで、治療内容をすべて理解するのは簡単ではありません。

分からなかった言葉や気になる点をメモして、次の診察で確認しても構いません。治療開始をどの程度急ぐ必要があるのか、考える時間を取れる病状なのかも担当医に確認できます。別の医師の意見を聞きたい場合には、セカンドオピニオンを利用する方法もあります。

治療の説明を整理したい場合や、生活・仕事・医療費などを含めて相談したい場合には、全国のがん診療連携拠点病院などに設置されている「がん相談支援センター」も利用できます。

参考:がん相談支援センターとは|国立がん研究センター がん情報サービス

診断名やステージだけで治療の可能性を決めつけない

肝細胞がんでは、同じステージでも腫瘍の状態や肝予備能によって提案される治療が異なります。

治療後に病状が変化すれば、以前は難しかった治療を再検討できることもあれば、肝機能の変化によって治療方針を変更することもあります。

この記事で紹介したステージや生存率、治療法は、自分の治療を決めるための答えそのものではありません。

診察では「今の病状はどうなっているのか」「今回の治療を選ぶ理由は何か」「効果が得られなかった場合には次に何を考えるのか」まで確認し、自分の病状に沿って治療方針を考えていくことが必要です。

胃がんは、日本で現在も多く診断されているがんの一つです。2023年には104,864例が新たに診断され、2024年には37,867人が胃がんで亡くなっています。

胃がんは、早い段階では自覚症状がないことがあります。みぞおちの痛み、胃もたれ、食欲低下、胸やけなどが現れる場合もありますが、胃炎や胃潰瘍などでも起こる症状であり、症状の有無や強さだけから胃がんの進行度を判断することはできません。

一方、早い段階で発見され、リンパ節転移の可能性が低い条件を満たせば、胃を切除せず内視鏡で病変を取り除ける場合があります。胃の壁の深くまでがんが入り込んでいる場合やリンパ節転移の可能性がある場合には、胃切除とリンパ節郭清を行い、病期によっては手術前後の薬物療法を組み合わせます。

切除不能・再発胃がんでは、現在はHER2、PD-L1、MSI/MMR、CLDN18.2などを調べ、その結果を薬物療法の選択につなげます。日本胃癌学会は2025年3月に「胃癌治療ガイドライン第7版」を刊行し、2026年には患者向けガイドライン、同年7月には「切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き第3版」を公開しています。

この記事では、胃がんの原因や症状だけでなく、胃がん検診と受診の違い、内視鏡・病理検査、ステージ、ESD、手術、2026年時点の薬物療法、治療後の食事や体重減少、生存率まで、治療を判断する流れに沿って解説します。

  • 胃がん検診・胃内視鏡による早期発見が治療の選択肢を広げる
  • 胃がんの治療はステージだけでなく、病理結果やバイオマーカーをもとに選ぶ
  • 治療後は再発だけでなく「食べられること」と栄養・体重を長期的にみていく

胃がんとは何か

胃がんは、胃の内側を覆う粘膜の細胞から発生する悪性腫瘍です。

胃の壁は、内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜(しょうまく)などの層で構成されています。胃がんは粘膜から発生し、進行すると胃壁の外側へ向かって深く入り込みます。

胃がんでは、病変の横幅だけではなく、胃壁のどの深さまでがんが達しているかが治療を考えるうえで大きな意味を持ちます。

「早期胃がん」はステージ1と同じ意味ではない

胃がんでは、がんの浸潤が粘膜または粘膜下層までにとどまっているものを「早期胃がん」と呼びます。リンパ節転移があるかどうかとは別に、胃壁への深さによって定義される言葉です。

そのため「早期胃がん=必ず内視鏡で治療できる」「早期胃がん=必ずステージ1」という意味ではありません。

内視鏡治療を行えるかどうかは、がんの深さだけでなく、大きさ、組織型、潰瘍の有無などからリンパ節転移の可能性を評価して判断します。内視鏡治療では十分な根治性が得られないと考えられる場合には、早期胃がんでも胃切除とリンパ節郭清を検討します。

反対に、がんが固有筋層より深く入り込んだものは「進行胃がん」と呼ばれます。ここでいう「進行胃がん」も、そのままステージ4を意味する言葉ではありません。遠隔転移がなく、手術によって根治を目指せる進行胃がんもあります。

胃がんでは「深さ・リンパ節・遠隔転移」を分けて考える

胃がんの治療を理解するときは、「早期か進行か」だけでは十分ではありません。

がんが胃壁のどこまで深く広がっているか、周囲のリンパ節へ転移しているか、肝臓・肺・腹膜など離れた場所へ転移しているかを調べ、その組み合わせからステージを判断します。

たとえば、胃壁の比較的浅い部分にある病変でも、リンパ節転移の可能性が高ければ内視鏡治療だけでは不十分です。一方、胃壁の深い層へ進んでいても遠隔転移がなければ、胃切除とリンパ節郭清、さらに薬物療法を組み合わせて根治を目指すことがあります。

この違いが、胃がんで「胃カメラだけで取れる人」「胃を切除する人」「薬物療法を中心に行う人」が分かれる理由です。

胃がんの多くは腺がん

胃がんの大部分は、胃の粘膜にある腺組織から発生する腺がんです。

病理検査では、がん細胞の形や腺管のつくり方などから分化型・未分化型などに分類します。この組織型は、内視鏡治療が可能か判断するときにも関係します。

また、胃がんの中には、胃の表面に明瞭なしこりをつくらず、胃壁の中を広く浸潤して胃を硬く厚くするスキルス胃がん(4型胃がん)があります。

スキルス胃がんは一般的な胃がんとは広がり方や診断上の難しさが異なり、腹膜播種の評価なども治療方針に大きく関係するため、以下の記事で詳しく解説しています。

胃がんは治療後の「食べること」まで考えて治療を選ぶ

胃がんでは、がんを取り除けるかどうかだけでなく、治療後の生活も治療法を理解するうえで欠かせません。

胃には、食べ物を一時的にため、少しずつ十二指腸へ送り出す働きがあります。胃の一部または全部を切除すると、一度に食べられる量が減り、食後の動悸や冷や汗、腹痛などを伴うダンピング症候群、体重減少、貧血などが問題になることがあります。

そのため手術では「どの範囲まで切ればがんを適切に取り除けるか」と同時に、どの部分の胃を残せるのか、術後にどのような食生活になるのかも確認します。

進行・再発胃がんでも同様です。薬によってがんを小さくすることだけでなく、胃の通り道を保って食事を取れる状態を維持すること、出血や腹水などの症状を抑えることも治療の一部になります。

胃がんステージ4の腹膜播種や食事が通らなくなった場合の治療については、以下の記事で詳しく解説しています。

次の章では、胃がんの発症と強く関係するピロリ菌を中心に、喫煙、食生活、遺伝的背景などの原因・リスクについて解説します。

胃がんの原因とリスク

胃がんは、一つの原因だけで発症する病気ではありません。年齢や生活習慣など複数の要因が関係しますが、日本の胃がんで特に深く関係しているのがヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染です。

国立がん研究センターでは、胃がんの主な発生要因としてピロリ菌感染と喫煙を挙げ、食塩や高塩分食品の摂取も胃がんのリスクを高めるとしています。

ただし、これらは「当てはまれば胃がんになる」「当てはまらなければ胃がんにならない」というものではありません。胃がんになった理由を一つに決めることはできず、生活習慣だけを原因として考える必要もありません。

参考:胃がん 予防・検診|国立がん研究センター がん情報サービス

ピロリ菌は胃の粘膜に長期間炎症を起こす

ピロリ菌は胃の粘膜に感染する細菌です。感染が続くと慢性的な胃炎が起こり、胃粘膜の萎縮などを経て、胃がんが発生しやすい環境につながることがあります。

ピロリ菌に感染している人すべてが胃がんになるわけではありませんが、感染している人では胃がんになる可能性が高くなることが分かっています。

ピロリ菌感染の有無は、血液や呼気、便、胃内視鏡検査時の検体などを使って調べます。どの検査が適しているかは、除菌歴や服用している薬などによっても変わるため、医療機関で判断します。

感染が確認された場合には、抗菌薬などを使った除菌治療を行うことがあります。

ピロリ菌を除菌しても胃がんの可能性がゼロになるわけではない

ピロリ菌を除菌すると、胃がんが発生するリスクを下げられることが分かっています。国立がん研究センターも、ピロリ菌除菌によって胃がんの発生リスクが低下するとしています。

一方、除菌に成功したからといって、その後の胃がんリスクが完全になくなるわけではありません。

ピロリ菌に長期間感染していた人では、除菌した時点ですでに胃粘膜の萎縮などが進んでいる場合があります。そのため、過去にピロリ菌を除菌した人も「もう胃がんにはならない」と考えるのではなく、その後の胃の状態に応じて内視鏡検査などを受けることが必要です。

ピロリ菌検査は「胃がんがあるかどうか」を直接調べる検査ではありません。ピロリ菌が陽性だから胃がんという意味ではなく、陰性だから現在の胃がんを否定できるわけでもありません。

喫煙や塩分の多い食生活も胃がんリスクに関係する

喫煙も胃がんの発生リスクを高める要因です。禁煙は胃がんだけでなく、肺がんをはじめとするさまざまながんや心血管疾患のリスクを下げることにもつながります。

また、食塩や塩分の多い食品を多く取る食生活も、胃がんの発生リスクと関係しています。国立がん研究センターでは、胃がん予防の観点からも高塩分食品の取りすぎを控えることを勧めています。

「これを食べれば胃がんを防げる」という特定の食品があるわけではありません。塩分の取りすぎを避け、野菜や果物を含めたバランスのよい食生活を続けることを考えます。

リスクがある人ほど「症状が出るまで待つ」ことは避ける

ピロリ菌感染歴がある、除菌治療を受けたことがある、喫煙歴があるといった場合でも、自覚症状から胃がんの有無を判断することはできません。

早期胃がんでは症状がないこともあります。反対に、胃もたれやみぞおちの痛みがあっても、原因が胃炎や胃潰瘍であることもあります。

つまり「症状があるかどうか」と「胃がんのリスク」は分けて考える必要があります。症状のない人には一定の年齢から胃がん検診があり、症状がある人には検診ではなく医療機関で原因を調べる検査が必要です。

胃がん検診と症状がある場合の受診

胃がん検診は、胃に症状のない人を対象として、胃がんによる死亡を減らすことを目的に行うものです。

国が推奨する胃がん検診は、原則として50歳以上の男女を対象に2年に1回です。検査方法は、胃部X線検査(バリウム検査)または胃内視鏡検査(胃カメラ)のいずれかです。

項目 国が推奨する胃がん検診
対象 50歳以上の男女
受診間隔 2年に1回
検査方法 胃部X線検査または胃内視鏡検査

なお、胃部X線検査については、当分の間、自治体によって40歳以上を対象に年1回実施することも認められています。自治体によって実施方法が異なる場合があるため、実際の受診条件は住んでいる地域の案内を確認します。

胃部X線検査と胃内視鏡検査はどちらを受ければよい?

