RAS遺伝子変異陽性大腸がんは、がん細胞の増殖スイッチである「RAS遺伝子」に変異が起きているタイプの大腸がんです。KRAS変異は大腸がんの30~40%に認められます。初期にはほとんど症状が出ませんが、進行すると血便、便が細くなる、便秘と下痢を繰り返す、腹痛、貧血、体重減少などが現れます。RAS変異があると抗EGFR抗体薬が効かないため、使える分子標的薬が限られることが治療上の課題となります。
本ページでは、RAS遺伝子変異陽性大腸がんの特徴や原因、症状、診断(大腸内視鏡検査・RAS遺伝子検査)、そして治療の選択肢についてわかりやすく解説します。治療を検討されている方やご家族が、いまの状況に合う選択肢を整理し、納得のいく方針を考えるための一助となれば幸いです。
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- KRAS変異は大腸がんの30~40%に認められる、珍しくないタイプ
- RAS変異があると抗EGFR抗体薬が効かず、使える薬が限られる
- 治療方針を決めるうえでRAS遺伝子検査が欠かせない
RAS遺伝子変異陽性大腸がんとは

大腸がんは、がん細胞が持つ遺伝子の状態によっていくつかのタイプに分けられます。なかでも治療方針を大きく左右するのが、「RAS遺伝子」の変異があるかどうかです。
RASは、細胞の表面から届いた「増殖せよ」という指令を、細胞の内側へ伝えるスイッチの役割を果たす遺伝子です。正常なRASは、指令があったときだけスイッチが入ります。しかしRAS遺伝子に変異が起きると、指令がなくてもスイッチが入りっぱなしになり、がん細胞が際限なく増えていきます。この変異を持つ大腸がんが、RAS遺伝子変異陽性大腸がんです。RASにはKRASとNRASという種類がありますが、KRASの変異が大部分を占めます。
RAS変異は、珍しくない大腸がんです。KRAS変異は大腸がんの30~40%に認められると報告されています。
RASが変異していない状態を「野生型」、変異している状態を「変異型」と呼びますが、変異型では後述する一部の分子標的薬が有効ではなく、より予後が不良になりやすいことが知られています。同じ大腸がんでも、RASの状態によって治療の組み立てが変わってきます。
RAS遺伝子変異陽性大腸がんの原因
RAS遺伝子変異陽性大腸がんは、RAS遺伝子の変異がきっかけで発症しますが、なぜ変異するかはまだ解明されていません。ただ、変異したRASは増殖のスイッチが入りっぱなしになり、細胞が増えていきます。
大腸がんは、いくつかの遺伝子変異が段階的に積み重なって発生することが分かっています。まず「APC」という遺伝子の異常で良性のポリープができ、そこにRASの変異が加わって増殖が加速し、さらに別の遺伝子の異常が重なって悪性化していく、という流れです。
ここで、その最後の段階で重要になるのが、がん細胞の暴走を食い止める「ブレーキ役」の、がん抑制遺伝子「p53(TP53)」です。p53はDNAに傷がついた細胞を修復させ、修復できないものは自然死(アポトーシス)へと導きます。p53が壊れると、傷ついた細胞が排除されずに生き残ってしまいます。
大腸がんでは、このp53変異が高い割合で起こります。TP53変異は転移のあるRAS遺伝子変異陽性大腸がんの約28%に認められると報告されています。
さらに、RASとTP53の両方に変異を持つ患者様は、標準的な化学療法への効果が弱く、術後の再発・転移を起こしやすいことも報告されています。
つまりアクセル(RAS)が入りっぱなしであるだけでなく、ブレーキ(p53)まで故障してしまう場合があり、それが治療の難しさにつながっているのです。
・Prognostic Impact of RAS and TP53 Mutation Profiles in Metastatic Colorectal Cancer
・Combined KRAS and TP53 mutation in patients with colorectal cancer enhance chemoresistance to promote postoperative recurrence and metastasis
RAS遺伝子変異陽性大腸がんの診断
「(無)症状」から「確定診断」まで