国が推奨する胃がん検診では、胃部X線検査または胃内視鏡検査のどちらか一方を選んで受診します。「両方を受けた方が確実」という考え方ではなく、受診できる検査、体の状態、検査への希望などを踏まえて選びます。

胃部X線検査では、発泡剤で胃を膨らませ、バリウムを飲んでX線撮影を行い、胃の形や粘膜の変化から異常を探します。内視鏡を挿入する必要がない一方、検査中には体の向きを何度も変える必要があり、バリウムによる便秘などが起こることもあります。

胃内視鏡検査では、口または鼻から内視鏡を挿入し、胃の粘膜を直接観察します。検査中に胃がんが疑われる病変が見つかった場合には、その部分から組織を採取して病理検査につなげられることが特徴です。

どちらを選ぶか迷う場合は「胃カメラの挿入への抵抗が強い」「バリウム検査を受けにくい身体的な事情がある」など、自分が受けにくい検査がないかも含めて、検診を実施する医療機関に相談するとよいでしょう。

なお、胃部X線検査と胃内視鏡検査を毎年交互に受ければ胃がんをより確実に防げる、というものではありません。国立がん研究センターは、偽陽性や検査に伴う偶発症などの不利益を増やす可能性があるため、2つの検査を毎年交互に受けることは推奨していません。

参考:胃がん検診について|国立がん研究センター がん情報サービス

「要精密検査」は胃がんが確定したという意味ではない

胃がん検診で「要精密検査」と判定されても、その時点で胃がんと診断されたわけではありません。

胃部X線検査などで詳しく調べる必要のある変化が見つかったという意味です。精密検査では主に胃内視鏡検査を行い、必要に応じて組織を採取して胃がんかどうかを確認します。

反対に、検診を受けて異常なしだった場合も、その後に症状が出たのに「次の検診まで待てばよい」と考えるものではありません。

胃の症状がある場合は、胃がん検診を待たずに受診する

胃がん検診は、症状のない人を対象とした検査です。

みぞおちの痛みや不快感、胃もたれ、食欲低下など気になる症状がある場合には、「50歳になっていないから」「今年は検診の年ではないから」と待たず、医療機関を受診します。国立がん研究センターも、気になる症状がある場合には胃がん検診を待たずに医療機関を受診するよう案内しています。

食事が通りにくい、繰り返し嘔吐する、黒い便が出る、理由のはっきりしない体重減少があるといった変化も、検診ではなく診療として原因を調べる必要があります。

年齢や症状によっては胃がん以外の病気が原因であることも多いため、「症状がある=胃がん」と考える必要はありません。症状の原因を胃内視鏡検査などで確かめることが目的です。

ピロリ菌検査やABC検査は胃がん検診そのものではない

血液検査でピロリ菌抗体やペプシノゲンを調べ「胃がんリスク検査」「ABC検査」などとして行われている検査があります。これらは胃がんになりやすい背景を評価するために利用されることがありますが、胃に現在がんがあるかを直接見つける検査ではありません。

国立がん研究センターでは、ペプシノゲン検査、ピロリ菌抗体検査、両者を組み合わせたABC検査について、胃がん死亡を減らす科学的根拠が現時点では十分ではないとして、国が行う対策型胃がん検診としては推奨していません。

したがって「ABC検査が低リスクだったから胃カメラは必要ない」「ピロリ菌陰性だったから胃がん検診を受けなくてもよい」と判断するものではありません。

一方、ピロリ菌に感染しているかを知り、必要に応じて除菌治療を受けることは胃がん予防を考えるうえで別の意味があります。胃がんのリスク評価と、胃がんを早期に発見するための検診は分けて考える必要があります。

胃がんの初期症状

胃がんは、早い段階では自覚症状がほとんどないことがあります。検診や、胃炎・胃潰瘍など別の病気を調べるために受けた胃内視鏡検査をきっかけに、症状のない胃がんが見つかることもあります。

一方、胃がんが進行していても症状が目立たない場合があります。そのため「胃が痛くないから胃がんではない」「症状が軽いから早期だろう」と判断することはできません。

反対に、強い胃痛や胃もたれがあっても、原因が胃炎、胃潰瘍、逆流性食道炎などであることもあります。症状だけから胃がんかどうかを見分けることはできないため、気になる変化がある場合は必要に応じて胃内視鏡検査で胃の粘膜を確認します。

胃痛・胃もたれ・胸やけ

胃がんでみられる症状には、みぞおちの痛みや不快感、胃もたれ、胸やけ、吐き気、食欲低下などがあります。ただし、これらは胃がんに特有の症状ではありません。日常的な胃腸の不調でも起こるため「胃もたれがあるから胃がん」と考える必要はありません。

一方で、胃薬を飲みながら長期間様子を見続けることにも注意が必要です。これまでなかった胃の症状が続く、以前とは症状の出方が変わった、食欲低下など別の変化も伴う場合には、原因を確認するために医療機関を受診します。

前章で説明したように、症状がある人は胃がん検診を受ける時期まで待つのではなく、診療として内科や消化器内科などを受診します。

貧血・黒色便

胃がんの表面から出血すると、血液が胃酸などの影響を受けて黒くなり、黒色便として現れることがあります。

出血量が少ない場合には便の変化に気付かず、少しずつ貧血が進むこともあります。すると、以前より疲れやすい、階段で息切れする、動悸がする、立ちくらみがするといった症状がきっかけになる場合があります。

ただし、黒色便や貧血の原因も胃がんだけではありません。胃潰瘍や十二指腸潰瘍など消化管からの出血でも起こるため、原因を調べる必要があります。明らかな黒色便が出た場合や、吐血した場合には、単なる胃もたれとして様子を見ず医療機関へ相談します。

少量で満腹になる・食べ物がつかえる・吐き気・嘔吐

胃がんの場所や広がり方によっては、食べ物の通り道が狭くなることがあります。胃の出口に近い幽門付近が狭くなると、食べ物が十二指腸へ流れにくくなり、少し食べただけでお腹がいっぱいになる、食後の膨満感が強い、吐き気や嘔吐を繰り返すといった症状が現れることがあります。

胃の入り口に近い噴門部や胃食道接合部付近では、食事がつかえる、飲み込みにくいと感じる場合があります。

こうした症状があると食事量が減り、体重低下や体力低下につながることがあります。そのため、単に「食欲が落ちた」と考えるだけでなく、食べたいのに食べ物が通らないのか、少量ですぐ満腹になるのか、吐いてしまうのかを医師へ伝えると、症状の原因を整理しやすくなります。

食欲低下・体重減少

胃がんでは、食欲低下や食事の通りにくさなどによって摂取量が減り、体重が減少することがあります。

ただし、「何kg減ったら胃がん」という基準があるわけではありません。意図的に食事制限や運動をしていないのに体重が落ち続けている場合には、その原因を調べます。

とくに食欲低下、早期満腹感、嘔吐、貧血などを伴っている場合には、体重だけを見るのではなく、胃内視鏡検査などを含めて消化管の状態を確認する意味があります。

腹水や腹部膨満

胃がんが腹膜へ広がる腹膜播種が起こると、腹水がたまってお腹が張る、食事を少し取っただけで苦しくなる、腸の動きや通過が悪くなるといった症状が現れる場合があります。

腹膜播種は胃がんの遠隔転移の一つで、ステージ4に分類されます。ただし、お腹が張る症状だけで腹膜播種と判断することはできません。CT検査や、病状によっては審査腹腔鏡などを用いて確認します。

腹膜播種がある場合の治療については、以下の記事で詳しく解説しています。

スキルス胃がんでは内視鏡で変化を捉えにくいことがある

胃がんの中でもスキルス胃がんは、胃の表面に明瞭なしこりをつくるよりも、胃壁の中を広く浸潤していく特徴があります。そのため、胃の粘膜表面に目立った変化が現れにくく、一般的な胃がんよりも早い段階で診断することが難しい場合があります。

胃壁が硬くなって広がりにくくなると、少し食べただけで満腹になる、食欲が低下する、体重が減少するといった変化がきっかけになることがあります。ただし、これらの症状だけでスキルス胃がんを診断することはできません。

スキルス胃がんの症状や検査、腹膜播種との関係については、以下の記事で詳しく解説しています。

症状から「早期か進行か」を自己判断しない

胃がんでは、早期でも胃の不快感などがみられる人がいる一方、進行していてもほとんど症状がない人がいます。受診するかどうかを「痛みが強いか」「日常生活に耐えられるか」だけで決めるのは適切ではありません。

胃の不調が続く、黒い便が出た、食べ物がつかえる、食事量が明らかに減った、理由の分からない体重減少や貧血があるなど、これまでとは異なる変化があれば、検診を待たず医療機関へ相談します。

胃がんかどうかを確定するには、症状ではなく胃内視鏡検査で病変を確認し、疑わしい部分から組織を採取して行う病理検査が必要です。

胃がんの検査と診断

胃がんが疑われた場合、最初からステージを調べる検査をすべて行うわけではありません。

まず胃内視鏡検査で病変を確認し、疑わしい部分から組織を採取して、胃がんかどうかを病理検査で確定します。胃がんと診断された後にCTなどでリンパ節や他の臓器への広がりを調べ、その結果からステージと治療方針を考えます。国立がん研究センターも、胃がんの検査を「がんかどうかを確定する検査」と「進行度を診断して治療方針を決める検査」に分けて説明しています。

切除不能・進行・再発胃がんでは、ここにHER2、PD-L1、CLDN18.2、MSIなどのバイオマーカー検査が加わり、検査結果によって使用する薬が変わります。

参考:胃がん 検査|国立がん研究センター がん情報サービス

胃内視鏡検査で病変の場所や広がりを確認

胃がんの診断で中心となるのが胃内視鏡検査、いわゆる胃カメラです。

口または鼻から内視鏡を入れて胃の粘膜を直接観察し、病変の場所、形、大きさ、広がりなどを確認します。病変の深さをより詳しく評価する必要がある場合には、超音波内視鏡検査を追加することもあります。

検診で胃部X線検査を受けて「要精密検査」となった場合にも、胃内視鏡検査で実際の胃粘膜を確認します。

ただし、内視鏡で「胃がんらしい病変」が見つかっただけでは、通常は胃がんの確定診断にはなりません。疑わしい部分から組織を採取し、病理検査へ進みます。

胃がんの確定診断には生検・病理検査が必要

胃内視鏡検査で胃がんが疑われた場合には、病変の一部を小さく採取する生検を行います。

採取した組織を顕微鏡で調べ、がん細胞があるかどうかを確認します。胃がんであることが確認された場合には、腺がんなどの組織型や、分化型・未分化型といった性質も評価します。国立がん研究センターでも、生検した組織から「がんがあるか」「どのような種類のがんか」を病理診断するとしています。

この病理結果は「胃がんかどうか」を確定するためだけのものではありません。

早期胃がんでは、病変の深さ、大きさ、組織型、潰瘍の有無などが内視鏡治療の適応を考える材料になります。また、内視鏡治療や手術で病変全体を切除した後には、切除標本を詳しく調べることで、生検だけでは分からなかった実際の浸潤の深さ、脈管侵襲、リンパ節転移などが明らかになることがあります。

そのため、治療前の生検結果と、ESDや手術後の最終病理結果は役割が異なります。

CT検査ではリンパ節や他の臓器への広がりを調べる

胃がんと診断された後は、胃の中だけを見て治療方法を決めることはできません。造影CT検査などを行い、周囲のリンパ節への転移、肝臓や肺などへの遠隔転移、胃に隣接する膵臓や肝臓などへの浸潤がないかを確認します。この結果は、内視鏡治療や手術によって根治を目指せる病状なのか、薬物療法を中心に考える病状なのかを判断する材料になります。

MRIやPETが追加されることもありますが、すべての胃がん患者に一律に行う検査ではありません。国立がん研究センターでは、PETはリンパ節や他臓器への転移、再発の有無が通常のCTだけでははっきりしない場合などに行うことがあるとしています。

腹膜播種が疑われる場合は審査腹腔鏡を行うことがある

胃がんで治療方針を決めるときに特に注意するのが腹膜播種(ふくまくはしゅ)です。腹膜播種とは、胃の表面からこぼれ落ちたがん細胞がお腹の中に広がり、腹膜に転移した状態です。腹膜播種があると遠隔転移のあるステージ4に分類され、通常の根治手術とは治療方針が変わります。

しかし、小さな腹膜播種はCTだけでは確認できないことがあります。

腹膜播種の可能性が高い進行胃がんでは、全身麻酔のもとで腹腔鏡を入れて腹腔内を直接観察する審査腹腔鏡を行うことがあります。腹水や疑わしい病変を採取するほか、腹腔内を生理食塩水で洗浄し、その液にがん細胞が含まれていないかを調べる腹腔洗浄細胞診を行う場合もあります。

日本胃癌学会では、腹膜播種の可能性が比較的高い進行胃がんについて、治療方針を決めるための審査腹腔鏡を推奨してきました。とくに4型胃がんや大型3型胃がんなどでは、画像検査では分からない腹膜播種を確認する意味があります。

つまり審査腹腔鏡は「胃がんを診断するために全員が受ける検査」ではなく、CT上では手術できそうに見えても、腹膜播種の可能性を確認してから治療方針を決めたい場合に検討する検査です。

参考:胃癌治療ガイドライン第7版|日本胃癌学会

切除不能・進行・再発胃がんではバイオマーカー検査が治療選択につながる

胃がんが手術で取り切ることが難しい場合や再発した場合には、病理組織を使って「どの薬が効く可能性があるか」につながるバイオマーカーを調べます。

2026年現在、日本胃癌学会は切除不能進行・再発胃がんについてバイオマーカー検査の手引きを公開しており、国立がん研究センターも一次薬物療法を始める前にHER2、PD-L1、CLDN18.2、MSIを調べ、その結果から薬剤を選択することを示しています。

参考:切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き 第3版|日本胃癌学会

検査 何を調べるか 主な治療との関係
HER2 HER2タンパク質の発現や遺伝子増幅 トラスツズマブなどHER2を標的とする治療の選択に関係する
PD-L1 がん細胞や免疫細胞におけるPD-L1発現をCPSなどで評価 免疫チェックポイント阻害薬を含む治療を選ぶ際の判断材料になる
CLDN18.2 がん細胞にCLDN18.2がどの程度発現しているか HER2陰性・CLDN18.2陽性ではゾルベツキシマブを含む治療の選択に関係する
MSI/MMR DNAの傷を修復する機能に異常があるか MSI-Highなどでは免疫療法の選択を考えるうえで重要な情報になる

これらは単なる「追加検査」ではありません。

たとえばHER2陽性か陰性かによって一次治療の内容が変わり、HER2陰性でもCLDN18.2の発現やPD-L1、MSIなどによって治療候補が変わります。日本胃癌学会は2024年にCLDN18.2陽性・HER2陰性胃がんに対するゾルベツキシマブの一次治療について公式コメントを出しており、HER2陽性胃がんについても2025年にペムブロリズマブ+トラスツズマブ+化学療法の一次治療、2026年にはT-DXdの二次治療について新たなコメントを公表しています。

参考:胃癌治療ガイドライン第7版 < 速報 >|日本胃癌学会

具体的な薬の組み合わせや治療順序については、後の「胃がんの薬物療法」で詳しく解説します。

がん遺伝子パネル検査を検討する場合もある

標準的な治療で確認するHER2やPD-L1などとは別に、がん細胞に起きている多数の遺伝子変化を一度に調べる「がん遺伝子パネル検査」が検討される場合があります。

ただし、進行胃がんと診断された人全員が最初から受ける検査ではありません。まず、現在の胃がん治療に直接結び付くHER2、PD-L1、CLDN18.2、MSIなどの検査結果を確認し、それに基づいて標準的な治療を考えます。

がん遺伝子パネル検査は、標準治療後の選択肢や治験などを検討するときに役立つ可能性がありますが、治療につながる遺伝子変化が必ず見つかるわけではありません。

検査結果は「胃がんかどうか」だけでなく「次に何をするか」まで確認

胃がんの検査結果を説明されたときは「がんでした」「ステージは○です」だけでは治療方針の全体像が分からないことがあります。

内視鏡治療を検討している場合には、病変の深さや組織型からなぜ内視鏡で取り切れると考えるのか。手術を予定している場合には、CTでリンパ節や遠隔転移をどう評価しているのか。進行・再発胃がんで薬物療法を行う場合には、HER2、PD-L1、CLDN18.2、MSIなど、治療選択に必要な検査がそろっているのかを確認します。

検査結果を「異常あり・なし」で終わらせず、その結果によって治療がどう変わるのかまで理解しておくと、その後の治療説明を整理しやすくなります。

次の章では、こうした検査結果をT・N・Mに当てはめ、胃がんのステージ1~4をどのように判断するのかを解説します。

胃がんのステージ分類|TNM分類とは

胃がんのステージは、単に「がんが何cmあるか」で決まるものではありません。

胃壁のどの深さまでがんが入り込んでいるかを示すT、胃の周囲にあるリンパ節への転移を示すN、胃から離れた場所への転移を示すMを組み合わせて、ステージ1~4を判断します。国立がん研究センターでも、胃がんの病期をⅠ期~Ⅳ期として、このTNM分類に基づいて評価しています。

分類 確認すること 治療との関係
T 胃壁のどの深さまでがんが入り込んでいるか 内視鏡治療が可能か、胃切除が必要かなどの判断に関係する
N 領域リンパ節へどの程度転移しているか 手術時のリンパ節郭清や術後治療などに関係する
M 胃から離れた臓器やリンパ節、腹膜などへの転移 根治手術を中心にするか、薬物療法を中心にするかの判断に大きく関係する

T分類|胃壁のどこまでがんが深く入り込んでいるか

胃の壁は内側から、粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜というように層状になっています。

胃がんは胃の内側にある粘膜から発生し、進行すると外側へ向かって入り込んでいきます。この胃壁への浸潤の深さを表すのがT分類です。

T分類 主な深達度
T1 粘膜または粘膜下層まで
T2 固有筋層まで
T3 漿膜下層まで
T4a 胃の表面を覆う漿膜まで達している
T4b 周囲の臓器へ直接入り込んでいる

T1のうち、粘膜にとどまるものをT1a、粘膜下層まで達したものをT1bと分けて考えます。

胃がんでは、T1に相当する粘膜または粘膜下層までの胃がんを「早期胃がん」と呼び、それより深く入り込んだものを「進行胃がん」と呼びます。

ただし、早期胃がんだから内視鏡治療ができるとは限りません。リンパ節転移の可能性を含め、深さ、大きさ、組織型、潰瘍の有無などを評価して治療法を決めます。

N分類|リンパ節転移は「ある・ない」だけではなく個数も評価

胃の周囲には多くのリンパ節があり、胃がんはリンパ管を通ってこれらのリンパ節へ転移することがあります。胃がんのN分類では、手術後の病理診断では転移している領域リンパ節の個数によって、N0、N1、N2、N3などに分類します。

日本胃癌学会の公開されている分類では、N0は領域リンパ節転移なし、N1は1~2個、N2は3~6個、N3aは7~15個、N3bは16個以上の転移として分類されています。

リンパ節転移があるから、ただちに遠隔転移という意味ではありません。胃の周囲にある領域リンパ節への転移であれば、胃切除とリンパ節郭清を行い、根治を目指せる場合があります。

その一方で、転移しているリンパ節が多いほど病期は進み、手術後の再発を抑えるための薬物療法を考える際にも重要な情報になります。

参考:胃癌治療ガイドライン|日本胃癌学会

M分類|胃から離れた場所への転移を確認

M分類では、胃から離れた臓器やリンパ節などへの遠隔転移があるかを確認します。胃がんでは、肝臓、肺、骨などへの転移だけでなく、腹膜へがん細胞が広がる腹膜播種も治療方針を大きく変える所見です。また、日本胃癌学会の分類では、腹腔洗浄細胞診でがん細胞が確認されるCY1もM1として扱われます。

このため、CTで明らかな肝転移や肺転移がなくても、審査腹腔鏡で腹膜播種が見つかったり、腹腔洗浄細胞診が陽性になったりすると、治療方針が変わることがあります。

腹膜播種の診断や治療法については以下の記事でも詳しく解説しています。

胃がんのステージ分類

胃がんのステージはT・N・Mを組み合わせて決まるため、「T2ならステージ2」というように深さだけから決めることはできません。

同じT2でもリンパ節転移の程度によってステージが変わり、同じような大きさの胃がんでも遠隔転移があるかどうかによって治療の目的は大きく異なります。国立がん研究センターでも、胃がんではTNMの組み合わせからⅠ~Ⅳ期を決定しています。

一般的な治療の全体像を理解するためには、次のように捉えると分かりやすくなります。

ステージ 病状の大まかな捉え方 治療を考えるときの中心
ステージ1 比較的浅い胃がんや、リンパ節への広がりが限られている胃がん 条件を満たせば内視鏡治療、それ以外では手術による根治を目指す
ステージ2 胃壁への浸潤やリンパ節転移が進んでいるものの、根治切除を目指せる場合がある 手術を中心に、病状に応じて周術期・術後の薬物療法を組み合わせる
ステージ3 胃壁への深い浸潤や、より広いリンパ節転移を伴うことがある 手術だけでなく、手術前後の薬物療法を含めた治療計画が重要になる
ステージ4 遠隔転移や腹膜播種などを伴う場合を含む、根治切除が難しい病状が中心 薬物療法を中心に、症状や病変に応じて手術・放射線・支持療法などを組み合わせる

なお、胃がんでは治療前の臨床ステージと、手術後の病理ステージで分類方法が異なるため、この表は治療の全体像を理解するための大まかな整理です。実際のステージはT・N・Mを組み合わせて判定します。

胃がんステージ4については、腹膜播種、肝転移、治療目標、薬物療法などを以下の記事で詳しく解説しています。

治療前の「臨床ステージ」と手術後の「病理ステージ」

胃がんでは、同じ患者さんでも治療前と手術後でステージが変わることがあります。

治療前には、胃内視鏡、生検、CT、必要に応じて審査腹腔鏡などの結果から、がんの広がりを推定します。これが臨床分類(cTNM・cStage)です。治療方法を決めるときに使います。

一方、手術を行った場合には、切除した胃やリンパ節を病理検査で詳しく調べます。実際に胃壁のどこまでがんが達していたか、何個のリンパ節に転移していたかが分かり、病理分類(pTNM・pStage)が決まります。