大腸がんは、初期にはほとんど症状が出ません。進行してくると、血便、便が細くなる、便秘と下痢を繰り返す、腹痛、貧血、体重減少といった症状が現れます。
ただ、これらは痔や胃腸炎でも起こるため、見過ごされがちです。肛門から距離がある結腸にできたがんは症状が出にくく、肛門に近い直腸にできたがんは血便で気づかれやすいなど、部位によって症状の違いもあります。また、健康診断の便潜血検査が陽性となり、精密検査をすると偶然見つかる場合も少なくありません。
異常が疑われた場合、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)で腸の中を観察し、疑わしい部分の組織を採取する生検を行います。採取した組織を顕微鏡で調べる病理検査で、大腸がんの診断を確定します。肝転移や肺転移など遠隔転移の評価にはCT検査やMRI検査などを用います。
RAS遺伝子検査という重要なステップ
大腸がん、特に転移をきたした大腸がんの治療方針を決めるうえで欠かせないのが、RAS遺伝子検査です。
採取したがん組織を使い、RAS遺伝子に変異があるかどうかを調べます。この検査は、BRAF遺伝子なども含め、特定の薬物による効果が見込めるかどうかを見極める「コンパニオン診断」と呼ばれます。
この検査が重要なのは、その結果により使用できる薬物が変わるからです。後述する抗EGFR抗体薬は、RASが変異していない野生型の患者様にしか効果が発揮されません。つまりRAS変異が見つかれば、抗EGFR抗体薬は最初から選択肢から外れます。
ステージ(病期)の確定
大腸がんのステージは、がんが腸の壁のどの深さまで達しているか(T)、リンパ節転移(N)、肝臓や肺などへの遠隔転移(M)を組み合わせて、0期~Ⅳ期に分類されます。RAS変異陽性大腸がんは、診断時にすでに肝転移や肺転移などをきたした状態で見つかることもあり、病期が予後を大きく左右します。
RAS遺伝子変異陽性大腸がんの一般的な治療法
早期であれば手術(内視鏡的切除または外科的切除)が主な治療法で、進行度に応じて薬物療法を組み合わせます。一方、診断時にすでに転移している場合や、術後に再発した場合は、薬物療法が治療の中心になります。
大腸がんの薬物療法は、複数の抗がん剤(フルオロウラシル、オキサリプラチン、イリノテカンなど)を組み合わせた化学療法を土台に、分子標的薬を上乗せするのが一般的です。
分子標的薬には、血管の新生を抑える「抗VEGF抗体薬(ベバシズマブ)」と、EGFRという増殖の入り口を狙う「抗EGFR抗体薬(セツキシマブ、パニツムマブ)」などがあります。
ここでRASの状態が決定的な意味を持ちます。抗EGFR抗体薬はEGFRの入り口をふさぐ薬ですが、RASはそのEGFRよりも下流にあるスイッチです。RASが変異してスイッチが入りっぱなしになっていると、入り口をふさいでも下流でRAS変異による増殖の信号が出続けるため、抗EGFR抗体薬は効果が発揮されません。
RAS遺伝子変異陽性大腸がんにおける保険診療の限界
RAS変異陽性大腸がんには化学療法と一部の分子標的薬という選択肢がありますが、保険診療にはいくつもの壁があります。
使える分子標的薬が限られる
最大の制約が、標的薬の選択肢の狭さです。大腸がんに使える分子標的薬のうち、抗EGFR抗体薬は前述のとおりRAS変異があると効果がありません。つまりRAS変異陽性の患者様は、有力な武器の一つを最初から失っているのです。すなわち、RAS遺伝子変異陽性大腸がんは「有効な薬物が限られる」タイプの大腸がんです。
使える薬をいずれ使い切ってしまう
化学療法と抗VEGF抗体薬を組み合わせても、多くの患者様でいずれ効果が薄れ、がんが再び増え始めます。一次治療、二次治療と薬を切り替えていきますが、大腸がんの標準的なレジメン(治療薬の組み合わせ)は無限にあるわけではありません。いくつかのレジメンを使い切ると、「保険診療ではもう有効な手立てがない」と説明される場面が訪れます。
手術後の高い再発率
早期に発見され、手術で取りきれたとしても、大腸がんは再発しうる疾患です。特にRAS変異を持つ場合、再発のリスクは軽視できません。ステージⅢの大腸がんでは、根治手術に術後補助化学療法を加えても、およそ17%の患者様が3年以内に再発すると報告されています。すなわち約5人に1人は再発するという計算です。手術と抗がん剤という標準的な手立てを尽くしてもなお、これだけの再発リスクが残ります。