たとえば手術前のCTではリンパ節転移がないと考えられていても、手術後の病理検査で小さなリンパ節転移が見つかれば、病理ステージが変わることがあります。

この病理ステージは、手術後に再発を抑えるための薬物療法が必要かどうかを判断する材料にもなります。

「早期胃がん」と「ステージ1」は同じ意味ではない

ここは胃がんを理解するときに混同しやすいところです。

「早期胃がん」は、胃壁への深さで定義する言葉です。粘膜または粘膜下層までにとどまるT1を早期胃がんと呼びます。

一方「ステージ」は深さだけでなくリンパ節転移や遠隔転移まで含めて判断します。

そのため「粘膜内にある=ステージ0」という考え方にはなりません。また、「早期胃がんだから必ずステージ1」「早期胃がんだから必ずESD」という意味でもありません。

胃がんの治療を理解するときは、「早期か進行か」では胃壁への深さを確認し、「ステージ」では深さ・リンパ節・遠隔転移を組み合わせて確認する、と分けて考えると整理しやすくなります。

胃がんの内視鏡治療

早期胃がんの中には、開腹手術や腹腔鏡手術で胃を切除せず、胃カメラを使って病変を取り除けるものがあります。

代表的な方法が、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)内視鏡的粘膜切除術(EMR)です。

ただし、「早期胃がんだから内視鏡で取れる」というわけではありません。内視鏡治療では胃の周囲にあるリンパ節を一緒に切除できないため、リンパ節転移の可能性が極めて低く、内視鏡で病変を適切に切除できると判断される胃がんが主な対象になります。

そのため治療前には、がんが胃壁のどの深さまで入り込んでいるか、病変の大きさ、組織型、潰瘍の有無などを確認します。国立がん研究センターでも、こうした条件からリンパ節転移の可能性を評価し、内視鏡治療の適応を判断しています。

ESDとEMRはどのように違うのか

EMRは、病変の下に薬液を注入して浮かせ、スネアと呼ばれる輪状のワイヤーをかけて切除する方法です。比較的小さな病変に用いられます。

一方、ESDでは病変の周囲を切開し、専用の高周波ナイフを使って粘膜下層を剥がしながら病変を切除します。EMRよりも技術的には複雑ですが、より大きな病変でも一つの塊として切除しやすいことが特徴です。国立がん研究センターでは、EMRは主に2cm以下で潰瘍のない病変、ESDはより大きな病変や条件によって潰瘍を伴う病変にも行われると説明しています。

胃がんでは、治療後に切除した病変全体を病理検査で詳しく調べる必要があります。そのため、病変を分割せず一括して切除できることには、治療だけでなく、その後の根治性を正確に評価するという意味もあります。

参考:内視鏡治療|国立がん研究センター がん情報サービス

内視鏡治療ができるかは「がんの深さ」だけでは決まらない

内視鏡治療の主な対象となるのは、胃の粘膜にとどまる早期胃がんのうち、リンパ節転移の可能性が極めて低いと考えられる病変です。

しかし、同じ粘膜内がんでもすべてがESDの対象になるわけではありません。

胃がんでは、分化型か未分化型か、病変がどの程度の大きさか、潰瘍を伴っているかによってリンパ節転移の可能性が変わります。そのため、内視鏡治療の適応はこれらを組み合わせて判断します。日本胃癌学会のガイドラインでも、深達度、組織型、腫瘍径、潰瘍所見などをもとに内視鏡的切除の適応を定めています。

「胃カメラで見える範囲なら取れる」という意味ではありません。胃の表面に見えている病変を切除できても、リンパ節へ転移している可能性が無視できなければ、胃とリンパ節を切除する手術の方が根治性を確保しやすくなります。

ESD後は「全部取れたか」だけでなくeCuraを判定

ESDを受けた後には、切除した組織を病理検査で詳しく調べます。

ここで確認するのは、目に見える胃がんを取り切れたかどうかだけではありません。実際のがんの深さ、病変の大きさ、組織型、切除した端にがんが残っていないか、リンパ管や血管の中にがん細胞が入り込んでいないかなどを確認します。

これらの結果から判定するのが、内視鏡的根治度(eCura)です。

日本胃癌学会では、ESD・EMR後の根治性を大きくeCuraA、eCuraB、eCuraCに分類し、その結果によって経過観察でよいのか、追加治療を検討するのかを決めています。

判定 大まかな意味 その後の考え方
eCuraA 内視鏡治療によって十分な根治性が得られたと判断される 定期的な胃内視鏡検査で経過をみる
eCuraB 粘膜下層へわずかに浸潤していても、一定の条件からリンパ節転移の危険性が低いと判断される 内視鏡検査に加え、画像検査なども含めて経過をみる
eCuraC eCuraA・Bの条件を満たさず、局所にがんが残っている可能性やリンパ節転移の可能性を考える必要がある C-1とC-2の内容に応じて再ESDや追加手術などを検討する

このため、ESD後に医師から「がんは取れました」と説明された場合でも、病理結果が出た後にeCuraがどの判定だったのかまで確認することが、その後の治療を理解するうえで役立ちます。

参考:胃癌治療ガイドライン|日本胃癌学会

eCuraCになったら必ず同じ対応をするわけではない

eCuraCは、さらにeCuraC-1eCuraC-2に分けて考えます。

eCuraC-1は、主に病変を分割して切除した場合や、病変の横方向の切除断端にがんが残っている場合など、局所に病変が残る可能性が問題となるものです。この場合には、病変の状態によって再度ESDを行う、追加の外科切除を行う、慎重に経過観察するなど複数の対応が検討されます。

一方、eCuraC-2では、がんが想定より深く入り込んでいた、リンパ管や血管への侵襲が確認されたなど、リンパ節転移の可能性を無視できない条件が含まれます。この場合、胃の中の病変をESDで取り切れていたとしても、ESDではリンパ節を切除できていません。そのため、日本胃癌学会の公開ガイドラインでは、eCuraC-2に対して胃切除とリンパ節郭清を行う追加外科切除を原則的な標準治療としています。

つまり、追加手術を勧められたからといって「ESDに失敗した」という意味ではありません。ESDで切除した病変を詳しく調べた結果、胃の外にあるリンパ節にも治療が必要な可能性が分かったために、治療方針が変わったと考える方が実際の流れに近くなります。

追加手術を行うかは病理結果と手術の負担を合わせて考える

eCuraC-2では追加の胃切除が標準ですが、実際の治療では年齢、心臓や肺などの持病、体力、胃切除によって予想される生活への影響なども確認します。

高齢で重い併存症があるなど、胃切除そのものの危険性が高い場合には、リンパ節転移の可能性と手術による利益・負担について説明を受けたうえで、その後の方針を検討することがあります。日本胃癌学会も、外科切除を選択しない場合にはリンパ節転移や再発の危険性を十分説明したうえで判断する必要があるとしています。

したがって、ESD後に追加手術を提案された場合には「なぜ追加手術が必要なのか」だけでなく、深達度、脈管侵襲、断端など、どの病理結果がeCuraの判定に影響したのかを確認すると判断しやすくなります。

ESDで根治できても、その後の胃がんリスクはなくならない

eCuraAやeCuraBと判定され、最初の胃がんについて十分な根治性が得られた場合でも、その後の胃に新しい胃がんができる可能性は残ります。そのため、治療後も定期的な胃内視鏡検査を続けます。

日本胃癌学会の公開ガイドラインでは、eCuraAでは年1回程度の内視鏡検査、eCuraBでは年1~2回程度の内視鏡検査に加え、腹部超音波やCTなどを用いた経過観察を示しています。また、ピロリ菌感染が確認された場合には除菌を推奨しています。

ただし、ピロリ菌を除菌しても新しい胃がんの可能性が完全になくなるわけではありません。ESDで胃を残せることは大きな利点ですが、その分、残った胃を長期的に観察していく必要があります。

内視鏡治療にも出血や穿孔などの合併症がある

ESD・EMRは胃を切除する手術より体への負担を抑えられる治療ですが、合併症がないわけではありません。

代表的なのは、治療した部分からの出血と、胃壁に穴が開く穿孔です。国立がん研究センターも、内視鏡治療後の出血・穿孔によって吐血、下血、腹痛などが起こる場合があるとしています。

入院中だけでなく退院後に出血する場合もあるため、退院後に黒い便が続く、吐血する、強い腹痛があるなど、医療機関から説明された症状が現れた場合には連絡します。

内視鏡治療と手術の違いは「胃を残せるか」だけではない

ESDには胃を切除せずに治療できるという大きな利点があります。治療後の食事量や栄養への影響も、胃切除と比べて小さく抑えられます。

一方、ESDで治療できるのは、リンパ節転移の可能性が極めて低いと判断できる胃がんです。

リンパ節転移の可能性がある胃がんでは「胃を残せるからESDの方が体に優しい」という理由だけで治療を選ぶことはできません。胃切除には胃を失う負担がありますが、胃とともにリンパ節を切除し、がんを取り除くことを目的とする治療だからです。

胃がんの手術

胃がんが内視鏡治療では十分に治療できず、遠隔転移がなく手術によってがんを取り切れると判断された場合には、胃切除を中心とした外科治療を行います。

胃がんの手術は、見えている腫瘍だけを切り取る治療ではありません。がんのある胃を適切な範囲で切除するとともに、転移している可能性のある胃周囲のリンパ節を取り除き、その後に食べ物が通るよう消化管をつなぎ直します。

胃がんの手術を理解するときには「胃をどこまで切るか」「リンパ節をどこまで取るか」「切った後をどのようにつなぐか」の3点を分けて考えると分かりやすくなります。国立がん研究センターでも、胃切除、リンパ節郭清、消化管再建を胃がん手術の基本的な構成として説明しています。

胃をどこまで切るかは、がんの場所と広がりで決まる

胃を少しでも多く残せれば、術後の食事への影響を小さくできる可能性があります。しかし「胃を残すこと」だけを優先して、がんを十分な範囲で切除できなければ根治性が損なわれます。

胃切除の範囲は、がんが胃のどこにあるか、どの程度広がっているか、必要な切除断端を確保できるかなどから決めます。

代表的な術式には、幽門側胃(ゆうもんそくい)切除術胃全摘術噴門側胃(ふんもんそくい)切除術幽門保存胃切除術などがあります。国立がん研究センターも、がんの部位と進行度によって胃の切除範囲を決めるとしています。

主な術式 どのような手術か 術後に意識したいこと
幽門側胃切除術 主に胃の中央~出口側にあるがんに対し、胃の出口側を切除する 胃は一部残るが、食事量の低下やダンピングなどが起こることがある
胃全摘術 胃をすべて切除し、食道と小腸などをつなぐ 一度に食べられる量が大きく減り、体重減少やビタミンB12欠乏などへの長期的な対応が必要になる
噴門側胃切除術 主に胃の入口側にある早期胃がんなどで、胃の上部を切除して下部を残す 胃を残せる一方、再建法によっては逆流などが問題になることがある
幽門保存胃切除術 条件を満たす胃体部の早期胃がんで、胃の出口である幽門を残す 食べ物を十二指腸へ送り出す機能をできるだけ保つことを目指す

幽門側胃切除では胃の出口側を切除

幽門側胃切除術は、胃がん手術でよく行われる術式の一つです。胃の中央から出口側にあるがんなどに対して、がんを含む胃の下側を切除し、残った胃と十二指腸または小腸をつなぎます。

胃の一部が残るため、胃全摘と比べれば食べ物を一時的にためる機能を残せます。ただし、胃の容量は小さくなり、幽門を切除するため、食べ物が小腸へ速く流れ込むことがあります。その結果、食後に動悸、冷や汗、腹痛などが起こるダンピング症候群や、食事量低下、体重減少などがみられることがあります。

したがって「胃が残ったから食事は以前と同じ」と考えるのではなく、残った胃の大きさや再建方法に合わせて、少量ずつ食べる生活へ慣れていく必要があります。

胃全摘は「胃を全部取る必要がある病状」で選択

胃全摘術では胃をすべて切除します。胃の上部を含めて広い範囲にがんがある場合や、部分的な切除では必要な切除範囲を確保できない場合などに行います。

胃を残せないことは生活への負担につながりますが「全摘より部分切除の方がよい」と一律には考えられません。がんを十分な範囲で切除するために全摘が必要な病状であれば、胃を無理に残すことで再発の危険を高めることは避ける必要があります。

胃全摘後は食べ物をためる胃がなくなるため、食道と小腸をつないで新しい通り道を作ります。一般的にはRoux-en-Y法(ルーワイまたはルーエンワイ法)などによる再建が行われます。

術後は一度に食べられる量が減り、体重が落ちやすくなります。また、胃から分泌される内因子がなくなるため、時間がたつとビタミンB12欠乏が起こります。ビタミンB12は体内に一定量蓄えられているため、欠乏による貧血は手術直後ではなく数年後に現れることもあります。国立がん研究センターでも、胃全摘後はB12の吸収に必要な内因子がなくなるため、定期的な血液検査と必要に応じた補充治療が必要になると説明しています。

参考:胃がん 療養|国立がん研究センター がん情報サービス

胃上部の早期胃がんでは噴門側胃切除を検討

胃の入口である噴門に近い上部に早期胃がんがある場合、胃全摘ではなく、胃の上部だけを切除して下部を残す噴門側胃切除術を検討できることがあります。

胃を一部残せるため、胃全摘と比べて栄養や体重への影響を抑えられる可能性があります。

ただし、食道と胃の境界には胃内容物が逆流しにくくする仕組みがあります。この部分を切除するため、再建方法によっては逆流性食道炎が問題になることがあります。

噴門側胃切除後には、食道と残胃を直接つなぐ方法のほか、小腸を介してつなぐ方法など複数の再建方法があります。どの方法を採用するかは、残せる胃の範囲や施設の方針などによって異なります。

早期胃がんでは胃の機能を残す手術を選べることもある

内視鏡治療の対象にはならないものの、胃がんが早期で場所などの条件を満たす場合には、胃の機能をできるだけ残す手術を検討することがあります。代表的なのが幽門保存胃切除術です。

通常の幽門側胃切除では胃の出口である幽門を切除しますが、幽門保存胃切除では幽門を残すことで、食べ物が小腸へ急速に流れ込むことを抑え、術後の生活への影響を小さくすることを目指します。

ただし、胃を残せることだけで手術方法を選ぶわけではありません。がんの位置やリンパ節転移の可能性などから、必要な根治性を確保できる患者さんが対象です。

胃と一緒にリンパ節を切除する「リンパ節郭清」

胃がんの手術がESDと大きく異なるのは、胃だけでなく、転移している可能性のある周囲のリンパ節を取り除けることです。

胃の周囲にはリンパ管とリンパ節が多数あり、胃がんは胃壁からリンパ管へ入り、周囲のリンパ節へ広がることがあります。画像検査でリンパ節転移が見えなくても、小さな転移が存在する可能性があります。そのため胃切除と同時に、病状に応じた範囲のリンパ節郭清を行います。

国立がん研究センターでは、胃のすぐ近くから少し離れた領域までのリンパ節を切除するD2リンパ節郭清が標準的に行われ、早期胃がんでリンパ節転移の可能性が低い場合にはD1またはD1+など、範囲を縮小した郭清を行うと説明しています。

リンパ節郭清には、すでに存在する小さな転移を取り除く意味だけでなく、切除したリンパ節を病理検査して、実際に何個のリンパ節へ転移していたのかを確認する役割もあります。この結果によって手術後の病理ステージが決まり、術後補助化学療法が必要かどうかの判断にもつながります。

参考:胃がん手術(外科治療)|国立がん研究センター がん情報サービス

胃を切った後は「再建」で食べ物の通り道を作り直す

胃を切除した後は、そのままでは食べ物が腸まで届かないため、残った胃、食道、十二指腸、小腸などをつなぎ直します。これを消化管再建と呼びます。

幽門側胃切除後では、残胃と十二指腸をつなぐBillroth I法(ビルロート1法)、残胃と小腸をつなぐBillroth II法やRoux-en-Y法などがあります。

胃全摘後では、食道と小腸をつなぐRoux-en-Y法などが用いられます。噴門側胃切除後にも複数の再建方法があります。日本胃癌学会のガイドラインでも、胃の切除範囲に応じて複数の再建法が示されています。

患者さんにとっては再建法の名前だけを覚える必要はありませんが「手術後に食べ物がどの経路を通るようになるのか」を説明してもらうと、食後の症状や生活の変化を理解しやすくなります。

開腹・腹腔鏡・ロボット支援手術の選び方

胃がんの手術には、お腹を大きく切開する開腹手術のほか、小さな穴からカメラや手術器具を入れて行う腹腔鏡下手術、手術支援ロボットを使う方法があります。腹腔鏡下手術やロボット支援手術では創が小さくなるなどの利点がありますが、すべての胃がんで同じように選べるわけではありません。

国立がん研究センターは2026年現在、腹腔鏡下手術やロボット支援手術を推奨できるかは胃がんの進行度などによって異なり、十分な経験を持つ医師や施設で行う必要があるとしています。

したがって「ロボットだから最先端で治りやすい」「腹腔鏡だから必ず体に優しい」という理由だけで術式を決めるものではありません。自分のステージや必要な切除・リンパ節郭清を安全に行える方法の中から、術者や施設の経験も含めて選択します。

胃がん手術の合併症

胃がん手術では、切除した消化管をつないだ部分から内容物が漏れる縫合不全や、手術操作によって膵臓から膵液が漏れる膵液漏などが起こることがあります。国立がん研究センターも、これらを胃がん手術の代表的な合併症として挙げています。

縫合不全が起こると、発熱や腹痛が現れ、重い場合には腹膜炎を起こすことがあります。膵液漏でも腹腔内の感染や膿瘍につながる場合があります。

手術を受けるかどうかを判断するときには、年齢だけではなく、心臓・肺・腎臓などの機能、栄養状態、歩行などの体力も含めて手術に耐えられるかを評価します。

特に高齢者では「高齢だから手術できない」「高齢でも必ず手術した方がよい」と年齢だけで決めるのではなく、手術によって得られる利益と、術後に生活機能がどの程度低下する可能性があるかを合わせて検討します。

胃切除後は食べ方そのものを変える必要がある

胃切除後の生活で大きく変わるのが食事です。胃の一部または全部を切除すると、以前と同じ量を一度に食べることが難しくなります。最初から元の食事量に戻そうとすると、腹痛や膨満感、ダンピング症候群などにつながることがあります。

国立がん研究センターでは、胃切除後の食事について「少量ずつ」「何回かに分けて」「よくかんで」「ゆっくり食べる」ことを基本とし、新しい胃腸の状態に慣れるまで数カ月~1年ほどかかることもあるとしています。

体重も手術前とまったく同じ状態に戻るとは限りません。重要なのは、体重の数字だけを見るのではなく、食事量が少しずつ増えているか、歩けるか、仕事や家事を続けられる体力があるか、貧血や栄養不足が起きていないかを確認することです。

胃全摘後ではビタミンB12、胃全摘や幽門側胃切除後では鉄欠乏性貧血などにも注意し、定期的な血液検査を受けます。

ダンピング症候群、体重減少、貧血、食事の取り方などについては、後の「胃がん治療後の副作用と生活」の章で詳しく解説します。

手術を受けたら治療がすべて終わるとは限らない

胃がんを手術で目に見える範囲すべて切除できても、それだけで再発の可能性がなくなるわけではありません。

手術後には、切除した胃とリンパ節を病理検査し、実際の深達度、リンパ節転移の数などから病理ステージを決めます。その結果、再発する可能性が一定以上あると判断された場合には、画像には映らない微小ながん細胞を抑える目的で「術後補助化学療法」を行います。

さらに2026年現在は、切除可能な局所進行胃がんについて、手術後だけに薬物療法を行う方法だけでなく、手術前から治療を始め、手術後も続ける「周術期治療」が選択肢になる病状もあります。

手術の説明を受けるときには「どこまで胃を切るのか」だけでなく、手術前に薬物療法を行う可能性があるのか、手術後にはどのような治療を予定しているのかまで確認しておく必要があります。

切除可能胃がんの薬物療法

胃がんでは、手術で目に見えるがんをすべて切除できても、検査では確認できないほど小さながん細胞が体内に残り、後になって再発することがあります。そこで、再発する可能性が一定以上ある胃がんでは、手術だけで治療を終えるのではなく、薬物療法を組み合わせます。

日本ではこれまで、根治切除を行った後に病理結果を確認し、ステージ2・3であれば術後補助化学療法を行う治療が中心でした。2026年にはこれに加えて、根治切除可能な局所進行胃がんの一部で、手術前から薬物療法を開始し、手術後も続ける「周術期治療」が新たな選択肢になっています。

そのため現在の切除可能胃がんでは「手術できるかどうか」だけでなく、最初に手術するのか、手術前から薬物療法を始めるのかまで治療開始前に検討する病状があります。

手術後の病理ステージ2・3では術後補助化学療法を行う

手術を先に行った場合には、切除した胃とリンパ節を病理検査で詳しく調べます。

画像検査では分からなかった実際のがんの深さやリンパ節転移の数が明らかになり、病理ステージが決まります。その結果、病理ステージ2または3と判断された場合には、手術後の再発を減らす目的で術後補助化学療法を行うことが推奨されています。

これは、手術でがんを取り切れなかったという意味ではありません。

手術では肉眼や画像で確認できる病変を切除できても、ごく少数のがん細胞が血液やリンパ液を介して体内に残っている可能性までは否定できません。術後補助化学療法は、そうした目に見えない微小ながん細胞による再発を減らすための治療です。日本胃癌学会も、術後補助化学療法を治癒切除後の微小遺残腫瘍による再発予防を目的とした治療と位置づけています。

ステージ2ではS-1、ステージ3では併用療法を含めて検討

術後補助化学療法は、すべての患者さんに同じ薬を使用するわけではありません。

これまで日本では、病理ステージ2胃がんに対するS-1(エスワン)の1年間投与が標準的な治療として確立してきました。S-1は飲み薬の抗がん薬で、胃切除後の再発を減らす目的で使用します。