しかも前述のとおり、RASとp53の両方に変異があると化学療法が効きにくく、術後の再発・転移を起こしやすいことも報告されています。さらに標準治療後に再発した場合、保険診療内で選べる有効な手立ては限られてしまいます。
・Inferior oncological prognosis of surgery without oral chemotherapy for stage III colon cancer in clinical settings
・Combined KRAS and TP53 mutation in patients with colorectal cancer enhance chemoresistance to promote postoperative recurrence and metastasis
化学療法に伴う「きつい」副作用
抗がん剤では、吐き気、強い倦怠感、食欲不振、脱毛、手足のしびれ(末梢神経障害)、下痢、骨髄抑制による感染症リスクなどが起こりえます。長期にわたる治療により、身体的・精神的な負担から治療の継続が難しくなり、生活の質(QOL)が損なわれるリスクがあります。
RAS遺伝子変異陽性大腸がんで重要な新しい治療の考え方
ここまで述べたように、RAS変異陽性大腸がんは、使える分子標的薬が限られ、再発のリスクも残るという固有の課題を抱えています。
がん中央クリニックグループでは、こうした課題に対して、標準治療とは作用の仕方が異なる治療を選択肢としてご提案しています。
分子レベルの異常にアプローチする「核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)」
がんの発生や進行に関わる分子レベルの異常へ直接働きかける「核酸医薬」は、世界的に研究と臨床応用が進んでいます。当グループでは治療選択肢として、「アプタマー」「miR-34a mimic」といった核酸医薬を取り入れた治療を提供しております。
「アプタマー核酸医薬」は、がん細胞に特有の異常なタンパク質にピンポイントで結合し、その働きをブロックすることで、がんの増殖抑制や死滅を狙う治療薬です。一方で「miR-34a mimic核酸医薬」は、がん化によって失われてしまった「体が本来持っているがんを抑制する力」を補い、がんの成長を止め、自然な細胞死(アポトーシス)を促す治療薬です。
RAS変異陽性大腸がんでp53変異が高頻度に併存することは、先に述べたとおりです。miR-34a mimicは、miR-34aと同じ働きをする分子を外部から補充することで、p53というブレーキが壊れた細胞に対しても、その先の経路から直接ブレーキをかけ直すことを狙います。RASという「アクセル」だけでなく、失われた「ブレーキ」の側から攻めるという発想です。
がん中央クリニックグループでは、がん種ごとに標的となる遺伝子を指定して核酸医薬を設計し、患者様一人ひとりの状態に合わせた治療をご提案しています。複数の核酸医薬を組み合わせて使い分けられる点も、特徴のひとつです。
免疫の「盾」を外す「ハイブリッド免疫療法」
ハイブリッド免疫療法は、がん細胞が免疫の攻撃から逃れるために使う「盾」、すなわち免疫ブロックタンパク質「PD-L1」を標的とする治療です。
RAS変異陽性大腸がんにはPD-L1が一定の割合で発現しています。大腸がんのPD-L1陽性率(1%以上変異を認める確率)は、約15%と報告されています。つまり6~7人中1人の方がハイブリッド免疫療法による効果が期待できる可能性があるということです。
ハイブリッド免疫療法は、このPD-L1を内側と外側の両方から無力化します。まず、がん細胞の表面に出ているPD-L1に結合し、免疫の攻撃を妨げる「盾」を取り払います。さらに、がん細胞の中に入り込んで、これから作られるPD-L1の設計図(mRNA)を分解し、新たな「盾」が生まれるのを防ぎます。攻撃を逃れる術を失ったがん細胞を、患者様ご自身の免疫細胞が敵として認識し、攻撃できるようになるという仕組みです。
当グループの自由診療・治療をおすすめする患者様