病理ステージ3では再発リスクがより高いため、S-1単独だけではなく、複数の抗がん薬を組み合わせる治療が重視されます。代表的な選択肢には、S-1+ドセタキセル療法や、カペシタビンとオキサリプラチンを組み合わせるCapeOX療法などがあります。日本胃癌学会では、pStage3について併用療法を推奨し、S-1+ドセタキセルとCapeOXなどのオキサリプラチン併用療法の間で、どちらが一律に優れているとは結論できないとしています。

そのため、ステージだけで薬を機械的に決めるのではなく、手術後の回復状態、年齢、腎機能、食事量、体重、持病なども含めて治療を選びます。

胃切除後は、それまでと同じ量の食事を取れず、体重が減少する患者さんも少なくありません。術後補助化学療法は再発を減らすための治療ですが、薬を予定どおり開始・継続できるだけの栄養状態や体力があるかも治療計画に関係します。

術後補助化学療法は「強い治療ほどよい」わけではない

ステージ3で併用療法が選択肢になるからといって、すべての患者さんができるだけ多くの薬を使った方がよいわけではありません。

S-1では食欲低下、下痢、口内炎、骨髄抑制などがみられることがあり、ドセタキセルでは白血球減少や脱毛など、オキサリプラチンでは手足のしびれや冷たいものに触れたときの違和感などが問題になることがあります。

とくに胃切除直後は、がんになる前とは食事量や体重が変化しています。そのため、再発予防として期待できる利益と、治療によって食事や体力の回復を妨げる可能性の両方を見ながら、薬剤や投与量を調整します。

国立がん研究センターでも、術後の体の状態や進行度に応じて単剤または併用療法を選び、単剤では1年間、併用療法では薬剤に応じて6カ月または1年間の治療を行うと説明しています。

2026年からは手術前後に治療する「周術期D-FLOT療法」が選択肢に

2026年、切除可能胃がんの治療に大きな変化がありました。

日本胃癌学会は2026年6月、MATTERHORN試験の結果を受けて、根治切除可能な胃癌・胃食道接合部腺癌に対する周術期デュルバルマブ+FLOT療法(D-FLOT)と、その後のデュルバルマブ単剤療法を推奨する速報コメントを公表しました。

参考:MATTERHORN 試験の概要ならびに根治切除可能な胃癌および胃食道接合部腺癌に対する周術期 デュルバルマブ+フルオロウラシル、レボホリナート、オキサリプラチン、ドセタキセル(FLOT)療法に関する日本胃癌学会ガイドライン委員会のコメント

FLOTは、フルオロウラシル、レボホリナート、オキサリプラチン、ドセタキセルを組み合わせる化学療法です。ここへ、PD-L1を標的とする免疫チェックポイント阻害薬のデュルバルマブを加えます。

MATTERHORN試験では、根治切除可能な胃癌・胃食道接合部腺癌のうち、AJCC第8版で臨床病期2~4A、全身状態が良好で周術期FLOTと根治手術が可能と判断された患者が対象になりました。なお、MATTERHORN試験でいう「臨床病期4A」はAJCC第8版による分類であり、腹膜播種や他臓器への遠隔転移を伴うM1症例とは異なります。この試験では遠隔転移のある患者は対象になっていません。

周術期治療では「手術の前と後」の両方で薬物療法を行う

D-FLOT療法では、まず手術前にデュルバルマブとFLOTによる治療を行います。その後に根治手術を行い、手術後にもデュルバルマブとFLOTを投与し、さらにデュルバルマブ単剤による治療を続けます。

PMDAの2026年7月時点の添付文書では、胃癌の術前・術後補助療法として、デュルバルマブをFLOTの4剤と併用して術前・術後に投与し、その後デュルバルマブ単剤を追加する用法が規定されています。

この治療の考え方は、従来の「まず手術を行い、病理結果を見てから抗がん薬を始める」という流れとは異なります。

手術前から全身治療を行うことで、画像に映らない微小ながん細胞へ早い段階から治療を開始できるほか、原発巣やリンパ節のがんを縮小させてから手術へ進める可能性があります。

一方で、治療開始時点ではまだ手術後の病理結果が分かりません。そのため、画像による臨床ステージをもとに治療を選ぶことになり、実際の病理ステージより治療を強く行う可能性や、反対に画像では確認できない腹膜転移などを見落とす可能性も考慮します。日本胃癌学会も、周術期治療を選択する際には術前画像診断の限界と、過剰治療・過小治療の可能性に留意するよう指摘しています。

MATTERHORN試験では再発・進行などのイベントと全生存期間の両方が改善した

MATTERHORN試験では、FLOTだけを行った場合と比べて、デュルバルマブを加えたD-FLOT療法で、再発・進行・死亡などを含むイベントが起こるまでの期間であるEFSが改善しました。

2年EFSはD-FLOT群67.4%、FLOT群58.5%で、病理学的完全奏効(pCR)も19.2%対7.2%とD-FLOT群で高くなりました。その後の最終解析では全生存期間についても改善が確認され、3年全生存率はD-FLOT群68.6%、FLOT群61.9%でした。

ただし、この数字を「D-FLOTを受ければ自分の3年生存率は68.6%」と個人の予後へそのまま当てはめることはできません。試験参加者全体の比較結果であり、実際の予後は臨床病期、病理結果、年齢、全身状態などによって異なります。

D-FLOTは切除できる胃がん全員に行う治療ではない

周術期D-FLOTが承認されたからといって、手術できる胃がん患者さん全員がこの治療を受けるわけではありません。

日本胃癌学会は、臨床病期だけでなく、全身状態、年齢、併存疾患、FLOTに耐えられるか、手術前後の治療を完遂できるかなどを総合して適応を判断する必要があるとしています。

とくにFLOTは4種類の抗がん薬を組み合わせる治療です。MATTERHORN試験の日本人サブグループでは、重度の好中球減少などの骨髄抑制が全体集団より多くみられました。ただし、日本人解析は86例という比較的小さな集団であり、その数字の解釈には注意が必要です。

デュルバルマブを使用するため、通常の抗がん薬による副作用に加えて、肺、腸、肝臓、甲状腺などに炎症が起こる免疫関連有害事象にも注意します。PMDAの添付文書では、間質性肺疾患、大腸炎・下痢、肝機能障害、内分泌障害などについて、重症度に応じた休薬・中止が定められています。

「手術先行」と「周術期治療」のどちらを選ぶか

2026年現在、根治切除可能な局所進行胃がんでは、周術期D-FLOTが加わったことで、治療開始前に検討する内容が増えています。

治療の流れ 特徴
手術先行→術後補助化学療法 まず根治手術を行い、切除標本から正確な病理ステージを確認したうえで、ステージ2・3などに術後補助化学療法を行う
周術期D-FLOT 臨床的に根治切除可能な局所進行胃がんに対し、手術前からD-FLOTを開始し、手術後も治療を継続する

どちらかがすべての患者さんに優れているという単純な関係ではありません。

日本胃癌学会は、周術期D-FLOTを新たな標準治療の一つになり得る治療として推奨する一方、従来から日本で行われてきた手術先行後、病理ステージに応じて術後補助化学療法を行う治療戦略とのバランスを考えて選択する必要があるとしています。

治療開始前には、現在の臨床ステージはどの程度か、腹膜播種を疑う所見はないか、手術前から治療する利点はどの程度あるか、FLOTを受けられる体力・臓器機能があるかなどを確認します。

スキルス胃がんでは「術前治療をすれば必ずよい」とは限らない

スキルス胃がんや4型胃がんでは腹膜播種が画像で見つかりにくいことがあるため、治療開始前の病期評価が特に重要です。

前の検査章で説明したように、CT上では遠隔転移がないように見えても、審査腹腔鏡によって腹膜播種や腹腔洗浄細胞診陽性が判明することがあります。

また「局所進行胃がんに周術期治療が導入された」という情報だけから、すべてのスキルス胃がんに同じ術前治療が適していると考えることもできません。病型、腹膜播種の有無、切除可能性などを確認して治療を考えます。

切除可能胃がんでは「手術だけ」の説明で終わらないことが増えている

胃がんの治療説明を受けるときは「どの範囲まで胃を切るのか」だけでなく、その手術が治療全体のどこに位置するのかまで確認すると理解しやすくなります。

手術を先に行う場合には、手術後の病理結果によって術後補助化学療法が必要になる可能性があります。一方、臨床的に局所進行胃がんと判断された場合には、手術前からD-FLOTを行う周術期治療が候補になることがあります。

そのため治療開始前に「なぜ手術を先に行うのか、あるいはなぜ手術前から薬物療法を行うのか」を確認することが、現在の胃がん治療を理解するうえで役立ちます。

切除不能・進行・再発胃がんの薬物療法

遠隔転移や腹膜播種があり手術で取り切ることが難しい胃がんや、手術後に再発した胃がんでは、全身に作用する薬物療法が治療の中心になります。

現在は、すべての患者さんに同じ抗がん薬を使うのではありません。治療を始める前にHER2、PD-L1、CLDN18.2、MSI/MMRなどを調べ、胃がんの性質に合った治療を選びます。

進行・再発胃がんでは「どの薬を使うのか」だけでなく、治療選択に必要なバイオマーカー検査が揃っているかを確認することが治療の出発点になります。日本胃癌学会も2026年7月に「切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き 第3版」を公開しています。

参考:切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き 第3版|日本胃癌学会

HER2陽性ではHER2を標的とする治療を組み合わせる

HER2陽性の切除不能・進行・再発胃がんでは、抗がん薬にHER2を標的とするトラスツズマブを組み合わせる治療が一次治療の軸になります。

さらに、HER2陽性でPD-L1をCPS(複合陽性スコア)で評価して1以上の場合には、化学療法+トラスツズマブにペムブロリズマブを加える治療が一次治療の選択肢になります。治療開始前にHER2とPD-L1の両方を確認します。

またトラスツズマブを含む一次治療後に病状が進行したHER2陽性胃がんでは、2026年現在、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が重要な二次治療の一つになっています。日本胃癌学会は2026年3月、HER2陽性胃がんの二次治療におけるT-DXdについて最新コメントを公表しています。

抗HER2療法後にはHER2発現が低下し、陽性から陰性へ変化することがあります。そのため、可能であれば一次治療で病状が進行した時点で再生検を行い、HER2を再評価したうえで二次治療を選択することが望ましいとされています。

HER2陰性ではCLDN18.2・PD-L1・MSIなどから治療を選ぶ

HER2陰性胃がんでは、CLDN18.2、PD-L1、MSI/MMRなどの結果が一次治療の選択に関係します。

CLDN18.2陽性であれば、CLDN18.2を標的とするゾルベツキシマブと抗がん薬を組み合わせる治療が候補になります。

一方、PD-L1の発現やMSI/MMRなどを踏まえ、ニボルマブやペムブロリズマブなどの免疫チェックポイント阻害薬と抗がん薬を組み合わせる治療を選ぶ場合があります。

2026年にはHER2陰性の切除不能・進行・再発胃がんに対するチスレリズマブ+化学療法も国内の一次治療に加わりました。日本胃癌学会も2026年7月にこの治療について最新コメントを公開しています。

複数のバイオマーカーが治療候補に当てはまることもあるため、検査結果だけで機械的に薬が一つに決まるわけではありません。全身状態、これまでの治療、副作用の特徴なども含めて治療を選びます。

二次治療以降は、それまでに使った薬を踏まえて選ぶ

一次治療を続けても胃がんが進行した場合には、治療内容を見直します。

HER2陽性で条件を満たす場合には前述したT-DXdが候補となり、それ以外ではラムシルマブ+パクリタキセルなどが代表的な二次治療です。全身状態や、それまでに生じた副作用によっては別の薬を選ぶこともあります。

進行・再発胃がんでは、一つの薬を使い続けるのではなく、効果と副作用を確認しながら、病状が進行したときに次の治療へ切り替えていきます。

「次は何次治療か」だけでなく、これまでにHER2標的治療、免疫療法、CLDN18.2を標的とする治療のどれを受けたのかが、その後の治療選択に関係します。

薬を選ぶことと同時に「食べられる状態」を保つ

胃がんでは、薬物療法の効果だけを見て治療を続けられるか判断することはできません。

腹膜播種によって腹水が増える、胃の出口が狭くなって食事が通らない、吐いてしまう、体重が大きく減るといった状態になると、栄養状態や体力が低下し、薬物療法を続けること自体が難しくなる場合があります。食事の通過障害がある場合には、薬物療法だけでなく、消化管ステントやバイパス手術などを検討することもあります。

進行胃がんでは、がんを小さくすることだけでなく、食べられる状態や日常生活をできるだけ保ちながら治療を続けることも治療方針を考えるうえで欠かせません。

胃がん治療の副作用と治療後の生活

胃がんの治療では、手術によって胃の大きさや食べ物の通り道が変わることに加え、薬物療法による吐き気、しびれ、倦怠感などが生活に影響することがあります。

特に胃がんでは、治療前から食欲が落ちていたり、手術後に一度に食べられる量が減っていたりすることがあります。そのため、副作用を考えるときは症状の有無だけでなく、食事量や体重を保てているか、仕事や家事を続けられているか、治療を続ける体力が保てているかまで確認します。国立がん研究センターも、胃切除後は体重減少、貧血、骨粗しょう症などが起こることがあり、食事の取り方や栄養状態への注意が必要としています。

胃切除後は「以前と同じ量を食べる」ことを目標にしない

胃の一部または全部を切除すると、食べ物を一時的にためる容量が小さくなり、少量で満腹になりやすくなります。

手術直後から以前と同じ量を食べようとするのではなく、一度の食事量を減らし、回数を増やしながら新しい消化管の状態に慣れていきます。国立がん研究センターでも、胃切除後に一度に食べられる量が減った場合には、食事回数を増やし、少量ずつ時間をかけて食べることを勧めています。

体重が手術前より減ることも珍しくありません。

ただし、体重が減っていることだけを見るのではなく、減少が続いていないか、必要な食事や水分を取れているか、歩く・外出する・仕事をするといった活動が維持できているかを確認します。

食べてもすぐに吐いてしまう、食事量がさらに減っている、体重が急速に落ちている場合には「胃を切ったから仕方がない」と考えず、通過障害や治療の副作用など別の原因がないかを調べます。

ダンピング症候群は食後すぐに起こるものだけではない

胃切除後には、食べ物が小腸へ急速に流れ込むことでダンピング症候群が起こることがあります。

食後比較的早い時間に、動悸、発汗、腹痛、下痢、めまいなどが起こるものを早期ダンピング症候群と呼びます。

一方、食後しばらくしてから血糖値が下がりすぎ、脱力感、冷や汗、震えなどが現れる後期ダンピング症候群もあります。国立がん研究センターでは、糖質を一度に多く取ると急速な血糖上昇とインスリン分泌のあとに低血糖を起こすことがあると説明しています。

食後に体調が悪くなる場合には「食事が合わなかった」とだけ考えず、食べた内容と症状が現れた時間を記録しておくと原因を整理しやすくなります。

胃全摘後は数年たってからビタミンB12不足が起こることがある

胃切除後には、鉄の吸収が低下して鉄欠乏性貧血が起こることがあります。特に胃全摘後では、ビタミンB12の吸収に必要な「内因子」が分泌されなくなるため、ビタミンB12欠乏による貧血にも注意します。

ビタミンB12は体内に一定量蓄えられているため、手術直後ではなく、数年たってから不足が明らかになる場合があります。そのため、体調が良くても定期的な血液検査を続け、必要に応じて鉄やビタミンB12を補います。

また、胃切除後にはカルシウムの吸収低下などによって骨が弱くなることもあるため、長期的には貧血だけでなく骨の状態にも注意します。

抗がん薬では「食べられないこと」と「しびれ」が治療継続に影響する

胃がんの薬物療法では、吐き気、食欲低下、下痢、口内炎、骨髄抑制などが起こることがあります。

胃切除後や進行胃がんでは、もともと食事量が少ない患者さんもいるため、吐き気や口内炎が重なると短期間でも体重や体力が落ちることがあります。副作用そのものだけでなく「昨日まで食べられていた量を食べられなくなった」という変化も医療者へ伝えます。国立がん研究センターも、通院治療では仕事や家事などへの影響を含め、副作用が出やすい時期や対処法、病院へ連絡する基準を治療前に確認するよう案内しています。

CapeOXやFLOTなどで使用されるオキサリプラチンでは、手足や口の周囲のしびれなどの末梢神経症状が問題になることがあります。冷たい飲み物や物に触れたときの違和感だけでなく、治療を重ねるうちに、箸を使いにくい、ボタンを留めにくい、歩くと足裏の感覚がおかしいといった症状が続く場合があります。

日常動作に影響し始めている場合には、我慢して次回まで治療を続けるのではなく、投与量や治療スケジュールを調整する必要がないか相談します。

ゾルベツキシマブでは吐き気・嘔吐への対策が特に重要

CLDN18.2陽性胃がんで使用するゾルベツキシマブでは、悪心・嘔吐が起こりやすいことが特徴です。

PMDAの患者向医薬品ガイドでも、吐き気や嘔吐が高頻度に現れるため、投与前に制吐薬を使用する場合があると説明されています。

胃がん患者さんでは、吐き気が続いて食べられなくなること自体が体力低下につながります。

「吐いてはいないから大丈夫」と考えるのではなく、吐き気のために食事量や水分量が減っている場合も医療者へ伝えます。治療前から制吐薬を使用したり、症状に応じて支持療法を調整したりしながら、食事を取れる状態を保つことが治療継続につながります。

T-DXdでは新しい咳や息切れを放置しない

HER2陽性胃がんで使用するトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)では、間質性肺疾患が重大な副作用の一つです。PMDAも現在、間質性肺疾患について専用の患者向け資材を公開しています。

治療中に新しく咳が出る、息切れする、呼吸が苦しい、発熱するといった症状が現れた場合には、「風邪かもしれない」と次の診察まで待たず、治療を受けている医療機関へ連絡します。

T-DXdでは骨髄抑制などにも注意しますが、間質性肺疾患は早い段階で気付き、治療を中止して評価・治療する必要がある副作用です。

免疫チェックポイント阻害薬ではいつもと違う症状を伝える

ニボルマブ、ペムブロリズマブ、チスレリズマブ、デュルバルマブなどの免疫チェックポイント阻害薬では、通常の抗がん薬とは異なり、免疫機能が自分の臓器を攻撃することで副作用が起こることがあります。

肺、腸、肝臓、甲状腺などさまざまな臓器に影響する可能性があり、咳や息切れ、長引く下痢、強い倦怠感など、症状の現れ方も一つではありません。ペムブロリズマブについても、PMDAは胃がんを含む適応のもとで最新の添付文書や適正使用情報を公開しています。

免疫療法の副作用は、一般的な抗がん薬のように単純に「薬を少し減らして続ける」対応とは異なります。症状の重さによって休薬や中止を行い、必要に応じてステロイドなどで免疫反応を抑える治療を行います。

点滴を受けた直後に問題がなくても後から症状が出ることがあるため、治療中にこれまでとは違う体調変化があれば、免疫療法を受けていることを医療者へ伝えます。

副作用を我慢して予定どおり治療することが目的ではない

薬物療法では、副作用や体調に応じて休薬、投与間隔の変更、投与量の調整、薬の変更を行うことがあります。予定していた薬を一度も変更せず続けること自体が治療の目的ではありません。

とくに胃がんでは、食事量と体重が低下すると治療を続ける体力にも影響します。副作用によって食べられない、歩けない、仕事や家事ができない状態が続いているのであれば、その負担も治療方針を見直す材料になります。

治療を始める前に、よく起こる副作用だけでなく「どの症状が出たら次の診察を待たずに病院へ連絡するのか」まで確認しておくと、治療中の判断がしやすくなります。国立がん研究センターも、薬物療法開始前に病院へ連絡する基準を医療者へ確認しておくことを勧めています。

次の章では、胃がんのステージ別生存率について、5年・10年ネット・サバイバルの違いと、数字を個人の余命として受け取らないための見方を解説します。

胃がんのステージ別生存率

胃がんの予後を調べると「5年生存率」「10年生存率」という数字を目にします。

国立がん研究センターの院内がん登録では、胃がんについてステージ別のネット・サバイバルが公表されています。

ステージ 5年ネット・サバイバル
2014~2015年診断例
10年ネット・サバイバル
2012年診断例
ステージ1 92.8% 79.1%
ステージ2 67.2% 52.0%
ステージ3 41.3% 29.3%
ステージ4 6.3% 3.9%

5年値は2014~2015年に診断された患者、10年値は2012年に診断された患者を対象とした別々の集計です。

したがって「ステージ2では5年時点の67.2%から10年時点で52.0%まで下がる」というように、同じ患者集団を5年から10年まで追跡した数字として比較することはできません。

参考:院内がん登録生存率集計結果閲覧システム|国立がん研究センター がん情報サービス

ネット・サバイバルは個人の余命を示す数字ではない

ネット・サバイバルは、がん以外の病気や事故などによる死亡の影響を統計学的に取り除き、胃がんだけが死因になると仮定した場合の生存状況を推定する指標です。

国立がん研究センターでは、2014~2015年診断例の5年生存率から国際的にも使用されているネット・サバイバルを採用しています。

たとえば「ステージ3の5年ネット・サバイバルが41.3%だから、自分が5年後に生きている確率も41.3%」という意味ではありません。

年齢、全身状態、胃がんの広がり方、手術で取り切れたかどうか、治療への反応などが異なる多くの患者をまとめた集団の統計として受け取ります。

5年と10年では診断された年代も異なる

生存率を見るときには「何年生存したか」だけでなく、いつ診断された患者の数字なのかも確認する必要があります。

今回の5年ネット・サバイバルは2014~2015年診断例、10年ネット・サバイバルは2012年診断例です。

その後、進行胃がんでは免疫チェックポイント阻害薬、HER2を標的とする治療、CLDN18.2を標的とするゾルベツキシマブなどが導入され、2026年には切除可能な局所進行胃がんに対する周術期治療も新たな選択肢となっています。

そのため、これらの生存率には現在の治療環境がすべて反映されているわけではありません。特にステージ4の数字を、2026年現在治療を始める患者さんの将来をそのまま予測する値として扱うことはできません。