当グループで実施可能な治療法は、ほとんどの患者様にご検討いただけます。以下では、どのような患者様に効果が期待できるのかを解説します。ご自身の状況に照らし合わせてご検討ください。
治療方法がない、標準治療では治療困難な患者様へ
RAS変異陽性大腸がんでは、使える分子標的薬が限られることなどから、保険診療の選択肢が行き詰まることがあります。特に、いくつかのパターンの治療を使い切って次の手立てが見つからない患者様は少なくありません。
そうした場合でも、核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)やハイブリッド免疫療法なら、標準治療とは異なるアプローチで治療を提供できます。これらは目立った副作用が起こりにくく体への負担が少ないため、「体力がないため抗がん剤はできません」などと説明された方にも、1つの治療の選択肢となり得ます。
また、まだ体力があるのに選択肢がなくなり、緩和治療を勧められている方にとっても、新たな選択肢として検討いただけます。
保険診療(標準治療)との併用で相乗効果が期待
核酸医薬とハイブリッド免疫療法は、化学療法や分子標的薬と併用でき、相乗効果が期待できます。化学療法や分子標的薬がすでに存在するタンパク質やシグナルに作用するのに対し、核酸医薬はそれらが作られる前の遺伝子レベルに作用します。ハイブリッド免疫療法は、PD-L1という別の標的を叩きます。攻撃するポイントが異なるため、組み合わせることでより高い効果が期待できると考えています。
このように、RAS変異陽性大腸がんの完治を目指すには、複数の治療法を組み合わせることが重要と考えています。標準治療を受けている患者様にとっても、これらの併用は選択肢のひとつとして検討いただけると考えています。
再発を抑制・防止するために手術前後の患者様
早期がんで手術を受けた場合でも、RAS変異陽性大腸がんは再発しうる疾患です。国内のステージⅢ結腸がん患者様を対象とした研究では、手術のみを受けた場合、約40%の方が3年以内に再発するリスクがあります。また、手術後に補助化学療法を行っても、再発する患者様は17%程度いらっしゃいます。さらに抗がん剤には副作用があるため、体力に不安のある高齢の患者様には、術後補助化学療法の完遂が難しいこともあります。
こうした背景から、手術前後に核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)とハイブリッド免疫療法を併用することは、再発リスクを下げるひとつの選択肢として検討いただけます。
副作用が不安な患者様
核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)とハイブリッド免疫療法は、目立った副作用が起こりにくい治療です。化学療法で起きやすい嘔気、食欲不振、倦怠感、脱毛、手足のしびれ、下痢、貧血、命に関わる副作用などはほとんど起こりません。核酸医薬の副作用としては、一時的な微熱、頭痛、アレルギー反応(0.3%以下)などが挙げられます。ハイブリッド免疫療法では、治療部位の反応などが見られることがあります。
解熱鎮痛剤など薬物を使う場合もありますが、自然と改善する副作用が大半で、治療の継続に支障をきたすことはありません。「体力面や仕事面で副作用の不安がある」「標準治療を続けながら副作用をできるかぎり抑えたい」という方にも受けていただける治療です。
RAS遺伝子変異陽性大腸がんの完治を目指して、保険診療と患者様に合った自由診療を組み合わせる
RAS遺伝子変異陽性大腸がんは、使える分子標的薬が限られ、再発という壁も立ちはだかる疾患です。しかし、適切に治療を行えば完治を目指せる疾患でもあります。
発症要因にRASやp53といった遺伝子異常があるため、保険診療と核酸医薬(アプタマー・miR-34a mimic)、ハイブリッド免疫療法などを組み合わせる集学的治療が有効な選択肢となります。保険診療だけではカバーしきれない場合でも、これらの治療によって腫瘍縮小効果や再発抑制効果が期待できると考えています。
がん中央クリニックグループでは、こうした「アプタマー核酸医薬」や「miR-34a mimic 核酸医薬」をはじめ、患者様1人ひとりに合ったがん治療をご提案いたします。RAS遺伝子変異陽性大腸がんの患者様は、どのような状況の場合でも是非お気軽にご相談ください。