ステージ4の6.3%を「余命5年以内」と読むことはできない

ステージ4胃がんの5年ネット・サバイバルは6.3%ですが、これは「ステージ4と診断されたら余命が5年以内」という意味ではありません。生存率と余命は異なる指標です。

ステージ4胃がんには、腹膜播種が中心の人、肝臓へ転移している人、複数臓器へ転移している人など、さまざまな病状が含まれます。HER2、PD-L1、CLDN18.2、MSI/MMRなどによって使用できる薬も異なります。

同じステージ4でも、病状の進み方や薬物療法への反応は一人ひとり異なります。

胃がんステージ4の治療や生存率の考え方については、以下の記事で詳しく解説しています。

生存率を見るときは「自分の治療後に何を確認するか」へつなげる

ステージ別生存率から分かるのは、病期が進むほど再発や胃がんによる死亡の影響が大きくなるという集団としての傾向です。

一方、手術によって根治を目指した患者さんでは、その後の見通しを考えるうえで、ステージだけでなく、胃壁への深達度、リンパ節転移の程度、手術後の病理結果、術後補助化学療法を行ったかなども関係します。

生存率の数字だけを見て将来を判断するよりも、自分の場合はどの病理所見から再発リスクを考え、どのような治療と経過観察が必要なのかを確認する方が、その後の判断につながります。

胃がん治療後の経過観察と再発

胃がんの治療後は、体の回復状態を確認しながら、再発や新たな胃がんがないかをみるために定期的に通院します。

ただし、どの患者さんも同じ検査を同じ間隔で受けるわけではありません。内視鏡治療を受けたのか、胃切除を受けたのか、術後補助化学療法を行ったのかによって、確認する内容や検査間隔は変わります。国立がん研究センターでも、経過観察の頻度はステージや治療法によって異なるとしています。

内視鏡治療後は残った胃を定期的に確認

ESDなどの内視鏡治療で胃がんを取り除いた場合、胃そのものは残っています。そのため、治療した場所に再発がないかだけでなく、残っている胃の別の場所に新しい胃がんができていないかを胃内視鏡検査で確認します。

経過観察の方法はESD後の病理結果によって異なりますが、国立がん研究センターでは年1~2回程度の胃内視鏡検査を基本とし、必要に応じてCTなどを追加するとしています。

前に説明したeCuraの判定が、その後どのように経過を見るかにも関係します。

胃切除後は少なくとも5年間を目安に通院

胃切除後は、再発の有無だけを確認するわけではありません。食事量や体重が回復しているか、貧血やビタミン不足が起きていないか、ダンピング症候群などの術後症状が生活に影響していないかも確認します。

国立がん研究センターでは、胃がん手術後は状況に応じて定期的に診察や検査を受け、少なくとも手術後5年間は通院が必要としています。

経過観察では、診察や血液検査、CT、胃が残っている場合の胃内視鏡検査などを、ステージや再発リスクに応じて組み合わせます。

術後補助化学療法を受けた場合には、治療後もCTなどで定期的に状態を確認します。国立がん研究センターでは、術後補助化学療法後は半年ごとにCTなどで確認することが示されています。

検査を頻繁に受ければ必ず予後がよくなるわけではない

治療後は「できるだけ頻繁にCTやPETを受けた方が、再発を早く見つけられて安心なのでは」と考えることがあります。

しかし、日本胃癌学会では、胃切除後に計画的なフォローアップを行うことで生存期間が延びるという十分な科学的根拠はまだ確立していないとしています。一方で、再発や残胃にできる新たながんを確認するために、CT、腫瘍マーカー、胃内視鏡検査などが利用されています。

「検査は多いほどよい」という考え方ではなく、自分のステージや治療内容に応じた検査を受けることが基本です。

また、定期検査の予定が先でも、新しく食事が通りにくくなった、理由の分からない体重減少が続く、腹部の張りや痛みが強くなったなど、これまでとは違う症状が出た場合には次回の受診まで待たずに相談します。

再発は胃の近くだけに起こるとは限らない

再発とは、治療によって見えなくなった胃がんが、その後再び見つかることです。

胃を切除した場所やその周辺だけではなく、リンパ節、肝臓、肺などへの転移や、腹膜へ広がる腹膜播種として見つかることもあります。国立がん研究センターでは、胃がんの主な再発・転移として、血行性転移、リンパ行性転移、腹膜播種を挙げています。

胃を全摘している場合でも「胃がないから胃がんは再発しない」という意味ではありません。手術前から体内に存在していた微小ながん細胞が、時間がたって別の場所で増えることで再発することがあります。

再発した場合の治療の決め方

胃がんが再発した場合には、再発した場所、病変の広がり、現在の全身状態、これまでに受けた治療とその効果などから次の治療を考えます。再発胃がんでは薬物療法が中心になることが一般的です。

また、前の薬物療法章で説明したように、進行・再発胃がんではHER2、PD-L1、CLDN18.2、MSI/MMRなどが治療選択に関係します。最初に診断されたときの「ステージ2だった」「HER2陽性だった」といった情報だけで、その後の治療がすべて決まるわけではありません。

再発時には、それまでにどの薬を使ったのか、現在使える治療標的があるのか、食事や体力をどの程度保てているのかまで確認して治療方針を決めます。

腹膜播種や通過障害では症状への治療も同時に考える

再発胃がんでは、がんを抑える薬物療法だけでは解決できない問題が生じることがあります。

腹膜播種によって腹水が増えれば、お腹の張りや食欲低下が強くなることがあります。胃や腸の通り道が狭くなれば、食べたいのに食べられない、嘔吐を繰り返すといった状態になることもあります。このような場合には、薬物療法と並行して、腹水への対応、消化管ステント、バイパス手術、栄養管理などを検討します。

再発後の治療では、画像上の腫瘍を小さくすることだけでなく、食べられること、痛みを抑えること、日常生活を続けられる状態を保つことも治療目標になります。

胃がん治療が効きにくくなったときに確認したいこと

切除不能・再発胃がんでは、一つの薬がずっと効き続けるとは限りません。治療を続けても病変が大きくなった場合や、副作用によって同じ治療を続けることが難しくなった場合には、次の治療を検討します。

このとき「最初の治療が効かなくなった=標準治療ではもうできることがない」という意味ではありません。胃がんには複数の薬物療法があり、それまでに使用した薬、HER2などのバイオマーカー、現在の全身状態を確認しながら次の治療へ進みます。

それまでに受けた治療と検査結果の整理

次の治療を考えるときは「新しい薬がないか」を探す前に、これまでの治療内容を整理します。一次治療で何を使用したのか、どのくらいの期間効果が続いたのか、どのような副作用があったのかによって、その後に選べる薬は変わります。

また、HER2陽性胃がんでは、治療を受ける過程でHER2の状態が変化する場合があります。次の治療によってHER2の再確認が意味を持つ場合には、再生検などを検討します。

2026年7月に日本胃癌学会が更新した「切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き 第3版」でも、HER2、PD-L1、CLDN18.2、MSI/MMRなどを治療選択につなげる考え方が示されています。

治療変更時には「次に使える薬は何か」だけでなく「その薬を選ぶために追加で確認する検査はあるか」まで聞いておくと、その後の方針を理解しやすくなります。

「標準治療」の意味

標準治療とは、臨床試験などによって効果と安全性が確認され、現時点で多くの患者さんに推奨される治療です。胃がんでも、免疫チェックポイント阻害薬、HER2を標的とする治療、CLDN18.2を標的とする治療など、新しい薬の有効性が確認されるたびに標準治療そのものが更新されています。

そのため「標準治療か最新治療か」という二択で考えるものではありません。新しく登場した治療でも、有効性と安全性が確認されれば標準治療の一部になります。治療が効きにくくなったときには、現在の診療ガイドラインの中にまだ受けていない治療が残っていないかを確認します。

臨床試験が選択肢になることもある

病状やこれまでの治療歴によっては、臨床試験や治験への参加を検討できる場合があります。

臨床試験は「効果が確立した特別な治療」を受ける制度ではありません。新しい薬や治療方法について、現在の標準治療と比べてどの程度の効果と安全性があるのかを調べる研究です。現在使われている標準治療も、過去の臨床試験によって効果と安全性が確認されてきました。

参加できるかどうかは、胃がんの状態、これまでに受けた治療、臓器機能、全身状態など、それぞれの試験で定められた条件によって決まります。臨床試験を提案された場合には、どのような治療を評価する試験なのか、現在受けられる標準治療と何が違うのか、期待される効果だけでなく分かっている副作用や通院負担まで確認します。

迷ったときはセカンドオピニオンも利用できる

「ほかに治療方法はないのか」「提示された治療を選んでよいのか」と迷う場合には、セカンドオピニオンを利用できます。

セカンドオピニオンは、現在の病院からすぐに転院するための制度ではありません。検査結果や治療方針について別の医師から意見を聞き、現在提示されている治療を理解したり、ほかの選択肢があるか確認したりするために利用します。

進行・再発胃がんでは治療選択肢が増えているため、HER2やCLDN18.2などの検査結果、これまでに使った薬、現在提案されている治療を整理して相談すると、意見を聞きやすくなります。

ただし、病状によっては治療開始を長く待てない場合があります。セカンドオピニオンを希望するときには、どの程度まで治療開始を待てるのかも担当医へ確認します。

今困っている症状も治療方針に関係する

進行胃がんでは、薬の候補が残っているかどうかだけで治療を決めるわけではありません。

腹水が増えて食事が取れない、通過障害によって嘔吐を繰り返す、体重や筋力が大きく落ちているといった場合には、薬物療法と並行して症状への治療や栄養管理が必要になります。

治療によって期待できる効果と、その治療を受けながらどのような生活を送れるのかを一緒に考えます。

胃がんは病状だけでなく、治療後の生活まで考えて治療を選ぶ

胃がんは、早い段階で見つかれば胃を切除せず内視鏡で治療できる場合がある一方、胃壁への深い浸潤やリンパ節転移があれば手術や薬物療法が必要になります。進行・再発胃がんでは、HER2やCLDN18.2などの検査結果も治療選択に関係します。

胃がんと診断されたときは「ステージはいくつか」だけではなく、がんが胃壁のどこまで達しているのか、リンパ節や他の臓器への広がりはあるのか、どの治療によって根治を目指せるのかを順番に確認することが治療の理解につながります。

また、胃がんでは治療後の食事や体重の変化も無視できません。胃を切除すれば、一度に食べられる量が減ったり、ダンピング症候群や貧血などが起こったりすることがあります。進行胃がんでも、薬物療法の効果だけでなく、食事を取れる状態や体力をどこまで保てるかが治療を続けるうえで関係します。

治療について迷ったときは、提示された治療の名前だけを比較するのではなく「この治療は何を目指しているのか」「ほかにどのような選択肢があるのか」「治療後の生活はどう変わるのか」まで確認してみてください。

腹膜播種の治療や完治の可能性について詳しく知りたい場合は、以下の記事で解説しています。

スキルス胃がんの特徴や検査、治療については、以下の記事も参考にしてください。

胃がんは、病気だけではなく生活そのものへの影響も小さくありません。胃がんの治療では「治療を受けるかどうか」だけではなく「どう生活を続けていくか」も含めて考えていくことが大切になります。